いつの時代も女性たちの間で繰り広げられるマウント合戦。当事者にはなりたくないものの、他人の事情は覗いてみたいと思うもの。そこで、上流階級の女性たちの実態を描いた注目作『グッド・ワイフ』をご紹介します。今回は、さらなる裏側について、こちらの方にお話しいただきました。主演を務めた女優イルセ・サラスさん!【映画、ときどき私】 vol. 309メキシコ映画界では、実力派女優として知られるイルセさん。そこで、女優としてのキャリアにおいても大きなステップとなった本作へ出演した理由や自身が抱える思いについて語ってもらいました。―本作はメキシコ・アカデミー賞で13部門にノミネート、4部門で受賞をはたしました。イルセさんも主演女優賞に輝き、さらなる注目を集めましたが、ここまでの大きな反響を受けてどのように感じていますか?イルセさんまずは、非常に驚きました。というのも、この映画ができたとき、スタッフやキャストのみんなは、商業的に成功するにはインディーズすぎるし、映画祭で賞を獲るには商業的すぎるのではないか、と思っていたからです。にもかかわらず、多くの方に受け入れていただけたのでびっくりしましたが、賞をもらえたことで私自身も「映画人として、これからもがんばろう」という刺激になりました。―最初に脚本を読んだとき、こういった上流階級の女性たちのコミュニティに対してどういう印象を持たれたのかを教えてください。イルセさんオファーをもらったときには、原作が80年代の上流階級にいた女性たちの実際にあったエピソードをまとめている短編集であることは知っていました。なので、実は「私はまったく興味ありません」と言っていたんですよ(笑)。―それは、どうしてでしょうか?イルセさんなぜかというと、メキシコはいまでも階層社会で、人種などの差別も大きい社会。それゆえに、こういった上流階級を笑うような作品が数多く存在しており、コメディタッチの映画が多いので、真面目に撮ろうとしても、軽く見られてしまうのではないか、と思ったからです。しかも、自分が置かれている環境と上流階級にいる主人公のソフィアとでは、まったく共通点もありませんでしたから。そういったこともあり、脚本の最初の5ページを読んだだけで、私には難しいんじゃないかなと感じてしまったのです……。役を通して自分の内側を見ることができた―では、そこまで落ち込んだ気持ちを覆し、出演を決意させたものとは、何だったのでしょうか?イルセさん理由はいくつかありますが、まずはアレハンドラ・マルケス・アベヤ監督の初監督作品を観てみたら、劇中で交わされているセリフが非常によかったことがひとつ。そのときに、監督と会って話をしてみたいと考えるようになりました。それに加えて、今回のように監督、原作者、撮影監督をはじめ女性が多いチームとの仕事を断るのは、私の信条に反するように感じていたのかもしれませんね。あとは、女優としても非常に挑戦的な役であるというのも、後押しになりました。―作品が描いているテーマに、関してはいかがですか?イルセさんそこに惹かれたのも、理由のひとつになったとは思います。なぜなら、メキシコにおいて上流階級というのは、非常にマイノリティな存在。大金持ちといわれる人たちは、0.01%くらいしかいないので、一般のメキシコ人たちは、「上流階級にいる人は、どうせメキシコ社会を食い物にし、悪いことをして稼いだんだろう」という見方をまずしてしまうところがあるんです。でも、この作品ではそういったところを裁いてはいません。それよりも、上流階級の人たちはどういう人で、自分たちの危機に対してどういうふうに向き合っているのか、というのを真っ向から赤裸々に描いています。そこが面白かったのも、出たいと思った動機となりました。―なるほど。実際に演じてみて、新たに感じたことはありましたか?イルセさんこの役を演じることで、「自分の階級意識や政治的な概念といったものがどうなのか」ということに対して自分自身の内側を見ることができましたし、そういったところを通してメキシコの現実を表せるのではないかとも思いました。―ソフィアは一見強いようで、内面は傷つきやすくて弱い部分もある女性です。こういったキャラクターを演じるうえでの難しさもあったのでは?イルセさん今回は出演が決まってから撮影に入るまでに数か月間あったので、その期間中に監督と脚本についていろいろと話すことができました。出産をしたばかりだったので、子どもにミルクをあげながらでしたけどね(笑)。そんなふうに入念に準備ができたので、そこで得られたのは、ソフィアが頭のなかに常にいるような感覚。そのなかで、自分がどのように彼女を理解すればいいのか、いい悪いで彼女を裁くのではなく彼女の頭のなかにはいったい何があるんだろうか、ということを考えました。ソフィアは自分とはまったく違うキャラクターなので、最初は感情移入できないところもありましたが、そうやって徐々に共感を持てるようになっていったのです。ファッションは社会に対する自分の姿勢を示すもの―そのなかでも、彼女のどのようなところに共感するようになったのでしょうか?イルセさん彼女は夫婦の危機と経済の危機といったいくつもの危機に同時に見舞われますが、そこで途方に暮れてしまうのは、上流階級の人だけでなく、誰でも同じこと。そういったところから、共通点を見つけるようになりましたし、あとはどんなことにも簡単に負けない強さ。その2つをポイントにしながら、役作りをしていきました。―また、劇中ではソフィアのファッションも見どころですが、80年代のファッションに身を包んでみた感想を教えてください。イルセさん幼い頃は、母親がしていた80年代のファッションを批判していたこともありましたが、今回でその批判をすべて返上したいと思います(笑)。それくらいあの時代のファッションは面白くて魅力的なので、とても気に入りました。ちなみに、劇中で使われた衣装のほとんどが原作の著者であるグアダルーペ・ロアエサさんが所有していたもの。彼女はいまでこそ非常に有名な作家ですが、昔NINA RICCIで働いていたことがあり、当時は給料の代わりに洋服をもらっていたこともあったそうです。彼女は現在75歳なので、それらの服はもう着られないと思いますが、ずっと保管してあったので、借りることになりました。とはいえ、虫が食っていたところもあったので、それを隠しながら着ているんですよ(笑)。―それはすごいですね。ソフィアにとってファッションとは、彼女自身を表現するためには必要なものだと感じました。では、イルセさん自身にとってのファッションとは?イルセさん私もファッションは大好きなので、いろいろと試しながら楽しんでいます。なかでも、私にとってファッションが重要な理由は、社会に対する自分の姿勢を表すものであるところ。たとえば、レッドカーペットでどんなドレスを着るかというのだけでも、自分自身を表現する意味があるので、大事にしています。“良い妻の条件”とは?―この作品では表面的な人間関係についても描かれていますが、彼女たちの関係については、どう思われましたか?イルセさん映画のなかでは表面的に見えますが、同時に彼女たちは“痛い関係”であるとも言えます。つまり、みなそれぞれが内に深い危機を抱えているのに、誰ともわかち合えないという苦しさがあるからです。私は幸運なことに、彼女たちとはまるで正反対で、25年以上前からずっと仲のいい女友達のグループがあります。ケンカをすることもありますが、それでも友達関係でいられる団結力が私たちにはあるんですよ。―ステキですね。では、日本語のタイトル『グッド・ワイフ』にかけておうかがいします。イルセさんが思う“良い妻の条件”とは?イルセさんもし、私のパートナーである(映画監督の)アロンソ・ルイスパラシオスのお母さんに聞かれたら怒られると思いますが、まったくわかりません(笑)。―(笑)。では、ご自身が良き妻でいるために意識していることは?イルセさん私は子どもの父親である男性と一緒に暮らし、15年も付き合っていますが、実は私たちは結婚していないので、そもそも私は“妻”ではないんですよね。なぜなら、私は反逆児的なところがあるので、社会一般で認められる結婚式や結婚の手続きを踏みませんでした。なので、良い妻がどんなものかわかりませんが、たとえば祖母の世代の女性たちを見ていると、社会が決めた“良い妻のルール”というのを守っていたように思います。要するに家を守り、子どもを育てる、といったものですが、もしかしたらそういうものがいわゆる社会が言う良い妻なのかもしれません。ただ、私のなかにそういった概念がないので、まったくわからないんですよね(笑)。でも、知り合いの幸せな夫婦を見ていると、お互いに夫婦としてのルールを守り、それぞれの選択を尊重していることが大切だと感じています。異なる社会と文化でも繋がるところはある―それでは最後に、日本の女性に向けて一言メッセージをお願いします。イルセさん私がいまとても興味があるのは、日本のみなさんがこの作品を観て、どのような反応をするのかということ。なぜなら、日本の女性とメキシコの女性ではまったく異なる社会と文化のなかに暮らしているからです。でも、きっとどこか繋がるところがあると思いますし、どんな人でも人生で急に落下することはあるので、そのときに感じる強さや弱さには共感していただけるのではないかなと期待しています。ぜひ、多くの方に観ていただけたらうれしいです。インタビューを終えてみて……。クールビューティで芯の強さを感じさせますが、インタビュー中は優しい笑顔を浮かべながら、気さくに答えてくださったイルセさん。今後もメキシコ映画界をけん引する女優のひとりとして、注目し続けたいと思います。女性としての生き方を考える!セレブ妻たちが繰り広げる熾烈な争いを通して、愛や結婚、そして女性としての葛藤を描いた本作。富だけを支えに生きてきた“勝ち組女性”がすべてを失ったとき、そこで待ち受けているものとは?ストーリーメキシコシティの高級地区ラスロマスに暮らすソフィア。実業家の夫と3人の子どもとともに、美しい豪邸で満ち足りた生活を送りながら、アッパークラスのコミュニティでは女王のごとく君臨していた。そんなソフィアが見下していたのは、不倫の末に裕福な実業家の妻となった“新入り”アナの存在。友人たちがアナの豪邸を褒めているのも、気に入らなかった。ところが、歴史的なメキシコの経済危機の到来によって、ソフィアの完璧な世界が崩壊し始めることに……。胸騒ぎがする予告編はこちら!作品情報『グッド・ワイフ』7月10日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開配給:ミモザフィルムズ© D.R. ESTEBAN CORP S.A. DE C.V. , MÉXICO 2018
2020年07月09日INABA/SALASの最新アルバム『Maximum Huavo』収録曲である『KYONETSU 〜狂熱の子〜』セッション動画に、リップシンクやハンドクラップ、コーラス、ダンスなど、自由なスタイルで参加できる動画の募集がスタートした。稲葉浩志とスティーヴィー・サラスがタッグを組んだINABA/SALASは、2017年に活動を開始。これまでに、最新アルバム『Maximum Huavo』は前作のアルバム『CHUBBY GROOVE』から約3年ぶりのリリースとなった。セッション動画への参加は、Twitter、Instagram、YouTubeにて5月31日(日)23:59まで募集。ハッシュタグ「#INABASALASwith」をつけて、投稿された動画を使用した動画 “Session with...”ver.は、後日公開される。INABA/SALAS「KYONETSU 〜狂熱の子〜」session参加に関する詳細はこちら
2020年05月27日