’80年代にも“沼落ち”はあった!?親衛隊に居場所を求めた少年たちを描く、高崎卓馬さんによる小説『オートリバース』。今は“沼落ち”などと表現されるが、’80年代はアイドルを熱烈に応援する“親衛隊”という集団がいた。「小泉今日子さんから親衛隊の話を聞いたのは、10年ほど前。世間からは不良と呼ばれていたけれど、本当にすごくいい子たちで、面白い話がいっぱいあるのにどこにも残っていないのが寂しい、と。だったら僕が書きたいと手を挙げたんです」口約束だったため時間は流れてしまうのだが、高崎卓馬さんは子どもの成長とともに自身の思春期を振り返り、今なら書けると思い立った。小説『オートリバース』は、千葉の中学校に同じ日に転校してきた橋本直と高階が主人公。ふたりは、校内暴力真っ盛りの学校にも家にも居場所がなかったのだが、あるとき高階が売り出し中の小泉今日子の親衛隊に入隊し、直も追いかけることに。「小泉さんや実際に親衛隊だった人に細かく取材をしたのですが、ドキュメントを書き記すことは僕にはできない。でも当時の熱や、あの時代を一生懸命生きていた人たちを肯定したいという気持ちがありました」親衛隊の特徴は、完全な縦社会であること。今では信じられないが、アイドルとお茶会をしたり、コンサート会場で警備をしたり、芸能事務所に就職する人までいたらしい。「10代の子たちが彼らなりにルールを作り、こんなに大人っぽいことをしていたのかと驚きました。周りからは不良とみなされていたとしても、別の基準だと正しい部分もあるわけで、そこをきちんと描きたかった」しかし、アイドルの人気上昇とともに親衛隊は巨大化して派閥が生まれ、暴力で支配する者も現れた。高崎さんが小説を書く際にこだわったのは、できるだけ舞台となる場所に行き、自分の足で歩いてみること。「’80年代カルチャーがたくさん出てくるのですが、当時を知っている人も知らない人も、映像が浮かぶような文章にしたかったんです。現場へ行くのはロケハンに近い感覚で、カメラの位置はどこにあるのか常に想像しながら描写していました」そして2年ほどかけて、純度を上げるようにこつこつ書き上げた。「すぐに読めたと言われると嬉しい半面、寂しい気持ちに(笑)。でも晩年の話ならともかく10代の話だから、このくらいのスピード感のほうが合っているのかもしれませんね」たかさき・たくまクリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。国内外の受賞多数。映画『ホノカアボーイ』の脚本・プロデュースやドラマ脚本も手がける。著書に『はるかかけら』『表現の技術』など。『オートリバース』「小泉今日子を1位にする」という目標を掲げ、親衛隊の活動にのめり込んだ少年たちが、手に入れたものと失ったものとは…。中央公論新社1400円※『anan』2019年11月13日号より。写真・土佐麻理子(高崎さん)中島慶子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2019年11月09日