第一線で活躍する濱口竜介監督に、作品に込めた思いや共感を呼ぶ映像表現について伺いました。心揺さぶる映像エンタメのヒミツに迫ります。カンヌ国際映画祭脚本賞で、日本映画界初の快挙を達成!Getty Imagesフィクションとわかっていても、スクリーンの中に確かにその人が存在し、生きている。『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』など濱口竜介監督の生み出してきた物語は、そう思わせてくれる。言葉と役者の身体表現によって、人間の“わからなさ”を訳することを続けてきた彼は、今年ベルリン国際映画祭で、『偶然と想像』が銀熊賞に輝く。そして、村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収録された「ドライブ・マイ・カー」の映画化で、第74回カンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞。世界が注目する村上春樹作品の映画化だが、原作に“移動”や“演じること”など自身がこれまで扱ってきたテーマと近しいものを感じ、これなら映画にしやすいと思ったという。「役者さんが生きている瞬間があり、それがちゃんと映っていたのではないかと。村上さんにも文章を逐一映像化することはできないと最初にお伝えしました。村上さんにとっての文章は私にとっての役者さん。テキストはドラマを進めるとともに演技を助けるためにもある。役者さんがある状況を生きる境地に達すれば、自分としては成功でした」「役者が生きている瞬間」に立ち会うための環境づくりは、緻密な作業の積み重ねだ。濱口監督が実践する、感情的なニュアンスを乗せることなく脚本を読み込む「本読み」も、役者がテキストを身体化し、撮影本番で初めて感情の動きを見せるための地盤となっている。主人公・家福が演出する戯曲「ワーニャ伯父さん」を多言語演劇で行うというオリジナルの設定を加えた理由も、役者がシンプルにいい演技ができる方法になるだろうと考えたからだ。「基本的に、コミュニケーションは言葉を介して意味情報を伝達し合うことが多い。でも実際、使っている声には、言葉の意味とは異なるたくさんの身体的な情報が含まれていたりする。意味を細かく聞き取れることは非常に便利な側面もありますが、相手の声を聞いたり、身体を見たりしたほうが自然と演技が出てくるのではないかと思って。多言語劇の場合、それぞれ自国語しかわからない状況なので、意味によるやりとりは発生しません。単なる音の固まりとしか聞こえなくなる。意味という回路が絶たれることでかえって身体の情報が浮き出てくる。例えば、外国映画を字幕で観ているほうが、観客が登場人物を捉えやすい場合があるように、いい演技が生まれやすい状況を実現するための設定でした」同じ言葉を使っていてもわかり合えないこともあれば、違う言語同士でも、認識を共有できる瞬間はある。言葉は不完全なツールだが、言葉を用いた先に言葉以上の何かが生まれるという希望が本編には描かれる。「言葉で埋められるものは確かにある。不必要なすれ違いを避けるためにも、できるだけ繊細に細分化して伝え合えたほうが誤解は生まれにくい。一方で、どれだけ細かく言葉にしても言語化できない、身体的なことや感情も含めたすごく大きい領域が必ずあって。そのわからなさの輪郭のようなものを確かめるために言語化をしなくちゃいけないことはあります。言葉にできないところまで突き詰めた先に、“わからない”ということがわかり合えることがあるんじゃないでしょうか。もしお互いにそれを認識できたとしたら、通じ合うとは違うかもしれないけど、共存することはできるかもしれない」長尺と言われがちな濱口作品だが、役者たちが抱く違和感や嘘っぽさを丹念に取り除き生まれた物語は、ずっと観ていたくなるものだ。「キャラクターたちが言葉を使わずにわからなさを超える可能性があるとすれば、その境地に達するまでの準備が必要でした。役者さんの負荷をできるだけ少なくするためには、キャラクターの行動原理をしっかり構築する必要がある。今回は原作を読みながら掴んだキャラクターの核があります。進めたいドラマはあるので、こういう面が出てきてほしいという思いもあったりするのですが、行動原理があるから無理矢理動かすことはできなくて。キャラクターの話さなさ、動かなさと出合いながら、無理のないように取り組んでいくと、削ぎ落としても3時間はかかってしまいました(笑)」ストリーミング配信公開が増えつつあるが、映画館での上映を前提につくり続けたいという思いはある。「大画面で大音響で観客と映画が向かい合う。その集中力の中でしか見えてこないものを頼りに映画をつくっているところはあって。映画館で上映されるときに言い訳をしなくていいものをつくりたいですね。あと映画館って、わからないものに付き合わされる環境だから。細かくはわからなくても、わからないなりにある部分は身体に入ってくるというか。映画館では、わからなさともっと繊細に付き合える感覚はあります」『ドライブ・マイ・カー』村上春樹の短編「ドライブ・マイ・カー」をメインに、「シェエラザード」「木野」の要素も取り込み再構築。舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)はある秘密を残したまま妻が他界してから、喪失感を抱えながら生きている。2年後、演劇祭のために向かった広島で、寡黙な専属ドライバーみさき(三浦透子)と過ごすうち、あることに気づかされていく。©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中濱口さん注目の映像作品『Benedetta(原題)』17世紀のイタリアで同性愛者として裁かれた修道女の物語。「修道院の中のえげつない権力争いの話で、ポール・ヴァーホーヴェン監督作品は主題だけ見ると下品さのようなものを感じるのに、なぜか上品で非常に清々しく、生きる勇気をもらえる」。日本公開未定。©Guy Ferrandis - SBS Productions『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』現代アメリカ映画を代表する女性映画監督ケリー・ライカートが2016年に発表した群像劇。「配信で観たのですが味わい尽くせなかったような感覚があります。映画館という環境を必要とする映画をつくる監督だと思うので、特集上映を劇場で観るのが楽しみです」デジタル配信中DVD¥4,180 発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント ©2016 Clyde Park, LLC. All Rights Reserved.『宝島』『女っ気なし』で知られるギヨーム・ブラック監督が、自身もよく遊びに来ていたというパリ北西のレジャー・アイランドを舞台にしたドキュメンタリー。「元々能力のある監督だと思っていましたが、どうやって撮ったのかがわからない内容で、ドキュメンタリーの境界が無性に気になる作品」。MUBIにて配信中。はまぐち・りゅうすけ1978年12月16日生まれ、神奈川県出身。『ドライブ・マイ・カー』で日本映画で初めてカンヌ国際映画祭脚本賞(大江崇允との共同脚本)ほか、全4冠に輝く。ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞の『偶然と想像』は12月公開予定。※『anan』2021年9月15日号より。取材、文・小川知子(by anan編集部)
2021年09月09日6日夜(現地時間)、フランスのカンヌで第74回カンヌ国際映画祭が開幕。オープニング作品として、『ポンヌフの恋人』で知られるレオス・カラックス監督の『Annette』(原題)が上映された。「Variety」誌によれば、エンドクレジットが流れると観客から約5分にわたってスタンディングオベーションを受けるという好評ぶりだったという。スタンディングオベーション中、タバコを吸い出しカメラに向かって煙を吹きかけるという行動に出た主演の1人のアダム・ドライバーに注目が集まっている。「よっぽどストレスがたまっていたんだね」「タバコを吸う人は嫌いだけれど、なぜアダムはこんなにホットなの!」「彼だけは私のそばでタバコを吸ってもいい」などのコメントがツイッターに寄せられている。『Annette』はアダム演じるスタンダップ・コメディアンとマリオン・コティヤール演じるオペラ歌手のカップルを描く、ミュージカル映画。最高賞のパルムドールを競うコンペティション部門に出品されているのは、『Annette』のほか日本の濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』やウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』を含む全24作品。カンヌ国際映画祭は、昨年は新型コロナウイルスの影響により開催を断念し、10月に小規模なイベントを行った。今年は2年ぶりの開幕となり、多くのスターが出席している。審査員長はスパイク・リー監督。(Hiromi Kaku)
2021年07月07日7月6日から開催される第74回カンヌ国際映画祭で、ジョディ・フォスターが名誉パルムドールを受賞することが発表された。ジョディが初めてカンヌ国際映画祭に出席したのは1976年、『タクシードライバー』がパルムドールを受賞したとき。実に45年も前のことだ。ジョディは名誉パルムドールを受賞することになり、「カンヌには、とても恩を感じています。私の人生を変えてくれましたから」「カンヌが私のことを評価してくださったことを、とてもうれしく思います」とコメント。カンヌ国際映画祭のピエール・レスキュール会長は、「カンヌ国際映画祭がクロワゼット大通りに帰ってきます。そこにジョディ・フォスターが祝福に訪れてくれることは、私たちにとって素晴らしいギフトとなります」と語っている。これまでの名誉パルムドール受賞者には、ウディ・アレン、ジャンヌ・モロー、カトリーヌ・ドヌーヴ、クリント・イーストウッド、ベルナルド・ベルトルッチ、アラン・ドロンらがいる。ファンは「名誉パルムドールは、ジョディにふさわしい賞」「もはや伝説の人」「素晴らしい女優」「いつだって良い作品を作ってくれる」とジョディを称賛し、祝福している。ジョディは7月6日、映画祭のオープニングセレモニーに登場予定。(Hiromi Kaku)
2021年06月03日2019年カンヌ国際映画祭監督週間で上映され注目を浴びたフィンランド映画『ブレスレス』(原題:DOGS DON’T WEAR PANTS)が日本公開決定。ポスタービジュアルと場面写真も到着した。不慮の事故により突然妻を失った外科医のユハ。彼は妻を救えなかったという自責の念から、毎日を無気力で死んだように過ごしていた。十数年後、ふと迷い込んだSMクラブに、ボンデージ衣装に身を包んだドミナトリクス(女性の支配者)のモナがいた。客と間違えられたユハは、そこで思いもかけない体験をする。首を締められ酸欠状態の中、目の前に現れた映像は妻の死の直前の姿。僅かながらも生きる糧を見つけたユハは、その日を境に、モナの元に通いはじめる――。失意の中を生きてきた男と、痛みを与えることでしか生きられない女…。出会ってしまった2つの悲しみは、誰にも奪えない唯一無二の愛へと発展していく。その斬新なストーリーと卓越した演出力、完成された映像美で多くの観客に衝撃と感動を与えた本作。監督は、前作『2人だけの世界』がヴェネチア国際映画祭、トロント国際映画祭ほか、世界40か国の映画祭で上映され、本国フィンランド・アカデミー賞(ユッシ賞)で7部門にノミネート、作品賞と監督賞を含む4部門を受賞した、北欧を代表する気鋭の監督として注目を集めているユッカペッカ・ヴァルケアパー。主演のユハは、ゲイアートの先駆者でありフィンランドの国民的芸術家の半生を描いた『トム・オブ・フィンランド』でトムを演じたペッカ・ストラング。ドミナトリクス(女性の支配者)として生き、ユハと共にさらなる危険な愛の領域へと足を踏み入れるモナは、クリスタ・コソネンが演じている。日本公開決定と同時に到着したポスタービジュアルは、モナのSMルームの真っ赤な照明が印象的な、ユハとモナの異質な愛の形が垣間見える写真を使用。なお本作は、現地時間10月14日(日本時間10月15日)に発表された2020年ユッシ賞(フィンランド・アカデミー賞)では、9部門にノミネート、主演男優賞ほか6部門で受賞という、前作を超える快挙を成し遂げた。『ブレスレス』は12月11日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開。(cinemacafe.net)
2020年10月20日新型コロナウイルスの影響により、従来の形式でのイベント開催を断念した第73回カンヌ国際映画祭が、公式セレクションの56作品を発表した。通常はコンペティション部門、ある視点部門などに分けて発表されるが、今年はこうした部門には分けず、「カンヌ2020」の56作品として一本化。その中で「常連(または過去1回は選出経験がある人)」、「若手」、「新人」、「オムニバス映画」などの小さなタイトルを付け、それぞれの作品を発表している。日本からは「常連」に河瀬直美監督の『朝が来る』、深田晃司監督の『本気のしるし』、「アニメ映画」に宮崎吾朗監督の『アーヤと魔女』の3作品が選出された。ほかに選出された作品にはウェス・アンダーソン監督の『The French Dispatch』、フランシス・リー監督の『Ammonite』、ピート・ドクター監督のピクサー映画『ソウルフル・ワールド』などがある。今年の応募作品の総数は2067本と過去最高。そのうち532本が女性監督作品で、昨年の575本に比べれば応募数は少なかったものの、公式セレクションに選出されたのは16本で、昨年の14本より増えた。56本の作品は「カンヌ2020」のラベルを付け、今後開催される様々な映画祭で上映される可能性がある。(Hiromi Kaku)■関連作品:朝が来る 近日公開©2020『朝が来る』Film Partners
2020年06月04日深田晃司監督が初めてコミック原作の映像化に挑んだドラマ「本気のしるし」が、第73回カンヌ国際映画祭の「Official Selection 2020」(オフィシャルセレクション 2020)作品に選ばれたことが分かった。その女、出会ったことが事故だった。退屈な日常を過ごしていた会社員の辻一路はある夜、踏み切りで立ち往生していた葉山浮世の命を救う。そこから、不思議な雰囲気の女性・浮世と辻の泥沼の関係が始まった。辻は分別のない行動をとる浮世を放っておけず、浮世を追ってさらなる深みに嵌っていき、破滅への道を歩みだす…。メ~テレほかローカル放送のドラマにも関わらず、多くの反響を呼んだ本作は、『レディ・プレイヤー1』でハリウッド・デビューを飾り、『蜜蜂と遠雷』では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した森崎ウィンが主演、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」『去年の冬、きみと別れ』の土村芳がヒロインを演じ、星里もちるの漫画をドラマ化。ほかにも、宇野祥平や石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉らくせ者揃いのキャスティングとなっている。本年のカンヌ国際映画祭は、実イベントの開催中止を決定。しかし、例年通りの審査基準を保ちながらも、昨今の情勢に合わせて新設された「Official Selection 2020」としてラインアップ作品を選出。選出された作品は「the Cannes 2020」のラベル付きで連携する各国映画祭での上映が計画されている。また急遽、映画館での公開に向けて再編集した『本気のしるし≪劇場版≫』の劇場公開も決定した。主演の森崎さんは「ドラマとしてスタートしたこの作品が劇場版として、こんな歴史ある映画祭に選ばれたことを誇りに思います。純粋に嬉しいです!ありがとうございます。これをモチベーションに日々精進して参ります」と選出への喜びを明かし、土村さんも「この作品に携わった全ての人の思いがカンヌへ届いた事、素晴らしいチームに、浮世に出会えた事、感謝の気持ちでいっぱいです。沢山の人達がこの物語と出会ってくれますように、、!」と願った。深田監督もまた「ただただ驚いています。共感度0.1%と銘打たれた4時間に及ぶ物語の0.1%がフランスまで届いたのは、俳優・スタッフの尽力、まさに『本気のしるし』に他なりません」と心境を明かしている。『本気のしるし ≪劇場版≫』は10月9日(金)よりUPLINK渋谷・吉祥寺・京都を中心に全国にて順次公開。(cinemacafe.net)
2020年06月04日3月中旬、仏誌の報道による「開催中止」を否定していたカンヌ国際映画祭の運営陣。その後3月20日に「6月下旬から7月初めに延期する」と公式ホームページで発表。当初は5月12日から23日に開催を予定していた。それから約3週間後。マクロン大統領がイベントの開催を引き続き7月中旬まで禁止したことにより、いよいよカンヌ国際映画祭の開催が中止に追い込まれるのではと多数メディアが報じた。そして13日、公式ホームページに新たなプレスリリースが掲載された。「延期したスケジュールで実行することはもはや選択肢にない」、「年内にいつものような形でカンヌ国際映画祭を開催することは明らかに難しい」という事実を伝えた。それでも、映画業界の支柱の1つとして同映画祭の「中止」は考えられない模様。「いつものような形」では行えなくても、2020年中に何らかの形で開催する方法を模索中であることを明らかにしている。大規模な映画祭の1つであり、3月に中止となったアメリカの「サウス・バイ・サウスウェスト」(SXSW)はAmazonとタッグを組み、上映予定だった作品を無料配信するというバーチャル映画祭を今月下旬に開催予定。カンヌ国際映画祭もこれに追随するのかに注目が集まるが、同映画祭のディレクターは先週「Variety」誌に対し、カンヌがバーチャルなイベントを開催するには「うまくいかないだろう」と述べたという。(Hiromi Kaku)
2020年04月15日新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界各国の様々なイベントが中止・延期されている中、世界三大映画祭の1つ、カンヌ国際映画祭の開催(5月12日~23日)も危ぶまれている。「The Hollywood Reporter」によると、土曜日(現地時間)、フランスの週刊誌「Le Point」が、同映画祭委員会のあるメンバーの「不可能でないにせよ、非常に難しいのではないか」という映画祭の中止に関する発言を掲載したという。ほとんどの監督や出演者が出席できないことが明らかなのに、中国、韓国、イラン、イタリアなどの感染者が多く認められた国を含む、約50か国もの映画の審査を行うことが可能なのかという疑問も。さらに先日、フランスのフィリップ首相が、100人以上が集まる行事を禁止すると発表した。メット・ガラの出品作品が上映される映画館の席数は2300席あるが、2300人を収容して上映することは禁じられる。同関係者は、「開催期間中の10日以上も、健康状態が管理されていない群衆の中に審査員長のスパイク・リーがいることは想像できない」とも述べている。同映画祭の主催者はこのような報道を否定し、「カンヌ市とフランス国立映画センターと協議の上、4月中旬には必要な決定を下す」と表明している。(Hiromi Kaku)
2020年03月16日スパイク・リー監督が、第73回カンヌ国際映画祭の審査員長を務めることになった。同映画祭の公式サイトで発表された。ほかの審査員については、4月中旬に発表されるとのこと。リー監督は、審査員長に選ばれた心境を同映画祭の公式サイトで次のように語っている。「私の人生の中で、神からの大きな恵みとも思えるようなことは、全く予期していないとき、どこからともなくやってきます。決定の電話を受けたとき、衝撃を受けたし、うれしく、サプライズでもあり、誇らしかった。いっぺんにそういう気持ちになりました」。1986年の『She’s Gotta Have It』をはじめとして、7作品をカンヌ国際映画祭に出品してきたリー監督。2018年には監督作の『ブラック・クランズマン』が、最高賞のパルム・ドールに次ぐ審査員特別グランプリを受賞している。「カンヌ国際映画祭は、私のキャリアに大きな影響を与えてきました。シネマ界で、私がどんな自分でいるべきか、軌道を指し示してくれたとも言えます」と同映画祭と自身のつながりについてもコメント。また、73年の歴史の中で審査員長に選ばれた初のアフリカ系アメリカ人であることにも触れ、「光栄です」と述べた。第73回カンヌ国際映画祭は5月12日から23日まで開催される。(Hiromi Kaku)
2020年01月15日オネエ系映画ライター・よしひろまさみちさんの映画評。今回は『パラサイト』です。なんとも形容しようがないんだけど、とてつもない娯楽作で社会派で。しかも5分後の展開が全くわからない!そんなとてつもない傑作が『パラサイト 半地下の家族』よ。いや、マジで傑作としか言いようがないのよ~。あまりにもブッ飛びすぎてる物語を生み出したポン・ジュノ監督にそれを伝えたところ「それが一番うれしいホメ言葉」とな!「格差社会を描いているとか社会派とか、映画祭や先に公開された欧米ではそんなことばかりを言われたんだけど、それよりも映画を娯楽として楽しんでもらいたいんですよね。だから、ブッ飛んでいる、っていうのはオッケー!」物語の主人公は、家族全員が無職でその日暮らしをする、一男一女の子供がいるキム一家。長男ギウがたまたま紹介されたアルバイトが、IT企業CEOの娘の家庭教師だったことをきっかけに、彼らは徐々にその家庭に寄生していくの。パパは運転手、ママは家政婦、ギウの妹は子守り兼美術講師。それぞれのスキルを発揮して、完全にセレブ一家は偽装したキム一家の虜に…。これだけでも十分おもしろいんだけどね~。ここから先はマジでネタバレ厳禁!「これまでの作品はだいたいオチを決め、それに向かって脚本を仕上げていたんですが、じつはこの脚本を書いているときは、10ページ書いたところで、自分でも先がわからなくなっちゃって(笑)。続きを書きながら、そのつどプロデューサーに“おかしくない?”って確認してたんですよ。でも、キム一家の父役のソン・ガンホと長男役のチェ・ウシクだけは、やってもらうことを想定した当て書きをしています」そうやって悩みながら書いたわりには、これまた驚きの4か月で脱稿。これ、監督の脚本執筆の最短記録だったんですって!ひぃ、こんなクレイジーな話を4か月で書くなんて、マジで天才の所業じゃん!「書き始めて2か月半くらい経ったときかな。物語が急転するきっかけのシーンのアイデアがぽーんと浮かんで、そこからは芋づる式に後半をスラスラ書けちゃったんですよ~」観れば一発でハマるんだけど、ネタをバラすわけにはいかねぇ本作。中毒性高すぎておヤバよ!「どの国も、今は娯楽の選択肢が多すぎて、映画に目を向けてもらうのは大変。でも、これは確実に楽しんでもらえますよ!」『パラサイト 半地下の家族』監督・脚本/ポン・ジュノ出演/ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チェ・ウシク、パク・ソダムほか配給/ビターズ・エンド1月10日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー。©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVEDポン・ジュノ1969年、韓国生まれ。『スノーピアサー』(’13)やNetflix映画『オクジャ/okja』(’17)で英語作品にも挑戦。本作で第72回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した。※『anan』2020年1月15日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・よしひろ まさみち(オネエ系映画ライター)(by anan編集部)
2020年01月08日5月14日から25日まで開催された第72回カンヌ国際映画祭。会場となった南フランスのリゾート地に集ったセレブたちは、今年も華やかに着飾ってレッドカーペットに現れた。今回の主役は、なんといっても史上最年少の21歳でコンペティション部門の審査員を務めたエル・ファニング。出品作21本の審査という責務に加えて、記者会見にフォトコール、公式上映にパーティ…と連日何度もドレスアップしなければならず、期間中に体調を崩して失神してしまったほど。体調不良の一因は「プラダ(PRADA)」の1950年代のヴィンテージ・ドレス。幸いすぐに回復し、エル本人がアップしたインスタグラムには「ドレスがきつすぎる」とハッシュタグが付けられていた。斬新さよりもオーソドックスかつアイコニックなスタイリングがテーマだったようだ。象徴的だったのが1940年代に「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」が打ち出した“ニュールック”を再現したスタイル。なんと450時間もかけて、アイボリーのシルクオーガンザのブラウスとナイトブルーのチュールのスカートを作製したという。映画祭初日、審査員が勢揃いした日中のフォトコールでも、「ディオール」のオートクチュールのブラウスとスカートで臨んだエル。期間中、昼の時間帯は「マーク・ジェイコブス(MARC JACOBS)」の花柄のアンサンブル、「ポール・カ(PAULE KA)」のAラインのミニドレスとコート、ほかにも「ミュウミュウ(MIU MIU)」、「サンドロ(SANDRO)」などを着ていた。オープニング・セレモニーでは「グッチ(GUCCI)」のピーチカラーのロングドレス。ウエストを花の刺繍でマークし、長いケープが印象的。夕方以降の装いは「ヴァレンティノ(VALENTINO)」、「ディオール」、「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」などのロングドレスにショパールのジュエリーを合わせた。クロージング・セレモニーでは、リーム・アクラドレスをチョイス。髪を高い位置でシニョンにして、ドレスとマッチするケープをまとった姿はプリンセスそのものだった。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットW主演のクエンティン・タランティーノ監督最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でシャロン・テートを演じたマーゴット・ロビーは「シャネル(CHANEL)」のシークインのパンツ。パンツの色に合わせたブラックリボンにバラのアクセサリーがポイントのトップを合わせた。カンヌのレッドカーペットには、ハイヒールを履いていないと入場拒否、など厳しい不文律がある。時代にそぐわないとして毎年のように物議を醸し、近年はジュリア・ロバーツやクリステン・スチュワートが裸足で歩いてみせたが、今年その暗黙のルールに対抗したのはマリオン・コティヤール。完全セパレートでおなかを見せるスタイルはほとんど見かけない中、マリオンは公式上映のレッドカーペットにおへそが見えるほど短いトップスとショートパンツ(「ルドヴィック ドゥ サン セルナン(Ludovic De Saint Sernin)」)という大胆なスタイルにバルマンの着物スタイルのロングジャケットを羽織って登場。ダメージ加工したデニムのジャケットともども強烈なインパクトを残した。トレンドは、ロングドレスに深く入ったスリット。女優賞を受賞したエミリー・ビーチャムはハイネックとパフスリーブにシークインが施されたシルバー・ドレスの裾にやや控えめなスリットが入っていた。14日(現地時間)のオープニングのレッドカーペットではセレーナ・ゴメスが「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の白のビスチェとキルティング加工を施したスカートにもスリットが。アンバー・ハードは、ドレスとレザーアイテムの組み合わせが印象的。「クレス・イヴェルセン」のサイハイスリットのシークインドレスには太いレザーベルト、「エリー・サーブ(Elie Saab)」のワインカラーのワンショルダーのスプリットドレスには同色のニーハイブーツを合わせた。脚見せスタイルでは、「サンローラン(Saint Laurent)」のゼブラ柄のミニドレスやブラックレザーのショートパンツで長い脚を強調したシャルロット・ゲンズブール、シェイリーン・ウッドリーの黒タキシードにインスパイアされた「ディオール」のドレスも個性的だった。ステイシー・マーティンの「ディオール」の赤、ベラ・ハディッドが『ロケットマン』の公式上映で着た白の「ディオール」、映画祭と同時期に開催されるamfAR(米国エイズ研究財団)主催のガラ・パーティに出席したケンダル・ジェンナーの「ジャンバティスタ・バリ(Giambattista Valli)」と「H&M」のコラボによるピンクのドレスなど、チュールをたっぷり使ったドレスも目立った。「スワロフスキー(SWAROVSKI)」のクリスタルを23万個あしらった「バルマン(BALMAIN)」のドレスを選んだミラ・ジョヴォヴィッチ、フォトコールもレッドカーペットも「シャネル」で揃えたペネロペ・クルス、様々なブランドの多彩なスタイルに挑戦したクロエ・セヴィニーなど大人世代の着こなしも見応えあり。ルールに縛られすぎず、それぞれのユニークな個性を主張するファッションで楽しませてくれた12日間となった。(text:Yuki Tominaga)
2019年05月27日5月14日から25日まで開催される第72回カンヌ国際映画祭のポスターが公開された。今年のポスターのビジュアルに起用されたのは、3月に亡くなった(享年90)「ヌーヴェル・ヴァーグの祖母」ことアニエス・ヴァルダ監督。デビュー作の『ラ・ポワント・クールト』を撮影している当時26歳のヴァルダ監督の写真なのだが、その撮影方法に度肝を抜かれる。ある男性の背中を台にしてその上に立ち、カメラをのぞき込んでいるのだ。「The Hollywood Reporter」によると、映画祭の主催者が、「この写真は、アニエス・ヴァルダという人物の情熱、冷静さ、無鉄砲さを総括していると言えるでしょう。彼女は自由なアーティストとしての材料を持ち、常に“レシピ”に改善を加えている人でした」と語っているという。ヴァルダ監督作はオフィシャル・セレクションに13回出品され、ヴァルダ監督は2005年、2013年と審査員も務めた。2015年には女性として初めて名誉パルムドール賞に輝くという快挙も遂げ、カンヌ国際映画祭とのかかわりが強かった。(Hiromi Kaku)
2019年04月16日母性などない。あるのは欲望だけー ©Lucía Films S. de R.L de C.V. 2017メキシコのリゾートエリア、バジャルタの海辺に立つ一軒家に、2人の姉妹が住んでいました。17歳の妹・バレリアは、定職に就いていない同じ年の頼りない恋人との子供を身籠っており、初めての妊娠と出産で不安がいっぱい。そこに長い間疎遠になっていた美しい母が戻ってきました。突然舞い戻った母親・アブリルは、17歳で娘を産んでいる経験から、初めこそは救いの手を差し伸べ、献身的に娘の面倒をみるのですが、娘の出産をキッカケとして、深い欲望が芽生えていきます。赤ん坊の夜泣きに苦しむ娘から育児の主導権を奪ったアブリルは、さらなる信じがたい“強奪”を重ねていき、様々な物理的かつ法的な段取りをこなしていく手際の良さは、まるで冷徹なる完全犯罪の遂行者のよう。おまけにこの美しき母親は熟した女の匂いを濃厚にまき散らし、ふたりの娘のみならず若い男をも手玉にとっていくのですがー。 母にいったい何が起きたのか、彼女はいったい何者なのかー? ©Lucía Films S. de R.L de C.V. 2017日本においても「毒親」という表現が市民権を得て、多くの著名人が自分と親との関係をカミングアウトしています。また、近年では「家族という病」(新潮社刊・下重暁子著)が50万部を超えるベストセラーになるなど、家族や親という者への受け止め方の変化も顕著です。本作においては、娘の出産と元夫からの拒絶をきっかけに、自我を欲望の世界に放り込み、思いのままに人を操っていく「母」という存在の危うさと怖さを見せつけています。それはかつて世間が欲する「母親像」からは離れて、むしろ人間の持つ性を辛辣に描いています。そもそも「母」とはなんであったのか、社会が押し付けたモデルでしかなかったのか、一人の女性として、そのモンスターのような存在に翻弄され、苦しむ人々を通して、その存在を明らかにしています。 ミシェル・フランコ監督の意想外な視点 ©Lucía Films S. de R.L de C.V. 2017ミシェル・フランコ監督は、これまでにもモラルの重圧に苦しみ、その結果としてモラルを逸脱してしまう、普通の人々を定点観察するように、冷徹な眼差しで描いていきました。そして本作『母という名の女』では、母性という神話を粉々に打ち砕き、崩壊した家族の無慈悲なまでのありようを剥き出しにさせています。しかし彼は、人間の不可解さそのものを、あからさまに否定も肯定もせずに、辛辣なアイロニーを込めて描き出しています。人間こそが最も恐ろしく、さらには人に姿を変えた怪物は、私たちの日常に潜んでいます。「母」という不条理な存在に楔を打ち込み、衝撃のミステリーを劇場でお楽しみください。 【情報】 『母という名の女』 6月16日(土)ユーロスペース他にて全国順次公開監督・脚本・製作・編集:ミシェル・フランコ出演:エマ・スアレス、アナ・バレリア、エンリケ・アリソン、ホアナ・ラレキ、配給:彩プロ
2018年06月15日Netflixが今年のカンヌ国際映画祭に参加しないことを決めた。「Variety」誌との対談で、チーフ・コンテント・オフィサーのテッド・サランドス氏が明らかにした。その理由は、映画祭側が今年から「フランスで劇場公開しない作品は、コンペティション部門への参加が認められない」という新しいルールを発表したことによる。ルールに則り、たとえNetflixがオリジナル作品を劇場公開するにせよ、フランスには劇場公開された作品は公開から3年経たなければストリーミング配信できないという独自のルールがあるため、今度はNetflix上でそれらの作品を3年間も配信できなくなってしまう。新しいオリジナル作品を“今”観られるのが売りであるNetflixには大きな制約だ。サランドス氏は「私たちの作品をほかのフィルムメーカーと同じように公平に扱ってほしい」と主張し、「コンペティション部門に出品できないのなら、(他部門で)カンヌ国際映画祭に参加する意味はない」と“撤退”を表明した。Netflixのこの決断に、悲しみの声を上げた人がいる。故オーソン・ウェルズの娘ベアトリスだ。映画祭には父の未完の遺作で今後Netflixで配信予定の『The Other Side of the Wind』(原題)が出品される予定であった。オーソンはカンヌでパルム・ドールと男優賞の受賞経験があり、「父はカンヌ国際映画祭と良好な関係を築いていた」、「お願いだから(撤退を)考え直して!父の作品をNetflixとカンヌの架け橋にしてほしい」とNetflixにEメールを送った。(Hiromi Kaku)■関連作品:【Netflixオリジナル】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflixオリジナル】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング
2018年04月13日本年度、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門選出作品となった、ロバート・パティンソン主演映画『グッド・タイム』が、11月3日(金・祝)より日本でも公開。この度、公開に先駆け、予告編とロバート演じる主人公の姿が写し出された日本オリジナルポスタービジュアルが公開された。本作の監督を務めるのは、『神様なんかくそくらえ』で東京国際映画祭グランプリと最優秀監督賞をW受賞した兄弟監督ジョシュ&ベニー・サフディ。また本作は、彼らサフディ監督にとってはカンヌのコンペ初登場作品となった。カンヌ映画祭で上映されると、「天才的な2人組ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟監督」(Indiewire)、「ロバート・パティンソンのキャリア史上最高作!」(Variety)と高評価を得、またアメリカで8月に公開された際には、セレーナ・ゴメスや人気シンガーのザ・ウィークエンドなども大絶賛し話題となった。本作で主演を務める、『トワイライト』シリーズで一躍世界的に有名になり、『コズモポリス』『ディーン 君がいた瞬間』などに出演したロバートが演じるのは、ニューヨークの最下層で投獄された弟を助けようともがく、孤独な男コニー。また、コニーの弟ニックを、ベニー・サフディが監督と兼任し出演している。そのほか、『ヘイトフル・エイト』のジェニファー・ジェイソン・リー、『キャプテン・フィリップス』のバーカッド・アブディも参加。さらに音楽にも監督自ら力を注ぎ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)に音楽制作をオファーしている。到着した予告編では、覆面したコニーとニックの兄弟が銀行強盗をするシーンからスタート。その強盗は成功し、「お前は本当にすごい奴だ」と弟を褒めちぎる兄のコニーだったが、しかしその後逃げ切れずに弟のニックだけが捕まり、刑務所に送られてしまう…。コニーは周囲を言葉巧みに騙しながら、なんとか弟を救い出そうとするのだが、果たしてコニーの計画は上手くいくのだろうか…?『グッド・タイム』は11月3日(金・祝)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開。(cinemacafe.net)
2017年09月27日今年5月に開催された「第70回カンヌ国際映画祭」。栄えある最高賞パルムドールにはスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の『THE SQUARE』 が輝き、非劇場公開作品も高い評価を得るなど、注目作が揃った今映画祭から7作品をスターチャンネルと東北新社が買い付け。うち3作品が発表された。劇場公開から間もないハリウッドスタジオの最新作から、映画史に残る不朽の名作、人気の海外ドラマシリーズまで幅広く放送する映画専門チャンネルのスターチャンネル。本チャンネルでは、“映画館でもTVでもスターチャンネルが厳選した良作を”をコンセプトに、「STAR CHANNEL MOVIES」として世界中から良作を厳選してお届けする映画のラインナップ。今回買い付けされた7作品は、「STAR CHANNEL MOVIES」の新作ラインナップとして選出された。まず1作目は、『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュが監督を務める『All the Old Knives』(原題)。元恋人同士のCIA職員が、6年前の事件の再捜査に乗り出すストーリ―を描くスパイスリラーで、『スター・トレック』シリーズや『ザ・ブリザード』のクリス・パイン、『ブロークバック・マウンテン』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のミシェル・ウィリアムズらが出演する。続いて、『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダン監督作『The Widow』(原題)がラインナップ。『キック・アス』シリーズや『フィフス・ウェイブ』のクロエ・グレース・モレッツや『ピアニスト』『エル ELLE』のイザベル・ユペールが出演する本作は、亡くなった母親を忘れられない若い女性が、年の離れた未亡人と友情関係を結ぶが、やがてその関係が不吉なものへと変わっていくスリラー。そして最後は、『スウィート・ノベンバー』のパット・オコナーが監督を務める『Benjamin’s Crossing』(原題)。20世紀ドイツを代表するユダヤ系の哲学者ヴァルター・ベンヤミンに扮し、第二次世界大戦中、ナチスに追われピレネー山脈を越えて逃亡した史実を描くヒューマンドラマ。『英国王のスピーチ』や『キングスマン』のコリン・ファースらが出演する。なお、それぞれの作品の日本での公開は、2018年から2019年を予定している。(cinemacafe.net)
2017年06月11日第70回の記念大会の幕を閉じた、カンヌ国際映画祭。12日間の華やかな、ときに悲しいニュースもあった世界一の映画の祭典をふり返ってみよう。韓国のホン・サンス監督はコンペティション部門に『The Day After』(原題)、特別上映に昨年のカンヌ期間中に撮影されたイザベル・ユペール主演『KEUL-LE-EO-UI KA-ME-LA』(原題)の2本が入り、注目を集めた。というのも、どちらの作品にも出演している女優キム・ミニとホン・サンス監督の不倫が昨年発覚し、大きなスキャンダルに発展した経緯があるからだ。『The Day After』は夏目漱石の小説から題名を借りた、不倫を題材にしたコメディ・ドラマ。公式記者会見でホン・サンス監督は、キム・ミニに対し「彼女は素晴らしい女優ですし、私は彼女を愛しています」と、愛情をストレートに表現。レッドカーペットにも、堂々と手をつないで登場した。56歳の大物監督と、『お嬢さん』などの35歳の人気女優の熱愛ぶりは、華やかなカンヌらしい光景ともいえる。男優賞を受賞したホアキン・フェニックスは、授賞式に恋人ルーニー・マーラと参加。公の席に二人で姿を見せたのは初めて。受賞会見でも「カンヌにくる前、ガールフレンドに『カンヌは良い経験になるはずだ。きっとぼろくそに叩かれるだろうから』と話していたんだよ。それなのにまさか受賞してしまうなんて驚きだった」とルーニーの名前こそ出さなかったが、ご機嫌に語った。ちなみにルーニーは、2年前に『キャロル』で女優賞を受賞している。映画祭中盤の23日には、70回記念ソワレ(夜会)が開かれ、歴代の受賞者、審査員らが100名以上大集合。イザベル・ユペールの司会のもと、カトリーヌ・ドヌーヴ、ニコール・キッドマン、シャーリーズ・セロン、ウィル・スミス、ベネチオ・デル・トロ、マッツ・ミケルセン、ケン・ローチ、クロード・ルルーシュ、ジャン=ピエール・レオら錚々たる面々が顔を揃え、ハッピー・バースデーを合唱した。ソワレ前には前夜に起きたマンチェスター・テロ事件の被害者を悼み、1分間の黙祷が捧げられ、映画祭は公式に「文化イベントへの攻撃は許さない」と抗議声明を発表。カンヌ映画祭でも今年は空港と同じような金属探知機が設置されるなど警備は物々しかった。それでも20日にクリント・イーストウッドが登壇した『許されざる者』25周年記念上映終了直後には、危険物が発見される騒ぎがあった。また映画祭2日目には、カンヌを訪れていた釜山国際映画祭のキム・ジソク副委員長が心臓発作で客死という、不幸な出来事もあった。まだ57歳だった。71回目のカンヌには悲しい事件がないことを祈りたい。(photo / text:Ayako Ishizu)(photo / text:Ayako Ishizu)
2017年05月31日第70回カンヌ国際映画祭授賞式が28日夜(フランス現地時間)に行われ、栄えある最高賞パルムドールには、スウェーデンのリューベン・オストルンド監督の『THE SQUARE』 が選ばれた。『フレンチアルプスで起きたこと』などで知られる監督は、初のコンペティション入りでいきなりパルムドールを獲る大金星。映画は現代アートの世界に生きる人々を風刺たっぷりに描いている。コメディがパルムドールいうのは近年珍しく、審査委員長のペドロ・アルモドヴァルは「政治的な正しさというものを風刺していて、とてもおかしく、イマジネーションに溢れている」と語った。現地の下馬評で一番人気だったロバン・カンピヨ監督(フランス)の、エイズ啓発グループをめぐるドラマ『BPM(Beats Per Minute)』は次点に当たるグランプリとなったが、これもアルモドバルは涙を浮かべながら絶賛。「審査員はみんなお互いを尊重した」と言いつつ、僅差だったことをうかがわせた。また、ウィル・スミスは自分が推した作品が無冠だったことについて「(審査における)民主主義は最低だよ!」と笑わせた。男優賞は『YOU WERE NEVER REALLY ME』 で、トラウマを抱える殺し屋を演じたホアキン・フェニックス。女優賞は『IN THE FADE』でネオナチに家族を殺される女性を演じたダイアン・クルーガーに贈られた。授賞式で名前を呼ばれたホアキンはしばらく固まってしまうほど驚き、登壇後もオロオロしてからようやく「まさか受賞すると思わなかったから、スニーカーで来ちゃったよ」と語って、会場をドッと沸かせた。受賞者会見で「あの驚きも演技ではないのか」と問われたホアキンは、「まったく演技じゃないよ。本当に予想もしていなかったんだ。僕は映画賞なんて縁がないからね」と笑顔で答えたが、ゴールデン・グローブ賞やヴェネチア映画祭での受賞は忘れてしまったのか、と司会者に突っ込まれる一幕も。実は監督のリン・ラムジーが脚本賞で先に名前を呼ばれており、カンヌでは受賞は1作品につき1つという原則があるため、余計に戸惑ったのかもしれない。女優賞のダイアン・クルーガーは今回の大本命で「これは家族の、そして母親の物語だと思って演じた。本当にエモーショナルな役だった」と語った。クルーガーはドイツ出身ながら初めてのドイツ映画出演でもあり、監督であるファティ・アキンに感謝を捧げた。監督賞は『THE BEGUILED』のソフィア・コッポラ。女性監督の同賞受賞は1961年のユリア・ソーンツェワ(『戦場』)以来の快挙となった。また同作と、『THE KILLING OF A SACRD DEER』に主演し、さらにコンペ外作品も含めるとなんと4本もの主演作がカンヌで上映されたニコール・キッドマンには、70回記念賞が贈られた。すでに帰国していたため代理でウィル・スミスがニコールになりきって受賞し、相変わらずの茶目っ気を見せた。昨年はプレスから大絶賛された『ありがとう、トニ・エルドマン』が無冠に終わるなど大きな番狂わせがあったが、今年は比較的順当な結果となった。主な受賞結果は以下の通り。パルムドール『THE SQUARE』 リューベン・オストルンド70回記念賞 ニコール・キッドマングランプリ『BPM(Beats Per Minute)』ロバン・カンピヨ監督賞『THE BEGUILED』ソフィア・コッポラ男優賞『YOU WERE NEVER REALLY HERE』ホアキン・フェニックス女優賞『IN THE FADE』ダイアン・クルーガー審査員賞『LOVELESS』アンドレイ・ズビャギンツェフ脚本賞『YOU WERE NEVER REALLY HERE』リン・ラムジー、『THE KILLING OF A SACRED DEER』ヨルゴス・ランティモス(photo / text:Ayako Ishizu)(photo / text:Ayako Ishizu)
2017年05月29日開催中の第70回カンヌ国際映画祭。今年、カンヌを席巻しているのが、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」の作品だ。コンペティション部門に、ポン・ジュノ監督の『オクジャ』と、ノア・バームバック監督の『The Meyerowitz Stories(New and Selected)』(原題)の2本が入っている。いずれも作品の評価は高いものの、オンラインでしか観られないものを映画と認めるべきか、否か、という大論争が巻き起こっているのだ。特にスーパーピッグをめぐる『オクジャ』は星取り表でも上位3本に入るほど好評で、主演のティルダ・スウィントンの女優賞の声も聞かれる一方、ブーイングも出るなど、まさに問題の矢面に立たされている格好。『The Meyerowitz Stories』(原題)も、気難しい父親(ダスティン・ホフマン)にふり回される息子たち(アダム・サンドラー、ベン・スティラー)の反目と和解を笑いの中に描いた、愛すべき映画となっている。「Netflix」問題は映画祭開幕前から白熱しており、カンヌ側は今年は特例としてコンペ入りを認めたものの、来年以降はコンペ入りの条件にフランス国内での劇場公開を義務づけると発表した。というのも、フランスでは映画のストリーミング配信はフランス国内公開から3年後という規正があるからだ。同時に、劇場の興行収益から映画支援団体CNC(国立映画センター)に一定額を支払う規定があるが、劇場公開をしない「Netflix」はこの支払いを回避してもいる。映画祭初日17日の審査員団会見では、審査委員長ペドロ・アルモドバルが「劇場で観られない映画に、賞をあげたくない」と爆弾発言をした。これに対し、同じく審査員のウィル・スミスは「Netflix」を擁護。アルモドバルはその後、この発言は撤回して、公正な審査を行うと宣言、ポン・ジュノ監督に会った際には謝罪もしたという。果たして審査員団は、この2本に対してどのような結果を下すのか。審査結果は28日(現地時間)夜、発表される。(photo / text:Ayako Ishizu)(text:Ayako Ishizu)
2017年05月26日俳優・松田龍平が、エルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)のスーツを纏い、第70回カンヌ国際映画祭に登場した。松田が身に着けたのは、エルメネジルド ゼニアのスーツとタキシード。スーツは、爽やかなブルートーンのグレンチェック柄で、エルメネジルド ゼニア クチュールのウールシルク素材で仕立てたものだ。シャツはピュア コットン素材を選び、足元はダークグリーンのローファーで抜け感を出した。軽やかな着こなしだが、スーツとシャツを同じブルートーンで統一することで、洗練された印象に映る。一方、レッドカーペットには、シックなタキシード姿で現れた。エルメネジルド ゼニアのコレクションから、1つボタンのタキシードを選び、それに合わせて、コットン地のタキシードシャツ、ボウタイなど、すべてエルメネジルド ゼニアのアイテムでまとめている。落ち着きのあるコーディネートだが、レザーシューズのパテントカーフ素材が上質な光沢感を放ち、程よいアクセントを加えている。なお、松田龍平は、2017年9月9日(土)より全国公開となる映画『散歩する侵略者』に出演。黒沢清監督のサスペンス作品で、女優・長澤まさみと夫婦役を演じる。今回の第70回カンヌ国際映画祭では、映画『散歩する侵略者』の記者会見とプレミア上映を行った。【問い合わせ先】ゼニア カスタマーサービスTEL:03-5114-5300
2017年05月25日第70回カンヌ国際映画祭が、南仏・カンヌで5月17日(現地時間)に開幕した。開幕式前には審査員団の記者会見が行われ、審査委員長のペドロ・アルモドバル(スペイン)をはじめ、ウィル・スミス(米)、ジェシカ・チャスティン(米)、パク・チャヌク(韓)、ガブリエル・ヤレド(仏)、マーレン・アデ(独)ら9人が出席。今年の特色は、ポン・ジュノ監督の『オクジャ』(原題)、ノア・バームバックの『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリー』(原題)という、Netflixの非劇場公開作が最高賞パルムドールを競うコンペティション入りをしていること。これについて質問が飛ぶと、アルモドバルは「技術革新はよいことだが、個人的には劇場公開予定がない作品に賞はあげたくはない。映画は少なくとも自分の椅子よりは大きなスクリーンで観てほしいし、劇場を守りたい」と爆弾発言。一方、ウィル・スミスは「あくまで僕の家の場合だけど、子ども3人は毎週2回は映画館に行くし、Netflixでいままで観たことのない種類の映画も観るようになった。Netflixは映画館とは敵対しないと思うし、若い作り手が出てくるためのいいプラットフォームになっていると思う」とNetflixを擁護したが、この論争はますます高まりそうだ。なお映画祭側は、来年以降は劇場公開されない映画のコンペ出品は認めないことを決めている。記念すべき70回大会の開幕作品は、フランスのアルノー・デプレシャン監督の『イスマイルの亡霊たち』(英題:Ismail’s Ghosts)。主演のマチュー・アマルリック、マリオン・コティヤール、シャルロット・ゲーンズブールらがレッドカーペットを飾った。現在、ギョーム・カネとの間の第二子を妊娠中のマリオンは、体を覆うような黒のドレスで、シャルロットのマイクロミニのドレスと好対照だった。ほかにも、リリー・ローズ・デップ、エル・ファニング、ジュリアン・ムーアや「ある視点」部門の審査委員長であるウマ・サーマン、開幕式の司会を務めたモニカ・ベルッチなど華やかな面々が登場。18日夜には、木村拓哉が三池崇史監督、杉崎花らと共に『無限の住人』でカンヌのレッドカーペットに久しぶりに登場する。カンヌ映画祭は28日まで。(photo / text:Ayako Ishizu)(text:Ayako Ishizu)
2017年05月18日17日(現地時間)、第70回カンヌ国際映画祭が開幕した。これから12日間に渡り、ゴージャスな装いのセレブたちが続々レッドカーペットに登場する。オープニング・ガラには、昨年大胆なスリットの赤いドレスで注目を浴びたベラ・ハディッドが父親のモハメド・ハディッドを伴って参加。またしても深いスリットのペールピンクのドレスをセレクトし、ブランドは昨年と同じく「アレクサンドル・ボーティエ(Alexandre Vauthier)」。「People」誌によると、首元で輝きを放っていたネックレスは、28カラット以上のパヴェ・ダイヤで囲った180カラットのサファイアが使われているという。ため息のでるような美しさで会場を魅了したベラだったが、スリットが深すぎたためにヌードカラーの下着がチラッと露わになってしまうヒヤッとする一幕も。女優のエミリー・ラタコウスキーもベラに負けない深いスリットのドレスで美脚を披露。この「ツインセット・バイ・シモーナ・バルビエリ(Twin Set by Simona Barbieri)」のドレスは、ベラが動揺しそうなほど昨年ベラが着た赤いドレスと形がそっくりだったが、2人はレッドカーペットで手を取り合ってにこやかに挨拶を交わした。そのほか、エル・ファニングのトレーンにユニコーンがハンドペインティングされた「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」のドレス、リリー・ローズ=デップの女神のような「シャネル(CHANEL)」ドレスが話題になった。(Hiromi Kaku)
2017年05月18日ケン・ローチ監督の『I, Daniel Blake』を最高賞パルムドールに選び、無事に幕を閉じた第69回カンヌ国際映画祭。”無事”というのが今年はとても重要だった。昨年のパリ、今年のブリュッセルと大きなテロが相次いだため、カンヌ周辺は厳重な警戒態勢で、コート・ダジュール空港は軍隊が巡回、豪華客船やクルーザーが浮かぶカンヌの海にもフランス海軍の巡視艇が停泊し、上映会場に入る際にはバッグの中身を隅々までチェック。その結果、特に大きなトラブルは起きず、平穏に終わった。もっとも、授賞結果は大荒れ。批評家や観客の間で人気だったドイツの女性監督マーレン・アーデの斬新なコメディ『Toni Erdemann』や、ジム・ジャームッシュの『Patterson』(永瀬正敏がおいしい役を演じている)が無冠に終わる一方で、不評と思われたオリヴィエ・アサイヤス(フランス)がクリテン・スチュワート主演で撮った心霊スリラー『Personal Shopper』が監督賞を受賞。審査員は映画の作り手のため、着眼点が違うのか。審査員団は毎年世界中の映画人から選ばれるが、今年は委員長に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジョージ・ミラー(オーストラリア)、審査員にマッツ・ミケルセン(デンマーク)、ヴァネッサ・パラディ(フランス)、キルステン・ダンスト(アメリカ)ら総勢9名。中でも目立っていたのが、御年80歳になるドナルド・サザーランドだった。審査員会見でサザーランドは、いつもアメリカの影に隠れがちな祖国カナダの自虐ジョークを連発。カナダ人記者から自国の映画界についての意見を求められると、「戦争中、フランス、イギリス、カナダの兵士が敵に捕まり、処刑前に最後の望みを聞かれた。イギリス兵士は紅茶を望み、カナダの兵士は15分だけ自国のアイデンティティーについて語らせてほしいと頼んだ。フランス兵士は、カナダ人のスピーチを聞く前に殺してくれ、と頼んだ」と語り、会場は爆笑に包まれた。その飄々とした様子は、ドナルドの出世作『M★A★S★H マッシュ』(1970年のパルムドール受賞作)のまんま。さらに授賞式後には「寒いなあ」とブランケットを被って会見場に現れるなど、もう独壇場だ。そんなマイペースなドナルドになついていたのが、マッツ・ミケルセン。どこに行くにもドナルドの後を追いかけていて、映画で見せるクールな顔と違い、かわいい末っ子キャラだった。ジョージ・クルーニー&アマル夫妻、オーランド・ブルーム&ケイティ・ペリーら華やかなカップルの姿も注目を集めたが、逆の意味で話題だったのがシャーリーズ・セロンとショーン・ペン。2人は昨年はラブラブでカンヌのレッドカーペットを沸かせたのだがその直後に破局。しかし今年はショーンが監督、シャーリーズが主演した『The Last Face』がコンペティションに選ばれたため、2人は再びカンヌに登場したが、会見中もレッドカーペットでも必ず間に共演のハビエル・バルテムやショーンの長男ホッパー・ペンを挟むなど、微妙な距離を保っていた。さらにレッドカーペットを一度昇りきったショーンが、ある若い女性が到着すると階段を駆け下りて迎えに行ったときは一瞬びっくり。若い金髪女性が大好きなショーンの新しい恋人かと思われたが、ショーンの長女ディランだった。上映中も少し離れた席に座っていた2人だったが、上映後にスタンディング・オベーションを受けると、シャーリーズがショーンの頬にキス。映画監督としてのショーンへの敬意のしるしだったのだろう。映画はアフリカの紛争地で活動する”世界の医療団”をモデルにした社会派ドラマだが、題材に対してメロドラマの要素が強すぎたのは、ショーンがシャーリーズへの未練があるせいなのだろうか。ちなみにレッドカーペットでは黒いタキシード風スーツでマニッシュに決めたシャーリーズには、今年のベスト・ドレッサー賞をあげたい。ある視点部門で深田晃司監督の『淵に立つ』が審査員賞を受賞するなど日本勢の活躍もあり、今年のカンヌの12日間も盛りだくさんだった。来年は70回記念大会。どんな趣向が凝らされるか、今から楽しみだ。(text:Ayako Ishizu)
2016年05月30日第69回カンヌ国際映画祭授賞式が5月22日夜(現地時間)に開催され、イギリスの名匠ケン・ローチ監督の『I,Daniel Blake』(原題)が最高賞パルムドールに輝いた。2006年の『麦の穂を揺らす風』以来、10年ぶり2度目のパルムドール受賞となったケン・ローチ。『I,Daniel Blake』は、心臓病で失業した木工職人ダニエルと、貧困にあえぐシングルマザーのケイティが生活保護を求めるものの拒まれ、窮地に陥る姿を描く。社会主義者として知られるケン・ローチは「貧困にあえぐ人々に取材した作品で、このような豪華な場にいるのは、やや違和感がありますが」と前置きしつつ、「カンヌ映画祭を支える労働者の人々に感謝します」とスピーチした。社会保障システムの欠陥を告発しつつも、『天使の分け前』に通じるユーモアもあり、観客、評論家の評価も高く、納得の結果となった。次席にあたるグランプリは、カナダの若き天才グザヴィエ・ドランの『It’s Only The End of the World』(原題)に贈られた。一昨年『Mommy/マミー』で審査員賞を受賞したグザヴィエは、さらなる名誉に感激の涙をぬぐった。本作はギャスパー・ウリエル、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセルらフランスのオールスターで描く、秘密を抱えた家族のドラマ。受賞者会見でグザヴィエは「いままでは観客はどう思うのか、ということを考えていたが、これからは自分に忠実でありたい」と語った。監督賞はクリスチャン・ムンジウとオリヴィエ・アサイヤスの同時受賞。アサイヤスが『アクトレス~女たちの舞台~』に続いてクリステン・スチュアートを起用した『Personal Shopper』(原題)は心霊映画だったためか現地での評価が低く、『マッドマックス怒りのデスロード』のジョージ・ミラー率いる審査員団の意外な選択に記者席からはブーイングが起きた。このほかの主な受賞作は以下の通り。パルムドール『I, Daniel Blake』ケン・ローチ(イギリス)グランプリ『It’s Only The End of the World』グザヴィエ・ドラン(カナダ)監督賞『Graduetion』クリスチャン・ムンジウ(ルーマニア)監督賞『Personal Shopper』オリヴィエ・アサイヤス(フランス)脚本賞『The Salesman』アスガル・ファルハーディー(イラン)審査員賞『American Honey』アンドレア・アーノルド(イギリス)男優賞『The Salesman』シャハーフ・ホセイニ(イラン)女優賞『Ma’ Rosa』ジャクリン・ホセ(フィリピン)(photo / text:Ayako Ishizu)
2016年05月23日第69回カンヌ国際映画祭が11日(現地時間)にいよいよ開幕。オープニング作でウディ・アレン監督の『Cafe Society』(原題)の公式上映に合わせて、主演のジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ブレイク・ライヴリーらが勢ぞろいした。早めにカンヌ入りして、映画のプロモーション活動中のブレイクは、インスタグラムでカンヌでの装いを日誌風にアップ。10日(現地時間)には、『ノートルダムの鐘』のヒロイン、エスメラルダにインスパイアされたマキシドレス姿をアップしたが、映画祭オープニング当日は公式上映前の記者会見とフォトコール前に、ハイヒールが何足も並ぶ部屋でメタリック・シルバーのサンダルを履いた足元の写真を投稿した。その後のフォトコールに現れたブレイクはフアン・カルロス・オバンドの真っ赤なジャンプスーツを着用。彼女は現在、夫のライアン・レイノルズとの第2子を妊娠中で、おなかの辺りはゆったりめのシルエットだが、スタイリッシュな着こなしだ。同じくフォトオールに参加したクリステンは髪をブロンドに染めて、丈が短めのTシャツにシャネルのニットスカートで全身白ずくめ。色のコントラストも鮮やかな美女2人には対して、アレン監督もジェシーも、共演のコリー・ストールもカジュアル・スタイル。ドレスアップした女優たちに圧倒され気味の表情を見せていた。(text:Yuki Tominaga)
2016年05月12日5月にフランスで行われるカンヌ国際映画祭で、21日に急逝した人気歌手プリンスさんの追悼企画が行われることになった。広報担当が「プリンスの追悼するつもりですが、現時点ではそれ以上の情報はありません」と認めた。そんな中、プリンスさんと近しい人々はそれぞれのかたちで追悼の意を示そうとしており、プリンスの元妻マニュエラ・テストリーニはプリンスさんのために学校を計画しているのだという。「私はプリンスをたたえる学校を創立しようって数日前にプリンスに連絡していたところだったの。今となっては彼の思い出とともに学校を作ることになってしまうから、胸が痛いわ」と明かした。マニュエラはまた、「プリンスと私は一緒に魔法のような経験をして、彼のことを本当に愛していた。私は彼を夫、友人、本物の博愛主義者として知っていたわ。慈善を通して私たちは一緒になり、10年以上前にプリンスが私に自分のチャリティ団体をスタートさせることを応援してくれたの」と語った。カンヌ国際映画祭は5月11日から22日に開催される。(C)BANG Media International
2016年04月26日24日(現地時間)に閉会した第68回カンヌ国際映画祭には日本から多くの映画人が訪れたが、『リトルプリンス星の王子さまと私』では日本版声優を務めた鈴木梨央、瀬戸朝香、津川雅彦が、オリジナル版声優のマリオン・コティヤールやマッケンジー・フォイらと共にレッドカーペットを飾った。梨央ちゃんは鮮やかな赤い着物姿で、世界中のカメラマンからのフラッシュを浴び笑顔を振りまいた。マッケンジー・フォイもマーク・オズボーン監督も、梨央ちゃんの着物姿を「すごくかわいい!」、「美しいね!」と口々にほめていた。映画はフランスのサン=テグジュペリが生んだ世界的絵本「星の王子さま」の初めてのアニメーション化作品ということもあり、カンヌで世界初お披露目。紙人形によるストップ・モーションアニメとCGを融合させて王子さまの世界を見事に映像化したに対して、観客も10分以上ものスタンディングオベーション贈り、オズボーン監督は目を潤ませていた。映画は星の王子さまの物語と、その後日談が交えて語られる。梨央ちゃんは王子さまを探す少女を、瀬戸さんはその母親、津川さんは年老いた飛行士の声を演じる。レッドカーペットを歩いた感想について梨央ちゃんは「心臓が出そうになりました!」と興奮しつつも、着物姿が注目されたことについて「みんなに素敵!と言ってもらえて嬉しかったです」と目を輝かせた。瀬戸さんは「一生に一度の貴重な経験になりました」と笑顔を見せ、津川さんは「スタンディングオベーションも長く、観客の拍手から映画の力を感じました」と語った。梨央ちゃんと同じ役を演じるマッケンジー・フォイは『インターステラー』などで活躍するハリウッドの人気子役。梨央ちゃんは彼女について「すごく憧れます。いつかマッケンジーさんみたいになりたいです」と女優としての意欲を語った。瀬戸さんも「監督が目を潤ませていて、私もうるっと来ました。もう二度とないチャンスと思ってカンヌに来ましたが、この仕事を続けて二度目のカンヌを目指すという目標が出来ました」と気持ちを新たにしていた。津川さんは「僕は賞にからむような映画に出ないので、映画祭というものに来ることが初めて。フランスは映画発祥の地。また監督として来るのもいいですね」と感激していた。(photo / text:Ayako Ishizu)
2015年05月29日5月13日(現地時間)から開催されていた、第68回カンヌ国際映画祭が24日に閉幕した。映画祭と言えば、賞レースの行方と同様に、注目したいのがレッドカーペットで繰り広げられる“ファッションショー”。特にベルリン、ヴェネツィアと並び、世界三大映画祭に数えられるカンヌは、フランスという“ファッションの聖地”で行われるフェスティバルというだけあり、ひときわ華やかだ。フランス人女優や俳優ら関係者たちは、こぞって自国メゾンのドレスで着飾り、フランスがファッションの国であることをアピールしている。もちろん、招待ゲストである他国の映画人たちも、開催国に敬意を表してフレンチ・ブランドを身に纏うことが多いようだ。目立ったのは、フランスの「ディオール(Dior)」、「イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)」などの老舗メゾン。まずは、「ディオール」から。シャーリーズ・セロンは、鮮やかなイエローと長いトレーンが印象的なディオールをチョイス。マリオン・コティヤールは、ベビーブルーのクチュールドレスに「ショパール(Chopard)」のジュエリーを合わせた。さらに別日も、デザインこそ違えど、プリーツ使いの素材でモード感をたっぷり演出。彼女たちは、同メゾンのミューズでもあり、着こなしの見事さはさすがだ。モデルのスキ・ウォーターハウスやアンジェラ・ベイビー、メラニー・ロランは若々しく白を、ノオミ・ラパスは妖艶な赤、イザベラ・ロッセリーニは鮮やかながら落ち着いた大人の黄、レティシア・カスタは成熟した雰囲気を強調するクチュール感のあるドレスでレッドカーペットに華を添えていた。「イヴ・サンローラン」をチョイスしたセレブリティも多い。フランスの大女優ソフィー・マルソーはマルチカラーのスリットドレスを、韓国のチョン・ドヨンはワンショルダーのブラックドレスやマスキュリンなスーツを、サルマ・ハエックはマルチプリントのワンピースでレトロ感たっぷりのレディスタイルを。また、リリー・ドナルドソンがビーズロングガウンで、ジェーン・フォンダがスパンコールのドレスで、フォーマルシーンならではのエレガンスさを漂わせていたのも印象深い。また、フランスの隣国イタリアの「ヴァレンティノ(VALENTINO)」などヨーロッパ圏で誕生したブランドを纏うセレブたちの姿も。「ヴァレンティノ」のカラーブロッキングが印象的な15SSクチュール・コレクションからの1着を選んでいたのはシエナ・ミラー。別日には、「ソニア・リキエル(SONIA RYKIEL)」のガウンで登場。こちらは、ブラック一色のドレスながらも、オーガンジーにスター模様が浮かび上がる少しレトロ感のある素材と、ガウンを重ね着したようなデザイン、透け感のある若々しい足元、胸元に安全ピンをあしらったデザインなど、随所に遊び心がたっぷり。そこに、今年流行の太めヒールのサンダルを合わせ、上級者のシエナならではの、フレンチ・シックを披露した。その他にも、ナタリー・ポートマンが「ランバン(LANVIN)」による美しいエメラルドグリーンのガウンを選び、タイトにまとめたヘアと揺れる黒いシンプルなピアスでノーブルなスタイルを見せたり、ダイアン・クルーガーがランウェイさながらの「プラダ(PRADA)」スタイルを披露したりと、映画祭はさながら最先端のファッションショーケースに。やはり、カンヌのレッドカーペットでは、女優たちもひときわ腕によりをかけ、おしゃれを楽しんでいるようだ。
2015年05月27日24日夜(現地時間)、第68回カンヌ国際映画祭の授賞式が行われ、コンペティション部門の最高賞パルムドールはジャック・オディアール(仏)監督の『ディーパン』(原題)に贈られた。また、日本から妻夫木聡が参加した『黒衣の刺客』の侯孝賢(ホウ・シャオシェン/台湾)監督が、監督賞に輝いた。侯孝賢監督は壇上で、「監督賞をいただけて感激です。作家映画を作るのは決して簡単なことではありませんし、資金を獲得するのも難しいことです。スタッフに感謝します。また主演のスー・チー、チャン・チェン、そして全ての人に感謝いたします」と喜びを語り、会場にいたスー・チーとチャン・チェンも感激の面持ちだった。すでに帰国していた妻夫木さんは「侯孝賢監督の作品に参加できたこと、このような素晴らしい賞を受賞したこと、こんな奇跡的な瞬間に立ち会えたことに幸せを感じています。一期一会の心を忘れず、これからも人や作品に出会えていけたらと思います」とコメントした。日本の是枝裕和監督の『海街diary』は無冠に終わったが、「ある視点」部門では黒沢清監督が『岸辺の旅』で監督賞を受賞した。パルムドール受賞作『ディーパン』(原題)は、スリランカ内戦で全てを失ったタミール族の兵士ディーパンが、偽装家族とフランスで難民として暮らす姿を描く。オディアール監督は『預言者』で2009年にグランプリを受賞しているが、パルムは初となった。下馬評の高かったポール・ソレンティーノ(伊)の『YOUTH』(英題)、ナンニ・モレッティの『MY MOTHER』(私の母)などイタリア勢を破っての受賞に、記者席の一部からはブーイングもあがったが、力強いラブストーリーとなっている。一方、誰もが納得したのが、男優賞の『MEASURE OF A MAN』(英題)で、失業とモラルの狭間で苦悩する男を演じたフランスの人気俳優ヴァンサン・ランドン。ハンガリーの新鋭ラズロ・ネメスがユダヤ人強制収容所を舞台にした『SON OF SAUL』(英題)のグランプリ受賞も、期待通りの結果となった。審査員の1人である女優シエナ・ミラーは「私は観たときに、圧倒されてしまった。映画祭が始まってすぐに観たのに、最後までその強烈さは忘れられなかった」と明かした。女優賞は『CAROL』(英・原題)のルーニー・マーラ(米)、『MON ROI』(原題)のエマニュエル・ベスコ(仏)の同時受賞。メキシコの若手監督ミシェル・フランコがティム・ロス主演で終末医療専門の看護師を描いた『CHRONIC』(原題)が脚本賞に、ヨルゴス・ランティモス(ギリシャ)が独身者が禁じられた近未来をコリン・ファレル主演で描く『THE LOBSTER』(原題)が審査員賞に輝いた。2人は前作がいずれも「ある視点」部門のグランプリを受賞しており、まさにカンヌの申し子となった。全体にフランス勢が圧勝という印象であり、現地のテレビではヴァンサン・ランドンの栄冠が大きく報じられている。(photo / text:Ayako Ishizu)
2015年05月26日カンヌ国際映画祭が5月24日(現地時間)に閉幕。華やかなドレスに身を包んだ女優たちの美の競演が今年も話題となったが、今回は服ではなく“美肌”に注目。日本でも大きな注目を集めた是枝裕和監督の最新作『海街diary』で主演を務める、綾瀬はるかのレッドカーペッド直前のバックステージの様子を、スキンケアブランド「SK-II」が公開した。カンヌ入りした当日に、そのままレッドカーペットというタイトなスケジュールとなった綾瀬はるか。世界中が見つめる大舞台ということで、機内でのケアはいつも以上に入念に行なっていたようだが、自身がアンバサダーを務める「SK-II」は手放せなかったそう。乾燥する機内で潤いを保つためにフェイシャルトリートメントエッセンスと合わせて、フェイシャルトリートメントマスクでしっかりと保湿を。また、「SK-II」でのスキンケアとメークアップを施し、透明感のある肌を保つ秘訣を垣間見せた。その甲斐あってか、「ディオール(Dior)」14-15AWオートクチュールコレクションのドレスで登場した綾瀬はるかは、各国から集まった報道陣からフラッシュの嵐を浴び、現地フランスを始め、世界中のメディアから注目を集めた。今回が初の国際映画祭となったが、「初めてのカンヌを経験して、これが私の人生のなかで最も輝いている瞬間のひとつだと感じています。本当に今までにない新しい素敵な経験で、これからより高い目標に向かって努力をして運命を切り開きたいと思えるような経験でした」と綾瀬はるかはコメントを寄せた。さらに、この“新しい素敵な経験”はもうひとつ。カンヌの旅のクライマックスとして、「SK-II」のグローバルアンバサダーである女優ケイト・ブランシェットとの初対面が実現。ケイトも今年のカンヌに最新主演作『Carol(キャロル)』を携えて参加しており、 オスカー受賞の経験を持つケイトから次世代を担う綾瀬はるかへ、これまでの映画祭でケイト自身が体験した“運命が変わった瞬間”が語られた。「カンヌのような映画祭に行くことは本当に運命が変わる経験。私が過去に経験した同じ瞬間をこれから、はるかは迎えようとしているのね。ヴェニス映画祭に『エリザベス』で参加したとき、その頃の私はとても未熟でそれまで映画祭など参加したこともなかったの。そんなときに直前に、観客からブーイングが起こることもあるんだと誰かに言われ、とても怯えたことを覚えている。でも結果がどっちだったとしても、きっと翌朝には何かが変わっているんだろうということを私は分かっていたの。それは真実で、本当にすごいことが起きていたの」と振り返った。今やカンヌ映画祭の顔とも言える世界的女優となったケイトからの思いがけない言葉に 、綾瀬はるかは「ケイトさんにお会いする機会をもてたことは、とても貴重な経験でした。作品を見て素晴らしい女優さんだと思っていましたが、実際にお目にかかると、人としてもハッピーでパワフルなとても素敵な方でした。カンヌを何度も経験した女優の先輩として、勉強になる言葉もくださいました。ご一緒する時間を持てたことをうれしく思っています」と、興奮冷めやらぬ様子で語っていた。
2015年05月26日