昨年、誕生30周年を迎えた『ドラゴンクエスト』。記念イベントが続々と行われているが、昨年10月には吹奏楽による演奏会『「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサート』が開幕した。いよいよ、これまで誰も生で聴いたことのない“吹奏楽編曲”によるシリーズ“VII”“VIII”“IX”のコンサートが、初お披露目となる。先日、初めて音を出す“試奏”がおこなわれ、そこで指揮者の大井剛史と永峰大輔に話を聞いた。【チケット情報はこちら】これまで、“I”から“VI”までのコンサートを手掛けた大井は、「ドラクエコンサートはお客さんとの一体感に特別なものがある。僕もそうだけど、音楽が体に染みついているんですよね。こちらも一緒に楽しんでいる感じがあって雰囲気がいいんです」とその魅力を語った。永峰も、「組曲の中には、マッシュアップ(複数の曲を編集してひとつの曲にする)されているものがあって、街やフィールド移動などゲームをしている感覚を思い出します。ゲームでは場面が変わると音楽が切れちゃいますけど、最後まで聴けるのもおもしろいですよ」と他の演奏会にはない楽しさを語った。実際のコンサートでは、ゲーム音楽プロ交響楽団「JAGMO」で様々なコンサートを担当してきた永峰がタクトを執る。ゲームをクリアしてから演奏に臨むという永峰は、「“VIII”はこの間やっとクリアしました。“VII”は途中です」とゲームも楽しんでいる様子。「ちゃんとゲームをクリアしたところで伺える永峰さんのお話も楽しいですよ」と大井が太鼓判を押すように、コンサートでは楽曲の合間に指揮者によるMCも。音楽家としての視点で語られるドラクエ音楽も楽しみのひとつだ。同コンサートの演奏を務めるのは、吹奏楽団では日本随一と名高い東京佼成ウインドオーケストラ。この日の試奏では、楽団の正指揮者である大井が担当し、永峰がその様子を見守った。大井の指示のもとテキパキと進行し、“IX”の交響組曲が少しずつ明らかになっていった。ゲームのオープニングを飾るおなじみの「序曲」から始まり、王宮、街、フィールドへと誘っていく。ひとつひとつの音にアクセントのある管楽器の音色は、気持ちをワクワクと高めていくようだ。今後は永峰が指揮を受け継ぎ、演奏者たちと音を作り、本番を迎える。“VII”“VIII”は、CD化されているがコンサートは初。“IX”は、吹奏楽による演奏自体が初となる。「ドラゴンクエストVII, VIII」は5月4日(木・祝)大田区民ホール・アプリコ 大ホール、「ドラゴンクエストIX」は7月9日(日)かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールにて開催。また、「ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ・Ⅲ」も5月20日(土)・21日(日)に開催。チケット発売中。取材・文:門 宏
2017年04月27日ショパン生誕200年の2010年、1日でショパンのピアノ作品全曲を弾く演奏会を成し遂げた横山幸雄。以来、このショパンにどっぷりつかることのできる公演は、GWの恒例となった。横山にとって、特別な存在であるショパンの音楽の「血中濃度を上げる」大切な機会だという。横山幸雄 入魂のショパン 2017 チケット情報今年も、13時開演、21時終演の5部構成という長丁場。ショパンが若き日に書いた「24のエチュード」に始まる充実したプログラムだ。選曲の背後にあるテーマは、ジョルジュ・サンド。「ショパンが彼女に出会う直前から、ふたりが過ごした一番良い時期までの作品を中心に取り上げます」ショパンの6歳年上で、パリ社交界の中心的存在のひとりだった作家のサンドは、ショパンが20代後半からの約9年を共にした恋人だ。天才的才能を持ちながら、気難しく病弱なショパンを支えた存在でもある。「最初にエチュードを置いたのは、まず、まだサンドを知らない頃の作品を聴いていただこうと思ったから。そして第2部でとりあげる『24の前奏曲』は、ふたりが共に過ごしたマヨルカ島で書かれた愛の結晶です。サンドと出会ったあと、ショパンの音楽がどうなったのかが感じられると思います」ショパンはサンドの愛に包まれ数々の傑作を生み出したが、彼女の愛は次第に母性的なものへと変化し、やがてふたりの関係は破局を迎える。「サンドはショパンのよき理解者でありながら、ある部分については理解できていなかった。だからショパンは、彼女といてもどこか孤独だったのではないでしょうか。そこにある葛藤が、第4部で演奏するバラード2番やスケルツォ3番、ポロネーズ5番のような、激情と静けさを持つ曲に現れています。この時期を過ぎると、他人のことは考えていないような境地に入っていく。芸術家とは、孤独なものですね」第5部では、主なテーマとする時代以外の、初期と後期の作品からいくつかを取り上げる。終曲「幻想ポロネーズ」では、そんな晩年のショパンがたどり着いた深い精神を聴くことになる。「聴いてすぐに良さがわかる作品ではないかもしれません。僕自身、中学生で初めて聴いたときは充分にわからなかった。でも本当にすばらしい、ショパン最後の大作です」それではサンドとの出会いの前後にあるショパンの変化を、横山はどう捉えているのだろうか。「ショパン自身は、何も変わらなかった。僕はそう思います。サンドは影響を与えているようで、根本的な部分を揺るがすことはできなかったのでしょう」サンドと過ごした時代の心の動き、根底に流れる揺るぎないショパンらしさ。その繊細な機微を、横山の端正なピアノが生き生きと描きあげる。横山幸雄 入魂のショパン 2017は5月5日(金・祝)13:00より、東京オペラシティ・コンサートホールにて開演。チケットは発売中。取材・文:高坂はる香(音楽ライター)
2017年04月27日新日本フィルハーモニー交響楽団が、2017/18シーズンのラインナップを発表した。「新日本フィルハーモニー交響楽団」のチケット情報長年ドイツのオペラハウスで活躍し、国際的評価の高い指揮者・上岡敏之を音楽監督に迎えて2シーズン目となる2017/18シーズン。その中核をなす定期演奏会は、本拠地すみだトリフォニーホールでの「トパーズ」、サントリーホール・シリーズ「ジェイド」、金曜・土曜14時開演のアフタヌーン・コンサート「ルビー」の3シリーズ(全24公演)。上岡はうち8公演に登場し、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」、シューマンの交響曲第1番「春」、ツェムリンスキーの「人魚姫」、ブルックナーの交響曲第6番などを指揮する。「映画で例えるなら、ハリウッド映画ではなくヨーロッパ映画です。絢爛豪華な花火ではなく、聴いた後で心に残り、何かを考えさせてくれるようなプログラムを目指しました」と上岡が語るとおり、派手さはないものの、奇をてらわずに作品と真っ向勝負の気概がうかがえる内容となった。客演の指揮者やソリストも実力者揃い。ウィーン・フィルのコンマス、ライナー・ホーネック、現代音楽に定評あるマルクス・シュテンツ、モーツァルトのピアノ協奏曲で上岡と共演するアンヌ・ケフェレック、自作を指揮する作曲家タン・ドゥン、北欧の巨匠オッコ・カムと錚々たる顔ぶれだ。「決してビジネスではなく、音楽と真摯に向き合って我々と共演してくれるアーティストだけを選びました」と上岡こだわりの人選がキラリ。2017/18シーズンは楽団創立45周年、そして日本初の自治体とのフランチャイズ提携である墨田区とのパートナーシップ20周年(本拠地のすみだトリフォニーホールも開館20周年)の節目だが、だからこそこれからの成長を視野に入れた、まさに地に足をつけたラインナップだろう。また、シーズンラインナップに加え、ファンには嬉しい新企画が誕生。「トパーズ」定期会員と、横浜みなとみらいホール特別演奏会「サファイア」のセット券購入者限定で、2018年3月開催の「上岡敏之ピアノ・リサイタル」へご招待するという。ピアニストとしての実力も超一級の上岡が、日本で初めて行うソロ・リサイタルだけに、まさにスペシャルな企画だ。続けて、ファンから演奏曲を募集したリクエスト・コンサート(7月21日(金)・22日(土)すみだトリフォニーホール)のプログラムも決定。ベルリオーズの幻想交響曲とパガニーニのヴァイオリン協奏曲の2曲が発表された。リクエストの選定にあたった上岡は「本当に数多く、様々な曲をリクエストして頂きました。その中から、今回は“ヴィルトゥオーゾ”をテーマにして、この2曲を選びました。他のリクエストも今後のプログラムの参考にしてきますので、どうぞご期待ください」と意気込みを語った。新日本フィルの2017/18シーズンは、9月22日(金)よりスタート。各シリーズ1回券のチケットは、9~11月公演が7月18日(火)、1~3月公演が10月17日(火)、4~7月公演が2018年1月30日(火)に発売となる。
2017年04月21日6月9日(金)に東京・東京国際フォーラム ホールAで開催される「オリンピックコンサート2017」。同公演のゲストオリンピアンとして、シンクロナイズドスイミングで1988年ソウルオリンピックに出場し2つの銅メダルを獲得した小谷実可子と、フィギュアスケートで2010年バンクーバーオリンピックで8位入賞した小塚崇彦の出演が決定した。【チケット情報はこちら】オリンピックコンサートは、日本オリンピック委員会(JOC)が主催し、1997年からスタート。オリンピック・ムーブメントの推進を目的に、オリンピック映像とフルオーケストラが競演する唯一無二のコンサートとして、毎年人気を博している。今回出演が発表となった小谷実可子と小塚崇彦は、どちらも現役時代にスポーツと芸術の融合を表現しながら、多くのファンを楽しませたふたり。競技者、表現者として、オリンピックの舞台に立ち、現在はオリンピックの理念や素晴らしさを伝える活動にも取り組むふたりが、コンサートにゲストオリンピアンとして登場し、それぞれ競技の魅力や、情熱をもって挑戦し続けた日々、今だからこそ伝えたい思いを語るという。また、ミュージカルをはじめ各方面で活躍する新妻聖子と中川晃教もゲストアーティストとして出演。オーケストラとコラボレーションし、アスリートたちに歌のエールを送る。コンサートのナビゲーターをつとめるのは、競泳選手としてソウル、バルセロナと2度のオリンピックに出場し、現在は俳優として活躍する藤本隆宏。このほか公演当日にはオリンピックを目指す現役のトップアスリートも参加予定。参加アスリートは決定次第発表される。チケットの一般発売は4月22日(土)午前10時より。■オリンピックコンサート2017日時:6月9日(金)開場18:00 / 開演19:00会場:東京国際フォーラム ホールA(東京都)
2017年04月20日新緑の上野の森で華々しく行われるゴールデンウィークの風物詩「N響ゴールデン・クラシック」。毎年、NHK交響楽団と話題のソリストの共演が好評を博す本公演だが、今年は指揮者をスペインの俊英ロベルト・フォレス・ヴェセスが務め、ソリストには現在ドイツで研鑽中で、2013年の日本音楽コンクール第1位など飛躍がめざましいヴァイオニストの大江馨が登場する。プログラムの前半にチャイコフスキーの協奏曲を披露する大江に意気込みや聴きどころを訊いた。N響ゴールデン・クラシック チケット情報抒情的な旋律美と華やかなスケールを併せ持ったチャイコフスキーの協奏曲は、大江が最も愛する協奏曲のひとつだという。「過去に仙台フィルなど3つのオケと共演したことがあり、人前で弾くのは今回で4回目。作品の魅力であり難しさは、フレーズの長さですね。他の協奏曲と比べても異様なまでに長く、ゴールに辿り着くまでの道のりは山登りを何度も繰り返すような感じ。それは、長く寒い冬を耐えて暖かい春を待つロシア人の心の表れなのかもしれません。3つの楽章の中で僕が一番好きなのは、情感に溢れた主題が壮大に展開する第1楽章です」2015年にも共演したことがあるN響(指揮は尾高忠明。プログラムはプロコフィエフの協奏曲第1番)の印象を、大江は次のように語る。「音色の美しさも、アンサンブルの精確さも素晴らしく、特に前者は世界的にも有数だと思います。今回共演する指揮者のヴェセスさんは初共演ですが、若くして管弦楽とオペラの双方で世界的に活躍されている方。自分と年齢の近い方との新しい出会いはいつも刺激を受けるので、今回もとても楽しみにしているところです」大学時代は慶應義塾大学で政治思想を専攻し、同時に桐朋学園大学で音楽も学んだ大江は、その共通点を「答えが出ないものを根本から議論して分析する政治思想は、楽譜の読み方にも通じる」と考える。今回の公演でも、研ぎ澄まされた感性と、瑞々しい知性が調和した秀演が期待できそうだ。また、開演前にはプレコンサートも開催され、J.S.バッハの無伴奏パルティータ第3番のプレリュード、モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタK.423の第1楽章、ベリオのデュオ・コンチェルタンテ第1番の第1楽章を演奏する。モーツァルトとベリオではN響を代表する名手との豪華共演を予定しており、こちらも楽しみのひとつだ。公演は5月3日(水・祝)に東京・東京文化会館大ホールで開催。チケット発売中。取材・文:渡辺謙太郎
2017年04月17日日生劇場で6月に上演される、NISSAY OPERA『ラ・ボエーム』。公演前に無料で様々なレクチャーが行われるのも、NISSAY OPERAの魅力だ。3月25日の「音楽レクチャー」には、本番でタクトを振る指揮者の園田隆一郎と、作曲家の加羽沢美濃が登壇し、122人の来場者の前で2時間以上、熱いトークを繰り広げた。オペラ「ラ・ボエーム」 全4幕 チケット情報レクチャーの最初のテーマは “音楽から読み解く季節感や時間”。加羽沢はこの日の季節と場所と時刻、つまり「春、日生劇場、14時」をテーマにピアノを即興演奏してみせる。「昼下がりでしょう?劇場の格調と爽やかさが感じられるでしょう?でももし夜だったら……?」と、再びピアノに向かう加羽沢。今度はムーディで暗い煌めきを放つ音が広がった。「では『ラ・ボエーム』ではどうでしょうか?」こうして話題は『ラ・ボエーム』1幕冒頭、すなわちクリスマスイブの夕方、パリの屋根裏部屋へ。その季節感や情景描写として作曲家プッチーニが施した工夫を、二人が解き明かしていく。本作冒頭は16分休符のあと、コントラバスの半音階による音型で始まる。園田がピアノで演奏した上で言う。「この最初の休符に、独特の緊張感があって難しいんです。しかも、指揮者から一番遠くにいるコントラバスに指示を伝えなければなりません」。この冒頭が半音階でなかったら、あるいは速度が違ったら、どのような印象になるか?といった実演も。緊迫感溢れるこの半音階の後に全音階の平和な音楽が流れ、対比を作っているのも特長だと、二人は語った。さらに、音楽が表す登場人物達の性格や物語など、幅広い話が展開。清純で病弱なヒロイン、ミミのアリアについて「楽器も少なく、リズムにもキツさがなく、柔らかい。打算がなく夢を持つミミの性格が表れている」と言う園田に対し、加羽沢が「このアリアにはミミちゃんのしたたかさが顕われているんです」。平和な音型に突如ファのシャープが入り、続いて気まぐれに音が飛んだり、歌の下でオーケストラがシンコペーションによる音を奏でたりと、“男心をくすぐる”工夫が盛り込まれていることが詳らかにされたのだった。このほか、クイズあり歌ありリコーダー演奏あり……と、豊富な知識とユーモア溢れる趣向で終始、会場を沸かせた二人。「オペラには、難しい・敷居が高いといったイメージもありますが、やっていることは分かり易い恋愛だったり、脇の甘い男が出てきたり(笑)。それが音楽にも表れている点に注目して、本番も聴いていただきたいですね」(加羽沢)「歌手の良し悪しやビジュアルだけではなく、音も楽しんでいただきたい。この作品は、神様や王侯貴族ではなく、貧しい若者達の物語ですし、テンポ感含め、今の人達にも共感していただける世界だと思います」(園田)なお、この公演はバリトン歌手の宮本益光が書き下ろす日本語訳詞での上演。日本語での歌により、作品世界が一層リアルに鮮やかに広がることも期待される。公演は6月18日(日)、24日(土)日生劇場にて。取材・文:高橋彩子
2017年04月03日ドラゴンクエスト誕生30周年を記念した「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサートが3月11日より開催中。同公演について、ドラゴンクエストシリーズの作曲家であるすぎやまこういちからコメントが寄せられた。【チケット情報はこちら】実際にコンサートを鑑賞したというすぎやまは「日本を代表する吹奏楽の作曲家、真島俊夫さんの吹奏楽編曲なのですが、本当に素晴らしい。旋律がカッコよくてキラキラしているんです。音の海原が目の前に広がります。そして、東京佼成ウインドオーケストラは、全国の吹奏楽団のお手本になる一流オーケストラ。その演奏者たちがノリノリで、私も心踊り、元気をもらえました。ぜひ、真島俊夫さん吹奏楽編曲の『ドラゴンクエスト』を生演奏で楽しんでみてください」と語っている。現在、7月9日(日)東京・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール公演の先行を実施中。受付は4月7日(金)午後11時59分まで。そのほかの公演は予定枚数終了の公演をのぞき発売中。■「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサート吹奏楽による「ドラゴンクエストI, II, III」/指揮:大井剛史4月22日(土)川口リリア・メインホール(埼玉県)吹奏楽による「ドラゴンクエストVII, VIII」/指揮:永峰大輔5月4日(木・祝)大田区民ホール・アプリコ 大ホール(東京都)吹奏楽による「ドラゴンクエストI, II, III」/指揮:井田勝大5月20日(土)千葉県文化会館 大ホール(千葉県)吹奏楽による「ドラゴンクエストI, II, III」/指揮:井田勝大5月21日(日)栃木県総合文化センター メインホール(栃木県)吹奏楽による「ドラゴンクエストⅨ」/指揮:永峰大輔7月9日(日)かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(東京都)吹奏楽:東京佼成ウインドオーケストラ
2017年03月31日13回目を迎える真夏のクラシック音楽祭「フェスタサマーミューザKAWASAKI」は、首都圏のプロ・オーケストラが一堂に会して競演するという、ありそうだけれどここでしか体験できない音楽祭。3月29日、JR川崎駅前のミューザ川崎で概要の発表会見が開かれた。今年も首都圏の10楽団が中心となり、ミューザ川崎シンフォニーホールを主会場として7月22日(土)から8月11日(金・祝)まで全21公演が行なわれる。キャッチコピーは「気分奏快!」。「フェスタサマーミューザKAWASAKI」チケット情報音楽祭のオープニングはいきなりシェーンベルク《浄められた夜》とストラヴィンスキー《春の祭典》というスタイリッシュなプログラム(7/22(土)・東京交響楽団)。20世紀を代表するふたりの大作曲家だが、もはやこれらを現代音楽だと感じる人は少ないだろう。それどころか、こんなヴィヴィッドな作品こそクラシック入門にふさわしいはず。官能と興奮で今年の「サマーミューザ」が幕を開ける。チェコの若き巨匠ヤクブ・フルシャが振る祖国の魂、スメタナ《我が祖国》(7/26(水)・東京都交響楽団)と、マエストロ・チョン・ミョンフンによるベートーヴェン(7/27(木)・東京フィルハーモニー交響楽団)というクラシックの王道名曲プロは、マニアも初心者も必聴。日程中盤に組まれた、ミュージカル界の歌姫・新妻聖子も登場するNHK交響楽団のポップス・プログラム(7/29(土))、名アレンジャーとしても名高い渡辺俊幸が指揮する映画音楽集(8/1(火)・読売日本交響楽団)は、夏フェスらしい肩肘張らない洗練されたお楽しみ。最終週に入って、古楽アプローチを介して名曲の新しい顔を聴かせてくれる鈴木秀美の振るメンデルスゾーンとハイドンは大注目(8/6(日)・神奈川フィルハーモニー管弦楽団)。そして炎のマエストロ小林研一郎の代名詞ともいうべき十八番、ベルリオーズ《幻想交響曲》(8/9(水)・日本フィルハーモニー交響楽団)を聴き逃しては今年の夏が終わらない。フィナーレは秋山和慶&東京交響楽団によるラフマニノフ・プロ(8/11(金・祝))。話題のピアニスト反田恭平がピアノ協奏曲第3番を弾く。他にも特別参加の井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢とゲルギエフ&PMFオーケストラ、久石譲&新日本フィル。川崎市内にキャンパスを置く昭和音楽大学と洗足学園音楽大学のオーケストラ。さらにミューザ川崎のホールアドバイザーを務める、小川典子(ピアノ)、佐山雅弘(ジャズ・ピアノ)、松居直美(オルガン)らの出演などなど、さまざまな趣向の注目公演が目白押しだ。今年の夏も川崎が熱い。取材・文:宮本 明
2017年03月30日東京都交響楽団の4月の定期演奏会で、ジョン・アダムズの《シェへラザード.2》が日本初演となる。2015年3月26日、今回ソリストをつとめるリーラ・ジョセフォウィッツのヴァイオリン、アラン・ギルバート指揮のニューヨーク・フィルハーモニックで初演された作品だ。この新しい作品について、ギルバートに話を聞いた。「ジョンの作品をずっと指揮しているので、彼の作品の進化を実地に体感しています。その変化のなかでも、《シェヘラザード.2》はかなり変ってきたところにあるように思えます。近年のジョンの作品はオペラから影響を受けており、本作には言葉こそついていないけれど、ドラマティックなストーリーはしっかり伝わってきます。主役はヴァイオリンですが、バック・ストーリーがあります。そして、ほかの作品よりロマンティックな仕上がりです。ジョンは年齢とともに、ハートでつくるようになってきている、とわたしはおもっているんですね。ニューヨーク初演はスタンディング・オヴェーションになって、とても好評でした。ヴァイオリニストは暗譜で弾き、目が離せませんでしたし。オーケストラもとても楽しんでいました。難しいけれど、満足感がある。偉大なものに接したというのがみんなのなかにあるんです。宝物をいただいたような、ね」作曲者は、自作について述べるなか、『千一夜物語』のなかに描かれた女性と現在の状況とを重ねている。現在のアメリカ合衆国でイスラム=アラブ世界の物語について言及することも、そこには意識されているようにみえる。「ジョンは政治的なホットなテーマをとりあげることを躊躇ったりはしません。ですが、わたしはそうしたことより、『千一夜物語』はある特定の文化から生まれてきたのは確かだけれど、もっとそれを超えるようなテーマがここにはある、と思っています」オーケストラを存分にひびかせ、指揮者や演奏家にも演奏する喜びを、また聴くことの醍醐味を感じさせる作曲家との評価がある一方、ジョン・アダムズの音楽は日本であまり演奏されていない。「ジョンの音楽はつねにレヴェルは高いけれど、ずいぶん変ってきました。変化しているけれど、その声はしっかり伝わってきます。交響曲的なフォルムや色彩感を大切にしているところは変りません。日本のオケはプログラムについては保守的な面があるけれど、ジョン・アダムズの音楽は弾きやすく聴きやすい、そして新鮮な音楽です。新しいけれどもみんなが理解できる言葉で書かれているのです」東京都交響楽団による《シェへラザード.2》は4月17日(月)東京文化会館 大ホール、4月18日(火)東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルにて。文/小沼 純一(音楽・文芸批評/早稲田大学教授)
2017年03月27日和楽器オーケストラ「AUN J クラシック・オーケストラ」が出演する「AUN J クラシック・オーケストラ 桜祭り 2017」が4月2日(日)に東京・上野恩賜公園野外ステージで開催される。【チケット情報はこちら】AUN J クラシック・オーケストラは、トップクラスの技術を持つ和楽器奏者が集まったグループ。リーダーの井上良平(和太鼓)・公平(篠笛・三味線)は、これまで世界40か国1300回を超える公演を開催。また、モン・サン=ミッシェル、アンコール・ワットなど、数々の世界遺産での公演を成功におさめている。今年で3回目となる上野恩賜公園でのライブは、「花見体験型和楽器コンサート」と銘打ち、来場者がゆったりと花見をしながら演奏を楽しめる公演として毎年人気を博している。チケットは発売中。■AUN J クラシック・オーケストラ 桜祭り 2017日時:4月2日(日)開場14:00 / 開演15:00 ※飲食ブースは昼12時オープン会場:上野恩賜公園 野外ステージ(東京都)料金:全席自由 大人3,800円(税込)、中学生以下2,000円(税込)※未就学児膝上に限り無料
2017年03月24日今年も「東京・春・音楽祭」が開幕。東京・上野の東京文化会館を中心に、4月16日(日)まで1か月間にわたって有料・無料併せて約150のコンサートやイベントが繰り広げられる、クラシック音楽界に春の訪れを告げる風物詩だ。その一日、「忘れられた音楽―禁じられた作曲家たち」を聴いた(3月20日・上野学園石橋メモリアルホール)。「東京・春・音楽祭」チケット情報「禁じられた作曲家」とは主に、人種や政治的な理由でナチの狂気を逃れて他国へ亡命した作曲家たちを指している。特にウィーンからの亡命音楽家を中心に研究・紹介しているのがウィーン国立音楽大学のエクシール・アルテ・センター(Exil.Arte=亡命芸術)だ。そのセンター長ゲロルド・グルーバー教授が解説を務めた。5人の作曲家の作品が演奏されたが、当時政治犯として捕らえられた強制収容所の中で書かれた作品から、戦後、晩年に自らの人生を回顧した作品まで、創作の時期や経緯はそれぞれだ。必ずしもホロコーストへの怒りや失われた生命の悲嘆を声高に叫ぶのではない。それどころか、その美しい音楽から、作曲者の人生の悲痛を思い起こすことはないだろう。でもだからこそ、優れた才能が排斥された20世紀中盤のヨーロッパ文化に空いた穴の大きさを思い知らされる。グルーバー教授が述べているとおり、そんな失われた芸術の根っこを修復するのは、戦禍で損傷した建物を再建するのに劣らず重要な作業なのだ。音楽を超えて、多くの気づきを得た貴重な好企画だった。ワーグナーやオペラや、合唱付きの大作を上演する一方で、たとえ派手ではなくてもこうした貴重な企画も多数組んでいるのは「東京春祭」ならではの大きな魅力だ。たとえば「ベンジャミン・ブリテンの世界」(3月26日(日))は5年がかりで作曲家の魅力を解き明かすプロジェクト。その初回を聴き逃すわけにはいかない。逆に、特定のジャンルのエッセンスを1日に凝縮した企画もある。クラシック音楽が一番濃くて美味しい「ロマン派」の甘美な世界にどっぷり浸れる恒例の「マラソン・コンサート」(4月8日(土))。各1時間・5部構成の完全制覇に挑戦する価値は大いにある。また、おなじみとなっている東京国立博物館での「東博でバッハ」シリーズを始め、上野に集中する美術館・博物館での「ミュージアム・コンサート」も、この音楽祭でしか体験できない機会だ。上野の桜もいよいよ本番。春の陽気に誘われて、満開の桜を借景にした美しい音楽祭を満喫しよう。文:宮本明
2017年03月23日毎年3月31日は〈オーケストラの日〉。「ミミにイチバン」だからだそうで、耳に一番のご馳走をお届けしよう!と、日本全国のプロ・オーケストラがこの日を中心にコンサートやイベントを展開するのが恒例になっている。オーケストラの面白さを広く気軽に体感してもらおうと、値段もおさえめで聴ける企画がほとんどなので、2007年以来好評のうちに続いている。オーケストラの日 チケット情報各地であれこれ趣向をこらした演奏会がおこわれるなか、東京では今年も、首都圏に12あるオーケストラからメンバーが集まって〈オーケストラの日祝祭管弦楽団〉が特別編成され、熱きベテラン・現田茂夫の指揮でコンサートがおこなわれる(3月31日(金)15時~・文京シビックホール 大ホール)。この企画、熱心なリスナーにとっては、ふだん共演することのないメンバーが豪華に集結する年に一度の華やかな楽しみになっている。しかしなんといっても、ふだんオーケストラにおなじみ薄い方にも、聴けば「あぁ!」と惹き込まれる曲を選んでいるだけに、初めての方にこそこのスペシャルな編成で味わってほしいコンサートだ。演目をご紹介しておくと……まず、心たかぶる迫力にオーケストラの凄味をみせつけられるシベリウスの交響詩《フィンランディア》から。続いて同じくシベリウスの〈ヴァイオリン協奏曲〉でも、ひんやりと冴えた北欧の幻想美がひろがり……その抒情豊かな歌にも、色あいが細やかで美しい。ヴァイオリン独奏とオーケストラの対話が情熱とともに昂揚してゆく、そのぞくぞくするような緊張感もまた魅力だ。独奏に迎えるのは、フランス国立放送フィルのコンサートマスターをつとめる俊英スヴェトリン・ルセフ。首都圏の凄腕たちが集う特別オーケストラとも心通じ合うに違いないゲストだ。そして最後はストラヴィンスキーのバレエ組曲《火の鳥》。ロシアの民話を題材につくられた魔法と冒険のバレエのために、カラフルな表現力を全開にする音楽だ。そこからコンサート用に美味しいところをぎゅっと編み直した組曲(1919年版)も、なにしろスケール感が凄い。震えるような繊細な弱音から魔王の凶暴なダンスに轟くインパクト、聴く者の心を解放するような壮大きわまるフィナーレまで…そのなかにも万華鏡のような色彩感を味わいつくせる、まさに傑作。オーケストラにはそれぞれ異なる個性的な音色を持った、さまざまな種類の楽器が集まっている。80人を越えるメンバーが集まる今回も「これぞオーケストラ」という魅力と迫力──呼吸を合わせて美しく歌を重ね、絶妙なブレンドで豊かなハーモニーを響かせる素晴らしい時間を、たっぷりと体験していただけるだろう。また、この日は同じ会場のあちこちで、朝の11時から15時のコンサート開演前まで、イベントも盛りだくさん。楽器体験やアンサンブルのミニコンサート、コンサート本番前の総練習(ゲネプロ)公開、《火の鳥》の秘密を探るスペシャル・ワークショップなど展開されているので、少しお早めに足をはこばれると楽しみも倍増かと。文:山野雄大
2017年03月23日「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」が、一枚革のヌバックをアッパーに用いたクリーンかつクラシックな一足「STAN SMITH LEA SOCK」を新発売。「STAN SMITH LEA SOCK」は、ブランドのクラシックアイコンシューズ「STAN SMITH」をベースに、更なるシンプルさを究めた上質な一足。折りたたまれたようなデザインの特徴的なシュータンに、パンチング加工を施したスリーストライプス、薄めのカップソールなど、ミニマルなディテールによって仕上げられているのがポイント。STAN SMITH LEA SOCK BB0006価格:18,000円(税抜)STAN SMITH LEA SOCK BB0007価格:18,000円(税抜)【取扱店舗】・全国のアディダス オリジナルスショップ・アディダス オンラインショップ・ZOZOTOWN・EDIFICE 各店・IENA 各店【問い合わせ先】アディダスグループお客様窓口TEL:0570-033-033(土日祝除く、9:30~18:00)
2017年03月21日世界的に見てもきわめて積極的にマーラーを取り上げ続けている東京都交響楽団。その彼らの今シーズン唯一のマーラーが聴けるのが、桂冠指揮者エリアフ・インバル指揮の《大地の歌》だ(7月16日(日)・17日(月・祝)、東京芸術劇場にて)。都響スペシャル のチケット情報《大地の歌》はマーラー(1860-1911)が48歳の夏に作曲した交響曲。9番目の交響曲だが、ベートーヴェンやブルックナーらが交響曲第9番を書いたあとに死んだジンクスを怖れたマーラーが、あえて番号をつけなかったというエピソードが知られている(結局マーラーも次の交響曲を「第9番」として作曲したあと、未完の第10番を残して世を去ったのはジンクスゆえか)。自作の交響曲の多くに声楽を取り入れ、第8番では壮大なカンタータのような大伽藍を築き上げたマーラーは、ここでも、連作歌曲と交響曲を一体化した異色の交響曲を生み出した。テノール独唱とアルト独唱が交互に歌う全6楽章構成。ドイツ語訳の中国詩集『中国の笛』から採られた歌詞はしばしば、生のはかなさや厭世観を歌った内容だと表現されるが、インバルは言う。「マーラーは自分の人生が終わりに近づいていることを察し、死を受け入れ、永遠に生き続ける来世を願い、この世での幸福、希望、苦労、愛、音楽、創造等、豊かで充実した人生を送れたことを神に感謝しているのです。ノスタルジア、悲しみ、人生との別れ、来世を意識していると考えます」インバルと都響はすでに1994~96年と2012~14年の2回にわたって交響曲全曲ツィクルスを完遂し、日本のマーラー演奏史の金字塔とも言える大きな成果を示している。「マーラーを演奏するに値し、彼の音楽が持つ宇宙をより深く理解するには、私たちは芸術家、人間として成長しなければなりません。都響と聴衆の皆さまは、2回のマーラー・ツィクルスをともに経験し、マーラーの芸術性の理解を高めました。私たちはマーラーのメッセージをより深く理解できると確信しています」(インバル)演奏の成否を大きく左右する声楽陣も強力。ダニエル・キルヒは抒情的で美しい持ち声をベースに、さらにドラマティックなレパートリーも獲得しつつあるテノールで、《大地の歌》にはまさにうってつけ。そして現代を代表するマーラー歌いと言ってもいいアルトのアンナ・ラーション。マーラーを知り尽くした彼女の深く澄んだ声は、作曲家が作品に込めたさまざまな感情を、適切な形で探り当ててくれるに違いない。文:宮本明
2017年03月15日『オテロ』は圧倒的な作品だ。素晴らしい演奏で接すると、あっという間に2時間余が過ぎ去る。ドラマティックな音楽に吹き飛ばされ、椅子の背にはりついたようになって、呆然としているうちに公演が終わった、そんな経験をさせてくれるオペラはめったにない。『オテロ』は間違いなく、その希少な名作のひとつである。新国立劇場オペラ『オテロ』チケット情報「オペラ王」とも呼ばれるイタリア・オペラの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディ(1813ー1901年)は、本作で、彼がめざした音楽とドラマの一体化をきわめた。過去も現在も『オテロ』に名演が目白押しなのは、作品が優れているからに他ならない。原作はシェイクスピアの有名な戯曲『オセロー』。ヴェルディにとってシェイクスピアは「師」だった。彼はシェイクスピアの描いた人間の真実を、人間の普遍的な感情を、心の光と闇をえぐりたいと望んだ。シェイクスピアはヴェルディの神話だった。ほぼ半世紀にわたるオペラ作曲家のキャリアの頂点、74歳!にして書き上げた『オテロ』は、彼が本懐を遂げた作品である。輝かしくも雄弁な音楽で一気呵成に描かれる、英雄の愛と栄光と没落。切なく、愚かで、でもだからこそ愛すべき人間という存在。ヴェルディの音楽はそこに迫り、私たちの胸を打つ。人間とはなにか、という究極の問いとともに。強靭な声と内面的な感情表現が要求されるオペラだけに、キャスティングは簡単ではない。だが今回の新国立劇場公演『オテロ』のキャストはとびきりだ。オテロを歌うカルロ・ヴェントレは、近年本作で絶賛を博しているイタリアのドラマティック・テノール。「服が合うように、オテロ役は今の自分にぴったり」だと抱負を語る。愛妻デスデモナを歌うセレーナ・ファルノッキアは、イタリアが誇るリリックなソプラノで、品格のある声と演技が魅力。ヤーゴ役のウラディーミル・ストヤノフは、世界中の歌劇場でヴェルディのドラマティックなバリトン役にひっぱりだこのスター歌手だ。スタイリッシュな声と劇的な表現力で、説得力のある演唱を繰り広げる。彼らを束ねる指揮は、これもウィーンをはじめ世界中の歌劇場でイタリア・オペラの大作を任されているイタリアの名匠パオロ・カリニャーニ。まさに「役者は揃った!」と言いたくなる豪華な顔ぶれだ。マリオ・マルトーネによる演出は、舞台をヴェネツィアに設定し、50トン!の水を使ってヴェネツィアの運河を再現。迷宮のような街並みとオテロの心の迷宮が重なり合う。人物たちの感情を映し出す「水」の扱いは秀逸で、「愛」と「死」の舞台となる寝室の場面も美しい。新国立劇場が誇る名プロダクションである。4月9日(日)から22日(土)まで、東京・ 新国立劇場 オペラパレスにて。文:加藤浩子
2017年03月13日この秋に開場20周年を控える新国立劇場で、新制作上演のドニゼッティ『ルチア』(3月14日初日)の制作発表会見が行なわれた。「久しぶりのベルカント・オペラ。キャスティングには相当力を入れた」と芸術監督の飯守泰次郎も意気込むように、指揮者、演出含め、充実布陣が整った注目公演だ。新国立劇場オペラ『ルチア』チケット情報『ルチア』は、19世紀前半に隆盛した、技巧的な歌唱法を駆使する「ベルカント・オペラ」の最高傑作。敵対する一族の当主エドガルドと愛し合うルチアは、兄エンリーコの策略によってその仲を引き裂かれ、別の男との政略結婚を強要される。その婚礼の夜、悲しみのあまり精神に異常をきたしたルチアは新郎を刺し殺し、自らも息絶える…。最大の見どころは錯乱したルチアの歌う「狂乱の場」だ。十数分に及ぶ長丁場にコロラトゥーラの歌唱技術が最高度に散りばめられ、ルチア歌手の真価が問われる。今回この難役を歌うのが、「ベルカントの新女王」の呼び声も高いオルガ・ペレチャッコ=マリオッティ。ペーザロのロッシーニ音楽祭をはじめベルカント・オペラで高い評価を得て、現在欧米の歌劇場で引っ張りだこ。スター街道をばく進中の美貌のソプラノだ。2010年にラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンで来日しているが、彼女の躍進が始まったのがちょうどその頃から。今や最も注目されるソプラノとして帰ってきた彼女の出演は、今シーズンの新国立劇場の目玉のひとつと言っていい。「大好きな日本で、新しいルチアを作り上げることができて大変うれしい。劇場も完璧。初日にお会いしましょう!」と流暢なイタリア語で語った。圧倒的な「狂乱の場」にどうしても話題が集中しがちだが、オペラの最後に、物語を完結させる重要なアリアが与えられたエドガルド役のリリック・テノール、イスマエル・ジョルディ、憎まれ役としての強い存在感が必要なエンリーコ役のバリトン、アルトゥール・ルチンスキーも、同役を得意とする実力派。オペラ通なら特に、「ベルカント・オペラの大使」を自認する指揮者ジャンパオロ・ビザンティのタクトにも注目。会見でも「ベルカント・オペラは往々にして表面的にしか理解されていない」と止まらない熱弁をふるった「ベルカント愛」が、その真の姿を引き出してくれるにちがいない。演出はモンテカルロ歌劇場総監督のジャン=ルイ・グリンダ。新国立劇場オペラ『ルチア』は3月14日(火)・18日(土)・20日(月・祝)・23日(木)・26日(日)の5公演。取材・文:宮本明
2017年03月07日ピアニスト・反田恭平にとって2016年は激動の年となった。満場の観客を沸かせた堂々たるデビューリサイタルを皮切りに、演奏会のチケットは続々と完売。テレビ「情熱大陸」に取り上げられ、知名度も全国区に。その一方で、通っていたモスクワ音楽院を中退するという決断もした。今も、ロシアに部屋はあり、師ミハイル・ヴォスクレセンスキーから個人レッスンを受けているというが、反田が大きな分岐点に立っているのは間違いない。反田恭平 コンサート情報「昨年は色々なことがあったので、2年くらい経ったように感じます。『情熱大陸』に出て以来、クラシックファン以外にも『今度、聴きに行きます』と街で声をかけられるようになりました。とても嬉しいですが、その反面、変なことはできないなとも思いますね」と反田は微笑む。今後についてはまだ何も決まっていないそうだが、目下、ポーランドやイタリアに興味があるという。言うまでもなく、ポーランドはショパンの故郷だ。「マズルカにしてもポロネーズにしてもスケルツォにしても、そのリズムが生まれた場所へ行き、言葉や空気を知らなければ、きちんと弾けないと思うんです。そう考えるのはやはり、ロシアでの日々が実り多いものだったから。言語は音楽と密接な関係にあって、たとえばラフマニノフがコンツェルトの2番でも3番でも用いている『ラフマニノフ終止』は、ラフマニノフの名前と同じアクセントになっていたりします。そういうちょっとした知識を持つことで、演奏は全然変わってくるんです」一方、イタリアは、セカンドアルバムの収録地の一つでもある。「一昨年、コンクールでイタリアに行った時に感じましたが、人々が本当に温かくフレンドリー。さすがカンツォーネの国だけあり、セカンドアルバムで共演したアンドレア・バッティストーニ氏からも、オーケストラからも、彼らにしかない歌心を学びました。どこへ行くにしろ、その国でしか体験できないことを吸収したいと考えています」とはいえ、日本での演奏予定も着々と決まっている。4月は佐渡裕指揮・東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の特別演奏会で全国ツアーヘ。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏する。さらに夏には初の全国縦断リサイタルツアーも決定した。「東京での演奏会が多かったので、地方に行くのが楽しみです。佐渡さんには昨年、ラフマニノフの交響曲2番を指揮された際、楽屋にうかがいました。ラフマニノフに必要なパッションを存分にお持ちの方なので、僕もそれに乗っかっていきたいですし、僕のほうでオケを引っ張っていかなければならないところもあると思います。ロシアで学んだことの一つの集大成にしたいですね。夏の演奏会の内容はまだ発表できませんが、これまでとは違う路線も企んでいます」実は、デビュー前から、およそ2年後までのプログラムはなんとなくは決めているという。「なのでブレずに計画通り進みたい反面、攻めていきたいという気持ちも強いです。野望はたくさんあるので、今後を楽しみにしていてください」。取材・文:高橋彩子
2017年03月02日日本のオペラ史の概念をくつがえす、度肝を抜くような楽しいオペラが誕生しそうだ。オペラ創作に情熱を注ぐ作曲家・三枝成彰の最新オペラ《狂おしき真夏の一日》の制作発表会見が、2月28日、都内で行なわれた。2013年の《KAMIKAZE-神風-》以来となるオペラ8作目は、三枝にとって初のオペラ・ブッファ。つまり喜劇。「モーツァルト《フィガロの結婚》へのオマージュ」という副題が添えられているとおり、《フィガロの結婚》が下敷きとなっていて、冷え切った関係の熟年夫婦を軸に、その周囲のひと癖もふた癖もあるくせ者たちが絡んで、複雑で色っぽい恋愛模様が描かれる。注目は豪華な顔ぶれの制作陣。オリジナル台本を書き下ろしたのは、大のオペラ・ファンでもある直木賞作家の林真理子。そして演出は、これがオペラ初演出となる秋元康。いうまでもなく、AKB48などを仕掛ける大御所プロデューサーだ。「一度でいいからオペラを書いてみたいという夢が叶った。でも、三枝さんから言われたのは、とにかくゲイと裸とレズを出せ。そして最後はみんなが、『生きてるっていいな』と笑って帰れるような物語を書くようにと。それならばと、物語は男性同士の恋人二人が海水パンツ姿で海から出てくるシーンで始まる」(林真理子)「オペラのよくわかってない人間が入って、今までにないものを創れ、壊していいんだと。いい意味で何か刺激を与えてくれということを頼まれたので、発想だけでも面白いことができたらいい」(秋元康)日本の文学界、エンタテインメント界を牽引する大物ふたりが関わることで、オペラ界に新しい風が吹く。そんな期待が膨らむ。キャストにも人気歌手たちが集まった。《フィガロの結婚》の伯爵と伯爵夫人に当たる、医師の大石夫妻を歌うのは大島幾雄と佐藤しのぶ。その長男夫婦にジョン・健・ヌッツォと小川里美(ビキニの水着シーンがあるらしい)。ゲイの次男に大山大輔、その恋人がカウンターテナーの村松稔之。大石の愛人で看護師の小林沙羅や、執事の坂本朱、家政婦の小村知帆も加わわりドタバタの恋愛喜劇を繰り広げる。三枝が信頼を寄せる実力者たちが揃ったオールスター・キャストだ。三枝の音楽を知り尽くした指揮者・大友直人がタクトを握る。公演は10月27日(金)・28日(土)・29日(日)・31日(火)、東京・上野の東京文化会館にて。秋のオペラ・シーンの大きな話題となるはず。これは観ないと!取材・文:宮本明
2017年03月01日ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭(LFJ)が今年もやってくる(5月4~6日)。アーティスティック・ディレクターを務めるフランスの音楽プロデューサー、ルネ・マルタンが来日して発表会見が開かれた。ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン チケット情報LFJは1995年にフランスの港町ナントで生まれたクラシック音楽祭。2005年に日本に上陸するといきなり30万人を超える来場者を集めて旋風を巻き起こした。過去12年間の累計来場者がのべ726万人という、クラシック界のみならず、あまり比較の対象が見つからないビッグ・イベントなのだ。今年も有楽町・東京国際フォーラム内の大小6つの会場を中心に、周辺エリアを含め、3日間・約350公演(有料122公演)を開催、40万人超の来場が予想される。コアなファンはもちろん、「ビギナーもお気軽に」がお題目としてでなく実現している稀有な例だ。チケットは1,500~3,500円と、家族で出かけても財布に優しいリーズナブルな設定。人気公演はソールドアウトが予想されるから、早めにゲットしたい。今年のテーマは「ラ・ダンス 舞曲の祭典」。民俗舞曲や宮廷舞踊の存在はクラシック音楽の歴史と不可分だし、バレエのために書かれた音楽もたくさんある。「ダンス」はまさに音楽の根源に関わるテーマだ。でも、「ダンサーの出番は少ない」とマルタンが言うように、今回の主役はあくまで音楽。「踊り出したくなるようなさまざまな作品、民族のリズム、色彩が溢れる音楽祭になる」(マルタン)会見でマルタンが紹介してくれた「おすすめ」の中から、ややレアな、気になる注目公演を少しだけ挙げておこう。あらかじめスマホにアプリをダウンロードして客席も演奏に参加できるタン・ドゥン作曲の《パッサカリア》。映画『イル・ポスティーノ』で知られるアルゼンチンの作曲家ルイス・バカロフの宗教曲《ミサ・タンゴ》。初来日のメキシコ民俗音楽ユニット「テンベンベ」。LFJ初出演のシエナ・ウインド・オーケストラによるジャズ作曲家・挾間美帆のバレエ音楽(委嘱初演)。ピアノと管弦楽による小曽根真版のラヴェル《ボレロ》。若手パーカッショニスト、シモーネ・ルビノと日本を代表する太鼓奏者・林英哲のコラボ。ローザンヌ声楽アンサンブルによるオネゲルのオラトリオ《ダビデ王》などなど。もちろんクラシック王道作品も多種多彩。「ダンス」をテーマに、さあ、踊れ、喜べ、幸いなる魂よ!(byモーツァルト)取材・文:宮本明
2017年02月15日タロウ ホリウチ(TARO HORIUCHI)の2017年プレフォールコレクションが発表された。今季はフューチャリズムと20世紀初頭のクラシックとの化学反応を表現。クラシカルな花柄をメタリックな生地にプリントしたスカートや、チェックツイードに透明な繊維を織り込んだミニワンピース。宇宙や光の波模様と旧来からあるスモッキングの手法を重ね合わせて、タロウ ホリウチで重要な要素である過去と未来の融合を目指している。2017春夏コレクションに引き続き、「絞る」ことでボリュームやフォルムを変えることができるアプローチも。ひざの所でリボン結びができるパンツや、ウエストをベルトでまとめたトップスは、絞りの強さを変化させることで個性ある着こなしを可能にしている。スタイリングのアクセントとなるのは、有機的形状からインスピレーションを得たジュエリー。シルバーやホワイトの大ぶりのブレスレットや、スタッズのついたチョーカーが首や腕元で存在感を放つ。過去と未来を想いながら作り上げた現代の服に対して、普遍的な美しさを示すものであった。
2017年02月10日2月の二期会公演『トスカ』(プッチーニ)は、1900年ローマ歌劇場での世界初演時のデザイン画に基づいて忠実に再現された舞台装置と衣装が大きな話題を集めている。その注目公演で、トスカの恋人カヴァラドッシ役を歌う城宏憲。1年前の『イル・トロヴァトーレ』で、急遽の代役でマンリーコを歌って鮮やかな二期会デビューを飾り、一躍期待の若手テノールのトップ集団に躍り出た。二期会公演『トスカ』チケット情報「カヴァラドッシは初役ですが、アリアはコンクールなどでも何度も歌っているので自分としては身体になじんでいる、すごく距離の近い役。でも同時に、現代のテノールにとって、とても危険な役でもあります。現代は、より細かい演技が求められる時代。たとえば拷問の苦しみを想像するだけでも筋肉が硬くなりますよね。苦悩の表情の演技に引っ張られて、声も過度にドラマティックになる可能性がある。そうなると喉への負担を軽視できません。昔のように、オーバーなリアクションで気持ちよく歌うという解釈では、現代の『トスカ』は乗り切れないと思います」繊細さと力強さを併せ持つ、リリコ・スピントの役柄を得意とする。「イタリアのリリコ・スピントというテノールは、スピント寄りのリリコというよりは、両者を兼ね備えていたのではないかと思います。カヴァラドッシはまさに、役柄としても声楽的にも、ドルチェの甘い部分とエネルギッシュでヒロイックな部分が両立しています。そのふたつを、歌い分けるというよりは、行き来できるように演奏したいと思っています。エネルギッシュなだけで歌ってしまうと、優しい部分で声が落ちる。逆に、軽く歌ってしまうと、プッチーニの求めた壮大なオーケストラの波に飲まれてしまいます」テノールの醍醐味とも言えるハイC(高いドの音)には強いこだわりを持っている。「師匠のアルベルト・クピード先生からはよく、財布にいつもハイCを入れておけと言われていました。財布にシやドが入っているかどうかで、受けられる仕事が増えますから。フィギュア・スケートで言えば4回転ジャンプのようなもの。イタリアで師匠と1年以上発声だけを勉強して、それを手に入れることができたと思います」言葉を話すニュアンスで歌いたいというその声は実に自然で、無理な作り込みを感じさせない。1984年生まれの32歳。「イタリア人のように歌う、いや、イタリア人を超えなければいけない」。その視線は、洋々たる新たな地平を見据えている。公演は2月15日(水)から19日(日)まで東京文化会館 大ホールにて。取材・文:宮本明
2017年02月08日2月の二期会『トスカ』(プッチーニ)はローマ歌劇場との提携公演。1900年に同劇場で初演された際の舞台美術を忠実に再現した、大注目のプロダクションだ。公演に先がけ、演出のアレッサンドロ・タレヴィがその舞台づくりを語るイベントが催された(1月21日/東京・九段のイタリア文化会館アニェッリホール)。東京二期会オペラ劇場 G.プッチーニ『トスカ』 チケット情報タレヴィは南アフリカのヨハネスブルク生まれ。同地と、その後ロンドンのロイヤル・アカデミーで音楽を学び、2005年にロンドンのサドラーズウェルズ劇場で演出家デビュー以来、多くのオペラ賞を獲得している気鋭のクリエイターだ。今回の『トスカ』は、2015年3月にローマ歌劇場で新制作された舞台。イタリア国外に持ち出されるのはこれが初めて。上述のように、初演時の美術を再現しているのだが、それが可能だったのは、当時美術を担当したアドルフ・ホーエンシュタインの描いたスケッチが残っていたから。すべての幕の舞台装置はもちろん、衣裳についても、主役級だけでなく合唱まですべての役のスケッチが保存されており、そこには生地やボタンの素材などの細かい指示も書き込まれているのだという。タレヴィは言う。「長い年月の間に作られてきたさまざまな伝統を取り払うことができた」つまり、100年以上前の舞台に戻ることで、逆に新たに見えてきたものもあるのだという。例として挙げていたのが、豊かな色彩。たとえば第1幕の教会は、現代では荘厳に重々しく描かれるが、聖歌隊の衣裳を中心に、スケッチは軽やかな明るい光に溢れていた。タレヴィ自身、全員が衣裳を着けた最初の舞台稽古で、「まるで修復されたシスティーナ礼拝堂を見るようだ」と驚いたらしい。しかし、その明るさこそが、プッチーニの音楽にふさわしいという。オリジナルに戻ったのは美術だけではない。タレヴィは、プッチーニがスコアに細かく書き込んだト書も忠実に再現しようと試みたのだそう。100年の間に多くの歌手や演出家たちが無視するようになったト書も少なくなく、結果的に取捨選択はしたものの、プッチーニが舞台上の動きも実によく考えて作曲したことに、あらためて気づかされたという。私たちもまた、オペラ史に刻まれた名作の原風景を目の当たりにする機会になりそうだ。公演は2月15日(水)・16日(木)・18日(土)・19日(日)の4日間(15日(水)のみ18時30分開演、他は14時開演)。いずれも東京・上野の東京文化会館大ホールで。取材・文:宮本明
2017年02月02日1月29日(日)放送のテレビ朝日系列『題名のない音楽会』で日本におけるRPGの代名詞『ドラゴンクエスト』が特集される。同番組には大井剛史、東京佼成ウインドオーケストラが出演。さらにすぎやまこういちがVTRで出演する。【チケット情報はこちら】東京佼成ウインドオーケストラは、3月11日(土)よりドラゴンクエスト誕生30周年を記念した「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサートを開催する。■題名のない音楽会「吹奏楽によるドラゴンクエストの音楽会」1月29日(日)午前9時よりテレビ朝日系列にて放送予定出演:すぎやまこういち(VTR出演) / 大井剛史 / 東京佼成ウインドオーケストラ■「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサート吹奏楽による「ドラゴンクエストⅣ, Ⅴ, Ⅵ」/指揮:大井剛史3月11日(土)板橋区立文化会館 大ホール(東京都)吹奏楽による「ドラゴンクエストⅠ, Ⅱ, Ⅲ」/指揮:阿部未来3月12日(日)茨城県立県民文化センター 大ホール(茨城県)吹奏楽による「ドラゴンクエストⅠ, Ⅱ, Ⅲ」/指揮:大井剛史4月22日(土)川口リリア・メインホール(埼玉県)吹奏楽による「ドラゴンクエストⅦ, Ⅷ」/指揮:永峰大輔5月4日(木・祝)大田区民ホール・アプリコ 大ホール(東京都)吹奏楽による「ドラゴンクエストⅠ, Ⅱ, Ⅲ」/指揮:井田勝大5月20日(土)千葉県文化会館 大ホール(千葉県)吹奏楽による「ドラゴンクエストⅠ, Ⅱ, Ⅲ」/指揮:井田勝大5月21日(日)栃木県総合文化センター メインホール(栃木県)吹奏楽:東京佼成ウインドオーケストラチケット料金:S席4,500円、A席3,500円(税込) ※5月4日(木・祝)のみ全席指定4,500円注意事項:未就学児入場不可
2017年01月27日10年以上にわたって第一線で活躍してきたヴァイオリニスト川井郁子が、2月1日(水)に上野で「愛の名曲コンサート~クラシックから映画音楽まで~」を開催する。このコンサートは、様々なジャンルから誰もが知るような「愛の名曲」ばかりをお届けしようというものだというが、選曲には工夫がこらされている。【チケット情報はこちら】「愛と一言でいっても、家族へのあったかい愛もあれば、激しい恋もあれば、映画のシーンが浮かんでくるような愛の曲もあったりしますよね。今回はそうした様々な愛の曲を色々なジャンルから聴いていただきたいということと、皆様がよくご存知で幅広い年代の方に楽しんでいただけるというのを、すごく大事にしています。自分の持ち味が出せる曲っていうのも大事ですし、聴いている方が懐かしいなって感じたりするような、バリエーションの豊かなプログラムにしたいとも思います」そして今回の会場となる東京文化会館の小ホールでは、川井の奏でる銘器ストラディバリウスの美しい響きを、マイクやスピーカーを通さずに最大限堪能できるだろう。川井自身も演奏者として、ここで演奏できることが楽しみなのだという。「会場となる東京文化会館の小ホールは2年前(2015年6月)にも演奏しているのですが、やはり生の弦楽器の響きが良くて、弾いている側も気持ち良いですし、お客様にもいい音楽を聴いていただける場所です。広さもちょうどよく、お客様との一体感がいいですね」川井と共演するのは最も信頼をおくピアニストのひとりと、優秀な若手弦楽器奏者たちである。「ピアノの石岡先生は、クラシックのピアニストなんですけど、色んなジャンルのコンサートもされている方で、実は娘のピアノの先生でもあるんです(笑)コミュニケーションのしやすさや音楽の柔軟性がとても大事で、人柄も音も温かい方なのでお願いしています。あとは若い有望な奏者たちですね。第1ヴァイオリンをお願いしている大倉さんは、前回のツアーでもお願いしました。フレキシブルで、色んなことに気がつくタイプの演奏家です」川井が愛する楽曲を、愛するホールで、愛すべき共演者とともに奏でる究極の「愛の名曲コンサート」。川井自身も「聴いてくださった方にあたたかい気持ちになっていただいたり、切ない何かを思い出したりする時間にして欲しいと思っています」と自信をもって薦めるこれ以上ないほどあたたかなコンサートを是非ともご堪能いただきたい。取材・文:小室敬幸
2017年01月25日クリスマス目前の12月21日、東京・有楽町の日生劇場。クリスマスツリーの飾られた1階ロビーに華やかな歌声が響いた。「カフェ・モミュスへようこそ~《ラ・ボエーム》クリスマス・コンサート」。2017年6月に上演されるNISSAY OPERA《ラ・ボエーム》のプレ・イベント(無料公演)だ。ピアノと司会には本公演の指揮者・園田隆一郎。ミミ役の北原瑠美(ソプラノ)、ムゼッタ役の柴田紗貴子(ソプラノ)、ロドルフォ役の樋口達哉(テノール)、コッリーネ役のデニス・ビシュニャ(バス)が、おなじみの名アリアを披露した。【チケット情報はこちら】しかしこの日の演奏は、聴きなじんだ響きとは少し違う。歌詞が日本語なのだ。そう、6月の《ラ・ボエーム》は日本語訳詞による上演というのが大きな注目ポイントだ。現在主流の字幕付き原語上演が日本で始まったのは1980年代後半のこと。それまでは字幕そのものがなく、日本語上演も一般的だった。リアルタイムではそれに接していない1976年生まれの園田は、「われわれ世代には逆に新しいチャレンジ。イタリア語で歌うのとは違う化学反応を感じる」と語る。言葉の意味がダイレクトに伝わることの意味はもちろん大きいが、イタリア語のイントネーションで書かれた旋律に日本語を当てるのは簡単ではない。園田の強いリクエストもあって訳詞を担当したのが、人気バリトン歌手でもある宮本益光。オペラの日本語訳詞の研究で博士号を取得し、実際にすでに多くのオペラの訳詞・字幕を手がけている。歌手としての経験も存分に生きているのだろう、この日出演した歌い手たちも「とてもきれいな日本語」「母音の一致など、イタリア語と比べても違和感がない」と信頼する訳詞が生まれた。この日歌われたのはアリアだけだったが、オペラ全編がどんな日本語をまとって姿を現すのか、本公演への期待も高まる。コンサート後半には出演者全員によるクリスマス・ソングもあり、イヴに始まる《ラ・ボエーム》の物語にふさわしいイベントとなった。抽選で公演のペア・チケットをゲットした幸運なお客様も。NISSAY OPERA《ラ・ボエーム》は6月18日(日)と24日(土)の2公演。注目の演出家・伊香修吾のプロダクションも大きな楽しみだ。なお、3月と4月には事前レクチャーも用意されているので、みっちり予習してから観たい人はそちらもぜひ(詳しくは下記関連リンクより)。なお、チケットぴあでは1月17日(火)午前10時より、インターネット先着先行「座席選択プリセール」、S席と本公演にちなんだディナーがセットになったインターネット先着先行「春秋ツギハギ当日ディナー付受付」を実施。取材・文:宮本明
2017年01月16日新国立劇場の2017/2018シーズンのラインアップ発表会が1月12日に同劇場で行われた。新国立劇場オペラのチケット情報オペラ芸術監督の任期最終年を迎える飯守泰次郎は「4年間にわたる皆さまの力強い応援に深く感謝しています」と挨拶。「20周年にふさわしく、豪華で多彩」というラインアップは全10演目。新制作は3本(うち日本初演は1本)、再演7本。うち2演目は、開場20周年を記念した特別公演として上演される。シーズンオープニングを飾るのは、新制作の1本目、ワーグナー作曲『神々の黄昏』。飯守芸術監督の任期最初のシーズンより毎年1作品ずつ上演してきた「ニーベルングの指環」四部作がいよいよ完結。前3作品と同様、ドイツの名演出家ゲッツ・フリードリヒによるプロダクション。指揮は飯守芸術監督が務める。新制作の2本目は日本人作品。「国立のオペラハウスで日本人作品を上演する重要さ」を強調する飯守芸術監督が「念願だった」と語る細川俊夫作曲『松風』。音楽と舞踊、声楽が一体となったコレオグラフィック・オペラである本作は、2011年にベルギー・モネ劇場で初演。すでに欧州では絶賛を博しており、待望の日本初演の実現となる。作曲家自身が最も信頼を寄せるサシャ・ヴァルツの演出・振付による初演プロダクションを上演する。新制作の3本目は、ベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』。演出は、リヒャルト・ワーグナーのひ孫で、現バイロイト音楽祭総監督カタリーナ・ワーグナー。本公演の指揮を務め、長年バイロイト音楽祭で経験を積んだ飯守芸術監督とタッグを組む。ベートーヴェンの深い精神性と高貴な理想を表現した本作は、開場20周年記念特別公演にふさわしい作品といえる。その他、再演の演目は、『椿姫』(ヴェルディ作曲)、『ばらの騎士』(R.シュトラウス作曲)、『こうもり』(ヨハン・シュトラウス作曲)、『ホフマン物語』(オッフェンバック作曲)、『愛の妙薬』(ドニゼッティ作曲)、『トスカ』(プッチーニ作曲)。2018年4月には、開場20周年記念特別公演のもう1作『アイーダ』(ヴェルディ作曲)を上演。巨匠フランコ・ゼッフィレッリが演出・美術・衣装を手がけ、これまでも人気を博してきたプロダクションがメモリアルイヤーに華を添える。■新国立劇場開場20周年記念2017/2018シーズン オペラ ラインアップ10月神々の黄昏 (楽劇「ニーベルングの指環」第3日) 【新制作】11月椿姫11~12月ばらの騎士1月こうもり2月松風 【新制作・日本初演】2~3月ホフマン物語3月愛の妙薬4月アイーダ【新国立劇場開場20周年記念特別公演】5~6月フィデリオ 【新制作/新国立劇場開場20周年記念特別公演】7月トスカ
2017年01月13日毎年著名なオーケストラや演奏家を招いて行われる「東芝グランドコンサート」。2017年は、パリに拠点を置き、国際舞台で活躍しているヴァイオリニストの庄司紗矢香が登場。クシシュトフ・ウルバンスキが指揮するNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)と共演する。同コンサートで今回彼女が演奏するのは、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲。代名詞的な曲といえるほど、得意としている曲だ。特にロシアの指揮者、ユーリ・テミルカーノフとは毎年のように共演してプロコフィエフの2曲の協奏曲を演奏、録音も行った。「私は、プロコフィエフの作品とともに育ってきたといっても過言ではありません。プロコフィエフが残した日記や短編集をよく読みますが、彼は若いころから自分は特別な存在だと自認し、世界を上から眺めているようなところがありました。優越感の強い人だったようですね。日記を読んでいると、自分が偉大な人間なんだと自覚している様子が見てとれます。短編集はプロコフィエフのお孫さんがフランスで出版したもので、日本語訳も出ています。とても奇妙な世界を描いていて、ふつうの想像力とは違い、やはりプロコフィエフの音楽に通じるところがある。彼は常に最後にひとこと皮肉をいうのですが、それがとても印象に残ります」ヴァイオリン協奏曲第1番に関しては、2004年にニューヨークでロリン・マゼールの指揮で初めて演奏した。「第1番は繊細さ、やさしさ、豊かな色彩がとても印象的。その奥に内なるエネルギーが潜んでいて、“風”のイメージを抱きます。ノスタルジックな風、背筋がゾクッとするような風、墓場の寂しい風など、いろんな風がどこかからやってきてどこかへ消えていくイメージ。キャラクターと色が変幻自在で、そのイメージがとても魅力的で、弾いていて楽しいですね」庄司紗矢香はテミルカーノフとプロコフィエフのユーモアについて語り合い、作曲家が音楽や文章に込めたのは一筋縄ではいかないユーモアだという話になったそうだ。「プロコフィエフのユーモアというのは、あからさまではなくクスリと笑う感じ。いわゆるブラックユーモアのような。音楽は感情的にならず、常に客観的に自分を見ている冷めた目が感じられます。苦しいとか辛いなどとはけっしていわない。その精神を理解することが演奏する上で重要なポイントになります」テミルカーノフは、彼女に「きみはプロコフィエフ・プレイヤーだ。作曲家の心理をとてもよく理解している」といってくれた。そのことばがとてもうれしくて、「なお一層深く勉強しようと思った」と語る。指揮のウルバンスキとは共演の経験があり、「ソリストを尊重してくれる」と感じたという。また新たな“風”が吹くプロコフィエフが誕生しそうだ。取材・文:伊熊よし子
2017年01月11日毎年著名なオーケストラや演奏家を招いて行われる「東芝グランドコンサート」。2017年は、ドイツと日本の血を引き、国際舞台で幅広く活躍しているピアニスト、アリス=紗良・オットが登場する。幼いころ、どうしてもピアノが習いたいと両親に直訴し、5歳のときに「ピアニストになる」と決意。それ以来、人気と実力を兼ね備えたアーティストに成長した今に至るまで、ひとときもピアノと離れることはない。そんな彼女は、モデルのような体型で、エキゾチックな容貌の持ち主。ステージには裸足で登場してくるような超個性派だ。3月に開催の「東芝グランドコンサート2017」では、いまもっとも勢いのある指揮者のひとりとして注目を集めているクシシュトフ・ウルバンスキが指揮するNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)と共演し、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を演奏する。「クシシュトフ(・ウルバンスキ)には6~7年前に初めて出会い、意気投合しました。指揮者ですから、もちろん見識があり、作品全体を俯瞰する能力に長けているわけですが、ソリストとしての私の意見にもしっかり耳を傾けてくれます」以来、食事をしたり、音楽談義をしたりをしたりするほどに。「いつも新鮮な視点をもって作品を探求する人で、ベートーヴェンのこのコンチェルトでも、私に新たな意見を提案してくれました」実は、アリスはこのコンチェルトの第1楽章と第2楽章は調性も内容も表現もまるで異なるため、どのように気持ちを切り替えて演奏するべきか悩んでいた。するとウルバンスキは、あまり楽章間の時間をおかず、続けて演奏するべきだといったのである。「目からウロコでした。本番でそれを実施したら、とてもうまくいったのです。短調から長調への移行がスムーズで、ごく自然につながりました。以後、間をおかずに弾いています」アリスは、子どものころから「自分のアイデンティティ」について悩んできた。ドイツ人なのか日本人なのか、自分は何者なのか、さまざまな悩みが彼女の内面にずっと居座り続けている。しかし、ピアノを弾くことで自己を表現する手段を得、心が解放された。「私は音楽によって救われたのです。ピアノは自己表現の大切な手段。ことばを話すよりも的確に自分を表現することができます」そんなアリスのピアノは情感豊かで雄弁、聴き手の心にストレートに語りかけてくる。これはベートーヴェンのピアノ協奏曲のなかで唯一短調で書かれた作品。アリスは「最初はダーク。それが徐々に光輝き、リズムも多様性を増し、幻想的になっていくところが魅力」と語る。オーケストラとの対話に注目したい。取材・文:伊熊よし子
2017年01月11日●手づかみ料理の真髄!クラブバッグ(シグニチャーソース)6,500円たくさんあるシーフード食材の中から、カニ400gとイカ、エビ、ムール貝やアサリと野菜を2〜3人前セットにしたメニュー。「ダンシングクラブ」ビギナーなら、これをまず注文して、好きなものを足していくのがおすすめ。トマトピューレとケイジャンスパイスをベースにアジアンな隠し味を加えたシグニチャーソースで。●イチオシ!クラブケーキ800円クラブケーキは、カニ肉にケイジャンスパイスの風味を加えたベジャメルソースを合わせたボリュームたっぷりのアメリカのカニコロッケ。カニの身がぎっしり詰まってホクホク、やみつきになるおいしさ。熱々の揚げたてにタルタルソースをつけて食べるのがおすすめ。●クラシックシーザーサラダ900円パルメジャンチーズの効いたドレッシングがかかったサラダも手づかみでいきます!しゃきっとしたロメインレタスはおおぶりなので、その中にスパイシーな具を巻き込んで食べるのも格別です。スポット情報スポット名:ダンシングクラブ 東京住所:東京都新宿区新宿3-37-12 新宿NOWAビル2F電話番号:03-6380-5151
2017年01月03日クラシック音楽家の登竜門として、日本で最も歴史と権威のあるコンクールとされる日本音楽コンクール。第85回の今年は688人が参加し、予選から本選まで、2か月近くにわたって腕を競った。作曲、声楽、ピアノ、バイオリン、オーボエ、フルートの6部門の優勝者による受賞者発表演奏会が来年2月に開かれる。ピアノ部門1位の樋口一朗、バイオリン部門1位の戸澤采紀に話を聞いた。日本音楽コンクール受賞者発表演奏会 チケット情報「来年辺りを照準にしていたので、今年は本選に進むと思っていませんでした」と言うのは、樋口。桐朋学園大学に通う20歳だ。「書類に本選の曲としてラフマニノフのピアノ協奏曲第3番と書いたのも、『この曲で来年は頑張ろう』という気持ちからだったので、3次予選に通ってしまい、慌てて譜読みをして。それが一番大変でした。ラフマニノフは音数が多く、テクニック的にも難しい中で、どう歌うかというところが重要になってきますが、感情をぶつけて歌って弾く曲が好きなので、自分が弾きたいものとマッチしたのかもしれません」実は、協奏曲のソロをフルオーケストラと弾いたのは、このコンクールが初めてだったという。「弾く前まではとても緊張していたのですが、ほしいところでわーっとオーケストラが来てくれますし、指揮の渡邊一正さんが合わせてくださったので、弾いていてとても気持ちよくて。自分の音楽の中に入って弾けたかなと思います」一方、戸澤は、東京藝術大学の附属音楽高校に在学する15歳。「今回のコンクールのために5月初めから準備を始めたので、半年間ほどかけて、ひとつの曲への学びは深まったと思います。結果がついてきたことは素直に嬉しいです」。本選ではシベリウスのバイオリン協奏曲を演奏。「中学生の夏休みに3年間、シベリウスを生んだフィンランドのセミナーに通っていたので、フィンランド特有のスケールの大きな自然や、内に秘めた情熱のようなものを、表現するよう心がけました」バイオリンよりもピアノに魅せられていた幼少期、マーラーの交響曲7番を聴いて「オーケストラで弾きたい」とバイオリンに開眼。前述のセミナーも大きな転機となった。「セミナーの先生から『君に足りないことはリスクを冒すことだ』と言われて。確かにそれまでの私は守りに入っていました。以来、リスクを恐れず、自分が感じたことをその場で皆さんにも伝えることがモットーになっています」演奏会では、樋口はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の2、3楽章、戸澤はチャイコフスキーのバイオリン協奏曲の1楽章を演奏する。「ドラマ『のだめカンタービレ』で知って憧れた曲です。課題はたくさんありますが、ひとつひとつこなし、感情の全てを込めて弾きたいと考えています」(樋口)「シベリウスと同じで、ただ習ったことを表面的に受け入れるのではなく、自分の表現として、聴いている方にも納得して楽しんでもらえるように演奏したいです」(戸澤)受賞者発表演奏会は2月24日(金)東京オペラシティ コンサートホールにて。取材・文:高橋彩子
2016年12月28日