ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の『陥没』ほか、キューブ制作の舞台10作品が動画配信サービス「U-NEXT」で順次配信されることが決定。11月19日より、『陥没』『グッドバイ』(2015年版)を含む5作品が配信開始された。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)、河原雅彦、倉持裕、G2など演劇界注目の演出家がそれぞれ手掛けた話題の10作品がデジタル初解禁。数々の演劇賞を総なめにし演劇界を牽引する存在のKERAが作・演出を手掛け、井上芳雄、小池栄子、瀬戸康史、松岡茉優ら豪華キャストにより、昭和の東京を舞台に東京オリンピックに翻弄される人々の群像劇を描いた『陥没』。太宰治の未完の遺作をKERAが換骨奪胎し、 第23回読売演劇大賞で最優秀作品賞を受賞した仲村トオル主演の超スピード恋愛狂騒劇『グッドバイ』。中島かずき脚本×河原雅彦演出で“謎の浮世絵師・東洲斎写楽が実は女だった!?”という着想をもとに創られたミュージカル『戯伝写楽2018』。倉持裕が作・演出を務め、竹中直人×生瀬勝久による竹生企画として上演した『火星の二人』『ブロッケンの妖怪』。橋本さとし、新妻聖子、堀内敬子、上山竜治とミュージカル界のトップスターが集結し、男女4人の小さな愛の物語を音楽劇として描いたG2作・演出の『Bitter Days, Sweet Nights』など、芸能事務所「キューブ」が手がける珠玉の演劇作品が多数ラインナップされている。ぜひこの機会に多彩な舞台の数々を楽しんでほしい。【配信作品】●2021年11月19日(金)より配信・陥没・グッドバイ(2015年版)・戯伝写楽 2018・冬の絵空・ゴドーは待たれながら●2021年12月17日(金)より配信・Bitter days,Sweet nights・火星の二人・ブロッケンの妖怪・百年の秘密(2018年版)・MIDSUMMER CAROL~ガマ王子vsザリガニ魔人~(2008年版)視聴ページ:
2021年11月20日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)率いる劇団「ナイロン100℃」が約3年ぶりの新作上演、しかも劇団のホームグラウンドとも言うべき下北沢・本多劇場と聞いて、期待に胸が高まった演劇ファンは多いはず。そこで、作・演出を務めるKERAと主演・大倉孝二のふたりに公演への思いを聞いた。「今回はもう、コメディでなくなってもいいかという覚悟で臨むつもりです」――出演者の最初に大倉さんの名前がありますが、大倉さんが演じられるキャラクターが中心の物語と想像していいでしょうか。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)今のところ、大倉が完全な主役ですね。主人公が何らかの勝負をして勝ち進んでいく、しいて言えばスポ根的な要素を考えています。まだ決まっていないことばかりだけれど、気が変わらない限り、そうだと思います。――「イモンド」というのは人名ですか?KERAまだ秘密です。――大倉さんは今回の座組を見て、どう思いましたか?大倉知っている人しかいないんでねえ。強者ぞろいで、本気を出したら本当に厄介(笑)。すごく疲れそうですね。――3年ぶりの劇団新作ですが、おふたりにとって劇団とはどのような場所でしょうか。大倉最初は活動のほとんどが劇団公演でしたし、自分の活動そのもの。今は演劇だけでなくテレビや映画に出させてもらっているので、改めて自分の血筋を確かめる場、里帰りのようなものになっていますね。KERA最近は、劇団公演も数年に1回になりましたからね。当たり前ですけど、自分が集めた人たちなので、前提として自分の作劇にとって戦力になってくれる役者ばかりが集まってます。外部での1か月の稽古ではできないことをできる集団であることが、大きな違い。それに何十年も苦楽を共にしてきたので、同志意識みたいなものもありますね。――その長いおつき合いの中で、印象的なエピソードを教えていただけますか。KERA大倉と出会った頃の印象は「でっかいヤツだ」。オーディションでドアに頭をぶつけて帰って行ったっていうのが、彼との原風景です。大倉(劇団は)仲が良くてずっと一緒にやっている、というものでもないですからね。僕はどちらかというと、KERAさんだけじゃなく先輩たちに怒られた思い出が多いですよ。KERAみんな上履きを用意しているのに、裸足で歩いて怒られたりしてた。大倉素足でトイレに入って、KERAさんに怒られましたもんね。今思えば、僕もそんなヤツ嫌だわ(笑)。――客演で赤堀雅秋さん、山内圭哉さん、池谷のぶえさんも出演されますね。KERA赤堀くんは一番未知数です。役者としての引き出しはわかっているつもりだけど、ナンセンスをやっている姿は観たことがない。楽しみですね。圭哉と池谷はナンセンス的なスキルもあるし、何でもできる。充分な戦力になってくれる客演陣ですし、劇団員も触発されるでしょうね。――今回はナンセンスコメディということですが。KERA僕はもともと、ナンセンスな笑いをやりたくて芝居を始めた人間。近年は古田新太くん、大倉、犬山(イヌコ)たちとそういう芝居をやりましたが、劇団では久しくやっていなかった。今回、自分を突き動かすものがあった訳でもないし、原点に返るとか強い意志があった訳でもないけど、定期的にトレーニングしないとナンセンスって書けなくなるんです。だから久し振りにね、やってみようかと。――ナンセンスコメディを創るというのは、すごく難しい作業ではないかと思います。どのように進めていらっしゃるのでしょう。また大倉さんはそれを体現するために、どのように挑んでいらっしゃるのでしょうか。KERAナンセンスって、常識的な世界の中におかしな人がいるのではなく、世界観自体が狂っている。書き手としては、まず、その狂っている世界観を自分の基準値とするところから始まります。しかも、ある沸点以上に達してしまうとナンセンスではあっても笑いにならなくなってしまう。例えば筒井康隆の小説は、初期のナンセンスな短編は笑いにつながるけれど、後期の長編はむしろ前衛性や実験性が際立つ。同じナンセンスでも年齢と共に書きたいものや書けるものは変わりますしね。我々はコメディという制限の中で言うとナンセンスの極北までいったと思います。その後、ブルー&スカイや地蔵中毒といったナンセンスを主体にした舞台を創る奇特な人たちが出てきた。でもやっぱり、彼らと僕では違いますから。僕の場合、物語を構築していく創り方ではなく、「何かが狂った世界の中で、何が面白いか」を探って、それを物語としてでっち上げていくっていう創り方をしています。今回はもう、コメディでなくなってもいいかという覚悟で臨むつもりです。大倉僕は「どうやったら面白くなるか」以外、特に考えることはないですね。脈絡がないので突然訳のわからない境地に達しないといけないから、だいぶしんどい。でも、それが面白いんだと思います。――「だいぶしんどい」というのはなぜ?大倉悪ふざけというのは、興が乗った時にやるものですよね。でも全然興が乗っていない時に、しかも毎日、いい歳をしてやらなきゃいけない。若い頃は、自分を盛り上げたり、周りもワイワイ盛り上がってから出ていく、なんて時もありました。今は病院の待合室みたいにしーんとした楽屋から、みんなのっそり出ていく。それで突然ふざける。それがしんどくもあり、楽しくもあるんでしょうね。取材・文:金井まゆみ撮影:江隈麗志ナイロン100℃『イモンドの勝負』チケット情報
2021年10月16日劇作家・演出家、ケラリーノ・サンドロヴィッチ率いる劇団・ナイロン100℃の約3年ぶりとなる新作公演『イモンドの勝負』のチラシビジュアルが公開された。あわせて、ケラリーノ・サンドロヴィッチからのコメントも到着。本作について、「(前略)大倉(孝二)演じる男が、勝って勝って勝ちまくってると思い込むお話です。たぶん。よろしくお願い。」と綴っている。2018年上演の46th SESSION『睾丸』以降、2020年年末に下北沢 ザ・スズナリで予定されていた劇団公演が新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け中止となり、はからずも長い空白期間を経たナイロン100℃。ファンにとっては待ちに待った約3年ぶりの劇団新作舞台となる。大倉孝二が選手宣誓のポーズを取っている色鮮やかなビジュアルが目を引くチラシビジュアルには、彫刻家・ねがみくみこの作品が随所に散りばめられており、不思議な魅力を放っている。出演はほかに、みのすけ、犬山イヌコ、三宅弘城、峯村リエ、松永玲子といった鉄壁の劇団メンバーに加え、客演として赤堀雅秋、山内圭哉、池谷のぶえが参加。最強メンバーが一堂に会し、どんな作品になるのか期待が高まる。ナイロン100℃久々のナンセンスコメディを、劇団のホームグラウンドとも言える下北沢・本多劇場で上演する本公演。東京公演は11月20日より12月22日まで上演後、兵庫、広島、北九州と各地公演を予定している。現在キューブのメルマガ会員「cubit club plus」では東京・各地のチケット最速先行を10月5日正午まで受付中。東京公演一般発売は10月23日開始予定。以下、主宰・ケラリーノ・サンドロヴィッチのコメント全文(チラシコメントより)久し振りにしっちゃかめっちゃかな舞台を創ってみたくなって、仮チラシには「観なくても損はない、捨て身の出鱈目芝居」なんてコピーを載せてみたものの、いざ台本を書こうと思うと、若い頃のように「捨て身」になんかまったくなれなかった。劇団員たちだって、口ではなんとでも言うだろうが、「捨て身」で稽古からの三ヶ月弱を過ごせるわけがない。客演してくれる三人は尚更だ。呼んでおいて「捨て身」はないだろう。しかもコロナ禍に。ただ、ナンセンス・コメディばかりを連発していた頃の私には成し得なかった舞台にはしたいのだ。毎日どこかしらが痛む身体をなだめつつ、ナンセンスの、或いは、不条理の、と言った方がしっくりくるトーンになるかもしれないが、ともかくソレの極北に行ってみる覚悟。うっちゃることなく、ブラリと皆で出掛けてみる。そこで見るだろう景色は、まだ私にもわからない。大倉演じる男が、勝って勝って勝ちまくってると思い込むお話です。たぶん。よろしくお願い。主宰:ケラリーノ・サンドロヴィッチ公演概要ナイロン 100°C 47th SESSION『イモンドの勝負』作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演:大倉孝二 /みのすけ 犬山イヌコ 三宅弘城 峯村リエ松永玲子 長田奈麻 廣川三憲 喜安浩平 吉増裕士 猪俣三四郎 /赤堀雅秋 山内圭哉 池谷のぶえ【東京公演】2021年11月20日(土)〜12月12 日(日)下北沢 本多劇場チケット料金:一般:7,600 円 (前売・当日共/全席指定/税込)学生割引券:5,000 円(チケットぴあ前売のみ取扱/税込)チケット一般発売:2021年10月23 日(土)【兵庫公演】12 月 18 日(土)〜19 日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール【広島公演】12 月 21 日(火)JMSアステールプラザ 大ホール【北九州公演】12 月 25 日(土)〜26 日(日)北九州芸術劇場 中劇場
2021年10月01日2020年、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と女優・緒川たまきが結成した演劇ユニット「ケムリ研究室」の第二回公演、『砂の女』のオンデマンド配信が決定。本日9月10日、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールの大千穐楽公演で発表された。8月22日に東京・シアタートラムで開幕後、緊急事態宣言の影響を受け売り止めとなり、カンパニーの、「チケットをご購入いただけなかったお客様、感染拡大下でご来場を断念されたお客様にご覧いただく機会を」という思いから、オンデマンド配信が決定した。舞台『砂の女』は、安部公房の傑作小説『砂の女』を原作とし、KERAが上演台本と演出を担当。砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、村人の誘いで案内された砂に埋もれゆく家に閉じ込められる。その家には寡婦が一人住んでいた……。一見奇想天外な設定でありながら、普遍的でリアルな肌触りを持つ稀代の名作の舞台化は、上演前から注目を集め、その注目は評判へと繋がった。緒川たまき、仲村トオル、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲、といった実力派キャストの力演により作り上げられる密度の濃い空間、そして音楽・演奏の上野洋子の眩惑的なインプロビゼーション、小野寺修二の物語に溶け入るステージング、美術・加藤ちかの生み出す圧倒的な砂の世界、映像・上田大樹の肌に迫るような映像表現……。全てが緻密に織り上げられた総合芸術は、各新聞評やSNSなどを通じ、瞬く間に大きな話題となり、全国の演劇ファンから配信を望む声も高まっていた。この機会に“研究室”の挑戦的で実験的なコラボレーションを逃さず体感しよう。ケムリ研究室no.2 『砂の女』原作:安部公房上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ音楽・演奏:上野洋子振付:小野寺修二出演:緒川たまき / 仲村トオルオクイシュージ / 武谷公雄 / 吉増裕士 / 廣川三憲【オンデマンド配信】配信期間:9月30日(木) 10 :00 配信開始、10月6日(水)23:59までアーカイブあり配信元:PIA LIVE STREAMチケット料金:3,500円チケット発売期間:9月11日(土)10:00~10月6日(水)21:00チケット販売URL: ※配信される舞台映像は、シアタートラムにて収録された映像を配信用に編集した“配信限定編集版”となります。<ケムリ研究室とは?>劇作家、演出家、音楽家のケラリーノ・サンドロヴィッチと女優・緒川たまきが2020年に始動させた演劇ユニット。企画、キャスティング他、多くのパートを二人三脚で担う。旗揚げ公演は同年9月『ベイジルタウンの女神』(世田谷パブリックシアター他)。本作『砂の女』は第二回公演にあたる詳細:キューブオフィシャルサイト:
2021年09月10日劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と、女優・緒川たまきが結成した演劇ユニット「ケムリ研究室」の第二回公演となる『砂の女』が、8月22日に開幕、9月5日まで東京・三軒茶屋のシアタートラムにて上演中だ。1962年安部公房により書き下ろされた傑作小説を原作とし、KERAが上演台本と演出を担当、キャストは緒川たまき、仲村トオル、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲。『砂の女』は、「ケムリ研究室」主宰のKERAと緒川たまきが、長年、舞台化を模索してきた作品で、満を持してようやく実現した。昆虫採集に来た男が、たどり着いた砂丘の果ての村。男が宿を借りた砂丘の底の家には、女が一人住んでいた。外界との唯一の往来手段であった縄ばしごを外され、今にも砂に埋もれそうな家に女と二人、男は閉じ込められる。緒川たまきと仲村トオルの、刻一刻と変わってゆく、ヒリヒリするような関係性。廣川三憲、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士が、村人や、砂の象徴“砂子”など様々な役を演じ、作品世界を豊かに広げる。上野洋子のインプロビゼーションの演奏が、砂の流動性と、女と男の心の揺れを体感させる。不条理な閉塞状況の中で、スリリングで焦燥感に溢れた、そしてエロティックな男女の関係。それを覗き見しているような濃密な世界観が広がる。芝居、ステージング、音楽、映像、照明、全てが綿密に編み上げられた劇空間が、目の前に力強く立ち上がった。開幕に際し「ケムリ研究室」主宰のケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川たまきがコメントを寄せた。【ケラリーノ・サンドロヴィッチコメント】初日が開けてとりあえずホッとしてます。開幕できるか、稽古中はずっと不安でした。観客がいる劇場の有り難さ。ご覧になったお客様がどんな風に感じたか知りたいですね。同じコロナ禍での上演でも、昨年の『ベイジルタウンの女神』は多幸感溢れるエンタメ作品でしたけれども、今年は安部公房ですからね。180度違う。今回は辛辣な芝居です。照明もずっと暗めだし、明るいことはあまり起こらない。娯楽要素はありつつも、いわゆるエンタメとは異なる舞台を目指しました。けれども、砂の谷底の小屋で繰り広げられる男女のドラマは、きっと様々なことを感じさせてくれるでしょう。安部公房は明らかに理数系の作家ですが、今回僕は、それを無理矢理文系の作品にねじ曲げたのかもしれません。自分のモードでやるしかないし。岸田國士さんの時は一作やって大ファンになったけれど、安部公房さんはまだまだ近づくには怖い所がある。やっぱり理数系だからかな。これから時間をかけて徐々に仲良くなれるといいなと思っています。劇場入りしてからはバタバタで、ともかく幕を開けることで精一杯でした。明日からは少し客観的になれるのではないかと。スタッフ、キャストが皆同じ方向を向いている素晴らしい座組なので、なんとかこのまま完走できるよう、祈るばかりであります。【緒川たまきコメント】このようなご時世ですから、本当に幕を開けることが叶うのかどうか、カンパニー全体、かなりドキドキしながら、覚悟をして稽古をしておりましたが、おかげさまで無事初日を開けることが出来ました。カーテンコールでお客様の姿が照らされたとき、これはつい数時間前まで行っていた舞台稽古の続きではなく、お客様に見て頂けたのだと改めて信じられないような思いでした。同時に、何か重い責任を負っているような気持ちで、その場に立っていました。このような状況の中、演劇を、ケムリ研究室の『砂の女』を、観ようと思って下さり、実際に劇場に足を運んで下さった事に、まずは深い感謝を申し上げると共に、ご期待に添えたかどうかは分かりませんが、皆様の思いを無駄にしないよう、明日以降もブラッシュアップして、少しでも良いものをお届けしたいと、祈るような誓うような気持ちでおります。公演は9月5日までシアタートラムにて上演。その後9月9日から兵庫公演を予定している。
2021年08月24日ケムリ研究室vol.2『砂の女』が8月22日(日)、シアタートラムにて開幕する。ケムリ研究室はケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と緒川たまきが立ち上げたユニット。その一作目、昨年9月に上演された『ベイジルタウンの女神」は緒川演じるお金持ちの女社長がふとしたきっかけから貧民街で暮らすことになり、そこで新たな出会いを経験し、やがて街のために立ち上がるという極上のコメディだった。ユニット立ち上げの際、KERAが「作風は公演ごとにバラバラになると思う」と語っていたとおり、彼らが2作目に選んだのは安部公房『砂の女』。昆虫採集のために砂丘へ出かけた男が、砂に埋もれた一軒家に住まう女と出会う。男はそこからの脱出を試みるが、村の人々の邪魔もありなかなか抜け出せない、という物語。女を岸田今日子が演じた1964年の映画が印象深い。「安部公房氏の長編小説『砂の女』が、読者のその後の空想の中で自由に育ち続けているように、ケムリ研究室による舞台『砂の女』もまた、妄想と実験精神たくましく育てあげる所存です」とコメントを出していたケムリ研究室のふたり。公演に先立ち、6月には緒川による原作小説のリーディング、主宰ふたりによるトークのイベントも開催。そんなふうにして制作過程も開示しつつ、地道に丁寧に練り上げてきた作品をようやく目にすることができる。女は緒川たまき、そして男には『ベイジルタウンの女神』をはじめ、KERA作品に多数出演している仲村トオルが扮する。その他、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲が共演に名を連ねる。この骨太なキャストたちがあの砂にまみれた世界をどのように表現していくのか、どんな演出と美術であの空気が再現されるのか。閉塞感にからめとられそうな2021年の夏、うだるような暑い陽射しの中を劇場に向かった記憶ごと、忘れられない作品になりそうだ。文:釣木文恵ケムリ研究室no.2『砂の女』原作:安部公房上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ音楽・演奏:上野洋子振付:小野寺修二出演:緒川たまき / 仲村トオルオクイシュージ / 武谷公雄 / 吉増裕士 / 廣川三憲
2021年08月20日2020年9月、ケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川たまきが立ち上げたユニット「ケムリ研究室」旗揚げ公演『ベイジルタウンの女神』が待望のDVD化。本日7月21日(水)より発売される。本作は俗世知らずのお嬢様と“乞食の王様”が繰り広げる、大人のロマンティック・コメディ。緒川たまき、仲村トオル、水野美紀、山内圭哉、吉岡里帆、松下洸平、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子など、実力派オールスターキャストが集結した。DVDはキャスト座談会各種や、副音声コメンタリー各種など、特典超満載の豪華決定版。何度観てもハッピーな気持ちになれる演劇ファンのマストアイテムとなっているので、ぜひ手に入れてほしい。【商品情報】【DVD】ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』販売:キューブ通販サイト「cubit club plus」にて販売販売ページ(要会員登録): 価格:8,000円+税 (送料別)商品番号:Qbix-SD70発売日:2021年7月21日(水)発売<スタッフ&キャスト>作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ / 振付:小野寺修二映像:上田大樹 / 音楽:鈴木光介出演:緒川たまき仲村トオル水野美紀山内圭哉吉岡里帆松下洸平望月綾乃大場みなみ斉藤悠渡邊絵理荒悠平髙橋美帆尾方宣久菅原永二植本純米温水洋一犬山イヌコ高田聖子収録日:2020年9月24日収録 @世田谷パブリックシアター<特典映像>★キャスト鼎談・緒川たまき×仲村トオル×水野美紀・温水洋一×犬山イヌコ×高田聖子・山内圭哉×吉岡里帆×松下洸平★ケラリーノ・サンドロヴィッチインタビュー★10月10日(土) 北九州芸術劇場 中劇場 大千穐楽カーテンコール映像<特典>★副音声コメンタリー2バージョン収録!・緒川たまき×水野美紀×吉岡里帆・仲村トオル×山内圭哉×松下洸平★ブックレットに豊崎由美氏 劇評掲載<仕様>本編195分 特典映像60分 / Qbix-SD70 / MPEG-2 / COLOR / 本編:片面・2層特典:片面・1層 / 本編 ステレオ 特典映像 モノラル【公演詳細】・2020年9月13日〜9月27日 東京・世田谷パブリックシアター・2020年10月1日〜10月4日 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール・2020年10月9日〜10月10日福岡・北九州芸術劇場 中劇場
2021年07月21日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と緒川たまきが昨年旗揚げした演劇ユニット「ケムリ研究室」が、早くも第2弾を発表。安部公房の不朽の名作『砂の女』の舞台化に挑む。そこで緒川と、前作『ベイジルタウンの女神』に引き続きの参加となる仲村トオルに話を聞いた。『ベイジル~』以外にもKERA作品におけるふたりの共演は多く、仲村について、「KERAさんにとっても私にとっても、トオルさんは最も期待を抱かせる俳優さんであり、何か新しいことを始める時に側にいてくださると本当に心強い方なんです」と緒川。また仲村も、「KERAさん作品に参加することで、自分でも見たことのない自分を見られたというか。だからおふたりは、開けたことのない引き出しを開けてくれて、そこに新しいものを詰め込んでくれる方々って感じですね」と、互いの信頼の厚さを伺わせる。砂穴に埋もれる一軒家で暮らす女と、そこに囚われる羽目になった男。この奇妙で生々しい『砂の女』という作品は、永年緒川とKERAを魅了し、舞台化を夢見ながらもなかなか踏み切れずにいたという。「簡単に出来るものだとは考えていません。ただ『砂の女』の持っている実験性というのでしょうか、その点に目を向けて、描写の細かさに気を取られずに、本当に印象に残る好きなシーンだけを舞台上に立ち上げていく。それ以外は捨てて行くぐらいの大胆な気持ちでいれば、ケムリ研究室ならではの『砂の女』が作れるのではないか、と思ったんです」と緒川は語る。そこに欠かせなかったのが、男を演じる仲村の存在。仲村も出演を快諾したものの、「最近原作を読み終えたんですが、これは安請け合いしてしまったな」と苦笑いを浮かべる。男という役どころに関しては、「虫を追いかけてあんなところにまで行くなんて僕には理解出来ませんが、何かから逃れる理由、大義名分として虫を追いかけていたとしたら…。僕も名もなき人になってみたいという願望を一瞬くらいは抱いたことがありますし、男の気持ちも少しわかる気がします」と、難役への手がかりを明かす。一方の女について、緒川はこう読み解く。「今の状況に甘んじている、どこかイライラさせる女というものの奥にある、非常にたくましく魅力的なもの。そこをどうやったら匂わせられるのか、ずっと考えているところです。そして女の、“男を陥れた張本人”という立ち位置とはまた違う、“当事者意識のない不思議なもの”という部分も大事にしていけたらと思います」取材・文:野上瑠美子
2021年06月25日ケムリ研究室no.2 『砂の女』のビジュアルと公演詳細が発表された。2020年、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と、女優・緒川たまきが結成した演劇ユニット「ケムリ研究室」。2020年大好評を博した旗揚げ公演『ベイジルタウンの女神』に続き、8月22日()日よりシアタートラムほかにて、第二回公演『砂の女』が上演される。舞台『砂の女』は、1962年安部公房により書き下ろされた小説「砂の女」を原作とし、KERAが上演台本と演出を担当、緒川たまきはじめ、仲村トオル、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲、といった実力派俳優が顔を揃えてこの作品に挑むとあって、演劇ファンの大きな期待をあつめている。砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、ある女と関わることによって、とめどない砂に埋もれゆく家に閉じ込められるという、一見奇想天外な設定でありながら、普遍的でリアルな肌触りが迫りくる、この稀代の名作が、ケムリ研究室の“実験”によって、いかなる変化を遂げるのか。チケットは東京・シアタートラム、兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールともに、7月17日(土)に一般発売を予定している。なお、6月10日より、主催のキューブのメルマガ会員「cubit club plus」での最速先行申し込みがスタートする。詳しくはcubit club plusオフィシャルサイト( )にて。その後、各プレイガイドでの先行販売も予定されている。また、明日6月11日(金)には公演に先駆けて、LOFT9 shibuyaにて、「ケムリ研究室『砂の女』を研究する〜リーディング&トーク〜」も開催される。緒川による小説『砂の女』の一部抜粋リーディング、KERAと緒川とで『砂の女』について語り合うトークとを織り交ぜながらお届けする研究会となる。配信チケットはアーカイブ視聴ありで販売中。■公演概要ケムリ研究室no.2『砂の女』原作:安部公房上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ音楽・演奏:上野洋子振付:小野寺修二出演:緒川たまき仲村トオルオクイシュージ武谷公雄吉増裕士廣川三憲【東京公演】2021年8月22日(日)〜9月5日(日)シアタートラム<料金>チケット料金:8,800円(前売当日共/全席指定・税込)学生割引券★:5,500円(チケットぴあ前売のみ取扱・税込)チケット一般発売=7月17日(土)企画協力:ラウダ協力:KITTOヘリンボーンダックスープ公演の最新情報はこちら: お問い合わせ:キューブ03-5485-2252(平日12:00〜17:00)企画・製作:キューブ【兵庫公演】2021年9月9日(木)〜9月10日(金) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールチケット料金:A席8,500円 B席5,500円(全席指定・税込)チケット一般発売日:7月17日(土)お問合せ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255 (10:00-17:00月曜休み※祝日の場合翌日休み)主催:キューブ/兵庫県/兵庫県立芸術文化センター協力:リコモーション東京・兵庫公演cubit club plus 最速先行受付プレオーダー受付期間:6月10日(木)12:00~6月21日(月)12:00詳細: ■6月11日イベント概要ケムリ研究室『砂の女』を研究する〜リーディング&トーク〜6月11日(金) OPEN 17:00 / START 17:30 (END 19:30〜20:00予定)LOFT9 Shibuya出演:緒川たまき、ケラリーノ・サンドロヴィッチ会場チケット:前売3,000円 / 当日3,500円(+ドリンク代)70席限定配信チケット:2,000円*6月20日(日)23:59までアーカイブ配信あり詳細はこちら: お問い合わせ:LOFT9 Shibuya03-5784-1239企画・製作=ケムリ研究室
2021年06月10日緊急事態宣言によって公演中止になったケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)作の舞台「KERA CROSS」の配信が決定。KERA CROSS 第三弾『カメレオンズ・リップ』急遽、オンデマンド配信決定!5月15日(土)に大千穐楽を迎えた舞台、KERA CROSS第三弾『カメレオンズ・リップ』のオンデマンド配信が、急遽、5月20日(木)〜23日(日)に決定しました。劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の過去の戯曲を、才気溢れる演出家たちの手で新たに創り上げる、シアタークリエ連続上演シリーズ「KERA CROSS」。その第三弾である『カメレオンズ・リップ』は、河原雅彦を演出に迎え、今最も注目される俳優のひとりである松下洸平、乃木坂46出身で確かな演技力で舞台作品に多数出演する生駒里奈、演技・音楽・バラエティ番組出演と八面六臂で活躍中のファーストサマーウイカ、そして、第71回芸術選奨文部科学大臣賞受賞の岡本健一、といった話題と実力を兼ね備える力強いキャスト陣で、2021年4月から東京(北千住、日比谷)、福島、愛知、新潟で上演されました。しかし、4月23日発令の緊急事態宣言により、5月2日(日)〜4日(火)に予定されていた大阪公演は中止となり、悔しさを噛みしめたファンも多かったのです。そういった状況を踏まえ、「来場が叶わなかった方々にいち早く公演を観て頂く機会を」というカンパニーの想いから、配信が急遽決定しました。各地にてスタンディングオベーションで迎えられた舞台の、まだ冷めやらぬ熱気を受け取ってください。今回の配信のために編集された“配信限定編集版”での配信となります。informationKERA CROSS第三弾『カメレオンズ・リップ』オンデマンド配信配信期間:5/20(木)10:00配信開始(5/23(日)23:59までアーカイブ有り)配信元: PIA LIVE STREAMチケット料金:4,000円※配信される舞台映像は、シアタークリエにて収録された映像を配信用に編集した“配信限定編集版”となります。KERA CROSS第三弾『カメレオンズ・リップ』作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出:河原雅彦音楽:伊澤一葉(東京事変、the HIATUS)出演:松下洸平生駒里奈ファーストサマーウイカ坪倉由幸(我が家)野口かおる森 準人シルビア・グラブ岡本健一企画・製作:東宝キューブ舞台写真・桜井隆幸
2021年05月18日KERA CROSS第三弾『カメレオンズ・リップ』に出演する、生駒里奈さんにお話を伺いました。ズレたまま進んでねじれていく会話、トボけたキャラクターに、リアルと非リアルの間をたゆたうような世界観。ナンセンスコメディの旗手、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが2004年に書き下ろした戯曲『カメレオンズ・リップ』。かつて堤真一さんや深津絵里さんにより上演された人気作が、今回、新たな演出家の手により17年ぶりに蘇る。「これまでやってきた舞台とはまったく違うテイストだし、役も、台本に書かれた通りにストレートに演じるということが通用しない。本格的にお芝居をやり始めたのが乃木坂46を卒業してからの私にとって、ほぼ初めてのような感覚の作品です」20世紀初頭のヨーロッパらしき場所の古びた邸宅を舞台に繰り広げられる、互いが互いを騙し騙され、混乱が混乱を呼んでゆくコメディ。「セリフのやり取りのなかにクスッとくる面白さがあるんですけど、なかには、普段笑っちゃいけないと言われるようなブラックな笑いも織り交ぜられていて、絶妙なバランスの作品だなと思います。演出の河原(雅彦)さんは、『普通にやってるだけじゃ面白さは伝わらないから、このキャラが何を思って行動したかをはっきり見せていこう』とおっしゃっていて、『セリフが流れないよう、きちんと言葉を立てて伝えないと』と。稽古していくなかで気づいたのは、私の場合は笑わせにいったらダメなんだってこと。役を普通にやることで、観た人が笑ってくれる。そこを目指せばいいんだな、と一昨日くらいに気づいたところです(笑)」演じるのは、松下洸平さん演じるルーファスの死んだ姉・ドナと、彼女にそっくりな使用人のエレンデイラの二役。人を煙に巻く発言ばかりで一向に真意が読めないキャラクターゆえの難しさも。「私は構築とか計算とかが苦手で、“役を作る”というより稽古場に立ってみて、その時の感情や直感で動くタイプなんです。でも今回の役は、日本に住んでるのにいきなりここはアメリカですと言われているくらい、求められているものが違う。難しいですけれど、お芝居にもいろんな種類があってやり方があるわけで、いろんなことをできるようになっていかなくちゃと思っています」生駒さんには目指すものがある。それは「いろんなワクワクが詰まったエンターテインメント」だ。「一番の理想型が堂本光一さんの『Endless SHOCK』です。カッコいい歌もダンスもあって、衣装も演出も華やかで、宙を飛んだりもして。去年初めて観て、『なんだこれは!?』ってずっと口を開けっぱなし(笑)。観て励まされたし、自分もこんなキラキラしたものになりたいと思ったんですよね。芝居はもちろんダンスも歌も磨かなきゃいけないし、立っているだけでサマになる華も身につけなきゃいけない。そのためにも、いま目の前のものを必死でやっていくだけです」『カメレオンズ・リップ』ルーファス(松下)は、死んだ姉に瓜二つの使用人・エレンデイラ(生駒)と郊外の谷間にある古い邸宅に暮らしている。その邸宅をさまざまな人が訪ねてくるが、どの人も虚実入り交じり…。はたして真実はどこにあるのか。4月2日(金)~4日(日)北千住・シアター1010全席指定1万円4月14日(水)~26日(月)日比谷・シアタークリエ全席指定1万500円作/ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出/河原雅彦出演/松下洸平、生駒里奈、ファーストサマーウイカ、坪倉由幸(我が家)、野口かおる、森準人、シルビア・グラブ、岡本健一キューブ TEL:03・5485・2252(平日12:00~17:00)福島、大阪、愛知、新潟公演あり。いこま・りな1995年12月29日生まれ、秋田県出身。乃木坂46を2018年に卒業。8月には主演舞台『‐4D‐imetor』も控える。出演映画『光を追いかけて』は今年公開予定。ポンチョ¥40,700 カットソー¥24,200パンツ¥41,800(以上Ground Y/ヨウジヤマモト プレスルーム TEL:03・5463・1500)シューズ¥63,800(Y’s/ワイズ プレスルーム TEL:03・5463・1540)ピアス各¥13,200リング¥38,500(以上CHERRY BROWN TEL:03・3409・9227)※『anan』2021年4月7日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・津野真吾(impiger)ヘア&メイク・スズキユウジ(MAXSTAR)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2021年04月06日ケラリーノ・サンドロヴィッチの名作戯曲に演出家たちが挑むシリーズ、KERA CROSS。第三弾となる今回は、堤真一、深津絵里らによって2004年に初演されたクライムコメディ、『カメレオンズ・リップ』を河原雅彦が新たに作り出す。今回ドナとエレンデイラというふたりの女性を演じることになるのは生駒里奈。乃木坂46を卒業後、立て続けに舞台で活躍する彼女に今作について話を聞いた。言い訳のできない環境に身をおいたので、乗り越えていかなければ──最初に『カメレオンズ・リップ』出演のお話を聞いた時の心境は?アイドルを卒業して、これから個人としてお仕事に挑戦しなくてはならないと思っていた中でお声がけいただいて。この作品に携わることで何かひとつでもできることが増やせればと思いました。──生駒さんは乃木坂46時代にKERAさんの戯曲『すべての犬は天国ヘ行く』の舞台に出演されていますね。その作品を観たKERAさんから「もう少し稽古の時間があればよかったね」と声をかけられたとのことですが。そうなんです。その言葉は当時はショックでしたが、実際に稽古の時間は短かったし、当時はそれをどうすることもできなかった。でも今は毎日、みっちり稽古ができています。自ら言い訳のできない環境に身をおいたので、この戯曲をどうにか乗り越えていかなくてはと思っています。──初演はご覧になりましたか?はい。どうしても意識してしまいますね。これまで再演の経験はありますが、その時は未熟な自分をそのまま出すことで乗り越えられる役だった。今回は違いますから。初演はあて書きだそうなので、一度大正解が出てしまっているものに挑むというハードルがあります。でも比べられるのは当たり前だし、まったく違うものとして作ろうとしているから、かえって気は楽かもしれません。──河原雅彦さんはどんな演出家ですか?演出の言葉をどう解釈して自分に落とし込めばいいのかがわからなくて、そこに慣れるところから私の稽古はスタートしています。ちょっとずつ、河原さんの言葉が冗談なのか本気なのかがわかるようになってきました(笑)。──今作は登場人物が嘘をつきあって騙し合うクライム・コメディですが、稽古場での河原さんの言葉も本気かどうかわからないときがあるんですね?そうなんです。「もしかしてこれは冗談かな?」って(笑)。稽古中に「(役について)この子はどういう子なんだろう?」と投げかけられて、「河原さんが教えてください!」と思ってしまったこともあります。自分からしてみたら、河原さんやまわりのキャストの皆さんの方がKERAさん作品のことを理解しているのにと思ってしまい……。でもそうやって投げかけてもらったことを考え続けて、必死に食らいついているところです。共演者の皆さんはすごく経験豊富なので、自分は何歩も後ろから稽古に挑んでいる感じ。そのみなさんが「すごく難しいことをしているんだよ」と声をかけてくださるだけですごく救われます。“嘘だけど本当になること”をする演技という仕事が好き──この作品は難しいですか。いま、絶賛迷い中です。やればやるほど、キャラクターの気持ちがつながっていかないんです。前のシーンでこう思っていたのに、次では全然違うことを言う。彼女に一本の筋を通すには、どういう思考回路になればいいんだろうって。今回はお互いが嘘をつきあう作品で、私の演じる役も言っていることが本当か嘘かわからないことばかり。これまでは生き様が必要だったけれど、今回は自分を全く入れず、本当にお芝居をするしかないんだろうなと思っています。──役に対して、今までとは違うアプローチをしなくてはならないわけですね。そうなんです。演技をするときって、どんなに違うタイプでもなにかしら自分にひっかかるところがある。でも今回は……。そもそも、私は嘘をつくのが好きじゃないんです。嘘をつくって、トラブルを招くことが多いじゃないですか。『カメレオンズ・リップ』メインビジュアル。生駒さんはエレンデイラ/ドナ姉妹を演じる──そんな「嘘が苦手」な生駒さんが、今作で嘘で塗り固められた役をやるのが楽しみです。私の今までの演技を観たうえでこの役をくださった方は、どんな意図があるんだろう? とは思いますね。親身な人しか挑戦はくれないと思うので、なんでだろうって。でも今こうしてしゃべっていて、自分でもこんなに嘘が苦手なんだと改めて思いました。そりゃあこの役、難しいはずですね(笑)。でもだからこそ、役の仮面をかぶって“嘘だけど本当になること”をする演技という仕事が好きなんだと思います。──そこまで自分と対峙するたいへんな仕事に取り組むのはなぜですか?40歳になったとき、ふつうに暮らしていたいんです。お金に困らず外食したり、好きなものを買ったりする生活がしたい。そのために一生懸命頑張っています。──その目標のために選ぶ道のりとしてはかなりハードなように思います。以前、芸能界を辞めるかどうか迷っていたとき、アイドル業と両立するのではなく、舞台だけをやってみたらどこまでやれるのか試したことがありました。その時お世話になった少年社中の毛利(亘宏)さんに「あなたは素晴らしいよ」と言ってもらって、初めて自分個人に声をかけてもらったと思ったんです。舞台という場所で希望をもらったから、これからも舞台で頑張りたい。それがお世話になった人たちへの恩返しにもなるんじゃないかと思っています。取材・文:釣木文恵撮影:源賀津己衣装協力/Y’s、Y’s × Dr.Martens、BRAND SELECTスタイリング/津野真吾(impiger)公演情報KERA CROSS第三弾『カメレオンズ・リップ』作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出:河原雅彦音楽:伊澤一葉出演:松下洸平 / 生駒里奈 / ファーストサマーウイカ / 坪倉由幸 / 野口かおる / 森準人 / シルビア・グラブ / 岡本健一【東京公演】2021年4月2日(金)~2021年4月4日(日)会場:THEATRE10102021年4月14日(水)~2021年4月26日(月)会場:シアタークリエ【福島公演】2021年4月11日(日)会場:南相馬市民文化会館 大ホール【大阪公演】2021年5月2日(日)〜5月4日(火・祝)会場:サンケイホールブリーゼ【愛知公演】2021年5月6日(木)会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール【新潟公演】2021年 5月15日(土)会場:長岡市立劇場チケット情報
2021年04月02日ケムリ研究室の第二回公演「砂の女」が2021年8月〜9月に東京・兵庫で上演されることが決定した。2020年劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と、女優・緒川たまきが結成した演劇ユニット「ケムリ研究室」。2020年9月、旗揚げ公演として『ベイジルタウンの女神』を上演し、KERAが描いたロマンティック・コメディがコロナ禍にあった観客の張り詰めた気持ちを弾ませ和ませ大きな反響を呼んだ。今作では作風が一転。全く異なる趣の、ケムリ研究室の新たな実験が始まる。安部公房の小説「砂の女」を原作とし、KERAが上演台本と演出を担当。「砂の女」は1962年に書き下ろされ、近代日本文学の傑作と評されるとともに世界20数カ国で翻訳され、“安部公房”の名を世界に知らしめた作品である。出演には、KERAとともにケムリ研究室の主宰である緒川をはじめ、数々のKERA作品に出演してきた仲村トオル、そしてオクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲、とKERAの信頼が厚い俳優陣が顔を揃えた。主人公は、ある砂丘へ昆虫採集に出かけた男。彼は砂穴の底に埋もれる一軒家を訪れることになる。そこには一人の寡婦が住んでいた。家の中にはひっきりなしに砂が流れ込み、女はひたすら砂を掻き出し続けている。男は脱出を試みるが、女や村人たちに逃げ道を阻まれ、閉じ込められてしまうのだった。複雑怪奇な作品かと思いきや、リアルな心理描写や肌ざわりが、読むものを惹きつけて離さず、その顛末がどうなるのか気になって仕方がない中毒性を持つ「砂の女」。公演についての最新情報は、キューブHPにて順次公開される。また、公演に先んじて、6月にはケムリ研究室主催のリーディング&トークイベントの開催も決定した。詳細は続報を待とう。■『砂の女』上演にあたってケムリ研究室にとって『砂の女』はある種の憧れに満ちた題材です。絡めとられた男、絡めとった女、欲望剥き出しの村人たち、そして砂-。強烈なイメージの数々。安部公房氏の長編小説『砂の女』が、読者のその後の空想の中で自由に育ち続けているように、ケムリ研究室による舞台『砂の女』もまた、妄想と実験精神たくましく育てあげる所存です。刺激的な時間をご来場の皆様とご一緒に過ごせることを楽しみにしています。ケムリ研究室ケラリーノ・サンドロヴィッチ緒川たまき【公演情報】■ケムリ研究室no.2『砂の女』原作:安部公房上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演: 緒川たまき、仲村トオルオクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲公演日程:8月22日(日)〜9月5日(日)会場:シアタートラム※9月兵庫公演あり東京公演チケット一般発売:2021年7月予定公演の最新情報はこちら: お問い合わせ:キューブ(03-5485-2252)企画・製作:キューブ■ケムリ研究室『砂の女』を研究する 〜リーディング&トーク〜開催日程:6月11日(金)会場:LOFT9 Shibuya出演:緒川たまき、ケラリーノ・サンドロヴィッチお問い合わせ:LOFT9 Shibuya(03-5784-1239)
2021年03月19日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)の過去の戯曲を、新たなる演出家が異なる味わいに創り上げる人気企画「KERA CROSS」。その第3弾『カメレオンズ・リップ』を、河原雅彦が手がける。そこで河原と主演の松下洸平のふたりに話を聞いた。17年前、気鋭の劇作家として注目を集めていたKERAが、Bunkamuraシアターコクーン初進出作として上演したのが、この『カメレオンズ・リップ』。河原は本作を選んだ理由について、「まだ若かったKERAさんの、しかもコクーン初進出だっていう筆の勢いのある作品ですよね。たぶんKERAさん自身、整合性や分かりやすさをあえて気にせず書いていた部分もあるんじゃないかなと。その煙に巻くような、わけわからなさに僕は惹かれたんだと思います」と説明する。松下はDVDで初演を見た印象を、「作品全体からはもちろん、俳優の皆さん一人ひとりのエネルギーがバシバシ伝わってきて!すごくカッコいいなと思いました」と目を輝かせ、さらに「その『カメレオンズ・リップ』を今度僕がやる時、どれだけのエネルギーを作品に対して注ぎ込むことが出来るのか。自分自身すごく楽しみですし、それが作品の面白さに繋がればいいなと思います」と意気込む。まるで呼吸するかのように嘘をつき続ける姉のドナと、そんな姉を心から慕う弟のルーファス。前回堤真一が演じたこのルーファス役を任された松下は、「僕が見た『カメレオンズ・リップ』は、ものすごく完成度の高い素晴らしい舞台でした。だからこそ僕は、いかにそこに縛られず、今回集まったキャストの人たちと、芝居を通して感じたことをそのまま素直に出せるのか。とにかくそれに尽きると思います」と、役へのシンプルな想いを吐露する。ドナと、ドナにうりふたつのエレンデイラを演じる生駒里奈について、「ずっとお仕事したいと思っていて」と河原。続けて、「洸平くんがすごく弟感のある人である一方、すごくお姉さんで、しっかりしていて面白いのが生駒ちゃん。だから年齢的には逆ですけど、もうこのふたりでやっちゃえと思ったんです(笑)」と、姉弟役のキャスティング意図を明かした。また河原は、「初演を初めてみた時、いろんな意味であまりに贅沢過ぎて、あっこのままじゃ出来ないなと思ったんです」と驚きの告白。「でも美術プランから何から、一から考えられるという意味で、逆によかったなと。今回集まってくれたメンバーは皆さんデタラメに魅力的だし、音楽を担当してくれる伊澤一葉さん(東京事変・the HIATUS)もとても作品にマッチしている才能なので、なにかと刺激の嵐ですよ」と笑うその顔には、本作にかける河原の強い決意と自信が滲み出ていた。取材・文:野上瑠美子スタイリスト:渡邊圭祐ヘアメイク:五十嵐将寿衣装:中綿シャツ¥36,000、パンツ¥33,000/ともにエドウィナホール
2021年02月12日2019年6月に世田谷バブリックシアターにて、オリジナルキャストで再演された「世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009『キネマと恋人』」がDVD化されることが分かった。1936年(昭和11年)の秋、東京から遠く離れた、ちいさな「梟島」の、ちいさな港町の唯一の映画館で繰り広げられる物語。映画だけを唯一の楽しみとしているハルコは、「間坂寅蔵」を演じる高木高助という俳優がお気に入りだったが、ある日突然、銀幕の向こうにいたはずの「間坂寅蔵」が目の前に現れる……。ファンタジックでペーソス溢れるロマンティックコメディであり、キャスト陣のチームワークによる巧みなステージングと舞台美術、映像技術の融合により、ビジュアル性の高い演出で観客を驚かせた。この度のDVD化は、台本・演出のケラリーノサンドロヴィッチの完全監修の下、作品の魅力を余すことなく収めるべく映像作品としたもの。副音声には、妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえ、KERAによる豪華コメンタリーも収録。当時の、バックステージや舞台上での思い出など、臨場感溢れる楽しいトークが収録されている。さらに特典映像にはキャスト、スタッフのインタビューなども収録され、盛り沢山の内容となっている“決定版”。販売は、2020年12月23日(水)正午〜2021年1月31日(日)キューブメルマガ会員「cubit club plus」サイトにて、期間限定先行予約販売(ポストカード付き)後、同サイトにて一般発売開始予定。ケラリーノサンドロヴィッチのコメントは、以下の通り。「今も私の家には『キネマと恋人』再演版のポスターが貼ってあります。眺めるだけで豊かな気持ちになり、元気をもらえるからです。“舞台は生でなくては”の持論は変わらないものの、残せないよりは残せた方がいい。再演時はDVD化がスルーされることが多い中、『キネマと恋人』は2016年の初演版に引き続き、2019年の再演版もDVD化できるのは無常の悦びです。この度は、初演版に較べカメラ台数が増えたことで、毎度編集を監修させて頂いている身としては、グッと観せ方に幅を出すことができました。コメンタリー等の特典も充実しております。しかしなんと言っても、初演との一番の違いは、作品の完成度であります。俳優陣の芝居もステージングもスタッフワークも格段の進歩を遂げてます。初演DVDをお持ちの方は、ぜひとも観較べてみてください」■商品概要世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009『キネマと恋人』DVD台本・演出:ケラリーノ・サンドヴィッチ出演:妻夫木聡、緒川たまきともさかりえ三上市朗、佐藤誓、橋本淳尾方宣久、廣川三憲、村岡希美崎山莉奈、王下貴司、仁科幸、北川結、片山敦郎映像出演:野村萬斎、奥村佳恵2019年6月収録 世田谷パブリックシアター価格:¥7,500(税別)【特典映像】★キャスト・スタッフインタビュー(妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえ、三上市朗、佐藤誓、橋本淳、尾方宣久、廣川三憲、村岡希美、上田大樹、小野寺修二、ケラリーノ・サンドロヴィッチ)★副音声コメンタリー(妻夫木聡×緒川たまき×ともさかりえ×ケラリーノ・サンドヴィッチ)※B6判ポスター封入志磨遼平(ドレスコーズ)劇評掲載本編193分 特典映像49分 / Qbix-SD69 / MPEG-2 / COLOR / 本編:片面・2層特典:片面・1層 / 本編 ステレオ 特典映像 モノラル※2020年12月23日(水)正午〜2021年1月31日(日)キューブメルマガ会員「cubit club plus」にて、期間限定先行予約販売後、一般発売予定。詳細は cubit club plus サイトにて確認
2020年12月23日ハリウッドでコメディの巨匠といわれる映画監督、メル・ブルックス。彼が手がけた『プロデューサーズ』は、ブロードウェイの落ち目のプロデューサー・マックスが、金目的で失敗確実な最低ミュージカル制作に奔走するコメディ。なんとそのミュージカルに、このたび井上芳雄さんが初挑戦。ミュージカル界のプリンスといわれたその人が、下世話なミュージカルで詐欺まがいの金儲けを企むプロデューサー役とは驚きだ。馬鹿馬鹿しい笑いに本気で取り組む、僕らのエネルギーを感じてほしい。「役って巡り合わせだと思うんです。確かにこれまでやってこなかったタイプの役で、勝算はとくにない。でも、チャンスがあるならどんな役でもやってみたいし、この役を自分にと思ってくれた人がいるならば挑戦したい。そもそも自分に合うと言われた役でも楽ではなかったですし」演出は、今や日本を代表するコメディ監督・福田雄一さん。ふたりは、3年前からミュージカルを題材にしたコメディ番組『グリーン&ブラックス』(以下、グリブラ)でタッグを組んできている間柄だ。「グリブラは、最初の台本の読み合わせの段階から、キャストが思いついた面白いことをどんどん足していく現場なんです。面白いことを思い切りやったものからつまんで一本のコントに仕上げる。福田さんは、その面白いことが出てくる空気を作るのがうまい演出家なんです。大胆さと繊細さを持ち合わせている感じ」翻訳もののコメディの難しさは、日本とは国民性や文化はもとより、笑いの質自体が違うこと。福田さんが手がけてきた海外コメディは、単なる翻訳ではなく、笑いの部分を日本向けのものへ転換したものが多い。「福田さんのやり方も、海外コメディを上演する上での可能性のひとつだと思います。でも、以前にケラリーノ・サンドロヴィッチさんの舞台に出たとき、セリフのテンポや抑揚でこんなに面白くできるんだってことを知って。かなり馬鹿馬鹿しい話ですし、作品自体の面白さと福田さんの笑いとのバランスを、いい感じに探れればと思っています」じつは井上さん、20代の頃から「笑いがどうやって生み出されるのかをずっと考えてきた」という。「いろんな場でしゃべる機会をいただいてきて、トークで笑いを起こす法則みたいなものは、なんとなくわかってきた気がするんですよ。でも、役を演じるなかで、小手先じゃ到底到達できない笑いが生まれることがあって、それは確実にホンの力なんですよね。もちろん役者の技術も空気感も大事ですから、今回そこに到達できたらなと思っているんです」今回、マックスの相棒・気弱な会計士のレオを、吉沢亮さんと大野拓朗さんがWキャストで演じることに。「吉沢さんはこれがミュージカル初挑戦だそうですが、素敵な声をしてますし、歌にもダンスにもストイックで熱意を感じます。大野くんは、演技を学びにNYに行ったり、広い視野で物事を見ている。持ち味が全然違う、いいWキャストですよね」今年、コロナ禍で出演を予定していた公演が次々と中止になった。これまでは数年前から決まっている仕事で予定が埋まっていたが、目の前の予定が空白に。そこで「初めて自分に何ができるかを考えた」そう。「これまでは受け身のなかでどう頑張るかだったのが、いろんな可能性が生まれてきて、思いもよらないことに挑戦できました。ただそれを見てくださる方々がいるのも、この世界で20年やってきたこのタイミングだからこそ。そういう意味で僕はラッキーなのかもしれません」大声で笑うことが憚られるこの時期に上演される爆笑コメディだ。「刺激の強い笑いですが、だからこそ触発される感情もあるはず。馬鹿馬鹿しい笑いに出演者全員が本気で取り組んでいる、そのエネルギーを感じていただければと思います」ミュージカル『プロデューサーズ』破産寸前のブロードウェイのプロデューサー・マックス(井上)は、会計士・レオ(吉沢・大野)から、成功した公演より失敗した公演のほうが利益を生んでいると聞き、故意に失敗作を作ろうと画策する。11月9日(月)~12月6日(日)渋谷・東急シアターオーブ脚本/メル・ブルックス、トーマス・ミーハン音楽・歌詞/メル・ブルックスオリジナル振付/スーザン・ストローマン演出/福田雄一出演/井上芳雄、吉沢亮・大野拓朗(Wキャスト)、木下晴香、吉野圭吾、木村達成、春風ひとみ、佐藤二朗ほかS席1万3500円、A席9000円、B席4500円(すべて税込み)東宝テレザーブ TEL:03・3201・7777いのうえ・よしお1979年7月6日生まれ。福岡県出身。福田雄一監督とのミュージカルコメディ番組『グリーン&ブラックス』は、現在WOWOWにて放送中。来年3・4月には舞台『日本人のへそ』への出演も控える。ジャケット¥48,000パンツ¥23,000(共にLANVIN en Bleu/ジョイックスコーポレーション TEL:03・5213・2532)その他はスタイリスト私物※『anan』2020年11月11日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・吉田ナオキヘア&メイク・川端富生インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年11月10日劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と、妻で俳優の緒川たまきが、「ケムリ研究室」なるプロデュース・ユニットを旗揚げ。その第一回公演となる『ベイジルタウンの女神』が、9月13日(日)に開幕する。コロナ禍に揉まれた春、開幕寸前に公演中止となった『桜の園』の無念も記憶に新しいKERA。だからといって、歩みをゆるめる彼ではまるでない。KERA作品常連俳優陣によるコントムービーの製作や、あらゆる工夫をこらしたリーディングアクトの配信公演の敢行など、実に彼らしい創作のいくつかを観客に届けた。そんな彼の次なる一歩は、パートナーである緒川たまきとの連名で立ち上げる新ユニット「ケムリ研究室」の始動である。「ケムリ研究室」ロゴKERAの作品作りにはもはや欠かせない存在である緒川。出演者としてのみならず、作り手同士としての意見交換も大いに行われてきたという。そんな彼女が満を持して、共作者として操縦桿を握る本作。KERAのSNSを見ていると、その稽古が上演の実現に向けて、祈るように重ねられていることがわかる。稽古しながら上演が叶わないことの悔しさを、知っている人による言葉たちだ。その旗揚げ作は、KERAの書き下ろし新作『ベイジルタウンの女神』。仲村トオルや水野美紀、犬山イヌコら常連組と、吉岡里帆や松下洸平、高田聖子ら初参加組が入り乱れる布陣だ。山内圭哉や菅原永二、温水洋一ら、小劇場で磨き抜かれた個性派の参戦にもにんまりさせられる。もちろん、小野寺修二のステージングや、上田大樹による映像とのコラボレーションはここでも万全。始まりの予感と熟練の仕事が入り交じる舞台だ。9月22(火祝)18時の回は「PIA LIVE STREAM」での生配信が決定。本編休憩時間と終了後には、キャストによる座談会も予定されている。公演は9月27日(日)まで世田谷パブリックシアター。兵庫、北九州公演あり。文:小川志津子
2020年09月12日何気ない会話に思わずクスッとしたりニヤリとしたり。ナンセンスでシュールな笑いを紡ぎ出す劇作家で演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さん。そのKERAさんが女優・緒川たまきさんと共に、新ユニット「ケムリ研究室」を立ち上げた。旗揚げ公演の『ベイジルタウンの女神』に出演するのは、いまやすっかりKERA作品の常連女優となった水野美紀さん。「針の穴に糸を通す難しさ。だけどすごく楽しいです」「10数年前に初めてKERAさんの舞台を観た時、頭では何がどう面白いのかわからないのにすごく面白いという体験をしたんです。この面白さをちゃんと理解したくて、KERAさんが影響を受けたという別役実さんとか、その別役さんが影響を受けたベケットにまで興味が広がって、その周辺の本をいっぱい読みました。シュールな笑いの歴史と奥深さを知って、さらにハマりました(笑)」しかし、その水野さんをして、会話の微妙な間のズレや空気感で笑いを起こす作品は、まるで「針の穴に糸を通すような感覚」とか。「とにかく細かく計算してセリフが書かれているから、脚本を読むだけでも十分面白い。でも本当のすごさは、文字以外の透明なところにあるんですよね。たとえば、子供っぽいキャラクターのセリフに『相手にバレてないと思っているんだけれど、無意識に心が大きく動いて、それが表に出てしまう感じで』と演出をつけられる。すっごい繊細なところまで大事にされて作り込んでいる。ちょっとした声の音量やトーンでニュアンスがガラッと変わって、面白さが蘇ってこなくなることもあるので、毎回がすごいプレッシャーです」それでも「やっててすっごい楽しいですよ」と笑顔を見せる。いまやすっかり“演劇人”だ。「たぶん、自分の本来の資質には舞台が合うんだと思います。でも2か月近くコツコツ稽古して本番をやると、今度は映像の作品も楽しくなる。映像は瞬発力が必要な現場ですが、意識しなくても体に染み込んだものが感覚的に出せるようになっていて、舞台で鍛えられてるんだなと」近頃はドラマ『浦安鉄筋家族』などでの振り切った演技も話題だ。「監督の意向にもよりますが、毎回台本をいただいてから、これをベースにどれくらい遊べるかを考えるようにしています。頭の中で練って、リハーサルでいろんなパターンを出してみる。それも舞台で培ってきたもの。ただ最近、“面白くしてくれるんでしょ”っていう現場の無言の期待を感じて、それが辛い。まあ自分で蒔いた種なんですけれど(笑)」ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』上流階級の家庭に生まれ育ち、現在は大企業の女社長を務めるマーガレット(緒川)。貧民街の再開発計画を進めていた彼女は、ひょんなことからそこで暮らす羽目になってしまい…。9月13日(日)~27日(日)三軒茶屋・世田谷パブリックシアター作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演/緒川たまき、仲村トオル、水野美紀、山内圭哉、吉岡里帆、松下洸平、尾方宣久、菅原永二、植本純米、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子ほかS席1万2000円A席8800円ほか(すべて税込み)キューブ TEL03・5485・2252(月~金曜12:00~18:00)兵庫、北九州公演あり。みずの・みき1974年6月28日生まれ、三重県出身。ドラマ『踊る大捜査線』シリーズで注目され、数々のドラマや映画で活躍。2002年に劇団新感線『アテルイ』で初舞台を踏む。現在放送中のドラマ『真夏の少年~19452020』に出演。※『anan』2020年9月9日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年09月05日演劇界を牽引する劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と女優・緒川たまきが立ち上げたユニット「ケムリ研究室」の旗揚げ公演、新作『ベイジルタウンの女神』が、9月13日(日)より、世田谷パブリックシアターで初日を迎える。この度、本舞台の9月22日(火・祝)18時開演回(追加公演)が生中継配信されることが決定した。出演は、緒川たまき、仲村トオル、水野美紀、山内圭哉、吉岡里帆、松下洸平、尾方宣久、菅原永二、植本純米、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子など。新作ごとに異なる魅力を放つKERAの待望の新作とあって、チケットは争奪戦必至だ。この度の生中継配信は、コロナ禍の影響で今年既に2本の舞台の中止を経たKERAの「来場できない状況の方にもご観劇頂ける機会を」という思いが発端となった。配信は、「PIA LIVE STREAM」と「WOWOWオンデマンド」で視聴可能。「PIA LIVE STREAM」は、チケットぴあの購入ページより視聴チケットを購入し視聴。「PIA LIVE STREAM」配信では、公演生配信に加え、キャスト座談会映像を併せて収録配信予定だ。「WOWOWオンデマンド」は本編配信のみ、WOWOWの加入者対象の配信となる。「PIA LIVE STREAM」配信のチケットは、9月5日(土)より、チケットぴあ にて発売開始。なお、この日は、『ベイジルタウンの女神』東京公演の後半日程の一般チケット発売日であり、9月22日(火)の追加公演の劇場の観劇チケットもこの日に同時発売される。物語は、ふとした事から貧民街で暮らすことになった、俗世知らずの女社長を巡るロマンティック・コメディ。実力派のキャスト陣がどんな群像劇を繰り広げるのか。幅広い層の観客が楽しく笑えるコメディ作品になるとのことだが、「ケムリ研究室」が届ける笑顔の時間を、劇場で、それぞれの場所で、ひととき共有できればと思う。『ベイジルタウンの女神』9月22日(火・祝)18時開演公演中継生配信「PIA LIVE STREAM」※本編休憩時間&終了後にキャスト座談会付き(予定)予定キャスト・緒川たまき×仲村トオル×水野美紀・温水洋一×犬山イヌコ×高田聖子・山内圭哉×吉岡里帆×松下洸平視聴チケット料金:¥4,000(税込)※生配信のみ。アーカイブ視聴無し視聴チケット販売期:2020年9月5日(土)10:00〜9月22日(火・祝)19:30まで(要チケットぴあ会員登録)※公演の途中からご視聴頂く場合でも、巻き戻し再生はできませんので予めご了承ください。チケット販売ページ ※ご視聴方法、推奨環境、等詳細、お問い合わせにつきましては、 PIA LIVE STREAM( ) のページにてご確認ください。「WOWOWメンバーズオンデマンド」※本編生配信のみ。アーカイブ視聴無し詳細 ■『ベイジルタウンの女神』公演詳細情報ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』公演概要●スタッフ作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ振付:小野寺修二映像:上田大樹音楽:鈴木光介●キャスト緒川たまき、仲村トオル、水野美紀、山内圭哉、吉岡里帆、松下洸平、望月綾乃、大場みなみ、斉藤悠、渡邊絵理、荒悠平、高橋美帆、尾方宣久、菅原永二、植本純米、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子(※高橋美帆の「高」は、はしご高)公演日程【東京公演】9月13日(日)〜27日(日) 世田谷パブリックシアター※未就学児の入場はご遠慮ください。※車椅子でのご来場は事前にキューブまでご連絡ください。●チケット料金S席12,000円A席 8,800円学生割引席6000円●チケット一般発売日9/13(日)〜20(日)の公演→8/22(土)発売9/21(月)〜27(日)の公演→9/5(土) 発売●お問合せ(東京公演)株式会社キューブ03-5485-2252(平日12:00〜18:00)
2020年09月04日●念願の三木聡監督との初タッグに喜び日本を代表する5組の監督とキャストが“緊急事態”をテーマに自由な発想で撮り下ろしたオムニバス映画『緊急事態宣言』(28日よりAmazon Prime Videoにて独占配信)の一編に、「第43回高崎映画祭」での最優秀主演女優賞受賞も記憶に新しい女優の夏帆が出演した。世界中をパニックに陥れている新型コロナウイルス感染症の影響は日本でも例外ではなく、政府による「緊急事態宣言」の発出、「外出自粛」「三密回避」「テレワーク導入」など人々の生活は一変したが、このような緊急事態の最中で生まれた『緊急事態宣言』は、この未曽有の“緊急事態”の記憶を、あるいはそれがもたらした変化や意味を、5人の監督たちの手で「映画」 の形へと刻み込む試みだ。夏帆は、三木聡監督の短編『ボトルメール』に出演。コロナ第二波が来る少し前、不倫で仕事を干された女優・鈴音の下に謎のメールが届き、その指示に従って出かけた新作映画の主演オーディションで見事合格するも、予測不能な運命に巻き込まれていくというストーリー。もともと憧れだったという三木監督作品に初参加した夏帆に、作品のこと、コロナ禍の影響を受けるエンタメ界のことなど、さまざまな話を聞いた。――観る人によって受け止め方がさまざまな、すごく不思議な作品だと思いますが、夏帆さんは本作の魅力をどう感じていますか?最初に脚本をいただいた時に「これは一体どういうことなのだろう」と思いました。すごくシュールで不条理で。私は三木さんの作品がすごく好きで、三木さんとご一緒してみたいという思いで今回参加したので、自分としては三木組に参加できたということだけでうれしかったんですけど、観る人はどんな風にこの作品を受け取るのか、すごく気になるところではあります。――三木監督の作品へは、憧れに近い思いを抱いていたそうですね。三木監督にしか出せない空気感や笑いがありますよね。そういう世界観がシンプルに好きだったということもあって、いつか三木組に参加することができたらと思っていたんです。――実際に参加してみていかがでしたか?3日間という短い期間での撮影で、もう少しこの現場にいたかったなっていうところで終わってしまったのですが、すごく楽しかったです。そもそもの台本が面白いので、それを表現していく過程も演じていて面白かったです。その独特の空気感をお芝居として表現することは難しかったのですが、ちょっと違うってなったら的確に演出してくださいますし。ただ、なんとなくリズムがつかめてきたな、というところで終わってしまったので、もう少し鈴音を演じていたかったというのが正直な感想です。――演じられた鈴音は夏帆さんと同じ女優ですが、役作りで意識したことはありますか?この作品ではどういうトーンで演じていけばいいのか、台本を読みながら作品の全体像を想像し、そこから役を作っていった感じです。つかみどころのない作品でもあるので難しいなとは思いましたが(笑)、三木さんがどういうイメージで撮りたいのか自分の中で想像してキャラクターを作っていきました。――よく言う自分に近い遠い、みたいな分析ではないわけですね。今回は、自分のよく知っている身近な職業なので、むしろ意識しないくらいでした。自分が知らない職業の人を演じる場合、事前にいろいろと勉強するのですが、女優の仕事はよく知っているので、自分と重ねるとかではなく、作品の中でどういう風にこのキャラクターが動いていくのかというところから人物を作っていった感じです。――鈴音は不倫で仕事を干された設定ですが、その点は何か意識しましたか?三木監督が言われていたことは、単純に最初から追い詰められているという状況を表現するためだったそうです。約30分という短い尺なので、最初にすぐ追い詰められていることがわかるように、コロナという状況下なだけではなく、不倫をして干されて仕事がなく、その結果、ボトルメールの誘いに乗っかるというように物語に入っていく。そのために不倫という設定を使ったそうなので、それ以上に特別意識するということはなかったです。●コロナ禍での撮影裏話とエンタメ界への思い――今回のプロジェクトですが、コロナ禍における自粛明けの撮影ということもあり、それまでの撮影スタイルとは違っていましたか?毎朝検温する、常に消毒する、マスクをつける、普段の現場よりスタッフが少人数であったり、芝居している中でも距離感の取り方だったり、そういう違いはありました。作品の中でどういう風にソーシャルディスタンスを取って芝居をしていくのかということは、ストーリーそのものにもあったので、そういう意味では前例のない作品になっていると思います。――リモートではなかったのですか?三木組はリモートではなく、実際に現場で撮影しました。――今まで通りではない、新しい生活様式の下での撮影について、戸惑いなどはありましたか?今までの現場ではなかったことに対する戸惑いがまったくないかと言うとウソになるのですが、今回ひとりでの芝居が多かった一方、相手の方がいる時の自分との距離感については、監督が考えてくださいました。どう距離感をもって画面の中の画を作ってくのか、その人物の距離感の図り方は監督から演出を受けていたので、お芝居をする上ではそこまで戸惑いはなかったですね。――なるほど。それでおひとりのシーンが多かったのかも知れないですね。それは新鮮な体験ではなかったですか?そうですね。今思うと、新鮮だったような気もします。大変だなっていう感じではなかったです。私自身も、新しいことを受け入れられるタイプでありたいなとは思っています。――映画界を含め、エンタメ界は厳しい状況に追い込まれていますが、その中心にいる当事者として、現況をどう受け止めていますか?特にライブや舞台、映画館もクローズしていましたし、今も半分しかお客さんを入れられないとか、大変な思いをしている方がたくさんいらっしゃることは現実としてあると思います。ただ、悲観的なことだけでなく、今だからできることがあるはずで、それこそ今回の作品も、今だからこういう作品が作れるわけで、そういうスタイルで新しいものを作っていけたらなと思っています。日に日にいろいろなことが変わっていってしまうなかで、この先どうなってしまうのかという漠然とした不安はありつつ、エンターテインメントの世界はなくならないと思っています。――エンタメの必要性を感じる期間でもありましたよね?そうであってほしいですよね。形は変わってもエンターテインメントの世界は残ってほしいです。――ステーホーム期間中はどう過ごしていましたか?そのままですけど家にいて、忙しい時にできなかったことを、たとえば読書をしたり、英語の勉強をしたりしました。でも自分だけではなく、周囲も全部ストップしていたので、穏やかではありました。自分だけが止まってしまうと焦りが生まれてしまったかも知れないのですが、そういう現実として受け入れていましたね。――コロナ禍を受けて、仕事への想いや意識に変化はありましたか?私の仕事は求められないとできないものなので、今はいろいろなことが変化している最中でどうなるかわからないのですが、今回『ボトルメール』で久しぶりに撮影現場に行けて、純粋にすごく楽しかったんです。――素敵ですね。仕事を愛していた自分に気づいたような?そんなカッコいいものではないですけどね(笑)。でも三木組に参加できたことが、シンプルにうれしかった。だから、すぐ仕事したいなって思いもありつつ、時間があるのであれば、次の作品のために何かを勉強したり、未来の自分のために時間を使いたいなって思います。――そういう思いがつまった『ボトルメール』ですが、待っているファンの方々にメッセージをお願いします。観てくださる方たちが、どんな風に作品を受け取ってくださるのか分からないですが、何か肯定的にでも否定的にでも反応してもらえればいいなと思います。どういう風に観るかは自由なので、フラットな気持ちで観ていただければなと思います。ほかの作品を私もまだ観ていないのですが、これだけの監督とキャストが集まって、この短期間にどういうものが作られたのか、私も楽しみにしています。■夏帆1991年6月30日生まれ、東京都出身。初主演映画となった『天然コケッコー』(07)で、第32回報知映画賞新人賞、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、演技派女優として多彩な作品に出演を重ね、2012年には、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の「祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹から」で舞台にも初挑戦した。2015年、是枝裕和監督の『海街diary』が第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2020年、主演作『ブルーアワーにぶっ飛ばす』では演技が高く評価され、第43回高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞するなど、日本映画界を代表する女優のひとりとして活躍中。公開待機作として『喜劇 愛妻物語』(2020年公開予定)がある。(C) 2020 Transformer, Inc.
2020年08月29日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が、パートナーでもある緒川たまきと共に、新たなユニット「ケムリ研究室」を立ち上げ。その第1回公演『ベイジルタウンの女神』の本格始動を前に、KERAに現在の構想を聞いた。【チケット情報はこちら】緒川とのユニットについて、「8、9年前から考えていたこと」と振り返るKERA。というのも緒川は、すでに数々の作品で、KERAのブレーン的役割を担ってきている。「『百年の秘密』とか、ちょっとヘビー目な人間ドラマに関しては、彼女の力がかなり大きいです。でもこれまではすべてノンクレジット。だから共作しているって部分をもっと堂々と打ち出せるものがあってもいいんじゃないかなと。緒川さんからは、『将来的には野外劇やテント芝居もやるぐらいの挑戦的なユニットになれれば』なんて話も出ていますし、ともかくフレキシブルに動けるユニットでありたいんです。」今回緒川が演じるのは、父親の会社を成り行き上継ぐことになった女社長。そんな彼女がなぜか貧民窟で暮らすことになり……というファンタジック・コメディだ。「これまで僕が緒川さんに当てて書いた役って、もともと彼女の中にあるものを拡大していたんですよね。でも今回に関しては、本人にとって若干やり難いところにも踏み込んでもらおうかなと。その方がやりがいもあると思いますし。コメディとしては、ニヤニヤ、クスクス、そしてたまにゲラゲラみたいなところを狙っていけたらと思っています」第1回公演ということで、「幅広い人に受け止めてもらえるような、賑やかで、明るくて、観た後にハッピーな気分になれる作品に仕上げたい」とも語るKERA。その想いは、仲村トオルや水野美紀、吉岡里帆に松下洸平といった、豪華なキャスト陣からも伺うことが出来る。だがこの時期の上演で何よりも気がかりなのは、やはりコロナ問題。「台本を書くとか、その前の段階ですよね。もし台本をフルに書いて上演中止なんてことになったら、今回はちょっと立ち直れないかも……。でも中途半端なものには出来ませんし、自己暗示をかけてでも「やれる」と信じてやっていかないと。もちろん安全第一でね。」また現在、『ケラリーノ・サンドロヴィッチ自選戯曲集1・2』が発売中のKERA。「印刷物フェチ」を自称する彼のこだわりが詰まった2冊で、「自分の仕事が紙で残せることが個人的にすごく嬉しい」と笑みを浮かべる。旧作の戯曲を読みつつ、新作舞台の無事の開幕を、一ファンとしても切に願いたい。9月13日(日)から27日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演後、兵庫、北九州を巡演予定。チケットぴあでは8月10日(月・祝) 23:59まで東京公演の先行抽選プレリザーブ受付中。取材・文:野上瑠美子
2020年08月04日又吉直樹が芥川賞に輝く『火花』の前から書き始めていた2作目の同名小説を、山崎賢人と松岡茉優の共演で映画史した『劇場』。売れない劇作家・永田と彼の才能を信じて寄り添う沙希の7年を描く原作を読んだ直後に、メガホンをとった行定勲監督は「これは自分が撮りたい」と思ったという。監督をそこまで駆り立てたのは何だったのか? 映画にするときに、いちばん重きを置いたのはどこだったのか?そして、永田に山崎賢人、沙希に松岡茉優をキャスティングした理由と、彼らが映画にもたらしたものとは?完成した映画に対する思いがけない反響への感想とともに、行定さんが映画『劇場』のすべてを余すことなく語ってくれた。行定勲監督永田(山崎賢人)は友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本と演出を担当していたが、前衛的な作品はことごとく酷評され、客足も伸びず、劇団員も離れていってしまう。そんな過酷な現実と演劇に対する理想との間で苦悩し、孤独を感じていた彼は、ある日、街で自分と同じスニーカーを履いていた沙希(松岡茉優)に声をかける。それが永田と、女優になる夢を抱きながら上京し、服飾の学校に通う学生・沙希との恋の始まりだったが……。そんなふたりの7年の恋の軌跡を、原作そのままに“演劇の街”として知られる東京の下北沢を舞台に映画化した『劇場』。行定勲監督のインタビューは、作品を観たスタッフや自分自身の思いがけない衝動の話から始まった。又吉直樹の原作『劇場』を手にしたとき、思ったこと――『劇場』を拝見して、自分も身に覚えのあることがいっぱい描かれていると思いました。そう言う人は多いですね。スタッフの中にも初号試写の前のラッシュを観終わったときに、号泣しながら「今晩、うちのかみさんを抱いてやろうと思いました」って言った人がいましたからね(笑)。でも、僕自身はあまりそういう映画だとは思っていなかったんです。――でも、行定さん自身も身に覚えのあることが描かれているんじゃないですか?僕はこれまで『GO』(01)や『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)など周りから「泣ける」と言われる映画を作ってきたけれど、初号試写のときにあんなにスタッフの嗚咽やしゃくり上げるような音に取り囲まれる経験はしたことがなくて。自分自身もダビング作業の最後に通しで観たときに嗚咽に近い状態になったから、どうしてだろう?って思ったんです。――思いがけない衝動だったわけですね。そうですね。原作が又吉直樹さんの半自伝的なものであるのは間違いないと思うんですけど、だから、男と女の“どうしようもなさ”がひとつひとつ具体的なエピソードに落とし込まれている。それを観ながら、嗚咽と言うか、俺もこの感情は全部分かるな~と思ったんです。俺もやってきたことだから。いや、いまもやっていることかもしれない。――男と女の“どうしようもなさ”は行定さんがこれまでの作品でも描いてきたものですしね。それこそ、誠実に向き合おうとしている男女のほぼふたりだけのミニマムな話の映画をいつか作ってみたいと思っていましたけど、僕がそれを、自分の恋愛で経験した記憶をたどりながらオリジナルの脚本で書いたとしても成立しないですよ。話が小っちゃ過ぎるし、僕が思い描くような画にはならない。でも、又吉さんの原作を読んだ瞬間に、これなら商業映画にできる!って正直思ったんです。逆に言うと、又吉直樹の名前がなければ、こんなに小さくて地味な話は絶対に映画にできない。男と女が六畳一間の部屋の中にいて、大したドラマもない中で淡々と進んでいくような映画は又吉さんがいなかったらできないことだし、オリジナルでもちょっと怖くて挑めない。この機会を逃したら、また数年、こういう映画を作れない、世の中に生まれないとだろうなと思ったので、「これを僕にやらせて欲しい」って立候補したんです。原作とは違う、映画のラストシーン――行定さんは、原作とはどんな風に出会ったんですか?2017年の雑誌「新潮」に最初に掲載されたときに気になって、普通に買って読みました。それで2日ぐらいで読了し、いまでも覚えていますけど、読み終わった翌々日の夕方にチーフプロデューサーの古賀俊輔さんに「俺、これ、やりたいんだけど」って電話したんです。同じ又吉さんの小説が原作のドラマと映画の『火花』(16・17)もプロデュースした古賀さんが、『劇場』の映画化も任されていたのは知っていましたからね。ただ、闇雲に手を挙げたわけではなく、ラストシーンが浮かんだのが大きかったです。――原作とは視点や見え方が違う、映画のあのラストシーンですか?そう。あれで、明確に演劇と映画が繋がる。それはどこかで必要だと思っていたんです。『劇場』は演劇の話ですけど、『趣味の部屋』(13)や『タンゴ・冬の終わりに』(15)などの舞台演出もしている僕は演劇の世界を垣間見る機会もあって、昔から演劇人とも仲がいい。助監督時代も演劇の俳優たちを監督に推薦していたけれど、もう消えてしまった俳優もたくさんいて。下北沢にはそんな演劇や音楽の世界で生きた彼らの青春の残照が感じられるし、その残照が『劇場』の永田と沙希に重なっていくんです。そういう意味で、俺には分からないことがひとつもなかった。逆に、その青春の残照をビジュアルとして『劇場』という映画の中にちゃんと残していくのはすごく重要なことだと思ったので、「これを俺にやらせてくれ」って言ったんです。でも、決まるまではずっと不安でした。古賀さんは「ちょっと考えてみる」とは言ってくれたけど、ただ受け流しただけで、別の監督にやらせるんじゃないかなって思ったりもしましたから。蓬莱竜太(劇団モダンスイマーズ)に絶対やってもらいたかった――沙希を演じられた松岡茉優さんも「劇中の舞台シーンの撮影になると、行定監督が演出家のモードになるのが面白かった」って言われていましたが、そういった意味でも、『劇場』の監督は行定さんが適任だったと思います。でも、現場が楽しかったわけではなくて、かなり細心の注意を払いました。脚本家は絶対に(『ピンクとグレー』(16)でも組んだ)蓬莱竜太(劇団モダンスイマーズ)でなくちゃいけないと思ったから、売れっ子の彼を1年待ったりもしたんです。――なぜ、蓬莱さんだったんですか?又吉さんと同じ関西出身で、下北沢やほかの土地の小劇場を経験している。僕が蓬莱と最初に会ったのは下北沢のOFF-OFFシアターでやった『夜光ホテル』(08)という舞台のとき。いまはものすごく人気のある演出家であり、劇作家ですけど、あんな小さな劇場をやっと満席にしたような時代もあったので、売れない演劇人の気分も分かるだろうし、地方出身者で、演劇一筋でやってきた彼にもどうしようもなさを感じる。だから、蓬莱にやってもらいたかったんです。――劇中劇の台本ももちろん蓬莱さんが書かれているんですよね?そこがいちばんの目的でした。劇中に主人公の永田がやっている「おろか」という劇団と人気劇団「まだ死んでないよ」の演劇のシーンが出てきますが、あの小劇場演劇のニュアンスをオリジナルで書けるところが蓬莱の強みです。しかも、やっぱり面白い。そのホンを見ながら舞台セットを作って、僕は確かに演劇モードで演出したけれど、それがやれたのも楽しかったですね。ただ、「まだ死んでないよ」の舞台を観た永田が打ちのめされるシーンは最も重要だと思っていたけれど、表現するのがいちばん難しくて。「やっぱ、俺たちとは次元が違うわ」っていうナレーションを僕は絶対に外したくないと思っていたけれど、それをどう見せたらいいのか!? 最初は実際にあるインパクトのある劇団の演劇を持ってこようかなと考えたぐらいです。――下北沢の小劇場で活躍している人気劇団の舞台をそのまま持ってこようと思ったんですね。散々観ましたね。でも、どの舞台もこの作品に当てはまらない。圧倒的なスゴさをワンシーンで見せなきゃいけないんだけど、既存の舞台ではどうにもならないから、蓬莱に「ワンシーン、書いて」って頼んで。あの最後のシーンでは蓬莱がやっている劇団モダンスイマーズの役者にも出てもらったし、浅香航大(行定監督のリモート映画『きょうのできごと a day in the home』(20)などに出演)も熱演していますけど、最悪、舞台の声をOFFにして客席の人たちのリアクションだけで見せる方法も考えていました。――あらゆるケースを想定されていたわけですね。だから、あの客席にはケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんや吹越満さんの顔が絶対に必要だった。映画監督の白石和彌監督(『孤狼の血』)や、元フジテレビの笠井信輔アナウンサーもいる。自分たちの舞台の客とは明らかに次元が違う人たちが観に来ているという状況を見せるためにも本物が必要だったし、そんなの演劇関係者にしか分からないって言われるかもしれないけれど、演劇を知っている人に嘘だって思われるのはいちばんイヤだった。それは冒涜に値するから。なので、音楽も曽我部恵一さんにオリジナルで作ってもらったし、その完璧な布陣で「まだ死んでないよ」が圧倒的に人気のある劇団ということを印象づけたんです。山崎賢人の芝居は技巧じゃないから凄い。マグマの奥の方を見ている感じ――行定さんが最初に言われたように、この作品はものすごく小さな男女の話ですけど、それを主演の山崎賢人さんとヒロインを演じた松岡茉優さんが大きなものへと昇華させていますね。明らかにそうですね。--山崎さんのキャスティングは監督ですか?山崎の名前を出したのは古賀さんですけど、最初は僕も古賀さんも誰も浮かばなかったんです。山崎が演じた永田に、例えばインディーズ映画で活躍している演技派の俳優をキャスティングしたら、予算はこんなにかけられなかった。それは、古賀さんから最初にはっきり言われました。それに、映画自体も違うものになっていたかもしれない。演技派の俳優がキャスティングされていたらこんなにむき出しな愚かさを表現できていただろうかと思います。永田のピュアさや実直さ、何も分かっていない無防備さを演じるのは難しい。山崎の芝居は技巧じゃないから凄い。マグマの奥の方を見ている感じ。マグマの中に思わず手を突っ込んじゃったみたいなところがあるんです。――どこか空虚と言うか、何を考えているのか分からない、現実から少し超越した印象を受けることもありますね。いや、俺も初めて会ったときに、ピュアなんだけど、ピュア過ぎない?ってちょっと思いましたね。最初の顔合わせの前に写真を見て「やっぱり綺麗な顔だね~」って言いながら、山崎の顔に髭を描いてみて、あっ、髭を生やしたらいいねってなって。本人に会うとやっぱりよく分からない。集中すると、何をしでかすか分からなくなる俳優っているじゃないですか。目をすごく見開いてくる山崎には、「ここはガラスの壁だから当たっちゃダメだよ」って言ったのに、ガラスにバーンって突っ込んでいきそうなその危険な匂いをちょっと感じるんです。でも、顔合わせが終わったときには、その危険な感じは永田という役に活かせるような気がして。古賀さんとも「いいですね~」って確認し合ったし、なぜこれまで誰も彼に永田みたいな役をやらせなかったんだろうと思ったぐらい、これは行ける!って思うようになりました。山崎賢人が新境地を開拓――山崎さんが現代劇でこういう底辺の役を演じることは、確かにこれまでなかったですね。ないですね。彼はすごくいいですよ。素直だし、考え方がすごく真面目。自分のこの業界での立ち位置とか見え方とか気にしてなくて、与えられたひとつひとつの役とちゃんと向き合っている。昔、『ピンクとグレー』のときに菅田将暉に「同年代の俳優で誰がいちばん気になる?」って聞いたら、「山崎賢人ですね。友だちなんですけど、アイツは、1本1本の映画との向き合い方がスゴいんです」って言ったことがあるんですけど、その通りだなと思って。ずっと、そうしてきたんだろうし、今回の永田も真正面からちゃんと向き合って演じてくれました。――山崎さんは「劇場」が描く“どうしようもなさ”みたいなこともちゃんと理解されていたんでしょうか?山崎も脚本を読んだときに、僕と一緒で自分の知っている感情がどこかにあったみたいで。それで自分から「やってみたい。なぜか分からないけれど、これは絶対にやりたい!」と思ったらしいけれど、そう言うだけあって、なかなか色気がある。だから、僕たちは忙しい彼の身体が空くのを待って、そこにヒロインの沙希を演じた松岡のスケジュールも合わせてもらったんです。彼(山崎)は目が澄んでるから、濁らせるところから始めた――山崎さんにはどんな演出を?僕はこれまでの山崎の作品をすべて観たわけではないけれど、『劇場』ではあまり見たことのない顔をすると思うし、いろいろなアプローチをしています。それこそ、彼は目が澄んでるから、濁らせるところから始めて、最初に「髭を生やせよ」って言いました。そしたら、彼はそこでもやっぱり真面目でね。撮影に入る半年ぐらい前の10日間ぐらい身体が空いたときに、髭を生やして、俺に見せにきたんですよ。それで「どうですかね~」「いや、まだポヤポヤだね」っていうやりとりがあって、「どうしたら濃くなりますかね」って聞くので「T字のカミソリで剃ると濃くなるもんだよ」って答えたら、それからずっとT字のカミソリで剃ったり、毛生え薬をつけていたみたいで。そこからスタートして、もともと痩せているけれど、少しこけた頬にして、髪もクシャクシャにしてもらいました。松岡茉優は「天才」だと思う――松岡さんの印象は?僕は昔、NHKの時代劇に出ていた松岡茉優を見たことをあるんですけど、そのときから、この子は巧みだな~と思っていました。芝居を削ぎ落すこともできるし、ある種のあざとさもちゃんと持ち合わせている。その両方ができるのは巧みだからだし、それはやっぱり優れた女優のひとつの資質だと思います。――彼女が今回演じた沙希は、特に芝居の幅が広い役ですものね。振り幅がすごいですよね。でも、その役と向き合った彼女は自分の度量を分かっているし、撮り終わった後に「まだまだだな~」って言っていたけれど、自分の限界も見えているかもしれない。だから、僕は今回の沙希役にすごくいいと思ったんです。本当に役に合っていたし、完成した映画の中では山崎がちゃんと立っていた。現場で見ていると、松岡の芝居の方が明らかに強い。彼女の方が最初からガツンと来るから確かに強いんですよ。でも、松岡は耐久力があるから、山崎の芝居を待つことができる。そこが、このふたりでよかった理由です。――ふたりはまったく違うタイプの俳優ですね。そうなんです。松岡は最初のテイクからとんでもないことをやらかしたりするし、山崎はテイクを重ねれば重ねるほどよくなっていく。感性はふたりとも素晴らしいけれど、真逆のタイプなので、どこをOKラインにしたらいいのか最初のうちは悩みましたよね(笑)。ただ、ふたりとも覚悟ができていて、お互いの感性をぶつけ合っていたから、又吉さんの私小説風の原作ではあるけれど、それとも違う風合も出て。僕自身、彼らにしかない感性でこれを映画にしようという方針を固めてやっていたような気がします。――行定さんは、松岡さんのことを以前「天才」って言われてましたね。うん、天才だと思う。去年の『蜜蜂と遠雷』で主演女優賞を総ナメにすると思いきや、全然獲れなかったという状況があったけれど、あのときに票を入れなかった批評家さんや世の中の一般の人も『劇場』を観れば、彼女の力量が少しは分かるんじゃないかな。――僕は、去年の主演女優賞は圧倒的な松岡さんでした。でしょ。いや、僕もそう思いますよ。芝居の本質ではなくキャラクター強い役を演じている女優に票が集まる。だから、ああいう結果になるんです。それに対して、松岡は芝居はすごく巧みだけど、強さを前面に出さないし、雰囲気も含めて普遍的な存在。ちゃんと見ている人は松岡の憂いの表情にハッとしたり、並々ならぬ努力に気づいているはず。『劇場』には雷が鳴っているときに部屋で沙希がパッと顔を上げるシーンがありますが、あの松岡の顔を見て欲しい。あの場面は彼女の演技に息を飲みました。泣き腫らした、腫れぼったい顔を晒し、その表情に鳥肌が立ちました。女優がひとつの映画の中で見せることはあまりないですよ。あれはたぶん、控室で何度か泣いてきたんでしょうね。――そうなんですね。間違いないです。部屋のセットがあるステージに入ってきた瞬間、すぐにそこにあった毛布をかぶりましたからね。見せたくなかったんですよ。見せたら、山崎の芝居が予定調和になってしまいますからね。それを僕も察知したので、段取りを1回だけやって、ブレイクを挟んでから、いきなり本番に入った。それはやっぱり山崎の芝居にも反映されましたよね。山崎と松岡の演技で印象的だったこと――松岡さんは「ダメ男を好きになる周りの友だちはみんなロングヘアーだから、監督と相談してエクステをつけたし、ラストの衣裳は彼に夢を見させてあげたかったから、出会ったころの服と髪で彼が好きな沙希を私も演じたんです」って言われていました。ああ、永田の部屋を最後に訪ねてきたときですね。――ええ。それを聞いて、そういうこともちゃんと考えながら演じられているのはスゴいと思いましたね。松岡はホン(脚本)の読み方がすごく客観的で冷静なんですよ。そこに自分のできることをまず思いっきりぶつけてきて、やり過ぎだったら俺が抑えたり、「間がもう少し欲しい」って言ったりしたんですけど、彼女を見ているのは楽しかったですね。最初のうちは、僕が思っていることと全然違うことをしてくるので、不安もあったんですよ。――行定さんが不安になることもあるんですね(笑)。でも、それが、だんだん楽しくなってくるんです。「次はどうするのかな~、松岡くん?」とか「どこに座りたい?」って聞いて、僕の方が彼女に合わせて考えを変えていくようなやり方をしていましたから。それに対して、山崎の方は言われたことの中でやるタイプだったから、さっきも言ったように、ふたりの関係性はものすごくよくて。松岡は頭の回転が速くて、演出意図も瞬時に汲み取るので、このふたりがやっていることを撮りこぼしちゃいけないというある種の緊張感がありましたよね。――ふたりのシーンで、ほかに撮影中に印象的だった出来事はありますか?冒頭のカフェのシーンで、永田が「アイスコーヒー、2つ」って勝手に頼んで、沙希が「あっ、勝手に決めちゃった」ってケラケラ笑いながら「ひとつはアイスティーで」って言い直すシーンがあるんです。そのときの、「あ、えっと…」っていうリアクションをするときの山崎が松岡の顔が見れないぐらい恥ずかしそうにしていて、目が泳ぐんですよね。それがすごくよかったから、僕は山崎をものすごく褒めたんです。それは演出でできることではないし、「その感覚は僕が思っていた永田に近かった」。でも、そう言ったら、山崎は「えっ、どんなことをしてました?」って分からないわけです。しかも、撮ったものをその場で見せたら「こんなことをしていたんですね~」って言うんだけど、「もう1回やったらまたできるでしょ」って聞くと、「たぶん同じになると思いますけど、こんなことをしていたんですね」って笑っている。要するに無自覚なんです。無自覚だけど、笑おうとして笑えなかったり、猫背のまま歩く感じ、どうしようもない奴だけど、ピュアさだけは持っている人柄を醸し出していて、永田ってこんな人なんだろうなって思わせてくれる。そこが、山崎は圧倒的に優れているような気がします。やっぱり泣けてくる、あのセリフ――『劇場』は原作もそうですけど、男性と女性では感想が違うような気がしますし、永田と沙希の気持ちや言葉が突き刺さる人とそうでない人がいると思うんですけど、沙希が永田に終盤で言う「いつまでたっても、なんにも変わらないじゃん。でもね、変わったらもっと嫌だよ」ってセリフはなかなか書けるものではありません。あのセリフは原作にほぼ忠実ですけど、又吉さんはなぜ、あんなセリフが書けたと思いますか?まあ、言われたんでしょうね、きっと(笑)。たぶん、言われたんだと思うな~、「変わっちゃ嫌だよ」って。でも、それを言われると、やっぱりキツいですよね。だから、みんなの胸に突き刺さる。それこそ、僕が敬愛する某映画監督は、観た直後にメールをくれて。あんなに興奮してメールをくれたのは初めてですよ。観終わった直後の気分で「男の愚かさが余すところなく描かれていた。すべてが自分のことのようで、身につまされた」と書いてあった。やっぱり、彼女が「変わっちゃ嫌だよ」って言う、そこでね。泣けてくるんです。俺たちのように物を作っている人間は、結局、そう言ってくれる人がいない自分を保てないんだよねっていう話なんです。――永田も自分の生き方や沙希に対する言動が間違っていることは分かっているんでしょうけど、変えられないんですよね。だから、いつまでこの生活や彼女との関係が持つんだろう? と思っている。まあ、そうだと思う。でも、あれは作り手の心情でしょうね。僕にしたって、先ほど話した某映画監督にしたって、又吉さんや蓬莱もそうだと思うけれど、毎回不安ですよ。作品を発表したときに、どんな評価が下るのか? それによっては人気が急に下がるかもしれないし、誰も観てくれなくなるかもしれない。そんな不安の中で、僕は未だに嫉妬もするし、人を傷つけています。「なぜ、分かってくれないだ」って言いながら。それこそ、ネットの書き込みを気にして、けなされただけで落ち込むような我々なので(笑)、あとは僕ら作り手の覚悟でしかないですよね。エンタテインメントや芸術と向き合って生きている人間は相当な覚悟をしなきゃいけない――永田にはそんな行定さんの想いも投影されているわけですね。今回のコロナで、エンタテインメントがいちばん最初に切り捨てられることが分かりましたよね。「好きなことをやっているんだから、こんなときぐらい大人しくしてないさいよ」と言っているようにも聞こえるけれど、それに文句を言ったところで仕方がない。ただ、エンタテインメントで救われている人もいるということを忘れてはいけないし、僕はその力をこれからも信じていきたい。だって、実際に救われた人間がここにいるんだから!少なくとも僕は救われた。エンタテインメントや芸術に、人は救われるんです。それを信じるしかない。――とてもよく分かります。それだけに、エンタテインメントや芸術と向き合って生きている人間は相当な覚悟をしなきゃいけない。なのに、それが認められなかったら、その状況は死にも値します。そう言うと、大袈裟だと思うかもしれないけれど、ひとりの人間にとっては大袈裟なことじゃないし、永田は特に、社会からなくてもいいと思われ、いちばん最初に切り捨てられるエンタテインメントの世界の中でも最低なクズのような人間ですからね。そんな小っぽけな人間が、己の自我で大切な人ですら救えなくなるという。そこが、この映画を観て、いちばん感じて欲しいところです。僕はそこに、人間の根源が描かれていると思っていますから。生々しく真実に近いラブストーリー――そこが数多ある普通のラブストーリーと違うところですね。普通のラブストーリーは格差社会や対立、差別がドラマの背景になることが多い。恋人たちの悲恋が社会を浮き彫りにする構造が基本だけど、永田の場合は何もないところから自我を作り上げ、上手くいくはずだった生活に背を向け、沙希と傷つけ合ってしまう。夢を諦めて、普通に働けば沙希も普通に子供を産んだかもしれないし、ふたりで昔のことを懐かしく思い出す幸せな生活を手に入れることができていたかもしれない。なのに、永田はその道を選ばない。永田のそんな愚かさが、人間らしいと思いました。僕はそこがやっぱり面白かったし、それは自分も含めて、作り手の全員が身に覚えのある感覚です。それを実感している人たちが、この映画を作るんだから、それはかなり生々しく真実に近いものだと僕は思っています。――又吉さんも喜ばれていたそうですね。自分のことだったりするから、客観的には観られなかったみたいだけど、「よかった~!」とは言っていた。「山崎くんが演じてくれたよかった」とも言っていましたね。「俺が永田をやったら相当最低な人間になっていたと思うけれど、山崎くんの永田は思っていたより品がよかったし、原作と描き方が違うラストシーンも好きですよ。最初はこんな最低な人間が主人公で大丈夫かな~? と思っていたけれど、素敵な映画になっていましたね」って。その又吉さんの感想は、とても嬉しかったです。映画『劇場』は周知の通り、新型コロナウイルス感染症の影響で当初予定していた4月17日の公開が延期に。それでも、映画を少しでも早く全国の観客のもとに届けたいと願う行定勲監督や関係者の総意で7月17日(金)から劇場公開し、同時にAmazon Prime Videoで全世界で同時配信することが決定!これで映画館が近くにない人もすぐに観ることができるし、世界中の人たちとも感動を共有することができるようになった。けれども、それが可能な人は、映画館で観ることをオススメしたい。その方が、クライマックスを原作小説とは異なる映画的な方法で提示する本作の感動がより倍増。映画館の空間そのものが、あなた自身にとっての“劇場”になるはずだから。取材・文=イソガイマサト『劇場』全国公開中、Amazon Prime Videoにて配信中※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記
2020年07月21日劇作家、演出家、映画監督、音楽家としてマルチかつ精力的に活躍しているケラリーノ・サンドロヴィッチ(以降、KERA)さんによる、新しいエンタメの形を紹介します。文・anan編集部緊急事態宣言以降、その影響でこの春から数々の公演が中止を余儀なくされている演劇界。KERAさんも、2作品が残念ながら公演中止に。そのうちのひとつ『欲望のみ』は、2007年から2016年にかけて伝説的なナンセンスコメディを送り出してきた古田新太さんと再度タッグを組んで、これまでとは違う挑戦になるはずでした。そんななかKERAさんが、この時代、この状況だからこそできる新しいエンターテインメントを模索し、緊急企画、CUBE produce『PRE AFTER CORONA SHOW』が実現することに!劇場でのリーディングアクト『プラン変更 〜名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険〜』の無観客上演生配信と、コント映像作品『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』配信という2つのコンテンツがその内容。ここに、古田新太さんをはじめ、大倉孝二さん、入江雅人さん、八十田勇一さん、犬山イヌコさん、山西惇さんという過去3作のレギュラーメンバーが集結します。さらに映像作品には、超豪華シークレットゲストも多数登場するというサプライズも!?KERAさん曰く、「我々が2020年の春〜夏にどんな風に足掻いていたかの記録でもあります」とのこと。いま演劇人がさまざまな形でリモート演劇にチャレンジしていますが、現代演劇界を牽引するひとりで、毎回まったく異なった作風、味わいの笑いを繰り出し続けているKERAさんが、ただのリモート演劇で収まるわけはなく、どんな“足掻き”を見せてくれるのか、期待が高まります。配信前日に行われる公開ゲネプロがチケット発売と同時に即完した今作。モヤモヤした世の中を軽やかに、毒たっぷりに笑いとばしてくれること間違いなし!InformationCUBE produce PRE AFTER CORONA SHOW presentsリーディングアクト『プラン変更 〜名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険〜』7月12日(日)15:00開演 料金¥3500『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』配信7月12日(日)17:00配信スタート 料金¥2500どちらもPIA LIVE STREAMより配信。7月19日(日)までアーカイブ販売あり。
2020年07月10日KERA×古田新太企画のレギュラーメンバーが結集し、本多劇場でCUBE produce『PRE AFTER CORONA SHOW』の公開ゲネプロを実施する。新型コロナウイルスの影響により、日本の演劇は上演が軒並みストップになり、劇作家で演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が手掛ける予定であった作品も中止を余儀なくされた。そんなコロナ禍の中でも、KERA は新しい試みとしてCUBE produce『PRE AFTER CORONA SHOW』を実施する。2007年から2016年の間に、 ケラリーノ・サンドロヴィッチと俳優・古田新太のタッグで上演してきた舞台のレギュラーメンバーが集結。劇場でのリーディングアクト『プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険~』の無観客上演生配信と、 コント映像作品『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』配信という2つのコンテンツで構成された『PRE AFTER CORONA SHOW』に挑む。リーディングアクト『プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8 番目の冒険~』は、7月12日に無観客生配信の形で本公演上演するとともに、 前日の7月11日に、 下北沢本多劇場にて一般観客を入れた形での公開ゲネプロを実施。上演前には『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』を、 配信開始に先駆け先行上映される。ゲネプロ中は舞台上のソーシャルディスタンスにも配慮し、「多彩な動きがありつつも俳優同士が常に距離を保ちながら進行するリーディング」というこの時代ならではの演出的工夫を取り入れた上演形式で行うとのことだ。CUBE produce『PRE AFTER CORONA SHOW』【配信舞台上演作品】●CUBE produce PRE AFTER CORONA SHOW presents リーディングアクト『プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8 番目の冒険~』作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演:古田新太・大倉孝二・入江雅人・八十田勇一・犬山イヌコ・山西惇 / 奥菜恵配信映像作品●『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』脚本・構成・総合演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ共同脚本:ブルー&スカイ・他出演:古田新太・大倉孝二・入江雅人・八十田勇一・犬山イヌコ・山西惇 / 他【公演&配信日程詳細】<公開ゲネプロ> (配信無し)日時:2020 年 7月11日(土)15:30開場16:00〜17:40/『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』上映17:40〜18:00/休憩18:00〜/CUBE producePRE AFTER CORONA SHOW presentsリーディングアクト『プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8 番目の冒険~』上演劇場:下北沢本多劇場料金:12,000円(上映・上演込み、 特製 T シャツ・缶バッヂ付)チケットスケジュール:7月1日(水)正午より cubit club 会員(キューブ無料メルマガ会員)先行受付スタート7月7日(火)チケットぴあ先行予約7月8日(水)より一般発売開始(チケットぴあのみ)チケット購入&詳細→ < 無観客生配信 本公演 >CUBE producePRE AFTER CORONA SHOW presentsリーディングアクト『プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8 番目の冒険~』上演日時:2020 年 7 月 12 日(日)15:00 開演PIA LIVE STREAMより配信料金:3,500円7月19日(日)までアーカイブ販売有7月2日(木)10 時よりチケットぴあにて視聴券販売開始視聴券購入&詳細→ <コント映像作品 配信>『 PRE AFTER CORONA SHOW The Movie 』日時:2020年7月12日(日)17:00配信スタートPIA LIVE STREAMより配信料金:2,500円7月19日(日)までアーカイブ販売有7月2日(木)10時よりチケットぴあにて視聴券販売開始視聴券購入&詳細→ 公演についての詳細→キューブオフィシャルサイト: <ケラリーノ・サンドロヴィッチコメント>(1)少々長いコメントになりますので興味ある方にだけお読み頂ければ。新型コロナウィルスがあれして中止になった『欲望のみ』。 古田新太を座長としたチームに新たなメンバーを加え、 2007 年~2016 年に同チームで上演した「ナンセンス三部作」とは異なるタイプのコメディを創ろうとした公演でした。4 月下旬に中止が申し渡され、 自粛で悶々としていた私は、 このチームで「公演の代わりの何か」ができないものかと画策しましたが、 コロナ渦の制約の中、 頭に浮かぶ案はどれもこれも、 時間と労力を費やしてまで実行しようと思えるものではありませんでしたし、 それ以前に、 自分の仕事ではないように感じました。 周囲の演劇人達が早々に発信を連打した様々な試み、 すなわちリモートを使った演劇。 しかしそれを私が試みたところで、 面白いと思えるモノが創れるとは思えなかったのです。 それらは演劇のようでいて、 決して演劇ではない。 「演劇のようなもの」です。 「演劇のようなもの」は「演劇のよう」でありながら、 私が感じている「演劇の魅力」を何ひとつ擁しない。この度「PRE AFTER CORONA SHOW」の旗印の下にお届けする 2 つの作品も「演劇のようなもの」でしかなく、「演劇」と較べられちゃあたまらないのですが、「演劇」ができない時期、「何もしない」という選択肢もある中で、 これならやってもよいのではないだろうかと思えた企画であります。 やってみました。 我々が 2020 年の春~夏にどんな風に足掻いていたかの記録でもあります。(2)映像作品『PRE AFTER CORONA SHOW The Movie』は、 ザックリ言うと「コント集」です。 どう反応して良いのか戸惑わせるようなスケッチも混じってますが、 これもコントなのです。 私が書いたコントと盟友ブルー&スカイが書いたコント、 それから太田毅くんと飯田ゆかりさんの書いたコント一本ずつ(別役実氏編纂のコント本に収録)を私が脚色したもの、 そして、 大倉孝二とブルー&スカイのユニット、 ジョンソン&ジャクソンが、 やはり中止になってしまった彼ら の公演に於いて上演するはずだったコント(大倉が脚本提供クレジットに名を連ねているのはこの為です)。 注目の若手ナンセンス劇団「地蔵中毒」主宰の大谷皿屋敷くんにも参加してもらうはずだったのですが、 ある大人の事情で叶わず、 彼の既製台本から二言だけ台詞を使わせてもらってます、 記念に。コント達は、 劇場で収録したり、 ロケで映画やドラマのように撮影したり。 全 6 日間の強行撮影でしたが、 まさに制約だらけの中、 ゲスト出演者含め 20 名近いキャストとスタッフの皆様の尽力のお陰でヘンテコなモノが出来あがりました。 アニメは上田大樹くん、 音楽は鈴木光介くんと、 いつものメンバーが集結してくれました。 上映時間は約 100 分であります。(3)『プラン変更~名探偵アラータ探偵最後から 7、 8 番目の冒険~』は所謂リーディング公演。 6 月 29 日現在、 台本を書き始めたばかりでどんな作品になるか、 まだわかりませんが、 リーディングという形態を逆手にとってくだらなくできまいかなぁ、 と。 サブタイトル通り、 変質者であり多重人格者でもある探偵アラータが、 助手のアルジャーノンと共に、 事件かどうかすらも曖昧な事件を解決するナンセンス・コメディ。 つまりお馴染みのやつです。 ナンセンス三部作の第四弾。 新しいコメディに挑もうとした『欲望のみ』に代わる公演が、 結局いつものやつになっちゃうというのも皮肉ですが、 おかげでまたあのキャラクター達に会えるのは、 書き手にとっても大きな悦びであります。台本書き始めて数回の稽古を経て初日まで、 二週間しかないので、 40 分~60 分ぐらいの小さな作品になると予想します。 『The Movie』の方もそうですが、 はるか昔に書いた自作にネタを探ったり、 中学時代に私をナンセンスの世界に誘い導いてくれて、 健康~ナイロン初期に散々マネしたモンティパイソンの模倣も久々にしていることも白状しておきましょう。 今我々がやるとこんな風になります。ともかく、 安全第一、 くだらなさ第二に、 楽しんで作ろうと思います。赤字必至の試みなので、 お気に召したら口コミ、 SNS 等でワーワー騒いでくれろ。 以上、 よろしくお願い。2020 年 6 月末ケラリーノ ・サンドロヴィッチ
2020年06月30日作・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と古田新太による壮大な悪だくみ企画が、今夏またも演劇界を揺るがせそうだ。2007年の『犯さん哉』から始まったナンセンス3部作に続き、新作『欲望のみ』で見せるのは、イヤ~な感じのブラックコメディ。【チケット情報はこちら】もともとナンセンスは大好物なKERAと古田。だがナンセンスをやるには、「たゆまない努力が必要(笑)」とふたりは声をそろえる。そこで“演劇的なコメディ”に立ち返ることになってみたもののも、KERAは「昨今の状況に身を晒されていると、緻密によく出来たコメディをつくっている場合でもないなって気持ちになっちゃうんですよね。世の中が非常にでたらめだから」と明かし、「2006年にやった『噂の男』みたいな作品になるかも」と現段階での構想を語る。それを聞いた古田は、「(池田)成志さんは『噂の男』みたいな露悪な芝居が嫌いなんです」と続け、「逆にオイラは成志さんが嫌がる芝居が大好き」と笑う。硬軟どんな芝居もお手のものの古田だが、「劇団は押し芸なんですけど、やっぱりオイラは引き芸が好き。そういう意味で、KERAさんとやる時はホッとするんですよね」と、KERAへの信頼の強さをうかがわせる。一方のKERAも、「やっぱり古ちん(=古田)にしかないものってありますからね。この身体性というか、それは動けるという意味だけではなく、野蛮な感じっていうのかな(笑)。古ちんと定期的に一緒にやることで、演劇ってのは何でもアリなんだということを再確認できる」と語り、KERAにとって古田が、ものづくりにおける指針のような存在だということがわかる。キャストには大倉孝二や犬山イヌコ、山西惇といった3部作に引き続きのメンツから、小池栄子や秋山菜津子など幅広い顔ぶれがそろう。古田は「この企画は大倉が生き生きしているのが嬉しい」とニヤリ。またKERAは秋山に関して、「彼女は高校の演劇部の後輩でして、もともと僕が小劇場に連れてきたようなものですけど、松尾(スズキ)さんが『キレイ』(2000年)で彼女のベスト・プレイを引き出しちゃって。正直ずっと悔しくて。最近はキツめの高圧的なキャラを求められることも多いようだし、またそれとは別の面も見せられたらいいなと思っているんですよね」と抱負を語る。近年は舞台の創作においても、「意地悪しちゃダメっていう風潮がある」と古田。だがKERAは「つくるものに関してはフィクションなんだから、文句言われたくない」と言い放つ。その刺激的な舞台で、またも観客を大いに驚かせてくれるはずだ。チケットぴあでは3月29日(日)までプレリザーブ受付中。取材・文:野上瑠美子
2020年03月26日3月1日、劇作家で演出家の野田秀樹(64)が新型コロナウイルス感染症による劇場公演中止に警鐘を鳴らした。野田は「公演中止で本当に良いのか」と題し、ウェブサイト「NODAMAP」上で意見書を発表。「感染症の専門家と協議して考えられる対策を十全に施し、観客の理解を得ることを前提とした上で、予定される公演は実施されるべき」と意見を述べた。さらに野田は、劇場の閉鎖により再開が困難になることを「演劇の死」という言葉で表現。“演劇は観客の存在により成立するもので、劇場が閉鎖されるという前例を作るべきではない“と主張した。実際に流行する新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの公演が中止を余儀なくされている。倉科カナ(32)主演の舞台『お勢、断行』は2月28日に初日を迎える予定だったが、地方公演を含め全公演が中止となった。野田の意見書を受け、ネットでは様々な意見が上がっている。劇作家で演出家の平田オリザ(57)はツイッターで意見書に対し、《私も連帯を表明します。》と支持。同じく劇作家で演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(57)も、ツイッター上で《俺だって連帯を表明します。》とした。脳科学者の茂木健一郎(57)も意見書に賛同。《さまざまな手段、工夫は尽くした上で、公演中止は最後の選択肢であるべきでしょう》と述べた。しかしSNS上では、感染症予防という点に重きを置いた批判の声も多い。《もし公演をして感染が広がったら、そのせいで劇場の評判が落ちるかもしれない》《命を守ることの方が大事だと思う》《感染が広がって観客がいなくなれば、それこそ「演劇の死」では?》公演を行うべきか、中止すべきか。難しい問題に議論は続きそうだ。
2020年03月02日2月15日、16日の全国映画動員ランキングは、アカデミー賞で作品賞など4部門を受賞した『パラサイト 半地下の家族』(全国279館)が公開6週目でついに首位を飾った。サム・メンデス監督が第1次大戦下で危険な任務を命じられたイギリス人兵士ふたりの一日を描く『1917 命をかけた伝令』(全国317館)は初登場2位。公開2週目の『犬鳴村』(全国211館)は先週2位から3位になった。続いて公開2週目の『ヲタクに恋は難しい』(全国304館)は先週1位から4位に。公開3週目の『AI崩壊』(全国346館)は先週3位から5位に。公開13週目の『アナと雪の女王2』(全国382館)は先週7位から6位に順位をあげている。そのほか太宰治の未完の遺作をアレンジした、ケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲『グッドバイ』を映画化した『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(全国152館)が初登場7位につけている。次週は『映画 ねこねこ日本史 ~龍馬のはちゃめちゃタイムトラベルぜよ!~』『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!』『スウィング・キッズ』『スキャンダル』『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』『チャーリーズ・エンジェル』『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』『名もなき生涯』『ミッドサマー』『Red』などが封切られる。全国映画動員ランキングトップ10(興行通信社調べ)1位『パラサイト 半地下の家族』2位『1917 命をかけた伝令』3位『犬鳴村』4位『ヲタクに恋は難しい』5位『AI崩壊』6位『アナと雪の女王2』7位『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』8位『キャッツ』9位『劇場版 騎士竜戦隊リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー/魔進戦隊キラメイジャー エピソードZEROスーパー戦隊MOVIEパーティー』10位『カイジ ファイナルゲーム』
2020年02月17日2月14日公開の映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』の完成披露試写会が23日、都内で行われ、大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、濱田岳、松重豊、成島出監督が出席した。文豪・太宰治の未完の遺作を鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で完成させた戯曲『グッドバイ』を、『八日目の蟬』で日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた成島出監督が映画化した本作。 なぜか周囲の女たちが好きになってしまうダメ男・田島周二(大泉洋)を主人公に、田島が大勢の愛人と別れるために金にがめつい担ぎ屋のキヌ子(小池栄子)に偽夫婦をお願いしたことから騒動が巻き起こる、というストーリーとなっている。試写会が行われたこの日は、試写会前に主演の大泉らキャスト陣と成島監督が登壇して舞台あいさつ。モテ男の田島を演じた大泉は「宣伝の時期になるとやたらとモテ男みたいなキャッチコピーで言われますが、オファーされた時はモテ男と強調されなかったのであまり意識はありませんでした。憧れの成島監督からのお話が何よりもうれしかったです」とオファー時の心境を明かしつつ、「小池さんとは舞台でご一緒したことがあるので、また一緒にできるのもうれしかったですね」と話した。小池は「大泉さんを嫌いという人って聞いたことがありません。人間としての豊かさとチャーミングさが田島に注入されていて、どのシーンを見ても愛おしく見えました。女性が惚れるなと納得させられましたし素敵でした」と絶賛した。本作のタイトルと内容にちなみ、「もっと楽しくなるためにグッドバイしたことは?」という質問に小池は「映画のプロモーションで大泉さんとバラエティー番組に出させてもらいました。本当に楽しかったんですが、大泉さんとグッバイした後にすごく安らかな気持ちになったんです。楽しいから力んじゃっていつものバラエティー以上のエンジンを掛けたんでしょうね。それぐらいパワーを吸い取られる方だなと思いました」と回答。すると大泉は「それはお互い様ですよ。バラエティーに出た時の振りというか、やたらと振ってくるからカロリー使っちゃうんですよね。正直この人と出たいと思っていません。この前も延々とモノマネさせられて、あんなに早くマイケル・ジャクソンやったことないから。ノータイムでマイケルだからな」と指摘すると、小池から「今日のお客さんのためにショートバージョンでマイケル・ジャクソン!」と促されて大泉はモノマネを披露。観客から拍手が沸き起こったが、大泉は「本当、お前とのキャンペーン嫌だ! 小池さんとグッドバイしたいです」と話して会場の笑いを誘っていた。映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』は、2月14日より全国公開。
2020年01月24日1月11日東京・かめありリリオホールにて、舞台 KERA CROSS第二弾『グッドバイ』が初日を迎えた。演劇界を牽引する劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の過去の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが演出するシリーズ企画の第二弾となり、今回演出を担当するのは、映像、舞台問わず活躍する人気俳優でもある生瀬勝久である。【チケット情報はこちら】生瀬が、「KERA作品を演出するならば、是非この作品を手掛けたい」と熱望した『グッドバイ』は、太宰治の未完の遺作小説をベースにし、初演時には数々の演劇賞を受賞した傑作コメディだ。物語の舞台は終戦直後の東京。混乱期の中、田島周二(藤木直人)は、文芸雑誌の編集長でありながら、闇商売で大儲けし、妻(真飛聖)や娘たちを地方に疎開させたまま、何人もの愛人を渡り歩くという不埒な放蕩生活をしていた。しかしそんな田島も、愛人たちとの関係を清算しようと思い始めるもののうまい方法が見つからない。そんな折、文士の連行(生瀬)がある策を田島に提案する。それは愛人たちのもとに、とびきりの美女を「妻」として同伴し、関係をあきらめさせる、という奇策であった…。田島はその策を実行すべく、ひょんなことで知り合った女・キヌ子(ソニン)に、「妻」役を頼み込むが、キヌ子は無類の大喰らいで怪力、がめつい女で、何かと金を要求してくる。このふたりが、愛人たちを訪ね歩き、どのような顛末が待っているのか…。一見、優男でそつが無さそうに見え、その実、常人とはかけ離れた倫理観の持ち主である田島という男を、藤木は絶妙な多面性で表現し、不思議な魅力を放つ。ソニン演ずるキヌ子は、言動が粗野な中にピュアさと人情味を覗かせ、その逞しさは、終戦間もない混乱期に東京で力強く生きた人々の空気を運んでくるようだ。真飛演ずる静江は、田島という厄介な男の妻として、また、幸子(MIO)と福子(YAE)という娘たちを持つ母としての、酸いも甘いもかみ分けた度量の深さを感じさせる。大櫛を演ずる朴?美は、医者としての冷静沈着さと、その奥に見え隠れする田島への想いを、口跡鮮やかに演ずる。美容師の青木(能條愛未)、挿絵作家の水原(長井短)、百姓の娘・よし(田中真琴)、愛人それぞれの個性が際立ち、そのひとりひとりと、田島とキヌ子が絡む“攻防”には目が離せない。男性達のキャラクターも必見だ。文芸雑誌の編集部員・清川(入野自由)の仕事への情熱と田島への崇拝はどこまでも熱く、挿絵作家・水原の兄・健一(小松和重)は妹を気遣う優しい兄でありながら危うさを孕み、そして、“偽装妻”企ての張本人、連行の人を食ったような軽薄さも油断ならない。公演は、1月11日かめありリリオホールを皮切りに、山形、新潟、広島、大阪、香川、愛知、福島、2月4日(火)~16日(日)の東京・シアタークリエまで、全国9か所を巡演。
2020年01月23日本日より全国東宝系にて公開される『ラストレター』で主演を務める女優の松たか子が、1月17日(金)オンエアの「A-Studio」にゲスト出演。愛娘とのエピソードなどプライベートトークから、これまで共演してきた豪華な俳優陣たちのコメントなど盛りだくさんでお届けする。二代目松本白鸚の娘として生まれ、1996年放送の「ロングバケーション」で木村拓哉と共演、一躍大きな注目を浴びると、その後も「HERO」シリーズや『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』や『THE 有頂天ホテル』などの映像だけでなく、蜷川幸雄や長塚圭史、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、劇団☆新感線などの舞台出演も数多くこなすほか、最近では「カルテット」や「ノーサイド・ゲーム」『マスカレード・ホテル』なども話題となった松さん。2014年春に日本公開された『アナと雪の女王』ではエルサ役で声優として出演、同作は興収250億円を超える大ヒットを記録し、昨年公開の続編『アナと雪の女王2』でも引き続きエルサ役を担当し、こちらも興収110億円を超え大ヒット中。今回は市川海老蔵や「ノーサイド・ゲーム」で共演した大泉洋ら俳優仲間が取材に協力。トークでは現在4歳の娘に『アナ雪』の「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」を歌って聞かせた際の反応など、子育て真っ最中の母親ならではのエピソードも語られ、女優と母親の両立に奮闘するナチュラルな素顔が明かされていく。『アナと雪の女王2』もヒット中の松さんが主演を務める『ラストレター』は、『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』などで知られる岩井俊二監督が、自身の出身地である宮城を舞台に、手紙の行き違いをきっかけに始まったふたつの世代の男女の恋愛と、それぞれの心の再生と成長を描いたオリジナルストーリー。主人公・岸辺野裕里を松さんが演じ、主人公の姉・未咲の高校生時代とその娘・鮎美に広瀬すず。裕里と文通を始める乙坂鏡史郎に福山雅治。その高校生時代に神木隆之介。裕里の娘・颯香と高校生時代の裕里を森七菜が演じるほか、『シン・ゴジラ』や『エヴァンゲリオン』シリーズなどの監督を務める庵野秀明が俳優として出演する。『ラストレター』は1月17日(金)より全国東宝系にて公開。「A-Studio」は1月17日(金)23時15分~TBS系で放送。(笠緒)
2020年01月17日