ポータークラシック(PORTER CLASSIC)は、ディズニー・シンデレラのコミックアートを使用した新作ジャケットを、2022年11月12日(土)にポータークラシック 銀座本店ほかにて発売する。シンデレラのコミックアートをキルティングにシンデレラのコミックアートを落とし込んだキルティングジャケット3型とレザーライダースが登場。舞踏会に着て行くドレスがないシンデレラのために、ネズミや小鳥が姉たちが捨てた古着やネックレスを拾い集めてドレスを作り上げる、原作にはないディズニーオリジナルの一コマや、完成したドレスを纏い馬車に乗ってお城へと向かう際に、フェアリーゴッドマザーが「魔法が解けてしまうから真夜中の0時に帰ってきて」と声をかける一コマなど心温まるシーンを多数採用した。レザーライダースには、内側のキルティング部分にコミックアートを施した。ジップ部分のシルバー925の引き手に、シンデレラの特別な刻印が刻まれているのがポイント。その中でも一つだけ“ガラスの靴”の刻印を施すなど遊び心あるディテールに。また、キルティングジャケットは、ロング丈のシャツ風ジャケットと2WAYジャケット、ショート丈のレディース2WAYジャケットの3型を用意。カラーはいずれもブラックで、クラシックな印象を与えるジャケットに仕上げた。【詳細】ディズニー シンデレラ / ポータークラシック ブラックコレクション(DISNEY CINDERELLA / PORTER CLASSIC BLACK COLLECTION)発売日:2022年11月12日(土)12:00~展開店舗:ポータークラシック 銀座本店、他 ポータークラシック取り扱い店舗・シャツジャケット 73,150円 ※サイズ:1、2、3、4・2WAYジャケット 71,500円 ※サイズ:1、2、3、4・レディース2WAYジャケット 60,500円 ※サイズ:1、2・メンズレザーライダースジャケット 352,000円 ※サイズ:XS~XXL 6サイズ・レディースレザーライダースジャケット 297,000円 ※サイズ:1、2【問い合わせ先】ポータークラシック 銀座本店TEL:03-3571-0099
2022年11月10日イシデ電さんによる、マンガ『ポッケの旅支度』をご紹介します。以前からツイッターで飼い猫のマンガを公開していたイシデ電さん。猫の介護や看取りについて描くのは、その延長で自然なことだった。「猫との暮らしで、楽しいことはたくさんありますけど、それと同じか、もしくはそれ以上に悲しいことや苦しいことにも価値があると思っていて。私が一緒に猫の病と闘ったのも、かけがえのない体験だったので、伏せる必要がなかったんです」野良猫のきょうだい、オスのポッケとメスのピップがイシデさんの家に居ついて15年経った頃、ポッケに深刻な病が見つかる。本作は2匹との出会いから始まり、猫の死を覚悟しながら残された時間を共に過ごした日々、見送ってからのことも綴っている。愛するペットとの別れという重いテーマではあるが、イシデさんのユーモアやポッケの元気な頃の姿、ポッケの病に気づいていないかのような無邪気なピップに救われる軽やかさもちりばめられている。「このマンガに関しては、独りよがりで、ひたすら正直に描こうと思っていました。人間の葬式でも、泣いて悲しむだけでなく、談笑したり、お寿司がおいしかったりする時間もあるじゃないですか。ずっと悲しみ続けることも、冷静でい続けることもできないので、その部分をたしかに描き取りたかったんです」介護や看取りに対する迷いを通して描かれるのが、後悔の多い別れ方をした前の飼い猫・こぜや、同じようにペットを看取ってきた人たち。「子どもの頃から飼っていたこぜは絶対的な存在だったので、思い出を気安く共有したくない気持ちと、いつかマンガにしなければという気持ちが葛藤していました。またターミナルケアがテーマでもあったので、周りの人たちのいろんなケースを意識的に入れてみました」本作の反応として、イシデさんが多くて驚いたというのが、ペットを看取った読者自身の体験談。「苦痛を一気に吐き出すような感想をたくさんいただき、その光景に圧倒され、自分はこの人たちに代わってマンガを描いたのかもしれない、と最近思うようになりました」そして「覚悟があれば死がつらくなくなるわけではない」と続ける。「私がどうにか看取れたのは、愉快な暮らしの積み重ねがあったから。ペットが元気なうちは火葬する場所をググる程度にしておき、いっぱい大笑いして楽しく暮らせばいいと思います。その体験は介護が始まったとき、大きな馬力になるはずです」『ポッケの旅支度』ポケーッとした佇まいからポッケと名付けられた猫が、不治の病に。日ごと弱っていく猫と共に続く日常を、前の猫や友人の体験を交えて綴ったエッセイ。KADOKAWA1320円©イシデ電/KADOKAWAいしで・でんマンガ家。2005年デビュー。商業誌で作品を発表する傍ら、自主制作で本やグッズを多数販売。主な著作に『私という猫』『猫恋人』など。※『anan』2022年11月9日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年11月07日読み始めたときから、傑作の予感しかなかった。雑誌でコミック特集が組まれれば目利きたちが大プッシュし、ネットでも大きな話題に。2巻の発売を、みなが首を長くして待っていた。それが、松本大洋さんの『東京ヒゴロ』。デビュー30年を超えて、初めてマンガ界を舞台に据えた。マンガを愛する人たちの群像劇。ストーリーは、マンガ編集者の塩澤和夫を軸に進む。関わったマンガ雑誌が廃刊となり、30年勤めた大手出版社を退社した塩澤。一度はきっぱり業界と縁を切るつもりでいたが、マンガへの未練は断ち切れず、自分の理想とする雑誌を立ち上げようと奔走する。「いつも作品は、奥さんでもあるマンガ家の冬野さほと作っています。ストーリーやキャラクター設定なども二人で話し合いながら作ったり壊したりを重ねて、だんだん人物像が具体化していきます。お世話になっていた編集さんが退職したのを受けて、会社を辞めた中年編集者のその後を描いてみようと思ったのが本作のきっかけでした。編集者を主人公にして描くにあたって、『COMICばく』というマンガ雑誌(※1987年に第15号で休刊)を作った夜久(やく)弘さんという編集さんが書いた本『「COMICばく」とつげ義春』を読んだんですね。夜久さんが素敵で、塩澤のキャラクターのイメージを作るときにとても影響を受けたと思います。塩澤は、マンガ家の立場から思う、理想の編集者像かもしれませんね」塩澤は新雑誌の執筆陣集めのため自らが「これぞ」と思うマンガ家たちを訪ねていく。そのときに交わされる対話から、各人の創作哲学やマンガ家と編集者の関係性などが垣間見えて、マンガ好きにはたまらない。2巻では、塩澤の後輩編集者・林と実力はあるが問題児のマンガ家・青木とのやりとりが多く描かれる。こじれていくふたりが起こす変化がドラマティック。「マンガ家と編集者の相性に関しては『仲が良ければよい』ということでもなくて、たとえば人間的には気が合わなくてもお互いの間に起こる化学変化の結果で作品は上手くいく場合もあって…。面白いところだなあと思います。編集者同士の会話の場面もわりと登場しますが、そこは完全に想像で描いたものを、担当編集さんに読んでもらって、相談しながら作っています」塩澤が真っ先に口説きに行った長作のようなベテランも、すでにマンガからは離れた元マンガ家も、青木のようないつも不安定な若手も、マンガ家それぞれが「描けない理由」「描くつらさ」などを吐露していく。彼らを見守る編集者にもひとりひとりの思いがある。マンガを愛し、マンガに泣き、泣かされ、それでも離れられない人々の切実さが刺さる。「マンガを描くことを長く続けていると、作品の人気や自分の体調とは関係なく、突然描く気が失せるようなときがたまにあって。そうしたときには、自分がやる気を失っていることの自覚とその原因を探す作業というのが大事なのですが、なかなか難しいですね」いつか塩澤の悲願――最高のマンガ家たちによる理想のマンガ雑誌を世に送り出す――は実るのか。「現実的に考えると、塩澤の本はなかなか完成しそうもないし、流通も苦戦しそう。売り上げも期待できないかもしれないですね。いろんな展開を考えたり話し合ったりしていますが、塩澤という編集者を好きなので、どんな結果になっても応援したいなという気持ちで描いています」松本大洋『東京ヒゴロ』2出てくるマンガ編集者やマンガ家は個性派揃い。塩澤が自宅で飼っている白い文鳥も、魅力的な名脇役。本作は『ビッグコミックオリジナル増刊号』で連載中。小学館1650円©松本大洋/小学館まつもと・たいよう1967年、東京都生まれ。’87年、講談社「アフタヌーン四季賞」で準入選し、デビュー。国内外でさまざまなマンガ賞を受賞。※『anan』2022年11月2日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年11月01日父親の遺骨を抱えて海辺の自宅に戻ってきた、女子高校生の波間帳(はま・とばり)。母はすでに亡い。死の誘惑に誘われるように波際までやって来たとき、帳は発光する青年を見つける。放ってもおけずに連れ帰った翌朝、青年がした自己紹介は、ヨルという名の宇宙人で、とある星の〈王子〉らしい…。そんな不思議な出会いから幕を開ける有海とよこさんの『波間の子どもたち』。物語の余韻にいつまでも浸っていたくなるコミックだ。かぐや姫を発光王子に、換骨奪胎。ボーイ・ミーツ・ガールストーリー。「夜の海で女子高校生が落ちている男の人を拾うという発想の出発点は『かぐや姫』。発光する人物というアイデアもそこから採りました(笑)。最初はもっと、帳とヨルとがストレートにモノを言い合うような関係性を考えていたんです。けれど、落ち込んでいるときにあれこれアドバイスされても、自分で納得できなければ立ち直ることもできない。私自身のそういう想いもあって、ヨルには、帳自身が自分と向き合えるように導く神様的な存在として、見守る関わり方をしてもらおうと」読者の心を浮き立たせるヨルの無防備な笑顔と、ケセラセラな優しさ。彼に感化され、生と死の境界で揺れていた帳もいつしか変わっていく。「帳は内に抱え込んで自問自答するタイプです。極力セリフを削り、できるだけ絵だけで感情や情動を伝えていけたら…というのは、私自身の課題でもありました」その表出に大きく関わっているのが、海や波の表現だ。「最初からずっと、陸と波とが生と死のモチーフだったので、帳がその境界をどんな気持ちで行ったり来たりするのかを表さなくては、と思っていました。海や波は一瞬たりとも同じ模様を描かないわけで、描き分けは大変だったんですが、他のマンガ家さんは海の風景をどんなふうに描くのかなとマンガをたくさん読んで研究したり。面白い挑戦でした」病弱で生きることに臆病だった帳の幼なじみ・錦(にしき)や、コンプレックスの強かったクラスメイトの宝(たから)らも、帳の変化によって化学変化を起こし、前を向くきっかけを掴む。その連鎖がまた美しい。「人間誰しも、何か持って生まれてくるより、何も持たないで生まれてくる方がずっと多い。その上で人はどうやって変わっていけるのかを描きたいと思っているんです。そのときに大事なのが、出会いなのかなと」有海さん自身、吉本ばななさんや入江亜季さんの作品などに影響され、励まされてきたという。「12月からは、音楽を題材にした連載が始まります。つらいときも、読んだら少し元気になれるような作品を描いていきたいですね」『波間の子どもたち』足が速く、走ることに少しずつ傾倒していく帳。地に足を着けて生きるという彼女の決意とうまく重なっており、キャラクター造形の奥深さも圧巻。全1巻KADOKAWA792円©有海とよこ/KADOKAWAありうみ・とよこ1994年、埼玉県生まれ。幼いときから絵を描くのが好きで、独学でマンガ創作を始める。同人誌活動を経て、本作が初単行本。※『anan』2022年10月22日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年10月24日3人のシニア女性が共に生活し、日々を謳歌しているさまがSNSを中心に話題沸騰。『マダムたちのルームシェア』に登場する栞さん、沙苗さん、晴子さんが可愛くてカッコよくて仲間に入りたくなる。その著者がseko kosekoさん。「描く最初の時点で、マダムたちはルームシェアしていることに決めました。ルームシェアなら、朝も夜も気軽に一緒に行動できそうですし、シチュエーションの選択肢が広がるかもしれないなと思ったのもあります。3人とも最低限のキャラクター設定しか決めずにスタートしましたが、どこへ行く、何をする、と決めて描き始めると3人が自由に動いてくれます。回が進むうちにだんだんと、それぞれの性格やしぐさ、好きなものが固まっていきました」海外コミックを彷彿させる、魅力的なタッチ。3人がみなおしゃれなのも憧れポイントだ。「ステキだと思ったファッションの画像やお店のディスプレイなどを撮影しておいたり、街で見かけた人ならポイントをメモしておいたり。体型も着こなしも好みも三者三様に違うことが伝わるよう、首の長さや手の形、くびれの位置などもすべて描き分けています。着こなしでは、沙苗さんはあまりトップスをインしないし、栞さんは服の色と形に、晴子さんはシルエットに、それぞれのこだわりを出しています」美術館巡り、年越しの買い出し、パジャマパーティなど、楽しげなイベントが続く。「『チョコを交換するマダムたち』の回は、私の誕生日にカカオ100%のチョコレートをプレゼントしてもらった経験をそのまま使いました。基本的には、私が楽しそう、やってみたいと思うことから考えます。家族や友人との会話もヒントに」いくつになっても女同士は楽しくなくちゃ!と思う半面、彼女たちのように長い友情を育むのは容易ではない。そのために大切なこととは。「難しい質問ですね。私と友人たちの場合で言えば、ちょうどいい距離を保つことや、ステキだと思ったら素直に口に出して褒めることでしょうか。また、“面倒くさがらない”ことも大切かなと思います。面倒くさがると、気遣いや約束事などに対して、結果的に相手を雑に扱ってしまう気がするので。もし足りなかったかなと思ったら、埋め合わせをすることも大切ですよね」これからも、粋なマダムたちの暮らしぶりを見ていたい!『マダムたちのルームシェア』Extra EpisodeやSpecial Episode、Illustration Galleryなど40ページを超える描き下ろしが付き大充実。3人でルームシェアを始める経緯も明かされる。KADOKAWA1210円©seko kosekoseko koseko(せこ・こせこ)イラストレーター、マンガ家。絵を描くのが好きで一念発起で始めた自主制作が現在の仕事に結びつく。本書が初の単行本化。※『anan』2022年10月19日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年10月17日旧制高校とは、かつて日本にあった高等教育機関。帝国大学に進学するための、男子のみに門戸が開かれたエリートの登竜門なのだが、著者の粥川すずさんにとって旧制高生たちは、推しと呼べる存在だ。友達作りは勉強より難しい!?エリートたちの青春コメディ。「きっかけは私が高校生のときに、全国の旧制高校の写真集を図書館で手に取ったこと。当時の学生たちの芯の通った感じというか、昔の人ならではの一本気な雰囲気にすごく惹かれ、借りては返すことを繰り返していたんです。バンカラな学生の白黒写真を拡大コピーして、部屋に貼っている女子高生でした(笑)」それから時は過ぎ、子育ても落ち着いてきた頃、一念発起してマンガを描き始めたのだが、投稿作に続き、この初の連載作も大正時代の旧制高校が舞台となっている。「ストーリーに関しては、かなり悩みました。旧制高校の卒業生は政治家や社長など出世している人が多いのですが、あのときほど純粋に友情を育めた時期はない、と回顧している記述をよく見かけて、友情ものだったら描けるかなと思えたんです」しかしそこで描かれるのは、一筋縄ではいかない友情だ。旧制高校に晴れて入学した大石征至郎の最大の目標は、終生の友を得ること。そのターゲットになったのが、歴代最年少で文芸新人賞を受賞して、天狗になっている梅原雪光。今までひとりも友達を持ったことがなく、作り方さえ知らない大石君は、段階を踏むことなく、梅原君を強制的に親友認定。梅原君は戸惑うものの、人知れずスランプに陥っていたことから、創作の糧になるかもという少々やましい気持ちで、大石君と友達になることに。「若くして賞を取った梅原君は、世間知らずでプライドもあるけど、基本的にはいい人。しょうがないなと思いながら、面倒を見ちゃうタイプです。むしろキャラ設定に手こずったのは、大石君。最初は怖いかもしれないけれど、だんだんかわいく見えてくるといいなと思っています」ちなみに、梅原君を独り占めしたくて嫉妬する大石君の振る舞いは、粥川さんの子どもたちの幼少期を思い出して描いたそう。ほかにも寄宿寮の奇妙な風習や、先輩後輩、同級生との人間関係など、汗くさく(失礼!)コミカルな学園ライフも、粥川さんの腕が鳴るポイントだ。「バンカラマントを描くのは、本当に楽しいですね!実はひとつ注文して、作ってもらったんです。それを自分で着ては写真を撮って、絵の参考にしています(笑)」ふたりは真の友情を育むことができるのか。麗しき大正ロマンの陰に、こんな楽しい世界があったとは!粥川すず『エリートは學び足りない』1旧制高校の入寮日、一冊の手帳がきっかけで「友達」になった少年たち。執拗に友情を求める大石君に、振り回されっぱなしの梅原君。真の友情って一体何!?講談社715円かゆかわ・すずマンガ家。2019年「コリン先生随行録」で第76回ちばてつや賞一般部門で入選。本作はウェブ「コミックDAYS」にて連載中。※『anan』2022年10月12日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年10月10日真打とは落語や講談などで秀でた技量を持つ最高位をいう。『あかね噺』は、その真打を目指す桜咲朱音(おうさき・あかね)の奮闘を追う芸道マンガ。17歳にしてすでに6年修業を積んでいる朱音は、未熟なところもありつつ努力家で、今後どんなふうに才能を花開かせていくのかが楽しみだ。「女の子が落語家を目指すという設定は一見異色かもしれませんが、友情や師弟愛、努力や才能を武器に頂点へ駆け上がるのは『少年ジャンプ』的には王道。落語をめちゃくちゃカッコよく描きたいという気持ちがあったので、朱音も、りりしい表情の似合う感じにしよう、前髪やピアスで左右非対称にして落語をする時どちらを向いているか分かりやすくなるようにしよう、と決まっていきました」(作画・馬上鷹将さん)「メインテーマは、落語に魅せられた少女が真打という高みを目指す成長譚。最初は、ズバズバものを言う今より勝ち気な性格で構想していましたが、礼節を重んじる落語というジャンルの空気感を損なわないよう調整し、今のようなキャラクターになりました」(原作・末永裕樹さん)主人公の朱音はもちろん、彼女を取り巻く師匠や弟子たちそれぞれの個性が立っているのが、本作の面白さに大きく貢献している。「落語は、演者の人となりが芸に色濃く出る側面もあります。キャラクターを練る際は、それぞれのキャラなりの哲学や行動原理は何かなど、核になる部分を意識して作っていきます。キャラクターの言動や考え方については、実在する落語家の方のエッセンスを取り入れている部分もありますが、作画の馬上先生にキャラクターデザインそのもので『誰々っぽくしてほしい』と要望したことはありません。とはいえ、落語好きな方なら、誰がモデルなのかを予想しながら読むのも楽しいと思いますね」(末永さん)ちなみに、好きな噺家に、末永さんは春風亭一之輔や柳家花緑、馬上さんは三遊亭歌武蔵を挙げた。高座の場面がちょくちょく出てくるが、声と身振りの芸事をマンガで見事に表現しているのも読みどころ。寄席にいるような臨場感がある。「画(え)では勢いや緩急、表情の面白さを意識しますね。キャラクターの心情が伝わるように、フキダシの形や描き文字も、見やすさと迫力のバランスを工夫しています」(馬上さん)2巻では、朱音の「学生落語選手権大会」への挑戦が始まる。「朱音には一つの一門に縛られず広い世界を知って成長してほしいと願っています。今後も、歴史から現代の落語家たちがどんな活動をしているのかについてまでどんどん発信したいです」(末永さん)また、朱音の父親が破門された理由も大きな謎としてストーリーを牽引する。3巻以降に乞うご期待。末永裕樹 原作馬上鷹将 作画『あかね噺』2二ツ目だった朱音の父親は、理由も明かされずに師匠の兄弟子・阿良川一生に破門された。朱音は父の悲願だった真打になれるのか。待望の3巻は、10/4発売予定。集英社484円©末永裕樹・馬上鷹将/集英社すえなが・ゆうき1990年、熊本県生まれ。26歳で『週刊少年ジャンプ』原作者向け漫画賞「ストキンPro」に応募、準キングに。以後、原作者として活躍。もうえ・たかまさ1991年、東京都生まれ。2016年『週刊少年ジャンプ』にて「オレゴラッソ」で連載デビュー。’21年に同誌の読切作で末永氏と初タッグ。※『anan』2022年9月28日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年09月27日推しにパワーをもらうのは、何も大人だけじゃありません。イラストレーター倉田けいさん( @kurata_kei )の3歳の息子さんは大の鉄道好き! いわゆる“子鉄”な息子さんは、推しである鉄道によって“やる気”や“癒し”などさまざまなスイッチが入るよう。ママである倉田さんもその推しの力を借りて、上手に息子さんのスイッチを押す様子が微笑ましく、多くの共感をよんでいます。今回は、子鉄ママなら“あるある”なエピソードや倉田さんに聞いた息子さんと鉄道ライフを楽しむコツをご紹介します。強火の夜泣きを解決したのは?息子さんが2歳の頃、おしゃべりも活発になり夜泣きも激しくなってきたころに心を落ち着かせてくれたのは、子守唄でも羊の数を数えるでもなく、推し=電車の名前をよんでいくことでした。“年齢問わず、推しは世界を救うのね!”など、10.5万いいねが付くほど大きな反響をよびました。また、推しに会える!と思うと待ち遠しすぎて、すぐにでも明日が来て欲しいとい気持ちが前のめりになってしまう可愛いひとコマも。推しに会える明日はいつ来る?“電車に乗るよ!”“新幹線見れるよ!”など、鉄道にまつわる言葉に反応して、行動が早くなったりやる気スイッチが入るというのは、子鉄ママならあるあるなのではないでしょうか。親子で鉄道ライフを楽しむコツは?倉田けいさんに当時の様子や、子鉄の息子さんといっしょに鉄道ライフを楽しむうえで心がけていることについて伺いました。Q1:「あしたなった?」「まだなってないよ?」の後、息子さんはどんな反応をされましたか?「明日は? もうちょっと? 1・2・3でおわり?(=1・2・3を数えたら明日になる?)」的なことをずっと聞かれていた気がします。Q2:息子さんが電車にハマったきっかけは?とくに大きなきっかけがあったわけではありませんが、近所に電車スポット(踏切や電車の通過が見える場所)があり、お散歩で見に行くことが多かったからかもしれません。Q3:息子さんがいま一番好きな電車、ハマっている電車関連の遊びやグッズは?最近地下鉄全般にハマっていて、プラレールの橋脚(本来レールを上に乗せて2階建てにしたり縦に繋げて遊ぶもの)を横に並べて長いトンネルの道?を作ってくぐらせたりして遊んでいます。手持ちのおもちゃと想像力でさまざまに楽しんでいてすごいな~と思いながら見てます。Q4:子鉄の息子さんとの会話や鉄道ライフをいっしょに楽しむ上で気をつけていることは?もはや私より息子のほうがよほど電車に詳しいので、図鑑などの漢字や文字などを読む・内容を伝えるサポートはするものの、「教える」というより「一緒に学ぶ(教えてもらう)」気持ちでいます。電車は旅行や地理、歴史などさまざまな他ジャンルと結び付けて楽しみやすいこともあり、息子のおかげで世界が広がってありがたい限りです。Q5:子育てでモットー(大切)にしていること、お仕事をしながら育児をする上で工夫していることを教えてください。できるだけおおらかに子どもと関わりたい…と思っていますが、忙しかったり疲れていたりするとそういった余裕がなくなってしまうので、できるだけ夫と密に状況の共有をして、家事育児の分量やひとり気分転換時間の調整を行うなど、互いに無理がないようにできるといいな~と思いながら暮らしています(そうもいかないこともありますが…!)子どもの推し=好きの気持ちに敬意を持つ倉田さんのお話を伺っていると、子どもの推し=好きなものに対して同じ目線でいっしょに学ぶ姿勢や、大人だからといって立場が上というわけではなくひとりの人として尊敬の念を持って接することが大切なのだなと感じます。“好きこそものの上手なれ”ということわざにもある通り、推しの力は何よりの原動力になるはず! 子どもの好きを大切に育てていきたいですね。
2022年09月26日持つべきものは、共に歩き光を目指す、人生の旅の仲間。海野つなみさんによる、コミック『スプートニク』をご紹介します。「スプートニク」という言葉から多くの人が思い浮かべるのは、世界初の人工衛星の名前だろう。「辞書で調べたところ、ロシア語で『旅の仲間』という意味だと知り、すごくいい言葉だと思ってずっと温めていたんです。そして今回、男女3人の定まらない関係を描くことになって、今こそこの言葉をタイトルにしようと思ったんですよね」物語の冒頭、ウェディングプランナーとして働いていた浅利千尋(あさり・ちひろ)が、上司の羽鳥汐路(はとり・しおじ)に辞表を提出する。いったん引き留めるものの、妊娠して結婚を控えていた汐路は、浅利と一緒に辞めることに。そして汐路の結婚パーティで、酔いつぶれた浅利を汐路の弟・渡(わたる)が介抱したのを機に、3人はパーティ会場だったカフェ&バー『スプートニク』に時折集まっては、おしゃべりをする仲に。「読み切りとして第1話に当たるパートを描いた当初は、もう少し恋愛寄りではあるものの、だからといって恋愛のフォーマットに則ってはいない展開をイメージしていました」しかし続編を描くことになった2021年、パンデミックにより第1話を描いた時点では誰も想像していなかった世界になっていたため、物語も大きく方向転換することに。「第1話から10年経ったコロナ禍の世の中という設定なのですが、現実でも感染拡大がいつまで続くのかわからず、先が見えない状況でした。自分もそうでしたけど、ちょっとした安心感やつながりがとても大事だと思ったし、そういう感情を物語に落とし込んで残しておきたい気持ちがあったのかもしれません」ステイホーム中、3人も立ち止まり、この先どう生きたいか思いを巡らせる。そして育児や親の介護、失業、失恋などさまざまな事情を抱える人生が、以前とは少々異なる形で交わるように。ネタバレになるのでこれ以上は触れないが、まさに海野さんの真骨頂といえる、臨場感たっぷりのワクワクが待ち受けている。「当たり前だった日々がある日突然がらりと変わったとき、状況に合わせて生き方を柔軟に変えるのもひとつの戦略ですよね。そしてコロナ禍の現実をただ描写するのではなく、何だかよくわからない状況でも顔を上げて一歩前に進めるような希望を絶対に入れたいと思っていました。今までの作品に比べて、そのことを一番強く意識していた気がします」恋人、友達、家族などひとつの関係性に縛られず、「旅の仲間」として重なった道中を楽しく過ごす。付かず離れず、自立しながら時に手を取り合う、3人のゆるやかな関係は、どんなことが起きてもきっと何とかなりそうな光に満ちている。『スプートニク』かつて同じ職場にいた部下と上司、そして上司の弟。ゆるくつながっていた3人がコロナ禍によって立ち止まり、今までとは違う形で交わり出す希望の物語。祥伝社1012円©海野つなみ/祥伝社フィールコミックスうみの・つなみマンガ家。『逃げるは恥だが役に立つ』(全11巻)が社会現象に。『Kiss』で新連載「クロエマChloe et Emma」がスタート。※『anan』2022年9月21日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年09月19日高校生・葵ハルの元気のもとは、人気モデルの月夜(つきや)ノア。母の再婚によって、ふたりは兄妹となり、推しと一つ屋根の下で暮らすことに…。そんな夢のようなシチュエーションで描かれるホットなラブコメが『推しが兄になりました』。その著者が、隈浪さえさん。「最初はクラスメイトのイケメン男子が兄になるストーリーを考えていたのですが、『カッコいい男の子の最たるものは“推し”では?』と思い、いまの設定になりました」世界でいちばんステキだと思っている異性にだらしないと思われたくないし、塩対応で有名なノアにウザがられたらどうしようと、ハルの不安は尽きない。ところが、当のノアはそんなハルの気持ちには鈍感で、むしろ兄らしくしようと、実の兄以上のナイト魂を発揮してしまう。こうしたボタンの掛け違い感が、笑いと共感のツボだ。「少しドジっ子のハルですが、母親やノアなど誰かのために行動できるキャラなので、彼女も読者に愛されてほしいなと思っています。推しのノアに対して、大袈裟な反応をするハルを描くときが一番楽しいですね。推しがいる読者に共感してもらえるように意識しています。ノアについては、兄妹になってもなかなか本心が見えないミステリアスさを大事にしたい半面、人間らしさを失ってもいけないので、表情の変化を繊細に描きたいと思っています」2巻に入り、ハルの推し活がノア本人にバレたり、ノアを狙うライバルでモデルの桐島アカトが、ハルやノアにじわじわ接近。アカトは、隈浪さん自身の個人的趣味でもある捻くれた“ツンデレ”を体現するキャラだという。3人がからむことで不穏な出来事が起きそうな場面もあるのだが、ハルの持ち前の優しさに、アカトは調子を狂わせられっぱなし。キャラそれぞれに萌えギャップがあるのがいい。もちろん、全編を通して、美形を愛でる楽しさがふんだんに。「金髪長髪、長い睫毛、高身長等々、個人的に思う“イケメンの王道的要素”を詰め込んでできあがったのがノアです。美形を描く上でこだわって描いているところは睫毛。ノアやアカトのポージングに関しては、いわゆる乙女ゲームのスチルが萌えだなと思うことが何度もあったので、マンガというよりも“一枚絵”でいかに萌えてもらうかを大事にしています。ページをめくったところに、バン!と良い絵が来るようにネームを切ろうと心がけていますね」今秋発売予定の3巻ではノアのイメチェン計画が勃発!?続きが待ち遠しい。『推しが兄になりました』2ファン心を懸命に押し殺して妹になろうとするハルだが、ノアの無防備な優しさに鼻血を出すことしきり。ピュアすぎるハルを応援したくなる。スクウェア・エニックス790円©Sae Kumanami/SQUARE ENIXくまなみ・さえSNSを中心に活動。Twitterやpixivに作品を発表していく中で、出版社からのスカウトでデビュー。『殺し屋だって見守りたい』ほか。※『anan』2022年8月10日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年08月09日三拍子を刻むように軽やかに、心地よいテンポで描かれる日常がクセになる、町田メロメさんの『三拍子の娘』。三姉妹が弾んで、奏でる日常という名の愛しきワルツ。「初めての長期連載だったので、手元から離れすぎず、身の回りにあるものでドラマにしたかったんです」三姉妹という設定にしたのも、町田さんには妹がふたりいるから。「モデルとまでは言いませんが、大まかな性格はそれぞれ合わせていて、長女のすみの描写は、ほとんど自分の絵日記みたいな感覚です(笑)」すみ(28歳)は長女らしく責任感が強いが、楽天家。得意なピアノを辞め、音楽系のライターをしている。次女のとら(22歳)は豪快でお酒好き。仕事の取引先や商店街のおじさんを手玉に取っている。三女のふじ(18歳)は利発で、姉たちをクールに観察しがちだが、時折、女子高生らしさものぞかせる。ひとつ屋根の下で仲良く、慎ましく暮らす彼女たちの結束を強めているのが、いわゆる家庭の事情。すみが高校生のときに母が亡くなり、音楽教師だった父はすべてを捨てて放浪の旅へ。「何も変わらない日常が続いていく物語は個人的にも好きなんですけど、全部通して読み終わったときに、問題が解決されるようなマンガにしたかったんです。父親はそのための、仕掛けみたいなものですね」淡々とした日常を彩るのが音楽、特にクラシックのモチーフ。いつの間にか音楽に没頭して、目の前のことを忘れてしまったり、その日聴いた音楽の気分で夕飯の献立が決まるようなことは、誰でもあるはず。そんなふとした瞬間を、今にも音楽が鳴り出しそうなくらい臨場感たっぷりに表現しているのだ。「この話の構想を始める1年くらい前から、クラシック音楽にハマり出して、自分の中で一番エネルギーのあるモチーフだったんです。三姉妹が主にいる場所は、マンションとスーパーと駅周辺くらいなので、絵的に変化をつけたくて、音楽にまつわる妄想シーンを意図的に入れてもいます。描いている側が楽しまないと、読む人も楽しくないと思うので」母との思い出や、父の消息もちらつかせながら、いつも通りの一日を繰り返すことで、三姉妹の現在地は少しずつ変わっていく。私たちの人生がそうであるように。「2巻を描きながら、ストーリー上で解決しなければいけない問題とは別に、このマンガがそもそも言いたいことは何なのか、ずっと考えていました。1巻のときは、目の前の1話に集中して見えていなかった道筋が、ようやく見えてきた気がします」代わり映えのしない日々でも、同じ日、同じ瞬間は二度とない。だからこんなに楽しく、愛おしいのだ。町田メロメ『三拍子の娘』23人の関係性だけでなく、個々の知られざる一面も見えてくる2巻。そして、気になる父の動向は?コミックアプリ「ebookjapan」で連載中。DU BOOKS1210円©町田メロメ/ebookjapanまちだ・めろめイラストレーター、漫画家。2020年より連載を始めた本作で第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選出される。※『anan』2022年8月3日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年08月01日高校生徒会を舞台に描かれた恋愛漫画の金字塔『天使なんかじゃない』、’90年代のおしゃれ少女漫画を代表する『ご近所物語』、実写映画化やTVアニメ化もされ社会現象を巻き起こした『NANA』。数多くの読者の青春を彩り、今も背中を押し続けてくれる名作を世に送り届けた矢沢あい。満を持してファン待望の原画展「ALL TIME BEST 矢沢あい展」が開催される。今回の展覧会には、300点におよぶ直筆原画やイラスト、初公開となる関連資料から連載当時のふろくカットに至るまで、本人総監修で厳選されたアイテムがずらりと集結。そのコンセプトは“ALL TIME BEST”。CDアルバムのトラックになぞらえて「Track0」から「Track5」まで、作品ごとに原画や資料を展示。『ご近所物語』に続く世界を描く『Paradise Kiss』、またミステリアスな展開が謎を呼び熱狂的なファンも多い『下弦の月』を含む5作を振り返る。さらに、近年の画業であるファッション解説書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(佐藤誠二朗・著/集英社)の挿絵も展示。時代の流行を捉えた流麗なタッチをじっくり味わうことができる。今回のオリジナルグッズのための新たな描きおろしイラストも多数公開するとのこと。《会場でみなさんに楽しいひとときを過ごしてもらえるようになつかしいもの、あたらしいもの、沢山とりそろえてお待ちしております。》と矢沢先生のコメントも。当時を振り返りながら楽しみたい方も、初めて矢沢あいワールドに触れる人も大満足の展示になること間違いなし。キービジュアルでは、『NANA』の大崎ナナと『天使なんかじゃない』の須藤晃が夢のコラボレーション!©矢沢漫画制作所/集英社’91~’94年連載の『天使なんかじゃない』は出世作に。©矢沢あい/集英社2000年に連載開始の『NANA』は、中島美嘉と宮﨑あおいで実写映画化し話題に。©矢沢漫画制作所/集英社服飾デザイナーを目指す主人公と幼馴染みの関係を描く『ご近所物語』は’95~’97年連載。©矢沢漫画制作所/集英社「ALL TIME BEST 矢沢あい展」新宿高島屋 11階特設会場東京都渋谷区千駄ヶ谷5‐24‐2開催中~8月8日(月)10時30分~19時30分(最終日は~18時。入場は閉場の30分前まで)無休一般1000円ほか※事前日時予約優先※『anan』2022年7月27日号より。(by anan編集部)
2022年07月25日陸上を、ケガで断念した浜仲健斗。挫折を抱えて進学した男子校で、部昇格を狙う手芸同好会の先輩2人から、勧誘を受けた。〈男が手芸なんて変だし〉と偏見に囚われていたが、〈編み物王子〉と呼ばれる黒葉類(くろばるい)との出会いを機に、編み物の楽しさに目覚めていく。この胸熱な青春群像コミック『ニッターズハイ!』の著者が、猫田ゆかりさん。「洋服を縫ったり刺繍をしたり、手芸は好きなのですが、編み物だけは難しそうだと敬遠していたんです。ところが3年くらい前に、私自身が帯状疱疹ですごくつらい思いをして。マンガも描けないし寝るのさえ苦痛。思い切って編み物に挑戦してみたら、痛みを忘れられるほど集中してしまうことに気づいたんです」ニットセラピーという言葉もあるくらい、欧米では心身への良い効果が認められているという。「自分と向き合える時間が持てるのが編み物のいいところ。編んでいるうちにモヤモヤが吹っ切れたり、頭を切り替えられたりするんです。健斗や類だけでなく、コスプレ好きで衣装作りが得意な金子天馬(てんま)やお菓子名人の織武蓮(おりむれん)、先輩たちにもみな悩みを背負ってもらって、手芸を通して変わるきっかけをつかむ。そういう物語にしていきたいですね」2巻に入り、手芸部には顧問がつく。マッチョ体型の数学教師・大同(だいどう)は、〈あみぐるまーパピ〉としてこっそり動画投稿しているような手芸好き。手芸部員たちと触れ合い、素直に行動してみようと決める。「部員は全員若いので、大同先生には、大人ならではの考え方や大人だからこその悩みみたいなものを語ってもらいたいなと思ったんです」実際、健斗は最初、自分の不器用さに辟易しているのだが、バス待ちのベンチでまだ正体のわからなかった大同から〈不器用はいいことだ/できなかったことができるようになる喜びは格別だ/それを人よりたくさん味わえる〉と語りかけられ、大きく背中を押されることになる。「周りに編み物を勧めると、ちょっとやって『不器用だから無理』と拒否されることが多いんです。でも、どんなことでも、最初から失敗せずにできると思うのが変でしょう。名言みたいに聞こえるかもしれませんが、『失敗を怖がらずに何でもやった方がいいよ』と逃げ道を塞ぐ気持ちで考えたセリフです(笑)」読んだら、マンガだけでなく、編み物にもハマるかも!?巻末には、編み図のおまけ付き。猫田ゆかり『ニッターズハイ!』2 2023年刊行予定の3巻では、陸上への思いを再燃させた健斗がニット愛を深めた今、どう向き合うのかを軸に描かれるそう。部員らの変化にも期待。KADOKAWA704円©Yukari Nekota 2022ねこた・ゆかり1984年、愛知県生まれ。2013年にちばてつや賞に入選。同作で商業誌デビューし、その7年後を描いた『SAKURA TABOO』で初連載。※『anan』2022年7月20日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年07月19日前作『1122(いいふうふ)』では、公認不倫を選択した夫婦の顛末を描き、無自覚に抱いていた価値観を大きく揺さぶってくれた、渡辺ペコさん。本作『恋じゃねえから』はその連載時から「長く気になっていた」といういくつかの事象をモチーフにしている。ひとつは、タイトルにも冠している「恋」について。「恋だから」「アートだから」とないがしろにされてきたこと。「ドラマなどが顕著だと思うのですが、フィクションにおいて恋愛があまりにも重要視されているように感じるのです。そんなにみんな、恋に重きを置いているのかな?それって幻想みたいなものなんじゃないかな?と気になっていました」もうひとつは「表現者のエゴ」。「メディアにアクセスする手段を持っている作家は、新しい作品を発表することで、関心のあることや自分の意見を更新できますよね。だけど望まない形でその作品のモデルにされた人は、ずっと晒され続け、搾取され続けてしまう。私自身が年齢を重ねるにつれ、そのことに疑問と危うさを感じるようになったんです」恋と芸術的表現に共通しているのは、感覚を優先しがちな点。「どちらも異を唱えたり、言葉で説明しようとすると、野暮だとか頭が固いと思われがちですよね。しかもこのふたつが組み合わさると、近くにいる人も口を出せなくなるような構図があると思うのです。手放しに称賛することで何を損ない、何を強化するのか考えたいと思いました」物語で最初に登場するのは、40歳の主婦・茜。家事の傍ら、フリーで翻訳の仕事をしているのだが、この年齢にして入れ歯だったり、午前中から日本酒をあおったり、どこか穏やかでない。あるとき、中学時代の塾講師・今井が彫刻家になったことを知り、彼が発表した裸の少女像が、かつての親友・紫(ゆかり)によく似ていることに気づく。茜が知る限り、ふたりは恋愛関係だったが、ある出来事に対して後悔の念を抱き続けていた彼女は、26年ぶりに紫と連絡を取り、今井の作品の存在を伝える。「少女の紫と中年になった紫は同一人物ですけど、かたや少女時代はミューズのように形に残され、もてはやされるのに、年を取ったら彼女の発する言葉さえ大事にされない。だけど、少女だった彼女が今井に大事にされていたかというと、それはまた別だったりもしますよね。向かい合っているのに言葉が届かない、そんな状態だったのだと思います」表現の自由はどこまで許されるのか。先生と生徒の禁断の恋、なかったことにされる小さな声、傍観することの罪、年齢で変わる女性の扱われ方……。曖昧に流されてきた物事をひとつずつ考える時間が、動き出したばかりの物語に詰まっている。渡辺ペコ『恋じゃねえから』1「作品」にされたことで蘇る、26年前の記憶。無名の中年女性ふたりの声は、“有名作家”と彼を取り巻く人たちに届くのか。創作と性加害をめぐる問題作。講談社726円わたなべ・ぺこマンガ家。2004年『YOUNG YOU COLORS』にて「透明少女」でデビュー。主な作品に『ラウンダバウト』『にこたま』『1122』など。※『anan』2022年7月13日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年07月11日天才作家は、陰キャのシンママ!?笑いが止まらない平安朝コメディ、D・キッサンさんが描く『神作家・紫式部のありえない日々』をご紹介。光源氏と女性たちが活躍する長編小説『源氏物語』。物語は有名でも、著者自身については「あまり知らない」という人も多いのでは。D・キッサンさんも、「紫式部といえば『源氏物語の作者』程度の知識しかなかったです」3年ほど前から『紫式部日記』を中心に調べ始め、気持ちは一変。「実は結婚して2年で夫と死別したとか、30代になって初めて宮仕えで働きに出た、のちに天皇の乳母になるほど出世した娘を育てた、などいろいろわかって。女性の生き方として妙に現代に通じる部分を感じ、興味深い人生だなと思いました」かくて生まれた『神作家・紫式部のありえない日々』は、紫式部の半生を軸にした宮中のコメディ。これがもう、爆笑に次ぐ爆笑なのだ。舞台こそ平安時代だが、現代に引きつけて描かれているので、親近感が湧く。紫式部の控えめな性格を陰キャ、ひとり娘のいる状況をシングルマザー、彼女が打ち込んでいる物語の執筆は同人活動…。見立てのうまさにうなる。作中では『源氏物語』で名を上げる前の香子(こうし)、女房名〈藤式部(とうしきぶ)〉として登場。彼女を取り巻く人々もバラエティ豊かで、物語に花を添える。同人誌のいちばんのファンで腐女子の小少将の君、たおやかで控えめな中宮彰子(しょうし)、彰子が慕う爽やかな帝、紫式部に出仕を勧めた賢いひとり娘〈ケンちゃん〉、スランプの紫式部に「締切」を設けてぐいぐい書かせる倫子(りんし)など、人間模様も面白い。「以前、平安期に変わった感性の才女がいたという設定で『千歳ヲチコチ』という作品を描いたことがあるのですが、まさか実在の才女も描くことになるとは(笑)」高貴な人々の服装、宮中の様子など、興味の尽きない場面がいっぱい。「イマドキのファッションの方が流行り廃りも早いし、着せる服でキャラクターの印象も変わってしまう。私にとっては、この時代の画の方がプレッシャーが少ないくらいです。平安文化や紫式部のファンそれぞれが持っているイメージを壊さないようにしつつ、キャラや宮中の暮らしの魅力は存分に伝えたいので、史実には沿いながらいかに大胆にデフォルメするかに腐心しています」たとえば、他の女房たちから冷たくされて引きこもったことや、自分自身の頭の良さを悟られないようにわざとおっとりふるまったことなどは紫式部の実際のエピソードだ。「彼女の日記には、少し清少納言の悪口が出てくるのも本当です。ふたりの関係性にも興味があるので、連載が続けばそれについても膨らませていけたらと思っています」『神作家・紫式部のありえない日々』1帝と彰子の仲を取り持つ役割も期待されている『源氏物語』。倫子の皮算用は吉と出るのか。『月刊コミックZERO‐SUM』で連載中。2巻はこの秋発売予定。一迅社700円©D・キッサン/一迅社ディー・キッサンマンガ家。奈良県出身。同人活動を経て、2006年、『共鳴せよ!私立轟高校図書委員会』でデビュー。近著に『三千世の心中』など。※『anan』2022年7月6日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年07月04日話題の美術漫画『ブルーピリオド』の世界をリアル&バーチャルで体験できる展覧会『ブルーピリオド展~アートって、才能か?~』が始まった。話題沸騰中の美術漫画のストーリーを追体験できる展覧会。『ブルーピリオド』とは、山口つばさによる漫画で『月刊アフタヌーン』(講談社)にて連載中。2020年にはマンガ大賞を受賞し、翌’21年にはTBS系列にてTVアニメ化。今年3月末からは舞台化もされた注目作だ。成績優秀かつスクールカースト上位の毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きていた高校生・矢口八虎(やとら)は、ある日一枚の絵に心奪われる。その衝撃に八虎は駆り立てられ、美しくも厳しい芸術の世界へと邁進してゆく。美術のノウハウや美大受験の実情など、美術に情熱を燃やす八虎と仲間たちが繰り広げる青春群像劇だ。本展では、キーとなる作中絵画の展示から没入型シアターといったストーリーを追体験できる展示、初心者でもアートを身近に感じられる名画解説など、様々なコンテンツがラインナップ。例えば〈青の渋谷シアター〉は八虎が美術の魅力に気づくきっかけとなった早朝の渋谷を追体験できる没入型シアター。〈キャラ大石膏室〉ではダヴィデやモリエールなど著名な像に扮した登場人物が設置され、来場者はここで自由にデッサンできる(平日限定)。また、キャラクターと共に美術作品を鑑賞しながら自分なりの名画の楽しみ方を発見できる〈名画の見かた〉や、作者・山口つばさの卒業制作の漫画作品、インタビュー動画が公開される〈山口つばさの部屋〉も必見だ。アートとは一体何か?そんな普遍的な問いに真正面から向き合った本展は、美術好きでなくても面白さと発見に溢れた内容になりそうだ。ある出合いにより美術に目覚める八虎。©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会美術部の森先輩が描いた天使の絵。美術室で偶然この作品を見た八虎は衝撃を受け、それをきっかけに美術を志すようになる。漫画(第1巻)の中でもキーとなる作品。森先輩の作品テーマ“祈り”が感じられるはずだ。受験を通じて、より深く自分と向き合う。©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会八虎が描いた“縁”をテーマにした絵(第3巻)。F100号(高さ162cm以上)に初めて挑戦し、自分の絵に呑み込まれそうに感じる。溶鉱炉をイメージした本作は、美術に対する想いが八虎の中で煮えたぎる様子を暗示。苦楽を共にした仲間とともに、挑む実技試験。©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会上:八虎の一次試験の絵(第4巻)。課題は「自画像」。手鏡が割れてしまうアクシデントを逆手にとって描き上げた。下:八虎の二次試験の絵(第6巻)。「ヌード」が課題の本作は体調が悪い中、努力と戦略で完成させた。ブルーピリオド展~アートって、才能か?~寺田倉庫G1ビル東京都品川区東品川2‐6‐4前期:開催中~8月5日(金)後期:8月6日(土)~9月27日(火)10時~20時(入場は閉館の30分前まで)一般2000円ほか(オンラインのみで販売)TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会※『anan』2022年6月29日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年06月27日創業60年の〈こいの湯〉で、かれこれ10年、住み込みでアルバイトをしている森蘭丸。色白で超イケメンの彼は、あろうことか御年450歳の吸血鬼!『ババンババンバンバンパイア』は、そんな破天荒な設定で読者の心を鷲掴みにする。その著者が、奥嶋ひろまささん。「2年ほど前に『入浴ヤンキース』という作品を描いたんです。それは、ケンカしていた不良同士が、お風呂に入って仲直りするという1話読み切りのスタイル。かなり取材もしたので、そのテンプレに組み込めない面白いこぼれ話がたくさん集まってしまって。特に、浴場の奥に居住スペースや三助(銭湯の従業員)部屋がある銭湯を見たときに、昭和の銭湯の風情にハマって。いずれここを舞台に、裏側までしっかり描いてみたいと刺激されたんですね。銭湯自体もひとつのキャラクターになってくれたらいいなと思っています」そこに、奥嶋さんにとって前々から興味があった吸血鬼という存在と、さらに蘭丸は「本能寺の変」など歴史上の重要事件に立ち会っているというアイデアをプラス。それらが型破りな笑いを誘う。実は、蘭丸には邪(よこしま)な目的が。こいの湯4代目の15歳・立野李仁(たつの・りひと)の童貞を守り通し、18になったら文字通りの「純血」をいただこうと目論んでいるのだ。ところが、李仁が高校生活開始早々、同じ学校の女の子に恋してしまい、童貞死守に暗雲がかかる。蘭丸は野望を果たせるのか。「李仁のモデルは息子です。彼の目線がとても生きている気がします。蘭丸が童貞に萌えるのは、僕の本音で。僕自身も高校生のころは『早く卒業しなきゃ』と焦っていましたけれど、息子の成長を見るにつけ、実際はその穢れのなさが尊いし、もう少し大事にしてもいいのかなと思うようになったんですよね(笑)」銭湯が舞台ゆえ、男性の肉体美のシーンが頻出する。「人間と吸血鬼、少年と青年というような肉体の違いを肌の質感や筋肉の感じなどで表現したいなと思っています。立野一家の食卓のシーンでは、2代目の長次郎や3代目の春彦などキャラそれぞれの個性が立ってみんなに目が行くようにしたいですし。また、僕にとっては女性を描くほうが難しくて、李仁の同級生・葵の可愛らしさをどう見せるかは試行錯誤です」1巻の終わりで、蘭丸、李仁、葵が相まみえる大事件が勃発。この先が楽しみだ。奥嶋ひろまさ『ババンババンバンバンパイア』1〈こいの湯〉は、東京都練馬区石神井台にある「たつの湯」がモデル。宮造り風の建物やペンキ絵など、建築当時の佇まいが残る。2巻は7月刊行予定。秋田書店693円©奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022おくじま・ひろまさ1982年、兵庫県生まれ。2007年に『SHOUT!』でデビュー。近著にタイの人気ドラマ『2gether』のコミカライズなどがある。※『anan』2022年6月22日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年06月19日もしも恐竜が、現代に生きていたら……。恐竜好きなら一度は考えたことがありそうだが、『ディノサン』著者の木下いたるさんもそのひとり。人間と恐竜は共存できる!?恐竜園の新人飼育員、奮闘記。「もともとマンガ家を目指していたのですが、大学卒業後、パラオという国で働く機会があって、当時住んでいた家の目の前がジャングルだったんです。その雰囲気がいかにも『ジュラシック・パーク』に出てきそうな感じで、そういえば昔、恐竜が好きだったなと思い出したのが、本作を描くきっかけになりました」物語の設定は恐竜の生き残りが発見されて、遺伝子操作などで再生された現代。一時は恐竜ブームに沸いたものの、とある事故がきっかけで下火に。経営難に陥った恐竜園「江の島ディノランド」に新人飼育員として入社するのが、主人公の須磨すずめだ。木下さんは前作でも、恐竜のパニックマンガを描いているが、それ以前からアイデアを温めていたのがこの飼育モノだったそう。「僕自身、家畜の飼育経験などがあるので、知識というより手触りの感覚で描けると思ったのです」恐竜のリアルな描写に欠かせないのが監修者・藤原慎一さんの存在。「体や動きのディテールなどは、藤原先生に何度もチェックしてもらいながら描くのですが、いかに本当っぽく見せるか毎回苦労しています。トリケラトプスが、猫みたいに香箱座りをするエピソードが1巻に出てくるのですが、藤原先生の小ネタから物語が広がることもあります」恐竜園をなんとか盛り返そうと飼育員たちが奮闘する、お仕事モノとしても読み応えがある。花形恐竜でありながら、角が折れて“傷物”扱いされているトリケラトプスが売られるピンチを凌いだり、群れに馴染めないトロオドンの赤ちゃんを親代わりに育てたり。恐竜好きが高じて飼育員になったすずめは、その都度壁にぶつかり、好きという気持ちだけでは務まらないことも学んでいく。「僕はマンガ家としての下積みが長く、好きだけじゃ務まらないというのは、すずめとともに10年前の自分にも釘を刺している言葉なんです」恐竜好きが楽しめるのはもちろん、恐竜に興味がない人が読んでも面白いと思ってもらえるマンガを目指しているという木下さん。「僕は、復元された恐竜の絵や模型よりも、骨を見て想像するのが好きなんです。どれだけリアルに描いても、本当のことはわからないし、だから想像するのをやめられない。それが恐竜の魅力なのだと思います」『ディノサン』2経営難の恐竜園で新人研修をする、須磨すずめ。過去の事故の真相や、トロオドンの赤ちゃん飼育、ティラノサウルスのお誕生会企画など盛りだくさんの2巻。新潮社682円監修・藤原慎一©木下いたる/新潮社きのした・いたるマンガ家。恐竜を題材にした、江戸時代が舞台のパニックマンガ『ギガントを撃て』でデビュー。イチオシの恐竜はギガノトサウルス。※『anan』2022年6月15日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年06月13日ミステリアスな美青年とイケおじが織りなす温かく切ない疑似家族物語。福田星良さんによる、コミック『ホテル・メッツァペウラへようこそ』。舞台は、フィンランドの最北部ラップランド地方にある小さなホテル「メッツァペウラ」。ホテルマンのアードルフとシェフのクスタで切り盛りしていたホテルに、身元不詳の青年ジュンが現れる。所持品も所持金も乏しく、背中の和彫りの入れ墨が何やら訳あり。日本とフィンランドのミックスである17歳を、ふたりの老紳士は事情も聞かずに受け入れ、関係を育んでいく。各話で、北欧の厳しい冬の寒さを溶かしてしまいそうな、温かなふれあいが描かれるコミック『ホテル・メッツァペウラへようこそ』が面白い!その著者が、福田星良さん。「ヨーロッパのイケおじのマンガが描きたい、というのが最初でした」さらに、打ち合わせ段階で、タトゥーを入れた青年のスケッチが好評だったことから、ジュンが生まれた。来歴ゆえか、遠慮深く、謝るときは土下座しがちという風変わりなクセがあるが、素直でがんばり屋。応援したくなる愛されキャラだ。「『タトゥーより和彫りがいい』『ジュンが疑似家族の中で成長する物語にする』等々、試行錯誤していくうちに、さまざまな人が出入りするホテルの設定になりました」老紳士ふたりは実は往年のホラー映画の大御所俳優がモデルだそう。「アードルフはピーター・カッシング、クスタは私が大好きなヴィンセント・プライス。特にクスタには思い入れがあって、ビジュアルをかなり忠実にプライスに寄せています」本作には、フィンランドの自然や文化を身近に感じるエピソードがいっぱい。たとえば、2巻第7話に登場する古い風習「椅子を贈ることが居場所を用意するという意味」もそのひとつだ。国民性を感じる余話が物語に溶け込んでいて、胸を打つ。「マンガのネタが枯渇してきたらまた取材旅行すればいいやくらいの気持ちでいたのに叶わなくなって、今はひたすら関係書籍やYouTubeなどを片っ端から参考にしています。担当編集さんのアドバイスの『このホテルが実在するかのように思わせてください』というのが心に残っていて、自然も場所もいかに臨場感を出すかは意識しています」和気あいあいとした時間の後でひとり物思いにふける静かなさまを描くのがお気に入りだそうだが、ジュンが贈られたカードをひとり読む第10話には、福田さん渾身の場面がある。また、ジュンが命を助けたティム・バーナネンの弟アキがホテルにやってくるなど、温かな人の輪が広がっていくのも本作の魅力だ。ジュンと母親の問題、滞在ビザの問題など、先が気になる伏線がてんこ盛り。3巻が待ち遠しい。『ホテル・メッツァペウラへようこそ』2フィンランドの豊かな森や雪の風景、さらには料理や小物、筋肉や服…すべてフルアナログで描いているというから驚く。線の細やかさや美しさは圧巻だ。KADOKAWA748円©福田星良/KADOKAWAふくた・せいら愛知県出身。東京藝術大学卒。専攻は日本画。2016年、漫画誌『ハルタ』35号でデビュー。本作が初連載となり、同誌上で連載中。※『anan』2022年6月8日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年06月07日著者の山内尚さんは、本作『魔女の村』の主人公である9歳の少女・桃のように、世間からは“おばさん”とか“おばあさん”と呼ばれる世代の人たちに、子どもの頃から親しみを感じていた。自分が自分であるために大切な、居場所と仕切り。「おばあちゃん子だったというのもありますが、渋くてかっこいいなあと思っていました。こういった世代の女性たちは、物語のなかではわりと脇に追いやられたり、いたわられるような存在として描かれがちですが、もっと能動的に生きている魅力的な姿を描きたいと思ったのです」そんな女性たちが暮らしているのが、通称・魔女の村。入り口に大きな鐘があり、バラなどの植物に囲まれたコーポ・レイコという集合住宅なのだが、“親戚のおばさま”である麗子が大家をしているこの住宅で、桃は一時的に暮らすことに。両親のいさかいが絶えず、家庭内で自分の声を失ってしまった桃は、いつの間にか他人の顔色をうかがって言いたいことを言えず、手洗いをやめられない神経質な状態になっていた。一方、男子禁制のこの集合住宅で暮らすのも、桃と同じように何らかの事情を抱えている人たちだった。「戸籍の変更をしていないトランスジェンダー女性のともみさんや、男の人が怖くて外に一歩も出られないゆきさんなど、一般的なアパートには入居しづらい人ばかりですが、本来は変な人でも、避けるべき人でもまったくない。いろんな過去がありつつ、今を普通に生きている姿を描こうと意識しました」年の離れた友人たちと交流しながら、山内さんいわく「桃の心は花が開くように、ふわりと緩んでいく」。弱い立場に置かれがちな人たちが、肩を寄せ合って暮らしているが、寄りかかったり、傷をなめ合ったりはしていないところも清々しい。「シェアハウスではなく集合住宅という設定にしたのは、居住空間だけでなく関係性にも仕切りは大事だから。自分の生活をきちんと送った上で、それぞれを尊重しながら連帯している様を描きたかったのです」反対に、仕切りのない関係として描かれるのが、桃と母親。「私のマンガは、居場所を作るような話がわりと多いのですが、健全な関係を築くためには、たとえ家族であっても、それなりの仕切りは必要だと感じています。私自身も自分のための居場所を持ったことが精神の安定につながって、周りの人との関係もうまくいくようになったので」巻末に収録されている商業誌デビュー作「帰る家」も、異父姉妹の居場所にまつわる物語。どんな人にとっても、“魔女の村”は必要なのだ。山内 尚『魔女の村』両親が離婚することになり、9歳の桃はおばの営むコーポ・レイコに一時的に入居することに。さまざまな事情を抱えた人と穏やかな時を過ごすことで、少しずつ心がほぐれていく、癒しの物語。秋田書店660円(電子書籍のみ)©山内尚(秋田書店)2022おやつとお茶を囲めば、そこに居場所が生まれる。同時発売の『クイーン舶来雑貨店のおやつ』は、『魔女の村』の後に描かれた作品。祖母が営む雑貨店の番を任される孫のジャックや訪れる人々が、やはり居場所を見つける物語。「『魔女の村』もそうですが、読んでくれた人に『自分もこういう場所が欲しい』とか『作りたい』と言ってもらえるのが嬉しくて。物語に出てくるような場所を、多くの人に持ってほしくて描いているところがあると思います」。秋田書店660円(電子書籍のみ)やまうち・なおマンガ家。「わたしの歯」で「アフタヌーン四季賞2018秋」佳作に選出。『エレガンスイブ』8月号より新連載スタート。4姉妹の物語。※『anan』2022年6月1日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年05月30日ある集落で幼なじみとして育ったよしきと光は、将来に悩み始める高校生。ある日、光が山で行方不明になり、1週間後に戻ってくる。だが、よしきは彼に違和感を覚え、思い切って尋ねる。〈お前やっぱ光ちゃうやろ〉。その答えは――。モクモクれんさんの『光が死んだ夏』は、少年ふたりを軸にした青春ホラーだ。怖いのに切なくて、共感度高し!新感覚の入れ替わり系青春ホラー。「光がヒカルになっていたように、もし自分の大切な人が別の何かになり代わっていたとしても、自分だったら、よしきみたいに案外そのまま生活してしまいそうだなと思って。そんな気持ちを託しています」ヒカルを見て、〈ノウヌキ様が下りてきとる〉と怯える老婆がいる。村では怪事件が起き始める。一方で、一緒にいたい気持ちを消せないふたりは、できるだけ以前と同じようにつき合おうとするのだが…。「ヒカルはよしきが大好きですが、それが思慕なのか友情なのかは読者がそれぞれ感じてくれたらいいなと。私は、生まれたてのヒナが最初に見たものを親だと信じてしまうのに近い、さまざまな意味を内包している“好き”なのかなと思っています」光ではないナニカは、光の姿かたちを模倣し、記憶も引き継いでいるという設定。ゆえに、彼は結構涙もろい。不気味さの片鱗が現れてぞっとするシーンもあるのに、よしきも、そして読者も、彼を突き放せない。「ヒカルは人外ですが、読者に可愛いと思ってもらいたい気持ちはあります。よしきは闇を抱えているわけではないけれど、自己肯定感が低い。誰もが大なり小なり持っているようなネガティブさがあって、そこに共感してもらっている気がします」また、前提として、「ヒカルを単純に邪悪なものとして描きたくないんです。人間の価値観とは違うかもしれないけれど、それが悪とは言い切れないですよね。善か悪か掴みきれない曖昧さは残したい。よしきが元の光と違うと知っても葛藤し続けるのはそのせいで、仲良しなままのふたりを見ていたい」全体的にダークな色調の画だが、そのスミ(黒)のグラデーション表現がとても繊細。「トーンはあまり使わず、できるだけカケアミで描いて濃淡を出したくて、頑張っています(笑)。その割合の多さ少なさで感情や緊張を演出するのがこだわりかも。ヒカルの変体(メタモルフォーゼ)も、グロテスクというより、見ようによっては美しい模様みたいに見えるように意識しています。白石晃士監督やギレルモ・デル・トロ監督作品、海外のおしゃれなホラー映画とかには影響されている気がします」よしきやヒカル、集落の運命はいかに。続きが待ち遠しい!『光が死んだ夏』1SNSでも話題沸騰。無料オンラインマガジン「ヤングエースUP」にて連載中。本作の原点は、Twitterにアップした、7ページほどの短編だそう。KADOKAWA704円©モクモクれん/KADOKAWAモクモクれんマンガ家。東京都出身。小さなときからホラー好き。本作品が初の連載となる。自身のTwitterアカウントでも随時情報更新中。@mokmok_len※『anan』2022年5月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年05月24日産後クライシス…という言葉をご存知ですか? 「なんか、ママがイライラしてるヤツだよね」と甘く見ているパパの皆さん、要注意です。夫婦の溝が修復できないレベルまで広がる前に…読んでいただきたい。ぜひ、パパに! という意見も多く届いたコミックライター雨さんの漫画のご紹介です。編集部も驚くほどの数が寄せられた読者コメントにも、ママやパパが一歩前進できるヒントが盛りだくさん!■「俺も育児する」って言っていました。産まれるまでは…姉妹を育児中の雨と申します!長女を出産したときは、産前産後ともに夫のことが大嫌いになってしまいました。妊娠中からずっと無理解で、何も変わってくれない夫…。長女を妊娠中だったあの時から、現在に至るまでのことを綴ります。夫婦の意見が食い違い、子どもをもつ決心がつくまでたくさん話し合いを重ねました。「俺も育児する、2人で頑張ろう」という夫の言葉を信じていたのに…。現実は違いました。■「ベビー服は2着で足りるよ」妊娠中から夫の言葉にイライラ…産後クライシスとは言いますが、もはや私は妊娠中からイライラが募っていました。その原因は、夫の無理解です。そしてもちろん産後も…さらにイライラは増していく…! 女性はお腹に赤ちゃんがいる時期があるというのが男性とは決定的に違います。そのため男性は当事者意識をもちにくいらしい…。とはいえ、それじゃ困る!! パパは、このまま変わらないのか? 夫婦の亀裂は広がる一方なのか…? さて、雨さん夫婦の将来はいかに!?こちらは2月20日よりウーマンエキサイトで公開された漫画です。漫画に集まった読者からのコメントをご紹介します。■同じ経験をしている人がいる。それだけで救われた…編集部には、雨さんと同じような経験をした方からのコメントが多数寄せられました。・まるで我が家を取材していたのかと思いました。私だけじゃないんだ、と安心しました。・うちの旦那だけではなかったことに、驚きと喜び。 ・こういう記事が出ることによって、たくさんの男性の目に留まると良いなと思いました。変わるきっかけになって欲しい。・男にとって「お母さん」はパーフェクトウーマンなんだろうなと。・わかりすぎて当時を思い出し腹わた煮え返りまくりました。・世の中の子育てママがぶつかる壁はこの10年…20年経っても変わらないものだと痛感しています。■読者のツラい産後クライシス体験談も…! 中には雨さんを超えるような、産後クライシスエピソードも! 一部をご紹介します。・子どもをあやすだけで、俺イクメン。て言っている旦那にイラつき、他のこともやってと言うと「俺は仕事をしているから無理」と言われました。・妊娠中に太ってしまい…外出先で後ろにいた主人が溜め息混じりで 「みっともない体…隠して」と言われました。・産後、夫には家事をしてもらうことになっていましたが、産後2週間で「産休中でいわば専業主婦なのに、まだ家事できないのか!」と夫が憤慨しました。・専業主婦でワンオペの私を、夫は、「あいつは遊んで暮らしてる」吹聴していました。・子どもが1ヶ月頃、「俺の事を優先しろ。でも泣かせるな」と言われました。ひどい…。新しい家族が生まれ、幸せになっていくはずなのに…多くの夫婦が経験する産後クライシス。夫婦の感覚のズレるかもしれないという前提でコミュにケーションを取り、互いに歩みよることが大切なのかもしれませんね。雨さんの体験談を知ることで、産後クライシスを抜ける夫婦が1組でも増えますように…。▼漫画「産後クライシス」
2022年05月02日背徳感あふれるソウルフードの数々。ユニークな、旅グルメのルポマンガ。原作・青木潤太朗さん、作画・森山 慎さんによる『鍋に弾丸を受けながら』。〈危険な場所の方がとんでもなく美味いものにぶち当たっていることが多いかも〉。『鍋に弾丸を受けながら』の原作担当・青木潤太朗さんは、友人との会話の中でふとその事実に気づく。そんな青木さんの実体験がマンガになり、これが滅法面白い。「もともと釣りが大好きで、釣果を求めて、趣味を同じくするアメリカやブラジルなどの友人たちをガイドに釣り旅行に出かけていました。一般の観光では行かないような場所で食べたものの中には衝撃的に美味しいものがあって、その思い出はマンガになるかもと思ったんです」青木さんがメキシコの第二サンマルコス村で食べた「ロモアールトラボ(マフィアの拷問焼き)」や、下のコマで紹介している、ブラジルの「豚足(ハム)のファビュラ(いわゆるスラム)風」等々。紹介されているのは、ソウルフードの数々だ。「どこで何を食べるかについては、知っていたものも知らなかったものもありました。塊の牛肉をオーガニックコットンで包んで火に投げ込んで焼く“マフィアの拷問焼き”は、南米やスペインなどではポピュラーな調理法らしいのですが、僕は初めて知りました。一方、シカゴ名物のイタリアン・ビーフ(サンドイッチ)は、旅行前にYouTubeで調べて率先して食べたいと思っていたもの。初体験は、釣り友だちのロブさんおすすめの店でした。九州のとんこつラーメンが店によって味が違うのと同じで、同じサンドイッチでも、グレービーの味などすごく特色があります」日本人にとっての美食の概念を一変させるカオスなグルメレポート。食欲もそそるが、カルチャーの断片を知る上でも興味深い。現地に行って現地の人と交流したからこそ感じた、青木さんの視座からのリアルであり、そこも本書の大きな魅力だ。このマンガに登場するのは全員が美少女(別途説明を参照されたし)なのだが、ワイルドな釣りに出かけるわ、野性味あふれるサンドイッチにかぶりつくわで、そのギャップも愛らしい。「人気のTVドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート』に例えられることもありますが、ここに出てくる料理は、あんな危険地帯に行かなくても街や家で気軽に食べられるものが多いですよ(笑)」たとえば、プレスリーの好物だったというエルビス・サンドイッチ。確かに自宅でも作れそう。そのカロリーにひるまなければ、だが。原作・青木潤太朗作画・森山 慎『鍋に弾丸を受けながら』1〈長年に亘る二次元の過剰摂取〉により、タトゥーもりもりの屈強な男性すら美少女に見えるという主人公・ジュンタローが楽しむスペシャルな味。KADOKAWA924円©Juntaro Aoki 2022/KADOKAWA©Sin Moriyama 2022/KADOKAWAあおき・じゅんたろうマンガ原作者、小説家。福岡県出身。釣りと料理が趣味。元々は友人の森山さんと釣り師のアイドルの話を作ろうとしていたそう。※『anan』2022年4月27日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年04月24日転校続きで、幼なじみに憧れていたという柚木楓(ゆずきかえで)。転校早々、親切に話しかけてくれた相田航平に、思い切って打ち明ける。〈私と幼なじみになってください!!〉。想定外のお願い事にとまどいつつ、楓の願望を一緒に叶えてあげる航平。カップル未満のふたりの掛け合いが愛らしくて応援したくなる。帯屋ミドリさんの『今日から始める幼なじみ』は、そんなほのぼのしたラブコメだ。「明るくてノリのいい転校生から言われるのと、無口で人見知りな感じの子に言われるのでは、受け止める側も真剣度が違うというか。だから、航平も楓のちょっと過剰なこだわりにも応えてあげるのだと思います」自宅も隣同士なら、クラスでも席が隣同士。窓越しの会話もできてしまう楓と航平は、幼なじみになるしかない運命なのかも。「友だち、親友、恋人のどれとも違うカテゴリーと考えるのが近いですかね。幼なじみは、そういう間柄でも知らないことを知っていたりする、特別な関係かなと。僕自身にもれっきとした異性の幼なじみはいないので、その憧れをちょっぴり代弁してもらっているところはあります」下の名前で呼び合う、朝起こしに行くなど、楓がこだわる幼なじみ儀式が、2巻でもあれこれ決行される。「“ベッドに入って寝ながら電話する”はうらやましいですね。自分の学生時代は、まだガラケーで無料通話が気軽にできるデジタル環境はなかったけれど、当時からあったら絶対やってみたかったです」楓がわざと作った塩入りクッキーを、航平ががんばって食べる回も、胸がキュンとする神回。「失敗ありきで〈幼なじみの初めての手作りは失敗するものだから〉なんて、幼なじみ願望をこじらせていないと出てこないセリフですよね(笑)。楓は変な方向に深掘りしすぎて残念なことに」各回のエピソードは、帯屋さんがふたりに「こういうことをさせたい」とイベントを軸に組み立てることもあるが、ふたりが過ごす場所から発想することもあるそう。「楓が秘密基地と呼ぶ森の中のベンチは実際にある場所です。ストリートビューを眺めながら『こんな場所でふたりが会話したらどうかな』とか、ストーリーを練りました」第3巻は、5月に刊行予定だ。「幼なじみといえば家族ぐるみの付き合いですが、それほど双方の親とも交流していないし、まだ互いの部屋にも入っていない。それによって、何か変化も生まれるのではと、僕も楽しみです」帯屋ミドリ『今日から始める幼なじみ』2幼少期からリアルな幼なじみ同士という、舞衣と晴輝が活躍。悪態をついても阿吽の呼吸で仲直りする、〈熟年幼なじみ〉らしさが爆発するおまけマンガ付き。新潮社682円©帯屋ミドリ/新潮社おびや・みどり愛媛県出身。2014年、作画を担当した『放課後ミンコフスキー』でデビュー。著書に『ぐるぐるてくてく』『サヨナラさんかく』などがある。※『anan』2022年4月20日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年04月19日お待たせしました!もはや日本の春の風物詩である、劇場版『名探偵コナン』の時期がやってきました。世代も国も超えて愛される!『名探偵コナン』の魅力を解説。コナン初心者も、溺愛者も、まずは作品のベースをおさらいすべし。主要キャラをおさえ、『ハロウィンの花嫁』の見どころをチェック。POINT1:大人気作の主人公、コナンは小学生。でもその正体は、高校生探偵!原作漫画は1994年に連載開始、単行本はついに100巻に到達!全世界累計発行部数はなんと2億5000万部を突破したという大人気作『名探偵コナン』。今作で25作目の劇場版アニメは、ミステリーとしての精度の高さ、魅力的なキャラクターたちの人間ドラマ、そしてアクションの迫力など、全方位的な魅力で世界を魅了し続けている。主人公・コナン見た目は小学生だが、中身は頭脳明晰な高校生探偵。〈黒ずくめの組織〉の取引を目撃したことで、口封じのために毒薬を飲まされ、今の姿に。江戸川コナンと名乗る。工藤新一世界的推理作家の父と、元女優の母を持つイケメン高校生。大人顔負けの推理力に加え、サッカーは全国レベルの実力。コナンになって以降、基本的に電話で連絡を取っている。毛利 蘭新一の幼馴染みで、さらに彼女でもある同級生の蘭。特技は空手。なかなか姿を現さない新一を、一途に想い続けている。現在、コナンは蘭の家に居候中。POINT2:最後まで目が離せない、スペクタクル。本格ミステリー&アクション。コナンの劇場版といえば、サスペンス&ミステリーの複雑で奥深い側面が大人に大人気。また大きなスクリーンで迫力あるアクションシーンが堪能できるのも、魅力の一つ。今作は、“過去”と“現在”が絡み合う物語の展開に唸らされること請け合いだ。またバトルシーンはもちろん、ラストの緊迫感には思わず息を呑んでしまう…!!東京を舞台に事件を引き起こす正体不明の敵、〈プラーミャ〉。時代を超えて、降谷やコナンを翻弄する。POINT3:ドキドキの関係があちこちに。物語華やぐ、ラブコメエッセンス。謎解きだけじゃない、コナンの世界観で実は重要なのが“ラブコメ”要素。推しカプに挙げている人も多い高木刑事&佐藤刑事の結婚式を含む、恋やウェディングといった要素が、今作では事件に関わってくる。現在の恋愛、かつての人間関係の中での想いなど、胸キュンなポイントも多々。またコナンをはじめ、結婚式の参列者がおめかしをしているところも見逃せない!上・刑事のときの凛々しい感じに、美しさが加わった、佐藤刑事の花嫁姿。下・大好きな佐藤刑事の花嫁姿に、高木刑事もこの緊張顔!!POINT4:リアリティとファンタジーのいいとこ取り!オリジナルで描かれる、高クオリティな描写。毎回実在する街が登場し、その描かれ方の精巧さにため息が出る劇場版。今回の舞台は渋谷で、驚くほどリアルに描かれる街並みを、キャラクターたちが走り回る。作品への没入感がハンパないので、こんなことあり得る?!それは無理じゃないか…?と思ってしまうファンタジックな展開も納得してしまうから不思議。馴染みあるあのビルやあの通りがコナンの世界に登場!?劇場版プロデューサー・近藤秀峰さん×脚本家・大倉崇裕さんプロデューサー・近藤秀峰さん&脚本家・大倉崇裕さんが語り合う。“チームコナン”の強さ、そして今作の制作ウラ話。原作者の漫画家・青山剛昌先生を中心に、劇場版の作品を作っているチームはいったいどんな雰囲気なの?今作のメインキャラクター決定の背景や、脚本執筆における青山先生の意外な役割などについて、語っていただきました。――コナンの劇場版は、毎年かなり前から準備するそうですね?近藤秀峰:おおよそですが、プロジェクト自体は2年くらい前から動きだす感じですが、“誰が中心になる”ということに関しては、もう少し前から決める感じですね。青山先生に、「いついつの作品ではこの人がフィーチャーされるから、その前の原作連載の展開をこうしておこうかな…」といったことを考えていただけたりすることもあり、その回のメインとなるキャラクターに関してはかなり早い段階で方向性を決めていますね。大倉崇裕:ちなみに今回の『ハロウィンの花嫁』の脚本執筆のお話を頂いたとき、一番最初の段階では、「高木・佐藤をメインでお願いします」と言われた記憶があります。二人が出てくるということは、かつて佐藤刑事が想いを寄せていた、降谷の同期である松田という刑事を出せるかな、と考えました。が、そのあとに「降谷零(安室透)と、彼の警察学校の同期たち4人も登場させてください」と言われ、彼ら、特に萩原、松田、伊達に関しては、原作では本当にさらっとしか描かれていないので、正直キャラクターがよくわからなくて…。近藤:ですよね(笑)。で、今回は原作のスピンオフ連載でまず『警察学校編』という、降谷らの学生時代の物語が掲載され、そのあとそれをTVシリーズでアニメ化し、そこからの劇場版。という流れにしたいねとなっていたので、その漫画のネーム(下描きのようなもの)を編集部から借りてTMSさん経由で大倉さんにお送りし、「すみません、まだ誌面掲載前なので、ここから彼らの背景や性格を想像していただけると…」と。すみませんでした(苦笑)。大倉:いやいや、むしろ貴重なものを拝見できて、役得でした(笑)。そのネームを拝見しながら、脚本のプロットを考えましたね。――警察学校の同期5人を出すというのは、どんなところから出てきたアイデアだったのですか?近藤:実は2018年に公開された『ゼロの執行人』という作品で安室をメインにしたところ、彼の人気が大ブレイクしまして。なので、僕個人としてはもう2年おきに安室を出したいくらいの気持ちなんですが、そういうわけにもいかないので(笑)。今作は、スタッフ揃っての青山先生との打ち合わせの中で、彼を含む警察学校同期組を登場させようという話になった、というのが真相です(笑)。大倉:降谷以外の4人の中では、松田が最も重要なキャラとして登場しますが、彼でさえ、原作ではほんの数話しか出ていないんです。でもものすごく人気がある。なのでキャラを膨らませるときも、原作に近づけることを意識しました。近藤:そうなんですよ。原作ではほんの少ししか触れていないような人でも、青山先生の中では実はものすごく重要なキャラであったり、大きな設定を背負わされていることがあるので、現時点ではちょっとしか出ていない人物が、今後のコナンの展開の大きな鍵になる…という可能性はありますよ。大倉:今僕の部屋の本棚にはコナンの単行本が100冊ズラッと並んでいるので、もっともっと読まないとですね。でも、「調べ物しなきゃ…」と思って読み始めると、面白くてどんどん読んでしまって、仕事が進まなくなってしまうのが困ったもんですが(笑)。――今作はタイトルに“花嫁”とあることから、“ラブコメ要素強めか?!”という期待もあるようですが、そのあたりはどうですか?大倉:確かに劇場版のコナンの世界観には、ラブコメ要素は必須ですよね。でも実は私は、ラブコメ得意じゃないんですよ…。近藤:大倉さんの本業は、推理作家ですからね(笑)。劇場版コナンの脚本を書いていただいたのは今作が3作目で、1作目が2017年の『から紅の恋歌(ラブレター)』…、たしかにこれもラブコメっぽいです。2019年の『紺青の拳(フィスト)』も京極と園子のラブコメがありますね。大倉:「今回はこれで」と提示されたキャラクターを見ると、「え、これはどう考えてもラブコメ…」って。私はまったくその素養がない人間なのに(笑)。近藤:実は青山先生的に、「多分この回は大倉さんに脚本をお願いするだろうから、このキャラクターかな?」と考えてるフシがあるのではないかと。大倉:えー、ホントですか(笑)。近藤:雑談の中だったんでそのとき明確な回答はなかったのですが、大倉さんは割と柔らかい感じのストーリー作りが上手だからなのでは…と想像しています。でも大倉さん、本当に困ったときは、青山先生に、〈ラブコメSOS〉を出されますよね(笑)。大倉:出しました(笑)。『から紅~』のときに高校生の恋模様を描かなければならず、“今の高校生がどんな話をしてるのか、わかんないよ…”というのが正直な気持ちでして。で、第一稿を出したときに、恥を忍んでラブコメの部分に「助けて、青山先生!」って書いて出したら、先生が手直しをしてくださったものが返ってきたんですが、それがもう完璧で。さすが創造主、という感じでした。以前脚本の大先輩に、「コナンのチームは本当に優秀だから、任せればいいんです」と言われたことを今でもよく覚えているのですが、その教えに従って、わからないことは素直に尋ね、思い切って委ねています。最近は“助けて”と言わなくても先生が修正してくださるので、そこに甘えています(笑)。近藤:ミステリーの骨組みやトリックなどを脚本でガッチリと作ってもらい、青山先生にラブコメ要素を足してもらうと完成する、というのが、大倉さんの脚本の出来上がり方かもしれませんね。大倉:(笑)。今回は、たしかにタイトルはラブコメっぽいかもしれませんが、観ていただくと、結構ミステリーやアクション要素が強めだと思いますよ。こんどう・しゅうほう劇場版『名探偵コナン』プロデューサー。小学館『週刊少年サンデー』編集部で原作を5年間担当後、『業火の向日葵』アシスタントプロデューサーを経て『純黒の悪夢(ナイトメア)』より現職。おおくら・たかひろ推理作家。1998年「ツール&ストール」で小説推理新人賞を受賞し、2001年に『三人目の幽霊』でデビュー。劇場版では『から紅の恋歌(ラブレター)』『紺青の拳(フィスト)』の脚本を担当。『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』ハロウィンで賑わう東京・渋谷で行われていた、とある結婚式に暴漢が乱入。時を同じく連続爆破事件の犯人が脱獄したことで、降谷は追い詰められ、謎の人物に首輪爆弾を装着されてしまう。爆弾解除のため、コナンが動きだす!原作/青山剛昌監督/満仲 勧脚本/大倉崇裕音楽/菅野祐悟主題歌/「クロノスタシス」BUMP OF CHICKEN©2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会※『anan』2022年4月20日号より。作画監督・須藤昌朋レイアウト・山本泰一郎背景・堤谷奈津子(Y.A.P.石垣プロダクション)(by anan編集部)
2022年04月17日大切な癒しの時間だったり、現実にはない刺激をもらえたり…。アニメの楽しみ方は人それぞれ。アニメを愛してやまない俳優・白石 聖さんに、好きな作品に夢中になること、推しのいる喜びを聞きました!大好きなアニメに出合い、自分ってこんなに何かに熱中できるんだ!と発見が。白石聖さんがアニメの世界に心を奪われたのは小学生の頃のこと。シュールなギャグを含んだ作品が好きで、中学時代には『銀魂』や『ギャグマンガ日和』にハマっていたのだそう。「これまでの人生で最も熱中した作品が『銀魂』です。もともと原作漫画のファンだったのですが、アニメ化されたものを見たら、まさに私がイメージしていた通りで…。セリフがとても多い作品なので“これをアニメでどう表現するんだろう?”とワクワクしていたら、声優さんたちの声や音楽が絶妙なリズム感に仕上がっていて感動しました。アニメを追いつつ、漫画やDVD、グッズなども買い集めて、中学時代は“私もこの世界へ行きたい!”ってずっと思っていましたね。私は『銀魂』に登場する沖田総悟というキャラクターが大好きなのですが、彼の誕生日にはケーキを買ってきてひとりで祝ったりもしていました(笑)」学生時代は少年漫画が原作のバトル系アニメばかり見ていたという白石さんだが、いま最も気になっている作品は『ちいかわ』だと話す。4月に放送スタート予定のアニメを楽しみに、漫画をじっくり読み込んでいるところだ。「社会人になった今は、アニメを見ることが私にとっての癒しの時間になっていて。だから、ハラハラする作品よりゆったりできるものを求めているのかな。初めてSNSで『ちいかわ』を見つけた時は“これ、いったいどういうストーリーなんだろう?”ってイマイチ理解しきれなかったんです。でも、読み続けるうちにいつの間にかこの不思議な世界観の虜になっていて。今では、新しい話が更新されるのを心待ちにしています。こんなに癒し系の可愛らしいキャラクターなのに、内容はけっこう奥深くて、人間味に溢れていますね。ちいかわたちの心優しいやりとりを見ていると、些細なストレスも吹き飛んじゃいます!あと、『ちいかわ』はグッズ展開が豊富なので、お気に入りをコレクションすることも楽しみのひとつ。私はぬいぐるみやクリアファイル、フィギュアやラバーストラップなどを持っていて、次はもうちょっと大きいサイズの“うさぎ”のぬいぐるみを手に入れたいなと狙っているところです」白石さんが出演する、5月スタート予定のドラマ『カナカナ』も、西森博之さんの漫画が原作となっている。大好きな作品が映像化される感動を知っているからこそ、今回の出演に対しても熱い想いを抱えているようだ。「原作があってこそのドラマ化なので、その世界観にしっかり入っていきたいと思います。でも、ただそのまま実写化するのではなく、生身の人間ならではの動きや立体的な演出を楽しんでもらえるように工夫したいとは考えていて。ちゃんと原作をリスペクトしつつ、“どうしたらもっと面白くできるかな?”と自分なりに研究しながら演じていきたいと思っています。私自身、アニメをきっかけに好きな声優さん繋がりで別の作品を見るようになったり、恋愛アドベンチャーゲームの世界に足を踏み入れてみたり、自分の楽しみがどんどん広がっていく感覚がありました。それと同じように、私の演技を見てくれた方が原作や他の作品にも興味の幅を広げてくれたらうれしいです」My Recommendation『ちいかわ』『なんか小さくてかわいいやつ』、通称『ちいかわ』。イラストレーター・ナガノが2020年よりTwitterで連載を開始。可愛らしいキャラクターと独特の世界観が人気となり、2021年には講談社から単行本が刊行された。2022年4月4日から、フジテレビ系『めざましテレビ』内でテレビアニメが放送予定。©nagano / chiikawa committeeしらいし・せい1998年、神奈川県生まれ。2016年に俳優デビューを果たし、映画やドラマ、ラジオなどで幅広く活躍。NHK総合で5月から放送予定のドラマ『カナカナ』では主人公のマサに恋する女性・沙和役を務める。トップス¥33,000ショーツ¥26,400(共にTELA/ティースクエア プレスルーム TEL:03・5770・7068)ネックレス¥209,000(オー/ハルミ ショールーム TEL:03・6433・5395)※『anan』2022年4月6日号より。写真・柏田テツヲスタイリスト・早川すみれ(KiKi inc.)ヘア&メイク・高橋里帆(HappyStar)取材、文・大場桃果(by anan編集部)
2022年03月30日笑ったり、感動したり、大きく価値観を変えられることも。アニメはいつだって、私たちに寄り添ってくれる人生のバイブル的存在。トップランナーとして時代を創作し続ける、表現者、作家の綿矢りささんに「アニメ史」を伺ってみました。“キャラ萌え”期を経て、日常を描くことのすごさが、ようやくわかってきました。高校3年生のとき、小説「インストール」でデビュー。以降、数々の話題作を世に送り出してきた綿矢りささん。幼少期からアニメに触れるも、その付き合い方は時代によって変化していったそう。「中高時代は弟が好きだった『幽遊白書』を一緒に見て、蔵馬というキャラにハマったり、友人の影響で『エヴァンゲリオン』も全作制覇。ただ、当時の私は周りに感化され、流行りに流されていた部分もあったと思います」自分の好きなアニメとは…。それに気づかせてくれたのが、大学生の頃に見たアメリカの人気アニメ『ザ・シンプソンズ』だった。「シンプソン一家の日常を描いたギャグアニメなんですが、今でも大好き。考えてみれば、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』も好き。自分が惹かれるのはギャグタッチの家族ものなんだなって」さらに、「『ザ・シンプソンズ』で初めて“失礼”というものを学んだ(笑)」と当時の衝撃を明かす。「シンプソン一家は個性的で愛すべきキャラなんですが、本当に好き放題やっていて。生々しい“失礼さ”で笑わせにくる表現方法をこの作品で知りました。風刺の効かせ方など、小説を執筆する上でも大変影響を受けましたね」『ザ・シンプソンズ』同様、創作中に頭に浮かぶ作品があるという。それが『千と千尋の神隠し』。「映画に登場する“カオナシ”が忘れられなくて。想像の世界のキャラクターですが、どこかリアルで現実にもいるような気がする。ちょっと不気味な雰囲気の人物を書くときには思い出しますね」現在は1児の母でもある綿矢さん。息子さんと一緒にアニメを楽しみ、心に響いた作品も多いよう。「『あたしンち』と『新あたしンち』は息子の影響でどハマり。夫も一緒に家族で見ながら、作品の感想を話すこともあるのですが、それで思い出すのが『ちびまる子ちゃん』。小さい頃、作品に出てくる西城秀樹さんや山口百恵さんについて親に質問していたなって(笑)。画面の中の家族とそれを見ている自分の家族、その2家族が賑やかに楽しんでいる感じも好きなんです。キャラ萌えしたり、筋の凝ったものを見るより、日常系アニメでほっこりするほうが私には向いていると再認識しました」家族がテーマの日常系作品に対しては作り手としての見解も。「私が書く恋愛小説では片思いの人と成就するなど、人間関係が完成されるまでを描いています。でも、日常系アニメは人間関係が完成してからを描き、だからこそ長く続くし、その分の大変さもある。例えば、『サザエさん』にしても登場人物は年を取らず、毎年同じ行事に向き合う。その繰り返しに耐えていけるのもすごいな、と。それは、デフォルメされたキャラが動き、声優さんの声が入るアニメの世界だからできること。私も、男女がくっついた“その先”を書いてみたい。そんな願望を抱くのも、アニメの影響です」ザ・シンプソンズシニカルな笑いがツボるアメリカ史上最長のTVアニメ。「“シンプソンズのバートみたい”と『勝手にふるえてろ』(綿矢さんの著書)のセリフに登場したこともあるくらい影響を受けた作品。執筆時はDVDを買って、夢中で見ていた頃だと思います」。架空の街・スプリングフィールドに住むシンプソン一家を通して、アメリカ中流階級の文化や社会状況をブラックユーモアふんだんに描くギャグアニメ。1989年に放送開始。世界各国で人気を呼び、現在は60か国以上で放送されている。©Capital Pictures/amanaimages千と千尋の神隠し国内外の映画賞を受賞、ジブリ映画No.1ヒット作。「宮崎駿監督の作品はすべて見ていますが、『千と千尋の神隠し』も映画館に何度か足を運びました。カオナシは、千尋に砂金を差し出して気を引こうとするけれど、成功しなかったら豹変する。顔は同じまんまで。そういう人って現実にもいますよね」。2001年に公開。神々の世界に迷い込んだ少女・千尋が人間の世界に戻るために様々な出会いを経て奮闘する。当時空前の興行収入を記録したスタジオジブリの長編アニメーション。©2001 Studio Ghibli・NDDTMあたしンち家族みんなで楽しめるほのぼの系アニメの決定版。「私が中高生ぐらいの時代設定なので懐かしさも。ただ、息子はちょっと違和感を抱いているようで。無口な頑固オヤジというものに馴染みがないから、『あのお父さん、なんでいつも怒ってるの?』と聞いてきたり(笑)。続編の『新あたしンち』(2015~’16年)は設定を少し現代に寄せていて、2つを見比べるのも面白いです」。2002~’09年に全330話放送。母、みかん、ユズヒコ、父の4人家族・立花家を中心とした物語。©ママレード/シンエイ綿矢りささん作家。1984年、京都府生まれ。2001年、「インストール」で文藝賞受賞。「蹴りたい背中」で、第130回芥川賞受賞。近著に『あのころなにしてた?』など。※『anan』2022年4月6日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・市岡 愛取材、文・関川直子(by anan編集部)
2022年03月30日今こそ切実に響いてくる、会いたい人に会いに行く喜び。売野機子さんによる、コミック『君に会いたい』をご紹介します。売野機子さんの本格ファンタジーと聞いて少々意外だったが、むしろ満を持してだったのかもしれない。「デビュー時から、ファンタジー含めいろんなジャンルを描きたかったのですが、世に出す機会がなかっただけで、私自身は勝手に頭の中で描いていました。中世っぽい世界観で、少年と少女がお互いに会いたくて会いに行くというお話を最初からイメージしていましたね」子どもだけが罹患する伝染病が蔓延する世界。キスリムとアルという少年は、初めて城塞の外に出て雪の中を旅している。旅の目的は、キスリムの許嫁として出会った火の国の姫ウルルと再会すること。純粋無垢だが、王の器ではないと判断されたキスリムは、心が通じ合っていたウルルと引き離されてしまったのだ。「私は心の美しさにかなうものはないとどこかで信じているのですが、キスリムがまさにそうだと気がついて。今回は自分の理想の主人公像をぶれないように描くのが目標です」同行するアルは、王族以外の血が入っていて王位継承順位は低いが、キスリムとは兄弟のような仲。「アルは器用で親切なんですけど、暗いところもある。私が感情を乗せやすいキャラクターですね」会いたい人と会う。当たり前のことさえままならなくなった今だから、より響くものがある本作。ただし物語を作る上で、コロナ禍はきっかけのひとつにすぎないようだ。「マンガを描く行為は、感情を分かち合える人を探すために手紙入りの瓶を海に放つような作業で、気づけばたくさんの人に見つけてもらえました。今回のキャラクターは今までより切迫してないというか、明るいのですが、それは私の思いがさまざまな人に届いていることを知っているから。主人公は絶対に会えると思っているし、相手もそう思ってくれていると信じている。自分と読者との関係性が反映されているんです」思いの詰まった作品だからこそ、作画にもいくつかのルールが。「会えない苦しさではなく、会いたい人がいる喜びを描いた作品なので、私が楽しんで描いていることが伝わる作画を目指しました。ストレスをなくすために、紙の角度を変えたり定規を使うことはせず、ペンの種類もGペンのみと決めました。キャラクターから背景、トーン貼りに至るまで自分が手がけることで、私自身が漫画の世界に没入して楽しむことを大事にしています」会いたい人に会うため、未知の世界を突き進んでいく高揚感が気持ちいい1巻。「会いたい」は希望だ。『君に会いたい』1翼のないドラゴンと共に未開の地を旅する少年たちを、疫病、魔物などの脅威が次々と襲う。2巻以降の驚きの展開も、ウェブ「くらげバンチ」で購読可能。新潮社682円©売野機子/新潮社うりの・きこマンガ家。2009年デビュー。『MAMA』『かんぺきな街』『売野機子のハート・ビート』『ルポルタージュ‐追悼記事‐』など著書多数。※『anan』2022年3月30日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年03月27日毎日ケガをする不運体質(?)の高校生・矢野くん。彼のあまりのドジぶりに意識せざるを得なくなったクラス委員の吉田さん。ピュアで奥手なふたりの恋は、進展もスローだが、そこがいい感じに甘酸っぱい。そんな『矢野くんの普通の日々』が話題沸騰。著者は、本作が連載デビューとなる田村結衣さんだ。ケガも不運もここまで来れば愛嬌!?愛され度高めの高校生男子の恋。「以前から、可愛い中に少し陰のある人物を描くのが好きで…。そんな絵を描きたいなと生まれたのが、毎日傷だらけの矢野くんです。吉田さんは、実は初期段階では心配性でも委員長でもしっかり者でもなくて、本当に普通の女子という設定でした。ところがそれだとなかなか話が広がらなかったんですね」かくて田村さんは、担当編集者と相談しながら彼らの関係性を改めて模索。“ケガだらけ男子と心配性女子”のアイデアにたどり着いた。毎回、矢野くんがドジを踏むシーンが描かれるが、そのバラエティぶりが面白く、愛らしいのなんの。「基本的に自分の高校時代の思い出を引っ張り出して、『矢野くんたちがあんなことをやったらどうなるかな』と想像を膨らませています。自分で経験したり見聞きしてきたケガやドジをそのまま描くこともありますし、『ここで手が滑ったらこうなるかも…』などと考えて展開するときもあります。また、表紙等でカラーイラストを描くときに、顔に貼られた絆創膏をカラフルに塗るのが、とても楽しいですね」影響を受けたマンガに、増田こうすけ氏の『ギャグマンガ日和』や、和山やま氏の『女の園の星』などを挙げる田村さん。本作もまた読んでいて温かい気持ちになるが、それは矢野くんの笑顔や吉田さんの照れる顔など、キャラたちの優しく豊かな表情の賜物だ。「もともと絵を描くのが好きなので、作画については日々模索しています。描いている自分も思わず感情移入してしまうような表情を描くように心がけています。その意気込みが読者の方にも伝わっているのか、表情を褒めていただくことが多いのは、うれしいですね」2巻では、吉田さんに恋をする同じクラス委員の羽柴くんが大活躍。相性よさげに感じさせる場面もあり、波乱の予感が渦巻く。「けれど、毎回『全員、楽しくて幸せな高校生活を送ってくれ…』と祈りながら描いてはいるんです」田村結衣『矢野くんの普通の日々』2ファミレスで一緒に勉強したり、カラオケに行ったり。「普通の高校生活を送りたい」という矢野くんのために、吉田さんをはじめクラスメイトも全力サポート。講談社726円©田村結衣/講談社たむら・ゆい1998年生まれ、北海道出身。2020年イラストレーターとして活動を始める。同年、モーニング月例賞 佳作賞を受賞。’21年6月より連載開始。※『anan』2022年3月23日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年03月22日姉と弟のふたり暮らしを描くコミック「僕の姉ちゃん」が好評連載中の益田ミリさん。新刊『ミウラさんの友達』では主人公とロボットのふたり(?)暮らしが題材に。果たして益田さんが描くそんな“最先端の暮らし”とは!?益田ミリさんが描く、人とロボットのやさしい“最先端の暮らし”。昨年、7年ぶりに描きおろし作品『スナックキズツキ』を発表し大きな話題を呼んだ益田ミリさん。最新作の『ミウラさんの友達』は、ふとしたことからAIロボットと暮らすことになった女性、ミウラさんの日々を描く。そもそもロボットを題材にするようになったきっかけは?「“ロボット”はいつか描いてみたいテーマのひとつでした。ドラえもんはもちろん、子供のころから物語の中のロボットたちに親しんできて、未来にはロボットの友達ができるかもしれないと夢見てました」一人暮らしでプログラマーの仕事をしているミウラさん。ランチの注文がうまく発声ができないほど無言が続く仕事環境の中で、大切な友達とはふとした行き違いから関係がうまくいかなくなり、思い悩む日々。そんな中、ある日、不動産屋さんで、入居者の部屋を飾るアートのひとつとして「トモダチ」という名の女性型ロボットを紹介される。「トモダチ」は身長160cmで人間にしか見えないリアルなつくりで、歩いたり、しゃべったりもするという。しゃべる言葉は全部で5つ。4つの言葉はあらかじめインストールされており、購入者はたったひとつ言葉をあとからインストールすることができる――。リアルな人間関係に臆病になっていたミウラさんは、「トモダチ」のことがとても気になるように。「『トモダチ』は家電ではなくアート作品として販売されていました。5つの言葉だけを話す作品にはどんな意図が込められているのか。ミウラさんは作者に興味を持ちます。人間関係に疲れていてもやっぱり人に惹き付けられてしまうんですね」「トモダチ」の価格はなんと100万円!そんな高額にもかかわらず、ミウラさんは購入に踏み切った!「人間を人間らしくしていることのひとつに『思ってもないことをする』があると思うんです。ミウラさんが謎のロボットを買ったのもそう。わたしも30歳になった時、自分への誕生日プレゼントだ!と貯金を崩し永久脱毛に大枚をはたいたことがありました。予測できないことをするのはロボットじゃなく人間なんですね。恋に落ちる時も理屈じゃないし。この物語は『思ってもなかったな~』というミウラさんの人間らしいセリフから始まります」かくしてミウラさんと「トモダチ」の不思議なシェア暮らしが始まる。「トモダチ」にインストールされている4つの言葉のうち、3つまでは早いうちに明かされる。「そうなの」「うん」「大丈夫」。なんという言葉ではないけれど、考えてみれば使い道は多種多様で絶妙なセレクトだ。「これら3つの言葉は語尾を上げ下げすれば意味合いを変えられる便利な言葉だなと選びました。実は今、オンラインで外国人講師の英会話レッスンを受けているんですけど、わたしの受け答えなんて『Really?』『I know.』『Amazing!』の乱用。『そうなの』『うん』『大丈夫』レベルです。それでも意外に30分の英会話が成り立ってるんです(笑)。レッスン中のわたしは『トモダチ』みたいかも」相手の表情を読みながら発する言葉をセレクトする「トモダチ」との暮らしの中で、買い手がインストールできるたったひとつの言葉としてミウラさんが選んだ言葉が素敵。そして、やがて明らかになるもうひとつプリインストールされている言葉には、「トモダチ」の作り手の思いが込められていて思わずほろり。読み進めるごとに「自分だったらどんな言葉を選ぶかな?」「あの人ならどんな言葉を選ぶんだろう?」などと読み手は思いを巡らせることに。そんなふうに「トモダチ」との暮らしを続けていく中で、人間関係に臆病になっていたミウラさんの心に変化が生まれてくる。「大切な関係だって『小さなヒビからパリンと割れてしまう』。ミウラさんのセリフです。わたしたちは友達と仲良くしなさいと言われつづけて大人になるけど、大人になったって友達とうまくいかなくなることはある。何度経験しても苦くて悲しいものです。それでも、楽しかった思い出まで否定する必要はないとミウラさんは『トモダチ』に語ります。言葉にすることで心が整理されていったんですね」物語の後半、ミウラさんが「トモダチ」に向かって語りかける彼女なりの結論が沁みる。約7年ぶりの描きおろしだった前作『スナックキズツキ』からの次回作となる今作は1年と少しでの発表。ファンとしては嬉しい限りだが、益田さんの中で制作ペースに変化がありましたか?「『スナックキズツキ』は傷ついた人だけがたどり着ける不思議なスナックの物語で、コロナ禍に描いた漫画でした。描き終えて少しゆっくりしていた時、カズオ・イシグロさんの『クララとお日さま』を読んだんです。煌々と光が降り注ぐような読後感でした。AIロボットと人間の女の子の友情物語なんですが、『わたしも、わたしのロボットを描きたい!』と居ても立ってもいられなくなって。ロボットを描くことは、“人間とはなんだろう?”という問いに向きあうことなのだなと思いました。『ミウラさんの友達』には、胸がキュンとくる恋のエピソードも用意しています。読み終わると新しい恋をはじめたくなるかもしれません」恋の顛末はここでは触れないので、ぜひ実際に読んで楽しんで。仲のよい友達との関係をあらためて見直したり、自分が発する言葉により意識的になったり、普段使っているものに作り手が込めたかもしれない気持ちに思いを巡らせたりetc、etc…。読んだあとに、ちょっと世の中との関わり方が変わるかもしれない、やさしい作品。ぜひ。『ミウラさんの友達』友達との関係に悩む主人公・ミウラさんの元に人間そっくりのロボットがやってくる。5つの言葉を口にするロボットとの不思議な共同生活が始まって…。3月17日発売マガジンハウス1430円「トモダチ」のことが気になりはじめたミウラさん。何度か不動産屋さんに訪れるうちに、ついに購入!効率とかコスパとかじゃない決断のしかたに共感!「トモダチ」が話せる言葉のうちの3つがこちらのシーンに。自分の意思を表す言葉ではなく、相手を肯定し、その心をそっとうかがうよう。ますだ・みりイラストレーター。『僕の姉ちゃん』シリーズ、『スナック キズツキ』(共に小社刊)など著書多数。Amazonプライムで配信中のドラマ『僕の姉ちゃん』も好評。※『anan』2022年3月23日号より。(by anan編集部)
2022年03月22日