兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)による、2021-22シーズン最終公演は、下野竜也指揮によるオールショスタコーヴィチ・プログラムだ(2022年6月10,11,12日:兵庫県立芸術文化センター)。前半に置かれた「ピアノ協奏曲第2番」は、作曲当時モスクワ音楽院で学んでいた息子ドミトリーのために書かれた作品で、軽妙なリズムとメロディが心に残る名作だ。一方後半で披露される交響曲第7番『レニングラード』は、第2次世界大戦中、ナチスドイツに包囲されたレニングラードで書かれたといういわくつきの作品だ。とはいえそのスケールの大きさはショスタコーヴィチ作品の白眉。その昔、アーノルド・シュワルツネッガーが出演する栄養ドリンクのCMで「チ〜チン、プイプイ」という歌詞とともに流れた音楽を覚えている方も多いのではないだろうか。下野竜也率いるPACがこの難曲を、どのように表現するのかに注目が集まる。●公演概要6月10日(金)、11日(土)、12日(日)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール「兵庫芸術文化センター管弦楽団 第134回定期演奏会 下野竜也 レニングラード」
2022年05月20日ある年齢以上のクラシックファンが、ショスタコーヴィチ(1906-1975)の「交響曲第5番」と聞いて頭に浮かぶのは、レナード・バーンスタイン(1918-1990)がニューヨーク・フィルハーモニックを指揮した1979年の東京文化会館でのライブ録音ではないだろうか。超熱演型のバーンスタインがさらに燃え上がったこのライブ録音は、今も語り継がれる伝説の名演だ。そのバーンスタイン最後の弟子、佐渡裕が同曲に挑むとなればこれは気になる(2022年5月13,14,15日:兵庫県立芸術文化センター)。カップリングには、20世紀アメリカを代表する作曲家コープランド(1900-1990)の「クラリネット協奏曲(クラリネット:ラスロ・クティ)」とバーンスタインの「プレリュード、フーガとリフス」が選ばれているのも意味深い。20世紀を代表する3人の作曲家の作品が21世紀の今どのように響くのか。佐渡裕率いる兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の熱演に期待したい。●公演概要5月13日(金)、14日(土)、15日(日)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール「兵庫芸術文化センター管弦楽団 第133回定期演奏会 佐渡裕 ショスタコーヴィチ5番」
2022年04月18日サントリーホー「サントリーホール ARKクラシックス」の公演情報はこちらルとエイベックス・クラシックスが共催する音楽祭「サントリーホール ARKクラシックス」。二人のアーティスティック・リーダー、ヴァイオリニスト三浦文彰とピアニスト辻井伸行らが出席して、今年の開催概要の発表会見が開かれた(6月9日・サントリーホール ブルーローズ)。2018年に新設されたフレッシュな音楽祭は、ARKヒルズと周辺施設で広域に開催される都市型音楽イベント「ARK Hills Music Week」のフィナーレを飾る位置付け。今年は10月8~11日。ソロ、室内楽からオーケストラまでヴァラエティに富んだプログラムが用意された。三浦文彰「若い人たちと経験のある演奏家たちが一緒に音楽を作っていくARKシンフォニエッタは、リハーサルの段階から刺激的で、みんなで新しい発見を感じながら演奏している素晴らしいオーケストラ。音楽祭の軸となっている室内楽も、ラヴェル特集やシューベルト《ます》などもあり楽しいコンサートになると思う。外国人演奏家が少ないのは今はしょうがないが、信頼する同世代の素晴らしいチェリスト、ジョナタン・ローゼマンが『ファミリーとして参加したい』と言って来てくれる」辻井伸行「ARKクラシックスはいろんな仲間たちと演奏できるのが楽しみ。ベートーヴェンの協奏曲第4番や、室内楽の《ます》、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ《春》は新たに取り組む作品。楽しみにしているし、楽しんでいただける音楽祭にしたい」ARKシンフォニエッタは2019年にこの音楽祭のために創設されたレジデント・オーケストラ。辻井のソロ、三浦の指揮によるモーツァルトの交響曲&ベートーヴェンの協奏曲の2プログラムと、小編成の弦楽合奏によるバッハ:ブランデンブルク協奏曲第4番&ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番に出演。楽器を置いて指揮者としてモーツァルトの第29番と第41番《ジュピター》を振る三浦は、「指揮者としてはまだまだ赤ちゃん。ジュピターは大曲で難しいが、この素晴らしいオーケストラとできるのは非常に勉強になる」と抱負を語った。今年はさらに、レジデント・ブラス・アンサンブルとして「ARK BRASS」が新たに組織された。1970~80年代に大活躍した英国のフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルへのリスペクトを込めて、そのスタイルとレパートリーを、新たなテイストで踏襲していくというコンセプト。会見には主要メンバーのトランペット佐藤友紀とホルン福川伸陽が出席。「金管アンサンブルの熱を再び取り戻したい」(佐藤)、「音楽的会話ができるメンバー。それがお客様にも伝わることを楽しみにしている」(福川)と期待を口にした。会場はサントリーホール大ホールおよびブルーローズ。8つの注目公演がぎゅっと詰め込まれた4日間になるはずだ(プログラム等詳細は「ARKクラシックス2021」で検索)。(宮本明)
2021年06月15日“務川慧悟(3位)と阪田知樹(4位)のダブル入賞”という嬉しい結果となった「エリザベート王妃国際コンクール(ピアノ部門2021」。去る5月29日(日本時間5月30日)に閉幕したばかりのコンクールの熱演の模様を収めたライブ・アルバム(4枚組)が早くも登場する(7月9日発売予定/ナクソス・ジャパン株式会社)。「エリザベート王妃国際音楽コンクール」は、「チャイコフスキー国際コンクール」、「ショパン国際ピアノ・コンクール」と共に「世界三大コンクール」と呼ばれる世界屈指の名門コンクールだ。前身の「ウジェーヌ・イザイ・コンクール」時代を含めれば、ピアノ部門の優勝者には、エミール・ギレリス(1938)、レオン・フライシャー (1952)、ウラディーミル・アシュケナージ(1956)、アブデル・ラーマン・エル=バシャ(1978)、フランク・ブラレイ(1991)、アンナ・ヴィニツカヤ (2007)、デニス・コジューヒン(2010)、ボリス・ギルトブルク(2013)など、錚々たる顔ぶれかが並ぶ。 2021年のピアノ部門は、当初予定されていたの2020年が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって1年延期され、バンデミック後に開催される最初のメジャー・コンクールとして大きな注目を集めていた。今回発売されるライブ・アルバムには、セミ・ファイナルとファイナルの中から、入賞者6人の選りすぐりの演奏が収録されているだけに期待が高まる。コンクール自体は無観客で行われたため、演奏終了を待ちきれずに聴衆の拍手が沸き起こるといったコンクールならではの場面はみられないが、緊張感に満ち溢れたハイレベルな闘いは長く語り継がれるに違いない。●「エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門)2021」結果第1位及び聴衆賞:ジョナタン・フルネル(フランス)第2位:セルゲイ・レドキン(ロシア)第3位 務川慧悟(日本)第4位 阪田知樹(日本)第5位 ヴィタリ・スタリコフ(ロシア)第6位 ドミトリ・シン (ロシア)●アルバム収録内容【CD1】1-4.ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op. 83/ジョナタン・フルネル5.ブルーノ・マントヴァーニ:妖精の庭から/セルゲイ・レドキン6.ピエール・ジョドロフスキ:夜想曲/ジョナタン・フルネル【CD 2】1-3. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 Op. 30/セルゲイ・レドキン4-7. シューマン:ピアノ・ソナタ第3番へ短調(管弦楽のない協奏曲)Op. 14/ドミトリ・シン8. ショスタコーヴィチ:プレリュードとフーガ 変ニ長調 Op. 87-15/務川慧悟【CD 3】1-3. モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488/ヴィタリ・スタリコフ4-6. モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595/務川慧悟7. ラモー:ガヴォットと6つのドゥーブル/務川慧悟【CD 4】1. リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調/阪田知樹2. ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ Op. 24/ジョナタン・フルネル3. ショパン:夜想曲第17番 ロ長調 Op. 62-1/ジョナタン・フルネル4. ドビュッシー:レントより遅く/セルゲイ・レドキンヒュー・ウルフ指揮、ベルギー国立管弦楽団(CD1: 1-5/CD2: 1-3)フランク・ブラレイ指揮、ワロニー王立室内管弦楽団(CD3: 1-6)
2021年06月08日「ウェールズ弦楽四重奏団」と「クァルテット・エクセルシオ」という、日本を代表する2つの弦楽四重奏団がタッグを組んだコンサートが開催される(4月28日:紀尾井ホール)。コンサートのテーマも「クァルテット+(プラス)」。まさに2つの腕利きクァルテット(弦楽四重奏団)が力を合わせることによって起こる化学変化を象徴しているかのようなタイトルだ。当日のプログラムにもその流れが反映される。前半はそれぞれのクァルテットが得意のプログラムを単独で披露し、後半はお待ちかねの(4+4)での演奏だ。ショスタコーヴィチ「弦楽八重奏のための2つの小品Op.11からスケルツォ」&メンデルスゾーン「弦楽八重奏曲変ホ長調」がどのように響くのか、主導権は一体どちらのクァルテットが握るのか⁉などと妄想は膨らむばかり。紀尾井ホールの素晴らしい音響の中で、無限に広がるアンサンブルの魅力を愉しみたい。■公演詳細4月28日紀尾井ホール「ウェールズ弦楽四重奏団+クァルテット・エクセルシオ」●ウェールズ弦楽四重奏団Verus String Quartet桐朋学園の学生により2006年結成。2008年ミュンヘン国際音楽コンクール第3位。2010年よりバーゼル音楽院に留学。同年、京都・青山音楽賞受賞。2011年バーゼル・オーケストラ協会(BOG)コンクールにて"エクゼコー"賞受賞、第7回大阪国際室内楽コンクール第3位。2012年バーゼル音楽院を修了し、2013年に帰国。東京・春・音楽祭、Hakuju Hall、紀尾井ホール、王子ホール、横浜みなとみらいホール、水戸芸術館等から招かれる。NHK「ベストオブクラシック」、「クラシック倶楽部」、「名曲アルバム」に出演。2017年からはiichiko総合文化センターでベートーヴェン全曲演奏(全6回)がスタートし、同時に全曲録音プロジェクトがfontecにて進行中。2016年から第一生命ホールに毎年出演し続けており、昨年よりベートーヴェン全曲演奏会がスタート。紀尾井ホール「クァルテット+(+)」の全3回シリーズに出演中で、今年3月の公演は、NHK「クラシック倶楽部」他で全国放送された。2016年神奈川フィル、2017年には名古屋フィルにソリストとして招かれ協奏曲を好演。●クァルテット・エクセルシオQuartet Excelsior「繊細優美な金銀細工のよう」【独フランクフルター・アルゲマイネ紙】と2016年ドイツデビューで称賛された、年間を通じて60公演以上を行う日本では稀有な常設の弦楽四重奏団。ベートーヴェンを軸とした『定期公演』、20世紀以降の現代作品に光をあてる『ラボ・エクセルシオ』、 人気傑作選『弦楽四重奏の旅』、次世代の弦楽四重奏団との共演『クァルテット・ウィークエンド』など4シリーズを展開しつつ国内外で幅広く活動。加えて、幼児から学生、地域コミュニティを対象に室内楽の普及にも積極的に力を注いでいる。 1994年結成。第5回パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール最高位、第19回新日鉄音楽賞(現・日本製鉄音楽賞)「フレッシュアーティスト賞」、第16回ホテルオークラ音楽賞など受賞歴多数。2016年6月には日本人団体として初めて、サントリーホール主催 ベートーヴェン弦楽四重奏作品を全曲演奏した。同時期までの6年間「サントリーホール室内楽アカデミー」でコーチングファカルティを務め、他に「ながらの春 室内楽の和 音楽祭 室内楽セミナー」、浦安音楽ホール レジデンシャル・アーティストとして室内楽の楽しさを伝えていく活動を幅広く行なっている。
2021年04月21日コロナ禍で数々の公演が中止となり、半年ぶりの帰国となるドイツ在住のピアニスト、河村尚子。充実した演奏活動を繰り広げ、今や日本を代表する実力と人気を兼ね備えたピアニストだ。待ちに待った日本での公演は、詩的なロマンにあふれた傑作・シューマンのピアノ協奏曲を披露する。14日間の待機の後、音楽の喜びを爆発させてくれるに違いない。指揮は、かつて日本フィルの正指揮者として数々の共演も記憶に残る沼尻竜典。リューベック歌劇場では音楽総監督として、びわ湖ホールでは芸術監督として成功を収めてきたが、2022年度からは神奈川フィルハーモニー管弦楽団音楽監督に就任することが決定している。メインプログラムはショスタコーヴィチの交響曲第5番。20世紀ソヴィエト体制下で抑圧されながらも芸術家として強い信念をもって作品を生み出したショスタコーヴィチ。緊張感と劇的なドラマ性を孕み、今を生きる私たちの魂をも強く揺さぶる作品は必聴だ。先日、久しぶりに指揮した日本フィルは、伝統である元気の良さや、音楽の楽しさをお客様に懸命に伝えようとする姿勢はいまだ健在でした。河村尚子さんと共演できることも、大きな喜びです。<河村尚子>18歳の頃から弾き続けているシューマンの協奏曲、読み返せば読み返すほど味が滲み出てきます。皆様に音楽を聞いて頂くのは半年振りです。精一杯演奏に集中しますので、音楽会をどうぞお楽しみに![公演情報]第366回横浜定期演奏会[ライブ配信あり]2021年4月16日(金)19:00開演 神奈川県民ホール第391回名曲コンサート2021年4月18日(日)18:00開演 サントリーホール指揮:沼尻竜典ピアノ:河村尚子シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 op.54ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47
2021年04月08日一夜にして4人もの若いソリストが登場し、オーケストラと4つの協奏曲を演奏する。12月7日に東京オペラシティで開催される「明日を担う音楽家たち~新進芸術家海外研修制度の成果」は、若者たちが海外で学んだ経験を昇華させる特別な音楽に出会う、一夜限りのコンサートだ。クラシックの演奏家にとって、海外で学び、文化や言語、そして作曲家たちが生きた地の空気に触れて生活することは、その音楽を変え、大きな飛躍を遂げるきっかけとなることもある。そんな経験を支援するため、文化庁は半世紀以上にわたり若者たちを海外に送り出してきた。当日、ソリストとしてステージに立つのは、この制度により海外で学んだ若者たちだ。高い実力を持つ彼らが、その成果を披露するべく気合十分でステージに立つのだから、一期一会の輝かしい演奏に大いに期待できる。気鋭たちの顔ぶれを見ていこう。まずは、コントラバスの菅沼希望。ドイツのフランクフルト音楽・舞台芸術大学で学んだ彼は、現在は新日本フィル首席コントラバス奏者として活動する。イタリアの作曲家、ボッテジーニのコントラバス協奏曲第2番を生演奏で聴くことができる、貴重な機会だ。ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番でソリストを務めるのは、現在N響第一ヴァイオリン奏者の猶井悠樹。ドイツのライプツィヒで学んだ成果を、ヴァイオリンのための王道レパートリーで存分に発揮してくれるだろう。そして、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番を演奏するのは、スイス、バーセルで学んだ石井楓子。ソロ・トランペットとの掛け合いが刺激的なこの作品を、東京シティ・フィルのトランペット奏者、松木亜希とともに奏であげる。また、ドイツのミュンヘン音楽大学で研鑽を積むピアニストの加藤大樹は、シューマンのピアノ協奏曲を演奏。今も現地で磨き続けている、ドイツ音楽への深い理解を示してくれるだろう。指揮:高関健、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。バラエティに富んだ4つの協奏曲を楽しみ、フェスティバル感を味わえる豪華な公演でありながら、チケット料金はとても手頃なのが嬉しい。旅のハードルがあがってしまった今日このごろだが、彼らの演奏で、イタリア、ロシア、ドイツと、さまざまな場所を旅する時間となりそうだ。高坂はる香音楽ライター
2020年11月17日おとな向け映画ガイド今週は、おとなが観逃せない!3本をご紹介します。ぴあ編集部 坂口英明20/7/26(日)イラストレーション:高松啓二今週のロードショー公開は18本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。連休後でもあり、全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品はなく、すべてミニシアター系の作品です。今回はその中から2本、もう1本は上映中から、ぜひ観逃さないで、という3本をご紹介します。『海辺の映画館-キネマの玉手箱』大林宣彦監督最後の作品がいよいよ公開されます。当初予定されていたのが4月10日。コロナ禍のため上映延期となったのですが、その公開するはずの日に他界されました。まさに、文字通りの遺作。しかもその内容たるや、映画で遺言を残されたとしか思えないほど、メッセージは明確で、映像表現は実験映画の精神に満ち満ちた「ぶっとんだ」ものでした。海辺の町にある古い映画館「瀬戸内シネマ」がいよいよ閉館。その最後の日のプログラムは「日本の戦争映画」オールナイト上映会です。老若男女で満員の館内。画面に見入る3人の若者は熱中するうち、スクリーンの世界、つまり日本が体験したさまざまな争いの場に入っていってしまいます。あるときは、新選組が跋扈する幕末の京都、戊辰戦争の会津、さらに日中戦争、沖縄戦、原爆投下直前の広島……。舞台は監督の生まれ故郷・尾道。代表作『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』は“尾道三部作”とよばれています。この作品は、20年ぶりにその尾道でロケをし、制作されました。劇中には、少年時代に初めて作った手描きアニメの思い出も再現されますし、監督に影響を与えた映画や、中原中也の詩の引用など、自伝的要素も盛り込まれています。同じく尾道を舞台にした『東京物語』の小津安二郎監督も登場します。その小津監督を演じているのは手塚眞。前知識がないとわかりません。そんな異色のキャスティングは、映画のいたるところにみられます。それはまるで「キネマの玉手箱」のようです。例えば、幕末の世界にとべば、近藤勇は尾美としのり、武田鉄矢が坂本龍馬、中岡慎太郎に柄本時生、西郷隆盛は村田雄浩、なんと大久保利通役は稲垣吾郎です。そしてその脇でお茶をたてているのは千利休役の片岡鶴太郎、おなじみ常盤貴子、根岸季衣、入江若葉……。きりがないのでやめますが、大林作品ゆかりの俳優たち総出演です。3時間近い大作です。パロディで茶化しながら、ファンタジックな映像を駆使し、思いのすべてをここにこめた、そんな映画作家の熱い気持ちが伝わってくる、映画史上にない映画による遺書です。『剣の舞 我が心の旋律』『天国と地獄』や『剣の舞』、運動会徒競走にかかる曲、あれ、どなたが選んだんでしょうね。聴くとやたら元気がでて、逃げ足が早くなりそうな『剣の舞』は、もともと、第二次大戦下のソ連で、アルメニアを舞台にしたバレエ『ガイーヌ』のためにアダム・ハチャトゥリアンが作曲したのだそうです。世界でも屈指の演奏回数といわれるその名曲の、誕生秘話をもとにオリジナル脚本で映画化しています。もちろんアルメニア人ハチャトゥリアンの幼年期の思い出などは背景として描かれますが、映画は『剣の舞』が作られる前後2週間に絞り込んだスト―リーになっています。戦時下、レニングラード国立オペラ劇場も地方へ疎開しています。10日後に控えたバレエ『ガイーヌ』のリハーサル中。検閲にやってきた文化省の役人から、時節柄、士気高揚のため、勇壮な曲を付け加えるように命じられます。芸術をプロパガンダの道具としか考えない理不尽な文化官僚に抗いながら、ハチャトゥリアンは、ある着想がひらめき、開幕の前夜、この曲をひと晩で書き上げるのです。実際に親しかったといわれる作曲家、ショスタコーヴィチやオイストラフも登場します。親友ふたりとの会話では、不自由な国家のなかで、どう生きるかが語られます。ハチャトゥリアンに恋するバレリーナ、同郷の従者、そして対立する文化官僚など、わかりやすいキャラの登場人物が織りなす人間模様と差し迫った時間のなかで展開する曲づくり。クラシック好きでなくても大満足のエンタテインメント映画です。首都圏は、7/31(金)から新宿武蔵野館他で公開。中部は、7/31(金)から名演小劇場で公開。関西は、8/7(金)からテアトル梅田で公開。『コンフィデンスマンJP プリンセス編』公開初日の23日、渋谷の映画館で観ました。さすがの人気シリーズ、コロナ禍対応で座席数を絞っていますが満員の盛況。映画としては2作目。前作よりさらに面白いです。長澤まさみのダー子、東出昌大のボクちゃん、小日向文世扮するリチャードというメイン3人に、アシスタントの小手伸也や「子猫ちゃん」とよばれる協力スタッフも加えたおなじみの詐欺師チームの、国際的犯罪プロジェクト。今回狙いを定めたのは、シンガポールの大富豪フウ一族の後継者争い。当主の死後、遺書に書かれていた全財産の相続者は3人の実子ではなく、ミシェルという隠し子だった―。ダー子の計画は、このミシェルをでっちあげ、遺産をいただく、というもの。その替え玉ミシェルになった、コックリ(関水渚)のシンデレラ・ストーリーでもあります。『男はつらいよ』をはじめ、愛されるシリーズものの楽しさは、登場人物のキャラクターがわかりやすく、彼らの「お約束」やフォーマットがかっちりできていること。それでいて、初めて観ても楽しめる。その点このシリーズは完璧ですし、マンネリにもなっていません。前回もそうでしたが、舞台がアジアの観光地というのも成功の秘訣と思います。シンガポールのフウ一族にしても当主役の北大路欣也をはじめ、ふたりの息子を日本人の古川雄大や白濱亜嵐が演じても無理を感じません。逆にギャグがかっていて笑えます。それにしても、長女役に台湾の元アイドル、ビビアン・スーを起用してくるとは驚きました。45歳って、信じられないキュートさ。やや悪役ですけど。執事役の柴田恭兵も渋いです。またまたでてくる日本のマフィア・赤星の江口洋介や、竹内結子、石黒賢、広末涼子といったシリーズ常連もなるほど、それぞれに見せ場あり。そして、プレイボーイの詐欺師ジェシーを演じた三浦春馬は欠かせない存在でした。とても惜しまれます。
2020年07月26日若き巨匠がひと晩で書き上げた名曲の誕生秘話を描いた『Sabre Dance』(英題)が邦題を『剣の舞我が心の旋律』として公開されることが決定。併せて、ポスタービジュアルが解禁となった。■ストーリー第二次世界大戦下のソ連。迫り来る戦火から逃れるため、レニングラード国立オペラ・バレエ劇団はモロトフに疎開していた。寒さと食糧不足に悩まされながら、団員たちはまもなく初演となるバレエ「ガイーヌ」の練習を続けている。劇団の音楽を担当する作曲家アラム・ハチャトゥリアンは振付家のニーナから連日のように変更が伝えられ、修正に追われていた。重圧に苦しむアラムは、入院騒ぎを起こしてしまうが、親友の作曲家ショスタコーヴィチらとの音楽談義に癒され、作曲家としての矜持を強くする。初演が迫ったある日、文化省の役人プシュコフは完成した「ガイーヌ」の結末を変更した上に、最終幕に士気高揚する踊りを追加せよと命じる。団員の誰もが不可能と訴えるが、アラムは作曲家人生を懸けて理不尽な挑発に立ち向かう…。■名曲「剣の舞」の誕生に隠された愛と友情の真実の物語「仮面舞踏会」など数々の名曲を残したクラシック界の巨匠アラム・ハチャトゥリアン。本作では、彼が若き日にたったひと晩で書き上げた20世紀の名曲「剣の舞」に込めた民族の悲しみと世界平和への祈り、その知られざる真実が明らかとなる。祖国アルメニアへの思いを音楽で表現する情熱の作曲家アラムを演じるのは、ロシアで舞台やTVで活躍するアンバルツム・カバニャン。宿敵のプシュコフはアメリカのTVドラマ「24」などにも出演したアレクサンドル・クズネツォフ。監督・脚本はウズベキスタン出身のユスプ・ラジコフ。自伝や記録、遺族の証言から、不本意ながら生まれた「剣の舞」完成前後の2週間に着目し、5年の歳月をかけて史実に誕生秘話を執筆した。2018年4月にアルメリアの首都エレバンの劇場で行った撮影では、ビロード革命が発生。デモ隊に劇場が包囲され、キャストとスタッフは5日間劇場に閉じ込められながらも撮影を強行。まさに映画も「剣の舞」同様に難産の末に生まれた。解禁されたポスタービジュアルの背景には、散乱した楽譜や躍動感溢れる団員の舞い踊る姿が。そして、“わずか8時間で生まれた伝説の名曲”というキャッチコピーとともに、想いを馳せるような表情で鍵盤に向かうハチャトゥリアンの姿が、名曲「剣の舞」誕生までの苦悩をうかがわせる1枚に仕上がっている。『剣の舞我が心の旋律』は7月31日(金)より新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2020年05月08日昨年12月にスタートしたクラシック専門の動画サイト『medici.tv JAPAN』にて、昨年秋に開催された大きな話題となった<サントリーホールARKクラシックス>のコンサート映像が、4月17日より毎週無料で公開されることになった(10週連続無料公開!)。ライブやコンサートがいくつも中止になっている現在、素敵なおうち時間をお過ごしあれ。*まずは最初の5つのラインナップを要チェック!●medici.tv JAPAN(メディチ・ティーヴィー・ジャパン)●「サントリーホールARKクラシックス2019」公開スケジュール(毎週金曜更新予定)・4月17日 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番《雨の歌》/三浦文彰・辻井伸行・4月24日 モーツァルト:ディヴェルティメント K.136/ジュリアン・ラクリン&ARKシンフォニエッタ・5月01日 坂本龍一組曲/川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝 トリオ・5月08日 ショスタコーヴィチ:2つのヴァイオリンとピアノのための5つの小品/ジュリアン・ラクリン他・5月15日 バッハ:ゴルトベルク変奏曲/曽根麻矢子※ラインナップは変更になる可能性がございます。
2020年04月18日フィンランドは、人口あたりの音楽家の比率が世界で最も高い国だということを耳にしたことがある。そのフィンランドが生んだ“異才”ムストネンが「東京・春・音楽祭2020」に登場する。経歴にもある通り、ピアニストであるとともに、作曲家・指揮者としても活躍するムストネンはまさに“音楽家大国”フィンランド音楽界を代表する存在だ。その尖った活動ぶりは、ちょっと普通じゃない過去の来日公演やアルバムの数々からも感じ取れる。最初の衝撃はベートーヴェンの小品ばかりを収めたアルバムだった。「パガテル作品126」の強烈無比のタッチと切れ味抜群の演奏は今もファンの間での語り草。来日公演で披露した、バッハとショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」を交互に奏でるステージにも、単なるピアニストとは一味違うムストネンのこだわりが見えて目からウロコの連続だったことが思い出される。今回のステージでは一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか興味津々。●公演概要3月22日(日)東京文化会館小ホール「オリ・ムストネン/東京・春・音楽祭2020」●オリ・ムストネン(ピアノ)(c)Heikki Tuuliラフマニノフ、ブゾーニ、エネスクといった偉大な作曲家の伝統を継ぎ、作曲家、ピアニスト、指揮者として非凡な才能を持つ、今日の音楽界において特異な存在である。一人三役での公演も多く、その傑出した業績が称えられ、過去にはダニエル・バレンボイムやパーヴォ・ヤルヴィも受賞した名誉あるヒンデミット賞を、2019年に授与された。およそ35年にわたるキャリアにおいて、自身の非凡なる音楽的見識を発揮し、これまでに、ベルリン・フィル、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、シカゴ交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、ニューヨーク・フィル、ロサンゼルス・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、パリ管弦楽団等の著名オーケストラと、ウラディーミル・アシュケナージ、ダニエル・バレンボイム、ヘルベルト・ブロムシュテット、ピエール・ブーレーズ、チョン・ミョンフン、シャルル・デュトワ、クリストフ・エッシェンバッハ、ニコラス・アーノンクール、クルト・マズア、ケント・ナガノ、サカリ・オラモ、エサ=ペッカ・サロネン、ユッカ=ペッカ・サラステ、パーヴォ・ヤルヴィ等の指揮者と共演している。2019/20シーズンは、自身の新作《Taivaanvalot》をイアン・ボストリッジ&スティーヴン・イッサーリスとアムステルダムのミュージックヘボウ・アアン・ヘット・アイで初演、その後ウィグモア・ホールと香港でも公演を行う。ボン・ベートーヴェン音楽祭から委嘱された弦楽六重奏曲は、2020年2月にタベア・ツィンマーマンらによって初演される。また、ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルク・フィルとの共演や、オークランド・フィルへ弾き振りでの客演の他、南アメリカ・ツアーや各国でリサイタルなどがある。輝かしい音楽家との交流を持ち、ロディオン・シチェドリンからピアノ協奏曲第5番を献呈され、シチェドリンの70歳、75歳、80歳を祝うバースデーコンサートに招待された。またヴァレリー・ゲルギエフとは幾度も共演を重ね、これまでにマリインスキー劇場管弦楽団、ミュンヘン・フィル、ロンドン交響楽団、ロッテルダム・フィル等と演奏している。昨シーズンはフィンランド独立100周年式典で、ソリストとしてエーテボリ交響楽団と共演した。世界各地でリサイタルを行い、ワルシャワのショパン協会、ペルミのディアギレフ音楽祭、マリインスキー劇場、ドレスデン音楽祭、シカゴのシンフォニー・センター、ニューヨークのザンケル・ホール、シドニーのオペラ・ハウス等に登場している。スティーヴン・イッサーリスとは30年以上にわたり共演を続け、近年はヒンツガルフ音楽祭、魔法にかけられた湖音楽祭、ウィグモア・ホール、イタリア・ツアーなどで共演した。プロコフィエフの解釈には定評があり、ハンヌ・リントゥ指揮フィンランド放送交響楽団とのピアノ協奏曲全曲の録音がオンディーヌからリリースされた。ピアノ・ソナタ全曲演奏会を、ヘルシンキ・ミュージック・センター、アムステルダム・ムジークヘボウ、メキシコのセルバンティーノ国際音楽祭、シンガポール・ピアノ・フェスティバル、ルール・ピアノ・フェスティバル等で開催し高評を得た。ベートーヴェンも重要なレパートリーであり、協奏曲は全曲とも何度も演奏し、ピアノ・ソナタ連続演奏会も各地で開催している。録音では、1997年にリリースしたロンドン・デッカからの『ショスタコーヴィチ&アルカン:前奏曲集』がエディソン賞とグラモフォン賞を受賞。オンディーヌからはほかに、『レスピーギ:ミクソリディア旋法の協奏曲/ローマの噴水』(サカリ・オラモ指揮フィンランド放送交響楽団)をリリースしている。イッサーリスとの録音は、BISレーベルよりマルティヌー、シベリウス、ムストネンの作品をリリースされているほか、ハイペリオンからの最新盤のショスタコーヴィチとカバレフスキーのアルバムが好評を博す。 ヘルシンキ生まれ。5歳よりピアノ、ハープシコード、作曲を学ぶ。最初にラルフ・ゴトーニに、その後ピアノをエーロ・ヘイノネンに師事した。
2020年03月12日話し込むほどに、とてもよい音楽家だと感じさせる人だ。ヴァイオリニストの山根一仁が2月、埼玉、静岡、京都、そして東京をめぐるリサイタルを開く。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番《春》とフランクのヴァイオリン・ソナタを核に、シュニトケの《古い様式による組曲》、ストラヴィンスキーの《イタリア組曲》というプログラム(順不同)。【チケット情報はこちら】ベートーヴェンやロシア音楽は、彼の音楽との関わりの原点のような作品でもあるのだそう。「2~3歳の頃、音楽に興味を持ったきっかけが、家にあったプロコフィエフの《ピーターと狼》のバレエのビデオ。そして4歳でヴァイオリンを始めたきっかけが、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番。その後も、(ロシアの大ヴァイオリニストである)オイストラフ門下のオレグ・クリサ先生に教えていただいていたので、ロシア音楽にはずっと親近感を持っています」ベートーヴェンに夢中になったのも、音楽好きのご両親が録り溜めていたビデオがきっかけ。「小学1年生の頃、カルロス・クライバーが1986年に東京で指揮した交響曲第4&7番にハマりました。とくにティンパニ。親にスコアを買ってもらって、学校から帰ると毎日、菜箸で座布団を叩いてました(笑)」共演は同い年のピアニスト小林海都。昨秋、ミュンヘンの山根の自宅で、プログラムを相談しながら、いろんな曲を弾きまくった。「とにかく、ただ音楽に触れているような楽しい時間でした。海都くんは、互いに意見をぶつけることを楽しめる、大好きな相手です。ぶつける時間を取れること自体が大切で、効率を求めればぶつからない。でも妥協が生まれ始めたら、それは絶対にいい音楽につながりませんから。ふたりでこのプログラムを演奏できることが楽しみだし、全部の曲が、“僕ら”にすごく合っている。いい4曲が選べたかなと思っています」演奏家でも、作曲家・作品でも、表現者の人間性が強く出ていることに惹かれると話す。たとえばヴァイオリンのギドン・グレーメルや先述のクライバーの唯一無二の個性。「彼らは自分を出しきりながらも音楽を尊重しています。クレーメルが、『美しさを求めたことはない』というようなことを過去に話しているのですが、もちろん、彼は美しい音でも弾くんですけど、それは音楽を求めた結果だということなんですね。音楽の中の美しさを見つけるのが音楽家の仕事であって、美しさを求めたらダメなんです。音楽の中には、汚い部分、くさい部分もあります。それを出せる音楽家になりたいと思っています」「つねに音楽に正しくあれ」これが、現在ミュンヘンで師事するクリストフ・ポッペンの教えだという。演奏はもちろん、音楽を語ることにも、飾ることなく真摯に誠実に向き合う山根は、まさにそれを体現している。もちろん「正しさ」はひとつではないだろう。2月のリサイタルは、彼の現在の解答を示してくれるはずだ。取材・文:宮本明
2020年01月31日毎年、海外の著名な指揮者やオーケストラの豪華共演を実現する『東芝グランドコンサート』。39回目となる2020年は、次世代を牽引する34歳の若きマエストロ、サントゥ=マティアス・ロウヴァリが、スウェーデンの名門エーテボリ交響楽団と至高の音楽を紡ぐ。ロウヴァリ指揮での演奏は日本初演となり、さらに、ソリストには世界的ヴァイオリニスト、三浦文彰の出演が決定した。公演に先駆け、楽団の本拠地エーテボリを訪ね、今回披露するショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」を早々に手合わせしてきたという三浦。会見で楽団の印象と公演への意気込みを語った。「東芝グランドコンサート2020」チケット情報「現地で僕が一番驚いたのは、コンビの相性がすごくいいこと。オーケストラは指揮者のロウヴァリさんが大好きで、彼も楽団のみんなが大好き。ロウヴァリさんとは初対面でしたが、僕の楽屋を“ヤッホー!”と訪ねてくれて、とても明るい感じの方だなと(笑)。才能溢れる音楽作りが刺激的で、彼とは今後他のオーケストラでも一緒にやっていくんじゃないかな。一緒に演奏していてとても楽しかったです」と振り返る。このショスタコーヴィチの協奏曲は、三浦が小学生の頃、登下校中に愛聴していた一枚。初演を担った巨匠ダヴィッド・オイストラフのレコーディング盤を聴き込み、17歳で初めて演奏して以来レパートリーとなった。「ショスタコーヴィチはプロコフィエフと並ぶすばらしい作曲家。表現が制限された旧ソ連という難しい時代を生きた人で、実はいろんな作品を残している。ソナタ、室内楽などいろいろ演奏してきましたが音楽が深いですね。ロシアの本当の美しさや皮肉っぽさ、いろんな背景を感じて考えさせられる」。とりわけヴァイオリン協奏曲第1番は、4楽章制で40分以上の大作。変化に富んだ構成が聴きどころと語る。「例えば、第3楽章はすごく暗いところをドシドシ重苦しい気持ちで歩くところから始まって、続くカデンツァは急にひとりで演奏するソリストの見せ場。そこからフィナーレまではお祭りっぽく活発な感じになっていく。それぞれの楽章に全部違うキャラクターが詰まっているのが魅力です。今回はいま大注目のサントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮とエーテボリ交響楽団の演奏を聴ける貴重な機会。彼らも気合い十分に来ると思うので、僕自身ソリストとして演奏できることをうれしく思います。ぜひ多くの方に聴きに来ていただきたいなと思います」。公演は2月29日(土)に兵庫県立芸術文化センターにて<プログラムA>、3月8日(日)に東京・サントリーホールにて<プログラムB>を上演。その他、全8都市でツアー開催。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2020年01月27日三浦文彰、26歳。難関のハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールに史上最年少の16歳で優勝し、注目を集めて10年。3年前の大河ドラマ『真田丸』のテーマ音楽演奏ではお茶の間の人気もがっちりと掴んだ。2020年2~3月の東芝グランドコンサートで、サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮エーテボリ交響楽団と、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を弾く。【チケット情報はこちら】「どの協奏曲を弾きたいか聞かれたら毎回必ずこの曲を挙げているのですが、なかなか採用されません。今回はそれが通って、ツアーで5回も弾くことができるのはすごくうれしいですね。演奏するたびに毎回見え方が違って、曲の深さがわかってくる。僕にとってはとても大事な曲です」1955年に初演された作品。三浦が師事したパヴェル・ヴェルニコフは、初演時のヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフの門下なので、いわば直伝で多くのことを学んだ。「一番は音のイメージです。強いだけじゃない、強くて重たいんだ、とか。それを言葉だけではなく、弾いて教えてくれました。あとは、ロシア文学を読めと。とくにこの曲の場合、ただ無意識に弾いていると運動会っぽくなっちゃうところがあるので。勘違いされやすいところかなと思うんですけど、ショスタコーヴィチは、人の声、叫びというか、金属的なカンカンした音ではない、木質の響きが必要です」すでに2019年10月に、来日公演と同じ顔合わせで、オーケストラの本拠エーテボリで共演してきた。「とてもいいオーケストラ。みんな本当によく聴いていて、ちゃんとアンサンブルができる。それに、彼らの感じているショスタコーヴィチというのがはっきりとあって、楽章ごとのキャラクターが際立っています。僕が何か仕掛けても、はっきりリアクションがあるので、やりがいがありました。(旧ソ連出身の)ネーメ・ヤルヴィが20年以上首席指揮者だったので、ロシア音楽の伝統も持っているのでしょうね。指揮者のサントゥも、その彼らがのびのび弾けるように振っている。すごく自然な音楽づくりだし、一緒にやっていて面白かったです。気が合うなと思いました。イージー・ゴーイングな性格で、打ち合わせでペちゃくちゃしゃべるのではなく、まずオケとやってみようよという感じ。僕もそのほうが好きなので」首席指揮者ロウヴァリは34歳。世代も近く、酒席もともにしてすっかり意気投合した様子。「日本でもどこか連れて行けと言われているので、考えなきゃ(笑)。メインのシベリウスの交響曲第2番もきっとすごくいいと思います。彼はフィンランド出身で、もちろんシベリウスを愛している男ですし、彼らはちょうどシベリウスの全曲録音を始めたところですから。プログラム全体が、大編成だし、聴きごたえ十分のコンサートだと思います」取材・文宮本明
2020年01月14日ヴァイオリンの川久保賜紀、チェロの遠藤真理、ピアノの三浦友理枝という、素敵な3人のソリストによるトリオが結成10周年を迎える。プログラムには坂本龍一とショスタコーヴィチが並ぶ理由として、「坂本龍一こそが、ショスタコーヴィチ以来、最も重要なピアノ・トリオの作曲家だから」という彼女たちの言葉が新鮮だ。時代もスタイルも異なる日本とロシアの作曲家2人の作品を続けて聴くことによって見えてくるものとはいったいなんだろう。その答えがクリスマスに紀尾井ホールで開催される「10周年記念コンサート」の中にある。結成から10年を経て、深化に進化を重ねた3人組は、見ても聴いても楽しいこと請け合い。さらにはコンサートに合わせて制作されたアルバムも要チェック!●公演概要12月25日(水)紀尾井ホール<曲目>坂本龍一:ラストエンペラー、レイン、美貌の青空、シェルタリング・スカイ、M.A.Y. in The Backyard、メリークリスマス・ミスター・ローレンスショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番 ハ短調 Op.8、ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 Op.67●CD情報『ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番、第2番』2019年12月18日発売AVCL-84101定価:¥3,000(本体価格)+税『ピアノ三重奏 坂本龍一曲集』2019年12月18日発売AVCL-84102定価:¥2,000(本体価格)+税●川久保賜紀(ヴァイオリン)2001年サラサーテ国際ヴァイオリン・コンクール優勝、2002年チャイコフスキー国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門最高位受賞以来、主要な北米オーケストラと共演し、豊富なステージ経験を積む。日本では1997年、チョン・ミョンフン指揮アジア・フィルのソリストとしてデビュー。以後、国内外の様々なオーケストラと共演を重ね、高度な技術と作品の品位を尊ぶ深い音楽性に高い評価を得ている。近年は自ら企画するコンサートを行うなど、コンサート・プロデューサーとしての才能も発揮。2018年より桐朋学園大学院大学(富山校)教授に就任。●遠藤真理(チェロ)第72回日本音楽コンクール第1位、2006年「プラハの春」国際コンクール第3位(1位なし)、2008年エンリコ・マイナルディ国際コンクール第2位。ジャン=ピエール・ヴァレーズ、山田和樹など国際的に活躍する指揮者やウィーン室内管、プラハ響と共演するなど国内外で高い評価を得ている。ソリストとしてだけでなく読売日響のソロ・チェロ奏者も務める。NHK大河ドラマ「龍馬伝」の龍馬伝紀行Ⅲの演奏、NHK-FM「きらクラ!」(毎週日曜日/全国放送)ではパーソナリティを務めるなど幅広く活躍している。●三浦友理枝(ピアノ)東京生まれ。2005年、英国王立音楽院大学課程を首席で卒業。2007年、同音楽院・修士課程を首席で修了。2001年「第47回マリア・カナルス国際音楽コンクール」ピアノ部門第1位、および金メダル、最年少ファイナリスト賞、カルロス・セブロ特別メダル賞受賞。2006年「第15回リーズ国際ピアノ・コンクール」特別賞受賞。2005年、エイベックス・クラシックスよりCDデビュー。2018年、6枚目のソロアルバム「ショパン:バラード&スケルツォ」をリリース、「レコード芸術」特選盤に選ばれる。2016年、第26回新日鉄住金音楽賞〈フレッシュアーティスト賞〉を受賞。
2019年12月20日小学生の頃体験した懐かしい思い出の中に、音楽の授業で手にしたリコーダーがある。運動会の鼓笛隊や学芸会で吹いていたあのプラスティック製の縦笛が、実はとても古い歴史を持つ楽器の末裔だったなんて当時は全く知る由もなかった。それを認識させてくれる素敵なコンサートが目前だ。デンマークが生んだ世界最高峰のリコーダー奏者ミカラ・ペトリ リコーダーリサイタル(12月4日:サントリーホール ブルーローズ、6日:宗次ホール、8日:伊丹アイフォニックホール)では、バロックの名曲から北欧の近代音楽までが、圧倒的なテクニックと美しい音色で披露される。ビートルズの名曲『フール・オン・ザ・ヒル』で、ポール・マッカートニーの絶妙なリコーダー演奏を必死に真似たことを思い出すという方々にはピッタリのこの公演。物置の隅に眠っているかもしれないあの縦笛を、久しぶりに引っ張り出して吹いてみたくなること必至⁉●公演概要・12月4日(水)サントリーホールブルーローズ・12月6日(金)宗次ホール・12月8日(日)伊丹アイフォニックホールメインホール●ミカラ・ペトリ(リコーダー)Michala Petri, recorder3歳よりリコーダーを始め、5歳でデンマーク・ラジオに出演。1969年、チボリ公園コンサートホールにて、コンチェルト・デビューを飾る。以降、世界各地のコンサートホールや、音楽祭で演奏活動を行う。彼女の驚くべき演奏技術と聴衆の心を瞬く間につかむ卓越した音楽性が、バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを演奏することを可能にしている。そして数多くの作曲家が彼女のために作品を書いている。これまでに、ハインツ・ホリガー、ジェームス・ゴールウェイ、ギドン・クレーメル、ピインカス・ズッカーマン、クラウディオ・アバド、クリストファー・ホグウッド、キース・ジャレットなどと共演している他、イングリッシュ・チェンバー・オーケストラ、アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ、スウェーデン室内管弦楽団、ベルリン・バロック・ゾリスデン、クレメラータ・バルティカなど主要アンサンブルとも共演を重ねている。また、ギターとのコラボレーションに強い関心を持ち、これまでにイョラン・セルシェル、山下和仁、マヌエル・バルエコなどの一流ギタリストとのツアーを行っている。92年には、デンマークのギタリスト兼リュート奏者、ラース・ハンニバルとデュオを結成。ドイツ・レコード大賞を複数回受賞、また、クラシック音楽を大衆に広めた実績を称えられ、ヴィルヘルム・ハンセン音楽賞や、H.C.ロンビ賞などを次々と獲得。さらに、ストラヴィンスキー、バーンスタイン、ブリテン、ショスタコーヴィチ、クレーメルなど、これまでに著名音楽家が受賞したレオニー・ソニング賞を受賞している。デンマーク対がん協会の副会長やデンマーク・ユニセフ協会の役員を務めるなど、積極的に社会貢献活動も行っている。現在は、コペンハーゲンの北部の海沿いの街で、夫と二人の娘たちと暮らしている。
2019年11月27日1947年の創立以来、70年以上に渡ってヨーロッパの主要放送交響楽団の1つとして素晴らしい演奏活動を行ってきたケルン放送交響楽団が、ワルシャワ生まれの名匠マレク・ヤノフスキに率いられて来日する。両者の共演は1983年にまで遡り、2018年2月にはヒンデミット作品集を録音をするなど、関係性は抜群。2018年9月からは待望のベートーヴェン・チクルスを開始し、同時にレコーディングも進めているというのだから楽しみだ。今回はドイツ本国で行われたベートーヴェン・チクルスの勢いをそのまま持ち込むかのような日本公演が期待できる。ソリストには、2015年のショパン国際ピアノ・コンクールの覇者チョ・ソンジンを迎え、ベートーヴェンの偉大さを知る上で、欠かすことのできない「交響曲」と「協奏曲」の代表曲を披露する。いよいよ間近に迫った2020年の“ベートーヴェン生誕250年”を、より身近に感じさせるステージがこれだ!●公演概要・11月21日(木)東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル・11月25日(月)東京文化会館 大ホール・11月26日(火)サントリーホール 大ホール●マレク・ヤノフスキ (指揮)ワルシャワ生まれ。現代におけるドイツ伝統音楽の巨匠の一人。1939年ワルシャワ生まれ。ドイツで教育を受け、フライブルグ、ドルトムントの歌劇場で音楽総監督を務めた。ドルトムント在任中、その芸術性が高く評価され、ヨーロッパの主要な歌劇場に招かれるようになる。1970年代後半以降、世界の主要な歌劇場のうちヤノフスキが定期的に客演しない歌劇場は一つもないほどになり、その活躍の場はニューヨークのメトロポリタン歌劇場からミュンヘンのバイエルン国立歌劇場へ、シカゴやサンフランシスコからハンブルクへ、ウィーンやベルリンからパリへと広がった。これまでにフランス国立放送フィル音楽監督、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団首席指揮者、ベルリン・ドイツ響第1客演指揮者、モンテカルロ・フィル音楽監督、ドレスデン・フィル首席指揮者、ベルリン放送響芸術監督を務める。ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス、ブルックナー、ブラームス、ヒンデミット、および新ウィーン楽派の解釈では世界的に定評があり、この幅広いレパートリーを網羅する多数の優れた録音を残している。2018/2019シーズンには、ドレスデン・フィル、ベルリン・フィル、ケルン放送響、フランクフルト放送響、NDRエルプフィル、ライプツィヒMDR、スイス・ロマンド管、オスロ・フィル、N響、サンフランシスコ響などを指揮予定。現在ヨーロッパと北アメリカの主要なオーケストラで特に高い評価を得ており、楽団を世界的な一流オーケストラへと育て上げる手腕を持つ指揮者としても知られている。●チョ・ソンジン(ピアノ)(C)Harald Hoffmann DG圧倒的な才能と生来の音楽性で、急速に世界的な活躍を繰り広げているチョ・ソンジンは、同世代の中で最も際立つアーティストの一人と認められている。2015年ショパン国際ピアノコンクールで念願の優勝を果たし、国際的な脚光を浴びる。ドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、2016年にリリースされた最初のCDには、ノセダ指揮ロンドン響との共演による、ショパンのピアノ協奏曲第1番と4つのバラードが収録されている。2017年にはドビュッシーのソロ・アルバム、続く2018年には、ネゼ=セガン指揮ヨーロッパ室内管との「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、ソナタ第3番、第12番」のアルバムがリリースされた。これらのアルバムは、いずれも世界中の批評家たちから非常に高く評価されている。●ケルン放送交響楽団(C)Marek Janowski1947年創立。以来70年以上に渡り、ヨーロッパの主要な放送管弦楽団のひとつとして地位を確立。広大なレパートリー、芸術的完成度をトレードマークとする。大都市ケルンの主要なコンサート・ホールや音楽祭と数多く提携し、海外ツアー、数々のCDのリリースなど、その活動はドイツのオーケストラ界を代表する存在として国際的に重要視されている。1964年より、C.F.ドホナーニ、G.ベルティーニ、S.ビシュコフを、2010/2011シーズンよりユッカ=ペッカ=サラステを首席指揮者に迎える。その指導の下、特にマーラー、ショスタコーヴィチ、R.シュトラウス、ラフマニノフ、ヴェルディ、ワーグナー作品で頭角を現し、世界各国で頻繁にツアーを行うようになった。また多数の現代作品の世界初演を行うことで音楽史に貢献。これまでにストラヴィンスキー、ベリオ、ヘンツェ、シュトックハウゼン、カーゲル、リーム、ヴィトマン、ペンデレツキといった偉大な作曲家が自作を指揮している。さらに、テレビ・ラジオ放送、デジタルメディア、教育プログラムを通してクラシック音楽の普及に邁進している。1983年、指揮者マレク・ヤノフスキと初共演。2018年2月には、ヤノフスキと同団による、ヒンデミット作品を収録したCDがペンタトーンからリリースされた。また2018年9月よりベートーヴェン・チクルスを開始。初めてとなるベートーヴェン作品のレコーディングを進めている。2019年2月ヤノフスキ80歳の誕生日には、ソリストにチョ・ソンジンを迎え、ベルリン・フィルハーモニーでのコンサートを含むドイツ全国のツアーを敢行した。※関連公演・11月21日(木)東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル・11月25日(月)東京文化会館 大ホール・11月26日(火)サントリーホール 大ホール
2019年11月14日今年2月の来日公演でクラシック界を席巻した、クルレンツィス指揮ムジカエテルナの再来日公演が決定した。今回は2020年のベートーヴェン生誕250周年を祝い、初来日となる「ムジカエテルナ合唱団」を率いて、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」を披露する他、盟友パトリツィア・コパチンスカヤとの「ヴァイオリン協奏曲」などのベートーヴェン・プログラムを披露する。いやはやこれは絶対に聴き逃がせない。ベートーヴェンイヤー最大の衝撃公演になりそうだ。●公演予定2020年4月13日(月)19時日本・東京 / サントリーホールベートーヴェン : 交響曲第9番ニ短調 op.125「合唱付」主催:KAJIMOTO2020年4月14日(火)19時日本・東京 / サントリーホールベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61(Vn:パトリツィア・コパチンスカヤ)ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 op.92主催:KAJIMOTOand More……!※ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」のソリスト及び、各公演チケット料金、発売日等は決定次第発表予定。●テオドール・クルレンツィスTeodor Currentzis/ムジカエテルナmusicAeternaテオドール・クルレンツィスTeodor Currentzis/ムジカエテルナmusicAeternaムジカエテルナ・オーケストラとムジカエテルナ合唱団の創設者および芸術監督。ムジカエテルナ・オーケストラは、2011年から2019年までペルミ国立歌劇場のレジデント・オーケストラとして活動していたが、2019年7月に同劇場から独立。クルレンツィスは同劇場の芸術監督を退任し、現在は独立した民間オーケストラとなったムジカエテルナと共に、さらなる高みを目指し精力的に活動を展開している。ムジカエテルナを率いてヨーロッパ中でツアーを行っており、ベルリンのフィルハーモニー、フィルハーモニー・ド・パリ、バーデン・バーデン祝祭劇場、ミラノ・スカラ座、マドリード・オーディトリアムなどで演奏している。ザルツブルク音楽祭への出演は恒例になっており、2017年にピーター・セラーズの新演出で指揮した《皇帝ティートの慈悲》は、翌年オランダ国立歌劇場でも上演され、これがクルレンツィスのオランダ・デビューとなった。また、同音楽祭で行われた2018年のベートーヴェンの交響曲全曲チクルスは、5回のコンサートがすべて完売となり、さらに2019年にピーター・セラーズが演出を手がけ、フライブルク・バロック・オーケストラとムジカエテルナ合唱団と共演した《イドメネオ》は大好評を博した。クルレンツィス指揮ムジカエテルナは、2018年にBBCプロムスにデビュー、2019年2月に東京と大阪で公演を行い日本デビューを果たした。今シーズンには、ニューヨークのザ・シェッドにて映像作家ジョナス・メカスの晩年の作品を用いたヴェルディの《レクイエム》が予定されており、これが彼らのニューヨーク・デビューとなる。2018/19年シーズンよりシュトゥットガルト放送交響楽団の首席指揮者に就任。初年度には本拠地シュトゥットガルトでマーラーの交響曲第3番、第4番、チャイコフスキーの交響曲第5番、ショスタコーヴィチの交響曲第7番を指揮したほか、ツアーではウィーンのコンツェルトハウス、ハンブルクのエルプフィルハーモニー、ケルンのフィルハーモニーなどで演奏した。同シーズンの最後は、ザルツブルク音楽祭でショスタコーヴィチの交響曲第7番を披露して初年度を締めくくった。2019/20年シーズンには、シュトゥットガルト放送交響楽団とのスペイン、イタリア、フランス・ツアーを行う。2019年11月には、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団へのデビューが決まっており、ムジカエテルナ合唱団を率いてヴェルディの《レクイエム》を指揮する予定である。クルレンツィスのこれまでの活動のハイライトとして、2016/17年シーズンにウィーン楽友協会のレジデント・アーティストに就任して共演したウィーン交響楽団、カメラータ・ザルツブルク、ムジカエテルナとの公演、ディアギレフ・フェスティバルとペルミ国立歌劇場、さらにヨーロッパ各地で演奏したブラームス「ドイツ・レクイエム」(マーラー・チェンバー・オーケストラ、ムジカエテルナ合唱団と共演)、ベリオのバレエ音楽《コロ》(マーラー・チェンバー・オーケストラとのツアー)、ザルツブルク音楽祭での《皇帝ティートの慈悲》とモーツァルト《レクイエム》、バリー・コスキー演出のヴェルディ《マクベス》(チューリヒ歌劇場/2016)、ボーフムのルール・トリエンナーレでのワーグナー《ラインの黄金》(ムジカエテルナと共演/2015)、チャイコフスキー《イオランタ》とストラヴィンスキー《ペルセフォーヌ》のマドリード初演(2012)および両作品のエクサンプロヴァンス音楽祭での再演(2015)、マドリードでのパーセル《インドの女王》(2012)、チューリヒでのショスタコーヴィチ《ムツェンスク郡のマクベス夫人》(2012)、ブレゲンツ音楽祭でのヴァインベルク《パサジェルカ》(ウィーン交響楽団と共演、2010)などが挙げられる。ペルミ国立歌劇場の芸術監督在任中には、フィリップ・エルサン《トリスティア》(2016)、ドミトリー・クルリャンツキーのオペラ《ノスフェラトゥ》(2014)、アレクセイ・シュマクのオペラ《カントス》(2016)、セルゲイ・ネフスキーのヴァイオリン協奏曲(2015)など数々の重要な委嘱作品を発表した。クルレンツィスはムジカエテルナと共にソニー・クラシカルと専属録音契約を結んでおり、これまでに『モーツァルト:フィガロの結婚』『同:コジ・ファン・トゥッテ』『同:ドン・ジョヴァンニ』『ストラヴィンスキー:結婚』『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲』(共演:パトリツィア・コパチンスカヤ)、『チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」』『マーラー:交響曲第6番「悲劇的」』などをリリースしている。それ以前には、アルファ・レーベルより『ショスタコーヴィチ:交響曲第14番』『モーツァルト:レクイエム』『パーセル:ディドとエネアス』、ハルモニア・ムンディより『ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲』(マーラー・チェンバー・オーケストラ/アレクサンドル・メルニコフ)を発表している。2016年の『ストラヴィンスキー:春の祭典』(ソニー・クラシカル)は、エコー・クラシック・アワードの年間最優秀交響楽録音賞(20・21世紀音楽部門)、2017年の『パーセル:インドの女王』(DVD/ブルーレイ、ソニー・クラシカル、共演:ムジカエテルナ、演出:ピーター・セラーズ)は、エコー・クラシック・アワードを受賞している。2015年には兄弟であるファンヘリーノ・クルレンツィスと共にバクで開催されたヨーロッパ競技大会オープニング・セレモニーのサウンドトラックを作曲し、この録音がエミー賞(音楽演出・作曲部門)にノミネートされた。2008年には、ロシア連邦友好勲章を受章。2016年には、ドイツのアルフレート・テプファー財団からカイロス賞を贈られている。同年、オペルンヴェルト誌は、チューリヒ歌劇場で指揮した《マクベス》に対し、クルレンツィスを“ベスト・コンダクター・オブ・ザ・イヤー”に選出した。クルレンツィスは、ロシアの権威ある“黄金のマスク演劇賞”を7度受賞しており、最近では、2017年のペルミ国立歌劇場でのロバート・ウィルソン演出《椿姫》でベスト・オペラ・コンダクター賞に輝いた。この他にも、《インドの女王》(2015)、《コジ・ファン・トゥッテ》(ペルミ国立歌劇場、2013)、《ヴォツェック》(ボリショイ劇場/2011)がベスト・オペラ・コンダクター賞を受賞しているほか、《シンデレラ》(2007)は“プロコフィエフ音楽の見事な演奏”、《フィガロの結婚》(2008)は“真の演奏における抜群の成果”と称された。2006年、クルレンツィスは古楽の知識と情熱に現代音楽作曲家たちとニュー・ミュージックを組み合わせ、モスクワでテリトリア現代芸術フェスティバルを立ち上げた。この音楽祭はたちまち話題となり、今やモスクワでもっとも漸進的で権威あるフェスティバルへと発展した。また、2012年より国際ディアギレフ・フェスティバルの芸術監督に就任。ディアギレフの出生地であるペルミで開催している。ギリシャ生まれ。ロシアへ移住した1990年代はじめ以来、クルレンツィスにとってロシアは第二の故郷となっている。リムスキー=コルサコフ記念サンクトペテルブルク国立音楽院では、オデュッセウス・ディミトリアディス、ワレリー・ゲルギエフ、セミヨン・ビシュコフらを育てたイリヤ・ムーシンのもとで指揮を学んだ。●パトリツィア・コパチンスカヤPATRICIA KOPATCHINSKAJA(ヴァイオリン)パトリツィア・コパチンスカヤPATRICIA KOPATCHINSKAJA(ヴァイオリン)東欧のモルドヴァ出身。“ヴァイオリン界でもっとも独特な声をもつ者のひとり”と称される。パトリツィア・コパチンスカヤの他に類をみないアプローチは、多様なレパートリーで活かされており、バロックおよび古典派作品のガット弦による演奏から、新作の初演や現代曲の再演に至るまで、その活動は実に幅広い。屈指の指揮者・オーケストラと共演を重ねてきたコパチンスカヤにとって、引き続き2018/19年はエキサイティングなシーズンとなる。シーズン冒頭には、ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団と初共演する。このほか、バイエルン州立管弦楽団、キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏会や、ハインツ・ホリガー指揮バーゼル室内管弦楽団とのヨーロッパ・ツアーも予定されている。さらにアメリカではクリーヴランド管弦楽団にデビューし、ペーテル・エトヴェシュ作曲《ヴァイオリンと管弦楽のための「セヴン」》を演奏する。テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナの日本ツアーでは、チャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》の独奏を任される。デュオのパートナーであるピアノ奏者ポリーナ・レシェンコとは、アルバム『Deux~ヴァイオリンとピアノのための作品集』(Alpha)をリリース。レシェンコとのデュオ演奏を、今シーズンにアメリカと日本で初披露する。2014年から米ミネソタ州のセントポール室内管弦楽団のアーティスティック・パートナーを務めてきたコパチンスカヤは、2018年に同団との録音『シューベルトの「死と乙女」』(Alpha)でグラミー賞に輝いた。2017年には、スイス政府文化局が傑出した才能やイノヴェーションを称えるスイス・グランド・アワードの音楽部門を受賞する栄誉に浴した。2017/18年シーズンには、“アルティスト・エトワール”(スター・アーティスト)として招待されたルツェルン・フェスティバルで、自身の新プロジェクト“ディエス・イレ”(怒りの日)を世界初演。このプロジェクトは、コパチンスカヤが音楽監督を務めるカリフォルニアのオーハイ音楽祭で、今夏に北米初演された。さらに、マルクス・ヒンターホイザーとカメラータ・ザルツブルクとの共演でザルツブルク音楽祭に出演し、ウストヴォーリスカヤならびにハルトマンの作品を演奏した。●ムジカエテルナ合唱団musicAeterna chorus (Russia)ムジカエテルナ合唱団musicAeterna chorus (Russia)芸術監督:テオドール・クルレンツィス 首席合唱指揮者:ヴィタリー・ポロンスキー・テオドール・クルレンツィスによって2004年にノヴォシビルスクで創設され、2011年から2019年までペルミ国立歌劇場のレジデント・コーラスとして活動した。2019年9月に同歌劇場から独立し、民間の合唱団として新たな一歩を踏み出した。さまざまな様式、時代の楽曲を擁する幅広いレパートリーを誇るムジカエテルナ合唱団は、ヨーロッパおよびロシアのバロック作品にはじまり、18世紀から20世紀のロシア合唱曲、さらにオペラ・レパートリーや現代の委嘱作品に至るまで、多彩なプログラムを演奏している。ペルミ国立歌劇場のレジデント・コーラスとして演奏した作品には、新演出のモーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》(2011)、《フィガロの結婚》(2012)、《ドン・ジョヴァンニ》(2014)、パーセル《インドの女王》(2013)、オッフェンバック《ホフマン物語》(2015)、ボロディン《イーゴリ公》(2015)、ヴェルディ《椿姫》(2016)、プッチーニ《ボエーム》(2017)などがある。ムジカエテルナ合唱団のために書かれた委嘱作品も多く、これまでにドミトリー・クルリャンツキーのオペラ《ノスフェラトゥ》(2014)、フィリップ・エルサン《トリスティア》(2015)、アレクセイ・シュマクのオペラ《カントス》(2016)などの世界初演を行っている。ソニー・クラシカル・レーベルと専属録音契約を結んでおり、2012年以来、『モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」』(2014年2月リリース、ドイツ・レコード批評家賞、エコー・クラシック・アワードの年間最優秀録音賞)、『モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」』(2014年リリース、2015年のオペルンヴェルト誌の年間最優秀CD賞)、『ストラヴィンスキー:春の祭典』(2016)、『ラモー:輝きの音』(2014)を発表している。2013年にクルレンツィスが指揮し、ピーター・セラーズが演出を手がけたパーセルの《インドの女王》は、ソニー・ミュージックが撮影し、2016年にDVDとしてリリースされた。ムジカエテルナ合唱団は、ヴァンサン・デュメストル、アンドレス・ムストネン、ポール・ヒリアー、ラファエル・ピション、アンドレア・マルコン、ジェレミー・ローレルらを客演指揮者に迎え、定期的に共演している。世界各地でツアーを行っており、モスクワ、サンクトペテルブルク、ベルリン、アテネ、パリ、リスボン、ハンブルク、フェラーラ、ミュンヘン、ケルン、クラクフなどで演奏している。また、著名な国際音楽祭への出演も多く、ブリュッセルのクララ・フェスティバル、エクサンプロヴァンス音楽祭、ルツェルン・フェスティバル、モスクワの黄金のマスク演劇祭などから定期的に招かれている。ザルツブルク音楽祭には、ピーター・セラーズ演出のモーツァルト《皇帝ティートの慈悲》(2017)と《イドメネオ》(2019)で参加した。2019年には、ニューヨークのザ・シェッドでヴェルディ《レクイエム》を演奏してのアメリカ・デビューが決まっている。
2019年11月02日1970年アメリカ生まれのピアニスト、ニコラ・アンゲリッシュが来日する。熱烈なピアノ・ファンが相手ならば、過去の来日時におけるソロ・リサイタルやオーケストラとの共演、さらには「ラ・フォル・ジュルネ音楽祭」での素敵なパフォーマンスでもお馴染みのアンゲリッシュについて、前置きなしですらすら話ができそうなところだが、一般の方々に彼の魅力を伝えることは、原稿用紙(今やPC)を前にしたこの期に及んでなかなか難しいことにはたと気がつく。そう、アンゲリッシュには、これといった強烈な個性が見当たらないのだ。しかしながら、「だったらだめじゃん」などと思うのは大間違い。強烈な個性というものは、一歩間違えば奇をてらった陳腐な演奏と紙一重であるということも認識しておきたい。アンゲリッシュには、そのあたりの世界とは全く無縁の領域に生息するピアニストとしての存在価値があるように思えるのだ。言い方を変えればオーソドックス。しかしそのオーソドックスの絶対的な高みとは、他に代えがたい価値であるということを知ってほしい。特に今回のプログラムに並ぶドイツの作曲家たちの作品においては、オーソドックスであることの意味が大きく物を言いそうだ。音楽の価値や演奏の価値とはいったいどこにあるのだろう。そんな事を改めて考えさせられそうな重みを持つアンゲリッシュのリサイタルになりそうだ。●公演概要10月15日(火)紀尾井ホール「ニコラ・アンゲリッシュピアノ・リサイタル」●ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ)(c)Jean-François-Leclercq-Erato1970年アメリカ生まれ。5歳で母からピアノの手ほどきを受け、7歳でモーツァルトのピアノ協奏曲K.467を弾き演奏会デビュー。13歳でパリ国立高等音楽院に入学し、アルド・チッコリーニ、イヴォンヌ・ロリオ、ミシェル・ベロフ、マリー=フランソワーズ・ビュケに師事した。ピアノと室内楽で1等賞を授与され、同音楽院を卒業。レオン・フライシャー、ドミトリー・バシキーロフ、マリア・ジョアン・ピリスのマスタークラスも受講。クリーヴランドのロベール・カサドシュ国際ピアノ・コンクールで第2位(1989年)、ジーナ・バッカウアー国際ピアノ・コンクールで第1位(1994年)に輝く。ドイツでは、フライシャーの推薦でルール・ピアノ音楽祭の新人賞を受賞。2013年、フランスのヴィクトワール・ド・ラ・ミュジークより年間最優秀器楽奏者に選出された。2003年5月、クルト・マズアの指揮でベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番の独奏を務め、ニューヨーク・フィルハーモニックにデビュー(リンカーン・センター)。マズア指揮フランス国立管弦楽団の日本ツアーでは、ブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏した。2007年10月にはウラディーミル・ユロフスキよりモスクワに招かれ、ロシア・ナショナル管弦楽団のシーズン・オープニング・コンサートに出演した。これまでソリストとして、シャルル・デュトワ、ロジャー・ノリントン、ウラディーミル・ユロフスキ、ヤニック・ネゼ=セガン、トゥガン・ソヒエフ、ステファン・ドゥヌーヴ、マルク・ミンコフスキ、エマニュエル・クリヴィヌ、チョン・ミョンフン、ジャナンドレア・ノセダ、ダーヴィト・アフカム、パーヴォ・ヤルヴィ、クリスチャン・ヤルヴィ、ダニエル・ハーディング、ヴァレリー・ゲルギエフ、ミヒャエル・ザンデルリング、クシシュトフ・ウルバンスキ、デイヴィッド・ロバートソン、ヘスス・ロペス=コボス、ケネス・モンゴメリー、アレクサンドル・ドミトリエフ、ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン、ヒュー・ウルフ、クリスティアン・ツァハリアス、大野和士らの指揮のもと、フランス国立管弦楽団、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、パリ管弦楽団、フランス国立リヨン管弦楽団、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ロサンジェルス・フィルハーモニック、ピッツバーグ交響楽団、サンクトペテルブルク交響楽団、マリインスキー劇場管弦楽団、ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、モンペリエ管弦楽団、ローザンヌ室内管弦楽団、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、南西ドイツ放送交響楽団、hr交響楽団、スイス・イタリアーナ管弦楽団、シュトゥットガルト放送交響楽団、トーンキュンストラー管弦楽団、モントリオール交響楽団、アトランタ交響楽団、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団、スウェーデン放送交響楽団、ソウル市立交響楽団、マーラー・チェンバー・オーケストラ、ヨーロッパ室内管弦楽団などと共演。ロンドン、ミュンヘン、ジュネーヴ、アムステルダム、ブリュッセル、ルクセンブルク、ローマ、リスボン、ブレシア、東京、パリを始め、各地でリサイタルを行っており、ヴェルビエ音楽祭、マルタ・アルゲリッチ主宰のルガーノ音楽祭より定期的に招かれている。2009年7月には、ヤニック・ネゼ=セガン指揮スコットランド室内管弦楽団との共演で、BBCプロムスへのデビューを果たした。古典派・ロマン派作品を得意とし、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲やリストの《巡礼の年》全曲を世界中で演奏。さらに20・21世紀の音楽にも関心を寄せ、ラフマニノフ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、バルトーク、ラヴェル、メシアン、シュトックハウゼン、ピエール・ブーレーズ、エリック・タンギーらの作品を演奏。ブルーノ・マントヴァーニの《Suonare》、ピエール・アンリの《オーケストラのないピアノ協奏曲》、バティスト・トロティニョンのピアノ協奏曲《Different Spaces》(Naïveレーベルに録音)をそれぞれ初演している。室内楽にも精力的で、マルタ・アルゲリッチ、ギル・シャハム、ヨーヨー・マ、ジョシュア・ベル、マキシム・ヴェンゲーロフ、諏訪内晶子、ドミトリー・シトコヴェツキー、ルノー・カプソン、ゴーティエ・カプソン、ジャン・ワン、ダニエル・ミュラー=ショット、レオニダス・カヴァコス、ジェラール・コセ、ポール・メイエ、エベーヌ四重奏団、モディリアーニ四重奏団、イザイ四重奏団、プラジャーク四重奏団、パヴェル・ハース四重奏団がらと共演している。レコーディングでは、代表的なソロ・アルバムに、『ラフマニノフ:ピアノ作品集』(Harmonia Mundi)、『ラヴェル:ピアノ作品集』(Lyrinx)、『リスト:巡礼の年』(Mirare、「ル・モンド・ド・ラ・ミュジク」Choc賞、「クラシカ」推薦盤)、『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第12番、第21番「ワルトシュタイン」、第32番』がある。Eratoレーベルとはブラームスに重点を置き、ピアノ三重奏曲(共演:ルノー&ゴーティエ・カプソン、ドイツ・レコード批評家賞)、ヴァイオリン・ソナタ(共演:ルノー・カプソン、ディアパゾン・ドール、「ル・モンド・ド・ラ・ミュジク」Choc賞、「グラモフォン」エディターズ・チョイス、「スケルツォ」特選盤)、ピアノ独奏曲(「ル・モンド・ド・ラ・ミュジク」Choc賞、「BBC ミュージック」優良盤)を録音。さらに諏訪内晶子との共演で『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」、第7番 』(Decca)を、パーヴォ・ヤルヴィ指揮hr交響楽団との共演で『ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、第2番』(Erato)をリリースしている。このほか、フォーレの室内楽作品、J.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲》、『Dedication:献呈されたピアノ作品~リスト、シューマン&ショパン』などの録音も高い評価を得ている。最新盤は、『ベートーヴェン: 三重協奏曲、ピアノ三重奏曲第4番「街の歌」』(共演:パーヴォ・ヤルヴィ、フランクフルト放送交響楽団、ギル・シャハム、アンヌ・ガスティネル)、またロランス・エキルベイ指揮、インスラ・オーケストラとの最新レコーディング『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番・第5番「皇帝」』も2018年9月にリリース。
2019年10月10日15回の節目を迎える「フェスタサマーミューザKAWASAKI」。7月27日(土)から8月12日(月・祝)まで、ミューザ川崎シンフォニーホールを主会場に全20公演が行われる。キャッチフレーズは「15年目の熱狂へ!」。3月27日、ミューザ川崎内で発表記者会見が開かれた。【チケット情報はこちら】今年変化があったのは、首都圏のオーケストラが一堂に会するフェスティバルとして始まった「サマーミューザ」に、今年は首都圏外から初めて、仙台フィルハーモニーが出演すること。また、一昨年に続いて札幌からPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)オーケストラが特別参加するなど規模を拡大。「日本のオーケストラの祭典」へとグレードアップしつつある。各オーケストラの特色を最大限に発揮してもらおうと、音楽祭全体に特定のテーマを設けないのはいつもどおりだが、ちょっとした色分けはあって、お得なセット券はその色で括られている。平日夜セットの3公演は各オーケストラの定期会員も満足できる、正統派クラシック音楽プログラム。7月29日(月)アラン・ギルバート&都響によるレスピーギの《ローマの噴水》《ローマの松》などイタリア・プログラム。7月31日(水)ザ・クラシック・オブ・クラシック!井上道義と読響のブルックナー8番。8月6日(火)カリスマ人気チェロ奏者ジョヴァンニ・ソッリマがソロを弾くシティ・フィルのドヴォルザークのチェロ協奏曲。いっぽう平日昼セットの2公演は、気軽に楽しめるファミリーやシニア層を意図したプログラム。7月30日(火)スーパー・ギタリスト渡辺香津美が名曲《アランフェス協奏曲》を弾く神奈川フィル。8月7日(水)79歳の「炎のコバケン」小林研一郎が20歳の天才・藤田真央と築き上げる壮大なチャイコフスキー:ピアノ協奏曲。また、休日の公演にロシア音楽がさりげなく多めなのは、今年の隠し味だ。7月28日(日)上岡敏之&新日本フィルのラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(ピアノ小川典子)、プロコフィエフ《ロメオとジュリエット》。8月4日(日)満を持して乗り込む高関健&仙台フィルによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン郷古廉)と交響曲第4番。8月11日(日)ダン・エッティンガー&東京フィルのチャイコフスキー:交響曲第6番《悲愴》。8月12日(月・祝)フィナーレを飾る尾高忠明&東響のショスタコーヴィチ:交響曲第5番《革命》。コンサートによって、公開リハーサルやプレトーク、開演前のロビー・コンサートなどがあるので、ぜひ併せて楽しみたいもの。そして期間中は近隣の店舗と提携したさまざまな来場者サービスも用意されており、街をあげて来客をもてなす態勢も、いっそう充実してきた。暑い夏、オーケストラが熱い火花を散らすKAWASAKIへ!取材・文:宮本明
2019年04月12日御年83歳の老巨匠として、今も世界中のオーケストラと共に名演を聴かせている指揮者エリアフ・インバル。3月17日サントリーホールでの公演を皮切りに東京都交響楽団(以下・都響)との共演がはじまった。【チケット情報はこちら】都響との関係は深く、今から28年前にさかのぼる。1991年、都響と初めて共演したエリアフ・インバルは当時55歳。首席指揮者を務めていたフランクフルト放送交響楽団と共に録音したブルックナーやマーラーの交響曲全集で、日本のみならず世界各地で名を馳せていた頃だ。都響でもすぐさま絶賛を博したからであろう。その後も1999年までコンスタントに共演が続いていく。しばし間があいて、2006年に再共演。これは筆者にとっても鮮烈なインバル体験となったため忘れ難い。日本のオーケストラがこれほどまでに朗々と鳴り響き、しなやかに呼吸するのを初めて体験したからだ。その翌々年にはプリンシパル・コンダクターに就任。記念公演でのマーラーの《千人の交響曲》も、あまりに壮大な凄演だったことがいまだに印象深い。以後は途切れることなく都響を指揮し、毎年壮絶な演奏を繰り広げている。また、インバルの指揮というのは演奏者側にとっても特別な体験だということを記しておきたい。筆者はインバル指揮によるマーラーの《復活》に合唱団のメンバーとして共演したことがあるのだが、そのあまりに圧倒的な統率力には唖然とさせられるばかりであった。自らの求める音楽世界へと聴衆・演奏者を問わず、ホールのなかにいる誰も彼もを惹きつけてやまないのだ。1980年代に録音されたブルックナー、マーラーの交響曲全集で名を馳せたインバルだが、1990年代に入ると今度はウィーン交響楽団と組んでショスタコーヴィチの全集を完成させている。なかでも3月23日(土)・福岡、3月24日(日)・名古屋、3月26日(火)・東京文化会館で演奏される第5番については、既に3度も録音しているインバル自身にとっても思い入れのある作品。都響とも2011年の演奏会の模様がライヴ録音されており、こちらも名盤としてリスナーから高い評価を勝ち得ている。インバルも80代に入り、近年ますます円熟の境地に磨きがかかるだけに、ひとつひとつの公演がより貴重な機会としてますます聴き逃がせない。文:音楽ライター 小室敬幸
2019年03月18日開館30周年の記念公演が目白押しのサントリーホール。その掉尾を飾る大型企画「ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN」がいよいよ始まる。1967年、大指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンが自らの音楽的理想を実現すべく私財を投じて起ち上げた音楽祭だ。開幕前日の11月17日、音楽監督クリスティアン・ティーレマンらが出席して記者会見が行なわれた。「ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN」チケット情報音楽祭の中心を担うのはティーレマンと音楽祭のレジデント・オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデン。サントリーホールの名物企画だった「ホール・オペラ」が復活するワーグナー『ラインの黄金』では、普段の彼らと違って舞台の上でオペラを弾く。劇場ではオーケストラ・ピットで演奏するのが常の彼らにとっては特別な形の上演だ。ティーレマンは言う。「歌手の声と音量のバランスをとりながら、美しい響きを作るチャレンジを楽しみたい。録音に近い、クリアな響きになるのではないか。最良の形をお聴かせできると確信している。このオーケストラが伝統的な響きを維持しているのは現代では貴重。丸みのある、暗くて、同時に明るい音。攻撃的に前に出すぎることがない音は、オペラでは特に重要だ」オーケストラ・コンサート2公演では、ベートーヴェンのピアノ協奏曲のソリストに予定されていたイェフィム・ブロンフマンが病気降板のため、キット・アームストロングが代演する。ティーレマンが「第二のブレンデルと呼べる才能」と認める新鋭ピアニストだ。プログラム全体に特別な彩りを添えるのが、創始者カラヤンの長女で女優のイザベル・カラヤンが出演する一人芝居『ショスタコーヴィチを見舞う死の乙女』だ。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番を中心に、音楽と、彼の同時代人たちのテキストを組み合わせた舞台作品(字幕付き)。生前のカラヤンはイザベルに、「もし自分が作曲できるとしたら、ショスタコーヴィチのように作曲したいんだ」と話していたそう。彼女は「こうして『イースター音楽祭』と書いたIDカードを下げてここにいるだけでうれしい。日本が大好きだった父もきっと誇りに思ったはず。父がホールのどこかにいるのを感じながら舞台に上がります」と感慨深げだった。互いに「相性ぴったり」と認め合うオケと指揮者の類いまれな呼吸が、カラヤンと故郷ザルツブルク、カラヤンと日本、父と娘、30周年と50周年。さまざまな思いと交差する。取材・文:宮本 明
2016年11月18日ホール・オペラ《ラインの黄金》で開幕するサントリーホールのザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN(11月18日(金)から26日(土)まで)。オペラの後も、芸術監督クリスティアン・ティーレマンが、音楽祭の「現在」を切り取ったようなプログラムを次々に用意して待っている。ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN チケット情報まずは11月22日(火)と23日(水・祝)のオーケストラ公演。管弦楽はもちろん、音楽祭のレジデントであるシュターツカペレ・ドレスデン(SKD)。両日ともイェフィム・ブロンフマンがベートーヴェンのピアノ協奏曲を弾く(22日(火)=第2番、23日(水・祝)=第5番《皇帝》)。ブロンフマンは《皇帝》を2013年の同音楽祭で弾いているほか、昨シーズンからこのメンバーでベートーヴェンのピアノ協奏曲を携えてヨーロッパ各地で公演を繰り返している。共演を重ねて熟成された呼吸が期待できるという寸法だ。協奏曲以外のプログラムに目を向けると、22日(火)はチャイコフスキーの幻想序曲《ロメオとジュリエット》とリストの交響詩《前奏曲》。今年3月の同音楽祭のプログラムの再現。そして23日(水・祝)はR.シュトラウス《アルプス交響曲》。言うまでもなく、初演オーケストラでもあるSKDの十八番だ。昨年2月来日公演での《英雄の生涯》の凄演に続いて、ティーレマンとSKDがR.シュトラウスの新たな伝説を刻んでいってくれるに違いない。渋い輝きを放つ重厚なサウンドが今年も。26日(土)にはブロンフマンのリサイタルも。昨年日本での久しぶりのソロ・リサイタルはプロコフィエフ特集だったので、「やっぱり古典も聴きたい!」というファンは特に聴き逃せない。バルトーク《組曲》、シューマン《フモレスケ》、ドビュッシー《ベルガマスク組曲》、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番《熱情》という王道プログラムだ。19(土)の女優イザベル・カラヤンによる一人芝居『ショスタコーヴィチを見舞う死の乙女』(ドイツ語・日本語字幕)も目を引く。イザベルは当音楽祭の創始者である20世紀の巨匠カラヤンの長女。この音楽祭ならでは企画だ。ショスタコーヴィチの苦悩を描く音楽劇は、昨年の音楽祭で上演され、音楽と詩を結びつけた独自の舞台が絶賛されたというから楽しみ。演奏はピアノと、SKDメンバーによる弦楽四重奏。ザルツブルクでは来年春に50周年の節目を迎えるイースター音楽祭。そのエッセンスをぎゅっと詰め込んだ、興味をそそる9日間だ。取材・文:宮本明
2016年11月04日代名詞とも言える精緻きわまる丁寧な音楽づくりに、自由でエモーションナルな歌ごころも加わり、鬼に金棒の風格が漂ってきたエリアフ・インバル。3月は桂冠指揮者を務める東京都交響楽団のふたつの定期演奏会を振る。東京都交響楽団 チケット情報3月24日(木)はバーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》。徴兵されてイスラエルの軍のオーケストラでヴァイオリンを弾いていた 若きインバルを見い出し、アメリカ=イスラエル文化財団に推薦して 欧州留学のきっかけを作ったのがバーンスタインだった。「カディッシュ」は本来ユダヤ教の死者への祈り。エルサレム生まれのインバルにとっても身近な素材だ。ある時インバルは作曲者自身の《カディッシュ》のリハーサルに立ち会う機会があり、直接意見を交わすことができたという。「この作品には、彼の人間性、信仰、平和へのねがいが息づいています」(インバル)ヘブライ語による合唱とソプラノ独唱、そしてバーンスタイン自身が書き下ろした英語の語りを伴う大規模で劇的な作品だが、今回の語りの台本はオリジナルと異なる。ナチ収容所の生存者であるユダヤ系ポーランド人サミュエル・ピサールによるテキストで、バーンスタインの依頼により、しかし作曲家の死後、2003年に完成、初演された。「これは私のパーソナルなカディッシュである」と始まるこの新たな台本による上演を、バーンスタイン財団はピサール自身が朗読する場合のみ許可してきたという。しかし昨夏にピサールが逝去し、今回は急遽、彼の遺志を受け継いだ妻ジュディスと娘リアが朗読する、新たな形での上演となる。3月29日(火)は、ショスタコーヴィチの交響曲第15番。1990年代初めにウィーン交響楽団と録音した交響曲全集が現代のショスタコーヴィチ受容の金字塔であるように、インバルのショスタコーヴィチ解釈には定評がある。都響とも継続的に取り上げており、2012年にリリースされた交響曲第4番のライヴCDが同年のレコード・アカデミー賞を受賞するなど注目度も高い。第15番はショスタコーヴィチ最後の交響曲。《ウィリアム・テル》序曲などいくつかの他人の作品が引用されているが、その理由が明らかではない、いわば謎の交響曲だ。今年2月に満80歳になった。9月定期では都響デビュー25周年記念も兼ねた祝賀公演も予定されている。日本流に言えば傘寿を迎えた現代の巨匠に、さらに注目だ。取材・文:宮本明
2016年03月20日代名詞とも言える精緻きわまる丁寧な音楽づくりに、自由でエモーションナルな歌ごころも加わり、鬼に金棒の風格が漂ってきたエリアフ・インバル。3月は桂冠指揮者を務める東京都交響楽団のふたつの定期演奏会を振る。東京都交響楽団 チケット情報3月24日(木)はバーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》。徴兵されてイスラエルの軍のオーケストラでヴァイオリンを弾いていた 若きインバルを見い出し、アメリカ=イスラエル文化財団に推薦して 欧州留学のきっかけを作ったのがバーンスタインだった。「カディッシュ」は本来ユダヤ教の死者への祈り。エルサレム生まれのインバルにとっても身近な素材だ。ある時インバルは作曲者自身の《カディッシュ》のリハーサルに立ち会う機会があり、直接意見を交わすことができたという。「この作品には、彼の人間性、信仰、平和へのねがいが息づいています」(インバル)ヘブライ語による合唱とソプラノ独唱、そしてバーンスタイン自身が書き下ろした英語の語りを伴う大規模で劇的な作品だが、今回の語りの台本はオリジナルと異なる。ナチ収容所の生存者であるユダヤ系ポーランド人サミュエル・ピサールによるテキストで、バーンスタインの依頼により、しかし作曲家の死後、2003年に完成、初演された。「これは私のパーソナルなカディッシュである」と始まるこの新たな台本による上演を、バーンスタイン財団はピサール自身が朗読する場合のみ許可してきたという。しかし昨夏にピサールが逝去し、今回は急遽、彼の遺志を受け継いだ妻ジュディスと娘リアが朗読する、新たな形での上演となる。3月29日(火)は、ショスタコーヴィチの交響曲第15番。1990年代初めにウィーン交響楽団と録音した交響曲全集が現代のショスタコーヴィチ受容の金字塔であるように、インバルのショスタコーヴィチ解釈には定評がある。都響とも継続的に取り上げており、2012年にリリースされた交響曲第4番のライヴCDが同年のレコード・アカデミー賞を受賞するなど注目度も高い。第15番はショスタコーヴィチ最後の交響曲。《ウィリアム・テル》序曲などいくつかの他人の作品が引用されているが、その理由が明らかではない、いわば謎の交響曲だ。今年2月に満80歳になった。9月定期では都響デビュー25周年記念も兼ねた祝賀公演も予定されている。日本流に言えば傘寿を迎えた現代の巨匠に、さらに注目だ。取材・文:宮本明
2016年03月20日ロシア出身の指揮者、ユーリ・テミルカーノフが6月11日付けで、読売日本交響楽団の名誉指揮者に就任する事が決定した。【チケット情報はこちら】ユーリ・テミルカーノフは1938年生まれ。9歳から音楽を学び始め、1966年に全ソ指揮者コンクールで優勝した事がきっかけとなり、20世紀有数の指揮者と称されるムラヴィンスキーのアシスタントに就任。その後、様々な楽団や劇場で指揮者や音楽監督を歴任。現在はロシアの名門オーケストラ、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団の音楽監督と首席指揮者を務めている。読売日本交響楽団では、2000年5月の初客演以来、5度の客演を務めており、現在6度目の来演中。今回の就任決定についてテミルカーノフは「栄誉あるタイトルを頂き、大変名誉に思います。自分にとっても、大変うれしいことです。今後も、さらに良い関係を築けることを願ってやみません」とコメントを寄せている。テミルカーノフは、6月13日(土)に東京・東京芸術劇場で読売日本交響楽団による「第178回東京芸術劇場マチネーシリーズ」に出演。ショスタコーヴィチの交響曲第10番などを指揮する。チケットは発売中。
2015年06月11日東京国際フォーラムで照明、立体映像を駆使し、音楽とダンスパフォーマンスを織り交ぜた新しいスタイルのイベント「TOKYO stylish Night “REFLECTION 2014/2015”」を12月19日から28日の期間に開催される。東京国際フォーラムが初めて自主企画として行う同イベントでは、東京国際フォーラムの屋外地上広場一帯をステージに、イルミネーション、パフォーマンス、プロジェクションマッピングを用いた全4部構成のインスタレーションを行う。18日に行われたプレス内覧でイベントプロデューサーを務める東京国際フォーラムの企画事業部ジェネラルマネージャー・和田裕次氏は、「従来のイルミネーションとは違ったアートに近い体感が出来るエンターテインメントを目指した。観客にはドラマティックに変貌する会場に身を置くことで、外的刺激のみならず内面でも捉えてもらい、リフレクション(内省・黙想)して欲しい」と話す。19時より第1部「PART I Classic NIGHT―“夜の調べ”」がスタート。ドミトリー・ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番第2楽章の美しい旋律をBGMに、訪れた観客をも風景要素の一つとし、照明が呼応する風景のインスタレーションで幕を開ける。続いて、第2部「PART II Dancing NIGHT―“ダンシングナイト”」では、ダンスカンパニー「ダズル(DAZZLE)」主宰の長谷川達也が監修したダンスパフォーマンスが繰り広げられる。出演は、ダズルを始め、タップダンサーの當間里美、ストリートダンサーのTATSUO、ハウスダンサーのNAO CHA CHA CHA、また23日から28日の限定出演で、ダンス×男子新体操チームのBLUE TOKYOが登場。第3部の「PART III Lonely NIGHT―“夜との対話”」では、自分との対話という意味合いを込め、場内に流れるローラン・プティガン「アメール アメリカより PREMIER JOUR・RONDE LANTINALE・PARFUMS・CLOAQUE・HYMNE AMER AMERICAIN・E DURU DURUR」をじっくりと堪能することが出来る。第4部「PART IV Holy NIGHT―“聖夜の映像万華鏡”」は、プロジェクションマッピングと音楽のコラボレーション。広場の天井、柱、床にまでもダイナミックに投影されたモノクロ映像により、非現実的な空間が生み出される。光の雪や羽が舞い落ち、ラストはヨハネス・ブラームスの「ハンガリー舞曲第4番(ポール・ジュオン編)」で幕を閉じる。使用される音楽は、2005年より毎年東京国際フォーラムを会場に開催されている音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LFJ)」の公式アルバムより全25曲を選曲(23日以降はアントニオ・ヴィヴァルディの「四季」より「冬」の第3楽章、第1楽章が追加される)。プロジェクションマッピングを手掛けたのは、ベルリン国際映画祭など海外の映画祭で活躍する映像作家の奥秀太郎。長谷川達也率いるダズルは、ダンスエンターテインメントの日本一を決める「Legend Tokyo」で優勝経験を持ち、国内外で自主公演「花ト囮」を始め、様々な舞台でパフォーマンスを披露。演劇界から高い評価を得ている。【イベント情報】会場:東京国際フォーラム 地上広場住所:東京都千代田区丸の内3-5-1会期:12月19日から28日時間:19:00から22:00公演プログラム:19:00から20:15「PART I Classic NIGHT―“夜の調べ”」20:15から20:45「PART II Dancing NIGHT―“ダンシングナイト”」20:45から21:15「PART III Lonely NIGHT―“夜との対話”」21:15から22:00「PART IV Holy NIGHT―“聖夜の映像万華鏡”」入場無料
2014年12月19日奇跡の復活。昨年肩の不調から復帰を果たし、ますます冴え渡る王者のヴァイオリンで日本の聴衆を魅了したマキシム・ヴェンゲーロフが、今年再び来日公演を行なう。待ちに待った「世界一」黄金の弦を、また聴くことのできる喜びに胸をときめかせている音楽ファンは多いはずだ。6/10からスタートする『ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013』で、三回に渡るコンサートとリサイタルを予定している彼が、一足早く紀尾井ホールに登場した(6/6)。「ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013」の公演情報リサイタルとマスタークラスのプログラム『ヴェンゲーロフと過ごす一日』で、前半のリサイタルではヴァイオリニストの田中晶子と共演。ヴィエニャフスキ『2つのヴァイオリンのための奇想曲 イ短調 Op.18-4』、ショスタコーヴィチ『2つのヴァイオリンとチェロのための5つの小品』から3曲、サラサーテ『2つのヴァイオリンとピアノのためのスペイン舞曲 Op.33』を演奏した。息の合ったコンビネーションで、ヴェンゲーロフの溌剌としたボウイングに耳も目も奪われてしまう。ステージでの立ち姿も堂々として華があり、今再び絶好調の季節にある彼の現在が確認できた。とにかくすごいオーラなのだ。ヴィエニャフスキの奇想曲は無伴奏で、静謐で優美な「歌」が次々と溢れ出す名曲。ヴェンゲーロフと田中晶子のヴァイオリンが描き出す、張り詰めた美しさにしばし言葉を失った。ショスタコーヴィチの小品は、作曲家の作品の中でも明るく快活な映画音楽とバレエ音楽(「馬あぶ」「司祭と下男バルドの物語」「明るい小川」)をL・アトフミヤンが編曲したもので、このレパートリーはヴェンゲーロフも大変気に入っているのだろうか。とても楽しそうな表情でクロイツェル(彼が使用する1727年製のストラディバリウス)を操っていたのが印象的だった。超絶技巧のシークエンスが次から次へとやってくるラストのサラサーテ「スペイン舞曲」は奇跡か魔法のようだ。フラメンコを思い出す情熱的な曲で、体格の良いヴェンゲーロフが全身でリズムを感じながら、サラサーテの極彩色の魔術世界を脳裏に思い描いているのが伝わってきた。ピアノ伴奏との呼吸感も素晴らしい。ヴァイオリン学習者であろう若いオーディエンスは、驚きの目でステージの巨匠を見つめていた。このあとに行われたマスタークラス(日本では初の試み)では、その秘密の片鱗が伝授された。「“弾く”のではなく“歌う”」、彼は目を輝かせながら若者たちに伝えた。来週からの公演は、ベートーヴェン&ブラームスのプログラム、作曲の師でもあるピアニストのヴァグ・パピアンとのリサイタル、そしてまだ10代の新鋭、山根一仁をゲストに迎えての弾き振りと、ヴェンゲーロフの多面的な魅力を聴くことのできるプログラムになっている。無限に成長し続ける天才の果てしなき世界を耳に刻みつけたい。文:小田島久恵
2013年06月07日ロシアの名門オペラハウス、マリインスキー劇場が、11月14日に帝国ホテル(東京都)で記者会見を開催。芸術監督ワレリー・ゲルギエフの就任25周年を記念した2012/13シーズンのプロジェクトを発表した。「マリインスキー劇場の来日ツアー」の公演情報1988年、35歳でマリインスキー劇場の芸術監督に就任したゲルギエフ。当時不安定な情勢下にあったロシアにおいて、一貫性あるプロジェクトで劇場の国際的評価を高めてきた。「いまのオーケストラのメンバーは、私が育てきたたといっても過言ではないでしょう。彼らは、私が目指す“音”に最も近づくことができるのです」と成長を振り返る。若いアーティストの発掘にも尽力してきた彼は、歌手ではアンナ・ネトレプコ、オルガ・ボロディナ、ダンサーではウリヤーナ・ロパートキナ、ディアナ・ヴィシニョーワなどのスターを送り出してきた。ゲルギエフ就任25周年記念のプロジェクトの目玉は3つ。来年5月に落成予定の新劇場、ワーグナー『指環』シリーズの録音、バレエ『くるみ割人形』3D映画版の制作だ。新劇場のマリインスキーIIは、現存するオペラハウス、コンサートホールに加え、3つ目の拠点となるが、その建設は“未来への投資”だという。「劇場には教育的機能も大事。より多くの子どもや学生に我々の舞台に触れてもらいたい」とゲルギエフは抱負を述べる。2009年に立ち上げた自主レーベルで録音される『指環』シリーズ。ワーグナーの大作の録音は、多くの労力と資金を要すため、近年は実施自体も稀なだけに、ゲルギエフも意欲満点だ。「すでに『ラインの黄金』『ワルキューレ』は録音済み。ヨナス・カウフマン、ルネ・パーペらスター歌手が揃っています!またショスタコーヴィチの交響曲全曲録音も来年に完結予定。11月リリースの交響曲第7番「レニングラード」では、非常に生々しい演奏をお聴きいただけるでしょう」と自信をのぞかせる。バレエ『くるみ割人形』3D映画版の制作は、同劇場での初演120年を記念したもの。全米約500の映画館で公開予定。制作にあたっては『アバター』のジェームズ・キャメロン監督にも意見を聞いたという。日本での公開は未定だが、今後DVDがリリース予定。「これからは最新テクノロジーを駆使する劇場として、世界のリーダーを目指します」とゲルギエフの意気込みも高い。同劇場を率いて度々来日ツアーを実施してきたゲルギエフ。いまや世界で最も多忙なカリスマ指揮者だが、今年2月には「少しでも(震災後の)日本の力になりたい」と、チャリティ公演のために来日。「日本の皆さんへの愛情はいつも胸に抱いています。こんなに素晴らしい聴衆は世界を見回してもいないでしょう。これからもクラシック音楽を支え、そして子どもたちの音楽への愛情を育てていってください」と日本のファンに向けたメッセージで締めくくった。マリインスキー劇場の来日ツアーのオーケストラ公演は、11月18日(日)の所沢公演まで、バレエ公演は12月2日(日)まで東京、愛知、兵庫で開催。チケットは発売中。
2012年11月16日いま欧米で注目を集めているポーランドの若手指揮者クシシュトフ・ウルバンスキが、東京交響楽団の首席客演指揮者に就任することが決定。8月9日にポーランド大使館で記者会見が行われた。「東京交響楽団」の公演情報1982年ポーランド生まれのウルバンスキは、現在、アメリカ・インディアナポリス交響楽団音楽監督とノルウェー・トロンヘイム交響楽団首席指揮者を兼任。今後も、2013年春のチェコ・フィルとのヨーロッパ・ツアー、2014年5月のベルリン・フィルへのデビューほか、ウィーン響、ハンブルク北ドイツ放送響、フランス放送フィル、ナショナル響、ロサンゼルス・フィル、フィンランド放送響など、名門オケへのデビューや客演が予定されており、楽壇を席巻する活躍が期待される。東響とのこれまでの共演は、2009年11月東京オペラシティシリーズ(ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界」ほか)、2011年6月サントリー定期・川崎定期演奏会(ショスタコーヴィチ:交響曲第10番ほか)の2回のみ。スコアを全て暗譜してリハーサルを行うなど、非凡な才能を発揮。圧倒的なパワーで聴衆、楽団員を魅了し、早くも今回のポスト就任決定に至った。記者会見でウルバンスキは「(過去2回の共演を通じて)恵まれた出会いだと確信しました。今回のポスト就任は非常に名誉に思っています」と語る。また同団楽団長・大野順二も「初共演での『新世界』は非常に衝撃的。楽団員も『ぜひともまた共演したい』とすぐに心をつかまれました。彼は義理堅い男で、日本の他の楽団からオファーがあっても『東京交響楽団は日本でデビューした特別なオケだから、しばらくは他では振らない』と言ってくれており、非常にありがたい。長く良い関係を築いてきたいです」と思いを寄せる。来日の度にレベルアップした才能をみせてくれるというウルバンスキ。楽団からも「どこまで行くのか」と期待も高い。今後の東響とのタッグに注目が集まる。クシシュトフ・ウルバンスキの首席客演指揮者の任期は、2013年4月から3年間。次回公演については今後公式サイトなどで発表となる予定。
2012年08月14日