スポーツの現場から中々無くならない、暴力・暴言などの威圧的指導。サッカー少年少女の保護者の皆さんも関心が高い問題ですよね。日本サッカー協会(以下JFA)では、2013年に暴力根絶宣言を行い、相談窓口の設置をはじめ指導者養成講習会などでの啓発など、サッカーの現場から暴力を無くす活動を行っています。サッカーに関わるすべての人が安全にサッカーを楽しむことができる環境を作り出すため、そして差別・暴力問題を未然に防ぐための啓発活動や顕在化した問題への対応を行うために2015年からは「ウェルフェアオフィサー」の制度を開始しています。【関連記事】サッカー界から暴力、暴言、ハラスメント根絶のためにJFAが行うコーチへの指導■ウェルフェアオフィサーの役割サッカーを楽しむサッカーファミリーの安心、安全を守り、より快適なサッカー環境の構築リスペクト・フェアプレーの伝道者① リスペクトやフェアプレーを啓発、促進② 暴力、差別等の予防活動(問題の顕在化を未然に防ぐこと)③ 諸問題対応④ 司法機関や諸関連組織への橋渡し役■ウェルフェアオフィサーのカテゴリー① ウェルフェアオフィサー(ジェネラル)② マッチ・ウェルフェアオフィサー※主に競技会におけるリスペクトの周知・啓発、暴力・差別予防③ クラブ・ウェルフェアオフィサー※主に所属クラブでの啓発、クラブ内研修など開催■オンラインワークショップを開催10月17日には、オンラインでウェルフェアオフィサー(ジェネラル)のリフレッシュ(更新)研修会が開催され、集まった有資格者の皆さんは、JFA暴力等根絶相談窓口の現状報告や、セーフガーディングワークショップを通じて、改めて、指導現場の暴力・暴言・ハラスメントについて学びを深めました。JFAからの報告によると、近年直接的な暴力指導の報告は減っているものの、その分暴言や威圧的な指導の報告が増えており、報告の約8割が18歳以下のカテゴリーだとのこと。叩く、蹴るなど目に見える暴力には指導者も敏感になっているようですが、相手を傷つけるようなひどい言い方や、委縮させるような発言など精神を追い込む行為が増えている模様です。審判への威圧的な暴言や、失敗した選手への罵声等もまだまだ見受けられる一方で、そうした状況に即座にそして適切に対応するためには知識と経験が必要です。この辺りの課題は、今後も情報発信を続けることや講習会を増やすなどの対策で、自信をもって活動できるようにサポートしていくとのことです。■JFAとしての取り組みJFAリスペクト・フェアプレー委員会委員長の山岸佐知子さんは、今後のプロモーション強化として、JFAセーフガーディングポリシー(※)を浸透させ、ウェルフェアオフィサー活動を充実させること、U-12年代の全国大会でのグリーンカード活用推進や参加チームに「RESPECT」のキャプテンマークをつけていただくことなどを進めていく予定だと報告しました。また、同委員会委員の松崎康弘さんは、「セーフガーディングのポリシーは、子ども達を守り、エンパワーする(=本来持っている力を引き出し、自信を持たせる)ためのものである」と説明しました。そのうえで、プレーヤーの安心安全環境は、指導者だけに課された問題ではなく、子ども達を含む当事者たち皆の意識改革が必要だとし、JFAは暴力暴言・差別やハラスメントなどあらゆる問題を許さないと発表されました。※セーフガーディングとは、18歳以下の子どもたちや社会的弱者を、肉体的、精神的、心理的、性的虐待から守り、安心安全を高めることをまとめたプログラムで、各国が参考にしている。■広島県の好事例を共有都道府県FAの中で、良い取り組みをしているとして広島県FAの勝山正比呂さんから活動が参加者に共有されました。広島県FAではウェルフェアオフィサーの理念を浸透させるために「ウェルフェアオフィサー委員会」を組織し、ウェルフェアオフィサーをすべての種別及びカテゴリーに配置するよう計画的に人材養成を行っています。大会ではウェルフェアオフィサーシート(報告書)を共有し、本部テントには啓発用のイラストなどを描いたタペストリーを掛けるなどの活動を行って周知しているとのこと。また、現状2~4種年代のウェルフェアオフィサーはいますが、大学生、社会人、シニア、フットサルのカテゴリーにはいないので、この先の活動としてまずは社会人連盟と一緒に何かできないか模索したり、講習会の取り組みを強化することを検討していると勝山さんは教えてくれました。■小学生相手に人格否定をするような指導者も参加した都道府県FAの方にお話を伺ったところ、「子どもたちを守るためにウェルファオフィサーについて学ぼうと参加した」、「低学年では楽しむことを大事にしていた保護者も、高学年になると勝利を求め厳しくなる。サッカーはみんなが楽しめる生涯スポーツなので、ウェルフェアオフィサーの理念を理解してもらい、楽しめる環境にしていきたい」など、この日のウェルフェアオフィサー(ジェネラル)に参加した理由を教えてくれました。とある県では独自に通報ページを作成したところ、当該チームの保護者や対戦相手の関係者などから報告が届くことがある、という現状も明かしてくれました。直接的な暴力はないものの、子どもたちの人格を否定するような酷い発言も見られるそうです。最近では女子チームでのそういった指導も多く見られるとういことも語ってくれました。そのような実情を目の当たりにしていることもあり、「セーフガーディングの考え方はすべての指導者が知るべきだと感じます」と、今後は情報の共有や研修会の実施を増やすことに注力するとの展望を教えてくれました。■「暴力暴言指導はダメだよね」で思考停止してはいけないこの日ワークショップを担当したJFAリスペクト・フェアプレー委員でJFAインストラクターの眞藤邦彦さんは、「排除ではなく、自分に何ができるか、自分ごととして考えることが大事」と言います。ワークショップでは「わかる」を「かえる」に、をスローガンに掲げ、「暴力や暴言指導はよくないですよね」と理解する、わかるので終わりではなく、では「自分たちは何ができるか」と思考を変えることが安心安全な環境づくりの基本だとワークショップなどを通じて伝えているそうです。子どもたちには「考えてプレーをしなさい」と言っているのに大人は現状に甘んじて思考停止していませんか?指導者も含め、安心安全な環境でサッカーを楽しむためには、大人が思考停止せず考え続けることが大事なのだと眞藤さんはワークショップを通じて伝えていました。今後も研修会やワークショップを開催予定とのことですので、お住まいの都道府県のサッカー協会にお問い合わせください。
2021年11月11日日本サッカー協会(JFA)は、子どもたちが楽しく、安全に、安心してサッカーに打ち込めるようリスペクト・フェアプレー委員会を中心に様々な取り組みを行い、暴力や暴言、ハラスメントのない健全なサッカー環境の実現を目指しています。JFAでは毎年、Jリーグや各種連盟、地域・都道府県サッカー協会と協力し、スポーツの現場での差別や暴力に断固反対し、リスペクト(大切に思うこと)とフェアプレー精神を広く伝えることを目的とした活動を行っており、今年は9月10日(金)から19日(日)まで「JFA リスペクト フェアプレーデイズ2021」を設置しています。その一環で9月11日(土)、「JFA リスペクトシンポジウム2021~子どもたちの明るい未来のために」をオンラインにて開催しました。JFAの田嶋会長や現在JFAロールモデルコーチを務める中村憲剛さんが語った内容を紹介します。■田嶋会長「子どもたちが自由に笑顔でプレーができるようにしないとサッカーの未来はない」第一部の基調講演では田嶋幸三会長が、9/12(日)に開幕したWEリーグに触れ「女性の社会進出が日本はOECD(経済協力開発機構)の中で遅れている。サッカー界から変えていきたい」とコメント。そして「子どもたちが自由に笑顔でプレーができるようにしないとサッカーの未来はない。子どもたちの環境をプロテクトする。未来に責任を持つという事は、今いる子どもたちを大切にすることだ」と、子どもたちが安心してサッカーができる環境を守ると強く宣言。また、「サッカーは男性だけのものではない」とし、子どもや障がいのある方、LBGTQの世界にも門戸を開きたいという意向も明かし挨拶を締めくくりました。■FIFA「子どもを危害から守り、保護することは道徳であり法律」今回のシンポジウムでは、特に子どもを守ることに焦点が当てられており、FIFAのセーフガーディングマネージャー(※)、マリー=ロール ルミナーさんは、FIFAがどれほどに子どもがサッカーに親しむ環境を大事に考え、大人による暴言や暴力といったハラスメントを根絶させるために尽力しているかをスライドで説明。サッカーを愛し、プレーを続けるためには安全な環境を作ることが大事なことであり「子どもを危害から守り、保護することは道徳であり法律」であるとマリーさんは言います。また、ハラスメントの問題を根絶させるためには全員が当事者意識を持つことが重要であると強調しました。※セーフガーディングとは、18歳以下の子どもたちや社会的弱者を、肉体的、精神的、心理的、性的虐待から守り、安心安全を高めることをまとめたプログラムで、各国が参考にしている。■JFAはハラスメントに容赦なしの対処をするJFAでも、もちろん子どもを守る活動に力を入れており、担当者から暴力等根絶相談窓口の現状報告もありました。それによると、暴力暴言窓口への相談は2020年は109件でそのうちの47%が4種年代、内訳としては「暴言・威圧」が訳50%とのこと。近年は目に見える暴力は減少しているものの、その代わりに心にダメージを与えるような暴言や威圧の割合が増えています。これらのハラスメントに対して「ゼロ・トレランス」(容赦なし)で対処するというJFAセーフガーディングポリシーについて報告されました。今年5月にはトライアルとして「JFAセーフガーディング・ワークショップ」を開催。暴力、体罰はダメ!で思考停止するのではなく、子どもたちが笑顔でプレーするために自分たちに何ができるのか、を考える場を設けたそうです。この取り組みは始まったばかりですが、今後も継続して続けていきたいと発表がありました。■中村憲剛さん「自分が受けた指導を繰り返す指導者がいる」現在JFAのロールモデルコーチを務める中村憲剛さんが参加したパネルディスカッションでは、子どもたちを守るために大人はどうすればいいかが話し合われました。「暴力暴言指導は受けたことがない」という中村憲剛さんは、自信のサッカー人生を振り返り「指導者たちはサッカーが楽しめるようにしてくれた。子どものころから強制されることのない、主体的に取り組める環境で育ったから40歳までプレーできたと思う」とコメント。現在は指導に関わることも増えてきて、他の指導者を見て「自分が受けた指導を繰り返してしまう人もいる」という事を実感することもあるそう。子どもを守る、という当たり前ができていない人もいるという現状の課題はあるけれど、自分自身は子どもを守る大人になりたい、と意思を明かし「僕自身もこの活動をより多くの指導者、保護者に広めていけるように、みんなで一緒にやっていきたい」と意気込みを語ってくれました。FIFAのセーフガーディングマネージャーのマリーさんは、JFAの子どもを守る取り組みを、「十分にやっている」と高く評価。日本の取り組みもまだ完ぺきではないとしながらも、できることをやっていくことが大事として、「この取り組みを継続してください。FIFAはJFAをサポートします」と力強く宣言し、会を締めくくりました。
2021年09月13日