発達がゆっくりで温和な息子。本人希望で始めたサッカーだけど、周りは成長して口が悪くなり、最近は年下にも口汚く罵られる状況になっている。監督やコーチはそういったことに干渉しないし、多くの保護者にも冷ややかな目を向けられて、私が耐えられないから辞めさせるつもり。間違ってないよね?というお悩みをいただきました。同じような悩みを抱える保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、悩めるお母さんの心を軽くするアドバイスを送ります。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<強豪中学で寮生活の息子がサッカーやめたいと言い出したが、続けて欲しいです問題親が変われば子どもも変わる!?サッカー少年の親の心得LINEで配信中>><サッカーママからの相談>息子は小学4年生でサッカーは2年ちょっと続けています。活発で好奇心旺盛なところがあり、サッカーは本人が「やってみたい!」というので始めました。本人の希望で始めたはいいものの、始めて1年経つ今はサッカーに対する熱は下がっているようです。というのもサッカー自体は好きですが、彼は発達のゆるやかなところがあり、温和で幼いため、口が悪い子も多いチームと本当に相性が悪いのだろうなと。所在なさげな様子です。周りの子達は口が悪くなる場面で、彼だけは優しい話し方をするので周りからはバカにされたり、年下の子からも口汚くののしられます。からかいなんかもしょっちゅうで、完全に的にされている感じです。本人は「サッカーをやりに来ているから嫌だけど気にしない」と言っていて私はそんな息子を信じていますが、心配でたまりません。2年見守ってきましたが、今後も環境が変わるとは思えません。マイペースで流されない分、同年代の子どもたちからは浮いてます。そんな息子をみて一部のお母さんは「素敵よ」と褒めてくださいますが、チームの雰囲気としては変わった子として冷ややかに見られています。こんな環境にいて意味あるかなと思うし、息子はそれでも「自分のために続けたい」と言って、溶け込むためにコミュニケーションをとったりしますが、それも冷たくあしらわれ、空回り。最近は行くのもつらいように見えます。監督やコーチはサッカーを教えるスタンスなので、そういった相談はしていません。こういうことは間違っているといわれるかもしれませんが、息子には申し訳ないけど、私が耐えられないので辞めさせるつもりです。自分の心は決まっているつもりですが、何かアドバイスを頂けたらと思い投稿しました。<島沢さんからの回答>ご相談いただき、ありがとうございます。お母さんの心は決まっているとのこと。であれば、私からお母さんにこうしましょうといった方向性のアドバイスは不要だと思うので、違う話をしますね。お母さんからの質問メールは717字。この連載で私がいただくメールのなかではやや長いほうです。息子さんの様子や、チームメイト、指導者のことも具体的に表現されています。一所懸命書かれたのでしょう。また、息子さんが発達がゆるやかなお子さんであれば、周囲との摩擦やさまざま嫌な思いをしていますよね。息子さんを精一杯護ってこられたのだろうと思います。■以前は発達障害が周囲に理解を得られていなかったゆえの転校や不登校もあった私は今月、別のメディアで不登校をテーマにした連載を始めました。発達に特性があるお子さんも多数取材しました。発達障害そのものについては、まだその呼称があまり知られていなかった2000年代前半から取材をしてきました。社会の理解が及ばなかったため、多くの親御さんがわが子の特性を自分の育て方が悪いのだと自分自身を責めていました。周囲に理解を得られないため引っ越しまでして学校を変えたり、お子さんが不登校になった方もいらっしゃいました。私の長男も周囲の空気が読めない、他者の気持ちを推し量れない特性がありました。中高生になっても、現代国語のテストでどれが主人公の気持ちかを選ぶ問題などはすべて間違っていました。それでも、さまざまな経験をして、大学生になり成人した現在は楽しそうに仕事をして社会人として生きています。■自分の意見を持っている息子さんは今後たくましく成長するように感じられるご相談文から浮かび上がる息子さんは、お母さんがおっしゃるように発達がゆるやかなだけで気持ちがとても前向きで明るい性格のようです。そして「サッカーをやりに来ているから嫌だけど気にしない」と自分の意見をしっかり持っています。愛情深いお母様のもと、たくましく成長するのだろうと感じます。そのうえ、一部の保護者は息子さんのことを素敵だと褒めてくれる。悪いことばかりのチームではないようにお見受けします。このチームでサッカーを続けようが、やめて他のチームで続けようが、はたまたサッカーをやめたとしても、好奇心旺盛な息子さんはまた新たな何かを探してくるのではないでしょうか。その作業を、お母さんもぜひ応援してあげて欲しいです。■思考の癖を少し変えてみよう、今の考えは「ダブルバインド」になっているそこで、私がお母さんご自身についてアドバイスをするならば、思考癖少し変えられるといいかもしれません。相談文を読むと「Aだけど、Bです」というパターンが多いようです。例えば以下を読んでみてください。(A)本人は「サッカーをやりに来ているから嫌だけど気にしない」と言っていて私はそんな息子を信じていますが、(B)心配でたまりません。→信じているなら、心配する気持ちを自分で処理できるといいですね。親が心配でたまらないと感じている事実は「一番近くにいるお母さんにこんなに心配されているダメなぼく」と自信喪失することになりかねません。(A)2年見守ってきましたが、(B)今後も環境が変わるとは思えません。→2年も見守れたのなら、本人も頑張ると言ってるのだしそのまま見守れるといいですよね。(A)間違っているといわれるかもしれませんが、息子には申し訳ないけど、(B)私が耐えられないので辞めさせるつもりです。→息子さんの意見は尊重しなくて大丈夫?いかがでしょうか。子どもに対し二つの相反する価値観を提示する言動は、心理的二重拘束(ダブルバインド)と言われます。お母さんの場合、息子さんにご自分の気持ちを伝えているわけではありません。しかしながら、お母さんがあまりに揺れてしまうと、その不安が息子さんにも伝播するかもしれません。子育ては誰しもが悩み、揺れるものですが、どこかでご自分の気持ちをひとつに束ねることがとても大切です。お母さんが「大したことないよ。周りが何と言おうが、君は一生懸命やっていて素敵だよ」と認めてあげてください。ゆったりと大きく構えるお母さんに、息子さんは支えられるはずです。■お友達の言う千の「大きらい」より、お母さんの「大好き」があれば大丈夫(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)以前、小学校時代に壮絶ないじめを受けた女の子を取材したことがあります。その子は、休みながらでしたが、学校に通い続けました。高学年になってあまりにしんどくなってお休みしましたが、おうちで楽しく過ごし、中学受験に合格し、すこやかに成長しました。その子が高学年で少しお休みしたとき「いじめられたのに、なぜ今まで通い続けられたの?」と尋ねたら、その子はにこにこしながら言いました。「あのね。お友達が言う千の『大きらい』より、お母さんの『大好き』があれば大丈夫なの」大丈夫です。お母さんの大好きが、息子さんを支えます。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2024年09月25日知人の育児の話を聞くと、親が子どもに対して『ダブルバインド 』を使って叱っていることがわかりました。ダブルバインドとは、アメリカの人類学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した心理学用語で、二重拘束と翻訳された造語です。ダブルバインドを使った叱り方は、子どもの心を傷つけてしまいます。こんにちは。メンタルケア心理士の桜井涼です。体験談を参考にしながら、言葉の選び方について考えていきましょう。おもちゃの出しっ放しをダブルバインドで叱ったらお話を伺ったNさん(30代で子ども3人のパートママ)家族のお話。ある日、テレビをつけっ放しにしながらおもちゃを散乱させている3人の子どもたちを見て、N さんは注意しました。「もうお父さんが帰って来る時間だから片付けてちょうだい」最初はやさしく頼むように伝えました。子どもたちの様子を見てみると、返事はしたものの片付ける気配はありません。「ちょっと、片付けをしてって言ってるでしょ。」次は、強めな口調で頼みます。しかし子どもたちは片付けません。「いいかげんにしなさい!片付けてって言ってるのがわからないの?全部捨ててしまうわよ!」最後は声を荒げてしまいましたが、子どもたちもこの言葉を聞いて片付けを始めました。ダブルバインドで子どもは心に矛盾を感じている『ダブルバインド』とは、言葉と言葉、言葉と非言語(しぐさや表情など)といった2つのメッセージ内容が一致しないために起こる精神的ストレスを言います。先ほどのような「片付けをして」と「全部捨てる」という矛盾する2つのメッセージを受け取ると、受けた相手側の精神にストレスを感じてしまうのです。とくに子どもは、違和感を覚えても不満を抱えながらでも親の指示に従いがちですよね。反論したくても、ダブルバインドによって思考を停止してしまうのです。矛盾や違和感を覚えさせないための言葉の選び方子どもは、矛盾した内容の言葉をたくさん聞いて、違和感をたくさん覚えてしまうと、心に歪みのようなものを持ってしまうことがあります。このような思いをさせないためには、ダブルバインドを使わないことが一番 です。そのためには、叱る時の言葉の選び方に気をつけることが必要です。例1:夕方になってもなかなか帰ろうとしない○:暗くなったから帰ろう。一緒にお家に入って美味しいご飯食べよう。×:暗くなったから帰ろう。今帰らないならずっと外にいなさい!例2:休みで家にいる子に勉強をさせたい○:遊んでないで宿題したら。やることやってしまおうよ。×:遊んでないで宿題したら。それじゃなかったら家の手伝いしてよ。ポイントは「共通性のある言葉を選ぶ 」ことです。親子関係でのダブルバインドは、子どもの成長と共に矛盾を感じ取ることで親子関係が悪化してしまう可能性があります。そのようなことにならないために、叱る際には共通する言葉の選び方に注意していきましょう。おわりに矛盾した内容の叱り方は、知らず知らずのうちに口にしてしまいがちです。しかし、ダブルバインドは、子どもの心に歪みを感じさせたり、違和感を覚えてしまったりして、余計なストレスを抱えさせてしまいます。子どもを操るつもりはなくとも、操ることになりますので、注意していきましょう。●ライター/桜井涼
2018年06月12日