長澤麗奈容疑者(SNSより)「灼熱の車中に閉じ込められて、どんなに暑かっただろう、苦しかっただろうと思って……」そう話すのは、神奈川県厚木市の郊外にある『ぼうさいの丘公園』の西側第2駐車場に献花にきていた女性。彼女の他にも、子ども2人の死を悼んで、多くの人がここを訪れていて、今では百を超える飲み物が供えられている。7月29日午後4時50分ごろ、この駐車場から1本の119番通報があった。長女(2)と長男の煌翔ちゃん(1)の意識がないという、母親からの電話だった。「公園に遊びに来たが、2人は後部座席で寝ていたため、スマホを操作していた。エンジンを切って30分ほど車の窓を開けていたが、気づいたら子どもの体調が悪化。1人は口から泡を吹き、1人は反応がなかった」当時、この地域の気温は33度だったという。2人はすぐさま病院へ搬送されたが、長男はおよそ1時間半後に死亡。長女も8月2日になって死亡した。2人とも熱中症による死亡と見られている。だが長女が亡くなった2日、神奈川県警は母親で無職の長澤麗奈容疑者(21)を、長男・煌翔ちゃんに対する保護責任者遺棄の疑いで逮捕した。長男を保護する責任のある立場にもかかわらず、車両内に放置したというもの。「容疑者の供述はウソだったのです。実は容疑者はこの公園ではなく、別の駐車場で2人を後部座席に置いたまま停めて、交際中の男性宅に1時間ほど行っていたのです」(全国紙社会部記者)杜撰な偽装工作の中身車に戻った容疑者は子どもの異変をすぐに察知。すると、車をそのまま移動させ、前出の公園西側第2駐車場へ。そこからわざわざ119番したのである。なぜこんな“偽装工作”を行ったのか。冒頭の献花にきた女性は、こう話す。「第2駐車場は西日が当たって車内が暑くなるから、第1から先に埋まっていきます。でも事件の日は平日なので第1もガラガラのはずだけど……」容疑者がわざわざ第2駐車場を選んだのは、子どもが熱中症になったという理由付けに都合がよかったからなのか。その後、警察の取り調べで、容疑者は、「子どもたちだけを車内に置いて、知人の家に行っていた」と供述を一転させている。長澤容疑者はおよそ5年前、事件現場となった公園からおよそ1キロメートルのところにあるアパートへ母親とともに引っ越してきた。アパートの住人は、「母親と娘さん(容疑者)の2人暮らしで、シングルマザーでした。それでいつの間にか娘さんが家を出ていて、でもまた戻ってきていた。その時は2人の子連れでね。一度、結婚して、外に住んでいたけど、うまくいかなくなって自宅へ戻ってきたみたいです」容疑者は、その結婚相手と現在も離婚協議中のようである。アパートの住民は続ける。「ステップワゴン車に子どもと乗るときには、仲のいい親子に見えましたけどね。こんなひどいことする感じは全くなくて、やさしい母親に見えた」だが、事件の兆しがあったという話も。「今年7月上旬、容疑者はネグレクト(育児放棄)を起こしています。容疑者が県内にある店舗駐車場で、やはり車内に煌翔ちゃんを置き去りにしていた。警察は児童相談所に連絡しましたが、容疑者が“二度としません”という上申書を児童相談所に提出しています」(前出・社会部記者)偽装工作までして一度は自らの罪から逃れようとした容疑者。まずは失ってしまったわが子2人を弔うことから始めなければならないだろう。
2022年08月13日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手がけるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)の2022年秋冬コレクションが、2022年3月15日(火)に発表された。“ふかふか”布団が敷き詰められたランウェイ今シーズンのコレクションを紐解く鍵は、ブランド名の頭文字を取った「NAP」というワード。ネグレクトアダルトペイシェンツの略称になぞらえて「TAKE the NAP」というシーズンテーマを掲げた。“「NAP」を着る”、あるいは“うたた寝をする”というダブル・ミーニングを持たせているようにも感じられる。このコンセプトが示す通り、ランウェイ一面に敷き詰められていたのはふかふかの布団。フロントロウはなんと“ベッド”で、招かれたゲストはこのベッドに寝転びながらステージを眺めるという遊び心あふれる演出を施した。パンク&ストリートウェアを“パジャマ”風にドリーミーな音楽と共に、布団を素足で踏みしめるモデルたちが披露するのは、ルームウェア風のルック。アイテム1つ取ってみればパンクやストリートの要素が強いのだが、スタイリングの妙で、あらゆるアイテムが“部屋着”のように見えてくるから面白い。ボンテージジャケット&パンツやケミカルウォッシュのデニムは、上下を揃えたセットアップで、パジャマ風に。時折り差し込まれるコミカルなキャラTシャツが、プライベート空間で纏う部屋着の趣を加速させる。ヒョウ柄のジップアップパーカーには、サイドラインの入ったジャージボトムを組み合わせ、気怠いムードで。オーバーサイズのフーディーはバサッと被り、ワンピース風に着こなしている。おなじみ“カップ焼きそば”は二人羽織で毎回“麺”類が登場することでおなじみのネグレクトアダルトペイシェンツのファッションショーだが、今回もカップ焼きそばが登場。ブランドロゴを配したリラクシングなスウェットワンピースを纏い、二人羽織で麺を頬張るのは、ASPの双子メンバー、マチルダー・ツインズとウォンカー・ツインズだ。彼女たちは、自分の部屋から寝起きのままランウェイにふらっとやってきてしまったかのようなフリーダムな雰囲気を放っていた。なお、モデルにはその他にも、アユニ・D、リンリン、ナ前ナ以など、渡辺淳之介が代表を務めるWACKのメンバーらが起用されている。
2022年03月18日多くの鳥かごが並ぶNPO法人小鳥レスキュー会の保護施設「ピッピッピ」「チュンチュン」「チッチッチー」――。小鳥の声がオーケストラのように響き渡る、マンションの一室。ここは、埼玉県戸田市にあるNPO法人小鳥レスキュー会の保護施設だ。500羽を超えるセキセイインコをはじめ、文鳥やアヒルなどの計約700羽が、代表理事の上中牧子さんやボランティアの手によって第二の人生を歩み始めている。コロナ禍で増え続ける「捨て鳥」「ケガをして救助した野鳥やブリーダー崩壊で保護した鳥もいますが、多くは飼い主に捨てられた鳥たちです」と上中さんは言う。新型コロナによる自粛生活で家にいる時間が長くなって小鳥を迎えたものの、すぐに手放す飼い主も少なくない。「コロナ禍に入って保護する鳥の数は増えています。飼育放棄の理由は、仕事を失って生活に余裕がなくなったから、離婚して引っ越した先がペットの飼育禁止だから、飼ってはみたけどイメージと違ったからなど。イメージと違うというのは、手に乗るはずなのに乗らない、インコなのにしゃべらないといったことです。猫を飼ったから小鳥はいらなくなったという人もいました」(上中さん、以下同)新型コロナだけでなく、上中さんが動物の保護活動を始めた20年前からは想像もつかない理由で鳥を手放す飼い主が、最近は増えているという。「SNSがきっかけで飼った人ですね。たとえば、鳥に産ませた卵が孵(かえ)るまでのドキュメンタリー映像を見た子どもが、夏休みの自由研究に同じことをしたいと家族にせがみ、鶏を飼ったケースがあります。ヒナが無事に誕生して課題としての役目を終えると、“大きくなりすぎて飼いにくい”、“大声で叫ぶオスだったので近所迷惑になりそう”と、あっさり飼育を放棄するのです。美声で歌うオカメインコのSNS投稿動画に惹かれてオカメインコを飼ったものの、“歌わないからSNSで使えない”と文句を言う人もいました」鳥を“映え目的”の道具として手に入れ、使い捨てる飼い主が急増しているのだ。数千円で買えるという手軽さがアダに小鳥が多く捨てられる理由として、犬や猫に比べて販売価格が安い点も挙げられると上中さんは指摘する。「ペットショップでは子どものお小遣いでも購入できる、数千円という金額で文鳥やセキセイインコが売られています。気軽に買えますが、病気になったときの医療費は決して安くありません。実際に“治療に8万円かかると動物病院で言われたから、健康な小鳥を購入しなおす”と言って、当施設に病気の小鳥を連れてきた飼い主もいました」ペットショップで売れ残っていたコザクラインコを迎えた鳥好きのカメラマン・蜂巣文香さんは言う。「コザクラインコのさくらこが5歳になったころ、初めて無精卵を産んだんですが、私は海外出張中で、夫から国際電話が突然かかってきました。『朝、さくらこがぐったりしていたから動物病院にきたら、卵管に卵が詰まっていて緊急手術が必要になるかもしれない。同意するよね?』と。処置が10分遅かったら命の危機があったそうです。もちろん同意しました」結局、手術をせずに済んだそうだが、一般的にインコ類の卵詰まりの処置料や手術入院料は数万~10万円近くかかる。蜂巣さんは万が一の出費も考慮のうえコザクラインコを飼っていたが、その覚悟なく飼い始めてしまう人が多いのだ。上中さんは、鳥は産卵について注意すべき点があるという。「鳥はメス1羽だけで飼っていても、栄養状態が良好だったり、飼い主やおもちゃをパートナーと勘違いしたりすると、発情して無精卵を産むことがあります。卵を産み続けるとメスの体に大きな負担がかかるので要注意です」ヒナを育てるのも簡単ではない。「自由研究の題材だけでなく、SNSのネタづくりなど、軽い気持ちでセキセイインコや文鳥に有精卵を産ませる人も少なくありません。愛鳥の子孫が欲しいという人もいるでしょう。けれども、ヒナを育てるのは大変です。母鳥の世話が行き届かない場合、1時間置きに人工授乳をしないと死んでしまいます。成鳥にも増して、温度管理も重要になります」また、親鳥同士が近縁の場合に起こりやすいが、目が見えない、足がないといった奇形で生まれる小鳥もめずらしくない。小鳥レスキュー会にも、奇形が理由で一般家庭からヒナが持ち込まれるケースが後を絶たないという。メスを飼うならば無精卵も含めて産卵の知識、つがいで飼うならば繁殖に関する知識は飼い主の責任として必須だ。ペットを販売する側も、その生き物の生態や飼養に関する正しい知識をしっかり伝え、飼う側も事前によく調べてから購入するようにしなければ、飼育放棄はいつまでも減らないだろう。小鳥レスキュー会の保護施設の一角には小さな骨壺が並んでいる。「この施設で病気や寿命で旅立った鳥たちはすべて火葬しています。その遺骨が骨壺ひとつに20羽分ずつ入っています。そのうち160羽分は、10年ほど前、脳梗塞で倒れたブリーダー宅に駆け付けたときに息絶えていた文鳥のものです。文鳥は2日間エサを食べられないと衰弱死してしまうのです。でも、運よくまだ生きていた190羽はこの保護施設に連れ帰りました。その鳥たちはブリーダーによって大きなケージで飼われていて、狭いケージに入ったことがないので、ストレスを与えないよう、ここでは室内で放し飼いにしているんですよ。なので、取材にきた人には落ちてくる糞に気をつけてと言っています(笑)」700匹の世話代は月150万円「保護鳥を家族に迎えたいと望む方も最近、増えています。譲渡までのプロセスとして、会員を1年間ご継続いただいたのち、複数回の面談を行っています。正式譲渡までいく里親さんは応募の半数にも満たないのですが、高いハードルを課したことで、新しい家庭で小鳥たちは幸せな日々を過ごしていると思います」保護施設で小鳥の世話をしたいと希望するボランティアも、増加傾向だ。「700羽の世話をするのに、1日18時間、1か月で150万円がかかります。ボランティアの方々、そして会費や寄付を納めてくださる方々のおかげで、小鳥たちはこうして元気に毎日さえずっていられるのです」小鳥とはいえ、近年は15年近く生きるセキセイインコもめずらしくなく、オカメインコの寿命は犬や猫よりも長く、20~30年だ。コロナ禍でのライフスタイルの変化やSNSの影響など、人間の都合だけで安易に飼い始めず、鳥たちの理想的な家族に自分がなれるか、よく考えたい。NPO法人小鳥レスキュー会公式HPアカウント:小鳥レスキュー隊の隊長(ライター臼井京音)
2022年03月10日日渡容疑者の肩から腕、背中、大腿部には和彫りの刺青が彫られている「何のことかわからない」傷害致死の容疑で送検されたのは、鹿児島県出水市の建設業・日渡駿容疑者(24)。容疑者がシラを切るような発言をしているのは、2年半前に起きた大塚璃愛來ちゃん(りあらちゃん・当時4歳)の死亡事件についてだ。“外から力が加わった”と断定2019年8月28日の夜、日渡容疑者は交際相手の長女である璃愛來ちゃんの頭に暴行を加え、くも膜下出血を負わせ浴室で水死させた疑いで逮捕されたが、処分保留で釈放されていた。しかし警察は捜査を続け、璃愛來ちゃんのくも膜下出血は“外から力が加わった”ものだと解剖医5人以上の鑑定結果をもとに断定。2月22日、今年1月に20代の男女に対する監禁、恐喝容疑で逮捕・起訴されていた日渡容疑者の逮捕に踏み切った。2年半以上に渡る警察のまさに執念といえる捜査。容疑者は事件当日の暴行について冒頭のように話しているというが、『週刊女性』は事件発覚直後、周辺取材をしていた。璃愛來ちゃんの母親との交際、璃愛來ちゃんの亡くなるまでの生活ぶりを当時の取材ノートをもとに振り返る。◆◆◆「最初は今年(2019年)の2月でした。スポーツクラブの駐車場で、“ママ、ママ”と泣いている声がしたので、スタッフが行ってみると女の子がいました。上半身は薄手のシャツと肌着だけ。下半身にはオムツ。すっかり身体も冷えていました。迷子かな、とも思いましたが親は一体、何をしているんだって、みんな憤っていましたよ」(同クラブのスタッフ)鹿児島県薩摩川内市のスポーツクラブでその日、保護された女の子の名は、璃愛來(りあら)ちゃんといった。前出・スタッフは、「名前が印象的だったので覚えていました。ニュースで璃愛来ちゃんと聞いたときは、もしかしたらと震えました」と表情を曇らせる。8月28日、鹿児島県出水市のアパートで大塚璃愛來ちゃんが暴行を受け死亡した事件。暴行容疑で逮捕されたのは、母親の交際相手の建設作業員、日渡駿容疑者だった。死因は溺死で、身体には殴られたとみられる痕が数か所あったという。取り調べに対し、「風呂に入れていて目を離したすきに溺れた。殴ったのはしつけだった」と供述しているが、古くからの友人は、「意外ときっちりしているし、しつけには厳しいんじゃないかな」と供述を裏づける。その一方で、こうも証言する。「あいつはやっていないってみんな話してます。だって駿は璃愛來ちゃんのことを可愛がっていました。刺青もあって見た目は怖いけど、子どもや動物には手を出さない。フレンドリーだし男くさくて、情に厚いタイプ。先輩の子どもとおもちゃで遊んだり、ゲームセンターに行ったこともありました」しかし、別の知人は明かす。「あいつは特にお金にうるさい。闇金まがいのこともしていたようだ。後輩に“明日〇〇円持ってこい”と脅したり、駿のおごりだと思ったら後から“返せ”とお金をせびられたやつもいた。自分の思いどおりにならなくて後輩に手を上げるなど強引な面もあり、そういうところが嫌で駿から離れたやつも少なくない」璃愛來ちゃんを可愛がる反面、気に入らないことがあると手を上げていたのだろうか。警察は4回も璃愛來ちゃんを保護日渡容疑者と母親は、2019年春ごろに交際をスタート。17歳で璃愛來ちゃんを出産した母親は当時21歳。遊びたい年ごろで付き合い始めたばかりの恋人とは蜜月期。関心は娘よりも恋人である日渡容疑者に向いていたのだろうか。璃愛來ちゃんが保護されたり、虐待を疑う通報があったのもこのころからだった。冒頭のスタッフは、違和感を覚えることがあった、と振り返る。「今年2月にもう1回、雨の日に裸足で、璃愛來ちゃんが駐車場で“ママ”と泣いていたんです」肌着の上に薄いワンピース、パンツははいていなかった。璃愛來ちゃんは3月にも同じ駐車場で保護されている。特別、やせている感じはなかったというが、クラブの関係者たちはネグレクト(育児放棄)を疑っていた。「3回とも迎えに来た母親に心配する様子はまったくなく、“ありがとう”も“すみません”もありませんでした」(前出・クラブのスタッフ)本当に子どもを可愛がっているのか、心配しているのか疑いをもたれても致し方ない母親の態度。同クラブの看護師は3度目に璃愛來ちゃんを保護した際、身体のチェックをしたという。「アザなどはなく、健康な状態だったのでホッとしました。1時間ほどしてお母さんが迎えに来ました。ドアのところから“璃愛來!”と声をかけると、璃愛來ちゃんはニコっと笑ってから椅子から立ち上がってお母さんに駆け寄ってハグをしたんです」でも、と看護師はその際の母親の表情を忘れていない。「お母さんの表情は無表情でした。茶髪で今どきの若い子って感じで、“ひとりにするのは危ない、1度目じゃないよね”と言うと、“ハイ”とうなだれて、“すみませんでした”と小声で言いました」母親の、ネグレクトを思わせる無責任な子育てを、周囲は見逃さなかった。前出のスポーツクラブだけでなく同年3月末に夜、ひとりで出歩く璃愛來ちゃんを近所の人が発見、薩摩川内署が保護した。同署は4月までの間に4度保護。県はネグレクトの虐待認定をしていた。通報を恐れたのか、同時期に早朝、同クラブの駐車場に車を止め、運転席に母親、後部座席で璃愛來ちゃんが眠るのを前出・クラブの看護師は目撃していた。さらに母親の外見の変化も記憶していた。「髪が金髪になって以前よりも派手な雰囲気になっていました。5月にはお母さんが大きなビニール袋に洋服を詰めて車と自宅を往復しているのを見ましたよ。娘さんは後ろをついてちょこちょこ歩いてました。お引っ越しかな、と思いました」(前出・看護師)母親は6月12日から18日にかけて、「引っ越しの準備のため」と同市のショートステイに璃愛來ちゃんを預けている。本当に引っ越しの準備をしていたのかは定かではない。7月前後には事件現場になった出水市の2DKのアパートで、3人で暮らして始めた。容疑者が仲間と頻繁に来ていたというバーのスタッフは、「璃愛來ちゃんの母親と交際するようになってあいつは変わった」と話す。というのも、「今年になってから、月に1回来るかどうか。来ても友達を送って来るだけだったり、飲んでいても早く帰っていました。理由を聞くと“夜、女が仕事行っているから子どもの面倒を俺が見てるんだ”って言っていましたし、彼女と子どもと3人で買い物に行ったという話はよく聞きました。意外と子煩悩であいつは璃愛來ちゃんの父親になろうと必死だったんだと思います」母親は日渡容疑者の子どもを妊娠中で、出産予定は12月。結婚も考えていたという。怒鳴り散らす母親の声璃愛來ちゃんの新しいパパとなるはずだった日渡容疑者との同棲生活は逆に虐待をエスカレートさせていったのか。璃愛來ちゃんの誕生日の7月22日、「テーブルで頭をぶつけて嘔吐した」と病院を受診。おかしいと思った病院は、8月1日に市に情報提供した。前出・日渡容疑者の知人も、母親に対し、こんな疑念を抱く。「8月ごろ母親がSNSに、璃愛來ちゃんのことをつねっている動画を投稿していました。けっこう強めにやっているなと伝わるものでした」虐待になるかもしれず、それをSNSにアップする心境も妙だ。同5日には「顔などに青アザがある」という情報が、別の病院からもたらされた。事件現場のアパート近くでは、「うるさい」や「だまれ」と怒鳴り散らす母親の声を、近所の住民が耳にしている。社会部記者は、「以前住んでいた鹿児島市や薩摩川内市の自宅、現在の出水市の自宅近くでも、女性の怒鳴り声を聞いたという話がある。直接手は出していないかもしれないが、母親にも問題があったのではないかと思えますね」母親も虐待に加担していたのでは、と記者たちは母親の逮捕も推測していた。先月まで母親が勤めていた同市内の飲食店の関係者は、「夜9時から3、4時間程度。多くても週に4回。娘は自分の母が見てくれていると話していた。でも妊娠もわかっており、8月には辞めました。この月はほとんどシフトには入っていなかった」事件が起きたとき、母親は「仕事」といって自宅にいなかった。母親は娘の面倒を容疑者に丸投げし、そのストレスは母親ではなく璃愛來ちゃんに向けられたのだろうか。本来、保護してくれる人に保護されない璃愛來ちゃんの命の針は、確実にレッドゾーンに触れつつあったのだ。虐待されている子どもに会えないケースが多い虐待事件。しかし、まったく面会できないというわけではなく、多少は母子の様子を把握することができた。日渡容疑者が暴行をふるう前日も、保健師と面談している。そのことが関係各所が危機意識を共有できなかったことにもつながっている。児相の所長が地元紙の取材に対し「親和性のある世帯で愛着関係を確認した」と答えているほどだ。児相に県警が伝えた「一時保護」の必要性も重視されなかった。病院から市にもたらされた「アザがある」という情報も児相や警察と共有されなかった。関係各所の温度差は最後まで埋まることなく、結果悲劇を招いてしまった。日渡容疑者の祖母は、璃愛來ちゃんと会ったことは「ありません!」と、ぴしゃり。祖父は「話すことはない」と口を閉じた。璃愛來ちゃんの葬儀では、憔悴する母親より誰よりも大声で泣いていたという日渡容疑者。新たな命が宿る母親の車のナンバープレートは璃愛來ちゃんの誕生日だった。
2022年02月25日眞須美死刑囚の長女と孫が心中した関空の連絡橋「帰ってきたら娘の意識がない。血みたいな黒いものを吐いている」昨年6月9日の午後2時過ぎ、女性から119番通報が入った。和歌山県和歌山市のアパートで倒れていたのは、鶴崎心桜(こころ)さん(享年16)。病院に搬送されたが、全身打撲による外傷性ショックで死亡。明らかな虐待死で、通報は心桜さんの母親によるものだった。救急車に同乗した継父は病院へ付き添ったものの、その後は行方不明。和歌山港近くで発見されたが、意識は朦朧とした状態だったという。継父は警察の取り調べに、「カフェインを飲んで死のうとしたが、死にきれなかった。大変なことをしてしまった」などと、心桜さんの死との関わりを認めるような供述をしていた。眞須美死刑囚の長女が飛び降り心中一方、心桜さんの母親は到着した救急車には同乗せず、4歳になる次女とともに姿を消していた。のちに二人は車で大阪府泉佐野市の関西国際空港連絡橋(関空連絡橋)へと向かっていたことが判明する。そこで飛び降り心中を図ったとみられ、夕方にはともに遺体となって関西空港近くの海に浮かんでいた。母親は全身打撲による多発外傷、次女は水死だった。この亡くなった母親、実は’98年に起きた『和歌山毒物カレー事件』で逮捕された林眞須美死刑囚(60)の長女A(享年37)だった。つまり、虐待死した心桜さんは眞須美死刑囚の初孫であり、その名は眞須美死刑囚が刑務所で命名したものだった。鶴崎心桜さんは虐待の果てに…事件発生から半年以上たった16日、和歌山県警は同県有田市の派遣社員で心桜さんの継父だった木下匠容疑者(40)を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕した。さらに、Aも容疑者死亡のまま、同じ疑いで書類送検。地元紙社会部記者はこう説明する。「心桜さんはAと前夫の間の子どもで、離婚後は前夫と暮らしていました。ですが、Aが木下容疑者と再婚すると、’18年10月からは彼らが心桜さんを引き取りました」すると、少なくても昨年5月末あたりから、木下容疑者とAが共謀して心桜さんに身体的な虐待を加えるようになったという。「昨年6月には、断続的な暴行によって心桜さんは衰弱し、身動きができないほどの状態になっていた。しかし、両容疑者は彼女を保護すべき責任があったにも関わらず、医療措置も受けさせず、放置して死亡させた」(捜査関係者)地元の児童相談所には、複数回の相談があったとされている。心桜さんの同級生はこう話す。「中学校のときは不登校で、ほとんど学校には来なかった。卒業アルバムにさえ写真は載っていない」初孫を失い、さらにその母親で心中を図った自身の長女は保護責任者遺棄致死の疑いがもたれている。林眞須美死刑囚は獄中で何を思う−−。
2022年02月18日西田彩容疑者(フェイスブックより)「西田さんは一昨年の12月、一戸建ての借家へ子どもさん4人を連れて引っ越してきたんじゃ。上の男児は中1と小5のヤンチャ盛りやから、叱ってる姿は見たことあった。けども、まさかあんな酷い虐待をしていたなんて……」近所の住民は険しい顔つきでそう話した。9日、岡山県警捜査一課と岡山西署は、岡山市南区の内装工・船橋誠二容疑者(38)と同市北区の無職・西田彩容疑者(34)を強要の疑いで逮捕した。2人は共謀して、西田容疑者の次女・真愛(まお)ちゃん(当時5)を繰り返し虐待した疑いがもたれている。真愛ちゃんは去年9月、虐待を受けて病院に搬送されたが、脳死状態で意識不明に。その後、今年1月に低酸素脳症で死亡した。5歳女児への想像を絶する虐待地元紙の社会部記者がこう説明する。「船橋容疑者は西田容疑者の内縁関係にあり、船橋容疑者が主犯で、西田容疑者が共犯と目されています。彼らは去年9月10日から23日まで少なくとも5回は椅子の上に置いた両手鍋の上に5時間前後、立たせ続けるという前代未聞の虐待をしていた。真愛ちゃんの髪の毛を引っ張ったり、殴ったりしたり、なかには布団にぐるぐる巻きにして息ができないようにしたこともあった。しかも、その行為を室内カメラで録画していた」警察の取り調べに船橋容疑者は、「私が暴力を振るった。虐待行為をしたことは間違いありません」などと容疑を認めている。一方、西田容疑者は、「私がやったことではない。共犯はおかしい」などと容疑を否定している。西田容疑者の印象について、「SNSの写真は派手な顔してるけど、実際はいつもスッピン、髪はベリーショートでいつもキャップかニット帽を被っていた。服装もTシャツにジーンズといった地味な感じでしたよ。でも、気さくで性格は明るいお母さんやった。ただ、仕事をしよる感じには見えなかった。どうやって食べていたのかが不思議」(近所の住民)西田容疑者は、生活保護を受けていたという話も出ている。船橋誠二容疑者には妻子がいた一方、船橋容疑者について、小学校の同級生はこう話す。「不良というのではなくて、明るくて、子どもらしいいたずらをやる子だった。女子のスカートめくりをやって、先生に殴られていました。でも、人気者で友だちは多かったし、異性にも人気はありました。あんな酷いことをするなんて信じられない」中学生になると、勉強の成績は普通だったがスポーツ万能で運動会などで目立つ存在だったという。「陸上部に入っていてね。1つ上の陸上部の先輩と付き合っていて、一緒に仲よく下校していた。成人式のとき、ほかの友人が“誠二はその先輩と結婚して、もう子どももいるよ”と聞きました」(中学校の同級生)取材を進めると、船橋容疑者には妻はもちろん、3人の子どもまでいた。ひとりの子はすでに成人、もう2人はまだ小学校低学年だという。つまり、船橋容疑者と西田容疑者とは不倫関係にあった。今回、船橋容疑者の妻に話を聞くことができた。彼女は、涙を浮かべてこう懺悔した。「本当に申し訳ありません。でも、どうしてこんなことになってしまったのか、私もまったくわけがわからなくて……」不倫相手がいるのではないかと、薄々感じていたとも。「妻なら、なんとなくですが、わかりますよ。でも、毎月、毎月、きちんとうちにはお金を入れていましたし、相手のほうへお金を持ち出すようなことはしていませんでしたから。また、うちでは子どもを虐待することなんてなかったし、子どもにとっては、いいパパでした。家庭的にも、仕事的にも何も問題はありませんでした」いまとなってはすでに遅いが、後悔もあるという。「不倫のことを、主人を問い詰めるべきだった、追い込むべきだったのかなと思っています」今後の船橋容疑者との関係については、「いまのところ、何も考えられないんです。まったく……。すいません」泣き腫らした目をした船橋容疑者の妻は、憔悴しきっていた。亡くなった真愛ちゃんはもちろん、真愛ちゃんの兄姉、そして船橋容疑者の子ども3人もまた、両容疑者の被害者である。
2022年02月16日適切な治療をしてもらえなかったこの子猫は亡くなったという(写真:ボランティア提供)《正義のヒーローって放送するのはやめてほしい。もっとまともに頑張っている保護施設たくさんあるのに》『ザ・ノンフィクション』や『坂上どうぶつ王国』(いずれもフジテレビ系)などのテレビ番組にある団体が出演すると抗議が一定数起きている。■SNSで団体代表の非道を訴える声愛知県名古屋市で保護猫活動を行う『花の木シェルター』だ。同団体は猫のTNR(地域猫の捕獲と避妊去勢手術)や保護、里親探しを中心に活動している。同団体の阪田泰志代表は出演した番組内で《(保護した猫に)生きるチャンスをどれだけ多く与えられるか》と述べ、猫への惜しみない愛情を注ぐ姿が視聴者に感動を与えている。一方で、SNSや施設の口コミなどでは関係者とみられるアカウントがその非道を訴えていたのだ。かつて阪田代表と関わりのあった動物保護団体のメンバーや元ボランティアらが匿名を条件に話をしてくれた。「猫の飼育、保護状況からお金の流れの不透明さなど(同団体について)いい話が聞こえてこない。彼が番組内で称賛されている姿に憤りを覚えています。阪田さんはもともと“愛護はお金儲けになる”と誘われて活動を始めたと猫保護ボランティアの間で言われています。お金と名誉のためにしか動かない印象」(元メンバー、以下同)疑惑は団体が設立された直後までさかのぼる。「彼は前身の動物保護団体で理事をしておりました。そこの関係者からシェルターを併設した猫の避妊去勢手術専門の病院をつくれば儲かると持ちかけられたのが『花の木シェルター』立ち上げのきっかけです」その後、現在のシェルターがある場所にTNR専門の動物病院を立ち上げた。しかし、経営はうまくはいかず、すぐに病院は閉鎖した。前身団体とトラブルが起きたのもこのころだと続ける。「阪田さんは理事なのに理事会や総会にも来ない。普段の打ち合わせにも遅刻する、など活動への真剣味に欠けていました。そんなある日、“親が病気で……”との理由から理事会を欠席。ですが、彼の親が施設を訪れ、サボりだったことがバレてしまったんです」■寄付金を飲食店の開店資金に使った不義理を働いたことがほかの理事やスタッフらの逆鱗に触れた。話し合いの末、理事は解任。前身団体は阪田代表との活動から手を引いた。残されたのは動物病院のあった建物と猫。そこで猫の保護活動を始めたのが『花の木シェルター』だという。そんな折、同県内で約60匹のブリーダー多頭飼育崩壊の話が舞い込んだ。「60匹近い猫を助けるため、団体はブログで寄付を募ったところ、600万円近くのお金が集まったそうです。多頭飼育崩壊現場に関われば保護活動に関心がある人たちは寄付をする。阪田さんは猫はお金儲けになると気づいたんじゃないかな」そのとき集まったお金の多くは猫に使われなかったという。「阪田代表はそのお金を飲食店の開店資金に使ったんです。私が花の木シェルターでボランティアしていたとき、一緒に活動していた女性はそのお店の従業員でした」(元ボランティア)飲食店も1年たたずに閉店。猫に使われるはずだった善意は泡のように消えた。■病気でも治療しない“ネグレクト疑惑”一方のシェルターには保護した大量の猫。世話をするスタッフの数も足りず、多忙を極めていた。「排泄物の処理やケージの掃除が間に合わなくて施設内はいつもすごいにおいがしていました……。動く余裕もない1段の狭いケージに猫は入れっぱなしになっていて。捕獲器に入れられたままの子もいました。トイレにはフンがいくつも転がり、すっかり乾燥していたものも……」(元ボランティア)世話に手が回らずに病気が蔓延する状態だったという。前出の元メンバーが訴える。「猫を飼っている人なら本来なら1か月も下痢が続けば寄生虫や病気を疑います。ですが阪田代表は市販の人間用の整腸薬を与えて治療していると言い張る。風邪など治る病気でも猫たちはろくに治療もしてもらえず、病院にも連れていってもらえませんでした」元メンバーは阪田代表のある持論を聞いたと証言する。「猫が自力で回復する力に期待しているから通院させない、と言っていました。獣医師免許がないから、本来ならダメなのにワクチンを阪田さんが打っているのを見たボランティアもいます」猫には所有権があり、シェルターの猫は阪田代表の所有物とみなされる。そのためいくら関係者といえ猫を勝手に受診させることはできない。適切な治療を受けられずに放置されれば治るはずの病であっても命を奪う。別の元ボランティアは重い口を開いた。「私がいたころは施設内には中心的にかかわるメンバーしか知らない秘密の部屋がありました」助かる見込みのない猫たちを入れておく部屋だったと複数の関係者が証言する。元メンバーは言葉を詰まらせた。「主人を事故で亡くし、『花の木シェルター』に引き取られた猫がいました」遺族は5匹60万円の引き取り料金を払い、花の木シェルターに猫を預けた。次の里親が見つかるまで猫たちは施設内で飼育される。そのため、餌代や薬代などお金がかかるので活動を継続させるためにも引き取りなど金銭を請求するのは珍しくない。それは同時に責任を持って次の飼い主に渡す証でもある。それにもかかわらず、引き取られた猫たちはみるみる体調が悪くなっていったという。ケージの中でぐったりしている猫を見て、元メンバーは心を痛めたという。「猫は腎臓を悪くしやすいので腎不全ではないかと思っていましたが原因は不明です。阪田代表が受診を許可してくれなかった。愛護センターに訴えても最初は聞いてくれませんでした」愛護センターが重い腰を上げ、施設に視察に来たときにはすでに猫は亡くなっていた。「阪田代表は一度も治療していないのに“治療した”と虚偽報告をしました。無治療でほとんど身動きのとれないケージの中で亡くなっていったんです……」■子猫が亡くなると「その箱に入れといて」猫の里親も証言する。「以前、保護した猫を花の木シェルターに預けたことがあります。かわいくて仕方なかったので毎週末、おやつを持って通っていました。その猫もいつも狭いケージに入れられっぱなしで、外にも出してもらえていないようでした」その猫も弱っていった。「おやつもご飯も食べなくなってしまって、目もぐじゃぐじゃになってきて……治療しているのかと阪田さんに聞いたら“してない”と言われました……」あまりにもかわいそうだから返してくれ、と訴えると、「ここの猫だから譲渡になるからお金を払えと言われました。このままにしたら死んでしまうと思い、数万円払って救助しました」元メンバーも訴える。「亡くなる猫も多く、真夏の40度近い倉庫部屋に入れられた子猫が亡くなったことを阪田代表に告げると“その箱に入れといて”と平然と言われました。そのひと言にひどくショックを受けて辞めました……」こうしたやり方に心を痛めたボランティアの多くは衰弱した猫たちを引き取って辞めていったのだという。「何度も愛護センターに訴えても真剣に取り合ってはもらえませんでした。証拠を出せと言われれば証拠の画像を送りましたがいくら見ても虐待ではない、の一点張り。ボランティアやアルバイトは猫たちがいるから辞められないのです。“つらいけど自分がやめたら死んでしまう……”そう思いながらボランティアを続けている人は少なくありません。でもみんな心を壊して結局は辞めるんです……。ここの団体がきれいなのは表の顔だけです」(元メンバー)動物愛護法では動物を病院に連れて行かないなどの行為や世話をしないことについて、ネグレクトにあたると記している。これは動物愛護法違反にあたるのではないか──。「行政は動物の殺処分をゼロにしたい。でも、ほかの団体は猫を引き出しても体調を崩したらちゃんと治療をする。だからいつまでたっても空きが出ず、行政は殺処分をせざるをえない。だから治療をしない花の木シェルターに猫を預けるのが都合がいい。死んだら次の猫を渡せるので行政にとってもプラスなんです。いつでも二つ返事で引き取ってくれる」(保護団体関係者)にわかには信じ難いが。「テレビなどでは阪田さんが率先して世話をしているように見せていましたが自分ではほとんど世話をせず、ボランティアまかせ。いつも夕方ごろフラッと来て“あの死にかけ(た猫)どうなった?”と聞いていたときには寒気がしました」(別の元ボランティア)■直撃すると「なんでも話します」数々の疑惑は真実なのか。花の木シェルターを訪れたが、室内はきちんと整頓されており、猫たちの健康状態もいい。においも気にならなかった。阪田代表本人を直撃すると「なんでも話します」と時間を割いてくれた。─適切な医療を受けさせていない疑惑については?「そうした事実はありません。治療など必要なことについてはやっています。病院にも毎日行っていますし、連れていかないことはありません。ネットなどでそう言われていますが嘘です。自分がやっていることが事実です。医療行為について愛護センターも問題ないという判断をしております。動物病院の領収書、血液検査の結果などの書類を提出したうえで判断されています」─病気の子に手をかけない理由は?「猫の病気ではまだ治療法が確立されていない病気もあり、確実に治るわけではない。対症療法はしています」─寄付で飲食店を開店したという話については?「僕もこれが仕事なので当然、寄付などの中から給料をもらっています。それを私用に使うことはあります。ですが飲食店を立ち上げたことはありません」─では、団体の収支報告を公開しないのはなぜ?「寄付をいただいた方にのみ報告しています。うちの団体を信頼してお金を出してくれたわけですから。それを出していない人には報告義務はありません」─だったらなぜ、騒がれることになっているのか。「こっちが聞きたいくらいですよ。有名になればその分、アンチが現れます。そのたぐいだと思っています。うちが愛護センターと結託したって向こうもメリットは何もないですよ。なんなら全部見せてもいい」と阪田代表はすべての疑惑を否定した。元メンバーは声を震わせて訴える。「猫は殺処分を免れても花の木シェルターで死ぬ、と保護団体の間では有名です。ネグレクトされて死んだ子たちの顔が忘れられないんです。愛護の皮をかぶっている彼が許せない。また同じような犠牲を出さないため、善意のお金が適切に使われるように団体を支援する側も一度考えてほしい」
2021年11月05日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手がけるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)は、2022年春夏コレクションを2021年8月31日(火)渋谷ヒカリエで発表した。「作りたかった洋服」を“音楽”のアイデアで作るショー後のインタビューで「作りたかった洋服を作った」と話す今シーズンのテーマは「ベーシック コレクション(BASiC COLLECTiON)」。デザイナー渡辺と切っても切り離せない“音楽”をはじめ、彼自身のルーツに目を向けながら、毎日が楽しくなるような日常着=ベーシックウェアをデザインする。クラシックの巨匠の「バンドT」があったなら…印象的だったのは、モーツァルトやバッハ、ベートーヴェンといった音楽家たちのモチーフTシャツやスウェットだ。ピアノを嗜んできた渡辺は「音楽家のバンドTがあったなら…」とチャーミングな発想のもと“巨匠たち”のTシャツやスウェットをデザイン。きっと誰もが音楽室や学校の教科書で一度は見たことのある、音楽家たちの肖像画をイラストタッチで描き、ロックバンドKISSの白塗り化粧(コープス・ペイント)さながらの大胆なメイクを施して、ポップにアップデートした。フェイスモチーフの下には「猛津アルト」「バツ葉」「米藤勉」と“当て字”で名前を記し、Tシャツやスウェットの前身頃に大胆にのせた。合わせたジャケットやシャツ、ショートパンツは、どれも毎日使いしやすい気軽さを持ち合わせながらも、カラフルなチェック柄やジップのデコレーションなどをプラスして、パンキッシュにまとめている。スマートに着たブラックジャケット&スリムパンツのセットアップも、レオパード柄を同色であしらって、パンキッシュな強さをプラス。ネグレクトアダルトペイシェンツのロゴは「NAP」「N」など様々な形になり、くるぶし位置や胸元、アームラインなどにあしらわれ、バンドグッズのような統一感を発揮する。“おなじみ”麺演出&モデルのBiSH再びネグレクトアダルトペイシェンツ“おなじみの”麺演出は、今季もカップ焼きそばで実施。ぷわ~と会場に広がる香ばしいソースの匂いとともに、焼きそばを頬張りながらモデルが闊歩する姿は“リアルショー”ならではの面白さがある。今季は、ロックバンド「ナイン・インチ・ネイルズ」のミュージックビデオをインスピレーションに光で会場を装飾。スクエア型に整えたランウェイに光を灯して、牢獄や檻を表現したという。なお、ランウェイにはBiSHのメンバーがモデルとして再登場し、今季もキャットウォークを披露した。
2021年09月03日中学時代の大越悠莉奈容疑者「以前にも駐車場でママ!ママ!と泣き叫ぶ長女の姿を見たことがあります。あのときに何かできていれば……」近隣住民は肩を落とす。炎天下の車内に1歳の次女を放置し死なせたとして、千葉県警は7月23日、八千代市に住む自称・飲食店従業員の大越悠莉奈(おおこしゆりな)容疑者(25)を保護責任者遺棄容疑で逮捕した。■車の中で寝ている容疑者がたびたび目撃されていた容疑者は3歳の長女、亡くなった次女の三櫻音(みおん)ちゃんと3人で暮らすシングルマザーだった。「事件があったのは7月22日。容疑者は都内での夜勤仕事を終え、知人宅に預けていた2人の娘を迎えにいった後、自宅マンション前に止めた車内で3時間ほど仮眠しました。そして午前10時ごろ、長女だけ自宅に連れていき着替えをさせた後、30分ほどしてから車内に放置していた三櫻音ちゃんを迎えにいくと、ぐったりしていた」(テレビ局記者)その後、「娘の意識がない」と容疑者から119番通報があったが、間もなく三櫻音ちゃんは熱中症で死亡した。警察の調べに対し容疑者は「車のエアコンはつけていた」と供述している。事件当時、千葉県は気温が30度を超える真夏日だったという。幼い娘を炎天下に放置して死なせた容疑者だが、普段はどんな様子だったのか──。同じマンションの住民は、「この辺では珍しいくらいおしゃれで美人で。よく娘さんと一緒に買い物に出かけているのを見かけました。すれ違うとペコリと会釈もしてくれて感じのいい人ですよ」子どもと一緒にいる姿は度々、目撃されていた。「お子さんも小ぎれいな服装をさせてもらっていて、虐待を受けている様子ではありませんでしたね」ところが、こんな気になる話も……。「今回の事件のように朝、彼女が車の中で寝ているところは何回か見たことがあります。娘さんが一緒だったのかまでは見ていませんが……」(同・住民)■長女が泣きながら母親を探し歩いていた居住する自宅マンションは築23年の3LDK。賃料は月9万円ほどだという。さらにはネグレクトを疑わせるような証言まで出てきた。冒頭の近隣住民が語る。「今年の5月ごろ、マンションの中で長女が泣きながら母親を探し歩いていたんです。朝の9時くらいでしたね」同じマンションに住む女性が保護して警察に通報し、母親の行方を捜したが……。「なんと、不在と思っていた母親が、実は家で泥酔して寝ていたんですよ。娘を外に置き去りにしたまま、インターホンの音にも気づかなかった」炎天下、長女は裸足のまま放置されていた。警察はネグレクトの疑いがあるとして児童相談所に通告をしたが、それでも今回の事件を防ぐことはできなかった……。■容疑者の母親もシングルマザー、兄は有名な不良千葉県出身の大越容疑者。地元の同級生は彼女について、「人柄もよくてよく笑う、優しい子でしたよ。運動神経抜群で、ソフトテニス部ではエースでした」部活の顧問は厳しい先生だったが、反抗する様子もなかったという。ただ……。「決して友達の多い子ではなかった。実家では父親が病気で早くに亡くなり、母親も何をしていたかわかりませんが、見たことがないくらい常に不在。基本的に祖母しか家にいなかったようです。私服はいつも同じ。もしくは学校のジャージでした」容疑者の母親も同じくシングルマザーで、孤独な家庭環境だったようだ。さらに、「彼女には兄がいるのですが、地元では有名な不良で、逮捕歴や少年院に送られたこともあったそうです。ケンカや万引きをする仲間のグループといつも一緒にいたようで、生徒の間では恐れられている存在でした」(同・中学の同級生)高校時代に容疑者と飲食店でアルバイトをしていたという女性も、「仕事はしっかりやっていて頼もしかった。ただ何となく周りとノリがズレていて、友達のいない子でしたね」学校では友人が少なく、頼れる家族もいない。周囲には孤独な学生生活を送っていたように映っていたようだ。■暴力団関係の男性と交際していたことも大人になっても、負のスパイラルからは抜け出せなかった。最近の容疑者を知る知人男性によると、「県内の公立高校を卒業した後は、都内のキャバクラで働いていました。その後、娘2人を出産。娘の父親なのかはわかりませんが、一時期、彼女は30代半ばの暴力団関係の男性と交際し同居していたそうです。その男性は昨年、高齢者からお金を騙し取ったとして、詐欺の疑いで逮捕されています。その後の行方は不明ですが、彼は多額の金銭トラブルを抱えていたようです……」周囲に容疑者を支えてあげられる人はいなかったのか。実家の母親に電話をかけてみたが、何度かけてもつながらなかった。今は別の場所でひとり暮らしをしている祖母も訪ねたが、「最近はまったく会っていなくて……」と疎遠ぎみな近況を語った。幼い娘を死なせた容疑者の責任は重い。だが、このような悲劇を起こさないためにも、容疑者のような孤独なシングルマザーは家族や友人、近隣など社会で支えていく必要があるだろう。
2021年08月03日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手がけるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)は、2021-22年秋冬コレクションを2021年3月18日(木)に渋谷ヒカリエにて発表した。屋外で楽しむ“レイブパーティー”今シーズンは、屋外で弾けるレイブパーティーをイメージ。ランウェイにはカラフルなライトを放つドームを設置し、フェスに向かう時のようなウインドブレーカーや、Tシャツ、パーカー、ジャージといったラフなスタイルをメインに、開放感に満ちた楽しさを表現した。現代の閉塞感を吹き飛ばすかのように、ライブで飛び跳ねる人々、自由に遊ぶ人々の楽しく賑やかな雰囲気をコレクションに投影している。愉快な着ぐるみパーカーや寝袋ドレスファーストルックには、着ぐるみのようなシルエットのヴィヴィッドなピンクのパーカーが登場。フード部分には中綿を詰め込み、ポケットには手にも持っているフィギュアを入れた愉快なルックによって、ライブならではの"ぶち上がり感"を冒頭から表現している。オールナイトパーティーに欠かせないアイテムの寝袋は、そのまま着られる“寝袋ドレス”に。中綿入りの寝袋が丸ごと身体を包み込み、着たまま歩ける仕様となっている。90年代ファッションのムード真っ赤なパーカーや緑のサスペンダーパンツ、マスタードイエローのスウェットといった原色使いのスタイルや、ジャストな丈のウォッシュドジーンズ、ややゆったりとしたパーカーの仕立て、と言った要素からは、どこか90年代ファッションの雰囲気が漂っている。グラフィックTシャツの裾はハイウエストのパンツにタックイン、首にはイエローのバンダナを巻き、足元にはエアソールのスリッパを履いてアクティブなスタイリングを提示した。ラメを配したチェック柄ジャケットや幾何学柄ブルゾンまた、きらびやかなラメを配したチェック柄ジャケットやパンツ、シャイニーなジオメトリック柄ブルゾンなど、ネオンライトを受けて光を放つウェアも目を引いた。キラキラとした光を放つブルゾンには艶やかなベルベットのパンツ、ゴールドカラーのベルト、チェーンネックレスをコーディネート。煌びやかな佇まいに、フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)とコラボレーションしたイラストTシャツで遊び心と抜け感をプラスしている。今回はざる蕎麦が登場毎回麺類が登場することでおなじみのネグレクトアダルトペイシェンツのショーだが、今回はBiSHのリンリンがざる蕎麦を持って登場。着ているのはフミト ガンリュウとコラボレーションしたTシャツだ。リンリンは2日前のフミト ガンリュウのショーに登場した時と全く同じファーの帽子とデニムを着用。まるでふらっと遊びに来たかのような佇まいで、隣で人が寝ていても気にすることなく蕎麦をすすり、フリーダムな雰囲気を演出した。
2021年03月21日学校に警察が常駐する“スクールポリス”を藤原竜也が演じる「青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―」の7話が2月23日放送。ネグレクトに苦しむ深山の姿に「泣いた」という声と、深山役の田中奏生の演技も話題となっている。学校内に警察官が常駐しトラブル対応や予防活動を行うスクールポリス制度が試験導入されることになった赤嶺中学校を舞台に、敏腕刑事からスクールポリスとなった過激で毒舌、冷静沈着な嶋田隆平の活躍を描く警察官×学園エンターテインメントとなる本作。赤嶺中学校で教師をしていた元恋人の香里が謎の死を遂げ、その真相を突き止めるためスクールポリスに志願した嶋田隆平を藤原さんが演じるほか、香里とも同僚だった3年1組担任の国語教師、浅村涼子に真木よう子。嶋田の後輩で少年係刑事の三枝弘樹に山田裕貴。1年前に亡くなった嶋田の恋人だった音楽教師の小川香里に明日海りお。スクールポリス導入を決めた赤嶺中学の校長・木島敏文に高橋克実。赤嶺中学の教師役として泉澤祐希、山口紗弥加、音尾琢真、石井正則、峯村リエらも共演。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。7話はネグレクトで困窮した少年を巡る事件をメインにストーリーが展開。深山敏春(田中奏生)の欠席や遅刻が増え、体も痩せてきたことが気になる涼子。深山はクラブで働く母親と祖母と3人暮らしだったが、母親が男を作り、家族の通帳も持って行方をくらましたうえ祖母がケガ。食べるものもなくガスも止まり、祖母が空腹を訴え続けることで勉強もままならず、深山は限界を迎えつつあった。幼い頃から深山を気にかけていた三枝と涼子は深山を助けようと立ち上がるが、深山は万引きを咎めたコンビニのバイトを突き飛ばし、死なせたと思い込んでしまう。帰宅後、空腹を訴える祖母の様子に限界を感じた深山は、祖母とともに川に入水して…というストーリー。ネグレクトに祖母の介護と“二重苦”に追い詰められる深山の姿に「まだ気持ちが落ち着かない。悲しい話だった」「泣いた。深山くんしんどすぎて」「1時間のドラマにしてはいろいろヘビー過ぎる…」などの声が上がるとともに、深山役の田中さんの演技に「田中奏生くんの演技で涙が溢れた」「田中奏生くんって言うのか 覚えておこう いい役者さん」「今日の生徒役メインだった田中奏生くん演技うまい子だな~」といった反応も。一方、嶋田のもとには美月(米倉れいあ)の暴行事件をめぐって香里と涼子が口論する音声が送られてきて、嶋田は涼子が以前勤務していた学校で生徒を自殺未遂に追い込んでいたことを突き止め、一時は涼子が香里を殺めたのではと疑う。その後疑いは晴れるが、職員室から何者かが仕掛けた盗聴器が見つかる…というラストだった。盗聴器を仕掛けたの誰か、嶋田に音声データを送り付けた“黒幕”は!? 「ラストの方の山本楓先生の笑みが?関係有るのかも?」「紗弥加さん嶋田さんのことチラッと見てたの気になるなあ」と山本に疑惑の目を向ける声や、「犯人は高橋克実校長か、山口紗弥加が怪しい」「やっぱり高橋克実校長かぁ」など、高橋さん演じる木島が怪しいのではという声など、終盤に向けて香里の死を巡る謎にも注目が集まっている。(笠緒)
2021年02月24日すっかり猫部屋となっていた一室。空気清浄機が置かれている部屋もあったが……「ひどい現場でした。あの惨状がしばらく夢にも出てきてうなされました。今でも食事も満足にとれていません」そう話すのは動物保護団体『たんぽぽの里』代表の石丸雅代さん。9月末、神奈川県内にある4LDK一戸建て住宅から猫144匹が保護された。多頭飼育が崩壊した家庭だった。■多頭飼育崩壊は全国で発生、社会問題に多頭飼育崩壊とは、犬や猫などペットの数が膨れ上がり、飼い主だけでは飼育困難となる状況を指す。ペットの犬や猫はエサや水が満足に与えられない。排泄物も垂れ流し状態で掃除も不十分。動物たちにはノミやダニがたかり、皮膚病にかかり、伝染病も蔓延。衰弱し、命を落とせば、空腹の仲間が共食いすることも……。なのに飼い主はお気に入りの犬、猫ですら病院には連れて行かない。それどころか、「大切な家族。可愛がっている」と歪んだ愛を語る。多頭飼育崩壊は全国で発生し、社会問題になっている。崩壊現場は10数匹~100匹を超えることもある。北海道札幌市で高齢の夫婦が飼えなくなった猫238匹が、島根県出雲市では8畳2間で飼われていた163匹の犬がそれぞれ保護されている。日本動物福祉協会栃木支部長の川崎亜希子さんは、「多頭飼育でも、しっかりと飼えている人もいます。猫は年に複数回、発情期がありますから避妊・去勢をしないでオスメスを一緒に飼えば一気に増えてしまう。動物を飼うどころか、人の生活も崩壊しているのに飼い主は動物に対して執着が強く、手放すことを拒みます」これまで寂しさから猫や犬を集める高齢者やひとり暮らしで生活が困窮し飼えなくなり、崩壊することが問題視されていた。しかし最近では同居する家族がいて、定職にもついているごく一般家庭での崩壊も増えているという。冒頭の石丸さんらが関わった神奈川県のケースもそのひとつだった。一軒家で144匹の猫を飼っていたのは50代後半の早川康夫さん(会社員・仮名)と妻・幸子さん(50代飲食店勤務・仮名)、その娘の由美さん(10代サービス業・仮名)。関係者によると最初に猫を飼い始めたのは10年ほど前。すでに家を出ている由美さんのきょうだいが保護してきた猫に対し、適正な時期に避妊手術をしなかったことが悪夢の始まりだった。■住民が我慢できず、行政に相談するも…猫の数が多くなるとまず問題になるのが排泄物。掃除もされず、糞は室内のあちこちに放置。おしっこは床や布団に染み込み、室内はすさまじいほどの悪臭だった。『多頭飼育崩壊インターベンション』代表理事で動物愛護推進員(神奈川県)の河野治子さんは、「近隣住民はコロナ禍だというのににおいを防ぐため換気もできず困り果てていました」近隣住民は保健所に相談するも、一家への直接的な指導はなし。その後も保健所や行政に苦情を入れ続けたが、行政は一家に対し、何も手を打ってこなかったため、状況は改善せず、猫は増えた。今年8月、事情を知った神奈川県内の市議会議員が石丸さんに相談。早川さん宅を訪れてア然とした。「当初20~30匹と聞いていましたが実際、中に入ったら100匹以上いることがわかりました。食器棚や作りつけの棚の上、あらゆるところに猫がいました……」エサは糞に混ざって土間のような床に散らばり、水は取り替えられることなく干上がり、皿にカビが生えていた。「ひどいアンモニア臭で目も痛くなり、長時間の滞在は困難でした」(前出・河野さん)アンモニア濃度を測定すると計測不能をしめす99ppmオーバーを表示する部屋も。10~30ppmで健康被害が出るといわれているが、そんな状況下で猫と人間が同居していた。ほとんどの猫はアンモニアが原因で目や鼻からは分泌物を流し、栄養状態は悪く、脱水症状や皮膚炎などの病気を患っていた。■栄養失調と脱水症状、人間にも不信感「妊娠している猫が多数いました。一刻も早く保護しなければ、さらに増えてしまいます」(前出・石丸さん)誰が見ても猫はネグレクトされ、多頭飼育が崩壊していることは明らかだった。環境の改善と繁殖への対応、早急な対策が求められていた。どうにか飼い主を説得し、猫の所有権放棄を約束させた。9月末、石丸さんら神奈川県の3つの愛護団体やボランティアスタッフらによって捕獲作戦が行われた。そこで関係者はさらにおぞましい光景を目撃する。「逃げ込んだ猫を捕獲するため、引き出しをどかしたところ、その下に大量の“カツオブシムシ”がいたんです」その数の多さに石丸さんは叫び声すら上げられないほどの恐怖を覚えた。カツオブシムシとは動物のタンパク質を好む小さな甲虫。そこにいたであろう猫の形をなぞるようにびっしりと集まっていた。そして室内からは生後2週間くらいの死体や、エサにまみれて干からびた状態の子猫の死体も見つかった。飼い主は猫が生まれたことも知らずに放置していたのだろう。室内にいた猫の多くが3~5歳ほどの成猫。今年生まれたはずの子猫の姿はどこにもなかった。「近親交配を繰り返しているため死産で生まれたり、育たなかった子も多かったのではないでしょうか。猫たちは栄養状態が悪かったので成猫が食べてしまったり、他の猫が子猫をおもちゃにしてなぶり殺してしまったことも考えられます」(前出・河野さん)保護された後、猫たちに誰もが胸を痛めた。「ほとんどの猫は長年のネグレクトで人間に対し不信感を持っていました。おまけに栄養失調状態でやせ細り、脱水症状がひどい子も多く、皮膚は硬くなって、点滴の針すら入れられなかった」『多頭飼育崩壊インターベンション』理事の門倉民江さんは表情を曇らせた。■家族は「虐待はしていない」とそれでも家族は「虐待はしていない」と訴え続けた。河野さんは彼らに「愛護法違反のネグレクトであることをきちんと認識する必要がある」と伝えたが、「“猫は家族といれば幸せ”と考えていましたので、幸子さんと由美さんは猫がいなくなった後、寂しくて毎日泣いていたそうです。典型的なアニマルホーダー(適切でない多頭飼育をやめられない人)の特徴です」不思議なのは、大人が複数人いても誰も飼い方を指摘しなかったことだ。「猫のことは職場の人や友人、周囲には隠していました。秘密を共有することで家族の団結が強まっていた。仲は非常によかったので。早川さん一家に限らずプライドや世間体を気にして相談できなかったり、無知や金銭的な事情が多頭飼育崩壊、悪意のないネグレクトにつながっていると考えられます」(前出・同)猫は、捕獲も保護したあとの世話、避妊・去勢手術、保護団体や里親への譲渡、すべて保護団体やボランティアが行った。あまりにも多くの猫の保護。まずは行政に連携を相談したというが……。「私たちが手術のお手伝いや保護の協力をします、と何度訴えても行政や愛護センターは“全頭受け入れたらすべてがストップする”などと。おまけに県の担当者からは“あなたたちが勝手に保護したいと言った”と言われました」そう石丸さんは憤る。行政は猫の保護に動物愛護センターの一角を使うことはしぶしぶ認めたが、保護団体がいくら訴えても「虐待」とは明言せずノータッチを決め込んだ。そこで石丸さんや河野さんはSNSなどを通じて支援を募った。すると全国から350万円以上の寄付や物資が集まり、手術や猫の飼育に使われた。行政は最後まで重い腰を上げることはなかったという。■悪質な場合はきちんと法で裁かれる必要がある動物愛護に詳しい細川敦史弁護士に多頭飼育崩壊について法律的な観点から聞いた。「飼い主がいくら“可愛がっている”と言っても客観的な虐待の状況や周辺環境に著しい問題を与えていれば基本的には愛護法違反となります」多頭飼育崩壊のネグレクトは動物愛護法25条と44条2項が適用される。昨年6月に改正された同法では、ネグレクトをした飼い主に対して1年以下の懲役、100万円以下の罰金が科せられる。ネグレクトを繰り返せば刑罰は重くなる。ケースによっては公判請求されて執行猶予がついたり、懲役になる飼い主が出てくる可能生もあるという。「前例がないためネグレクトをした飼い主はいつまでたっても略式裁判で罰金を支払うだけ。そんなふざけた話はありません。故意的にネグレクトを繰り返す、悪質な場合はきちんと法で裁かれ、処分を受ける必要があります」しかし、刑事罰だけでは問題は解決しない、とも前出・細川弁護士は指摘する。「社会から孤立している人たちが多頭飼育するケースが多く、誰にも相談できずに動物が増えてしまう。ですから福祉分野の専門家と連携し、解決しなくてはいけません。厳しく処罰すればいいという考え方もありますが、まずは犯罪者にさせないことです」■無責任な飼い主に猫を渡す人も問題前出・川崎さんも訴える。「悪質な事例や、正常な判断ができなくなって問題が起きている場合があります。ですので動物を緊急保護できるシステムを作ること、飼育を禁止する罰則を盛り込むべきときにきています」多頭飼育は再犯率が高い。猫を取り上げてもその後の指導やフォローがなければ里親募集などを介して再び集めてしまうからだ。「無責任な飼い方をする人に猫を渡してしまう人がいることも問題だと思います」『群馬わんにゃんネットワーク』の飯田有紀子代表は訴える。飯田さんらも数件の多頭飼育崩壊現場を抱えている。一連の問題には国も危機感を抱いており、環境省は年度中に多頭飼育に関するガイドラインを作成する予定だ。河野さんらは多頭飼育を早期発見、崩壊を防ぐためにも、神奈川県内の各市町村で相談会を開催。愛護団体、ボランティア間の連携作りなどの体制を整えるという。動物行政とボランティアが連携し介護や社会福祉、民生委員らとも協力、飼い主への福祉的なアプローチも目指す。「まだまだ現状を知らない人もいると思うので写真展などを通し、啓蒙活動をしていきます」(前出・門倉さん)行政に対しても今回の反省をふまえ、多頭飼育崩壊の通報があれば市町村と保険福祉事務所が一緒に行って調査。その後、動物愛護推進員やボランティア、保護団体が連携して現場に対応ができるような仕組み作りも課題だ。神奈川県警海老名署は11月26日、早川夫妻を動物愛護法違反の疑いで書類送検した。2人は容疑を認めている。一方、保護された猫たちは新たな飼い主のもとで新生活を送ろうとしている。多頭飼育崩壊の悪循環をどこかで断ち切らなければ人間・動物、互いの不幸は続く。
2020年12月14日過去に受けた親御さんからの暴力やネグレクトが心の傷となり、今現在も子育てに支障が出ているママ。どうやって過去のトラウマから脱出しようとしているのかをご紹介しています。 現在、2人の姉妹を育てている母親です。実は私自身が毒親の元で育ち、ネグレクトや暴力などを受けて育った経験がありました。そんな私が「どうしたら幼少期のつらかった経験を乗り越えられるか?」と日々もがいている様子をお伝えします。 自分の過去がフラッシュバック現在3歳の長女がちょうど1歳を過ぎたあたりから、「なんで言うことを聞いてくれないの?」と苛立つ機会が多くなりました。その際にいつも思い出すのは、私が物心ついたおそらく3歳ごろからはすでに始まっていた、実母の私に対する暴力行為です。 どうしてもフラッシュバックしてしまって、長女を叩いてしまいそうになる衝動を抑えることに必死な毎日でした。 子どもを叩きたくなったらどうするべきかつらい経験をしたからこそ、子どもたちに対して暴力行為によるしつけをおこないたくはありません。しかし、度々過去の出来事がフラッシュバックする自分を責めてしまう日々。こんなことはママ友などにも話せませんでした。「じゃあどうするか?」と次に考えたことは、行政や心療内科といったプロの方々に助けを求めることでした。 見守られていると実感すれば行動は変わる私自身の経験ですが、暴力行為は閉鎖的な空間だと起こりやすいと感じます。つまり「ママと子どもだけの孤独な関係や、地域など社会的なつながりなどから閉ざされた環境」だと、より自分自身の価値観が狭まってしまう気がします。だから私は「たくさんの人とつらかった自分の過去や気持ちを共有し、見守ってもらう」ことを選択しました。ただ、ママ友とは滅多に共有できることではないと考え、プロや行政に助けを求めることに。具体的には市の産後ヘルパーを活用したり、保健師の定期的な訪問をお願いしたり、臨床心理士によるカウンセリングを受けたりしました。 心の解毒法とは臨床心理士によるカウンセリングでは、徹底して私の話を聞き取ってくれました。ママ友や自身の親などには話せないことをプロの方に聞いていただき、「心の闇を誰かに直接話すことで少しラクになれる」ことを体感できました。傾聴してもらうことで、気持ちの整理がつき、問題解決の方向性などを自身で見つけ出せるようになりました。もちろん、メンタルの調子には波があり、良い日もあれば「怒鳴りすぎたな……」と反省する日もあります。しかし「どんな自分でも受け入れ認める」という業を達成すれば、少しずつ自身のトラウマも乗り越えられるのではないかと感じています。 私は現在「自身の心の解毒法」の一環として、心療内科や保健センターなどに見守っていただきながら日々を過ごしています。「すべては子どもたちの健やかな成長のために」と強く思いながら、あらゆる人々に助けを借りて「いろいろな人が私を心配してくれているんだ」と思うと、自然と抑制心が出て心にブレーキをかけることができています。 ※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。 イラスト/塩り監修/助産師REIKO 著者:山本加奈子2児の母。自身の体験をもとに、妊娠・出産・子育てに関する体験談を中心に執筆している。
2020年11月29日※画像はイメージですこの20年、“重い母”に人生を支配され、生きづらさを抱える娘をテーマにした本やドラマが増え、共感が広がっている。■親と無理に和解しなくてもいい暴力やネグレクト、親自身の依存症などわかりやすい虐待だけでなく、過干渉や言葉の暴力など複雑でわかりにくい虐待を母から受け続けたことで苦しむ娘は少なくない。母との間に確執や断絶を抱え、成人後は距離を置いて暮らしてきても、母に介護が必要になれば、当然のように娘に介護者役が期待される。そんな苦しい娘たちの心情を取材し、「きらいな母の介護はしなくてもいい」と伝えてくれたのは、フリーライター・寺田和代さんだ。「私は子ども時代に父が自死し、その後、母と養父から暴力や暴言を受けて育ちました。30代半ばで深刻なうつ病で倒れたことを機に、自分の生きづらさの原因は親との関係にあったことに気づき、カウンセリングや自助グループに通うように。母ががんで余命いくばくもないと聞かされたときも会いに行くことを選ばず、ただ1度だけ、自分の気持ちを長い手紙に書いて送りましたが、最後まで返信はありませんでした」母親が亡くなったときは、和解か断絶かで揺れ続けた長年の葛藤から自由になれたそう。「母をゆるし、和解しなければという、自他から課せられた見えない枷(かせ)が消え、“ものわかれ”という境地に。思いがけない解放の地点でした」寺田さんは、仕事で介護現場を取材する機会も多く、介護職の人たちの“親子愛”信仰にも違和感を感じてきたという。「『仲が悪い親子でも最期は和解で終わるもの』『過去がどうあれ老いた親には優しくすべき』と押しつける人が多く、そんな風潮に苦しむ人がいることも、この本で知ってもらえればと思ったのです」今年の春に出版した『きらいな母を看取れますか?関係がわるい母娘の最終章』(主婦の友社)は、重い母に苦しめられてきた6人に取材し、それぞれの人生と介護への向き合い方を描いた。不機嫌な父親と過干渉な母の間でひとり娘として育ち、進学先から就職まで、すべて母が口を出し、従わざるをえなかったというエリコさん(53歳)。ギャンブル依存症の父とアルコール依存症の母の怒声と暴力が絶えない家庭で育ったアユミさん(48歳)など、ハードな生育環境を生き延びた人たちが登場する。■心の回復は現実を直視し語ることから「どの方も当事者の自助グループにつながり、カウンセラーや弁護士など専門家の助けを得て母との関係を整理し、距離を取るという選択に至っています。母娘間の確執は、時間がたてば自然と解消されるものではなく、娘に支配的な母は多くの場合、最後まで現実を直視することはありません。平均寿命が延びて、母娘関係も長くなる時代です。母との関係が苦しい人は、介護で追い詰められる前に、1度立ち止まって母娘関係を見つめてみることが大切です」寺田さん自身も、自助グループに長年通うなかで「母をあきらめる」ことができた。「どんなに母にひどいことをされても、娘はどこかで愛を信じたくて、『私のためを思って殴っていたのでは』『私が優しくすれば母も変わるかも』という希望を捨てきれないもの。でも、自分の感情を押し殺していると、いつかコントロールできなくなり、そのしわ寄せが、子どもや自分より弱い立場の人への支配的な振る舞い、自傷行為といった形で出ることもあります。母との関係を直視するのは勇気がいりますが、心の回復には経験と感情を言葉にし、自他から免責される過程が不可欠です。適切な自助グループなら当事者同士で安心して心のうちを分かち合えるでしょう。自分の苦しさが何に起因するかを知ることは、人生を前に進めるために大切なことです」読者がこういった自助グループへ参加したいときは、どうすればよいのだろうか。「カウンセリングなどの支援機関から紹介されるほか、ネット検索でもグループの情報がヒットします。市区町村の家族問題の相談窓口で情報を得られることも。お試し参加を重ね、自分に合うグループを見つけてほしいと思います」母との問題を整理できても、「親の介護はしない」のは人間として失格なのでは……、と自責感を深める人は多い。寺田さんは、取材した信田さよ子さん(原宿カウンセリングセンター所長)の言葉にハッとさせられたという。「長年、母娘関係のカウンセリングに携わる信田さんは『人は自分がしたことの責任をとる必要がある。母も同じ。娘に嫌われることは、母が自分のしたことの責任をとることであり、それは母を人として尊重することでもある』と。娘は自分の人生と子どもたちを守るために、手放さざるをえないものもあるという指摘はとても大事だと思いました」読者からは、「同じ悩みを抱えてきた。よくぞ書いてくれた」「複雑な母娘関係があると知り、介護現場で自分の価値観を押しつけないようにしたい」などの声が届いている。「娘にとって母は、多かれ少なかれ“重い”ものですが、人によっては命や人生を脅かされるほどに重い場合があることを知ってほしい。そして、拙著で紹介した当事者の経験や専門家の知恵が、孤立無援で苦しむ当事者の方々に届けば、と願っています」■番外編:心理カウンセラーはこう語る「母から虐待や支配を受けてきた娘は、母が要介護の状態になったときに、小突くなどの復讐をするケースも見られます」と言うのは、心理カウンセラーの石原加受子さんだ。「そんな場面を家族や介護士の人が見たら、娘に向かって『やめなさい』と注意するでしょう。確かに人道的ではありませんが、私は『あなたは今まで我慢してきたのよね。小突きたくなるのも無理ないわね』と伝えます。でも復讐しながら介護をするのは疲れるので、介護をしないという選択をしたり、介護に対してお金をもらうといった割り切り方ができないか、アドバイスしています」母娘の関係が悪いのは、親の夫婦関係に問題がある場合が多いのも特徴だ。「夫に頼れないから、娘にしがみつき、病気を盾にして娘に面倒をみさせようとする母もいます。しかし、世間がどう言おうが、母の介護で、娘が自分の生活を犠牲にしたり、大きな負担を感じる必要はまったくないんです。母が困っているのは、娘の責任ではなく、夫婦の問題であり、母自身の問題です。『私の問題ではない』と母と心の距離を置くだけでも、罪悪感が減るでしょう。なかには母を諭して変えようとする人がいますが、それは母に積極的に関わろうとしていることにほかなりません。介護に限らず、母からの要求に対して、できないこと、負担に思うことを無理に行わず、少しずつノーと言って、母に自分ひとりで頑張ってもらう状況をつくることが大切です」(取材・文/紀和静)《PROFILE》寺田和代(てらだ・かずよ)◎立命館大学卒業後、会社員を経てフリーライター・エディター。女性誌、文芸誌、総合誌でのインタビュー・執筆、単行本の企画・制作に携わる一方、2000年に社会福祉士資格を取得し、高齢者介護・医療・暮らしの分野でも活動。石原加受子(いしはら・かずこ)◎心理カウンセラー。「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。独自の心理学で、問題解決、生き方、対人関係、親子関係などのセミナー、グループ・ワーク、カウンセリングを25年以上続けている。著書多数。最新刊は『感情はコントロールしなくていい』(日本実業出版社)。
2020年10月15日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手がけるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)は、2021年春夏コレクションを2020年8月24日(月)に渋谷パルコの屋上「ROOFTOP PARK」にて発表した。ランウェイには、BiSHのアイナ・ジ・エンドやセントチヒロ・チッチ、リンリン、アユニ・D、BiSのチャントモンキーなどが登場した。大人になりきれなかった大人による“制服スタイル”夜風の吹き抜ける屋上。ライトアップされたランウェイに現れたのは、高校生の制服を思わせるスタイルのモデル達だ。「CONSERVATiVE COLLECTiON」と名付けられた今季、大人になりきれなかった大人のフィルターを通した“制服スタイル”の様式美を見せつつ、アナーキーな姿勢を提示した。“ギャル”系着こなしやパーカースタイル一口に“制服スタイル”といっても、そのスタイルの在り方は多様だ。カーディガンにミニスカートを組み合わせ、スクールバッグのハンドルをリュックのようにして両肩にかけた“ギャル”風の着こなしや、スカートをほとんど覆ってしまうほどのゆったりとしたオーバーサイズパーカーにリュック、大ぶりなヘッドフォンを組み合わせたカジュアルなコーディネート、超ミニ丈のスカートの下にジャージを履いたスタイルなど、どこか学生時代の記憶に心当たりのある“制服スタイル”が続々と登場した。焼きそばやタピオカを片手にちなみに、ショーで麺類が登場するのはネグレクトアダルトペイシェンツおなじみの演出だが、今回登場したのはカップ焼きそば。ブラウスの上からビッグTシャツを重ね、ふくらはぎまで覆うひざ下丈のスカートを組み合わせた、抜け感のある着崩し“制服スタイル”の緩やかな奔放さを焼きそばが引き立てていた。さらに、ギャル系のコーディネートを身に着けたモデルの手にはタピオカドリンクが。小物や手に取る食べ物まで含めた、それぞれの“制服スタイル”が、個人のキャラクターや姿勢を象徴する記号になっていることにふと気が付く。制服然とした佇まいと独自性のあるディテール1つ1つのピースを細かく見ていくと、制服を意識したデザインではあるが、パターンメイキングやディテールに独自性が見て取れる。従来パリッとした生地でジャストなフィット感に仕立てられるブレザーには風になびくようにしなやかな素材を採用し、袖口や裾にはリブの切り替えを配した。カーディガンやニットベストは、ネオングリーンやネオンピンクでヴィヴィッドにカラーリングしてエッジを効かせる。一見オーセンティックに見えるタータンチェックのパンツは、ファスナーを配してボンデージパンツに仕立て、パンクな佇まいに仕上げた。また、制服だけでなく、ジャージスタイルも登場。体操着のジャージを連想させるトラックジャケットやパンツは、サイドにロゴを並べてポップに。グラデーションカラーのソールを配した、スニーカーのようなスライドサンダルとともにスタイリッシュなジャージスタイルを提示した。制服やユニフォーム然としていながら、制服では叶えられないデザインを組み込むことで、そこはかとなく反骨精神を漂わせた。ディーゼル&GR8とコラボレーションコレクションの中で、ひときわ目を引いたのがディーゼル(DIESEL)と、セレクトショップ・GR8とのコラボレーションウェアだ。フロントや袖に大きくディーゼルロゴをあしらったスウェットや、コピーライト表記を袖ロゴに用いたカットソー、ネグレクトアダルトペイシェンツのボックスロゴをシールのように剥がしたグラフィックにディーゼルロゴを重ねたフーディーなど、遊び心に溢れたロゴアイテムが展開された。また、サブスクリプション型家具ブランド・カマルク(KAMARQ)ともコラボレーションを行っている。
2020年08月28日空き家とは別の建物の一角。ここでも猫が死んでいた発覚は関係者からのSOSだった。動物愛護団体「NPO法人群馬わんにゃんネットワーク」の飯田有紀子理事長が当時の様子を明かす。「昨年10月、私たちの団体に“猫の里親を探している”というメールが寄せられたことがきっかけでした。猫が38匹いて、飼育費用に困っていると相談されました」■荒れ果てた室内に複数の猫の死骸が多頭飼育の現場は温泉地で有名な群馬県みなかみ町。関係者は飯田さんらに「猫は2つの建物に数匹ずつ分けて飼っている」と説明していた。話を聞いていると、相談をもちかけた関係者が「猫はほかにもいる」と切り出した。実はこれらの猫はもともとA(仮名)という男性が飼っていたのだが、避妊去勢はせず増えてしまった。Aは猫を残し、2018年に他界。その後はT(46・仮名)という男を中心に複数の関係者が飼育を引き継いだという。しかし、「Tと9月から連絡がとれない、とのことでした。猫が心配でしたので現場に行くことにしました」(飯田さん)まず、同団体の岩崎一代さんらスタッフはT以外の関係者が世話をしていた猫を確認。健康状態はよかった。しかし、Tが世話をしていた猫がいる同じ建物内の別の部屋を確認すると……。「室内は荒れ果て、大量の糞尿がありました。猫はそれぞれの建物の複数の部屋で数匹ずつ亡くなっていたそうです」(岩崎さん、以下同)ただごとではない、と慌てる岩崎さんらに関係者の1人がおそるおそる打ち明けた。「もう1軒ある」そこはT以外、誰も立ち入らなかった空き家だった。「大家さんに鍵を借りて中に入ると、正面のトイレの入り口で黒い猫が死んでいるのが見えました」(同)日ごろから多頭飼育の崩壊現場などで悲惨な状況は目の当たりにしている同団体のスタッフらでも「血の気が引きました」と絶句した。空き家は1階に水回り含め4部屋、2階に3部屋。各部屋の扉は釘で打ちつけられていたり、ひもやフックで厳重に固定。鍵がつき、頑丈に施錠されていた扉も。「許可をもらいバールで扉をこじあけました。積み重なった糞尿が固まってしまい開かない扉もありました」(同)■「様子は見ている」とウソを重ねたどうにか部屋に入ると中には複数の猫の遺体と糞尿の山。床は腐り、ウジ虫がわき、部屋の中央に空になったエサと水の皿が置かれていた。数日前に亡くなったようなしっかりと形がある遺体、新聞紙に包まれゴミ袋に入れられた遺体、白骨化して形すらとどめていない遺体もあった。これは猫たちが時間差で死んだことを表していた。「空の器を見て“水をくまないと”と思いました。1匹も生きていないのに。それほど混乱していました」(同)窓はすべて閉じられ、換気扇は網や格子で覆われていたためどこからも外には出られない、密室だった。通報すると、最初は「猫でしょ、まぁ行きますけど」としぶしぶの様子だった警察官も現場の状態に顔色が変わった。その後、群馬県警沼田署により現場検証が行われた。猫の遺体は翌日、岩崎さんや合流した冒頭の飯田さんらの手によって1体ずつ確認された。形が残っていたもので21体。骨の欠片しか残っていないものも合わせると50匹以上の猫がいたとみられる。「関係者は半狂乱でした。Tは失踪するまで関係者と毎日連絡を取り合い、みなかみ町にも顔を出していたそうです。ただ、姿が見えなくなることも増え、電話で猫のことを尋ねると“夜、行っている。世話をしているから大丈夫”とか“若い人を行かせているから”と説明していたそうです。関係者は“毎日来ている”と安心してしまったとか……」(前出・飯田さん)事情を知る人物は匿名を条件に取材に応じた。「Tさんから猫のことで何か聞かれたら“若い人が見に来ていたと言え”と言われていた人もいたそうです。でも、そんな人は来ていなかった。全部ウソだったんです」後から明かされた空き家を含めた3か所の建物で死んでいたのはすべてTが世話をしていた猫だった。■ひっかきキズがまるで叫び声のように残されて事件から半年以上がたった7月上旬、空き家に入った。室内は換気され関係者の手でだいぶ片づけられているもののマスク越しでも鼻の奥にツンとくる激しいアンモニア臭や乾いた排泄物のにおいがした。各部屋の壁や扉、床には猫たちが爪でひっかいたおびただしい数のキズがまるで叫び声のように残されていた。複数の関係者の証言をまとめると、Tは昨年の5、6月ごろから飼育放棄を始めたと推測される。遺体を包んだ新聞紙が6月のものだったことや大量のハエがわきだし、ひどい異臭がしたのもこの時期だった。さらに同時期に別の建物でも室内で共食いをしている猫を目撃した人もいた。住民がTに指摘すると、「室内の様子が外から見えないようにブルーシートで目隠しをしたそうです」(前出・事情を知る人物)ただし、空き家以外の建物にはT以外の関係者も出入りしていた。「彼の言葉を信じ、Tの猫には誰もエサを与えていなかった。ほかの猫はエサも与えられ、毛並みもよかった。同じ建物で飼っていられながら生死を分けたのはついたて1つ。なぜ、誰も異変に気づいてあげられなかったのか。様子がおかしいと思ったら面倒を見にいくと思うんです!」と事情を知る人物は憤る。■水を求めて水道の前で死んだ猫もTの猫たちは真夏の閉め切られた室内で、Tが戻ってくることを信じて待ち続け、暑さに飢えと渇きで衰弱し、全滅した。「亡骸は夏を経ても腐敗していませんでした。バリバリに乾いていたんです。持ち上げると砕けました。ある子は水が出てくるのを知っていたのでしょう。水道のそばで死んでいました」と話す岩崎さんには忘れられない猫がいる。「口がちょっとだけ開いていて、キバが真っ白で……かみしめながら死んでいました。どうしてこんな状況になるまで誰も声を上げなかったのでしょうか」と怒りをあらわにした。「昨日までは仲よく一緒に過ごしていた仲間を食べて生きなければならなかった猫の気持ち、残酷という言葉では片づけられません。猫にも感情があります。いろいろなことを考えて苦しんで死んでいった……」(前出・同)■自宅の猫は可愛がっていた飯田さんらは今年4月、動物愛護法44条1項(殺傷罪)違反の疑いでTを刑事告発した。同月下旬に群馬県警はそれを受理し、7月8日にTは埼玉県内で逮捕された。「動物愛護法違反の事件で警察が県をまたぎ捜査し、逮捕したケースは今回が初めてかもしれません。手がかりが少ない中で群馬県警の地道な捜査がTの逮捕につながりました」と説明するのは長年、動物問題に携わってきた動物愛護推進員の川崎亜希子さん。「逮捕当時、Tは自宅で猫を4匹も飼っており、どの猫も太っていて健康的だったそうです」(全国紙社会部記者)自宅の猫を可愛がっても、空き家の猫には目もくれなかった。それどころか世話をしているふりをして関係者にも会っていた。「猫は好きじゃなかったと思います。自分がエサも水もあげなかったら死ぬことはわかっていながら、知らんぷり。なぜそんなことができたのか。自分が殺したという罪悪感を持っているのか聞きたい」(前出・岩崎さん)前出の事情を知る人物はTが猫のNPOを立ち上げようとしていたことも証言した。「“寄付もすぐに集まるし、猫の避妊去勢もできるようになる”と周囲に持ちかけていたそうです」まじめに世話をしようとしていたのかもしれないが、前出の人物は疑問を投げかける。「Tはよく猫を病院に連れていっていました。でも、“治療にいくらかかった”とか“大事にしている”とか周囲にアピールをしていたようです。猫の面倒をみれば褒められる、周囲に認められたくて世話をしていると感じました」その後、金銭的な理由もあり、病院通いも途絶えた。「Tは猫の避妊去勢をせずに増やしたり、次々に拾ってきてしまう典型的なアニマルホーダーではないと思います。猫は自分の自己顕示欲を満たすためのものとしか思っていなかったのでは」(同)■Tとはどのような人物だったのかTとはいったいどのような人物だったのだろうか。複数の関係者によると10年ほど前からみなかみ町に頻繁に訪れるようになったとみられる。朝一の電車で訪れ、夕方には帰るの繰り返しだった。「何しにどこから来ているのか、仕事をしているのかも誰も知らない」(同町の住民)中には「感じのいい人だった」と話す人もいた。「人柄がよくて穏やかで物知りでした。大柄でいつもタオルを巻いて、作業着姿。でも清潔感があって、おしゃれ好きできっちりしていた印象です」(別の住民)一方で、変わりようを覚えていた男性がいた。「関係者が“これから猫はどうするんだ?どこかに相談しよう”とTに言うと“俺だっていろいろ考えているんだ!”と怒りだした。机や椅子を蹴り、怒鳴ることもあったようです。暴れているところを見かけた人もいました」さらに意外な事実を前出の男性が証言する。「子猫が生まれ、また増えてしまうので関係者が困っていた。(川に)流してしまおうか、と話しているとTが“生きているんだからダメだよ”と、たしなめたそうです。そのうちの1匹が弱くて、育つかわからなかった。そうしたらTが“俺が面倒みるから”と引き取ったとか」その猫は件の空き家にいたとみられている。ネグレクトに駆り立てた理由はなんだったのか。Tは群馬県内の出身で両親は幼いころに離婚。祖母と母と暮らしていた。高校卒業後は職や住まいを転々としていたという。「お母さんは身体が弱い人でしたが、仕事をかけもちしてTさんのことを育てていました。お母さんが留守の間はおばあちゃんが面倒をみていて、とても可愛がられていました。親から虐待されていたとは聞いたことがありません」(Tの家族を知る男性)中学時代を知る女性は、「サッカー部ではゴールキーパー。目立つタイプではなかったけど面倒見もいい穏やかな子でしたよ」と驚きを隠さなかった。■見殺しにして罰金10万円は軽い前橋区検は7月28日Tを、動物愛護法違反の疑いで前橋簡易裁判所にて略式起訴。同簡裁は罰金10万円の略式命令を出した。「聞いたときは、怒りよりもあまりの刑の軽さに笑ってしまいました。あれだけのことをしたのにウソでしょって。この判決にはとうてい納得いかないです。Tには法廷で真実を明らかにしてほしかったんですが、叶いませんでした。これが現実なんだなと思いましたが、これでいいのでしょうか。この事実は社会にも問いかけないといけない」飯田さんは打ちのめされた苦しい思いを打ち明けた。6月1日より改正動物愛護法が施行、動物の殺傷や虐待の罰則が引き上げられた。殺傷に対する罰則は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に強化。ネグレクトや遺棄などの虐待には懲役刑が追加され、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」となった。動物愛護問題に詳しい細川敦史弁護士は、「猫たちの部屋の扉を打ちつけて出られなくしていたところは未必の故意だったとも考えられます。ですが、判決は残念な結果でした」と肩を落とす。さらに「想像の範囲ですが」と前置きをしたうえで、「処分は告発した動物愛護法44条1項でなく同2項(給餌・給水をしないこと)を前提にしているのかなと思いました。それだと本案は法改正前の犯行なので、罰金100万円が上限で、そこから罰金額が決められます。ただ、10万円は軽い。それでも20年前はどんな虐待をしても罰金は3万円。当時と比べれば罰は重くなりました」動物愛護への機運は高まるが、世論だけでは司法の壁は変えられないという。「まずは法律を変えることです。そこには世論の高まりが重要でしょう。法律を変えることで処分や処罰、裁判の判決の中身に影響を与えると思います」(細川弁護士)■日本中で起きる猫ネグレクト事件さらにもうひとつの問題を前出の川崎さんが指摘する。「所有権の問題があります。現在の法律では、いくら虐待を受けていても第三者が勝手に飼い主から動物を保護することができません。人間の子どもたちのように緊急保護などができるように法整備も必要です」今回のように悪質でないにしろ、動物のネグレクト事件は日本中で起きている。「罰金だけでは問題の解決にはなりません。飼育禁止などの処分も必要だと思います。人間の虐待や貧困なども実は動物の問題とも関係があるんです。人間の問題が解決すれば動物の問題は起きにくくなります。一緒に考えなければなりません」(前出・同)前出・飯田さんは、「Tには2度と動物を飼わないでもらいたい。言いたい言葉はたくさんありますが、それを言っても亡くなった猫たちは喜びません。あの子たちは私たちが動くことを待っていてくれたんだなと思っています。刑の重さだけではなく、逮捕されたことはひとつの成果かもしれませんが」と話し、声を詰まらせた。「あの子たちは飼われていました。1匹ずつ名前もついていて、ごはんをもらって、人にスリスリするのが当たり前だったんです。それが突然ごはんも水もなくなって、ドアをガリガリひっかいても外には出られなくて、……死んだ。残った子は仲間を食べて、頑張って生きていたんです。Tひとりを罰して終わりではなく、こうした状況を人間側が起こさないこと。自分以外の生き物の痛みを知ることにつなげていかないといけません」(飯田さん)Tは今、失われた命に対して何を思うのか──。
2020年08月22日CA4LA(カシラ)と、BiSHなどのアイドルグループを手掛ける渡辺淳之介のネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)のコラボレーションハット第3弾が登場。2020年3月13日(金)より、CA4LAと、東京・渋谷のマルチプルマニアックスにて販売される。CA4LA×渡辺淳之介のネグレクトアダルトペイシェンツ渡辺淳之介は、BiSHやBiS、ギャングパレード(GANG PARADE)、エンパイア(EMPiRE)、豆柴の大群などの人気グループを輩出するWACKの代表を務めるアイドルプロデューサー。そんな渡辺が手掛けるファッションブランド・ネグレクトアダルトペイシェンツは、アイドルたちがランウェイに登場することでも毎シーズン注目を集めている。CA4LAのコラボレーション第3弾では、2型のキャップを用意。ブランドロゴを刺繍したツバに大きく穴を開けたモデルは、ブラックとホワイトの2色を取り揃える。個性的なデザインながら、モノトーンでまとめることでミニマルな雰囲気に仕上げた。ブルーとレッドの2色を展開するタータンチェック柄キャップは、クラウンをクロス型にデザインしたアバンギャルドなアイテム。クラウンを取り外せば、サンバイザーとしても活躍してくれる。BiSHらをビジュアルに起用なおネグレクトアダルトペイシェンツとCA4LAのコラボレーション第3弾のために撮り下ろしたビジュアルには、BiSHのセントチヒロ・チッチやリンリン、ギャングパレードの月ノウサギ、豆柴の大群のカエデ・フェニックスらを起用。購入者限定で、このビジュアルを使用したポストカード5枚セットがプレゼントされる。【詳細】ネグレクトアダルトペイシェンツ x CA4LA コラボレーションキャップ発売日:2020年3月13日(金)販売場所:CA4LA、マルチプルマニアックス(東京都渋谷区道玄坂2丁目20−0 道玄坂柳光ビル B1)・NEGLET ADULT PATiENTS x CA4LA CROSS CAP SS 16,500円(税込)カラー:ブルー、レッド・NEGLET ADULT PATiENTS x CA4LA NOBRIM CAP SS 16,500円(税込)カラー:ブラック、ホワイト【問い合わせ先】CA4LA ショールームTEL:03-5775-3433
2020年03月16日教育熱心な読者のみなさんなら、「ネグレクト」という言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。ネグレクトとは、子どもを無視して放置するという、虐待の一種のこと。そのネグレクトに含まれるものとして、近年、問題視されているのが「スマホネグレクト」です。それはいったいどんなもので、どんな問題をはらんでいるものなのでしょうか。スクールカウンセラーの経験も豊富な心理学者である、明治大学文学部教授の諸富祥彦先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親のスマホ依存症によって引き起こされるネグレクト近年問題となってきたネグレクトのひとつに、「スマホネグレクト」というものがあります。これは、親のスマホ依存症によって引き起こされるネグレクトのこと。ただ、スマホネグレクトの場合は、子どもを完全に放置しているわけではなく、たとえば食事中に親がスマホばかりを見て子どもとの対話が減るといった、程度としては通常のネグレクトより小さいものといえます。しかしながら、スマホネグレクトも大きな問題をはらんでいることは間違いありません。家族の大切な対話の場である食事中にも、親はスマホばかり見ているのですから、「お父さん、お母さんは自分のことを大事に思ってくれている」という実感を子どもは得にくくなる。そのため、いわゆる愛着、専門用語ではアタッチメントといいますが、親子間における心の絆の形成が弱くなるのです。そうなると、親子関係はうまくいきにくくなる。また、スマホネグレクトを受け続けた子どもは、親から愛されている人間として穏やかに育つということも難しくなるでしょう。数年前に出版された『ママのスマホになりたい』(WAVE出版)という絵本をご存じですか?これは、スマホ依存症のお母さんに対する子どもの心の叫びを描いた作品です。食事中でも、子どもではなくスマホが気になってしまうという人がいれば、ぜひ一度読んでみてください。あなたの子どもも、登場人物の子と同じような寂しい思いを抱いているかもしれませんよ。衝動をコントロールできない子どもが増加中いま、幼い子どものなかに衝動をコントロールできないという子が増えています。小学生になっても、嫌なことがあると寝っ転がって「やだやだやだ!」とバタバタと暴れ、いうことをまったく聞いてくれない3歳児のような子どもが増加中なのです。わたしが小学校の先生から聞いた例を紹介します。ある低学年の女の子が手を洗っていると、水がはねて体にかかってしまったそう。途端に、その子は手足をばたつかせながら、「いますぐ乾かせ!」といったのだそうです。先生が「じゃ、向こうにいって乾かそうね」というと、今度は「いまここで乾かせ!」といって暴れたのだとか……。いま、こういう子どもが増えているのです。わたしは、このことにもスマホネグレクトが関連していると考えています。子どもの情緒の安定には、子どもが親に対して「ママ」と呼べば「なに?」と返してくれるという心のレスポンスが欠かせません。親がすぐそばにいてくれるという安心感のなかで、子どもの心は安定していくからです。それなのに、親がスマホに夢中で、子どもの「ママ」という呼びかけに気づかない、あるいは上の空の返事をしていたらどうですか?子どもはつねに不安を抱えることになり、自分の気持ちを持て余して、先に述べたようなかんしゃくを起こすような子どもになってしまうのです。そういう子どもは、ちょうどスマホが普及しはじめた頃から増加しています。割合を見ても、スマホ依存症の親は10人にひとりくらいで、衝動をコントロールできない子どもも10人にひとりくらいと完全に一致している。この数字からも、スマホネグレクトと衝動をコントロールできない子どもの増加には強い関連があると考えられます。より自覚的になりスマホの利用法を見直すスマホネグレクトの問題を解決するには、親自身がスマホ依存症を断ち切るしかありません。ただ、アルコール依存症と比べると、スマホ依存症を自覚することは簡単ではありません。アルコールの場合は誰もが体に悪いものだとわかっていますし、昼間からお酒を飲むようなことがあれば、完全にアルコール依存症を疑いますよね?でも、スマホの場合、スマホ自体を悪いものだとは考えませんし、スマホ依存症かそうではないかの線引きも非常に曖昧なものです。わたしの調査では、大学生の1日あたりのスマホ利用時間が6時間半でした。それだけ、スマホが生活の深いところまで浸透しています。大学を卒業して結婚し、親になったからといって、スマホの利用時間を減らすということは簡単ではないでしょう。そう考えると、より自覚的に自分自身がスマホ依存症になっていないかと疑い、その利用時間を減らしていくよう考えるべきです。たとえば、スマホを使うのは、トイレに入っているときだけにする。「ちょっとトイレにいってくるね」といって、トイレの中でだけスマホでの用事を済ませるというふうに制限するのです。あるいは、子どもとの関係を思えば、「子どもの前ではスマホを触らない」というルールを自分に課すのもいいと思います。毎日、子どもと接することができるのは、子どもが18歳や22歳になるくらいまでの限られた時間です。そのかけがえのない時間を大切にするためにも、スマホの利用法を見直してみてください。『孤独の達人 自己を深める心理学』諸富祥彦 著/PHP研究所(2018)■ 諸富祥彦ホームページ■ 明治大学文学部教授・諸富祥彦先生 インタビュー記事一覧第1回:“手がかからない子”ほど要注意!「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法第2回:「過干渉」育児が招く悲しい結果。“見守るだけでは物足りない”親が危険なワケ第3回:「スマホ依存の親」と「衝動がコントロールできない子ども」の意外な関係第4回:完璧な子育てを目指さなくていい。親はもっとわがままに“自分の幸せ”を追求しよう(※近日公開)【プロフィール】諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)1963年5月4日生まれ、福岡県出身。心理学者。明治大学文学部教授。「時代の精神(ニヒリズム)と闘うカウンセラー」「現場教師の作戦参謀」を自称する。1986年、筑波大学人間学類卒業。1992年、同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、同大学教育学部助教授を経て、2006年より明治大学文学部教授。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事、教師を支える会代表等の肩書も持つ。専門は人間性心理学、トランスパーソナル心理学。孤独、むなしさ、生きる意味などをキーワードに、現代人の新たな生き方を提示している。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の育て方』(いずれもWAVE出版)、『子育ての教科書』(幻冬舎)、『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(集英社)、『他人の目を気にしない技術』(PHP研究所)、『「プチ虐待」の心理』(青春出版社)、『「すべて投げ出してしまいたい」と思ったら読む本』(朝日新聞出版)、『知の教科書 フランクル』(講談社)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月26日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手掛けるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)、Rakuten Fashion Week TOKYO 2020 S/S2日目となる2019年10月15日(火)に2020年春夏コレクションを発表した。10代の頃憧れていたファッションを模倣「ティーンエイジドリーマーズ(tEEnAgE DrEAmErs)」というテーマの通り、今シーズンは渡辺淳之介の10代の頃に憧れた音楽、ファッションなど全てを詰め込んだコレクション。“男子校出身で彼女が欲しかった、異性とイチャイチャしたかった…”そんな少年のピュアな憧れも、ペアルックの提案やカップルでのウォーキングなどでチャーミングに表現している。人気ドラマのキャラクター再登場!?新作ピースと言いながらもどれも“どこかで見た見かけたことがある”ような馴染みのあるスタイルだ。ビッグサイズのチェックシャツにホワイトのワイドパンツ、イエローのチーフを身に着けた男性は、まさに池袋ウエストゲートパークのキングの姿そのもの。“連れの”女の子もパンチの効いた濃いメイクにバンダナを巻いたロングヘア。お尻も太ももも露わにしたマイクロミニスカートにブラックのジャケットは、間違いなく“ジェシー”を再現しているようだ。今季は、中学・高校時代の渡辺青年に影響を与えたカルチャーをこういった形でコミカルに模倣した。そのファッションに憧れ、その音楽に酔いしれたカート・コバーン、マルコム・マクラーレン…彼らのエッセンスもふんだんに取り入れられている。地べたに座って食べるヤンキー再現そして渡辺青年がもう一つ憧れたのは、ヤンキー。やんちゃな悪になりたいのになりきれなかった…そんな心残りをヤンキールックで形にした。上下ジャージのスタイルや、アニマル柄のスウェットセットアップなど、地元にたまるヤンキーを想起させるウェアが展開される。ショーの最中には、地べたに座って食事する姿も。今季食べたのは、流しソーメンだった!ヤンキーが好むもの…とアイデアを膨らませたのは、漢字のモチーフだ。カート、マチルダ…など憧れの人の名を漢字で当て字にして、ジャケットのバックスタイルや、ジャージのサイドラインなど、あらゆるところにあしらった。輝くレーザー演出で約40年後の“いま”を再現飛び抜けて印象的なのは、レーザーの演出だ。オーロラのように輝きゆらめくレーザーは、デザイナー本人が歌ったという音色にあわせて色とりどりに変わり、リズムに合わせて動き出す。モデルが通ると洋服に当たって、流れ星のようにキラキラと輝くときもあった。このレーザー演出には、登場しているものは80~90年代のものでも、発表しているのは約40年後の現代だよ、とメッセージを込めたものだという。今季も仲間たちとコラボレーションを行い、丹野真人によるTシャツレーベルタンタン(TANGTANG)や、日本のハットメーカーカシラ(CA4LA)コラボレーションピースを展開。オタク文化などをモチーフに描くJUN INAGAWAのイラストもウェアに登場している。
2019年10月18日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手掛けるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)の2019年秋冬コレクションが、2019年3月20日(水)に渋谷ヒカリエにて発表された。テーマは「“FAKE” ほぼだいたい偽物」だ。“MODEL”がモデルじゃないランウェイショーが始まると、予想を裏切られた。“MODEL”とわざとらしくプリントしたロゴTシャツを着た、黒子のモデルたちがトルソーを引き連れて登場する。そして、そのトルソーに着せている服を着た黒子のモデルたちのウォーキングの様子が、巨大な電子板に映し出されている。本物のモデルが目の前で歩いているのに、画面越しのモデル、つまりは偽物を見るという不思議なショー。でも、よく考えてみれば私たちの日常では、ありふれてしまったこと。画面越しに見る洋服をバーチャルで買って、購入後やっと服を手に取って、自分が身に着けるということと同じのような気もする。演出だけでなく服も、なかなかの“不思議度”だ。袖ぐり、後ろ中心などに取り付けられたジッパーは、各箇所すべて同じ長さで設定されていて、これらを繋ぎ合わせれば、形の異なる服をつくることができる仕組みだ。さらに、シャツ、ブルゾン、スウェットなど全てのアイテムが、繋ぎ合わせられるようになっている。オンブレチェックのシャツ、怪獣の絵が刺繍されたスカジャン、マルチカラーのブルゾン、ヒョウ柄のジャケット……。序盤はひとつのアイテムだったものが、後半になるにつれて入り乱れ、ドッキングされていく。このジッパーの仕組みを、ランウェイの流れで紹介している。ジッパーのデザインが生み出したのは奇抜さだけでなく、服を着ることで自分を偽るという意味合いも込めてのことかもしれない。そもそも、今回のテーマは、渡辺が最近感じていた「自分は偽物なのか」という疑問から提示した言葉だ。服を華美にすることは、自分を偽ることなのか。それが本物の自分なのか。この愉快なランウェイは、意外にも哲学的な意味で、服の意味を問うことに繋がった。
2019年03月23日BiSやBiSHのアイドルプロデューサー、渡辺淳之介が手掛けるネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)が、2019年春夏コレクションを2018年10月16日(火)に発表した。なお、ランウェイにはBiSHのメンバーであるアイナ・ジ・エンド、リンリン、アユニ・Dらが登場した。BiSやBiSH手掛ける渡辺淳之介のファッションブランド東京コレクション初参加となるネグレクトアダルトペイシェンツは、渡辺淳之介が立ち上げたブランド。ブランド名は日本語に直訳すると"大人な患者は無視"。アンチ アダルト(ANTi ADULT)をテーマに、渡辺自身が抱える"大人になりきれずに大人になってしまった後悔"を、ファッションで表現していくという。"HEAVY SiCK" もはや現代、みんな病気。2019年春夏シーズンのテーマは「"HEAVY SiCK" もはや現代、みんな病気。」。渡辺はテーマについて「今の世の中の風潮を見ていると、病気な人たちが多いんじゃないかと感じる。みんなが子供の頃みたいに自由でいたら、もっと楽しいんじゃないかと思って、もはや大人たちは全員病気、という設定にした」と語っている。会場に足を踏み入れるとまず耳に留まるのは、渡辺が"歯医者で流れている音楽"をイメージしたという、オルゴール調のJポップ。広い会場にシュールに鳴り響くその音楽が、リズミカルなショーミュージックに変わると同時に、ファッションショーがスタートした。ショーの幕開けを飾ったのは、メインイラストレーターのFACEによるアイコニックなブランドロゴを配したパーカー、サイドラインに"NAP"ロゴを施したハーフパンツ、真っ赤なバンダナを合わせた10人のモデルたち。ユニフォームのごとく皆一様に同じピースを身に着けた彼らが、ランウェイに一斉に登場し、渡辺のファッション界への挑戦を印象付けた。みんな子供みたいに戻れたら...そんな言葉の通り、ランウェイに現れるモデルたちからは、どこか懐かしい学校の風景が見て取れる。ファッションショーなんてお構いなし、カップ焼きそばを夢中で頬張る自由奔放な少女は、学校から指定されたジャージのようなセットアップを身に着けている。足元を彩るグリーンのシューズは、まるで校舎の中で履く内履きのようだ。パンク・ロックなムードは、コレクション全体を通して多用された、特徴的な表現の1つと言って良いだろう。パンをくわえたままランウェイに出てきてしまった少女は、パンキッシュなレオパード柄のジャージを纏い、どこか気怠い表情を浮かべている。ベルトのディテールが印象的なレッドチェックのセットアップに、ハードな鋲を打ち込んだスリッパを組み合わせたルックも、反抗心をむき出しにしているかのよう。病院着を彷彿とさせるパステルグリーンのピースを纏ったモデルたちは、車椅子と共に登場。バックスタイルには、渡辺にとって特別な場所だというDOGENZAKA=道玄坂と、MEDICAL CENTER=メディカルセンターのロゴが配されている。自ら点滴を運びながらランウェイを進む少年の背中には、BAD HEALTH=不健康の文字が描かれた。アイドルをショーモデルに起用ショーモデルには、アイドルたちを起用。BiSHからアイナ・ジ・エンド、リンリン、アユニ・D、BiSからはアヤ・エイトプリンス、ペリ・ウブ、ミュークラブらが参加した。また、フィナーレには、パフォーマンス集団・電撃ネットワークのギュウゾウがサプライズ出演し、観客から注目を集めていた。タンタンやCA4LAとのコラボレーションもショーでは他ブランドのコラボレーションアイテムも披露。丹野真人によるタンタン(TANGTANG)のTシャツや、CA4LA(カシラ)のハットなどが展開された。また、今後のグラフィックなどにはグラフィックアーティストのYOSHIROTTENも起用する予定だという。
2018年10月20日辻仁成さん日本屈指の歓楽街・博多中洲で生きる無戸籍の少年、蓮司。蓮司に戸籍を持たせようと奔走する警察官の響、よき理解者であるテント暮らしの源太、蓮司を気にかける客引きの井島、食事を与えてくれるスナックのママ・康子、中洲に暮らす同い年の緋真――。辻仁成さんの最新刊『真夜中の子供』は、土地に根づいた人々の温かさによってたくましく成長していく蓮司の姿を描いた群像劇だ。■日本の子どもたちの未来を支える小説「僕はフランスに住んでいるのですが、小学校を卒業するまでは親に登下校の送り迎えが義務づけられていたりなど子どもがしっかりと守られているんです。それだけに日本の児童虐待のニュースが信じられない。子どもは日本の未来ですから、僕はその子どもたちの未来を支えられるような小説を書きたいと思いました」『真夜中の子供』の初出は、河出書房新社の文芸誌『文藝』。実は、辻さんは20代のころ、『文藝』に小説が掲載されることを夢見ていたそうだ。「そのころの僕は、まだ作家ではありませんでした。でも、ひょんなことから知り合った当時の『文藝』の編集者に誘われて、編集部に遊びに行ったことがあったんです。“ここで小説を書きたいなぁ”と思っているうちに集英社の新人賞を受賞し、いろいろな出版社から本を出せるようになりました。でも、河出書房新社とは縁がなかったんです。いつか『文藝』で渾身(こんしん)の作品を書いてみたいという思いはずっとありました」今回、『文藝』への掲載にあたり、芥川賞受賞作でもある『海峡の光』のような作品を書きたいと思ったという。「『海峡の光』は函館の刑務所が舞台の物語で、刑務所という箱庭世界を描くことで日本の風潮を形にしようと思って書きました。今回は中洲という小さな島を日本に見立て、そこに生きる少年を描くことで虐待や移民、無戸籍といった日本が抱える社会問題を投影させたいと考えました」蓮司には日本人の親がいるものの、戸籍はなく育児放棄されているような状態だ。それでも辻さんから見た蓮司は、“愛(いと)おしい子”なのだという。「蓮司は恵まれない環境のなかにいても、自殺もせず、人を殺すこともしない。彼はとても強い子で、ただ、たまたまこういう親のもとに生まれ、生きなければならなかった。この作品では、たとえ親が親として機能していなくとも、周りの人たちがその子どもを支える世界を描きたかったんです」■山笠が強い形で中洲や福岡を守っている本作には多くの魅力的な人物が登場する。例えば、客引きの井島は、すでに製作が決まっている映画においてキーパーソンとなりうる人物なのだそうだ。「福岡には、韓国や中国からの移民の人たちがたくさん住んでいるんです。物語のなかでは井島の国籍を明かしていませんが、僕はインドネシア人を想定して書きました。蓮司との関わりはもちろん、井島の存在は移民問題ともつながっていくんです」物語の中では、折に触れてユネスコ無形文化遺産にも登録されている『博多祇園山笠』の場面が登場する。老舗料亭の経営者でもあり、山笠振興会の重鎮である高橋カエルも大きな存在感を放つ人物のひとりだろう。「例えば、昔から中洲にお店を構えている花屋の大将とか、中洲に行くとカエルさんみたいな人がたくさんいます。見た目はちょっと怖いかもしれないけど、話すとそんなことはない。あれだけの風俗店があって、ヤクザもいてドンパチもあるけれど、でも、中洲に行くと人情に包まれるんです」子どものころ福岡で暮らしていた時期があるという辻さんは、山笠によって中洲の治安が維持できているのだと分析する。「山笠は祭りではなく神事なんです。特に福岡の男性は気が荒いのですが、それでも節度が保たれているのは、法律よりも強い意識が彼らの中にあるからだと思います。山笠が強い形で中洲や福岡を守っているんです」本作には、辻さんの経験や感情が随所にしみ込んでいるという。「この15年ほどはフランスで息子とふたりで生活しています。子どもを育てていると周りの人が応援してくれますし、特に息子の学校の親御さんたちにすごく支えられているんです。自分の子どもはもちろん他人の子どもにもやさしくすることの大切さやありがたさを身にしみて感じています」辻さんは来年、小説家デビュー30周年を迎える。『真夜中の子供』は、小説家としての技術をすべて注ぎ込んで書き上げたのだそうだ。「文体にしてもトリックにしても視点にしても、今まで培ってきた技を全部、使い切ったような感覚で、小説家としての集大成ともいえる作品です。純文学の要素が強いもののエンターテイメント色も濃く、ジェットコースターのような小説です。根底に流れているのは、“子どもがいたらみんなで助け合っていきましょうよ。だって、同じ日本人じゃないですか”という思いです。世界中の子どもは地球の子ども、そんなふうにとらえることができれば、もっとみんなが仲よく幸せになれると思うんです」■ライターは見た!著者の素顔辻さんは、日本に来ると必ず行く場所があるそうです。「フランスにはコンビニのようなお店はないので、息子とふたりでコンビニ巡りを楽しんでいます。最近、必ず買うのが豆腐そうめんのごまだれ味。あと納豆ですね。コンビニのキムチはおいしいし、カツサンドやから揚げとかも大好きです。ウイスキーなんかも小瓶で売ってて、安くてうまいですよね。ちなみに昨日は298円のニッカのウイスキーを買いました。僕、かなりの庶民派なんです(笑)」<プロフィール>つじ・ひとなり◎東京都生まれ。1989年『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞を受賞。作家・詩人・ミュージシャン・映画監督と幅広いジャンルで活躍している。1997年『海峡の光』で第116回芥川賞、1999年『白仏』のフランス語版Le Bouddha blanc でフランスの代表的な文学賞であるフェミナ賞の外国小説賞を受賞。『日付変更線』『エッグマン』『立ち直る力』など著書多数。(取材・文/熊谷あづさ)
2018年08月16日「無戸籍の日本人」は年間3000人、1日に8人以上発生している(写真はイメージ)連日のように繰り返される児童虐待事件の報道に心が痛む。平成27年度の虐待死は84人で、実に4日に1人、幼い命が虐待により犠牲となっている。一方で、出生から何らかの事情で戸籍がなく、実質「存在しない者」とされている「無戸籍の日本人」は年間約3000人、1日に8人以上発生していると聞いて驚かない人がいるだろうか。■誰も知らない戦後の混乱期などを除き、日本で、出生届が出されていない「無戸籍児」の存在が顕在化し、多くの人の知るところとなる契機となったのは、1988年に発覚した「巣鴨子ども置き去り事件」である。この事件は、父親が蒸発後、4人の子どもたちを育てていた母親が、恋人と暮らすために幼い兄弟の世話を長男に任せ、家を出たことから始まる。母親は生活費として毎月数万円を送金し、時折様子を見に来ていたが、それも途絶えがちになった中で、子どもたちだけで暮らしていることを知ったアパートの大家が警察に通報。調査の中で、2歳の三女が14歳の長男の友だちに折檻(せっかん)されて死亡。遺体は雑木林に捨てられていたことが発覚し、アパートからはこの妹以外にも生まれて間もなく亡くなった子どもが白骨化して発見された、という心痛ましい事件である。さらに衝撃だったのは2歳から14歳の兄弟たちは、いずれも出生届が出されていなく「無戸籍」だった、ということだ。2004年、是枝裕和監督はこの事件をもとに『誰も知らない』という映画を制作し、カンヌ国際映画祭ほか、国内外の映画賞を多数獲得している。行政の手も、学校も、近所の目すら入らない、まさに『誰も知らない』状態で育つ「無戸籍児」たち。子どもたちの幼さに比しての過酷な生活状況は、映像化されてさらに社会に衝撃を与えた。こうした「親の住居が定まらず、貧困などの事情もあり、出産しても出生届を出すことまで意識が至らないか意図的に登録を避けるケース」の相談は減るばかりか増加している。子どもたちはまさに「誰も知らない」状況で生き、「自分で自分を証明できないこと」に葛藤を抱きながら暮らしているのである。背景にあるのは「親の離婚」「貧困」「暴力」「虐待」等々。これらが複合的、重層的に絡みながら、彼らを追いつめる。彼らは学校や地域という枠からこぼれている上に、「最後の砦(とりで)」のはずの役所や国に登録さえされていないのである。確かに存在しているにもかかわらず、「いないもの」として扱われ、ほとんど誰にも知られず、閉鎖的な空間の中で育つ子どもたちは、「自分は誰か」という問いに、おそらく誰よりも早く対峙(たいじ)しなければならない。「巣鴨子ども置き去り事件」から30年が経つ。果たして状況は良くなっているのだろうか。■「成人無戸籍者」たちの憂鬱(ゆううつ)無戸籍者が「無戸籍であることの不利益」をもっとも強く被るのは、実は学齢期ではない。成人近くになり、自立をしようと思った時から苦悩が始まる。戸籍がなければ基本的には住民票もないため、給与の振込先の銀行口座を開設することもできず、携帯電話の契約も、マンションやアパートを借りることもできない。こうして彼らは「誰かに頼む」か「誰かになりすます」しか生きる術がない状況に追い込まれるのだ。それでも2000年代初期まではまだ良かったと、彼らは口々に言う。ここ数年で職場などで身元の確認や公的証明書の提出が求められるようになり、より「働く場所」に窮するようになってきているのだ。住民票すらない中では今やマイナンバーも得られず、一般企業で働くことには制限が出る。当然、ブラック企業やアンダーグラウンドの仕事場が彼らを吸収していく。しかし「非人間的」な扱いを受けても抵抗できない。「登録されない」「無戸籍」とはそういうことなのだ。■「できる」けど「できない」近年では無戸籍者たちの存在も認識され、法務省においても「無戸籍者ゼロタスクフォース」が立ち上がり、状況の改善が図られている。戸籍がなくとも一定の条件を満たせば住民登録が可能になったり、就学、医療保険、パスポート、そして婚姻、投票などもできるようになっている。しかし現実には、制度的に「できる」と実際に「できる」は違う。機会を行使するためには幾重にも条件がつく。ひとつひとつ、一回一回が「交渉」となる。例えば、婚姻だ。私が支援した無戸籍者たちの中では、幾人かは無戸籍のまま婚姻した。多くはお腹に子どもがいて、無戸籍を連鎖させたくないという当事者たちの強い思いがあった。ただし、その過程は戸籍を得る過程と同等、もしくはそれ以上に困難を極める。婚姻するのに際し、無戸籍者本人の性別の確認できるもの(出生証明書など)や、母または父ほかの「なぜ無戸籍だったのか」などについての陳実書等々、提出しなければならないものが多過ぎて大抵の人はあきらめてしまう。そもそも資料がないからこそ無戸籍なのに。実際、無戸籍者、そして婚姻しようとする相手方の双方に婚姻の意志がありながらも結果的に婚姻できず、その後、別れるといったケースは無数にある。日本国憲法第24条で高らかに謳(うた)われても、婚姻は「両性の合意のみ」では成立をしない。知識と証拠となるもの、そしてお金と根気。戸籍がありさえすれば、タダで何の苦痛もなくできることなのに。繰り返しになるが、この「できる」を役所の窓口では「できない」として行政指導される場合が本当に多い。むしろそれが通常だということだ。特に学校教育を受けていない無戸籍者にとっては、役所の人間が言うことは「絶対」である。本人たちはその自覚がなくても、そのひと言に「できない」と思い込んでしまうといったケースが多い。役所の窓口だけではない。国民にとっては正義を果たす最後の砦である裁判所ですら「担当者の違い」などにより、「できる」ことが「できない」にされてしまう。宝くじを買うような「当たり外れ」が、公的な場所で現実にあるのである。だからこそ、無戸籍者は一刻も早く戸籍を作りたいと願う。その思いで、行政に相談に行き、裁判所に向かう。「普通の人として生きたい」と戸籍を懇願する彼らを次に待ち受けるのは、本来は彼らを守るためにあるはずの「民法」の壁、「法律」という壁なのである。なぜこうした理不尽が解決しないのか。『日本の無戸籍者』(岩波書店)で詳しく解説している。「明日、あなたの戸籍がなくなるかもしれない」という本の帯に書かれた言葉が決して大げさでないということを、誰もが知ることになるだろう。(文/井戸まさえ)<プロフィール>井戸まさえ1965年生まれ。東京女子大学卒業。松下政経塾9期生、5児の母。東洋経済新報社記者を経て、経済ジャーナリストとして独立。兵庫県議会議員(2期)、衆議院議員(1期)、NPO法人「親子法改正研究会」代表理事、「民法772条による無戸籍児家族の会」代表として無戸籍問題、特別養子縁組など、法の狭間で苦しむ人々の支援を行っている。近刊に『日本の無戸籍者』(岩波書店)。
2018年04月08日「自分は虐待をしているのではないか?」1991年より都内で、子どもへの虐待防止のための電話相談などボランティアで支援を続けている民間団体の「子どもの虐待防止センター(CCAP)」には、相談者からこういった疑問を投げかけられることも少なくないそうです。前編では、ベテラン相談員・Mさんに「虐待の境界線」をお聞きしました。続く後編では、子育てしにくい時代に、どうやってできるだけ怒らずに子育てをしていけるか、というお話をうかがいました。■児童虐待防止法も影響? 周囲の目がきゅうくつに感じる「現代の子育て」── 長年相談を受けている中でお母さんたちの相談内容が変わってきたという印象はありますか?Mさん:私の主観的な印象ですが、「周りに子どもがいるのが当たり前」の環境から、「子どもと接する機会がない、子どものはしゃぐ声や泣き声を普段耳にしない」という環境になってきているように思います。その中で子育てをするのは大変ではないかと感じています。── 今の環境は、お母さんたちにとってきゅうくつなのでしょうか?Mさん:電話相談を受けるなかでも、「スーパーで子どもがダダをこねてギャーっと騒いでしまったので叱ったら、周囲からは冷たい視線。通報されるのでは? といたたまれなくなって、買い物もそこそこに家に帰りました。ドアを閉めた途端、つい子どもに『何なのよ!』と怒鳴ってしまった。今、子どもはイヤイヤ期真っ盛りなのはわかっているのに…」などと話す方もいらっしゃいます。──私の周囲でも、「子どもを叱っていたら児童相談所の人が来た」という笑えない話を結構聞きますが、2000年に児童虐待防止法が成立して、通告が増えた影響はありますか?Mさん:通告は困っている親子を支援するためのものなのですが、お母さんたちは「助けられている」というよりは「見張られている」ように感じる面があるのかな、と感じています。──相談を受けているなかでお母さんたちのとまどいを感じているんですね? Mさん:小さい子の機嫌をコントロールするのは難しいことです。親ならそれをうまくできるはずというプレッシャーを受けて頑張るけれどうまくいかない、ということだと思います。── そんなきゅうくつな中で、どのように子育てをしていったらいいのでしょうか?Mさん:難しいことですが、少し心に余裕を持てたらいいですね。親も子育てしながら親として成長します。失敗したと思ったら「言い過ぎたね。ごめんね」と正直に伝えたらどうでしょう。「おやつ食べようか。本でも読もうか」と親子共に気持ちを切りかえられたらいいのでは?子どもとの関係ってもっと広いし深いので、一つのことにとらわれすぎずにやっていってもらえたらいいな、と思っています。■自分の中の「コップの水=たまったストレス」をあふれさせないためには?── 具体的にはどうすればいいでしょうか?Mさん:ストレスがたまりにたまった時って、コップにお水がいっぱいいっぱいの状態と似ていますね。表面張力でかろうじてこぼれていない状態のようなものです。だから、そこで何か起こると、最後の一滴となってコップに注がれ、一気に水があふれてしまうんです。── そうですね。子育て、家事、仕事とあふれそうな状況は私自身よくあります。そういう時は申し訳ないけれど、子どもに八つ当たり気味に怒ってしまう時もあります。Mさん:皆さんそういう状況で電話をかけてくれるので、「子どもにやりすぎてしまった」「自分は反省している」「でも夫はこういうことをわかってくれない」と話していくと少し余裕が出てきて、子どもに当たってしまう今の自分が見えてきます。だから、お母さんがいっぱいいっぱいになった時は、コップの水が一気にあふれないように、少し自分からこぼせるといいですね。子どもには成長段階があって、時期がくれば今まではなんだったのか? ということも多いです。── 自分の中のコップの水を減らすのが大切ということですね。具体的にはどのような方法がありますか?Mさん:今はいろいろなところで相談を受け付けていますから、こういう電話相談などにかけてみるのも一つの手だし、どこかに子どもを預けたり、休みの日は夫に預けて自分の好きなことをやる時間を少しとったり、というようなことをやって、しのいでいけたらいいのではと思います。── 子育てだけの世界から少し離れる、ということですね。Mさん:1日24時間、365日お母さんをやっていると、すごく疲れますよね。だから、お母さんも1人になれる時間は必要ですよ、と話すと「食事もトイレもお風呂も、1人の時はない!」と初めて気づかれるんです。それでちょっとでも1人になれる時はないか、ホッとできるのはどんな時かを一緒に考えます。ワンオペで育児されている方も多いですが、公的サービスなど使えるものは何でも使って、少しでもストレス解消できるといいですね。── 電話をかけてくるのもワンオペ育児の方が多いのですか?Mさん:多いですね。そういう方はワンオペという大変な状況のなかで、すごく頑張っているんです。なのに「もっとやらねば。大変だと思うのは子どもを愛していないからなのか」と自分を追い込んでしまっているのが本当に残念です。── まずは、自分が大変ななか頑張っている状況を自分でほめてあげて、心に少しでも余裕を持つことが大切なんですね。 ■「どういう時に怒ってしまう?」自分の怒りパターンを把握── そのほかに怒りすぎない方法はありますか?Mさん:そうですね。あとは怒りたくなるけれど、視点を変えると超かわいい子どもの姿を撮る“おバかわ写真”のような方法でしょうか。ギリギリの状況は変えられない、腹が立つのも仕方ない。でも、せめて腹が立つのを笑いに変えられたら、親子共にハッピーですね。── 笑いに変えるなど自分なりにしのぐ方法をちょっと探してみる、ということですね?Mさん:怒りすぎてしまう時って大体、同じパターンになっていませんか? いつものように親子のやりとりをして、気がつけばいつものように怒っていた。そのようなやり取りになった時に、先ほどのおバかわ写真を撮るとか「あー始まった、始まった」と呪文を唱えるとか、その場を離れる、深呼吸するなど自分なりにしっくりくるものを探して、「あー、また怒っちゃった」と後悔せずにすめばいいな、と思います。── パターンを把握して、対処法をいくつか持っておくといいんですね。Mさん:パターンのどこかを変えると流れが変わります。この言い方で話してみよう、このタイミングでこうしてみようなど、なるべく楽しくなるようなことに変えながらやってみる。それでダメだったら、「あ、ダメだったな。次はどの手でいこうかな」くらいの気持ちで。── それ以外に何かありますか?Mさん:子どもの行動を(a)好ましい、(b)やめさせたい、(c)してはいけない、のように3つに分けてみてはどうでしょう。(c)は命にかかわるなど重大なことですが、(b)は時期を待つ選択もあるかもしれません。親も言い出すと意地になって引くに引けなくなる時期もあったりしますのであきらめる、というか、今すぐにどうこうしようとせず、ちょっと置いておくのはどうでしょうか。── 今日はありがとうございました。日々、子育てに困っているお母さんたちに向き合っているMさんのお話は大変参考になりました。取材なのに、ゆったりとした口調で、こちらの話も丁寧に聞いてくださるMさんとのインタビューは時折、自分の子育て相談をしているような錯覚に陥りました。そのMさんが「子どもを怒らない」ための対策としてあげるのが次の3つ。1.1人でがんばりすぎず、できるだけ心に余裕を持つ。2.自分が怒ってしまう原因などパターンを見つけ、(できれば楽しめる)対策を考える。3.あきらめる(今は置いておく)。ほぼワンオペで、コップの水もかなりギリギリの筆者自身の話も聞いていただき、「怒りたくないのに怒ってしまった」と後悔を繰り返す日々を抜け出す多くのヒントをもらったように感じました。長年、親身に困っているママたちに寄り添ってきているMさんのような方たちに話を聞いてもらうのも、とてもスッキリしそうです。取材協力: 社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP) 子どもの虐待を早期に発見し、虐待防止を支援するために1991年に設立された民間団体。研修を受けた相談員と、医師、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、行政経験者、教育関係者などが活動しています。CCAPでは、子育てに悩む方のための電話相談、母親のグループ(MCG)、CCAPペアレンティングプログラム講座「親と子の関係を育てるプログラム」などを行っています。相談の電話番号は、03-5300-2990(平日10:00~17:00 土曜日は10:00~15:00/通話料以外は無料)取材・文/まちとこ出版社 石塚由香子
2018年03月10日「大きな声で子どもを怒鳴ってしまったら、児童相談所の人が来た。近所の人に通告されたみたい…」。ママ友の飲み会で、このような笑えない話が出ることも決して珍しくない昨今。つい子どもを怒鳴ってしまい「自分のしていることは虐待ではないか!?」と不安になっているお母さんも少なくないのではないでしょうか。「どこまでが虐待で、どこまでがしつけ?」という疑問を解消すべく、都内で1991年より虐待防止に向けて電話相談を始めとした支援をボランティアで続けている、民間団体の「子どもの虐待防止センター(CCAP)」にお話をうかがってきました。■一般的な境界線は? 東京都発行の児童虐待予防パンフに見る「虐待」一般的には虐待とはどのような状況をいうのでしょうか。東京都発行のパンフレット「みんなの力で防ごう 児童虐待」(2017年度版)によると、虐待は、1.身体的虐待 2.性的虐待 3.ネグレクト(養育の放棄または怠惰) 4.心理的虐待という4種類があります。2016年度の東京都の統計データでは、約10,000件の中で、心理的虐待が55.0%、身体的虐待が24.7%、ネグレクト19.5%となっています。そして、実母による虐待は53.8%、実父によるものが38.7%となっていて、お父さんよりもお母さんの虐待が多いようです。また、同パンフレットによると、虐待は子どもたちに次のような「深刻な影響」があるとされています。*発育・発達の遅れなどの身体症状。*情緒不安定、感情抑制、強い攻撃性などの精神症状があらわれることがある。■「虐待かどうか」ママたちが気になるのはなぜ?お話をうかがったのは20年近く子育ての電話相談をボランティアで受けてきたMさん。「虐待としつけの境界線はあるのでしょうか?」という冒頭の質問に対して、やさしい口調で次のような返事がありました。Mさん:電話相談でも「これって虐待ですか?」とたずねるお母さんはいて、皆さんものすごく心配していらっしゃいます。でも、虐待かどうか、その境界線を引いて仕分けすることに、どれくらい意味があるのかな、とはちょっと思います。思いがけない答えが返ってきて、ハッとしました。なぜ自分たち母親は「虐待の境界線」が気になるのでしょうか? 法律に触れるようなことは犯していないはずだし、子どもも元気に育っている。それなのに心配なのは、「自分の子育てはこれで大丈夫」という判断基準がない不安からでしょうか? 「虐待じゃない。しっかり子育てをしているよ」というお墨付きを誰からかもらいたいという気持ちなのでしょうか?「自分は虐待の境界線を知って、どうしたかったんだろう?」。そんな気持ちとともにインタビューは進みました。Mさん:私はまず、相談してきた方に「あなたはどう思う?」とお母さんの思いを聞いています。あるいは、「虐待ではないかを判断する立場ではないけれど、あなたが、自分がしていることをあまり良いことだと思っていなくて、今、困っているように感じられるのだけど…」と話すんです。── 虐待かどうかという答えを出さないんですね?Mさん:たとえ「それは虐待ではありませんよ」と言われても、「良かった。ホッとしました」と言って終わるものではありませんよね。モヤモヤを抱えているから電話をかけてきているので、しっかりその思いを聞かせていただきます。そして「少しスッキリしました」と言って電話を切ってもらいたいと思っています。── 確かに、「虐待ではありませんよ」と誰かが保証してくれても、お母さんたちの「自分の子育てはこれで良いのか」という心配がなくなるわけではないですもんね。■子どもを「かわいい」と思えない時があっても当たり前Mさん:子どもがかわいく思えないと、自分のことを母親失格のように感じてしまうお母さんも多いのが気になっています。だだをこねて泣き叫んでいれば、かわいく思えない時だってあって当然なのに、「ダメな親だ」と自分を責めてしまうのです。── その気持ちよくわかります。私も、遠くから眺めている時と寝ている時はかわいいのになあ、と思うこともしょっちゅうです。Mさん:お母さんにとって、子どもは大事な存在で、だからこそ精一杯努力しているわけです。でも努力が報われなかったり、ギリギリの状況になったりした時はかわいく思えなくても普通なんだ、と自分を許してあげていいと思います。── 子どもをかわいくないって思う気持ちがあってもいいんですね。Mさん:大事だから放りだせないし、もっと子どものために良くしてあげたいし、だけどうまくできないからイライラもするし、腹も立つ。そして、そういう自分を責めてしまうんです。そんな時は寝顔を見て「かわいい!」というので十分だと思います。 ■怒ることはしつけではない…虐待としつけの境界線── 子どもは大切だから、なんとか良い子に育ってほしいと思うからこそ、うまくいかない時につい腹が立って怒ってしまうんですね。よく、虐待の事件で、「しつけのつもりだった」などという報道もありますが、この差をどう思われますか?Mさん:しつけというのは本来、子どもが自立していけるようにサポートすることで、決して親の感情をぶつけることではないと思っています。子どもが自分の生活をきちんと立てていけるように基本的なところ、例えば、社会で生きていける信頼感や他人との関係のベースになるものを築くためのものなのではないでしょうか? ── 感情をぶつけるのはしつけではない、ということですね。Mさん:親が怒りすぎた時って子どもが失敗とか間違いをした時ですよね? 失敗とか間違いって、ふつう誰もがするものでしょう? だからそうした時に感情を爆発させるのではなく、どうすればいいかを教えられたらいいですね。── 例えば、どのように?Mさん:「なぜこういうことをしたの?」と聞くことから始めみてはでどうでしょうか? 例えば、子どもが友だちのおもちゃを無理やり取ったとしますよね。「○○ちゃんが貸してくれなかったから」などと言われたら、「遊びたかった気持ちはすごくよくわかるけど、取るのはいけないね。もう一度、また頼んでみようか」というように。すごく手間がかかることですけどね。──なかなか毎回対応するのは大変そうですね…。Mさん:お母さんが全部それをするのは、神様ではありませんから、無理でしょう。でも、今は悪いことと怒ることがセットになってしまっていることに気付いてもらって、ちょっと冷静になれればいいな、と思います。── 子どもがいけないことをした時も、本来、怒る必要はないということでしょうか?Mさん:本当のしつけは、子どもに何がいけなくて、どうすればよいかを教えることだと思うんですよ。だけど、ただ怒って「謝りなさい」って言っていたら子どもは何を学ぶのかなと思います。怒られたら謝るという、表面的なことだけ学んでしまうかもしれませんよね。「本当はどんな子に育ってほしいと思っていたか」を、思い出して欲しいですね。■子どもの存在を否定・無視することは「心理的虐待」── 虐待で一番多いのは心理的虐待なんですね? どのようなことが心理的虐待にあたりますか? Mさん:「お前なんか生むんじゃなかった」「Aちゃんと違ってお前はかわいくない」など、根本的に子どもの存在、人格を否定することです。── 頭にきてしまったら思わず言ってしまいそうですが…。Mさん:やっぱり存在を否定することは避けたほうがいいですね。それ以外にも、ちゃんとできるまでお説教し続けるなど、やりすぎるケースがあります。こういうケースは、「自分の子どもはこうあるべき!」という、親の思いが突っ走っているように思います。── そのほかには? Mさん:冷たく突き放したり、何を言っても無視したりと、無関心にさらされることです。── 感情を示さない無関心も虐待となるのですね?Mさん:存在をスルーされるのはつらいことです。人間として育っていく過程で、子どもは喜怒哀楽を学んでいきますよね。あり得ない例えかもしれませんが、なんのつらいこともなくて、お母さんはいつもニコニコしていて、それで子どもが健全に育ちますかっていうと、それはそれで難しいと思うんですよね。だから、やりすぎだなって思ったらセーブして、親子一緒に泣いたり笑ったりしていってはどうでしょうか?──心理的虐待が続くと、子どもにはどのような影響がでますか?Mさん:自分に自信がなくなる、安心感がなくなる、落ち着きがなくなる、食欲がなくなる、元気がなくなるというようになってくるかもしれません。── 子どもの存在を否定することは言わない、そして、あとは怒らないほうがもちろんいいけれど、喜怒哀楽をお互いにやりとりをしている間は大丈夫ということでしょうか。今日はありがとうございました。筆者自身も、娘たちをつい怒鳴ってしまったり、傷口に塩を塗るようにネチネチと叱ってしまったりすることもあり、それは心理的虐待にあたらないかな、といった思いも持ちながら向かったこの取材。長年、電話相談で虐待や子育てと向き合ってきたMさんのお話から、「どこまでが虐待で、どこまでがしつけ?」という線引きよりも、親が子育てで困らないことと、子どもの存在を否定しないことが大切なのだと感じました。後編では、子育てが大変な今の時代に、親がどのようにすれば心の余裕が持てるか、というお話を聞きました。取材協力: 社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP) 子どもの虐待を早期に発見し、虐待防止を支援するために1991年に設立された民間団体。研修を受けた相談員と、医師、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、行政経験者、教育関係者などが活動しています。CCAPでは、子育てに悩む方のための電話相談、母親のグループ(MCG)、CCAPペアレンティングプログラム講座「親と子の関係を育てるプログラム」などを行っています。相談の電話番号は、03-5300-2990(平日10:00~17:00 土曜日は10:00~15:00/通話料以外は無料)取材・文/まちとこ出版社 石塚由香子
2018年03月09日ネグレクトとは?出典 : 一般的にネグレクトとは、「幼児・児童・高齢者・障害者などに対し、その保護、世話、養育、介護などを怠り、放任する行為」を指します。中でも特に、子どもに対して行われるネグレクト、すなわち「育児放棄」を意味して使用されることが多いようです。厚生労働省によると、ネグレクトは「身体的虐待・精神的虐待・心理的虐待とならぶ虐待の一つ」とされています。ほかの3種類の虐待が一般的に「子どもに有害なことをする」ものであるのに対して、ネグレクトは「子どもが必要とするものを親が提供しない」ことであると言えます。またネグレクトは、その背景によって、物理的・経済的条件が整っているのにもかかわらず保護を遺棄する「積極的ネグレクト」と貧困や知識不足などが原因で保護ができない「消極的ネグレクト」とに分けられます。両者とも、親の注意が子どもに向いていないという点では共通していますが、根本的な背景が異なるために解決の方法も変わってきます。児童虐待の定義と現状|厚生労働省厚生労働省の報告資料によると、平成27年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待に関する相談のうち、約4分の1にあたる2万4438件がネグレクトであったとされています。また、年度別の推移を見るとネグレクトの相談件数は増加傾向にあります。相談件数が増加している要因としては、後述する児童相談所全国共通ダイヤルの3桁化189(イチハヤク)が広く知られるようになってきたことや、児童虐待事件の報道によって国民の児童虐待に対する意識が向上したことが指摘されています。そのため、相談件数の増加は必ずしもネグレクトの数そのものの増加を示唆するわけではありません。平成27年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数|厚生労働省平成27年版 子ども・若者白書 > 犯罪や虐待による被害|内閣府ネグレクトに気付くためのサインはあるの?出典 : ネグレクトを受けている子どもには、どのような特徴があるのでしょうか?一般的に、以下のようなサインが見られる場合、ネグレクトの可能性が考えられると言われています。ただし、これらのサインが見られる子どもすべてがネグレクトを受けているわけではないので、あくまで一例として参考にしてください。・子どもの身長・体重が同年齢標準よりも極端に低いまたは軽い・冬なのに上着を着ていないなど季節はずれな服装をしている・皮膚がかさかさで目の下に黒いクマがある・虫歯がある、予防接種を受けていないなど医療的ケアを受けていない明白な兆候がある・いわゆる「ゴミ屋敷」に住んでいる等、住居が不適切である・親の監督不行き届きのためにたびたび危険な行為に参加している・不潔な身なりをしている・平日の昼間なのに公園にいるなど、学校に行っていないように見える・夜遅くまで外で遊んでいるなど、家に帰りたがらない・空腹のため、食べ物をせびったり盗んだりする・気だるそうで、何事にも無関心に見える現実では、断片的な情報しか得ることのできない家庭外の第三者がネグレクトがあるかについての判断をすることは容易ではありません。次章では、どこから虐待といえるのか、厚生労働省が示す虐待の捉え方について解説します。バーバラ ローエンサル『子ども虐待とネグレクト』(明石書店、2008)どこからが虐待になるの?出典 : 親による子どもに対する行為が虐待にあたるかどうかの判断は、以下で紹介するような児童虐待防止法の定義に基づいて総合的に行われるのが基本ですが、厚生労働省はその過程における重要な観点として「子どもの側に立って判断すべき」という点を明らかにしています。厚生労働省のホームページでは、虐待を判断する上で有効な考え方として、小児科医・小児精神科医である小林美智子氏の言説が引用されています。「虐待の定義はあくまで子ども側の定義であり、親の意図とは無関係です。その子が嫌いだから、憎いから、意図的にするから、虐待と言うのではありません。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子ども側にとって有害な行為であれば虐待なのです。我々がその行為を親の意図で判断するのではなく、子どもにとって有害かどうかで判断するように視点を変えなければなりません。」(小林美智子,1994)つまり、親に虐待の意図があろうとなかろうと、子どもにとってその行動が虐待であると感じられれば、それは虐待であると考えられているのです。ネグレクトを含む児童虐待に関係する法律の一つに、児童虐待の発生予防、早期発見・早期の適切な対応、虐待を受けた子どもの保護・自立に向けた支援などの推進を目的に制定された「児童虐待防止法」があります。この児童虐待防止法において、虐待は以下のように定義されています。<児童虐待防止法 第二条>>この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。一児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。二児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。三児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。四児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。出典:児童虐待の防止等に関する法律ここで挙げられている4種類の行為のうち、「三」がネグレクトにあたります。しかし、堅い表現で書かれた法律の条文を読むだけではあまりイメージがわかない方もいるかもしれませんね。より具体的には、以下のような行為がネグレクトに該当するとされています。<ネグレクトに該当する行為>●子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。(1)家に閉じこめる(子どもの意思に反して学校等に登校させない)、(2)重大な病気になっても病院に連れて行かない、(3)乳幼児を家に残したまま度々外出する、(4)乳幼児を車の中に放置する など。●子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。●食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。(1)適切な食事を与えない(2)下着など長期間ひどく不潔なままにする(3)極端に不潔な環境の中で生活をさせる など。●親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたり、乳幼児だけを家に残して火災で子どもが焼死したりする事件も、ネグレクトという虐待の結果であることに留意すべきである。●子どもを遺棄する。●祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人がア、イ又はエ(心的虐待、性的虐待又は心理的虐待*)に掲げる行為と同様の行為を行っているにもかかわらず、それを放置する。子ども虐待の援助に関する基本事項|厚生労働省から抜粋、一部編集、*は編集部註一口にネグレクトといっても、衣服の着替えなどの不十分なまま登校してくるような事例から、飢えなどによって子どもが命を失ってしまうような事例までが存在し、その範囲は広いものとされています。ただし、どのような種類・程度のネグレクトであったとしても、それが子どもに大きな悪影響を与える可能性が高いということは紛れもない事実です。次章では、ネグレクトが子どもにどのような影響を与えるのかについて見ていきます。ネグレクトが子どもに与える影響は?出典 : 虐待の一つであるネグレクトは、子どもにさまざまな悪影響を与える可能性があります。本章では、身体的影響・知的発達面への影響・心理的影響の3種類に分類してネグレクトが子どもに与える影響について解説します。ネグレクトが子どもに与える身体的影響としては、十分な食事が与えられず栄養障害になってしまったり、愛情不足により成長ホルモンが抑えられて成長不全を引き起こしたりという身体的発育への悪影響のほか、保護者の監督不十分により子どもが事故に巻き込まれたり、保護者の関心あるいは知識不足によって治療すべきケガ・病気が放置され悪化したりという直接的な悪影響が挙げられます。事故に巻き込まれた結果、大きなケガを負ったり、命を落としてしまったりするケースも報告されています。ネグレクトのなかには、子どもが学校に行けていないケースも存在します。そのようなケースでは、子どもの言語発達に遅れが生じたり、学力が同年代の子どもと比べて低くなってしまったりする可能性が高いです。学年に応じた学力が身に付かないことで、その後の進学や就職において困難を抱えてしまうことが予想されます。ネグレクトが原因で、親との間に適切な愛着関係が築けないと、愛着障害や感情のコントロールに関する障害を発症することが多く、そのために対人関係で困難を抱えるようになってしまうことがあります。また、ネグレクトを受けた経験がトラウマとなり、長い間苦しむこともあります。さらに、保護者からの愛情・関心を十分に受けることのなかった子どもは極端に自己肯定感が低いことも少なくなく、自分自身を大切に思えない感情から自傷行為をしたり、自殺を試みたりする確率が高いといわれています。子ども虐待対応の手引き(PDF版)|厚生労働省日本弁護士連合会子どもの権利委員会『子どもの虐待防止・法的実務マニュアル【第5版】』|厚生労働省ネグレクトを引き起こす要因出典 : 子どもの虐待は、身体的、精神的、社会的、経済的などいくつもの要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。そのためネグレクトを解決するためには、単純に虐待をする側を罰したり責めたりするだけでは解決しないことが少なくありません。虐待をしてしまう状況に陥りやすいリスクに早く気付き、そこに支援の手を差し伸べることが、結果的に子どもを虐待から守ることにもつながります。保護者側の要因としては、さまざまなものが考えられます。まず要因の一つとして、親が子どもを受け入れられていないことが挙げられます。残念なことに、望まない妊娠であったり、子どもが何らかの障害や疾患などを持って生まれてきたりしたために、子どもを自分の子として受け入れられず、ネグレクトに至ってしまうケースがあるのです。ほかにも、「再婚相手の連れ子だから」という理由で子どもを愛せず、ネグレクトをしてしまう事例も報告されています。そのほかには、保護者の知識不足がネグレクトの要因となることもあります。育児知識が不足しているために子どもに与えるミルクの量が不適切だったり、子どものケガや病気に対して、例えば病院に連れていくなど適切な対応を取れていなかったりする場合もネグレクトとなります。また、保護者自身が虐待を受けて育った場合、自分の子どもに対しても虐待をおこなう可能性が高いとされています。子ども側の要因として共通してポイントとなるのは、「養育者にとって何らかの育てにくさを持っている」ことです。子育てにおける「困りごと」によって親のストレスなどがたまり、ネグレクトへとつながってしまうことがあるのです。例えば、乳児、未熟児、障害児、慢性疾患を抱える子どもは、そうでない場合の子育てに比べて虐待のリスクが高まると言われています。養育関係の要因としては、家庭の経済的困窮と社会的な孤立が大きく関係しているとされています。経済的な困窮のために医療費が払えず、治療を必要とする子ども病院に連れていくことができないケースや、なんとか生計を立てるために保護者が長時間・夜間労働をしている間、子どもが「放置状態」になってしまうケースなどがあります。孤立した家庭は子育てに関する知識・情報を持たなかったり、そうした情報にアクセスしにくかったりするほか、頼りにできる人がいないために保護者が精神的に追い詰められてしまうなどの理由で、ネグレクトを含む虐待全般が生じるリスクが相対的に高いと考えられています。ネグレクトを受けている可能性のある子どもを見つけたら?出典 : 虐待から子どもを救うためには、第一に虐待が行われている疑いがあることが外部に認識され、その情報が関係機関に伝えられる必要があります。虐待を受けているのではないかと思われる子どもを見つけた場合、その内容を児童相談所に連絡することを「通告」と言います。速やかな通告がされないと、行政機関も虐待の防止に向けた活動を行うことができず、虐待を受ける子どもの生命や心身に大きなダメージを与える危険性が高くなります。そのため、虐待の通告は「児童虐待対応において極めて重要」とされており、したがって、児童虐待防止法では以下で示す通り、すべての国民に通告義務を課しています。<児童虐待の防止等に関する法律第六条>児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。出典:児童虐待の防止等に関する法律通告の時点で通告者が本当に虐待であるかどうかを判断する必要はなく、「一般の人の目から見て主観的に子どもの安全・安心が疑われる場合」であれば通告してよいのです。また、もし仮に通告の後で虐待の事実がないと判明したとしても、虐待の事実がないことを知りながら故意に虚偽の通告したという場合などを除けば、法的責任を問われることはありません。また、通告した人が特定されるような情報や通告内容が漏れることはありません。子ども虐待対応の手引き(PDF版)|厚生労働省日本弁護士連合会子どもの権利委員会『子どもの虐待防止・法的実務マニュアル【第5版】』■「189」で電話相談しましょう「189」は、児童相談所や市区町村が「いちはやく」児童虐待に対応できるよう、厚生労働省により設けられた全国の児童相談所の共通ダイヤルです。「189」に電話をかけ、音声ガイドに従うことで最寄りの児童相談所につながります。Upload By 発達障害のキホン「189」への相談は24時間365日いつでもすることができます。電話の通話料金自体は相談者の負担となりますが、相談料などはいっさいかかりません。また、相談者の氏名や相談内容に関する秘密に関しては口外されないよう定められているため、相談者にとって安心して相談しやすい環境が整えられています。児童相談所の担当者に対して氏名を明かしたくない場合は、匿名での相談もおこなうことができます。しかし、いざネグレクトを受けている疑いのある子どもを見つけたとしても「自分の通告によって親子の関係を引き裂いてしまうのではないか」と不安に感じ、通告をためらってしまう方もいるのではないかと思います。そのような感情を抱くのは自然なことですが、そんなときに知っておいてほしいのは、「児童虐待の通告は、子どもだけではなく、保護者をも救う」ということです。多くの場合、ネグレクトが起きてしまう背景には「保護者が抱えている何らかの困難」が潜んでいます。ネグレクトをしてしまう保護者は、経済的に苦しい生活をしていたり、自分自身が病気や発達障害、精神疾患などを抱えていたり、子どもをしつける方法がわからなかったりという困難を抱えているにも関わらず、身近に相談する相手もいなくて、社会的にも精神的にも孤立状態にあることが多いと考えられているのです。通告によって行政がネグレクトの存在を知ることができれば、それは保護者にとって子どもとの関わり方を見直し、自分自身が抱える困難への対処を行うきっかけとなります。また、貧困や疾患が背景にある場合や子育て方法がわからない場合など、保護者自身への支援につながることもあるのです。さまざまな思いが浮かんで通告をためらってしまうことは自然なことですが、それでも勇気を持って行動することで、親と子ども、両者を救う手助けとなるのです。児童相談所全国共通ダイヤルについて|厚生労働省児童相談所全国共通ダイヤルの利用状況|厚生労働省「189」(児童相談所共通ダイヤル)について|全国民生委員児童委員連合会児童虐待の通告義務について|東京都八王子市◇ネグレクトをやめたいと苦しむ親の相談先「ネグレクトをやめたい」と苦しむ親への支援として、社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP)が、研修を受けた相談員による電話相談を行っている他、ケースによっては虐待などの悩みをもつ母親同士が自分の体験を語ることによる治療的グループケアなども行っています。また、社団法人子どもの虐待防止センターでは、電話での相談を受け付けているとともに、育児スキルトレーニングの教室の実施なども行っています。「虐待をやめたい」と悩み苦しむ親への支援社会福祉法人子どもの虐待防止センター (CCAP)まとめ出典 : 保護者の愛情や関心が子どもに向かないことで生じるネグレクトは、子どもの精神的・身体的な発達に大きなダメージを与えます。精神面で例を挙げると、幼児期に保護者との間で愛着を築けなかったり、ネグレクトの経験がトラウマとなったりすることで長期的な影響を与えることが多く、それらの影響が多動性や気分のコントロールに関する障害、対人関係に関わる障害などとなって現れることも少なくありません。直接的な影響としては、親の注意監督不足によって子どもが事故・事件に巻き込まれて大けがを負ったり命を失ってしまったりする事例が報告されています。虐待を受けている子どもは、日常的に虐待を受けていながら、それを虐待とは感じていないこともあると言われています。また、小さい子どもは自分でSOSを出すことができません。ネグレクトを受ける子どもを救うためには、周りの人が気づき、支援の手を差し伸べることが極めて重要です。もし疑いのある子どもを見つけたら、勇気をもって行動するようにしましょう。
2017年06月20日