サッカーにケガはつきものです。寒い時期にケガが増えると思われがちですが、実は1年のうち5月から6月が「ケガしやすい時期」ということはあまり知られていません。さらに知って驚くのは、この時期のケガは防げた可能性が高いものだとか。新学年でのスタートダッシュをケガなく充実したものにするための心がけについて、日本サッカー協会のスポーツ医学委員でJクラブのドクターも務める大塚一寛先生(あげお愛友の里施設長)に伺いました。(取材・文:小林博子)写真は少年サッカーのイメージサカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!>>■医療業界では常識!? 5月にケガが多くなる理由「ケガは夏や冬に多い」というイメージが漠然とある方は多いことでしょう。ですが医療の現場では、スポーツ外傷が多いのは春と秋なのだとか。特に5月~6月はその中でも多い時期だといいます。その理由は新学期になって1か月経ち、チームが本格始動するタイミングだからだそう。学年が上がったり、ジュニアからジュニアユースへとステージが上がったりすることで、子どもたちがサッカーをする環境のレベルはどの子も1段上がります。練習量や運動量が増えることに加え、今までと違う練習方法や練習時間になります。ついていくことがやっとという子も少なくないはずです。そんな環境の中、子どもたちは多少無理をしてでもついていかなくてはと、気持ちをふるわせて頑張ります。どうにか「できる」けれども、実際はフィジカル的には「できる」のレベルに至っておらず、無理をしてしまう。十分に体が使えていない中でさらにストレスをかけることが恒常的に続き、ターンオーバー出来ないまま続けがちになりケガに繋がる......。これが春にケガが増えるメカニズムです。■春先に増えるケース「足首・ひざを非接触で受傷」その原因とは起こりがちなケガの部位は競技ごとに異なり、サッカーの場合は足首とひざが圧倒的に多いのが特徴です。具体的なケガとしては、前十字靭帯の断裂やひざのお皿の脱臼などで、ジャンプをした後の着地に失敗したり、転んだりすることで起こりがちです。その大多数は非接触(ノーコンタクト)でのケガ。全体のケガの7割がこれにあたります。残りの3割は相手との接触で起こりますが、これはいわば事故のようなもので、避けることはできません。それに対し、ノーコンタクトでのケガは事故ではない分、正直もったいないケガだと考えられます。フォームが悪いまま強い負荷を与え続けてしまった、筋力が足りないのに120%の力で動き続けてしまった......。そういった原因からくるものです。そしてその割合が春は多くなります。■周りのスピードが上がることで、ついていくために無理をして負荷がかかる前述したように、サッカーをする周りのレベルが上がるので、周りの走るスピードが速いことも原因の1つになります。自分の動きを制御することが難しくなり、例えるならオートバイにF1のエンジンを付けてしまったような状態。自分のフィジカルに相応しいスピードより早く動いてしまい、ブレーキがうまく効かずに止まれなくなり、ひざや足首に負担をかけてしまいます。防げたかもしれないケガで、大切なスタートの時期に思いっきりサッカーができなくなるのは避けたいところですよね。筋力や体力をつけ、上がったステージに相応しいフィジカルになることがケガ予防の観点からも重要になってきます。張り切って無理をしすぎないことも大切ですが、子どもがそう意識するのは難しいので、コーチや親御さんが気をつけてあげられることも大事です。目の前のお子さんの調子を気にかけるようにしましょう。■男性の4~6倍!女性の方がひざのケガが多い理由スポーツ外傷のうち前十字靭帯の損傷の男女差は、年齢に限らず女性のほうが圧倒的に多く、男性の4~6倍もあるそうです。要因としては、女性の股関節から下の骨格の特徴(股関節が外側を向き、ひざが内側に入り込んでいる、いわゆる"内股"の状態)や、臀筋(お尻の筋肉)やハムストリングスが女性のほうが弱いことなどが挙げらます。例えばサイドステップをしたときに、きちんと止まることができず膝が外板して(爪先が凱旋して)しまう事が多い為靭帯を損傷します。骨格が原因で女性の方が膝が内側に入りやすい(資料提供:大塚一寛先生)そして、女性のほうが体が柔らかい人が多いのも、男性より圧倒的に前十字靭帯の損傷率が高い理由の1つ。ひざや足首が動きすぎてしまうからです。これは「体が柔らかいとケガしにくい」とは逆の理由でケガが多くなるわけです。■4つ当てはまったらケガに注意「全身弛緩性の7項目」全身弛緩性の7つのポイントというものがあり、このうち4項目以上当てはまったら、「体が柔らかい=全身弛緩性がある」と大塚先生は教えてくれました。チェックしてみましょう。1.手関節、指が前腕の拳側につく2.膝が10度以上反張する3.お辞儀をさせて手のひらが床につく4.肘を15度以上逆方向に曲げることができる5.背中で指を組むことができる6.足首が45度以上背屈できる7.股関節が180度以上開く全身の弛緩性をチェックする7つのポイント(資料提供:大塚一寛先生)■「体が柔らかいほうがケガしにくい」とは限らないケガしにくい体づくりとして多くの人が考えるのが「体の柔らかさ」かと思いますが、「体が柔らかいとケガしにくい」とも言い切れないのも実は知られていないこと。もちろん柔軟性はあって良いものではありますが、全身弛緩性がある人は膝や足首のケガに注意が必要です。柔らかいがゆえに、より大きなストレスがかかってあらぬ方向に膝や足首が曲がってしまい、大ケガに至ってしまいます。全身弛緩性がある人は、大腿四頭筋やハムストリングス、及び体幹のいわゆる体の中心部分を鍛えることがケガ予防につながります。今回は大塚先生に新学期が始まったばかりの5月6月にケガが多くなる理由を教えていただきました。学年が上がってサッカーの強度も高くなり、頑張りたい時期に防げたはずのケガで離脱したくないですよね。選手自身、防げる可能性があるなら意識を向けたいはず。子どもにサッカーを楽しんでほしいなら、レベルアップしたチームでの練習で無理をしすぎないよう家庭での言葉がけなどに気を配ってください。大塚一寛(おおつか・かずひろ)医師、あげお友愛の里施設長。1996年からはJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。現在はVプレミアリーグの上尾メディックス(女子)のチームドクターも兼任。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』を務め、全カテゴリーの選手の健康管理(脳震盪・ヘディング・熱中症・整形外科的外傷など)に携わっている。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!>>
2024年05月13日