まだ集中力がない未就学児。サッカーは好きみたいだけど、練習中にふらっと砂場に行っちゃう子をどうすればいい?というご相談をいただきました。未就学児の指導は、話を聞けるようになる年代より自由な子が多く大変なことも多いもの。同じような経験を持つコーチもいるのでは?今回も、ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、6歳以下の指導で大事なことをアドバイスします。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<手詰まりになるとサイドにパスする子どもたち。サイド=スペースがあって安全、ではなく「安全な場所」は状況によって違うと教える方法は?<お父さんコーチからのご質問>池上さんに相談していいことなのか悩んだのですが、投稿します。現在U-6以下のクラスに関わっているのですが、どうしても、練習中に砂遊びをしてしまう子がいるのです。サッカーが嫌いというわけではないようで、毎回楽しそうにクラスに通っていますし、周りのお友達とも仲良くやっているのですが、練習中にフッと砂場の方に向かってしまいます。まだまだ集中力のない年代なのは理解しているのですが、他の子たちはちゃんと練習に取り組んでいます。どうすればその子も一緒に楽しくサッカーできるでしょうか。池上さんはこんな時どうしていましたか?また、この年代の指導で大事にしていることは何か教えていただけませんでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。6歳以下という年代は、指導者が「サッカーを教えなくては」と力む必要はまったくありません。すべてにわたって「どうしたら楽しくなるか?」を大人が考えてほしいと考えます。■砂遊びでなく、バッタなどに興味を持つ子どもたちも拙書『叱らず、問いかける』に書かせていただいた話をしましょう。幼児にサッカーを教えているコーチの方が、ほとほと困った様子でこんなことを相談してきました。「幼稚園の子は夏になると、バッタばかり追いかけているんですよ。わざと、ピッチの外側の草むらにボールを蹴り込むんです」草むらにボールがころころと転がると、バッタがいっせいに跳びはねます。それを見て、4~5歳の子どもたちはみんなで笑い転げる。そして、それが楽しくてたまらないので、みんな草むらにボールを蹴りに行ってしまうそうです。困り果てるコーチには申し訳ないのですが、子どもは確かにボールを蹴っていることに気づいてほしいと思いました。場所がサッカーコートではなく草むらなだけです。私が「私ならわざと草むらにボールを蹴り込みますよ」と話すと、コーチの方は驚いたような顔でした。ボールが転がってバッタが跳ねれば、子どもは楽しくて何度も何度も蹴ります。楽しくて練習になっているのです。バッタを捕まえ、ボールを蹴って、子どもたちはすごく楽しい。何の問題もありません。■砂遊びしたくなるのは当然の年代サッカーボールを使わない遊びで、身体を動かす楽しさを伝えるのも良い砂遊びがしたくなるのは当然の年代です。子どもたちがそちらに心を奪われているのならば、「よし、今日は砂遊びにするか!」とみんなでやってもいいでしょう。なぜなら、サッカーだけでなく様々な形で体を動かしたほうがいいし、いろんな経験を積んだほうがいい年代なのです。サッカー遊びだけでなく、砂遊びをしたり、バッタを捕まえたり。バルシューレと呼ばれるボールを使った遊びでもいいでしょう。サッカーボールを使わない遊びはたくさんあります。それらを通して、体を動かしている楽しさを伝えてください。その際に、すべて競争がある、勝ち負けを楽しめるゲーム形式にするとよいでしょう。幼児や低学年を教えるコーチの皆さんにはそういうことも勉強してほしいです。■「今日は何をしたい?」と子どもたちに選ばせようもうひとつ、私が大事にしていることは、子どもたちに問いかけることです。「じゃあ、みんな今日は何をしたい?」と尋ねてみましょう。コーチから一方的に「今日はこれをやるよ」ではなく、彼らに選ばせるのです。例えば、砂遊びを少しだけやったら、「今度はボールを使って何かやってみようか。何がいいかな?」と聞いてあげます。先日、親子サッカーキャンプをしました。子どもはサッカーを織り込んで、親御さんたちには私から座学で子どもが楽しく学ぶための環境とはどういうものかを伝えます。サッカーの練習は最初にシュートゲームというメニューを行いました。最初は地面に置いたボールを蹴るのですが、次の段階で「試合中は止まった状態では蹴らないよね?」と子どもたちに問いかけます。ドリブルしながらシュートなど、動きながら蹴ることを「みんなで考えてください」と言って考えてもらいます。最新ニュースをLINEで配信中!■一例を見せるとそれしかやらない、思考しない子どもたちところが、日本の子どもたちは「ドリブルしながらシュートとか」と一例を見せると、今度はそれしかやりません。パスを出してもらってシュートするといったほかのことをなかなか考えようとしない傾向があります。したがって、手を変え品を変え質問していきます。例えば、フットサルコートに置かれているゴールの前に、同じサイズのゴールを置き、間にはサッカーボールが入るくらいの隙間をつけて2台を前後に並べます。その状態で「さあ、後ろのゴールに入れてごらん」と言って始めます。そうすると、2台のゴールの前から、ボールをふわりと浮かして入れようとする子、斜めから隙間を通して狙う子などいろいろ出てきます。カーブをかける子もいます。そのように、考えたり、選べたりできる環境を整えてあげると、子どもたちは楽しそうにチャレンジします。なかには「こんなの簡単!できたよ」と意気揚々と報告してくる子がいます。「おお、どんなふうに入れた?」と言えば、やって見せてくれます。そこで、また注文を出します。「じゃあ、次は違うやりかたでやってみてくれる?」すると、子どもはまた考え始めるのです。このように、大人は次々と問いかけ続けることが大切です。■サッカーも遊びの一つ。6歳以下の子どもたちは「遊ぶ意欲」を削がないことが重要遊びのメニューも、サッカーの練習メニューも、ネットで調べたり本を読めば、そこらじゅうに転がっています。そして、説明通りにやる必要はありません。広さや距離、ボールやゴールの数など、コーチの皆さんが自分で考えて、その都度変えていくことです。正解はないので、変えることを怖がらずトライしてみましょう。一回やって、子どもたちが乗ってこなければ、やめればいいのです。大事なのは、練習を楽しくするためにはどうするか?を大人が考え続けること。子どもにそれを問いかけ続けること。この二つの視点を、この年代では大切にしてください。なぜならば、6歳以下の子どもたちの育成は、「子どもの遊ぶ意欲」を削がないことが重要だからです。サッカーも遊びです。「真面目に練習しろ」とか「きちんとやれ」といった規律のようなものはこの年代ではそこまで重要視することではありません。■選手主体は大事だが、世界はすでに「選手とコーチ両方が学びあう」のフェーズに入っている(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)これはダメ、あれはするなとやめさせるのではなく、大人は工夫し子どもの遊びをより広げてあげましょう。常日頃からおおらかに構え、コーチが工夫する姿を見せていれば、子どもも「こんなふうに考えたらいいのかな」と自分で気づく力をつけていくことでしょう。これまで、スポーツ指導は「プレーヤーズセンタード」といって、選手が主体ですよということが提唱されていました。しかしながら、専門家の方がおっしゃるには、世界はすでに「プレーヤー&コーチセンタード」になっているそうです。つまり、選手とコーチが中心。両方が学び合わなくてはいけないのです。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2022年07月17日全体的に足元の技術は高いけど、勝負のタイミングでバックパスを選択したり、確実に勝てそうなポイントでしか仕掛けない。「判断力」を養うにはどうすればいいの?というご質問をいただきました。池上さんは、前回の内容でお伝えした、日本での指導の順番が海外とは逆で細かな基本技術から入る事による日本サッカーの課題に通ずると言います。子ども達に判断を伴うプレーを身につけさせるためにはどうすればいいか、スペイン・ビジャレアルFCの育成組織で指導されている日本人コーチのお話なども交えてご紹介します。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子ども達の判断力を養う指導を実践してみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<足元の技術はあるけど勝負のタイミングで判断できない。判断力をつけるためには何をすればいい?<お父さんコーチからの質問>私は街クラブで小1~小4を指導しています。年代により伸びやすい能力があると聞きましたが、今指導している年代で伸びる能力と、おすすめのトレーニングメニューを教えていただけませんか。また、兄弟の影響などで未就学児からサッカーをしている子も何人かいて、足でボールを扱う技術はあると思うのですが、手でボールを投げたりキャッチするような動きは得意でなかったりします。サッカーの技術だけでなく、ほかの運動や遊び経験から得られる動き、身体を自在に動かせることなども大事だと思うのですが、楽しんでできるメニューなどもあればお聞きしたいです。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。サッカー少年で、ボールをうまく投げられない子どもが多いという話はよく聞きます。この連載でも、昨年2月に掲載された「ボールが投げられない、腰より高いボールが怖い子どもたちが飽きずにできる動きを教えて」という記事で、類似した相談を受けています。そのときにも紹介していますが、練習の中に「バルシューレ」を取り入れることを勧めています。■サッカーの要素もたくさん含まれる「バルシューレ」「バルシューレ」とは直訳すると「ボールスクール」(Ball school)。ボールゲーム教室という意味ですが、実際は子どものための運動プログラムのことです。ドイツのハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。ほとんどが試合形式なので、子どもたちは楽しく入っていけます。野球のボールからバランスボールまで、大小さまざまなボールを扱います。私もバルシューレのテキストを持っていて、そこから選んだメニューでトレーニングの導入部分などに活用しています。子どものボールゲーム導入プログラム(特定非営利活動法人・バルシューレジャパンのページにリンクします)また、バルシューレには、サッカーの要素がたくさん含まれます。例えば、ネット越しでボールを使ったパス交換をした後は、それを「足でやってみよう」という展開になったりします。ボールを相手の体に当てる鬼ごっこもあります。手で当てるときは、当たっても痛くないよう風船を使います。それを足でもやります。いわゆる発展形ですね。そのように発展させるのは、手も足も使うことで身体の機能がバランス良く高めるためでしょう。■身体をイメージ通りに動かすことができれば全体的なプレーの質もアップ身体の神経系は小さなときからどんどん鍛えられます。どんなスポーツも、自分が思った通りに動けるよう、バランスよく体の機能を向上させなくてはいけません。これが「コーディネーション」です。自分の体をイメージ通りに動かすことができれば、スキルはもちろん全体的なプレーの質もアップします。そこから、もっと素早く動く、もっと高く跳ぶ、もっと強く蹴るといったことができるようになるのです。さらにいえば、バルシューレがいいのは、遊び感覚でやっているあいだにいろいろな能力が身につく点です。そして、それはあくまでも手取り足取り教えられてやるものではなく、基本的に「自己学習」です。例えば、手でボールを「投げる」という動作は、子どもが自由にどんどん投げていくことで、自分でいろんな動きを獲得していきます。遊びの中で、どんどん投げていると、勝手にフォームが良くなると言います。教えられたわけでもないのに、なぜそうなるかは、研究の結果でも明らかになっています。つまり、根拠があるわけです。■サッカーは「どう蹴るか」が目的ではない一方で、指導者の皆さんの多くは、練習メニューが気になるようです。練習メニューや練習のやり方を一生懸命学ばれています。「基礎基本」をとても大事にします。ですが、サッカーは「どう蹴るか」が目的ではなく、どんなタイミングでどんなボールを蹴ってチャンスにするかが重要です。蹴り方は自由でいい。そこから少しずつ選手自身が修正していくものだと考えます。もっと自由な発想をしていきましょう。バルシューレにも、そんな自由な要素がちりばめられています。サッカーのメニューばかりを追い求めずに、バルシューレの成り立ちを学んでみましょう。ご相談者様が「子どもが手を使えない」ことに注目してくださったことは、素晴らしいと感じます。キーパー以外は足でプレー出来れば十分だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、前述したように、全身のコーディネーションという側面から考えると、バルシューレを活用して投げる動作をたくさんやることはサッカーの上達にもつながります。■最近推奨されている「ダブルスポーツ」とは(写真はサカイクキャンプ。お互いにボールを投げ、キャッチする練習)もっといえば、サッカーの上達しか考えられないのは、もったいないと思います。スポーツする意味は、スポーツによって人生を豊かにできるからです。サッカーならサッカーばかり。野球なら野球だけしかしない。そんな子が日本では目立ちますが、いまは「ダブルスポーツ」といって、シーズナブルに複数のスポーツをすることが奨励されています。ひとつの種目だけしているとほかのことができないのは、あまり幸せではありません。Jリーグのジュニアユースチームのなかには、家族旅行をしたことがない選手や、海水浴に行ったことがない子どもがいっぱいいました。つまり、サッカー漬けなのです。それでは、その人のスポーツ人生は豊かとはいえません。サッカーの練習のみではなく、今日はバルシューレ、週末はチームでハイキングに行く、そんな将来だと、とても豊かになりますね。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年07月17日