現在上演中のミュージカル『プロデューサーズ』において、開幕2日目の公演を観劇する機会に恵まれた。1968年の映画をもとに、2001年に米ブロードウェイで舞台化された本作は、トニー賞12部門で最優秀賞を獲得した大ヒットミュージカル。英ウエストエンドなど世界各国で上演を重ね、05年にはブロードウェイのオリジナル主演キャストによる映画も製作された。 “史上最低”のミュージカルをつくってボロ儲けを狙うプロデューサーコンビの顛末が、今回の日本版では福田雄一の演出によってコミカルに描かれる。破産寸前で落ちぶれ気味のプロデューサーこと主人公マックスを演じるのは、井上芳雄。彼に巻き込まれながらもタッグを組む気の弱い会計士レオを、ミュージカル初挑戦の吉沢亮と、米ニューヨーク留学帰りの大野拓朗がWキャストで演じる。取材日は“大野レオ”の初日だった。失敗作ほど利益を生む──と帳簿から確信したマックスとレオは、ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーを愛するフランツ(佐藤二朗)が書いた荒唐無稽な「ヒトラーの春」を脚本に選ぶ。演出にロジャー(吉野圭吾)と助手カルメン(木村達成)というクセ強めのゲイカップルを迎えると、マックスは出資者を募るためにホールドミー・タッチミー(春風ひとみ)ら資産家の老婦人から色仕掛けで小切手をかき集める。小賢しくもどこか憎めないマックスを、井上はユーモアたっぷりに演じる。二幕で会計上の不正が警察に見つかり投獄された彼が、これまでの計画を回想すべく歌とダンスで一人“高速”ダイジェストを繰り広げるパフォーマンスは見どころだ。ひたすらボケ倒す登場人物をすべて受け止める、ウィットに富んだツッコミにも注目したい。大野は、周りの“濃い”キャラクターに翻弄されるレオを表情巧みに造形。特に、英語の話せない女優志望ウーラ(木下晴香)のセクシーな魅力に抗えず、悩殺される様は前方席であってもオペラグラス持参でチェックされたし。コミカルな一面以外にも、伸びやかな高音が甘く優しく響く歌声はプリンス然としており、スマートかつ無邪気なレオ像を印象づけた。この日のカーテンコールは、カンパニーの中で唯一初日を迎えた大野を祝福するムードに突入。MCと化した井上からコメントを求められると、ゲネプロの機会がなく「初めて通しました!」と明かす大野に観客から大きな声援と拍手が送られた。約1年半ぶりという舞台出演、留学を経てパワーアップした彼の雄姿を見届けに劇場へ足を運んでみては。上演時間は約190分(休憩含む2幕)。公演は12月6日(日)まで、東京・東急シアターオーブにて。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2020年11月11日1968年公開の同名映画を、監督のメル・ブルックス自身が脚本・作詞・作曲を手がけてミュージカル化した『プロデューサーズ』。2001年にブロードウェイで開幕すると、その年のトニー賞で史上最多の12部門を制するという、今なお破られていない大記録を打ち立てた。2005年にはブロードウェイのオリジナルキャスト主演で再映画化され、また日本でも2005年と08年に井ノ原快彦と長野博の主演で翻訳上演された人気コメディを、このたび東宝が井上芳雄と吉沢亮/大野拓朗を迎えて新たに製作。井上が厚い信頼を寄せる福田雄一が演出を手がける舞台が、本日11月9日(月)に東急シアターオーブで開幕する。井上が演じるのは、かつてはヒット作を生んだブロードウェイのプロデューサーでありながら、今は落ちぶれて破産寸前のマックス。そんな彼の事務所を訪れて帳簿を調べるなかで、舞台は成功するよりも失敗したほうが利益を生むと気付く気の弱い会計士レオ役を、吉沢と大野がWキャストで務める。わざと失敗作を作り、出資者のホールドミー・タッチミー(春風ひとみ)らから資金を騙し取る計画を立てた彼らが声をかけるのが、脚本家のフランツ(佐藤二朗)、演出家のロジャー(吉野圭吾)とその助手カルメン(木村達成)、女優志望のウーラ(木下晴香)ら、“最悪”のスタッフ・キャスト陣。マックス&レオ共同プロデュースによる舞台、『ヒトラーの春』は大コケ間違いなしと思われたが……!?そんなハチャメチャなストーリーに加え、ブロードウェイらしい華やかな音楽と、にぎやかでクリエイティビティに満ちたダンスも本作の大きな魅力。今回の演出は前述の通り福田が担うが、ブロードウェイ版で演出と振付を務め、その両方でトニー賞に輝いたスーザン・ストローマンも「オリジナル振付」として名を連ねている。ブロードウェイと日本のミュージカルとコメディの才能が融合した、なんとも豪華で楽しい『プロデューサーズ』が誕生することになりそうだ。文:町田麻子ミュージカル『プロデューサーズ』脚本:メル・ブルックス/トーマス・ミーハン音楽/歌詞:メル・ブルックスオリジナル振付:スーザン・ストローマン日本版振付:ジェームス・グレイ演出:福田雄一出演マックス:井上芳雄レオ:吉沢亮/大野拓朗(Wキャスト)ウーラ:木下晴香ロジャー・デ・ブリ:吉野圭吾カルメン・ギア:木村達成ホールドミー・タッチミー:春風ひとみフランツ・リープキン:佐藤二朗2020年11月9日(月)~12月6日(日)会場:東急シアターオーブ(東京)
2020年11月09日ブロードウェイミュージカル『プロデューサーズ』の公開ゲネプロが8日に東京・東急シアターオーブで行われ、井上芳雄、吉沢 亮、大野拓朗、福田雄一が取材に応じた。同作は、メル・ブルックスの1968年の同名映画をもとに、同氏により2001年にブロードウェイで舞台化され、その年のトニー賞において新作ミュージカルが受賞可能な13部門のうち、史上最多の12部門で最優秀賞を受賞した大ヒットミュージカル。ロンドンのウエストエンド、さらにカナダ、ドイツ、オーストラリア、韓国、日本など世界各国で上演を重ね、2005年にはブロードウェイ・オリジナル主要スタッフとオリジナル主演キャストによる映画も製作された。かつてはブロードウェイでヒット作を生み出したプロデューサーのマックス(井上)は、現在はすっかり落ちぶれて失敗作が続き破産寸前。ある日、マックスのオフィスにやって来た気弱な会計士・レオ(吉沢亮/大野拓朗)が「成功した芝居よりも失敗した芝居のほうが利益を産むこと」に気づき、2人は最悪のシナリオ、最悪のスタッフ、最悪の役者を集めて、大コケ間違いなしの失敗作を作り上げようと奮闘する。公開ゲネプロでは貫禄を見せる井上、伸びやかな歌声を響かせる吉沢らに客席は大拍手。豪華なセットや、ミュージカル界への愛あふれる演出で楽しませた。井上は「福田さんがいらしてからの稽古3日目には『1幕を通す』と言われ、嘘だろうと思ったんですけれど、必死に1幕を覚え、そして2幕を続けて覚えて、必死すぎてそこからの記憶があまりないんですけど、とにかく毎日全力でふざけるというのをやっていました。どうなるんだろうなと思いながら稽古していたんですが、なんとかなるんですよね。劇場に来て、こうして出来上がって、夢を見ているようです」と振り返る。ミュージカル初挑戦となった吉沢は「まわりのみなさんは本当にミュージカル界の素晴らしい方ばかりで、最初の歌合わせであまりのまわりとのレベルの差にすごい苦しくなって、仲間は(フランツ役の佐藤)二朗さんだと思っていたんですけれど……(笑)。意外と二朗さんがミュージカルらしい歌い方をされていて、『おい、嘘だろ』と、裏切られたと思いました」と苦笑。「なので僕は必死に頑張っているところです!」とアピールする。一方、留学もしていた大野は「僕はコメディが大好きで、芸人さんにも憧れてて、だからこそ福田さんの作品にも憧れていて、やっと今回初めてご一緒させていただけることになって、よしやるぞ! と思ったんですけど、自分が全然おもしろくなくて……」と逆にコメディ面を反省。「こういうところなんです。僕、真面目なんです」と言う大野に、井上は「本当に真面目な人は自分で真面目って言わないから! もう一周まわってふざけてるでしょ?(笑)」とツッコミつつ、「でも、本当にみんながおふざけを持ち寄る現場なので、すごかったです」と明かした。演出の福田は、各キャストについて「芳雄くんはもう芳雄くんだから! 芳雄くんって、ミュージカルになると全然違うんですよ。ミュージカルでは初めてご一緒したんですけど、口から声が出ているのではなくて体の全体から声が出ている感じでした」と絶賛。また「吉沢くんは初めてのミュージカルということもあって、舞台役者っぽい芝居をしないのでそれがすごく新鮮でおもしろくて、一方で拓朗くんが王道のミュージカルのプリンスっぽく演じるので、個性が分かれてとても良いWキャストになったと思います」と語った。見所について、井上が「劇場に来てみて驚いたのが、めちゃくちゃ豪華なんですよ、舞台が。今年は大変なことがいろいろありましたけど、そんな1年の締めくくりに、こんなに豪華なこんなにバカバカしいミュージカルを、この渋谷でできることが、なんて幸せなんだろうと思います」と表すと、吉沢も「いや、セットを見て、びっくりしちゃって、もしかしてこれ、ミュージカル!? と思いまして」とたたみ掛け、井上は「今までなんだと思ってたの?」とつっこむ。最後に井上は「ブロードウェイのオリジナル版の振り付けをそのまま使っていまして、ブロードウェイのスタッフや日本のスタッフの皆さんの尽力によって今に至っているので、今の時点で感無量なんですが、そういった今までの多くの皆さんの努力やエネルギーに応えるべく全力でばかばかしいことをやっているので、2020年最後に大笑いしにシアターオーブに来ていただけたら嬉しいです!」と締めくくった。公演は東急シアターオーブにて11月)日~12月6日。
2020年11月08日