家の中で楽しめるエンタメや流行を本誌記者が体験する“おこもりエンタメ”のコーナー。映画には実話を基にしたものが多くありますが、今回ご紹介するのは、生理用ナプキンとその製造機を妻のために手づくりし、インド全土に普及させたという『パッドマン 5億人の女性を救った男』です。早くもDVDになるとのことで、一足先に観賞しました。■『パッドマン 5億人の女性を救った男』DVD4月24日発売。4,104円(税込み)。発売・販売元/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント時は’01年。インドでは生理中の女性はけがれた存在として、家の外に出る習慣が。しかも市販の生理用ナプキンは高価すぎて、多くの女性が粗末な赤い布を何度も洗って使用していました。愛する新婚の妻ガヤトリが不潔な布で感染症になっては大変と、主人公ラクシュミは一念発起。持ち前の器用さと熱心さで、生理用ナプキンを製作します。ところが家族も村人も、そんな彼を変態扱い。妻も実家に戻ってしまうのですが……。インド映画はボリウッド映画とも呼ばれ、大勢が一斉に歌って踊り出すのが特徴ですが、この映画ではダンスや歌はあまりなく、美しい映像に乗せてラクシュミのいちずさが描かれます。妻のことを思いすぎて、仕事を辞めてまでナプキン開発に没頭するあたりはコメディでもあるのですが、美しい女性・パリーと出会って話は急展開。ラストには感動の名場面が……。ラクシュミの実直さが詰まったメッセージに、ズキューンとハートを撃ち抜かれてしまいました。単純なサクセスストーリーではない点も、本作の大きな魅力です。
2019年04月22日私たちの周りにあふれている「あたりまえ」なこと。けれど、昔はあたりまえじゃなかったかもしれないし、世界ではいまでも悪い習慣が根付いているかもしれません。長いことこびりついてカチコチになった思い込みは、なかなか取り除くのが難しいもの。そのタブーをかえることに挑んだ男性の実話を元にしたインド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』です。いまだ生理を「穢れ」としてみなす風潮があるインド社会のタブーに挑んだ本作。インドで公開されると同時に「オープニングNo. 1」を獲得し、大きな話題となりました。ウートピでは、この映画の日本上映を待っていた!という歴史社会学者の田中ひかるさんと、日本上映を決める選定試写の段階から関わっているという、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの後藤優さんの対談を企画。『パッドマン』が私たちの胸を打つ理由について語り合っていただきました。最終回は「信念を持つということ」についてです。田中さん(左)と後藤さん(右)【関連記事】映画『パッドマン』が教えてくれること第1回:『パッドマン』が日本にきた経緯を聞いてみた第2回:経血で制服を汚して解雇なんてなぜ?第3回:「生理痛で休みます」とは言いづらいけれど初経をお祝いするのはなぜ?——作品の中では、大人の女性たちが歌や踊りで、初経を迎えた少女を祝うシーンがあります。しかし、夜になると一転して少女は冷たいベランダで眠ることに。「穢れ」の概念により家の中に入ることが許されないからです。日本も赤飯を炊いてお祝いする風習がありますが、“そういうものだから続けている”というのに違和感があるんですよね。田中ひかるさん(以下、田中):初経を祝うのは、共同体として子どもを増やす必要があるという考え方によるものですね。「大人の体になって子どもが産めるようになってよかったね」ということです。その一方で、月経時の隔離の慣習や、宗教施設への立ち入り禁止といった慣習を守るのは、共同体から外れたら、冠婚葬祭も行えないシステムだったからです。協力しあって生きていくという前提では、「うちだけやりません」とは言えません。——そうやってはみ出すことを拒んでいたら、変わるのが難しそう。欧米と比べて、日本でナプキンの開発が遅れたのも、そういった風習が原因なのでしょうか。田中:確かに、「生理用品を改良したいなんて恥ずかしくて言えない」と、月経不浄視が一因になった面もあるとは思います。けれど、生理用品がそこまで必要なかったという側面もあるでしょうね。後藤優さん(以下、後藤):必要なかった?田中:昔は、結婚する年齢も若く、その後はすぐに妊娠、出産、授乳、間を開けずに次の子どもをまた出産する……というようなサイクルで、閉経までほとんど月経がなかったという女性も多かったのです。だから、布や古紙の代用でもあまり支障がなかったのだと考えられます。発明品で意識改革まで行った『パッドマン』後藤:「血の穢れ」の概念はどこから来ているのでしょうか?田中:最初は血液に対する恐怖心だったと考えられます。経験的に、血液が感染症を媒介することがわかり、女性が血を流している時——お産や生理の時——は隔離した方がいい、と。日本の場合は、平安時代に女性の「血の穢れ(血穢)」が『弘仁式』や『貞観式』『延喜式』に規定されました。それが正式に廃止されたのは、なんと明治時代になってからです。月経小屋については、女性の体を休ませるためだという説もありますが、実際に小屋で生活していた人たちからの聞き取り調査では、月経中も重労働をしていたことがわかっています。もちろん、小屋の慣習にも地域差はあったと思いますが。後藤:なるほど。田中:隔離されて、「汚らわしい」などと言われたら、自己卑下の気持ちが積み重なりますよね。でも、生理用品が未発達な時代には、月経中であることを隠しきれなかったですし、自由に活動することもできなかった。それが、使い捨てナプキンの普及によって周囲から悟られることがなくなり、忌むことを求められなくなった。さらに、生理中でも普段どおりの生活ができるようになった。つまり、女性たちが自己卑下から解放されて、自信を持てるようになったということなんです。後藤:『パッドマン』はインドでそれを成し遂げたということですよね。田中:そうです。彼が発明したのはただの日用品ではありません。人々の意識を大きく変革しているのですから。——そのストーリーがまさに怒涛の展開でしたね。絶え間なく絶望がやって来ては乗り越えて。後藤:そうですね。そこにあるものは、何よりも強い『パッドマン』自身の思いです。どんなに「お前は狂っている」とか、「おかしい」と言われても「愛する人の恥を誇りに変えたい、守りたい」という信念ですよね。これがほぼ実話なのですから、勇気をもらえますよね。原作のモデルとなったムルガナンダムさんも、事実にこだわったと言っていました。自分でも現場に立ち会って、言っていないことは言わせなかった、と。ただし、パリーさんの存在はちょっと作ったと言っていました。実際、サポートしてくれた女性はいたようなのですが、「ロマンスはなかったよ」と(笑)。田中:パリーさんとどうなるの?というのも見どころですよね。強い思い込みを解放するには強い信念が必要——トラブルは絶好の機会だという考え方にも刺激を受けました。後藤:そうですね。インドはトラブルが多いからチャンスもたくさんあります。ただ、ムルガナンダムさん自身は、それをビジネスで成功するための絶好の機会だと思っているわけではなくて、純粋に「妻を助けたい、苦しんでいる人たちを救いたい」という一心で行動しているんです。田中:映画の中でパリーさんが、「特許を取ればいいじゃない」「お金が入るわよ」と助言しますが、そこにも乗りませんでしたよね。女性たちに快適な生理用品を、という思いから始まったのは、日本のアンネナプキンも同じですね。坂井泰子さんという主婦が1961年にアンネ社を立ち上げ、ナプキンを開発、販売したのですが、それ以前の経血処置は、ゴムで防水してあるショーツの中に脱脂綿を当てる形が主流でした。その方法では不十分で、電車やバスの中、学校の廊下などに血のついた脱脂綿が落ちていたそうです。それでは女性があまりにも惨めで恥ずかしいので、なんとかしようと起業したそうです。——思いが大切ですよね。田中:坂井さんがやらなくても、ナプキンやサニタリーショーツは誰かが発売したと思います。けれど、彼女の思いがなければ、月経に対する気持ちやイメージを変革することはできなかったかもしれません。やはり最初にアクションを起こす人は偉大ですよね。後藤:ラクシュミを演じた、アクシャイ・クマールさんもインタビューで「何も変えようとしなければ、変化は生まれません。そして肝心なのは教育です」と言っていました。目をそらして来たことや、社会の現状を知ることも小さな一歩ですよね。『パッドマン』が誰かの行動を変えるきっかけにつながったらうれしいです。『パッドマン5億人の女性を救った男』上映中(構成:ウートピ編集部安次富陽子、撮影:大澤妹)
2019年01月29日私たちの周りにあふれている「あたりまえ」なこと。けれど、昔はあたりまえじゃなかったかもしれないし、世界ではいまでも悪い習慣が根付いているかもしれません。長いことこびりついてカチコチになった思い込みは、なかなか取り除くのが難しいもの。そのタブーをかえることに挑んだ男性の実話を元にしたインド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』です。いまだ生理を「穢れ」としてみなす風潮があるインド社会のタブーに挑んだ本作。インドで公開されると同時に「オープニングNo. 1」を獲得し、大きな話題となりました。ウートピでは、この映画の日本上映を待っていた!という社会学者の田中ひかるさんと、日本上映を決める選定試写の段階から関わっているという、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの後藤優さんの対談を企画。『パッドマン』が私たちの胸を打つ理由とは——?第3回となる今回は、後藤さんがSNSでの感想をチェックしているところから始まり、性別の区別なく観てほしいという思いについて語り合いました。田中さん(左)と後藤さん(右)【関連記事】映画『パッドマン』が教えてくれること第1回:『パッドマン』が日本にきた経緯を聞いてみた第2回:経血で制服を汚して解雇なんてなぜ?口コミで男性の鑑賞者が増えた——SNSでは映画を見た人たちの感想も賑わっていますね。後藤優さん(以下、後藤):ありがたいですね。私も、毎日SNSでみなさんの感想を読んでいます。ほぼ全ての投稿に目を通していると思っているのですが、ネガティブな感想があまり出てこないんですよ。どんな作品でも、ネガティブなコメントが2、3割出てくるのですが……。この状態は、私が担当してきた中で初めてのことです。おかげさまで、口コミでどんどんお客様も増えているんですよ。田中ひかるさん(以下、田中):それはうれしいですね。後藤:はい。特に印象的なのは男性の声も多いことです。「ぜひ観るべきだ」とおっしゃってくれていて。田中:そうなんですね。実際に映画館に足を運ぶ割合として、男性は多いんですか?後藤:ええ。今は男性が6、7割です。公開直後は女性が若干多かったのですが、回を追うごとに、男性が増えました。レディースデーにはほぼ満席になるので、女性からの人気がなくなったということでもなく。田中:それはなぜだと思いますか?後藤:あらすじで生理用品の話だと知って、「えっ、どうしようかな」とためらう気持ちが最初はあったのではないかと思います。けれど、観た人たちの感想を見て、社会的な問題の解決に立ち向かうとか、アントレプレナーシップに興味を持ってもらえたのではないでしょうか。ほかにも初老の方とか、お子さんを連れてきてくれる方もいて。中には「義務教育で観たほうがいい」という声もありましたね。いつまで生理の話を「こっそりするもの」にしておくの?——老若男女みんなで楽しめますよね。田中:中高年男性の方たちの目にはどう映ったんでしょう。後藤:弊社の話ですが、公開を決める会議で、上の世代からは若干抵抗がありましたね。「男性がこういうものを観るのはどうなんだろう」と。——こういうもの……?その発言の意図というのは?後藤:教育の在り方が関係しているのではないかと私は予想しています。地域や世代にもよりますが、昭和生まれの世代は、おそらく女子だけで初経教育が行われているんです。女子だけ先生にこっそり呼ばれて、「男子は外で遊んできなさい」みたいな感じで。——私が学生の時も男女別でした。「知ろうとしてはいけない」「秘密を暴いてはいけない」という思い込みでもあるのでしょうか……。後藤:けれど、私の子どもは男女一緒に受けているんですよ。だから若い世代ほど男性が観るのも抵抗がないのかな、と想像しています。田中:そこはまだ地域によって差がありそうですよ。まだ女子だけで「おしべとめしべが」とやっている小学校もあります。女子も男子も最低限の知識を学べるようにして欲しいのですが……。そういえば以前、単行本版の『生理用品の社会史』を出版した時に、男性の友人に送ったら「僕が読んでいいんですか?」と言われました。彼は、その本を読むことが、女性に対して失礼なんじゃないかと思ったみたいです。生理については、知らないふりをするのが紳士的な態度だと思っている方もいらっしゃいます。もちろんそれもありなのですが。後藤:「女性もそうしてもらったほうが嬉しいはずだ」という態度ですね。恥ずかしい思いをさせてしまうんじゃないか、と。田中:購入した生理用品を紙袋に入れるのと同じ発想ですよね。紙袋に入れられるのは、コンドームと育毛剤と生理用品だそうですよ。「人に見られたら恥ずかしいだろう」ということですよね。もちろん、透明な袋で堂々と持ち歩きましょうと言いたいわけではありません。羞恥心は人それぞれですから。職場で上司に生理のこと言えますか?——「生理痛なので休みます」とかも当たり前に言えるといいですよね。後藤:そうですよね。ちゃんと伝えられる、受け入れもらえることが当たり前だというマインドと環境ですよね。『パッドマン』を上映している私たちでも、なかなか「生理痛がひどいので休みます」と男性上司に言えない雰囲気はあります。「言えばいいじゃん。大丈夫だよ」という気持ちは持っているけれど、「やっぱり言いたくない、言えない」という気持ちも同じくらいわかる。そんな葛藤もこの映画が変えるきっかけをくれるのではないかと私は期待しています。「声をあげていいんだよ。女性が言いづらければ、男性からでもいいじゃないか」と。主人公のラクシュミのように。田中:生理のツラさについて男性が発信できるようになるのはいいことですよね。ただ、自分のパートナーとか同僚とか友人のケースを絶対だと思わないでほしいなと思います。——どういうことですか?田中:生理のツラさは個人差があるということも同時に知っていてほしいのです。生理の症状を「みんな同じ」だと思ってしまうと、パートナーが生理で大変そうにしているのを見て、「女性はみんなこんなに大変なんだ」と他の人のことも過剰に心配して大げさに扱ってしまうかもしれないし、逆に生理が軽い人の様子を見て、「生理痛って大したことないんだな」と生理痛で寝込んでしまう人を「怠けている」と決めつけてしまうかもしれません。——なるほど。田中:そういう意味では、女性の中にも分断があるかもしれませんよね。自分にも生理が来る分、生理痛が重い人と軽い人で分かり合えないという分断が。私から一つ提案したいことは、生理にまつわる不調を感じたら、「行きづらい」と思わずに、婦人科を受診することです。鎮痛剤が効かないほどの生理痛でも、低用量ピルが有効なこともありますし、ピルはPMSにも有効です。こうした情報は広く知られるべきです。生理痛やPMSに悩むことがあったら、婦人科を受診することは自然なことで、一人一人に合う対処法があるんだということを、初経教育で教えることも重要ではないでしょうか。こういう知識は、男性にもぜひ持っていてほしいです。「婦人科イコール妊娠」ではないのです。『パッドマン5億人の女性を救った男』上映中(構成:ウートピ編集部安次富陽子、撮影:大澤妹)
2019年01月28日私たちの周りにあふれている「あたりまえ」なこと。けれど、昔はあたりまえじゃなかったかもしれないし、世界ではいまでも悪い習慣が根付いているかもしれません。長いことこびりついてカチコチになった思い込みは、なかなか取り除くのが難しいもの。そのタブーをかえることに挑んだ男性の実話を元にしたインド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』です。いまだ生理を「穢れ」としてみなす風潮があるインド社会のタブーに挑んだ本作。インドで公開されると同時に「オープニングNo. 1」を獲得し、大きな話題となりました。ウートピでは、この映画の日本上映を待っていた!という歴史社会学者の田中ひかるさんと、日本上映を決める選定試写の段階から関わっているという、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの後藤優さんの対談を企画。『パッドマン』が私たちの胸を打つ理由について語り合っていただきました。今回は『パッドマン』が日本にやってきた経緯について聞きました。田中さん(左)と後藤さん(右)【関連記事】映画『パッドマン』が教えてくれること誰よりも公開を楽しみにしてました——田中さんはずっと生理のことを研究されています。この映画の封切りが待ち遠しかったのでは?田中ひかるさん(以下、田中):はい。日本でいちばんこの映画の公開を楽しみに待っていたのは私だと思います(笑)後藤優さん(以下、後藤):ありがとうございます!田中:というのも、原作のモデルになったアルナーチャラム・ムルガナンダムさんのドキュメンタリー作品『Menstrual Man(月経男)』(13)が紹介された番組を見たことがあって、彼のことを知っていたんです。その時は、彼の勇気ある行動に感動したと同時に、21世紀の現代においてもインドでは不衛生な環境で経血の処置をしなければいけないのかと驚きましたね。後藤:そう、ムルガナンダム氏が生理用品の開発を始めたのは、2001年なので、『パッドマン』は現代の話なんですよ。田中:インドでは生理に対する不浄視だけではなく、生理用品に対するタブーがあることも衝撃的でした。例えば、「使用済みのナプキンの上を蛇が通ると姑と喧嘩する」とか、「使用済みのナプキンを犬が持っていくと災いが起きる」とか。後藤:「インドの人だったらみんな知っている」と、ムルガナンダムさんもおっしゃっていましたね。聞き間違えたかなと思って、インド支社の人たちにも聞いたのですが「そういうふうに言われているよ」と返されました。とんだ迷信ですよね。インドのローカルプロダクションとして誕生——どのように日本での上映が決まったのですか?後藤:日本オフィスの営業部長にインドオフィスから「ちょっと観てほしい作品がある」と声がかかったのがきっかけです。私たちは通常、アメリカ・ハリウッドで作られたいわゆる「ハリウッド映画」を日本に配給して宣伝しています。その一方で、今は各国の支社がローカルプロダクションといって、その国独自の作品を製作して上映するプロジェクトも盛んに行われているんです。『パッドマン』もそのひとつです。——どうして日本だったのでしょう。後藤:他の支社にも声がかかったはずですが、中には生理がタブーで上映できない国もあるので、日本ならその問題はないだろうというところはあると思います。それで、「じゃあ観てみようか」と、限られた数人のスタッフで日本での上映を決める選定試写が行われました。田中:後藤さんもそのスタッフの中に?後藤:はい。これまでの傾向から、インド映画は日本で話題になることが少ないので、観る前は正直、そんなに期待していなかったのですが、作品を観たら一気に引き込まれましたね。上映後は満場一致で「これは公開しようよ!」って。——どんなところが後藤さんの気持ちを掴んだのですか?後藤:選定試写では字幕がついていないので、ストーリーを追うことに集中しがちなのですが、それでもラクシュミ(主人公)がつたない英語でリズムよく話す国連での演説シーンは胸にくるものがありました。そして、愛する妻を助けたいという思いが、インドの全ての女性を救っていくという話の素晴らしさ、実話がベースになっているという衝撃。これはぜひ日本で多くの人に観ていただきたいと思いました。歌あり踊りありのインド映画田中:わかりやすいサクセスストーリーと、私利私欲ではなく徹底して誰かのためにというエモーショナルな部分は日本でも受け入れやすいですよね。実は私、インド映画は初めてだったんですよ。でも、違和感なく観られました。後藤:インド映画にはどのような印象を持っていましたか?田中:歌と踊りがふんだんに盛り込まれているような……。『パッドマン』にもそのようなシーンはあるのですが、控え目な印象でした。割と深刻なテーマの中で、歌と踊りのシーンがあるためか、カラッとしているというか全体的に明るく感じました。後藤:それも特徴ですよね。田中:例えば、ラクシュミが自分も生理を体験してみようと、動物の血を使って実験するシーン。血液が漏れて服を汚してしまうとか、画面越しでもなんだか気まずい……と思うのですが、その後の演出の雰囲気で笑ってしまって。周りの方の反応を見てみると、同じシーンでも深刻な様子の方もいれば、大笑いしている方もいました。この作品は、いろんな見方ができるんだなと感じました。見る人の月経観や女性観によって、反応が分かれるのでしょうね。——このような社会的なメッセージを持った作品がインドでは多いのですか?後藤:そうですね。もともと社会的なメッセージがある作品は多いです。最近はフェミニズムやジェンダーを意識した作品も増えています。ただ、『パッドマン』くらい挑戦的な作品は少ないですね。もともとインドは、映画の製作本数が世界でも多いことで有名で、映画にかなりの制作費を投じています。ほとんどの作品でインドの現状や、他国との違い、これからのインドがどうあるべきかなど、何かしらの社会的なメッセージが含まれていて、それをエンタテインメントに昇華させているのが特徴です。田中:ひとつの作品が社会に与える影響は大きいですね。後藤:観る人口も多いですからね。日本ではインド映画はあまりメジャーではありませんが、少し前だと『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)がヒットしました。最近では『バーフバリ 王の凱旋』(17)が注目を集めています。そこからインド映画に興味を持つ人たちも多くて。見たらみんなびっくり。「こんなに楽しいとは思わなかった」という声を聞くことが多くありますね。『パッドマン5億人の女性を救った男』上映中(構成:ウートピ編集部安次富陽子、撮影:大澤妹)
2019年01月25日もし、生理用品がなかったら——?現代の日本で生きる私たちにはもうそんなこと想像できません。しかし、2001年になっても、インドの生理用ナプキン(パッド)の普及率は12%ほどだったといいます。そして衛生的な生理用品が手に入らないため、生理障害に苦しむインドの女性も多いのだそう。宗教観や、経済的な事情などが複雑に絡み合い、現代においてもいまだに根深く残る「月経のタブー視」。その中で、生理用品の普及に力を尽くす男性の実話を元にした映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が2018年12月に公開され、話題となっています。歴史社会学者で、『生理用品の社会史 』(角川ソフィア文庫から2月末に刊行予定)の著者でもある田中ひかるさんに、『パッドマン』の感想をつづっていただきました。映画『パッドマン』の公開、待ってました!現在公開中の映画『パッドマン5億人の女性を救った男』のモデルとなったアルナーチャラム・ムルガナンダム氏を追ったインドのドキュメンタリー番組を見たことがある。すでに21世紀を迎えていたが、インドの農村部では月経タブー視(不浄視)が根強く、「穢れた身」とされる月経中の女性が、屋外のマットレスの上で数日間を過ごしていた。いわゆる生理用品は存在せず、女性たちは新聞紙や灰、もみ殻、砂、枯葉などに経血を吸収させていた。ボロ布を使用している女性もいたが、不潔な布は膣炎や不妊症の原因となるため、使い捨てができる新聞紙や灰の方がまだマシだという医師のコメントも紹介されていた。月経中は学校へも通えないため、小学生の女の子たちは卒業までに平均200日も欠席しなければならない。当然勉強は遅れ、進学、就職もままならず、男女格差は埋まらないのだった。こうした状況の中、ムルガナンダム氏は、女性たちのために安価で衛生的な生理用ナプキン(パッド)を普及させようと立ち上がったのである。彼はナプキンの製造に成功するだけでなく、女性たちにナプキン製造機を販売し、女性の自立を促すビジネスにまで発展させ、2014年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。この痛快な実話が映画化されたと知ったときは「待ってました!」と思うと同時に、果たして生理用品について率直に描くことができるのだろうか?とも感じた。なにしろインドでは、いまだに月経タブー視が根強く生きているからだ。しかしそれは杞憂だった。月経のタブー視と戦ったラクシュミ物語の舞台は、2001年の北インドのとある町。ここでは、月経タブー視にもとづく慣習が固く守られていた。主人公ラクシュミの新婚の妻ガヤトリも例外ではない。あるときラクシュミは、ガヤトリが経血の処置に粗末な布を使っていることに驚き、彼女のために衛生的な外国製のナプキンをプレゼントするが、ガヤトリは家族の目を気にして、金銭的な理由などを言い訳に受け取りを拒否する。不衛生な布を使うことで妻が病気になってしまうのではないかと心配でたまらないラクシュミは、それならば手作りしようと考え、試行錯誤を始める。しかし皮肉なことに、ラクシュミのナプキン作りに最も反対したのはガヤトリだった。彼女は自分の夫が「女の穢れ」にかかわろうとすることが恥ずかしくてたまらない。「恥をかくより、病気で死んだほうがマシ」とまで言い、ラクシュミを止めようとする。ガヤトリ自身が月経タブー視を内面化してしまっているのだ。周囲から変人扱いされ、孤独に陥るラクシュミの一番の敵は、月経タブー視だったのだ。あるときラクシュミは、夫に暴力をふるわれても従わざるをえない若い女性を目にし、「簡易ナプキン製造機」を開発して彼女たちの自立を促すことを思いつく。ラクシュミが「パッドマン」と呼ばれ称えられる所以は、安価で衛生的なナプキンを作り普及させたということはもとより、貧しい女性たちに「ナプキン製造」という仕事を与え、自立をうながした点にあろう。ナプキン製造を独占すればラクシュミは大儲けができたはずである。しかし彼はあえてそれをしなかった。理由は彼自身が映画の終盤、国連におけるスピーチで熱く語ってくれる。このスピーチだけでも十分に見ごたえがある。平安時代から続いた「血の穢れ」日本の女性たちは、この映画を別世界のこととして受け止めるだろうか。実は日本でも長い間、月経が不浄視されており、女性たちは不便な経血処置を強いられていたのである。日本の場合は、平安時代の支配者層が父系制を確立するため、つまり女性を抑圧するために「血の穢れ」の観念を案出したということが、最近の研究で明らかになっている。具体的には『貞観式』や『延喜式』に「血穢(けつえ)」の概念が規定されたのである。その後、室町時代に大陸から入ってきた「血盆経」という偽経によって、「血の穢れ」の概念、つまり月経不浄視が一般化した。「血盆経」は一言で言うと、「女性は月経やお産の際に流す経血によって、地神や水神を穢すため、死後は血の池地獄へ堕ちる。もし堕ちたくなければ、血盆経を唱えよ」という内容で、仏教各宗派(天台宗、曹洞宗、浄土宗、真言宗など)が女性信者獲得のために唱導した。その結果、月経不浄視にもとづく月経小屋への隔離や、食事を別にする「別火」(穢れは火を介して移ると考えられていた)、神社仏閣への参拝の禁止、乗舟の禁止といった慣習が、全国的に行われるようになったのである。平安時代に案出された「血穢」の規定は1000年間も生き続け、1872(明治5)年に公に廃止された。廃止のきっかけは、開国当初、大蔵省を訪ねたお雇い外国人が、妻の「穢れ」を理由に欠勤している役人に呆れて抗議したことだと言われている。しかし公に廃止されたあとも、月経不浄視にもとづく慣習は地域社会に残存し、戦後も根強く生き続けていた。1970年代に月経小屋が使用されていた地域もある。アンネナプキンの登場日本社会の月経不浄視が一気に解消したのは、生理用ナプキンの登場に負うところが大きい。ナプキンの元祖は、1961年にアンネ社が発売した「アンネナプキン」である。27歳の主婦、坂井泰子さんが「女性の生活を快適にしたい」という一心でアンネ社を立ち上げ、試行錯誤の上、アンネナプキンを完成させた。それまでほとんどの女性が、丁字帯や「ゴム引きパンツ」と脱脂綿を併用した経血処置を行っていた。しかしそれでは不十分で、経血が漏れたり、脱脂綿が転がり落ちてしまうことも珍しくなかった。ナプキンができたことで、女性たちは安心して外出できるようになったのである。高度経済成長期の真っ只中、社会へ進出しはじめた女性たちを支え、その女性たちから圧倒的に支持されたのがアンネナプキンだった。このように、ナプキンが女性たちを物理的に支えたということも重要だが、アンネ社の斬新な広告戦略によって月経不浄視が払拭されたという点も見逃せない。さらに、ナプキンの性能が月経不浄視を払拭したとも言える。経血が漏れなくなったことで、女性たちは周囲から月経中であることを悟られなくなり、小屋にこもるなど「忌むこと」を求められなくなった。さらに、忌まずとも何ら支障がないということを当の女性、そして周囲も信じられるようになったのである。インドについても同様のことが言える。ラクシュミが製作したパッド(ナプキン)は、女性たちの活動範囲を広げただけでなく、彼女たち自身に内面化された月経タブー視、そして社会のタブー視を払拭しつつある。映画『パッドマン』は日本の女性たちに、あまりに身近すぎて普段は顧みることのない生理用品が、女性の生活を支えるだけでなく、社会の月経観や女性観をも転換させた偉大な存在であるということを教えてくれる。■映画情報『パッドマン5億人の女性を救った男』上映中(田中ひかる)
2019年01月15日映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が、2018年12月7日(金)に公開される。生理用品の発明・普及で5億人の女性を救った男の実話『パッドマン 5億人の女性を救った男』は、現代インドで安全かつ安価な“生理用品”の普及に人生を捧げた男の物語。商用パッドの3分の1もの低コストで、衛生的なパッドを製造できる機械を発明した男の実話をもとにした作品だ。主人公のモデルとなったアルナーチャラム・ムルガナンダムは、低コストで衛生的なパッドを作ることのできる機械を発明しただけでなく、女性たち自らがその機会を使いナプキンを女性たちに届けるシステムを開発。その活動は、インド政府や国際的なメディアから評価されている。ストーリーインドの小さな村で新婚生活を送る主人公・ラクシュミは、貧しいために生理用品を買えず、不衛生な布で処置をしている最愛の妻を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。日々研究とリサーチに明け暮れるラクシュミの行動は、村中の人から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面。ついには村を離れるまでの事態へと発展してしまう。それでも諦めることなく、研究を進め、彼の熱意に賛同した女性パリーとの出会いと協力もあり、ついに低コストで大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちに、ナプキンだけでなく、発明した機械を使って働く機会をも与えようとラクシュミが奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。“インドのジョージ・クルーニー”ことアクシャイ・クマールが主人公に主人公のラクシュミを演じるのは、“インドのジョージ・クルーニー”ことアクシャイ・クマール。主人公の妻・ガヤトリ役は、実力派女優のラーディカー・アープテーが、主人公を手助けする女性・パリーはボリウッドのトップ女優の1人であるソーナム・カプールが演じる。また、監督は、R.バールキが務める。詳細映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』公開日:2018年12月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開出演:アクシャイ・クマール/ソーナム・カプール/ラーディカー・アープテー監督・脚本:R.バールキ
2018年10月06日慢性的な病気には、キリのない治療や周囲の陰口など、いくつもの困難がともなうもの。アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、アメリカ人の約半数が少なくとも1つの慢性的な症状をかかえているそう。ハリウッドも例外ではありません。何人かのセレブが糖尿病や多発性硬化症のような慢性疾患をカミングアウトしてきました。彼、彼女らの絶望、自信、その間にあるすべてを見ていきます。糖尿病ハル・ベリー(糖尿病)「当時私は19歳でしたが、糖尿病とのつき合い方を学ぶと、より健康になれました」(2015年8月、『ロサンゼルスタイムズ』で)。「食事を変えるのには6カ月かかりましたた。変えるべきなのは生活習慣なんだと受け入れるまでには、つらい状況もあったけど、2年かかりました」ニック・ジョナス(1型糖尿病)1型糖尿病を抱える125万人のアメリカ人のうちのひとりです。2017年4月、ラジオ・ディズニー・ミュージック・アワードで「私が診断されたのは13歳で、兄弟たちと音楽を作ってツアーを始めようとしていたころ。だから活動を始める前、ためらいました」と話しています。トム・ハンクス(2型糖尿病)「医師が言うんです。“この高い血糖値と36歳から付き合ってきたんですね? ついに2型糖尿病になりました”」(2013年10月、トーク番組『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』で)アンソニー・アンダーソン(2型糖尿病)ドラマ『ザ・ブラキッシュ』主演のアンソニーは2001年2型糖尿病と診断されました。2017年雑誌『パレード』に、「糖尿病には乗り越えるべきハードルがたくさんあります。病気を真剣に、第一に考え、治療するために真面目になるのです。時間がかかりますし、計画を立てる必要もあります。ですが、一度きちんと計画を立てれば、よりヘルシーな行動をとれるようになり、アクティブに動けるようにもなる。医師が作ったプログラムにも励めるでしょう」婦人科系疾患ホールジー(子宮内膜症)「子宮内膜症がわかったときは、苦々しくもあるけど楽しい気持ちにもなった瞬間でした。私はクレイジーじゃなかったから!」(ツイッターで)。「でも子宮内膜症だと知るのはこわいことだったわ」。サーシャ・ピーターズ(多嚢胞性卵巣症候群)「何が起きているのかわからず、どうすればよいのかもわかりませんでした」。ドラマ『プリティ・リトル・ライアーズ』で有名なサーシャは、2017年9月、テレビ番組『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』で語りました。「ごく最近、多嚢胞性卵巣症候群、ホルモン不均衡と診断され、ようやく何が起きているのかがわかりました」。レナ・ダナム(子宮内膜症)長年の子宮内膜症との戦いを終わらせるため、レナは今年早い時期に子宮摘出手術を受けたことを告白。通常は、子宮の内側にしかできない組織が、外側で増えてしまう病気です。「子宮内膜症は命を脅かすものではありません」(2015年11月、女性向けサイト『レニー・レター』に寄せたエッセイで)。「私はしっかりした医療制度の下にいられて幸運だと思う。ただし、幸福を求めながらも、身体の裏切りとたたかっているひとりなのです。つらいときは、診察してくれる医師にすら疑いの思いを抱きながら、笑顔で飲み込んでいる多くの女性のひとりなのです」デイジー・リドリー(子宮内膜症と多発性嚢胞卵巣症候群)スターウォーズにも出演したデイジー。初めて病気について語ったのが2016年。また、2017年12月、オーストラリアの雑誌『エル』では、「ストレスで肌の調子が優れませんし、腸壁には穴が空きました。気分が落ち込み何をすべきかもわからないくらいです」。パドマ・ラクシュミ(子宮内膜症)「子宮内膜症なのを知らず、万事快調だと思っていました」(2009年4月、雑誌『ピープル』で)「症状が厳しいのがわかり、手術を受けました。今は調子がいいですが、それは本当に試練でした」サラ・ハイランド(異形成腎)サラは、胎児のときに子宮内で腎臓が異常に発育して、異形成腎となりました。2012年には腎臓移植を受けたのです。「慢性的な病気や痛みを抱える人へ。医師が話を聞いてくれない経験はない? そんな人たちは、素手で殴ってやりたくもなるよね」(今年3月ツイッターで)30 Celebrities Who Are Fighting Chronic Illnesses訳/STELLA MEDIX Ltd.セレブたちの健康事情ハリウッドのセレブママ、クリス・ジェンナーが「乳ガン検査」について投稿 クリス・ジェンナーは、ハリウッドで最も有名な母親のひとりであり、女性の健康についての啓蒙をしてているお手本でもあります。このセレブママが、インスタグ... カーダシアン姉妹、ビヨンセ、ジジ、総勢39人のセレブが明かすワークアウトとは なんでも手に入りそうなセレブたちも、体型の維持には並々ならぬ努力が。騒然39人のセレブが、体型維持のためにしている、とっておきのワークアウトをご紹介...
2018年09月28日リチャード・ギアが破局した妻への財産分与をめぐって、離婚が泥沼化しそうな気配だ。リチャードと妻で女優のキャリー・ローウェルは昨年破局し、今年6月にキャリーが離婚を申請した。現在、両者間で財産分与の話し合いが行なわれているが、キャリーは2億5,000万ドルを要求していると言われている。2人には14歳になる息子がいるが、キャリーは結婚生活や子育てのために女優のキャリアを犠牲にしたと言い、2002年に結婚して以降にリチャードが得た収入の半分は自分に所有権があると主張しているそうだ。「New York Post」紙によると、キャリーの弁護士は、まだ具体的な話し合いは始まっていないとしながらも、依頼人(キャリー)が正当な分配を望んでいると語っている。リチャードは1991年から95年までモデルのシンディ・クロフォードと結婚していたが離婚している。一方、キャリーは2度の離婚歴があり、2度目の夫で俳優のグリフィン・ダンとの間に24歳の娘がいる。破局後、それぞれ新しい恋人と交際していた2人だが、リチャードはモデルでTV番組司会者のパドマ・ラクシュミと交際半年で破局を迎えたばかりだ。(text:Yuki Tominaga)
2014年11月21日