カンヌ国際映画祭パルムドール受賞のリューベン・オストルンド監督最新作『逆転のトライアングル』より本編映像が解禁された。カンヌ国際映画祭はじめ各国で高い評価を獲得し、本年度アカデミー賞では作品賞をはじめ、監督賞、脚本賞の主要3部門にてノミネートされ一層の注目を集めている本作。この度解禁となったのは、主人公のカール(ハリス・ディキンソン)がモデルオーディションに参加する映画の冒頭シーン。高級ブランド<フォン・オーベン>のランウェイモデルオーディション会場でインフルエンサーの突撃インタビューを受けるカール。インフルエンサーに「(これから受けるオーディションの)ショーのブランドは不愛想?ニッコリ?」と問われるが、カールはなんのことか分からない。そこでインフルエンサーは彼に優しく「ニッコリは“お安い“ブランド。高級なブランドは顧客たちを見下さなきゃ。『フォン・オーベン』を着る人は大金を見せびらかす感じ」と説明し、カールは不愛想とニッコリの使い分けを学んでいく。日本版予告の冒頭にもオーディションシーンの一部が使用されているが、実在するブランド名を挙げてその違いを表現するというオストルンド監督お得意の強烈なブラックユーモアに、SNSでは「このシーンだけで映画見たくなった」「このくだりだけで既に最高!絶対面白い映画」と、日本の観客の心も鷲掴みにしている。今回オストルンド監督が映画でファッション業界を描こうと考えたきっかけは、ファッション・フォトグラファーであるパートナーの影響だと語り、「ファッション業界においては男性よりも女性が優位で、男性モデルの置かれている状況は、男性優位な社会において女性たちが強いられていることと変わらないと知ったんだ。独特な世界で面白いと思ったよ」と明かす。そして、「また以前から“ルックスの美しさが持つ経済的価値”に興味があった。大抵の人間は生きていく上でルックスと向き合わねばならないからね。どんな見た目をしているかというのは、社会経験に影響すると思うんだ。ファッション業界を舞台にすることでルックスについても描けると考えたんだ」と、製作の成り立ちを明かしている。俳優業で成功する前にモデルをしていた経験を持つハリス・ディキンソンは、役作りについて「今でもモデルをしている友人がいたり、この業界には少し縁があるんだ。何人かファッション・フォトグラファーとも話をしたよ。ファッション業界にはいくつもの階層があるから、カールはどのレベルなのか、どういった立ち位置なのかを見極めることが大事だった」とコメントしている。ちなみにここで登場する<フォン・オーベン>は架空のブランドであり、スウェーデン語で「上から」の意味。どこまでも皮肉と遊び心が詰まったオストルンド脚本の小さなこだわりも必見。また映像に登場するインフルエンサー役のトビアス・ソーウィドは、身長2メートルを誇るスウェーデンのプロチアリーダー。チアリーダーとして活躍する傍ら、ラジオパーソナリティ、モデル、俳優と多彩な顔を持ち、明るいキャラクターで広く愛されている注目のインフルエンサーだ。北米の映画公式インスタグラムでは、キャンペーンとして彼を起用した街頭インタビュー企画を実施しており、映画同様に「不愛想?それともニッコリ?」と道行く人々へ愉快に絡む姿が笑いを誘う。『逆転のトライアングル』は2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:逆転のトライアングル 2023年2月23日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
2023年02月09日カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞のリューベン・オストルンド監督作『逆転のトライアングル』より場面写真が解禁された。本作は、『フレンチアルプスで起きたこと』(14)、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(17)で驚くべき人間観察眼とセンス抜群のブラックユーモアを炸裂させてきたリューベン・オストルンド監督の最新作。<ファッション業界とルッキズム、そして現代階級社会>をテーマに私たちの価値観を見事にひっくり返す、世紀の大逆転エンタメだ。先日の第80回ゴールデングローブ賞では、作品賞(ミュージカル・コメディ部門)と、助演女優賞(ドリー・デ・レオン)の2部門ノミネートを果たし、ますます注目を集めている。この度解禁されたのは、階級社会がそのまま反映された豪華客船の個性豊かな登場人物たちの姿、さらに有名モデルやインフルエンサーたちがSNSにアップするような華やかな世界、全く映えない無人島の過酷な世界という両極端なシーンが垣間見える場面写真。鍛え上げた肉体で広告モデルのオーディションに挑むカール(ハリス・ディキンソン)と、恋人のカールにSNS用の写真を撮影させる超売れっ子モデルのヤヤ(チャールビ・ディーン)。モデルカップルのふたりがインフルエンサーとして参加する豪華客船クルーズの旅には、アルコール中毒の怪しげな船長(ウディ・ハレルソン)、見るからにセレブなルックスの大富豪の妻(ズニー・メレス)、超高額チップ獲得を夢見て気合いを入れる白人の客室乗務員らが乗り合わせる。そんなラグジュアリーな雰囲気から一転、船が難破したどり着いた無人島のシーンで切り取られているのは、船のトイレ清掃婦だったアビゲイル(ドリー・デ・レオン)が皆を従える姿だ。さらにファッションショーのランウェイとは別人のようにボロボロになったヤヤがアビゲイルと神妙な面持ちで抱き合う様子もあり、サバイバル生活の中で一体なにが起こっているのか気になる場面も。豪華客船と無人島という全く異なる環境を舞台に、映画のテーマである「ルッキズムと現代階級社会」をリューベン・オストルンド監督がどのように炙り出すのか…。ブラックユーモアと遊び心満載で贈る最新作に期待が高まる。『逆転のトライアングル』は2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:逆転のトライアングル 2023年2月23日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
2023年01月18日『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞した、スウェーデン人監督リューベン・オストルンド監督の次回作『Triangle of Sadness』に、ウディ・ハレルソンが出演することになった。ブラックコメディで、言語は英語。主人公は、ほかの大金持ちらと一緒にクルーズ船に乗ったファッションモデルのカップル。船が沈没し、生存者は離れ島に流れ着くが、時間が経つにつれて彼らの間にはヒエラキーができていく。撮影は今月半ばにスタート。ロケ地はスウェーデンとギリシャ。オストルンドのキャリアで最も予算をかけた野心的な作品になるとのことだ。オストルンドの『フレンチアルプスで起きたこと』は、つい最近、ウィル・フェレル主演でハリウッドリメイクされた。タイトルは『Downhill』で、今月14日に北米公開となる。文=猿渡由紀
2020年02月05日正義という名の落とし穴 © 2017 Plattform Prodtion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS現代美術館のキュレーターであるクリスティアンは、バツイチですが2人の愛すべき娘の良き父親であり、洗練されたファッションに身を包み、高級な電気自動車を運転し、慈善活動を支援しています。そんな彼による次の展示は「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いただけの作品。通りかかる人たちを利他主義へと導くインスタレーションで、責任ある人間としての役割を思い出してもらおうという試みです。その中では「すべての人が公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした参加型のアートで、現代社会に蔓延るエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる狙いがありました。しかし、自分の理想通りに生きるということは時に難しく、クリスティアンは自分の携帯電話を盗んだ泥棒に対して取った愚かなリアクションによって、恥ずべき状況へと引きずり込まれていってしまいますー。 人間の本質である“醜さ” © 2017 Plattform Prodtion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS学校の教室、街の掲示板、行政のポスターには、「人に思いやりを持ちましょう」「寛容な社会を目指しましょう」という、ちょっというフレーズが溢れています。しかし、これらのメッセージに反対する人は少ないにもかかわらず、実際に実践してみると困難に直面することでしょう。例えば、SNSなどで寛容な社会を訴えるリベラルな人たちが、自分の正義に1mmでも反対する人を見つけては、口汚く罵っているだけでなく、よく吊るし上げている行為を目にします。本作では、コンビニでチキンナゲットを買ってあげるシーン、トークショーに新京成の患者が紛れ込むシーンなど、全編を通してシニカルな笑いが多く描かれ、純粋なブラックコメディとして楽しめます。しかし、映画の内容に引き込まれるほど、目を背けたくなる人間の醜さが露わになり、居心地が悪くなってくることでしょう。ですが、どうか本編が終わるまでは席を立たないでください…“醜さ”も私たちの一部なのです。 ファンタジーな悲喜劇でもあり、リアルな風刺劇でもある本作品 © 2017 Plattform Prodtion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS北欧の若き巨匠リューベン・オストルンド監督の最新作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は、第70回カンヌ映画祭にて衝撃のパルムドール受賞を果たし、以降もヨーロッパの映画祭で最多6部門に輝くほか、第90回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされるなど、世界中の映画祭を席巻中です!展示作品「ザ・スクエア」が、世間に思わぬ反響を生み、大騒動へと発展していく、皮肉な運命の悲喜劇。主人公が窮地に追い込まれ、人間としての決断を迫られるたび、私たちは「自分だったら?」と考えずにはいられません。観る者すべての心が試される究極の問題作を、是非スクリーンでお楽しみください。 【情報】 『ザ・スクエア 思いやりの聖域』4月28日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、立川シネマシティほか全国順次公開監督・脚本:リューベン・オストルンド出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー原題:THE SQUARE配給:トランスフォーマー
2018年04月26日こんにちは。アートディレクターの諸戸佑美です。新緑の季節、話題のアートスポットや美術館へのお出かけも気になるところですね。今回ご紹介する映画は、美術館を舞台に人間の本質に迫る傑作社会派エンターテインメント!『フレンチアルプスで起きたこと』の鬼才リューベン・オストルンド監督の最新作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』をお贈りいたします。有名美術館のキュレーターが発表した展示作品「ザ・スクエア」が、世間に思わぬ反響を生み、とんでもない大騒動へと発展していく皮肉な運命の悲喜劇です。本作のアイディアは、2015年、スウェーデンのベーナムにあるデザイン美術館Vandalorumで催されたリューベン・オストルンド監督とカッレ・ボーマンのART PROJECT「THE SQUARE」からきています。それは、スウェーデン全都市の中心部に人道的な聖域(枠内ではすべての人に平等な権利と義務が与えられる)を設置するというアイデアでした。美術館の展覧会やイベントの仕事、PRプロモーションの裏側も多少の誇張はあるにせよ垣間見ることができ、メディアのあり方など問題点も提起し大変興味深く今日的です。第70回カンヌ映画祭にて最高賞パルムドール受賞を果たし、ヨーロッパ映画賞で最多6部門を制覇、そして第90回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど注目の問題作。ぜひこの機会にお楽しみくださいませ!©️YUMIMOROTO■映画『ザ・スクエア思いやりの聖域』あらすじー美術館を舞台に人間の本質に迫る、観るものすべての心が試されるヒューマンドラマ。主人公のクリスティンは、権威ある現代美術館の敏腕キュレーター。地位と名誉と容姿に恵まれ、洗練されたファッションに身を包み、バツイチですがふたりの可愛い娘を持ち、そのキャリアは順風万風そのもののように見えます。彼は、次の展覧会で「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品を展示すると発表します。「ザ・スクエア」とは、4メートル四方に四角く地面を区切っただけのもので、脇には「ザ・スクエアは、信頼と思いやりの聖域です。この中では誰もが平等の権利と義務を持っています」と記されています。ザ・スクエアは、「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アートプロジェクトで、現代社会に蔓延するエゴイズムや貧富の格差に一石を投じ、世の中を良くする狙いがありました。そんなある日、クリスティアンは、広場で人助けをした隙に携帯と財布を盗まれてしまいます。犯人探しのために彼のとった軽率な行動は、思いがけず同僚や友人、自らの子どもたちをも裏切ることに。一方、PR会社は、お披露目間近の「ザ・スクエア」を大々的に宣伝しようと画期的なプロモーションを持ちかけます。それは作品のコンセプトと真逆のメッセージを流し、わざと炎上させて、情報を拡散させるというやり方でした。その目論見は、見事成功したかに思えましたが、世間の怒りはクリスティアンの予想をはるかに超えて、大騒動になってしまいます。クリスティアンは予期しないさまざまな困難に直面。いったい、どうなるのでしょうか……!■理想と現実、あなたの心が試される主演の敏腕キュレーターであるクリスティアンには、本作でブレイクを果たし、ヒット作『ドラゴン・タトゥーの女』の続編に出演決定したクレス・バング。共演にHuluのドラマシリーズ『ハンドメイズ・テイル侍女の物語』でエミー賞受賞、ゴールデン・グローブ賞受賞などに次々と輝き、脚光を浴びるエリザベス・モス。また『シカゴ』などの演技派ドミニク・ウェスト、謎のパフォーマー役に『猿の惑星』のモーションキャプチャーを務めたテリー・ノタリーらがしっかりと脇を固めています。アート界を舞台に、現代社会を生きる人々が抱える格差や差別といった不条理を抉り出し、本当の正義や生きていくことの本質を痛烈な笑いとともにユーモアたっぷりに描き出した本作。“人を信用する”のか“人を信用しない”のか。美術館の訪問客は、ふたつのドアのどちらかを選択しなければいけません。主人公が窮地に追い込まれ、人間としての決断を迫られるたびに私たち観客は「自分だったら、どうするだろう……?」と考えずにはいられないでしょう。■映画『ザ・スクエア思いやりの聖域』作品紹介4月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティほか全国順次ロードショー公式ホームページ:原題:THE SQUARE監督・脚本:リューベン・オストルンド製作総指揮:トマス・エスキルソン、アグネタ・ベルマン、ダン・フリードキン、ブラッドリー・トーマス製作:エリック・ヘルメンドルフ、フィリップ・ボベール撮影:フレドリック・ウェンツェル美術:ジョセフィン・アスベルグ衣装:ソフィー・クルネガルドヘア・メイク:エリカスペツィク音響デザイン:アンデシュ・フランクミックス:アンドレアス・フランク、ベント・ホルム編集:リューベン・オストルンド、ジェイコブ・シュルシンガー制作年:2017年制作国:スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作 / 英語、スウェーデン語上映時間: 151分 / DCP / カラー / ビスタ / 5.1ch日本語字幕:石田泰子配給:トランスフォーマー後援:スウェーデン大使館、デンマーク大使館、在日フランス大使館 / アンスティチュ・フランセ日本©️2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS■映画『ザ・スクエア思いやりの聖域』キャストクレス・バンク=クリスティアンエリザベス・モス=アンドミニク・ウェスト=ジュリアンテリー・ノタリー=オレグクストファー・レス=ミカエル
2018年04月14日今年5月に開催された「第70回カンヌ国際映画祭」。栄えある最高賞パルムドールにはスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の『THE SQUARE』 が輝き、非劇場公開作品も高い評価を得るなど、注目作が揃った今映画祭から7作品をスターチャンネルと東北新社が買い付け。うち3作品が発表された。劇場公開から間もないハリウッドスタジオの最新作から、映画史に残る不朽の名作、人気の海外ドラマシリーズまで幅広く放送する映画専門チャンネルのスターチャンネル。本チャンネルでは、“映画館でもTVでもスターチャンネルが厳選した良作を”をコンセプトに、「STAR CHANNEL MOVIES」として世界中から良作を厳選してお届けする映画のラインナップ。今回買い付けされた7作品は、「STAR CHANNEL MOVIES」の新作ラインナップとして選出された。まず1作目は、『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュが監督を務める『All the Old Knives』(原題)。元恋人同士のCIA職員が、6年前の事件の再捜査に乗り出すストーリ―を描くスパイスリラーで、『スター・トレック』シリーズや『ザ・ブリザード』のクリス・パイン、『ブロークバック・マウンテン』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のミシェル・ウィリアムズらが出演する。続いて、『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダン監督作『The Widow』(原題)がラインナップ。『キック・アス』シリーズや『フィフス・ウェイブ』のクロエ・グレース・モレッツや『ピアニスト』『エル ELLE』のイザベル・ユペールが出演する本作は、亡くなった母親を忘れられない若い女性が、年の離れた未亡人と友情関係を結ぶが、やがてその関係が不吉なものへと変わっていくスリラー。そして最後は、『スウィート・ノベンバー』のパット・オコナーが監督を務める『Benjamin’s Crossing』(原題)。20世紀ドイツを代表するユダヤ系の哲学者ヴァルター・ベンヤミンに扮し、第二次世界大戦中、ナチスに追われピレネー山脈を越えて逃亡した史実を描くヒューマンドラマ。『英国王のスピーチ』や『キングスマン』のコリン・ファースらが出演する。なお、それぞれの作品の日本での公開は、2018年から2019年を予定している。(cinemacafe.net)
2017年06月11日第70回カンヌ国際映画祭授賞式が28日夜(フランス現地時間)に行われ、栄えある最高賞パルムドールには、スウェーデンのリューベン・オストルンド監督の『THE SQUARE』 が選ばれた。『フレンチアルプスで起きたこと』などで知られる監督は、初のコンペティション入りでいきなりパルムドールを獲る大金星。映画は現代アートの世界に生きる人々を風刺たっぷりに描いている。コメディがパルムドールいうのは近年珍しく、審査委員長のペドロ・アルモドヴァルは「政治的な正しさというものを風刺していて、とてもおかしく、イマジネーションに溢れている」と語った。現地の下馬評で一番人気だったロバン・カンピヨ監督(フランス)の、エイズ啓発グループをめぐるドラマ『BPM(Beats Per Minute)』は次点に当たるグランプリとなったが、これもアルモドバルは涙を浮かべながら絶賛。「審査員はみんなお互いを尊重した」と言いつつ、僅差だったことをうかがわせた。また、ウィル・スミスは自分が推した作品が無冠だったことについて「(審査における)民主主義は最低だよ!」と笑わせた。男優賞は『YOU WERE NEVER REALLY ME』 で、トラウマを抱える殺し屋を演じたホアキン・フェニックス。女優賞は『IN THE FADE』でネオナチに家族を殺される女性を演じたダイアン・クルーガーに贈られた。授賞式で名前を呼ばれたホアキンはしばらく固まってしまうほど驚き、登壇後もオロオロしてからようやく「まさか受賞すると思わなかったから、スニーカーで来ちゃったよ」と語って、会場をドッと沸かせた。受賞者会見で「あの驚きも演技ではないのか」と問われたホアキンは、「まったく演技じゃないよ。本当に予想もしていなかったんだ。僕は映画賞なんて縁がないからね」と笑顔で答えたが、ゴールデン・グローブ賞やヴェネチア映画祭での受賞は忘れてしまったのか、と司会者に突っ込まれる一幕も。実は監督のリン・ラムジーが脚本賞で先に名前を呼ばれており、カンヌでは受賞は1作品につき1つという原則があるため、余計に戸惑ったのかもしれない。女優賞のダイアン・クルーガーは今回の大本命で「これは家族の、そして母親の物語だと思って演じた。本当にエモーショナルな役だった」と語った。クルーガーはドイツ出身ながら初めてのドイツ映画出演でもあり、監督であるファティ・アキンに感謝を捧げた。監督賞は『THE BEGUILED』のソフィア・コッポラ。女性監督の同賞受賞は1961年のユリア・ソーンツェワ(『戦場』)以来の快挙となった。また同作と、『THE KILLING OF A SACRD DEER』に主演し、さらにコンペ外作品も含めるとなんと4本もの主演作がカンヌで上映されたニコール・キッドマンには、70回記念賞が贈られた。すでに帰国していたため代理でウィル・スミスがニコールになりきって受賞し、相変わらずの茶目っ気を見せた。昨年はプレスから大絶賛された『ありがとう、トニ・エルドマン』が無冠に終わるなど大きな番狂わせがあったが、今年は比較的順当な結果となった。主な受賞結果は以下の通り。パルムドール『THE SQUARE』 リューベン・オストルンド70回記念賞 ニコール・キッドマングランプリ『BPM(Beats Per Minute)』ロバン・カンピヨ監督賞『THE BEGUILED』ソフィア・コッポラ男優賞『YOU WERE NEVER REALLY HERE』ホアキン・フェニックス女優賞『IN THE FADE』ダイアン・クルーガー審査員賞『LOVELESS』アンドレイ・ズビャギンツェフ脚本賞『YOU WERE NEVER REALLY HERE』リン・ラムジー、『THE KILLING OF A SACRED DEER』ヨルゴス・ランティモス(photo / text:Ayako Ishizu)(photo / text:Ayako Ishizu)
2017年05月29日