フィンランドは、人口あたりの音楽家の比率が世界で最も高い国だということを耳にしたことがある。そのフィンランドが生んだ“異才”ムストネンが「東京・春・音楽祭2020」に登場する。経歴にもある通り、ピアニストであるとともに、作曲家・指揮者としても活躍するムストネンはまさに“音楽家大国”フィンランド音楽界を代表する存在だ。その尖った活動ぶりは、ちょっと普通じゃない過去の来日公演やアルバムの数々からも感じ取れる。最初の衝撃はベートーヴェンの小品ばかりを収めたアルバムだった。「パガテル作品126」の強烈無比のタッチと切れ味抜群の演奏は今もファンの間での語り草。来日公演で披露した、バッハとショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」を交互に奏でるステージにも、単なるピアニストとは一味違うムストネンのこだわりが見えて目からウロコの連続だったことが思い出される。今回のステージでは一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか興味津々。●公演概要3月22日(日)東京文化会館小ホール「オリ・ムストネン/東京・春・音楽祭2020」●オリ・ムストネン(ピアノ)(c)Heikki Tuuliラフマニノフ、ブゾーニ、エネスクといった偉大な作曲家の伝統を継ぎ、作曲家、ピアニスト、指揮者として非凡な才能を持つ、今日の音楽界において特異な存在である。一人三役での公演も多く、その傑出した業績が称えられ、過去にはダニエル・バレンボイムやパーヴォ・ヤルヴィも受賞した名誉あるヒンデミット賞を、2019年に授与された。およそ35年にわたるキャリアにおいて、自身の非凡なる音楽的見識を発揮し、これまでに、ベルリン・フィル、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、シカゴ交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、ニューヨーク・フィル、ロサンゼルス・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、パリ管弦楽団等の著名オーケストラと、ウラディーミル・アシュケナージ、ダニエル・バレンボイム、ヘルベルト・ブロムシュテット、ピエール・ブーレーズ、チョン・ミョンフン、シャルル・デュトワ、クリストフ・エッシェンバッハ、ニコラス・アーノンクール、クルト・マズア、ケント・ナガノ、サカリ・オラモ、エサ=ペッカ・サロネン、ユッカ=ペッカ・サラステ、パーヴォ・ヤルヴィ等の指揮者と共演している。2019/20シーズンは、自身の新作《Taivaanvalot》をイアン・ボストリッジ&スティーヴン・イッサーリスとアムステルダムのミュージックヘボウ・アアン・ヘット・アイで初演、その後ウィグモア・ホールと香港でも公演を行う。ボン・ベートーヴェン音楽祭から委嘱された弦楽六重奏曲は、2020年2月にタベア・ツィンマーマンらによって初演される。また、ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルク・フィルとの共演や、オークランド・フィルへ弾き振りでの客演の他、南アメリカ・ツアーや各国でリサイタルなどがある。輝かしい音楽家との交流を持ち、ロディオン・シチェドリンからピアノ協奏曲第5番を献呈され、シチェドリンの70歳、75歳、80歳を祝うバースデーコンサートに招待された。またヴァレリー・ゲルギエフとは幾度も共演を重ね、これまでにマリインスキー劇場管弦楽団、ミュンヘン・フィル、ロンドン交響楽団、ロッテルダム・フィル等と演奏している。昨シーズンはフィンランド独立100周年式典で、ソリストとしてエーテボリ交響楽団と共演した。世界各地でリサイタルを行い、ワルシャワのショパン協会、ペルミのディアギレフ音楽祭、マリインスキー劇場、ドレスデン音楽祭、シカゴのシンフォニー・センター、ニューヨークのザンケル・ホール、シドニーのオペラ・ハウス等に登場している。スティーヴン・イッサーリスとは30年以上にわたり共演を続け、近年はヒンツガルフ音楽祭、魔法にかけられた湖音楽祭、ウィグモア・ホール、イタリア・ツアーなどで共演した。プロコフィエフの解釈には定評があり、ハンヌ・リントゥ指揮フィンランド放送交響楽団とのピアノ協奏曲全曲の録音がオンディーヌからリリースされた。ピアノ・ソナタ全曲演奏会を、ヘルシンキ・ミュージック・センター、アムステルダム・ムジークヘボウ、メキシコのセルバンティーノ国際音楽祭、シンガポール・ピアノ・フェスティバル、ルール・ピアノ・フェスティバル等で開催し高評を得た。ベートーヴェンも重要なレパートリーであり、協奏曲は全曲とも何度も演奏し、ピアノ・ソナタ連続演奏会も各地で開催している。録音では、1997年にリリースしたロンドン・デッカからの『ショスタコーヴィチ&アルカン:前奏曲集』がエディソン賞とグラモフォン賞を受賞。オンディーヌからはほかに、『レスピーギ:ミクソリディア旋法の協奏曲/ローマの噴水』(サカリ・オラモ指揮フィンランド放送交響楽団)をリリースしている。イッサーリスとの録音は、BISレーベルよりマルティヌー、シベリウス、ムストネンの作品をリリースされているほか、ハイペリオンからの最新盤のショスタコーヴィチとカバレフスキーのアルバムが好評を博す。 ヘルシンキ生まれ。5歳よりピアノ、ハープシコード、作曲を学ぶ。最初にラルフ・ゴトーニに、その後ピアノをエーロ・ヘイノネンに師事した。
2020年03月12日15回の節目を迎える「フェスタサマーミューザKAWASAKI」。7月27日(土)から8月12日(月・祝)まで、ミューザ川崎シンフォニーホールを主会場に全20公演が行われる。キャッチフレーズは「15年目の熱狂へ!」。3月27日、ミューザ川崎内で発表記者会見が開かれた。【チケット情報はこちら】今年変化があったのは、首都圏のオーケストラが一堂に会するフェスティバルとして始まった「サマーミューザ」に、今年は首都圏外から初めて、仙台フィルハーモニーが出演すること。また、一昨年に続いて札幌からPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)オーケストラが特別参加するなど規模を拡大。「日本のオーケストラの祭典」へとグレードアップしつつある。各オーケストラの特色を最大限に発揮してもらおうと、音楽祭全体に特定のテーマを設けないのはいつもどおりだが、ちょっとした色分けはあって、お得なセット券はその色で括られている。平日夜セットの3公演は各オーケストラの定期会員も満足できる、正統派クラシック音楽プログラム。7月29日(月)アラン・ギルバート&都響によるレスピーギの《ローマの噴水》《ローマの松》などイタリア・プログラム。7月31日(水)ザ・クラシック・オブ・クラシック!井上道義と読響のブルックナー8番。8月6日(火)カリスマ人気チェロ奏者ジョヴァンニ・ソッリマがソロを弾くシティ・フィルのドヴォルザークのチェロ協奏曲。いっぽう平日昼セットの2公演は、気軽に楽しめるファミリーやシニア層を意図したプログラム。7月30日(火)スーパー・ギタリスト渡辺香津美が名曲《アランフェス協奏曲》を弾く神奈川フィル。8月7日(水)79歳の「炎のコバケン」小林研一郎が20歳の天才・藤田真央と築き上げる壮大なチャイコフスキー:ピアノ協奏曲。また、休日の公演にロシア音楽がさりげなく多めなのは、今年の隠し味だ。7月28日(日)上岡敏之&新日本フィルのラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(ピアノ小川典子)、プロコフィエフ《ロメオとジュリエット》。8月4日(日)満を持して乗り込む高関健&仙台フィルによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン郷古廉)と交響曲第4番。8月11日(日)ダン・エッティンガー&東京フィルのチャイコフスキー:交響曲第6番《悲愴》。8月12日(月・祝)フィナーレを飾る尾高忠明&東響のショスタコーヴィチ:交響曲第5番《革命》。コンサートによって、公開リハーサルやプレトーク、開演前のロビー・コンサートなどがあるので、ぜひ併せて楽しみたいもの。そして期間中は近隣の店舗と提携したさまざまな来場者サービスも用意されており、街をあげて来客をもてなす態勢も、いっそう充実してきた。暑い夏、オーケストラが熱い火花を散らすKAWASAKIへ!取材・文:宮本明
2019年04月12日西本智実とイルミナートフィルハーモニーオーケストラによるオーチャードホール第2回定期演奏会が、5月6日(水・休)に東京・オーチャードホールにて開催される。公演に関連し、指揮者の西本智実と、クラシックイベント「爆クラ!」(※)を主宰するなどクラシックに造詣の深い著述家の湯山玲子によるトークショーが開かれた。「西本智実指揮イルミナートフィル オーチャードホール第2回定期演奏会」のチケット情報※「爆クラ!」…爆音クラシックの略。毎回テーマに合わせて選曲されたクラシック音楽を爆音で聴き、多彩なゲストとともにトークをするイベント。今回の定期演奏会のテーマは「イタリア」。演奏プログラムは、ロッシーニの歌劇「セビリアの理髪師」序曲と、レスピーギのローマ三部作「ローマの祭り」「ローマの噴水」「ローマの松」が予定されており、トークショーでは特にレスピーギのローマ三部作に焦点をあて、その魅力が語られた。初めてレスピーギを“爆音”で聞いたときに椅子から転げ落ちるほど感動したと話す湯山は「私にとってレスピーギは、クラシックファンでなければ知らないような名曲をたくさんもっている作曲家ナンバーワン」と紹介。19世紀末から20世紀初頭にかけてイタリアで活躍したレスピーギについて、当時の時代背景やクラシック史上の位置づけなども交えながら「ロマン主義から現代音楽の間をつなぐような音楽家」と解説した。その音楽の魅力について西本は「多調といって、いろんな調を一緒にだすのが特徴的。とても映像的な音楽で、たとえば映画『ゴッドファーザー』で血生臭いことが行われているそのすぐ横でお祭りをしていたりするような、全然ちがうテーマだったりメロディやリズムを、同時にだしてくるんです。いろんな要素が同時に存在するのに、それぞれがぶつからず、不思議な感覚になる。いろんな空間を同時に感じられます」と紹介。湯山も同意し、さらに「映像に慣れている私たちにはとても馴染みやすく、たとえばグーグルアースみたいに、大きな視点からカメラがガッと寄ってきて、一気に美女の顔が大写しになる、みたいなダイナミズムもある」と加えた。特に三部作の中でも“祭り”については「後半にかけては、楽しくて楽しくて。いろんな曲があっちでもこっちでも聞こえる。音の映画みたい」(西本)、「“祭り”は、自分をかっこよく見せようというひとではやれない。大きい心がないとできない曲ですよね」(湯山)と、演奏への期待をふくらませた。最後に西本は「ローマ3部作を3曲まとめて聞ける機会は意外とない。豪華すぎて。生でしか味わえない良さがありますので、いろんな空間を音で作っていく生の製作現場にぜひいらしてください」と締めくくった。公演は5月6日(水・祝)、オーチャードホールにて開催。チケットぴあでは、西本智実自身がセレクトしたイタリアンのスペシャルメニューがセットになったお食事付チケットも好評発売中。
2015年04月28日