文豪作品の空気感を踏襲しつつ、画の魅力を加味した世界へようこそ。マンガで文豪に親しもう!マンガやアニメの人気が追い風になり、若い世代を中心に、文豪や文豪の作品のブームが続いている。だがこれまでスポットが当たってきたのは、主に明治から戦後すぐぐらいまでの日本の小説だった。しかし、いよいよ世界文学にもマンガ化の波が起きてきた様子。今回は、原作の色を大切にコミック化した3冊をピックアップしてご紹介。村上春樹の短編「螢」とディストピア小説として有名なG・オーウェルの『1984年』を手がけたのは、これまでも世界文学のマンガ化に積的に挑んできた森泉岳土。フランスの文豪マルグリット・デュラスの作品の中でも特に有名な『愛人(ラマン)』に挑んだのはフランスのマンガ「バンドデシネ」の影響を感じる高浜寛だ。物語のエッセンスを自身の解釈で抽出しているので、原作とはまた違った感想を持つだろう。著名な海外文学作品のあらすじと読みどころを、面白おかしくまとめてくれている久世番子のコミックエッセイは、原著を読むハードルをぐっと下げてくれる。文豪の世界にアプローチするきっかけになりそう。水と墨と楊枝で描かれる、繊細なモノクロームの魅力。『村上春樹の「螢」・オーウェルの「一九八四年」』マンガ:森泉岳土原作:村上春樹、G・オーウェル河出書房新社1100円©森泉岳土/河出書房新社人の心情をわかったふりをして腑分けすることを避け、それゆえにいかようにも想像が広がる村上春樹の世界。歴史や過去が修正され続ける徹底した監視社会下でささやかな抵抗を試みるウィンストンの変化が怖くなる世紀の傑作。マンガで読んでも最高だ。原作の雰囲気を見事に再現。ずっと眺めていたくなる。『愛人 ‐ラマン‐』マンガ:高浜寛原作:マルグリット・デュラスリイド社(トーチ comics)1500円©高浜寛/リイド社原作は、1984年にフランスの名誉ある文学賞「ゴンクール賞」を受賞した、M・デュラスの自伝的小説。貧しいフランス人少女と裕福な華僑の青年との切なすぎる初恋物語は感涙必至だ。オールカラーで描かれたひとコマひとコマがうっとりするほど美しい。有名すぎる文豪作品にも本書なら気軽に触れられる。『よちよち文藝部 世界文學篇』久世番子文藝春秋1000円©久世番子/『よちよち文藝部 世界文學篇』文藝春秋『高慢と偏見』『風と共に去りぬ』『百年の孤独』などタイトルもあらすじも知っているが、実はちゃんと読んだことがないという人率が高そうな名作たち。本書ではそれらを読破するための面白注目ポイントをガイドしてくれているので、今度こそ制覇できるかも。※『anan』2020年5月20日号より。写真・中島慶子文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年05月14日日本のソウルフードおにぎり。中の具材を変えればアレンジも未知数ですが、もっともっと味変してアレンジを楽しみたい方にオススメなのが、ご飯に天かすと青のり、刻んだ大葉を混ぜて作る「まるで天むす!天かすと青のりのおにぎり」です。天かすおにぎりは「悪魔のおにぎり」とも呼ばれて大評判にもなりましたね。温かいご飯に混ぜこんだ天かすから、ジワジワと油分が米粒に染み出して、その味わいはびっくり。まさに天むすです。おにぎりを食べる時ってなんだかワクワクした気持ちになりませんか。なかなかお出かけができなくても、天むすのような味わいを楽しむことができるこちらのレシピで、おうちでピクニック気分を味わうのもなかなか良いものです。混ぜて握るだけで簡単に作れるのでぜひ試してみてくださいね。悪魔‥の名の通り癖になる美味しさですよ!■まるで天むす!天かすと青のりのおにぎり調理時間 10分 1人分 201kcalレシピ制作:金丸 利恵<材料 2人分>ご飯(炊きたて) 茶碗に軽く2杯分天かす 大さじ2青のり 小さじ2しょうゆ 小さじ1~2大葉 3~4枚<下準備>・大葉は軸を切り落とし、粗みじん切りにする。<作り方>1、ボウルにご飯、天かす、青のり、しょうゆを入れ、サックリと混ぜ合わせる。ご飯は1人100~120gくらいで少なめです。ご飯が多い場合は混ぜる材料を調整してください。2、(1)を4等分にしてラップの上に置き、それぞれ丸く丸める。器に盛り、大葉を飾る。忙しいときはおにぎりにしないで、お茶碗によそってもいいですね。混ぜて握るだけの簡単レシピ。おにぎりの奥深さを知る新しいレシピです。なかなかお出かけができなくても、おにぎりを食べる時のワクワク感を大切に、気分転換も兼ねてぜひ作ってみてくださいね。
2020年05月10日俳優の三浦春馬が26日、自身のインスタグラムで、ゆずの「からっぽ」を弾き語りしている動画を公開した。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため外出自粛が求められている中、SNS上で芸能人がリレー形式で歌唱動画を公開する「うたつなぎ」が展開中。このたびJUJUから三浦春馬へとつながった。三浦は「僕は中学時代に友人に誘われてギターを始めさせてもらいました。そのときによく弾いていたのがゆずさんの楽曲で、今日は僭越ながらそんな大好きなゆずさんの『からっぽ』という楽曲を弾かせていただきます」と説明してから、弾き語りを披露した。三浦の弾き語りに、「ギターも歌も素晴らしい」「歌上手い」「歌うますぎます」「元気出ました」「心が温まりましたありがとうございます」「素敵な歌声ありがとうございます」「弾き語り最高です」「歌もギターも素敵」などと絶賛の声が寄せられている。なお、三浦は「どなたに繋ぐか悩みに悩んだ結果…おこがましいとは思いましたが、北川悠仁さんにお願いをさせていただきましたとても光栄です悠仁さんおねがいします」とゆずの北川悠仁にバトンをつないだ。
2020年04月27日詩の投稿に熱中する男子高校生のストーリーを描いた小説『坂下あたると、しじょうの宇宙』の著者・町屋良平さんに作品に対する思いを聞きました。詩作に懸ける男子高校生ふたりが友情や才能をめぐり、問いかける。佐藤ダブリスという筆名で詩の雑誌や小説投稿サイトに自分の詩を投稿していた高校2年生の佐藤毅。彼のそばには、毅が天才的な文学的才能の持ち主だと信じてやまない親友の坂下あたるがいる。ふたりが投稿しているサイトやSNSでもあたるはちょっと知られたスターだ。「そのあたるの言葉に刺激されて、毅も詩を作ります。ただ、その後、彼らの関係がどう変わっていくのかは僕自身もわからないまま、書き進めました」ある日、小説投稿サイトに〈坂下あたるα〉というあたるの偽アカウントが登場してくる。本家の作品やレビューの中の言葉を少しだけ変えてアップするという行動を繰り返す偽あたるの存在によって、ネット界隈はざわつき、毅とあたるの関係までもがぎくしゃくし始め…。「AIに作品を乗っ取られる事件が起きるのは予感があったのですが、ふたりの関係の変化は僕自身書いていていちばん意外なところでした」現実に人工知能に小説を書かせるソフトもあり、絵空事ではない。「AIがいつかすごく面白い作品を書くのかなと、僕自身、とても興味深いんですよね。ただ、小説っておそらく書かずにはいられないという初期衝動も大きくて、そういうモチベーションをAIは持ちうるだろうかとも思ってしまう。僕が好きなのはみな、いびつさがある作品なんです。それは生きるという試行錯誤の中で生まれるものだし、創作に関しては案外楽観視しています」最果タヒさんや文月悠光さんら、いま注目を集めている若手詩人たちの作品が、多く引用されている。「特に中尾太一さんや、本作には織り込めなかったけど暁方ミセイさんは本当に好きで。『詩とかわからないから』と自分の興味の外にあるものに人は案外冷たいよなというのが僕の長年のフラストレーション(笑)。なので、あたるの心情とシンクロしながら、若い人がもっと小説や詩の世界に入ってきてくれたらなという“祈り”を織り込みました」とても意味深なタイトルは、「自分の中では、詩情と至上がまずあり、でもひらいたら、ダブルミーニングやトリプルミーニング…もっと言葉の可能性があるなと。作中でもあえてひらがなを使うのは、僕自身がひらがなが好きだからですね」町屋良平『坂下あたると、しじょうの宇宙』詩の投稿に熱中する高2の佐藤毅。親友で文学的才能のある坂下あたるや彼の恋人の浦川さとか、京王蕾らとのザ・青春的丁々発止も楽しい。集英社1600円まちや・りょうへい1983年、東京都生まれ。2016年に『青が破れる』で文藝賞を受賞しデビュー。‘19 年、『1R1分34秒』で第160回芥川賞を受賞。他の著作に、『ショパンゾンビ・コンテスタント』など。※『anan』2020年4月29日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年04月23日愛と性と生殖という、女性がいつか直面する問題に切り込む意欲作、高瀬隼子さんによる小説『犬のかたちをしているもの』。「セックスをしないでも仲のいい、同棲中のカップルというのがまず浮かんできたんです。展開はそのつど考え、『こうだったらもっとつらいだろうな』と薫が思うような状況に、少しずつ追い込んでいきました」高瀬隼子さんの『犬のかたちをしているもの』の主人公は、〈わたし〉こと間橋薫(まはしかおる)。卵巣の病気をきっかけに性交に抵抗を感じるようになり、それで別れた恋愛も経験している。〈セックスしなくなるよ、わたし〉と言う薫に、いまの恋人・郁也は〈薫のこと、好きだから大丈夫〉と答えてくれた人。実際、セックスレスになってからの方がずっと長い。そんなある日、郁也は、自分との子を妊娠している〈ミナシロさん〉という女性に、薫を引き合わせる。ミナシロさんから「産むけれど、薫と郁也にもらってほしい」と告げられ、薫はあらためて、愛や子どもを持つことの意味を考え始める。「薫、郁也、ミナシロさん…、それぞれの立場に身を置いてみたら、どの葛藤も困惑もわかるというか、彼女たちが『こうなったかもしれない自分』に思えたんです」郁也とミナシロさんは金銭を介した性のみの関係で、ふたりの間に愛はない。それでも、薫の気持ちは千々に乱れる。また、ミナシロさんの数々の言葉にハッとする読者も多いだろう。たとえば〈わたしは子どもを育てないけど、産むわけだから、なんか、クリアした感じ〉。出産も、女性自らが望んで、というだけでなく「なんとなくそうすべき」と思いがちなことだ。女性というだけで、当たり前のように課されてきた役割やタスクへの違和感を問いかけてくる。「子どもの頃から友だちが『いつか結婚したい、子どもが欲しい』と無邪気に言うのがよくわからなかったんです。それは自分の親とかを見ていて、ひとつの理想として『あんな人生が欲しい』という意味なんでしょうが、『子どもがいる人生が欲しい』と『子どもが欲しい』は、重なる部分はあっても、実は別の話という気がするんですよね」本書には、女性にとってのたくさんの問題提起が含まれている。「読者からの感想を見て、確かに女性の苦しさを書いていたのだとあとから気づきました。これからもそうしたテーマで書いていきたいです」たかせ・じゅんこ1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒。2019年、本作で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。次回作は、歩きスマホの問題にもの申す作品になる予定。『犬のかたちをしているもの』愛のあるセックスとは何か。したくない気分の相手に性行為を求めるのは愛と呼べるのか。性なき愛は可能か。自問自答しながら読みたくなる。集英社1400円※『anan』2020年4月15日号より。写真・土佐麻理子(高瀬さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年04月10日ライター、ブックカウンセラー・三浦天紗子さんに、文字、行間に色気が潜む、小説、エッセイ、そして短歌を教えていただきました。言葉で腑分けされた繊細な感情。そこに文章の色気は潜んでいる。「作家は、登場人物の感情やそのときの感覚にミクロのレベルまで近寄って、腑分けしてくれるんですよね。例えば“うれしい”という気持ちも、エピソードを積み上げ、喩えを駆使して文字で読者に伝えてくれる。だから私たちはそれを読めば、作中で右往左往する人たちの思いや感情に、行間も含めて乗っかるだけで、色気を味わえるんです」と言うのは、ライター、ブックカウンセラーの三浦天紗子さん。色気のある文章には、必ず以下の要素がある、と語ります。「文体が静謐というか、ささやかな声で語っていること。インテリジェンスともろさが共存していて、さらに心に孤独が棲んでいる。そんな要素がある文章は色っぽい。どちらかというと、恋にしろ運命にしろ、ままならない物語のほうが、色気は漂いますよね。加えて、今回選んだ6冊にはいずれも、どこか死の淵をのぞき込む危うさがある。それも、色気を感じさせる一つの要因かもしれません」空間に潜む幽霊が醸し出す、少し切ない官能性。『ここは夜の水のほとり』清水裕貴 著¥1,400/新潮社‘18年の「女による女のためのR-18文学賞」の大賞受賞作が収録された、5編の連作短編集。舞台は美大と美大予備校、玉川上水の鬱蒼とした緑の中で交錯する人間関係を描く。「どの物語にも、幽霊のような“影”がちらついていて、それが独特の色気に繋がっている気がします。受賞作は、〈あなた〉と語りかける存在が、かつてルームメイトだった男性をそっと見つめるストーリー。部屋に漂っている、意識の官能性というか、切ない色気が堪能できます」視線、ささやき声、筆談。静寂の世界に漂う色っぽさ。『ギリシャ語の時間』ハン・ガン 著、斎藤真理子 訳¥1,800/晶文社ある日突然言葉が話せなくなってしまった女性が、言葉を取り戻すために、ギリシャ語教室に通い始める。そこで出会ったのは、徐々に視力を失いつつある男性講師。「失われた言葉と、失われつつある視線を使ってのコミュニケーションは、とても静的で、その密やかさと削ぎ落とされた感じがとても色っぽい。お互い、不自由さを引き受けて、その上で寄り添い、交わし合う言葉や視線。端正な文章、特に終盤の詩のような繊細な世界観に、ため息が出ます」夢や秘密を打ち明ける。その密やかさが官能的。『囚われの島』谷崎由依 著¥1,600/河出書房新社バーで出会った盲目の調律師に魅入られ、主人公の女性新聞記者・由良は彼の部屋へ通う。二人は同じ島の夢を見ていることがわかるが、調律師はその夢に怯えており…。「調律師が語る夢の話を由良が聞くシーンが色っぽい。秘密や夢うつつの昔話、彼が恐れているイメージに二人が共鳴していく雰囲気にゾクゾクします。蚕をめぐる歴史や蚕の生殖の特殊性などが性的なメタファーにもなっていて、何かが起きそうな不穏な空気に酔うような読み心地です」死と隣り合わせの日記には繊細で危うい色気が宿る。『八本脚の蝶』二階堂奥歯 著¥1,200/河出文庫25歳の若さで命を絶った女性編集者が死の直前まで綴った日記と、生前親しかった13人の文章を収録した一冊。「悩んだり葛藤したり、日記の中の彼女は内省を深め自分を追い詰めていきます。完璧主義で繊細で、危うさに満ちた文章からは、自己のあり方に煩悶する、孤独で繊細なたましいの気高さを感じます。彼女は猛烈な読書家だったので、さまざまな本から引用がなされているのですが、特に死生観にまつわる抜き出しや執筆部分が、エロティックです」華やかさとつつましさ。削ぎ落としの美学を堪能。『対岸のヴェネツィア』内田洋子 著¥1,400/集英社長くミラノに住む作者が、イタリア人ですら“暮らしづらい”と言うヴェネツィアで暮らすことを決意。そこで出会った人々や街の様子を綴った12のエッセイ。「どこか人を拒むような雰囲気もある、不便な街・ヴェネツィア。でも内田さんのフィルターを通して見ると、その暮らしづらさまでもが官能的になるから不思議。秀逸なのが、住むことになった部屋との出合いのくだり。窓から見える風景の描写は、私も住んでみたいと思うほど魅力的」ほとばしる熱情をクールな言葉で詠む、抑制の色気。『メタリック』小佐野 彈 著¥2,000/短歌研究社LGBTであることをオープンにしている歌人のデビュー作。370もの短歌が収録されており、恋愛や、世の中の不条理、ままならないことなどへの思いが溢れている。「とにかく“愛を詠む”熱量がすごい。好きな人への気持ちをストレートに詠んでいる、恋文のような短歌がたくさん収録されています。自身のセクシュアリティへのとまどい、叶わない恋に飛び込むみずみずしさ…、抑制が利いたモダンな表現によって、逆に彼の繊細さや孤独感を強く感じます」みうら・あさこライター、ブックカウンセラー。書評やインタビューを中心に、弊誌をはじめ雑誌やウェブメディアで活躍中。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子取材、文・河野友紀(by anan編集部)
2020年03月31日三浦大知が本日1月31日から埼玉・さいたま市文化センターで「DAICHI MIURA LIVE TOUR 2019-2020 COLORLESS(ホール公演)」の公演初日を行う。ハイクオリティな歌とダンスで人々を魅了し続ける三浦大知。昨年は全国で約5万人を動員した「DAICHI MIURA LIVE TOUR 2019-2020 COLORLESS(アリーナ公演)」を成功させ、公演タイトルにもなっている『COLORLESS』を配信リリースした。2020年はすでに1月15日にニューシングル『I’m Here』を発表。「とても前向きで、自分を全肯定できるようなポジティブな楽曲です」と本人もコメントした自信作だ。ミュージックビデオはまだ公開されていないものの、MVの解説動画がアップされたことも話題となっている。「DAICHI MIURA LIVE TOUR 2019-2020 COLORLESS」は昨年のツアータイトルを引き継ぐ形で行われる全国ホールツアー。本日から6月17日まで、25会場36公演が予定されている。人気を博した昨年のステージがどのように進化を遂げるのか、注目したい。■公演情報「DAICHI MIURA LIVE TOUR 2019-2020 COLORLESS」日時:1月31日(金)開場17:30/開演18:30場所:埼玉・さいたま市文化センター
2020年01月31日ギフトコンシェルジュ・真野知子さんの「おいしいギフト」。今回ご紹介するのは、『日本橋 天丼 天むす 金子半之助』の海老天押し寿司です。東京・日本橋にある江戸前天丼専門店『金子半之助』は新鮮な穴子や海老、イカなどを胡麻油の香る特製揚げ油で天麩羅にして、豪快に盛り付けるボリューム満点スタイルの江戸前天丼が名物。海外からのファンも多く、アメリカや台湾にもお店を構える人気店だ。その初となるテイクアウト専門店がオープンした。店内には厨房もあり、家庭や職場でも楽しめるようにお土産として買いやすいお弁当や天ぷらが並ぶ。注目したのは渋谷限定となる<海老天押し寿司>。天丼と押し寿司を掛け合わせた新感覚の一品だ。揚げたての天ぷらを楽しむ天丼を、冷ました飯で作る押し寿司に。ポイントは“冷めても美味しい”ということ。むしろ“冷めた方が美味しい”というのがこの押し寿司の魅力。海老と大葉のかき揚げを秘伝のタレで味付け。その甘辛いタレが染みて、しんなりとした衣をまとった海老はプリプリの食感のまま、たっぷりと味わえる。時折香る大葉の風味が、爽やかなアクセントに。そして酢飯は胡麻とガリが隠し味だ。ほんのり生姜を効かせ、さっぱりとした酢飯にタレがほどよく染み食欲をかきたてる。ハイブリッドな一品は食べやすいサイズにカットされているのも嬉しい心配り。折箱入りで手土産だけでなく駅弁としても重宝しそう。海老天押し寿司¥1,000。1日100個限定。日本橋 天丼 天むす 金子半之助東京都渋谷区渋谷2-24-12渋谷スクランブルスクエアB2TEL:03・6419・709010:00~21:00休みは施設に準ずるまの・ともこギフトコンシェルジュ。手土産など日常的なギフトからハレの日まで多彩なシーンに合わせたギフトをセレクト。※『anan』2020年1月22日号より。写真・清水奈緒スタイリスト・中根美和子文・真野知子(by anan編集部)
2020年01月15日ロロの三浦直之は、演劇になじみのない若い世代に、今最も作品を届けられる作・演出家のひとりだと思う。新作『四角い2つのさみしい窓』は、解散公演に臨む劇団員たち、出産を控えた若い夫婦、そしてユビワとムオクと名乗る不思議な男女の3組が、海沿いの町に建てられたゴーストウォールという名の世界初の「透明な防潮堤」を目指して旅をする中で交差するロードームービー演劇だ。東日本大震災以降、被災した各地域では防潮堤の建設が進められている。その中で、景観に配慮して建てられたアクリル製の防潮堤から三浦が着想を得た。三浦直之は宮城県出身。小学3年生まで、特に被害の大きかった女川町で過ごした。震災時にはすでに東京で暮らしていた三浦は「宮城県の人間だから完全に非当事者ではないですけど、感覚的には非当事者側に近い」と震災との距離感を語った上で、今作に限らず「ずっと震災は僕の中で続いているモチーフ」と想いを込める。「今回もことさら震災を打ち出したいわけではないけれど、僕が生きていく中で、“分断”というのを強く感じていて。“分断”を超えていくのではなく、僕たちを“分断”しているその線を認識した上で共に生きることができないか、という問いは、この作品の中にも込められています」「透明な防潮堤」はそんな“分断”の象徴だ。震災のみならず、経済格差からジェンダーまで、近年、“分断”は社会を語る上で欠かせないワードとなっている。三浦直之の綴る作品は、非日常的な浮遊感とぬくもりを帯びながら、1987年生まれの三浦の社会観や家族観がダイレクトに反映されているところが面白い。たとえば、三浦がここ数年テーマとして取り組み続けている“集団”も、人とのつながりやコミュニティについて強い関心を寄せるミレニアル世代にとっては、共鳴しやすいトピックだ。「劇団って、どうしても主宰である僕が権力を握りやすい。そうしたいわゆる“家父長制”を乗り越えた集団をどうしたらつくれるかをずっと考えている」と構想の背景を明かす。今作でも家族という共同体が重点的に描かれているが、全体を通して浮かんでくるのは“関係性”というキーワードだ。「集団には役割というものがあって。たとえば劇団なら僕が演出家で、俳優たちには俳優という役割がある。でもその役割が固定化されず、状況によって変化したらどうなるだろうって。たとえば、ある場面では僕が父的ではあるけれど、別の場面では僕が子的になり、他の誰かが父的になったり母的になる。そんなふうに集団の中でコロコロと役割を組み替えていくようなコミュニティをつくれないかなということを考えながら作品を書いていきました」三浦直之撮影:三上ナツコロロも旗揚げから10周年を迎えた。メンバーの板橋駿谷が『なつぞら』で脚光を浴びるなど、取り巻く状況は変化期に差しかかっている。三浦もまた「俺はロロを続けなきゃいけないんだって、自分で自分に呪いをかけている部分があったことに、この作品をつくりながら気づいて。その思い自体はポジティブなものだと思っているんですけど、昔ほどそれに執着しなくなっているなとも感じはじめています」と心境の変化を見せる。「この先、ロロの作品で全員が揃うことってちょっとずつ少なくなっていくと思うんです。でも僕は、それでいいと思っていて。今回も駿谷さんはいないですけど、単にいないじゃなくて、“でも、いる”って感じられるような、今ここにいない人もどこかにいて、それも込みで集団って言えるようにしていけたら」何より三浦自身も外部の仕事が続いている。昨年は、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『逃げるは恥だが役に立つ』と人気原作の朗読劇を手がけ、脚本を担当したドラマ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』も高い評価を受けた。こうした原作ものを手がけたことで「他人が書いた言葉にどう向き合っていくか」に悩んだと言い、たとえば同性愛者の高校生の青春を描いた『腐女子〜』では「自分はゲイではないから、そこに対して変に感情移入した言葉を書くことは、むしろ原作に対して間違った行為なんじゃないか」と苦悩した。非当事者が、当事者の言葉を書く。それは、確かにある種の傲慢さを孕んだ行為だ。けれど、そんな傲慢さを敏感に察知し、真摯に向き合える繊細な感受性があるからこそ、三浦直之のつくる作品は人に優しいのだと思う。「自分は間違えるかもしれない、人を傷つけるかもしれないという怖さは今も続いています。でも、劇団は俳優と一緒につくるものだから。もし僕の言葉に対して違和感があるなら、必ず俳優が言ってくるだろうと信じて頑張って書くしかない」『四角い2つのさみしい窓』は1月19日(日)に阿南市情報文化センター コスモホールで徳島公演を行い、 1月30日(木)から2月16日(日)までこまばアゴラ劇場で東京公演を開催。その後、福島・三重をめぐる計4都市ツアーを予定している。取材・文:横川良明ロロ撮影:三上ナツコ
2020年01月08日「家は『私の』とか『彼女の』とか、絶対に所有格で語られるもので、逆に誰も住んでいない家屋は『家』とは呼べないような…。考えてみたら不思議なものだなぁと」ある一族の暮らしや秘密、言わなかった思いなどを、3世代の視点で描き出す青山七恵さんの『私の家』。同棲を解消し、実家に戻っている27歳の鏑木梓の祖母・照の四十九日の法要に、親族が集まるところから物語は幕を開ける。「ああいう場では、普段は全然会わない人も集まります。親戚という以外の何の接点もなかったりするのに、妙な一体感があって面白いですよね。3つの点をつないだときにできる切断面の面積を求めよ、みたいな算数の問題がありますが、この小説でも、外から見ただけではわからない図形が、いろいろな世代や家という場を点として描くことであれこれ見えてくるのではないかと思ったんです」作中でも、語り手に見えている家や家族は、別の語り手から見ればまた違った形をしていたりする。たとえば、照には照の親心があったわけだが、幼い頃に叔母・道世の家に預けられた祥子には人知れぬ寂しさがあり、兄・博和が長く音信不通だった理由も博和なりにある。そうした思いのズレにリアリティがあり、同時にそれは、共感を誘う美点だ。家は、目に見えたり直に触れられたりする場所というだけでなく、思いや記憶が積み重なった宙にもあるものなのかなとも思う、と青山さん。「私が作家になっていろいろ描いていることも、実は祖先の誰かから渡されたものなのかなと。たとえば会ったことのない曽祖母も、いま会って話したら意外と気が合うのでは。もしかしたらその人が生きている間に考えきれなかったことを代わりに考えているのかなと思ったり(笑)」ちなみに青山さん自身の「家」観をうかがってみると、「一人暮らしをしているいまの部屋にはものすごく愛着があるんですが、作家のための長期滞在のプログラムでフランスのサン・ナゼールに滞在したとき、その家は私の所有物でもないのにどこかに出かけて戻ってくると『家に帰ってきた』とほっとしていました。人と家とは案外緩やかなつながりで結ばれているもので、『私の家』と呼べる場所は人生にいくつもあるのかもしれません」あおやま・ななえ作家。1983年、埼玉県生まれ。’05年「窓の灯」で文藝賞を受賞しデビュー。’07年「ひとり日和」で芥川賞、’09年「かけら」で川端康成文学賞を受賞。『踊る星座』ほか著書多数。『私の家』鏑木家の次女の梓、母の祥子、父の滋彦、大叔母の道世、伯父の博和、亡くなった祖母の照らがそれぞれに抱えていた内緒の思いが交錯する。集英社1750円※『anan』2019年12月25日号より。写真・土佐麻理子(青山さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年12月23日グラビアアイドルの天木じゅんが15日、東京・秋葉原のソフマップで最新イメージDVD『天木じゅんと隠しごと』(発売中 4,180円税込 発売元:リバプール)の発売記念イベントを行った。95㎝のIカップバストを武器にした二次元ボディーで人気の天木じゅん。最近は映画やドラマなどに出演するなど、グラビア以外の活躍も目立つ。最新作は、6月に沖縄・石垣島で撮影。本人役でロケ中に彼氏と秘密のデートを繰り広げるというシストーリーが展開する。ブルーのセクシーな水着姿で登場した天木は「私が本人の役で、ロケに彼氏がついてきちゃったというスリリングな設定になっています。実際にそんな経験なんてないですよ! あったら面白いと思って企画した作品です」と内容を紹介。「最初のシーンから激しくて、何分後に撮影で集合という時に彼氏と隠れて時間を過ごしたりと、小ネタが全シーンに散りばめられています。一緒にロケにいった気分になると思いますよ」とアピールした。さらに、「朝ベッドのシーンはシャツだけだし、夕陽のシーンも露わになっているのでぜひ見て欲しいですね。それと夜のベッドのシーンで着た変形下着風水着が一番セクシーですよ。布をまとっているの? というぐらい肌の出ている面積が大きすぎてめちゃくちゃセクシーです!」と見どころを語った。また、「見て分かると思いますが、昔とは違います。大人っぽさは表面的ですが、そこを生かしながら今後もグラビアなどで頑張っていきたいです」と成長もアピール。「恋はしている?」という質問には「そうだったらいいんですけどね~。ただの憧れとして私が勝手に大人っぽくしているだけなんですよ」と答え、クリスマスの予定については「キラキラしたイルミネーションを見ながら1人で雀荘に行きたいと思います」と寂しそうな表情を見せていた。
2019年12月21日こじれた恋愛関係を、繊細で切ない心理を掬い上げつつユーモラスに描く志村貴子さん。月刊誌『Kiss』で連載中の『おとなになっても』は、大人の百合ロマンスだ。小学校教諭の綾乃は、行きつけのバーで、朱里という女性と初対面で意気投合。熱いキスまでする仲に。しかし、実は綾乃が既婚者であるなど、いわゆる大人の事情が混み入っている。「『恋人や配偶者がいるなら諦めろよ。そっちを解消してから次行きなよ』って話になっちゃうと、それで終わってしまう話なのですが…(笑)。それを解消しないままいきなり恋が始まってしまったことに対する、驚きや戸惑い、狡(ずる)さなどを、綾乃自身もたぶん感じているんですよね。1話めの時点では、綾乃はちっとも誠実じゃないのでそれを修正するためにもがいたりはしているんですが」ヘテロなのに自分の気持ちに戸惑う綾乃と、レズビアンで女性との恋で傷ついたことがある朱里。共に自分の気持ちを持て余しつつ、それでも好きな気持ちが膨れ上がっていく。そんな切なさが、綾乃や朱里の目ヂカラや物言わぬときの唇のニュアンスからひしひしと伝わって、キュンとせずにはいられない。「豊かな表情の作り方は難しくて、毎回悩みどころですね。はっきりとした喜怒哀楽よりも、それぞれの間に存在する“少し悲しい”とか“少し嫌な気分”のような、表向きはあまり表情には出さないけれど、胸の内には渦巻く複雑な感情があって…というのを、ただの真顔や無表情になってしまわないよう、うまく表せたらなと思っています」綾乃の夫は、妻からどストレートに「気になる人がいる」と言われて困惑。また、姑も、アポなしで訪ねてくるような人で、夫や姑の存在が、ふたりの関係にどんな影響を与えていくのかも気になるところ。「夫にしてみたら、妻の告白は青天の霹靂すぎてなかなか感情が追いつかない事態でしょう。彼の内面の変化を、段階を経てじっくり描いていきたいです。お姑さんもただのチクチクばあさんというより、この人はこの人で家族の問題に頭を悩ませている。根は悪い人じゃないと思うので、そういう人間的な部分も描けたらいいなぁと思っています」続きが楽しみすぎる!『おとなになっても』1小学校教諭の綾乃と、ダイニングバーで働く朱里の一目惚れラブストーリー。女子高生同士の心の揺れを描いた名作『青い花』の著者が、30代女性の愛に挑む。講談社440円しむら・たかこマンガ家。1973年、神奈川県生まれ。本作のほか、2015年に、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『淡島百景』(既刊3巻)など連載多数。※『anan』2019年12月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年12月19日ゆりあ先生こと伊沢ゆりあは、手芸教室を開く主婦。物書きの夫・吾良と義母との平穏だった3人暮らしは、吾良が外出先で倒れたことで一変!次々に発覚する夫の秘密も、自宅での介護も、どーんと受け止めるゆりあだが…。入江喜和さんの『ゆりあ先生の赤い糸』は、ヒロインの肝の据わったキャラや彼女を取り巻く人間関係など、まったく目が離せない予想外の展開が魅力だ。異色のヒロイン誕生のきっかけは、担当さんとの世間話からだという。「夫に愛人発覚、となったらどうするか?」という話になったとき、家に連れてきて、面倒見てしまいそうな気がする、と答えた入江さん。ゆりあはそれを地で行くヒロインだ。物語は、ゆりあの少女時代から始まる。姉の蘭とは性格も対照的で、姉妹で始めたバレエも、ゆりあだけが真面目に向き合い、ゆえにつらい思いもする。父親からも強い影響が。だが、こうした少女時代のエピソードがのちに、辛抱強く、何でも背負いすぎるゆりあの性格に生きてくる。「前作の『たそがれたかこ』にしても、前々作の『おかめ日和』にしても、言いたいこともいったん引っ込めて考えるようなおとなしめな主人公が続いたので、弱きを助け強きをくじくような男気あふれるヒロインが描きたくなったんだと思います。バレエも出てくるので、大好きなシルヴィ・ギエムみたいな男前な人がいいなーと(笑)」4巻に入り、ゆりあは、懇意にしている便利屋さんを営むシングルファーザー伴ちゃんと急接近。「年齢は50歳、おっさんのようなゆりあさんですが、少女マンガとして描いてるので、恋はしていてほしいと思っています。今後ますます、ゆりあさんの心の支えになっていくかもしれませんね」明るいタッチで描かれてはいるが、ゆりあさんひとりにのしかかる経済的な問題や、リク君こと箭内青年、シングルマザーのみちると幼い子どもたちといった、新たな同居人たちとのこの先の関係の行方など、状況はますますハードに。「私くらいの年齢になると、出会いはどうあれ、仲良くなる人とは仲良くなるし、思わぬ人に助けてもらえることもあるなと感じます。そんなふうに3人の関係がその時によって変わっていけばいいなと思います」『ゆりあ先生の赤い糸』4夫がくも膜下出血で昏睡状態になったとの知らせを受け、病院に駆けつけたゆりあ。夫に付き添っていた美青年と夫との関係は…。2020年1月に5巻が刊行予定。講談社440円©入江喜和/講談社いりえ・きわマンガ家。東京都出身。夫でマンガ家の新井英樹氏とともに、今年画業30周年を迎えた。「描くのが年々楽しくなってきています。この先も続けていけたら最高です」※『anan』2019年12月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年12月18日グラビアアイドルの天木じゅんが、最新イメージDVD『天木じゅんと隠しごと』(4,180円税込 発売元:リバプール)をリリースした。95㎝のIカップバストを武器にして人気の天木じゅん。最近は演技の世界にも活躍の場を広げ、映画やドラマなどにも出演している。最新作は、天木と秘密のデートを繰り広げるというシチュエーションものとなっている。プールで着用したY字系水着は、胸の谷間や横乳、さらには下乳が露わになるなど、天木のIカップバストが存分に楽しめるもので、アイドル時代には見られなかったセクシーな表情も見せる。なお、同DVDの発売を記念したイベントが12月15日に東京・秋葉原のソフマップAKIBA1号店 サブカル・モバイル館6F(16:00~)で開催される。
2019年12月12日又吉直樹さんの新刊のタイトルは『人間』。又吉さんが敬愛する太宰治は死の直前に『人間失格』を完成させており、どんな思いを込めてその表題をつけたのか、想像が膨らむ。青春が終わっても、なお人生は続く。その後の物語。「作中にも『人間失格』の話が出てきます。太宰がそれを書いたのは38のとき。僕も連載時38歳で、まったく意識しなかったわけではないです。でもそれ以上に、僕も『人間って何やろう』と考えたりしますし、もともと人間という言葉が好きで、人間というつかみきれないものに興味があるんです」絵を描いて認められたいと思っていた語り手の永山は、38歳となったいま、絵や文章を発表しながら、細々と生計を立てている。そんな永山が、若い時分に暮らしていたのは「ハウス」と呼ばれる共同住宅。クリエイター志望者が集い、創作や議論に明け暮れたあのころを回想するところから物語は進んでいく。芸術を志す同志であり、同時にここでいちばんにならなければという闘争心もあるからこそ、「ハウス」の人間関係は複雑だ。友情も恋愛も辛辣な言い争いも起きる。「作品を褒めるのとけなすのと、ある種の人から見たら、けなす人の方が『詳しい、通だ』。そういう感覚を起こしやすいですよね。でも、若いころなんて特に、本当は怖いから攻撃的になってしまうだけで。僕自身、よしもとの養成所に通っていたころ、ネタ見せして順位を決められたりとかやってましたから、ああいう空気感は思い当たるところがあります。当時は考えすぎて『ボケがないネタを作ろう』とか『ボケがないっていうのをひとつの大きなボケにしよう』とか(笑)。それはいまじゃ絶対にできひんことで。ただ、そんなふうに試行錯誤したことがのちのちの大きなものにつながっていくことはある気がします」本書には、表現やものづくりにのたうち回る若者たちの、胸に刺さる言葉や思いがたくさん出てくる。たとえば、〈自分の才能を信じる事は罪なのか〉という罪悪感。「こうなりたいという理想の自分と現実の自分との差異が苦しみを生むわけで、ギャップが大きいほどしんどいものです。別に本人がやりたくてやっていることなのに、どこからしんどさがくるのか。それをたどってみれば、自分が何者かになれる、自分にはできると思っているせい。永山が己の才能を信じるという感情を罪と捉えるのも、極端ではあるなぁと思いますが、僕も若いときにちょっと考えていたようなことです」ほどなく住人たちとのいざこざが起こり、それを機に、永山はハウスを出た。だが、18年経ってハウスでもっとも気が合った影島と再会し、またも芸術談議を交わすようになる。芸人であり、発表した小説で芥川賞を受賞した影島は、もっとも又吉さんを彷彿させる人物だ。その影島と、同じくハウスの元仲間で、コラムニストとなったナカノタイチとの間で論争が勃発。その果てに、永山や影島はどんな道を選ぶのか。「『火花』も『劇場』も主人公が20代のころの話で、彼らが、その後どうなっていくのかを見つめたいというのが『人間』を書くひとつのモチベーションだったんです。若いころに体験した、本人にとっての大きな出来事を、どういうふうに消化したのか、しようとしているのかと」前2作と比べていちばん自分の体験に近いと、又吉さん自身も認める本作。永山がラストで感じた思いは、いま又吉さん自身が感じている人生のリアルかもしれない。『人間』2018年9月から2019年5月まで毎日新聞夕刊に連載。又吉さんにとって初の新聞小説。「緊張もあったけれど楽しかった」と振り返る。毎日新聞出版1400円またよし・なおき1980年、大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として人気を博していた2015年に、小説デビュー作『火花』を発表、同年に同作で芥川賞受賞。そのほか、『劇場』(新潮文庫)、『東京百景』(ヨシモトブックス)など単著、共著多数。※『anan』2019年11月27日号より。写真・土佐麻理子(又吉さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年11月26日龍神の化身の少女と堅物(カタブツ)小学生、ふたりの微笑ましく愛らしい交流を描いた漫画『龍神かごめちゃん』。著者・松尾あきさんに話を聞きました。龍神の化身の少女と、堅物(カタブツ)小学生。ラブリーなボーイミーツガール物語。主人公の殿田勘九郎は、奔放な姉の三菜とふたり暮らし。姉の素行不良の反動か、小学生にして<真面目に堅実に正しく生きて…立派な大人になるんや>と自分に誓うようなきまじめ小学生だ。ある日、瀬田川にかかる唐橋の下で見知らぬ少女に出会う。<わらわなぁかごめって言うねん>と自己紹介した少女は、実は自分は呪いで少女に姿を変えられた龍神の化身で、行くところもないという。行きがかり上、勘九郎は和服姿の黒髪の少女を家に居候させることになり…。ふたりの微笑ましく愛らしい交流を描く『龍神かごめちゃん』、その著者が、松尾あきさん。「ネームがなかなか通らなかったころ、親しいアシスタント仲間に『地元の何かで描いてみたら』と勧められたんです。通っていた高校の近くにあった唐橋は滋賀の名所でもあり、僕自身もなじみ深い場所。それをモチーフにしようと調べているうちに龍神伝説を知り、今回のような設定が浮かびました」人間界の暮らしや事情に明るくないかごめちゃんだが、ウインナーが気に入ったり、フラッシュモブに挑戦したり。もっとも、天然すぎて周囲とズレることも。それを、持ち前の正義感と優しさでフォローするのが勘九郎。関西弁でのふたりの掛け合いが、可笑しいやら愛らしいやら。「『ケロロ軍曹』や『うる星やつら』『じゃりン子チエ』など、読んできた作品に感化された部分がにじんでいるなとは感じます。僕自身、大きなスペクタクルより、日常のささやかな人間関係のマンガが好きなんですよね。ギャグに関しては、小さい頃から見ていた吉本新喜劇の影響が、潜在的にあるかもしれません」描きたいのは、ほのぼの可愛いだけではない世界だという。「たとえば人物の表情も、喜怒哀楽を豊かに、人間くささや愛嬌を前面に出す意識で描いています。その方が、ここぞというときに思い切り可愛くしたアップなども生きてくると思うので」川の水を口からダバダバ吐き出したり、人を宙に浮かせたり、神がかった異能も発揮。龍神たるかごめちゃんは、いつかもとの姿に戻って川に帰っていくのだろうか。まだ松尾さん自身も結末は曖昧だというが、しばらくはかごめちゃんと勘九郎の可愛い丁々発止を楽しみたい。松尾あき『龍神かごめちゃん』 1日本の名橋の一つ、滋賀県「瀬田の唐橋」。龍神伝説のある瀬田川の橋の下で、可愛い龍神と出会った小学生の勘九郎。姉とかごめちゃんとの同居生活が始まる。秋田書店600円©松尾あき(秋田書店)2019まつお・あきマンガ家。滋賀県出身。京都造形芸術大学在学中の2016年、「週刊少年チャンピオン フレッシュまんが賞」佳作となり、デビュー。『別冊少年チャンピオン』で本作を連載中。※『anan』2019年11月27日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年11月26日週刊ビッグコミックスピリッツ連載中の漫画『君は放課後 インソムニア』について、著者のオジロマコトさんにお話を聞きました。不眠症に悩む高校生が織りなす、ボーイ・ミーツ・ガールの行方は。能登にある九曜高校に通う中見丸太(なかみ・がんた)。目下の悩みは不眠症。日中眠くて不機嫌そうな中見は、クラスでもやや浮いた存在だ。文化祭の準備に忙しい女子クラスメイトからダンボールを運んでくるように言われ、本館に出向く。実は、この高校には本館3階に幽霊が出るという噂が。そのいわく付きの場所にあるのが、廃部になった天文部の部室なのだ。中見が、いまは物置代わりになっているその場所に足を踏み入れてみると、そこにいたのはクラスメイトの曲伊咲(まがり・いさき)。お互いが不眠症であり、「自分は変なのではないか」と悩んでいることを打ち明け合うことに…。そんな高校生男女の一風変わった出会いから、『君は放課後インソムニア』の幕は開く。その著者がオジロマコトさん。「不眠をテーマに取り組んでみようと思ったのは、自分自身も小中学校のころに、眠れなくて苦しかった夜があったからですね。いまも周りに眠れずに悩んでる人が多くいて、共感してもらえると思いました。中見と伊咲は、相反するタイプにしようと考えました。中見がメガネを直すときの手つきとか、伊咲のそのときどきの気持ちがそのまま歩き方に出てしまうとか。そういう仕草の積み重ねで、それぞれのキャラクターができあがってきたと思います」眠れない中見と伊咲は、家を抜け出して夜の散歩をしたり、天文台のある部室を居心地よく整えたり、部室に迷い込んできた猫を保護したり……。ふたりだけの秘密が増えるにつれ、距離も近づいていく。そんな甘酸っぱい展開も読みどころ。「普段歩き慣れている場所も、夜だと特別な場所に見えると思うんです。日常の学校生活に安全地帯のないふたりだからこそ、安心できる場所を用意してあげたかった。それが、あの天文台のある部室。ささやかなことでも、ふたりですれば特別な楽しい体験になるのだろうなと」物語の伏線はいくつも用意されているが、まだまだ予測不能な展開だ。「天文部としての活動や、花火大会、臨海学校などの学校行事のたびに、ふたりにはさまざまなことが起きていきます。その中で、彼らが抱えているものや過去のことなどが少しずつ見えてくるはず。ふたりだけの特別な時間や新たな場所を増やしていくつもりなので、見守っていただけたらうれしいです」表情豊かな中見と伊咲を追っていると、彼らと一緒に夜の冒険を楽しんでいるかのような気分になれる。続きが楽しみ。オジロマコト『君は放課後インソムニア』1幽霊の噂から近寄る人もいなかった天文部の部室で、中見と伊咲は、つかの間の眠りといくつかの秘密を共有することに…。週刊ビッグコミックスピリッツ連載中。小学館591円©オジロマコト/小学館オジロマコトマンガ家。代表作に『富士山さんは思春期』(全8巻)、『猫のお寺の知恩さん』(全9巻)等。12月に『君は放課後インソムニア』2巻が発売予定。※『anan』2019年11月20日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年11月14日横須賀市と三浦市をまるごと走る三浦半島の観光名所の名所を走ったり歩いたりしながら楽しむ「横須賀・三浦100km・63kmみちくさウルトラマラソン(旧・三浦半島100km・60kmみちくさウルトラマラソン)」は、2020年5月30日(土)に開催します。みちくさウルトラマラソンは、マラソンとピクニックを一緒したような大会で、自分の足でゆっくり、のんびりと楽しみながらラン旅を楽しみます。フルマラソン完走できる程度の走力があれば大丈夫種目(制限時間)は、100km(14時間15分)、63km:A(12時間15分)、63km:B(11時間15分)の3つがあり、誰でも参加することができます。参加費は、100km 17,000円63km 12,500円です。コースは、横須賀ヴェルニー公園を出発し、三笠公園・馬堀海岸・観音崎・燈明堂・神明公園・武山・三浦海岸・剣崎・城ヶ島・三崎港・ソレイユの丘・佐島公園・湘南国際村などの景勝地を巡ります。走りながらいろいろなモノを楽しもうウルトラマラソンでは、フルマラソン以上の距離を走るため何度も心が折れそうになるかもしれません。それ以上に、エイドで、土地のおいしい郷土料理を食べることができ、抜群な景色、地元の方からの応援に励まされ、日常では経験することができない感動、達成感を味わうことができます。(画像は公式サイトより)【参考】※公式サイト
2019年11月11日絆の考え方は人それぞれ。決まったかたちがないものです。ミュージシャン・高見沢俊彦さんが思う「私の絆論」を教えてもらいました。絆は見えないけれど、確認するものじゃない。音楽って、“音を楽しむ”と書きます。“バンドにとっての絆”を考えたときに僕が最も大事だと思うのは、一緒に音を楽しめるかどうか。楽しめなくなったら、つまらなくなったら終わりなんです。僕は桜井と坂崎とギターを弾いてコーラスをすることが、45年経った今でも楽しい。二人がそう思ってくれているかどうか、正確なところはわからないけれど(笑)、でもたぶん、同じように考えてくれているんじゃないかな。ファンの方はご存じだと思いますが、アルフィーは、もともと桜井が高校時代に組んでいたフォーク・グループがベースになっているバンドです。別の高校に通っていた坂崎が先に加入、大学1年のときにキャンパスでばったり会った僕を坂崎が誘い、それで3人が揃った。当時の僕は大学がまったく楽しくなく、暗黒状態で、そんなときに坂崎から、「明日ライブなんだけど、ギターが抜けちゃって困ってる。よかったら手伝ってくれない?」と言われ、深い考えもなく参加しギターを弾いたら、とても気持ちが良かった。フォーク・ミュージックは初めてでしたが、彼らとギターを弾いてコーラスをしたのが新鮮で、高校時代にやっていたロックバンドでは感じたことのない楽しさがあった。もし桜井と坂崎がメタル好きだったら?こんなに長く続かなかっただろうね。フォークという、それまでまったく接点がない音楽だったからこそ、3人の間にここまでの絆が生まれたのかもしれないです。でも最初から絆があったわけでも、上手くいったわけでもない。デビュー後、オリジナル曲を作り始めたのですが、もともと僕らは主義主張があるわけでもない、ただ一緒に歌うのが楽しいだけの3人だったから、曲作りはかなり難題でしたね。いつの間にか桜井と坂崎が挫折、気がついたら曲を書いているのは僕だけに。でも曲がなければバンドは続けられないし、僕は彼らとバンドをやりたかったから、必死で書きましたよ。結局最初のヒットが出るまでに9年かかった。今思えば、つらい時間を共有し共に乗り越えたことも、絆をより強くした一因だったと思います。当時一人になると、「このままじゃヤバいな、学校に戻ろうかな」と揺れていたのは事実。でも3人で集まって歌っていると、そんなことどうでもよくなっちゃう。それこそが最大のバンドの利点、強さなんです。音楽を続けてこられたのは、バンドという形だったから。そういう意味で、二人にはとても助けられたと思っています。45年続けてきて、今なおこの3人でバンドをやるのが楽しい理由…、それはたぶん、僕が二人をミュージシャンとして認め、尊敬しているから。僕ができないことを彼らは、彼らができないことを僕はやっているという自負がある。バンドは総合力があってこそ。アルフィーは誰かが突出しているバンドではないからこそ、総合力が大事。とはいえ、「互いをリスペクトしてる」とか、言葉で確認したことは一度もないですね。絆は確認し合うものじゃない。愛も夢もそうだけど、目に見えないものは、確認してしまうと違う方向にいってしまう。それよりも、一緒に音楽をやる喜びだけを感じていくことが大事なんだと思います。ちなみに、以来アルフィーの曲は結局僕が全部書いていて、「あれ、俺、結局二人に書かされた…?」と思わないこともない(笑)。でも、二人に上手く乗せられてこうなったとしても、それはそれ。その曲をステージで最もかっこよく再現できるのは、あの二人なわけですから。そこに僕は、絶大な信頼を持っています。たかみざわ・としひこ1954年生まれ、埼玉県出身。桜井賢(Vo&Ba&Gu)、坂崎幸之助(Vo&Gu)をメンバーとする、THE ALFEEのボーカル&ギター。アルバム『Battle Starship Alfee』(ユニバーサル ミュージック)が発売中。※『anan』2019年11月13日号より。文・三浦天紗子©Malte Mueller(by anan編集部)
2019年11月09日決まったかたちがないからこそ、絆の考え方は人それぞれ。思想家・内田 樹さんが思う「私の絆論」を教えていただきました。「親身になりすぎない」がつながりの中で重要になる。子どものときからこの年まで、嫌なものは嫌で生きてきました。一度嫌だと思うと、自分でもどうにもならない。僕くらい極端なのは特異かもしれませんが、どの集団にも、特別に背が高い人や特別に太っている人がいるように、僕の場合は「嫌なことに対する耐性が特別に乏しい」に生まれてしまったんだと思います。ただ、嫌なやつ以外に対してはかなりフレンドリーなので、知人友人はたくさんいます。長く大学の教師をして、いまは「凱風館」という道場を建てて、そこで合気道を教え、寺子屋ゼミという私塾を開いていますが、門人、塾生あわせると300人ほどになります。師として人に向き合うときに気をつけているのは、あまり親身になりすぎない、相手に興味を持ちすぎないこと。できるだけ非人情に接するようにしています。大学在職のときには、よく身の上相談を受けましたが、学生の話をあまり真剣には聞かないようにしていました。学生たちの悩みは家族や恋愛関係など、かなりドロドロした話が多いので、まともに受け止めて、ほんとうに有用なアドバイスをしてあげようと思うと、こちらの身が持ちません。でも、彼らが「毒を吐く」機会は保証してあげないといけない。そうしないと、成長の次の段階に進めませんから。だから、思い切り「毒」を吐かせてあげる。それを右の耳から左の耳にスルーして、そのままそっとトイレに流す(笑)。親身なアドバイスはしませんが、就職を世話してほしいとか、推薦状を書いてくれとか、金を貸してくれとかいう具体的な頼みは断ったことがありません。「金は出すが、口は出さない」が僕の師弟関係における基本的な構えです。「非人情だが不人情ではない」という対人関係の作法を師と仰ぐ先人たちから学習しました。自分自身がハブになって、ネットワークを広げるということはずっと意識的にやってきました。僕を介して、いろんな人がつながってゆき、そこに新しいコミュニティができる。それが僕とは無関係にどんどん活動してゆく。そういう出会いの場を提供するのが僕のミッションだと思っています。道場に行けば誰かがいて、何かが始まる。誰と誰が出会って、何が始まるか、僕にはコントロールできません。僕はただ、公共的に使用できる空間を提供しているだけです。僕抜きで、みんな勝手に知り合って、勝手に仲良くなって、結婚したり、ビジネスを始めたり、イベントを企画したりしている。凱風館でいま何が起きているのか、僕自身も把握していない。そういう自律的な場を立ち上げられたことに僕はとても満足しています。いまでは、ITの進化のおかげで、昔ならとても出会う機会のなかったような疎遠な人ともつながりを持てるようになりました。でも、疎遠な人とのコミュニケーションは表面上はテンポの良いやりとりが行われているように見えても中身はだいたいスカスカです。だから、現代は「コミュニケーションが薄っぺらになった」のではなく、「コミュニケーションする必然性のない人ともコミュニケーションできるようになったせいで、不要不急の薄っぺらな関係が増えた」ということにすぎないと僕は思っています。昔は人とつながっていない人は端的に孤独だった。いまは「本当はつながる必然性がない人」とも技術的にはつながれるので、「つながっているのに孤独」という現象が起きている。一生を通じて揺らぐことのないほどつよい絆が稀有だということはいまも昔も変わらないと思います。うちだ・たつる1950年、東京都生まれ。武道家、凱風館館長。神戸女学院大学名誉教授、翻訳家。『そのうちなんとかなるだろう』(マガジンハウス)ほか著書多数。ブログ「内田樹の研究室」。※『anan』2019年11月13日号より。イラスト・加藤 大文・三浦天紗子©Mongkol Chuewong(by anan編集部)
2019年11月08日読むと一緒に街歩きをしている気分になれる。お散歩マンガ『ぐるぐるてくてく』の著者・帯屋ミドリさんに話を聞きました。散歩部の女子高生ふたりがぐるぐる街歩き。それだけでなぜか面白い。豊島南高校散歩部の主たる部員は2年生の相生葵(あいおい・あおい)と1年生の小路歩(こみち・あゆむ)のふたりだけ。学校がある池袋周辺の名所やユニークな建物などを、紙の地図を片手に訪ね歩くふたりを目で追えば、まるで一緒に街歩きしているような気分!そんな楽しいお散歩マンガ『ぐるぐるてくてく』の著者が、帯屋ミドリさん。「上京してきて初めて住んだのが雑司が谷。学生時代から池袋や目白など周辺を僕自身もぐるぐるしていました。穴場も含めて東京の中でいちばんよく知っているエリアだし、思い入れもあるので、葵と歩にまずはそこを歩いてもらおうと」ふたりが訪ねるのは、東京・豊島区南池袋に位置する日本初のマンション一体型本庁舎「としまエコミューゼタウン」や池泉回遊式の日本庭園「目白庭園」といった一種のランドマークから、日本のガウディと呼ばれる建築家・梵寿綱(ぼん・じゅこう)氏デザインのビルなど隠れた名所まで、いろいろ。「マンガなので、説明的にしたくないですね。なるべくふたりの普通の会話の中で、その場所の魅力を伝えていけたら…と思うんです」なんといっても目を瞠るのは、驚異のリアリティとレトロな温かみが共存する絵のタッチ。「だいたいのストーリーが決まったら、その散歩ルートに沿って写真を撮りに行くなど資料を集めます。それを参考に、細かい線などもみなフリーハンドで描いています。凝ったディテールが続く建物とかはやはり大変。アイデアを練っている段階では『絶対この建物を描こう』と燃えているんですけれど、実際描く段になると『なんでこれを選んじゃったのかな』と後悔半分(笑)」2巻に入り、葵と歩の友人たちが、飛び入りで散歩に交じるように。「新しいメンバーが加わると、同じ場所に行っても、違う感想が出てきたりするもの。人それぞれの散歩道というか楽しみが広がれば、読者にも喜んでもらえるかなと」このマンガを描いている間にも、再開発などが進み、すでに変わってしまった場所もあるらしい。「だからこそ、なくなる前にマンガで残しておきたいという気持ちもありますね。なので『読んでここがステキだったので行ってきました』とツイッターとかでリプをもらうと、最高に嬉しいです」帯屋ミドリ『ぐるぐるてくてく』2巻では、池袋中心からお散歩エリアを少し拡げて、埼玉県の彩湖周辺や、東京・巣鴨地蔵通り商店街なども探訪。本作は、LINEマンガで連載中。LINE Digital Frontier 580円。©Midori Obiya/LINEおびや・みどりマンガ家。愛媛県出身。2012年、ちばてつや賞ヤング部門準大賞を受賞。著書に『放課後ミンコフスキー』、『サヨナラさんかく』など。※『anan』2019年11月6日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年11月05日Webで発表していた作品を大幅に加筆修正、描き下ろしも加えて刊行された、和山やまさんの漫画『夢中さ、きみに。』。作品への思いを聞きました。一風変わった高校生たちが織りなす可笑しみのある日常がクセになる。新人離れした画力と、文学性さえ感じるストーリーのオリジナリティで読者を魅了。和山やまさんの『夢中さ、きみに。』は、8つの読み切りとあとがきからなる。前半の4話は林、後半の4話は二階堂明という男子高校生を軸に話が進む。「林の場合、『何を考えているかわからない奴』を描こうと思ったように記憶しています。腹の底が見えないキャラクターは、現実にいると気になって魅力的に見えるものです。二階堂も同じですね。自分が考えたキャラといえども他人ですから、知らない面もたくさんあります。程よい距離感を保ちつつ、『こういう一面もあるのか』と発見しながら描いていきました」物語はあまり大きく動かず、登場人物たちの思いだけがぐるぐるする。「キャラクターやストーリーが頭の中である程度まとまったら、ネームに移る前に『人物の会話』のみを一字一句狂いなく書いていくんですね。口数は多いか少ないか、露骨に言うタイプか婉曲に言うタイプかなど、言い草や口癖で人間が見えると思うので、話し言葉は慎重に考えます」絵のタッチには独特のムードが漂う。「(ホラーマンガ家の)伊藤潤二を感じる」と言われることもある。「学生時代、新人賞に応募したときの講評でも指摘されました。伊藤潤二先生の絵の魅力は何といっても、人物の横顔の美しさだと思っていて、影響は受けていると思います」描かれている人物の表情や教室風景などはシリアスで、ときに不穏な雰囲気さえあるのに、林が絵のキャンバスを干しいも作りの道具にしていたり、上のカットのように、目つきやバックの色だけで二階堂が別人のように見えたりと、突如現れるコメディ演出が、名状しがたい面白さを醸し出す。「ギャグはいちばん自信がない部分で、感覚で描いているとしか言えないんですが、自分の性格上、テンション高めにギャグを放つことにはたとえマンガであっても気恥ずかしさを感じます。しかしギャグは描きたい…。葛藤は常にあるんです。なので、その狭間をさらにうまくモノにできたらいいなと思っています」和山やま『夢中さ、きみに。』Webで発表していた作品を大幅に加筆修正、描き下ろしも加えて刊行。標題は、和山さんが好きなバンド「チューリップ」の楽曲がヒントに。KADOKAWA700円。©和山やま/KADOKAWAわやま・やま沖縄県出身。本書で商業デビュー。現在も同人誌即売会などで精力的に作品を発表。古谷実、伊藤潤二、釋英勝、御茶漬海苔らを敬愛。※『anan』2019年10月23日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)池田エライザさんのヘルシービューティのヒミツ
2019年10月21日ドラマ『ひとりキャンプで食って寝る』の撮影で、三浦貴大さんはキャンプを大いに楽しんだそう。現場の様子を聞きました。ドラマの撮影をきっかけに、ひとりキャンプに目覚めました。「最初にコンセプトを聞いた時は、“僕がひとりでキャンプをしているドラマ、見る…?”と不安になったのを覚えています(笑)」そう三浦貴大さんが話すのは、ドラマ『ひとりキャンプで食って寝る』のこと。ひとりでキャンプ場で缶詰を使った料理を作り、食べることが大好きな大木健人を演じる。「キャンプに慣れている役なので、テントの張り方やギアや機材の準備の仕方は事前に練習しましたが、役作りをしている感じはありませんでした。監督にも、『そのままいてくれれば健人なんで』と言われたくらいです。多分、基本、ひとりでぼーっとしているところを見ていて、三浦くんならいいかって思ったんじゃないでしょうか(笑)。ただ、無口な人や、一見近寄りがたそうな人と出会っても変に気負わず人と関わっていく人間性は、人見知りの僕とは違うのかな。撮影も、ひたすら僕が楽しんでいただけでした。実際に売っている缶詰を使って、少し手を加えて食べるというシーンをたくさん撮ったんですけど、全部美味しかったのでトクしたな~と。凝ったものではないけど、外で食べるという雰囲気も含めて最高でしたよ。ただ、撮影用ビールは中身がお茶なので、そこだけちょっと残念だったけど…」撮影をきっかけにひとりキャンプの楽しさに開眼した三浦さん。プライベートでも行くようになったそう。「テントを張って、たき火をして、飯作って、酒を飲んで、朝起きたらコーヒーを淹れて…と、ドラマの光景そのままです。料理も缶詰を食べていて、コーン缶とコンビーフ缶は最強だと、あらためて感じました。基本、休みの日は引きこもっていたのですが、最近、その場所が家から山に移った感じです。気持ちが開放的になるし、健康的になれた気がしていいですね。“この日に行こうかな”と計画するのも楽しみになっているし、自然の音がちょうどいい雑音として聞こえてくるからか台本を覚えるのも早くなりました。そう、最近、女性のソロキャンパーが増えているという記事を見たのですが、実際に行くとおじさんしかいなくて…。アンアン読者のみなさん、ぜひ、ひとりキャンプをしてみてはどうですか?ずっと座っているので、アウトドアショップで自分に合う椅子を見つけられると非常にいいと思います。ドラマにはノウハウがたくさん詰まっているので、よかったら参考にしてみてください」『ひとりキャンプで食って寝る』缶詰料理を作ることに幸せを見出す男・大木健人と、海や山、川で獲って食べることに心を奪われる女・七子(夏帆)。それぞれのキャンプ物語を隔週で描く。10月18日(金)24時52分~、テレビ東京ほかにて放送開始。©「ひとりキャンプで食って寝る」製作委員会みうら・たかひろ1985年11月10日生まれ。東京都出身。映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』で俳優デビュー。NHK大河ドラマ『いだてん』に野田一雄役で出演中。映画『大綱引の恋』が2021年に公開。※『anan』2019年10月23日号より。写真・岡本 俊(まきうらオフィス)インタビュー、文・重信 綾衣装協力・ROL(by anan編集部)池田エライザさんのヘルシービューティのヒミツ
2019年10月20日『グランド・フィナーレ』で芥川賞受賞した阿部和重さんに、三部作最終巻『オーガ(ニ)ズム』のお話を聞きました。父と子とCIAエージェントのミッション・インポッシブル。『シンセミア』を書いていた20年前から、三部作全体の構造は概ねできていたと語る阿部和重さん。「ただ、三部作が持つ既存のイメージ、つまり時系列に沿った大河小説というものは更新したかったんですよね。むしろ僕の出身地でもある山形県東根市神町を舞台にした“神町トリロジー”の3作それぞれがまったく違う作品のように見せたかった。『シンセミア』は、方言もバンバン出てくる犯罪まみれのノワール群像劇です。『ピストルズ』は、フェミニンな表現やファンタジーの世界観に徹しました。最終巻となる『オーガ(ニ)ズム』は、ストーリー的には政治や国際情勢を背景にしたスパイドラマです。エンタメ色を打ち出したバディものを意識しました」オバマ大統領来日が近づいていたある晩、作家の阿部和重の家にアメリカ人編集者として彼に取材を申し込んでいたラリー・タイテルバウムが血まみれでやってくる。もうすぐ3歳になるひとり息子・映記と長期の留守番を任されているというのに、阿部和重はどんどん抜き差しならない状況に……。果たして、作家の故郷であり、日本の新首都となった神町で何が起きようとしているのか。「子どもがいなければ阿部和重とラリーももっと自由が利き、うまくやれたはず(笑)。3歳児の世話や保護、社会や国家の安寧など、枷をはめられながらも困難を解決しようとする懸命さや滑稽さを楽しんでほしい」しかも物語は<阿部和重>の視点で進んでいくのがキモ。彼らが置かれた状況やラリーの本当の目的などは杳として知れず、反対に<阿部和重>の心中に広がる不安や愚痴はダダ漏れで、次々と飛び出してくるカルチャー造詣はハイレベル。そのドタバタ感が面白いのなんの。「本人のあずかり知らぬところで書かれたウィキペディアの阿部和重解説を、作中で<阿部和重>が繰り返しつぶやくというのもあります。そこでどんどん生まれてくるズレがまた何かを生むのではないかと」本作はもとより、これまでも現実の出来事や文献を積極的に取り込み、作品を組み立ててきた阿部ワールド。「想像の世界を現実とひも付けることで、リアリティや世界観の奥行きを出す。そういうやり方で書き続けてきた結果、それが自分の作風になってきました。今後も変わらず追求していくのが僕という作家の課題だろうと思います」2019年下半期のNo.1注目作だ。阿部和重『オーガ(ニ)ズム』三部作それぞれの標題はみな植物にまつわる言葉。『シンセミア』には種なし、『ピストルズ』にはめしべ、本作には生殖の意味を重ねた。文藝春秋2400円あべ・かずしげ1968年、山形県生まれ。作家。1994年、「アメリカの夜」で群像新人文学賞を受賞しデビュー。2005年、『グランド・フィナーレ』で芥川賞受賞。『シンセミア』『ピストルズ』ほか著書多数。※『anan』2019年10月23日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)池田エライザさんのヘルシービューティのヒミツ
2019年10月18日怖いはずが、どこかユーモラス!?命や生の不思議を思う、藤野可織さんによる怪談実話『私は幽霊を見ない』。一般に、幽霊や怪奇現象に対する気持ちは明白だ。「信じている/見たことがある」ゆえに怖い派か、「信じていない/見たことがない」ゆえに怖くない派か。しかし、藤野可織さんは信じていないし見たこともないのに怖がる。それでいて、一度くらいは見てみたいと願う。アンビバレンツを抱えている。「子どもの頃は怪談を聞くとぎゃん泣きしたほどですし、いまも臆病で怖がり。なのに怖い話は好きなんです。ホラー映画やDVDも観ますし、キンドルで実話怪談も読みます」怖いから近寄らないではなく、好奇心が勝つというのが微笑ましい。かくて藤野さんは、怪談話の連載を快諾。ネタ探しのために編集者からタクシー運転手にまで怖い話を知らないかと聞きまくり、廃墟ホテルなどに幽霊ハントに出かけていく。「幽霊が出るというウワサがあるなしの前に、基本、家から出ないのでそういうところには行きません。逆に、誰かとご一緒させてもらうなら、喜んで出かけていきます。でも置き去りにされたり、こけたり踏み抜いて落ちるとかは怖いので、同行者の服をしっかり握っています(笑)」実際に幽霊や怪異に出くわしたわけではないが、その影は感じる。なのに、不思議と怖くない。むしろ忌み嫌われがちな幽霊や怪異に対して、新しい光を当てている。そのひとつが『ジェーン・ドウの解剖』という映画を俎上に載せ、語っていく章だ。「身元不明の若い女性の遺体を検死官父子が解剖し、彼女の死の謎を探るのですが、その父子が見舞われるオカルトな状況はホントに理不尽です。でも殺されたその女性だって、普通に生きていただけでああいう目に遭った。理不尽に何かを求められたり奪われるのは恐ろしいなと」それを踏まえ、幽霊とは何かをこう考察しているのがすばらしい。〈私たちは誰であれ今でも、上げられない声を抱えながら生きているから、それでこんなにも私たちは幽霊を追い求めるのだ〉「私が幽霊を好きという以上に、世の中の人がより幽霊を好きなんだなということを感じましたね。いくら科学が進み、解明できる怪異が増えようが、これからも人々は求めていく。目に見えない存在も、排除できないこの世界の一部なんだろうなと思います」『私は幽霊を見ない』〈三島由紀夫の霊が出るといいなあ〉と願ったり、セント・ルイス第一墓地ツアーに参加したりする、藤野さんのおちゃめな幽霊蒐集。KADOKAWA1500円ふじの・かおり1980年、京都府生まれ。作家。2006年、「いやしい鳥」で文學界新人賞を受賞。’13年、「爪と目」で芥川賞受賞。他の著作に「おはなしして子ちゃん」(フラウ文芸大賞受賞)など。※『anan』2019年10月9日号より。写真・土佐麻理子(藤野さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年10月08日来年上演の三浦春馬と生田絵梨花が共演する日本初演のミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」から、三浦さんと生田さんが写るメインビジュアルと全キャストが発表された。1959年、ルイジアナ。脱獄した一人の「男(ザ・マン)」は命からがら、ある納屋に身を潜める。偶然彼を見つけた少女スワローは、彼をイエス・キリストの生まれ変わりだと信じ、「死んだお母さんにもう一度会いたい」とお願いする。その願いを打ち明けられたザ・マンは、汚れなき瞳を持つスワローに自分の本性を打ち明けることができず、キリストとして過ごすことになる。日々を過ごす中でスワローは、次第に彼の正体に気づき始め、2人は男を追う街の人々との騒動に巻き込まれていく…。「オペラ座の怪人」「キャッツ」など数々の傑作を生み出したミュージカル界の大巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーと、ミートローフやセリーヌ・ディオンなどにヒット曲を提供し、ソングライターの殿堂入りも果たしているジム・スタインマンがタッグを組んだ感動作「Whistle Down the Wind」。ウェストエンドにて1000回を超えるロングランを記録した本作が、今回白井晃演出で待望の日本初演!主演の脱獄犯「男(ザ・マン)」は、ミュージカル「キンキーブーツ」のドラァグクイーン役で第24回読売演劇大賞の杉村春子賞を受賞した三浦さん。ヒロインで「男(ザ・マン)」をイエス・キリストの生まれ変わりだと信じる無垢な少女・スワローは、「ロミオ&ジュリエット」「レ・ミゼラブル」など様々な舞台に出演する「乃木坂46」生田さんが演じる。ほかにも、スワローの幼なじみエイモス役を平間壮一と東啓介がWキャストで、エイモスのガールフレンド、キャンディ役を鈴木瑛美子とMARIA-EがWキャストで演じ、さらにスワローの父親ブーン役を福井晶一が演じる。そして今回、追加キャストには矢田悠祐、藤田玲、安崎求の出演が明らかになった。そのほか、12名のアンサンブルと総勢16名の子役キャストが作品を彩る。なお、一般前売りチケットは12月14日(土)よりスタート。先行抽選エントリーは11月26日(火)より、先行先着販売は12月8日(日)10時より開始。さらに、3月の東京を皮切りに、富山、福岡、愛知、大阪にて全国ツアーが行われる。ミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」キャスト男(ザ・マン):三浦春馬スワロー:生田絵梨花エイモス:平間壮一/東啓介(Wキャスト)キャンディ:鈴木瑛美子/MARIA-E(Wキャスト)ブーン:福井晶一矢田悠祐藤田玲安崎求高原碧那/谷岡杏春(Wキャスト)井伊巧/岡本拓真(Wキャスト)上野聖太岡田誠加藤潤一郷本直也長谷川開松村曜生柏木奈緒美多岐川装子ダンドイ舞莉花永石千尋三木麻衣子吉田華奈(男女五十音順)橋本星/佐藤誠悟谷口寛介/羽賀凪冴植松太一/佐田照河内奏人/工藤陽介福井美幸/山本花帆奈緒美クレール/モーガン ミディー種村梨白花/成石亜里紗日高麻鈴/宍野凛々子ミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」は2020年3月7日(土)~29日(日)日生劇場にて上演。※富山、福岡ほか全国ツアーあり(cinemacafe.net)
2019年10月04日編集さんからの「『貧窮問答歌』を描いてください」というむちゃ振りに端を発し、資料との格闘の果てに生まれた奈良時代の異文化交流コメディ『あをによし、それもよし』。その著者が石川ローズさん。「編集さんから送ってもらった資料に、当時の一般庶民の生活のイメージ図があったんです。家の中での生活の様子が“ミニマリストの家にそっくりだ!”と思ったのが、欲のない山上(やまがみ)誕生のきっかけですね」現代の物にあふれた暮らしに辟易している山上が、奈良時代にタイムスリップ。下級役人の小野老(おののおゆ)の家で居候しながら、当時なら当たり前のシンプルライフを堪能するというのが物語のベース。衣食住のギャップも面白いが、そこは奈良時代!歌と出世の関わりが興味深い。2巻では、大伴旅人(おおとものたびと)、藤原不比等(ふじわらのふひと)など実在の有名な貴族歌人も多数登場。意外な歌の才能を発揮していた山上は、ちょっとした誤解から山上憶良になって出世していったり、「小野妹子(おののいもこ)はおれのおじいちゃん」という老のつぶやきに驚いたり。異文化交流モノとしてだけでなく、人間関係ドラマとしての面白さも加速してきた。「歴史が苦手な人にも読んでいただきたいので、歴史上の出来事ではなく、人間を軸にストーリーを作っています。実際に日本の基礎が出来上がろうとしているカオティックな時代だと思っていますので、人間関係もかなりカオスになる予定です」それにしても、資料の読み込みや時代考証、建築物や衣装などを描く難しさ、さらに文脈にのっとったギャグも織り交ぜて…と、読む方は楽しくても、描くのはハードルが高そうな本作。「1話当たり平均3冊くらい新しい資料を読みます。なので書きたいネタが多すぎて、でもページ数的に使えないので泣く泣く捨てるはめになっています。しかし、私はミニマリスト。泣かずに捨てます。いや、むしろ喜んで捨てています。逆に!」そう、石川さんご自身も、ミニマルな生活を実践中なのだとか。「断捨離が趣味で財布に入っていたポイントカードをすべて捨てたこともあります。モノが減るほど、自分の時間が増えるのを実感しました。とはいえ山上ほどは極められないので、山上のセリフは自分の理想と願望の叫びですね(笑)」3巻では名前だけ有名な長屋王(ながやおう)との交流が深まる!?続きも楽しみ!『あをによし、それもよし』2ミニマルな生活を愛するあまり面倒くさい理屈をこねる山上。成り行きから、歌人・山上憶良になってしまう第2巻。増刊『グランドジャンプむちゃ』で連載中。集英社600円©石川ローズ/集英社いしかわ・ろーずマンガ家。長崎県出身。大学では美術史専攻。2012年、Web「やわらかスピリッツ」にて、「やわらかロック」でデビュー。世界史検定2級に落ちるほどの歴史好き。※『anan』2019年10月2日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年09月26日「嵐」チームとゲストチームが体感型ゲームで対戦するフジテレビ系「VS嵐」。その9月26日(木)今夜放送回に、俳優の三浦春馬が参戦。三浦さんはプラスワンゲストとして嵐とともに、声優の神谷浩史やものまねタレントのりんごちゃんら「チームいい声」と対戦する。今回「嵐」チームが対戦するのは、「機動戦士ガンダム00」「おそ松さん」などのアニメから『ハンガー・ゲーム』シリーズといった洋画吹き替えまで多彩に活躍、その声で多くのファンを魅了する神谷さん。お笑いコンビ「麒麟」で自身の低音ボイスを生かしたネタを披露、俳優としても連続テレビ小説「なつぞら」などに出演する川島明。武田鉄矢、大友康平、井上陽水らのものまねで大ブレイクしたりんごちゃん。『サカサマのパテマ』などのアニメ作品を中心に活躍する声優の藤井ゆきよ、「アンタッチャブル」山崎弘也、芸人と同時に数多くの番組MC、ドラマ、映画などへ出演する「キャイ~ン」天野ひろゆきといった“美声”が売りのメンバーで構成された「チームいい声」。この美声チームに対抗するために「嵐チーム」にプラスワンゲストとして加わってくれるのが、先日まで放送されたドラマ「TWO WEEKS」で娘のために逃走を繰り広げる主人公を演じ、多くの感動を巻き起こしたほか、同作の主題歌「Fight for your heart」でみせた美しい歌声と華麗なパフォーマンスも話題をさらった三浦さん。今回は超人気声優と超人気俳優が共演ということで、対決の合間に突然「チームいい声」が声優を務め、嵐と三浦さんが演技してのラブストーリーが繰り広げられ、スタジオが爆笑に沸く一幕も。“美声対決”の行方をお楽しみに。今夜プラスワンゲストとして参戦する三浦さんが主演する映画『アイネクライネナハトムジーク』はTOHOシネマズ 日比谷ほか全国で現在公開中。伊坂幸太郎の恋愛小説集を映画化した同作、3度目の共演となる多部未華子をヒロイン役に迎え、仙台を舞台に三浦さん演じる佐藤と多部さん演じる本間紗季の恋を軸に、不器用ながらも愛すべき人々のめぐり会いの連鎖を10年に渡り描いていく。また神谷さんは、高杉真宙、佐野岳、堀田真由、板垣瑞生ら若手俳優が出演し、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズを原案に映画化される『超・少年探偵団NEO -Beginning-』で怪人二十面相の声を担当。同作は10月25日(金)より新宿バルト9、渋谷TOEIほか全国にて順次公開となる。「チームいい声」と「嵐」&三浦さんの対決が繰り広げられる「VS嵐」は9月26日(木)今夜19時~フジテレビ系で放送。(笠緒)
2019年09月26日芸術を極めるとは、かくも苦しいものなのか。至高の芸術のためなら何をしても許されるのか。芦沢央さんの『カインは言わなかった』は、激情と慟哭の嵐の中を駆け巡るような読み心地の傑作長編。芸術の名の下に翻弄される、声なき声がこだまするミステリー。「その世界のカリスマ的な人物に認められることだけがすべてだと思い込み、食らいつき、歪んだ執着を燃やしていく。そういう師弟関係の確執を描きたいと考えていました。その場合、勝ち負けがはっきり見えるスポーツよりも、芸術のように何が正解かがわからない世界の方が物語の舞台としてふさわしい。そう考え、コンテンポラリーダンスや絵画などのモチーフを決めていきました」天才の誉れ高い芸術監督の誉田規一、彼のカンパニーのダンサー藤谷誠と尾上和馬、誠の異父弟で画家の藤谷豪。芸術に生きる者たちとその周辺で見守る者たちのドラマだ。「本作のテーマを突き詰める上で、聖書のカインとアベルの話は構図が似ていると思ったんです。弟のものは受け入れられ、兄のものは顧みられもしなかった神への捧げもの。何がいけないのかわからないから、兄の葛藤は深い。そのイメージを重ねました」芸術をめぐりもう一つ書きたかったのは、表現と当事者性について。「作中では誉田は震災で妻を亡くしていて、当事者としての経験が彼の代表作『オルフェウス』の高評価にもつながっています。しかし『こういう経験があるからリアリティがある』というのは、経験と作品とが安易に結びつけられているわけで。それが評価にも関わっていくことへの違和感。私も考え続けています」もちろん、ミステリー要素もたっぷりだ。冒頭には、誰が誰に刃を振るったのか特定できない血まみれのシーン。物語が動き出した直後から、出てくる人物にはみな「あの人ならやりかねない」動機がある。この悲劇の真相を追って、一気読み必至。「私はプロットよりも、人物造型にこだわります。日常の暮らしぶりなど小さなシーンは特に丁寧に書き、本当はどういう人間なのだろうと探っていく。本作には一線を越えた人と越えなかった人がいます。その線はとても太くくっきりとしていて、越えるまでが遠い。だからこそ越えた/越えなかった人の差はどこにあるのかをとても大切に書きました」芦沢央『カインは言わなかった』芸術監督の誉田が率いる「HHカンパニー」。新作公演の主役・藤谷誠が、公演3日前に突如連絡不通になる。裏側では何が起きているのか。文藝春秋1650円あしざわ・よう作家。東京都生まれ。2012年、『罪の余白』で野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。『許されようとは思いません』『火のないところに煙は』など、話題作を次々に発表。※『anan』2019年9月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年09月23日海岸線に沿って並ぶ白沢(はくたく)市と蝦蟇倉(がまくら)市。その架空の街で起きる事件が3つの章に織り込まれ、終章は全体をくくる大きな謎解きへとつながる。道尾秀介さんの『いけない』は、カタルシスに満ちた技巧ミステリーだ。架空の街で絡み合ういくつもの事件。二読、三読したくなる面白さ。「本書の第1章にあたる『弓投げの崖を見てはいけない』は、もともとは競作アンソロジーのために書いた中編でした。けれど、自殺の名所になっている崖や死亡事故が多発しているトンネルがある海沿いの土地、生まれ変わりを信じている新興宗教など、舞台設定や道具立てが、僕にとっても魅力的でした。いつかあの世界観を膨らませて書いてみたいと思っていたんです」第1章は、蝦蟇倉東トンネルの前で起きたある残忍な事件から始まる。その遺族であり悲しみに沈む安見(やすみ)弓子のもとに十王還命会(じゅうおうかんめいかい)の宮下志穂や、蝦蟇倉警察署の隈島(くまじま)刑事が訪ねてくる。いまだ犯人逮捕に至らない事件をめぐって、物語は二転三転。第1章最大の謎は、死んだのは誰かだ。「被害者は誰だったのかという点で、地図がすごく重要になってくる。今回は全面的に改稿し、街の地図も描き直し、さらに写真にして、最後のページをめくった後ろに入れるアイデアが浮かびました。各章の最後にそれぞれ違う写真が入っています。読み終わったあとに出てくる写真によって、それまで見えていた事件の顔ががらりと変わるというのは、僕にとっても初めての試みだったので、書いている間中、ずっとわくわくと緊張がありました」第2章では、5歳のときに家族で日本にやってきた中国人の少年・珂(カー)が語り手。不思議な〈あいつ〉の気配を感じる珂は、文房具店で、違和感を覚える光景を目撃してしまう…。各章とも独立した中編として楽しめるが、人物同士の関わりなどが見えてくるにつれ、どんなエンディングが待ち受けているのだろうと、ページを繰る手は否応なくはやる。ちなみに、各章の最後に置かれている写真はラフから道尾さんが自作。写真撮影にも立ち会い、ヒントのさじ加減にもこだわったそう。「各事件の謎解きの面白さと、消化不良にならない程度の真相の開示。それを両立させるのが難しかったですね。読了後に『まだ秘密がありそうだ』と、2度、3度と読んでもらえたら最高にうれしいです」みちお・しゅうすけ作家。『向日葵の咲かない夏』でブレイクを果たし、2010年、『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、’11年、『月と蟹』で直木賞を受賞。今年はデビュー15周年。『いけない』4つの各章題は、すべて「てはいけない」の6文字で終わっているだけでなく、文字数もすべて揃っている。細やかな技巧性にもはっとする。文藝春秋1500円※『anan』2019年9月11日号より。写真・土佐麻理子(道尾さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年09月06日