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「免疫チェックポイント阻害剤の誕生は、世界のがん医療に大きなインパクトを与えました。さらに開発の基礎となる研究をされた本庶佑先生が、ノーベル賞を受賞したことで、その効果が報じられています。しかし“万人に効く”“夢の新薬”ととらえるのは、時期尚早です」新薬への過大な期待に警鐘を鳴らすのは、医療ガバナンス研究所理事長で、内科医の上昌広さんだ。免疫チェックポイント阻害剤のメカニズムについて、上さんが解説してくれた。「がん細胞など、体内の異物はキラーT細胞というリンパ球が攻撃します。しかしがん細胞は賢く、T細胞とくっつくことで、攻撃する信号を止めてしまうのです。新薬は、この結合を阻害し、キラーT細胞が、がん細胞を追跡、攻撃するよう働きかけるのです。がんを直接攻撃するという、これまでの手術・放射線・抗がん剤とは一線を画す、まったく新しい概念で、第4のがん治療といわれています」(上さん)こうした構造を利用して脚光を浴びたのが、’14年に発売されたオプジーボだ。「当初は皮膚がんの一種、悪性黒色腫に対して承認されましたが、間もなく、肺がんの中でも8~9割を占める非小細胞肺がんに保険適用が広がりました」(上さん)慶應義塾大学医学部先端医科学研究所所長の河上裕さんが、効果を表すデータについてこう語る。「肺がんにおいて既存の治療では予後が悪い場合も多かったのですが、免疫チェックポイント阻害剤によって、その16%の患者さんが、5年間生存しています」(河上さん)発売当初は1年で3,500万円もした薬代も、対象者が増えたために、1,000万円まで値下げされている。現在は、効果が確認された6種類の阻害剤が承認を受け、対象となるがんや、患者の状態により、公的保険が利用可能。支払う費用の上限を設定している高額療養費制度もあるので、患者の自己負担額を抑えられる。承認を受けているのは肺がんや腎臓がん、悪性黒色腫など約10種類。しかし、広い部位で治療が進められており、大腸が、乳がんは治験も最終段階だ。国内で承認されている免疫チェックポイント阻害剤の「実力とリスク」は次のとおり(薬名はすべて販売時のもの)。■「オプジーボ」【保険適用のがんの種類】悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫。【近い将来、保険適用になりうるがん】食道がん、大腸がん、卵巣がんなど。■「キイトルーダ」【保険適用のがんの種類】悪性黒色腫、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、尿路上皮がん。【近い将来、保険適用になりうるがん】乳がん、大腸がん、食道がんなど。■「ヤーボイ」【保険適用のがんの種類】悪性黒色腫、腎細胞がん。【近い将来、保険適用になりうるがん】胃がん、食道がんなど。■「バベンチオ」【保険適用のがんの種類】メルケル細胞がん。【近い将来、保険適用になりうるがん】胃がんなど。■「テセントリク」【保険適用のがんの種類】非小細胞肺がん。【近い将来、保険適用になりうるがん】小細胞がん、肝細胞がん、乳がんなど。■「イミフィンジ」【保険適用のがんの種類】非小細胞肺がん。【近い将来、保険適用になりうるがん】膀胱がん、肝臓がん、卵巣がんなど(他剤との併用)。■6種類の免疫チェックポイント阻害剤に考えられる副作用間質性肺疾患、心筋炎、消化管穿孔などの命に関わるようなケースも起こりうる薬剤もある。皮膚炎(かぶれや水ぶくれ、粘膜のただれ)、甲状腺炎(多汗、動悸、浮腫)、重篤な大腸炎(下痢、血便)など、自己免疫反応が起こることがある。「乳がんに関しては、これまで治療が難しかったトリプルネガティブ乳がんという種類であっても、10%ほどの患者さんに効果が表れているという報告もあります」(河上さん)治験データを集積して申請されれば「通常、半年~1年で承認される」(上さん)というから、この1~2年で一気に対象者が増える可能性があるのだ。だからこそ今後、この“夢の薬”に冷静な目が必要だと、前出の2人は語る。まず、注意しなければならないのは、同じ薬剤を使っても、効かない患者のほうが多いということだ。「奏効率と言いますが、6つの阻害剤でがんが見えなくなる、もしくは大きさが30%以上縮小した率は、肺がんで20%弱、悪性黒色腫で20%程度です」(河上さん)たとえば、オプジーボの添付文書には《切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌》《根治切除不能又は転移性の腎細胞癌》などと書かれている。がんの進行度によっても、使用できる人が厳密に定められている。「現状では、万人が受けることができず、患者さんのがんの性質、免疫体質、腸内細菌や喫煙の有無などの環境因子も関係して治療効果が決まっていきます」(河上さん)そして、先述したように“危険な副作用を伴う薬”であることも、知らなくてはならない情報なのだ。「“免疫”と聞くと、自分の体内にあるものだから、副作用が少ないと感じてしまいがちですが、そんなことはありません。主に、自己免疫疾患のような症状が代表的です。甲状腺機能が低下して疲労感が増したり、粘膜がただれたり、発疹ができることも報告されています。肝機能障害、腎機能障害、脳炎、1型糖尿病なども注視しなければなりません」(上さん)間質性肺疾患や心筋炎など、場合によっては死に至る副作用を引き起こすこともある。「それも“まれ”なレベルではなく、阻害剤を使った患者さんの10%以上に、重篤なケースを含めた比較的強い副作用が起こっています」(河上さん)まだまだ課題は山積している免疫チェックポイント阻害剤だが、これからのがん治療に新たな光をもたらす薬剤であることは間違いない。
2018年10月18日「免疫チェックポイント阻害剤の誕生は、世界のがん医療に大きなインパクトを与えました。さらに開発の基礎となる研究をされた本庶佑先生が、ノーベル賞を受賞したことで、その効果が報じられています。しかし“万人に効く”“夢の新薬”ととらえるのは、時期尚早です」新薬への過大な期待に警鐘を鳴らすのは、医療ガバナンス研究所理事長で、内科医の上昌広さんだ。免疫チェックポイント阻害剤のメカニズムについて、上さんが解説してくれた。「がん細胞など、体内の異物はキラーT細胞というリンパ球が攻撃します。しかしがん細胞は賢く、T細胞とくっつくことで、攻撃する信号を止めてしまうのです。新薬は、この結合を阻害し、キラーT細胞が、がん細胞を追跡、攻撃するよう働きかけるのです。がんを直接攻撃するという、これまでの手術・放射線・抗がん剤とは一線を画す、まったく新しい概念で、第4のがん治療といわれています」(上さん)こうした構造を利用して脚光を浴びたのが、’14年に発売されたオプジーボだ。「当初は皮膚がんの一種、悪性黒色腫に対して承認されましたが、間もなく、肺がんの中でも8~9割を占める非小細胞肺がんに保険適用が広がりました」(上さん)慶應義塾大学医学部先端医科学研究所所長の河上裕さんが、効果を表すデータについてこう語る。「肺がんにおいて既存の治療では予後が悪い場合も多かったのですが、免疫チェックポイント阻害剤によって、その16%の患者さんが、5年間生存しています」(河上さん)発売当初は1年で3,500万円もした薬代も、対象者が増えたために、1,000万円まで値下げされている。現在は、効果が確認された6種類の阻害剤が承認を受け、対象となるがんや、患者の状態により、公的保険が利用可能。支払う費用の上限を設定している高額療養費制度もあるので、患者の自己負担額を抑えられる。承認を受けているのは肺がんや腎臓がん、悪性黒色腫など約10種類。しかし、広い部位で治療が進められており、大腸が、乳がんは治験も最終段階だ。「乳がんに関しては、これまで治療が難しかったトリプルネガティブ乳がんという種類であっても、10%ほどの患者さんに効果が表れているという報告もあります」(河上さん)治験データを集積して申請されれば「通常、半年~1年で承認される」(上さん)というから、この1~2年で一気に対象者が増える可能性があるのだ。だからこそ今後、この“夢の薬”に冷静な目が必要だと、前出の2人は語る。まず、注意しなければならないのは、同じ薬剤を使っても、効かない患者のほうが多いということだ。「奏効率と言いますが、6つの阻害剤でがんが見えなくなる、もしくは大きさが30%以上縮小した率は、肺がんで20%弱、悪性黒色腫で20%程度です」(河上さん)たとえば、オプジーボの添付文書には《切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌》《根治切除不能又は転移性の腎細胞癌》などと書かれている。がんの進行度によっても、使用できる人が厳密に定められている。「現状では、万人が受けることができず、患者さんのがんの性質、免疫体質、腸内細菌や喫煙の有無などの環境因子も関係して治療効果が決まっていきます」(河上さん)まだまだ課題も山積している。「平均して2週間に1回の点滴投与となりますが、治療を終了する時期に関しての判定基準も、まだ定まっていません。さらに今後は、効く人、効かない人を判定する検査の研究、効果が高められるような併用薬の組み合わせのデータも、積み上げていかなければならないのです」(河上さん)とは言え、免疫チェックポイント阻害剤は、これからのがん治療に新たな光をもたらす薬剤であることは間違いない。実際、より効果を高めるための研究は、確実に前進しているが、まだ発展途上の治療法でもあるのだ。
2018年10月18日「今でも、がん=死とイメージする人は少なくありません。しかし確実に、がんと共に生きていく時代が近づいています」とは、医療ガバナンス研究所理事長で腫瘍内科の上昌広医師。国立がん研究センターが9月11日、がん患者の「3年生存率」を初めて公表した。写真の表は、日本人に多い「5大がん」のステージ別のデータだ。上医師が解説する。「これは11年にがんと診断された全国約30万人のデータから算出したもので、がん全体の3年生存率は71.3%にものぼることが分かりました。これまでは約10年前に診断されたがん患者の5年生存率が一般的だったので注目を集めています。3年生存率の公表には、5年分のデータが揃うのを待たずして、最新治療を受けた患者の状態を把握するためのデータが算出できるという利点があるのです」今回公表されたデータのなかで、とりわけ3年生存率が高いのが乳がんだ。ステージ1では100%、全体でも95%を超えている。だが気がかりなのは、もっとも助かりやすい乳がんであっても、がん細胞がほかの部位に転移するステージ4になると生存率が54.4%に急落してしまうことだ。熊本大学乳腺内分泌外科の岩瀬弘敬教授は“生死を分ける境目”をこう語る。「まず、転移した部位がどこかによって生存率の明暗が分かれます。リンパ節や骨ならば3年後も70%以上の生存率が見込めますが、肝臓や肺などほかの臓器に転移した場合は3年後で50%を切ってきます。また進行が速いか遅いかというがんの性質によっても変わります。ステージ4と一口に言っても、小林麻央さん(享年34)の場合は発症してから亡くなるまでが短かったので進行の早いがんだったと考えられます。半面、再発しても10年以上生きている人も少なからずいます。とはいっても、やはり早期発見がもっとも大切です」女性の11人にひとりがかかるといわれる乳がんは、がんのなかでも唯一、自分で発見できる病気。乳がんで死なないためには、日常生活のなかでいかに自分の体をケアするかが重要だ。女性のがんのなかで最も死亡者が多いのが、大腸がん。ステージ4になると一気に生存率が下がり、30・3%になる。だが、東京女子医科大学病院がんセンター長の林和彦医師は「ステージ4でも絶望的になってはいけない」と語る。「ステージ4のがんは以前までは“末期がん”と呼ばれていましたが、今の医療現場ではもうそんな言葉は使われていません。医療の進歩により、ステージ4で転移がある進行がんでも、薬物療法でがんを縮小させたり、症状を抑えたりすることが可能になりました。その結果、ステージ4から3に下がることもあります。もはや、ステージ4は“死の境目”ではないのです」3年生存率のデータをひも解くことで見えてきた、がんに克つ希望。しかし、東京医療保険大学の副学長で外科医の小西敏郎教授は“3年生存率データへの過信”にこう警鐘を鳴らす。「3年生存率といっても、がんの部位ごとに治るまでの期間が異なります。つまり、“3年生きたからがんが治った”と安心してしまうのはとても危険です。たとえば、胃がんや大腸がんは5年が判断の目安。乳がんの場合は10年以上経ってから再発することがいくらでもあるので油断できません」06年に胃がん、09年に前立腺がんを経験している小西教授。2度の生還から“がんに克つ境目”を知る小西教授の話には生存率を上げるヒントが多い。「今は、私のように何種類ものがんにかかる時代。よく陥りがちなのが、1度がんになったときの担当医に定期的に経過を診てもらっているから安心だと思い込んでしまうこと。専門医は他のがんに気がつかないことも多いのです。私は体全体のがん検診を受け続けたことで、前立腺がんを早期発見することができたのです」がんの啓蒙活動を行っている、東京大学医学部附属病院・放射線科の中川恵一准教授は最後に言う。「実は先進国のなかで、がんで命を落とす人が増えている国は日本だけなんです。がん検診受診率の低さが主な理由といえます。また、がんのことを知らずに効果のあやしい代替医療や民間医療に走る患者が多いのが現状です」「がんに克つ」には、まずは早期発見。ステージ3や4でも過度な不安を抱かず、冷静な判断で適切な治療を選ぶことが重要なのだ。
2018年09月20日「早期発見が大事」と定期的ながん検診を勧められることは多いが、現場の専門医はその「異常なし」という結果を、「早計に信じてはいけない」と警鐘を――。「当院では、杉並区に依頼されて区民のがん検診などを受け付けていますが、胸部エックス線検査による肺がんの見落としがわかったのは初めてのこと。過去に健診を受けた9,424人の方の画像を再度読影したところ、新たに44人が要精密検査という結果が出ました」(「河北健診クリニック」広報課)7月17日、東京都杉並区の河北健診クリニックで、胸部エックス線検査で肺がんが見落とされた40代女性が亡くなったと、同病院が会見を開いて謝罪した。死亡した女性は、4年前の健診で内科医が肺がんの疑いを指摘したものの、専門医である放射線科医が“異常なし”と判断。その後、2回の検査でも、病変が見落とされたという。ようやく肺がんがわかったのは、今年4月。女性患者が受診したほかの医療機関からの指摘がきっかけとなったのだった。6月8日には、千葉大学医学部附属病院で9人の患者が、放射線診断専門医による画像診断書で記されたがんの所見を、担当医に見落とされるなどして、2人が死亡したことが報道されたばかり。日本医療機能評価機構によると、画像診断書の確認不足は、去年までの過去3年で、47件が報告されている。医療ガバナンス研究所理事長で、医師の上昌広さんは「氷山の一角で、こうした見落としはもっとあるはず」と指摘する。「初期の肺がんは優秀な専門医であっても単純な胸部エックス線で見つけることは困難なため、自治体で行われるような肺がん検診では“見落とし”となることが多いといわれます。より精度を高めるには、被ばくのリスクはありますがCT画像が必要でしょう。いっぽうの千葉のケースは、放射線診断専門医の報告を見落とした担当医の怠慢と、それを許した病院の責任。このようなマネジメント力が欠如した病院は、ほかにもあります。残念ながら、どちらのケースも、全国の病院で潜在的にあると思います」どんなに医療機材が進歩しても読影するのは人間。当然ミスも出てくるだろう。匿名を条件に、放射線診断専門医は次のように語る。「部位にもよりますが、CT画像からがんを含めた病変を100%見つけ出すことはできないでしょう。CTで肺がんを見つける専門医でも、優秀層の医師で精度は90%ほど、その次のランクで80%ほどと思われます。乳がんの検診マンモグラフィ読影認定医師でも、ほぼ同等の精度といわれています」ということは、優秀な医師でも10~20%以上の見落としの可能性があるということになる。さらに経験の浅い医師では、その可能性が上がるのではないだろうか。数字の差は、どこで生じるのか。常磐病院(福島県いわき市)の乳腺外科医・尾崎章彦さんが語る。「大きな病院であれば“複数の医師の目”でチェックされるので、リスクを下げられます。私自身も先輩医師に指摘されて、スルーしていた影に気づき、ヒヤリとしたことがあります」人間ならではの“思い込み”もあるという。「病気は、教科書どおりの典型的な見え方をするケースばかりではありません。このような画像であれば異常、ここまでなら正常として考えられるという微妙なラインを自分なりに引いて診断をするのですが、経験が少ない医師においては、その線引きが大きくずれることがありえます。加えて、画像診断において、医師は前回検査を参考にします。大きく変化がなければ『正常』として流してしまうリスクがあります」このような人間の感覚を補うのが、人工知能のAIだ。まだ研究ベースというが、がんの発見率は80~90%にも上るという。「専門医2人が見逃したがんを、AIが見つけ出すというケースも実際に出てきています。専門医の目、そしてAIの組み合わせで精度を高められると思います。最近では、遠隔で画像診断してくれるクリニックや団体も増えてきています。放射線の専門医不足に困る医療機関は、積極的に導入すべきだと考えます」(上さん)読影ばかりでなく、その前提となる検査でも複数の組み合わせが有効だ。前出の尾崎さんが語る。「若い女性は乳腺が発達しているため、マンモグラフィでは乳房全体が白っぽく見えるケースが多い。しかし、しこりも白く写りますので、見つけるのが難しいこともあります。超音波検査を併用することで、見落としのリスクが下がるといわれています。大腸がんに関しては、検便よりも大腸内視鏡検査のほうが、胃がんに関してはバリウムよりも胃カメラのほうが精度が高い。肺がん発見には、エックス線よりCTが有効です。各市区町村で行われるがん検診ではそこまでカバーできていないケースもあるので、心配な人は専門機関に相談するのがよいでしょう」もちろん、患者の自己防衛ばかりではなく、本来は医療側の意識改革が急務のはず。「千葉大のケースは、医療機関としてはあるまじき行為です。しかし現場サイドからすると、たとえば肺がんを疑われるケースで呼吸器科の先生がCTをオーダーして、放射線診断専門医が見ても肺に異常がなければ、安心してしまうこともあるでしょう」(上さん)そのため、その後に放射線科医が全身の画像を読影したレポートを作成。そこに想定外のがんが見つかるケースもあるが……。「現実的には、担当医は数多くの患者に追われて個々のケースを忘れてしまったり、レポートの封筒すら開けないことも」(上さん)同様のミスを出さないためにも、情報は患者に積極的に公開すべきと前出の放射線診断専門医は言う。「結果的に、がん告知が担当医からではなく、レポートでなされる問題もあるため、担当医からの反対の声もあるかもしれません。たしかに検査は担当医がオーダーしますが、検査情報は本来、患者さんのものであるべきです」医療は誰のためのものか――。各医療機関は、その原点に立ち返ることを忘れないでほしい。
2018年07月26日「当院では、杉並区に依頼されて区民のがん検診などを受け付けていますが、胸部エックス線検査による肺がんの見落としがわかったのは初めてのこと。過去に健診を受けた9,424人の方の画像を再度読影したところ、新たに44人が要精密検査という結果が出ました」(「河北健診クリニック」広報課)7月17日、東京都杉並区の河北健診クリニックで、胸部エックス線検査で肺がんが見落とされた40代女性が亡くなったと、同病院が会見を開いて謝罪した。死亡した女性は、4年前の健診で内科医が肺がんの疑いを指摘したものの、専門医である放射線科医が“異常なし”と判断。その後、2回の検査でも、病変が見落とされたという。ようやく肺がんがわかったのは、今年4月。女性患者が受診したほかの医療機関からの指摘がきっかけとなったのだった。6月8日には、千葉大学医学部附属病院で9人の患者が、放射線診断専門医による画像診断書で記されたがんの所見を、担当医に見落とされるなどして、2人が死亡したことが報道されたばかり。日本医療機能評価機構によると、画像診断書の確認不足は、去年までの過去3年で、47件が報告されている。医療ガバナンス研究所理事長で、医師の上昌広さんは「氷山の一角で、こうした見落としはもっとあるはず」と指摘する。「初期の肺がんは優秀な専門医であっても単純な胸部エックス線で見つけることは困難なため、自治体で行われるような肺がん検診では“見落とし”となることが多いといわれます。より精度を高めるには、被ばくのリスクはありますがCT画像が必要でしょう。いっぽうの千葉のケースは、放射線診断専門医の報告を見落とした担当医の怠慢と、それを許した病院の責任。このようなマネジメント力が欠如した病院は、ほかにもあります。残念ながら、どちらのケースも、全国の病院で潜在的にあると思います」検査方法や病院の管理システムなどの問題もあるが、根本的な問題は、読影能力に優れた放射線の専門医不足にあるという。匿名を条件に、放射線診断専門医がこのように解説する。「CTやMRIを動かすのにコストが変わらないため、一部の臓器のみでなく、現在では全身を撮影することが多くなりました。ところが、たとえば呼吸器科の医師は呼吸器に注目し、ほかの臓器の読影は不得手です。そこで必要なのは、全身の画像を読影できる、放射線診断専門医のような医師です。都内の病院ならこうした放射線医が常駐しているケースが多いですが、地方では人員不足で、募集している病院がたくさんあります」OECD加盟国のなかで、日本は医療機関のCTやMRIは高い品質を誇っているが、放射線科医の数は最下位だという。「放射線診断専門医1人が担当するCTやMRIの機材の台数ですが、アメリカでは1人当たり0.66台であるのに対し、日本では4.29台と、一人ではまかないきれない台数となります」かつての“フィルム時代”は、1センチ間隔で撮影していた。たとえば40センチの肺なら、40枚の画像を見る必要がある。「しかし、現在は医療技術の発達によって、推奨されている1ミリごとの輪切りとなると、400枚もの画像を見ることに。それを何十人分も見るのです」
2018年07月26日「公立病院の赤字のほとんどに、税金が投入されています。総額で年間5,000億円にもなります。じつは2年前に同様の調査をしたときより増えている。病院数や病床数が減っているのに、税金投入額が上がっていることに、疑問を感じざるをえません」 こう語るのは、平成27年度の総務省「地方公営企業年鑑」を基に算出した、全国自治体病院の純医業収支額、同収支率をWEBサイト「病院情報局」に掲載している、ケアレビュー代表の加藤良平さんだ。調査対象は全国の公立病院(独立行政法人を除く)793施設。このうち、純医業収支で黒字を計上したのは、わずか27施設しかなかったのだ。97%が赤字という驚くべき数字になる。 「公立病院は、昔から赤字が多いと言われていましたが、税金が投入されるため、実際の経営状態は“見えづらかった”といえます。『純医業収支ランキング』は、病院収入から一般会計負担金等(税金など)を差し引いた純医業収支を独自に算出しています。純医業収支は弊社の造語ですが、純粋に医療だけの収入で、どれだけ病院が“自立”できているかを可視化できます」(加藤さん) もちろん、過疎や僻地などで、不採算部門である救急や小児科、周産期医療を担っていくのは、公立病院の使命であり、ある意味“必要な赤字”とも言える。だが、医療ガバナンス研究理事長で、内科医の上昌広さんは厳しい。 「人口の多い都市に目立ちますが、経営努力を怠り、何ら対策を打たないまま“不必要な赤字”を累積させる病院も非常に多いのです」(上さん) 公立病院がなぜこれほどの赤字体質に陥ったのか。「まずはマネジメント能力の欠如です」と指摘するのは、NPO法人「公的病院を良くする会」理事で、医業経営コンサルタントの阪本俊行さんだ。 「公立病院の場合、事務方は役所からの出向組。非常に優秀でも、病院経営の専門家ではありませんし、2〜3年で配置換えがあります。しかも病院が赤字経営でも、他会計からの繰入金(税金など)という名の“仕送り”があるので、自分の給料が減る心配はなく、むしろ年功序列で上がり続けます。結果、民間病院よりも人件費率が高くなる傾向があるのです」(阪本さん) 国際医療福祉大学大学院教授の武藤正樹さんは、全国の公立病院が抱える問題の解決にはマネジメント能力のあるトップの存在がキーになると語る。 「たとえば事業管理者に経営を委託する“地方公営企業法全部適用”のケースでは、事業管理者の権限と責任で経営を行います。’07年に適用した青森県立中央病院では、管理者の院長が先頭に立って優秀な医師を呼び込み、医師数を100人から130人に増員。経営改革に成功しました」(武藤さん) 非公務員型の効率的なマネジメント体制を作るには、独立行政法人化も一つの手段だ。前出の阪本さんが解説してくれた。 「大阪府では府立5病院を独法化したところ、全体で130億円あった赤字を、5年間で半分くらいまで減らすことができました」(阪本さん・以下同) 埼玉県の志木市ですすめられた民間譲渡も、今後は増えていくケースだという。 「公立病院時代の給与体系を民間病院並みにすることで、人件費が下がります。さらに医薬品や委託業者にかかるコストを抑えるため、『病院食がおいしくなった』などのサービス向上にもつながります。民間が担うことで、経営状態の健全化が期待できるケースも多いのです」 もちろん、過疎地など人口は少なくても、地域に必要な病院はある。それは赤字であっても残す必要があるだろう。ただし、住民の“合意”が前提だ。 「病床削減や、地域の介護事業者との連携をとるなどした機能転換、廃統合などの検討も必要になると思います」
2017年12月07日「公立病院は、昔から赤字が多いと言われていましたが、税金が投入されるため、実際の経営状態は“見えづらかった”といえます。『純医業収支ランキング』は、病院収入から一般会計負担金等(税金など)を差し引いた純医業収支を独自に算出しています。純医業収支は弊社の造語ですが、純粋に医療だけの収入で、どれだけ病院が“自立”できているかを可視化できます」 こう語るのは、平成27年度の総務省「地方公営企業年鑑」を基に算出した、全国自治体病院の純医業収支額、同収支率をWEBサイト「病院情報局」に掲載している、ケアレビュー代表の加藤良平さんだ。調査対象は全国の公立病院(独立行政法人を除く)793施設。このうち、純医業収支で黒字を計上したのは、わずか27施設しかなかったのだ。97%が赤字という驚くべき数字になる。 「赤字のほとんどに、税金が投入されています。総額で年間5,000億円にもなります。じつは2年前に同様の調査をしたときより増えている。病院数や病床数が減っているのに、税金投入額が上がっていることに、疑問を感じざるをえません」(加藤さん) もちろん、過疎や僻地などで、不採算部門である救急や小児科、周産期医療を担っていくのは、公立病院の使命であり、ある意味“必要な赤字”とも言える。だが、医療ガバナンス研究理事長で、内科医の上昌広さんは厳しい。 「人口の多い都市に目立ちますが、経営努力を怠り、何ら対策を打たないまま“不必要な赤字”を累積させる病院も非常に多いのです」(上さん) 公立病院がなぜこれほどの赤字体質に陥ったのか。「まずはマネジメント能力の欠如です」と指摘するのは、NPO法人「公的病院を良くする会」理事で、医業経営コンサルタントの阪本俊行さんだ。 「公立病院の場合、事務方は役所からの出向組。非常に優秀でも、病院経営の専門家ではありませんし、2〜3年で配置換えがあります。しかも病院が赤字経営でも、他会計からの繰入金(税金など)という名の“仕送り”があるので、自分の給料が減る心配はなく、むしろ年功序列で上がり続けます。結果、民間病院よりも人件費率が高くなる傾向があるのです」(阪本さん) こうした“お役所体質”は、コスト意識にも反映されている。 「医薬品や医療機材に関して、価格のリサーチが甘いんです。入札制度で割高の見積もりを出されても、相場がわからないから“言い値”で契約することになります」(阪本さん) とくに公立病院と民間病院では、建設に関して、その価格差が顕著に表れる。 「1床あたりの建設費用は、民間なら700万円、国立病院で1,600万円、公立病院なら2,000万円といわれています。1床あたり約3倍もの違いがあるのです」(阪本さん) にもかかわらず、「無駄に豪華にしたがる」と語るのは、元公立病院の産婦人科医だ。 「以前、病院建て替えをしたときのことです。患者さんがわざわざ診察室を移動せず、陣痛が起きてから分娩、回復に至るまでを過ごせる『LDR』という医療施設を数千万円使って作ったのですが、ほとんど稼働せず、今では臨時部屋だそうです。医師からは当初より『必要ない』という意見が出ていましたが、聞き入れられませんでした。ほかにも、ワンフロアに医師用、看護師用と、二十数個の会議室を作ろうとしたり。理解できないことが多かった」(元公立病院の産婦人科医) このように公立病院は明確なビジョンや理念がないため、魅力的な病院が作りづらいのが現状だ。前出の上さんが言う。 「公立病院の場合、何となくすべての診療科を扱いますが、どれも中途半端で二流止まりの診療になってしまう傾向が強い。専門性においては、公立病院は民間病院に、もはや太刀打ちできません。その地域にどんな医療が求められているのか、代替の利かない魅力のある病院作りをしなければ……」(上さん・以下同) 何の対策も講じなければ、今後は消えていく公立病院が増加の一途をたどるだろう。 「地域に病院がなくなれば、救急車のたらい回しが頻発し、孤独死も増えます。そんな社会を、誰が望むでしょうか」 地域の公的病院をどのように存続させるのかーー。市民が正しい判断をするため、経営状況のブラックボックス化は避け、可視化されていかなくてはならない。
2017年12月07日聖路加国際病院(以下・聖路加)の名誉院長・日野原重明さんが、7月18日に105歳で逝去した。聖路加国際病院の内科医となったのは1941年。以来半世紀以上に渡り、聖路加の顔として活躍してきた。じつは、そんな日野原さんには最後まで知らされなかった“ある事実”が。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが語る。 「全国でも屈指のブランド病院ですが、現在、深刻な経営難と、ブラック企業ぶりが問題となっています。表面化したのは、昨年5月に同院に労基署による監査が入ったことです。月平均95時間を超える超過勤務と、残業代などの不払いが問題となりました。病院幹部と労働組合の話し合いも長引き、ボーナスが遅配される事態になったんです」 聖路加国際病院のA医師が、院内の様子を教えてくれた。 「超過勤務は深刻で部署の報告会では『労務状況が改善されなければ現院長(福井次矢氏)の逮捕もありうる』と聞かされたほど。オーバーワークは常態化していて、医師によっては100時間、200時間にも。ところが聖路加はそれほど給料が高くはない。それでも働きたいのは履歴書に“聖路加”と書けるのがキャリアになること、トップレベルの医療技術を勉強できること、そして日野原先生のようなカリスマによる求心力があったことです」 上さんは「聖路加のOBの話では過労で倒れた医師が労災申請をしようとしたとき、院内で『日野原氏の名誉を傷つけるのか』と声があがったと聞きます。黙っていても研修医は集まるので奢りがあったのかも」と指摘。別の病院に勤務する産婦人科医C医師は語る。 「10年に自然の営みで起きる出産を応援するため、日野原先生肝いりで設立したというのが聖路加の助産院。『通常の助産院に比べると1.5倍くらいと高額』という理由で利用者が非常に少なかったそうです。今では助産院では分娩が不可能になったと聞きました。せっかく助産院に入院しても、わざわざ通りを挟んだ本院に移動して出産。状態がよければ産後4時間ほどで助産院に戻らされるそうです」 高級志向、富裕層向けのサービスが、ことごとく裏目に出ているという声は多い。 「大手町には、富裕層向けの健康サポートを提供するクリニックがあります。ところが、入会金180万円、年会費60万円(それぞれ税別)とあまりに高額です。そのため、会員は目標数の4分の1~3分の1程度しか集まらなかったみたいです」(前出・A医師) 実際、聖路加の経営は厳しい。今回、聖路加は労基署に指摘された数十億円とも言われる不払いの時間外手当を支払った。同院の財務報告を見た税理士が分析する。 「15年度の資料を一見すると、健全な経営に見えます。ところが収入の部門には、解散した研究所の資産譲受などの“特別収入”が多い。これはその年度限りのもの。それらを差し引くと、おそらく年間の赤字額は8億円にも上ると思われます」(前出・税理士) 前出の上さんはこう語る。 「聖路加は6月から、34の診療科で行っていた土曜外来を14に大幅縮小しました。まずは採算が取れない外来から手をつけたのではないでしょうか。今後、救急や小児科など不採算を生みやすい部門にもメスが入れられることは十分に考えられます」 聖路加国際大学広報室は土曜外来の診療科が大幅縮小されたこと、助産院で出産できなくなったことは認めたが、その理由や指摘された経営危機などについては「内部の事情となりますので、お答えしかねます」と回答。別の現役医師が語る。 「現場には聖路加ブランドをはき違えて“一見さんお断り”の銀座の老舗料亭のように、患者さんを選ぼうとする医師がいるのは事実です。今回の“危機”が、それを見直すチャンスになってほしい。富裕層ばかりに目を向けず、本来の“弱者”に寄り添う日野原先生が守ってきた聖路加らしさを取り戻してほしいです」
2017年07月28日