エンジョイを標榜しているのに、6年生最後の公式戦でまさかの1人だけ「出してもらえない」。選ばれたのは上手な下級生。同級生と頑張ってきたのにそんな仕打ちある?自分自身もクラブの手伝いや遠征同行してきたけど、それは間違ってたのだと気づいた。と心の整理がつかないままのお父さんからご相談をいただきました。出場機会について悔しい思いをした親御さんはたくさんいるのでは。今回、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、悔しい気持ちの消化させ方について3つのアドバイスを送ります。(構成・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<上手くなりたいと言うのに自主練しない。アドバイスも嫌がる息子に頭を悩ませている問題サカイクLINE登録でショップ&イベントで使えるクーポンもらえる>><サッカーパパからのご相談>初めて相談させていただきます。12歳の子どもをもつ父です。息子は、小4から地元のサッカークラブに入り、3年間頑張ってできるだけ休まず頑張って続けてきています。あまり運動が得意ではないのと、団体競技で社会性を学ばせたいという私の考えで入部させました。勝つためではなく楽しく高校までサッカーを続けてくれたら、との考えで勝つより負けの試合の方が多いチームです。各学年の人数が少なく、試合も6、5、4年生の合同チームみたいな感じでした。息子が4年生のときはもちろん試合に出れず、「まだ上の年代が主役だから」と伝え5年生の時も「来年が主役だからね」と言っていたのですが、6年になり、ようやく息子がフルで試合に出れると思っていたら、まさかの「出してもらえない」事態に。今までは5、6年生で公式戦に参加させていたのに、今年は人数が少ないので4、5、6年生で参加することになり、さすがに6年の最後の公式試合はメンバーに選ばれるかと思っていましたのに、6年生でただ一人選ばれませんでした。選ばれたのは、6年生3人中2人(うちは補欠)、5年生7人中5人、4年生は5人中1人。確かにうちの子は上手くありませんが、そこまでする必要があるのかと怒りと疑問を持ちました。それでも本番はきっと出れるよって説明して送り出しましたが、1試合目出番なし2試合目は4点差が付きもう負け確定となったラスト10分お情けで出場。本人も辛かったのに他の子の前では楽しそうにしていて、帰りの車の中では泣きながら「練習に付き合ってくれ」と言ってきました。確かに出場した下級生は私の子より上手です。クラブに通いながら他のスクールに通う子もいたりと、うちの子に比べると多く練習していたと思います。ただ、そこまでして3年間頑張ってきた息子に思い出を経験をさせてあげないクラブはどうなのかと疑問に思います。3人しかいない同学年の子と頑張ってきたのに。今まで私がしてきたクラブのお手伝いや遠征の同行、子どものクラブのためしてきたことは間違っていたんだと思いました。なかなか心の整理がつかずご相談させていただきました。アドバイスお願いいたします。<島沢さんからの回答>ご相談いただき、ありがとうございます。試合に出られないわが子を見守るのは親にとっても難しい時間ですね。私も経験があるのでお気持ちお察しいたします。■エンジョイを掲げていても、先発メンバーを出し続けるチームはまだ多い最後の試合で3人しかいない6年生でひとりだけ出られなかったことは、息子さんにとって大きなこころの傷になっていることでしょう。今はまだお父さんも頭に血がのぼっていて、息子さんを2試合で10分しか出さなかったコーチたちを許せない気持ちでいっぱいかと思います。しかしながら、小学生カテゴリーは全員出場を掲げるチームが増えてきたとはいえ、まだまだ少数派。ずっと補欠で試合に出られない子どもが大勢存在するのが現実です。エンジョイをチームのスローガンに掲げているのに、先発メンバーを交替させることなく出場させるチームはとても多いです。例えばこのようなケースであれば「公式戦なのだから勝とうとして何が悪いのか。最後に10分間出してやったじゃないか」と考える指導者も存在します。お父さんから見れば「お情け」に見えますが、コーチ陣からすれば「きちんと試合時間を確保した」と考えているのかもしれません。そもそも少年サッカー指導者が、勝利にこだわってしまうのは自分たちの子ども時代もそのような文化だったので、実力順に子どもを試合に出すことに何ら疑いを持ちません。彼らに悪気はないし、お子さんが傷ついているとも思っていない可能性が高いです。そのように保護者とコーチとでは受け止め方が違うため、子どもを試合に出してもらえなかった親御さんとコーチの方とのトラブルは絶えません。■最後の試合に出してもらえなかった悔しさを、どう消化していくかつまり、いま日本の少年サッカーは過渡期だということです。よって一部の親御さんたちは、指導の質や、子どもの人権に対するコーチらの意識の高さなどをみてクラブを選ぶようになってきました。その点からすると、お父さんが考える理想のチームではなかったのかもしれません。ただし、息子さんは6年生なのであと数か月でこのチームを卒団するわけです。試合に出してもらえない状況をいかにして修正するかという相談ではありませんよね。ご相談文の最後に「なかなか心の整理がつかず相談した」とあるので、今回のことをお父さんと息子さんがそれぞれでどう消化していくか。そこがポイントかと思います。その点から3つほどアドバイスさせてください。■アドバイス①小学生年代ではベンチでも、中学以降中心選手に成長する選手もいる1つめ。まずは、傷ついた息子さんのこころの回復を考えましょう。仲間の前では涙を見せず、親御さんとともに車に乗ってから泣き出した、とあります。しかも、練習に付き合ってとお父さんに言えた息子さんを誇りに思ってください。そのように負けん気を出して前向きな姿勢でいることを、褒めてあげてください。一番身近にいる親から認められることで、自己肯定感を取り戻すことができるはずです。試合に出られなかったことは残念でした。けれど、これで彼のサッカーキャリアが終わるわけではありません。小学生で試合に出られなければ中高でも出られないわけでもありません。もっといえば、小学生時代はベンチスタートだったけれど、中学や高校で中心選手に成長する選手はたくさんいます。■アドバイス②スポーツは「習い事」ではない、本人の意思に任せて2つめ。中学校でのサッカーについては、息子さんの意思を最大限尊重してください。あまり運動は得意ではないのに、お父さんが「団体競技で社会性を学ばせたい」との理由で入部させたとあります。そのことを否定するつもりはありませんが、スポーツは習い事ではありません。息子さんが本当にサッカーが好きで、中学でもやりたければ続ければいいし、やめたいといえばそこは尊重してください。もしサッカーを続けるのであれば、自分の力に見合った環境を探してプレーできるといいなと思います。■アドバイス③出場機会がないと分かっていればチームの手伝いをしなかったのか?(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)3つめ。相談文の最後、「今まで私がしてきたクラブのお手伝いや遠征の同行、子どものクラブのためしてきたことは間違っていたんだと思いました」と書かれています。これは、試合に出してもらえないことがわかっていれば、手伝わなかった、ということでしょうか。お父さんは息子さんを試合に出してもらうために、コーチに良い印象を与えようとチームに協力してきたのでしょうか。恐らくどちらも違いますよね。そんなつもりでお手伝いをしてきたわけではないでしょう。よって、そこを「間違っていた」としてしまうのは、息子さんがサッカーを頑張った3年間を否定することになります。冒頭でも伝えましたが、今は怒りが収まらないことでしょう。しかし、いま息子さん以上に腹を立てていないでしょうか。一番悔しいのは息子さんです。その悔しさに共感してあげるのは、親の務めに違いありません。「悔しいよな。そうだよな」と、共感はぜひしてほしい。しかしながら、息子さんと「同化」してしまっては道を見失います。この悔しさをこれからどう活かすのか、どんなふうに成長の糧にしていくのか。そんなことを息子さんと話し合えたらと思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2024年12月11日人数が少なく全学年一緒に練習せざるを得ないこともあるが、上級生の保護者が納得しない。「低学年にしかメリットがない」「下の子たちと練習しても高学年はうまくならないのでは」「下の子たちのお世話係じゃない」など不満の声が。年齢ミックスで練習することで上級生も成長することをわかってもらうにはどうすればいい?とのご相談です。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、年齢ミックスで上級生にもたらされる5つのメリットをご紹介します。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<相手をつかんでまで止める、競り合いで負けると「死ね」と暴言を吐く子、どう指導すればいい?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。小学校のスポーツ少年団で全年齢を指導しています。これまで何度も紹介されているかもしれませんが、改めて異年齢やレベルがバラバラのチームで上級生(または上手い子)が、下の子たちと一緒に練習することのメリットを教えてください。所属人数が少ないのでどうしても年齢ミックスで練習をせざるをえないのですが、学年が上の子たちの保護者は、「小さい子たちと練習させてもメリットがあるのは下の子たちだけで、上級生にメリットがないのでは?」「レベルの違う(下手な)子たちと練習しても上手くならないのでは?」「小学生年代ではまだ指導者に与えてもらうことがメインなので、5、6年生も下級生のお世話係ではなく、ちゃんと指導してほしい(技術、戦術をコーチから与えてほしい)」という方も少なくありません。一人で全学年を見ているので、時間的にも限りがありますし、年齢ミックスで練習することで上の学年も伸びるということを理解していただきたいのです。異年齢と一緒に練習することで伸びるスキルなど、改めて具体的に教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。保護者の方々からなかなか理解を得られず、苦戦している様子ですね。でも、実践されている異年齢での活動は、とてもいいことです。ぜひ横割りに変えたりせずに粘り強く取り組んでください。■「僕らが言うと小学生が文句を言うから、言いたくない」という中学生例えば、私が地元の大阪で行っている「サッカープレーパーク」では、上は中学生から、下は小学校低学年の子どもも来ています。縦割りで一緒にミニゲームをすると、中学生が口をとがらせて苦情を申し立てます。「小学生がひとりで勝手にドリブルで行っちゃうから困る」「ボールをすぐに大きく蹴るから、やりたいサッカーができない」私が「小学生に自分たちから指示を出して動かせばいいじゃない?」と言っても、「僕らが言うと文句を言うから、言いたくない」と言うのです。少子化もあって、中学生、小学生の双方が、兄弟、姉妹やいとこ、親戚といった異年齢の子どもとのコミュニケーションの経験がありません。中学生には、どうやったら年下の小学生を動かせるかを考え、言い方やタイミングを工夫することができない。小学生は、お兄さんたちの言うことを聞いてサッカーをしたら、上手くなったり、いいことがあると思えないのです。経験していないからです。■年齢ミックスで練習すると上級生も確実に成長するそれぞれがもっと小さいときから私の指導を受けて育っていたら、もっと違う状況になるはずですが、一緒にサッカーをしてきていないため理解できません。「どうして小学校の低学年と一緒にやらなきゃいけないんだ?」と戸惑っている姿が見えます。例えばそんな姿を見かけたら、上級生の親御さんは心配になって「みんな同じ学年で能力が似通っている横割りのほうがいい」と思うのかもしれません。しかしながら、縦割り集団で上級生は確実に成長します。年上の子が異年齢で活動するメリットはたくさんあるのです。ここでは五つに分けてお話ししましょう。■コーチングスキルやカバーリングのスキルなどサッカーの技術も高まるまずひとつめ。上級生は、コーチングを覚えられます。「こういうとき、どこに動いたらいい?」と問いかけるコーチングができるようになります。ボールをもらいたいときは、「ほら、ワンツーやるよ」と声を出しながらパスをすればいいとわかります。二つめ。力の差が大きいと能力が高い子のほうが伸びないのではないかと思いがちですが、それは違います。足が速くて技術もある子が、足の遅い子が間に合うようなパスを出してあげたり、試合でその子のぶんもカバーしようと集中し懸命に走ったりするようになります。三つめ。サッカーのスキルも、異年齢集団で十分鍛えられます。例えば、高学年対抵学年のゲームは、高学年にペナルティをつけると白熱した戦いになります。小さなコートなら4対6、もう少し大きければ5人対8人でやるなど、上の学年の子たちに負荷をかけるといいでしょう。負荷のかかった状況で、3人に囲まれたりしてもボールをキープできたり、数的不利のなかで頭を使ってサッカーをするトレーニングになります。ペナルティは、人数以外でもつけられます。「ドリブルはダメ。パスしかできません」とか「すべてダイレクトプレーでやってください」などと厳しめな条件を付けます。技術も判断スピードも必要なので、体格やスピードに劣る下級生が相手でも「頭」が疲労します。どんなペナルティをつけるか、ルールにするかを、どんどん考えてください。何かを教え込むのではなく、そんなふうにルールや方法を工夫できるのが指導者の役目なのです。■高学年で周りに追いついてない子は成功体験を積んで自信をつけることができる四つめ。サッカーに対して、主体的に臨む姿勢が生まれます。低学年の子どもと一緒に練習する際は、いい意味で余裕があるので「自分たちがうまくなるためには、どうしたらいいのかな?」と考えてもらいます。例えば、低学年が保持しているボールを、体をぶつけて奪いに行くのではなく「パスカットでしか奪ってはいけない」という高学年ルールを自分たちで考え出すこともできます。考え出すために、指導者がヒントをあげてください。一から十まで大人が伝えるのが指導ではありません。技術や戦術を磨く方法を、高学年の子どもたち自身が生み出すこと。そういったことも、異年齢のなかで行うことで出てきやすくなります。五つめ。高学年でも能力がまだ同学年に追いつかない子どもにとっては、自分も対等以上にやれて自信がつきます。相手は年齢が下であっても、うまくできたプレーのイメージをつかんだことには変わりありません。そういった子たちは同学年の横割りだと、うまい子に遠慮したり、すぐパスをしてしまって頼ってしまう部分があるので、そういった遠慮の解消にもなります。■指導者が最初から答えを持ってなければいけないわけではない(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)サッカーのコーチングは、指導者があらかじめ答えを持ってやらなくてはいけないわけではありません。逆に答えを持たず、子どもたちの思考や活動に広がりを与えてくれる。それが、異年齢の集団での活動だと思います。こんなこともあるよね。答えはひとつじゃないよ。自分のコーチがそんな見方をしていれば、より多くの学びを子どもたちに授けられると思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年11月27日