中村獅童が1日、自身のインスタグラムを投稿した。【画像】中村獅童、美人妻を顔出し公開!息子らも交えたファミリーショットに「うわぁ素敵」の声「君もラーメン好きなのね。#夏幹」と綴り、最新ショットを投稿。次男のラーメン好きに対する親しみが感じられる、微笑ましい投稿である。 この投稿をInstagramで見る Shido Nakamura(@shido_nakamura)がシェアした投稿 ファンからは「デコ可愛いすぎる」や「お子様ラーメン」とコメントが寄せられた。
2024年10月01日明治座花形歌舞伎が8年ぶりに復活する『明治座 十一月花形歌舞伎』の製作発表会見が9月27日、都内で行われ、出演する中村勘九郎、中村七之助が出席した。平成23(2011)年以来、次世代を担う花形俳優たちが大役に挑む話題性や、歌舞伎に馴染みのない人にも分かりやすいエンターテインメント性に富んだバラエティ豊かな演目を上演してきた明治座花形歌舞伎。令和2(2020)年3月には、中村勘九郎、中村七之助を中心とした座組で『明治座 三月花形歌舞伎』を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い全公演中止に。それから4年の時を経て明治座花形歌舞伎が帰ってくる。中村勘九郎勘九郎はコロナ禍に見舞われ、上演が中止になってしまった当時を「明治座さんには久しぶりに出演させていただくこともありまして、気合を入れて、稽古に励んでいたが、心のバランスを保つのに大変だった記憶がございます」と振り返り、「お客様にご覧いただけず、芝居が不要不急と言われた悔しさをバネにして、4年半やってまいりました。それをお返しする、本当にいい機会だと思います」と意気込みを語った。コロナ禍については、七之助も「本当に職業を変えなければいけないんじゃないかと本気で考えた」と当時の苦しみを吐露し、「一歩一歩、皆様の力で進んでまいり、明治座に戻ってこられたこと、本当にうれしく思います。一生懸命に勤めます」と背筋を伸ばしていた。中村七之助『明治座 十一月花形歌舞伎』は勘九郎、七之助をはじめ、花形公演に相応しい華やかな顔ぶれが揃う。昼の部は歌舞伎の様式美溢れる『車引』、長谷川伸の傑作『一本刀土俵入』、華やかな女形舞踊『藤娘』、夜の部は義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』、息もつかせぬ早替わりが圧巻の『お染の七役』と多彩な演目が上演される。中村屋三代の芸として、長年受け継がれる昼の部『一本刀土俵入』の茂兵衛役を勤める勘九郎は、「父からは、細かく台詞回しなどを教わった」と父・勘三郎さんの十三回忌の年に上演される所縁深い演目にしみじみ。中村屋伝来の小道具も登場し、「わらじとふんどしは祖父からのもので。六代目の手ぬぐいは、使う日にちを決めておかないと、切れてしまうので大変です。ひと月の公演で、2回くらい出せたら。本当に見えないパワーをもらえるような気がする」と先達に感謝を示した。一方、七之助は夜の部『お染の七役』にて5度目のお染を勤め、早替えにも挑むことに。「床山さん、衣装さん、お弟子さんと息を合わせるのみですね」と舞台裏を明かし、「舞台上でのことは、初役の時に本当に細かく教わりました。稽古好きの父が『また稽古に行くのか』というくらいでしたね。明治座さんは、劇場の導線がいろいろ変わると思いますし、稽古の時に一生懸命話し合いながらやっていきたい」と抱負を語った。取材・文・撮影:内田涼<公演情報>『明治座 十一月花形歌舞伎』2024年11月2日(土)~11月26日(火)※11月11日(月)・20日(水)休演開演時間:昼の部 11:00 / 夜の部 16:00会場:東京・明治座■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)一幕車引長谷川伸 作村上元三 演出二、一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)二幕五場三、藤娘(ふじむすめ)長唄囃子連中【配役】『車引』松王丸:坂東彦三郎梅王丸:中村橋之助桜丸:中村鶴松藤原時平:坂東楽善『一本刀土俵入』駒形茂兵衛:中村勘九郎お蔦:中村七之助堀下根吉:中村橋之助若船頭:中村鶴松波一里儀十:喜多村緑郎船印彫師辰三郎:坂東彦三郎老船頭:市川男女蔵『藤娘』藤の精:中村米吉■夜の部一、 鎌倉三代記(かまくらさんだいき)一幕絹川村閑居の場四世鶴屋南北 作渥美清太郎 改訂於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)二、お染の七役(おそめのななやく)三幕中村七之助早替りにて相勤め申し候浄瑠璃「心中翌の噂」(しんじゅうあしたのうわさ)【配役】『鎌倉三代記』佐々木高綱:中村勘九郎時姫:中村米吉おくる:中村鶴松母長門:中村歌女之丞三浦之助義村:坂東巳之助『お染の七役』油屋娘お染・丁稚久松・許嫁お光・後家貞昌・奥女中竹川・芸者小糸・土手のお六:中村七之助鬼門の喜兵衛:喜多村緑郎油屋多三郎:坂東巳之助船頭長吉:中村橋之助丁稚長松:坂東亀三郎腰元お勝・女猿廻しお作:中村鶴松山家屋清兵衛:坂東彦三郎庵崎久作:市川男女蔵チケット情報()公式サイト
2024年09月27日歌舞伎俳優の中村勘九郎(42)、中村七之助(41)が27日、都内で開かれた『明治座十一月花形歌舞伎』制作発表に出席した。中村家の明治座での公演は2016年以来、8年ぶりとなる。2020年に勘九郎、七之助を中心とした座組で「明治座三月花形歌舞伎」を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、全公演の中止を余儀なくされた。勘九郎は「2020年の3月、 未知のウイルス、まだまだコロナという名前もなかったような何かよくわからないものが蔓延して、芝居ができなくなる。私たちも明治座さんには久しぶりに出演させていただくこともありまして、本当に気合を入れて、稽古に励んでいたんですけれども、幕が開かないかもしれないけど、やるかもしれないっていう状況の中で稽古をする時が1番きつかったですね。お客様にお目にかけられないものを稽古しているということに対して、心のバランスを保つのに大変だった記憶がございます」と振り返った。そして「今回こうやって明治座に帰ってこられること、本当に嬉しく思います。お客様に見ていただけなかった、そして芝居が不要不急と言われた悔しさをバネにして、4年半やってまいりましたけれども、それをお返しする本当にいい機会だと思います」と意気込みを示した。七之助も当時について「本当に職業を変えなくちゃいけないんじゃないかと本気で思いました」とコロナ禍での苦しかった思いを吐露。「まあまだ解決はしてないでしょうけれども、1歩1歩、 皆様の力で進んでいき、こうして明治座に戻ってこられましたこと、本当に嬉しく思います。一生懸命努めます」と語り、来場を呼びかけた。『明治座十一月花形歌舞伎』は11月2日~26日の開催。昼の部は歌舞伎の様式美が凝縮された『車引』、長谷川伸作の『一本刀土俵入』、女方舞踊の人気作『藤娘』が公演される。夜の部では、義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』、早替りが見どころの『お染の七役』など多彩な演目が催される。イベントには松竹取締役副社長・演劇本部長の山根成之氏、明治座代表取締役社長の三田芳裕氏も登壇した。
2024年09月27日フリーアナウンサーの中村仁美が26日、自身のインスタグラムを更新した。【画像】中村仁美、テニス界の強者たちとミックスダブルス!緊張感溢れる一戦を報告「昨夜は長男達と木下グループジャパンオープンへ」と綴り、最新投稿をアップ。会場の選手の様子が伝わるショットなど、複数枚の写真を公開した。中村は日ごろからテニスへの情熱を明かしており、「なんだか凄い瞬間に立ち会った気がする✨興奮して眠れませんでした…」と締めくくった。 この投稿をInstagramで見る 中村仁美(@nakamura_hitomi_official)がシェアした投稿 この投稿にファンからは、「めちゃめちゃ良い試合で会場も大興奮でしたね‼️」「分かります( ˇωˇ )私は、テレビ観戦*゜していました」などのコメントが寄せられている。
2024年09月26日フリーアナウンサーの中村仁美が22日、自身のインスタグラムを更新した。【画像】中村仁美、テニス界の強者たちとミックスダブルス!緊張感溢れる一戦を報告「前略、大とくさん楽しすぎました〜✨」と綴り、最新投稿をアップ。「昔からの馴染み深〜い大好きなお二人と早朝のメイク室から爆笑しておりました」と明かし、ビビる大木、岡田圭右との楽しそうな3ショットなど、3枚の写真を公開した。 この投稿をInstagramで見る 中村仁美(@nakamura_hitomi_official)がシェアした投稿 この投稿にファンからは、「笑顔満開ですね。」「わぁ中村さんスリーショットやわ〜かっこいい笑顔ポーズ」などのコメントが寄せられている。
2024年09月22日女優でモデルの中村アンが19日、自身のインスタグラムを更新。【画像】中村アン「アンチャンネル」開設をインスタ報告!ファン歓喜!!「」とだけ綴り、自身が写った写真など数枚をアップした。白いバラの花束を抱きしめ、にっこり微笑む中村の表情がかわいいと話題だ。 この投稿をInstagramで見る 中村 アン(@cocoannne)がシェアした投稿 この投稿には多くのファンの関心が寄せられている。
2024年09月19日女優でモデルの中村アンが12日、自身のXを更新。【画像】中村アン 最新スタイルを公開!「ファンクラブオープンしました よろしくお願いします!」と綴り、1枚の写真をアップ。この日中村はOFFICIAL FANCLUB「アンチャンネル」をオープンさせた。ファンクラブの限定コンテンツでは、ファンクラブ限定デザインのデジタル会員証や、プライベートショットを含めたBLOGを更新するなど豪華内容となっている。今後も中村の活躍に目が離せない。ファンクラブオープンしました㊗️よろしくお願いします! pic.twitter.com/CPqyHQl7ZZ — 中村 アン (@AnneNakamura) September 12, 2024 この投稿にファンからは「アンちゃん㊗️ ファンクラブオープン㊗️おめでとうございます♂️ 嬉しすぎてテンパりましたよ〜㊗️無理せずにやってね楽しみにしてまーす❤️」「ファンクラブ開設おめでとうございます開設とっても嬉しいです 12時過ぎに早々と入会させていただきました」「アンちゃん❤️嬉しい〜入会しました❗️配信楽しみです」などのコメントが寄せられた。
2024年09月12日「秀山祭九月大歌舞伎(しゅうざんさい くがつ おおかぶき)」が、9月1日に開幕した。明治末期から昭和にかけて活躍した初世中村吉右衛門の功績を顕彰し、その芸と精神を継承していくことを目的とする「秀山祭」は、初世吉右衛門の俳名である「秀山」を冠して、平成18(2006)年9月歌舞伎座から始まり、二世中村吉右衛門が長年にわたり情熱を傾けてきた公演。今年もゆかりの作品をはじめ、彩り豊かな演目が揃った。その初日オフィシャルレポートをお届けする。昼の部は、『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』から。初世中村吉右衛門が合邦道心を度々演じてきたゆかりある重厚な義太夫狂言の名作だ。幕が開くと、合邦道心(中村歌六)の庵室。そこに娘の玉手御前(尾上菊之助)が闇夜に紛れてやってくる。玉手御前は、後妻に入った高安家で義理の息子・俊徳丸(片岡愛之助)に邪な恋心を抱き、許嫁の浅香姫(中村米吉)を連れて逃げ出した俊徳丸を追ってきたのだった。自分の片袖を頭巾にした妖美な玉手御前の出、厳しい言葉とは裏腹に親として娘を想う合邦の姿は観客を物語世界に引き込んでいく。合邦の庵室には俊徳丸と浅香姫が匿われており、その姿を見つけた玉手御前は嫉妬と狂ったような恋心で俊徳丸に迫る。そんな凄まじい邪恋に狂う娘を合邦が刺したことで、物語は加速度を増していき、手負いとなった玉手御前から初めて打ち明かされる邪恋の真実に、場内は固唾をのんで見守る。登場人物それぞれが織りなす想いに心打たれる一幕に温かい拍手が送られた。続いては、『沙門空海唐の国にて鬼と宴す(しゃもんくうかい とうのくににて おにとうたげす)』だ。壮大で奇想天外な夢枕獏の同名人気小説を原作とした本作は、平成28(2016)年4月歌舞伎座で新作歌舞伎として上演され、大好評を博した。この度、「弘法大師御誕生一二五〇年記念」として、待望の再演だ。唐の都、長安。その繁栄の陰で、市中では皇帝の次には皇太子も倒れるだろうという不穏な立札が夜な夜な現れる怪異が起きていた。遣唐使船で日本からやって来た空海(松本幸四郎)は、ある日、訪れた妓楼で遊女の玉蓮(中村米吉)を相手に不思議な力を見せる。白楽天(中村歌昇)たちがその光景に驚くなか、皇帝の崩御を予言していたという化け猫の話を玉蓮から聞いた空海は、すぐさま噂の屋敷へ向かう。空海の何事にも楽しさを見出し、突き進んでいく姿は観客を引き込んでいく。空海たちの前に現れたのは、黒猫を頭に乗せた春琴(中村児太郎)という夫人。怖がる橘逸勢(中村吉之丞)を横目に、そんな状況すら楽しむ空海にその黒猫が語りかける。化け猫と対峙した空海は、ある疑問を解くため白楽天を伴い、50年前に葬られた楊貴妃の墓を探るが……。街で知り合った謎の老人・丹翁(中村歌六)から、楊貴妃の時代に唐へ渡った阿倍仲麻呂(市川染五郎)の手紙を託されると、遂に空海は時空を超えて唐王朝を揺るがす大事件の解明に挑む。今回の再演に際して新たに登場した安倍仲麻呂と、空海が時空を超えて言葉を交わす姿は、幸四郎・染五郎の親子共演と重なり合い、観客を魅了する。謎を解明するため空海が催した華やかな宴が始まると、空海が踊り、歌を披露。客席からは温かい拍手が送られた。そして幻想的な光に包まれた楊貴妃(中村雀右衛門)が白龍(中村又五郎)に伴われて登場すると……。空海はその活躍が認められ、憲宗皇帝(松本白鸚)に謁見。高階遠成(染五郎/二役目)に伴われて空海が登場すると「高麗屋!」の大向うが響き、舞台上では白鸚・幸四郎・染五郎の高麗屋三代が揃いた。皇帝の所望により空海が書を披露し、荘厳な宮殿の中で認められる書はまさにこの壮大な物語の締めくくりに相応しく、再演でさらに深化した物語に大きな拍手が送られた。また、ロビーでは『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』にちなみ、高野山からマスコットキャラクターのこうやくんがお客様をお出迎え、幕間も大変賑わいを見せた。二世吉右衛門の思いを継いだ『勧進帳』夜の部は、近松半二による王代物の傑作『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』から「太宰館花渡し」と「吉野川」の場面を上演。天智帝の御代、帝を追い落とし暴政の限りを尽くす蘇我入鹿(中村吉之丞)は、横恋慕する采女の局の行方を詮議するため、大判事清澄(尾上松緑)と太宰後室定高(坂東玉三郎)を呼びつける。両家が不和を装って采女の局を匿っていると疑う入鹿は、それぞれの子、雛鳥の入内と久我之助の出仕を要求し、傍らの桜の花の枝を渡す。国崩しの妖気を漂わせる入鹿の恫喝が響き、思い悩むふたりの親の姿が、これからの悲劇を予感させる。続いては、「吉野川」の場。幕が開くと、桜満開の妹背山に挟まれた吉野川を滝車と両花道で表現する雄大なスケールの大道具に、客席からはため息が漏れる。両家の確執ゆえに会うことの叶わない久我之助(市川染五郎)と雛鳥(尾上左近)。川を挟んで対面し言葉を交わす、切なくもいじらしいふたりのやりとりが観客を作品の世界に引き入れる。逢瀬のさなか、大判事と定高の到着を告げる声が響く。せめて相手の子は救いたいと考える本心を隠しながら川を隔てて語り合う大判事と定高。入鹿の要求に従うときは桜の花をそのままに川に流し、子を討つときは桜の花を散らせて流すと約束。妹山の雛鳥は久我之助への操を立てる決意を固め、背山の久我之助は詮議の根を断つために切腹を決意する。子供たちの思いを受け止めた親たちは、桜の花の枝をそのままに川に流すが……。思いがけない形で久我之助と雛鳥が対面を果たす悲劇のクライマックスでは、客席のあちこちからすすり泣きが聞こえた。平成28(2016)年9月歌舞伎座「秀山祭」で二世吉右衛門の大判事と共演以来となる玉三郎の定高、昨年9月以来2度目となる松緑の大判事、そして、それぞれ初役で勤める染五郎と左近が繰り広げる情感溢れる舞台に客席からは温かい拍手が送られた。そして、歌舞伎十八番の内『勧進帳(かんじんちょう)』。能「安宅」に取材した長唄の舞踊劇である『勧進帳』は、歌舞伎十八番のなかでも屈指の人気を誇る名作。八十歳で弁慶を演じることが目標であると生前語っていた二世吉右衛門。この度は「二代目播磨屋八十路の夢」として、甥の松本幸四郎による弁慶、娘婿の尾上菊之助による富樫、二世吉右衛門を大叔父にもつ市川染五郎の源義経というゆかりの配役で上演する。幕が開くと、松羽目の舞台は奥州安宅の関。関守の富樫左衛門(尾上菊之助)による名乗りのあと、源義経(市川染五郎)一行が家臣の武蔵坊弁慶(松本幸四郎)らと共に山伏姿に身をやつして花道に登場する。関の通行を求める弁慶の白紙の勧進帳の読み上げから、弁慶と富樫の厳しい「山伏問答」の丁々発止のやり取りまで、息つく間もない緊迫した展開が続き、客席は固唾をのんで見守る。幕切れの花道では、二世吉右衛門の部屋子として長年仕えた中村吉之丞の後見が幕外で見守るなか、幸四郎の弁慶が花道を飛び六方で引っ込むと、場内の盛り上がりは最高潮に。「叔父の弁慶を強く思って勤めたい」と決意を固めていた幸四郎の気迫と、「父の心は引き継がれ、永遠に残っていく」と語った菊之助の思いが重なり、二世吉右衛門の思いを継いだ『勧進帳』に、割れんばかりの大きな拍手が送られた。「秀山祭九月大歌舞伎」は9月25日(水)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>「秀山祭九月大歌舞伎」【昼の部】11:00~一、摂州合邦辻二、沙門空海唐の国にて鬼と宴す【夜の部】16:30~一、妹背山婦女庭訓太宰館花渡し吉野川二、歌舞伎十八番の内 勧進帳2024年9月1日(日)~25日(水)※9日(月)、17日(火)休演※昼の部:20日(金)貸切(幕見席は営業)※昼の部:19日(木)は学校団体来観会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:無断転載禁止※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年09月03日歌舞伎座で来月行われる「秀山祭九月大歌舞伎」[9月1日(日)〜25日(水)]を控えた人間国宝の中村歌六が、8月8日に取材会を実施。昼の部で出演する『摂州合邦辻』合邦庵室の場、『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』への意欲とともに、秀山祭への熱い思いを明かした。開口一番は、「今年も、この公演に秀山祭という名前がつきましたこと、大変ありがたく思っております」──。初世中村吉右衛門の俳名を冠した秀山祭は、その芸と精神を継承することを目的として、生誕120年にあたる平成18(2006)年にスタート。3年前に亡くなった二世中村吉右衛門が中心となって回を重ね、初代ゆかりの演目を様々に上演してきた。今回、昼の部で上演する『摂州合邦辻』で歌六が勤める合邦道心も、初代吉右衛門が度々演じた役柄。歌六自身は、2015年に初めて取り組み、今回が二度目だ。2015(平成27)年歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」『摂州合邦辻』より、合邦道心を勤める中村歌六(C)松竹「もう、教えていただく先輩がいなくなってしまった。昔の記録を調べると、私の祖父(三世中村時蔵)が玉手御前をやっている映像があって、そこで中車のおじさま(八世市川中車)が合邦をされていた(1956年、明治座での公演)。昨年亡くなった市川段四郎さんから、中車のおじが『初代さん(吉右衛門)が好きで、若い頃からずっとよく見て、尊敬して、メモを取って、その芸を忠実に覚えていた』と聞いていたので、それが一番秀山さまに近いのではないか。そこから、他の方のも拝見して、自分なりに組み立てていきました」義理の息子俊徳丸への邪恋にとらわれた娘、玉手御前を手にかける合邦は、元侍の廉直な僧侶だ。「この前までやっていた弥左衛門(『義経千本桜』すし屋)では、言うことを聞かない息子を殺し、今度は言うことを聞かない娘を殺す。しかも両方とも“モドリ”がある」。絶命直前の玉手の告白により、玉手が仕組んできた“策”が明らかになり……。「だから、もうちょっと落ち着いて話を聞けばいいのに(笑)!娘は本当にかわいいんですよね。懐かしさと嬉しさと、複雑な心境になるんでしょう。けれど、仏門に入った人間としては許せない部分がある。でもやっぱり、情のある人ですね」。一方の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は、2016年に歌舞伎座で初演された新作歌舞伎で、原作は夢枕獏の伝奇小説。唐の都、長安を舞台に繰り広げられる若き僧、空海と儒学生・橘逸勢の物語だ。歌六は初演に引き続いて、怪しげな老人、丹翁を演じる。「飄々として、フラフラしながら何となく生きているけれど、ある時になるとピシっと、筋の通った立派な人に。多面性があるので、作っていくのはなかなか楽しいお役です。劇中劇があったり義太夫が入ったりと、非常に面白いお芝居。お爺さん役がふたつ続く?まあ、最近多いから大丈夫です(笑)。」2016(平成28)年歌舞伎座「四月大歌舞伎」『幻想神空海』より、丹翁を勤める中村歌六(C)松竹話題が再び初世吉右衛門の芸に及ぶと──。「小さいころによく真似をしていたくらいだから、見ていたとは思うのですが、覚えていないんです。ただ、皆さん『すごいんだから!』『本当にすごいんだから』というので、本当にすごいんだなと──。一緒に撮った写真はあるんです。多分お墓参りで、手を繋いでもらっているのですが、なぜかもう片方の手をポケットに入れていて、これはちょっと失礼すぎると(笑)。でも、見ていた、というのは財産です。覚えていなくても、どこかに何かある。それは、ひとつの財産として大事にしていきたいなと思います」二世吉右衛門との思い出も、数えきれないほどあるだろう。「(三世中村)歌六の百回忌があるんだという話を吉右衛門のお兄さんにしたら、『そりゃ、秀山祭でやらなきゃ駄目だよ』と。私風情が歌六の百回忌をさしていただけたのは本当に、もう、お兄さんのおかげ。感謝してもしきれない。秀山祭については、お兄さんはひとかたならぬ思いを持たれていたと思うんです。本当に、身を粉にしてなさっていた。これからもずっと続けていけたら、ありがたいことですね」そんな思いを胸に、趣の全く異なる2作品にのぞむ歌六。最後は、「全然違う芝居がふたつ並んで面白いから、皆さん、観てください。きっと楽しめます──って書いておいてくださいね」と、茶目っ気たっぷりに笑って見せた。取材・文:加藤智子<公演情報>「秀山祭九月大歌舞伎」【昼の部】11:00~一、摂州合邦辻合邦庵室の場二、沙門空海唐の国にて鬼と宴す【夜の部】16:30~一、妹背山婦女庭訓太宰館花渡し吉野川二、歌舞伎十八番の内 勧進帳2024年9月1日(月)~9月25日(水)※9日(月)、17日(火) 休演※20日(金) 昼の部は貸切。幕見席は営業会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:
2024年08月15日「若手歌舞伎役者の登竜門」といえば新春浅草歌舞伎。今年も若手花形俳優たち、そして貫禄のベテラン勢が顔を揃える。1980年に、二世中村吉右衛門、五世中村勘九郎(十八世中村勘三郎)、坂東玉三郎の顔ぶれで「初春花形歌舞伎」としてスタートして以来、東京浅草のお正月を彩ってきた。今年の浅草歌舞伎第1部は時代物の傑作『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)十種香』で幕を開ける。武田信玄の息子の勝頼が切腹したと聞いてもなお、勝頼の姿絵を前に一途に祈る情熱的な八重垣姫の恋を描く。『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店』では、深い因縁で結ばれたお富と与三郎が運命的に再会する物語が粋にドラマチックに繰り広げられる。田舎者のどんつくと江戸っ子たちを比べながら、華やかに江戸の風俗を楽しむ舞踊『神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのきょくまり)どんつく』で、出演者が勢ぞろいする。第2部の一幕目は重厚な時代狂言の傑作、『一谷嫩軍記熊谷陣屋(くまがいじんや)』だ。かつて受けた恩と忠義、16歳の我が子への思いのはざまで苦悩する熊谷直実の人生とは。『流星(りゅうせい)』は雷夫婦の喧嘩を可笑しみを持って描く洒脱な舞踊。そして第2部の打出しは『新皿屋舗月雨暈魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)』。家族を思うからこそ、ついに宗五郎は禁酒の誓いを破る。出演者が全員そろう切狂言だ。12月に行われた『新春浅草歌舞伎』取材会よりそして今年で浅草歌舞伎を卒業するメンバー達が思い出をこう語る。「この浅草歌舞伎をひっぱっていく立場を任された初年度の2015年、任せてもらううれしさと不安の中、みんなが積極的に僕に連絡くれて”僕にできること何でもします”と言ってくれたのがすごく心強かったですね。皆でワンチームとなってこの浅草歌舞伎を良くしようという気持が固まった、あの年のことがやはり一番思い出深いです」(尾上松也)。「この浅草歌舞伎は(二世中村)吉右衛門のおじ様の、播磨屋の演目をさせていただける大事な機会でした。中でも「太十」(『絵本太功記』十段目)の武智光秀を勤めさせていただいたとき、おじさまから直接顔をしていただいたことが忘れられません。その後の自分の顔をする際の基本となっています」(中村歌昇)。「最初の年、本当にお客さまが来て下さるのか不安と闘いながらも、盛り上げるための事前の宣伝活動として、短期間に大量のバラエティ番組に皆で出演しまくったのが強烈に思い出に残っています」(坂東巳之助)。「2019年の『乗合船恵方萬歳(のりあいぶねえほうまんざい)』は、まさに全員が同時に舞台に出た貴重な機会でした。また千穐楽の日に幕が締まったあと、客席降りしたのを思い出します」(坂東新悟)「先輩から受け取ったバトンを何とかしなきゃと思っていた最初の年の初日、お客さん入ってるかなと心配で幕だまりから皆で見た覚えがあります。お客さんがいっぱい入ってるのを確認して皆で“よかったね”と言い合ったことがよみがえります」(中村種之助)。「最初の年、せっかくだから『お年玉挨拶』を二人組でやってみようということになりました。でも緊張しすぎてどうにもかけあいがうまくいかず、翌年からまたひとりでの挨拶に戻ったことを覚えています(笑)。ポスター用に一人ひとりのカラーも決めましたね。僕はピンクで、今日(12月取材会時)もピンクのネクタイをしております」(中村米吉)。「ゴレンジャーならぬナナレンジャーを模してポスター、作りましたね。目を引くチラシ作りに皆でああでもないこうでもないと言い合って工夫したことを思い出します。この浅草歌舞伎は地域密着型の公演で、浅草の旦那衆や女将さん衆に公演期間中皆でお礼を言いに行ったことも思い出です」(中村隼人)。コロナ禍で昨年は行われなかった恒例の『お年玉年始ご挨拶』が4年ぶりに復活する。また昨年は第1部、2部で出演者を二分していたが、今年は部を越えてそれぞれの出し物にメンバーが相互に出演、まさに浅草歌舞伎ならではの楽しみな顔合わせも復活する。数々の古典の大役に挑む若手花形俳優たちに今年も会いに行こう。文:五十川晶子<公演情報>「新春浅草歌舞伎」出演:尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉【第1部】11:00~お年玉〈年始ご挨拶〉一、『本朝廿四孝 十種香』出演八重垣姫:中村米吉武田勝頼:中村橋之助腰元濡衣:坂東新悟白須賀六郎:中村種之助原小文治:坂東巳之助長尾謙信:中村歌昇二、『与話情浮名横櫛 源氏店』作:三世瀬川如皐出演切られ与三郎:中村隼人妾お富:中村米吉番頭藤八:市村橘太郎蝙蝠の安五郎:尾上松也和泉屋多左衛門:中村歌六三、『神楽諷雲井曲毬 どんつく』出演荷持どんつく:坂東巳之助親方鶴太夫:中村歌昇太鼓打:中村種之助大工:中村隼人子守:中村莟玉若旦那:中村橋之助芸者:中村米吉白酒売:坂東新悟田舎侍:尾上松也【第2部】15:00~お年玉〈年始ご挨拶〉一、『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』出演熊谷直実:中村歌昇相模:坂東新悟藤の方:中村莟玉梶原平次景高:中村吉之丞堤軍次:中村橋之助源義経:坂東巳之助白毫弥陀六:中村歌六二、『流星』出演流星:中村種之助三、『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』作:河竹黙阿弥出演魚屋宗五郎:尾上松也女房おはま:坂東新悟小奴三吉:中村種之助磯部主計之助:中村隼人菊茶屋娘おしげ:中村莟玉菊茶屋女房おみつ:中村歌女之丞父太兵衛:市村橘太郎鳶吉五郎:中村橋之助召使おなぎ:中村米吉岩上典蔵:坂東巳之助浦戸十左衛門:中村歌昇2024年1月2日(火) ~1月26日(金)会場:東京・浅草公会堂()
2024年01月02日2024(令和6)年2月東京・歌舞伎座、3月名古屋平成中村座で上演される「十八世中村勘三郎十三回忌追善興行」の合同取材会が11月28日、都内で行われ、中村勘九郎、中村七之助が出席した。時代物から世話物、新歌舞伎に新作歌舞伎、舞踊に至るまで、幅広い分野で当り役を持ち、人々を魅了し続けた十八世中村勘三郎。その十三回忌追善では、勘三郎の長男・勘九郎、次男・七之助をはじめ、由縁の出演者と演目が揃い、名優を偲ぶ。1987(昭和62)年1月歌舞伎座『猿若江戸の初櫓』猿若=十八世中村勘三郎(当時 五代目勘九郎)©松竹1992(平成4)年10月南座『青砥稿花紅彩画 白浪五人男』弁天小僧菊之助=十八世中村勘三郎(当時 五代目勘九郎)©松竹2月歌舞伎座では、寛政元(1624)年に初代猿若(中村)勘三郎が、後の中村座である猿若座の櫓をあげ、江戸で初めて歌舞伎興行を創始したことを記念して始まった「猿若祭」を開催。続く3月名古屋平成中村座では、初代勘三郎生誕の地とされる愛知県名古屋市中村区で、十八代目中村勘三郎襲名披露として、平成18(2006)年以来となる同朋高校体育館での公演が実現する。勘九郎は歳月の流れに思いをはせながら、「祖父が父に『追善興行ができるような役者になっておくれ』と言っていた通り、追善興行ができるのは本当にうれしい」としみじみ挨拶し、「親孝行は何ひとつできていなかったと思うが、これで少しは親孝行ができるのかなと思う」と安どの表情。七之助も「1年を通して、父の追善興行を行えるということは息子として本当にうれしく、身の引き締まる思いです」と背筋を伸ばした。2010(平成22)年4月歌舞伎座『連獅子』狂言師後に親獅子の精=十八世中村勘三郎、狂言師後に仔獅子の精=中村勘九郎(当時 二代目勘太郎)、狂言師後に仔獅子の精=中村七之助©松竹2月歌舞伎座夜の部では、初代勘三郎が、江戸で芝居小屋建立を幕府に認められるまでを描いた中村屋由縁の舞踊劇「猿若江戸の初櫓」を上演。勘九郎の長男・中村勘太郎が初役で猿若を勤め、出雲の阿国で七之助が華を添える。17代目と18代目の伝説的な共演以来、中村屋を語る上で欠かすことができない舞踊の大曲「連獅子」では、親獅子に勘九郎、仔獅子には10歳となる次男の中村長三郎が初めて挑むことになった。猿若を勤めることを知った勘太郎の様子について、勘九郎は「マスク越しに笑みがこぼれるのが見えて、愛おしかった」と目を細め、「連獅子」に初挑戦する長三郎には「火の玉のような子獅子を演じてくれるはず」と期待を寄せた。2010(平成22)年2月歌舞伎座『籠釣瓶花街酔醒』佐野次郎左衛門=十八世中村勘三郎©松竹昼の部では、勘三郎が当り役にした「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」の佐野次郎左衛門を、勘九郎が初役で勤め、女方の大役・兵庫屋八ツ橋を七之助が同じく初役で勤める。「いつかやりたいとタイミングを模索していた。兄弟ふたりでできるので、父も喜んでいるはず」(勘九郎)、「八ツ橋は、女方あこがれのお役。初役はありがたい」(七之助)と声を弾ませた。さらに、各地の芝居小屋やホールをめぐる「陽春・春暁・錦秋歌舞伎特別公演2024」、10月には「俊寛」の舞台である鹿児島県三島村・硫黄島で13年ぶりの開催となる「三島村歌舞伎」も決定した。勘九郎は「2011年に2回目の『俊寛』を三島村で演じた時、私が14歳で千鳥をやらせていただいた」と回想。勘太郎(当時は七緒八)が誕生した頃で、「父が『七緒八が14歳になるのはいつだ?俺が70歳になるから、その記念でまたやろう』と決めていた」と秘話を披露。「それが見られなかったのは悔しいんですが、父の遺志を継いで、三島村で俊寛を勤められるのも、本当に楽しみ」と追善興行ラインナップに奔走する2024年に闘志を燃やしていた。取材・文・撮影(会見写真):内田涼<公演情報>十八世中村勘三郎十三回忌追善■「猿若祭二月大歌舞伎」【昼の部】11:00~一、新版歌祭文野崎村二、釣女三、籠釣瓶花街酔醒【夜の部】16:30~一、猿若江戸の初櫓二、義経千本桜すし屋三、連獅子2024年2月2日(金)~2月26日(月)※13日(火)、20日(火)休演※9日(金)昼の部は貸切(幕見席は営業)会場:東京・歌舞伎座■「名古屋平成中村座 同朋高校公演」【昼の部】11:00~一、弁天娘女男白浪二、身替座禅【夜の部】15:30~一、義経千本桜川連法眼館二、二人藤娘2024年3月6日(水)~3月18日(月)※12日(火)休演会場:平成中村座(学校法人 同朋学園 同朋高等学校 体育館)公式サイト:
2023年11月29日戦後の歌舞伎の礎を築き、“大播磨”と称された初世中村吉右衛門を顕彰して、2006年から始まった「秀山祭」。今月の「秀山祭九月大歌舞伎」は、希代の名優であり、ドラマ『鬼平犯科帳』でもお茶の間に親しまれた二世中村吉右衛門の三回忌追善として開催中。昼の部(11時開演)は時代物の傑作『祇園祭礼信仰記 金閣寺』と、舞踊劇『土蜘』、秀山十種の内『二條城の清正淀川御座船の場』。夜の部(16時30分開演)は古典の様式美あふれる『菅原伝授手習鑑 車引』と、舞踊『連獅子』、新歌舞伎の名作『一本刀土俵入』。昼夜共に「秀山祭」を牽引してきた吉右衛門ゆかりの演目と出演者がそろった。今回は、絢爛の金閣寺を舞台に展開する『祇園祭礼信仰記』に注目したい。“国崩し”と呼ばれる、国を転覆させてわが物にしようとする悪人の松永大膳と、知略にあふれた二枚目の武将・此下東吉(史実の羽柴秀吉)。さらに女方の大役で“三姫”のひとつといわれる雪姫、この3人を中心に物語は進む。大膳の中村歌六は、7月に人間国宝に認定されたばかり。今回が初役ながら“国崩し”にふさわしい大きさと不気味さを漂わせて芯を勤める。そんな大膳に、ある計画をもって近づく東吉には中村勘九郎。すっきりとした立ち姿に余裕のある微笑みもさることながら、時折顔をかすめる怜悧な表情に、ただ者ではないオーラが香る。雪姫には若手の中村米吉と中村児太郎がダブルキャストで挑んでいる。取材した初日は米吉で、これが初役。吹輪(ふきわ)のかつらに雪輪と桜があしらわれたトキ色の振袖がよく似合い、その美しさには客席からため息が。大膳が父の仇と知り、嘆き悲しみつつも、けして屈しないと力強く決意する場面や、縄に縛られながらも大膳に引き裂かれた夫・直信(尾上菊之助)を必死に見つめてあふれる想いを表すシーンなど、観る者をグイグイと引き込んでゆく。桜の花びらを爪先でかき集め、ついに奇跡を起こす“爪先鼠”の場面では、観客から思わず拍手が沸き起こった。昼の部は他に、松本幸四郎が緩急自在に魅せる『土蜘』や、加藤清正(松本白鸚)と豊臣秀頼(市川染五郎)のやりとりが、実際に祖父と孫である演者の関係性を思わせて味わい深い『二條城の清正』。夜の部は、中村又五郎、歌昇、種之助親子の『車引』、菊之助と丑之助が親子で初めて挑む『連獅子』。幸四郎と中村雀右衛門の世話物で泣かせる『一本刀土俵入』まで、見応え充分の九月となった。取材・文:藤野さくら
2023年09月14日二世中村吉右衛門の三回忌追善と銘打って開催中の歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」。甥の松本幸四郎と幸四郎の長男の市川染五郎が吉右衛門を偲び、ゆかりの狂言、ゆかりの役々に挑む。中でも長谷川伸の傑作『一本刀土俵入』では幸四郎が初役で駒形茂兵衛を、染五郎も初役で掘下根吉を勤め、親子で真っ向から対峙する場面も。また『二條城の清正』では染五郎が再び豊臣秀頼を勤める。まっすぐな気持ちのまま渡世人になってしまった茂兵衛と、彼に憧れを抱く根吉。――二世中村吉右衛門さんの当り役のひとつ、『一本刀土俵入』の駒形茂兵衛は初役ですね。相撲取りの茂兵衛は酌婦のお蔦に救ってもらった恩を忘れずにいて、10年後、今度は渡世人となってお蔦の前に現れることになります。幸四郎茂兵衛は初めは、自分も立派な相撲取りに、横綱になりたい、一生懸命やればなれるんだというまっすぐな気持ちを持っていたと思うんです。その純朴なところは後に渡世人になってからも変わっていない。船頭たちや船大工とやり取りする場面で、掘下根吉たちに突然襲われたときにも「船頭さん、大工さんたちがお仕事なさってる。邪魔になるから向こうにいけ」と。そういう場面が設けられている意味があるわけです。見かけは変わってしまったけれど、人として変わっていないところがあるんですよね。第一お蔦を10年ずっと忘れずにいるなんてありえないことですよ。たいていの人は忘れるものじゃないですか。そして茂兵衛をはじめ、このお芝居に出てくる人たちは、皆普通の、決して歴史に名を残したりするような人ではないんです。長谷川伸の傑作で、あらゆる方々が演じ続けて今に至る、その作品の主人公ですから、どうしてもヒーローや特別な人間と思いがちですがそうではない。そこが大事だと思いますし難しいなとも感じます。いわゆる決め台詞、名台詞だとは思わせずに、茂兵衛という男の人生をお客様の心に残せるよう勤められればと思います。上演中の歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」夜の部『一本刀土俵入』より、前半の一文無しの取的の駒形茂兵衛=松本幸四郎提供:松竹(株)後半、渡世人となった駒形茂兵衛=松本幸四郎提供:松竹(株)――その茂兵衛の人となりが、波一里儀十の子分の掘下根吉たちに襲われたときに垣間見えます。その根吉を初役で勤められるのが染五郎さん。染五郎渡世人の下っ端で大きな人物でも何でもない男ですが、役としてはいわゆるおいしい役と言いますか。みんなが引っ込んだ後もひとり舞台に残って、ちょっとカッコつけて引っ込むんです。あえて存分にカッコつけてやりたいし、それがこの役の魅力かなと。――この根吉、幸四郎さんもこれまでに二度勤めていらっしゃいます(平成8[1996]年4月御園座、平成20[2008]年5月新橋演舞場)。幸四郎世話物とはまた違って長谷川伸のものですから、台詞の言い方もお芝居も極まりきまりに見えてはいけないですし、生活感がなければいけない。そして染五郎も言いましたが、カッコつけている人を演じるわけです。カッコいい人を見ると「あんなふうになりてえ」と一日中考えている人なんでしょうね。初めてやったときは「ああしてみようこうしてみよう」と、結構はまりましたね。そして茂兵衛に「次第によっちゃ勘弁ならねえ!」「俺たちブ職同士のことだからなあ。ええ?そうでござんしょう。そうだろうが!」と言われると、毎日ビクッとしていました。叔父(二世吉右衛門)の茂兵衛も、父(松本白鸚)の茂兵衛も怖かったです。そして根吉の場合は怖がっていいんです、カッコつけてるけど。茂兵衛が去ってから「てえした男だなあ」ってつい口に出してしまうのも根吉。カッコつけてるくせにね。そんなところに若さが出てしまうんです。『一本刀土俵入』より、左から)堀下根吉=市川染五郎、駒形茂兵衛=松本幸四郎提供:松竹(株)染五郎僕も、渡世人っぽい口調や言い回しなど自然に見えるように、ふだんから言い慣れている感じに見えたらいいなと思います。それと僕は元がすごい色白なので、顔色をもう少し濃くしたくて日焼けさせてみました。焼きすぎてはいけないのですが。幸四郎『一本刀』に初めて出していただき、かつ根吉という大きな役をいただいたので頑張ってほしいし、「じゃあ染五郎であの役も見たいね」と思っていただけるよう、歴代の根吉で最高のものを目指してね。染五郎はい。お客様としては親子であることを役に重ねてみてくださることもあると思うんですが、やる側としてはあくまでも根吉として茂兵衛に向かっていく、根吉としてそこに存在することだけ考えてやろうと思います。『一本刀土俵入』より、堀下根吉=市川染五郎提供:松竹(株)――親子共演が続いていますね。幸四郎七月は『吉原狐』(大阪松竹座)で刀を抜かれるし、八月は『新門辰五郎』(歌舞伎座)で匿ってやっているのに反抗されるし、今月は匕首(あいくち)を持って刺しに来るからね(笑)。「なんてやつだ」という。ちょっと殺気立った関係性ばかりです。染五郎そうですね(笑)。『二條城の清正』の豊臣秀頼。絶体絶命の緊張感が解けた後、どう感情を爆発させるか。――染五郎さんはなんと10歳の時に秀頼を勤められました。(平成28[2016]年1月歌舞伎座)染五郎緊張しましたね。子供の頃勤めたお役の中でやはり一番印象に残っています。それまでは子役としての台詞しか言っていなかったので、台詞を言うこと自体がとにかく難しかったという記憶があります。それと当時祖母から、「踊りみたいな歩き方」だと言われて、同じ歌舞伎の中でもお芝居によって歩き方からまるで違うんだと。――今月は「淀川御座船の場」が上演されますが、これの前の「二條城大広間の場」で徳川家康は秀頼のために酒席を開きます。その秀頼を護るために病を押して清正が付き添います。前回は白鸚さんの清正で、家康が(四世市川)左團次さんでしたね。染五郎家康は怖かったですね。二條城の広間では清正以外はその場にいる人全員が敵ですから。その時の台本には祖父(白鸚)や父から教えてもらった台詞や動きがたくさん書き込んでありますので、その台本をしっかりと読み返しています。そして今回は上演されませんが、二條城の広間の空気、緊迫感、それがあった上での御座船であるということを大事に勤めたいと思います。そして清正は秀頼が物心つく前から当たり前のように傍らにいたわけで、その距離感、空気が出せればいいなと思います。昼の部『二條城の清正』左から)加藤清正役の祖父・松本白鸚と共演する、豊臣秀頼役の市川染五郎提供:松竹(株)『二條城の清正』より、豊臣秀頼=市川染五郎提供:松竹(株)幸四郎秀頼を初めて勤めたのは僕も十代のころでした。とにかく凛としていること。これに尽きます。二條城という敵陣に清正とたったふたりで乗り込んで敵に囲まれた状態で、何が起こっても不思議じゃない、それどころか99%ダメだろうという覚悟でやってきています。そんな中でも感情を見せずに凛としている。――初役のときの家康が(十三世片岡)仁左衛門さん、二度めが(五世中村)富十郎さんでした。幸四郎家康は本当の感情は全く見せないですし、外見はいいおじいちゃんの風情ですから。だからこそ怖かったですね。今月のポスターにもなっていますが、御座船の上では秀頼は私服の姿なんです。清正と二人になり大坂城まであと少し。やっと本当の気持ちが言葉になって出てくる。この時の感情をどう爆発させるかが大事になってきます。情報量がはるかに多い時代。取捨選択しながら、もっともっと「大変になってほしい」。――昨年六月に『信康』で染五郎さんは初めて歌舞伎座で主演を勤められました。幸四郎去年そこからスタートして一年たち、やっと二年目に向かっているということだと思います。今も大変だろうと思うけど、もっともっと大変になってください。って言われても困るよね(笑)。染五郎はい(笑)。作品の真ん中に立たせていただくことは大きな経験でしたが、そのことで舞台への思いが何か大きく変わったということは全くないです。どんな役、どんな舞台でも、役を勤めることに対しての心持ちはその前後で変わらないです。そしてどんな役でもそうですが、過去のいろいろな方々の勤めてこられたときのことを調べて、これは使うべき情報、これはそうではない情報などと見極めて、その都度役と向き合っていきたいですね。幸四郎我々の仕事って、出来ないことを「出来ないもん、できるわけないじゃない?」って言ってしまえばそこまでなんです。出来るようにする、知らないことを知る、わかるようにする、まさに一生それの連続。それに今、難しい時代じゃないですか、っていうと年寄りみたいだけど(笑)。以前より今の方が我々を囲む情報量ははるかに多いし得ることも簡単です。だから自分で苦労しなくても分かってしまうことがたくさんある。でも本当に自分自身で掴んで理解しなければ、出来たことにはならないんですよ。大変ではあるけれど、自分で理解して出来るようにする、ずっとその姿勢で向かっていってほしいと思います。というか私自身もまだまだですからね。傑作を傑作として、叔父の当り役を当り役としてお見せするために、ずっともがいていきたいと思います。取材・文:五十川晶子撮影:石阪大輔ぴあアプリ限定!アプリで応募プレゼント★松本幸四郎さん&市川染五郎さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント!【応募方法】1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。こちら(OnelinkのURLを貼り付け) からもダウンロードできます2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」二世中村吉右衛門三回忌追善【昼の部】11:00~一、祇園祭礼信仰記金閣寺二、土蜘三、二條城の清正【夜の部】16:30~一、菅原伝授手習鑑車引二、連獅子三、一本刀土俵入2023年9月2日(土)~9月25日(月)※11日(月)、19日(火)休演会場:東京・歌舞伎座チケット情報公式サイト
2023年09月11日歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」が、9月2日(土) に東京・歌舞伎座で開幕。その初日レポートが到着した。初世中村吉右衛門の俳名を冠し、その功績を讃える「秀山祭」。今年は二世中村吉右衛門三回忌追善公演として、名優を偲ぶ所縁の演目を上演する。昼の部は、『祇園祭礼信仰記 金閣寺(ぎおんさいれいしんこうき きんかくじ)』から。二世吉右衛門は昭和41(1966)年の吉右衛門襲名披露で東吉を勤めたほか、大膳や正清も勤めてきた時代物の傑作。舞台は春爛漫の京都、金閣寺。天下をもくろむ松永大膳(中村歌六)は、将軍の母・慶寿院尼(中村福助)を幽閉、思いを寄せる雪姫(中村米吉)も我が物にしようと画策している。大膳は「国崩し」と呼ばれるスケールの大きな敵役。初役で勤める大膳について「大きさと色気が必要な役」と語る歌六は、ゆるぎない存在感の中に気品も感じるその姿で空間を支配。やがて颯爽とした二枚目の武将・此下東吉(中村勘九郎)が現れると、才知に富んだ振る舞い、すっきりとしたその姿で人々の心を奪う。物語の後半では、降りしきる桜の中、雪姫が花びらを集め足先で鼠を描きある奇跡を起こす、通称“爪先鼠”と呼ばれる場面もみどころ。歌舞伎の「三姫」と呼ばれる代表的なお姫様でもある雪姫を、中村米吉(2~6日、13~18日出演)と中村児太郎(7~12日、20~25日出演)がダブルキャストで勤める。2日の初日は初役となる米吉が可憐な中にも強い信念を感じる雪姫で観客を魅了し、慶寿院尼を勤める福助も元気な姿を見せた。歌舞伎の様々な役柄が登場し、煌びやかな金閣寺や美しい桜の花、セリを使った演出も楽しい豪華絢爛なひと時となった。続いては、新古演劇十種の内『土蜘(つちぐも)』。能舞台を模した松羽目の舞台で演じられる“松羽目物”の大曲のひとつ。二世中村吉右衛門も得意とした叡山の僧智籌実は土蜘の精を、二世吉右衛門の甥である松本幸四郎が初役で勤める。幕が開くとそこは源頼光(中村又五郎)の館。病に伏せる頼光の見舞いの者たちに続き、忽然と現れたのは智籌と名乗る叡山の僧。音もなく登場するその様子は、実は土蜘の精という不気味さや異様さを際立たせる。さらに数珠を用いた“畜生口の見得”に土蜘の精の本性が垣間見えゾクッとする瞬間も。番卒と巫女との滑稽み溢れる間狂言を挟み、土蜘の本性を現してからの後半の立廻りも圧巻で、勢いよく解き放たれる千筋の蜘蛛の糸はまるで糸一本一本までを操っているかのよう。昨年の「秀山祭九月大歌舞伎」が初舞台となった中村歌昇の長男・中村種太郎、次男・中村秀乃介も出演し、観客も播磨屋の若き俳優たちを笑顔で見守る。「叔父の『土蜘』にすごく憧れていた。怪しさというか、土蜘の精の匂いや色が痛烈に感じられて、怖い分魅力的に感じた。今回は叔父の台本をお借りして、お守り代わりに使わせてもらっています」と公演に先駆け行われた取材会で語った幸四郎は、静けさの中に内から漂う妖しさをまとった智籌から迫力溢れる土蜘の精まで気合十分に勤めあげた。昼の部を締めくくるのは『二條城の清正(にじょうじょうのきよまさ)』。“清正役者”とも呼ばれ様々な作品での清正役で好評を得ていた初代中村吉右衛門が、自分のための“清正もの”を、と懇願し書き下ろされたという本作は、昭和8(1933)年に初代吉右衛門の加藤清正で初演された。初代吉右衛門の当り役を集めた「秀山十種」のひとつでもあり、加藤清正の秀吉への忠義を貫く姿、秀吉の子である秀頼との主従を超えた絆が印象的な新歌舞伎の名作だ。今回は豊臣家滅亡をもくろむ徳川家康との二條城での対面を無事に終えた帰途の船上の様子を描く、「淀川御座船の場」を上演。幕が開くと夜の淀川を下る「御座船」に佇む加藤清正(松本白鸚)の姿が。清正の第一声が劇場の空気を震わすと一瞬にして作品世界に引き込まれる。やがて船上には聡明さと気品溢れる豊臣秀頼(市川染五郎)が登場。清正を演じる松本白鸚は、孫・染五郎の秀頼との二度目となる共演について「大きくなってびっくりしています」と驚きを見せ、秀頼の成長を見守る清正の深い愛情、清正を“爺”と慕う秀頼の様子が、祖父と孫の共演となる白鸚と染五郎の姿にも重なる場面に、観客からはすすり泣く声も。清正の「今宵ばかりは命惜しうなった」と吐露するセリフがより一層心を打つ。白鸚は、芝居の間中一度も引っ込むことなく、終始熱のこもったセリフを披露し、客席からは鳴りやまない大きな拍手が送られた。親子初共演にも注目の夜の部三演目夜の部は、歌舞伎の様式美を凝縮した『菅原伝授手習鑑 車引(すがわらでんじゅてならいかがみ くるまびき)』で幕を開ける。歌舞伎三大名作のひとつである『菅原伝授手習鑑』の三段目にあたる本作。それぞれ異なる主人に奉公する三つ子の兄弟、松王丸、梅王丸、桜丸の三人は主人たちの対立により、今は敵味方に。今回は中村又五郎の松王丸、中村歌昇の梅王丸、中村種之助の桜丸と、親子三人で初めて三兄弟を勤める。幕が開くと、都にある吉田神社の近く。梅王丸と桜丸は主人の無念を晴らそうと、敵である時平が乗る牛車の行く手を阻むと松王丸が止めに入るが……。今回演じる松王丸を、初演時に二世吉右衛門から稽古を受けたと話す又五郎は、「梅王と桜丸を押さえつける大きさがある」と語った通り、松王丸の大きさを見せる。歌昇の梅王丸の勇壮な荒事の演技と、種之助の桜丸の和事味ある柔らかな演技の対比も面白く、藤原時平を勤める中村歌六もどっしりとした姿で作品に奥行きを加える。梅王丸の豪快な飛び六方、三兄弟が揃って見せる錦絵から飛び出してきたかのような様々な見得など、歌舞伎の醍醐味を凝縮したかのようなひと時となった。夜の部ふたつ目の演目は『連獅子(れんじし)』。獅子の親子の厳しくも温かい情愛が描かれる、能の「石橋」をもとにした長唄の舞踊だ。今回は、尾上菊之助が狂言師右近後に親獅子の精を、尾上丑之助が初役で狂言師左近後に仔獅子の精を勤め、菊之助と丑之助の親子による、初めての『連獅子』の上演となる。文殊菩薩が住むという霊地清涼山。その麓の石橋に、菊之助勤める狂言師右近と、丑之助勤める狂言師左近が手獅子を携えて現れる。親獅子が仔獅子を谷底へと蹴落とし、自力で這い上がってきた子だけを育てるという故事を丁寧な踊りで表現する様子に、観客は目が釘付けに。仔獅子を思う親心、親獅子を慕う仔獅子の健気さが菊之助、丑之助親子の姿と重なる。ユーモラスな間狂言を挟み、獅子の親子が花道に現れると、勇壮な毛振りを見せていく。公演に向けて「ふたりで全身全霊で勤めたい。作品の魅力に私たち親子がどこまで迫れるか、岳父(二世中村吉右衛門)に捧げつつ、お客様にも届くように」と話した菊之助。その真摯な思いを感じる舞台に、客席から熱い視線が注がれる。親子のひたむきな姿を食い入るように見つめる客席からは、ふたりを応援するかのような割れんばかりの大きな拍手が巻き起こった。続いて、横綱を夢見た男の一途な恩義を描く『一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)』。今回の上演では二世吉右衛門が当り役とした駒形茂兵衛を松本幸四郎が勤める。公演に先駆けた取材会では「叔父の茂兵衛は、純粋で、純朴。普通の人しか出てこないお芝居だからこそ、心に響く言葉や、行動があると思う」と、二世吉右衛門の茂兵衛を振り返りつつ、今回の公演への意気込みを語った幸四郎。これまで二世吉右衛門の茂兵衛と共演してきたお蔦役の中村雀右衛門も「相手役を勤めさせていただいたお芝居では、常にお顔が思い浮かびます」と懐かしむ。幕が開くと舞台は取手の旅籠安孫子屋の前。相撲取りの駒形茂兵衛(松本幸四郎)は、通りがかりに喧嘩を収める。その様子を宿の二階から見ていた酌婦のお蔦(中村雀右衛門)は一文無しの茂兵衛に櫛、かんざしに有り金すべてを与え、立派な横綱になるよう励ます。茂兵衛とお蔦のどこか悲しい身の上も感じさせる一つひとつのセリフが静かに響く、叙情的な場面です。やがて茂兵衛はお蔦に何度も礼を言いながら立ち去っていく。それから10年後――。娘と侘しく暮らすお蔦のもとに今は渡世人となった茂兵衛が現れ、物語は展開していく。前半とは打って変わった姿で登場する茂兵衛だが、その根底に流れる人間性が変わらないことが振る舞い一つひとつから感じ取れる。お蔦が茂兵衛を思い出す件で、ドラマは最高潮に。お蔦たちを見送る茂兵衛の幕切れの哀愁漂う長セリフが見る者の心に深い余韻を残し、劇場はさわやかな感動に包まれた。上演にあたり、二世吉右衛門の実兄である松本白鸚は「たったひとりの弟なので、是非出演させていただきたいと思いました。今でも、口三味線で『野崎村』や久松の送りの駕籠舁の真似や、『盛綱陣屋』の首実検の真似をして、ふたりで遊んだ子供の頃をよく思い出します」と二世中村吉右衛門三回忌追善となる今回の公演への想いを語った。 また、劇場1階の大間(ロビー)には二世中村吉右衛門三回忌追善の祭壇が飾られ、2階にはこれまでに「秀山祭」で二世吉右衛門が勤めた思い出の舞台の特別ポスターも展示。懐かしそうに祭壇に手を合わせる様子や、じっくりとポスターを見つめる観客の姿も見られた。「秀山祭九月大歌舞伎」は9月25日(月) まで歌舞伎座で上演される。<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」二世中村吉右衛門三回忌追善【昼の部】11:00~一、祇園祭礼信仰記金閣寺二、土蜘三、二條城の清正【夜の部】16:30~一、菅原伝授手習鑑車引二、連獅子三、一本刀土俵入2023年9月2日(土)~9月25日(月) ※11日(月)、19日(火)休演会場:東京・歌舞伎座公式サイト※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2023年09月06日初世吉右衛門ゆかりの演目を上演する「秀山祭」。今年の歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」は、二世中村吉右衛門の三回忌追善と銘打って開催される。甥である松本幸四郎は、「秀山祭は叔父が大事にしてきた興行でした。その興行ができること、そして叔父の三回忌の追善をさせていただけることがまずありがたいです」と語る。幸四郎が勤めるのは『土蜘』の叡山の僧智籌実は土蜘の精と、『一本刀土俵入』の駒形茂兵衛。いずれも二世吉右衛門の当り役だ。「叔父の『土蜘』に憧れていました。叔父に習いたい役の上位にあったものですが私の力不足で直接教えていただく機会がありませんでした。また『一本刀』は長谷川伸の最高傑作のひとつ。叔父も何度も勤めております。この叔父の当り役だったふたつの役を私の身体を通してみなさんに知っていただく。それを目標に勤めたいと思っています」と意気込みを語る。『土蜘』は長唄の舞踊劇で「新古演劇十種」のひとつ。病床に伏せる源頼光の館へ叡山の智籌と名乗る僧が姿を現す。本性を顕した智籌が千筋の糸を繰り出す立廻りも見どころだ。この、智籌実は土蜘の精を、幸四郎は初役で勤める。2023年9月歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」『土蜘』特別ポスター「叔父の智籌は、妖しさ、色合い、匂いを強烈に感じられる、怖い、そして魅力的な智籌でした。50年以上前の叔父が勤めた時の映像を参考にしつつ、型や気持ちなど事細かく書き込まれている叔父の台本をお借りしましたので、十二分に役立てて、またある意味お守りにして、魅力的な智籌を作りたいです。花柳(壽輔)さんにお稽古していただきますが、(尾上)菊之助君にも見ていただきながら自分でも勉強して、叔父の当り役を形にして初日を迎えたいと思います」前半の智籌は真っ暗な花道を音も立てずに忽然と現れる。「やはり出でしょう。役者は出た時にどれだけ注目してもらうかが大事なものでもあるかと思いますが、この役は真逆ですからね。明かりも入らない。またところどころ土蜘の精らしい、人間ではない動きがあります。土蜘の精になってからは、あの千筋の糸は自分の武器ですから、自分の一部に見えるような動き方を大事にしたいと思います。この『土蜘』は松羽目物の中でも、かなり能の方へ寄っているものだと思います。『道成寺』とは全く違うアプローチですね。空間の間合い、静の時間をどうやって埋めていくか。後ジテも派手に見えますが決して発散しているわけではない。前と後で変化するその根底にある陰の表現、そこを魅力的にお見せしたい」もう一役『一本刀土俵入』の茂兵衛は一文無しで腹を空かせた取的。取手の旅籠でひょんなことから酌婦のお蔦と出会う。その十年後、茂兵衛は角力ではなく渡世人となって再びお蔦の前に現れる。「純粋というか純朴というか、そんな言葉では表わせない人物です。腹をすかせていた取的が立派な人間になって再会するというのならよくあるストーリーなんですが、そうではないというのがこのお芝居の面白いところであり人間らしいところ。偉い人がひとりも出てこない、茂兵衛も含めて皆普通の人たちなんですよ」染五郎時代には掘下根吉として、渡世人となった茂兵衛(二世吉右衛門)と対峙した。「叔父の茂兵衛は大きさがありました。同時に、扮装はまさに渡世人ですが、ただカッコよくなった、と言うだけではない。本当は立派な角力とりになりたかった、という気持ちをどこか引きずっている人なんです。それが叔父によってち密に構成されているように感じました」前半と後半で茂兵衛の外見も境遇も大きく変わるが、「人としての根っこの部分は変わっていないんでしょうね」と語る。「歌舞伎では前と後とでの変わり方が大事ですが、茂兵衛は本当に全くの渡世人になったわけではないと思うのです。全然違う人物になってしまっているのなら、かかってくる相手に頭突きで向かっていかないはず。もともと茂兵衛が持っている素直さ、無意識の誠実な部分がとっさに出たのだと。また茂兵衛があまりに立派に見え過ぎると、取手の、ではなくて江戸の本物の渡世人に見えてしまう。そうではないからこそ面白い世界観を持ったお芝居だと思うんですよね」。そしてこう加える。「なりきる、ということが大事かなと。お蔦との会話で、自分の母は死んだが、お蔦の母は生きているときいて、”姐さんのおっかさんは生きてるんだ、じゃあわしより少しましだ”という意味の台詞があります。これは、冗談を言っているようにもとれる台詞ですが、茂兵衛は本当にそう思っているんですよ。実際にそういう男がここにいると感じていただけるような、茂兵衛をお見せしたいです」時代物世話物、歌舞伎の古典の狂言が並ぶ秀山祭。「手本があり、その方のその役に憧れる、そして教えていただく。そこから始まるのが古典だと私は思っています。新作と違うのはそこですよね。この二役を私でと最初に聞いたときはとても驚きましたが、叔父がどれだけすごい人だったのかを皆様に知っていただきたい。これが私の大きな役目、人生最大のハードルだと思って挑みます」取材・文:五十川晶子<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」二世中村吉右衛門三回忌追善【昼の部】11:00~一、祇園祭礼信仰記金閣寺二、土蜘三、二條城の清正【夜の部】16:30~一、菅原伝授手習鑑車引二、連獅子三、一本刀土俵入2023年9月2日(土)~9月25日(月) ※11日(月)、19日(火)休演会場:東京・歌舞伎座チケット情報公式サイト
2023年09月03日9月2日(土) より歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」が、二世中村吉右衛門三回忌追善興行として開催される。昼の部では、『祇園祭礼信仰記 金閣寺』を上演。桜が咲き誇る金閣寺を舞台に描かれた、絢爛豪華な義太夫狂言の傑作で、本公演では歌舞伎の「三姫」と呼ばれる女方の大役・雪姫を、中村米吉と中村児太郎がダブルキャストで勤める。米吉が雪姫を勤めるのは今回が初めてとなり、公演に向けてスチール撮影を実施。撮影現場では、拵えを終えた米吉がカメラの前に立つと周りがぱっと華やぎ、雪姫が縄に縛られる姿や、桜の花びらを集めて爪先で鼠を描く姿など、ひとつひとつの仕草を丁寧に披露した。公開されたスチールには、雪姫の健気さと哀愁、そして芯の強さがしっかりと写し出されており、舞台への期待が高まる写真となっている。また、7月に重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けた中村歌六が松永大膳を勤め、米吉の雪姫との親子共演にも注目が集まる。■中村米吉 コメント【『金閣寺』雪姫のスチール撮影を行っての感想】以前、ラスベガス公演で雪姫をオマージュしたお役を勤めました。その際、映像とのコラボレーションの為に事前収録があり、雪姫と全く同じ拵えをして爪先鼠のくだりをブルーバックで長時間かけて撮影したのですが、その時と今日の撮影が同じ場所。数年が経ち、まさか本物の雪姫の写真を撮り、勤めることができるとはその時は思ってもいないことでした。印象的な型の数々を写真に収めていただく中で、レンズ越しの自分の姿を見て修正もできる、ある意味では稽古の一つのようなありがたい撮影となりました。【「秀山祭九月大歌舞伎」への意気込み】播磨屋の家にとり、何よりも大切な興行である秀山祭。今年も開催できることがとても嬉しく、ありがたい気持ちでいっぱいです。また、吉右衛門のおじさまの三回忌追善興行ですから、一門の一人としておじさまに顔向けができるような、少しでも良い舞台を勤めたいと思っています。勤めるお役は女方の頂にある三姫の一つ雪姫。数多くの先輩方が勤めたこの大きな山に挑むには生半可な気持ちではいけないと思っております。全身全霊で勤めたいと思っておりますので何卒よろしくお願いいたします。<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「秀山九月大歌舞伎」『祇園祭礼信仰記 金閣寺』9月2日(土) 初日~25日(月) 千穐楽
2023年08月29日歌舞伎座新開場十周年「『秀山祭九月大歌舞伎』二世 中村吉右衛門三回忌追善」が、9月2日から25日まで東京・歌舞伎座で上演される。2021年に逝去した中村吉右衛門の三回忌追善として行われ、数々の当り役を持ち、多くの人々を魅了してきた歌舞伎界屈指の名立役をゆかりの演目、出演者で偲ぶ。夜の部では、歌舞伎三大名作のひとつ、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』より、原作の三段目にあたる『車引』が上演されることになり、中村又五郎、歌昇、種之助が出演する。松王丸、梅王丸、桜丸という三つ子の兄弟の争いを描き、歌舞伎の様式美を凝縮した華やかな演目。又五郎の松王丸、歌昇の梅王丸、種之助の桜丸という配役で、豪快な荒事の魅力を披露する。『菅原伝授手習鑑 車引』平成30(2018)年7月大阪松竹座公演より、松王丸=中村又五郎(c)松竹『菅原伝授手習鑑車引』平成26(2014)年4月金丸座より、梅王丸=中村歌昇(c)松竹『菅原伝授手習鑑車引』2023年「秀山祭九月大歌舞伎」オフィシャルビジュアルより、桜丸=中村種之助(c)松竹又五郎、歌昇、種之助の親子3人で『車引』の三兄弟を勤めるのは、今回が初めて。このたび、都内で行われた取材会に顔を揃え、それぞれの意気込みを語るとともに、在りし日の吉右衛門の思い出話も披露した。「古典中の古典ですし、播磨屋の一員として、お兄さんにお稽古で教えていただいた“核の部分”をしっかり噛みしめながら、舞台に挑めたら」。そう語る又五郎は、「大きなお役を、ここにいる3人で勤められるのは、なかなかない機会で親としてはとてもうれしいこと。子どもたちは嫌だと言うかもしれませんが(笑)」と親子共演に喜びを示し、演じる松王丸については「梅王丸、桜丸を痛めつけるのではなく、体から出てくるパワーで抑えつける感じが出せれば」と語った。梅王丸を勤める歌昇は「播磨屋として、おじさまの舞台に対する姿勢を近くで見てきました。教えていただいたことをしっかりと継承し、おじさまに近づけるように精進することで恩返ししたい。親子3人での共演もうれしいですし、梅王丸は金丸座以来、だいぶ時間が経っているので、成長した姿をお見せしなければ」と決意表明。桜丸を勤める種之助は初役となり、「(尾上)菊之助のお兄さんに教えていただきます。教えをしっかりと自分のものにして、歌舞伎座という舞台に見合う桜丸を目指していければと思います」とこちらも闘志を燃やした。吉右衛門との思い出を問われると、又五郎は「スパルタという意味ではなく、『あそこはこう』とお厳しい指導をいただいた。こちらが進歩をすれば、『そうだ、あれでいいんだよ』と褒めてくださった」としみじみ。「お言葉すべてが財産。舞台に対する姿勢の厳しさは常々でしたが、映画を観たり、絵画を鑑賞したり、そういった体験や経験が自分の豊かさにつながるとも教えていただいた」(歌昇)、「とにかく死ぬ気でやれと言われました。生前には『これからの歌舞伎はどうなるんだろうね』とも。時代が変わり、お客様の求めるものも変わるなかで、古典以外に新作や昔の古典の再演など、工夫をこらしているが、それには驚いていると思うし、どんな歌舞伎を望んでいらっしゃったのか分かりませんが、私たちが教わったことを守っていきたい」(種之助)と話していた。<『菅原伝授手習鑑 車引』あらすじ>三つ子の兄弟、松王丸(又五郎)、梅王丸(歌昇)、桜丸(種之助)は、それぞれ藤原時平、菅丞相、斎世親王に奉公しています。主人たちの対立により、今は敵味方となった三人。ある日、梅王丸と桜丸は主人の無念を晴らそうと、敵である時平が乗る牛車の行く手を阻みます。それを止めに入ったのが松王丸。三人が争う内に牛車より時平(中村歌六)が現れ……。取材・文:内田涼<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」二世中村吉右衛門三回忌追善【昼の部】11:00~一、祇園祭礼信仰記金閣寺二、土蜘三、二條城の清正【夜の部】16:30~一、菅原伝授手習鑑車引二、連獅子三、一本刀土俵入取手宿安孫子屋よりお蔦の家 軒の山桜まで2023年9月2日(土)~9月25日(月) ※11日(月)、19日(火) 休演会場:東京:歌舞伎座
2023年08月22日歌舞伎界にまたも激震が走った。5代目・尾上菊之助(45)に不倫疑惑が報じられたのだ。この報道に、’21年に亡くなった義父で人間国宝の二代目中村吉右衛門さん(享年77)は何を思うのか――。7月26日、「文春オンライン」で報じられた菊之助の不倫報道。記事によると、菊之助は7月21日の午前1時から朝8時半まで、妻とは異なる女性と高級ホテルに滞在。「週刊文春」の取材に対し、部屋に滞在していたことは認めるも、不倫関係にあることは否定したという。父は人間国宝の七代目・尾上菊五郎(80)で母は女優の富司純子(77)、姉は女優の寺島しのぶ(50)という芸能一家に生まれ育った菊之助。’13年に吉右衛門さんの娘・瓔子さんと結婚した。吉右衛門さんは二人の結婚について会見で「梨園に嫁がせようとか思ってなかった。一般の家庭でもらってくれるかなあ……って思っていたから」と語るなど、菊之助と瓔子さんの結婚は意外なものだったことを明かしている。それまでは共演することがほとんどなかったという菊之助と吉右衛門さん。しかし結婚後は吉右衛門さんの「秀山祭九月大歌舞伎」に菊之助さんが出演するようになるなど、関係は次第に濃厚なものとなっていった。’19年の秀山祭では『寺子屋』で、菊之助は義父・吉右衛門さん演じる松王丸の妻役を演じることに。同部隊では、5歳になった息子の丑之助も菅秀才として出演している。当時、菊之助は「毎年、岳父のそばに出させていただき、一つ一つご指導いただいて、財産をいただいている気持ち」と、義父と共演する喜びや学びの多さを語っていた。吉右衛門さんにとっても、娘婿、そして孫との共演はこのうえない喜びだった。《孫が出て、義理の倅と一緒にやるというのは、その芝居をする情のうえにおいてやりやすいことは確かですね。(略)伝統というものがあるからこそ、誰それの倅で何代目だとかっていう、そういう目を通して芝居をご覧くださる。それも伝統歌舞伎のひとつの面白さじゃないかなと思います》(『演劇界』’20年10月号)「吉右衛門さんは、菊之助さんに『僕にわかることだったら、全部、教えるよ』と、共演を通してたくさんのことを教えてくれたそうです。菊之助さんが稽古をお願いすると丁寧につきあってくれて、台詞の言い回しなど、できるようになるまで何度も何度も聞いてくれるのだとか。吉右衛門さんには跡取りとなる息子がいませんでした。熱心な指導には、娘婿の菊之助さんに、初代・吉右衛門の芸を受け継がせたいという思いもあったのではないでしょうか。菊之助さんも吉右衛門さんのことをとても尊敬していて、それは単なる娘婿と義父の関係を超えたものでした」(歌舞伎関係者)‘21年11月に吉右衛門さんが亡くなった際には、菊之助は会見で同年3月のやりとりを振り返り「倒れる2日前だったのできっとつらかったと思う。ご自分のことより肘を折って手術した私のことを心配してくださって『あと千秋楽まで2日だから頑張るぞ』って強い言葉をかけてもらった。尊敬する、とても優しい父でした…すみません」と号泣。「初代吉右衛門さんの芸を守り、全身全霊をかけて芝居に打ち込まれた。そして、先人たちの教えを守って、血と汗と涙の結晶をさらに良いものにして歌舞伎を進化させてくださった」と吉右衛門さんをたたえ、「その思いを後世に伝えられるようにわれわれも研鑽していきたい」と、自身も歌舞伎界を背負い盛り上げていくことを誓っていた。実の息子のように菊之助をかわいがっていた吉右衛門さん。その大切な娘を裏切る不倫報道は、吉右衛門さんの心をも傷つけることにならないか。歌舞伎界の印象を悪化させることにつながらないか。SNS上では吉右衛門さんの心情をおもんぱかる声が相次いでいる。《吉右衛門さんが亡くなって、タガが外れたのか》《吉右衛門さんの大切なお嬢さん泣かせないで下さい》《吉右衛門さんが泣くよ。どうなってんの歌舞伎界?吉右衛門さんが亡くなってから滅茶苦茶になってしまったな》《亡くなられた叔父吉右衛門は天国でどれだけ悲しまれてるか》
2023年07月28日2023年3月に全国12カ所で行われる『中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2023』のオンライン合同取材会を12月14日(水) に実施。毎年恒例となった巡業への思い、そして各演目の解説、見どころを中村勘九郎、中村七之助が語った。2005年からスタートした〈春暁特別公演〉は、時期によって〈錦秋〉〈新緑〉〈陽春〉と銘打ち回を重ねながら、来春で18回目を迎える。これまでに行った公演を含めて、2022年の春には全国47都道府県を制覇するという偉業も成し遂げた。始まった当初は「こんなに長く続くとは思っていなかった」という勘九郎は、「過去の芸談コーナーで〈継続は力なり〉という話をしたこの巡業ですが、私たちはもちろん、中村屋の弟子たちも含め、みんなの力になっていますし、特別公演をきっかけに、歌舞伎座や中村座、他の劇場に足を運んで下さる新たなお客様が増えたことも、続けてきたおかげだと感じています。コロナがまだ不安定な状況ではありますが、来年も全国を巡業ができることは、本当にありがたいことだと思っております」。七之助は「今回も含めてコロナ禍で巡業を行うこと自体が難しかったり、歌舞伎座や東京、大阪といった大都市に行きづらいという地方のお客様も多いなか、私たちがいろいろな場所へ伺い、歌舞伎を見る機会を作ることできるのが、本当に嬉しいです。中村屋一丸となって、一生懸命良い舞台をみなさまにお見せできたら」と、思いを語る。中村勘九郎今回の『中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2023』は、「トークコーナー」「元禄花見踊」「仲蔵狂乱」「相生獅子」で構成。勘九郎、七之助、鶴松が参加するトークコーナーについて、勘九郎は「全国どこに行っても歌舞伎に縁があったり、史跡があったりするので、地元の方たちとお話できることが和気藹々として楽しいですね。歌舞伎は伝統芸能で、堅苦しくて敷居の高いイメージがあるので、まずはお客様の心の壁を取っ払って演目を見ていただきたいという気持ちがあります。ですので、できるだけ素の部分というか、飾らないことを意識してお話をするように努めています」。七之助は「兄が言った通りで、地元のお客様と出会えることはもちろん、何度か伺った土地には、馴染みの店や必ず行く場所があります。私事ではありますが、私がMCを務めているラジオ番組のInstagramのために、劇場の近くの名所や神社、歌舞伎に縁のある場所に行くようにしてるので、トークの幅は広がったと思います。事前に頂いたお客様の質問を通じていろいろなコミュニケーションが取れるのがいいですね」とコメント。以前のように手を挙げた方と直接話すことは叶わない時期ながら、その土地ならではの話題が飛び出すトークコーナーを楽しみにしている様子だった。中村七之助「元禄花見踊」は春にぴったりの華やかな演目となる。七之助は「トークコーナーを経て〈春暁特別公演〉の歌舞伎、その踊りの一発目なので、何も考えずに綺麗なものを見ていただいて、その歌舞伎の世界観に入っていただこうかなと思うような踊りです。一緒に花見をするような気分でご覧いただければ幸いです」、勘九郎は「元禄期の男と女が華やかに踊るので、まずビジュアルが見どころ。衣装の美しさや当時の頭のかつらのゆい方を、目で楽しんで頂ける演目です」と紹介した。「仲蔵狂乱」の上演は、本興行では昭和35年の歌舞伎座以来。2021年にNHKで放送された「忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段」で中村仲蔵を演じた勘九郎にとっても縁のある演目と言える。出演する勘九郎は「なかなか本興行で出ない珍しい踊りを披露するのも、この特別公演のいい部分。仲蔵さんが出世をしていくサクセスストーリーは、落語や講談でも有名ですが、彼は志賀山流の養子になった踊りの名手です。いまでも〈仲蔵振り〉は受け継がれている、なかなかいない歌舞伎役者の一人でもあります。〈狂乱雲井袖〉という本外題ですが、中村仲蔵さんが出てくるわけではなく、でも仲蔵さんが有名だから仲蔵狂乱という名前が入ってしまうぐらいの狂言なんですね。とてもしっとりとした、私もあまり手掛けたことのないような踊りだと思います。気が狂っていると偽っている役なので、踊りの中でその部分と正常な部分を踊り分けて見せるのが見どころのひとつなのですが、すごい細かいんです(笑)。この難しい踊りを、現代のお客様にどれだけ楽しんで頂けるかが、踊り手の腕の見せ所。久しぶりの演目、そして仲蔵さんという私たちにとっても縁のある人物が演じた役ということで、楽しんでいただければと思います」と意気込んだ。ラストを飾る「相生獅子」は、七之助と鶴松が二人の美しい姫を演じる。七之助は「石橋物のなかでも古い作品で、前半はお姫様が二人出てきて華やかに女心だったり、口説きを見せる、品良く綺麗な格式高い踊りをご覧いただき、最後は獅子になって出てきます。お姫様の恰好で毛を振るという珍しい形の踊りなので、一つの相生獅子という演目のなかで、いろんなバージョンの二人が見れる作品です」と説明。「鶴松と二人でがっつり踊ることもなかなかないんじゃないかと思います」とのことで、そこも見どころとなりそうだ。公演を楽しみにしている方へのメッセージを求められた勘九郎は「コロナという流行り病が出てから早三年、日頃から何かに気を付けなければいけなかったり、これまでと勝手が違ったりするなかで、鬱々とした気分を持たれている方もいらっしゃると思います。本当に短い時間ではございますが、劇場で芝居を見ている間だけは、その気分を忘れて頂けるよう美しい世界に誘いたいですし、一生懸命私たちも切磋琢磨しようと思っています。春爛漫のひとときを楽しんで頂ければ嬉しいです」。七之助は「毎年恒例の巡業が今回もできる喜びを噛みしめながら、私たちの体調面やスタッフもコロナ対策バッチリで、安全安心に見ていただけるよう気を引き締めて参りたいと思います。全国12カ所24公演、一つ一つの公演を一生懸命踊りたいと思っておりますので、ぜひ足をお運びください。よろしくお願いします」と締めくくった。取材・文=長澤香奈撮影=福岡諒祠(株式会社GEKKO)<公演情報>『中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2023』『中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演 2023』ビジュアル【演目】※上演時間約2時間予定1. トークコーナー中村勘九郎/中村七之助/中村鶴松2. 元禄花見踊 長唄囃子連中門弟 一同3. 仲蔵狂乱 長唄囃子連中小野良実(おのよしざね) 中村 勘九郎4. 相生獅子 長唄囃子連中姫 中村七之助姫 中村鶴松【日程・開催地】■2023年3月6日(月) 東京・北とぴあ さくらホール3月9日(木) 千葉・千葉市民会館 大ホール3月10日(金) 埼玉・川口総合文化センター・リリア メインホール3月11日(土) 東京・ティアラこうとう 大ホール3月12日(日) 長野・まつもと市民芸術館 主ホール3月13日(月) 神奈川・相模原女子大学グリーンホール 大ホール3月15日(水) 大阪・サンケイホールブリーゼ3月18日(土) 岩手・盛岡市民文化ホール 大ホール3月19日(日) 宮城・名取市文化会館 大ホール3月21日(火) 福岡・キャナルシティ劇場3月22日(水) 広島・広島文化学園HBGホール3月23日(木) 愛媛・松山市民会館 大ホール公式HP:
2022年12月24日猿若町発祥180年記念『平成中村座 十一月大歌舞伎』が、11月3日に平成中村座(浅草寺境内・仮設劇場)で初日を迎えた。「江戸時代の芝居小屋を現代に復活させ、多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたい」という十八世中村勘三郎の思いから、2000年に誕生した平成中村座。2カ月連続公演のふた月目となる今月の第一部は、『寿曽我対面』『舞妓の花宴』『魚屋宗五郎』の古典作品が並び、江戸の芝居小屋を模した平成中村座でしか味わえない舞台となっている。そして第二部では、先月から引き続き、平成中村座で初となる新作歌舞伎、宮藤官九郎が平成中村座のために書き下ろした『唐茄子屋~不思議国之若旦那』と、華やかな舞踊『乗合船恵方萬歳』が上演される。『平成中村座 十一月大歌舞伎』は11月27日まで。なお新型コロナウイルス感染症の影響により、本日11月4日・5日公演は第一部・第二部ともに中止となっている。■中村勘九郎 コメント10月5日、浅草で4年ぶりとなる平成中村座の幕が開きました。初日の幕が開いたとき、お客様の拍手がすごくて、我々役者やスタッフだけではなく、皆さまも平成中村座を待っていてくださったんだと感じられて、とても幸せな気持ちになりました。連日、大勢のお客様に平成中村座へお越しいただき、小屋も喜んでいるように感じましたし、何より毎日平成中村座で芝居ができて嬉しかったです!そして、おかげさまで無事に千穐楽まで完走できたことに感謝です。稽古を経て、いよいよ、11月公演が始まりました。ふた月連続でご覧いただく『唐茄子屋』は、宮藤官九郎さんが今回の二か月連続公演のために書いてくださった新作、宝物のような作品です。幕が開くまでは、どんな反応なのかドキドキでしたが、大いに笑って楽しんでいただけているようで、本当に嬉しいです!11月にも古典作品が並びます。江戸の芝居小屋を模した平成中村座の空間で、古典の持つ魅力も合わせてご堪能いただきたいと思います。さて、すっかり寒さも増してまいりました。是非、11月は防寒対策をして浅草へ足をお運びください。平成中村座に一歩踏み入れれば、関係者一丸となって、熱い舞台空間をお届けします!皆様のご来場を心よりお待ちしております。<公演情報>猿若町発祥180年記念『平成中村座 十一月大歌舞伎』11月3日(木・祝)~27日(日) 平成中村座猿若町発祥180年記念『平成中村座 十一月大歌舞伎』ビジュアル【演目】■第一部一、寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)出演工藤祐経:中村橋之助曽我五郎:中村福之助曽我十郎:中村歌之助化粧坂少将:中村鶴松小林朝比奈:中村虎之介大磯の虎:坂東新悟鬼王新左衛門:中村勘九郎二、舞妓の花宴(しらびょうしのはなのえん)出演白拍子和歌妙:中村七之助三、新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)出演魚屋宗五郎:中村勘九郎召使おなぎ:坂東新悟磯部主計之助:中村橋之助小奴三吉:中村歌之助菊茶屋娘おしげ:中村鶴松菊茶屋女房おみつ:中村歌女之丞父太兵衛:片岡亀蔵女房おはま:中村扇雀■第二部一、唐茄子屋(とうなすや)不思議国之若旦那作・演出:宮藤官九郎出演若旦那徳三郎:中村勘九郎傾城桜坂/お仲:中村七之助第二太夫/源六倅源助:坂東新悟大工の熊:中村橋之助半公:中村福之助眠 善治郎:中村虎之介若旦那(小):中村勘太郎お仲倅イチ:中村長三郎丹生林/海苔屋のおたね:中村鶴松山崎屋おりき:中村歌女之丞達磨町の八百八/吉原田んぼのあめんぼ:荒川良々番頭小辰/吉原田んぼの蛙ゲゲコ:片岡亀蔵大家源六:坂東彌十郎八百八女房よし/吉原田んぼの蛙ゲコミ:中村扇雀二、乗合船恵方萬歳(のりあいぶねえほうまんざい)出演萬歳:中村扇雀才造:中村勘九郎白酒売:中村七之助大工:中村橋之助若旦那:中村虎之介芸者:中村鶴松角兵衛獅子:中村歌之助角兵衛獅子:中村福之助女船頭:坂東新悟田舎侍:片岡亀蔵通人:坂東彌十郎チケット情報はこちら:※新型コロナウイルス感染症の影響により、11月4日(金)・5日(土) の公演は第一部・第二部ともに中止。最新の情報は公演公式サイトにてご確認ください。
2022年11月04日二世中村吉右衛門一周忌追善として、今月歌舞伎座では秀山祭九月大歌舞伎が上演されている。その第二部の一幕目は秀山十種の内『松浦の太鼓』。吉右衛門の当り役のひとつが松浦の殿様、松浦鎮信だった。今回は兄の松本白鸚が弟(二世中村吉右衛門)を偲んで八十歳にして初役で勤めると知り、その心意気に胸打たれる思いだ。赤穂浪士のひとりが登場する忠臣蔵スピンオフだ。浅野内匠頭が江戸城内で吉良上野介に斬りかかったその翌年、元禄15年の暮れ。しんしんと雪の降る中、俳人の宝井其角が下駄の歯の雪を落としつつ歩いていると、両国橋のたもとで思いがけない人物に出会う。煤払いの笹売りに身をやつしているが赤穂浪士のひとり、大高源吾にほかならない。子葉という俳名も持つ其角の弟子のひとりだ。その身過ぎ世過ぎを語り、主の敵討ちについてはすっぱり思いきったという源吾。其角がその煤けた姿に同情し松浦侯から拝領した黒紋付の羽織を貸すと、源吾が綴れの着物の上にありがたく羽織る。その瞬間、浅野家家臣のころの姿が立ち上るようでハッとする。別れ際、其角が「年の瀬や水の流れと人の身は」と句を詠むと、源吾は「明日待たるるその宝船」と付けて花道を引っ込んでいく。何やら意味ありげな、という気持ちを残したまま、舞台は翌日の松浦侯の屋敷へ。この一面雪の舞台を眺めていると、「雪の日や雪のせりふを口づさむ」という、何とも役者らしい初世中村吉右衛門が遺した一句も思い出す。『松浦の太鼓』より、左から)お縫=中村米吉、早瀬近吾=松本錦吾、宝井其角=中村歌六、里見幾之亟=市川染五郎、渕部市右衛門=大谷廣太郎、江川文太夫=市川高麗蔵、鵜飼左司馬=大谷友右衛門、松浦鎮信=松本白鸚松浦侯は今日も和やかに其角を招き連歌の会を開いている。近習たちも声をそろえて殿様の句を称え、微笑ましい雰囲気だ。本所にあるこの松浦邸、実は吉良上野介の屋敷のお隣なのだ。若々しく美しい腰元のお縫が入って来て茶を点て始めるが、なぜか松浦侯のご機嫌がみるみる悪くなる。お縫は源吾の妹。お縫を見るたびに源吾を、そしていつまでたっても敵討ちをしようとしない大石内蔵助らを思い出してイライラしている松浦侯。赤穂浪士に同情し、隣の屋敷への討入を今か今かと楽しみにしているのだ。ところが其角が源吾の残した句のことを口にすると、松浦侯の態度が次第に変わっていく。そして「宝船」とは討入のことだとさとり、一転上機嫌に。うふふ、ははは、と朗らかな笑い声が舞台いっぱいに響き渡る。折しも響く陣太鼓。ドンドンドンドンドンドン・・・松浦侯がその太鼓の拍子を数えるとなじみのある山鹿流。これは大石たちが隣家にたった今討入ったのだと気づく。舞台換わって松浦侯屋敷の玄関先。松浦侯は「助太刀いたす!」と火事装束を身に着け馬に乗っている。ほんとにうれしくて仕方ないのだろう。殿様なのに、もはや駄々をこねているかわいい童にすら見えてくる。『松浦の太鼓』より、前方左から)お縫=中村米吉、大高源吾=中村梅玉、宝井其角=中村歌六、松浦鎮信=松本白鸚 / 後方左より)早瀬近吾=松本錦吾、渕部市右衛門=大谷廣太郎、江川文太夫=市川高麗蔵、鵜飼左司馬=大谷友右衛門そこへ討入姿の源吾が、無事討入を果たしたとの報告にやってくる。先日の尾羽打ち枯らした姿とは打って変わり晴れやかな姿だ。源吾はことの次第を朗々と語って聞かせるが、天下の御定法を破ったことは確かなので討入った者たちは大石一同切腹するという。辞世の句を述べる源吾に、「風流はここじゃのう」と感激を隠さない松浦侯。白鸚の松浦侯は品格高くちょっとお茶目で、誰もが愛さずにはいられない殿様だ。その拵えのまま口上となり、白鸚、中村歌六、中村梅玉の順に、吉右衛門の思い出、播磨屋の芸への思い、秀山祭のゆかりについて述べた。白鸚の、「兄として弟を誇りに思っている」との言葉に満場の拍手が送られた。『松浦の太鼓』追善口上より、左から)中村米吉、松本錦吾、中村梅玉、市川染五郎、中村歌六、大谷廣太郎、松本白鸚、市川高麗蔵、大谷友右衛門二幕目は『揚羽蝶繍姿』。播磨屋の得意とした役の数々、狂言の数々を、「吹き寄せ」形式でスピーディに綴る一幕だ。チョンパで一気に目のくらむほど華やかな吉原仲の町が現れる。『籠釣瓶花街酔醒』の佐野次郎左衛門は、花魁道中に初めて出くわし、兵庫屋八ツ橋の美しさに魂を持っていかれる。この場に別の狂言『沼津』の呉服屋十兵衛が、恋人の吾妻を尋ねてきたと通りかかるなんて、歌舞伎ファンにはうれしい場面だ。『揚羽蝶刺繡』より、左から)下男治六=中村吉之丞、佐野次郎左衛門=松本幸四郎、兵庫屋八ツ橋=中村福助、番頭新造八重咲=中村梅花場面換わって所は品川、『鈴ヶ森』。雲助たちをなぎ倒す妖しい美少年白井権八に、駕籠で通りかかった幡随院長兵衛。「お若えのお待ちなさいやし」と声をかけ、五代目松本幸四郎から始まる長兵衛ゆかりの役者たちを偲ぶ台詞となる。そこに二代目の播磨屋の名が加わっていることにハッとさせられる。そして幕切れの長兵衛の「ゆるりと江戸であいやしょう」の台詞には思わずドキリ。頭に浮かんだのは、満足に深呼吸することもままならない今の東京の雑踏。しかしそんな雑念も、浅葱幕が振り落とされた途端に消えていってくれた。『揚羽蝶繍姿』より、左から)相模=大谷廣松、熊谷次郎直実=松本幸四郎、藤の方=中村莟玉ここで舞台は世話から時代に替わり、『熊谷陣屋』の場。熊谷直実は藤の方と妻の相模に平敦盛の最期を物語る。その屋台ごと奥へ引っ込んだかと思うと今度は播磨潟の松原が現れる。佐々木盛綱が手にした平家の旗を、平知盛、奴智恵内、一條大蔵卿、典侍の局が奪い合おうとだんまり模様に。源平合戦を彩る歌舞伎の人気者たちが一堂に会するなんて! テンションは上がりっぱなしだ。また典侍の局を常磐御前に見立てて、大蔵卿が十二単の袖をひらりと仰ぐのも洒落ている。盛綱が旗を投げ拡げ、大蔵卿はぶっかえって五人揃って大団円に。ここで晴れやかに幕…かと思いきや、さらに心揺さぶられる場面が待っていた。ここはぜひ劇場で確認してほしい。松本幸四郎をはじめ、播磨屋の芸に挑む役者一人ひとりの息遣いに、しこなし(立ち居振る舞い)に、吉右衛門の面影を幾度も見つけた。そのたびに涙腺崩壊、マスクの中が大変なことになってしまった。彼らがそれらの役々を本役として勤める日はそう遠くはないはず。その日を楽しみに待ちたい。取材・文:五十川晶子写真提供:松竹(株)
2022年09月13日次世代の歌舞伎俳優たちが更なる活躍ができるよう、未来へ繋ぐ新しい挑戦として企画された「いぶき、特別公演」。2021年6月の京都・南座での初めての公演では、中村児太郎、市川九團次、大谷廣松らによって、『妹背山婦女庭訓』『乗合船恵方万歳』の二つの演目が上演された。好評につき、第二回が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響に鑑み、残念ながら全公演が中止となった。しかし、コロナ禍ではあるが、その土地の多くの若い世代にも歌舞伎の魅力を繋いでいこうという考えから仕切り直しと言える、次回の公演が東京・観世能楽堂、神奈川・横浜能楽堂ほか各地で開催される。今作の出演者は、第一回にも出演した中村児太郎と、初参加となる中村隼人である。そして、中村隼人と中村児太郎が上演演目『二人椀久』の椀屋久兵衛と遊女の松山太夫にそれぞれ扮した「いぶき、特別公演」の本ビジュアルが解禁となった。今回の本ビジュアルは世界的写真家のレスリー・キー氏が撮影したものである。勇ましく、美しく、儚く、そして何より次世代を担う若い二人の瑞々しさをも感じ取れるような仕上がりが印象的なビジュアルとなった。撮影を担当したレスリー・キー氏より、コメントが到着。写真家レスリー・キーコメント「日本の伝統文化である歌舞伎とコラボレーションできた事は、私の日本での約30年間のフォトグラファー人生の中で、最も特別な出来事のひとつになりました。この企画に参加できた事をとても光栄に思います。これからも海外の地から歌舞伎の世界を全力で応援していきます。観にきて頂いたお客様には、ぜひ私の撮影したビジュアルと共に、この素晴らしい舞台を楽しんでいただきたいです。」演目は『雨の五郎』『藤娘』『二人椀久』の三つ。『雨の五郎』は、春雨の夜、蛇の目の傘を差した曽我五郎が大磯の廓の遊女・化粧坂の少将のもとへ向かう道中を描いたお話。亡き父のために敵討を誓って勇壮さを見せる反面、恋仲である少将からの文を手にした姿からは和事風の柔らかみを感じさせる。『藤娘』は、藤の精が愛らしい娘の姿で現れ、移り気な男心を名所“近江八景”になぞらえて踊り、恋心を艶やかに表現する物語。『二人椀久』は、大阪の豪商・椀屋久兵衛が遊女の松山太夫に入れ上げて放蕩の限りを尽くし、周りの者から座敷牢に閉じ込められてしまう。いつの間にか牢を抜け出し、さまよい歩く久兵衛は松山と再会するが、それは全て幻だったという幻想的な逢瀬が描かれている。趣の異なる三つの演目、そして二人の息の合った舞踊など、お見逃しなく。公演の詳細は公式サイト( )にて。【公演概要】いぶき、特別公演〈演目〉一、『雨の五郎』長唄囃子連中中村隼人二、『藤娘』長唄囃子連中中村児太郎三、『二人椀久』長唄囃子連中中村児太郎中村隼人主な日時・会場:東京公演2022年6月1日(水)観世能楽堂 ①12:00開演②15:00開演横浜公演2022年6月4日(土)横浜能楽堂 ①12:00開演②15:00開演チケット: 一般発売 2022年3月26日(土)10:00〜全席指定7,500円(税込)※未就学児童の入場はご遠慮ください。★レスリー・キー監修公演パンフレット付き★※お一人様に一部ずつパンフレットが付きます。 当日会場にてお渡し致します。その他、上演日程(お問い合わせ先などの詳細はホームページでご確認ください)千葉 6月3日(金)成田市文化芸術センター スカイタウンホール石川6月11日(土)こまつ芸術劇場うらら 大ホール京都6月17日(金)京都・観世会館愛知6月18日(土)名古屋能楽堂大阪6月19日(日)大槻能楽堂郡山6月21日(火)けんしん郡山文化センター中ホール熊本6月25日(土)八千代座福岡6月26日(日)大濠公園能楽堂<ご来場のお客様へ>本公演は新型コロナウイルス感染拡大予防のため、できる限りの対策を講じた上で開催いたします。ご不便をおかけすることもございますが、安全に公演をお楽しみいただくため、ご理解、ご協力のほどよろしくお願いいたします。今後の感染拡大の状況によって緩和される場合がございますので、感染予防対策が変更になる場合がございます。最新情報は公式HP( をご確認ください。制作: 三響会企画 制作協力:全栄企画株式会社 / 株式会社ちあふる 協力:松竹株式会社総合問合せ:Zen-A [ゼンエイ] TEL: 03-3538-2300 (平日11:00~19:00) 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2022年03月25日「京都編が始まって、吉右衛門が初めて登場した日、友人から『朝ドラ、すごい話題になっているね!』とメールが来ていてビックリしました」そううれしそうに笑うのは、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の第3部京都編で、荒物屋「あかにし」の店主・赤螺吉右衛門を演じている堀部圭亮(55)。吉右衛門は、店の壁に「買わぬなら帰らせるのが吉右衛門」という標語を貼るほどのケチな性格から「けちえもん」と呼ばれる個性的なキャラクターだ。堀部は『カムカム』第1部の岡山編では、吉右衛門の父である吉兵衛を演じていた。すなわち、父子の一人二役。吉兵衛もまた、「けちべえ」と呼ばれるケチなところや、息子の溺愛っぷりが印象的なキャラクターだった。物語中で、吉兵衛は空襲に遭い、吉右衛門をかばって命を落とすことに。その後、成長した吉右衛門を演じるのが堀部だと判明すると、たちまちネット上で「吉右衛門」のワードが検索トレンド1位になるほどの大反響となったのだ。「商店街のケチなおじさんが、ここまで注目してもらえるとは。たくさんの人に見てもらえていると実感できてうれしかったですね」父子の二役の演じ分けにあたって、苦労はないのだろうか。「脚本のト書きや台詞が素晴らしいので、流れのままに自然に演じています。岡山ことばで頑固なイメージの吉兵衛に比べ、吉右衛門は母(清子=松原智恵子)と一緒にいるので『お母ちゃん~』と京都ことばで話すし、松原さんの空気もとても柔らかいので、吉右衛門のほうがやや丸い性格かもしれません」こまかい設定が施された登場人物たちや、そこに張り巡らされた伏線が人気を支える『カムカム』。“赤螺家3代の100年”にまつわるトリビアも多いという。「まず、赤螺家の子どもはオカッパ頭が定番ですね。吉右衛門の息子・吉之丞もそう。それから、吉右衛門はシャツのボタンをいちばん上までキチッと留めます。これは、子役さんが演じていた時代の吉右衛門をずっと見ていて、そのまま僕も受け継いでいるんです。また『あかにし』店内には吉右衛門のケチな性格が現れた標語が貼られていますが、標語の字体は、岡山の店にあったものと一緒。僕はすべて母の清子さんが書いているんじゃないかとにらんでいます。赤螺家を締めてるのは、意外と母なんでしょうね(笑)」最終回まで、赤螺家から目が離せない――。
2022年03月03日今年で17年目を迎える中村屋一門恒例の全国巡業公演。歌舞伎俳優の中村勘九郎、中村七之助がリモート会見で見どころを語った。2022年春は『春暁特別公演』に加え、勘太郎、長三郎の子役を交えた『陽春特別公演』の2公演を上演する。生の歌舞伎の楽しさに触れ「元気になってお帰りいただきたい」と声を揃えるふたり。歌舞伎のいろはを解く「歌舞伎塾」や素顔が垣間見られる人気の「トークコーナー」を交えた構成で、演目にも趣向を凝らす。「中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2022」「中村勘九郎 中村七之助 中村勘太郎 中村長三郎 陽春特別公演2022」チケット情報『春暁特別公演』で勘九郎はお家芸「高坏(たかつき)」に出演する。花見の席で大名から高坏を買うよう命じられた次郎冠者(勘九郎)。しかし、それが何か分からず「高坏買いましょう」と声を張り上げて歩き出すと、そこへ高足売が現れて……。下駄でタップという趣向が楽しい軽妙洒脱な舞踊劇だ。「祖父の十七代目中村勘三郎が今の演出、振りにしたもので、中村屋にとっても大切な演目のひとつ。華やかな作品でお花見気分を味わって」と勘九郎が陽気に盛り上げる。七之助が勤めるのは心中物「隅田川千種濡事(すみだがわちぐさのぬれごと)」。四世鶴屋南北作「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」(通称「お染の七役」)の大詰めを長唄の舞踊劇に仕立てたオリジナル演目で、七之助はお染、久松、お光、土手のお六の4役を踊る。「歌舞伎のエンターテインメント性を生でご覧いただける絶好の機会」であると同時に、男女の演じ分けや早替りなど役者、七之助の魅力を存分に堪能できる。続く『陽春特別公演』は勘太郎、長三郎の幼い兄弟が清元で踊る「玉兎」で幕が開く。息子の成長を見守る勘九郎は「何より芝居好きなのが嬉しい」と目を細める。ふたりともすでに踊りは入っているが、「今回はひとりで踊るものをふたり用に変える構成」につき、ブラッシュアップした内容でお届けする。また、今公演では勘太郎、長三郎がイラストを担当した手ぬぐいなどの公演記念グッズを初めて販売することも明かされた。打って変わり、勘九郎と七之助は清元を代表する名作怪談舞踊劇「かさね」を。腰元かさね(七之助)が最愛の与右衛門(勘九郎)に鎌で殺されたことに始まる因果因縁の物語。「男女のドロドロした部分や清元の名文句、名調子、その美しさも見せる。現代の女性にもドラマティックに観ていただけます」と勘九郎。最終的には顔が醜くなり足が折れどん底に突き落とされるかさね。七之助は「女性としてすべてが崩れる様を見せられたら」と語り、踊りでは勘九郎と阿吽の呼吸で魅了する。「互いが磁石のようにべったり引っ付いたり、拒絶し合ったり関係性にメリハリを付けるのが効果的で、そこが踊りの面白さ、深さになってくる。『玉兎』とはガラッと違う踊りを楽しんでいただきたい」とアピールした。『春暁特別公演』は3月6日(日)から26日(土)まで奈良、滋賀、兵庫ほか全国16か所にて、続く『陽春特別公演』は3月30日(水)から4月4日(月)まで大阪・フェニーチェ堺大ホールほか全国5か所にて。チケットは両公演、1月15日(土)10時よりプリセールを実施。取材・文:石橋法子
2022年01月14日東京・歌舞伎座で、2022年1月2日(日)から感染予防対策を徹底した上で収容人数の制限を緩和し、完全入替えの三部制による『壽 初春大歌舞伎』を上演することが決定。歌舞伎俳優の尾上松也が、第三部『岩戸の景清』で初役となる平家の豪将・悪七兵衛景清を勤めることになり、12月22日に都内で取材に応じ「来年がもっともっと良い環境になるように、希望に満ちた1年を送りたい、送れると思っていただけるような演目にしたい。全三部、それぞれに花と色が出ているので、全力でお正月を盛り上げたい。思いを受け取っていただければ」と意気込みを語った。作・河竹黙阿弥の『岩戸の景清』が上演されるのは、昭和53年(1978年)1月の国立劇場以来、44年ぶり。源氏への復讐に執念を燃やす平家の勇将・悪七兵衛景清が江の島の岩窟にこもり、頼朝調伏を念じたために、天下は暗闇となってしまう。そこで源氏方の諸大名らが集まり、岩窟の前で闇を払う神事を始めると、やがて景清が姿を現し......という物語。暗闇の中を互いに探り合う歌舞伎の「だんまり」という様式的な美しい演出で展開し、景清が引き抜く刀によって射し込む光が、新年に明るい兆しを感じさせるひと幕となる。「非常に独特な世界観であり、歌舞伎のヒーローたちが大集結する豪華な演目。基本的には(前回の)羽左衛門兄さんのスタイルを踏襲しながら、歌舞伎ならではのケレンミを存分に楽しんでいただけると思います。景清はダークヒーロー的な印象で、陰と陽がある魅力的なキャラクター。自分が演じるとは、正直想像できなかったが、お正月ということもあり、(構成上)陽の部分を感じていただけるように作りたい。アイデアが浮かべば、それをチャレンジできる演目」(松也)「新春浅草歌舞伎」をはじめ、花形世代の中心としてメンバーを引っ張ってきた松也だけに、「若手だけで歌舞伎座の演目を任せていただくのは、ありがたいですし、やりがいがある」。2021年、2022年と「新春浅草歌舞伎」が中止になってしまっただけに、「次こそはという思いもありましたから、みんなでアイデアを出しながら、いいものを作っていきたい。それが“チーム浅草”らしい」と闘志を燃やした。また、「浅草の皆さんにご協力いただくことで、芝居以外のことも勉強できる貴重な公演。メンバーそれぞれ浅草を経て、どれだけ成果を出せるかという登竜門でもあるので」と浅草公演の復活を切に願っていた。また、先月28日に77歳で亡くなった歌舞伎俳優の中村吉右衛門さんに話題が及ぶと、「本当に偉大な先輩。僕にとっては、あこがれの存在」と神妙な面持ち。2018年の「新春浅草歌舞伎」上演を前に、稽古を受けたと言い「普段は温厚な印象ですが、お稽古では激しく、荒々しい。情熱と本気度に感動しました。一切手を抜かず、細部にまでこだわり、やり尽くす姿を拝見し『僕らもこうでなければ』と思った」と回想。「歌舞伎の伝承とは、芸もそうですが、それと一緒に魂と情熱も受け継ぐんだと最近よく思います。お兄さんの情熱から教わり、学んだことへの感謝を忘れず、それを伝えることが一番大事」と決意を新たにしていた。取材・文・写真=内田涼『壽 初春大歌舞伎』2022年1月2日(日)~2022年1月27日(木)第一部午前11時~第二部午後2時30分~第三部午後6時~※開場は開演の40分前を予定【休演】11日(火)、19日(水)劇場:歌舞伎座
2021年12月22日1969年の初演から50年以上にわたりミュージカル『ラ・マンチャの男』で主人公のドン・キホーテを演じてきた歌舞伎俳優の松本白鸚が16日、帝国ホテルで行われた同作の製作発表記者会見に出席。”最後の公演”に向けた意気込みを語った。この日は共演者で女優の松たか子、そして東宝株式会社の池田篤郎常務執行役員も出席した。スペインの国民的小説「ドン・キホーテ」を原作としたミュージカル『ラ・マンチャの男』は、1965年にブロードウェイで初演。日本では1969年の初演より松本白鸚が主演。翌70年にはブロードウェイからも招待を受け、計60ステージを全編英語で行った。これまでの上演回数は1307回を数える不朽の名作だが、2022年の本公演をもって、松本白鸚の「ラ・マンチャの男」はついにファイナルを迎える。会見に登場した白鸚は「初演の時は26歳。ブロードウェイに行ったのが27歳。あの時から50年以上になり、本当に感無量でございます。とにかく初日から千秋楽まで、皆さんにご迷惑をおかけしないようにと思っております」とあいさつすると、「自分は人間として、俳優として幸せ者でございます。2月の1カ月間という長期間ですが、無事に千秋楽を迎えられるよう、よろしくお願いします」と晴れやかな顔を見せた。本公演で松が演じるのは、ドン・キホーテが想い姫と慕うアルドンザ。父・白鸚とは、2012年の公演以来の舞台共演を果たすこととなったが、「また、出演させていただくチャンスがくるとは思っていなかったので。できるのか、やっていいのかと自分なりに考えましたが、いただいたチャンスをなんとか使い切りたい。自分のベストを出し尽くして、この公演にのぞみたいという思いで出させていただくことになりました」とあいさつ。そしてひとりの俳優が半世紀以上にわたって同じ役に向き合ってきたという偉業に対しても「わたしのような、まだまだな人間から見ると、同じ役をやり続けるというのは恐怖でしかなくて。だからすごいなと思いますし、素直に尊敬します」と父への思いを語る。さらに「50年以上演じてきたんで、作品のテーマと、俳優・白鸚の生き方が一緒になっちゃったんです。あるべき姿のために、戦う心を失わないように今までやってまいりました」と切り出した白鸚は、「思い出はいっぱいございます。このミュージカルのテーマである『見果てぬ夢』という歌は、わたしをミュージカル俳優として見いだしてくださった菊田一夫先生、それからこのミュージカルを向こうのアンタ・ワシントン・スクエアで観た父。(彼らの)レクイエムのために歌っておりました」とコメント。そして「レクイエムを歌う者がひとり増えてしまいましたね」とポツリ。11月28日に逝去した弟の中村吉右衛門さんについて「別れはいつでも悲しいものです。たったひとりの弟でしたから。でも、いつまでも悲しみに浸ってはいけないと思います。それを乗り越えて。『見果てぬ夢』を歌いたいと思います」と思いを馳せた。白鸚としては、3年前の帝劇での公演で最後だと考えていたという。だが「この(コロナ禍で)混乱した状態でも、東宝さんが『ラマンチャの男』の2月の公演を維持してくれて。そしてわたしにお話をいただいたのでビックリしました。これが実現できたのは、東宝さんはもちろんのこと、歌舞伎俳優としての白鸚を貸し出してくれる松竹さんの、演劇人としての良心じゃないかと思います」と謝辞を述べるひと幕も。そしてこの日の会見を振り返った白鸚は、「この記者会見では、皆さんとはじめから終わりまで夢の話をしていたと思います。『ラマンチャの男』で描かれている夢とはそういうものです。ただ夢を見るのではなく、夢を実現しようとする、その心意気だと思います」とかみ締めるように語った。撮影:壬生智裕
2021年12月17日日生劇場2022年2月公演ミュージカル『ラ・マンチャの男』の製作発表記念会見が12月16日、都内で行われ、主演を務める松本白鸚、共演する松たか子が出席した。1969年の日本初演から半世紀以上、今日までに白鸚が単独主演として1307回の上演回数を誇る不朽の名作。白鸚が主人公のドン・キホーテを演じるのは、今回がファイナルとなり「本当に感無量でございます。このように50年以上上演できたことは、人間として俳優として幸せ者でございます。無事に千秋楽を迎えられるように、一生懸命に務めたい」と“終焉の時”への思いを語った。2012年8月帝劇公演より写真提供/東宝演劇部聖書に次いで世界的に読まれているスペインの国民的小説「ドン・キホーテ」を原作としたミュージカル『ラ・マンチャの男』。1965年にブロードウェイで初演され、トニー賞ではミュージカル作品賞を含む計5部門を受賞。日本初演の翌年には、白鸚(当時は市川染五郎)がブロードウェイからの招待を受けて、マーチンベック劇場にて全編英語で現地の役者と渡り合い、計60ステージに立った経験もある。長年演じられた理由を問われ「何よりお客様がいたからこそ。そのことが奇跡だと思っております」と振り返る白鸚は、「負けると分かっていても、夢のあるべき姿のために戦う心を失ってはいけない。そのテーマと俳優・白鸚の生き方が一緒になっちゃったんですね」と分身ともいえるセルバンテス/ドン・キホーテに対する情熱を明かした。劇中の代表曲である「見果てぬ夢」に話題が及ぶと、「思い出がいっぱい。菊田一夫さんや私の父に向けて、レクイエムとして歌ってきた。残念ながら、レクイエムを送る人が増えてしまった」と11月28日に77歳で亡くなった弟で歌舞伎俳優の中村吉右衛門さんに言及。「別れというものは、いつでも悲しいものです。たった一人の弟でしたから。でも、いつまでも悲しみに浸っていてはいけない。それを乗り越え、跳ね返して『見果てぬ夢』を歌いたい」と決意を新たにした。松は2012年公演以来となる、ドン・キホーテが姫と慕うアルドンザ役で、父・白鸚と久しぶりの舞台共演に臨むことに。「私のような“まだまだ”な人間から見ると、同じ役を演じ続けることは、恐怖でしかない。できれば、私はそういう役には出会いたくない。尊敬しかないですね」と俳優として最敬礼。吉右衛門さんに対しては「叔父の舞台がもう見られないのは、心から残念に思います。舞台に立ち続けることでしか、お返しできない」と追悼した。遍歴の騎士ドン・キホーテが、悪を滅ぼさんがため、従僕のサンチョを連れて旅だった先で直面する“夢と真実”とは?現実世界と劇中劇の世界が交錯する重厚な物語が、ドラマティックな音楽とともに繰り広げられていく。脇を固めるサンチョ役の駒田一、牢名主役の上條恒彦に加え、新たなキャストとしてアントニア役に実咲凜音、カラスコ役には吉原光夫を迎え、松本白鸚による『ラ・マンチャの男』集大成が2022年2月、いよいよ幕開ける。『ラ・マンチャの男』千秋楽以降については「もぬけの殻でしょうね。何かを考える気持ちも起こらないかも。4月の歌舞伎座公演も決まっておりまして、毎日毎日やりこなすので精いっぱい」とさらなる邁進を誓い、「悲しみを希望に、苦しみを勇気に変え、お客様に夢を届けるのが俳優の仕事だと思います。体は動かなくなりましたが、このメッセージだけは伝えたい」と闘志を燃やした。取材・文・写真=内田涼【公演概要】ミュージカル『ラ・マンチャの男』2022年2月6日(日)~2022年2月28日(月)大千穐楽会場:日生劇場(東京都千代田区有楽町1-1-1)脚本:デール・ワッサーマン作詞:ジョオ・ダリオン音楽:ミッチ・リー訳:森岩雄、高田蓉子訳詞:福井崚振付・演出:エディ・ロール(日本初演)演出:松本白鸚出演:セルバンテス/ドン・キホーテ:松本白鸚アルドンザ:松たか子サンチョ:駒田一アントニア:実咲凜音神父:石鍋多加史家政婦:荒井洸子床屋:祖父江進ペドロ:大塚雅夫マリア:白木美貴子カラスコ:吉原光夫牢名主:上條恒彦他
2021年12月17日11月28日、日本を代表する歌舞伎俳優で人間国宝の中村吉右衛門さん(享年77)が心不全で亡くなった。「幼いころ、波野の家に養子となり、祖父の芸を一生かけて成し遂げました」実の兄・松本白鸚(79)がそう追悼コメントで語ったように、中村吉右衛門さんは八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)の次男として生まれ、すぐに母方の祖父、初代中村吉右衛門の養子となった。小学生のころから日舞、長唄、三味線、義太夫、狂言とひととおりの芸を始め、’66年10月、22歳で二代目吉右衛門を襲名。当時の本誌は《自称“縁の下のモヤシ”。兄、染五郎にくらべてハデさはないが、じっくりと芸を深める人柄で、歌舞伎味(肌にカブキの味がしみこんでいるさま)は兄以上だ》と伝えている。
2021年12月13日都内の屈指の名刹で、祭壇には大きな遺影が飾られていた。棺の両脇には約50人の列席者が居並び、霊柩車へ運び込まれる様子を見守っている。 人間国宝・中村吉右衛門さん(享年77)が11月28日、心不全のため逝去。その4日後、冬晴れのもと親族葬が厳かに営まれていた。憔悴した表情の兄・松本白鸚(79)、泣き崩れる吉右衛門さんの四女・瓔子さんを支える夫・尾上菊之助(44)と3人の子供たち。最期の別れに、皆で手を合わせる。奥歯をかんで悔しがる尾上菊五郎(79)の横で妻・富司純子(76)は目を閉じ、頬を濡らしていた。吉右衛門さんが倒れたのは、今年3月28日のことだった。「歌舞伎座の出演を終えた吉右衛門さんは知佐夫人と都内ホテル内のレストランで食事中に心臓発作で倒れ、緊急搬送されました。すでに心肺停止に近い状態で、意識は一度も戻ることなく8カ月後に帰らぬ人となったのです」そう語るのは、歌舞伎関係者。「コロナ禍のため、知佐夫人や4人の娘さんも週に1度の面会しかかなわなかったそうです。 昨年から体調を崩し、エレベーターのないビルの2階に上がるのに、お弟子さんにお尻を押してもらわないと上がれないほどでした。最後の舞台となった日の石川五右衛門役を見たある歌舞伎役者も『覇気がなかった……』と口惜しそうでした。肉体的にすでに限界だったのでしょう」(歌舞伎関係者)喪主を務めた12歳年下の知佐夫人の目は泣き腫らしていた。「4歳で初舞台を踏み、22歳で祖父・初代吉右衛門の名跡を継承した吉右衛門さんでしたが、青年時代は初代との芸の差に悩み、精神安定剤をジンで飲み、吐血して救急車で運ばれたこともありました。そんな彼を全力で支えたのが、30歳のときに結婚した知佐夫人でした。以来、梨園でも愛妻家として知られ、晩年も夫人とよく近所の散歩に出かけていました。絵画が趣味だった吉右衛門さんは知佐夫人の寝顔を自ら描いたデッサン画をとても気に入り、枕元に飾っていたほどです。火葬場では棺を炉に収めた後、皆さん座敷で待っていたのですが、知佐夫人は最後まで炉の前を離れることはなかったといいます。2人は最後まで相思相愛でした」(前出・歌舞伎関係者)■吉右衛門さんの最大の楽しみは、初孫・丑之助と過ごす時間親族葬から数時間後。娘婿の菊之助が歌舞伎座で会見を行った。近年の吉右衛門さんの最大の楽しみは初孫・尾上丑之助(8)と一緒に過ごす時間だったと語った。「ふだんは強面で威厳があって近寄れないのですが、孫のことになるとかわいがってくれまして。ディズニーが大好きで、プーさんが大好きだったんです。休みの日になると、ディズニーランドに連れていってくださって、『プーさんのハニーハント』に孫たちと乗るのがとても楽しくしてらっしゃいまして。孫たちをとてもかわいがってくれました」“厳格でありながら優しい、尊敬する父でした”と振り返ると、思いがあふれ、号泣した――。’18年6月に孫の和史くん(丑之助)と初共演した吉右衛門さんは、孫をおぶって花道から退場。「『じいじは汗かくからイヤ!』と言われて困りましたが、彼を励みにして私も舞台を務めました」と目尻を下げていた。実際に娘婿、孫との共演に至上の喜びを感じていたことを昨年のインタビューで明かしている。《孫が出て、義理の倅と一緒にやるというのは、その芝居をする情のうえにおいてやりやすいことは確かですね。(略)伝統というものがあるからこそ、誰それの倅で何代目だとかっていう、そういう目を通して芝居をご覧くださる。それも伝統歌舞伎のひとつの面白さじゃないかなと思います》(『演劇界』’20年10月号)■生前、「80歳で『勧進帳』の弁慶を務めたい」と…吉右衛門さんの唯一にして最大の心残りは三代目中村吉右衛門となる跡継ぎがいなかったことだった、と語るのは後援会関係者だ。「菊之助夫妻にもし2人目の男の子ができたら播磨屋の養子に……という話は、和史くんが生まれてからすぐくらいからあったと聞いています。吉右衛門さん本人がいちばんつらかったと思います。吉右衛門さんご自身が、吉右衛門の大名跡を途絶えさせないため“先代白鸚さんに2人男の子が生まれたら、次男は養子に出す”と、生前からの約束事で二代目吉右衛門を継いだ身。娘さん4人に恵まれましたが、四女・瓔子さんが産んだ丑之助さんは誰よりも溺愛していました」娘婿・菊之助も同じく人間国宝・菊五郎を父に持つ。「和史くんは丑之助を名乗っている以上、将来は大名跡・尾上菊五郎を襲名する身。播磨屋にはなりえません。吉右衛門は長期の空位となる可能性があります。しかし、吉右衛門の血を継いでいる歌舞伎役者は丑之助しかいない。菊之助さんが懊悩して考え抜いた結論が、義父の芸の継承。音羽屋を礎にしたうえで、播磨屋流も学ばせていくのではないでしょうか」(前出・後援会関係者)吉右衛門さんは生前、「80歳で『勧進帳』の弁慶を務めたい」と丑之助のためにも自身の長寿を願っていた。「もっと舞台に立ちたかったでしょうし、もっと教えていただきたいことがありました」(菊之助)生前、吉右衛門さんは『文藝春秋』’20年10月号で歌舞伎界の未来について、こう寄稿していた。《コロナの後、世の中がどう変わるのか。我々はもういなくなっているかもしれませんけども(笑)。孫の丑之助たちがその中でどう歌舞伎役者として生きていくかが、心配してもしょうがないんですけど、気になっております。(略)私は幸せな時代に生きまして、先人から受け継いだものを、そのままやれば皆さん喜んでくださったんですが、さあ、孫の丑之助の時代はどうなるか》歌舞伎界をけん引してきた吉右衛門さんの“芸の魂”は菊之助、そして丑之助へと脈々と受け継がれ、磨かれていくことだろう――。
2021年12月08日2021年11月28日、77歳でこの世を去った、歌舞伎俳優の中村吉右衛門さん。数多くのテレビドラマにも出演していた中村さんの突然の訃報に、同じ俳優仲間から追悼の声が寄せられています。『鬼平犯科帳』で共演していた勝野洋がコメントテレビ時代劇『鬼平犯科帳』シリーズ(テレビ朝日系)で、中村さんと共演していた俳優の勝野洋さんも、同年12月2日、FAXを通じて追悼のコメントを出しました。吉右衛門さんが亡くなったニュースを聞いた時、初めてお会いした日を思い出しました。所作からすべて、心の動きまで、たくさんのことを教わりました。お芝居に対する吉右衛門さんの熱意と優しさ、そして大きさ。それをたくさん学ぶことができました。そのことを思いながらただただ今、ご冥福をお祈りするばかりです。本当に素晴らしい、素晴らしい方でした。ありがとうございました。1991年の同シリーズ3作目から、2016年まで、長年にわたり中村さんと共演していた勝野さん。コメントは、中村さんに対する尊敬の念にあふれたものでした。改めて、中村さんが残した功績の偉大さが伝わります。[文・構成/grape編集部]
2021年12月02日