さまざまなツールがデジタル化されている今、子どもたちが使うサッカーノートにもアプリやデジタルツールが登場していて、どちらがいいのか考えてしまうこともあるかもしれません。サッカーノートにおけるデジタルと手書きのそれぞれのメリットについて、前回の続きを京都大学医学部附属病院精神科神経科の特定教授で人間健康科学の博士でもある大塚貞男先生に伺いました。知能研究の専門家として、そもそもサッカーノートを書くことの意義についてもコメントをいただいています。写真はサカイクキャンプでサカイクサッカーノートを書く選手たち<<前編:「書く」ことが認知能力を高める!小学生年代はサッカーノートを手書きした方が良い理由子どもたちも成長を実感!サッカーが上達するサッカーノート>>■「書く」行為は理解力や文章作成能力、言語認知機能の発達に貢献している大塚先生は、読み書き能力が与える言語能力や認知能力の違いを共同研究。その研究によると、漢字が正確に書ける人ほど知識の習得文章作成力などさまざまな能力が高く、ひいては高次の言語認知機能の発達に貢献していることがわかっています。実際に、大塚先生たちの研究結果からは、読み書きなどの国語力だけでなく算数などの知識の習得も同じで、漢字が書ける人ほど算数の能力も高く、同様に、漢字が読める人ほど算数の能力は高いそうです。それをふまえると、サッカーノートも手書きが良さそう......、と思えるかもしれませんが、本当にそうなのでしょうか。まずはサカイクサッカーノートを先生にみてもらいました。■しつもんが用意されているから書くことが苦手な小学生向けの難易度としても良いサカイクサッカーノートの特徴の1つは、"しつもんに答える"という形式で文章を書くことが苦手な子でも無理なく書けること。しつもんの答えを書く部分がフォームになっていて「空欄を埋めたくなる」という人が持つ本能も刺激されるなど、随所に工夫を凝らしています。それをご覧いただいた大塚先生からも高評価で、「書字力や語彙力、文章作成能力が発達途上の子どもでも書きやすいノートです。漠然とまっさらなノートに言葉を埋めるのは、書くことが苦手な子どもには苦痛になるだけ。小学生向けの難易度としてとても良い形ですね」とのことでした。そしてもう1つ、先生が「良い!」と評価してくれたのは、ノートというフォーマットでした。「日々のことを書き綴ったものが1冊のノートであることは、子どもたちがいつでもどこでも見返しやすく、また、空欄が埋まって自分だけの1冊になっていく様子から成果が見えやすいもの。モチベーションや自己肯定感につながりやすいはずです」と太鼓判を押してくれたほど。確かに、アプリやデジタルデバイスへでの記録に比べると紙媒体のほうが「書いた感」や「書いた量」がわかりやすいもの。今後デジタル化が進んだ時にもどうなるかはわかりませんが、少なくとも学校で鉛筆でノートをとっている今の小学生にもやはり、ノートに軍配が上がることでしょう。電池や電波がなくてもいつでも見返せますし、何を考えてそれをどう言語化したか、書くことをどれだけ頑張ったか、そういったことがわかりやすい"ノート"は優秀な媒体だと再確認できます。それを踏まえると、現段階では小中学生年代で「ノートに手書きする」ことに大きなメリットがあるとも言えます。サッカーする子どもを伸ばす親の心得「サカイク10か条」とは■手書きの訓練ツールとしてサッカーノートを活用してはただし「サッカーノートは紙媒体に手書きが絶対にいい」というわけではなく、デジタルにはデジタルの良さがあるのも事実です。たとえば写真や動画が記録しやすいですし、入力したデータは簡単には消えないので、子どもにありがちな「紛失」という悲しい事態も防げるはずです。実際、大塚先生も「とにかく手書き推奨」というわけではなく、たとえばスケジュールはデジタル管理派なのだとか。「カレンダーが予定をリマインドしてくれるスマホの機能に日々助けられています」と笑いながら教えてくれました。それも踏まえて先生が提案してくれたのは「書くための訓練をするためのツールとしてサッカーノートを活用する」という選択肢です。手で書くことで認知能力や文章作成能力が培われるのであれば、大好きなサッカーについて書くサッカーノートを手書きにすることで、楽しく無理なく書いてくれるはずだからです。■サッカーノートは後から読み返すので「きれいな文字を書こう」という意識にもつながる写真は少年サッカーのイメージ「サッカーノートは記録として残す側面もあるので、あとから読み返すことを思うと、自然ときれいな文字を書こうとしたり、難しい言葉なども使って、よく考えて文章を書いたりするかもしれません。それも子どもの能力を自然に引き出すことにつながりますよ」(大塚先生)夢中で書いているうちに、サッカーの上達だけでなく、学力につながる様々な能力も培えるという副次的効果も。サッカーノートは、サッカー好きな子どもたちを学力面で成長させてくれるツールとして活用できる1冊にもなるようです。デジタルと手書きのメリットはそれぞれ。どちらの利点も踏まえ、賢く使い分けたいところです。大塚貞男京都大学大学院医学研究科・医学部特定助教/博士(人間健康科学)公認心理師、臨床心理士。精神科病院や総合病院、公的機関などでの心理職としての勤務を経て、京都大学大学院にて人間健康科学の博士号を取得。その後、同大学にて教鞭をとりながら、漢字の手書きの意義についてなど数多くの研究を行っているサッカーする子どもを伸ばす親の心得「サカイク10か条」とは
2024年02月06日デジタルツールが当たり前になった現代の子どもたち。学校では1人1台タブレットが貸し出されるようになり、少しずつ手書きの機会が減っています。サッカーノートにも、デジタル化の波が押し寄せてくる日が近いかもしれません。そこで今回は、手書きvsデジタルにおいて、子どもに与える影響の違いを京都大学医学部附属病院精神科神経科の特定助教で人間健康科学の博士でもある大塚貞男先生に伺いました。(取材・文小林博子)写真はサカイクキャンプでサカイクサッカーノートを書く選手たち子どもたちも成長を実感!サッカーが上達するサッカーノート>>■サッカーノートは手書きがいい?それともデジタル?サッカーノートを書くことは、思いや考えを言語化しながら整理し、課題を明確にするなどのメリットが多数あります。サッカーノートを導入しているチームは多く、日々の練習の記録や目的、改善案などを書くことには一定の意味があることはすでにご存知だという方が多いはずです。そんなサッカーノート、今の主流はまさに手書きの「ノート」ですが、タブレットやスマホで入力できるものや、スマホアプリも登場し始めているのが現状です。チームによってはそういったデジタルツールをすでに導入しているところもあるのでは?今後はどちらがいいのか悩ましいところですね。大塚先生は、「漢検」でおなじみの日本漢字能力検定協会の協力を得て、京都大学大学院にて読み書き能力の研究を行っています。お話を伺うと「手で書く」ことは認知・学習面の成長には影響すると思う、と語ってくれました。まずは気になるその理由について詳しく解説します。■書くことは脳の広い範囲を使うスマホやPCを日々扱っている私たち親世代も常々感じているであろうことの1つに、「漢字が書けなくなった」ということはありませんか。読むことは問題ないものの、いざ書こうとすると漢字が思い出せない......。きっと共感してくれる方は多いはずです。ほとんどの人にとっては、漢字を鉛筆で紙に書けるようになるには、手で書いて覚えなくてはなりません。また、「書かないと忘れてしまって書けなくなる」のも前述のように実体験から痛感できます。そんなことから、私たち日本人にとって漢字は「普段から書いているか(手書きしているか)」を測るバロメーターになり、大塚先生はそこに着目して研究をしています。脳で処理される「漢字能力」を分解すると1.読字(漢字を正しく読める)2.書字(漢字を正しく書ける)3.意味理解(漢字や熟語の意味が正しくわかる)の3つになり、それぞれ使う脳の部位が違うのだとか。1の「読む」を経て、3の「意味理解」をしながら2の「書く」までを行うことで、「読む」だけに比べて使う脳の部位が移っていきます。脳は筋肉と同じで使って鍛えるところ。インプットとアウトプットを経て使う部位が広範囲におよび、側頭葉から前頭葉へなど、部位をまたがって情報を伝達することが脳のトレーニングにもなるそう。文字の識別については、デジタルより手書き文字の識別の方が難しく、デジタルの同じフォントばかり見ていると、フォントが違うだけで同じ文字だと認識しにくくなるようです。そのため、色々なフォントを見たり使ったりすることが推奨されています。サッカーする子どもを伸ばす親の心得「サカイク10か条」とは■人は「運動を伴った方が物事を記憶しやすい」という性質も持つまた、手書きのメリットは「手と指を動かすこと」にもあると大塚先生は言います。それだけを聞くと「デジタルデバイスに入力する時も手と指を使うのでは?」と思いがちですが、入力は手書きに比べると筋肉をあまり使わずにできるもの。予測変換機能もあることで、記憶を呼び起こしたり考えたりする範囲も少なく「ラク」かつ時短であることは明確です。また、人は「運動を伴った方が物事を記憶しやすい」という性質も持っているため、手指を動かして書いた方が記憶に残りやすいという特徴もあります。■手書きしている→文章作成能力が高まる→言語による認知機能の発達に大塚先生たちの研究チームが以下の結果を示したのは、大学生(大学院生を含む)30名を対象にした研究です。その結果は、漢字を手書きで書けるほど、知識の習得量が多く、文章作成能力が高いというものでした。一方で、中高生719名のデータを解析した研究でも、漢字を手書きで書ける子どもほど、文章作成能力が高いことが示されました。つまり、書くことで「認知能力」が養われ、言葉を使ったコミュニケーション力が発達するというわけです。■デジタル入力にもメリットがある、双方を活用しよう写真は少年サッカーのイメージ手書きのさまざまなメリットをご紹介しましたが、大塚先生はデジタル入力を否定しているわけではありません。比較的短い時間で簡単に一定の言葉を綴ることができるのはデジタルのメリットですし、子どもたちが将来デジタルツールを使いこなすことはリテラシーとして必須事項。双方のメリットをそれぞれ活用することが好ましいようです。ここまでをふまえ、サッカー少年少女を育てる親御さんがやはり気になるのは、サッカーノートは手書きのほうがいいのか?ということだと思います。それについては次回の記事でご紹介します。大塚貞男京都大学大学院医学研究科・医学部特定助教/博士(人間健康科学)公認心理師、臨床心理士。精神科病院や総合病院、公的機関などでの心理職としての勤務を経て、京都大学大学院にて人間健康科学の博士号を取得。その後、同大学にて教鞭をとりながら、漢字の手書きの意義についてなど数多くの研究を行っているサッカーする子どもを伸ばす親の心得「サカイク10か条」とは
2024年01月18日法政大学自然科学センター/国際文化学部(島野 智之 教授)と京都大学大学院農学研究科(刑部 正博 准教授)の研究グループは、このたびカベアナタカラダニが真っ赤な体色なのは、春先の紫外線から体を守る抗酸化物質を大量に蓄積しているためであったことを解明しました。天敵に見つかりやすいのではないかと人間は心配になりますが、天敵となる昆虫(アリなど)の多くは可視光のうち赤色光は見えていないため、派手に赤い色をしているからといって天敵に見つかりやすい訳ではないと考えられます。カベアナタカラダニ(写真:根本 崇正氏 提供)【発表のポイント】(1)春先のコンクリート壁でみつかるカベアナタカラダニ Balaustium murorum(Hermann)は、アナタカラダニ属に所属し、いずれの発育ステージでも花粉を主な食料とする。本種は北半球(主にユーラシア大陸)に広く分布しているが、なぜ赤い目立つ色なのか、世界中で疑問を持つ人が多いにもかかわらず、科学的に調べられたことがなかった。(2)3月に孵化し活動を始め、梅雨の時期に卵を産んで、次の春まで卵で休眠する。生存活動の中心である春先の強い紫外線と、輻射熱で40度以上になる生活環境に耐えることが、最も重要な生存への課題のひとつである。(3)カベアナタカラダニの赤色の色素をHPLCで測定したところ、抗酸化作用をもつケトカロテノイドであるアスタキサンチンと3-ヒドロキシエキネノン(主要カロテノイドのそれぞれ60%と38%)と、少量のβ-カロテン(2%)から構成されていた。ミカンハダニは、知られているダニのうちで、アスタキサンチンの量が、かなり多い種であるが、カベアナタカラダニのアスタキサンチン濃度はミカンハダニの127倍もの量であった。このため体色が赤であった。(4)アリや捕食性カメムシなど、カベアナタカラダニを捕食する昆虫は通常、赤に対する視細胞を持たないため、人間が心配するほど、カベアナタカラダニの派手な赤色は、捕食者の採食行動に影響を与えてはいないと考えられる。カベアナタカラダニ Balaustium murorum(Hermann)は、派手な赤い体色を持つ花粉食性の自由生活型ダニで、本種や類似種は北半球(主にユーラシア大陸)に広く分布しているが、なぜ赤い目立つ色をしているのか、世界中で疑問を持つ人が多いにもかかわらず、これまで科学的に調べられたことがなかった。本種の所属するアナタカラダニ属 Balaustiumは、他のタカラダニ科 Erythraeidaeのダニ類とは大きく異なり、(1)和名のもとになっている、ウルヌラという特徴的な分泌器官(穴)をもち、(2)幼虫の時代に昆虫に寄生することはなく全ての世代で、主に花粉を餌とするという特徴を持っている。本種カベアナタカラダニは春先(東京では3月半ば)に発生し、文字通りコンクリート壁など人造構造物の日当たりの良い場所に生息し、梅雨の頃に卵を産んで、次の春まで卵で休眠する。このため、カベアナタカラダニは、春先の強い紫外線(UV-B)や輻射熱などの過酷な環境において、活性酸素の生成による酸化ストレスにさらされる。例えば同じダニでは、植物の葉上に生息し、強い日光にさらされるミカンハダニ Panonychus citriは、抗酸化作用のあるアスタキサンチンを合成・蓄積し、酸化ストレスから身を守る事が知られている。そこで、カベアナタカラダニの色素中のカロテノイド組成を測定した。主要なカロテノイドを同定するために、カベアナタカラダニの雌の生体内の色素と、それを脱エステル化した色素を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。その結果、カベアナタカラダニの派手な赤色の色素は、抗酸化作用をもつケトカロテノイドであるアスタキサンチンと3-ヒドロキシエキネノン(主要カロテノイドのそれぞれ60%と38%)と、少量のβ-カロテン(2%)から構成されていた。ミカンハダニは、知られているダニのうちで、アスタキサンチンの量(タンパク質あたり)が、かなり多い種であるが、カベアナタカラダニのアスタキサンチン濃度(334.8 ng/μg protein)はミカンハダニ(2.63 ng/μg protein)の127倍もの量であった。この量は報告のある甲殻類などの微小節足動物中でも最も高いレベルの値であった。餌となる花粉からカベアナタカラダニが合成・蓄積するケトカロテノイドは高い抗酸化活性を持つため、コンクリート壁など生息環境における太陽紫外線や放射熱による厳しい環境下で、カベアナタカラダニの生存を助けているものと思われる。抗酸化活性をもつケトカロテノイドを高濃度で蓄積していたため、本ダニ種は体が派手な赤色であった。アリや捕食性カメムシなど、カベアナタカラダニを捕食する昆虫は通常、赤に対する視細胞を持たないため(赤を識別できないため)、人間が心配するほどカベアナタカラダニの派手な赤色は、これらの捕食者の採食行動に影響を与えてはいないと考えられる。発表雑誌:Experimental and Applied Acarology(エクスペリメンタル・アンド・アプライド・アカロロジー)誌2022年12月13日(火)に公開論文タイトル:The flashy red color of the red velvet mite Balaustium murorum(Prostigmata:Erythraeidae) is caused by high abundance of the keto-carotenoids, astaxanthin and 3-hydroxyechinenone(英文)著者:Masahiro Osakabe & Satoshi Shimano* (*責任著者) 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年12月23日関西医科大学、国立循環器病研究センター、京都大学、大阪工業大学、科学技術振興機構、日本医療研究開発機構は12月11日、再建する皮膚がなく治療が困難であった先天性巨大色素性母斑に対する世界初の新規皮膚再生治療を開始すると発表した。同治療法による臨床研究は、関西医科大学 形成外科学講座 森本尚樹 講師、国立循環器病研究センター 山岡哲二 部長らの研究グループによるもの。「色素性母斑」は、小さいものはほくろと呼ばれる茶色~黒色のあざで、真皮の中に母斑細胞といわれる細胞が存在し、母斑細胞がメラニン色素を産生するために生じる。先天性巨大色素母斑は、産まれたときから存在し、成人で直径20cm以上になる色素性母斑のことを指し、放置すると悪性黒色腫が数%程度発生する。巨大母斑の治療は、2、3回に分けて切除する分割切除術や、組織拡張器を皮下に埋入し、数カ月かけて皮膚を拡張させた皮膚を用いて再建を行う方法、患者の皮膚を採取し移植する植皮手術が行われるが、手術の身体的負担があったり、母斑切除部の長い傷跡や皮膚採取部位の傷跡ができたりするといった問題がある。同研究では、母斑組織を2000気圧で10分間処理することで、皮膚の主要成分であるコラーゲンなどを損傷することなく自然のまま残し、母斑細胞などの細胞を完全に死滅させることに成功。腫瘍細胞のない真皮として患者に再移植することが可能となった。また、表皮は自家培養表皮を用いるため、患者自身の細胞と組織だけで皮膚を再建することができる。同治療法は、母斑が大きくて手術をしていない患者や、何度も手術したが母斑が残存している患者でも比較的小さな侵襲で実施できるもので、今後は臨床研究への参加を希望する患者を募集する予定だという。有効性が確認されれば、これまで大きな自家皮膚の犠牲を伴う治療しかなかった先天性巨大色素性母斑の治療が可能になるとともに、将来的には高圧による死滅処理方法が、皮膚悪性腫瘍やそのほかの組織の悪性腫瘍にも応用可能な組織再生方法となることが期待される。
2015年12月11日沖電気工業(OKI)、NEC、シャープ、京都大学、東京農工大学、立正大学は9月30日、情報通信研究機構(NICT)から受託した「革新的な三次元映像技術による超臨場感コミュニケーション技術の研究開発」の一環で、「超臨場感テレワークシステム」を共同開発したと発表した。「超臨場感テレワークシステム」は、「遠隔オフィスの状況を推定し提示する機能」「注目エリアにアクセスして会話できる機能」「遠隔オフィス間で情報を共有しながら共同作業できる機能」を備えている。これらの機能により、遠隔地にいる人と一緒に働いているような上k表で、テレワークすることを実現している。NECと農工大が開発した「遠隔オフィスの状況を推定し提示する技術」では、遠隔地間で互いの状況を直感的に伝え、相手に配慮してコミュニケーションを取れるようにする技術で、オフィス内のさまざまな時間や場所で生じた音や人の動きを、オノマトペ(擬音語や擬態語)で表現する。また、PC の操作量やウィンドウ切り替え、会話の有無などをもとに、割り込み拒否度(その人の忙しさや集中の程度)を推定する。OKIが開発した「遠隔オフィスの注目エリアにアクセスして会話できる技術」は、遠隔オフィス内の注目するエリアにアクセスして遠隔の同僚と会話できる技術で、複数のカメラ・マイクを位置に基づいて制御することで、オフィス内の任意エリアの映像/音を抽出・配信する。シャープと京都大が開発した「遠隔オフィス間で情報を共有しながら共同作業する技術」は、遠隔地にいる相手と、素早く的確に情報を共有するための技術で、オフィス内で飛び交う多種多様な情報を大画面ディスプレイを介して手軽に素早く共有する。また、実物体に対して画面越しに遠隔地からの指示情報などを重畳することで、自然な共同作業を実現する。6者は実際のオフィス業務での効果を検証するため、同システムを用いた実証実験を2015年7月に開始しており、2015年末まで続ける予定。
2015年10月01日富士フイルムは4月14日、マウスに経口で摂取させた抗酸化成分「アスタキサンチン」が皮膚まで到達していることを確認したと発表した。同成果は、同社ならびに京都大学 大学院農学研究科 海洋生物生産利用学分野の菅原達也 教授らによるもの。詳細は5月14日からパシフィコ横浜で開催される「第12回アジア栄養学会議(ACN2015)」にて発表される予定だという。これまでの研究にて研究グループは、アスタキサンチンをマウスが経口摂取すると、紫外線による肌のシワ形成と表皮からの水分蒸散が抑制されるという研究結果を報告していたが、この仕組みとして、経口摂取したアスタキサンチンが消化吸収され、皮膚まで到達。紫外線(UVA)により皮膚の真皮に発生した活性酸素を除去したことで、シワ形成抑制効果が生じたと推察したほか、経皮水分蒸散量の抑制効果も同様に、皮膚に到達したアスタキサンチンが、表皮のバリア機能を維持するのに必要なセラミドの産生や維持に影響を与えていると考え、今回、研究を行ったという。その結果、経口摂取したアスタキサンチンが皮膚まで届いていること、ならびにナノ乳化した場合はさらにその量が増加することを確認したという。なお同社では、美容ドリンクやサプリメントでアスタキサンチンを摂取することで、肌のシワ形成や経皮水分蒸散量が抑制されることが期待できるとしており、今後もアスタキサンチンの美容・健康における効能効果やメカニズムについての研究を進めていくとしている。
2015年04月15日京都大学、岡山大学、京都工芸繊維大学による研究グループは3日、スマートフォンなどの端末同士が相互に連携し、共同で基地局と通信する技術を開発したと発表した。同技術では、多数の端末が集まった場合でも通信速度が低下しない効果が期待される。京都大学などが開発した技術は、近傍の端末が高周波数帯を利用して、相互に連携することで、透過的に多数のアンテナを備えた1つの端末として機能させるもの。ユーザー数にほぼ比例して通信容量を拡大できるという。これまでは、電車やバス内、イベント会場など、人が集まる場所では1人当たりの伝送速度が低下していた。同技術では、端末が連携するグループを形成し、グループ内において基地局からの受信信号を近距離の無線通信によって共有する。これにより、基地局との通信容量が増加し、1人当たりの伝送速度がほとんど低下しなくなるとしている。今後は、より高い周波数帯を利用した端末間連携を実現させることで、今回の技術をより洗練されたものにするべく開発を進めていく。(記事提供: AndroWire編集部)
2015年03月04日群馬大学、京都大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)は2月4日、米国ノースイースタン大学と共同で、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギーの放射光X線を用いてリチウムイオン2次電池の正極材料に使われているマンガン酸リチウムにおけるリチウムイオン挿入の電池電極反応に寄与する電子軌道の正体を明らかにしたと発表した。同成果は、群馬大の鈴木宏輔助教、郷直人氏、櫻井浩教授、ノースイースタン大学のB. Barbielini准教授、S. Kaprzyk教授、Yung Jui Wang博士、H. Hafiz氏、A. Bansil教授、京大の折笠有基助教、山本健太郎氏、内本喜晴教授、JASRIの伊藤真義副主幹研究員、櫻井吉晴副主席研究員らによるもの。詳細は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載される予定。研究グループは、SPring-8のビームラインBL08Wの高輝度・高エネルギーX線を利用してコンプトン散乱測定によりリチウムイオン挿入におけるマンガン酸リチウムの電子運動量分布(コンプトンプロファイル)の変化を精密に測定し、第一原理計算と比較した。その結果、リチウムイオンがマンガン酸母材に入ると、酸素の2p電子が増加する一方、マンガン原子の価数はほとんど変化しないことを見出した。これは、マンガン酸リチウムの正極反応として一般的に考えられている"マンガン原子の価数が四価から三価へ変わる現象"は起きていないことを示している。今回の成果は、電極反応メカニズムの詳細を明らかにするだけでなく、リチウムイオン2次電池の電極材料設計に新たな知見を与えることが期待されるとコメントしている。
2015年02月06日京都大学、岐阜大学、科学技術振興機構(JST)は5月5日、疾病の指標(バイオマーカー)となる複雑な生体分子を識別して溶けるゲル状物質「反応性超分子ヒドロゲル」の開発に成功したと共同で発表した。成果は、京大大学院 工学研究科の浜地格 教授、岐阜大 工学部 化学・生命工学科の池田将 准教授(前・京大大学院 工学研究科助教)らの共同研究チームによるもの。研究はJST課題達成型基礎研究の一環として行われ、詳細な内容は現地時間5月4日付けで英科学誌「Nature Chemistry」オンライン速報版に掲載された。水を媒体とするヒドロゲルはその生体適合性の高さから、診断材料、薬物放出担体、細胞培養基材など、さまざまな医療応用が期待される魅力的な材料とされている。ヒドロゲルが特定の分子の存在やその量を識別して溶けたり、再度固まったりできれば、高度な機能を持つ新しい医療材料の開発につながると期待されているところだ。しかし、これまでに開発されたヒドロゲルが識別できる分子は、構造が単純なものに限定されていた。また、識別の対象となる標的分子ごとに新たなゲル化剤の設計と開発が求められ、その都度多大な労力を必要としているという大きな課題もあったのである。さらに、複数の標的分子が同時に存在するかどうかを見分けるヒドロゲルの開発に関しては、その設計指針さえなかったという具合だ。そこで研究チームは今回、小分子化合物が自律的に構造を作り出す「自己組織化」現象によってナノサイズ(1nm=100万分の1mm)の構造体を開発。そして、その機能化に取り組んだ。特に、水中でナノサイズの極細繊維(ナノファイバー)となり、それらが絡み合うことでヒドロゲル(超分子ヒドロゲル)を形成する小分子化合物(ゲル化剤)の高機能化を進展させ、非常に低濃度でゲル化する化合物の開発に成功してきたのである。今回、それらの知見を基に、酸化反応あるいは還元反応によって溶けるという特徴を持った「反応性超分子ヒドロゲル」の「BPmoc-F3」と「NPmoc-F2」が開発された(画像1~5)。BPmoc-F3に関して確認された特徴の1つが、活性酸素種(ROS)の中で過酸化水素を選択的に見分けて溶けるというものだ(画像6)。過酸化水素は、各種「オキシダーゼ(酸化酵素)」がその基質を酸化する時に生成することが知られている。そこで、BPmoc-F3が形成するヒドロゲルにさまざまなオキシダーゼを埋め込んだところ、内包したオキシダーゼの基質をヒドロゲルに添加した時にのみゲルが溶けることが見出されたのである(画像7)。例えば、「グルコースオキシダーゼ(GOx)」を内包させたヒドロゲルは、糖尿病のバイオマーカーである「グルコース(ブドウ糖)」のみに応答して溶け(画像7の1列目)、「サルコシンオキシダーゼ(SOx)」を内包させたヒドロゲルは、前立腺がんのバイオマーカーである「サルコシン」のみに応答して溶ける(画像7の2列目)ことが実証された。この結果は、ヒドロゲルの中でオキシダーゼが十分にその活性を保持し、基質を酸化する際生成した過酸化水素がヒドロゲルを溶かしているということを意味しているとする(画像8)。つまり、1種類のゲル化剤が形成するヒドロゲルに酵素を選んで混合するだけで、グルコース、サルコシン、痛風のバイオマーカーの「尿酸」、コリンなど、さまざまな生体分子に応答して溶けるヒドロゲルが作製できることになるというわけだ。このように多様な生体分子を見分けることのできるヒドロゲルはほかに類を見ないという。さらに、ヒト血漿を用いた実験では、高血糖症に対応する濃度のグルコースが存在する時だけ溶けるヒドロゲルも作製可能であることが実証されており(画像9)、今後、診断材料の開発などの医療応用に幅広い貢献が期待できるとしている。還元反応によって溶けるヒドロゲルを形成するNPmoc-F2については、「フラビンモノヌクレオチド(FMN)」を補因子とし、ニトロ基を還元する「ニトロ還元酵素(NR)」を内包させておくことで、「還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)」の存在を選択的に見分けることが明らかにされた(画像10)。NADHは、「NAD依存性酵素」が基質を酸化する際に「酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)」から再生されることが知られている。そこで研究チームは、NAD依存性酵素の1つである「乳酸脱水素酵素(LDH)」とNAD+とNRを、NPmoc-F2が形成するヒドロゲルに同時に内包させた。すると、乳酸を添加した時にヒドロゲルが溶けることが見出されたのである(画像11)。この結果は、ゲルの中で乳酸がLDHによって酸化され、その際NAD+から再生されたNADHがゲル化剤と反応し、ヒドロゲルを溶かしていることを示しているという(画像12)。ちなみに乳酸はがん組織周辺で濃度が上昇することが知られている。さらに、上記の2種類のゲル化剤および数種類の酵素を混合したヒドロゲルは、それぞれが識別する生体分子が同時に存在する時のみに溶けることも実証したという。すなわち、グルコースのみ、あるいは、NADHのみでは溶けず、グルコースとNADHが両方存在する時においてのみ溶ける自律応答型のヒドロゲルの開発に成功したというわけだ(画像13・14)。また、そのヒドロゲルに蛍光色素を修飾した抗体(IgG)を閉じ込めておくと、グルコースとNADHが両方存在する時においてのみ抗体を放出することも確認された(画像15・16)。今回開発されたヒドロゲルは、水とゲル化剤と酵素を混ぜるだけで簡単に作製することが可能な点が大きな長所だ。さらに抗体のようなバイオ医薬品をそのヒドロゲルの中に閉じ込めておき、バイオマーカーの存在を識別し放出させることも可能である。このように、化学反応の特異性を組み込んだ小分子化合物からボトムアッププロセスで作成したナノファイバーからなるヒドロゲルと酵素反応を組み合わせる手法は広く一般化することが可能であり、診断材料、薬物放出材料、再生医療用細胞培養基材など、さまざまな医療材料に「これまでにない自律的に考えて応答するという新たな機能」を付与できると期待されるとしている。
2014年05月08日京都大学、科学技術振興機構(JST)の2者は2月14日、生体内で細胞を不十分な状態で初期化を行うと、エピゲノムの状態が変化し、がんの形成を促すことを見出したと共同で発表した。成果は、京大 iPS細胞研究所(CiRA)所属兼岐阜大学大学院・大学院生の大西紘太郎氏、CiRA/同・大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の蝉克憲 研究員、CiRA/iCeMS/JSTさきがけの山田泰広教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国時間2月13日付けで米科学誌「Cell」に掲載された。iPS細胞は分化した体細胞に、「山中因子」といわれる4種類の遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を作用させることで作製することができる。しかし、体細胞を初期化するためには、さまざまな反応が細胞内で協調して働くことはわかっているものの、いまだにその詳細なメカニズムについてはわかっていない。細胞を初期化する途中には、iPS細胞ではないコロニーがよく現れることが知られているし、一部の細胞は正しい初期化からそれ、不十分な初期化が起きているという報告もある。しかし、このような初期化に失敗した細胞について、これまで研究がなされていなかった。うまく初期化できなかった細胞ができてくる過程には、がんが形成される過程と似た部分がある。初期化の際には、分化した体細胞は無限増殖・自己複製能を獲得し、遺伝子の働き方がダイナミックに変化するが、このイベントはがんができる過程でも重要なイベントだ。このような類似性から、初期化プロセスとがん形成が共通したメカニズムで進められている可能性が考えられるという。そこで研究チームは今回、不十分な初期化を起こすことで、がんの形成が起きないかどうかを調べるため、生体内で初期化が起きるマウスのシステム作りを行った。研究チームは「Doxycycline(Dox)」を作用させると、4種類の山中因子が働く仕掛けを持ったマウスを遺伝子改変によって作製。Doxとは抗生物質の1種で、遺伝子工学では同物質に反応して遺伝子のオン・オフを制御する仕組みがよく用いられている。今回は、Doxが体内に取り込まれると、山中因子が働くことに加えて、蛍光物質が作られるようにもなっている。そのため、Doxを作用させると細胞は赤く光り、初期化因子が働いてiPS細胞が誘導されるというわけだ。このマウスに28日間Doxを与えたところ、各種臓器において体細胞がiPS細胞へと初期化され、さらにiPS細胞から3胚葉に分化した奇形腫が形成されていることが確認されたという。一方で、7日間Doxを与え、さらにDoxを抜いて7日後に観察したところ、腎臓を初め各種臓器で腫瘍の形成が見られたが、こちらは奇形腫とは異なる、腫瘍を形成していたのである(画像1・2)。今回の方法で作り出された腫瘍細胞が調べられた結果、小児腎臓がんである「腎芽腫」とよく似た性質を示していたという。これは、今回作り出したマウスが、腎芽腫のモデル系として有効なツールであることを示している。また、「エピゲノム」の状態(DNAのメチル化度合い)も調べられ、その結果、元の腎臓の状態を保持しつつも、部分的に多能性幹細胞(iPS/ES細胞)と似たパターンになっていることが明らかとなった(画像3・4)。一般的にがんの形成は遺伝子の変異が蓄積することで生じると知られている。今回作り出した腎臓の腫瘍の細胞は腎芽腫にとてもよく似た性質を示していたが、遺伝子の変異は見つからなかったという。この細胞からiPS細胞を作り、腫瘍由来の細胞を含む「キメラマウス」が作られたが、そのマウスの体内では腫瘍由来の細胞も正常の腎臓を形成していることが確認された。これは、今回の腫瘍の形成には遺伝子の変異が決定的な要因ではなかったことを示しているとする(画像5・6)。今回の成果により、マウスの体内で初期化を起こす仕組みを作り、不完全な初期化が腎芽腫と似た腫瘍の形成が引き起こされることが示された形だ。これまで、がんの形成には遺伝子変異の蓄積が重要であるといわれてきたが、今回の結果から、ある種の腫瘍は遺伝子の変異ではなく、エピゲノムの状態の変化によってもがんが形成されることが示されたのである。つまり、エピゲノムの状態を変化させることができれば、がん細胞の性質を変化させ、将来的にはがんの新しい治療法につながる可能性があるという。また今回の研究では、ゲノムの変異を起こさずにエピゲノムの状態を制御する手法としてiPS細胞の技術が利用された。このようにiPS細胞技術を利用することで、疾患研究に新しい観点をもたらすことが期待できるとしている(画像4)。
2014年02月14日