ハリウッドの光と闇をリアリティ豊かに、かつスタイリッシュに描いた名作映画『サンセット大通り』(1950年)。その哀愁はそのままに、ブロードウェイのヒットメーカー、アンドリュー・ロイド=ウェバーが1993年に舞台化、作品賞などトニー賞で7部門を受賞したのが、この同名ミュージカルだ。待望の日本版初演に際し、安蘭けい、田代万里生、鈴木綜馬、彩吹真央ら華も実力も備えたキャストが集結。演出は、人間ドラマを深い視点で描き、多くの演劇賞を受賞している鈴木裕美が担当する。今回、“日本ミュージカル界のプリンス”と称されながら、成功を求めてあがく脚本家ジョーという“汚れ役”に挑む田代万里生にその胸中を訊いた。『サンセット大通り』チケット情報本作についての印象をこう話す。「ドラマや映画のミュージカル化は『××のリメイク』という風にとらえられがちですが、この舞台は原作の映画がもつテーマを、クラシックをベースにした多彩な楽曲で表現しているから単体で完成されているんですね。コントラバスの不気味な音が響く中での会話や、音がシン……と止んでいる空白ですら、作曲家ロイド=ウェバーの計算のうち。そんな細かなスコアからも芝居のヒントを得ながら、ジョーという役を作っていきたいです」。4月25日に行われた制作発表で初披露された楽曲『サンセット大通り』は、酔ったジョーが芸能界に魅入られた身の上を自嘲気味に歌うソロナンバー。その内容からか多くの俳優が好きな曲として挙げるが、田代はすでにジョーの憤りを自分のものとして歌っているように見受けられた。幾多の挫折を経てボロボロになっているジョーと、田代は正反対なのでは?と問うと、「ある、ありますよ!挫折はいっぱい」と勢い込んだ答えが返ってきた。「確かに芸大卒とかミュージカルデビューとか、それだけを見たら順調に思われるかもしれないけれど、苦労や挫折なんかはいちいち言葉にする必要がないから言わないだけで。毎日の舞台だって、毎公演がオーディションと思いながら立っているくらいです。でも俳優なら誰だってそういう気持ちを持ってやっていると思うし、だからこそもがきながらも夢を捨てきれないジョーに、俳優も観客も惹かれてしまうんだと思いますね」。稽古に先立ち、鈴木裕美のワークショップに参加したという田代。「一番前で話を聞いて、われ先にと手を挙げてました(笑)。(ワークショップでは)“ラーメン屋のミノル役”を演じたり、本当に楽しかった!ミュージカル俳優でない、素の役者としてのあり方を学べました」と手応えを感じた様子。デビュー4年目にして体当たりで挑む新境地。本番では、新しい田代の表情が見られるはずだ。公演は6月16日(土)から7月1日(日)まで東京・赤坂ACTシアターにて上演。その後7月6日(金)から8日(日)まで大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!にて開催する。チケットはいずれも発売中。取材・文:佐藤さくら
2012年05月08日帝都大学理学部准教授の天才・湯川学が、さまざまな事件をユニークな視点で解決していく“ガリレオ”シリーズ。直木賞作家・東野圭吾の原作をもとにドラマ化・映画化された人気シリーズだが、実はキャラメルボックス主宰の成井豊が原作に惚れ込み、舞台化に向けて動き出したのはそれより前のこと。念願の舞台化となった2009年の『容疑者Xの献身』は大きな反響を呼び、東野からも「こんなふうに芝居にできるのかと驚いた」とお墨付きをもらった本作が、待望の再演を迎える。前回からの続投となる湯川役の岡田達也と、捜査一課の刑事・間宮役の川原和久に、本作の魅力を語ってもらった。キャラメルボックス『容疑者Xの献身』チケット情報インタビューは終始、クールな表情で時折ボソッと冗談を言う川原と、楽しそうに笑い転げる岡田という、なんともいい雰囲気で行われた。川原は同劇団に5度目の客演とあって、すっかりなじみのメンバーといったところ。「普段の僕はアニキ(川原)に甘える弟といった感じで、天才の湯川とは正反対のキャラ。それだけに初演の時は悩みぬきました」と岡田は話す。「膨大な量のセリフに、キャラメルでは珍しい盆(回り舞台)が使われたりしたので、(段取りなど)覚えることがたくさんあるしね」と横から言葉をかける川原。続けて「成井さんがあえて原作に忠実に舞台化したので、登場人物が発する言葉は小説のまま。役者には難しいリズムだけれど、それが原作ファンの方にも好評だった理由のひとつかもしれないですね」と初演を振り返った。物語は、湯川も認める天才数学者でありながら、家庭の事情によって高校教師の道を選んだ石神(近江谷太朗)と、その想い人の靖子(西牟田恵)が起こした事件を軸に展開。石神が抱える闇に戸惑いながらも事件を解明しようとする湯川と、“湯川ファン”を自認して捜査の進捗を教えてしまう間宮とのやりとりは、劇中でもホッとするひとコマだ。「川原さんは普通のセリフでも、ニヤッとするような色をつけて投げてくれるからうれしい」という岡田に、「緊張感のある舞台だから、箸休めになればいいと思って」と少々照れ気味の川原。一方、物語の根幹を成す石神の愛については、「冷静に考えたらいびつな愛のかたち。でも泣けてしまうのは何故なんだろうと思います」と川原が言えば、「本来なら肯定しづらい人間の汚い部分。でもこんな風に読者や観客の心を動かしてしまうのがすごい」と岡田も口を揃える。もし、愛する人が罪を犯したら?との問いには「一緒に警察に行こうね、と優しく言います(笑)」(岡田)、「まず話をよく聞いてあげて、弁護士をつけて……。自分に出来ることを精一杯やるかな」(川原)との答えが返ってきた。愛する人を持つ者すべてに宿る愛のかたち。その一端を、本作でぜひ垣間見てほしい。取材・文:佐藤さくら公演は5月12日(土)から6月3日(日)まで東京・サンシャイン劇場、6月7日(木)から12日(火)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、6月15日(金)、16(土)に東京・THEATRE1010にて開催。ぴあでは原作本付チケットを発売。
2012年05月01日過去の栄光が忘れられないかつての大女優と、ハリウッドでの成功を夢見てもがく脚本家。孤独な魂が呼応するように惹かれ合い、悲劇へとひた走るドラマを圧倒的な美学で描いたフィルム・ノワール(犯罪映画)の名作『サンセット大通り』(1950年制作)。それをもとに『オペラ座の怪人』など多くのヒットミュージカルで知られる作曲家のアンドリュー・ロイド=ウェバーが舞台化、1995年のトニー賞最優秀ミュージカル作品賞ほか7部門を受賞したのが、ミュージカル『サンセット大通り』だ。長らく日本版の公演が待たれていた本作が、最強のキャストとスタッフを得て、ついに上演が決定した。4月25日に行われた制作発表には、安蘭けい、田代万里生、鈴木綜馬、彩吹真央ら主要キャストと、演出の鈴木裕美が出席。また一般公募のオーディエンス150人も参加した。ミュージカル『サンセット大通り』チケット情報拍手と共にステージに登場した5人は、すでに笑顔。まず演出の鈴木裕美が「この作品はロイド・ウェバーならではの華やかさを備えつつ、本質はテネシー・ウィリアムズのような人間同士の確執をストイックに描いた作品。私もシンプルに、ストイックに作り上げたい」と抱負を語った。続いて大女優ノーマ・デズモンドを演じる安蘭が「こんなに大きな作品の(日本)初演をさせていただけるとは、本当にラッキーガールだなと思っています。プレッシャーもありますが、この役をやるために生まれてきたと思えるように頑張りたい」と意欲を見せた。売れない脚本家ジョー・ギリスに挑む田代は「名だたる俳優の方たちがやりたいとおっしゃる役。絶対やりたい!と思っていたので、出演が決まった時は本当に嬉しかった。稽古場でぜひ演出の鈴木さんにしごかれたいです」と話して場内の笑いを誘った。さらに、ノーマのかつての夫で今は執事を務めるマックス役の鈴木綜馬は「全てが非日常の世界で、劇場に入ってから出るまでお客様がこの世界観にどっぷり浸れるのが魅力」とアピール。ジョーと恋に落ちる脚本家のベティー・シェーファー役の彩吹も「15年ほど前にロンドンで観て、あまりの感動にCDを買ってずっと聴いていました。脚本と音楽、すべてが揃っている作品」とその魅力を語った。制作発表後には、日本語詞がついたばかりという劇中歌が4曲、特別に披露された。田代が感情を爆発させながら歌う「サンセット大通り」には大きな拍手。続けて彩吹が加わりデュエット「トゥー・マッチ・イン・ラブ・トゥ・ケア」を、お互いを思いやるような表情で。さらに鈴木綜馬が「ザ・グレイテスト・スター・オブ・オール」を切々と歌い、最後に登場した安蘭が「ウィズ・ワン・ルック」をドラマチックに歌い上げると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。公演は6月16日(土)から7月1日(日)まで東京・赤坂ACTシアターにて上演。その後7月6日(金)から8日(日)まで大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!にて開催する。チケットはいずれも発売中。取材・文佐藤さくら
2012年04月26日1967年に有吉佐和子が小説として発表、すぐに大反響となって舞台化されて以来、数々の名優が演じてきたことでも知られる『華岡青洲の妻』。世界初の全身麻酔手術を成し遂げた華岡青洲の苦難や、その実母と嫁の青洲を巡る闘いを、高い文学性と共に描きだした名作だ。6月から行われる新派公演に出演するのは、水谷八重子と波乃久里子、そして新派初参加となる三田村邦彦。これまで山田五十鈴、杉村春子、淡島千景の演じる姑・於継のもと嫁の加恵を演じてきた水谷が、今回初めて於継に挑戦するのも見どころだ。都内で開かれた記者会見では、三者三様の意気込みが語られた。『華岡青洲の妻』公演情報江戸時代中期の紀州。名門の家から隣町の貧乏医者・華岡青洲(三田村)に嫁いできた加恵(波乃)は、華岡家を取り仕切る美しい姑・於継(水谷)や、口は悪いが優しい義妹・於勝(甲斐京子)、おとなしい義妹・小陸(瀬戸摩純)に囲まれて幸せな毎日を送っていた。京都にいる青洲の遊学費用のため今日も4人で機を織っていると、研究にひと区切りがついたという青洲が急に帰宅する。大喜びの於継はあれこれと青洲の世話を焼くが、新郎不在のまま式を挙げ、そのまま暮らしてきた加恵は出る幕がない。その後も研究に没頭する青洲は加恵に優しく接するものの、姑と嫁との争いは次第に激しさを増してゆく。数年後に青洲の麻酔実験が人体に及ぶと、我れ先にと自らの身を差し出すふたりだったが……。記者会見では、「これまで素敵な於継ばかりを見てきましたので、大きなお役すぎて自分が演じるなんて考えたこともありませんでした」と、率直な心境を吐露した水谷。「でもこれから稽古を通して、加恵に青洲を渡したくないという気持ちをどう感じていけるか。その実感を経て、初日までにまた違った於継を表すことが出来れば」と決意を語った。その横で「(水谷は)於継と性格的に似ているから大丈夫」と笑わせたのは波乃。小陸と加恵で4度の出演経験があり、「杉村先生に厳しく教えていただいたり、父(先代勘三郎)が惚れこんで青洲を演じたりと思い出の詰まった作品。今回はお姉ちゃま(水谷)が於継ということで、加恵として嫁姑の火花を散らさなければと思っています」と語った。「憧れの新派の舞台に出られるとは」と緊張気味の三田村も、「脚本の完成度が素晴らしくて、さすがは有吉先生と感動しました。テレビドラマによくあるような嫁姑の戦いに終始しないのも面白いですね」と感慨深げ。その言葉通り、美しい女同士の闘いを通して、人間の本質が丹念に描かれており、観劇後には深い余韻を残す。そして、於継や加恵、於勝、小陸とそれぞれに女の業を見せる姿に、観る者はつい共鳴してしまう。そこに、本作が愛され続ける理由はあるのだろう。6月4日(月)から23日(土)まら東京・三越劇場にて上演。チケットは4月30日(月)に一般発売開始。その後、栃木、岐阜、京都、岩手、静岡、滋賀、愛知、石川で公演を行う。取材・文:佐藤さくら
2012年04月20日いまや老舗劇団として、また久本雅美や柴田理恵、佐藤正宏、梅垣義明など人気者が多数所属することでも知られるWAHAHA本舗。4月14日に東京・日本青年館で開幕した舞台『ミラクル』は、結成28年を経てなお攻め続けるWAHAHA本舗の底力を見せつけるものだった。WAHAHA本舗全体公演「ミラクル」チケット情報2006年の『NHK紅白歌合戦』で話題になった裸タイツをはじめ、梅ちゃん(梅垣)のシャンソンコーナーや、2009年入団の正司歌江、2010年入団のアジャ・コングが華を添えるネタもの、久本と柴田のここでしか見られない漫才など、その内容はバカバカしさとシモネタ満載。頭をカラッポにして思いきり笑えるステージだ。そして今回、『ミラクル』と銘打たれた公演のテーマは、なんと「祈り」。あの“大物歌手”のナレーションで幕が上がると、白いエンビ服を着た劇団員がズラリと登場。いつもなら、平均年齢45歳という彼らが必死に踊るダンスに笑うのだが、今回はなにやら違う様子だ。静かに流れ出す曲は、60年代のヒット曲『アクエリアス~レット・ザ・サンシャイン・イン』。全身で想いを表すような激しいダンスに笑顔はない。途中から座長・大久保ノブオが東日本大震災での記憶を、叫ぶように曲に重ねてゆく。元は若者たちの葛藤を描いた名作ミュージカル『ヘアー』のナンバー。思いがけず胸が詰まるような気持ちになるなか、オープニングが終わった。あえてストレートにこのシーンで始めたかったという、作・演出の喰始の言葉が大久保から紹介された後は、久本と柴田のMCも加わっていつもの“最高にくだらない”ステージに突入!その一発目が10年ぶりの復活演目だという「ハダカ影絵」なのだから、改めて振り幅の広さに笑ってしまった。全裸になった男性陣が、巨大な布の向こうで下半身(前張りナシ)を存分に利用した影絵を披露。プリミティブアートのような大らかさに、恥ずかしそうにしていた女性客も思わず爆笑。その後も趣向を凝らしたコーナーが20種ほど、10分の休憩を挟んで3時間たっぷり続く。意外にも本公演では初めてという、梅ちゃんが豆を鼻から飛ばしながら歌う『ろくでなし』や、久本のツッコミと柴田のボケが冴え渡るヘビメタ漫才、裸タイツの女性キャストと女装着物姿で日舞を舞う男性キャストのコラボなど、笑いの連打に客席も大喜び。中でも“綾小路ひさまろ”(久本)の独り身女性漫談は、テレビで見かけるそれ以上にひねりが効いて秀逸。お客様のリアルな不幸エピソードを読み上げ、客席まで行って励ますミニコーナーと共に、“バカでもダメでもいいじゃない”という弱者への共感とエールが、ひしひしと伝わってきた。公演は4月21日(土)の東京・オリンパスホール八王子、6月15日(金)から24日(日)まで東京・天王洲銀河劇場ほか、全国各地で7月8日(日)まで開催。チケットは一部を除き発売中。取材・文:佐藤さくら
2012年04月19日『ロングバケーション』『素直になれなくて』など大ヒットドラマの脚本家として、多くの女性ファンをもつ北川悦吏子。初の舞台脚本を手がけた『彼女の言うことには。』は、そんな北川の“恋の格言”が散りばめられた話題作だ。ストーリーは国際線のフライトで偶然隣り合った男女が、最初は反発しながらも次第に恋に落ちてゆくさまをコミカルに描くもの。主人公を演じる真矢みきが、等身大の恋愛模様に舞台では初めて挑むほか、相手役となる筒井道隆も恋愛ものに久しぶりの出演。さらにキャビン・アテンダント役の矢田亜希子は初舞台と、初モノ尽くしとなった本作。4月15日の東京・PARCO劇場での初日に先立ち、14日、舞台稽古の様子がマスコミに公開された。「彼女の言うことには。」チケット情報物語は主人公の夏来(真矢)が、パリ発東京行きのフライトに乗り込むところから始まる。見知らぬ男女が機内で隣り合うのはよくあることで、元カレからのメールが気になる夏来には隣に座る是枝(筒井)など目に入らない。キャビン・アテンダント(矢田)もテキパキと仕事をこなしつつ、他の乗客チェックに抜かりない様子だ。夏来の一見美人だが、若干空気の読めない行動ぶりに、最初は迷惑顔の是枝。だがフラワー・アレンジメントとドラマの作曲家という互いの仕事について話すうち、苦労して独立した大人同士だからこそ共感できる思いから、次第に互いの理解が深まっていく。さまざまな思いが交差するなか、飛行機は東京に到着……。恋にも仕事にも一生懸命、美人でイイ人だけれど、どこか空回り……。そんな女性を、前半ではコメディエンヌぶりを発揮して演じている真矢。ともすればただの“イタい”女になりがちだが、是枝が惹かれてしまうのは、夏来を演じる真矢自身のチャーミングさゆえだろう。その是枝を演じる筒井も、前半はひたすら受けの演技。夏来に戸惑う様子はハマり役で、それが後半、是枝の背景が明らかになるにつれ色を帯びていく表情がなんとも魅力的。クライマックスのひと幕では、“こんな男性と出会いたい”とつい思ってしまったほどだった。劇中のスパイスとなっている矢田は美しい立ち姿はもちろん、茶目っ気のある表情や柔らかく落ち着きのある声が心地いい。初めてとは思えない舞台度胸にうならされた。公開稽古後に行われた会見では、「観た後にお酒を飲みに行きたくなっちゃう舞台。お客さんもぜひ楽しんで」と北川が語れば、「もがきながら生きている、滑稽だけれど素敵な大人の物語」と真矢。「恋愛ものは久々で恥ずかしいけれど、共演が素敵な女性ばかりで光栄です」と照れながら話す筒井や、「お稽古は大変でしたけど、学ぶことが一杯。毎日が楽しい」と笑顔の矢田など、和気あいあいの様子で話していた。キャストの魅力も存分に生かされたこの舞台。観た後に少しだけ前向きになれる、そんなハートウォーミングな1本だ。公演は5月6日(日)までPARCO劇場にて上演。チケットは発売中。その後、名古屋、大阪、福岡と各地を回る。チケットは一部を除き発売中。取材・文:佐藤さくら
2012年04月16日2009年に劇団四季を退団後、昨年から俳優活動を再開した柿澤勇人。退団後初の舞台となった2011年秋の『スリル・ミー』では、ニーチェの超人思想に傾倒して“私”(松下洸平)を支配しようとする“彼”を見事に演じきり、話題となった。以降、映画『カイジ2』や連続ドラマ『ピースボート』など、映像作品にも進出。舞台での美しく伸びのある歌声はもちろん、線の太さの中に繊細さも垣間見せる独自の存在感で印象を残している。今年は5月に村上春樹原作、蜷川幸雄演出の『海辺のカフカ』、7月には栗山民也が演出を続投する『スリル・ミー』の再演と、日本を代表する演出家との仕事が続く。柿澤勇人関連のチケット情報柿澤に『海辺~』への出演について尋ねると、せきを切ったように作品への思いを語ってくれた。「僕の演じる“カラス”は、柳楽優弥さん扮する“カフカ”の分身のような存在……なんですが、中学生の頃から村上さんの小説を好きで読んでいた自分にとっては、色々とイメージを膨らませられる存在でもあります。誰の心の中にもいる“もうひとりの私”だったり、内面に抱える“銃のトリガー”や、あるいは解離性障害の比喩なのかもしれない、とか。蜷川さんにはあまり考え過ぎるなと言われているので、結局は稽古場に委ねることになりそうなんですが(笑)。蜷川さんの稽古場にはもう何度も見学に行っているんですけど、見ているだけで楽しい。だから『海辺~』の稽古に入る日が待ち遠しいです」。一方の『スリル・ミー』は、1920年代の伝説的犯罪を元にしたミュージカル。“彼”と“私”の同性愛的関係が招いた事件を描いたサスペンスで、2005年のオフ・ブロードウェイ初演以来、各国でロングランが続いている。7月の公演では、柿澤と松下ペアを含む4組のキャストでの上演。「実は初め、“彼”の気持ちが全く分からなかったんですよ。“私”に対する酷い振る舞いも、なんだコイツ!と思っちゃって(笑)。でも初演を終えた今は、“彼”は本当は寂しくて愛されたかった人なんだと分かってきて。もしかしたら人は、寂しさからこういう行動をしてしまうのかもしれないと思うようになりました。この作品はふたり芝居だし、舞台の上には椅子と階段だけ。栗山さんからも余計なことはしないでと伝えられていて、僕と松下くんはヘンに肉付けとかをしないで舞台に立っています。本当に、役者同士で作る舞台だなって実感していますね」。インタビューの間、真剣に考え込んだり楽しそうに笑ったりと、飾らない表情を見せてくれた柿澤。奇しくも両演出家が放った“素のままで”という言葉は、そんな柿澤の魅力を端的に伝えているようにも思える。まさに、この2作品から始まる彼の変遷。見逃す手はないだろう。『海辺のカフカ』は5月3日(木・祝)から20日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場、6月21日(木)から24日(日)まで大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!にて上演。ミュージカル『スリル・ミー』は7月15日(日)から29日(日)まで東京・天王洲銀河劇場、8月に大阪にて上演する。取材・文佐藤さくら
2012年04月06日2007年12月にブルーマン初のアジア公演としてスタートした『BLUE MAN GROUP IN TOKYO』が、3月31日、ついに千秋楽を迎えた。セリフなしでパフォーマンスを繰り広げる3人のブルーマンと4人のミュージシャンで贈るステージは、1987年にニューヨークで結成以来、国籍・年齢・性別を問わない面白さで世界中のファンに愛されてきた。日本では六本木の専用劇場「ブルーマンシアター」にて2009年11月までのファーストラン、さらに2010年4月から2012年3月までのセカンドランで、1388回80万人を超える動員数を達成。そのフィナーレとあって、開演前から会場は熱気であふれていた。客電が落ち、ブルーマンの姿が舞台上に現れると、大歓声と拍手で興奮はマックスに。いつも通りの飄々とした間合いでステージを展開していくブルーマンだが、その一挙手一投足に「おぉー!」という感嘆や笑いがあちこちで漏れる。千秋楽だけに観客はリピーターが多いはずだが、頭を真っ白にしてその場で起きることに反応していくのが、このステージの楽しみ方。ブルーマンに別れを惜しむ大勢のファンは、最後の最後まで、そのやり方をまっとうしているように見えた。白い紙と巨大なボールが客席を埋め尽くすエンディングでは、毎回のカタルシスと共に約4年間のステージとその他の活動が懐かしく思いだされるひと幕も。最後はキャストとスタッフが裏方まで全員ステージに現れてのカーテンコール。金色の紙吹雪が舞う中、千秋楽の幕が閉じた。紅白歌合戦やサマーソニックに出演する一方、地元の夏祭りに参加したり、東京都に避難中の東日本大震災の被災者を招待したりと、積極的に日本という国との交流を図ってきたブルーマン。東北地方復興支援活動「CONNECT~ツナグ・ツナガル~」では、東北地方の名産品とのコラボを発売。終演後にブルーマンが観客と触れ合っての募金は、活動を開始した昨年4月16日から今年の2月末時点で7,153,841円にもなった(千秋楽まで続行)。ディレクターの深谷好隆氏は、「ブルーマンのポリシーは、その国に根ざして公演をすること。専用劇場を建てることから始まったプロジェクトは無謀とも言われましたが、さまざまな過程を経て、その目標は達成できたと自負しています」と語る。今後については「公演の予定はないですが、ここで生まれた絆を大切に、いつか何かをお見せできれば(笑)」と含みをもたせた。まずは人々の記憶と記録に残るステージを見せてくれたキャストとスタッフに、心からお疲れ様と言いたい。取材・文佐藤さくら
2012年04月02日蜷川幸雄演出による〈彩の国シェイクスピア・シリーズ〉の第25弾として、ロマンス劇『シンベリン』が上演される。シェイクスピアの作品群でも異彩を放つ本作は、多面的な登場人物と入り組んだプロット、波乱万丈のストーリーが見どころ。阿部寛、大竹しのぶ、窪塚洋介、勝村政信、浦井健治、瑳川哲朗、吉田鋼太郎、鳳蘭ら、そうそうたる顔ぶれが全力で息を吹き込む本作。4月2日(月)に彩の国さいたま芸術劇場にて開幕する日本公演に続き、5月にはロンドンオリンピックの前夜祭である『ワールド・シェイクスピア・フェスティバル』に招かれている。開幕を目前に控えた稽古場は、熱気であふれていた。『シンベリン』公演情報物語はブリテン王シンベリン(吉田)が、ひとり娘イノジェン(大竹)と幼なじみのポステュマス(阿部)の結婚に激怒するところから始まる。ローマに渡ったポステュマスは現地で知り合ったヤーキモー(窪塚)と語り合ううち、妻の貞節について財産を賭けることに。早速ブリテンに渡りイノジェンを誘惑するヤーキモーだったが、イノジェンは当然その誘いをはねのける。その夜、イノジェンの寝室に忍び込み、ポステュマスが贈った腕輪を盗んで帰国したヤーキモー。不義の証しとして彼から腕輪を示されたポステュマスは、全てを失った悲しみにイノジェンへの復讐を誓う。一方、夫のいるローマへ男装して向かうイノジェンの前に、ギデリアス(浦井)とアーヴィレイガス(川口覚)兄弟が現れて……。稽古場に入ると、まず浴衣やガウン姿で稽古を待つキャストたちが目についた。稽古場いっぱいに広がる楽屋鏡や化粧道具の数々は、実際に舞台で使われる物だそう。その横でスタッフやキャストに声を掛けつつ歩き回る蜷川と、和やかに応える彼らの様子は、まるで大衆演劇の一座のよう。剥き身の関係性が熱を放つそんな空気感は、稽古に入るとますます高くなった。静かにたたずむポステュマスの阿部が次第に激昂してゆく姿や、無垢な王女イノジェンに扮した大竹の、刻々と移り変わる横顔。そして誘惑者ヤーキモーを演じる窪塚の細い体躯からにじみ出る、不思議な存在感。そのどれもが生々しく、湿り気をもった体温として伝わってくるようだ。さらにシンベリンと先妻の息子クロートン(勝村)とのコミカルなやりとりや、ひそかに奸計をめぐらす王妃(鳳)の場面など、このキャスト陣ならではの自在な表現力に稽古場の全員が引き込まれるひと幕も。まさに最後まで目が離せない、極上のエンタテインメント。そのエネルギーを全身で浴びられるであろう本番を、楽しみに待ちたい。埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて4月2日(月)から21日(土)まで。その後、福岡・北九州芸術劇場 大ホール、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、ロンドンのバービカン・シアターにて上演される。取材・文:佐藤さくら
2012年03月29日生活密着型天気予報を配信する株式会社ライフビジネスウェザーは、“東北のさくらをみんなで見に行こう”をコンセプトにした「さくらで元気プロジェクト2012」の第4回さくら開花予想・見ごろ予想を7日発表した。(東京都心では、7日に今年初めて気温が15℃を超えて以来、春めいた陽気が多くなってきてはいるものの、寒の戻りの影響もあるため開花予想は1週間ごとに大きく変動している。今後の気候次第ではあるが、14日発表の予想では東京の開花予想日は31日、見ごろとなるのは4月7~8日の週末前後となりそう。また、桜前線が福島県に到達するのは4月13日で、それから約半月かけて東北地方を北上し、ゴールデンウィークは東北北部で見ごろを迎えるとの予想だ。同サイトは毎週水曜日にデータが更新され、5月中旬~下旬にかけて更新される。【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年03月16日大人計画に所属する役者として、またミュージシャンとして、いま各界から注目を集めている星野源。そんな彼の初主演作『テキサス』の稽古場を、3月17日(土)の初日まであとわずかという某日、都内のスタジオに訪ねた。『テキサス』チケット情報元々は“HIGHLEG without JESUS/長塚JESUS”として、長塚圭史の作・演出で2001年に上演された作品。当時その“HIGHLEG JESUS”を率いていた河原雅彦が、今回は演出と出演で参加する。上演当時の長塚は26歳、河原は32歳。共に下北沢の小劇場界で中心となって活動していただけに、疾走感と熱気にあふれた本作が2012年バージョンとしてどう生まれ変わるか注目だ。一新されたキャストは星野をはじめ、福田転球、政岡泰志、伊達暁ら、小劇場の遺伝子を持ちながら今では多方面で活躍する面々。加えて活躍目覚しい木南晴夏と野波麻帆、舞台出演も多い岡田義徳と高橋和也、さらにベテラン松澤一之と死角なしのキャストが実現した。舞台は東京から遠く離れたある村。恋人の伶菜(木南)と帰郷したマサル(星野)は、姉の聖子(野波)や長内駐在員(松澤)、友人のヤノケン(伊達)が様変わりしていることに驚く。かつて村に存在していた「一番大きな卵を産む雌鶏が一番の強者」という掟を信じて持ち帰った鶏も、ルールが変わったために村の強面・川島(高橋)の軍鶏にあっさり負けてしまう。伶菜を連れ去られ落胆するマサルに、借金の取立屋・四ツ星(岡田)は容赦なく返済を迫る。さらに姉の恋人・沼田(政岡)やヤノケンの友人の牛沢(福田)、マサルを好きだったという元同級生の千鶴子(吉本菜穂子)らも押しかけてきて……。稽古場に入ると、ちょうど終盤のシーン。何かを背負ったような暗い目をして叫ぶ星野に、目をギラつかせて対峙する高橋という構図に目を奪われる。いったん芝居を止め、星野と高橋に「ここまでやってもいいんじゃない?」と自分でやってみせる河原。一筋縄ではいかないストーリーだけに、微細な方向性が要となるのだ。考えつつうなずく星野だが、それでも気負う様子はない。その後も周囲とのやりとりに集中していく表情に引き込まれた。短い休憩の後は、いよいよ荒通し。冒頭で実家に帰ってくるときの星野は、まだ笑顔だ。野波や政岡とのやりとりや、どこか弱そうな取立屋の岡田にはスタッフからも思わず笑いが。それだけに、次第に見えない闇に引きずられていく登場人物たちの生々しさに戦慄を覚えた。刻々と変わる演者の表情は、まさに舞台でしか見られないもの。劇場で体感する日を、楽しみに待ちたい。公演は3月17日(土)から4月8日(日)まで東京・PARCO劇場にて開催。その後、4月14日(土)・15日(日)に大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、4月17日(火)・18日(水)に愛知・名鉄ホールにて上演。チケットは発売中。取材・文佐藤さくら
2012年03月14日現在人気上昇中のアイドルグループ“さくら学院”が、ライブとドキュメンタリー映像を収録したDVD『さくら学院 FIRST LIVE & DOCUMENTARY 2010 to 2011 ~SMILE~』を6月27日(水)に発売する。“さくら学院”は学校生活と、バトン部、重音部などのクラブ活動をテーマに、さまざまな分野で個性を表現していく成長期限定ユニットとして2010年4月に“開校”。小学5年生から中学3年生までの12人からなるグループで、「アイドルを超えた、スーパーレディになること」、「卒業まで常に完全燃焼すること」などを学院の校則として活動している。公開授業と題したイベントや、TV、ラジオ、雑誌などを活躍の場とし、現在放映中のNTTフレッツ光のCMでは“光の天使”として出演も果たしている。今年の3月には、現在中等部3年生の武藤彩未(生徒会長)、三吉彩花、松井愛莉の3人がリアルにグループから卒業する予定で、本DVDには、同月24日(土)、25日(日)に行なわれる卒業ライブの模様も収録される。期間限定ユニットとして注目を集める彼女たちの素顔や、結成から卒業までの成長をうかがえる、ファン垂涎の映像集になりそうだ。『さくら学院 FIRST LIVE & DOCUMENTARY 2010 to 2011 ~SMILE~』6月27日(水)発売6090円(税込)発売元:アミューズソフト
2012年02月27日舞台『戦国BASARA』シリーズや『深説・八犬伝~村雨恋奇譚~』などの脚本・演出を担当して人気の西田大輔が、主宰する劇団AND ENDLESSに戻り、あの“三国志”に挑戦する。『RE-INCARNATION』と題された本作は、米倉利紀(諸葛亮孔明役)や中村誠治郎(趙雲子龍役)、広瀬友祐(夏候惇元譲役)らが出演する豪華版。コミックの原作やアニメの脚本なども手掛け、エンタメ性豊かに人間ドラマを描いてきた西田が、誰もが知る歴史絵巻をどう描くのかに注目が集まる。1月下旬、都内の稽古場を訪れた。『RE-INCARNATION』チケット情報稽古場に入ると、汗ばむほどの熱気にまず驚いた。あちこちで自主稽古を繰り返していたキャストのテンションは、立ち回りの稽古に入ってますます上昇。長槍、刀、剣など様々な武器を手に、ダイナミックなアクションショーンが連続して展開する。入れ替わり立ち代わりのキャストたちは「もっと早く!」「いけ!」などと盛んに声を掛け、抜群のチームワークを垣間見せるひとコマも。そんな中、華やかな扇子を持って登場したのは孔明役の米倉。突っ込む追っ手を鮮やかにかわし、敵勢を睨む姿はすでに知将の風格だ。新感覚の“三国志”に、俄然期待が高まった。「西田さんの描く世界観に惹かれて出演を決めました」という米倉は、孔明を演じるにあたり、細かい下調べは要らないと西田に言われたという。「もちろん頭の切れる男というのはベースにありますが、この作品ではユーモアや人間くささもたっぷり描き込まれている。それならイメージを固めないで稽古に入ったほうが、孔明の芯をとらえることが出来ると思った」と稽古を楽しんでいる様子。得意のアクションで自主稽古のリーダーを担う中村も、「一体感はお客様に伝わると思うから、そこは大切に」としつつ、「趙雲は優しくて強い男。恋愛もあるので、芝居の部分でもきちんと見せられれば」と意気込む。長槍で激しい立ち回りを見せる広瀬は「夏候惇は戦闘能力が95で知能は40と言われたので、普段の僕と似てるかな」と笑いながらも、「西田さんやキャストとのやりとりを重ねて、熱くて野太い夏候惇を作っていきたい」と話した。本作の焦点について、「中村くんもそうですが“見せる表現”に長けた人たちが奇跡的に集まったこと。そして才能を持ちつつ、常に真摯な米倉さんが孔明を演じること。このふたつによって“孤高の男が光を見つける物語”を描けると思いました」と西田。「お客様も一緒にその光を探してほしい」と結んだ。公演は2月10日(金)から19(日)まで東京・全労済ホール/スペース・ゼロにて開催。チケットは発売中。取材・文佐藤さくら
2012年02月08日元宝塚歌劇団のトップスターが集まり、宝塚の歌を中心に歌うチャリティコンサートが注目を集めている。鳳蘭、愛華みれ、水夏希、大和悠河、大鳥れい、白羽ゆりの6人が出演する『東日本大震災復興支援メモリアルコンサート~宝塚の歌にのせて~』がそれだ。まずは2月22日((水)、23日(木)に東京・日本青年館でコンサートを行い、その収益をもって同27日(月)に福島・いわきアリオス大ホールで公演(愛華、水、大鳥、白羽が出演)。こちらはゲストに福島県立磐城高等学校合唱部を迎え、被災者を中心に無料で招待した約1700人を前に行われる。宝塚を退団後、現在は女優として活躍する6名が叙情豊かな宝塚の曲を歌い綴る本作。都内でリハーサル中の水と白羽に聞いた。『メモリアルコンサート~宝塚の歌にのせて~』開催情報「このお話をいただいた時、ぜひ!とすぐに参加を決めました」というのは、3公演すべてに出演する水。在団時には1995年の阪神淡路大震災も経験している。「当時は入団2年目で、自分のことで精一杯。それからずっと“なにか出来ることはなかったんだろうか”と自問を繰り返していたので、このコンサートは自身にとっても意味があることなんです」と語る。同じく3公演に出演の白羽は、福島県福島市出身。「両親や親戚も被災したので、将来の光がなかなか見えないという被災者の気持ちは痛いほど感じています」と話す。2人とも震災後は何度も被災地に向かい、ボランティアに従事した。現地の様子を肌で知るからこそ、「宝塚の曲には心の底からの純粋さや前向きさがある。聴いていただくことで、少しでも明るい気持ちになってもらえたら」(水)、「東京のお客様の気持ちを福島にしっかり伝えたい」(白羽)との言葉にも熱がこもる。「震災後は正直、舞台なんてやっていていいんだろうかと悩むこともありました。でも被災地で“忘れられることが一番怖い”という声を聞いて、元気のある人が自分なりのやり方で、継続して支援していくことが大切なんだと気づいたんです」と水。白羽も「考えすぎて何をしたらいいのか分からないというのは、誰にでもあると思うんですね。でも、動かなければ何も始まらないということを、今回のことで実感しました」と話す。「舞台の魅力って、二度とない時間を演者とお客様が一緒に過ごすこと。それが生きているという実感にもつながるんじゃないでしょうか」(水)、「歌の力で、元気になる最初の一歩をお手伝いできれば」(白羽)と、舞台人ならではの想いも聞かれた。エンターテイメントだけが持つ力で広がる支援の輪。その歌声はきっと、聴く者の心に強く響くはずだ。なお、チケットは発売中。取材・文佐藤さくら
2012年02月02日『包帯クラブ』(2007年)『すべては海になる』(2010年)など、デビュー作の『誰も知らない』(2004年)以降も、主に映画というジャンルで活躍してきた柳楽優弥。21歳になった彼が新たに挑むのが、村上春樹のベストセラーを蜷川幸雄が舞台化する『海辺のカフカ』だ。柳楽が演じる田村カフカは、父親にかけられた“呪い”を乗り越えるために「世界で最もタフな15歳になる」と四国へ旅する役どころ。日本人演出による村上作品の上演は初めてで、蜷川の強い希望によって初舞台・初主演となる柳楽と共に注目を集めている。そんな初物づくしの本作について、柳楽が語ってくれた。舞台『海辺のカフカ』チケット情報「舞台に出ることになった決め手は何ですか?って聞かれるんですが、村上さんと蜷川さんのタッグに僕も協力させていただけると聞いた時に、『ウソでしょ?僕でいいんですか?』と訊いたくらいで“決め手”なんておこがましいです(笑)。ただ台本を読んで役に共感できるかどうかは、僕にとって分かれ道かもしれないですね。やっぱり情を込めて演じられるかっていうのは大切なので。今回はすぐにカフカとの共通点を感じたし、初舞台でもこの役なら出来るかもしれないと思いました」その具体的な共通点は何か尋ねると、「筋トレを欠かさないところとか……世界最強になる!と考えるところとか。僕の場合は30歳までにという違いはありますけど」と少し照れたように笑う柳楽。一方で「今、どんどん怖くなってきていて」と、不安と期待がないまぜになった表情も見せた。「周りには村上さんのファンも多くて、それこそ『海辺のカフカ』を読んで旅に出たといういうヤツもいるんです。そういう人たちが真剣に『期待してる』と僕に言ってくるので、その気持ちは裏切れないなと。こないだは蜷川さんの稽古場(下谷万年町物語)を見学させてもらったんですが、尊敬している藤原(竜也)さんが蜷川さんの厳しい指示にしっかりと応えている姿を見て、あんな信頼の形があるんだとうらやましくなりました。だから稽古では、そんなことも分からないのか!って蜷川さんに言われても、どんどん聞くようにしたいです」柳楽の言った“最強”とは、「強いだけじゃなく、優しくあること」なのだとか。彼自身がカフカ少年と重なって立ち現れる舞台。柳楽優弥という役者の感触を、ナマで感じられる絶好の機会と言えるだろう。公演は5月3日(木・祝)から5月20日(日)まで埼玉・彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて上演。チケットは2月18日(土)10:00時より発売開始。なお、チケットぴあでは1月31日(火)11:00まで先行予約(いち早プレリザーブ)を受付中。取材・文佐藤さくら
2012年01月26日劇作家/演出家の倉持裕が率いるペンギンプルペイルパイルズ、その2年ぶりの公演『ベルが鳴る前に』の稽古がスタートした。客演の奥菜恵と、オーディションで選んだ11人を迎えて、「劇団初期の頃のような」(倉持)、SF色の濃いストーリーを展開するという。作品の仕上がりを探るため、稽古中の奥菜と倉持を直撃した。ペンギンプルペイルパイルズ『ベルが鳴る前に』公演情報穏やかに澄んだ水面を眺めていると、思いもよらない不穏な影が下から徐々に浮かび上がる。小さな笑いに身を委ねているうちに、いつのまにか見知らぬ場所まで運ばれていることに気づく。倉持が描くのは、そんな心地よい裏切りと高い物語性に満ちた舞台だ。「物語の主軸はシルミ(奥菜恵)と恋人アロイ(小林高鹿)の“個人の事情”。それは村などの大義名分をもつ“社会の事情”と対立するようでいて、実は個人を優先することが社会にもつながるという部分を描きたい」と倉持。物語はトラックに乗ってどこかへ急ぐアロイと、乗り合わせた別のムラに住むダスタ(玉置孝匡)のシーンを何度も挟みつつ、“機械”のある村の外れや地下何層もの巨大な研究施設、さらに異常な自然現象が発生している町の集会所と場所を移しながら、その全貌を露わにしてゆく。この日に稽古していたのは、奥菜演じるシルミがアロイの作った"ある機械"を守って壁の前に立ちつくす場面。彼女の前には恋人の葬儀を始めようとする者や、無理やり“機械”を動かそうとする者など、次々にいわくありげな人々がやってくる。細かな間合いを何度も図って詰めてゆく倉持や、さまざまなやり方でスタッフまで笑いに誘うキャスト陣の中で、無造作なジャージ姿ながら強い光を放つ瞳の奥菜が印象的だ。彼女のきっぱりとした、同時に甘さを帯びた声で語られる言葉によって、物語はさらに謎を深めるようで……。倉持の構想にまずあったのは“人と機械”。好きでよく読むというスチームパンクの色合いを備える本作で、「芯にはどうしても奥菜さんの存在感が必要だった。人間性と無機質さの両面があるのも魅力」と語る。対して、倉持とは昨年のリーディング公演『瓶詰の地獄』に続いてのタッグとなる奥菜は「作品のすべてを飲み込むのはまだ時間がかかりそう」と笑いながらも、「一つひとつのセリフが深い。どういう意味だろうと想いを巡らせながら楽しくやっています」と話す。ちなみに身体の一部が機械になっている女性が描かれたフライヤーは、人気漫画家の中村明日美子によるもの。「タイトルもあえてシンプルなものにした」(倉持)というその真意は、ぜひ劇場で確かめてほしい。公演は、2月16日(木)から22日(水)まで東京・本多劇場にて上演。チケット発売中。取材・文:佐藤さくら
2012年01月24日ドラマ『素直になれなくて』『ビューティフルライフ』の脚本や、近年では映画『ハルフウェイ』の監督を手がけるなど、映像のフィールドで活躍してきた脚本家・北川悦吏子がついに“初舞台”に挑む。北川が初めて舞台の脚本を手がける『彼女の言うことには。』で主演を務めるのは、毎年「理想の女性上司ランキング」で上位に入るなど、ハンサムウーマンぶりで幅広い層に人気の真矢みき。共演には筒井道隆と矢田亜希子も決まり、舞台での北川ワールドに期待が膨らむ。演出は昨年のドラマ『それでも、生きてゆく』が話題を呼んだ永山耕三が担当。北川とドラマ『ロングバケーション』でタッグを組んだ仲だけに、表現の場を舞台に移した本作でどんな化学反応を起こすのか注目だ。『彼女の言うことには。』チケット情報物語は、パリ発成田行きの飛行機の中で、隣り合わせた男女が恋に落ちるか落ちないか、というもの。ほぼワンシチュエーションというのは北川作品でも初めての試みで、これも舞台ならでは。そして真矢が演じる主人公は一見イイ女なのだが、どこか一生懸命な様子が滑稽でもあり……という役どころ。「ちょっとカッコつけて洋書を読んでみたり隣に座った人が気になったりと、私が普段機内でやっていることがそのまま描かれていてビックリしました(笑)」とは、台本を読んだ真矢の感想。対する北川は「真矢さんってクールビューティーに見えるけど、バラエティ番組とか素の時の彼女をみたら、“面白(おもしろ)、かわいい人だ!てわかっちゃったんです。視線の動き方とか(笑)。そこからどんどんヒロインのイメージが膨らみました」とさすがの洞察力を披露。「それにせっかくこんなチャンスを頂いたのだから、ドラマでは出来ないことを全部やろうと。だから書くのはすごく苦しかったけれど、初めてのことばかりで楽しかったですね」と北川。真矢も「こういう等身大の女性で、恋愛が絡む役というのはほとんど初めて。新しい役は常に挑戦と思って挑みたい」と意気込みを語った。対談中も「脚本はリアルに、こういうことあるある、っと思えてもらえてナンボだと思ってます。だから、自分が経験した見苦しいこと、つらいこと、情けない思い、満載です(笑)」と話す北川に、「私もそのタイプで、だからしょっちゅう頭をぶつけてばかり」と共感しきりの真矢。「よくある恋愛ドラマのような展開はつまらない。雨降りの軒下で雨宿りをした男女が、一瞬で恋に落ちる、みたいなのがいやなんです。隣り合った飛行機の中。12時間あれば、化粧もはげるし、寝たら鼾もかくかも、という長すぎる出逢いをコミカルに描きたかった」(北川)、「北川さんの脚本はト書きに『さて、ここでどうなるか』と呼びかけがあって、こちらもどうやろうかって考えるのが楽しい」(真矢)と、まさに脚本家と女優のコラボを予感させる本作。演劇好きだけでなく、ドラマ好きにもオススメの一本となりそうだ。取材・文佐藤さくら公演は4月15日(日)から5月6日(日)まで東京・パルコ劇場にて上演。チケットは年3月3日(土)より発売開始。その後、名古屋、大阪、福岡と各地を回る。
2012年01月20日2011年1月にサンシャイン劇場で開幕するやいなや噂が噂を呼び、回によっては当日券を求めて300名がキャンセル待ちをし、最終動員数が1万人を超えた舞台をご存じだろうか。独立ローカル局23局で放送中の歴史バラエティ番組『戦国鍋TV』の舞台版『新春戦国鍋祭』がそれで、待望の第2弾『大江戸鍋祭~あんまりはしゃぎ過ぎると討たれちゃうよ~』は、伝統ある明治座での上演となった。武将たちを時には真面目に、大体は笑い満載で演じるのは、若手の俳優たち。そんな彼らと共に、TVと舞台の両方から集結した強力なスタッフ陣が全力で遊び倒して作っているのだから、面白くないわけがない。史実の小ネタやミュージカルのパロディでニヤリとさせながらも、奮闘する俳優たちの姿で演劇ビギナーまでをもグイグイ引き込んでゆく。それが本シリーズの醍醐味なのだ。『大江戸鍋祭~あんまりはしゃぎ過ぎると討たれちゃうよ~』公演情報公演を2週間後に控えた12月某日、都内の稽古場は熱気にあふれていた。“何となく歴史が学べる”というTV版のコンセプトはそのままに、今回の舞台で取り上げる題材は、『忠臣蔵』。稽古場の中央では演出の板垣恭一が、柳沢吉保役の三上真史と徳川綱吉役の村井良大のやりとりを詰めていた。まずは武士であることの品格や立ち居振る舞い、次いで笑いの部分のテンポ、さらには明治座という大劇場での客席への意識の向け方。すべてを指摘し何度も繰り返される板垣の指摘に、必死に食らいついてゆくふたり。だが途中で彼らから出た「こうしてみては」という案にもすぐに乗るのが、板垣始めスタッフの柔軟さだ。本番の客席に成り代わって即反応を返すスタッフ陣の笑い声も、場面が修正されていくに従ってどんどん大きくなっていった。「番組でも舞台でも、歴史上の人物たちへのリスペクトがまずあるんです」というのは、初演から続投の村井。初出演ながら座長を務める三上も「真面目さと思いっきり楽しむことのメリハリは、スタッフもキャストも同じですね」と語る。今回は『忠臣蔵』に幕府側の暗躍が絡むオリジナル・ストーリーとなるが、「男たち一人ひとりに“正義”がある」(三上)、「国を治めなければならない者の決断」(村井)など硬派な魅力もキッチリと描かれる予定だ。同時に「そこを押さえつつ、いかに崩していくかが『鍋』」と笑う村井。2幕物の芝居の後は、ド派手な衣裳に歌とダンスで展開するショーというお腹いっぱいの4時間。「“元禄生態生類アワレンジャー”や“松の廊下走り隊7”など真剣にやるからこそ面白い。だから稽古もやることが一杯あって」とこぼす三上の顔は、その言葉とは裏腹に充実の表情だ。問答無用のエンターテインメント。そのきらめきを、大劇場の客席で目撃したい。東京・明治座での公演は12月23日(金)から26日(月)まで。12月31日(土)には大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて公演を行う。取材・文:佐藤さくら
2011年12月19日黒澤明監督の名作『七人の侍』をアニメ化し、高い評価を得た『SAMURAI 7』(2004年、GONZO制作)。2008年には舞台化もされ、2010年にはキャストを一部変えて再演されている。生身の役者たちならではの息遣いやスピード感あふれる殺陣などで人気を得た同作が、メインキャストを一新して3度目の上演を迎える。演出はつかこうへい作品なども手がけ、客席にダイレクトな熱量を伝える手腕に定評のある岡村俊一が担当。メインキャストには馬場徹や中河内雅貴、磯貝龍虎ら成長著しい若手役者がそろった。中川晃教と加藤雅也という前回からの続投組も健在で、娯楽作でありつつ、芝居の面でも厚みのある舞台が楽しめることは間違いない。11月某日、都内のスタジオでチラシ撮影に挑む馬場の姿を追った。『SAMURAI 7』チケット情報スタジオに入ると、擦り切れた着物に乱れた長髪を無造作に後ろにしばった馬場が、日本刀を携えて撮影の最中だ。馬場の演じるカツシロウは剣の腕はあるものの、一見すると物腰の柔らかい武家の青年という役どころ。美しさと共に鍛えられた体も必要となるが、馬場はまさにハマり役で刀の構え方も堂に入ったもの。それは昨年出演した『飛龍伝2010 ラストプリンセス』で晩年のつかこうへいから厳しい指導を受け、その後2本のつか作品で揉まれた経験が馬場の中にきちんと生きているからだろう。風の中を行くビジュアルイメージのために前と横からサーキュレーターの風を受けている間、重い刀を振りかざすポーズを繰り返し求められても集中力が途切れる様子はない。撮影終了の瞬間、思わずカメラマンはじめスタッフから拍手が起こった。「殺陣やダンスもふんだんに盛り込まれているアグレッシブな舞台」。撮影後、取材の席についた馬場に本作の印象を聞くと、そんな答えが返ってきた。カツシロウ役については「素直でどこか頼りないけれど、ここぞというときには強い面を発揮する男。劇中で成長も見せますし、演じる者としてはやりがいがありますね。ただ、これまでのカツシロウ役の方と比べて肉体派になってしまうかも……」。と笑う馬場は、現在23歳。18歳で注目を浴びたミュージカル『テニスの王子様』への出演から5年の間に先述のつか作品を始め、海外ミュージカル作品やストレートプレイなどでも着実に経験を積んできた。少年から青年への変遷は、そのまま役者としての馬場を形づくっている。「芝居を芝居としてやらない、という感覚が段々分かってきました。『テニス~』の時にコンビを組んでいた中河内くんとも久しぶりの共演なので、新しい気持ちで取り組みたい」。彼らが全力で“今”を駆け抜ける本作。見逃す手はないだろう。取材・文佐藤さくら公演は3月31日(土)にプレビュー公演後、4月1日(日)から4月8日(日)まで東京・青山劇場にて上演。チケットは1月22日(日)より発売。
2011年12月19日染五郎38歳、松緑36歳、そして海老蔵34歳。歌舞伎の家に生まれ、伝統を受け継いで互いに切磋琢磨してきた3人が、12月の東京・日生劇場で強力タッグを組んだ姿を見せている。「七世松本幸四郎襲名百年」と銘打たれた本公演は、明治・大正・昭和と偉大な足跡を遺した名優の記念興行。そのひ孫に当たる3人の顔合わせの妙はもちろん、若手中心の勢いに溢れた舞台からは、歌舞伎の道を黙々と進む彼らの、曽祖父への決意表明のようなものが改めて伝わってくる。12月7日に幕を開けた場内は、30代ならではの3人がぶつかり合う様子に早くも熱気で包まれていた。『日生劇場十二月歌舞伎公演』チケット情報演目は昼が『碁盤忠信』と『茨木』、夜が『錣引』に『口上』を挟んで『勧進帳』。『碁盤忠信』は七世が明治44年に襲名披露で上演して以来、なんと100年ぶりの復活。こんなところにも伝統と進取の融合を図る染五郎らの想いが込められているようだ。伝説に基づいた本作は、源義経の忠臣・佐藤忠信(染五郎)が舅の小柴入道浄雲(松本錦吾)の裏切りに遭い、手近にあった碁盤を振りかざして応戦する場面が最大の見どころ。桜が咲き乱れる中、大鉄棒を持った横川覚範(海老蔵)が登場し、忠信と荒事の立回りを繰り広げる終盤は、若手らしい勢いに溢れて爽快のひと言。一方の『茨木』は、渡辺綱(海老蔵)に片腕を切られた鬼の茨木童子(松緑)が、綱の伯母・真柴に化けて腕を取り戻しにやってくるという物語。松緑は優しげな老婆のたたずまいから、たちまち鬼の本性を現す一瞬にゾクリとさせる妖気を絡ませて魅せる。夜の部では、各々のニンに合った役どころの『勧進帳』が楽しい。海老蔵の豪快で茶目っ気のある武蔵坊弁慶、松緑の思慮深く端正な富樫左衛門、そして染五郎のどこかこの世を超越したかのような風情の源義経と、三者三様の魅力が味わえる。花道を飛び六方で引っ込む海老蔵の勇壮さは、まさに弁慶役者の面目躍如。思わず客席から歓声が上がるのが、海老蔵という役者を観る楽しさだろう。その他、平家の宝を巡る悪七兵衛景清(染五郎)と三保谷四郎国俊(松緑)の一騎打ちが様式美を伝える『錣引』、黒紋付の染五郎と松緑、海老蔵が並んで述べる『口上』など、どれもここでしか観られないものばかり。昼夜通して荒事の多いラインナップとなったが、本来、荒事は江戸市民の災いを払う神性も担って演じられてきたとか。ならば本公演を観ることで、来年の息災を願うのも一興だろう。12月25日(日)まで日生劇場で上演。チケットは発売中。取材・文佐藤さくら
2011年12月08日ほぼ毎年異なる土地に仮設劇場を設え、江戸時代の芝居小屋の熱気を感じてもらおうと、中村勘三郎を中心に公演を行ってきた平成中村座。今回は12年目にして旗揚げの地であると同時に、江戸時代の中村座が隆盛を誇っていた猿若町にほど近い浅草に帰ってきた。さらに話題のスカイツリーも目の前で、“伝統”と“いま”を併せ持つ平成中村座にはぴったりのロケーション。勘三郎や中村勘太郎、中村七之助ら中村屋ファミリーはもちろん、それぞれの月に看板役者を迎えて来年5月まで贈る本公演。11月1日の初日は勘三郎が病気療養を乗り越えての東京復帰でもあり、場内はこの日を待ちわびた観客で埋め尽くされた。『平成中村座』チケット情報今月の演目は、昼が『双蝶々曲輪日記 角力場』『お祭り』『義経千本桜 渡海屋/大物浦』、夜が『猿若江戸の初櫓』『伊賀越道中双六 沼津』『弁天娘女男白浪』。まずは昼の部、勘三郎演じる鳶頭がイナセに踊る『お祭り』に注目だ。いよいよ勘三郎が登場すると、客席から「待ってました!」の声がかかり「待っていたとはありがたい」とお決まりのやりとりが。鳴り止まない拍手のなか、江戸の男の粋や愛嬌、色気をたっぷりとふくんで踊る勘三郎。ラストにはなんと後ろの扉が開け放たれ、真後ろにそびえ立つスカイツリーが出現!客席から大きなどよめきが起こった。さらに『渡海屋/大物浦』では、碇を担いで入水する平知盛役の片岡仁左衛門がさすがの風格。大関の濡髪長五郎(中村橋之助)と幕下力士・放駒長吉(勘太郎)の睨み合いがコミカルな『角力場』など、それぞれに見どころ満載だ。夜の部で見逃せないのは、やはり『沼津』。生き別れの親子、雲助の平作(勘三郎)と呉服屋十兵衛(仁左衛門)が偶然出会い、客席を街道に見立てて歩きながらのアドリブも楽しい前半から、哀しい別れを選ぶラストまで細やかな芝居が続く。貧乏暮らしながら心を尽くして客人をもてなす平作の素朴な温かさ、洗練された商人だが言動の端々に優しさをにじませる十兵衛など、勘三郎と仁左衛門ならではの造形が胸に迫る。他にも初世勘三郎が芝居小屋の櫓を上げるまでを綴る『猿若江戸の初櫓』、女装の盗賊・弁天小僧を七之助が少年らしさを残しつつ艶やかに、南郷力丸を勘太郎が男くささを漂わせて演じる『弁天娘女男白浪』など、理屈抜きに楽しめる演目ばかり。藁の匂いや着物の衣擦れの音など、舞台と客席が近いからこそ得られる感覚も貴重。まさに歌舞伎の醍醐味をまるごと味わえる機会といえるだろう。取材・文佐藤さくら11月興行は11月26日(土)まで上演。その後2012年5月まで、ひと月ごとに演目を変えて公演が行われる。チケットは12月興行まで発売中。
2011年11月02日誰もが熱く生々しく、不恰好だが痺れるような痛みと共に生きていた1960~70年代。その時代をそれぞれに駆け抜けた蜷川幸雄(演出)と寺山修司(原作)の現代での邂逅が、10月29日に埼玉・彩の国さいたま芸術劇場で開幕した舞台『あゝ、荒野』だ。とてつもない熱量を演者にも要求する本作に挑んでいるのは、それぞれ2度目の蜷川作品となる松本潤と小出恵介。若手ながらくっきりと太い輪郭をもつ彼らの存在感で、テラヤマワールドが見事に現代によみがえった。初日の開幕前に囲み会見が行われた。あゝ、荒野』チケット情報ビルの合間にネオンがきらめく架空の街「新宿」。自信家ながら自らの現状に苛立っていた<新宿新次>(松本)は、<片目のコーチ>(勝村政信)に誘われて入ったボクシングジムで、同じくボクサーを目指す吃音の<バリカン>(小出)と出会う。両極端な性質ながら奇妙な友情を育んでいくふたり。だが欲望に対する強いエネルギーと自信に満ちた新次に対し、モノローグでしか心情を語れないバリカンは、新次と対戦することでしか自分は自由になれないと感じ始める。対戦のためにジムを移籍するバリカンと、黙って彼を見つめる新次。そしてついに壮絶な対決となる日がやってきた……。フォトコールでは、第1幕と第2幕からそれぞれ10分ずつ上演。第1幕の新次とバリカンが出会うシーンでは、オールバックに派手な白スーツ姿の松本に目が引きつけられた。周囲を睥睨するような鋭い眼差しを持ちながら、片目のコーチと話すときには鮮やかな笑顔がこぼれる。一方の小出も、地味なジャージに自信なさげな態度が、ひとたびスパーリングに入ると目つきがガラリと変わるのがさすが。そんなふたりが第2幕では、公園のジャングルジムで互いに胸の内をさらけ出し語り合う。まっすぐに上を目指す新次と、彼に憧れのような目を向けるバリカン。孤独な魂がふと寄り添う様子に、胸苦しいような切なさを感じたワンシーンとなった。その後行われた囲み会見では、「本物のリングを使って殴り合うし、セリフも膨大。精神的にも肉体的にも大変だけど、ふたり人ともよくやったと思う」と蜷川から率直な感想が。会見中も時折鋭い目つきになり、新次が抜けないように見える松本は「原作をとにかく読んで、あとは人に聞いたりしてイメージを膨らませました。あの時代の『新宿』を今の僕らが生きることで新鮮に伝えられたら」と意気込みを語った。「蜷川さんにはゲネプロまでけちょんけちょんに言われて……。松本さんとは(新宿の)ゴールデン街まで飲みに行きました。カキピーしかなかった」と毒づきながらも楽しそうな小出に、蜷川と松本が笑顔で突っ込むひと幕も。作品同様、固い信頼関係で結ばれた3人の様子に、血の通った舞台の理由を垣間見た気がした。取材・文佐藤さくら公演は11月6日(日)まで、同劇場にて上演。その後、11月13日(日)から12月2日(金)まで東京・青山劇場で公演が行われる。前売りチケットは完売。各公演の前日に、当日券販売整理番号の電話受付を行う。
2011年10月31日少年のようなたたずまいと骨太で強い眼差しを併せ持つ独自の存在感で、ドラマや舞台でも活躍中の三宅健が新境地に挑んでいる。10月28日に幕を開けた舞台『ラブリーベイベー』は、一見イマドキの男女7人がリゾートホテルで繰り広げるラブストーリー。だが物語が進むうちに、段々とかれらの本当の姿が現れ始め……。作・演出は昨年、佐藤佐吉賞優秀脚本賞を受賞した28歳の新鋭・河西裕介。小島聖、松本まりか、井端珠里、吉本菜穂子、伊達暁、菅原永二ら個性派ぞろいの役者陣を得て、三宅の新しい表情を引き出すことに成功している。初日前に行われたプレスコールと囲み会見に足を運んだ。『ラブリーベイベー』チケット情報舞台は東京から車で2時間ほどの隠れ家風リゾートホテル「スターダスト」。そのホテルに定期的に訪れる経営者の息子・恋司(三宅)は、6人の友人たちとどこにでもあるような友情や恋愛を育んでいた。ハルカ(松本)とカスミ(井端)のいつものケンカを、人のいいキョウコ(吉本)がなだめるのもしょっちゅうだ。ある夏の夜、風邪をひいて花火に行けないマナト(菅原)のそばに、恋司はさりげなく付き添う。ふたりで線香花火を楽しむささやかなひととき。その1年後、恋司の傍らには姿の異なるマナト(小島)が……。一部を抜粋して上演するプレスコールでは、前半の若い男女のやりとりから三宅のラブシーン、さらに三宅と小島の仲睦まじい現在までを。ヒルクライムの曲や夏の花火などで彩られた、ごく普通の20代の日常をナチュラルに表現できるのは三宅ならでは。さらに、そこへスルリと衝撃的な愛の物語を滑り込ませるのが、劇団ポツドールなどで俳優としても活躍する河西らしい演出といえるだろう。その後の囲み会見では、「恋司役は違和感なくやっています。(菅原とのキスシーン)では意外と唇が柔らかかった」と笑わせた三宅。続けて「人を愛することの大切さを改めて考えさせられる作品。観る方も先入観なしに見てもらえれば」と表情を引き締めた。小島は、「三宅さんは小動物みたいな人。人見知りがちな私にもチョロチョロっと入ってきてくれて雰囲気づくりをしてくださいました」と稽古場での様子を楽しげに話した。「スタッフ・キャストが一緒に作った舞台なので、初日が無事に迎えられて嬉しい」と緊張気味の菅原を笑いながら見つめる三宅ら、メンバーのチームワークはバッチリの様子。かれらが一丸となって挑む意欲作を、ぜひ目撃してほしい。取材・文佐藤さくら公演は11月13日(日)まで、東京グローブ座で上演。その後、11月17日(木)から20日(日)まで大阪・シアタードラマシティにて公演が行われる。チケットは発売中。
2011年10月31日巨大な舞台セットや瞬時にして収容される大奈落、専用の照明・吊り物用バトン、そして客席天井まで張り巡らされたフライング設備。それまでの常識を根底から覆す舞台機構を配備し、帝国劇場が『MILLENNIUM SHOCK』を上演したのが2000年のこと。それから11年、座長・堂本光一が率いる『SHOCK』シリーズは毎年公演を重ね、今年3月10日までに799公演147万人の動員数を記録。いまや世界中から観客を迎えるようになった本シリーズが来年1月に博多座、続いて2月から4月まで帝劇にて、連続4か月公演を行うことが決定した。10月26日、都内のホテルで行われた製作発表には、堂本光一のほかキャストの植草克秀、内博貴、ヒロインを務める神田沙也加が出席した。神田沙也加のほかの画像まずは東宝株式会社島谷能成代表取締役社長から、「初演から10年が経ち、構成・演出のジャニー喜多川さんからそろそろ外に出て行ってもいいんじゃないかという話が出て」、東京から一番遠い劇場をと博多座に決めた経緯を。その言葉を受け、博多座芦塚日出美代表取締役社長も「博多では若い人たちはもちろん、私たちの年代もこの公演を待ちに待っています。舞台機構も新たに準備し、万全の状態でお迎えしたい」と意気込みを語った。座長である堂本からは開口一番、「3月11日の東日本大震災により1幕でストップしたあの日から、僕たちの中では登場人物がそのまま止まっています。その続きを、博多座という素晴らしい劇場で再開できるのが嬉しい」という率直な心情が伝えられた。その言葉をうなずきながら聞いていた植草と内。「この作品に出るようになって、勉強になると同時に年齢を重ねるなかで勇気をもらっています」(植草)、「昨年7月に初参加した時は体験したことがない舞台に戸惑いました。でも公演を経た今では自分になかった部分が成長できたと思っています」(内)と、それぞれの胸中を。初参加となる神田も「帝劇内の稽古場から帰るときなど『SHOCK』を観終わったお客様と一緒になることがあるんですが、皆さん本当にキラキラした笑顔で。そんな素晴らしい作品に参加できて光栄です」と興奮気味に話した。フォトコールの前には、芦塚社長から500人分25㎏の明太子が贈られる粋なサプライズも。大喜びの神田らを前に、その一部が入った桶を持ち上げ「すごい!でもめっちゃ重い…」と嬉しそうな笑顔を見せた堂本。11月にはマイケル・ジャクソンの振付も担当したトラビス・ペイン氏のレッスンと本作の振付を受けにロスに向かうなど気合い充分。その全貌が明らかになる本番を、今から楽しみに待ちたい。公演は2012年1月7日(土)から31日(火)まで福岡・博多座で上演後、2月7日(火)から4月30日(月)に東京・帝国劇場にて公演。取材・文佐藤さくら
2011年10月27日フリーマガジン「R25」(リクルート刊)で話題となった連載コラム『スマートモテリーマン講座』。モテ系サラリーマンになるための道を指南するコラムながら、その内容はほとんどが面白ネタ的なもの。“もしかしたら効く……かも?”という絶妙なラインはそのままに、職場にひとりはいる“超草食男子”を主人公に据えて舞台化したのが本作だ。福田雄一の作・演出で好評を博した昨年に続き、今回は主人公を賀来賢人に変えての第2弾。初演時に「コラムのイラストそっくり」と言われた安田顕が今回もモテリーマン役に扮し、物語の外枠から主人公にツッコミを入れる役どころを務めている。10月11日、東京・天王洲 銀河劇場は初日から笑い声であふれていた。『スマートモテリーマン講座』チケット情報普通のサラリーマン小宮山慎次(賀来)はイケメンながら、超草食男子で女性と上手く付き合えない。同期の川瀬ゆり(岡本玲)に好意を寄せつつも、同僚の小島(大水洋介・ラバーガール)や山本(飛永翼・同)と“彼女を作らない同盟”を作り、伊達メガネや雑誌「LEON」など世の“モテ”に対抗する日々を過ごしていた。そんなある日、先輩のチャラ男・島田(川久保拓司)がゆりに急接近するのを見た慎次は、舞台を進行するモテリーマン(安田)が示すモテるワザをとうとう実践することに。ゆりとの出張話が持ち上がるなか、慎次は様々なテクニックを駆使して彼女に告白できるのか……!?原作からは、ゴミ出しの姿を見せて女子の心をくすぐる“ダストシューター”や、遠足を待つ子どものような無邪気さを強調する“ノスタルジー”など小ワザが続々と。ネタ色が強いためにリアルと乖離してしまうきらいもあるが、そこは最新のニュースや“会社あるあるネタ”を取り入れて力技でストーリーに着地する構成。劇団の主宰とバラエティ番組の放送作家、両方で活躍中の福田ならではの手腕だろう。演じる側もその点は悩ましいところだが、賀来は慎次の生真面目さに彼自身がもつ初々しさを重ねて健闘。岡本と川久保の振り切った演技や、賀来とラバーガール(大水・飛永)のコントさながらのやりとりなど、笑いのポイントも満載。ブルネットの髪にサングラス、ヒゲにスリーピースという怪しい風体の安田が、外枠に立つという“お約束”を無視してたびたび彼らに絡むユルさもコラムの魅力をそのまま伝えている。公演は10月19日(水)まで同劇場にて上演。チケットは発売中。取材・文:佐藤さくら
2011年10月12日5年目を迎えた、若手俳優集団D-BOYSによる舞台〈D-BOYS STAGE〉。第9弾は、アガサ・クリスティーの傑作ミステリーを昭和初期の日本に置き換えた、『検察側の証人~麻布広尾町殺人事件~』を上演する。瀬戸康史と五十嵐隼士が共同事務所を経営する弁護士に扮し、彼らを敵対視する検事に荒木宏文、殺害の疑いをかけられる青年に柳下大という配役だ。ほかにD-BOYSからは橋本汰斗と堀井新太が参加し、馬渕英俚可、平田敦子ら演技派の俳優陣と共に、初の本格ミステリーに挑む。10月15日(土)の初日に向けて彼らが汗を流す稽古場を訪ねた。『検察側の証人~麻布広尾町殺人事件~』チケット情報オープニングの舞台設定は、優秀だが堅物で女性にオクテな越方行長(瀬戸)と、同じく優秀だが時間にも女関係にもルーズな星野太吉(五十嵐)の弁護士事務所。かつては助け合って先輩のエリート検事・藤堂新之介(荒木)を負かしたこともあったが、最近は“あること”により関係がギクシャクし、もう3か月も新しい事件を手がけていない。彼らを心配顔で見守る事務員・片山健(橋本)だが、かつてのチンピラ仲間・神谷吾郎(堀井)は片山に戻ってほしそうな様子だ。そんな淀んだ空気の事務所へ、久しぶりの依頼者である立花洋一(柳下)が飛び込んでくる。親しくなった未亡人が殺害され、その容疑が掛けられているというのだ。唯一、アリバイを証言出来るのは洋一の妻・志摩子(馬渕)だけという不利な状況の中、越方と星野はこれを最後の事件と決めて取り掛かるが……。演出は、丁寧な感情描写と、生き生きとした役者の表情を引き出すことに定評のある鈴木裕美。〈D-BOYS STAGE〉は初めてだが、ベテランから新人まで幅広い役者と仕事をしてきた鈴木だけに、具体的で分かりやすい指示が続く。その内容は技術的な点はもちろん、若い彼らがこの作品を経てどう歩いていきたいかという話にまで及んだ。特に今回が初舞台となる堀井への演出は、彼のもつポテンシャルを細かく確認しながらの熱気あふれるもの。そんな鈴木に必死にくらいつきながら何度も稽古を繰り返す堀井と、彼をさりげなくフォローしつつ自分の役どころを深めてゆく瀬戸、五十嵐ら先輩たち。スキルや経験に差があるものの、自然に助け合いながら進んでいくこの空気感こそが、〈D-BOYS STAGE〉の魅力なのだと改めて感じた。瀬戸と五十嵐のシーンでは、対照的なふたりのテンポよい掛け合いに笑いが起こる。それぞれ東北出身と九州出身という役の設定により、ケンカがエキサイトすると……。立ち姿もスッとした彼らの意外な一面は、本番でのお楽しみだ。もちろん本格ミステリーだけに、緊迫感ある法廷シーンもたっぷりと。意外な結末と、弁護士ふたりの気になる行方は、ぜひその目で確かめてほしい。D-BOYS STAGE 9th『検察側の証人~麻布広尾町殺人事件~』は、10月15日(土)から23日(日) まで東京・青山劇場、11月3日(木)から6日(日)まで大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!まで上演される。チケット発売中。取材・文:佐藤さくら
2011年10月07日いまや日本の文化として広く認知されている“オタク”。だがその独特な世界観は必ずしも万人に受け入れられているとは言いがたい。趣味に賭ける一途な情熱と、あと一歩を躊躇してしまう現実。その両方で揺れ動くオタク少女たちを主人公に、ハートフルな物語とキャッチーな音楽で綴るのが『中野ブロンディーズ』だ。2008年に初演され、大好評につき同年に再演。今回は待望の再々演となるが、メインキャストを増田有華(AKB48)、梅田悠(SDN48)、原望奈美(SKE48)、浦野一美(SDN48)らが務め、東京・サンシャイン劇場は10月6日の初日から早くも熱気に包まれた。「中野ブロンディーズ」チケット情報オタクの聖地・中野ブロードウェイにあるマンガショップ「ブロンド」は、今日も店主・寿美枝(たくませいこ)の温かい人柄に惹かれた少女たちで賑わっていた。そのひとり、マンガオタクの瑞希(増田)は寿美枝が店を閉めることを知り、思わず目にしたポスターの「チアリーディング選手権大会」に出ると言ってしまう。代わりに閉店しないでほしいと懇願する瑞希に、入賞するならと答える寿美枝。早速メンバーを募集する瑞希だったが、集まったのはギャル系ガンダムオタクのエリー(田嶌友里香)、ゲーマーのハスミ(梅田)、ゴスロリファッションのキット(原)。さらにメイドカフェで働くゆずか(浦野)、歴女の松子(小林由佳/G-Rockets)、栃木出身のうさ(中島愛子)といったオタク少女たち。協調性のないオタク達ゆえ、一筋縄ではいかない個性的キャラばかり。それでも次第にまとまりかけてきた瑞希たちだったが、次々にアクシデントが起こり……。本作の魅力はなんといっても“スポーツを通した成長物語”。そこに“オタクあるあるネタ”をテンポよく散りばめたところに、この舞台だけがもつ楽しさがある。さらに自分を表現しようともがく必死感が今回一番強く感じられたのは、まさに日々大勢の中で過ごしているAKB48とその姉妹ユニットのメンバーならでは。一般人ながら偶然参加する音木役の西脇彩華(9nine)とチアのコーチ・沙織役の長谷川桃も含め、全員が一丸となってのチアシーンは圧巻で胸に迫る。舞台稽古前の会見では、「猫背にしてうつむくように」と役作りを話した増田。「皆で力を合わせるストーリーは、お稽古に励んだ私たちと共通してると思います」という言葉に全員がうなずくひとコマも。「観た人に元気を与えたい」(田嶌)、「チームワークを見て欲しい」(梅田)など、キャスト全員がそろって充実の表情。生き生きと息づく彼女たちの今しか見られないその表情は、凡百の“演劇”よりはるかに大きな感動を与えてくれるのだ。公演は同劇場にて10月10日(月・祝)まで上演。その後、10月19日(水)から22日(土)に兵庫・新神戸オリエンタル劇場で公演が行われる。チケットは発売中。取材・文:佐藤さくら
2011年10月07日昨年、短期間の上演ながら口コミで大きな話題を呼び、早くも待望の再演となったミュージカル『サイド・ショウ』。『ドリーム・ガールズ』の作曲家、ヘンリー・クリーガーが楽曲を手がけ、1998年のトニー賞で4部門にノミネートされたブロードウェイ・ミュージカルである。映画『フリークス』(1932年)にも出演した実在の結合双生児、ヴァイオレットとデイジーの光と闇を描く本作。好奇の目で見られがちな物語を骨太な人間讃歌に仕上げたビル・ラッセルによる脚本の力はもとより、日本バージョンの成功は姉妹を熱演した貴城けいと樹里咲穂にあることは間違いない。本番を目前に控えた稽古場でふたりの胸中を聞いた。ブロードウェイ・ミュージカル『サイド・ショウ』出演者の写真穏やかな“普通の生活”を送りたいと願うヴァイオレット(貴城)と、陽気で前向き思考なデイジー(樹里)のヒルトン姉妹。初演では対照的な姉妹がひとつの身体に生まれ、それぞれに愛と人生を希求するところに妙味があった。だが今回は、より細やかな感情のひだをすくいとる表現へ進化し、稽古場でも初演とは異なる心の動きを感じているという。「全然違いますね。もちろん初演の時も最良のものをお届けしたつもりですが、1年半という時間を置いて役を掘り下げた結果、より痛くてより深く、そしてより前向きな物語になったと思います」(樹里)、「自分たちもいろんな経験を経て成長しているだろうし、新しいキャストの方と一からやりとりしたり、(演出の)板垣(恭一)さんから提示される新たな切り口もあって。1か所が変わるとパズルのように他の部分も変化していくから、初演を観た方も新しい気持ちでご覧になれると思います」(貴城)と充実した表情だ。「初演は作り込んでいったけど、今回はどんどん削ぎ落としている気持ち」(樹里)、「シンプルなんだけど、深い」(貴城)と語る通り、稽古場ではこんな体験もあった。「通し稽古をした時に、ふっと姉妹の気持ちを実感できた瞬間があったんです。ヴァイオレットとデイジーは対照的な性格だけど、底の底では本当にふたりでひとりなんだと。『これだ!』っと思って隣を見たら、貴城さんもボロボロ泣いていて(笑)」(樹里)、「樹里さんも泣いてましたよね(笑)。穏やかなヴァイオレットが怒るときはデイジーがなだめるし、明るいデイジーが落ち込むときはヴァイオレットが強気になるっていうのが意図せずに体感できた。『あっ!』と思った瞬間でした」(貴城)。人間は必ずしも一面ではない。普段は隠したくなるような何層にも重なるグラデーションを、真摯に描くからこそ本作は名作と呼ばれるのだろう。全身で役に取り組む貴城と樹里は同時に、宝塚出身ならではの実力で華やかなショー・シーンをも見せる。その絶妙なサジ加減は、日本版『サイド・ショウ』だけがもつ魅力。さらに進化したステージが見られるのは、もうすぐだ。ブロードウェイ・ミュージカル『サイド・ショウ』は、東京・THEATRE1010にて10月1日(土)から10日(月)、大阪・森ノ宮ピロティホールに10月15日(土)に上演される。チケットは発売中。取材・文:佐藤さくら
2011年09月27日「ヒロシです……」から始まる自虐的なネタにもますます磨きがかかり、再ブレイク中のヒロシ。実は初舞台を踏んだ5年前以来、芸人として潜伏中(?)も、意外なほど安定感のある演技を舞台やドラマで見せていた実績を持つ。本作『バッド・アフタヌーン~独立弁護士のやむを得ぬ嘘~』は、そんなヒロシの初主演作にして、初舞台でその資質を引き出した土田英生が演出を手がける話題作。土屋裕一、平田敦子、菅原永二ら実力派キャスト陣とのやりとりも楽しみに、8月13日、東京・赤坂RED/THEATERに向かった。チケット情報舞台は東京郊外の法律事務所。開業したての弁護士・幸作(ヒロシ)は、自宅事務所に客を引っ張り込もうと駅前でティッシュ配りをしたり、親類に頭を下げて回ったりと冴えない日々。妹のはるな(松田沙紀)や友人の純平(土屋)はそんな幸作を心配するが、就活中だったり放浪の旅の準備中だったりで当てにならない。そんなある日、地上げ屋の二階堂(菅原)と武本(今井隆文)が事務所を訪れる。真面目だが気の弱い幸作は、期限までに裁判の依頼がなければ事務所を引き渡す約束をしてしまったというのだ。そこへ偶然訪れた旧友の久子(平田)が夫の翔太(大村学)と喧嘩中と知った幸作は、話をなんとか裁判に持っていこうとするが……。席に着くと、まず細かく作り込まれた舞台装置が目を引く。木の桟の窓ガラスやシールがベタベタ貼られたタンス、70年代風の応接セットなど、昭和の匂いのする自宅をそのまま事務所に設えた様子は、それだけで幸作の実直な人柄を伝えるようだ。短めの七三分けにネクタイを締めたスーツ姿のヒロシがその部屋にピタリとハマり、芸人ヒロシではない、幸作という人物がそこにいることにまず驚かされた。同時に、うつむきがちに自嘲の言葉を吐く幸作は、ヒロシでしか出せないたたずまい。はねっかえりの妹と亡き父との約束を守ろうと精一杯に奮闘する姿がなんともおかしく、普段も仲がいいという土田ならではの、“ヒロシの表と裏”を存分に見せる手錬が心地よい。終始受けの芝居に徹するヒロシを弄る周囲も、男女両方にキラースマイルを連発する土屋、緩急自在の演技で勘違い女を演じる平田、コワモテだが実は寂しがり屋の菅原ら、役者自身の個性でヒロシとの応酬が楽しめるキャスト陣。終盤で弁護士らしいキリリとした顔を見せるものの、すぐに後ろ向き発言を口にする幸作も、つい肩入れしたくなるような愛すべき存在だ。大いに笑った後は、さりげないラストが待っている。人生の一端を垣間見せてくれるような、芝居の楽しさを味わえる一本だ。公演は8月21日(日)まで、赤坂RED/THEATERにて上演。取材・文:佐藤さくら
2011年08月15日アフリカンドラムにモータウン、ゴスペル、スウィングジャズ、ヒップホップまでをブラック・カレッジ・マーチングバンドの演奏スタイルで体感できる舞台『ドラムライン』が、8月9日、東京国際フォーラム ホールCで開幕した。HBCU(Historically Black Colleges and Universities)という黒人学生への高等教育を理念に設立された大学の中でも、マーチングバンドはアメフトのハーフタイムショーを担うなど花形的存在。それだけにHBCUカルチャーの歴史を2時間に凝縮した本作は、生きたアメリカンソウルミュージックを日本にいながらにして体感できる貴重な機会となっている。チケット情報ステージは音楽のルーツである『AFRICA“The Drum”』からスタート。鮮やかな民族衣裳を身にまとったキャストたちが、アフリカから“音”が世界に広がっていった様子を表現。その後は、ユニフォーム姿でいかにもHBCUらしい華やかなショー、さらにティナ・ターナーやテンプテーションズら60~80年代のナンバーを歌い上げるステージへ。マイケル・ジャクソン・メドレーや荘厳さと熱狂が共存するゴスペルライブなど多彩なステージを堪能したら、あっという間に前半は終了。休憩を挟んだ後半は、スウィングジャズの数々の名曲に酔いしれ、コミカルなドラムバトルで笑い、ラストは再び大迫力のHBCU流のショーと、見どころ満載。30名ほどのキャストたちはトロンボーン、トランペット、チューバ、パーカッションなどを演奏しながら、時にはユニフォームを着て整然と、時にはくだけたスーツ姿で粋に躍動感あふれるダンスを披露。マーチングバンドというイメージを超えたエンターティナーぶりに、客席から熱い拍手が贈られていた。初日は観客参加型フィナーレ『聖者の行進』で、チアリーディングの応援用ポンポンを持ってタレントの楽しんごもステージへ。キャストや観客らと楽しそうに踊りながら、最後は「ラブ注入」のポーズを決めて喝采を浴びるひと幕も。終演後に楽しんごとキャストたちとで行われた会見では、「演奏もダンスも歌も全てに興奮しました!」と高揚した表情の楽しんご。「昔、吹奏楽部でコントラバスをやっていたので、その時の思い出がよみがえって……」と意外な過去を明らかにしつつ、「最近小さなことで悩みがちだったんですけど、そんな悩みなんて吹っ飛んじゃいました。もっと頑張らないと!って気持ちになれました」と笑顔でキャストとハイタッチ。喜んだキャストからのハグのサービスに、ますます興奮が抑えきれない様子だった。東京公演は8月14日(日)まで。8月16日(火)から18日(木)まで兵庫県立芸術文化センターにて、8月21日(日)に東京・かつしかシンフォニーヒルズにて、8月22日(月)から23日(火)までは愛知県芸術劇場にて、8月24日(水)から25日(木)と28日(日)にKAAT神奈川芸術劇場にて、8月26日(金)に栃木県総合文化センターにて、8月27日(土)に群馬・ベイシア文化ホールにて公演。取材:佐藤さくら
2011年08月10日