吉田篤弘のロングセラー小説を、舞台、TVと幅広い活躍を見せる八嶋智人と元宝塚の男役トップスター、月船さららを主演に迎えて映画化した『つむじ風食堂の夜』が11月21日(土)に公開初日を迎え、第1回目の上映前に八嶋さん、月船さん、篠原哲雄監督による舞台挨拶が渋谷のユーロスペースで行われた。八嶋さんらはマイクを使わずに直接、観客に向かって語りかけ、会場は初めての上映を前に大きな盛り上がりを見せた。軽い足取りと満面の笑顔で壇上に立った八嶋さんは「みなさん、3連休の初日にこんなところで時間をつぶしていて大丈夫ですか(笑)?」と軽口を叩きつつ「何か心に引っかかるものがある作品だと思います。何かを感じ取って、渋谷の街に解き放たれてください!」とアピールした。月船さんもこの映画を観て温かい気持ちになって、寒い冬を乗り切りましょう!」と笑顔で呼びかけた。物語の舞台は「どこでもないどこか」。撮影は函館で行われたが八嶋さんはたいそうこの街が気に入ったようで「撮影が行われたのは“来々軒”というラーメン屋さんですがおいしいです。帽子屋さんでも撮影があったんですが、ここは日本で初めての帽子屋さんでして…と、『函館 ウォーカー』みたいになってますね(笑)」と函館の素晴らしさをまくし立てた。作品については「ここじゃないどこかに行きたいという願望や『これでいいのか?』というフワッとした迷いを誰もが持つもの。でも、そういうときに何と向き合ってどこに行くのか決めるのは自分しかいない。そういうことがこの80分ちょっとの作品の中に詰まっています」と語った。月船さんは「脚本を読んで、自分が置かれているのと全く同じ境遇が描かれていてびっくりしつつ、『絶対やりたい!』と思いました」と役柄への共感を示し、作品について「何年かごとに観ると、印象が変わってくると思います。一生、一緒に歩んで行ける作品です」と愛着を語った。ちなみに、本作では篠原監督自身が、記念すべき映画初出演を果たしている。監督は「函館から帰る2〜3時間前に撮ったシーンです。帽子屋にあった、ある帽子が気になっていて、かぶってみたら周りが『似合う』と言うのでその気になってしまいまして…。アドリブの楽しさを知りました」と照れながら出演の経緯と感想を語った。八嶋さんは「この、監督の出演シーンの撮影でちょうどクランクアップということで、終わったとき、監督はさも主役級の俳優のように中心で花束受け取ったりしてました(笑)」と明かし会場は笑いに包まれた。『つむじ風食堂の夜』はユーロスペースほか全国にて公開中。■関連作品:つむじ風食堂の夜 2009年11月21日よりユーロスペースほか全国にて順次公開©2009「つむじ風食堂の夜」製作委員会■関連記事:八嶋智人『つむじ風食堂の夜』インタビュー―“受け身”から新たな“発見”へ―
2009年11月21日舞台から映画、TVドラマ、バラエティ番組まで、その流暢な語り草とスパイスの効いたキャラクターで、独特の存在感を示す八嶋智人。昨年公開された『秋深き』で映画初主演を飾った彼が今回、ノスタルジーあふれる篠原哲雄監督の最新作『つむじ風食堂の夜』で二度目の主演を果たした。名前のない、「私」という役を通して見えてくる、役者・八嶋智人のこだわりとは――。大人だけれど少年の心を抱えたままの、どこかファンタジーの主人公を彷彿とさせる「私」。原作者の吉田篤弘によれば、この「私」はまさに八嶋さんをイメージして書かれたそうだ。自身をイメージして作り出された役を演じるというのは、どんな心境だったのだろうか?「お話が『私』という、誰でもない役だったので、いろんな人が『私』という人物とダブればいいという部分はありましたね。どういう風に生きて、これからどこへ向かっていくのか、自分探しみたいなものを、頭で分かってても生理的に受け入れられるような瞬間に、ようやく地に足がついて一歩踏み出せる。そんな瞬間が最後に訪れる映画なので、僕自身は、感じるということ、刺激を受けることに対して嘘がないようにやるのが一番重要なんだろうなと思ってやってました。その分、周りの方々は個性の強いキャラクターなので大変だったと思いますよ。(帽子屋役の)下條(アトム)さんは、ありもしないものを『ある』って言ったり…、でもそれが『声のマジック』みたいなものかもしれませんが、リアリティをもってくるんですよ。すごく助けていただきました!」八嶋さん曰く、「普遍的なものが凝縮された“旅”のような映画」という本作。撮影は和洋折衷の雰囲気漂う函館で行われたが、独特の空気に誘われるように、「私」は個性あふれる人々と出会っていく。中でも月船さらら扮する女性・奈々津との、微妙な距離感のあるやり取りの間に見せる、八嶋さんの少年のような表情が印象的だが、2人の関係はどうやって築いていったのか?「月船さんも演技のバランスを迷っていて、8日間しか時間がなかったのでお話した方がいいかなと思って、『僕の好みとしては、がーっと泣いたり感情的なところを、劇的だけどもうちょっと抑えてる方が好きです』と最初に言って。無責任に言ったんですけど(笑)、すごく考えていただいて、リハーサルからすごく変わりましたね。『この女優さん、すごい対応力だな』と思いました。物語の中でも、彼女は『芝居をやりたくても出来ない』という役なのですが、宝塚のトップをやられていた月船さんもちょうどその頃に、『もっとちゃんと自分たちで考えた芝居をしたい』って作家に直談判して、小さな劇場で舞台をやるって話していて。映画のまんまじゃん!って(笑)。僕以外にもたくさんの縁がある作品だなと思いました」。現実から目を背けるではないが、どこか夢見がちなところを秘めた「私」は、この一期一会を通して、先ほども出てきたように「地に足つけて」一歩を踏み出していく。この人生の“ターニングポイント”について八嶋さんは語る。「全部が繋がっているから今ここにいる、ということが僕は大きいような気がして、この映画をやって余計にそう思いました。ここにいてもどこにでも行ける、“タネも仕掛けもございません”というようなイメージを自分の中に持つこと。それが行き過ぎると夢見がちになってしまうのですが、そのどっちにおいても己の分が分かるという、地に足が着いた瞬間がターニングポイントだと思うんです。それは僕にとっては、作品に向かう自分のあり方、家族が出来た瞬間や子供が出来た瞬間というのがターニングポイントになってますね」。これまで数々の作品で、バイプレーヤーとして唯一無二の存在感を示してきた八嶋さん。だが『秋深き』、そして本作と主演作が続き、また新たな演技の“ルート”が見つかったという。「『エドモンド』(’05)という人生初の主演の舞台のときに、それまでは“受け身でいる”ということが全くなくて“攻撃が最大の防御”というところがあって(笑)。仕掛けていくという演技体を突き進んでいたんですけど、あらゆることを封じられたんですね。主演か主演じゃないかって『いる』感覚が違うんですよね。山の頂点に行くのは同じなんだけどその登り方、ルートが違うような。昨年の『秋深き』のときも初めて主演をやらせていただいて、やっぱり物語を背負わなきゃいけないし、ぶれちゃいけないんだと思いましたが、今回も完全に“受け身”でいることが重要だったから、それは自分の中で新しい展開でした」。それでは、この先どんな作品や役に出会いたいか?との質問には「お呼びがかかる待ちです」と一見、意外にも思える“受け身”な姿勢を見せる八嶋さん。だが、そんなフラットな姿勢こそが、彼の変幻自在な魅力を生み出しているのかもしれない。「ずっと役者を続けていれば、いろんな使い方をしてくれる人と出会う。すごい消極的なことを積極的に話してますけど(笑)、出会い待ちというのが俳優の仕事だと思うので。基本的には何でもやりたいです。主演が続くのも楽しいし、逆に(主人公に)刺激を与える奇抜な役も遊べて楽しいし、待ちたいですね。そのためにずっと俳優でいたいというのはあります」。衣裳・レザーブルゾン/カットソー/パンツ/ベルト:BURNER 代官山問い合わせ先:BURNER 代官山(03-5784-2030)Hair&Make:陽(akira)/Stylist:どら(CaNN)■関連作品:つむじ風食堂の夜 2009年11月21日よりユーロスペースほか全国にて順次公開©2009「つむじ風食堂の夜」製作委員会
2009年11月20日