令和最初の全国高校サッカー選手権で優勝を果たした静岡学園高校。足元の技術やドリブルなどの個人技で観客を魅了するスタイルのチームでしたが、連覇をかけた青森山田高校に先制点を許しながらも逆転劇は印象的でした。試合をご覧になった方はご存知かと思いますが、前半は劣勢だった静岡学園のプレーが後半にガラッと変わり、チームが勢いにのって逆転勝利につながったのです。劣勢を跳ね返すことができた理由の一つが、試合後の川口修監督のインタビューで語られた「選手たちに整理する力があった」こと。サッカーでも勉強でも役に立つ「整理する力」とはどんなスキルで、静岡学園ではどう身につけさせているのか、川口修監督にお話を伺いました。(取材・文:元川悦子写真:森田将義)<<齊藤興龍コーチに聞いたタイムマネジメント術近年は東大合格者も生んだ静岡学園が取り組む1日、1週間の効率的な時間の使い方状況をよく見て頭の中を整理できたからこそ、後半戦い方をガラッと変えることができたのです■劣勢でもブレずにスタイルを貫けた理由1月13日に行われた第98回高校サッカー選手権大会決勝で、2019年高円宮杯プレミアリーグ王者・青森山田に前半から2点のリードを許しながら、3点を奪って逆転勝利し、初の単独優勝を飾った静岡学園。彼らのアグレッシブな戦いぶりは多くの高校サッカーファンを大いに勇気づけました。劣勢で折り返したハーフタイム。指揮を執る川口修監督は「ブレるな」と語気を強めたといいます。「青森山田はフィジカル的に強く、強固な守備をベースにセットプレーやロングスローで点を取ってくるチームです。彼らに勝ちたいと思うなら徹底的に相手を分析して、ストロングポイントを消すのが早い。しかし学園は勝利よりも個人の力を伸ばすことに主眼を置いていますから『1対1で負けるな』『個々の力を押し出せ』というベースをあえて曲げずに戦いました。自由度の高いサッカーをするのは選手たちにとっては難しいものです。あの大舞台ですからなおさらでしょう。でも僕らは高い目標を持ち、時間をかけてコツコツと技術と戦術眼を磨いてきた。そういう自信があったから、最後の最後で勝ち切れた。選手権決勝は『静学スタイル』を貫いた1つの成果ですし、埼玉スタジアムに集まった人々や全国のファンが喜んでくれたのも、その姿を目の当たりにしたからだと思います」■指導者の言葉を何でもかんでも鵜呑みにしない、情報取捨選択も必要川口監督が井田勝通前監督(限総合監督)の下でプレーしていた頃から、静学の哲学は変わっていません。96年末に藤枝明誠から母校に戻ってコーチになり、2009年に監督に昇格してからも「自分で考えて行動する力」をつけさせようと意識的にアプローチしてきたといいます。「『選手に教えすぎてはいけない』というのは、井田さんが指導現場に立っていた頃から言い続けていたこと。戦術を1~10まで事細かに教えなくてもサッカーができるようになると僕は考えています。実際、選手権で優勝したチームもこの1年間は課題の改善というのを重要テーマに掲げ、つねに取り組んできました。試合後は必ずミーティングを行って、何が問題だったのか、どうしてうまくいかなかったかをフィードバックし、それを選手たちに考えてもらうように仕向けたんです。それを踏まえて、彼らは選手同士のミーティングもよくやっていましたね。今回のチームはインテリジェンスとアンテナの感度が高く、それぞれ意見を言い合える自主性とコミュニケーション力があった。僕たち指導者が何か言わなくても、『自分たちで変えていこう』と決断してチーム全体に発信することもできましたね。課題改善のサイクルを通じて、状況に応じた良いプレー、良くないプレーの判断基準を身につけることが頭の中を整理することにつながります。監督やコーチの指示も、何でもかんでも鵜呑みにせず、ピッチ内の状況を考え、その時の状況に合わせて取捨選択できるのもスキルの一つで、このスキルは年々高まっていると感じます。実際今回のチームでも、青森山田戦の時も僕が『ブレるな』と言った後、キャプテンの阿部健人が中心となって『前半は自分たちのサッカーができてない。ここからは普通にやろう』と声を掛け合っていました。その姿を見て大丈夫だと感じました。自立心の高い選手たちに恵まれて本当に感謝しています」と川口監督はしみじみと語っていました。■指導者に言われたことを理解し、課題を克服してピッチで実現できることが大事課題の改善に関しては、試合やビッグトーナメントの時だけに行っていたわけではありません。日々の練習の時から地道に取り組んでいたのです。思ったようなパフォーマンスが出せなかったり、技術・戦術面で足りない部分があったり、メンタル的な問題を抱えている選手がいたら、川口監督や齊藤興龍コーチはその選手を呼んで意思疎通を図ることを忘れませんでした。「気になる選手がいれば練習前後に声をかけて『何か不安なことがあるのか』と聞いたり、『もっとこうした方がいいんじゃないか』とアドバイスするようなことは日常的にやっていました。練習の中で意識させるのが選手を伸ばす一番のポイント。指導者に言われたことを理解し、自分なりに努力して課題を克服し、ピッチ上で表現できる選手が最終的に選手権でメンバー入りし、大舞台で活躍するんです。そうやって目覚ましい成長を遂げる選手は『アドリブ力』も高まりますね。サッカーは止める蹴るの基本が最も重要ですけど、余裕が出てきたらもう一段階レベルの高いプレーをやっていい。それこそが個性だと僕は思います。思考力のベースがあって初めてアドリブができるようになる。そこまで行けば、静学の育成としては一応の成功かなと感じます」■高校以降も「伸び続ける力」のベースを身につけさせるのが静学のモットーそんな川口監督が口癖のように言っているのは「武器を大きくしろ」ということ。静学は技術・戦術・フィジカル・メンタルが全て平均点の選手を育てるチームではないという強い自負があるからなのです。「選手の特徴は千差万別。いろんな選手がいていいんです。例えば、今年川崎フロンターレに入った東京五輪代表候補の旗手怜央なんかは1対1とスピードには絶対的な自信を持っていました。本人は順天堂大学に進んでから『守備のプレスのかけ方が分からない』と苦労したようですが、そういうことは自分で考えて判断していけばいい。それによってプレーの幅と思考力が伸びていく。高校年代は個人のベースとなる技術とストロングポイントをしっかりと身に着けていくことが大事、それが伸び続ける力の原動力になる。それを身に着けさせるのが静学のモットーなんです」川口監督が強調する哲学に魅了され、入学希望者は年々増加しています。2020年春にはサッカー部員が280人体制になる見通し。その大所帯で個の力を磨くことは難しいですが、それにあえて取り組んでいくことで、彼らはさらなる高みを目指すつもりなのです。<<齊藤興龍コーチに聞いたタイムマネジメント術近年は東大合格者も生んだ静岡学園が取り組む1日、1週間の効率的な時間の使い方川口修(かわぐち・おさむ)1973年6月生まれ、沼津市出身。92年春に静岡学園を卒業後、プロを目指しレブラジルに渡る。95年4月から藤枝明誠高校でコーチになり、96年12月に母校・静学のコーチに。2009年から監督となり、2020年正月の第98回高校選手権で全国制覇。
2020年03月09日●省エネや長寿命という提案では置き換え率を飛躍的に向上させるのは難しいパナソニックは、電球1つで2つのあかりを実現するLED電球「明るさ・光色切替えタイプ」4機種を6月20日から発売した。これまでのLED電球は省エネ、長寿命が差別化ポイントであったが、今回の製品では光の質に焦点を当て、LED電球がもたらす新たな価値提案を行っているのが特徴だ。販売店からの反応もよく、予想を上回る店舗数で取り扱いが行われているという。関連記事【レポート】生活シーンに合わせて快適性を向上させる新しいLED照明 - パナソニックのLED電球「明るさ・光色切替えタイプ」説明会レポート(2014年5月21日)パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部ライティング機器ビジネスユニットLED光源グループ・西浦義晴グループ長に、同社の新たなLED電球の提案である「明るさ・光色切替えタイプ」の狙いなどについて聞いた。○LED電球に対する認知を広げるために購入する世代を広げたい―― このほど発売した「明るさ・光色切替えタイプ」は、どんな狙いから商品化されたものですか。西浦 パナソニックは2009年からLED電球の事業を開始していますが、これまで取り組んできたのは、まずは既存の白熱電球をすべてLED電球で置き換えられるようなバリエーション展開をするということです。省エネ化や環境対応への関心が高まるなかで、パナソニックの社会的責任という使命のもと、LED電球の品揃えに取り組んできました。たとえば、白熱電球のガラスは透明ですから、LED電球でもそれと同じような見え方をする、伝統的な照明の趣きをもったクリア電球タイプを商品化したのはそのひとつです。従来の白熱電球から違和感なく移行するための提案です。さらに2013年秋には、白熱電球の100Wクラスをカバーする製品を投入しました。こうした取り組みによって、すべての白熱電球を置き換えるためのラインアップがほぼ完了したといえます。これによって、全体の28%がLED電球に置き換えられてきました。この間、LED電球の訴求は、省エネや長寿命といった観点からのものでしたが、その一方で、このままの提案を続けても、置き換え率を28%から飛躍的に向上させるのは難しいだろうとも感じていました。そこで考えたのが、経済性の追求に加えて、快適さや安全性、利便性といった価値をLEDに乗せることができないかという点でした。それによって、LED電球の提案は新たなフェーズに入り、LED電球の認知をさらに高めることができるのではないかと考えたわけです。また、LEDの購入者の多くは40代、50代の男性が多いという傾向があります。LED電球に対する認知を広げるには、購入する世代を広げる必要もあります。今回の製品はそうしたことを狙った商品でもあるわけです。○既設のスイッチを利用して置き換えられる―― 「明るさ・光色切替えタイプ」の特徴はどこにありますか。西浦 スイッチの操作によって、外周のLEDと内周のLEDの回路が切り替わる仕組みを採用したことです。これにより、既設のスイッチ構造をそのまま利用しながら、ランプ交換だけで、従来の電球から手軽に置き換えることができます。ダイニング向けでは、食事の際はおいしく、勉強や仕事時には文字が読みやすいというように切り替えが可能であり、同様に、浴室向けでは、夏場やシャワー時には白さが際立つ昼光色に、冬場やくつろいで入浴したい際には、色温度が深い電球色を実現します。また、廊下向けでは、普段の灯りは60形の明るさを実現する一方、夜間は省電力で常夜灯として利用できるようにしました。いずれも、箱を開けたらすぐに新たな機能を楽しめる。特別な工事をしなくても、手軽に利用できるという点が特徴です。この手軽さも、LED電球の新たな提案を行う上で起爆剤のひとつになると考えています。また、年齢層別のターゲットという点では、ダイニング向けはファミリー世代、浴室向けは若い世代を対象に、廊下向けは安全、安心を重視するシニア層といったように捉えることもできます。●光の質と人間の心理は想像以上に相関がある―― 28%というLED電球の普及率については、頭打ち感のようなものを感じていたというわけですね。西浦 どうしても、アーリーアダプター層の購入が一巡した時点で、一度伸び率は鈍化しはじめます。LED電球はそうしたタイミングに入ってきた。「経済性」という観点だけでLED電球を購入していただけるお客様には、ほぼ行き渡ったのではないかと考えています。つまり今後、普及率を高めて行くには、省エネや長寿命という価値に加えて、新たな価値提案が必要になってくる。スイッチひとつで灯りを切り替えられるというのは、技術的にはすぐに可能でした。しかし、それを価値として認めてもらえる提案はなにかということが大切。単に明るい、暗いに切り替わるだけでは価値がありません。では、切り替えたときにお客様がメリットを感じるものは何か? そこで行き着いたのが、明かりによって生活をより楽しく、安心に過ごせるといった提案だったわけです。明かりを切り替えると、食事をおいしく食べることができ、また切り替えると、ダイニングで勉強するのに最適な明かりとして提供できる。ライフスタイルに刺さる提案を加えることで、生活を豊かにすることができるわけです。LED電球にはリモコンで操作したり、スマートフォンでコントロールするという提案もありますが、どうも迷走感がある。生活シーンでよりメリットがあるものは何かということを考えると、光の質が一番だという結論に至りました。これをしっかりと明確化して、お客様にご理解をいただくことが大切だと思っています。そして、パナソニックが提案するのであれば、エビデンスもしっかりと取る必要がある。お風呂のくつろぎ感を提案するのであれば、数値としてくつろぎを実現できることを証明することが必要です。そして、それを使うことのメリットをストーリーとして提案する。一灯二役というだけでなく、それがどんな意味を持つのかを提案したい。中途半端な提案ではなく、社会を変えていくような、しっかりとした地に足のついたステップを踏んでいきたいと考えています。―― 「明るさ・光色切替えタイプ」の普及戦略において重要な点はなんでしょうか。西浦 光を変えることで、生活を楽しむという文化はまだ浸透していません。これを浸透させる活動が必要だと考えています。シーンによって明かりを変えることでの喜びを生むということに対して、多くの人はまだ半信半疑だと思います。しかし、やってみると、メリハリの効いた生活ができる。この明かりは勉強のための明かりだよ、といえば、それで勉強することに没頭できる。光の質と人間の心理というのは、想像以上に相関があるんです。それを既築の住宅でも、ランプさえ変えたら実現できる。まだ多くの人が気がついていない「快適な空間づくり」を、この商品で提案していきたいですね。○チップが生み出す光の点を、照明というアプリケーションの形に仕上げていく―― パナソニックの2014年度のライティング事業のポイントはなんですか。西浦 経済性の訴求だけではない新たな価値を提案していくというのが2014年度の取り組みになります。その新たな価値は何かというと、光の質にこだわることで、用途に応じた使い方、快適な使い方ができることを提案していきたい。LED電球だけでなくLED照明器具でも、肌がキレイにみえるといった光の質を提案し、それを多くのお客様に認識していただきたいですね。LEDは、技術というよりも、マーケットに近いところでの発想やコンセプトづくりが顧客価値向上につながる可能性が高いと商品だといえます。生活スタイルから困りごとをみつけて、それを解決するためにLEDは、何ができるかを突き詰めていきたいと思っています。―― パナソニックは、2015年度にLED事業で2,000億円の事業規模を目標に掲げていましたが。西浦 ライティング事業の2013年度の売上高は3,225億円。そのうち、LEDの販売比率は半分を超えつつあります。その点では、軌道に乗っているといえます。だが、蛍光灯など既築の住宅に使われる「光源」についてまだLEDは35%程度。丸管に変わるLED商品がないですからね。しかし、新築住宅に設置される器具では徹底的にLEDを品揃えしていますので、7割以上はLEDになってきています。LED化率は加速しています。―― 一方で海外展開の成果はどうですか。西浦 LEDの海外展開はまだまだ成長の余地があります。特に、光源のビジネスを伸ばしたい。光源で突破口を開いて、器具で展開していくといった展開を考えています。LED光源の海外売り上げ比率は10%程度ですが、2015年度にはグローバル比率を20%程度にまで拡大したいですね。中国や欧州、トルコなどにもついても、重要な市場に位置づけて取り組んでいきます。―― パナソニックのLEDの強みを説明してください。西浦 パナソニックは、LEDのチップそのものは外部から調達しているわけですが、それを商品に作り上げていく上でのノウハウを持っていることが、パナソニックの強みだといえます。たとえば、放熱対策のための機構設計のノウハウや、いかに小型化していくかといったノウハウは、長年に渡る照明ビジネスの蓄積によるものです。チップが生み出す光の点を、照明というアプリケーションの形に仕上げていく上でも、経験値は強みのひとつだといえます。快適性や利便性といった点では、ソフトウェアが大切。同じ明るさでも光の照らす分布を変えるだけでも、光の質は変化していきます。そうした評価技術も持っている。パナソニックが照明を開始してから積み上げたノウハウ、インフラ、そして人材が強みとなります。さらに、販売ルートという点でも、コンシューマールートや電材ルートといったように、住宅用だけでなく、施設用、店舗用などのすべての照明を流していく販売ルートを持っている。パナソニックのAVC技術や家電商品との連動、建材と照明が一体になるといった提案もできる。さらに、自動車のヘッドライト事業も回路を持つ強みと連動した提案ができます。特に、ヘッドライトが最たるものですが、LEDによってデザイン革命につなげていくこともできる。そうした"オールパナソニック"が持っているビジネスとの親和性があるという強みもあります。―― 現在、パナソニックのLED電球のシェアはどの程度ありますか。西浦 販売数量で約4割、販売金額では約半分といったところだと見ています。来年度には販売数量でも半分を目指したいですね。ただ、低価格モデルを増やして、シェアを追うというようなことはしません。そこはパナソニックの事業領域ではないと思っています。あくまでも、付加価値のところで戦っていきたいと考えています。
2014年06月30日