松竹株式会社メディア事業本部の藤井宏美と、ユーロスペース支配人の北條誠人がオンライン・コミュニティ「ミニシアタークラブ」で対談を行った。「ミニシアタークラブ」はミニシアターや映画好きのためのコミュニティ。そこにユーロスペースで特集上映されている「篠田正浩監督生誕90年祭『夜叉ケ池』への道モダニズムポップアートそしてニッポン」の企画者である藤井がゲストとして出演し、今回の対談に至ったのだという。現在上映中の『夜叉ヶ池』の話から特集上映に対する考え方などで盛り上がったトークセッションを以下にレポートする。――藤井の業務内容について。藤井:松竹のメディア事業部という部署に所属しています。劇場公開後のパッケージ、配信、TV、海外などいわゆる2次利用と言われるものの権利窓口を扱う部署です。その中で私は知財事業室というところにいるのですが、松竹の過去の作品をいかに多くの人に見ていただくかを考えて企画、推進していく仕事をしています。――特集上映開催までの経緯。藤井:篠田正浩監督と坂東玉三郎さんが登壇された初日舞台挨拶でもおっしゃってたんですが、昨年7月に、お二人が再会された時に、今の人たちにもう一度『夜叉ヶ池』を見てもらいたいですね、というお話になりその翌日には松竹に連絡をいただきました。『夜叉ヶ池』を多くの方に見ていただくには、現存のフィルムの状態やフィルム映写機がない劇場も多いことを考慮して4Kデジタルリマスター版を制作しようということになりました。デジタル化にあたってはいろんな方法があるんですが『夜叉ヶ池』ではフィルムの1コマ1コマを4Kでスキャンしリマスターしました。さらにそこから2次利用の素材も劇場上映用素材も作り、さらに篠田監督は海外でも非常に人気が高いので海外の映画祭でもかけられないか、など動き始めました。初日の舞台挨拶は北條さんに司会もしていただき本当に好評でした。北條:客層も幅広くて、盛況でした。※ユーロスペースでの『夜叉ヶ池 4Kデジタルリマスター』の上映は4Kデジタル上映マスター版をもとにした2K上映。――リマスターについて。北條:リマスターされる作品の条件というか基準などは何かあるんでしょうか?藤井:リマスターは、公開当時(の上映プリント)の状況を復元することなので、監修についていただける方、例えば当時を知るキャメラマンの方などに立ち会っていただけるかどうか、ということも重要な要素です。例えば小津監督作品でも『東京物語』からやったんですが、当時撮影助手でつかれていた川又昂キャメラマンに見ていただきました。あと『青春残酷物語』や『砂の器』なども。――特集上映の面白さとは。北條:篠田監督が今年90歳ということで、そのお祝いになるような企画ができないか?とはじめにお話をいただきました。その時、篠田監督の作品本数は非常に多いのでどうセレクトしていこうか?ということが頭をよぎりました。(笑)結果的に企画コンセプトとしては落ち着いたのは『夜叉ヶ池』に至るまでの10本を篠田監督に選んでいただくということで、上映作品を決定しました。司会:ユーロスペースの特集上映のジャンルを見るとかなり幅広く、バラエティーに富んでいると思うんですが狙いはあるんでしょうか?今年ですとイスラーム映画祭、相米慎二監督特集、タルコフスキー特集など。北條:日本映画に関して言いますと、全ての世代に向けて満遍なく、というのを意識しております。藤井:私たちは過去の作品や監督、俳優に新しいお客さんが出会って欲しいと思っているので、いろんな年代の客層がいらっしゃるユーロスペースさんは本当にありがたいです。『夜叉ヶ池』は玉三郎さんのファンと特撮ファンという要素があるので、まずは北條さんにご相談しました。――次の企画について。北條:次は小津120周年ですか?藤井:そうですね、2022年頃から準備に入ります。『周年』の企画というのは企画を立てやすいんですが、それ以外の企画も考えていきたいです。例えば、今を生きている私たちに考えるきっかけを与えてくれるような作品や監督、人物に焦点をあてたような。■配信情報ミニシアタークラブ対談「藤井宏美(松竹株式会社)×北條誠人(ユーロスペース支配人)」対談動画は、ミニシアタークラブに入会後、閲覧可能。■上映情報「篠田正浩監督生誕90年祭『夜叉ケ池』への道モダニズムポップアートそしてニッポン」7月30日(金)まで上映劇場:ユーロスペーストークショー7月17日(土)13:00回の上映後ゲスト:樋口真嗣(映画監督)聞き手:樋口尚文(映画評論家 / 映画監督)※オンライントークになる場合もあり。
2021年07月16日文:北條誠人(ユーロスペース支配人)今日は6月1日月曜日。「非常事態宣言」をうけての4月8日から53日間続いた休館がようやく終わり、いよいよ上映再開です。2月中旬からお客さんが徐々に減ってきていましたから、私たちは3か月半の期間を新型コロナウイルスと戦ってきたことになります。そしてこの戦いはまだしばらくつづきそうです。それぞれの映画館が上映再開にあたっては何を上映しようかと思いを込めて考えていると思いますが、ユーロスペースの再開第一弾はアキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』を35mmフィルムで上映します。シリアで生きはぐれた妹をお兄さんがヘルシンキの人たちの力を借りて再会する物語。ほんとうに普通の人が困っている人を助けるというだけのことがなんと心に沁み込むことかと今、あらためて思います。今回のフィルムはロードショウの時に全国のミニシアター15館でリレーのように廻して上映をしてもらったもの。こんな機会がなければスクリーンで再会することもなかったでしょう。もう片方のスクリーンは『ようこそ、革命シネマへ』。スーダンでは1989年に軍事政権が発足してから映画産業も映画館もなくなってしまいました。それから35年、年をとった4人の映画人が閉館している映画館をなんとか復活させようとがんばる、まさに上映再開へのすがたをとらえたドキュメンタリー映画。いずれもまず観ていただきたい映画として選びました。今回のコロナ禍をミニシアターで経験して考えたこと、感じたことはさまざまにありますが、一番の驚きは、多くのかたからのミニシアターへの思いです。「ミニシアター・エイド基金」のクライドファンディング、「Save the Cinema ミニシアターを救おう!」の署名と参加していただいた方々にはお礼のことばしかありません。それだけではなく直接に間接に映画館に応援のことばや支援をいただき、その量と熱さが本当に自分たちに向けられているのかと疑いたくなるくらいでした。この疑問は、今から思えば恥ずかしい限りです。仕事に対して無自覚でありすぎました。ミニシアター・エイド、仮設の映画館、Save the Cinema……"若い力"ともに、ミニシアターのルネサンスを!ここ数年、私たちミニシアターを取り巻く環境は決して恵まれていたものではないと思っていました。その環境は若い人のミニシアター離れやシネコンとの競争、デジタル化による作品の膨大な増加が問題点としてまず挙げられますが、そこで働いている者がこの状況を変えていくための方策をきちんと持っていたり、今後の将来的なヴィジョンを説明できるかといえばまったく心もとない状況が、新型コロナウィルスの感染拡大まで続いていました。果たして自分たちの仕事はどう見られているのか。社会から置いていかれている小さな産業になってしまっていないか。そんな疑問を心の片隅に追いやって仕事を続けてきていたのかもしれません。好きな映画を上映できていればいいと。ですから、今回の多くのかたからのミニシアターへの応援は、私たちの今までの仕事の見直しを嫌でも強いてきます。「ミニシアター・エイド基金」や「仮設の映画館」が若い映画監督や配給会社のメンバーなどによってすぐに立ち上がって進んでいったこと。「Save the Cinema」の運営に若い世代の人たちが参加してくれていること。もしクラウドファンディングや署名に若い人たちが参加してくれていれば、ミニシアターのこれからは若い文化にもなっていくのではないかと期待しています。私が今回のことで一番学んだことはこの“若い力”。そして一緒に動いていく“協同の力”。これがなければ、たぶん全国のミニシアターは生き残ることはできなかったでしょう。多くのかたがたからの応援の声を帆にいっぱい受けて、今日からの上映再開の海に漕ぎ出していきます。はたしてその海はどんな海なのかはまったく予想ができませんが、これからは私たちの海図を作りながら進んでいくことになります。先日、友人が「コロナが落ち着いたらミニシアターのルネサンスがきますよ」と声をかけてくれました。中世のペスト大流行のあとにルネサンス文化が花開いたことをふと思いだしましたが、この友人の船出への手向けのことばを全国のミニシアターと共有したいと思います。競争の時代ではなく共同の時代がきました。北條誠人(撮影:平辻哲也連載『発信する!映画館』から)プロフィール北條誠人(ほうじょう・まさと)1961年、静岡県清水市(現静岡市)生まれ。大学在学中から映画の自主上映に携わり、1985年、ユーロスペースに入社、1987年から支配人を務める。全国各地域の映画・映像文化を担う組織で構成する、一般社団法人コミュニティシネマセンター理事。SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」呼びかけ人のひとり。
2020年06月01日『6歳までの子育てに悩んだら読む本』(北條博厚著、あさ出版)は、子育てに四苦八苦するお母さんにとって有意義な一冊です。著者は静岡県立特別支援学校の校医、そして静岡市葵区の幼稚園の園医を勤めているという、いわば子育てについてのプロフェッショナル。長い経験を軸に、さまざまな角度から子育てについての考え方を記しているのです。ところで子どもの成長を見守るなか、体重の増減を気にしている方も多いはず。そこできょうは、小さな子どもの肥満について解説した「3歳までの肥満はあとをひかない」を取り上げてみたいと思います。■子どもの食事は「からだをつくる材料」赤ちゃんが5、6ヶ月になると離乳食がはじまりますが、なかには単期間で驚くほど食べるようになる子がいます。そんなとき、「食べてくれるのはうれしいけれど、太りすぎなのでは?」と不安になっても不思議はありません。ただし、ここで意識しておきたいのは食事についての意義。食事は、からだが活動するためのエネルギーを得るために必要なものですが、お子さんの場合は、もうひとつの目的があるのだというのです。それは「成長発達」という、からだをつくるための材料を取り込むこと。■3~4歳の体重は1年で1キロ増ぐらい成長発達の度合いは、体重の増え方を見るとわかるそうです。約3キロで生まれた赤ちゃんは、満1歳で約9キロになります。1年間で6キロ増え、生まれたときの3倍になるわけです。しかし、その後は体重の増え方がゆるくなっていきます。たとえば3~4歳だと、1年で1キロくらいしか増えないことはよくあるのだそうです。ただし身長は伸び、からだのバランスも変化して、活発に動くようになります。■3歳までの肥満はあとをひかない!そしてこの時期になると、意外なことに子どもはあまり食べなくなるのだといいます。特に女の子は小食で、1日3食のうち、1食はそれなりに食べるものの、残りの2食はお茶碗半分も食べられないことも珍しくないそうです。するとお母さんは心配になるでしょう。食べすぎも、小食も気になるものです。しかし、どれくらい食べるかは、子どもに任せてみるのが大切だと著者はいいます。そしてぜひとも記憶にとどめておきたいのは、「3歳までの肥満はあとをひかない」ということ。大人になってからの肥満には、直接の因果関係がないのです。■3歳までは小食でも気にしなくていい逆に、もし小食だったとしても心配は不要。なぜなら子どもは、自分に必要な分を食べているものだから。必要なだけ食べたら、おなかいっぱいになるわけです。なのに、心配になったお母さんが「もっと食べなさい」と横槍を入れると、子どもはがんばって食べてしまい、満腹感や空腹感をコントロールできなくなるのだといいます。無理して食べるので、「おなかいっぱい」の感覚がわからなくなるということ。少なくとも3歳までは、たとえ小食だったとしても、いつも元気に遊び、よく眠り、楽しそうに過ごしているなら、まったく悩む必要はないそうです。ただし4歳をすぎてから体重が増える傾向にある場合は、多少気にかける必要があるとか。4歳以降になると、自分で冷蔵庫を開けたり、引き出しからお菓子を見つけてきたりして、自分でたべてしまうからだそうです。*他にも「しつけ」「ほめ方・怒り方」など、6歳までの子育てについて知りたいことがぎっしり。誰にも相談できないときなど、日常の子育てについてのヒントを得ることができるでしょう。(文/印南敦史)【参考】※北條博厚(2015)『6歳までの子育てに悩んだら読む本』あさ出版
2015年09月22日