『4歳~9歳で生きる基礎力が決まる! 花まる学習会式 1人でできる子の育て方』(箕浦健治、高濱正伸著、日本実業出版社)の著者は、1993年に「花まる学習会」を立ち上げた人物。ご存知の方も多いと思いますが、「花まる学習会」は「生きる力」を育み、「メシが食える大人=自立・自活できる人」、「モテる大人=魅力的な人」を育てることを最終目標にしているユニークな学習塾として知られています。いわば著者は、幼児から大学生まで、教育の現場で数多くの子どもたちを見てきた実績を持っているということ。興味深いのは、そうした経験に基づき、生きる力を育むうえで最良の時期は「4歳から9歳」の幼児期だと主張している点です。■人間は成長すると全く違う生き物になる子どもについて話すとき、花まる学習会では「人間は“変態”する生き物である」ということからはじめるのだそうです。変態とは、「全く違う生き物になる」こと。たとえれば、9歳くらいまではオタマジャクシ。個人差はあれど、10歳くらいは足の生えたオタマジャクシ。そして10歳以降は、しっぽの短くなった“ほぼカエル”=大人になるのだということ。オタマジャクシである9歳の子どもに「陸の上で飛び跳ねなさい」といっても、子どもにとってはつらいだけ。オタマジャクシがカエルのように振る舞うことは、どんなにがんばっても無理だからです。だからこそ、そのことを理解しない親の過度な叱責や期待は、子どもの自信喪失につながると著者は訴えています。自信を失った子どもは、時期が来ても陸に上がらず、水のなかで過ごすカエルになってしまうかもしれないとも。■4~9歳の子どもはできなくて当たり前著者はよく、4~9歳の子どもを持つご両親から「うちの子、じっと座っていられないんです」「何回いってもわからないんです」というような相談を受けるそうです。でも、それこそが4~9歳の特性。そう考えれば叱る理由はなくなり、「できなくて当たり前なんだ」と思えるはず。親にとってつらいのは、まれに「できる子がいる」ことだとか。そういう子がいると、したくないのに我が子と比較してしまい、「うちの子はこのままでいいのか」と心配になってしまうわけです。でも、子どものことはなんでも心配になるのがお母さんで、それが「母という生き物の特性」。たしかにそう考えると母としての自覚を持つことができ、子どもと向き合うことができるのではないでしょうか。子どもとは、母とは、どういう生き物なのか?その特性を知れば子育てが楽になり、子どもの成長の芽を伸ばす工夫ができるようになるということ。■両親の声かけや温かなまなざしが大事!個人差こそあるとはいえ、子どもは9歳ごろまでは、「自分はなんでもできる」と思っているのだそうです。でも実際は、できないことだらけ。生まれてすぐは立って歩くことすらできないのに、なんでもできると思っている。だから、はじめは臆することなく挑戦できる。挑戦した結果、できなかったとしても、お父さんやお母さんからのプラスの声がけや温かなまなざしがあれば、「自分はいつかできる」と思うことができ、また挑戦できるわけです。つまり、お父さん、お母さんがプラスに受け止めることで、子どももプラスに受け止めることができるという考え方。ここからもわかるように、4~9歳は、生きる基礎力が育まれる時期。そのため、「思いやりの心」「たくましい心」を“生きる基礎力”として身につけられるような経験、そしてまわりの人の態度や言葉が重要だというのです。■4~9歳は「経験の総量」を増やすべし私たち大人は経験上、「なにが大変でなにが危ないか」をわかっているもの。そのため子どもに対しても、つい先回りをして準備したり、子どもの行動を止めたりしてしまいます。たとえば雨が降りそうだと思ったら、傘を準備しておく。ケンカになりそうだと思ったら、ヒートアップする前に止めてしまうなどがそれにあたるわけです。しかしそれでは、いつまでたっても子どもは「わからない」まま。空がどんな色をしていたら、空気がどんな匂いだったら雨が降りそうなのか。相手にどんなことをしたらケンカになるのか、どんなことをいったら相手は起こるのか。経験しなければ、自然のことも、相手の気持ちもわからないまま。だとすれば結果的には、相手を思いやることができない大人に育ってしまうでしょう。そこで4~9歳の幼児期に、「経験の総量」をできるだけ増やしてあげることが大切だと著者はいいます。親としてはつい手を貸したくなりますが、4~9歳の子どもは激しいケンカをしても翌日にはケロッと忘れてしまうもの。「忘れやすい」「恨みを持たない」「自分はなんでもできると思っている」時期だからこそ、子どもに自由にやらせてあげることが大切。いいかえれば、この時期に「思いどおりにならない経験」をたくさん積むことが、子どもにとっても成長のチャンスだということ。*花まる学習会式の考え方は、ひとつひとつが核心を突いていて痛快。読んでみれば、気づけなかったことに気づくことができるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※箕浦健治&高濱正伸(2016)『4歳~9歳で生きる基礎力が決まる! 花まる学習会式 1人でできる子の育て方』日本実業出版社
2016年07月02日きょうご紹介したいのは、『聴くだけで集中力が高まるビジネス瞑想CDブック』(平本あきお著、きこ書房)。メンタルコーチである著者が豊富な経験に基づいて開発したという、ビジネスパーソンのための「ビジネス瞑想」というメソッドを解説した書籍です。その名称を聞いただけではイメージしづらいですが、著者によるとビジネス瞑想には次の3つの特徴があるのだそうです。(1)世界最速、短時間で深い瞑想に入れるので、その日からすぐに結果につながる(2)カフェやトイレ、満員電車の立ち姿勢でOK。どこでもできる(3)はじめての人でも驚くほど気持ちがいい。がんばらなくても続けられるそしてビジネス瞑想には、13もの効能があるのだそうです。ひとつひとつをチェックしてみましょう。■1:自分自身の思考に気づくことができる多くのビジネスパーソンの頭のなかには、常に膨大な思考が駆け巡っているもの。時間に追われながら正しい判断を求められ続けると、心も身体も疲れ果て、パフォーマンスが落ちていきます。そんなときビジネス瞑想をすると、思考を無理に鎮めようとせず、あるがままを受け止め、物事を静かに見つめられるようになるそうです。■2:心・身体・頭のリラックスがうながされる瞑想には、心・身体・頭が空っぽになって、十分なリラックス状態(スイッチがオフの状態)へと導く効果が。十分にリラックスできてこそ、オンの状態で集中力がアップし、高いパフォーマンスを発揮できるといいます。■3:立ち止まって日々の判断の軌道修正ができる目先のことにとらわれず、常にその先の「目的」を意識できるようになるのだとか。そこで無理なく心に余裕が生まれ、いつでも立ち止まって、柔軟に軌道修正する力が身についてくるというわけです。■4:折れない心をつくることができる想定外のことや、思いどおりにならないことが起こっても、折れない心を身につけておけば、ストレスはかなり軽減できるもの。ビジネス瞑想を習得すると、そんな力がつくようになっていくそうです。■5:本当の自分(人生の目的)を知ることができる瞑想をすると、自分では気づいていなかった感情に気づくことができ、湧いてくる喜怒哀楽すべての感情を受け入れられるようになっていくといいます。さらには、ネガティブな感情の内部に隠れた、本当の自分を知ることも可能。■6:目の前にある幸せに気づく瞑想の習慣が身につくと、過去のことを考えすぎて憂鬱になったり、落ち込んだり、未来を考えすぎて不安や心配ごとに惑わされたりすることもなくなっていくことに。■7:相手のありのままを受け入れられるようになるビジネスの世界では、相手の立場に立って受け入れる姿勢が大切。そしてそのためには、ありのままの自分を受け入れたうえで、それをいったん脇に置き、相手を受け入れていくというプロセスが必要。瞑想を実践していくと、そのプロセスが進んでいくそうです。■8:相手と深い信頼関係を築けるビジネス瞑想を実践していくと、真の思いやりや勇気づけの姿勢を発揮できるようになるため、相手と揺るぎない信頼関係を築いていくことができるようになるのだといいます。■9:複雑な問題を解決できる相手と意見が対立してしまうことは、どんな状況でもあるもの。しかしビジネス瞑想をすると、どんな状況であっても、お互いがwin-winになるような形で問題解決できるようになるとか。■10:大局観が身につく仕事に追われていると、目の前の仕事をこなすことに精一杯になり、視野が狭くなりがち。しかし瞑想をすることで、いつの間にかついてしまった思考の枠が取り払われていくそうです。■11:ブレない強靭な意志を持つことができる瞑想習慣が定着すると、意思決定する際に「間違いなくこれだ!」と確信が持てるようになるといいます。■12:目の前にあるすべてをチャンスにできる生きていくうえではあらゆる困難と直面することになりますが、瞑想が身についていくと、目の前の困難をチャンスにできる精神状態が得られることに。■13:シンクロニシティが起こるようになる瞑想をすると、思考・感情・行動(言動)・意識が一貫するため、シンクロニシティ(偶然の一致)が起こりやすくなるのだそうです。自分が望んでいるものや人との出会いに恵まれ、願いがどんどん叶っていくということです。*このように、ビジネス瞑想のメリットは多岐にわたっています。そして本書には瞑想状態を誘発するメッセージが収録されたCDが付属しているため、ビジネス瞑想の基本を目と耳から学ぶことが可能。日常生活に取り入れれば、パフォーマンスを高めることができるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※平本あきお(2016)『聴くだけで集中力が高まるビジネス瞑想CDブック』きこ書房
2016年06月30日ご存知の方も多いと思いますが、『「稼げる男」は食事が9割』(森拓郎著、KADOKAWA)の著者はフィットネストレーナー。足元から顔までを美しくするボディワーカーとして、運動の枠だけに縛られず、さまざまな角度からボディメイクを提案している人物です。これまでにも17冊もの書籍を出版していますが、少し意外なのは、そのうち食事に関するものが15冊を占めるということ。根底にあるのは、「運動指導者だからといって、運動だけしか選択肢がないのは間違っている」という思いだといいますが、つまりは本書も、そのような考え方に基づいて書かれたもの。タイトルからも想像できるように、ビジネスパーソンをターゲットとして「稼げる男」になるための食習慣を紹介しているわけです。でも、“稼げる男”と“食事”には、どのような相関関係があるのでしょうか?■高年収な男性は歩数が多く肥満率低め「平成26年度国民健康・栄養調査結果」によると、運動する習慣の有無は、それほど所得の差に関係はないそうです。ただし1日の歩数は、所得が200万円未満の世帯の男性が6,263歩であるのに対し、600万円以上では7,592歩。つまり後者の方が1,300歩ほど多いという結果が出ているわけです。1歩が70cmとすると、約900mの差。これについてはいろいろな解釈ができそうですが、たとえば営業マンであれば、それだけ多くの取引先を回っているということになるのかもしれません。では、体型と所得の相関関係?所得が200万円の世帯の男性の肥満率(BMI25以上)が38.8%であるのに対し、600万円以上では25.6%と、13%も低くなっているとか。いってみれば、年収が高いほど太っていないという傾向があり、乱暴にいえば「太っていると稼げる男になれない」という仮説が成り立つということ。■高年収な男性は自分の体を考えているそれから、所得の差によって大きく数値が変わるもうひとつの項目が「検診の未受診率」。所得が200万円未満の世帯の男性の未受診率が42.9%なのに対し、600万円以上では16.1%と大きな差があるというのです。この数値からは、自分の健康についてきちんと考えているか、考えていないかによって所得に大きな差が出ることがわかります。つまり、稼ぐための資本そのものである自分の体のことを普段から考えていて、さらには健康であることが、稼げる男の条件だということです。ちなみに稼げない男は、朝食にも問題があるようです。■朝食が米や甘いパンの男性は稼げない食事は自分への投資。そして、「食事をコントロールできる者こそが稼げる男になれる」と著者は断言します。そのためには、糖質中心の食事から、糖質オフ、さらにたんぱく質や脂質を十分にとる食事に変えていく必要があるのだとか。特に独身男性には、コンビニのおにぎりや菓子パンで済ませたり、あるいはジャムを塗った食パンを食べたりして家を出るという人も少なくないはず。「朝食はしっかり食べて、脳にブドウ糖を送らないといけない」と考えている人ほど、このようにいい加減な朝食をとっているといいます。しかも、なんでもいいから食べるべきだと考えている人ほど、お手軽なパンに走る傾向にあるのだとか。ところが、そのように糖質に偏った朝食のパターンを繰り返していたら、当然のことながらメタボまっしぐら。■糖質が少なくて高タンパクな朝食を!では、どのような朝食がいいのでしょうか?朝に糖質中心の食事をすると、過剰に血糖値が上昇。しかもそのあとインスリンの作用で急降下してしまうため眠くなり、パフォーマンスが下がることになります。そこで著者の場合は、朝食の糖質の量を減らし、スクランブルエッグやオムレツ、ゆで卵などのタンパク質や脂質が豊富な卵料理を中心に、納豆や鶏肉、サバ缶など高タンパクなものを摂るようにしているそうです。また、時間があまりないときなどは、サプリメントとしてプロテインを利用することも。プロテインには筋肉増強剤のようなイメージがありますが、それは大きな誤解だといいます。プロテインは日本語のタンパク質を英語に置き換えただけのものなので、糖質の塊である砂糖をシュガーというのと同じこと。それどころか、同じ量の米やパンを食べるくらいなら、プロテインを同量摂取した方がよほど体内では有益な栄養となり、体脂肪となる確率は格段に下がるというのです。*これはごく一部で、他にも有益な情報満載。なにより、食事を“稼げる”か“稼げないか”で捉えている点がユニークです。男性の場合は自分自身の、女性の場合はご主人や恋人の生活改善に役立ちそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※森拓郎(2016)『「稼げる男」は食事が9割』KADOKAWA
2016年06月29日『10年後に生き残る最強の勉強術』(鈴木秀明著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、「資格勉強コンサルタント」。聞きなれない肩書きですが、資格の専門家として活動するかたわら、人材系ベンチャー企業の執行役員、そしてコンサルティング会社の代表取締役として、コンサルティング業などに従事しているそうです。いままでに取得した資格は、中小企業診断士、行政書士、気象予報士、証券アナリストなど450個以上にも及ぶのだとか。そしてビジネス力を高めるためのスキルアップという観点からいうと、「資格試験を活用して勉強すること」が、もっとも効率的で体系的に学べる手段なのだとか。つまり本書では、そんな経験に基づいて「スキルアップのための勉強法」を紹介しているわけです。■忙しい人の問題は時間がないことではない!資格取得や試験勉強に関する悩みで多いのは、「資格は取りたいけれど、仕事が忙しくて勉強している暇がない」ということだといいます。しかし、それは「勉強しない・できない」言い訳をしているにすぎないと著者は指摘しています。好きなバンドのライブにしても、あるいは合コンにしても、「絶対に参加しないわけにはいかない」という事情があるなら、何としてでも時間をつくろうと努力するもの。なのに勉強や資格取得のための時間がとれないというなら、それは勉強へのモチベーションが低いというだけのこと。「時間がないから勉強できない」わけではないということです。■考え方を変えれば時間はいくらでもつくれるそれでも「本当に物理的に忙しすぎる」という人は、実は優先度の低い作業に必要以上に時間や手間をかけすぎているのではないかといいます。・週1ペースでやっているルーティンワーク、実は隔週ペースでも十分では?・気の進まない仕事を後回しにしたいがために、優先順位の低いタスクを無理やりつくろうとしていないか?・その会議は、そもそも本当に必要なのか?タスクの量が多すぎるというなら、こうしたことを改めて自分に問いかけることも重要。作業の量や必要性を見なおし、無駄なタスクを削ることで、時間はいくらでもつくれるということ。■忙しくても時間を確保するための時間管理術つまり、「1日24時間」という事実が不変である以上、勉強時間を増やしたければ、それ以外に使っている時間を減らすしかないということ。そして、著者が「実労働時間を減らす」ために意識していることについては、次の3つのポイントがあるそうです。(1)やらないことを決める労働時間が長引く大きな原因のひとつは、やらなくてもいい仕事や優先度の低い仕事に時間を割いてしまっていることにあると著者。仕事は本来、タスクの重要度と緊急度に応じて「なにをいつやるか」決めて進めていくべきもの。しかし、それができていない人はかなりいるといいます。だからこそ、もちろんタスクの優先順位づけをしっかり行うことも大切ですが、もっと意識しておきたいのは「やらないことを決める」ことだそうです。タスクに優先順位をつけるというのは「やるべきことに注力する」ということですが、それは裏を返せば「やる可能性が薄いこと」を見極め、「それをやらない」と決めることが重要になるということ。そこで、ただの時間つぶし的な作業になってしまている「やるべきでないことを洗い出し、それをやらないと決める。それだけでタスクがすっきりし、余計な労働時間も減らせるとか。(2)「考える」「アイデアを出す」系の仕事は執務中にしない著者は、「デスクの前でうんうん考える」ような仕事は、基本的にデスクの前ではやらないのだそうです。アイデアや執筆のネタなどは、移動中・食事中・入浴中など、「頭を使わないでもできる行動」をしているときに考えているというのです。アイデアは、デスクに向かって座って時間をかけて考えれば出るというものではないもの。むしろ入浴中などになんとなく思考をめぐらせていると、突然思いつくことのほうが多いものだということ。(3)締め切りがある仕事はあえて締め切りギリギリにやる仕事でも試験勉強でも、「あと1か月以上ある」という状況では、どうしてもペースがのんびりになってしまうもの。しかし「一夜漬けできないとヤバい」という状況では、とんでもないスピードで進められたりします。つまり仕事も勉強も、スピードを高めることは「できるかできないか(能力的に可能か)」ではなく、「やるかやらないか(やろうと思えば誰にでもできる)」の次元の話だということ。「明日までにやらざるをえない」という環境に自分を置いてしまえば、それだけでスピードは上げられるものだといいます。*おそらく、資格試験に関心のある人が知りたいことの多くは、本書でクリアできるはずです。しかし、どうやって資格取得を目指すにしても、やはりいちばん大切なのは時間の確保。そういう意味で、きょうご紹介した部分には特に大きな意義があると思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※鈴木秀明(2016)『10年後に生き残る最強の勉強術』クロスメディア・パブリッシング
2016年06月28日7月10日の参議院選挙(第24回参議院議員通常選挙)に向けて選挙活動が活発化していますが、今回は選挙権年齢が「20歳以上」から「18歳以上」となった初の選挙でもあります。そこで目を通しておきたいのが、『18歳選挙権で政治は変わるのか』(21世紀の政治を考える政策秘書有志の会著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。著者の「政策秘書有志の会」は、国会議員政策担当秘書資格試験の同期合格者(2001年度)を中心に、党派を超えて集った政策秘書経験者(現職含む)有志のグループ。歴史的な変革である「18歳選挙権制度」の施行を機に、「将来を担う若者たちに、政治にもっと関心を持ってもらいたい」という思いのもとで結成されたのだそうです。そんなこともあって重視されているのは、次の4つの基本方針。(1)政治的党派色を排除する(2)とにかくわかりやすく(3)当事者の視点から政治の現場の様子をできる限りリアルにお届けする(4)読後、満足感があり「よし、次の選挙は必ず投票に行こう!!」と思ってもらえるようにする■18歳で選挙権もらえると一体どんな得があるのかでも、選挙権の意義や重要性を強調されたところで、「18歳で選挙権をもらっても、なにか得になることはあるんだろうか?」という疑問を否定できない人もいることでしょう。しかも、もらえるのはたった1票です。1票の行使で、政治のなにが変わるのか?選挙に行ったところでなにも変わらないんじゃないか? そんな無力感を持っている人が多いように思えると、著者も述べています。しかし、実際には1票で政治は変わることがあります。たとえば、野田桂彦元総理が、1996年の衆議院選挙で落選したときの票差はわずか105票。野田氏がその後、この敗北をバネにして総理まで上り詰めたのは有名な話です。また、市議会議員や区議会議員などの地方選挙では、1票差で当落が決まるケースも少なくありません。だからこそ、もし自分が投じた候補者が僅差で当選したとしたら、自分の1票で決まったと強く実感できるはず。それこそが、選挙の醍醐味だということです。■若者の代表に240万人が投票したらどうなるのか今回の選挙権年齢の引き下げで、新たに有権者となる18歳、19歳の若者は約240万人だといわれています。著者によれば、これは非常にイメージしやすい数字だといいます。たとえば国政選挙で、「若者の代表」といえる候補者たちを擁立し、240万人がこの候補者に投票したとしたらどうなるでしょうか?衆議院選挙の場合、前回2013年の衆院選比例代表選挙で当選者を1人だけ出した社民党の得票総数は約125万5千票だったそうです。すると計算上では、新たに有権者となった若者の2人に1人が同じ候補に投票すれば、自分たちの代表を国会に送り込むことが可能だということになるわけです。■若者同士が連帯するとすぐにでも力を生み出せる!もちろん、若者の代表を1人や2人、国会に送ったとしても、その人たちが議員としてできることには限界もあるでしょう。法案は1人では提出できませんし、注目される本会議場で質問することもできないのですから。しかし、評価は分かれたとしても、1議員がパフォーマンスをすることによって、世間の注目を集めて問題提起することは十分に可能です。いいかたを変えれば、若者同士の横の連帯が、すぐにでも力を生み出せるということ。著者も、その価値を強調しています。そして、選挙権は行使したほうが得だと断定しています。それどころか、「行使しないデメリット」が大きいので、必ず行使すべきだとも。なぜなら年齢別の投票率を見ると、若者の投票率は低く、高齢者層のほうが圧倒的に高いから。若者が政治に無関心で、選挙権を行使しないままだと、これからもどんどん高齢者に有利で、若年層に不利な政策が決まってしまう可能性があるわけです。■少子化が進んでも若者に有利な政治を実現できる!たとえば、そのいい例が年金制度。現在の仕組みでは、私たちが納めた年金は自分たちのために積み立てられるわけではなく、そのまま高齢者の年金として使われることになっているのだそうです。だからこそ、選挙を通じて政府にしっかり物申しておかないと、今後、少子化がますます進行するなかで、若者はまったく優遇されなくなってしまうことも考えられるわけです。そこで若者同士が連帯し、若者自身の代表を送り込むという、新たな政治のビジョンを本気で構築し、声を上げていくことが重要。著者はそう強調します。いいかえれば、そのために選挙権があるということ。そしてこれは、若者に有利な政治を実現しようという目的だけでなく、今後の日本にも影響する問題だということです。*たしかに読みやすく、なにより書き手の誠実さが文脈から伝わってくる点が本書の魅力。「自分ひとりが投票しなかったとしても、別に変わらない」というような勘違いを払拭するためにも、ぜひ読んでいただきたいと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※21世紀の政治を考える政策秘書有志の会(2016)『18歳選挙権で政治は変わるのか』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月27日話し方には気をつけているつもりなのに、なかなかうまく伝えることができない。それどころか、誤解されてしまうこともある。お客様に好かれないし、上司からも生意気だと思われてしまう。そもそも話し方には自信がないものだから、人間関係を築くのが苦手。話し方について、たとえばこういった悩みを抱えている方は、決して少なくないはずです。そこでおすすめしたいのが、『〈引きつける〉話し方が身につく本』(倉島麻帆著、明日香出版社)。その道22年のフリーアナウンサー/スピーチコンサルタントとして活躍する著者が、「魅力ある話し方」を身につける術を解説した書籍です。本書の魅力は、「声の出し方」「聴き方」「話し方」、果ては「表情のつくり方」「身体の動かし方」など、話し方についての方法論に徹している点にあります。浮ついたところがないだけに、話すために必要なスキルを効果的に身につけることができるのです。なお著者は、相手の心を動かす話し方をするためには「4つのスキル」が必要不可欠だと説いています。それは、「抑揚(イントネーション)」「強調(プロミネンス)」「間(ポーズ)」「緩急(チェンジオブベース)」。どれも重要な要素なので、ひとつひとつチェックしてみることにしましょう。■1:抑揚(イントネーション)人前に立って話をするとき、自分に注意を向けてほしいからと、大きな声を出す人がいます。しかし、大きな声ならなんでもいいのかというと、決してそうではないと著者はいいます。なぜなら、ずっと大きな声を出していると、聴いている人は自然と耳から入ってくる信号の強さ、つまり話す人の声の大きさにレベルを合わせてしまうから。聴き慣れると、それほど大きな声だと感じなくなるわけです。そこで重要な意味を持つのが「抑揚」。抑揚をつけると、それだけで言葉に表情が生まれるといいます。声の調子が上がることを昇調、下がることを降調、平坦であることを平調というそうですが、抑揚はこれらの組み合わせで使われるもの。この上がり下がりによって、感情や気持ちの変化を表現することができるということです。■2:強調(プロミネンス)私たちは普段の会話においても、特に大切でしっかりと伝えたいところは自然と際立たせて話しているもの。このように、文章の途中で単語やフレーズを際立たせることが「強調(プロミネンス)」。ちなみにプロのアナウンサーなどは、言葉を「立てる」といういい方をすることもあるのだとか。ただし強調するといっても、単に強く発音すればいいというものでもないようです。もちろん、その部分を強く(声を大きく)して発音すると強調になるわけですが、他にもいろいろな方法があるというのです。具体的には、声を高くしたり、その部分だけをゆっくり発音してみたり、強調したい言葉のすぐ前に間(ポーズ)をとったりしても強調することができるといいます。■3:間(ポーズ)著者によれば、早口で悩んでいる人の原因は、緊張しているからなのだそうです。人は誰でも、息の切れ目、文節の切れ目、次の言葉を考える瞬間など、そのときに応じた一定の間(ポーズ・静寂・沈黙)を無意識にとっているもの。そして、この間をうまく使うことによって、早口の人であっても、それほど早口には聞こえない話し方にすることができるのだといいます。緊張すると余裕がなくなり、一瞬でも話に空白ができることを恐れてしまいがち。空白が怖いから間を取れない、間を取らないからますます早口に聞こえてしまう。そんな悪循環に陥ってしまうということ。だからこそ勇気を持って、間を使えるように練習することが大事。■4:緩急(チェンジオブベース)話にメリハリをつけるには、「抑揚」「強調」「間」の他に、速さをコントロールする技術が有効。「緩急自在」という言葉がありますが、ときにスピードを上げてテンポよく、ときにゆっくりとていねいにと、波をつくようにするわけです。しかも大切なのは、スピードだけではないといいます。声の大きさを変えてみたり、高低を変えてみたりすることによって、ぐっと聞き手を引きつけることができるというのです。そして「言葉に気持ちを乗せて伝える」ということを意識すると、より自然で感情が伝わる緩急を生み出すことができるといいます。*これらは基本中の基本ですが、本書には声の出し方や発音のテクニック、リラックスする方法などを学べるCDも付属しているため、耳で聴きながら実践的なテクニックを身につけることが可能。いってみれば、 “話し方”についてさまざまな角度からアプローチした、とても実践的な内容なのです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※倉島麻帆(2016)『〈引きつける〉話し方が身につく本』明日香出版社
2016年06月27日『「つまらない」がなくなる本』(鶴田豊和著、フォレスト出版)の著者は、いままでに1万人以上の人々の悩みを解決してきた実績を持つ行動心理コンサルタント。前著『「めんどくさい」がなくなる本』も話題を呼んだので、記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。いわば本書はその続編的な位置づけにあり、今回は誰しもが持っている「つまらない」という感情に焦点を当てているわけです。著者によれば、私たちは「つらい」気持ちを感じるため、つい「つまらない」=「退屈」から逃れようとするもの。しかし問題は、「つまらない」という悩みによって、「お金」「時間」「健康」を失っているという事実。その結果、行動できなくなり、チャンスを失っているというのです。なお、「退屈」とひとことでいっても、大きく分けると2種類あるそうです。■2種類の「つまらない」=「退屈」悩みとは(1)一時的な退屈たとえば「病気で毎日寝込んでいるとき」「義務でやらなければいけないことをやっているとき」などがこれにあたり、特徴は「その場限りであること」。そして一時的な退屈は、次の3つの場合に発生するとか。【単調さが長く続いている場合】:単調さが長く続くと、人は退屈になるもの。これは一時的な退屈なので、その場限りのもの。その単調さが終われば、退屈から解放されるわけです。【同じことが繰り返される場合】:このケースの恒例が掃除。「そうじは、日々同じことの繰り返しだ」と思うと退屈になるわけです。とはいえ、これも一時的な退屈なので、掃除のことを考えていないときは退屈せずにすむということ。【なにが起こるか予測できる場合】:この典型例は、先の読める展開のドラマ。人は、次に起こることがわかってしまうと、退屈するものだからです。しかしこれも一時的な退屈なので、そうしたドラマなどを見ていないときは退屈しないですむことになります。(2)慢性的な退屈一方、「慢性的な退屈」の特徴は、「その場限りではなく、続いていること」。「毎日がつまらない」とか、「人生なにもかもがつまらない」という状況がこれにあたるわけです。慢性的な退屈になっているときは、「むなしい」「ゆううつ」と感じるもの。しかも、こうした状態はその場限りではなく、ずっと続くもの。そのため、慢性的な退屈がひどくなると、うつ状態につながっていくといいます。■悪循環を断ち切る、4つの「なにもしない」「つまらない」の悪循環を断ち切るための有効な手段として、著者は「なにもしないこと」を勧めています。そう聞くと「考えごとをする」「スマホをいじる」「寝ている」などを連想しがちですが、これらは「なにかをしている」状態。では、「なにもしない」とはどのようなことかといえば、それは次のようなもの。(1)なにも考えずに、ただボーッとする(2)暖かいお風呂に入ったあと、ボーッとする(3)公園や自然のなかで立ち止まり、花や草木を眺め、自然を感じる(4)瞑想上記(1)の好例は、布団から起き上がって、しばらくボーッとしているようなとき。あるいは公園のベンチに座り、ただボーッとしているとき。「よし、これについて考えてみよう」というように、主体的になにかを考えているのは、なにかをしている状態。一方、なにも考えずにただボーッとしていて、ときどきなにか考えが浮かんでくるという状態は、「なにもしていない」といえるそうです。それは、(2)や(3)も同じ。あまり厳密に考えすぎないことが大切だといいます。そして(4)は一般的に、瞑想中は頭が空っぽの状態になります。雑念が湧いてきたりすることもあるとはいえ、思考が浮かんできにくい状態になるもの。よって瞑想は「なにもしていない状態」といえるそうです。■何も考えずボーッとすると心が休まる理由4つのいずれにも共通するのは、自分の脳を休ませるということ。脳科学、心理学の世界では、脳と心はつながっているもの。脳を休ませると、心も安らぐといわれているのだそうです。つまり、人間としてごく自然な現象だということ。事実、ここに挙げた4つの例のいずれかをやってみると、理由なく幸せを感じ、穏やかな気持ち、心の平安を感じられるといいます。「なにもしない」時間が増えていけば、「なにもしないこと」の素晴らしさを知って、「つまらない」の悪循環を自然と断ち切ることができるというのです。*他にもさまざまな角度から「つまらない」がなくなる方法が紹介されているため、読み終えたころには少なからず気持ちが変化しているはず。そして無意識のうちに、「つまらない」時間を減らせるようになるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※鶴田豊和(2016)『「つまらない」がなくなる本』フォレスト出版
2016年06月26日『水でたちまち体が若返る』(小羽田健雄著、あさ出版)の著者は、38歳のときにC型肝炎・狭心症・不整脈・喘息などが悪化して命を落とす寸前にまで追い詰められたという経験の持ち主。しかし、厚生省(当時)許可の電気分解アルカリ電解水を飲んだことにより九死に一生を得たのだそうです。また同じころ、東京警察病院の医師とともに水治療の研究を開始し、生命の水研究所を設立。以来30年以上にわたり、水質調査と水の研究に尽力。慢性疾患や難病等の治療・改善に貢献しているのだといいます。そのようなバックグラウンドに基づいて書かれた本書で訴えているのは、「いい水」を吸収することの重要性。人間の体の6~7割は、「水分」で満たされています。いい水で体を大掃除するだけで、体のさまざまな症状を改善できるというのです。でも、「いい水」とは果たしてどんな水なのでしょうか?その点を探るために、「『いい水』の7つの条件」に焦点を当ててみたいと思います。■1:生命にとって有害な物質が十分に除去されている当然ながら、体にとって有害な成分が含まれていないことは、絶対的な前提条件。飲み水や料理に使うなど、私たちの体内に取り込まれる水は、毒物や、体のなかにたまって病気を引き起こす重金属や合成化学物質、細菌類などが取り除かれていなければならないということです。なお有害な物質には、水道水に含まれる塩素や、アルミニウム、塩素化合物の発がん性物質などがあるそうです。■2:ミネラルのバランスが取れた軟水硬度とは、1リットルの水のなかに、カルシウムとマグネシウムの「ミネラル成分」がどれくらい含まれているかを示した数値。この数値が高いものが「硬水」で、低いものが「軟水」だというわけです。そして、著者が考える「いい水」は軟水。なぜなら、硬度が高い硬水だと、マグネシウムをたくさん吸収してしまうことになるから。おすすめは軟水で、かつカルシウムやマグネシウム、その他のミネラルがバランスよく含まれている水だそうですが、日本の水のほとんどは、水道水を含めてこのタイプなのだといいますから安心です。■3:pH(ペーハー)はアルカリ性pHとは、水溶液のアルカリ性・酸性の度合いを表す数値。0〜14までの数値があり、pH7(中性)を境に、数字が小さくなるほど「賛成」の度合いが強くなり、数字が大きくなるほど「アルカリ性」の度合いが強くなるということ。そして、「健康にとっていい水」とはアルカリ性の水。■4:酸素や炭酸ガスなどの気体が溶け込んでいる通常、水には酸素と炭酸ガスが溶け込んでいるもの。ところが過熱するとこれらが空中に飛んでいき、酸素・炭酸抜きの「酸欠の水」に。しかし人間にとって酸素は、水と同じく、生命活動を維持するために不可欠なもの。酸素がないと人間は生きて入られませんし、不足してもさまざまな不調の原因になるそうです。だからこそ、酸素や炭酸ガスなどの気体が溶け込んでいることは「いい水」の必須条件。■5:水分子集団(クラスター)が小さいクラスターとは、水分子のかたまりのこと。水分子(H2O)は1個のときは「気体」で、液体になるには最低でも5つの水分子グループをつくることが必要。そのひとかたまりのグループがクラスター。このかたまりが保たれているのは1兆分の1秒程度の短い時間で、各分子は高速でくっついたり離れたりしているのだとか。そのスピードが速いほどクラスターは小さくなり、クラスターが小さい水ほど水分子のエネルギーが高く、高い活性力を持っているということ。■6:酸素の働きを高めてくれる私たちの体内には「酵素」が存在し、その数は5,000種以上。1種類につきひとつの仕事を持っていて、それぞれが生命活動維持のために重要な役割を担っているのだといいます。そして重要なのは、水がないと酵素は働くことができないということ。さらに水のなかには、酵素の働きをよくするもの(=酵素活性力の高い水)と、そうでないものがあるそうです。いうまでもなく、「健康にとっていい水」とは、酵素活性力の高い水ということになるわけです。■7:油(脂肪)を溶かす力(界面活性力)が高い意外な気もしますが、はっきりと目には見えないものの、水には油を溶かす力があるのだと著者はいいます。体内の脂肪分を溶かす力は「界面活性力」と呼ばれるそうですが、水の種類によってその力はまちまち。だからこそ、界面活性力の高い水を選んだほうがいいわけです。*これら7つの条件をクリアした「体にいちばんいい水」を飲むことが、すべての基本だということ。そして著者によれば、それは「アルカリ電解水」なのだそうです。この考え方を軸として、他にも水についての役立つ情報が満載です。体を芯からクリアにするために、ぜひ読んでみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小羽田健雄(2016)『水でたちまち体が若返る』あさ出版
2016年06月25日『社会人1年目からの1歩差がつく 営業マル秘セオリー』(小幡英司著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、「フレッシュパーソンのためのあたらしい教科書」としておなじみの「やるじゃん。」ブックス最新刊。タイトルからもわかるとおり、「営業の理論」と「実践的なテクニック」を凝縮しているため、どのような営業にも活用できる内容となっています。きょうは具体的な営業テクニック集のなかから、重要なポイントを引き出してみましょう。■紹介は「1つ」が鉄則商談においては、1つ以上の商品やサービスを紹介してはいけないと著者は念を押しています。なぜなら、それだと逆に、なにを紹介されたのか印象に残らなくなってしまうから。やっとの思いでアポイントがとれたのであれば、「お客様が興味を持つ可能性のあるものは全部紹介しておこう」と思いたくなっても無理はないでしょう。しかし、そこがぐっとこらえることが大切だというのです。商品説明はお客様の課題を解決するものなので、最後にするのが鉄則。「これが唯一の解決方法です。さあ買いましょう」というトークの流れをつくることを考えれば、あれもこれもと自社商品をいくつも紹介すべきではないということです。■説明の特徴は3つに絞る次に重要なのは、商品やサービスの説明の特徴を3つに絞ること。「この商品の特徴は7つあります。まず……」という感じで説明に重要なポイントがたくさん出てきても、相手にはそれが重要だと理解されないからです。会社の商品カタログなどには商品の特徴について「5大機能」「7つの特徴などと書かれていることが少なくありませんが、だからといってそれらを商談の場で説明しても、あまり意味がないということ。とはいえ、重要なことをたった3つにまとめるということは、それほど簡単ではないはず。そこで著者が勧めているのが、「3つにまとめる」という手法を、普段から習慣として使うことです。3つに絞れるようになると、上司に商談の説明をするときにも「この商談のポイントは3つあります。まずひとつは納期で……」というように使ったり、お客様に説明するときにも「選択基準を3つ挙げるとすればどんなことでしょう」と使ったりすることもできるようになるわけです。■購入の選択肢は2つが鉄則そしてもうひとつ大切なのが、「購入の選択肢は2つが鉄則」だということ。お客様は、最終的には「どちらが気に入ったか」で決めるもの。2つだからちょうどいいわけで、それが3つ以上だと選べなくなり、結果として決断に結びつかなくなるというのです。人はなにかを決めるとき、選択肢を2つにしてから「どっちにしようかな」と選んでいるのだそうです。だからこそ商談では、意図的に2つの選択肢を提示する。そうすれば、お客様は選びやすくなるわけです。■接触頻度5回の法則ベテラン営業マンの多くは口を揃えて、「お客様と5回コンタクトしたあたりから感触が変わる」というのだそうです。これは、接触する頻度が多くなるほど相手に対して好意を持ちやすくなるという「ザイアンスの法則」。マーケティングや営業では、よく活用されているものです。この手法が使われる有名なケースが、ホームページからの資料請求。どこの会社のホームページでも、資料請求するとすぐにお礼のメールが届きます。しかもその後、郵送で資料が届くころに「資料をお送りいたしましたが届きましたでしょうか」と確認のメールが送られてきます。また、しばらくするとメルマガで、無料セミナーや展示会のご招待などの案内が送られてくるようになります。このように資料請求した人にメルマガを送り、それを読んだ人を誘導していく。それが最近のマーケティングの手法だということ。それでは、ザイアンスの法則を営業の初回訪問で活用するためにはどうすればよいのでしょうか?そのために大切なのは、電話アポイントをとってから初回訪問するまでの間に、電話やメールなどで数回の連絡をとっておくこと。お客様の負担にならないように意図して接触すれば、訪問時に好意的な態度で接してもらえる頻度が高くなるといいます。しかし、ザイアンスの法則には落とし穴も。人は、売り込まれれば売り込まれるほど嫌になっていくということです。たとえばECサイトで買い物をしたことがある人なら、毎日のようにメールが届いてうんざりしたという経験はあるはず。それと同じく、お客様に嫌な感じを与えないように配慮する必要があるということです。*営業についての基本がしっかり網羅されているため、本書を活用すれば営業のセンスを身につけることができそうです。ノルマに悩んでいるのなら、手に取ってみる価値があるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小幡英司(2016) 『社会人1年目からの1歩差がつく 営業マル秘セオリー』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月24日『自分の才能の見つけ方【ポケット版】』(本田健著、フォレスト出版)は、2013年8月に刊行されてベストセラーとなった『自分の才能の見つけ方』に加筆し、新たにワークも盛り込んでポケット版としてまとめたもの。著者は、経営コンサルタント、投資家を経て、29歳にして育児セミリタイヤ生活に入ったという人物。そののち執筆活動をはじめ、数々のヒット作を生んでいます。また、30年以上の長きにわたって「才能」について研究してきた実績をも持っており、本書にはそれが生かされているということ。「どうやって自分の才能が眠っているありかを探し当てればいいか」「どうやって掘り出せばいいのか」「どうやって磨いていけばいいのか」など、眠っている才能を見つけて生かすための方法を解き明かしているのです。才能は誰でも持っているもの。しかし多くの人が、「自分には才能がない」と思い込んでもいます。この誤解をクリアにしない限り、いくら懸命に探しても才能は見つからないと著者はいいます。そこで、「才能とはなにか」を理解するにあたってまず必要となるのは、才能に対する誤解を解いていくこと。もちろんいろいろな誤解がありますが、大きく7つに分けられると著者は解説しています。ひとつひとつをチェックしてみましょう。■1:才能は天才のみに与えられるまず1つ目は、「才能は(たとえば野球のイチロー選手のような)ごく一部の天才に与えられるものだ」という誤解。実際にはそうではなく、才能の掘り出し方、磨き方を知らないだけ。そのため、「自分にはない」と思い込んでいるということです。才能は人それぞれ。わかりやすい才能をもらっている人がいる一方、別の人は、すぐにはわかりにくい才能を与えられているかもしれない。その、自分独自の才能を探して磨いていくことが、人生の楽しみでもあるということ。■2:才能は職業である才能をすぐ職業に結びつけてしまうことも間違い。1つの才能を使うだけで仕事になる職種は限られているので、「すぐ仕事にならないなら、才能ではない」と考えると、せっかくの可能性が閉じてしまうというのです。たとえば歌では一流にはなれない人にも、音楽プロデューサーとして一流になれる可能性はあるかもしれない。才能を上手に組み合わせれば、その人にしかできない楽しい人生が送れるもの。逆に、せっかく才能らしきものが見つかっても、すぐに生かせる職業がないため、「大した才能ではない」と決めつけてしまうのはもったいないということ。■3:お金に換えられないものは才能ではないお金に換えられないものは意味がないと思っていると、せっかく自分の才能らしきものを見つけても、ゼロ評価してしまうことになります。たとえば「人に親切にする」などの才能はすぐお金には結びつきませんが、セールスマンの親切心がビジネスの成功に結びつくことは大いにあるわけです。その才能が単体でキャッシュに換えられなくても、価値がないわけではないのです。■4:才能は遺伝する親に才能がなかったとしても、自分自身にも才能がないとは限らないもの。逆に、親に才能があるからといって、子どもにも才能があると決まっているわけでもありません。人の才能のかたちは多種多様。親と子どもであったとしても、才能のあり方には関係のないケースのほうが多いと著者は主張します。■5:才能は飽きっぽい性格の人には見つからない才能は飽きっぽいと見つからないと思われがちですが、これも誤解。単に、まだなにかにとことんハマッた経験がないから、「自分は飽きっぽい」と思い込んでいるだけかもしれないとも考えられるのです。そして著者は自分自身の経験をもとに、「本当に心から『これだ!』というものが見つかったら、絶対飽きない」と保証するそうです。逆にいえば、飽きているうちはまだ本物ではないと考えたほうがいいということ。■6:才能は若いうちしか開発できない「10代、20代のうちにスタートしないと、才能は開花しない」と考える人は多いもの。しかし、そんなことはないと著者は断言します。若くしてスタートしたほうが、それをやっている「継続年数の力」という意味では有利だというだけ。早くスタートしすぎてつぶれてしまうこともあるだけに、そんなことでは比較できないわけです。■7:才能はある日突然、天啓のように降ってくるこれも大きな誤解で、じっと待っていたら才能の女神がやってきて、「あなたの才能は、イラストレーターとして発揮できます」などといってくれるわけではなりません。そうではなく、いろんなことをやって積極的に行動しているうちに、ピントが合ってくるということ。そして、その結果として「これが自分の才能だ」と腑に落ちたりするわけです。なにもしていないのに、急に自分の才能がわかるというのは、特殊なケースだと考える必要があると著者はいいます。*これら7つのうちいくつかは、誰しも考えたことがあるのではないでしょうか? しかし、それらは単なる誤解で、人にはみな才能の芽がある。そんなことを、本書は改めて実感させてくれるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※本田健(2016)『自分の才能の見つけ方【ポケット版】』フォレスト出版
2016年06月23日『1万人を見てわかった 起業して食える人・食えない人』(松尾昭仁著、日本実業出版社)の著者は、経営コンサルタント、セミナー講師として、1万人以上の起業家及び起業家予備軍と接してきた実績を持つ人物。そんなキャリアの裏づけがあるからこそ、企業の魅力やメリットばかりをクローズアップする世の中の流れには危機感を感じているようです。なぜなら華やかなイメージとは大きく異なり、独立して成功して食べていくのはとても難しいことだから。多くの人が起業して成功をつかもうと努力するものの、現実的にはその大半が、夢の途中で挫折する結果になってしまうと主張しているのです。しかし、起業して食べていける人と失敗している人がいる以上、両者の間にはなにか明確な差があるはず。この点について、起業がうまくいかない最大の理由は、サラリーマン時代の思考と行動原理を引きずったまま行動してしまうことだと著者はいいます。とすれば、起業で成功するためには、「起業家の思考と行動原則」を身につける必要があるということになるでしょう。そこで本書はそんな考え方をもとに、起業に成功する人が「必ずやっていること」と「やらないこと」を示し、起業家体質の人の思考や行動パターンを紹介しているわけです。きょうはそのなかから、「借金」についての考え方に焦点を当ててみましょう。■食える人は「借金は信用」だと考える「借金は悪である」という価値観を持っている人は、決して少なくないはず。しかし成功する起業家はそう考えず、むしろ「借金は信用」だとプラスに考えるのだそうです。なぜなら起業家にとって、事業拡大のために借り入れできるということは、社会的信用を得られた証になるから。銀行や投資家から「この事業はうまくいきそうだ」と思ってもらえるからこそ、お金を出してもらえる。逆にいえば、見込みのない事業であったとすれば、お金を借りることはできないわけです。著者の知人の起業家には、お金があるときにあえて銀行から借りる人もいるそうです。銀行はお金を貸して利子をとる商売なので、優良な会社にはどんどんお金を貸したいと考えるもの。だから、銀行からお金を借りて、着々と返済していく。そうすれば銀行に恩を売ることができて信用枠も拡大するため、今度はより大きな金額の資金を調達することも可能になるというわけです。■起業家の「無借金経営だから」は危険ちなみに「うちの会社は無借金経営だから」と胸を張る起業家を見かけることがありますが、そういう会社は銀行からの融資の誘いも断ってしまうのが特徴。つまり、いざお金が必要になって融資をお願いしたいということになっても、銀行は救いの手を差し伸べてくれないのです。いわば起業家は、銀行から借金をできるようになって、ようやく一人前。実際に銀行から借りるかどうかはケースバイケースであるものの、少なくとも「借金は悪だ」と決めつけている限り、事業を大きくするのは困難だということです。■起業家にとって現金はガソリンと同じもちろん、どんなビジネスをはじめるかにもよるでしょう。しかしそんな理由があるからこそ、起業する人は、最初からある程度の融資を受けた方がいいと著者は考えているそうです。「融資を受けて失敗したら、借金まみれの生活になってしまう」と尻込みする人もいるでしょうが、見込みのない事業計画であれば銀行はお金を貸してくれませんし、その程度の覚悟では成功はおぼつかないと著者は釘を刺します。そして、「起業家にとって、現金はガソリンのようなもの」だとも表現しています。満タンだったら、最初から全力で突っ走ることができるということ。しかしガソリンが少ししかなければ、なにをするにもおっかなびっくりになってしまい、成功のタイミングを逃すことも。せっかく目の前に大きなチャンスがあるのに、お金がかないから動けないというのでは、成功するはずのビジネスもうまくいくはずがないわけです。■お尻に火がつかないと全力は出ない!なお、起業する際に借金をするメリットは、もうひとつあるそうです。それは、起業家としての覚悟が決まること。小さなことのように思えるかもしれませんが、これはとても大切なこと。なぜなら、人はお尻に火がつかないと全力で走れないものだから。いつやめても金銭的なダメージがないのなら、やはり本気にはなれないもの。「来月までに100万円を返済しないといけない」というような状況になって初めて、本気でなんとかしようと思うようになるという考え方です。*経営者にとっていちばんの仕事は資金繰り。そしてお金をうまく回すには、大きく分けて2つしか方法はないといいます。ひとつは売上を上げること、もうひとつはお金を借りること。借金をすればストレスも溜まるもの。そういう意味でも、起業家には覚悟が必要だと著者はいいます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※松尾昭仁(2016)『1万人を見てわかった 起業して食える人・食えない人』日本実業出版社
2016年06月22日きょうは、『赤ちゃんがぐっすり寝てくれる奇跡の7日間プログラム』(山本ユキコ著、あさ出版)をご紹介したいと思います。著者は、女の子2人を育てた自らの育児経験と心理学の知識を合わせ、子育てに関する独自のメソッドを確立したという人物。これまで、2,000人以上のママ&赤ちゃんを指導してきたそうです。つまり本書ではタイトルどおり、楽に赤ちゃんを寝かしつけることのできる方法を紹介しているわけです。それは、寝かしつけるコツを毎日1つずつ取り入れていく「奇跡の7日間プログラム」。しかも「一週間も待てない」という場合は、7つのコツを1日で一気に試してみてもいいのだそうです。■1日目:寝室から音と光を締め出しましょう赤ちゃんを寝かしつけるとき、大切なのは家の電気をすべて消すこと。寝室だけではなく、家中の“すべての電気”を消すことが大切だといいます。なぜなら家全体を暗くすると、メラトニンというホルモンが分泌され、体を眠りやすい状態にしてくれるから。その一方でメラトニンは、朝日などの光を浴びると分泌が抑えられるのだとか。つまり、たとえ蛍光灯や電球の明かりであっても、体に光が当たっているとメラトニンの分泌が少なくなり、眠気を感じなくなってしまうわけです。だからこそ寝かしつけの際には、家族みんなが寝るときのように家中を暗くすることを心がけるべきだということ。■2日目:泣いたら少し様子を見ましょうなかなか寝てくれない赤ちゃんは、次のどちらかに当てはまるそうです。(1)産まれてからずっと、長い時間寝たことがない(2)生後3か月は寝ていたのに、6カ月あたりから夜中に起きるようになったこのうち多いのは(2)のパターン。理由は、生後6カ月の赤ちゃんには、2つの大きな変化が現れるから。ひとつは、ひとり座りができるようになり、寝返りも上手になること。もうひとつは、睡眠パターンが、浅い眠りを繰り返す「赤ちゃん型の睡眠」から、浅い眠りと深い眠りを繰り返す「大人型の睡眠」に近づいていくこと。こうした変化から、生後6ヶ月の赤ちゃんは、寝ていると思ったら急に泣き出したり、布団の端から端まで移動したりするなど、睡眠中にさまざまな行動を見せるようになるというのです。そこで、少し様子を見てみるべき。しばらくすると深い睡眠に戻る可能性が高いそうです。■3日目:寝る「場所」を決めましょう赤ちゃんにとって、ベッドの上は1日の大半を過ごす大切な生活空間。ところが、寝る場所と遊ぶ場所が同じだと、なかなか寝てくれないのだそうです。つまり赤ちゃんに夜ぐっすりと寝てもらうためには、ベッド=寝る場所だと認識させ、居間に遊ばせるスペースをつくることが大切。■4日目:寝る「時間」を決めましょうこの「寝る時間」とは、あくまでも布団に入る時間のこと。子どものペースで眠くなるまで起こしておくと、いつまでたっても寝てくれなくて当然。そこで就寝時間がずるずる後ろにいかないように、「この時間には寝かせる」という目標をつくることが大切だというのです。なお子育てのプロがいる乳児院などでは、就寝時間を7時に設定しているのだとか。難しそうにも思えますが、心がけ次第で不可能はことではないそうです。■5日目:寝るまでの流れを決めましょう「寝る前に絵本を読むといい」理由は、知育によいということだけでなく、読み聞かせが「就寝儀式」に最適だから。就寝儀式とは、「夜、これをすると必ず寝てしまう」というもので、寝る癖をつけるために繰り返す習慣のこと。これが、寝るためのリズムを生み出すわけです。■6日目:母乳・ミルクの飲ませ方をコントロールしましょう授乳で寝かしつける際に気をつけるべきは、寝る前の3時間はおっぱいを飲ませないこと。中途半端な時間に授乳をしてしまうと、その時点でお腹が満たされ、寝る前のいちばん飲んでほしいときにおっぱいを飲んでくれず、寝かしつけることが困難になるからだそうです。しかし「飲ませる時間」と「飲ませない時間」のメリハリをつけると、1回の授乳量が多くなって赤ちゃんのお腹を満たせるため、スムーズに寝かしつけられるわけです。■7日目:寝かしつけ前の“夕寝”を防ぎましょう7日目に目指すべきは「眠らせない」こと。生後3カ月ごろから約半数の赤ちゃんが、夕方、理由もなく泣くようになるのだそうです。これは、「コリック(たそがれ泣き)」と呼ばれる現象。しかし、それは朝起きて、昼に活動的になり、夕方疲れて眠りにつくという生活リズムができた証拠。そこでコリックをするようになっても、寝る前の3~4時間は寝かせないようにすること。もし夜7時に寝かせたいなら、3時にはお昼寝を切り上げ、その後、夜までは夕寝をさせないようにすることが大切であるわけです。*本書内ではこれら7つのコツについて、より深く、そしてわかりやすい解説がなされています。いうまでもなく、どれもすぐに実践できることばかり。赤ちゃんがなかなか寝ついてくれず、困っているというママ、パパにとっては必読の一冊であるといえるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山本ユキコ(2016)『赤ちゃんがぐっすり寝てくれる奇跡の7日間プログラム』あさ出版
2016年06月20日『ビル・ゲイツとやり合うために仕方なく英語を練習しました。 成毛式「割り切り&手抜き」勉強法』(成毛眞著、KADOKAWA)の著者は、株式会社アスキーなどを経て、日本マイクロソフト株式会社設立に参画したという人物。そう書くといかにも華やかに思えますが、現実的にそれは、「30歳を前にして、英語がなんとしてでもできるようにならなければいけない状況に追い込まれた」ことを意味していたようです。マイクロソフトという外資系企業に勤める以上は、必要不可欠な条件だったということ。しかも「コツコツやるのが嫌い」な性格なので、徹底的に手を抜きたかったのだとか。そこで生み出されたのが、本書で紹介されているメソッド。ちなみに本書は、・仕方がなく英語を身につけなくてはならなくなった。・でも、英語学習に時間をかけたくない。・とはいえ、外国人はもとより、日本人の前でも臆せずに英語を話せるようになりたい。という考えを持っている人に最適なのだそうです。結果的に著者自身が、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツとやりあったり、ジョークをいい合ったりする程度の英語は身につけることができたというのですから、そこには妙な説得力があるといわざるを得ません。■手抜き勉強法の核になる5つのポイントそんな著者が編み出した「成毛式『割り切り&手抜き』勉強法」の核になっているのは、次の5つ。(1)発音の基礎(2)「物まね」という筋トレ(3)英語以外の知識(4)道具の活用(5)優先順位を明確にした暗記これらについて考える際に重要な意味を持つのは、著者の目的です。本人の言葉を借りるなら、目指していたのは「ビル・ゲイツの英語っぽい英語」。そのため、発音はいやでも鍛えなくてはならなかったわけです。そこで思いついたのが、体力づくりのような(1)「発音」と、応用編にあたる(2)「物まね」との併用。どちらかひとつでは飽きてしまう可能性がありますが、(1)と(2)を行ったり来たりすることで、「今度はこっちで試してみよう」という心がけも生まれたのだといいます。■ネットスラング「kwsk」に説得力がなお発音に関してのトピックは、著者が母音よりも子音の重要性を強調している点にあるでしょう。中高生時代には誰しも母音について細かく教わったことがあると思いますが、むしろ大切なのは子音だというのです。この点について強い説得力を感じさせるのは、ネットスラングの「kwsk」を引き合いに出している点。いうまでもなく「kuwashiku=詳しく」の略ですが、もしもこれが子音ではなく母音を取り出して「uaiu」だったとしたら、なんのことだかさっぱりわからないはず。ここからもわかるように、子音さえしっかりしていれば、相手に汲み取ってもらうことができるというわけです。■英語の日常会話ほど難しいものはない!(3)「英語以外の知識」の必要性は、著者に英語が求められるようになった時期が、ちょうど転職した直後だったため気づくことができたのだそうです。いいかえれば、英語だけが使えるようにあっても仕事はできないということ。そこで気をつけるべきは日常会話。「せめて日常会話ぐらいはできるようになりたい」という人は少なくありませんが、日常会話ほど難しいものはないというのです。しかしターゲットをビジネスに絞ると、知らなくてはいけない英語の範囲はぐっと縮まるという考え方です。■英語の練習ツールは本からSiriまで(4)「道具」については、英語を練習するために便利なツールとして著者は本を勧めています。ただし、いわゆるテキストではなく、英語をテーマにした読みもののこと。それらは英語学習に直結するものではないものの、英語を練習し続けることへのモチベーションを保ってくれるというのです。また、テレビの副音声、「NHK WORLD RADIO JAPAN News」のポッドキャスト、グーグル音声入力なども有効だとか。iPhoneユーザーには、秘書機能アプリSiriを英語に設定することもいいとか。■決まり文句は「割り切って丸暗記する」(5)「暗記」はいわずもがな。決まり文句は、割り切って丸暗記するに限るというのです。しかも重要なのは名詞。特にその業界の専門用語は、英語でいえないとお手上げ。だからこそ最初は名詞だけを暗記し、動詞は後回しにするということです。なお上記のNHKのニュースやポッドキャストを聴く際にも、「これは経済のニュースだな」「あの事故の話だな」というような判断材料になるのは「聞き取れる名詞」、特に固有名詞が大半。つまり名詞は、聞き取りのキーになるわけです。*こうした基本を軸としながら、他にもオリジナリティ豊かなアイデア満載。本書を活用すれば、これまでとはちょっと違った手段で英語力を身につけられそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※成毛眞(2016)『ビル・ゲイツとやり合うために仕方なく英語を練習しました。 成毛式「割り切り&手抜き」勉強法』KADOKAWA
2016年06月20日きょうは、『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方 “短く働く”のに、“なぜか成果を出せる”人たち』(山嵜一也著、KADOKAWA)という書籍をご紹介したいと思います。著者は、日本の大学院で建築設計を学んだのち、2001年に渡英したという一級建築士。以来10数年にわたり、ロンドンの住宅の改修や、橋、音楽堂などさまざまな建築の設計に携わってきたのだそうです。そんな経験を積み重ねてきた結果として得たのは、「成熟国の先輩」であるイギリスならではの生き方・働き方があるという実感。そして、そこには日本人が学ぶべき(取り入れることのできる)多くの学びがあると感じたのだといいます。それは、「成熟国に暮らす人たちの知恵」。■無理な成長を目指していない一般的にイギリス人は、“肩の力を抜いている”といわれます。それは「無理な成長を目指していない」ということでもあり、そこに私たち日本人にはないポイントがあるということ。ひとつひとつのことを割り切り、できないことを無理してやらない。だからこそ、持続的に、効率よく、淡々と生活できるということなのでしょう。実際のところ、イギリスにおける「総労働時間」は日本より低いにもかかわらず、「労働生産性」は日本より高いというデータもあるのだといいます。■他人のボロい服を気にしないところで著者によれば、イギリスにはボロい服を着ている人が多くいたのだそうです。穴が空いていたり、ほつれていたりしていても、気にすることなく平気で着ているというのです。地下鉄やバスでそういう人をよく見かけただけではなく、会社の同僚たちも、普段着はあまり気にしていない様子。周囲がそんな感じなので、やがて著者もその感覚を身につけてしまったというのは、なかなかおもしろいエピソードではないでしょうか。では、イギリス人はケチだから服を買わないのかといえば、そういうわけではないというのです。つまり彼らはファッションにではなく、たとえばアートなど、自分にとって価値のあるものにお金をかけるということ。事実、「どうしてこんなところにお金をかけるんだろう?」と不思議に思うこともあったといいます。その例として紹介されているのが、世界中から作品を募る公募展「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビション」での体験。18世紀から240年以上続く歴史ある展覧会だそうですが、そこに「部屋を掃除したら出てきた、ちょっと日に焼けた建築模型」を応募してみたら、入選して展示され、買う人がいたというのです。アートの展覧会に建築模型が出品されること自体が不思議な話ですが、イギリスではアートと建築の距離が非常に近く、絵画、彫刻、写真などの部門と同様に“建築部門”もあるとか。それにしても、「どうせ誰も買わないだろうから」と、かなり高めの金額をつけておいた建築模型が売れたことは、著者にとっても新鮮な出来事だったようです。■アートを所有することに喜ぶたしかに昨今では、アートが投資の対象として見られている側面もあるでしょう。それも事実ではありますが、他方には、純粋にアートを所有することに喜びを感じている人も、イギリスには多くいたといいます。その証拠に、友人たちの家を訪れると、絵画や写真などが額に入れられて壁にかかっていたりするそうで、なんとも素敵な話ではあります。そういう価値観の持ち主に囲まれていたことも影響してか、著者自身も、小さな彫刻を買ったことがあるのだそうです。もちろん投資になるようなものではなく、そもそも投資目的ではなかったわけですが、「世界にひとつしかないもの」を買ってみると、アートを見る目が少し変わったように思えたのだというのです。そんな経験があるからこそ、おしゃれな服を着飾ることで日常に潤いが得られるのと同じように、1枚のアートを部屋の壁に飾ることは気持ちに潤いを与えてくれると著者は述べています。もちろん重要なのは、高い金額の絵画や彫刻を買うことではないでしょう。ただ、自分へのご褒美として手に入れる服やバッグの代わりに、アートを買うという行為も、きっと日常を楽しくしてくれるということ。著者はロンドンでの生活のなかで、日本人の価値観とは異なる新鮮な思いを身につけたということなのかもしれません。*他にも、日本人にとっては新鮮なエピソード満載。視野を広げてみるという意味でも、読んでみて損はない一冊だといえます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山嵜一也(2016)『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方 “短く働く”のに、“なぜか成果を出せる”人たち』KADOKAWA
2016年06月19日バリバリ仕事をこなしたいと思ってはいても、十分な睡眠時間を確保できず、あるいは悩みが多くて眠れず、ボーッとしたような状態から抜け出せない。かといって寝不足から脱却できるわけでもなく、打開策が見つからない。そんな人は決して少なくないはず。でも、『スタンフォード大学で学んだ睡眠医学の専門家が教える寝不足でも結果を出す全技法』(西多昌規著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読んでみれば、少し気持ちが楽になるかもしれません。著者は、スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師。そんな実績を軸に、「寝不足を解消しよう」という角度からではなく、「寝不足の状態でも結果を出す」ことを考えたユニークな書籍なのです。ところで睡眠不足解消に悩む過程で私たちを惑わずものに、寝不足に関する数々の都市伝説があります。果たしてそれらは信じるに値するのでしょうか?そこを明らかにすべく、きょうは本書のProgram5「本当に知っておくべきことって?寝不足の『都市伝説』を科学的に検証」に注目してみたいと思います。■3時間睡眠でもなんとかなる?ある調査結果によると、実際に短い睡眠時間でも元気に活躍できる「ショートスリーパー」(厳密には6時間以下の睡眠時間でも日中に問題なく生活できる人)は、世界に5~10%は存在するといわれているのだとか。しかし、これが3時間睡眠という極端な短眠となると、割合はがくっと減るのだそうです。そもそも人間に必要な睡眠時間は、(中心値に多少の違いはありますが)7~8時間を中心に分布しているもの。ただし3時間睡眠でも平気な人は、このなかのごくわずかなのだといいます。正確な割合まで示したデータはないものの、著者は0.0000…%というような値だろうと推測しています。そして、3時間睡眠でも平気な人は、短眠を可能にする遺伝子を持っている可能性が高いと考えられているのだそうです。つまり、多少なりともそういう人は存在するということなのでしょう。ただし、それ以外の90%以上の大多数は、7時間以上の睡眠は必要。ショートスリーパーの真似をして3時間睡眠にしようと努力しても、結果的にはさまざまな病気を患うリスクのある不健康な生活になり、自分を痛めつけるだけだということです。■寝不足はそのうち慣れてくる?人間はある条件を満たす場合においては、ショートスリーパーでなくとも、短時間睡眠である程度辛抱することは可能。その条件とは、(1)「期間が限定されていることがわかっている場合」、そして(2)「モチベーションがあること」だそうです。いい例が、赤ちゃんが生まれたばかりの夫婦。赤ちゃんの夜泣きにつきあって寝不足になっても、長く続くわけではないとわかっていて、子どもの成長が励みになっているからこそ、体力的にきつくても耐えられるわけです。ただし、あくまでも条件つきであることが重要。緊張やモチベーションがあるうちはいいものの、寝不足が長期間にわたって続くと、体に無理が生じ、やる気もパフォーマンスも落ちてくるということ。寝不足が長く続きそうな場合は、一時的にうまくいっていたとしても慢心せず、睡眠をきちんととるなど生活を見なおすことが大切だといいます。■エナジードリンクで目覚める?徹夜などで眠れないとき、「レッドブル」「バーン」「モンスターエナジー」などのエナジードリンクを飲んでがんばるという方も少なくないでしょう。しかし、その成分は意外に知られていないと著者。たとえばレッドブルの成分表を見てみると、次のように書かれているそうです。砂糖、ブドウ糖、酸味料、L-アルギニン、カフェイン、ナイアシン、パントテン酸Ca、VB6、VB2、VB12、香料、着色料(カラメル)たしかにカフェインは含まれているものの、含有量は1本あたり80ミリグラムと、同僚のコーヒーが含むカフェインとほぼ同じ分量。なのになぜ、エナジードリンクばかりが「徹夜のお供」と認識されているのでしょうか?エナジードリンクの目覚まし効果は、実際にはその大半がカフェインによるもの。でも、それに加えて「なんとなく目が覚めそう」というプラセボ効果もあると考えられるのだそうです。効能をアピールする盛大な製品プロモーションに寄って、「これを飲めば効く」という情報が頭のなかにインプットされているということ。なんだか騙されたような気分ですが、プラセボ効果もバカにできないことが、最近の研究や新薬の治験でわかってきてもいるのだとか。「効くかもしれない」と思って飲めば、効果は必ずしもゼロではない可能性もあるということ。とはいえ、実際に死亡例が出ていることからもわかるように、カフェインの過剰摂取は禁物。あくまで仮眠を中心にした寝不足対策が望ましいそうです。*もちろん十分な睡眠がとれればベストですが、なかなかそうはいかないのが現実。だからこそ、本書を参考にしてパフォーマンスの向上を目指してみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※西多昌規(2016)『スタンフォード大学で学んだ睡眠医学の専門家が教える寝不足でも結果を出す全技法』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月18日以前『バラ肉のバラって何?誰かに教えたくてたまらなくなる”あの言葉”の本当の意味』を取り上げたことがありますが、その続編というべきが、『サランラップのサランって何?誰かに話したくてしかたなくなる“あの名前”の意外な由来』(金澤信幸著、講談社)。「フマキラーのフマ」「ククレカレーのククレ」「スターバックスコーヒーのスターバックス」「歌舞伎町の歌舞伎」「コービー・ブライアントのコービー」など、おなじみの商品名、会社名、地名、人名の由来を明かしたものです。「へー、なるほど!」と驚きの連続である本書から、数字に関連したトピックスを引き出してみたいと思います。■1:SHIBUYA109の「109」ってまずは簡単なところから。渋谷駅前に1号店を、そして全国的にも100店舗以上を展開するSHIBUYA109といえば、日本国内だけでなく、海外の若い女の子にも人気。1号店ができたのが昭和54年(1979年)だといいますから、すでに30年以上の歴史があることになります。そんな109を運営しているのは、東急モールズデベロップメントという会社。いうまでもなく東急グループの一員で、つまり109は「東急→とうきゅう→10(とう)9(きゅう)」という語呂合わせなのです。また、営業時間の「午前10時〜午後9時」を表してもいるのだとか。■2:スリーエム ジャパンの「スリーエム」って住友スリーエム株式会社は、平成26年(2014年)9月1日で住友電工とアメリカの3Mが合併を解消したため、3M社の100パーセント子会社に。そこで社名も「スリーエム ジャパン株式会社」となりました。ところで、この「スリーエム」とはなんなのでしょう?アメリカでは現在「3M Company」となっていますが、かつては省略形ではなく、正式な名称を社名としていたのだそうです。それは、「Minnesota Mining and Manufacturing Co.」で、直訳すると「ミネソタ鉱山製造」。現在はさまざまな分野の化学・電気素材をつくる多国籍企業として知られていますが、この名が示すとおり、もともとはミネソタの鉱山で鉱石を採掘する会社として創業したのです。■3:「551蓬莱」って肉入り中華まんじゅうは、関東では肉まんですが、関西では豚まん。そして関西で豚まんといえば、やはり551蓬莱です。同店のCMから豚まんという名称が広がったといいますから、その影響力は絶大です。551蓬莱は、大阪市中央区に本店のある中華料理の販売・飲食店。関西2府4県にお店があるのだそうです。店名の「551」は、創業当時、電話番号が551番だったことに由来したもの。そこに、「ここがいちばんを目指そう」という意味も与えられているのだといいます。■4:エフエムナックファイブの「ナックファイブ」って埼玉県を放送エリアとするFMラジオ局といえば、エフエムナックファイブ(通称NACK5)。もともとの正式名称は「エフエム埼玉」で、ナックファイブは愛称でしたが、平成13年(2001年)に正式名称もナックファイブと変更されたのだそうです。この「ナックファイブ」とは、同局の周波数である79.5から取られたもの。ラジオ局では放送のなかで周波数をアナウンスすることがよくありますが、社名に周波数を使っているのは同社だけだとか。■5:ロックバンドの「U2」ってアイルランド出身のU2は、世界的なロックバンドとして有名。アメリカの経済誌「フォーブス」が2011年6月に「世界でもっとも稼いでいるミュージシャン」に認定したことでも知られています。U2というバンド名はシンプルで、どんな国の人にもおぼえやすい名前。意味については「第二次大戦時のドイツの潜水艦Uボート2から」、「アメリカの偵察機U2から」、あるいは「you too」からなどの説がありますが、いずれもメンバーが否定しているのだそうです。そしてメンバーによると、「U2に意味はなく、名前候補リストにあったなかで、ましなものを選んだだけ」。このことについてギタリストのジ・エッジは「ひとつの文字とひとつの数字だから、いいやすくおぼえやすい」と、そしてヴォーカリストのボノは、「U2の魅力はそのあいまいさにある。解釈の仕方は無限大だろ」と語っているといいます。*このように、ちょっと意外なエピソード満載。「商品名・ブランド名」「社名・団体名・学校名」「地名」「人名・グループ名」とジャンルも多岐にわたっており、ひとつひとつが短くまとめられているので、空いた時間にリラックスして楽しむことができるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※金澤信幸(2016)『サランラップのサランって何?誰かに話したくてしかたなくなる“あの名前”の意外な由来』講談社
2016年06月17日『最強経営者の思考法』(嶋聡著、飛鳥新社)の著者は、松下政経塾2期生にして、元ソフトバンク社長室長。つまり松下幸之助からの影響を受け、孫正義の参謀としてソフトバンクを飛躍させたという、なかなかできない体験をした人物だということ。そして本書では稀有なキャリアをもとに、20世紀と21世紀それぞれを代表するふたりの名経営者に共通する思考法を公開しているわけですきょうはそのなかから、第1章「松下幸之助と孫正義に見る6つの成功法則」に焦点を当ててみましょう。■1:未来を予測し、予言する松下幸之助がカリスマ的なリーダーとなる結果を出せたのは、自転車から電気という馬に乗り換える選択をしたから。一方、デジタル情報革命の到来を確信したのが孫正義。そこで、綿密な調査をしたうえで、30年後のどまんなかに焦点を当てて馬に乗り、情報産業に対して確信的な姿勢で挑んでいったというわけです。そして同じように、誰にでも乗るべき馬があるはずだと著者。しかし、乗る馬を間違えれば、未来を失うことにもなるでしょう。だからこそ未来を予測し、どの馬に乗るべきかを慎重に見定めなければならないわけです。■2:大風呂敷なビジョンを提示する日本は不言実行が美しいとされますが、「リーダーは有言実行でなければならない」と主張するのは孫正義。そして公言するときは「絶対にやり遂げる」と決意し、「絶対にやれる」という自分なりの方法の見込みをつけなければならないといいます。人は追い詰められてこそ、本当の力が出せるもの。リーダーを目指す人は、大風呂敷を広げたビジョンをつくり、公言すべきだと著者はいいます。■3:超長期を語り、人づくりをする遠い将来を予言する、あるいは予見するためには、過去を見てみることが大切。なぜなら物事は、過去があって現在があって未来があるから。産業革命、工業革命がはじまったのは300年くらい前。機械や動力が生まれ、人類の生き方が変わり、パラダイムシフトが起きたわけです。しかし、孫正義はこういってもいいます。「これから300年間で、本当の意味での情報のビッグバンが起きるのではないか。いまはまだほんのその入口である」「これから300年、人類はこれから人類史上最大のパラダイムシフトを体験することになる」300年先を見通し、超長期の計画を語る。そして人づくりをしていけば、松下幸之助や孫正義を超えることができるかもしれないということです。■4:最速で目標を達成する著者がここで提案しているのは、目標達成までの時間を、3割短縮すること。1か月なら3週間、1年の予定なら4月からはじまって12月末には達成することを目標とするという考え方です。重要なのは、たとえ1時間でも早く目標が達成できるように全力を尽くすこと。それが1週間、1か月、ときには1年も早く目標に到達することにつながるといいます。そのためには、まず自分自身のやろうとすることが「いつまでにできる」と確認し、孫正義のように「なんでそんなにかかるのか」と自問することが重要。そして、自分なりの機嫌短縮の目標を決めるわけです。■5:「思考の三原則」を身につける著者が松下政経塾の塾生だったときに教わった「思考の三原則」とは、次のとおり。(1)目先にとらわれないで、できるだけ長い目で見ること。(2)物事の一面にとらわれないで、できるだけ多面的に、できれば全面的に見ること。(3)何事によらず技葉末節(しようまっせつ)にとらわれず、根本的に考えること。しかし現場で現実の対応に直面していると、どうしてもこの三原則の反対になってしまうものだといいます。長期的な利益よりも短期的利益の方をとろうとし、多面的・全面的に考えず一面的に決断し、根源的な問題よりも枝葉末節な問題を重視し、その結果、飛躍できなくなるわけです。しかしリーダーは重要な問題と対峙したとき、「思考の三原則」に常に戻り、決断し、実行しなければならないもの。■6:成功を信じ、やり抜く人や資金を集めるものは、リーダーへの期待感。だからリーダーは、やり抜くという「持続する意志」を持たなければならないと著者。逆に、困難に直面すると「もうダメだ」とすぐにあきらめてしまう人がいます。でも、あきらめてしまってはそこで終わり。失敗したとしても、それは成功のための準備であると考えるべき。成功の要諦は、成功するまで続けるところにあると信じ、持続する意志を持って成すべきを成す。それこそが、唯一の成功のコツだそうです。*実際に見聞きしたことがらを軸にしているだけに、本書での著者の主張には強い説得力があります。経営者に限らず、なんらかのリーダーであれば読んでおきたい内容であるといえます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※嶋聡(2016)『最強経営者の思考法』飛鳥新社
2016年06月16日『ダイジョーブタがあなたの悩みを解決します!』(浅見帆帆子著、フォレスト出版)の著者は、代表作『あなたは絶対! 運がいい』(廣済堂出版)、『大丈夫! うまくいくから』(幻冬舎)をはじめ、50冊以上の著作を持つ、累計450万部以上のベストセラー作家。また全国で1,000人規模の講演会を満席にする実績を持ち、数千人の会員を持つ公式ファンクラブ「ホホトモ」を通して、読者との交流も積極的に行っているそうです。本書の主人公は、2005年発売の絵本『おかえりなさい 待っていたよ』(PHP研究所)に登場して以来、著者の著作には欠かせない存在である人気キャラクター「ダイジョーブタ」。「眺めるだけで癒される」「幸せな気持ちになれる」と大きく支持されるダイジョーブタは、2011年からスタートした著者の会員制ファンサイト『帆帆子の部屋』内の「郵便ポスト」というコーナーで読者の悩みや人生相談に答えてきたそうですが、つまり本書はそのコーナーを書籍化したもの。サイト開設から5年の間に読者から寄せられた計2,000件超の人生相談から、90本を厳選しているというのです。そのなかから、「年齢」に関する相談を抽出してみましょう。■1:21歳の年齢差カップルここで紹介されているのは、彼氏との大きな年齢差について悩む女性からの相談です。Q.ライブ先で21歳も年下の人と知り合い、おつきあいしてほしいといわれました。シャイだけど好青年。しかしこの年齢差は非常識でしょうか?(東京都・51歳・女性)A.年齢差に非常識もなにもなく、ふたりが惹かれあっているのであれば、それが答え。ダイジョーブタはそう答えています。人生はいろんなことを味わうためにあるのだから、そんな楽しい状態になっているなんて、「すごくうらやましいじゃないか!」とも。なぜならそれは、相談者が魅力的であることの証だから。若さのエネルギーというものはたしかにあるのだから、それをたっぷり吸収すればいい。また、相手にとっても刺激を受けることがたくさんあるはずなのだから、お互いのエネルギー交換ができる最高のパートナーと考えるべき。つまり、「年齢(差)」という考え方の枠は必要ないという結論です。■2:40代でも結婚あきらめていませんQ.一度も結婚しないまま、40代を迎えてしまいました。でも気持ちは20代と変わらず、普通に恋愛して好きな人と結婚したいと思っています。(新潟県・43歳・女性)ところが、最近はすごく不安になり落ち込むばかりなのだとか。年齢を気にせず時期を待つには、どうしたらいいのでしょうか?A.「キミがいままで結婚しなかったのは、妥協しないで、自分の心に素直になってきたからだ」とダイジョーブタ。まず、結婚は「生きているって最高」と感じるためにあるものなのだから、仮にそう思えない人と結婚していたとしたら、不幸になっていたかもしれない。だから、これまでのことは正解。40代(以降)で結婚して幸せになっている人はたくさんいるし、自分のスタイルや価値観がしっかりできあがってから恋に落ちたから、「素」で合っている同志だということ。そこで、「どんな人と出会うか本当に楽しみ」だというエネルギーを持ち、出会いを求める動きをしたほうがいいといいます。■3:47歳ですが子どもがいませんQ.夫と愛犬と楽しく暮らし、介護のパートをしています。47歳になり、子どもはできず、同僚が子どもの話題で盛り上がるとミジメな気持ちになります。対処方法はありますか?(東京都・47歳・女性)さて、ダイジョーブタは、この悩みにどう答えるのでしょうか?A.「夫と愛犬と楽しく暮らしているなら最高じゃん!」それが結論。そして、もし同僚たちに子どもがいなかったとしたら、ミジメにはならないだろうかと問いかけています。だとしたら、それは「みんなと同じなら幸せ」という基準だということになる。そして、子どもがいなくても輝いている人を見たら、急に「これでいい」と思えるかもしれない。その基準でいると、どんな環境に行っても、自分に無い物を探しはじめてしまうだけ。そんなことより大切なのは、仕事でも趣味でも、ふたりで新しい共通のことをなにかはじめて見るべき。全部ふたりのために使える時間なのだから、子どもの都合に振り回されない長期的な人生計画を立てられると考えればいいということです。*実際にはダイジョーブタの話し言葉で進んでいくため、肩の力を抜いて読み進められるはず。少し疲れたときや、悩みがあるとき手にとってみれば、ヒントを見つけ出すことができるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※浅見帆帆子(2016)『ダイジョーブタがあなたの悩みを解決します!』フォレスト出版
2016年06月15日『ビジネスマンのための最新「数字力」養成講座』(小宮一慶著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、2008年3月に初版が発行されるや15万部以上のヒットとなった『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』に次ぐ、8年ぶりの第二弾。著者は企業規模や業種を超えた「経営の原理原則」に基づき、幅広く経営コンサルティング活動を行っている経営コンサルタント。また、日経新聞の景気指標を用いた講演にも定評があります。本書の趣旨のひとつは、ビジネスパーソンの「数字力」の養成。しかし、もうひとつの趣旨にこそ、注目すべきポイントがあるといえるかもしれません。それは、数字をとおして日本の現状を理解してもらおうというもの。いま政治的、経済的に世の中で起こっていること、日本のディープな部分の多くは、公開されているさまざまな数字から誰もが知ることができるというのです。きょうはそのなかから、「日本の人口」に関する部分をチェックしてみましょう。■人口は毎年30万人ずつ減少中国勢調査は5年に1回、大規模な調査だと10年に1回しかないため、あくまで推計値だといいますが、現在の日本の人口はおよそ1億2,000万人だろうといわれています。昨年1年間で、30万人減っているのだそうです。昨年生まれた子どもの数は、約100万5,600人。亡くなった人の数が130万人強。一昨年は、生まれた子どもの数が100万1,000人で、亡くなった人の数が127万人。ときどき新聞に掲載されるこうした推定値から計算すると、だいたいのところ人口は30万人ずつ減っているわけです。ただし団塊の世代が亡くなりはじめるころには、毎年100万人単位で減るだろうと著者は推測しています。団塊世代は一学年200万人単位、多い学年だと現在でも約240万人ですが、このところ、生まれる子どもの数は100万人程度。今年成人式を迎えた人が120万人ですが、多少出生率が上がって、そこまで戻ったとしても、やはり人口は毎年100万人単位で減少していくだろうということです。放っておくと数十年後には8,000万人台になってしまうため、政府は1億人を目標にしているわけですが、あまり現実的ではないわけです。■構造をどう変えていくかが課題団塊世代は退職後も元気で、退職金がある程度入ってきて、経済的にも余裕があるため、GDPには消費面で貢献していることになるといいます。しかし著者が懸念しているのは、後10年も経つと、「もう旅行するのもしんどいな」という人たちが数多く出てくるであろうということだとか。つまり今後、人口が格段に減っていくことは確実で、消費も減っていくため、GDPの伸びも期待できないことになるのです。その一方、この先数十年にわたり、若い人たちの社会保険料負担と税負担が増えていきます。これも可処分所得が減るので、GDPの減少要因となります。だからこそ、この構造をどう変えていくかが、現在の最大の課題だということです。■アベノミクスは「机上の空論」この課題の難しさは、「経済が安定しないと子どもが増えない」という点にあると著者は指摘します。ただでさえ子どもを産まない理由としては経済的理由が大きいのに、経済が安定しない現在、将来不安のなかで進んで子どもを産む人が増えるとは考えにくいわけです。そうした状況下、「アベノミクスでGDPを600兆円に」などということは机上の空論だといわざるを得ない。著者はそう主張しています。90年代初頭、すでに(合計特殊出生率)「1.55ショック」というものがあり、こうした事態になることはわかっていたそうです。そして、現在の合計特殊出生率は1.46。なのになぜ、抜本的な少子化対策がとられてこなかったのでしょうか?この問いに対する答えは簡単。「票にならない」からだというのです。背に腹は変えられなくなったせいか、いまになって待機児童や保育所の問題が国会でも討議されるようになりました。しかし合計特殊出生率が回復しつつあるヨーロッパでも筆頭の位置にいるフランスでは、保育、学費など、多くの育児、教育費が無償。いまや50%を超える非嫡出子が、それらにおいて不利になることもないといいます。■名目GDPを上げることが重要ただしベースのところで、経済が豊かでないと支えきれないわけです。フランスも経済状態は決してよくはありませんが、ひとりあたりのGDPは日本よりはずっといい状態。それは、出生率が大きく回復したデンマークやスウェーデンなどの北欧諸国も同じだそうです。少子化対策もとったものの、基本は経済がよくなったからだといいます。一方、日本はどうでしょう?介護の問題もそうですが、経済の足腰をいかに強くするか。重要なその点が、ずっとなおざりになっているというのです。だからこそ重要なのは、とにかく名目GDPを上げることだと著者はいいます。それ以外に、根本的な方法はないとも。*著者の解説はとてもわかりやすいので、読み進めれば無理なく、数字を通じて世の中の構造を把握できるはず。ぜひ、手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小宮一慶(2016)『ビジネスマンのための最新「数字力」養成講座』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月14日『4つの性格タイプから見つける いつの間にか人生が変わる服』(みなみ佳菜著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、これまで7,000人以上のスタイリングを手がけきたというパーソナルスタイリスト。アメリカのアウトドアブランド「Eddie Bauer Japan」をスタートラインとして、MAX&Co.などを経て2008年にファッションレスキュー入社。プロパーソナルスタイリストとして活動したのち、10年に独立したのだといいます。現在は、三越伊勢丹グループや六本木ヒルズ主宰のセミナー講師なども務めていらっしゃいます。つまり本書ではそんな実績を活かしつつ、オフィスからカジュアルまで使える「働く女性のための11アイテム」とコーディネートレッスンを紹介しているわけです。きょうはそんな本書のなかから、着こなしをワンランクアップさせるための「7つのキーワード」をご紹介したいと思います。■1:サイズ感どんなに似合う色やデザインでも、体のサイズに合った服でなければ魅力が半減して当然。しかし、「小さすぎ」「大きすぎ」の服を着ている人は少なくないのだそうです。サイズ感については、「私のサイズは○号」と決めつけるのはやめるべき。表示の号数と実際のサイズはメーカーによって微妙に違うので、表示サイズに惑わされることなく、とにかく試着が命だということです。■2:シルエット知っておきたいのが、スタイルよく見せる4パターンのシルエット。上下ともゆるい服を着てモワッとしたシルエットになっている人も少なくはないものの、「どこを絞るか」がポイントなのだとか。1つは、上半身・下半身ともにコンパクトにまとめる「I」型(Tシャツにスキニーパンツなど)。2つ目は、下半身を絞る「Y」型(チュニックブラウスに細身のパンツやタイトスカートな土)、3つ目が、上半身を絞る「A」型(タイトなトップスにワイドパンツやマキシスカートなど)、そして最後はウェストを絞る「X」型(スカートがAラインになったワンピースなど)だそうです。■3:トレンド感「おしゃれ=トレンドに敏感でなければならない」ということではなく、大事なのは「自分の内面を正しく表現すること」。季節ごとに移り変わる流行の色やデザインは、誰にでも合うものではなく、つまり万人に似合うトレンドはないということ。だからこそ、「いまのトレンドは私の長所を活かしてくれるものかな?」という視点で賢く見極めることが大切だというわけです。■4:季節感季節をちょっと先取りするような着こなしは、それだけでおしゃれな印象を与えてくれるもの。そしてチャンスは年に2回、2月と8月だそうです。まだ寒く、多くの人がダークカラーのコートを着ている2月に、春の息吹を感じさせる色をまとう。まだまだ夏休みの印象が強い8月に、秋先取りの着こなしをする。そんな先取り感が、おしゃれな印象を生み出すわけです。■5:小物使い小物使いが苦手な人は少なくないそうですが、そんな人たちに著者がいつも伝えているのは、「まずネックレスだけあればいい」ということなのだそうです。なぜなら、顔まわりを明るくしてフォーマル感を伝えられる小物として、優先順位はトップになるから。そしてネックレスに飽きたり、変化をつけたくなったりしたら、同じく顔まわりを明るくする小物としてピアスやいたリングを投入。その次に、シルエット調整もでき、アクセントにもなるベルト、さらに体温調節もできるストール。それだけで十分だといいます。■6:抜け・こなし「抜け感」「こなれ感」を演出するためにおすすめなのが、「アケ・まくり・まくり」のテクニック。体の上から順に、まず首まわりが詰まらないようにシャツのボタンや巻物をほどよく開けて、デコルテ部分に“抜け”を。そして、羽織りものやシャツの袖をまくって手首を見せる。さらにパンツの裾をアップして足首を見せる。女性が美しく見えるパーツを隠さずに見せることで、抜け感が生まれるといいます。■7:柄使い柄ものは、気軽にトレンドを取り入れられるアイテム。著者の経験則として、目が大きくインパクトのある人は大きめの花柄や幾何学模様などの「大きい柄」、繊細な顔立ちの人は「小さめの柄」がマッチするそうです。逆の組み合わせになると、「顔と服が合っていない」「顔が服に負けている」という印象になってしまうというのです。*似合う色や形の見分け方から、性格チェックまで豊富な内容。もちろん着まわしコーディネートも、豊富な写真とともに紹介されています。つまり、きわめて実践的な内容。持っておけば、日々のコーディネートに役立つこと間違いなしです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※みなみ佳菜(2016)『4つの性格タイプから見つける いつの間にか人生が変わる服』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月13日「EMBA」(エグゼクティブMBA)という名称を耳にしたことがあるという方は、決して少なくはないはず。いうまでもなく、現役のビジネスエリートが通う教育機関です。そして『世界の最も野心的なビジネスエリートがしている 一流の頭脳の磨き方』(山崎裕二、岡田美紀子著、ダイヤモンド社)のふたりの著者は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とシンガポール国立大学(NUS)が共同で行っている「UCLA-NUS」のEMBAの同窓生なのだそうです。なにしろ名門中の名門ですから、クラスメイトも豪華絢爛。グローバル企業のゼネラルマネージャーやCFO(最高財務責任者)クラスから、経営者や投資家、政府関係者、医学博士までが揃っているのだとか。ところで興味深いのは、世界のトップクラスのビジネスエリートたちが、「どのように学んでいるのか」についての記述です。というのも、彼らの「学び方」には、ビジネスを成功させる大きなヒントが潜んでいるというのです。■異常に強い「時はカネなり」意識彼らのスタイルを一言で表現するなら、「学びと実践を同時進行させる」ということに尽きるのだと著者はいいます。ビジネスエリートたちにとって、「仕事をしながら学び続ける」というのは至極当たり前のスタンスだというのです。そして、最大のポイントがここにあります。すなわち、彼らは「時はカネなり」の意識が異常なほど強いということ。新入社員ならともかく、上に行くにつれて競争が激しくなるので、自分が停滞することに焦りを感じるものなのだそうです。しかし使える時間は少ないので、必然的に、学びと実践が常に同時進行になるということ。そして、そんな彼らの学び方については、「MBAとEMBAの違い」という観点から説明するとわかりやすいそうです。■MBA取得は最低でも1年かかるフルタイムのMBAを取得するためには最低でも1年、多くの場合は2年程度、仕事を休まなければならないのだといいます。仕事をいったんストップして勉強するというかたちになるわけです。しかし、20代の若者なら不可能ではないかもしれませんが、すでに第一線で活躍しているビジネスエリートにとって、2年間のブランクを空けることなど現実的ではありません。しかしEMBAの場合は、もちろん各校によって期間こそ違うもの、通常の仕事をしながら集中的に授業を受けられるというのです。著者の通ったUCLA-NUSのEMBAは、約1年半の間に2週間のプログラムを6回受けるというスケジュールだったそうです。授業の行われる2週間は凝縮された学びの時間が続き、宿題、課題の連続で寝る間もないほど。しかしその2週間を終えると、それぞれが学びを携え、ビジネスの現場へと戻っていくことに。そして、それから3か月後にまた戻ってきて授業を受けるわけで、まさに学びと実践を同時進行していくスタイルだということです。■EMBAで学んだことは即実行!だからこそ、彼らと学んでいると、インプットからアウトプットまでのスピード感に驚かされるのだといいます。実際、彼らはEMBAで学んだことを即座に現場で実行し、新たな成果と課題を持ってふたたび学びの場に帰ってくるというのです。その高速反復のサイクルが当たり前になっているので、EMBAでは彼らが実践した生の事例を題材として取り上げながら、教授や講師、生徒たちと議論を重ね、さまざまな意見交換をするのだそうです。いってみれば、学問だけでも得られず、経験だけでも得られない「自身の実体験に教授やクラスメイトたちの暗黙知を加味し、経験値と知見を倍速で得る」というサイクルを、1~2年のあいだ回転させる、ということです。■EMBA後に収入が変わったか?ちなみにEMBAの世界ランキングは、「EMBAへ来る前と、来た後で、どのくらい収入が変わったか」というところで順位付けされるのだといいます。だからこそEMBAサイドも、「ここでの学びをどんどん現場で実践し、大きな成功を収めてほしい」と強く願っているのだそうです。当然、そのためのカリキュラムが用意されており、生徒同士がネットワークを広げ、新たなビジネスチャンスが生まれるように、さまざまな工夫、考慮がされているということ。実際に、クラス内でビジネスが生まれることもあるのだといいます。*この記述を目にしただけでも、ビジネスエリートたちの強い野心を実感することができるのではないでしょうか?そしてこうした考え方を軸として、以後も頭脳を効率的に磨いていくためのメソッドがパワフルな筆致で展開されています。ビジネスをレベルアップさせたい人にとっては、必読の一冊だといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山崎裕二、岡田美紀子(2016)『世界の最も野心的なビジネスエリートがしている 一流の頭脳の磨き方』ダイヤモンド社
2016年06月13日『誰からも必ず「よかった! 」と言われる話し方39のコツ』(夏川立也著、日本実業出版社)の著者の経歴は、少し変わっています。なにしろ京都大学在学中に桂三枝(現在の六代目・桂文枝)師匠に弟子入りし、卒業後は吉本興業の芸人として活躍したというのですから。そればかりか、長寿番組としておなじみの「新婚さんいらっしゃい! 」で、10年間にわたって前説を務めてきたのだとか。しかも、芸人として経験を積む過程において「場の空気づくり」に着目。結果的には、そのロジックを体系化した「パワー・コミュニケーション」プログラムを開発したというのです。そして現在はコミュニケーションコンサルタントとして、講演・研修活動を10年間以上にわたり続けているのだそうです。注目すべきは、「人前でうまく話すために求められるのは『話す内容』だけではなく、次の3つの要素だ」と主張している点です。■うまく話すために必要な3つの要素・コンテンツ(内容)話す内容を精査し、より聞き手の感情に響く内容(言葉)を準備すること・パフォーマンス(表現)表現能力を高め、より効果的に聞き手に届けること・フィールド(場/空気)パフォーマンスを発揮しやすい、ホームの状態にすべく場の空気をつくることこれら3つのすべてが必要で、どれか1つだけが欠けたとしても、人前でうまく話すことはできないといい切るのです。しかし、そうであるなら、「コンテンツ」を精査して「パフォーマンス」を高めるためのコツを知ったうえでトレーニングをし、「場」を味方につけて話せるようになれば、人前でうまく話せるようになるはず。そこで本書では、「場づくり」「ネタづくり」「パフォーマンス」、それぞれのコツが紹介されているというわけです。■それなりの結果を出せるようになるところで多くの人の前でスピーチをするときなどに、最後まで聴衆を話しに引き込むことができず、そのまま終わってしまったというような経験のある人は決して少なくないはず。しかしこのことについて著者は、「人前でうまく話せるというのは、誰もが感動する奇跡的な一世一代のものすごいスピーチができるということではない」と主張しています。人前でうまく話せるとは、どんな聞き手でも、聞き手がどんな状態でも、それなりの結果を出せるようになること。聞き手のフィーリングが合うとき、よい結果になるのは当たり前の話。つまり、聞き手の間合いや、「なんとなく波長が合わないな」というときでも、それなりに引き込みながら、ペースをつくっていけるかどうかが重要だということ。■こちらのペースに「引き込む」秘訣しかし、そうはいってもそれは簡単なことではないはず。しかしネタづくりにおいては、たとえ自分の調子が悪かったとしても、聞き手をこちらのペースに引き込んでいくための秘訣があるのだそうです。それは、“テンションをマックスにして話すことのできるフレーズ”を“開始3分以内”に組み込んでおくこと。たったそれだけのことで、絶大な効果を生み出せるというのです。■テンションポイントを用意して話す「テンションは心のボリュームである」と著者はいいます。カラオケで絶叫したり、思いっきり声を出したりするなどエネルギーを解き放つことで、余計な力が抜けて気持ちが楽になることがあります。心のボリュームをマックスにするとは、これに近い状態だというのです。だからこそ、不完全燃焼になってしまうことを避けるため、心のボリュームをマックスにできるポイントを意図的に用意しておくべきだということ。そうすれば集中力も増し、雑音(雑念)が消えて緊張の緩和にも役立つそうです。では、具体的にどうすればいいのでしょうか?そのことを説明するため、著者は次の2つのフレーズを比較しています。A「本日はありがとうございます。一生懸命にやらせていただきます」B「本日はありがとうございますっ! いっっっっっっしょう懸命にやらせていただきます!」テンションを最大にするポイントをつくるとは、Bのようなイメージなのだとか。性格的なものも影響するでしょうから、現実的にはなかなか難しそうな気もします。しかしそれでも、できるだけ早い時間、つまり3分以内にテンションをマックスまで持って行き、強調したい言葉に力を込めることは重要。それこそが、著者ならではの考え方なのです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※夏川立也(2016)『誰からも必ず「よかった! 」と言われる話し方39のコツ』日本実業出版社
2016年06月13日『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』(大西雅之著、あさ出版)は、日本最大規模のインドア型テニススクールである「ノアインドアステージ」(以下ノア)の代表取締役による著書。同社はいまも右肩上がりで成長を続けているそうなのですが、注目すべきは、社員教育に関するユニークな考え方です。というのも、「社員教育にはできるだけ時間や人を投資する」ということが基本的なスタンスだというのです。事実、同社は2015年に、年間3,000万円を社員教育に費やしているのだといいます。ただし、最初からそういった考えを持っていたわけではなく、それ以前はむしろ正反対の方向性を目指していたのだとか。端的にいえば、かつては成果主義にとらわれすぎていて、従業員の仕事を「成績」だけで評価し、「社員の幸せ」=「給料」と割り切っていたというのです。しかしその結果、幹部社員6人が示し合わせて退社するという事態に。■働きがいのある会社ランキング7位に!いうまでもなく、これは企業にとって大事件以外のなにものでもありません。そこで、ここから考え方を方向転換。社内外の研修に多大な投資を行って、積極的に人材育成をするようになったというわけです。その結果、「従業員の離職率は7%、「働きがいのある会社ランキング」(GPTWジャパン)では、中小企業部門で7位(2013年度)にランクインしたというのですから驚き。トップの考え方次第で、部下はいくらでも可能性を伸ばせるということを立証してみせたといえるでしょう。■「よい人材はなかなか集まらない」事実手が回らない、採用をしても育てる自信がないなどの理由で、新卒採用に二の足を踏んでいる中小企業は少なくないはず。また著者によればテニススクールの業界でも、新卒の定期採用をしている会社は限られているそうです。そんななか、ノアが新卒採用をスタートしたのは2011年のこと。積極的な出店のため人材の確保が急務なのだそうですが、新卒の定期採用に取り組んでみてわかったことがあるといいます。それは、「よい人材は、なかなか集まらない」という事実。そこで著者は、採用の基準を次の2つに変更したのだといいます。■ノアインドアステージの2つの採用基準(1)「おもてなしの心を感じられる人材」であれば、テニス経験は問わないノアが重視しているのは、テニスのスキル以上に「人間性」なのだそうです。このことに関するポイントは、「テニスのレベル」と「接客レベル」は必ずしも比例するものではないということ。だとすれば、テニスのコーチングスキルは入社後に教えればいいのであって、採用時にはさほど重視する必要がないという考え方です。逆に、いくらテニスが上手でも、「教えてやっている」と思い上がっていては、サービス業が務まるはずもありません。だからこそ、「スポーツを通して、お客様に笑顔になっていただく」というビジョンに共感し、価値観を揃えることのできる人なら、テニスの経験はゼロでも構わないということ。「テニス経験ゼロ」の大学生を採用の対象にして門戸を広げれば、それだけ可能性が広がるという発想なのです。(2)「ほどほどの人材」を採用して、社員教育で育てるノアでは「おもてなしの心を感じられる人材」を求めているといいますが、おもてなしの心を「持っている人材」ではなく、「感じられる人材」としたことには理由があるのだそうです。おもてなしの心というものは、入社時には持っていなかったとしても、社員教育によって身につけることが可能だから。ここで引き合いに出されているのは、「人とホスピタリティ研究所」の高野登さん(元ザ・リッツ・カールトンホテル日本支社長)の言葉。「地下鉄の優先席だけが空いていたと記、『いいや、座っちゃえ』という人たちをグループA、『必要な人がいないなら、とりあえず座ろう』という人たちをグループB、『ここは優先席だから立っていよう』という人たちをグループCとします。リッツ・カールトンは、グループCの感性を持った人や、それに近い感性の人たちを集めたい」というものです。たしかに理想は、グループCの感性を持った人たちを集めることでしょう。しかし中小企業には、感度の高い人材は集まらないのが実情でもあります。そこでノアでは、グループBの人材でも採用するのだそうです。優秀な人材を採用できないなら、社員教育によって優秀な人材に変えていけばいいということ。いまはおもてなしの感性が低かったとしても、継続的な社員教育を続けることによって、「サービス業に必要な感性を高めることができる」と考えているというのです。*大胆にも思える著者の考え方は、しかし理にかなったものでもあります。だからこそ、「従来の常識を、別の角度から捉えてみる」という意味でも、読む価値があると思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※大西雅之(2016)『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』あさ出版
2016年06月12日『マジビジプロ ハンディ版カール教授と学ぶビジネスモデル超入門!』(平野敦士カール著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、その名のとおりビジネスモデルについて学ぶには格好の一冊。DeNA、楽天、アップル、LCC、QBハウス、アマゾン、facebook、インテル、クックパッド、スターバックス、ZARAなどなど、躍進し続ける企業の“儲かる理由”を豊富な図解とともに解説した書籍です。著者は、企業で新規事業を立ち上げ、ベンチャー企業への投資を行い、近年は大学や大学院などで経営戦略やマーケティングを教えている人物。そんな実績をベースとしながら、あくまでも平易にわかりやすいアプローチを貫いているとことが最大の魅力であるといえます。きょうはそのなかから、「ソーシャルメディアでワインを50億円売った男」の話を取り上げてみましょう。■ソーシャルメディアを最大限に活用!ゲイリー・ヴェイナチェックさんは、アメリカでソーシャルメディアを利用し、1人でワインを50億円売った人物。2006年にWinelibraryという、ワインを紹介する動画コンテンツをスタートさせ、成功を収めたのだそうです。「ワインは好きだけど、詳しいことはわからない」という方も少なくないと思いますが、まさにそのような人をターゲットとして、ワインについてわかりやすく動画で解説したのです。おもしろいのは、単なるショッピングチャンネルとして人気を獲得したわけではないということ。ベラルーシ訛りで強烈に喋りまくることによって、「ワインのことならゲイリー」といわれるほどのブランドをつくることに成功したのだというのです。ツイッターのフォロワーは、100万人近くもいるのだとか。つまり、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアと動画を連動させることによって、どんどんクチコミが広がっていったということ。とはいえ気になるのは、なぜ50億円以上もワインが売れたのかということではないでしょうか?■自動的に売れるビジネスモデルを構築ソーシャルメディアの時代においては、無理に物を売ろうとしても、そう簡単に売れるものではありません。では、なぜゲイリーさんにそれができたのか?その答えは、上記の記述のなかにあります。つまり、自身が画面に出てファンをつくり、彼らからの「信頼」を得たということ。ゲイリーさんを見たくて動画を開いた人に対し、動画の最後でワインを紹介することによって、「自動的に売れる」ビジネスモデルを構築したというわけです。ゲイリーさんのWinelibrary TVのビジネスモデルを5つのポイントで考えてみると、次のようになるそうです。(1)顧客→ワイン好きの人(2)顧客価値→ワインについての深い知識を動画で提供(3)経営資源→動画ソーシャルによる口コミ知識(4)差別化→強烈なキャラクター(5)収益→販売益■現代の「新たなビジネスモデル」事例近代マーケティングの父といわれる経営学者のフィリップ・コトラー博士は、「マーケティング3.0」という言葉で知られています。企業が広告宣伝を行い、消費者が物を買うのがマーケティング1.0。「食べログ」のように、消費者が商品やサービスを評価することによって、人々が購買行動を起こすのがマーケティング2.0。そして、ソーシャルメディアなどの口コミによって、消費者が企業のブランドをつくる時代のことをマーケティング3.0と呼んだのです。つまりゲイリーさんのビジネスモデルは、まさにマーケティング3.0そのものだというわけです。この事例は、現代における新たなビジネスモデルの可能性を示唆しているといえます。世の中の多くの人が「知りたい」と思っていて、なおかつそれが自分の得意分野であったとしたら、それがビジネスチャンスになるということ。ソーシャルメディアを利用して無料で情報発信ができるという利便性を、活用しないテはないということです。*女の子と著者との会話形式で話が進んでいくため、肩の力を抜いて気楽に読み進めることができるはず。そして気がつけば、ビジネスモデルについての基礎を学ぶことができるわけです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※平野敦士カール(2016)『マジビジプロ ハンディ版カール教授と学ぶビジネスモデル超入門!』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月12日『先生、その英語は使いません! (学校で教わる不自然な英語100)』(キャサリン・クラフト著、ディーエイチシー)は、南山大学の交換留学生として来日し、英語月刊誌『ET PEOPLE!』を発行するかたわら、通訳/翻訳家としても活躍しているという人物。本書ではそのような実績を軸に、学校で教わる100種の“不自然な英語”を紹介しているわけです。そのなかからきょうは、数字に関する2つの話題をピックアップしてみたいと思います。■1:「おいくらですか?」金額や料金を尋ねるいいかたに、次のようなものがあると学校では教えてくれます。What’s the total?(合計でいくら?)What’s the admission?(入場料はいくら?)What’s the fare?(運賃はいくら?)What’s the rate?(料金はいくら?これらの定型につられ、「おいくらですか?」を次のようにいってしまう日本人がいるのだとか。What is the price?著者によればこれは、ちゃんと通じるけれど、ネイティヴ・スピーカーの耳には「値段は?」とぶっきらぼうにいっているように聞こえてしまうのだそうです。How much is it?How much does it cost?金額や料金を尋ねるときは、“How much……?”というのが一般的。ただし、よく“How much?”とだけいう人がいますが、それは「いくら?」といっているようで偉そうに聞こえるので、上記のいいかたがいいそうです。なお、次のようにいうと、よりていねいに聞こえるといいます。How much will it be all together?How much will it cost all together?(全部でおいくらになりますか)他の例文も見てみましょう。How much does it cost to get in?(入るのにいくらかかりますか?)How much do tickets in the balcony cost?(バルコニー席はいくらですか?)How much does it cost to get to Nagoya Station?(名古屋までいくらですか?)How much does it cost per hour?(1時間いくら?)■2:「ちょうど20ドルかかった」また、「ちょうど500円です」「ちょうど1,000円になります」などということがありますが、金額の前につける「ちょうど」を英語ではどう表現するのでしょうか?「ちょうど20ドルかかった」という場合、教科書などに書かれているのは次のような表現。It cost exactly 20 dollars.“exactly”は「正確に、厳密に」なので、日本語の「ちょうど」に当たる正しい英文だといいます。ところがアメリカ人は、次のようにいったりもするのだそうです。It cost 20 dollars even.“even”は、形容詞では「端数のない、ちょうどの」、副詞では「端数がなく、ちょうど」の意味。「税込みでちょうど2,000円だった」は、It came to an even 2,000 yen with tax.(形容詞)It came to 2,000 yen even with tax.(形容詞)といい表すことが可能。にもかかわらず、「端数がなく、ちょうど」という副詞の“even”は、学校で教えられていないばかりか、ほとんどの辞書にも載っていないというのです。なお“even”は金額だけでなく、重量や長さを示す数字も修飾するそうです。My cat weights 7kg even.(私の飼っている猫の体重は7キロちょうどです)The rope Measured one meter even.(ロープは1メートルちょうどだった)The depth of that pool is nine feet even.(プールの深さはちょうど9フィートです)The height of the table is one meter even.(テーブルの高さはちょうど1メートルです)The width of these shelves is one foot even.(この棚の幅はちょうど1フィートです)*「へー、そうだったのか!」と新鮮な驚きを感じることができるエピソード満載なので、読みものとしても楽しめるはず。ぜひ手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※キャサリン・クラフト(2016)『先生、その英語は使いません! (学校で教わる不自然な英語100)』ディーエイチシー
2016年06月12日きょうご紹介するのは、『第二言語習得論に基づく、もっとも効率的な英語学習法』(佐藤 洋一著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。聞きなれない言葉ですが、「第二言語習得論(Second Language Acquisition)」とは、効果的な外国語学習方法を科学的に探究している分野。中学・高校で英語を学んだものの、習得するには至らないまま大人になった人が、最短距離で成果を上げるために必要なことを示したものなのだそうです。■大人の頭で学びなおす手順英語学習については一般的に、「早く学べば学ぶほど効果的」というようなイメージがありますよね。しかし、大人の頭で学びなおすことによって、短期間で英語力をアップさせることができるというのです。そんな方法が本当にあるのかと疑いたくもなりますが、具体的には次のような手順を踏むのだとか。(1)文法のコアを、自然順序仮説に沿って学習する・・・2ヶ月(2)十分な量の英語をインプットする・・・2ヶ月(3)受信型の英語」から「発信型の英語」へ切り替える・・・2週間(4)「発信型の英語」から「相互理解のための英語」へ切り替える・・・1ヶ月(5)自分の英語をモニタリングする方法を身に付ける・・・2週間(6)学習方法をカスタマイズし、学習を継続する最初のステップは、英文法のコアを押さえること。その際、「論理的な思考が得意な大人の頭がどのように文法知識を習得していくかについての理論」に基づいた順序で学習していくことが重要なのだといいます。次のステップは、インプットを蓄積すること。現在の自分よりも少しレベルの高い英語を、おもにリスニングを通して大量に取り込んでいく作業。そんな方法からもイメージできるとおり、「質より量」がポイントになるそうです。次いで必要となるのは、理解するだけの「受信型の英語」から「発信型の英語」へのモード切り替え。この作業には、短い英作文やスピーチが役に立つといいます。さらに行うのは、一方通行な「発信型の英語」から、双方向の「相互理解のための英語」への切り替え。ちなみに英会話学校で会話練習をはじめるタイミングとしては、ここがベスト。基礎が固まらないうちから英会話学校に通うのは、避けるべきだそうです。なお英会話を練習する際には、ネイティブのように自然な話し方を意識する必要はまったくないといいます。むしろ心がけるべきは、文法のコアを意識しながら、ゆっくりでもいいので、整った文を発話するように心がけること。自分の話す英語を常にモニタリングすることにより、倍以上の学習効率があると著者は断言しています。そして最後は、自分の学習方法を自分の手でカスタマイズしていく作業。自分が興味を持っている教材を用いることがポイントだとか。■決め手はモードの切り替えこのメソッドをひととおり終えたときが、英語学習の第二のスタート地点。以後は学習方法をカスタマイズしながら、継続的に学んでいくことが大切なのだそうです。なお、「英語をやりなおす」という点も重要。何故なら第二言語習得論においては、新たな言語を習得するためには相当量のインプットが必要だから。私たちは中学・高校の授業だけでも800時間程度英語に触れてきているので、そのインプットを活かさない手はないというわけです。いわば、大人の頭で文法を学び直す、過去のインプットを活かす、そのうえで学習に関するさまざまなモードの切り替えを行うことが言語習得の必勝手順だということ。■成功した人の3つの共通点著者によれば、英語のやりなおし学習に成功した人の共通点は、大きく以下の3つ。(1)やみくもに勉強するのではなく、筋道を立て、体系立てて学習を進めている(2)自分自身の学習段階を理解し、次になにを学ぶべきかを把握している(3)学習に関するさまざまな外的要素を自分でコントロールしているビジネスのための英語学習に成功する人は、「語彙や文法をひたすら暗記する」という受験英語のマインドセットを捨て、「自分のいいたいことを伝えるために必要な量の語彙と文法をおぼえ、繰り返し使う」という割り切りができているのだそうです。そして「次にやるべきこと」がわかっているからこそ、目の前の課題に手当たり次第に取り組み、壁に突き当たってしまうということもなくなるわけです。さらに、「なにをすべきか」がわかっている人は、学習時間の捻出など、学習に関するさまざまな外的要因をうまくコントロールできるようになるのだとか。*ざっとご紹介しただけでも、第二言語習得論に基づく英語学習法のオリジナリティがわかるはず。英語力がなかなかつかずに悩んできた人にとっては、本書が突破口になるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※佐藤洋一(2016)『第二言語習得論に基づく、もっとも効率的な英語学習法』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月08日『職場を幸せにするメガネ ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~』(小林嘉男著、まる出版)は、東証一部上場の半導体製造装置メーカーである株式会社ディスコの経理部長による著作。ディスコといえば、ここ数年は「働きがいのある会社」ランキングで、グーグルや日本マイクロソフトと並んでトップ10にランクインし続けている会社。ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。■かつてはギスギスした雰囲気だったそんな話を聞くと、さぞ雰囲気がよく心地よい会社なんだろうなと感じるかもしれません。ところが著者が就任したころの経理部は、心地よさとは正反対の環境だったのだとか。経営陣からの評価も厳しく、社内的にも影響力を発揮できていなかったというのです。だからスタッフの多くも、「自分たちは社内で評価されていない」というような負い目を感じながら働いていたのだとか。しかも毎年のように部員が退職し、そのたびに中途採用で補充するという不安定な状態。どこかギスギスした雰囲気が漂っていたそうなのです。■「メガネをかけ替える」という概念そんな状態でありながらも改善を成功させることができたのは、著者が「アドラー心理学」を通じて「メガネをかけ替える」という概念を知ったから。ご存知のとおり、アドラー心理学とは、オーストリア生まれの心理学者であるアルフレッド・アドラーの提唱した心理学。そのなかにある「誰もが自分のメガネを通してモノを見ているのだ」という考え方(認知論)に衝撃を受けたというのです。これは、「世の中にあるのは主観的な解釈だけだということをいい表したもの。そのコンセプトを導入してみたところ、結果的には職場の雰囲気が大きく改善されたというわけです。■幸せ職場をつくる4つのキーワードつまり本書ではそこに至るプロセスを細かく解説しているのですが、なかでもとりわけ印象的なのは、「幸せ職場」をつくる仕組みのなかに組み込みたいという4つのキーワード。その「感謝」「寛容」「楽しむ」「Yes, and」には、果たしてどのような思いが込められているのでしょうか?(1)感謝私たちは、お互いに支え合いながら生きているもの。そのことに気づき、感謝できる「謙虚な人」でありたいと著者は考えているそうです。リーダーになると周囲から持ち上げられる機会が増えるため、自分が偉くなったと勘違いしがち。その結果、いつの間にか上下関係ができあがってしまう。けれど、つくりたいのは「横の関係」。上司が日々の部下のがんばりに対し、感謝の気持ちを伝える。これは、もっともシンプルで、もっともパワフルな、部下の心のコップを水でいっぱいに満たす行為だといいます。感謝からはじまるマネジメントこそが、幸せな職場への第一歩だということ。(2)寛容この世に完全な人など存在しません。どんな人でも、優れたところがあれば欠けているところもあるのですから。だから、その不完全さを受け入れたいと著者はいうのです。「寛容」とは、不完全さを受け入れる勇気。そして、人の不完全さを受け入れるために大切なのは、まず自分の不完全さを受け入れること。リーダーに昇格する人の多くは、自分にストイックな面があるもの。しかし、それと同時に心の余裕も必要。心に余裕ができた分だけ、人に優しくなれるわけです。(3)楽しむ仕事や働くことを楽しもうとするから楽しくなる。笑顔でやるから仕事が楽しくなる。「リーダーは幸せの専門家」というメガネをかけて、著者は初めて気づいたそうです。仕事が楽しく職場が楽しいと、「もっとがんばろう」という気持ちになれるもの。そして楽しいから気持ちに余裕ができ、自分にもまわりの人にも優しくなれる。日々、生きること、働くことを楽しむーー。それが幸せな職場につながっていくということです。もちろん仕事なので、成果が求められるのは当然。しかし成果が上がるのは、組織の成功循環のグッドサイクルが回っているときなのだといいます。(4)Yes, andかつての著者は常に否定する鬼上司だったそうですが、振り返れば、それがバッドサイクルを引き起こす最大の原因になっていたのだといいます。つくりたいのは、否定しあう文化ではなく、認め合う文化。その土壌があるからこそ、グッドサイクルが回り続けるというわけです。そこで第一声は、「Yes(そうだね)」ではじまりたいのだそうです。しかし、ここで陥りやすいのが、「Yes」で受けたにもかかわらず「But(でもね)」で否定してしまうこと。そこで、「Yes(そうだね)」で受け、「And(そして)」で展開する「Yes, and」の習慣を身につけたいと提案しています。*「もとは鬼上司だった人が心を入れ替えた」というストーリーが背後にあるだけに、本書で展開されている考え方はひとつひとつが説得力抜群。リーダーとしてのあり方について悩んでいる人にとっては、大きな参考になるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小林嘉男(2016)『職場を幸せにするメガネ ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~』まる出版
2016年06月08日『いばる上司はいずれ終わる―世界に通じる「謙虚のリーダー学」入門』(鳥居正男著、プレジデント社)の著者は、長らく外資系の世界で生きてきた人物。なにしろスイスの医薬品メーカーである日本ロシュ(現・中外製薬)を筆頭として、以後約45年にわたり、外資系の医薬品業界で働き続けてきたというのです。しかも、そのうち23年以上を日本法人の社長として過ごしてきたというのですから、どう考えてもバリバリの「外資系人間」だといえそうです。ところが、そのようなイメージとは裏腹に、本人は大和魂を大切にする考え方を持った「根っからの日本人」だと自負しているというのです。それどころか、外資系経験を積み上げてきた結果としていえるのは、「『日本人らしさ』こそが、グローバル競争を生き抜く鍵である」ということなのだそうです。意外なようでいて、これはシンプルかつ真っ当な考え方です。競争環境がグローバル化しているからこそ、日本人は日本人の持つすばらしさを見なおすべきだということなのですから。その証拠に、外資系企業に身を置いていると、実は日本人よりも外国人の方が日本を高く評価していると実感するのだといいます。だとすれば、その根底にある謙虚な姿勢こそが、今後のビジネス現場で大きな意味を持つということになるはずです。■仕事が自分を成長させてくれる!ところで著者は本書において、「月曜日の朝の感じ方」について興味深い記述をしています。「また長い1週間がはじまるのか」と気分が落ち込む人と、「よし、今週もがんばろう」と意欲を持てる人——両者を比較した場合、人生のなかで仕事から学ぶことに大きな差が出るというのです。受け身の姿勢である前者にとって、仕事はただの義務。仕事を楽しむどころか、つらく苦痛になる可能性もあるわけです。しかしそれでは、人生の限られた時間を浪費するようなもの。しかし、逆に前向きな気持ちで仕事に向かうことができれば、仕事が自分を成長させてくれることを実感できるはず。仕事が人間性を高める機会を与えてくれるということで、そう考えることができるようになれば、仕事に対する意識が変わるということ。■99%と101%の違いは大きい著者自身も、初めて7人の部下を持った20代のころから、自分に100%の力があるなら、毎日105%の力を発揮することを心がけて働いてきたそうです。ときには150%や200%の勢いで走ることが続いた時期もあったのだとか。一方、100%の力があるのに、「90%や95%でいいや」と妥協すれば、自分の成長にはつながらないでしょう。だからこそ著者は、99%と101%の違いは2%ではないと断言します。99%は、「与えられたことを淡々とこなせばよい」という受け身の気持ち。しかし101%を超えれば、気持ちは前向きになり、仕事を楽しめる領域に入れるというのです。いわば、気持ちの持ち方だけで、プラスかマイナスかに大きく変わるということ。だから99%と101%は、完全に相反することだというのです。著者は32歳のとき、50名の部下がいる日本ロシュの試薬部を任されたそうです。自身にとって初めての大きな部門だったわけですが、治療用医薬品が主流の会社のなかに於いては、目立つ部署ではなかったのだとか。そこで存在感を高めるため、朝から晩まで休む間も惜しんで仕事に没頭したのだといいます。著者にとって幸運だったのは、同世代の部下も多く、強い仲間意識があったこと。そのため、一緒になって目標に向かっていくことができたというわけです。■管理職が社員のために尽くすべき著者のなかにある「会社はがんばってくれる社員のおかげで成り立っている」という信念は、この時期に培われたもの。そして経営トップになってからは、「本来会社組織は逆三角形であるべきで、つまりトップや管理職が現場の社員のために尽くさなければならない」と考えるようになったのだといいます。だから、「休暇中は絶対に邪魔をしないように」と秘書にだけ行き先を告げて長期休暇を取るような、ヨーロッパの企業トップや管理職には疑問を抱いているようです。そんなこともあり自身は、誰かがミスをした場合や、現場レベルでは解決できないトラブルに見舞われた場合は、いつでもどこでも駆けつけるのだそうです。いつでも、どこにでも、そして必ず駆けつけるという覚悟は、「仕事=生活」「仕事=人生」と考えていることにもつながっているといいますが、それこそまさに、101%以上の力を日常的に発揮してきた結果であるといえるのではないでしょうか。*本書からは、著者の仕事に対する強い信念を実感することができます。それでいて押しつけがましさのようなものを感じさせないのは、「謙虚さ」が根底にあるから。読んでみれば、“忘れかけていた大切なこと”を思い出すことができるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※鳥居正男(2016)『いばる上司はいずれ終わる―世界に通じる「謙虚のリーダー学」入門』プレジデント社
2016年06月06日『引き出しの法則』(クスドフトシ著、ワニブックス)の著者は、なかなかユニークな経歴の持ち主です。20代のころニートになったことがあり、でも、そんな自分がイヤで、「なんとかしなければ」という思いにかられていたのだというのです。そこまでなら、まぁ、よくある話ではあるでしょう。しかし注目すべきは、そんなどん底の状態から一発逆転してみせたこと。自分探しを続ける過程で「無意識(潜在意識)」や「引き寄せの法則」「精神世界」などと出会ったことから、それらの考え方に傾倒していったというのです。そして結果的には、「心」と「体」の両方からアプローチすることによって人生を好転させる独自のメソッドを開発することに。その考え方をもとに、2012年にブログ『世界はキミのためにある!』をスタートさせたところ大きな反響を呼び、人生を逆転させることに成功したのでした。初の著書『無意識はいつも正しい』も5万部を超えるベストセラーになったので、記憶に残っている方もいらっしゃるかもしれません。本書はそんな著者の新刊ですが、今回も「無意識」に対する独自の考え方をもとに書かれています。タイトルにもあるとおり、軸になっているのは、「幸せもお金も、集中力も運気も健康も、すべて引き出しのように好きなだけ引き出せる」という考え方です。■たったひとつの大切なこと「無意識」のチカラを引き出せば、自分にとって幸せな方向へと導かれる。前作を踏襲するかたちで、著者はそう主張しています。実はこの無意識のチカラ、私たちの行動のなんと9割をつかさどっているのです。そのため、いいかえれば、無意識を「使いこなす」ことが重要だということになるのかもしれません。そうなると知りたくなってくるのは、「無意識」のチカラを引き出すためにはどうすればいいのかということ。この点に関しては、突き詰めていけばたったひとつしかないのだと著者はいうのです。それはいたってシンプルで、つまり「がんばりをやめること」。といっても、いまやっている仕事を辞めるとか、家事を一切しないとか、勉強をしないとか、ダラダラ過ごすというようなことではありません。そうではなく、答えの出ないことに対して時間をかけて悩まないとか、過去のことを後悔したり、将来の心配をしたりして不安にならないなど。そして、そのためには「(いまこの瞬間に)集中」と「リラックス」が重要な意味を持つのだそうです。■意識のチカラをうまく使うとはいっても、それができていたとしたら苦労はありません。「がんばるな」「悩むな」といわれても悩んでしまうのが人間なのですから、口でいうほど楽なことではないのです。だとしたら、私たちがやるべきことはなんなのでしょうか?それは、「無理やりがんばりをやめる」のではなく、「『意識』のチカラをうまく使ってがんばりをやめる」こと。著者はそう主張しています。そして、そのために重要なのは、「口に出す言葉」「体を使った動き」「新しい可能性を見つけ出す思考」を活用することなのだとか。それらはここで簡単に説明できるものではないのですが、以後の章で詳しく解説されていますので、気になった方はチェックしてみてください。いずれにしても、そうすれば「無意識」は、自分自身がチカラを引き出そうと思わなかったとしても、いいアイデアを思いつかせてくれたり、行動に移せる前向きな気持ちへと導いてくれたりするというのです。*著者の主張はとてもシンプルなものなので、もしかしたら、シンプルすぎるがゆえに不安を感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、無駄がないからこそ、そこに本質的な部分が表れているともいえるはず。つまり、心をまっさらにして受け入れれば、ずっと忘れかけていたことを思い出させてくれるかもしれない。そこに、本書の意義があるともいえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※クスドフトシ(2016)『引き出しの法則』ワニブックス
2016年06月06日『一緒に働きたい』と思われる 心くばりの魔法 ~ディズニーの元人材トレーナー50の教え~』(櫻井恵里子著、サンクチュアリ出版)の著者は、10万人以上のキャストを育ててきたという、元ディズニーのカリスマ人材トレーナー。2009年からは外部法人向けの「ディズニーのおもてなしの考え方」を伝えるセミナー事業部門で、講師、研修開発を担当しているのだそうです。いってみれば、心くばりのプロフェッショナル。つまり本書ではそんな実績を軸として、「誰からも好かれる人」に共通するポイントをさまざまな角度から掘り下げているわけです。きょうはCHAPTER 3「『いてくれて、よかった』と喜ばれる立ち振る舞い」から、「年代」についてのトピックを引き出してみたいと思います。■非常に前向きな「ディズニーが残した言葉」「僕たちは前進を続け、新しい扉を開き、新たなことを成し遂げていく。なぜなら、好奇心が旺盛だからだ。好奇心があれば、いつだって新たな道に導かれるんだ」これは、ウォルト・ディズニーが残した言葉のなかでも、著者がもっとも好きな言葉なのだそうです。なぜなら、とても前向きで、人生に対する意欲に満ちていると感じるから。会社に勤務していると、1日の時間の多くを職場で過ごすことになります。人生というスパンで考えてみても、仕事をしている時間の割合は決して小さくないでしょう。だからこそ、仕事に対して意欲的に取り組み、楽しむことができれば、そのぶんだけ自分の人生の時間も充実することになります。■参考にすべき「職業人生のVSOPモデル」そして、自分のキャリアや仕事の仕方を考えるうえで参考になるのが、「職業人生のVSOPモデル」だと著者はいいます。自らの年代ごとに、仕事におけるあり方を示した英単語の頭文字をとったもの。それはどんなものなのか、ひとつひとつ確認してみましょう。[20代]:「バイタリティ」(Vitality=活力)の時代若さゆえにまだまだ満足のいく仕事はできないものの、それを補って余りある体力が備わっていて、失敗を取り戻すための時間もあるのが20代。与えられた仕事を、選り好みせずにとにかくこなしていく。そうすることによって初めて、「自分にはどんな職種が向いているのか」というようなこともわかってくるというわけです。[30代]:「スペシャリティ」(Speciality=専門性)の時代20代のうちに積んだいろいろな経験のなかから、自分が得意なことを選び、磨き上げていく時期。望ましいのは、「これなら誰にも負けない」と思えるほどにまで、高いレベルの専門性を持つこと。[40代]:「オリジナリティ」(Originality=独自性)の時代リーダーシップを高め、自分ならではの仕事を展開するべき時代。[50代]:「パーソナリティ」(Personality=人間力)の時代そして、部下や組織を束ねるための、人としての力が問われるのが50代。ここで注目すべきは、20代での「経験」の積み重ねが、その後のキャリアに幅を持たせるための重要な基礎となっていること。なお、このモデルでは20代と区切ってありますが、著者は個人的に、30代でもまだまだ経験を積み上げることが大切だと考えているのだそうです。20代、30代のうち、先に挙げたディズニーの言葉にあるように「新しい扉を開け続け、新しいことを成し遂げる」。そんなことを、どれだけ意識的に積み上げることができたか。その結果によって、以後の人生が大きく変わっていくというのです。■週1回「初めて」のことにチャレンジしよういうまでもなく、新しいことをはじめたり、自分の知らない世界に飛び込んだりするのは労力がいることです。それに、失敗することに対する恐怖感もあるかもしれません。しかし、それらをはねのけ、勇気を持って新しいことにチャレンジしていくことによって、可能性を大きく広げることができるというわけです。そこで、まずは週1回、「初めて」のことにチャレンジしてみてはどうかと著者は提案しています。といっても特別なことである必要はなく、先輩に新たな提案をしてみたり、いままでのやり方を変えてみたりするなど、身のまわりのことでもかまわないのだといいます。そんな小さなチャレンジを積み重ねていくことによって、「チャレンジし続ける姿勢」を身につけることができれば、きっと仕事にやりがいが生まれ、結果的には人生の時間が豊かになる。著者はそう断言しています。*長らく現場にいた立場だから明かせる、ディズニーに関しての意外なエピソードも満載なので読み応えはばつぐん。そして、サービスのプロフェッショナルならではの言葉には強い説得力が備わっています。コミュニケーション能力を一歩進めたい人にとっては、必読の書であるといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※櫻井恵里子(2016)『一緒に働きたい』と思われる 心くばりの魔法 ~ディズニーの元人材トレーナー50の教え~』サンクチュアリ出版
2016年06月03日