ノンフィクション作家として活動する上山明博氏がSurfvoteで提起。311の悲劇を見た世界は、原発を廃止すべきか?推進すべきか?方針が分かれる中、日本はどうするべき?さまざまな意見が寄せられました。SNSとテクノロジーで社会課題の発見・解決をサポートするPolimill株式会社(ポリミル、本社:東京都港区、代表取締役:横田えり、以下Polimill社)はこのたび、「3・11以降、世界は原発廃止国と原発推進国に分断した。日本はどちらを選択すべきか?」というイシュー(課題)について1月31日に投票が終了しましたので結果をお知らせします。 3・11以降、世界は原発廃止国と原発推進国に分断した。日本はどちらを選択すべきか?2011年3月11日に起きた東京電力福島第一原子力発電事故は、世界中に大きな衝撃を与え、原発事故後、世界は原発廃止国と原発推進国とに大きく二分しました。すべての原発を閉鎖すると決めたドイツ。60年以上かけて脱原発を目指す韓国。原発をクリーンエネルギーにかかげるアメリカや温暖化対策の主力電源に位置付づけるイギリス。国によって原発を廃止したり推進したりと方針とその実行策はさまざまです。ひるがえって、3・11を経験した日本はどうすべきなのでしょうか。この度、Surfvoteを通じて意見投票を実施しました。投票の詳細イシュー(課題):3・11以降、世界は原発廃止国と原発推進国に分断した。日本はどちらを選択すべきか? 調査主体:社会デザインプラットフォーム Surfvote(Webサービス)調査対象:Surfvote上でアカウントを持つユーザー調査方法:Surfvote上でアカウントを持つユーザーが投票投票期間:2023年11月30日〜2024年1月31日有効票数:58票投票結果とコメントの紹介(一部抜粋・原文ママ)日本は絶対に原発廃止国になるべきだと思う 37.9%東日本大震災を経験して原発を廃止しようとしないのがおかしい。ドイツにできるなら日本だってできるはず。日本にどちらかと言えば原発廃止国になるべきだと思う 31%3・11以降日本が率先して廃止国になるべきなのにそれをしていないということは、現実的に難しいということなのでは。エネルギーを作れなければ人々が生活できなくなるしそれは原発の事故が起こることより恐ろしいことなのでは日本にどちらかと言えば原発推進国になるべきだと思う 17.2%技術が発展して安全性が向上すれば、CO2の排出が少ない原子力発電はもっと有力になるはず。再生可能エネルギーとのミックスの中で、頼りがいのある発電方法の一つになれば良い。日本は絶対に原発推進国になるべきだと思う 8.6%日本は世界でも有数のエネルギー消費大国にも関わらずエネルギーの約9割を海外から供給している状況。この状況を打破するためにも日本が率先してエネルギーを作っていかないといけないと思います。どちらとも言えない 5.2%確かに原発の代わりのエネルギーがあれば今すぐ廃止にしたほうがいいと思うが、そんなにうまくはいかないので、現状は原発を廃止にすることは難しい。その他 0% わからない 0%このイシューを執筆した 上山 明博氏日本文藝家協会・日本科学史学会会員。特許庁産業財産権教育用副読本策定委員会オブザーバーなどを務める一方、文学と科学の融合をめざし、徹底した文献収集と関係者への取材にもとづく執筆活動を展開。主著に『プロパテント・ウォーズ─国際特許戦争の舞台裏』(文春新書)、『ニッポン天才伝─知られざる発明・発見の父たち』(朝日選書)、『地震学をつくった男・大森房吉─幻の地震予知と関東大震災の真実』『北里柴三郎─感染症と闘いつづけた男』(青土社)など。NHK BS「英雄たちの選択」、読売テレビ「そこまで言って委員会」への出演や講演活動を行っている。 あなたの意見・投票を社会のために活用しますSurfvoteでは社会におけるさまざまな課題や困りごとを「イシュー」として掲載し、どなたでもすべてのイシューを読むことができますが、アカウント登録をすると各イシューに投票したりコメントを書いたりできるようになります。私たちは、みんながさまざまな社会課題を知り、安心して自分の意見を言える場を提供したいと考えています。また、そこで集められた意見は、イシューの内容に応じて提言書に纏め関係省庁や政治家へ提出することもあります。 Polimill株式会社Polimill株式会社は社会デザインプラットフォームSurfvoteを運営・開発するICTスタートアップ企業です。Surfvoteは社会課題や困りごとに特化し、ユーザーがあらゆるテーマについて自分の意見を投票できるだけでなく、他のユーザーの意見を傾聴できるサービスです。地方公共団体版のSurfvoteも拡充中で自治体と連携し住民による住みやすい街づくりを促進します。あらゆる人がルール作りに参加し、価値観の変化やテクノロジーの進化に合わせた柔軟でスピーディーな制度改革ができるような社会を、SNSとテクノロジーで実現させます。 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2024年02月28日オーサー上山明博氏による原発に関するイシュー第二弾!原発の安全性について各国が考えるきっかけとなった福島第一原発事故を踏まえ、原発のあれこれを読み解く。SNSとテクノロジーで社会課題の発見・解決をサポートするPolimill株式会社(ポリミル、本社:東京都港区、代表取締役:横田えり、以下Polimill社)はこのたび、イシュー「日本に原発は必要?それとも必要でない?」について、11月30日にSurfvoteへ掲載、一般ユーザーの意見投票が始まりましたのでお知らせします。イシュー発行の背景かつて日本の総電力量の25%を占めていた原発は、東日本大震災の3年後には全基停止に。2015年からは再稼働し、稼働の割合を徐々に増やしてきていますが、3・11の原発事故は世界中に原発安全神話に対する懸念を高めることになりました。原発は、エネルギーの安全供給や地球温暖化の防止を実現する一方で、原発事故によるリスクや放射性廃棄物を数万年単位で長期保存できる技術と条件を求めることは現時点では難しい状況です。このような原発のメリットとデメリットを踏まえ、上山氏は原発の是非についてみんなの意見を聞くために、イシューを作りました。 このイシューを書いたオーサー 上山 明博氏日本文藝家協会・日本科学史学会会員。特許庁産業財産権教育用副読本策定委員会オブザーバーなどを務める一方、文学と科学の融合をめざし、徹底した文献収集と関係者への取材にもとづく執筆活動を展開。 主著に『プロパテント・ウォーズ─国際特許戦争の舞台裏』(文春新書)、『ニッポン天才伝─知られざる発明・発見の父たち』(朝日選書)、『地震学をつくった男・大森房吉─幻の地震予知と関東大震災の真実』『北里柴三郎─感染症と闘いつづけた男』(青土社)など。NHK BS「英雄たちの選択」、読売テレビ「そこまで言って委員会」への出演や講演活動を行っている。 あなたの意見・投票を社会のために活用しますPolimill社は社会デザインプラットフォーム『Surfvote』を開発・運営しているICTスタートアップ企業です。社会におけるさまざまな課題や困りごとをSurfvoteにイシューとして掲載し、イシューは週におよそ3〜5件発行されています。どなたでもすべてのイシューを読むことができますが、アカウント登録をすると各イシューに投票したりコメントを書いたりできるようになります。Surfvoteで集めたみんなの意見や結果は、適宜提言書などに取り纏め、関係省庁や政治家、関連団体に提出しています。 Polimill株式会社Polimill株式会社は社会デザインプラットフォーム【Surfvote】を運営・提供するICTスタートアップ企業です。地方公共団体版のSurfvoteも拡充中で、自治体と連携し住民による住みやすい街づくりを促進します。あらゆる人がルール作りに参加し、価値観の変化やテクノロジーの進化に合わせた柔軟でスピーディーな制度改革ができるような社会を、SNSとテクノロジーで実現させます。 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年12月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「福島原発処理水の海洋放出」です。決定のプロセスに大きな難あり。地元との対話を!8月24日、福島第一原発に溜まってしまった処理水の海洋放出が始まりました。処理水を溜めたタンクは1000基以上積み上がり、廃炉作業で出た放射性廃棄物を保管するための場所も潰しており、一刻も早く処分しなければならない状況にありました。処理水とは、放射性物質に汚染された水を、ALPS(アルプス)という多核種除去設備を使い、ストロンチウムやセシウムなどを何重も濾過し、海水で希釈したものです。安全基準は、IAEA(国際原子力機関)が保証しており、今回の海洋放出に踏み切りました。一度に大量には流せませんから、少しずつ30年以上かけて処分する予定です。処理水の海洋放出は、「漁業関係者を含む、関係者の理解なしには行わない」と約束していたにもかかわらず、実際には地元の漁師さんにも、いわき市長にも、政府と東京電力どちらからも直接の連絡はなく、実行されてしまいました。決定のプロセスに、地元の方々が関われなかったことは残念ですし、保管スペースがなくなったことを理由に、土壇場で一部の人たちだけで決めてしまい、政府の決定事項として説明もなしに海に流し始めるというのは、非常に乱暴だったと思います。放出開始とともに、中国は日本の水産物の輸入を全面禁止すると発表。農林水産大臣は「想定外だった」と発言しましたが、見積もりが甘すぎたのではないでしょうか。そもそも地元の理解すら得られていないのですから、政治的に緊張関係にある相手国が不安視するのも無理はありません。このコミュニケーション不足は、処理水の安全性の科学的根拠以前の問題です。これまでも国や東京電力は、福島原発事故に至る経緯や事故後の対処において、隠蔽や改竄を行ってきました。福島県富岡町には、東京電力が設立した「廃炉資料館」があります。そこでは事前に改善のチャンスがあったにもかかわらず、安全を過信して事故を引き起こしてしまったという検証もされていますので、ぜひ一度訪れてみてください。平時は安全だとしても、何か起きた時にはすぐさま伝える。疑心暗鬼を払拭する伝達の仕組みを作らなければ、理解も信頼も得られません。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。※『anan』2023年10月11日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年10月06日日本国内で最も古い原発である高浜原子力発電所1号機。その12年ぶりの再稼働をめぐるウーマンラッシュアワー・村本大輔(42)の“過激発言”が、ネット上で波紋を広げ続けている。福井県内にある関西電力の高浜原子力発電所1号機は、’74年に運転を開始。’11年1月に定期検査のため運転を停止してから今回の再稼働まで、12年6カ月の歳月を要したものの、すでに運転開始から50年近くが経過している。これは’11年3月の福島第一原発事故以降、「原則40年」とされていた稼働年数を大きく上回る数字だ。’13年に新たな制度基準が設けられ、それをクリアしたことで7月28日の再稼働が決定していたが、これまでに大阪市民ら約380人が「将来世代に放射性廃棄物を負担させる」と、関電本店前で集会やデモ行進を実施。また直前にも原発近くの高浜町で、約70人が「老朽原発を動かすな」とデモ行進したのちに、関西電力に対して再稼働中止を求める書面を手渡すなど、根強い反対の声も。こうして、様々な懸念や反対が渦巻きながらも実施された今回の再稼働。それに反応せずにはいられなかったのが福井県出身の村本だ。NHKが7月28日にこのことを報じると、同日にX(旧Twitter)で記事を引用した上でこう綴った。《事故があった時、地元の人だけじゃなく日本中が被爆しますように》(※原文ママ、現在はX上のルールに違反しているものとして表示制限されている)このコメントに、ネット上では批判が続出し、ネットニュースにもなりますます注目を集めることに。そうした事態を受けて31日、村本はInstagramとXを更新。Instagramでは自身のコメントを取り上げたスポーツ誌の見出しをスクリーンショットした画像とともに、《ある朝起きてラインニュース開いたら、女子バレーボールの選手の記事かなと思ったらおれだった》と、自身のコメントを取り上げられた記事について言及した。その上で、《地元の原発が再稼働したというニュースがTwitterであがっていて、それを喜ぶコメント欄。とても複雑な気持ちになった》と、元となった原発再稼働のニュースに対する心情を吐露。また、過去に聞いたという実際の被災者の声を綴り、《いつも苦しむのは地元ばかり。そんなことを思っていたら、万が一の時は全員が背負って欲しい、そうなればもっと一緒に考えてくれるのにって思ってこれを書いた》と、コメントの真意を綴った。さらに、《マネージャーからも、何やってるんですかって怒られた》と身近な人物からも直接的に注意を受けたことを明かしている。ただ、村本はそうした注意や指摘にも、納得がいっていない様子。Instagramには、次の通り文面が続いている。《そうか、あれで怒ってるのか、魔法使いじゃないんだから「日本中が被爆すればいいのにー」と言ってそうなるわけじゃない、言葉は非現実的。そうなれともおもってもなく、それぐらいの気持ちで原発の再稼働を考えて欲しいって意味なのに、本気でそれを受け取る人たちが一定数いる。言葉の裏を読めない人たち》(※原文ママ)同日にXでも、批判の元となったコメントを引用し《このツイートが大バッシングを受けてるらしい。ネットの世界、言葉には必要以上に敏感なのに今起きてる現実にはあまりにも鈍感》と、投稿。あくまでもSNS上のコメントは、原発再稼働についての考えを促すためのものだと主張するコメントに、ネット上の一部では賛同する声も寄せられている。《ウーマン村本さんの言いたいこと分かる。福島原発事故で福島の人は凄く差別された。だから今度原発を動かす判断するならみんな同じ状況になる覚悟で動かせよってことやと思う。そんだけ福島原発のこと、みんな他人事になってへんか》《ウーマンラッシュアワー村本の発言は地方で原発稼働をさせて事故のリスクだけ押し付けて、都心部でのほほんとしてる奴らも地元民と同じ恐怖を背負うべきだろって言いたいんでしょ。それくらい分かるし、それを考慮した上でそれでも不適切な発言だと非難するのは分かるが片面切り取って批判する人多すぎ》しかしそのいっぽうで、今回のように改めて真意の説明が必要になるような、元の発言の”過激さ”や”言葉足らずさ”を厳しく指摘する声が、再度相次ぐ事態になっている。《万が一最悪の事態が発生した場合は日本人全員で痛みを分かちあうべきだと言いたかったのかもしれないけど、知らんけど、言葉足らずで圧倒的に不適切な発言ですね》《これよぉ。字面だけ見て発狂してる連中は、ウーマン村本の真意を読み取れてない…読解力がない…とか、定番の反論で擁護してる連中が居るけどさ。Twitter含むSNSだって不特定多数の人間が見るモンなんだから、誤解を受けそうな言葉使えばこうもなるだろうがよ》《ウーマン村本は大飯原発地元出身なのでそれなりの思いはあると思いますよ。仮にウケ狙いとしたら更にまずいと思いますが。原発事故起きろ!とか全員被ばくしろ!なんて、どんな意図であれ人として言ってはいけないし、それを指摘しなければいけないと私は考えます》
2023年08月02日俳優の役所広司が7月5日(水) 、東京・丸の内の日本外国特派員協会で行われた記者会見に出席し、福島第一原発事故を題材にしたNetflixシリーズ『THE DAYS』について語った。入念なリサーチに基づき、「あの日、あの場所で何があったのか」を、政府、会社組織、原発所内で事故に対峙する者たちという、異なる3つの視点から克明にとらえた全8話。主演の役所は、福島第一原発の吉田昌郎所長を演じている。役所は「生々しい記憶が残る中、ドラマ化して大丈夫だろうか不安もあったが、現場では『演じ過ぎない、エンターテインメントし過ぎない』ということを、みんなで心がけていた」と振り返り、「世界が混乱する中で、エネルギーは国民が結論を出さないといけない問題。ドラマを通して、もう1回考えてもらえれば」と作品の意義を強調した。また、Netflixでの世界配信については、「内容的に、地上波では100%企画は通らないと思います」と断言し、「このドラマを伝えるのは、配信が一番自由度は高いし、思ったものを表現できると思う。表現の場は、非常に広がった」とその可能性にさらなる期待を寄せた。会見に同席した増本淳プロデューサーは、「事故から12年が経ち、忘れかけている人や、当時は幼くて、はっきりと記憶がない若い世代も増えている。ぜひ、思い出してほしい、知ってほしいという思いで、果たすべき役割を考えた」と本作を手がけた理由を説明。「まだ、事故は収束していない」と強調し、「感情の押し付けをしないように心がけた。関心を持ってもらい、議論を活発にしてもらえれば」とアピールした。フジテレビを退社し、本作をNetflixシリーズとして製作。「世界配信されるので、なぜ、日本人である自分が、これを作らなければいけないのか、意味や伝えるべきメッセージは何なのか。今まで以上に真剣に考えるようになりました」といい、「こういう事故を起こしてしまった責任に、最後まで向き合いたいんだというメッセージを伝えたい」と熱弁した。取材・文・撮影:内田涼<作品情報>Netflixシリーズ『THE DAYS』(全8話)Netflixで独占配信中詳細はこちら:
2023年07月06日「福島第一原発1号機の圧力容器が、地震で落下・倒壊する可能性があります。そうなれば大量の放射性物質が飛散し、周辺地域の方々は避難する事態になりかねません」そう懸念を示すのは、原子力資料情報室で原発事故問題の究明に取り組んでいる上澤千尋さん。じつは、福島原発事故でメルトダウンした1号機で、原子炉の圧力容器を支える“ペデスタル”という鉄筋コンクリート製の円筒形の土台(直径約6メートル、厚さ約1.2メートル)が、大幅に損傷し、鉄筋が露出していることが、今年3月の東京電力による水中カメラでの内部調査で明らかになった。今後、原子炉が地震に耐えうるかどうかが問題になっている。これに対し、4月、東電は特定原子力施設監視・評価検討会で次のように簡易な見解を示した。〈1号機の圧力容器の周りには“周辺構造部材(支え)”があるため、900ガル(震度7以上)の揺れでも倒壊する恐れはない〉しかし、5月24日に開かれた原子力規制委員会では、委員たちから、「(東電の評価は)非常に楽観的。大丈夫とは言えない」といった厳しい意見が相次いだ。「東電は、〈’22年3月に福島沖で起きたマグニチュード7.4の地震などにも耐えたから〉というだけで、こうした評価を出しているんです。つまり、“臆測”にすぎません」(前出・上澤さん)要するに、次に起きる地震に耐えられる保証は一切ないのだ。元三菱重工の技術者で、伊方原発3号機の建設機器班長を務めた森重晴雄さんも東電の評価は次のような“噓”があると指摘する。「東電は、〈“周辺構造部材”があるから圧力容器が倒壊することはない〉と言っていますが、周辺構造部材は、作業員が定期点検などに使用する足場にすぎず、重さ440トンもの圧力容器が寄り掛かれば外側の格納容器を突き破り、放射性物質が放出されてしまいます」■圧力容器が使用済み燃料プールに……さらに、東電は〈圧力容器が落下する可能性はあるが、インナースカートという鉄骨に阻まれ30センチほどの落下で留まる。圧力容器に大きな破損は生じず、周辺の公衆に著しい被ばくのリスクは与えない〉と主張しているが、森重さんは「ごまかしだ」と続けた。「30センチも落下したら大惨事になる可能性があります。圧力容器は真っすぐ落ちるわけではなく、支えているペデスタルのコンクリートの欠損が大きい側に傾いて落ちる可能性が高い。ちょうどその方向には、いまだ取り出せていない392体の使用済み燃料が入ったプールがある。傾いて倒れた圧力容器の上部がプールを直撃する恐れは拭えません」使用済み燃料が破壊されたら、周辺は致死線量になって近づけなくなる可能性が高いという。「その結果、今現在も継続的な注水によって安定を保っている燃料デブリも冷やせなくなります。2号機にも615体の使用済み燃料が残っていますから、冷やし続けられなくなれば次々と放射性ダストが空気中に出てしまうでしょう」(森重さん)そうなると、12年前の福島原発事故より、さらにひどい結果に。「福島県内はもちろん、首都圏全体が避難エリアになってしまう可能性も拭えません」(森重さん)燃料プールの直撃を免れたとしても、被害は大きいと前出の上澤さんも続ける。「かりに圧力容器が落下するだけだとしても、地震の揺れによって、土台のペデスタルには上下左右から大きな力がかかり、ぐしゃっと崩れるはず。そうなれば、30センチの落下では済まないどころか、圧力容器の破損が大きくなり、大量の放射性物質のチリが放出される危険があります」■周辺住民に危険の周知を!東電に、こうした専門家らの意見をぶつけたところ、次のような回答があった。「格納容器の内部調査において、ペデスタル内外の詳細目視調査を行っており、インナースカート(ペデスタルの約1メートルの高さまで埋め込まれている鉄筋)に有意な変形は確認されておらず、露出している鉄筋についてもたわみ・変形は確認されておりません。かりにペデスタルの支持機能が失われたとしても、圧力容器の水平移動(傾き・倒壊など)は周辺構造部材に制限され、限定的に留まると考察しており、使用済み燃料プールに直撃することはないと考えています」「考察」に「考え」。根拠の薄い楽観論だが、事故が起きてからでは遅い。ペデスタルを補強するなど、なにか打つ手があればよいが、炉心周辺は人が近づけば死に至るほど放射線量が高い。そのため原子力規制委員会では、「万が一のことが起こった場合、いかに放射性物質の放出を抑えるか」という対処法を講じるよう東電に求めている。「心配なのは、倒壊した場合の作業員や周辺住民の被ばくです。住民らにこうしたリスクがあることを伝え、ハザードマップなどを作成して、適切な避難計画を立てるべきです」(上澤さん)3.11のときのように、“想定外だった”ではもう済まされない。
2023年06月08日福島第一原発事故を題材にしたNetflixシリーズ『THE DAYS』の完成披露ワールドプレミアが5月30日、都内で行われ、主演の役所広司が出席。福島第一原発の吉田昌郎所長を演じ「お亡くなりなった方やご遺族、故郷をなくした皆さんがいる中で、実際に起きた原発事故をドラマにしていいんだろうかと躊躇した」と葛藤を明かし、「プロデューサー(増本淳)とお話し、あの日、何が起こっていたのか、伝えるべきだと。廃炉に向けて、伝えることがたくさんあるはずだという思いを聞いて、参加したいと決断した」と振り返った。役所広司全8話からなる本作は、入念なリサーチに基づき、3つの異なる視点から事故を克明にとらえた重層的なドラマ。「あの日、あの場所で何があったのか」を、政府、会社組織、そして原発所内で事故に対峙する者たち、それぞれの視点から描いた。改めて「全員で力を合わせて、志をもって作った作品」だとアピールする役所は、「当時の記憶や恐怖心が忘れられつつあるんですけど、こういう時代だからこそ、エネルギーのことを考えていかなければいけないし、一人ひとりが考えて投票もしないといけない」と本作が投げかけるメッセージの重要性を強調。「もう一度、あそこに立ち返って考えていただければ」と訴えかけた。役所といえば、第76回カンヌ国際映画祭に出品された映画『Perfect Days』(ヴィム・ヴェンダース監督)で、日本人2人目となる男優賞に輝き、現地から“凱旋帰国”したばかり。「昨日、帰ってきました。皆さんの応援、カンヌにも届いていました」と感謝を示し、「ちょっと、名前(映画のタイトル)が似ていますけど」と照れ笑いを浮かべていた。この日、行われたワールドプレミアには役所をはじめ、事故発生現場に最も近い1・2号機当直長を演じた竹野内豊、福島第一原発から225キロ離れた首都・東京から陣頭指揮する総理大臣を演じた小日向文世、真っ先にベントを実行するベテラン運転員に扮した小林薫、夫婦役で共演する遠藤憲一と石田ゆり子、増本淳プロデューサー、西浦正記監督、中田秀夫監督が勢ぞろいし、渾身作の世界配信をアピールした。小林薫遠藤憲一石田ゆり子竹野内は「役所さんと直接ご一緒するのは、1シーンだけでしたが、声ひとつだけで、何か引っ張られるものがあり、助けていただいた」と感謝の意。小日向は「世界の皆さんに観ていただけるのは、初めての経験でワクワクしている。役所さんが(男優賞を)とってくださり、たくさんの人に興味を持ってもらえるのが、良かった」と役所の快挙を祝福していた。竹野内豊小日向文世取材・文・撮影=内田涼<作品情報>Netflixシリーズ『THE DAYS』(全8話)6月1日(木) よりNetflixで独占配信詳細はこちら:
2023年05月30日Netflixオリジナルドラマシリーズ『THE DAYS』が6月1日(木) から全世界で配信になる。本作が描くのは、2011年3月11日から始まる福島第一原発事故の真実。竹野内豊はあの日、中央制御室にいた当直長を演じたが、「精神的に“役者”という気持ちでこの作品に挑むのは失礼だと思った」と言い切る。2011年3月11日、三陸沖を震源とする巨大な地震が日本を襲い、津波の直撃を受けた福島第一原子力発電所は甚大な被害を受ける。全電源を喪失し、全6基のうち4基もの原子炉が制御不能になる中、現場の作業員は決死の対応に挑み、発電所の外では電力会社、政府、そして国際社会を巻き込んだ事件になっていく。対応を間違えれば、日本は壊滅してしまうかもしれない。その時、あの場所で対応にあたった者たちは何を想い、どう行動したのか? 本作は資料や証言を丁寧に集め、再構成し、緊迫するドラマに仕上げた。本作では、実際には複数いた人物を統合してひとりの人物にするなどの脚色はあるが、そこで起こった出来事、その顛末を徹底的に描き出していく。竹野内はキャリアの中で幅広いジャンルの作品に出演し、そこで見せる顔もシリアスなものから、コミカルなものまで様々だが、本作の出演については「正直に言うと戸惑いはありました」と振り返る。「この作品が扱っている題材は、世界的な大惨事で、被害に遭われた方々の気持ちを思うと、安易な気持ちで受けることはできないですし、何よりも大きな責任が伴う作品だと感じました。しかし、本作がNetflixを通じて全世界に配信されると知り、日本だけでなく世界の多くの方々にこの物語を知っていただける、何よりもこの物語を多くの方々に知ってもらいたいと思いました。ですから、ある想いを持ってお引き受けしました」竹野内がこう語るのは、東日本大震災の発生時に自身が感じたことを今も忘れていないからだ。「震災の時は毎日、ニュースを見ていましたから、そこで見た映像から感じることも多かったですし、“自分に何かできることはないのか?”と思っては自分自身の無力さに打ちひしがれると言いますか……当時は自分だけではなく日本中の方が同じような想いで過ごされていたんじゃないかと思うんです。ですから、安易な気持ちで引き受けてはいけない、と思いながらも、このような作品に参加できることの意義をしっかりと感じてお引き受けしました」竹野内にとって本作は数多くある出演オファーのひとつではない。最大の目的は“役を演じる”ことではなく、“この物語を伝えるメンバーの一員になること”だからだ。「そうなんです。この作品の骨格の一部になれたら本当に光栄だという気持ちで挑ませていただきました。ですから、自分以外の出演者の方の演技を観ても本当に考えさせられますし、みなさんの演技ひとつ見ても、そこから感じるものがあります」目の前で起こる状況や瞬間ほんの一瞬にわきあがる真実を逃さぬようにその想いは実際にセットに入り、撮影を重ねていく中でより強くなっていったようだ。もちろん、竹野内は事前の準備やリサーチをしっかりと行っている。彼が演じた当直長は、中央制御室にいる作業員を束ねる管理職のような立場でありながら、自身も技術者で、極限状態にあっても自分の身をかけて事態を解決しようとする強い意志を持つ人物だ。『THE DAYS』で1・2号機の当直長を演じる竹野内豊「当直長のモデルになった方に実際にお会いすることはできなかったのですが、当時、中央制御室にいらっしゃって対応にあたられた遠藤さんが監修として撮影現場にはいらっしゃったので、実際に福島原発でどのような状況下で作業にあたっていたのか、分からないことがあればすぐに質問をして、遠藤さんの話してくださる言葉の中から心理描写の手がかりになるものはないか、ずっと模索していたような気がします」しかし、当直長たちが置かれた状況、その緊張感、混乱は、人間の想像の及ぶ範囲を遥かに超えている。電気が落ちた暗闇の中で、正確な数値も状況も分からぬまま、彼らは“判断をひとつ誤れば爆発”という状況で選択を迫られるのだ。中でも当直長は、電力会社や所長からの要望を受けて、作業員を束ねなければならない。劇中、原子炉内の圧力が上がる中、彼らは手動で圧力を減じるべく作業員を格納容器ベント(排出口)に送り出す。その決断をする人間がどんな精神状態なのか、どのような決意でベントに向かうのか……誰が正確に想像できるだろうか?『THE DAYS』で1・2号機の当直長を演じる竹野内豊「事実に基づく作品ですから、撮影現場は独特の緊張感がありましたし、私だけでなく共演者のみなさんも個々に責任感を感じていたと思います。それぞれが演技について話し合うような時間はなかったのですが、ひとりひとりが役者以上に“人として”この作品に挑む覚悟ですとか想いがあって、それが撮影現場の独特の空気感、良い意味での緊張感につながっていた気がします。この作品で描かれることは、誰もが経験することではないですし、自分の過去の引き出しから使えるものは何もない。ですから、あの制御室にいた役者さんたちの誰もが“自分の演技”というものではない部分で挑まれていた気がしますし、誰もが本番中に真実の瞬間を逃さないように取り組まれていたのではないかと思います。撮影現場は中央制御室の細部に至るまで、ものすごく忠実にリアルに再現されていたので、そういう状況の中に自然とスッと入り込むことができましたし、だからこそなおさら“演じる”とかそういうことではなく、もっと別のものでアプローチしていけたら、という理想はありました」竹野内が語るとおり、極限状態に追い込まれた人間の心の内を完全に想像することも、完全に演じることもできない。しかし、極限状態を可能な限り忠実に体験し、その反応を嘘をつくことなくカメラの前で見せることはできる。『THE DAYS』が描き出す緊迫感や迫力、説得力は、俳優たちの“すべてを包み隠さずカメラの前にさらす覚悟”と“すべての瞬間を逃さずにとらえようとする強い意志”から生まれたのではないだろうか。「(自身が演じた)当直長としては、ベントに作業員を向かわせるわけですけど、それは二度と戻ってこられないかもしれないと分かった上で指示を出すわけです。もちろん、頭では“今すぐにベントに向かわせないと、日本中に被害が広がってしまう”と分かっているのですが、それでも決断を下すことは心情的にとても苦しい。撮影していく中では、とても厳しい瞬間は何度もありましたが、この作品に参加できたことはとても意義のあることだったと思っています」本作は単なる事故の再現や物語化ではない、あの時、あの場所にいた人たちが見た、体験した“真実”が本作には映りこんでいる。それは時に観ているだけで苦しいものかもしれない。しかし、彼らの決断や行動の上に、現在の我々の日常は成り立っているのではないだろうか。「当時、あの場所にあの方々がいたからこそ、今私たちはこうして東京で生活することができるわけです。そのことを考えると、精神的に“役者”という気持ちでこの作品に挑むのは失礼だと思ったんです。だから、この作品での自分の役割は“演じる”ことではないと思いましたし、私だけでなく出演者の方々それぞれがきっと自分と同じような想いで作品に挑まれていたのではないかと思います。だから……うまく言葉にできないのですが、目の前で起こる状況ですとか瞬間、ほんの一瞬にわきあがる真実を逃さぬようにする。それしかできないと思って挑みました」撮影:源賀津己ヘアメイク:須田理恵スタイリスト:下田梨来<作品情報>『THE DAYS』6月1日(木) よりNetflixにて世界独占配信
2023年05月26日Netflixのオリジナルドラマシリーズ『THE DAYS』が6月1日(木) から全世界で配信になる。本作は、2011年に起こった福島第一原発事故の真実を描く作品で、本作の企画・脚本・プロデュースを手がけた増本淳はこう力説する。「あの場所で起こったことは、終わったことではありません。まだ“続いている”話なんです」。『THE DAYS』の企画・脚本・プロデュースを手掛けた増本淳氏2011年の3月11日に起こった大地震と津波は、東日本一帯に甚大な被害をもたらし、福島第一原発は全電源を喪失。全6基ある原子炉のうち、4基が制御不能になった。あの日、あの場所にいた人たちは何を目撃し、何に立ち向かったのか?本作はあの日々=THE DAYSの物語を克明に描き出していく。『THE DAYS』本予告企画・脚本・プロデュースを手がけた増本は、かつてフジテレビに所属し、ドラマ『コード・ブルー ドクター・ヘリ緊急救命』や『はだしのゲン』『リッチマン、プアウーマン』など数多くのドラマを手がけてきた。そして、2019年にフジテレビを退社し、最初に向き合ったのが、本作『THE DAYS』だ。「自分はいつもドキュメンタリーとエンターテインメントの交差点にいたいと思ってやってきました。テレビ局にいるとドキュメンタリーの企画はまず通らないんです。“それ、視聴率取れないだろ”って言われてしまいます。スポンサーは宣伝のために高い広告料を払っているわけですから、それは仕方がないことです。そこで例えばですけど“救急医療”というテーマがあったとします。救急医療では場合によっては運ばれてきた方の6割から7割の方が亡くなってしまう。この現実をどうやって伝えようかと考えたときに、ドキュメンタリーにすると“視聴率がとれない”って言われますし、ドラマにすると人が助かる場面ばかり描いて、感動的な音楽をかけて盛り上げろって言われてしまいます(笑)。でも僕が伝えたいのは“運ばれてきた患者の3人に2人は助からない。しかし最後の1人は助けられた。果たしてそれは喜べることなのか”という現実です。そこで、この話をエンターテインメントにしたらどうなるのか考えるわけです。それまでの医療ドラマでは毎週、難病奇病の患者がやってきて、医師たちは力を合わせ成功率2パーセントの手術を毎週必ず成功させます(笑)。でも、自分の考えたドラマでは、運ばれてくる人のほとんどを救うことができない。それでも、医師たちは前を向いて頑張っていく。それがドラマ『コード・ブルー』の始まりでした」結果として2008年7月に始まった『コード・ブルー』は大人気を獲得。シリーズ化され、2018年には劇場版も公開された。「そのときから、そのままでは多くの人に観てもらえない問題を多くの人に観てもらえるようにする“橋渡し”をするのが自分の役目かもしれない、と思うようになりました。そして当時から向き合いたい題材として“3.11”がありました。3.11は、多くの人にとって振り返ることがつらく、余暇の時間を割いて映像を観よう、文章を読もうと思ってもらうことが困難な題材です。だからこそ、この物語を多くの人が観たい、観てもいいと思ってもらえるものにして世の中に送り出したい、その可能性があるし、挑戦してみたい……それが『THE DAYS』の始まりでした」当事者たちが置かれた状況まで含めてできるだけ忠実に伝えたいそこで増本は、門田隆将が事故の関係者に徹底的に取材して書き上げたノンフィクション『死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発』を原案に、事故調査報告書や当時の福島第一原発の所長だった吉田昌郎氏への聴取記録(吉田調書)をベースにしながら、脚本作りを開始した。いつもと変わらない3月のある金曜日。福島第一原発で勤務にあたっていた人々は強烈な揺れに襲われる。その後、津波が発電所を襲い、4基の原子炉の冷却装置は機能を失う。全電源を喪失し、暗闇に放り込まれた作業員たちは自分たちがどのような状況に置かれているのか正確に把握することもできないまま対応を迫られる。一方、電力会社もまた事態の全容を把握することができず右往左往し、マスコミの報道が加熱していく中で政府も対応に苦心する。刻一刻と状況は悪化し、次から次へと難局が訪れる中で、彼らはどう行動したのか?その根底にはどのような想いがあったのか?本作の概要はこれまでも繰り返し報道されており、過去にはこの事件を扱った映画や番組も制作された。しかし、本作はそれらの作品とはまったく異なるコンセプト、スケール、そして作り手の想いで制作が進められた。増本が本作にあたる上でまずあったのは、“事件後の報道や検証への違和感”だったようだ。「福島第一原発の事故を検証する番組はこれまでに山ほど作られており、そこでは“こうすればもっと被害は小さかった”“このようにしておけば事故は起こらなかった”という話がたくさん出てくるのですが、当時の様子をちゃんと捉えているかというと、そうではないと思いました。それらの番組で語られていたことの多くは“机上の空論”と言いますか、冷静にテーブルで考えれば、そのような結論になりますよね、というものがほとんどでした。だからこそ、僕たちの作品では、当事者の方たちが置かれた状況まで含めて、できる限り忠実に伝えたいと思ったんです」あの場にいなくてよかったと思わせるくらいでないと、この物語は伝えられないもちろん、ここで起こった出来事は多くの人が関わっており、残された資料も膨大だ。そのすべてを映像化することはできない。しかし、増本は丁寧に資料を読み込み、“事実”をベースに脚本を書き進めた。ポイントは全8話、約8時間のドラマが常に緊張感を持って進んでいくことだ。物語の視点は発電所内、電力会社の対策室、政府と切り替わっていくが、第1話の冒頭で地震が発生し、その後は最後の最後までまったく緊張感が途切れることはなく、登場する人々は常に“極限状態”に置かれ続ける。通常のドラマであれば、全話を視聴した後に冷静に振り返ると“このシーンは本当に必要だったのか?”と思うことがあるかもしれない。しかし、本作では物語を構成する要素、そこにいる登場人物たちの描写を徹底的に厳選し、本当に必要なシーンだけで全8話が構成されている。すべてを観終わって振り返っても“無駄なシーンや展開”がないことに驚くはずだ。「通常のドラマですと“箸休め”的なシーンがありますよね。先ほど名前の出た『コード・ブルー』では、必ず食事をするシーンがありました。みんなで食事をしながら、少しトーンを変えて、それまでに起こった出来事や人物名を整理、おさらいするんです。でも、『THE DAYS』で観ている方に体感していただきたかったのは、あの場にいた人たちの精神状態なんです。ずっと明かりのない暗い場所にいて、常に生命の危機にある状況でした。後になって振り返れば、圧力が上がっているなら弁から抜けばいいし、温度が上がっているなら水を入れればいいんだと分かりますけど、あの段階では圧力が上がっているのかいないのかも分からない、温度が上がっているのか下がっているのかも分からないのはもちろん、そもそも目の前の原子炉が今どうなってるのか皆目分からず、ひとつ間違えると爆発するかもしれない。そんな状況下だったわけで、そこにいる人がまともな精神状態で正しい判断を下すのは相当に厳しい要求です。ですから、この作品では、あの場所にいた人たちにそれだけの負荷がかかっていたんだということを視聴者にまず伝えたいと思いました。この状況を正しく伝えることができれば、検証番組や検証本に書かれているようなことが、かなり現実と乖離していると視聴者の方たちに感じていただけるのではないかと。検証番組で語られたことは、安全な明るい場所で集められるだけの資料を集め、それらをゆっくり読んで考えたこと。でも、実際の彼らは暗闇の中で、圧倒的にストレスフルな状況の中で判断しなければなりませんでした。このことを伝えるためには、“箸休め”はない方がいい、観ている方が張り詰めた緊張で疲れを感じるような展開にすべきだと思いました。これだけ重い題材を、これだけの密度で描くと、観ている人が離脱してしまうのではないか?という恐れはもちろんありました。でも、手頃な重さ、観やすさでこの物語をくくってしまうと、伝えるべきことが伝えられなくなってしまう。観続けるのにエネルギーがいる、あの場にいなくてよかったと思わせるぐらいの表現でないと、この物語は伝えられないと思ったんです」すべての登場人物の“外での顔”は作品の中では見せない増本が語るとおり、本作の観客は劇中の登場人物たちと同じように混乱の中に放り込まれる。自分がどのような状況にいるのかも正確に把握できず、危機や新たな問題が容赦なく舞い込み、決死の覚悟で行動するも、各所の思惑は時にすれ違い、ストレスは増していく。あの時期、私たちは発電所の“外側”から事態を見守っていた。しかし、本作で観客は発電所内の闇の中に足を踏み入れることになる。出口はまったく見えない。「脚本を書く上で、もうひとつこだわったのは、すべての登場人物の“外での顔”は作品の中では見せない、ということでした。通常であれば、家族との回想シーンを入れたりします。でも、この作品では“あの場所で起きたこと”がすべてですし、他のシーンを入れてしまうとホッとしてしまうというか、緊張感を途切れさせてしまいます。ですから登場人物を説明するためにエピソードを追加するのではなく、人物のちょっとした動きだったり、何か言われたときの言い返し方だったり、そういう動きと反応の積み重ねでキャラクターを伝えていきたいと思いました」確かに未曾有の危機が訪れている状況で、日常的な話をしている時間や余裕はない。そのため、本作ではちょっとした仕草や動き、相手のセリフを受けたときの表情の微細な変化で“登場人物の内面”が表現できる俳優が集うことになった。役所広司、竹野内豊、小日向文世、小林薫、音尾琢真、光石研、遠藤憲一、石田ゆり子ら、本作では名優たちの何か言った“後”、何かを聞いた“後”の表情までしっかりと描きだされる。「通常、演技のうまさって“上手にセリフを言うこと”を指して言われることが多い気がするんですが、今回、集まってくださった方々は“何も言わなくても伝わる”うまさのある方ばかりです。『THE DAYS』はいわゆるドラマチックなセリフはほぼ皆無で、業務上のやり取りばかりです。確かな演技力のある方にご出演いただいたことで、セリフがない部分で感情や物語を伝えることが可能になったと思います」これは12年前の事故の話ではなくまだ“続いている”話なんですこの作品はワーナー・ブラザース映画が製作を手がけ、Netflixが全世界に配信する。つまり、テレビのようにある日に放送されて終わりではなく、配信やブルーレイでいつでも観られる状態にある。本作は数年後にも観客を獲得することになるだろう。いつか“あの震災を知らない子どもたち”が大人になって本作を観るかもしれない。「確かにそう思います。(スティーヴン・ソダーバーグ監督がパンデミックを題材にした)『コンテイジョン』は、公開された当時はそれほど大きな話題にはなりませんでした。でも、2020年に新型コロナが流行するとともに、すべてを予見していたんじゃないかと思えるような映画として配信で注目を集めました。だから『THE DAYS』も何年も先にまた注目されることがあるかもしれないですよね。ここで描かれている話は、日本であっても、ある地域の人にとっては“もう終わったこと”なのかもしれません。実際、10年以上前にあんなことあったよねぇ、あのときどうしてた?という思い出話になっていたりしますし、記者の方たちにもなぜ今さらと尋ねられたりします。でも、本当にこの話はこれまでにちゃんと語られてきたのでしょうか?今日も福島第一原発では廃炉作業が行われていますが、そこで何人の方が働いているのか知っている方がどれだけいるでしょうか?多いときには7000人ぐらいの方が働いていたそうですが、現在でも約3000から4000人の方が働いています。そして、それはいつ終わるのか分からず、まだ何万人もの方が自分の家に帰ることができないままでいます。これは12年前の事故の話ではなく、まだ“続いている”話なんです。それを配信やブルーレイ/DVDというかたちでドラマとして置いておけば、ときどき考えてもらえる。そうなれば、この物語を作った意義はあるんじゃないかなと思います」本作は、口当たりのいい作品ではない。冒頭から最終話のラストまで緊迫した時間が切れ目なく続く。しかし、これこそがかつて日本のある場所で起こり、現在も続いていることなのだ。そこにいた人々の行動と想いは本作を通じて、これからも世界中の観客が知り、考えることになるだろう。<作品情報>『THE DAYS』6月1日(木) よりNetflixにて世界独占配信
2023年05月24日役所広司が主演を務め、福島第一原発事故を題材にしたNetflixシリーズ『THE DAYS』のメイン予告とメインポスターが公開された。全8話からなる本作は、入念なリサーチに基づき、3つの異なる視点から事故を克明にとらえた重層的なドラマ。「あの日、あの場所で何があったのか」を、政府、会社組織、そして原発所内で事故に対峙する者たち、それぞれの視点から描いた実話に基づく物語。企画・脚本・プロデュースは、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズなどのヒット作を手がける一方、『白い巨塔』『はだしのゲン』といった骨太な社会派ドラマを世に送り出してきた増本淳。『コード・ブルー』シリーズの監督として増本と長年タッグを組んできた西浦正記と、『リング』シリーズの中田秀夫がダブル監督を務める。公開されたメイン予告は、凄まじい勢いで迫る津波が福島第一原子力発電所に襲いかかる衝撃的な映像で始まる。役所が演じる福島第一原発の吉田昌郎所長、事故発生現場に最も近い1・2号機当直長の竹野内豊、国家的な危機に福島第一原発から225キロ離れた首都・東京から陣頭指揮する総理大臣を演じた小日向文世、真っ先にベントを実行するベテラン運転員に扮した小林薫ら、未曾有の危機に対峙した人々の苦渋の表情が連射される。猛烈に押し寄せた津波は構内へと流れ込み、施設全体に大きな衝撃を与え、大きな揺れに襲われた職員たちの緊迫した姿に吉田所長からの痛切な緊急報告が重ねられていく。「福島第一原発は地震と津波により全電源を喪失しました。原子炉建屋がある海抜10メートル地点は全域が水没、非常用ディーゼル発電機も海水を被り故障、中央制御室の全ての計器が作動していません。原子炉が今どうなっているのか、確かめる術がありません」――福島第一原子力発電所はかつて誰も体験したことのない危機的な状況に追い込まれる。4基の原子炉が暴走を始める。総理大臣は「冷却装置は動いていると言っていただろう」と狼狽する。電源を失い「弁が開いている状態か分からない状態」だという中央制御室当直長からの報告に吉田は声を荒げる。追い打ちをかけるように「数時間以内に核納容器が破損する」との報告。状況は更に悪化の一途を辿っていく。このままでは第二の「チェルノブイリになる」――事態を打開するために吉田の右腕となる5号機副長役の音尾琢真ら運転員たちが懸命に奮闘を続ける。もはや一刻の猶予もない状況下で、光石研が演じる電力会社副社長が「すぐにベントをやれ。核納容器が壊れたらマズい」と指示を飛ばすと、吉田が「そんな事は知ってます」と応戦する激烈な一幕も。あの場所で何があったのか。「私たちは何かを間違ってしまったのか。それとも避けられない運命だったのか」――事故に対峙した吉田は、遂に究極の決断を迫られる。「全電源を喪失している今、方法はひとつしかありません」とベント決行を告げると、総理大臣から「誰が行くのか」という問いに「中央制御室の運転員たちです。被爆は避けられないでしょう」とこたえる。その映像に遠藤憲一と石田ゆり子が演じる、行方不明となった息子の身を案じる両親の沈痛な表情が重ねられ、心を締めつけられるような内容となっている。併せて公開されたメインポスターは、未曾有の事故に向き合った9人のID写真とともに、問題提起となるコピーが配されている。Netflixシリーズ『THE DAYS』予告映像<配信情報>Netflixシリーズ『THE DAYS』6月1日(木) よりNetflixで独占配信作品ページ:
2023年05月12日福島第一原発事故を機に制定された原発運転期間を原則40年・最長60年とするルール。そのわずか11年後の今、規制の撤廃が行われようとしているーー。「再生可能エネルギーと原子力はGX(グリーントランスフォーメーション)を進めるうえで不可欠だ」今年8月、GX実行会議で、電力不足への対応や脱炭素社会の実現にむけて原発の必要性をこう力説した岸田文雄首相(65)。会議で岸田首相は、次世代革新炉の開発・建設の推進に加え、現在「原則40年・最長60年」とされている原発の“運転期間の延長”を検討することを指示した。それを受け経済産業省は、10月5日、60年を超えて原発の運転を可能にする法整備を行うと表明。原発の稼働期限を事実上“撤廃”するとした。この方針には、政府から独立し、原発を規制する立場にある原子力規制委員会の山中伸介委員長までもが、容認する姿勢を見せている。■年数を経るとともに原子炉は劣化する「そもそも、『原則40年・最長60年』というルールは、福島第一原発事故のあと、同じような事故を繰り返さないために、安全規制の一環として原子炉等規制法を改正して定められたものです」そう解説するのは、原子力規制を監視する市民の会代表の阪上武さん。「ところが、規制する立場である規制委員会の山中委員長は、資源エネルギー庁が60年を超える原発の運転を可能にするよう要求したのに対し『運転期間については、利用政策側である経産省の判断だ』として、原子炉等規制法から、この条文を削除する形で容認してしまった。これは非常に問題です」原発を推進する側の経済産業省がルールを定めるとなると、安全性よりも電力会社に都合のよいものになりかねない。現在国内で建設済みの原発は33基。それらのすべてが、’50年までに稼働40年を迎える。条文が削除されることで、老朽化した原発が日本中で当たり前に稼働するリスクは、いかほどか。元三菱重工の技術者で、伊方原発3号機の建設機器班長を務めた森重晴雄さんは、こう指摘する。「第一に挙げられるのは、中性子線が照射することによる原子炉の脆化です。原子炉は、炭素鋼という200mm厚の鉄板で作られているのですが、炭素鋼は中性子線に弱い。そのため長年、照射され続けることで金属が脆くなるのです」加えて、ホウ酸水による腐食のリスクもあるという。「西日本の原発に多い加圧水型という原子炉は、中性子線を吸収しやすいホウ酸水で原子炉を冷やしています。しかし、炭素鋼はホウ酸水に弱いので炭素鋼の表面にステンレスを肉盛り溶接してコーティングしていますが、どうしても隙間からホウ酸水が染みこみ、経年腐食しやくなるのです」このほかにも、原子炉内を毛細血管のように張り巡らされている膨大な数の電子ケーブルなども経年脆化していくが、すべて取り替えることは困難だという。「原子炉には蓋と胴部があり、いずれも劣化が進みます。三菱製の原子炉の蓋は劣化を理由にどの発電所も一度取り替えているのですが、原子炉胴部は即死レベルの放射線量なので取り替えが困難。現行法では40年ルールになっていますが、本来、原発の寿命と言われているのは30年くらい。炉を交換できないなら、この程度で廃炉にするのが合理的なのです」実際に、製造から30年を超えたころから発電所内のトラブルが急増している、というデータもある。「圧力容器の鉄板にわずかでも腐食が生じれば、そこから一気に亀裂が広がって冷却水が漏れ、原子炉が冷やせなくなってしまいます。そうなると炉心溶融が進み、最悪の場合は原子炉が爆発して、福島第一原発事故とは比べものにならないほど大きな事故になる可能性もあるのです」これまでも、原発内に脆くなった部分がないかの検査は行われてきた。しかし「その検査にも限界と問題がある」と指摘するのは、「老朽原発40年廃炉・名古屋訴訟」を闘う弁護士の小島寛司さん。「原子炉の中に、いくつか試験片を入れておいて、10年ごとくらいにそれを取り出し、圧力をかけるなどして金属の脆性を検査し、安全性を確認しています。しかし、そのデータが圧倒的に少ないのです。すでに40年を超えて運転を続けている美浜原発3号機の場合、稼働後約40年間で得られている破壊靱性試験のデータは、わずか12回分。それも、直近の検査では溶接金属部分のみチェックし、原子炉本体の母材については検査していないなど、極めて不十分なものでした」本来、データを適切に提出させて審査すべき規制委員会も、それをせずに稼働を許可しているという……。加えて、現存する原発にはそもそも“型が古い”という根本的な問題もある。「’11年に事故を起こした福島第一原発は、当時、稼働から間もなく40年を迎える老朽原発でした。そのため型が古く、原子炉を冷却できなくなったときに作動する非常用配電盤の設置場所が、ほかの電源とすべて同じフロアに設置される設計だった。そのため津波でいっせいに機能を失ってしまったのです」■甘い耐震基準で作られた原発たち加えて、前出の森重さんは、「型が古い原発は、耐震に関しても致命的な欠陥がある」と指摘する。「日本は近年、地震の活動期に入っています。40~50年前に原発が製造され始めたころは、いまほど大きな地震もなかったので、そもそも耐震基準が甘いのです」なかでも、東日本に多い“沸騰水型”の原発は要注意だという。「沸騰水型は、ペデスタルと呼ばれる不安定な脚立のようなものの上に大きな原子炉を乗せているので、とくに揺れに弱い。福島原発事故のあと耐震基準が引き上げられ、新基準に合格した原発のみ再稼働されていますが、それでも加圧水型の高浜原発で、550ガルから700ガルに引き上げられたにすぎません」ガルとは、地震の大きさを表す単位のひとつ。最大震度6強を記録した新潟の中越沖地震では、柏崎刈羽原発3号機で設計時の想定834ガルをはるかに上回る2千58ガルの揺れを観測し、建設時の地震想定の甘さが露呈した。これらを考慮すると、700ガルというのは心もとない数字に思える。「さらに耐震評価では、原子炉の上部で原子炉の横ブレを止めるスタビライザーという部分についての耐震評価が公開されていません。この評価を行うと耐震基準に満たないことが明らかになってしまい、再稼働できないからです」つまり、極めてずさんな耐震構造のまま、放射性物質が漏れ出す可能性のある老朽原発を動かそうとしているのだ。岸田首相は、40年ルールを取り払う理由のひとつとして「イギリスやフランスなど諸外国では運転期限がない」ことなどを挙げている。しかし、原子力規制委員会の前委員長・更田豊志氏は「地震ひとつとっても海外とは置かれている状況がまったく違う。あまり海外の状況にひきずられるべきではない」と言及していた。日本における原発稼働のリスクについて、結論ありきではない、真摯な議論が求められている。
2022年11月04日8月24日、岸田文雄首相は「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」にリモートで出席。これまで最長60年とされていた原発の稼働延長や、停止中の原発の再稼働、さらには“次世代型原発”の新設も検討する、とぶち上げたのだ。「原発の依存度を可能な限り低減する」としていた従来のエネルギー政策からの方針転換。先の参議院選挙ではまったく争点にされていなかっただけに、戸惑っている人も多いのではないだろうか。元経産省官僚でエネルギー問題に詳しい古賀茂明さんはこう語る。「原発メーカーや経産省など、いわゆる“原子力ムラ”の人たちは、以前から原発復活の時期を虎視眈々と狙っていました。本気になれば、原発事故から11年の間に全国の送電線を整備したり蓄電池を充実させたりして、再生エネルギーの割合を欧州なみの4割まで上げることは可能でした。しかし、それをせずに夏や冬の電力需給が増える時期になると、電力逼迫を強調して、原発再稼働の必要性を強調してきたのです」■支持率急落にばらまきで対応福島第一原発の事故も収束していないなか、国民の間には原発への根強い抵抗感があった。「ところが、ウクライナ戦争による電力価格の高騰などを受け、世論も〈安全な原発なら稼働もやむなし〉という空気になってきた。原子力ムラの人々は、今がチャンスと思って、専門知識に乏しい岸田首相に働きかけたのでしょう」(古賀さん)一方で、「旧統一教会問題から目をそらさせるためにぶち上げた奇策では」という声も永田町で上がっている。「岸田政権の支持率は急降下していますから、予算をまんべんなくばらまくことで、政権を盤石にしたいという狙いもあるでしょう。また、核武装を夢見る右派におもねる意図もあるのでは。いわば政権の延命策ということです」(政治部記者)岸田首相が新設を検討するという次世代型原発にはいくつか種類がある。大きな特徴は出力ワット数が100万キロワットを超える従来の原発に比べて、30万キロワット程度と小型な点だ。元三菱重工の技術者で伊方原発3号機の建設機器班長も務めた森重晴雄さんはこう語る。「資源エネルギー庁がイメージ図などで示しているのですが、どの種類の原発も絵に描いたモチ。定期的にメンテナンスが必要なのに、そのスペースやクレーンが設置されていない。それらを入れると、実際の設計では建屋はイメージ図よりかなり広がるでしょう」■小型にすることで発電コストがアップまた政府が喧伝する“次世代型原発”にも疑問符がつく。その一種である「小型モジュール炉」うは〈従来の原発と比べて出力が小さいから安全だ〉と言われているが……。「小型にした分、燃料を入れる格納容器が非常に小さく設計されています。通常運転時でさえ格納容器から放出される放射性物質の量は、出力のわりに多く放出される可能性があります」(森重さん)小型でも、炉心溶融する懸念もあるし、核のゴミが出る点も従来の原発と変わらない。コストの問題もある。「出力ワットが小さければ、それだけ建設費用に対する1キロワットあたりの発電コストが割高になる。通常、原発の建設費は数千億円かかりますが、耐震設計を向上させる必要もあるため、発電コストは従来型より小型のほうが10倍ほど高くなる可能性があります」もっとも実現性が高いとされているのが「革新軽水炉」と呼ばれる原発だ。しかし、古賀さんは、「“革新”とは名ばかり」と言う。「本来なら、新規制基準のもとで装備が義務付けられるはずだった安全装置の“コアキャッチャー(炉心溶融の際に溶けた炉を受け止める装置)”を設置するとか、航空機の衝突に対して耐えられるように強化するとか、その程度で“革新”と言っているんです」つまり、現在稼働している原発にも本来は搭載されるべきなのに放置されてきた機能ばかりなのだ。さらに、“高速炉”も案に挙がっているが、日本では「もんじゅ(福井県)」の失敗が記憶に新しい。「高速炉は水の代わりにナトリウムで炉を冷やすのですが、少しでもナトリウムが水に触れると爆発を起こします。もんじゅも1995年にナトリウム漏れ事故を起こし、結局、運転できないまま2016年に廃炉になりました」(森重さん)■やれば予算が付く。公共事業と同じ「経産省の役人もメーカーの技術者も、本気で完成するとは思っていないはず。公共事業と同じで、やると言えば予算がつくし、天下り先も確保できる」(古賀さん)実際に、8月末に発表された令和5年度の経産省の概算要求には、次世代原子炉の開発費用として、112億4千万円が計上された。「この規模の予算が毎年消費されていくということです。経産省の資料に〈米仏と協力〉して開発を進めるとあるが、防衛費などと同様に、技術力に勝る米企業にお金を吸い取られていくだけでは」(前出・政治部記者)被災自治体の受け止めは深刻だ。福島県伊達市の市議、島明美さんは、こう憤る。「いきなりの方向転換は国民への裏切りです。福島第一原発の廃炉費用は10年間で、すでに13兆円もかかっているのに、ほとんど進んでいない。まずは廃炉作業を見直し、廃炉に全力を傾けるべき」岸田政権の延命のために、血税をムダに使うことは許されない。
2022年09月08日「この冬、最大で原発9基の再稼働を進めます」7月14日、岸田文雄首相はこう語った。現在、休止中の原発も順次再稼働させ、9基が同時に稼働している状態を作るという。だが、前日の13日には、東電の旧経営陣4人に対し、東京地裁が合計13兆円超の損害賠償を命じる判決を下したばかりだった。その理由は、「国の地震予測に基づき、15.7メートルを超える津波を予測できていたのに対策を怠った」ためだという。つまり、経営者らの怠慢が福島の過酷事故を招いたと裁判所は判断したのだ。再稼働を急ぐあまり、対策がいい加減になり、同じ過ちを繰り返すことにならないのか。9基の問題点を専門家と検証した(表参照)。■平均値超えは“想定外”「すべての原発に言えることですが、原発がどれくらいの地震に耐えられるかを示す“基準地震動”の設定が非常に甘い。大飯原発(福井県)3・4号機の場合、関西電力が算出している地震動は856ガル。しかし、揺れの“ばらつき”(平均値を超える値)を考慮すると、1150ガルに跳ね上がる可能性もあるのです」そう指摘するのは、数々の原発関連訴訟の弁護団長を務める井戸謙一弁護士だ。原子力規制委員会(以下、規制委)の「地震動審査ガイド」にも〈揺れのばらつきを考慮すべき〉と記されていた。しかし、関西電力はばらつきを考慮していなかったとして、2020年12月、大阪地裁は大飯原発3・4号機の設置許可取消の判決を下している。「ところが、この判決のあと規制委は、『わかりやすくするため』と言って、設置取消の根拠となった地震動審査ガイドの文言から、ばらつきを考慮するという記述を削除してしまったのです」ばらつきを考慮せず耐震対策を行った場合、平均値を超える揺れは“想定外”とされてしまう。懸念されるのが活断層の存在だ。「大飯原発の非常用取水路の下には、活断層の疑いがあるF6破砕帯が走っています。専門家の間でも活断層か否かの判断が分かれていて、地層を3次元的に捉える“3次元の反射法地震探査”で調査すれば、すぐ判別できると専門家も指摘しているのに、関電は調査しないまま再稼働しようとしています」■老朽化が懸念される稼働40年以上の原発さらなる懸念が老朽化だ。「福島原発事故を教訓に、原発の稼働年数は原則40年というルールが設けられました。しかし、新規制基準に合格すれば、一度だけ20年延長できるという“例外”が設けられた。この例外が初めて適用されたのが、8月12日に再稼働を控える美浜3号機です」(井戸さん)元東芝原発設計技術者で川内原発(鹿児島県)の特別点検を検証する委員のひとりである後藤政志さんは、こう指摘する。「40年も運転すれば、圧力容器や炉内構造物などに中性子線が当たり続けて割れてしまったり、また、配管等の腐食が進んだりする場合もあります」実際に2004年、美浜原発3号機で老朽化による配管の腐食を放置したことで蒸気噴出事故が起き、作業員11人が死傷する惨事が起きた。「点検できるのは膨大な数ある部品のうち、代表的な一部分に過ぎません。点検できない場所で劣化が進んでいる可能性は十分ありえます」(後藤さん)再稼働に不安を抱いた近隣住民たちは、美浜3号機の再稼働差し止めを求める仮処分裁判を起こしている。その審理は7月に終了し、再稼働後の9月に決定が下る。■ウクライナの戦争で露わになったテロリスク世界有数の火山国である日本は、噴火のリスクもつきまとう。先日噴火した桜島の約50メートル先には、前出の川内原発が立地。また、伊方原発(愛媛県)や、玄海原発(福岡県)から約160メートルの距離には、阿蘇山カルデラがあり、“破局的噴火”が起これば、これらの原発への影響も計り知れない。「川内原発では、非常用発電機に火山灰対策用フィルターを設置したりして対応していますが、大噴火が起きて灰が降り注ぐなか、常にフィルターを交換し続けるなど現実的ではありません。そもそも、火砕流が発生すれば原発の対応どころではなくなります。それこそ安全神話ではないか」(後藤さん)ウクライナでは原発がロシア軍の攻撃を受け、占拠され、放射能が漏れる事態が起きた。テロへの備えも懸念点だ。「新規制基準では、大型航空機の衝突やテロなどにより原発が被害を受けた場合、離れた施設(特定重大事故等対処施設)から原発を冷却し続けることになっています」だが、一部原発では設置期限を過ぎても、施設は未完成。だが、それでも再稼働は行われた。「そもそも、ウクライナのような事態は想定していない。原子力規制委員会の更田豊志委員長も、『武力攻撃に耐えるようにという要求をしているわけではない。検討も議論もしていない』と述べています。つまり原発が攻撃を受けたり占拠されたら、敵に核兵器を渡すのと同じです」(後藤さん)東電管轄の柏崎刈羽原発(新潟県)では、社員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正侵入するなど、極めてずさんな管理実態が明るみに出ている。少数の武装集団でも、原発が占拠されてしまう危険性をはらんでいるのだ。再稼働を目指す9基のうち5基を管轄する関西電力は、もろもろのリスクをどう受け止めているのか。「原子力事故は二度と起こさないという強い決意のもと、国の新規制基準に適合することはもとより、規制の枠を超えて自主的に徹底した安全対策を講じています」岸田首相には、ぜひ客観的な目で問題点を再検討してほしい。
2022年08月04日「この冬、最大で原発9基の再稼働を進めます」7月14日、岸田文雄首相はこう語った。現在、休止中の原発も順次再稼働させ、9基が同時に稼働している状態を作るという。だが、前日の13日には、東電の旧経営陣4人に対し、東京地裁が合計13兆円超の損害賠償を命じる判決を下したばかりだった。その理由は、「国の地震予測に基づき、15.7メートルを超える津波を予測できていたのに対策を怠った」ためだという。つまり、経営者らの怠慢が福島の過酷事故を招いたと裁判所は判断したのだ。ひとたび大事故が起きれば、多くの人の生活が壊され、広大な国土が立ち入り不能になってしまう原子力発電所。こうしたリスクがありつつも岸田首相が再稼働を急ぐのは、この猛暑で起きた電力ひっ迫が、電力消費量が多い冬に、より深刻な形で起こることが懸念されているためだ。■電力自由化で火力発電所の廃止が簡単に「いまの電力不足は、原発が止まっているせいではない。政府の計画の失敗で、原発22基分の火力発電所が、休廃止したからです」そう指摘するのは、経済ジャーナリストの荻原博子さんだ。「2016年は1億3486万kWだった火力発電所の供給力は、2022年には1億1272万kWに減少しています。この主な原因は、2016年に電力が自由化され、発電所の休廃止が“事前届出”から“事後届出”に変わったためです」つまり事業者は、政府の許可なく、採算の合わない火力発電所を休廃止できるようになったわけだ。「この背景には、原発再稼働という大きな目的があったからではないか」(荻原さん)電力ひっ迫を旗印に政府が急がせる原発再稼働。だが、現在の電力事情の責任は政府の失策にあるという。
2022年08月04日チェルノブイリ原子力発電所で起きた人類史上最悪の原発事故を、当事国だったロシア映画界が映像化した映画『チェルノブイリ1986』。「その日、世界が変わった」驚愕の予告編が解禁された。1986年4月26日、ウクライナ・ソビエト連邦プリピャチのチェルノブイリ原子力発電所で起きた爆発事故。この未曾有の大惨事は、のちにソ連が崩壊した一因になったともいわれ、数多くのドキュメンタリーや劇映画、海外ドラマなどが作られた。本作は、ロシア映画界が政府や国営原子力企業の協力を得て、ほかとは全く違った視点で描いた作品。人々の日常生活や生命をどれほど脅かし、彼らの人生に壊滅的な影響を与えたのか。事故発生当時、現地で撮影した経験を持つプロデューサーが、爆発直後に現場に急行した消防士たちの苦闘や避難民たちの混乱ぶりなどを、一般市民の視点から映し出したヒューマン・スペクタクル巨編。解禁となった予告編は、1986年4月26日午前1時23分にチェルノブイリ原子力発電所が事故を起こした瞬間からはじまる。かつてこの町は原発の恩恵を受け人々は豊かに暮らしていた。若き消防士のアレクセイは、元恋人のオリガと10年繰りに再会し「家族になろう」と誓う。しかし、原子炉が爆発したという知らせを受け事故現場に駆けつけると、そこは地獄のような惨劇だった。地元の消防隊員だったアレクセイは、事故対策本部の会議に出席するが、「このままだと水蒸気爆発が起きて、放射能物質が噴き出す。そうなればこの国はおろか、ヨーロッパが終わる」という危機的状況を教えられる。その時オリガは、何が起きているか知らされぬまま、被爆してしまった息子を抱えバスに乗っていた。やっとアレクセイと会うことができたが、不安な気持ちが爆発し激しく責めてしまう。そんなオリガを優しく抱きしめるアレクセイ。再び「帰ってきたら海の見える家で暮らそう」と約束すると、2次爆発を阻止するため発電所に向かってしまう…。その後の彼らの行く末を予感させる驚愕の予告編となっている。『チェルノブイリ1986』は5月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:チェルノブイリ1986 2022年5月6日より新宿ピカデリーほか全国にて公開(C)«Non-stop Production» LLC, (C)«Central Partnership» LLC, (C)«GPM KIT» LLC, 2020. All Rights Reserved.
2022年02月02日福島第一原発事故から、間もなく10年。“復興”の影に深い闇が見えてきた。現在も首都圏の国家公務員宿舎に避難を続けている区域外避難者34世帯に対し、コロナ禍で2度目の緊急事態宣言も出される寒空のもと、福島県が追い出しをかけているというのだ。「経済的な事情で転居できない避難者を、まるで犯罪者のように福島県は扱っています。使用料(家賃+駐車場代)を通常の2倍請求し続けたあげく、福島県に住む老親の元に押しかけたり、書留で文書を送りつけたりして、あなたの娘(息子)さんは『○百万円の家賃を滞納している。支払って1月中に退去するよう親から言ってくれ。さもないと法的手段に訴える』などと、脅しのようなことをしているんです。これが被災者に対して、することでしょうか?」そう訴えるのは、原発事故避難者「2倍請求」撤回訴訟を支援する会(以下、支援する会)の瀬戸大作さん。暮れも押し迫った12月25日、支援する会は記者会見を開き、福島県に対してそう憤った。なぜ、こうした事態になっているのか――。「10年前の福島第一原発事故のあと、災害救助法に基づき、被害者に対して公営住宅を無償提供してきました。ところが福島県は、2017年3月に国の避難指示区域外から避難している“区域外避難者”の住宅支援を打ち切ったのです」こう説明するのは、支援する会のメンバーで、自身も福島県から東京に避難中の熊本美彌子さん。この住宅支援の打ち切りが問題の発端だった。区域外避難者には、東電からの賠償金はほとんど出ていない。避難で仕事を変えることを余儀なくされ、派遣やパートの仕事しか見つからず収入が大幅にダウン。妻や子どもだけ避難している母子世帯もいる。こうした事情から、経済的に困窮している人たちも少なくない。そこにコロナ禍による収入減が追い打ちをかけている。「福島県は、〈経済的な理由ですぐに退去できない世帯に関しては、国家公務員と同等の家賃を支払えば2019年3月まで住んでもよい〉という2年間の期限を設けました。しかし、2年過ぎても退去できない場合は“使用料を2倍”請求するというおかしな条項が契約書に入っていた。県は、事前にそれをきちんと説明もせず、しかも2017年4月になってから契約書を送ってきたのです」(熊本さん)使用料を2倍請求されることを知らずに契約を結んだ避難者がほとんどだった。この日の記者会見では、福島県から嫌がらせのような行為を受けている避難者からの手紙も読み上げられた。そこには原発事故から10年目の、こんな悲痛な叫びがあった。「“死ね”そんなふうに(福島県から)言われているように思えてしまう。正直もう死んだほうがいいのかと、何度も頭をよぎったこともあります」「私は生活すべてを面倒見てくださいなんて言っていません。生活する分は自分で精一杯なんとかするから、どうか住むところだけは奪わないでくださいとお願いしているだけなのです」(Aさん)このAさんは40代女性。原発事故のあと、福島市から東京に単身で避難。斡旋された国家公務員宿舎で避難生活を続けてきた。パートや契約社員として働いてきたが、心身のバランスを崩し、1年間ほど働けなくなったこともあった。現在は、ようやくパートで食いつないでいるが、それでも収入は月10万円程度。前出の熊本さんは、こう付け加える。「彼女は福島に住む老親に心配かけまいとがんばっていたのに、自宅にまで押しかけて『損害賠償金はいくらいくら溜まっている。分割でいいから払ってほしい。そうしないと私たちは給料をもらえない』などと言って、法的手段に訴えることをちらつかせています。そもそも、彼女は通常の家賃なら払うと言っているのに、福島県は“2倍”の額を記した請求書を毎月送りつけてきているのです。生存権の侵害です」2倍請求された額は、ひと月で約4万円。手取り10万円の給料から支払うのはギリギリで、引っ越し費用を貯めることは難しい。福島県は「ていねいに寄り添う」と言って、住宅に関する相談会などを開いたこともあるというが、住宅斡旋業者を連れてきて避難者に紹介するだけ。Aさんも参加したが、その後、具体的に住宅を紹介されることもなかった。「だったら福島に帰ればいいと言う人もいます。しかし、原発事故から10年経って、避難先での生活が日常になっている。子どもの学校、仕事、コミュニティ……。実家との関係が悪く、帰る場所のない人だっているのです。“原子力緊急事態宣言”はいまも発令中で、原発事故はまだ終わっていないのに、一般的な災害に当てはめて住宅支援を打ち切るのはおかしい。原発事故の犠牲者に、これ以上の“自助”を強いるのは間違っています。原発事故に即した新たな法整備を進めるべきです」(熊本さん)そもそも、原発は国策によって進められてきた。現在行われている数々の原発事故の責任を問う裁判では、「東電や国が対策を怠っていなければ原発事故を防ぐことができた」という判決も多く出ている。これ以上、被害者の生活を奪うことがあってはならない。
2021年01月07日谷賢一率いるDULL-COLORED POPが現在「福島三部作」を東京芸術劇場 シアターイーストで上演中だ。谷が丁寧な現地取材を重ね、“福島”と“原発”の歴史と問題を真正面からすくい上げた意欲作。8月8日に開幕した第二部『1986年:メビウスの輪』、8月14日に開幕した第三部『2011年:語られたがる言葉たち』に続き、8月23日には第一部『1961年:夜に昇る太陽』が開幕。全3部の一挙上演も始まり、この一大プロジェクトにじわじわと注目が集まっている。福島県双葉町が原発誘致を決定するまでの数日間を描く第一部を中心にレポートする。【チケット情報はこちら】2011年の東日本大震災、それに伴う原発事故で、原発の安全性の問題が一気に表面化したのは記憶に新しい。だが、そもそも危険な原発をなぜ福島の双葉町は誘致したのか? 第一部『1961年:夜に昇る太陽』ではその発端を描き出す。貧しい地方都市にとって原発が落とす“原発マネー”は大きなものであったことは想像に難くない。だが谷の鋭い筆は他の地方都市との競争意識や様々な自治体のエゴ、さらには広島・長崎の原爆による心の傷――原爆によって大きな傷を負った日本だからこそ、原子力をプラスのものとして使いこなしたいという複雑な心理まで及ぶ、根深いものだと暴き出す。躊躇する町民と、推し進めたい政治家との丁々発止の会話劇は小気味よく、エンタテインメントとして昇華しながらも、描き出される内容は圧倒的なリアリティを持つ。誰もがその危険性に目をつぶり、あるいは安全だと騙されたふりをして、気付けば止まれなくなっていた。この道の先に2011年の事故があると知りながら観る身としては……、何をどうすれば、あの事故は防げたのかと考えても、途方にくれるばかり。それほど複雑に絡み合った歴史の真実と重みを谷は舞台上に創出した。福島出身の母親と原発で働く技術者だった父親を持つ谷は、自分の中に被害者側の血筋と加害者側の血筋、両方が流れていると言う。その谷だからこそ描けた到達点なのだろう。2011年の原発事故で16万人超が避難を余儀なくされ、今なお4万人近くが避難先にとどまっているという。だが震災から8年がたち原発事故について話題に上がることも少なくなった。しかし何も問題は解決していないということを改めて突きつけられた気持ちだ。続く第二部では福島第一原発稼動から15年後、かつて原発反対派のリーダーだった男が“原発賛成派”として町長選挙に出馬、そんな中チェルノブイリ原発事故が発生し、あげく「日本の原発は安全です」と明言するに至るまでを描き、第三部では東日本大震災・福島原発事故のさなかのマスコミの姿を描く。谷は第一部では人形劇やアングラ演劇的手法を、第二部ではミュージカルや死者(しかも動物)の視点など、多彩な演劇的表現を巧みに取り入れている。その意味でも谷の力を注ぎ込んだ渾身の連作であることが伝わる。ぜひ一見を。東京公演は8月28日(水)まで同劇場にて。8月31日(土)からは大阪・in→dependent theatre 2ndでも上演される。
2019年08月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「原発輸出政策」です。輸出は実質ゼロに。今後は中露が、世界に広げる?イギリスで日立製作所が進めてきた原発建設計画が中断されることになり、日本の海外への原発輸出計画は実質、すべてストップすることになりました。原子力発電の輸出政策は民主党政権のころから推し進めていました。水道や鉄道(超高速鉄道)など、インフラ技術を売ることが輸出の重要な鍵になるといわれており、そのひとつが原発だったのです。当時の鳩山首相は、温室効果ガスを2020年までに25%削減すると国際的に公約。そのためのクリーンなエネルギーとして、原発を増やそうとしていました。新興国では、しばしば電力が足りなくなり工場で停電が起きます。アジアや南米などに原発を輸出しようとしていた矢先、2011年に福島で原発事故が起きました。それ以降、安全対策にコストがかかり、原発の建設費用が1基5000億円以下だったのが、1兆円以上に跳ね上がりました。また、原発は、稼働し続けて初めて利益が回収できるもの。トラブルや災害で止めなければならない状況になると、収益も見込めません。これまでにも1979年にアメリカ・スリーマイル島、1986年にチェルノブイリ、2011年に福島と10数年に一度、世界で大きな事故が起きていますし、小さなトラブルは無数にあります。輸出先で事故が起きると、その損害賠償はメーカーが負わなければいけません。これはとても大きなリスクです。さらにいまは風や熱、光、潮など再生可能なエネルギーが増えました。信用を落とした日本の原発に、投資家たちはなかなか投資をしてくれません。福島第一原発事故が起きたのは、日本の技術が劣っていたからではなく、耐用年数が40年だったにもかかわらず、1960年代の古い型の原子炉を使い続けていたからです。最新型の原発ではそんなことにはなりません。そんななか、いま、原発の開発に力を注いでいるのは、ロシアと中国。国が開発資金をつぎ込み、輸出後のトラブルも国が補償。アメリカやフランス、イギリスなどが原発に後ろ向きになっているのに対し、ロシアや中国など強権な国が、アジアやアフリカに輸出をし、核を扱うアライアンスを世界中に広げていくというのは脅威でもあるのです。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年3月20日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年03月15日「福島第一原発事故のあと、国が詳細な土壌汚染調査をするだろうと思っていたんですが……。国がやらないなら、自分たちで測るしかない。そう思って土壌の測定を始めたんです。その結果を一冊にまとめたのが、この本です」そう話すのは、「みんなのデータサイト」(以下、データサイト)事務局長の小山貴弓さん(54)。クラウドファンディングで集めた約600万円を元手に、’18年11月に『図説17都県放射能測定マップ+読み解き集』(みんなのデータサイト出版刊・以下、『放射能測定マップ』)を出版。わずか2カ月で、1万1,000部を発行して話題になっている。データサイトは、福島第一原発事故後に各地にできた市民放射能測定所がつながった市民グループ。’19年1月末時点で31の測定所が参加している。震災後、被ばくのリスクを減らそうと、各地域で測定した食品や環境中の放射性物質のデータを精査し、共有。’13年9月、ネット上に「みんなのデータサイト」をオープンし、情報を公開してきた。「食品に関していうと、最初、葉物野菜などに付いていた放射性物質は、時間がたつと雨に流され土に落ちてきます。今度は土から作物が吸収することになるので、土を測らないと結局は食品汚染の実態もわからない。だから、土も測っておくことが重要だという意識が芽生えていったんです」そうして’14年10月「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」が始まった。原発事故後、国が放射能の測定対象地域として指定した東日本の17都県で、3,400カ所の土壌を採取・測定し、マップ化。のべ4,000人の市民が、土壌採取に協力している。原発事故から8年目の「17都県最新放射能測定マップ」は次のとおり(各地点で測定した土壌のセシウム134+セシウム137の数値を、減衰補正により2019年1月に換算して表した)。■青森県の土壌汚染:最高値14.9Bq/kg、中央値3.59Bq/kg■岩手県の土壌汚染:最高値3,030Bq/kg、中央値103Bq/kg■秋田県の土壌汚染:最高値180Bq/kg、中央値8.49Bq/kg■宮城県の土壌汚染:最高値20,493Bq/kg、中央値249Bq/kg■山形県の土壌汚染:最高値787Bq/kg、中央値44.2Bq/kg■福島県の土壌汚染:最高値112,759Bq/kg、中央値1,291Bq/kg■茨城県の土壌汚染:最高値4,219Bq/kg、中央値257Bq/kg■栃木県の土壌汚染:最高値20,440Bq/kg、中央値335Bq/kg■群馬県の土壌汚染:最高値2,490Bq/kg、中央値315Bq/kg■埼玉県の土壌汚染:最高値1,153Bq/kg、中央値82.7Bq/kg■山梨県の土壌汚染:最高値398Bq/kg、中央値16.2Bq/kg■長野県の土壌汚染:最高値1,038Bq/kg、中央値3.92Bq/kg■新潟県の土壌汚染:最高値397Bq/kg、中央値8.48Bq/kg■千葉県の土壌汚染:最高値4,437Bq/kg、中央値339Bq/kg■東京都の土壌汚染:最高値1,663Bq/kg、中央値65.3Bq/kg■神奈川県の土壌汚染:最高値433Bq/kg、中央値46.5Bq/kg■静岡県の土壌汚染:最高値515Bq/kg、中央値12.6Bq/kg小山さんは、土壌を調べた理由はほかにもあるという。「チェルノブイリ原発事故が起こった旧ソ連では、地域の土を採取・測定し、詳細な汚染マップを作成しています。事故から5年後には、土壌の汚染度も考慮した“チェルノブイリ法” が制定され、土壌汚染のひどい地域は避難の権利や保証が得られました」■「汚染土の基準」日本と世界【チェルノブイリ法での基準】・土壌汚染及び空間線量基準:約23,000Bq/kg以上または年間被ばく5mSv超→強制移住となるゾーン。・土壌汚染基準:約8,500Bq/kg以上→移住の義務となるゾーン。・土壌汚染及び空間線量基準:約2,800Bq/kg以上かつ年間被ばく1mSv超→移住の権利が発生するゾーン。【日本の土壌汚染の管理】・汚染基準:8,000Bq/kg以下→’16年3月、環境省は、除染で出た汚染土を、全国の公共事業などで利用する方針を決定。・汚染基準:100Bq/kg以上→原発敷地内などでドラム缶に入れ低レベル放射性廃棄物として厳重管理。「だけど日本では、土壌汚染調査もされず、空間の放射線量が年間20ミリシーベルト以下なら避難指示が解除され、補償は打ち切られています」年間20ミリシーベルトは、原発事故前の一般公衆の年間被ばく量の20倍だ。「空間線量は、安全か危険かを瞬時に把握するには有効ですが、100メートル先から出た放射線を拾ってしまったり、地上1メートルで測定するか5センチで測定するかによっても大きく数量が異なるので、不確かな面があります。その土地に暮らし、農作物を育て、食べる人にとっては、土壌に沈着している放射性物質の濃度を知ることが大切です」メンバーたちは、そう考えてプロジェクトを始動させたという。地元の方々に“自分ごと”として採取してもらうことが大事だと考えました」誰もが採取に参加でき、かつ世界的に通用するデータにするために、深さ5センチで1リットルの土を採取する、チェルノブイリ方式に統一することにした。「採取方法をわかりやすく説明するために、マンガにして配布したら、これが共感を得て(笑)」「これならできそう。土壌採取を手伝いたい」という連絡が事務局に寄せられ、全国100カ所以上で土壌採取説明会が開かれた。「放射性物質が集まるホットスポットは避け、かつ除染されていない土を採る必要があるので、適切な場所を探すのが大変でした」採取した土は、測定のあと、採った場所に返すのが原則。「手間がかかっている分、3,400カ所一つひとつに、採取した人の思いがこもっています」測定精度を保つ努力も重ねた。「どの測定所でも正確な数値を出すために、共通の検体を用意して、各測定所で同じ測定結果が出るか確認しながら進めました」土壌採取を進めている間は、「風評被害を助長する」と、Twitterなどで批判されることもあったという小山さん。しかし、本が出版されたとたん、1日で250冊以上の注文が入った日もある。「内心気にしておられる方が多いのでしょう。本当のことを知るのは怖いかもしれない。でも、知らないことはもっと怖い。汚染を知れば身を守ることもできますから。同じ過ちを繰り返さないためにも、事実を後世に残すことが私たちの務めだと思っています」
2019年02月08日主演に佐藤浩市、渡辺謙を共演に迎え、東日本大震災時の福島第一原発事故を描く映画『Fukushima 50』が、2020年に公開されることが決定した。2011年3月11日午後2時46分。マグニチュード9.0、最大震度7という、日本の観測史上最大の地震が発生。全てが想定外の大地震が引き起こした太平洋からの巨大津波は福島第一原子力発電所を襲う。1・2号機当直長の伊崎は、次々に起こる不測の事態に対して第一線で厳しい決断を迫られる。所長の吉田は現場の指揮を執りつつ、状況を把握していない本社とのやり取りに奔走。緊急出動する自衛隊、そして“トモダチ作戦”の発動とともに米軍もついに動く。福島第一を放棄した場合、避難半径は250km、対象人口は5,000万人。その中で現場に残り続けた約50人の作業員を、海外メディアは“Fukushima 50”と呼んだ――。想像を超える被害をもたらした原発事故。現場では何が起きていたのか?何が真実なのか?東日本壊滅の危機が迫る中、死を覚悟して発電所内に残った職員たちは、家族を、そして故郷を守るため、いかにしてこの未曾有の大事故と戦い続けたのか…。本作は、90人以上の関係者の取材をもとに綴られた、門田隆将によるノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)を原作に、大河ドラマ「軍師官兵衛」や「アキラとあきら」「空飛ぶタイヤ」などWOWOWドラマを多く手掛ける前川洋一が脚本を、『ホワイトアウト』『沈まぬ太陽』の若松節朗監督で映画化。本作で主演を務めるのは、『64 ロクヨン 前編』で第40回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した佐藤浩市。今作では、地元・福島出身で現場を指揮する熱血漢、福島第一原発1・2号機当直長の伊崎利夫を演じる佐藤さんは、「あの日あの時どういう状況に我々が、日本があったのか?その事を思い出し、明日のそして後世の為の映画を若松監督、渡辺謙さん達と一緒に確認をしながら作りたいと思います」と思いを語っている。また、福島第一原発所長の吉田昌郎役には、『沈まぬ太陽』で第33回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した渡辺謙。今作への出演に関し、渡辺さんは、「今もなお苦しみの続く福島の方々の思いを受け止めながら『沈まぬ太陽』以来の若松監督、そして浩市くん、素晴らしいキャストと共に緊迫感溢れる画を積み重ねていきたいと思っています。ご期待下さい」とコメントを寄せている。『Fukushima 50』は2020年、全国にて公開予定。(cinemacafe.net)
2018年11月20日東日本大震災から7年を迎えた。その直前、両陛下が6月の福島県ご訪問の際に、原発周辺をご覧になると報じられた。6月9日にいわき市に入られる両陛下は、避難生活を送る原発事故被災者を激励される。その後、南相馬市で全国植樹祭、そして相馬市を訪れ、犠牲者を慰霊される予定だ。 「いわき市から南相馬市への移動には常磐自動車道を使うのですが、途中、福島第一原発が見えるほど接近するのです。両陛下の強いご希望もあり、自動車道から原発周辺の視察をされることが検討中です。来年4月末までのご在位中に、未曾有の事故を起こした福島第一原発を、ご自身の目でご覧になりたいとお考えなのです」(皇室担当記者) 実は、陛下と美智子さまは7年前の震災直後から原発ご視察を望まれていたのだ。東大地震研究所の地震火山情報センター長・佐竹健治さんが、震災翌月のできごとを語ってくれた。 「4月20日、私が震災被害の状況を説明するために皇居へ参内すると、当時の侍従長・川島裕さんが困惑した様子で『天皇陛下が、原発を見たいとおっしゃっているのです』と言うのです。当時は放射線量も高く、難色を示す川島さんに、陛下は『自衛隊の飛行機で上空から見るならいいだろう、それでもだめなのか』とかなり強硬なご様子だったそうです」 ’11年5月以降、両陛下はこれまでに5回、福島県を訪問されている。原発事故にお心を痛め、常に福島に思いを寄せてこられてきた両陛下が、7年間切望しながらも実現しなかったのが、原発のご視察なのである。おふたりの思いをより強くする出来事が昨年あったと、皇室ジャーナリストが語る。 「昨年7月、ご静養中に訪れた那須高原の『藤城清治美術館』で、両陛下が熱心にご覧になった作品があります。影絵『福島 原発ススキの里』です。荒廃した原発近くの川に鮭がのぼる様子が描かれ、事故の甚大さと同時に、再生への希望がこめられています。これは’12年11月、当時88歳の藤代さんが原発のある大熊町に防護服を着て入り、命がけで2日間デッサンしたものです。天皇陛下と美智子さまは、そんな藤代さんの行動力にふれて、さらに思いを強くされたのだと思います」 福島第一原発の事故を、絶対に忘れてはいけないーー。陛下と美智子さまが、自ら現地に足を運ばれることで、そのメッセージが国民にも伝わるはずだ。
2018年03月16日「私も首相のときは、原発を推進していた。だけど、それが間違いだったとわかったから、考えを改めた。過ちだとわかって改めないことこそ、本当の過ちなんだよ」 そう言って豪快に笑うのは、小泉純一郎元首相(76)。小泉氏は、’11年に起きた福島第一原発事故の悲劇を目の当たりにし、原発推進から、“脱原発”へと大きく考えを変えた。 ’13年ごろから講演で全国を回っていたが、近年、高浜原発(福井県)、川内原発(鹿児島県)など、再稼働を進める動きに危機感を強め、講演のペースは一気に上がった。 「北海道から九州まで、平均月に2~3回だったのが、昨年の10月は10回、11月は8回。さすがにちょっとやりすぎたかな(笑)。でも依頼が引きも切らないんだよ」(小泉氏・以下同) すでに、今年11月の公演予定も入っているという。どの会場も満員で、「小泉さん、脱原発がんばって!」と声がかかる。昨年は、原発再稼働を進める安倍首相のお膝元、山口県にも乗り込んだ。 「安倍首相は、原発再稼働を進めているし、そのうえ山口県は、4つある選挙区すべてが自民党議員。みんな原発賛成だ。これはやりづらいな、と思ったんだけど、あそこには建設計画中の上関原発があってね。福島原発事故前から熱心に反対運動をしている人たちがいるんだ。彼らに、『安倍さんのお膝元だからこそ、小泉さんに来てほしい』と頼まれて。その熱意にほだされた。全国どこに行っても、原発を止めなきゃいかんという声は根強いよ。この法案を国会に提出して、与野党で議論を深めていきたい」 小泉氏が言う“この法案”とは、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」のこと。1月10日、小泉氏が顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」は骨子を発表。国内にある原発の即時廃止や、再稼働の停止、核燃料サイクルの廃止、自然エネルギーへの早期転換などを求めている。野党とも連携し、今国会での法案提出を目指す。 小泉氏がここまで必死になるのは、自身も、「原発推進派のウソ」に騙されていた、という後悔があるからだ。 「原発推進派は、日本の原発は安全だと言い続けていたけど、原発に“絶対安全”なんかないことは、福島の事故でよくわかった。とくに日本は、地震や津波、火山の噴火が何年かごとに必ずやってくる。地質学的にも危険な地域だ」 先日も草津白根山が突然噴火したが、より原発に近い火山が噴火したら、どうなるか――。 「再び事故が起これば、住む場所を失う人がまた大量に出る。だいたい福島に関しても、政府は『収束した』と発表しているけど、していない。汚染水、あれはどうするの。除染で出た大量の汚染物質、焼却しなきゃいかんと言ったって、焼却をすれば、放射能が出る。壊れた原子炉から中の燃料棒を取り出すと言っているが、人間がそこに立てば1分ほどで死ぬくらい危険だ」 小泉氏は、そう言って、故郷を追われた福島の人々にも思いを寄せる。 「40年たったら帰れると言う人はいるけどね。40年ふるさとを離れた人がほんとうに帰れるか。40歳の人は80歳に。10代、20代の人は、50~60代になる。そう考えると難しいね。原発事故が起きたら、そういうことになるんだ」
2018年02月05日「原発事故がなければ娘や息子夫婦は、いつか南相馬に戻って、私たちの近くで暮らしてくれる予定でした。でも、原発事故が起きて、その計画も実現できなくなってしまいました」 こう言って肩を落とすのは、福島第一原発から約26キロの南相馬市原町区に住む金子利夫さん(66)、正子さん(66)夫妻。生業訴訟の原告でもある。 金子夫妻が住む原町区は原発事故直後、“屋内退避エリア”に指定された。そのため、事故直後は、東電からひとりあたり月額10万円の精神的慰謝料が支払われたが、それも1年半で打ち切りに。しかし、事故から年経った今でも、目に見えない被害は続いている。 「娘のエリ(仮名)は、原発事故前に出産したばかりだったんです。だから、子どもへの影響を心配して、事故後3年間は里帰りしませんでした」(正子さん) エリさんが、初めて孫を連れて帰ってきたのは、2015年。しかし、エリさんの手には線量計が握られていた。 「『お母さん、線量が下がったといっても、まだ部屋の中で毎時0.44マイクロシーベルト(原発事故前の約10倍)もあるね』と言われて……。娘は今でも必ず、戻るときには線量計を持参します。安心して孫たちを里帰りさせてやれないのが、かわいそうで」 正子さんは、エリさんが孫を連れて里帰りするたびに、ミネラルウォーターと福島県産以外の食材を用意する。地元の水や食材に放射性物質が含まれていたら、と考えると心配だからだ。 「このあたりは、山や田んぼがあって自然の恵みが豊かなんです。この時期なら、山で栗とススキを取ってきて、お月見ができた。山菜を食べるのも楽しみだったし、山で汲んできた湧き水でコーヒーを入れると、すごくまろやかな味わいになって」(正子さん) 「でも、もうすべて汚染されてしまったから、そんなことはできなくなりました。国や東電は、お金だけで解決しようとするけど、それだけでは取り戻せないものもあるんです」(利夫さん) 金子夫妻はそう言って、失われた自然の豊かさを懐かしむ。 9月22日に判決が出た千葉の原発避難者訴訟では、「大津波は予見できたが、対策を講じたとしても事故を回避できなかった可能性がある」などとして、国の事故責任を認めない判決が出た。 これに対しても正子さんは、しばらく怒りが治まらなかった、と言う。 「原発事故は普通の災害とちがって、ひとたび起きれば、甚大な被害を及ぼします。自然は汚染され、次世代への影響も計り知れない。補償の有無やリスクに対する考え方の違いで、人間関係も破壊されてしまう。それが今回の事故でわかったはずなのに、こんな判決を出すなんて。生業訴訟では、国の責任を認めさせて、二度と同じあやまちを繰り返させないようにしたいんです」 生業訴訟の弁護団事務局長である馬奈木厳太郎氏が、この裁判の意義をつぎのように語ってくれた。 「原告の話からもわかるように、被害の形は多様です。しかし現在は、加害者側の国や東電が、なにが被害で、誰が被害者かを決め、“お金”の問題だけに被害を矮小化しようとしています。こんなおかしな話はありません。裁判という形式上、賠償金の請求を求めていますが、お金だけにとどまらず、自然環境の再生や医療保障、壊れたコミュニティーの再構築なども合わせて訴えていくことを考えています。今回は、たまたま福島で事故が起こったが、いつ自分の近くの原発で事故が起きるかもしれない。いつ被害当事者になるかわからないのです。そういう意味でも、福島の人たちだけに関係する裁判ではない。誰もが関心をもって、10月10日の判決を見守っていただきたいと思っています」 前編はこちら (取材・文/和田秀子)
2017年10月05日「日本は地震国ですから、世界のどこの国より厳しい規制基準が適用されないといけないはずですが、原発の再稼働を急ぐあまり、国も電力会社もリスクを過小評価している可能性があります」と警鐘を鳴らすのは、北海道大学名誉教授で地球環境科学が専門の小野有五さんだ。 昨年、川内原発1、2号機(鹿児島県)と伊方原発3号機(愛媛県)が再稼働。今年に入り、高浜原発4号機(福井県)が5月17日に再稼働したばかり。6月には高浜3号機、夏には玄海原発3、4号機(佐賀県)と、再稼働ラッシュが続く。 再稼働するには、原子力規制委員会(※)が、「世界最高水準」と豪語する原発の“新規制基準”の審査に合格することと、立地自治体の合意を得ることが必要だ。しかし審査に合格した原発は、本当に安全なのか。 というのも福島第一原発事故の避難者が起こした集団訴訟で今年3月、前橋地裁は「事故は東電と国が津波対策を怠っていたことにより引き起こされた」として、東電と国に賠償責任を求める判決を下したからだ。冒頭の小野さんの指摘のとおり、事故前と同じように国と電力会社の事故対策に問題があるならば、再び大参事が起きかねない。 そこで現在再稼働中及び再稼働申請中の原発のなかで、最近明らかになってきたリスクとその理由を小野さんほか専門家らに挙げてもらい、危険な原発11のリストを作成した(表参照。再稼働ではないが、建設中の大間原発、工事中の東通原発も含む)。 「それらの原発のうち、特に危険性が憂慮されるのは浜岡原発(静岡県)です。日本列島は、世界で唯一、4つのプレート(地球の表面を覆う岩盤)の上に乗っていて、プレートの交点にあるのが、浜岡原発なのです。近い将来、高確率で起きると言われている東南海地震の震源域の真上に建っているのですから、世界的に見ても浜岡ほど危険な原発はありません」(小野さん) かねてから危険性が指摘されてきた浜岡原発だが、その立地も危険度が高い。 「日本の上空には、西からの風が吹いているので、浜岡原発で事故が起きたら首都圏は風下になり放射性物質の影響をかなり受けると予想されます」(小野さん) しかし、そんなリスクの高い浜岡原発ですら、現在、安全対策を終え、再稼働に向けた審査が進んでいる。 記者が浜岡原発を訪れると、原発前の海岸に白い砂浜が続き、敷地を囲むように海抜22メートル、長さ1.6kmの巨大防潮堤が建てられていた。安全対策の一環という防潮堤の総工費は3千億円を超えるという。 「当初、壁の高さは18メートルだったんですが、国が試算した津波の高さが19メートルだったので、あとから4メートルかさ上げしたんです」と話すのは、現地を案内してくれた弁護士の青山雅幸さん。浜岡原発の廃止を求める訴訟弁護団の一員だ。 「浜岡原発は、河川と砂浜だったところに盛り土をして建てられたので地盤自体が弱い。巨大防潮堤をつくっても、巨大地震による“揺れ”や津波の圧力で地盤が浸食されたら、倒れてしまう可能性も大きいと専門家は指摘しています。近くに新たな活断層と思われる断層も見つかっています」 青山さんは海に浮かぶ灯台のようなものを指さして、こう続けた。 「あれは、取水塔です。津波で倒壊したり、津波で流されてきた船がぶつかったり、泥砂が詰まったりしただけでも、取水塔から水を送れなくなる可能性があります」 原子炉を冷やすには水が必須だが、浜岡原発は遠浅の海に面しており、日本の原発では唯一、専用の港がなく、岸壁がないので原発の真下に取水口がつくれない。そのため、沖合600メートルのところに取水塔を設置して、海底トンネルから原発構内の取水槽に海水を引き、原子炉を冷やしている。 「国の解析だと、あの取水塔は、21メートルの波高まで耐えられるそうですが、それを超える波が来る可能性は十分にあります。中部電力は、『5つある取水塔のうち、ひとつでも機能していれば、水を確保できる』として安全性を強調していますが、すべての取水塔がダメージを受けたらどうするのでしょうか」(青山さん) 浜岡原発に到来する津波の高さを、国は19メートルと試算されている。だが、前出の小野さんは、「最近、津波の高さは、地震の際、海底の活断層の動く角度が想定と少し違っただけでも大きく変わるとわかってきた」と指摘したうえで、こう続ける。 「私の地元、北海道の泊原発の場合、北海道電力は津波の高さを12.63メートルと試算していますが、国土交通省の試算は14.1メートル。北海道庁の試算では原発構内で7.6メートルですが、泊村の違う場所では最大で19.3メートル。場所によっては3倍近くの高さになるんです」 こうした試算の違いは、海底の活断層の動きを、どう評価するかで変わってくる。 「津波の予測は、本当はプラスマイナス2倍で考えないといけない。浜岡原発の場合は厳しく評価をしているはずだが、それでも、試算の1.5倍の28.5メートルくらいの津波がくる可能性は否定できません」 となると、海抜22メートルの巨大防潮堤も役に立たないのでは。 (取材・文/和田秀子) ※原子力規制委員会原子力利用に関し、安全確保を図るために監督業務を担う政府機関。環境省の外郭団体。前進である「原子力安全・保安院」は、原子力を推進する立場の資源エネルギー庁(経産省の外郭団体)だったため、福島第一原発事故後に、適切な規制ができていなかったのではないかという批判を受け、12年に発足した。
2017年05月27日海底の活断層は巨大津波リスク要因のひとつなのだが、その実態は少しずつ解明されつつある。 「最近も原発近くの海底に、活断層があるとわかった原発があります。東通原発と建設中の大間原発(ともに青森県)、北海道の泊原発です」と警鐘を鳴らすのは、北海道大学名誉教授で地球環境科学が専門の小野有五さんだ。 海底の活断層は目で見て確認ができないため“音波探査”といって、船から海底に向かって震動を与え、その反射の状態を画像化して確かめる。 「07年にマグニチュード6.8を記録した新潟県中越沖地震が起きましたが、あの地震の前から、変動地形学者らは、音波探査によって、海底の深いところに必ず活断層があると指摘していました」 音波探査で画像に写る地層が大きくたわんでいたら、海底の深いところに活断層がある可能性が高いという。小野さんはこう語る。 「新潟沖では、“地層のたわみ”が見られたので、学者たちは海底の活断層の存在を示唆していたのですが、東電は『音波探査で断層が見えていないから活断層はない』と言い張っていました。再稼働要員派の学者は、『目に見えないものを“ある”というのは非科学的』とまで言った。結局、地震が起きるまで認めないのです」 小野さんは再稼働されたばかりの高浜原発(福井県)についても問題をこう指摘する。 「高浜原発のある日本海側は、太平洋側とちがって海底の活断層が海岸のすぐ近くにあるので、地震が起きてから津波が来るまでの想定時間が4~5分ぐらいだと言われています。これでは避難する時間もありません。加えて若狭湾は、海岸線が複雑に入り組んでいるので、局所的に大きな津波がくる可能性もあります」 日本海側で起きた地震では、93年の北海道南西沖地震で、奥尻島に最大高30メートルの津波が押し寄せた。人口約3千人弱の島だが、死者行方不明者が230名も出ている。 高浜原発は、原発から30km圏内に約18万人が住んでいるが、近くに大飯、美浜、敦賀などの原発が乱立。複合災害になれば大惨事は免れない。再稼働を控える1、2号機は事故リスクが高まる、稼働から40年を超えた老朽原発だ。 「高浜原発の隣にある大飯原発も問題です。というのも、基準地震動(地震によって原子力発電所の周辺で起きると想定されるもっとも大きな揺れ)が過小評価されている可能性があるからです」(小野さん) 原子力規制委員会の委員長代理も務めていた地震学者の島崎邦彦氏が、「大飯原発の基準地震動は、過小評価の可能性がある。実際は想定を超える」として、計算式の見直しを求めたのに、原子力規制委員会は、「過小評価ではない」として認めていないのだ。 「津波と同じで、現実に最大の揺れが起きないと国も電力会社も基準を改めません。3.11以前は、どの原発の基準地震動も450ガル(揺れの強さを表す単位)程度だったのに、07年の新潟中越沖地震で最大2千58ガルが記録されたとたん、新潟の柏崎刈羽原発だけは基準地震動が2千300ガルに引き上げられました。本来は、地震が起きる前にリスクを最大限に見積もって備えないといけないのに、国も電力会社も平均値をとって過小評価したがるのです」 再稼働の申請のもとになる“ゆる試算”に疑問を呈すのは、小野氏だけではない。米国原子力プラントメーカー・ゼネラルエレクトリック社の元技術者だった佐藤暁さんも、こう批判する。 「原子力規制委員会の新規制基準が〝世界最高水準〟だなんてウソです。地震や津波の想定も、(前出の小野さんが指摘したように)試算が甘いうえに、ひとたび過酷事故が起きたら、結局、対策は“人”頼みなんです」 佐藤さんによると、3.11後、各電力会社は、地震・津波対策を強化してきた。しかし、ヨーロッパの対策に比べるとまだ甘い部分が多いという。 日本では、福島のような過酷事故に至った場合、現場の作業員が非常用電源車を動かしたり、ポンプをつないだりと、人が走り回って対応することになっているという。 「地震で道路が寸断されたり、原発構内で火災が発生したりして、人が動けなくなった場合、対処できません。現在の規制基準では、そうした複合災害が起きた場合の対処は示されていない。ヨーロッパでは、非常用電源や冷却装置をはじめとする安全を守る設備の中枢を耐震対策の完璧なビルに移して遠隔操作をできるようにするなど、過酷事故が起きないように二重三重の備えをしています」(佐藤さん) それでも万が一、過酷事故に発展した場合は最終防護対策として、規制基準に避難計画作成を義務づけているという。日本の場合、避難計画は自治体まかせで規制基準には入っていない。 今回の取材で生じた疑問点を原子力規制委員会に本誌締め切り3日前に送ったが、期限までに回答はなかった。(後日、編集部に送られてきた回答はこちら) 事故が起きれば被ばくのリスクに加え、避難や補償問題で人間関係は壊れて心身共に傷つく原子力災害。 福島第一原発の廃炉費用が現時点で21兆円に膨らむなどコストも莫大だ。事故の教訓を生かせないまま、再稼働を進めていいのだろうか。 (取材・文/和田秀子)
2017年05月27日(Photo by Wunderland Kalkar)脱原発を目指すドイツに、毎年60万人以上が訪れる原子力発電所を再利用した遊園地が存在する。1994年に建てられた「ワンダーランド・カルカー」だ。なぜ原発が人々に愛される遊園地になったのかワンダーランド・カルカーのスタッフ、タマラ氏に聞いてみた。Be inspired!(以下Bi):なぜワンダーランド・カルカーは建てられたの?タマラ:この遊園地を作ったのはオランダ人のビジネスマンHennie van der Most。彼は廃墟の土地を買収し、再利用するのが好きなのよ。今までに病院、じゃがいも工場、軍の基地などを違う建物に変身させた。そして彼は、ドイツのカルカー原子力発電所を買い取り、家族や友達と休日に楽しめる遊園地ワンダーランド・カルカーに生まれ変わらせた。Bi:今までにこの原子力発電所を稼働したことはないの?タマラ:ないわ。最後まで稼働許可が出なかったから。Bi:どのアトラクションに原子力発電所が使われてるの?タマラ:原子力発電所は使用されてなくて、58メートルの高さの冷却塔がメインアトラクションで使われているわ。Bi:原子力発電所を使ったことに何か“特別な意味”は隠されているの?タマラ:ないわ。笑特に政治的なステートメントを掲げていないの。なぜなら、遊園地やホテルはレクリエーション施設だから。しかし、多くの人に安全で楽しい環境を提供できることに感謝している。そして、私たちは原子力発電所というとても珍しい場所で安全に遊べる事実に誇りに思うわ。だって朝から夜まで原子力発電所で遊ぶことができるなんて誰が想像できたの?笑「原発」を「笑顔が生まれる場所」へ。2022年末までに原子力発電を廃止することを決めたドイツ。「脱原発」を掲げる前の話だが、未使用の原子力発電所は人々を楽しませる遊園地へと変貌を遂げている。脱原発への動きは、台湾が2025年までに「原発ゼロ」にする決断を下したように、欧州だけでなくアジアでも起こっている。しかし日本には、もんじゅ・常陽も含めると、全国に59基の原子力発電所が存在。しかもJCASTニュースによると、建築中の原子力発電所も存在する。東日本大震災で日本が経験した悲惨な原発事故を二度と繰り返さぬよう、いち早く「脱原発」へ進むこと。そして現在建築中の未稼働の原子力発電所は、ワンダーランド・カルカーのような多くの人の笑顔が生まれる場所に生まれ変わってくれることを望む。———-All photos by Wunderland KalkarText by Be inspired!ーBe inspired!
2017年02月19日(Photo by ajdemma)20年前、原発の危険性に迫るドキュメンタリー映像が撮影された。 映像を見ると、被爆による後遺症に苦しむ元原発労働者や家族の多さを目の当たりにする。 しかしながら、これを日本のメディアが放映したことは一度もない。 重要な内容のものほどメディアが扱わないのはなぜなのだろうか? 止まらない原発建設(Photo by James Marvin Phelps)中国電力が上関原発の建設に必要な土地の埋め立て免許の延長を山口県に請願し、それが条件付きで認められる方針となった。 これによって、新たな原発の建設に向けた動きが本格化する恐れがある。 日本での原発問題は、2011年に起きた東日本大震災後の福島第一原子力発電所の事故後に世間を賑わせたが、それまでは反原発運動があったのにも関わらず日本政府は“原発安全神話”を突き通していたのだ。 NHKで放送されなかった「原発の危険性」(Photo by Barak Kassar)日本の原発の闇に迫った短いドキュメンタリー映像がある。 日本の公害・原発問題を追い続けてきた報道写真家の樋口健二が、原発労働者や原発の内部を実態に迫り、原発労働に付随する問題を全国に訴えようとしたものだ。 1995年に制作されたこのドキュメンタリーは、NHKで放送されるはずだったものの中止され、現在も日本のテレビで放映されたことはない。 日本は「民主主義」国家ではなかった ※動画が見られない方はこちら<隠された被爆労働〜日本の原発労働者〜①>こんなことが日本の企業で起きているなんて、世間の人たちは考えつきもしない。※動画が見られない方はこちら<隠された被爆労働〜日本の原発労働者〜②>僕はね、国がやっていることだからと安心していた。※動画が見られない方はこちら<隠された被爆労働〜日本の原発労働者〜③>差別はまた差別を生む。同じことが原爆被害者にも起きていた。原爆を落とされた唯一の国が、自国の原発で同じ被害を作り出しているなんて。我々はこんな国に住んでいるんだ。(全て映画より引用) 放射性物質の危険性を教わる教育が行なわれないだけでなく、自分の被爆量も知らされず、危険な状態で原発労働者たちは働かされていた。 そして、十分な教育を受けていなかった被差別部落出身者たちなどの立場の弱い者を多く働かせるなど、横暴なやり方で原発を維持していたのだ。 この事実を認めず、「国民の目にさらさないように隠す」ということもまた、ドキュメンタリーのなかで言われているように、民主主義をさらに「破壊」している。 日本の民主主義はやはり危機的状況にあるのだ。 「公共放送」の持つ意味(Photo by Free Press/ Free Press Action Fund)「隠された被爆労働」を制作したのはイギリスの公共放送局「チャンネル4」だ。 若者やマイノリティに視点を当てた番組などを多く放映している。 具体的に見てみると、セルフィー文化やゲイバーを訪れる人を取材したもの、ネットいじめを描く社会派ドラマなど現代社会を知るのに役立つものばかりだ。 こういう放送局があることで、国民にとってどんなインパクトがあるのだろうか。 ・世間の多数派の考え方が全てではないこと ・若者やマイノリティーの視点も社会の一端だということ ・賛否両論ある問題からも目をそらしてはいけないこと 以上のようなことを視聴者に認識させられるのではないかと考えられる。 このように多様な視点を提供できるメディアは健全な民主主義を国民のなかで育むために必要不可欠である。 多くの国民はメディアを通して物事を知るのだから、メディアが報道する内容の人々への影響は計り知れないほど大きい。 メディアは自らの責任を自覚し、務めに徹しなければならない。 via. TOKYO Web, Seesaaブログ, Sott.net, Rolling Stone日本版, DIAMOND online, Channel 4, Channel 4 この記事を読んでいる人はこの記事も読んでいます!“『Yahoo!』から見る「日本」の「異常さ」” 私たちが日々追っている様々なニュース。しかし、日本のニュースは他国に比べて明らかに「異様」であったのだ。... ーBe inspired!
2016年08月10日意外と知らない社会的なテーマについて、ジャーナリストの堀潤さんが解説する、雑誌『anan』で連載中の「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「原発再稼働」についてです。***政府が原子力発電所を稼働させたい理由について今回は解説しましょう。まず第一は、日本に資源がないということ。日本は過去に外交に失敗し、石油の供給を海外から絶たれるという経済封鎖をされて、戦争に突入した苦い経験があります。なので、エネルギーを輸入に頼るリスクをよくわかっているんですね。原発は、ウランを手に入れれば国内でエネルギーを作れる。しかも、使用済みの核燃料を再処理し、再びエネルギーとして半永久的に使える技術を開発しました。原発事故が起こらなければ日本は、原子力の平和利用の最先端をいくはずだったんです。2つ目の理由は、COP21の回で取り上げましたが、世界的なCO2の削減義務化です。原子力はCO2を排出しないで済むエネルギーです。現段階では、太陽光や風力発電などの自然エネルギーですべての電力をまかなえるほど、技術も制度も追いついていません。原発事故の後、54ある原発がすべてストップして、日本のCO2の排出量は増えてしまいました。原発を動かせたら、削減ノルマをこなせるんだけど…という歯がゆい状態なんですね。3つ目は国際事情。実は安全性が高く、核のゴミの排出も減らす「次世代型原発」の開発が世界中で進められています。ロシアや中国では2020年には商業化という話も。日本は2014年にフランスと協定を結び、次世代型原発の研究施設として「もんじゅ」を使うことを約束しました。この開発競争、もしも欧米諸国がロシアや中国に負けると、安全保障面でも不安が生じます。核物質を管理しているというのは、その気になれば核爆弾を作ることができるということ。外交上の抑止力にも実はなっているんです。政府は原子力をメインに使うのではなく、エネルギーのベースとして最低限確保したい考え。とはいえ、安全面の不安は拭えません。火山活動が活発な今、活断層の上の原発は大丈夫なのか。福島原発以外にも「もんじゅ」や浜岡原発などで過去にトラブルが隠蔽されていました。電力会社、管理行政への不信感もありますね。原発は持っている地域だけでなく国全体の問題。夏の選挙でも注視したい課題です。◇ほり・じゅんジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2016年3月30日号より。写真・中島慶子文・黒瀬朋子
2016年03月29日韓国の鬼才キム・ギドクが2月28日、福島の原発事故をテーマに描いた問題作『STOP』を引っさげ、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2016」に来場!上映後に観客との質疑応答に応じ、作品への思いを口にした。当初、ギドク監督の来場は予定されていなかったが、日本を舞台にした本作が初めて日本で上映される機会ということもあって急遽、来日が決定。本作のプロデューサーを務め、出演もしているアレン・アイと共に上映後の舞台挨拶に登壇した。ちなみに、ギドク監督のゆうばり映画祭参加は、2005年の『サマリア』上映以来11年ぶりとなる。映画『STOP』は、おそらく日本では公開自体が難しいのでは?と思われるほどの“問題作”。原発5キロ圏内に暮らしていた夫婦が、東日本大震災の発生で避難を余儀なくされるが、地震発生時、妻はちょうど妊娠初期だったことから、奇形児が生まれるのでは?という恐怖が彼らを蝕んでいき、やがて予想外の展開を迎えることに…。福島と東京を舞台にし、東日本大震災やその後の原発に関することを題材としつつも、フィクションを織り交ぜており、政府関係者と思しき人間が夫婦の前に突然現れて人工中絶を迫ったり、福島の立ち入り禁止区域に忍び込んだ夫が、そこで生活する妊婦と出会い、彼女の出産を目撃するなど、過激な描写が多数、盛り込まれている。ギドク監督は「韓国の監督が福島の映画を撮って申し訳ありません」と頭を下げるが、一方で「原発や福島の問題は日本だけでなく世界中、地球の問題。いま、原発が増えており、現在は500基に満たないくらいですが、10年後には1,000基を超えると言われている。特に中国の東海岸で建設が進んでおり、ここで事故があれば韓国や日本にも影響がある」と警告を発する。今回、日本人の俳優20名ほどを起用する一方で、撮影、録音、照明などをギドク監督一人でこなしている。この点について「福島の原発事故を扱うのは難しい作業になるとは思ってましたが、実際に、日本人の俳優さんを何人かキャスティングしようとして断られてしまいました。これは、スタッフ探しも難航すると思い、ひとりでやることに決めました」と経緯を明かした。その上で、アレン・アイをはじめ、出演を決断した日本人俳優たちに対し「その情熱と賢明な姿に感激を覚えました」と感謝を口にした。あと十数日であの「3.11」からちょうど5年を迎えるが、監督は「こういう映画を見せることで、薄まっていた悲しみや痛みを引っ張り出して、傷に塩をすり込んでしまったのではないか…?」と日本人の前での上映への葛藤、不安を口にする。だが「人間には神が与えた“忘却”という恵みがあります。肉親の死を忘れることなどよくない記憶を忘れるという忘却もありますが、一方で、問題があることを知りながら忘れるという危険な忘却もあります。忘れることで楽になるのではなく、苦しくても環境を変えていく努力が必要なのではないでしょうか?」と訴えた。本作の脚本は、原発事故の発生後2か月ほどの段階で執筆を始めたそうで、2014年の秋に撮影が行われた。そのプロセスでチェルノブイリの原発事故の資料を集めたとのこと。「センシティブな問題であるとはわかっていますが、これは我々の世代だけでなく次の世代にかかわる問題であり、未来に残してはいけない。そんな思いで妊婦を主題に置くことを決めました」と明かした。映画の中には、震災から7年後という設定で、通常の人間の何千倍も聴覚が発達した人間が登場するが、ここにも監督のメッセージが。「原発に関しては賛成、反対どちらの意見も存在しますが、政府は反対派の声を聞きません。聞かないといけないものを聞こうとしない――それこそが障害ではないのか?というメッセージです」と語った。日本での配給会社や劇場探しは難航しそうだが、韓国でも同じよう。「韓国政府は原発推進派であり、輸出さえしています。そんな国にとって、この作品は好ましくありません」と苦笑する。日本の主要ないくつかの映画祭に出品を打診したものの、断られたようで「このゆうばり映画祭で上映できたことを驚きをもって受け止めていると同時に感謝します」と語り、会場は温かい拍手に包まれた。日本で今後、いつ見られるかわからない貴重な上映の機会とあって、日曜の夜の上映にもかかわらず、多くの観客が会場に足を運び、質疑応答でも次々と手があがっていた。(text:cinemacafe.net)
2016年02月29日日立、英国での原発建設プロジェクト推進に向けて子会社を設立日立製作所(日立)は1月19日、子会社である英ホライズン・ニュークリア・パワー(ホライズン)が同国ウィルヴィア・ニューウィッドに原子力発電所を新設するプロジェクトにおける設計・調達・建設(EPC)に関して新たに新会社「日立ニュークリア・エナジー・ヨーロッパ(HNE)」を設立したと発表した。設立日は2015年7月30日、資本金は5000ポンドで日立が100%出資している。HNEはベクテル・マネジメント・カンパニーおよび日揮と1次サプライヤーコンソーシアム(Tier1コンソーシアム)の設立に関する最終合意に向けた協議に入るためのMOUを締結。Tier1コンソーシアムではHNEが取りまとめとなり、ホライズンに対する1次サプライヤーとして同プロジェクトにおけるEPCを担当する予定。HNEなど3社は来年度のTier1コンソーシアム設立を目指している。ウィルヴィア・ニューウィッドの原子力発電所には、日立GEニュークリア・エナジー製の改良型沸騰水型原子炉が2基建設される予定で、2019年に建設を開始し、2020年代前半に初号機の運転を開始する計画となっている。
2016年01月19日