台風の影響で延期となった「高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト」の振替公演が2020年2月6日(木)18:30よりフェニーチェ堺にて開催決定。「高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト」チケット情報ヴァイオリニスト高嶋ちさ子が、2006年に立ち上げた“観ても、聴いても、美しく、楽しい”ヴァイオリン・アンサンブル。コンサートでは、クラシックの名曲のみならず、様々なレパートリーを12本のヴァイオリン・アレンジで演奏する。チケットは12月8日(日)12:00よりチケットぴあにて発売開始! また、フェスティバルホール公演のチケットはソールドアウトにつき、15:00公演のみ機材席解放に伴い追加販売が決定!チケットは12月2日(月)18:00より発売。完売確実の人気公演。チケット購入はお早めに。
2019年12月02日ウクライナ出身の若き巨匠コンスタンチン・リフシッツが、首都圏8つのコンサートホールを巡り、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲を演奏する「ベートーヴェンへの旅」が2020年のゴールデンウィークに開催される。公演に先立ち、リフシッツが来日し、11月13日、都内で記者会見を行なった。【チケット情報はこちら】ベートーヴェンの生誕250周年を記念して、8館が共同制作するというこれまでにない形で開催されることになった今回の演奏会。リフシッツはベートーヴェンのピアノ・ソナタの魅力について「交響曲、室内楽に並ぶ、ソナタ集と呼ぶべきひとつのジャンルを構成していて、素晴らしい道、新たなる旅を作り上げ、それはワーグナー、スクリャービンといった作曲家に引き継がれています」と語る。リフシッツ自身、これまでスイス、香港、台湾でピアノ・ソナタ全32曲の演奏会を行なった経験はあるが、その際は1番から32番を順番に演奏しており、今回のように順番を独自に入れ替えての全曲演奏は初めて。この順序入れ替えについてリフシッツは「1番から順番に弾くということは、年代順に弾くということであり、面白くはありますが、例えば19番と20番はベートーヴェンが初期に作曲した作品であったり、必ずしも完璧な年代順ではありません。日本でやるにあたって、順番を変えるべきだと思った」と語る。ではどのように曲を振り分けたのか?「32曲の中には(『悲愴』『田園』など)名前の付けられた有名な作品があります。それらをメインとして配しつつ、8つのメイン曲の周囲に、それに見合う共通性を持ったソナタを散りばめていきました」と説明。「このような形でやるのは初めてであり、正直、怖くもあり、私自身も興味津々です。このやり方が吉と出ることを願っております。8つのうちのひとつの演奏会にしか来られなくとも、ベートーヴェンの音楽の宇宙を堪能していただけるプログラミングをしたつもりです」と意気込みを語った。来春には、2017年の香港大学でのコンサートより収録した10枚組の「ベートーヴェンピアノ・ソナタ全集」も発売されるが「最初に話が出たのは昨秋ですが“まず無理だろう”と思ってました」と振り返りつつ「1年以上の時間をかけて、話し合いを進めながらじっくりと作り上げていきました」と手応えを口にしていた。「ベートーヴェンへの旅」は4月25日(土)のよこすか芸術劇場を皮切りに、神奈川県立音楽堂、フィリアホール、狛江エコルマホール、武蔵野市民文化会館、東京文化会館、所沢ミューズ、ウェスタ川越で開催。全8公演のスタンプを集めると、もれなく「コンスタンチン・リフシッツ ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集」BOX CDがプレゼントされる。取材・文:黒豆直樹
2019年11月18日木琴奏者、通崎睦美が10月11日(金)、銀座王子ホールでリサイタルを行う。現在はクラシック音楽の分野で世界唯一の木琴(シロフォン)奏者である彼女が、日本を代表する弦楽四重奏団クァルテット・エクセルシオとともに木琴の魅力を伝える数々の作品を演奏する。「通崎睦美(木琴)」チケット情報アフリカ由来でやわらかく甘い響きを持つのがマリンバ、ヨーロッパ起源で歯切れのいい華やかな音を持つのが木琴だ。同じ鍵盤打楽器ながら両者の出自は異なり、現在独奏楽器として用いられているのはマリンバである。マリンバ奏者として出発した通崎は2005年に戦前から戦後にかけて日本とアメリカで活躍した名演奏家、平岡養一(1907-1981)の愛器、1935年アメリカ製の木琴と出会い、平岡の遺族からこれを譲り受ける。以来、木琴奏者として多くの作品を演奏。また新作委嘱、著述などを通して広くこの楽器の紹介に取り組んでいる。クァルテット・エクセルシオとの顔合わせは2017年5月の京都に続く2度目のもの。さまざまな弦楽器との組み合わせによって木琴の響きが色とりどりに輝く様は、この共演ならではの味わいだ。もちろん通崎のソロ、クァルテット・エクセルシオの演奏などそれぞれの魅力もふんだんに。上記の楽器の他、樹齢1000年のホンジュラス・ローズウッドを使って1920年代のアメリカで作られたという、可愛らしい音色の木琴も登場する。エッセイストやアンティーク着物コレクターとしても知られる彼女のしなやかなトークをまじえながら、木琴という楽器の多彩な表情に出会える90分だ。チケットは発売中。[日時]10月11日(金) 14:00開演(13:30開場)/19:00開演(18:30開場)※各回休憩なし・90分公演[会場]王子ホール取材・文:逢坂聖也
2019年09月17日神奈川フィルハーモニー管弦楽団の首席ソロ・コンサートマスターを務める、石田泰尚氏がプロデュースした男性奏者のみの硬派弦楽アンサンブル「石田組」。その単独公演が10月14日(月・祝)、東京・赤坂にあるサントリーホール大ホールで行われる。今回の公演の見どころや石田組について、石田泰尚氏に話を伺った。【チケット情報はこちら】石田組の公演はクラシックのみならず、幅広いジャンルを楽しめることが特徴。今回の公演でも、E.バーンスタイン(近藤和明編曲)「荒野の七人」といった映画音楽や、クイーン(松岡あさひ編曲)「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」のようなロックの名曲を演奏予定だ。特に聴いてほしい曲は、松岡あさひ氏が編曲したプログラム後半の4曲で、それらはすべて初披露となるもの。石田氏が太鼓判を押すだけあって、その仕上がりに期待したい。「チラシを見ただけではどんな集団なのか分からないと思う。実際に見に来ていただいてギャップをお伝えしたい」と、耳だけでなく目で見て楽しめることも、石田組の見どころのひとつだ。総勢13名の弦楽合奏団である石田組。そのコンセプトを尋ねると、「メンバーが思い切り演奏を楽しめる場にしたい」と語る石田氏。オーケストラ奏者が100人近いオーケストラで演奏する際は、時には周りに気を遣って気疲れすることもあるという。「自分たちが演奏を楽しむことで、お客さんにも楽しんでいただきたい」というのが石田氏の想いだ。石田組としての今後の目標は、長く活動を続け、まだ訪れていない地域を含め日本全国で公演を行うこと。そのためにはメンバーが離れないように、自分自身も練習を積み成長することを大事しているという。最後に観客へ向けてのメッセージを聞くと、「石田組はひとりひとりが主役。素晴らしいメンバーが揃っているので、全員のことを見てほしい」と語った。現在、前売り券がチケットぴあにて発売中。取材・文:松崎 優美子
2019年09月12日作曲家・林晶彦がデビュー30周年記念コンサートを開く(11月13日(水)・東京オペラシティ・コンサートホール)。なかなかにたくましい、波乱の音楽人生を歩んできた人だ。【チケット情報はこちら】1989年に、京都・丹波高地の山村で行なわれた京北国際芸術祭というイベントで自作曲を弾いたのがデビュー。「世界的打楽器奏者のツトム・ヤマシタさんがプロデュースした音楽祭です。無名の僕にヤマシタさんは45分のステージを与えてくれました」その前年、面識もなかったヤマシタを突然訪ねて交流が生まれたのがきっかけだった。残念ながら詳述する余裕はないのだけれど、そのバイタリティや、まるで奇跡のような出会いのエピソードはちょっとドラマティックだ。林は1955年生まれだから、当時すでに34歳。かなり遅咲きのデビューだ。それまで何をしていたのか。「管弦楽組曲だったと思うんですよ」ロックバンドでベースを弾いていた林少年が、ある日突然クラシックに目覚めたのは、ラジオから聴こえてきたバッハだった。そこから2年間ピアノを猛練習。しかし日本の音楽大学を目指すことなく、いきなり高校を中退して17歳で単身パリへ。アカデミズムとは無縁で、往年の名ピアニスト・作曲家のミロシュ・マギンにプライベートで師事した。「黒板の前で勉強するのは僕の音楽ではないと思った。体験したことが音になるから。ただ、僕は体験したことがはちゃめちゃなんですけどね(笑)。ある音楽家の方に、どんなシステムで作曲しているのかと聞かれたことがあったのですが、システムはないんです。出会った人にインスパイアされて作るので。理論では作っていないんです」20歳のとき、今度は突然イスラエルへ。中東に一触即発の空気が漂っていた1970年代半ばだ。「パリで病気で入院して死にかけて、しんどくてどんな音楽も聴けなくなってしまったときに、ガールフレンドがくれた、イスラエルの歌の入ったテープだけは聴くことができたんです。それでどうしても行ってみたくなった。何のツテもなくテルアビブへ行きました」そこでも音楽は独学。イスラエル・フィルのリハーサルを覗き、楽旅で当地を訪れたピアノのウラディーミル・アシュケナージに飛び込みでレッスンを受けるなど、さまざまな武勇伝。1年後に帰国。芦屋のライヴハウスでピアノを弾いたり、新婚旅行で訪れたインドで2か月暮らしたり。「いろいろやってたけど、思い出せません」と笑う。10年以上フリーランスの音楽家として食いつないだのちに訪れたのが上述のデビューの機会だった。コンサートも、そんな彼の音楽人生の中で、さまざまな縁で出会った仲間たちが集う。ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ソプラノ、能管、打楽器、そしてジャズ・ベース。新曲も3曲。「やったことないようなことばかりで大変なんですけど、僕もワクワクしてます」彼の作品を初めて聴く人にも楽しい、多彩なコンサートになりそうだ。取材・文:宮本明
2019年09月11日「“あのイ・ムジチ”という存在ですよね。光栄ですし楽しみです」キャリア十分のヴェテランがそう言って目を輝かせるのは素敵なことだ。天羽明惠は日本の声楽界を牽引するトップランナーのひとり。この秋、イタリアの老舗アンサンブル、イ・ムジチ合奏団と共演する(10月2日(水)・サントリーホール)。「イ・ムジチ合奏団 with 天羽明惠」の公演・チケット情報イ・ムジチといえば《四季》。誰もが知る有名曲だが、実は、音楽史で忘れられていたこの作品が再発見されたのはなんと20世紀半ばのこと。そしてそれが世界的な人気を獲得するのに大きな役割を果たしたのが、1952年結成のイ・ムジチなのだ。繰り返し録音した彼らの《四季》は、この曲の定番中の定番。《四季》といえばイ・ムジチ。両者はもはやほとんど同義語といっても過言ではない。「もちろんメンバーが変わっているとはいえ、60年以上もずっと弾き続けている作品なのに、まるでたったいま生まれてきた音楽であるかのように、いつも新鮮に演奏するのは素晴らしいことですよね」指揮者なしのアンサンブルとの共演。大事なのは息づかいだという。「彼らは絶対に私の息を聴いているはず。だから細かいテンポのニュアンスも、息でちょっと仕掛ければわかってくれるし、彼らの音で私の声も変わります。身体中にアンテナを張り巡らせてそのやり取りをするのは刺激的です」天羽が歌うのは、ヘンデルのオペラ《ジュリオ・チェーザレ》のクレオパトラのアリア〈この胸に息のある限り〉や、モーツァルトの《エクスルターテ・ユビラーテ》など3曲。「《ジュリオ・チェーザレ》のアリアは内面的で深い歌。それをイタリア語の音楽劇として、まずはイタリア人の彼らに伝えられるかどうか。丁寧に歌っていこうと思います。そしてモーツァルトは、彼らとの化学反応で、どんなきれいなレガートが生まれて、それをコロラトゥーラでどのように歌えるのか、とても楽しみにしています」ヘンデルやモーツァルトは、歌手にとって、声楽的にも必要不可欠なレパートリーなのだと教えてくれた。「たとえばヴェルディのオペラを歌ったあとでも、すぐに楽屋でモーツァルトを歌って、身体や筋肉がやわらかく使えているか、確認することが大事です。常にどちらも歌える状態、ニュートラルな状態に戻すということを考えながら歌手を続けています」来日を目前にコンサートマスターのアントニオ・アンセルミが急死したため、代役としてマッシモ・スパダーノが出演。公演後半の《四季》のソロも彼が弾く。「驚きました。残念ですが、彼らにとっても毎回が新しい演奏になるわけですから、そこは楽しみですね。私は東京と福井で歌うのですが、その間にもどんな変化が起こるか。彼らに負けずにフレッシュな演奏ができるように、私もしっかりと準備しなければ。なにより、彼らの音は絶対的に明るいでしょうから、その明るさと天羽明惠の明るさで、おおらかでのびやかに羽ばたきたいと思っています!」文・宮本明
2019年09月10日発達障害のピアニスト野田あすかが、昨年につづいて公演を行なう。前半はクラシック作品、後半は自作という構成だ。【チケット情報はこちら】前半で弾くヒナステラの《アルゼンチン舞曲集》(全3曲)についてこんな話をしてくれた。「1曲目は〈年老いた牛つかいの踊り〉という題名なんだけど、私が聴く限りはものすごくキレがいいんです。“年寄りじゃないだろう!”ってツッコミたくなる(笑)。3曲目は〈はぐれ者のガウチョの踊り〉。みんなとはぐれてどこかに走って行っちゃうカウボーイのお話なんですけど、ちょっと行き過ぎ(笑)。みんなの元に戻れたのかなって心配しちゃいます」視点が面白い。どんな音楽でも、このようにストーリーを考えながら弾いているのだそう。「作曲家がどう考えたのかをちゃんと調べて再現するのが大事だということを、知識としては知っているんだけれども、それをわかったうえで、私は自分の色を入れるほうが、弾きやすいし伝えやすいんです」でも、音楽学的な知識と同じぐらい、あるいはそれよりずっと、楽譜に向き合ってたどり着いた解釈が大事なはず。その意味で彼女は正統的だ。障害のせいで図形の認識が苦手。だから譜読みにとても時間がかかる。「ものすごく時間がかかってしまうから、耳で覚えて弾いてみたこともあるんですけど、それだと音色まで耳で聴いたように弾いてしまって、もう直せないんです。だから、どんなに時間をかけても、自分で譜読みするほうが、結局仕上がりは私らしい。大変だけど、今もその方法を続けています」そして自作曲。どのように作曲しているのだろう。「楽譜に書いた時点では自分がどんな曲を書いたのかわかりません。クラシックの作品と同じように一から譜読みして、“あっ、私、こういう曲を書いたんだ”って(笑)」どういうことかというと、彼女はまず、描こうとする風景や表現のイメージを点と線でスケッチする。見せてくれた作曲ノートには、ちょうど北斗七星のような図形がいくつも並んでいた。そしてその図形を、タブレットの楽譜アプリで、なぞるように音符を置いていくのだ。それが主題のモティーフとなり、展開し、和声づけしながら曲を完成していく。一見ユニークだが、最初の工程に視覚的な線画を用いているだけで、肉付けしていく過程は非常にオーソドックスな作曲法だともいえる。障害のあるピアニストとして報道されることをどう感じているのだろう。「最初はそれが嫌だと思って頑張っていたのですが、障害のある人もない人も、いろいろ悩みがあることに気づきました。そういう人たちが私のピアノを聴いて、悲しい気持ちや悔しい気持ちを少しでも涙として流せるとしたら、それは障害のためにいろんな悔しい思いをしてきた私だからこそできることかもしれない。私は障害を乗り越えたとは思っていなくて、これからも一緒に生きていこうと思っています。今回のコンサートでは、自作の新曲を何曲か発表する予定です。演奏を聴いて、来たときと違う気持ちで帰ってくれたらうれしいです」公演は12月22日(日)東京・トッパンホールにて。取材・文:宮本明
2019年09月02日ドイツを活動拠点とし、現在ヨーロッパを中心に全世界で熱い注目を浴びているエレクトロ・クラシックグループ、SYMPHONIACS(シンフォニアクス)が日本デビューすることが決定。さらに11月15日(金)に東京・東京国際フォーラム ホールCで日本初公演を開催する。【チケット情報はこちら】シンフォニアクスはヴァイオリニスト3人、チェリスト2人、ピアニストひとり、そしてエレクトロアーティスト/コンダクターひとりの7人からなる(楽曲によってはサポートが入り、8人編成となる)。メンバーはそれぞれウィーン、ベルリン、ブダペスト、ニューヨーク、コペンハーゲン、ソウル在住と国際色豊かで、どのメンバーも幼少期から音楽教育を受け、有名音楽学校を卒業し、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団などの奏者として、またソリストとして活躍中。2016年発表のデビューアルバム『SYMPHONIACS』はヨーロッパ3か国のみで発売、ドイツでは6万枚を売り上げ、21週連続チャートインという快挙を果たした。毎年ウィーンで開催される世界最大のエイズ慈善イベント「ライフ・ボール」やヨーロッパ最大級のチャリティイベント「バタフライ・ボール」などイベントへの出演。リアリティ番組「ネクスト・トップ・モデル」のドイツ版に出演しランウェイ脇で演奏、ベルギーで開催されたサッカー授賞式「ゴールデン・シュー」にゲスト出演、そして毎年ベルリンで開催される世界屈指の年越しイベントZDF主催「Willkommen」に出演した際にはシンフォニアクスの演奏中に新年を迎えるなど、世界を股にかけて活動している。この秋アジアに初上陸、まずは来日公演の開催が決定した。全面LEDを背負ったステージは圧巻。クラシック曲に加え、世界のトップチャートを賑わせる人気曲のクラシカルアレンジなどバラエティに富んだ楽曲が楽しめるステージを披露する。11月の公演終了後には握手会・撮影会も実施する。チケットの一般発売に先駆けて、先行先着プリセールを実施中。受付は8月23日(金)午前9時59分まで。■SYMPHONIACS(シンフォニアクス)The Very First Japan Show 2019日時:11月15日(金)開場 18:15 / 開演19:00会場:東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2019年08月15日80歳を越えてなお、演奏家として現役で活躍を続ける、フランスの名ヴァイオリニスト、ジェラール・プーレが9月1日(日)に横浜みなとみらいホールでコンサートを行う。共演するのは、氏の演奏パートナーとして活動するピアニスト川島余里と、7月13日に記念すべき第350回目の定期演奏会で大成功をおさめた神奈川フィルハーモニー管弦楽団の精鋭メンバー達だ。【チケット情報はこちら】本コンサートは、9月21日(土)より横浜美術館で行われる「オランジュリー美術館コレクションルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展に先立ち、同展を盛り上げるため横浜みなとみらいホールと神奈川フィルハーモニー管弦楽団の共同企画で行われる。ドビュッシーやフォーレなど、オランジュリー美術館のあるフランス・パリと関係の深い作曲家の作品を多数取り上げる。本コンサートを楽しむ上でまず知っておくべきなのは、ジェラール・プーレとその父親のガストン・プーレ、そして作曲家ドビュッシーとの関係だ。ドビュッシーは先に述べたようにフランス人の作曲家で、1918年に没するまで、それまでのクラシック音楽の潮流とは全く違う革新的な作品を生み出したことで、当時の世界に強い影響を与えた作曲家のひとりだ。そのドビュッシーが書いた「ヴァイオリン・ソナタ」を初めて演奏したのが、なんとガストン・プーレとのこと。ガストン・プーレはジェラール・プーレの父親で、ヴァイオリニスト兼指揮者として世界中で活躍していた音楽家であった。ドビュッシーと時代をともにした父親から、本物の音楽を直接受け継いだジェラール・プーレにしか表現のできない至芸が堪能できることは、得難い経験になるだろう。また、今回の出演者であり、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のソロ・コンサートマスターである崎谷直人は、留学時代にジェラール・プーレに師事していたこともあり、本コンサートは夢の師弟共演となる。神奈川フィルのコンサートマスターとして、そして自身のソロ活動や、徹底した音楽作りで高い評価を受けるウェールズ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリニストとして、日本有数のヴァイオリニストのひとりとなった崎谷直人と、ジェラール・プーレの音楽作りは、本コンサートの最も大きな魅力と言えよう。※崎谷直人の「崎」は立つ崎
2019年07月30日「個性と協調」「ソロとアンサンブル」。一歩間違うと水と油になりそうな要素同士が絶妙にバランスして、独特の魅力を醸し出すのがピアノ三重奏の世界。そこにこの冬、とびっきりの若いトリオが誕生する。戸澤采紀(ヴァイオリン)、西川響貴(ピアノ)、泉優志(チェロ)。今年19歳を迎える3人が、クリスマス・イヴに「トリオ・クレスコ」として産声をあげる(12月24日(火)・浜離宮朝日ホール)。【チケット情報はこちら】3人は現在東京芸術大学で学ぶ1年生の仲間同士。さらに、3月まで附属高校時代の3年間も同じ教室で過ごした。カフェでネットを検索して探したという、「成長」の意味のエスペラント語「クレスコ(kresko)」には、これまで3年間の成長と、これからの成長、両方の意味が込められている。「ピアノ三重奏の魅力は音域の広さ。そして、鍵盤楽器と弦楽器という、異なる種類の楽器が一緒に演奏することで、弦楽器だけのアンサンブルなどとは違う壮大なイメージがあります」(西川)「そのスケールの大きさを、この3人で、深い音楽で表現できたらと思います。尊敬できる同世代の仲間と一緒に勉強することが憧れだったので楽しみです」(泉)「単にソリスト3人が集まって弾くのではない、全員が寄り添った時の音が必要だと思います。3人の音。そういう意味でのアンサンブルの醍醐味を、でもお互いに寄せていくのではなく、遠慮なくぶつかり合って作っていきたいです。私たちにしかできない演奏、私たちにしか出せない音が絶対に見つけられると思っています」(戸澤)デビュー公演には、「今の自分たちにしかできないピュアな音楽を感じてほしい」という彼らの願いに沿って、フレッシュなプログラムを選んだ。メインとなる後半にはドビュッシーとラヴェルのピアノ三重奏曲。「最初に決めたのがドビュッシー。今の私たちより若い、18歳の作品に親近感を覚えます」(戸澤)「若いからこそ表現できるものがある作品です」(西川)ドビュッシーとくればラヴェルだが、その三重奏曲は、このジャンルの最高峰。難度も高い大作に挑む新生トリオに注目だ。一方、前半はピアソラのタンゴ、ロシアのジャズ・クラシックの作曲家カプースチン、そして映画音楽(パイレーツ・オブ・カリビアン)と、多彩なジャンルへの挑戦だ。カプースチンは原曲のフルートをヴァイオリンに置き換えての演奏。お楽しみ的な構成の中にも、他では聴けない彼ららしさがしっかりと織り込まれているのがいい。3人での公演の1か月前には戸澤のソロ・リサイタルも(11月9日・岡山県立美術館ホール、11月23日(土)・東京・トッパンホール)。2016年の日本音楽コンクール最年少記録優勝者。同じ年のピアノ部門覇者・樋口一朗との「念願の共演」で、こちらも若いエネルギーが溢れる。シューマンの傑作ソナタ第2番や、彼女が連続して取り組んでいるイザイのソナタ第2番、ラヴェル晩年のソナタ第2番など、レンジの広い楽しみなプログラム。取材・文:宮本明
2019年07月04日2017年第86回日本音楽コンクールを制した若きピアニスト吉見友貴(ゆうき)。2000年生まれの彼が、十代の集大成ともいえるリサイタルを開く(11月24日(日)・トッパンホール)。【チケット情報はこちら】現時点で決まっている演奏曲は、アルバン・ベルクのソナタOp.1、ベートーヴェンのソナタOp.109、そしてショパンのソナタ第3番Op.58。「最近魅力に気づいた」というのがベートーヴェン。交響曲や弦楽四重奏曲など、ピアノ曲以外も熱心に聴き始めた。「もともと、ベートーヴェンはとっつきにくく感じて、弾くのを避けていました。でも《熱情》を弾く機会があって、初めて深く勉強してみたら、彼の頭の良さ、作曲技法の素晴らしさにびっくり。いい機会だから一気に弾いてしまおうと、今回弾く作品109を含む、後期三大ソナタ(作品109、110、111)に取り組んでいます。最後の傑作3曲を続けて勉強するのは大変ですが、前期・後期とは異なるベートーヴェンの真の世界を深く見ることができたような気がします。もちろん今の年齢で完成できるわけではありませんが、これからもずっと向き合いながら深みを増していきたいと思っているところです」ベルクはそのベートーヴェンよりも約100年若い世代の作曲家。しかし、「作品のイデーは通じる」と言い切る。「並べて聞いてもまったく違う音楽に聞こえるとは思いますが、根本的な作風は似ているんです。それが伝えられるといいのですけど」実はベルクを知ったのは、子供の頃に読んだ『のだめカンタービレ』に登場した、ヴァイオリン協奏曲だったのだそう。なるほど、そういう世代だ。「それまでベルクという作曲家を知らなかったのですが、曲を聴いてみて衝撃を受けました。それがきっかけでピアノ・ソナタも勉強して。無調から、ぱっと調性に変わって解決する瞬間がとても好きです。少し難しい曲かもしれませんが、自分の好きな作品をみなさんに知っていただくチャンスにしたいと思います」そしてやはりピアニストはショパンが大好き。なかでもソナタ第3番は、ずっと憧れの作品だった。「ショパンの全作品の中でも、構築美を最も強く感じます。もちろん感覚的なメロディの美しさもありますが、そのうえで、ソナタとして構造的に美しい、素晴らしい作品なのです」この春に桐朋学園高校を卒業し、現在は大学のソリスト・ディプロマ・コースで研鑽中。最近はソロだけでなく、室内楽にも積極的に取り組んでいる。「室内楽は人と合わせるので、テンポなど、制限のある中で自由に弾かなければなりません。そのおかげで、ソロを弾くときも自分勝手にならず、作品全体を、より鮮明に、細かく、そして大きくとらえられるようになってきました」「ピアノでなく音楽を勉強している気がする」と手応えを語る表情は実に頼もしい。成長・進化の真っ只中。今後もさらに大きく羽ばたき続ける彼の「現在」が聴けるリサイタルを聴き逃すな。取材・文:宮本明
2019年06月28日2015年のショパン国際ピアノコンクールで、日本人では10年ぶりのファイナリストとなった小林愛実。今、世界的に注目されている若手ピアニストのひとりだ。その彼女が、11歳の時に開いたデビューリサイタル以来、12年ぶりに福岡シンフォニーホールで演奏する。「デビューリサイタルのことはよく覚えています。あの思い出深いホールで再び演奏できるなんて」と嬉しそうに語る小林。今回、ショパンとシューマン、ロマン派を代表するふたりの作品でプログラムを構成した。「デビューリサイタルでもショパンを演奏したんです。ショパンは、クラシックをあまり聴かない方でも馴染み深い曲が多くて、優雅でロマンティック。初期と後期では大きく作風が変わるので、時代を通しての変化を感じていただけたら嬉しいです。シューマンの『謝肉祭』は、小さな20曲からなる1つの作品で、いろんなキャラクターが次々に登場するので、飽きずに(笑)聴いていただけると思います」とクラシック初心者にも楽しめるポイントを教えてくれた。山口県出身。レッスンのために東京、アメリカへと環境を変えながら音楽への向き合い方も変わってきたという。特に、20歳で挑戦したショパン国際ピアノコンクールは大きな転機となった。「以前は本能的・感覚的に演奏することが多かったんですが、作曲家の意図や作品の背景を学び始めてからは、作曲家が何をどう伝えたかったのかということを考えるようになりました。そして自分がそれをどうやって聴く人に伝えるか。自分が感じるままに弾くことももちろん大切ですけどね」現在はアメリカ・フィラデルフィアを拠点に活動しているが、クラシックの本場であるヨーロッパへの移住も考えているという。「今回演奏するショパンやシューマンもそうですが、ヨーロッパ出身の作曲家が多いので、自分もそこに身を置いてみたい。もっと勉強して、音楽の幅を広げたいんです。弾く人の性格はもちろん、それまで経験してきたものも音楽に色濃く表れると思うので」と今後の夢を語ってくれた。「まだ若いし、学ぶべきことはまだまだたくさんありますが、デビューから12年生きてきた分(笑)、音楽にも深みが出ていると思います」と、自分自身の変化も楽しんでいる様子。そして、その日のその瞬間を聴衆と共有できるコンサートホールの空間が好きだという。「作品のひとつひとつに敬意を持ち、純粋に楽しんで演奏しています。ホールに広がるピアノの響きを皆様と共に感じながら、その作品の素晴らしさを伝えることができればすごく幸せです」『小林愛実 ピアノ・リサイタル』は7月12日(金)福岡シンフォニーホールで開催。チケットは発売中。
2019年06月25日仲道郁代が芸術監督として主宰する、その名も「仲道郁代ピアノ・フェスティヴァル」(7月14日(日)・東京芸術劇場)は昨年に続く2回目の開催。今年も、仲道郁代、横山幸雄、菊池洋子、實川風、松田華音、藤田真央と、若手からベテランまで、6人の実力派ピアニストたちが、2台&5台ピアノで超絶技巧の妙技を繰り広げる。このメンバーが一堂に会して5台のピアノを鳴らす、その壮観な様子を想像するだけでもわくわくするではないか。「全員がぴたりと揃うキレと、それぞれが絡み合う時の凄みは、ピアニストでもめったに体験できない新しい感覚のサウンド。去年最初に5台で合わせた時は、鳥肌が立ちました」【チケットの詳細はこちら】普段お目にかかる機会がない5台ピアノの合奏。第一線で活躍するピアニストたちにとっても難物なのだそう。演奏するのは《美しく青きドナウ》や《トルコ行進曲》などおなじみの名曲ばかり。しかし、「せっかくこれだけのメンバーが集まるのだから、みんなが本気を出さないと弾けないような編曲を選びました。だから大変で、去年の出演者のひとりは、これは“参加”じゃなくて“参戦”だと言っていました(笑)。ピアニストが技を掛け合わせたとき、これほどまでにエキサイティングなサウンドが生まれるのか! と私たちも驚いています。この面白さをぜひ“体験”していただきたいです」コンサート前半は2台ピアノ。モーツァルトの《2台ピアノのためのソナタ》を、1楽章ずつふたり×3組が交代で弾いたり、《白鳥》(サン=サーンス)や《だったん人の踊り》などの名曲が並ぶが、こちらもまた、よく知った名曲でピアニストによる個性の違いを楽しめる、というだけではない。「2台ピアノならではの複雑な音の妙技。ピアノの音の華麗さ、色気、色彩を堪能してほしい」ピアノという楽器のポテンシャルは、洗練されたピアニズムを持ち寄って2台、5台で奏でると、いったいどこまで広がるのか。その極みに挑戦するのがこのピアノ・フェスティヴァルの意図だという。ピアニストたちの意地とプライドをかけた本気のエンターテインメントだ。開演前には「ピアニスト・クロストーク」があり、6人全員が舞台に出て、あらかじめ募集した同じ質問に答える。「来ていただいて、つまらなかったとは絶対に言わせない」と自信に満ちた意気込みを語る仲道。間違いなくスペシャルなコンサートになりそうだ。取材・文:宮本明
2019年06月21日ロストロポーヴィチ・コンクールでの日本人初の第1位入賞をはじめ、出場したコンクールはすべて第1位受賞という話題のチェリスト・宮田大が6月30日、横浜みなとみらいホールで神奈川フィルをバックに全曲『コンチェルト』という、チェリストとして類を見ない驚愕の公演に挑む。しかも選曲はすべて宮田自ら行っているのだから、ひとつひとつの曲への思い入れもひとしおだ。【チケット情報はこちら】「CDにも録音したぐらい大好きなブルッフの「コル・ニドライ」は神様の言葉を聞いているかのような美しいメロディーとハーモニーで、演奏会の冒頭から皆様を異世界へ誘えたらと思っています。エキゾチックな独特の世界で、哀しく胸の中が張り裂けそうなくらいの切ないメロディーをチェロが語る場面もあれば、真っ直ぐ決意を固めた意志で進んでいく場面もあり、あたかもひとりの人生のオペラを観ているような作品です。なかなか日本では聴く事のできない作品のひとつです」後半は現役のチェリストにして作曲家、ソッリマの作品から始まる。不思議な響きを持つこの作品は宮田大の指名により高木慶太が出演する。「ソッリマはチェリストでありながら、チェロの魅力を100%伝える事のできる作品を世の中に沢山生み出しています。その中でも1番の代表作である、『チェロよ歌え!』は、2人のチェリストが対話している様に歌が重なってゆき、チェロの魅力を最大限に引き出した曲です。今回共演する高木さんは、私が大尊敬する大好きなチェリストです。今回の演奏会でしか聴けない演奏をふたりで表現できたらと思っています」そして切なく美しい旋律が印象的なフォーレ、そしてポッパーの超絶なナンバーは「これぞチェロの名作」といった有名な作品だ。この2曲に対する彼の思い入れも聞いてみた。「フォーレの「エレジー」とポッパーの「ハンガリー狂詩曲」もCDに録音しているくらい大好きな曲です。フォーレの「エレジー」はチェロの1番低い音までが書かれたチェロならではの歌い上げ方をしている曲です。エレジー=哀歌ですので切ない歌ですが、聴き手の方々の言葉としてそれぞれ想いの違った歌になります。ご自身の今のお気持ちで聴いていただけたら嬉しいです。ポッパーのハンガリー狂詩曲は、チェリストにとって大切な一曲です。演奏会の最後にふさわしいのではないかと思いこの曲を選ばせていただきました」宮田大による全編協奏曲公演など、次はいつ聴けるかわからない。聴衆に向けて、最後にメッセージをもらえた。「普段オーケストラと共演させていただく時は、ひとつの演奏会でチェロ協奏曲の一曲だけの出演が多いのですが、今回の演奏会は、全ての曲にチェロとオーケストラの組み合わせで出演します。この瞬間でしか体験できない思い出に残る演奏会にしたいと思います」若くして実力、人気、実績が揃ったスーパー・チェリスト・宮田大の渾身の公演、聴き逃す手はない。※高木慶太の「高」ははしごだか
2019年06月11日人気ピアニスト三舩優子がデビュー30周年を迎えている。シャープなタッチから繰り出される色彩に富んだ華やかな表現が魅力。6月2日(日)に東京・富ヶ谷のHakuju Hallで開く記念リサイタルはオール・リスト・プログラム。《巡礼の年~第1年:スイス》と《巡礼の年~第2年:イタリア》の全曲を弾く。【チケット情報はこちら】《巡礼の年》は4集まであり、《第1年:スイス》と《第2年:イタリア》は、20代のリストが恋人マリー・ダグー伯爵夫人とともに訪れた旅の印象を書き留めた作品。若いリストらしい技巧的なピアニズムと、文学や絵画から多くのインスピレーションを受けて表現しているのが特徴。三舩は1994年のCDデビューにも《イタリア》を選んでいた。「大学の卒業試験も《イタリア》の終曲の〈ダンテを読んで〉でしたから、デビュー盤もあまり迷わず《イタリア》に決めました。リストのピアノ曲というとやはり、『技巧的』という言葉が第1に出てきますが、私はむしろ叙情的というか、激しさと静けさの対比みたいなところに非常に魅力を感じていました。どっしりした構築の中に繊細なものがたくさん詰まっていて、それらをひとつひとつひも解いていく楽しみがあります。彼の音楽の流れにも気持ちを乗せやすく、自分の手にも1番しっくりくる感覚もあります」技巧より表現。その感じ方は、より深化している。「それでも若い頃はやはり、いかに速く弾けるか、いかに間違いなく弾けるか、ということに捉われていましたけれども、今はもっと物語を語りたいというか、“音を弾く”ということからすごく離れることができるようになってきたように思います」リストとの出会いは、ニューヨークで暮らしていた小学生時代にさかのぼる。父親に連れられて出かけたカーネギーホールで、当時ようやく西側での演奏活動を開始したラザール・ベルマンの演奏を聴いて鮮烈な印象を受けた。強靭なタッチで知られる20世紀のロシアの巨匠のひとりだ。「とにかく深い音。直接的な音というよりは、うゎーんという全体的な響きが新鮮でした」。そんな、音に「耳をすます」という聴き方は、正式にピアノを習い始めるよりも前に、音を探りながら自分ひとりで弾いていた幼い日からの、ピアノとの向き合い方のようだ。ずっと変わらない原点。だから表面的な技巧の華やかさではなく、その音の導く、奥底の「表現」を自然に捉え、そこに寄り添おうとするのだろう。6月のリサイタルには作家の神津カンナがゲスト出演する。「お父様の神津善行先生の音楽会に出演させていただくようになって以来、10数年間、家族ぐるみのお付き合いです」。演奏の合間にふたりの対談を交え、また、リストの作品の源流となった詩を神津の訳で朗読するコラボレーションも。「とにかく博識で楽しい方なので、うかがいたいことがたくさん。長くなりすぎないように気をつけます(笑)」。30周年に花を添えるプレゼントといったところ。あたたかな音楽会になりそうだ。取材・文:宮本明
2019年04月22日仲道郁代が昨年から10年計画で進行中の壮大なプロジェクト「Road to 2027 ベートーヴェンと極めるピアノ道」。その第2回が5月26日(日)に東京・サントリーホールで開催される。【チケット情報はこちら】「ベートーヴェンが音楽で問うたものを、これから10年間の自分の進む道として、私自身にも問い直していきたい」。これまで幾度かベートーヴェンのソナタ全曲演奏に取り組んできた彼女。今回は各回ごとにテーマを定め、ベートーヴェンのソナタを軸に、他の作曲家との関連の中で、ベートーヴェンの音楽、そこに描かれた哲学を見つめ直す。「Road to 2027」を冠としたプロジェクトは、並行して毎秋に開く、ピアニズムを極めることを目的とするリサイタル・シリーズとの2本を柱としている。「2027年」はベートーヴェン没後200年であり、仲道の活動40周年でもある。5月はピアノ・ソナタ第8番《悲愴》を軸に、ブラームスの8つの小品Op.76とシューベルトのソナタ第19番を弾く。テーマは「悲哀の力」。「悲哀」だけなく、「力」と入れたのには理由がある。「悲哀は、作曲家から生み出される時、ただ“悲しい”では終わらないんです。彼らの作品が、私たちにとっては次なる生きる力になる。強い意志や、シューベルトのように悲哀の先にある透明な美しさを感じさせてくれる。それらを受け入れることで、悲哀が力に変わるのです」ベートーヴェンは彼女のライフワーク。きっかけは2002~2006年、彩の国芸術劇場で行なったソナタ全曲リサイタルだった。作曲家の故・諸井誠とのレクチャー・コンサートという形式の中で、彼女自身、諸井から計り知れないほど多くのことを学んだ。「音符を読むということの本当の意味、それをどう生きた音にしていくのかを教えていただきました。あの経験がなかったら、今頃、私というピアニストがいたかどうか」「ピアノ道を極める」といっても、ストイックな修行ではない。「ストイックというと、ピアノを弾くこと以外を振り払うようなイメージ。私の人生はそれと逆で、諸井先生に学び、ピリオド楽器に興味を持ち、演劇の表現芸術からも刺激を受けてきた。自分の音につながると思うあらゆることを好奇心旺盛に吸収してきました。それらの蓄積の上で、音楽家としてこれからはどうありたいのか。それを見据えながら演奏活動をしていきたいというのが、この10年です」7月14日(日)には、やはり昨年から始めた「仲道郁代ピアノ・フェスティヴァル」の第2弾も(東京芸術劇場)。仲道と、横山幸雄、菊池洋子、實川風、松田華音、藤田真央という日本のトップ・ピアニスト6人が勢揃い。超絶技巧編曲による名曲の数々を、前半は2台ピアノ、後半は5台ピアノ(!)で弾きまくる。「昨年の第1回は、出演したピアニスト全員、もう、戦いのようでしたよ。参戦、という感じです。かっこいいコンサートですよ。すごく楽しいと思います!」というピアノの夏祭り。こちらも見逃せない!取材・文:宮本明
2019年03月25日ピアニストの横山幸雄が、3月12日(火)東京・サントリーホールで「東芝グランドコンサート2019」に出演。ファビオ・ルイージ指揮デンマーク国立交響楽団との初共演で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》を弾く。【チケット情報はこちら】ピアノ協奏曲第5番はナポレオンがウィーンを占領した1809年に完成、1811年にドレスデンで初演された、ベートーヴェンの最後のピアノ協奏曲。「ベートーヴェンのピアノ協奏曲といえば《皇帝》でしょ?というぐらいの代表作。若い頃から書き始めて、ついにここに到達したと言える作品だと思います。ベートーヴェンが自分でこれを最後にしようと思っていたかどうかはわからないですけれども、ひとつの到達点として意識して書いたのではないかという感覚は、僕の中にはあります」私たちの持つ「ピアノ協奏曲」のイメージを決定づけたのがこの作品だという。「バロックの時代に、チェンバロとアンサンブルというところから始まって、ベートーヴェンの時代にピアノが飛躍的に発達したことで、ピアノという楽器がソロ楽器として前面に出てくるようになった。ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でも、特にこの第5番で、楽器としてのピアノの扱いがかなりスケールアップしています。この曲によって、ピアノ協奏曲のあり方、スタイルが確立したと言えるのです」ソナタ全曲演奏や、ピアノ協奏曲全5曲の一挙上演など、ベートーヴェンへのリスペクトをエネルギッシュに解放する横山が、ベートーヴェンと最初に出会ったのは、まだ物心がついたばかりの子供時代だったという。「家にレコードがあって、よく聴いていたのがベートーヴェンでした。だから僕の、音楽との最初の意識的な出会いというのはベートーヴェンが非常に大きかったんですよ。ピアノ協奏曲はブレンデル。ソナタはバックハウス、ときどきリヒテルという感じで。朝起きて、寝る前に、食事のとき……。1日に何度も聴いていました」。まさに「三つ子の魂百まで」!趣味の域を超えたワイン通としても知られる横山。《皇帝》をワインにたとえると?「それは変なことは言えませんね(笑)。どんな演奏かによっても違ってくるかもしれませんし。でもお遊びとしてオーバーラップさせるならば、輝かしさと力強さがあって、わかりやすい。だからといって飽きることもない。でも第2楽章の天国的な美しさがあるので、単純に“力強い”“わかりやすい”だけでもない。いろんな素晴らしさを持ち合わせているということで……。うーん。やっぱり非の打ちどころがない、ロマネ・コンティでしょうか。でも、《皇帝》は演奏される機会も多いから、その意味では、なかなか口にできる機会がないロマネ・コンティとは違うかもしれませんけれども(笑)」軽く100万円を超える最高峰ワインにはなかなか縁がない私たちも、横山幸雄の《皇帝》は聴きに行ける。力強く、高貴なベートーヴェンの最高峰を味わいに出かけよう。取材・文:宮本明
2019年02月18日2018年度の第87回日本音楽コンクール・ピアノ部門の優勝者・小井土文哉が、3月7日(木)東京オペラシティコンサートホールにて行なわれる受賞者発表演奏会に出演する。小井土は前年度も本選まで出場し、優勝者・吉見友貴と覇を競った。当時は大学生と高校生。5歳違いだが、同じ桐朋学園で学ぶ先輩後輩だ。日本最高峰のコンクールは、その雰囲気も独特だという。【チケット情報はこちら】小井土「客席からの“圧”がすごいです」吉見「特に第1予選はほぼ審査員と関係者だけですからね。品定めの感じが、より強いコンクールです」小井土「あの独特な空気を1年目に味わったので、今回は…」吉見「落ち着けました?」小井土「うん、だいぶ。今度は弦も切れなかったし(笑)」(前回の第3予選。演奏中に突然弦が切れた。)小井土「まったく想定していないアクシデントだったから、弦を張り替えている間、集中力を持続するのが大変で。ただ、今回がそのリベンジという気持ちはなくて、僕自身は再挑戦するつもりもなかったんだけど」吉見「そうなんだ。てっきり絶対に獲りにいくんだろうなと思って見ていました」小井土「全然。秋から留学するつもりだったし。周囲の勧めもあって、結局、留学を延期して参加することに」そして見事栄冠を勝ち取り、3月の受賞者演奏会ではベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番から第2~3楽章を演奏する。小井土「特に第2楽章をぜひ弾きたくて。僕は、緩徐楽章のきれいなところが好きなので」吉見「そういうところが本当に上手なんですよ」小井土「自分のいいところが出せて、かつオーケストラでやる良さがある曲を選びました。単純に、あの第2楽章のオーケストラの美しい間奏を、ソリストとして間近で聴けたら幸せかなというのも理由です。いろんなキャラクターが出てきて、色彩の豊かな曲だと思います」小井土は岩手県釜石市出身。8年前の3月11日は中学の卒業式直前だった。自宅は被害を免れたが、50メートル先まで迫る津波を呆然と見つめていたという。「人生の中で、もうあれ以上の衝撃はないですよね。でも、あの体験がなかったらピアノを弾いていなかったかもしれません。失ったものも大きかったけれども、それを取り戻そうという力も働いた。もちろん今でもあの光景を思い出すのはつらいですが、そんな自分の内側を表現できる手段がある僕は運がいいと思います。言葉にできない感情をピアノでなら表現できる。だからこそピアノを弾いているのだと思います」小井土は今秋からボローニャに留学、イモラ音楽院でボリス・ペトルシャンスキーに師事する。吉見も、留学を見据えながら、4月から桐朋学園のソリスト・ディプロマ・コースに進む(11月24日トッパンホールでのリサイタルも注目!)。そんな俊英たちを送り出し続けているのが日本音楽コンクールであり、受賞後のキャリアの記念すべき第一歩が受賞者発表演奏会だ。溢れ出る若い才能の輝きを、会場で、まぶしく見つめたい。取材・文:宮本明
2019年02月15日2003年のCDデビューから15年。クラシックからジャズ、ポップスまで幅広いフィールドで活躍するマリンバ奏者SINSKEが、昨年12月にアルバム『Prays Ave Maria』をリリースした。クリスチャンだった祖父母に連れられ、幼い頃から教会へ通っていた彼には賛美歌や“アヴェ・マリア”は日常にある音楽だったという。「母がピアノ教師だったから音楽に導かれたんだと漠然と思っていたんですが、もっと前から“アヴェ・マリア”とは出会っていたんですよね。自分のルーツはこれかな?と思うようになって、いつか自分の作品にまとめたいと思っていました。シューベルト、グノー、カッチーニの作品等がよく知られていますが、調べれば調べるほど面白いものが見つかるんです。少しずつ準備を進めてきて、ようやく15周年のタイミングで向き合うことができました」【チケット情報はこちら】名だたる音楽家たちが作曲した数多くの“アヴェ・マリア”の中から厳選した楽曲をマリンバのためにリアレンジして収録。また、彼が“師匠”と慕う日本のマリンバ奏者の第一人者・安倍圭子氏が書き下ろした新作『祈り』も注目したい1曲だ。「『“アヴェ・マリア”そのものは作れないけれど、“アヴェ・マリア”に対する思いなら』、とこのアルバムのために作ってくださいました。安倍先生は自分がマリンバの道に進むきっかけを作ってくれた方。今回こういう形でご一緒できて本当に嬉しく思います」先日はテレビ番組で「ギター×バイオリン×DJ×マリンバ」という異色コラボレーションを披露。「“マレットを6本使って早弾き”というムチャ振りもあったりして大変でしたが(笑)、TVで観てCDを買ってくれたり、コンサートに来てくれたりする方もいらっしゃいます。こんな機会を与えて頂けたのもありがたいですね」とマリンバの魅力が広がっていくことが心底嬉しいと語る。現在は15周年を記念したツアーを全国で開催中。各地でプログラム編成を変えるなど、アニバーサリーらしく趣向をこらしている。また、スペシャルゲストに「藤原道山×SINSKE」でもお馴染みである尺八奏者の藤原道山を迎えることも話題だ。「安倍先生もそうですが、“こうなりたい”という方がいらっしゃって今の僕がある。道山さんは共演者でもあり友人でもありますが、僕にとっては永遠のスター。ライバルというより尊敬の気持ちが先にきてしまう。一緒に音を出せることが本当に喜びなんです」。そして今回のツアーの中では福岡シンフォニーホールが最大規模キャパとなる。「音楽家の間でも響きがいいと評判の高いホールですからね。本当は客席で、僕が弾いているマリンバの音を聴いてみたいんですけど(笑)。その思いはお客様に託します!ぜひ僕の代わりに楽しんで聴いてください」15周年記念ツアーは来年8月まで開催。福岡公演は、3月14日(木)・福岡シンフォニーホールにて。チケットは発売中。
2019年01月17日2月1日(金)に東京・サントリーホールで、“競演”するピアニスト・外山啓介とチェリスト・辻本玲。大学の同級生であり、今やクラシック音楽界に欠かせない存在となったふたりが同じステージに立つのは、2012年ザ・シンフォニーホール(大阪)公演以来となる。演奏曲は、ショパンのピアノ協奏曲第1番とエルガーのチェロ協奏曲。公演を前にして、演奏するふたりにコンサートへの想いを聞いた。【チケット情報はこちら】ロマン派を代表する協奏曲のひとつである《ショパン ピアノ協奏曲第1番》。「ショパンの若い時の作品だけど、技術的な部分や旋律の美しさなど、その後のショパンの作品の基となるものがすべて詰まっている曲」と外山は語る。しかし、ロマンティックなイメージだけでは、この曲を弾くことはできないという。「もちろんロマン派の時代なので、例えば21連符や27連符とか出てきて、割り切れない部分が多くて合わせるのは難しい。しかし忘れてはいけないのは、ショパンは古典というものをとても強く意識している作曲家だということ。きらびやかなイメージだけで〈自分で歌おう〉とするのではなく、そこにある音を素直に表現しなさい、と教えられたことがある。だから、生み出そうとするというより、〈曲の中に入り込んでいく〉という感覚を持って演奏したいと思う」意外にもこの曲を弾くのは久々で、自分でも演奏が楽しみとのことだ。昨年日本ショパン協会賞を受賞し、充実の時を迎えている外山が改めて弾く、至高のコンチェルトに期待したい。一方、《エルガー チェロ協奏曲》について、辻本は次のように語った。「ジャクリーヌ・デュ・プレの名演が有名なため、なんとなく女性が演奏するイメージが強いけれど、それだけではない。第3楽章などはとても男性的。エルガーは非常に愛妻家で、この曲を作ってから間もなく奥さんが亡くなってしまうけれど、すでにそれを予期していたかのような、過去と未来を見つめながら人生を辿っているようなイメージがある。情熱的な部分と抒情的な部分を併せ持つ素晴らしい曲なので、ぜひ聴きにきてほしい」辻本がこの曲でプロのオーケストラと共演するのは初。力強く、表情豊かに歌う辻本のチェロが、いかにこの劇的な名曲を描くのか。チェロ・ファン必聴の演奏になるに違いない。公演は2月1日(金)東京・サントリーホールにて。チケットは発売中。
2019年01月16日毎年秋に行なわれる「日本音楽コンクール」は、1932年からの長い歴史を持つ国内最高峰の音楽コンクール。「ピアノ」「ヴァイオリン」「声楽(歌曲)」「クラリネット」「トランペット」「作曲」の6部門で競った2018年度優勝者たちによる「第87回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」が、コンクール本選と同じ東京オペラシティコンサートホールで3月7日(木)に開催される。【チケット情報はこちら】クラリネット部門の優勝者・中舘壮志は、2016年第33回日本管打楽器コンクールでも第1位を獲得、2017年から新日本フィルハーモニー管弦楽団の副主席奏者を務める、次代を担う注目の若手奏者だ。2015年(クラリネット部門は3年に1度の実施)も本選まで進んだが(入選)、今回見事に最高の栄冠を得た。「3年前と比べて1番大きく変わったのは、オーケストラに入ったこと。たくさんの経験を積ませていただいているので、それがすべて音になったと思います。さまざまな作品に触れ、人前で吹く機会も圧倒的に増えたので、1音を出すことに対する意識が変わりました」自分の表現を聴き手にどう伝えるかを考える。そんな、演奏家に求められる本来の姿勢が評価された結果がコンクール優勝なのだろう。「コンクールって、どうしても人と比べられることを意識してしまいますが、意識したところでしょうがない。自分の音で自分のベストを出せるように勉強する作業にひたすら取り組みました。それはコンサートと同じですね」3月のコンサートでは、コンクール本選でも演奏したコープランドのクラリネット協奏曲を吹く。20世紀アメリカの作曲家アーロン・コープランドが、第二次大戦後まもなく、ジャズ・クラリネット奏者ベニー・グッドマンのために、ジャズの要素を取り入れて作曲した作品だ。「僕自身、初めて聴いたコープランドの作品がこのクラリネット協奏曲だったぐらいなので、もしかしたらあまり聴いたことがない方もいるかもしれませんが、温かい、人懐っこい感じのキャラクターの作曲家です。この作品では、曲の前半のゆったりした部分が、コープランドらしい音楽。そのあとアドリブっぽいカデンツァを挟んで、テンポの速くなる後半がジャジーな性格。クラシックとジャズ、ふたつのキャラクターの変化を楽しんでいただける音楽です」12月の取材だったので、「クラリネットを漢字1文字で表すと?」と年末ネタっぽい質問を投げたところ、さほど考える間もなく、「声」と答えてくれた。「自分の声です。クラリネットは、音色もふわっとした感じで歌声に似ていると思いますし、音楽表現するうえで自分の考えを伝えるという意味での“言葉”でもありますから」コンクール優勝で世代のトップランナーに躍り出た新鋭が、次のステップへの第一歩を、自分の「声」で高らかに宣言する。その瞬間を、ぜひ客席で共有しよう。取材・文:宮本明
2019年01月16日ロンドン中心部にあるウィグモア・ホールは、550席ほどの室内楽ホールながら、その舞台に立つことが一流の証と言われ、演奏家の登竜門的なステータスを誇る音楽の殿堂だ。昨年6月、そこでオール・ラフマニノフ・プログラムを弾いて絶賛を浴びたのが日本人チェリストの伊藤悠貴。3月29日(金)東京・紀尾井ホール、その再現となるラフマニノフ・リサイタルを開催する。【チケット情報はこちら】15歳からロンドンで暮らした伊藤にとって、ウィグモアはひときわ憧れの場所。ホールが認めたアーティスト以外は舞台に立つことすら適わないという格式高い名門でのチャンスに、満を持して選んだのが、「凝りに凝ったプログラミング」と自負するオール・ラフマニノフだった。少年の頃に本格的にチェリストを志すきっかけとなった作曲家であり、「ライフワーク」と公言する存在。ホールのスタッフから、「チェリストが弾くオール・ラフマニノフはこのホール初。君が新たな歴史を作ったんだ」と教えられ大感激したという。「ラフマニノフの作品には、自分自身を投影できる。その感覚は出会った頃からずっと変わることがない」と伊藤。ほぼ毎晩ラフマニノフを聴いて眠り、チェロ・ソナタはもう100回以上も弾いていると、作曲家愛をあらわにする彼にその魅力を訊ねると、まったく迷うことなく、「歌」だと言い切った。「ラフマニノフというとピアノ曲やオーケストラ曲のイメージが強いかもしれませんが、僕は歌の作曲家だと思っています。歌曲も多い。そしてチェロは歌ってなんぼの楽器です。歌わなければ意味がない。チェロで弾くのにふさわしい作曲家です」実際、ラフマニノフにはチェロのためのオリジナル作品はわずかしかないため、今回も歌曲の編曲版を多く弾くことになるのだが、「オーケストラ曲を聴いていてもラフマニノフがチェロ好きだったのは明らか。歌曲をチェロで弾くことにも、大いに意味があると思います」代表作であるピアノ協奏曲第2番に象徴される、ラフマニノフの甘く美しいロマンティックな作風を、「まるで映画音楽」と揶揄する向きもあるが、伊藤は、「そういう方々のために、今回のプログラムなんです!」と胸を張る。10代から20代前半で書いたごく初期の作品から、あまり聴かれていない中期から後期の作品までが並ぶ、クロノロジカルに作曲家の全貌を見渡す構成。「だんだん内容が深まってゆき、時代によって全然タイプの異なる曲を生んだラフマノニフの作風の変遷を、ぜひ聴いていただきたいと思います」ロンドンでは公演時間の事情で入れられなかった曲(歌曲〈夢〉作品38-5)も今回の日本公演では演奏する。これが当初意図した「完全版」なのだそう。共演ピアニストは若手のホープ藤田真央。「自分のイメージするラフマニノフにふさわしい音のクォリティを感じる」と信頼を語る。音楽の殿堂が認めた「世界基準」のチェロが歌うラフマニノフへの愛。けっして派手ではないかもしれないけれども、こういうキラリと光る大切な音楽会を聴き逃してはいけない。取材・文:宮本明
2019年01月11日「リストは自分にとって特別な作曲家。音楽人生の重要な軸です」多彩なレパートリーで旺盛にコンサート活動を繰り広げるピアニスト阪田知樹が、「リストへの誘い」と題した、オール・リスト・リサイタルを開く(2019年2月11日(月)・横浜みなとみらいホール)。【チケット情報はこちら】2016年、作曲家の祖国であるハンガリーのブダペストで開催されている「フランツ・リスト国際ピアノ・コンクール」を、アジア人男性として初制覇した阪田のライフワークだ。「リストというと、どうしても一部の有名曲や、超絶技巧というイメージにスポットが当たってしまいがちです。でも、彼は約75年の長い生涯の間に、大きく作風を変えていった作曲家。そのさまざまな面をお聴きかせできるプログラム。リストの魅力を知っていただくためのきっかけになるコンサートです」プログラムは3部構成。《ラ・カンパネッラ》《ハンガリー狂詩曲第2番》《ピアノ・ソナタ ロ短調》といった人気曲を組み込みながら、リストの多面性を聴かせてくれる。2種類の《ラ・カンパネッラ》が聴けるのは面白い趣向。実はリストは同じ《ラ・カンパネッラ》の素材を使って4種類の曲を作曲しており、今回は、1番よく弾かれる『パガニーニによる大練習曲』第3曲と、27歳の初期作品『パガニーニによる超絶技巧練習曲』第3曲のふたつの版を聴き比べることができる。後者は、弾きこなせるピアニストが数えるほどしかいないという超難曲だ。「若き日のリストがいかにとてつもない難曲を書いたか。技巧をクリアした先に見える風景があります。それを無理なくこなせる人が技巧を追求してこそ初めて、本質が聴こえてくる。そういう演奏をお届けするのが私の理想です」有名な《ハンガリー狂詩曲第2番》の、任意に挿入が指定されているカデンツァ(即興的な自由な独奏部分)を自身のオリジナルで弾くのは、作曲家でもある阪田ならでは。「200年の時を超えて、リストと音楽で対話できるのが楽しみ」と語る。会場のみなとみらいホールのある横浜は、阪田の生まれ育った街でもある。「リストは音数も多いので、空間の大きさでかなり印象が違います。みなとみらいホールは響きが良いので、すごく楽しみです」阪田の音楽の懐の深さを示してくれそうなのが、先輩ピアニスト中野翔太と、ジャズ・ピアニストの松永貴志との共演で贈る「ピアノ・トリオ・スペクタクル」(3月8日(金)・東京オペラシティ)。「中野さんと松永さんは何度も共演しているから、僕は新参者(笑)。ビル・エヴァンスやアート・テイタム、キース・ジャレット。ジャズはよく聴くので、どんなことになるのか、自分でも楽しみにしています」プログラム後半は、なんと3人が3台のピアノでガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》を、即興的なセッションで弾き切る「お楽しみヴァージョン」。2月のリストとはまったく違う世界だが、阪田の魅力を間違いなく味わえるはず。聴き逃せない貴重な機会!取材・文:宮本明
2018年12月07日恒例のリサイタル・ツアーを昨年、「名曲の花束」として衣替えしたピアニスト及川浩治。その2年目が、来年2月23日(土)サントリーホールの東京公演で大詰めを迎える。「動画配信サイトでなんでも見れちゃう時代。特に若い層のクラシック離れは深刻です。だからこそ、ちっちゃい頃から大好きだった名曲の数々を、ぜひ生のコンサートで聴いてほしい。自分自身がクラシックへの憧れや愛情を忘れないためにも。広く愛されている名曲はやはり完成度が高いと思います」【チケット情報はこちら】《愛のあいさつ》《ラ・カンパネラ》《トルコ行進曲》《別れの曲》《愛の夢第3番》……。誰もが1度は聴いたことのある名曲ばかりを並べるのは勇気がいるはずだ。ハードルが高くなるし、実力派ピアニストとして、もっと手垢にまみれていない作品で勝負したいという気持ちもあるだろう。「でも、これがいま自分のやりたいことなんです。若い頃は、自分の世界で、弾きたい曲だけを弾いて、それが嫌な人は聴きに来なくてもいいと思ってました。B型なんで(笑)。でもね、お客さんがいなかったら練習と変わらない。客席の雰囲気も含めてコンサート。ぜひ私と一緒にしんみりしたり、感動したりしながら楽しんでください」とはいえ、プログラムにはさまざまな仕掛けも。バッハのオルガン・コラール《目覚めよと呼ぶ声あり》から上記のような曲へ。オルガンやヴァイオリン曲、歌曲や管弦楽曲が原曲の作品が並ぶのは、19世紀に「リサイタル」という形を創始したリストに倣っての、ガラ・コンサート的なラインナップだ。そして、小品ばかりではなく、ベートーヴェン《月光》やストラヴィンスキー《ペトルーシュカからの3楽章》など、骨太の作品も。「《ペトルーシュカ》は久しぶり。若い頃よく弾いていたので、ずっと入れたかったんですけど、難しい作品だと受け取られたくなくて避けていました。でもこのプログラムに放り込んでみたら、スタッフからも異論なく賛成してもらえた。たとえばもしロシア・プログラムとして組んだら、きっともっと難しい印象でしたよね。見せ方が大事なんです」派手な演奏パフォーマンスも彼の人気の要因のひとつだ。「見られる」ことは意識しているのだろうか。「まったく意識してません。なんでだろう。音楽に没入している時に自然に出るんだと思います。指のコントロールを考えながら弾いている練習の時は動きませんから。子供の頃から、レコードを聴きながら歌ったり指揮したりしていたのがそのまま出てるんじゃないですかね。もしパフォーマンスに見えるとしても、それが自分のスタイルなので、音楽のためにも、無駄ではないと思います」自然体の真っ向勝負で聴かせる珠玉の名曲の数々。演奏の合間にはトークも交える。その場で感じたことを正直に話すことで自身もリラックスして弾けるのだという。「長く喋りすぎたらごめんなさい」と笑う。いえいえ。このコンサートには、きっとそれも似合う!公演は2019年2月23日(土)サントリーホール 大ホールにて。チケット発売中。取材・文:宮本明
2018年12月04日音楽が飛沫になって弾けるようなモーツァルトと、音が思惟の深みに沈潜してゆくようなイザイ。スペシャルなプログラムでデビュー20周年記念リサイタルを開くのは、オランダと日本を拠点に活動するヴァイオリンの米元響子(2019年3月2日(土) 東京・浜離宮朝日ホール)。【チケット情報はこちら】イタリアのパガニーニ国際コンクールで史上最年少入賞を果たした翌年、1997年秋の初リサイタルも同じホールだった。「同時にいくつもの曲を披露するのは初めてでした。当時の私にとっては、2時間という、とてつもなく長い時間を担う緊張感。体力的にも難しかったのを憶えています」それから20年余。対照的なふたりの作曲家を並べたプログラムが興味深い。モーツァルトは、ヴァイオリン・ソナタ第32番ヘ長調K.376、第40番変ロ長調K.454、第42番イ長調K.526。かたやイザイは、〈ポエム・エレジアック(悲劇的詩曲)〉と無伴奏ヴァイオリン・ソナタの第4番と第6番を弾く。「小さな頃から大好きな作曲家ですが、年齢を重ねるごとにいろんな意味を見つけ出して、小細工だったり余計なものを付け過ぎてしまい、逆に作曲家から遠ざかってしまうのかなと思ったり…。子供の頃の方が何気なく弾けてしまったのかもしれません。難しく考えることを1度オフにして、天真爛漫に、シンプルに弾きたいです」頼もしい共演者に、モーツァルトをライフワークとするスペシャリスト菊池洋子を得た。「3年前に初めて共演して、スケールの大きい音楽づくりに感激しました。演奏する度にいろんなインスピレーションを与えてくれます」と信頼を寄せる。一方のイザイを初めて弾いたのは、ちょうどデビュー翌年のこと。しかしまだ少女の彼女には「すぐには理解できない作曲家だった」という。「でも、それがすぐに知りたい気持ちに変わりました。決定的だったのは去年。イザイの生地リエージュ(ベルギー)の音楽院の図書館で、無伴奏ソナタの手稿譜を見せていただいたのです。鉛筆で、ボウイングや指づかいも几帳面にきれいに書かれた楽譜。書き直した跡などを見て、作曲家の本来の意図を考える楽しい経験でした。複数の直筆の浄書譜が残されているのですが、最近発見されたブリュッセルの図書館に置いてあるものや出版譜とも見比べて、最終的に私なりにイザイの意思を尊重したヴァージョンで演奏します」けっして大げさなものではないというが、いわば「響子版」だ。それを用いて、イザイの無伴奏ソナタ全6曲を収めたアルバムも制作中(発売:キングインターナショナル)。最近話題の新発見のソナタも収録されるというから、こちらも大きな注目を集めそうな、これが彼女の初CDとなる。「石橋を叩いても渡らないような慎重な性格だったので。これからは、いろんなことにチャレンジしたい」今年、サントリー芸術財団より貸与されたストラディヴァリウスを手に、新たな1歩を踏み出した。20年の蓄積はもちろん、彼女の変化を感じるリサイタルになりそうだ。取材・文:宮本明
2018年12月03日ロシア生まれのバリトン歌手ヴィタリ・ユシュマノフが、毎年大好評のいずみホール『クリスマス・オルガンコンサート』に出演する。今年は12月23日(日・祝)に開催。「クリスマス・オルガンコンサート」チケット情報ヴィタリにとってのクリスマスの思い出といえば、初めてドイツのライプツィヒを訪れたときのこと。「ドイツへ留学したとき、街中にクリスマスの飾りつけがされていて、とても綺麗で可愛らしい感じでした。卒業後に行くと、4月で飾りつけがなかったので、『同じ町かな』と道が分からなくなってしまいました」と振り返る。ライプツィヒでは、バッハゆかりの聖トーマス教会のオルガンの音色に魅せられた。同教会で行うオルガニストの練習をよく聴きに行ったという。「体の中まで響いてくる音色で、本当に特別な場所にいると感じられました。教会の中には、バッハのお墓があるので、彼は自分の曲を聞いていたかも。なので間違えたらダメ」とほほ笑む。本公演では、その憧れのオルガンと初めての共演となる。「オルガンの響きに、自分の声を乗せて歌うことは、とても素敵。ひとつの楽器で、いろんな音を同時に出せる楽器なので、オーケストラの伴奏で歌う感じになる」と語る。プログラムは、ヴィタリが一番好きなクリスマスの曲を選んだ。「『主の祈り』は、お客様には失礼かもしれないけれど、祈りの曲なので神様に向かって歌わないといけません。『ホワイト・クリスマス』は、ハリウッドのクリスマス映画を想像できるようなおしゃれな曲なので、その雰囲気に合わせて歌いたい。『オー・ホーリー・ナイト』は、重厚な感じで。『神の御子は今宵しも』は、ラテン語で歌うので、伝統や歴史を感じられると思う」ヴィタリの多彩な表現力は、豊かな感性にある。その国の言葉が持つ美しさを尊重し、歌に秘められた文化までを引き出すのだ。それは、日本歌曲にも当てはまる。2008年にマリインスキー劇場の一員として来日して以来、日本に魅了され、日本歌曲も歌っている。「美空ひばりさんが歌っていた『荒城の月』『出船』など、日本に素晴らしいクラシック歌曲があることを知りました。日本語の美しさも」。奈良の春日大社の森に入ると、太古の空気が流れているように感じるという。思わず日本人の面影を感じさせるヴィタリ。そもそもロシア人と日本人には共通点があると言い切る。「どちらの国も、たいてい悲しい曲が多いですね。悲しさとか苦しさを人前に出さないで、自分の中で苦しんでいる、ひとりでお酒を飲みながら…。『悲しい酒』のように」と美空ひばりの歌を口ずさんだ。この深い洞察力で、本公演では、ライプツィヒで出会った美しい景色を描くような、ヴィタリならではのクリスマスの音楽を届けてくれるだろう。「今回のプログラムは、素晴らしい曲ばかり。オルガンの伴奏でクリスマスソングを歌うのは珍しくて、この公演でないと聴くチャンスがないと思う。是非、たくさんの皆さまに聴いていただきたいです」チケットは発売中。取材・文:金子真由
2018年11月16日ソロはもちろん、世界的ミュージシャンとの競演やビッグバンド形式のライブなど幅広く活躍中。ピアニスト・小曽根真が、クラシックやジャズへの想いを語ってくれた。【チケット情報はこちら】クラシックとの出会いは5歳で始めたピアノレッスン。それまでもジャズ音楽家だった父の影響で、家にあるハモンドオルガンには自由に触れていたが、「バイエルが苦手で、クラシックは嫌いになってしまった(笑)」。その後、12歳でジャズピアノを始めてからもクラシックとは遠ざかったまま。再びクラシックと関わり始めたのは1983年のデビュー直前。「作曲の参考に慌ててクラシックを聴き始めたんですけど、その時はまだ自分が演奏するつもりはなくて。2003年に札幌交響楽団の定期演奏会に呼ばれた時が初めてのクラシックコンサートでした。予想外にモーツァルトをと言われて驚いて(笑)。“俺、弾けないよ。キャンセルできない?”なんて話した記憶が(笑)。それで猛勉強して、コンチェルトの9番を弾いて。すごく緊張したんですけど、それ以降いろんな演奏会に呼んでいただけるようになったんです。今では年間の4分の1くらいがクラシックコンサート。弾く音が決まっている分、そのもっと深いところで自分を表現していくことができる楽しさがようやくわかってきた感じかな。音楽の本質を改めて教えて貰ってる感じで、この10数年、すっかりクラシックにはまっています」今回のコンサートでは、世界的トロンボーン奏者・中川英二郎をゲストに迎える。「彼はアンドロイドというあだ名がつくくらい(笑)超絶技巧で吹くんです。ふたりでバッハにも挑戦してみようかと。バッハの音楽って、あまりにも幾何学的で完璧で、どの1音をずらしても辻褄が合わなくなるからと、これまであえて取り上げなかったんです。でも今回は、バッハにお伺いをたてつつ(笑)、どこまでアレンジできるか、あるいは変えずにいくのか…、ふたりで考えながらワクワクしています」コンサート後半はジャズの即興をメインにふたりのオリジナル楽曲が中心となる。「ジャズはアドリブの会話のようなもの。同じ曲でも毎回違うアプローチになります。ただ、慣れてしまってアドリブが“段取り”になってしまうと面白くない。聴く人をハッピーにすることが僕らの喜びだけど、そのためには僕ら自身が楽しんでいないと。ずっと同じことをやっていてもダメ。勉強して練習して新しいことに挑戦して。そんな“怖いところへいく”気持ちで自分自身を刺激し続けることがやっぱり楽しいんですよね。そのエネルギーが必ずお客様へ伝わると思います。福岡シンフォニーホールは世界の中でもかなり好きなホールのひとつ。音の広がりを実感できますし、本当に自分でも楽しみ。コンサートは2時間の運命共同体。ぜひお客様も僕らと一緒に楽しんでいただければ嬉しいですね」11月29日(木)福岡シンフォニーホールにて開催。チケットは発売中。
2018年11月13日日本フィルハーモニー交響楽団の11月23日(金・祝)の東京・オーチャードホールでの特別演奏会《ロシアン・セレブレーション》と、11月24日(土)の神奈川・横浜みなとみらいホール大ホールで行われる横浜定期演奏会にソリストとして参加し、チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調』を演奏する小林美樹。既に日本フィルとは2017年の九州ツアー(指揮・広上淳一氏)で共演済みだが、桂冠指揮者アレクサンドル・ラザレフ氏との顔合わせは今回が初となる。若手演奏家の中でも躍進めざましい彼女に、2日連続演奏会の抱負をたずねた。【チケット情報はこちら】「今年になってからチャイコフスキーを演奏する機会が続いたので、9月にサンクトペテルブルクとモスクワを旅行したんです。日本ではまだ残暑の季節だったのに、ロシアは4度しかなくて…サンクトペテルブルクではチャイコフスキーのお墓参りもしました。初めて訪れる国で、行く先々で“日本とは全然違う!”と驚きを経験しました」チャイコフスキーのコンチェルトは過去にも4回演奏しているが、毎回違ったアプローチになると語る。「本番では興奮してしまうのか、リハでやらなかったことも色々加えてしまうのですが、日本フィルさんは必ず合わせてくださるから安心なんですよ。チャイコフスキーのコンチェルトは、色々ヴァイオリン協奏曲の名作がある中で、華やかさとスケール感で抜きんでていると思います。テクニック的な難易度よりも、息の長さに圧倒される曲ですね。ロシアの第一印象は、冬が長い国だということ。冬の寒さに耐え忍んで春を待つ感じと、息が長くて息継ぎが出来ない苦しさをオーバーラップさせながら、曲のイメージを膨らませているんです」ソロリサイタルや室内楽、コンチェルトの他、オーケストラの中で弾く経験も大切にしているという彼女。「宮崎国際音楽祭では、チャイコフスキーの交響曲の4番と5番と6番に乗りました。オケの中で弾いていると、あれだけヴァイオリン奏者がいる中で、ソリストには全く別の役割があるのだなと実感します。重要なのは音量より音の質感ですね。丸みのある音だとソロとして響かないことがあり、主役として際立たせる音が必要なのですね」2日間の演奏会は、すべてノーカット版で演奏する。ラザレフとのリハーサルは「怖そうだけど楽しみ」と無邪気な表情。ロシアを祝福するこのプログラムの後半では、プロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』(ラザレフ版)がプログラミングされているが、これは7年前の震災の当日と翌日に、ラブレフと日本フィルが非常事態の中、コンサートで演奏した特別な曲。感動もひとしおになるはずだ。両公演のチケットは発売中。取材・文:小田島久恵
2018年11月08日クラシックの第一線の演奏家、作曲家、教育者、映画女優と幅広く活躍するヴァイオリニストの川井郁子。9月9日(日)に東京・紀尾井ホールで行う公演は「シネマ・ファンタジー・コンサート」と題し、秋の午後にふさわしいロマンティックなひとときをお贈りする。【チケット情報はコチラ】川井によると、映画やミュージカルの音楽は、クラシックと異なる魅力があるという。「作品の風景やストーリーが聴き手のイメージと直接結びつくので、創造力豊かに楽しめると思います。私たち弾き手もメロディから喚起される想いのままに弾いたり、好きな映画の音楽だとシーンが自然に脳裏に浮かんだりと、幸せな時間が沢山ありますね」予定演目は、『ある愛の詩』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『スターウォーズ』、『シンドラーのリスト』など、バラエティに富んだ名曲だ。「幅広い時代やジャンルから選んだので、“映画の旅”のように聴いていただけたら嬉しいです。『サウンド・オブ~』は子供の頃から大好きでしたが、最近も小学生の娘とよく鑑賞しています。『シンドラー~』は、巨匠イツァーク・パールマンが昨年の来日公演で弾いていましたが、包容力のある美音と、さりげない歌い回しで聴き手の心にスッと入ってこれる表現力に感激し、自分も弾いてみたいと思うようになりました。『ある~』や『スター~』は、今回初めて人前で弾くので、アレンジも含めてお楽しみに」今回の公演は、川井を含めたヴァイオリン3、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノ、ハープの計8人が出演。ヴァイオリン&ピアノのデュオから全員のアンサンブルまで、演目に応じた多彩な編成でお届けする。「皆さん以前に共演したことがある、柔軟で才能あふれる若手です。ピアノの山中惇史さんは伴奏経験が豊富で、器用で華やかな演奏が魅力。コントラバスの髙杉健人さんは実に積極的で、果敢なリズムで合わせてくれます。他にも、ヴァイオリンのマヤ・フレーザーさんはカナダ国際コンクールで第2位入賞、同じくヴァイオリンの大倉礼加さんは小澤征爾音楽塾でコンサートミストレスを務めた経験の持ち主など、錚々たる名手が集まってくれました」そしてハープを担当するのが、本場パリで研鑽を積んだ若き才媛・津野田圭。アンサンブルにハープが加わる魅力や聴きどころを尋ねると、次の答えが。「美しい音色で刻んだり、グリッサンドで効果的な場面転換を演出したりと、音色のパレットを何倍にも広げてくれます。そして何よりも魅力なのが、神秘的な音色。6人の弦に、ピアノ、そしてハープが加わった今回の八重奏で、オーケストラにも負けない深みと広がりのある演奏をご期待ください」公演のチケットは発売中。取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)
2018年08月13日今年も恒例の全国リサイタル・ツアーに挑戦中のピアニスト外山啓介。9月1日(土)には東京オペラシティでの東京公演を控える。昨年デビュー10周年を終え、次の10年へ向けての新たな1歩を踏み出した今年。〈月の光〉で有名なドビュッシーの《ベルガマスク組曲》とシューマンの《謝肉祭》を軸に、「音が紡ぎ出す情景」をテーマにしたプログラムを組んだ。「まず《謝肉祭》を弾きたい!一方で《ベルガマスク組曲》を全曲弾いてみたい!というところから選曲を始めました」【チケット情報はコチラ】実は芸大に入って最初のレッスンに持っていったのが、《ベルガマスク組曲》の中の〈メヌエット〉だった。「幼い頃からCDを聴くのが好きで、ジャック・ルヴィエだとかウェルナー・ハースだとか、ドビュッシーをすごく聴いていた時期があったんです。独特のしゃれた和声の中に少し毒がある。子供心に、そんなところに魅力を感じていたのだと思います。今年はドビュッシー没後100年。これまであまりまとめて取り上げたことがなかったのですが、どんどん弾いていきたいです」そして、シューマンが《謝肉祭》に添えた「4つの音符による面白い情景」という副題から、「情景」というキーワードが浮かんだ。それに導かれたのが、ドビュッシーと「月の光」つながりになる、ベートーヴェンのソナタ《月光》だ。ベートーヴェンは「今後、長い時間をかけて勉強して、あらためて取り組んでいきたい」という。そしてメインとなる《謝肉祭》は、まさにさまざまな「情景」の連なりだ。「実は最近まで、自分がシューマンを弾くイメージがありませんでした。あの独特のとりとめのなさ。ある意味直観的な音楽の表情の移り変わりに根拠がないように感じて、ついていけないと思っていたんです。ところがなぜかある時期からすごく弾きたくなってきた。《謝肉祭》も、1曲ごとに題名がついているように、キャラクターの移り変わりがとても面白い作品です。でもたぶんそこに自分が入り込み過ぎてしまってはダメ。個々のキャラクターを自分の中で整理しておかなければなりません。とりとめないように聴こえるからこそ、緻密な計算が必要なのです。ただ好きなように弾いて終わってしまう危険があるのが怖いところで、シューマン、面白いけれど難しい作曲家です」つまり、子供の頃から弾きたかったドビュッシーと最近目覚めたシューマンを中心に、11年目の新しい外山啓介が聴ける充実のプログラムなのだ。「内容がたっぷりなので弾くのは大変(笑)。頑張ります。新しい出発の年ということで、東京のリサイタルも、10年続けたサントリーホールではなく、東京オペラシティにしました。デビューのきっかけになった日本音楽コンクール(2004年優勝)の会場ですが、リサイタルで弾くのは初めて。少し流れを変えて、新しいステップアップのためのいろいろな可能性を探ってみたいと思っています」公演は9月1日(土)東京・東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルにて。チケット発売中。取材・文:宮本明
2018年07月24日