昨今、重要文化財への「液体染み」事件が相次いでいます。おもなところでは、沖縄県那覇市の重要文化財、「旧崇元寺」、東京都渋谷区の明治神宮の第2鳥居、東京都港区の増上寺などで、油のようなものがかけられたと跡と思われる染みが発見されました。日本にとって重要な建造物を汚すということは、日本の歴史に泥を塗る行為と同じこと。許しがたい犯罪であるだけに早期逮捕が望まれますが、現在のところ犯人は特定されておらず、捜査は難航しているようです。ところで、仮にこの犯人が捕まった場合、どのような罪に問われるかご存じでしょうか?Q.重要文化財や建物を汚した場合、どのような罪に問われる?*画像はイメージです:建物は器物損壊罪、重要文化財は文化財保護法違反に問われます。建物を汚した場合は、刑法261条の器物損壊罪となります。他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。(刑法261条)「損壊」と聞くと、油を撒いて汚す程度では該当しないようにも思えますが、器物損壊における「損壊」とは、物の本来的な効用を害する行為を指しますので、建造物に容易にとれない油染みを生じさせた行為も器物損壊に該当します。また、旧崇元寺のように重要文化財を怪我した場合は罪が重くなります。文化財保護法違反となり、5年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。ご覧の通り、決して軽い罪ではありません。文化財はもちろん、公共物や私有物などに「落書きくらい良いや」などと考え、実行するのは絶対にやめてください。処罰されるということのみならず、先人たちが培ってきた歴史をも否定するような行為は、あまりに悲しいものです。そして、一連の「油染み」犯人が早期に逮捕されることを願いたいものです。 *記事監修弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*kuro / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月19日crack7 / PIXTA(ピクスタ)高速道路を走行中、「ビシッ!」と音がしてフロントガラスに穴が開いたり、ヒビが入る“飛び石”。放置するとヒビがどんどん伸びていき、いつ粉々になるかとヒヤヒヤします。結局は、任意保険を適応してフロントガラスを交換となるのですが、3~5万円程度を自分が払い、残りを保険で賄うケースで等級を下げずに済むようです。とはいえ、この出費は痛い!飛び石被害は避けようがなく、せいぜいがトラックの真後ろをできるだけ走らないようにするくらいしか手がありません。なんとも悔しい話ですが、この飛び石事故、石を飛ばした側に責任はないのでしょうか?弁護士法人プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士にお聞きすると……「飛び石事故は、罪で言えば器物破損罪が考えられますが、器物破損罪は故意犯であることが前提です。飛び石のような予想外の過失による場合は不可罰になります」(梅澤弁護士)飛び石で後ろの車を傷つけようと思って走っている車はそうそういないですよね……。それに荷台からでなく、路面の石を弾いて飛ばしてしまう場合もあり、飛び石事故は、ほとんど運みたいなものです。 ■ドライブレコーダーで経緯とナンバーを記録していたら?しかし、最近の車ではドライブレコーダーを搭載して動画記録している場合も多いでしょう。もし、石が前を走るトラックの荷台から飛んできてビシっと自分の車を直撃、さらにトラックのナンバーも分かったとしたらどうでしょうか?記録をつきつけて、相手の保険、もしくは自費で交換させてやりたい!「相手の責任を問うのは難しいと思います。飛び石は自動車の走行によって、不可抗力的に生じるものですし、ドライバーは荷台や路面の小石のすべてを把握していませんので、相手の過失を認定するのは困難です」(梅澤弁護士)そもそも保険会社に申し立てようと思ったら、その場でトラックも止めて警察を呼ばないと行けません。もし望めるとしたら、相手のドライバーがすごくいい人で「そりゃ悪かったなあ、兄ちゃん、まあこれで許してくれや」といくらか渡してくれ、その場で示談というパターンがあればラッキー、というところでしょうか。梅澤先生によれば、飛び石事故で訴えを起こすことは可能だそうですが、過失認定が難しく現実的ではないそうです。たとえ記録されていても前述のとおり、器物損壊罪に問えないでしょうし、警察を呼んで事故検証してもらったところで、あまり意味は無いそうです。 ■トラック荷台の積載物が飛んできたら話は別!では、とんできたのが飛び石でなく、トラックの荷台に積んであったパイプや、クズ鉄、その他なんだかよくわからないが固くてデカイものだった場合は?その様子はドライブレコーダーでしっかり記録していたとします。フロントガラスどころか、車体や自分の身体にもダメージを負いかねない、危険なケースです。「事故が不可抗力的なものではなく、荷台の管理に不備があって(固定が万全でない、過搭載など)落下物が生じた場合であれば罪に問えるでしょう。荷台管理に不備がある場合、不可抗力を主張することが難しいので、相手の過失は認定しやすいと言えます」(梅澤弁護士)とはいえ、飛び石を超える荷物の落下事故は、最悪、自分も大怪我をしかねません。危ないトラックがいたら、さっさと抜いて先に出るのがいちばんかもしれません。 *取材協力弁護士:梅澤康二(弁護士法人プラム綜合法律事務所。東京都出身。2008年に弁護士登録。労働事件、労使トラブル、組合対応、規定作成・整備などのほか各種セミナー、労務問題のリスク分析と検討など労務全般に対応。紛争等の対応では、訴訟・労働審判・民事調停などの法的手続きおよびクレーム、協議、交渉などの非法的手続きも手がける。M&A取引、各種契約書の作成・レビュー、企業法務全般の相談など幅広く活躍。)*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)【画像】イメージです*crack7 / PIXTA(ピクスタ)
2017年03月31日皆さんはBPO(放送倫理・番組向上機構)という機関をご存知でしょうか。BPOとは、放送における言論や表現の自由を確保しつつも、視聴者の基本的な人権を確保するために苦情や倫理の問題に対応する機関です。実際にテレビやラジオなどを視聴した方から意見が寄せられ、放送局が特定できれば、当該放送局に視聴者の意見として通知しています。今回はその中で、視聴者の意見をピックアップして法的に問題が無いか解説してみたいと思います。*画像はイメージです:■ニュース番組で犯罪の再現実験を行っていたBPOに視視聴者から寄せられた意見の中に、ニュース番組で窓ガラスを破壊する事件があったが、同じ道具を使って再現実験を行って放映をしていたようです。元の意見の原文は下記のとおりです。日曜のニュース番組で、高校生が高性能ゴムパチンコを使い、バスに向かって玉を放ち、窓ガラスを壊した事件を伝えていた。その際、わざわざ同じ道具を使ってベニア板に穴をあける再現実験を行い「危険ですから真似をしないように」と注意していた。このような危険性のある再現実験は果たして必要であろうか。道具をどのように持ち、どのように玉を飛ばすのかを知らしめるだけの実験である。危険性のある道具の使い方を紹介する必要はない。(BPO 放送倫理・番組向上機構 2016年12月の意見を引用) ■実際に犯罪に当たるのか?たしかに、上記の意見には一理あります。だからといって、危険性のある道具の使い方を紹介すること自体が何らかの犯罪を構成するものではありません。また、この番組を見た人が、同じような道具を使い、器物損壊などの犯罪を犯した場合、その犯罪の幇助犯となることもありません。幇助犯とは、実行犯の犯行を具体的に援助した場合に成立するもので、抽象的に援助したとしても、成立するものではありません。例えば、犯罪に使うと知りながら道具を用意するとか、逃亡ルートを教えるなどの行為が幇助犯となりますが、パチンコを売っている店が実行犯と知らずに売ったような場合には、幇助犯とはなりません。法律的には違法ではないとしても、放送倫理上問題となることはありえます。ただ、倫理というのは非常に微妙なもので、あまり厳しく要求すると放送機関が萎縮することになりますので、そのさじ加減が難しいところです。放送機関が萎縮すると、つまらない番組ばかりになり、国民の知る権利が侵されることになってしまいます。今後の推移を見守りたいと思います。 *著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)【画像】イメージです*Hemul / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月25日日本で飼われている犬・猫の数は合わせて約2,000万頭だと言われています。他のペットも含めると3世帯に1世帯がペットを飼っているという調査結果もあり、日本ではペットを飼うことがかなり一般的であることが分かります。そんなペット対して、家族同然のように愛情を注いでいるという人も少なくないでしょう。しかし、日本の社会ではペットは家族として認められていません。ペットは法律上“物”という扱いになっているからです。たとえ飼い犬をひき殺されても問える罪は『器物損壊罪 』です。ペットが家族として認められていないのは法律だけでなく、実際の生活においても同様です。たとえば、身内が亡くなったら会社を休むのは“当然”ですが、ペットが死んで会社を休むのは“当然”ではありません。「ペットが死んだくらいで休むなよ」という意見の人も大勢います。家族同然のペットが死んだとき、あなたはそんな社会の辛らつな態度に直面することでしょう。しかし、それでも「ペットは家族だ」と休む人たちもいます。そこで今回は、パピマミ読者の皆さんに「ペットが死んだら会社を休みますか?」という質問を投げかけてみました!●ペットが死んだら会社を休みますか?・1位:体調不良などの別の理由を告げて休む……44%(66人)・2位:ペットが死んだぐらいでは休まない……19%(29人)・同率3位:正直に理由を告げて休む……13%(20人)・同率3位:有給が残っているなら休む……13%(20人)・5位:無理してでも出社する……10%(15人)※有効回答者数:150人/集計期間:2017年2月14日〜2017年2月15日(パピマミ調べ)●「休む」と回答した人は半数超え『正直に理由は告げませんが、別の適当な理由をつけて休みます。だってうちの猫が死んでも何食わぬ顔で出社するなんて絶対無理です!せめて一日ぐらいは悲しむ時間をもらいたいです』(35歳女性/猫を飼っている)『うちは社長自身が動物好きなので、正直に伝えて休むと思います。というか、ペットが死んだのに普通に出勤する人って血が通ってないと思う。そういう人とは一緒に仕事したくない』(37歳女性/犬・猫を飼っている)ペットが死んだら会社を休むという人は半数を超える結果となりました 。「有給が残っているなら」という条件付きも含めると7割に達します。その中でも最も多かったのが、『体調不良などの別の理由を告げて休む』というもの。この結果からは、やはり日本では“ペットの死を理由に会社を休む”という行為が一般的でないことが分かりますね。「正直に伝えたら休ませてもらえなさそう」「陰で悪口を言われそう」などといった意識があるのではないでしょうか。ペットの死を弔うためにわざわざ“嘘をつく”必要がある現状 は、少し悲しいような気もしますね。ただ、会社によっては理解してもらえるところもあるようで、そういう場所で働いている人たちは正直に理由を告げて休むようです。『有給が残っているなら休む』という人も1割程度いました。ペットの死を理由に会社を休むのは申し訳ないが、有給が余っているなら利用するという人たちですね。あるいは有給でない限り会社が休ませてくれないという事情を抱える人もいるでしょう。7割の人たちがペットの死を理由に会社を休む(休みたいと思っている)という事実は、日本ではそれだけ“ペット=家族”と認識している人が多いということでもあるのではないでしょうか。●「休まない」人は3割『うちは猫を飼っているけど、たぶん死んでも普通に出社すると思う。亡骸の処理は妻がやってくれるはずだし、ペットが死んだので休みますって言ったら笑い者になっちゃうよ』(43歳男性/猫・鳥を飼っている)『本当は仕事なんかできないぐらい悲しんでると思うけど、自分が抜けたら周囲に迷惑がかかるから無理してでも出社すると思います』(33歳女性/犬を飼っている)ペットが死んでも会社を休まないという人は、3割程度いることが分かりました。そのうち2割は『ペットが死んだぐらいでは休まない』と答えており、ペットよりも仕事に価値を置いていることがうかがえます。一方では『無理してでも出社する』と答えた人も1割いて、こちらは「ペットの死は悲しく休みたいが、会社の都合で休めないから出社する」という人が多いようです。また、「たとえ休みをとっても悲しみが増すだけだから、無理にでも仕事をして気を紛らせる 」という意見もありました。----------今回の調査では、「ペットが死んだら会社を休む」という人の割合が多数を占める形となりました。しかし、正直に理由を告げずに休むという人が割合としては最も多く、社会ではまだまだ非常識とされている行為だということも推察できます。あなたは自分のペットが死んでしまったとき、そのような対応を取りますか?【参考リンク】・【アンケート結果(1位〜5位)】ペットが死んだら会社を休みますか?()●文/パピマミ編集部●モデル/藤本順子(風悟くん)、ココア
2017年02月16日今月11日、郵便物222通を配達しないで海に投げ捨てた容疑で広島県警は30歳のアルバイトの男性を逮捕するというニュースがありました。男性は勤務時間内に配達が出来なかったと供述しているようですが、郵便物を海に投げ捨てるといった行為はどのような罪に問われるのでしょうか。また、本件では、222通の郵便物を1つの袋にまとめていたため、日本郵便は無事に全て回収したようですが、回収できなかった場合はどうなるのかといった点について、解説していきたいと思います。 *画像はイメージです:■海に郵便物を捨てたことによる違法性は?郵便法によれば、郵便配達員が、わざと配達しなかったり、遅延させた場合は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法79条)。海に投げ捨てた郵便物が、壊れたり、なくなった時は、さらに刑法261条の器物損壊罪となり、3年以下の懲役に処せられる可能性があります。本件では無事に回収され、再配達されているようなので、郵便法違反の罪だけになると思います。 ■郵便物を回収できなかった場合は損害額をどう算出するのかまず、下記の郵便物は、損害賠償の対象となりません。簡単に言えば、普通の郵便物は、郵便事故があって損害が発生しても泣き寝入りするしかないと言うことです。 1)郵便物(手紙)で書留または代金引換としないもの2)郵便物(はがき)で書留としないもの3)レターパック4)ゆうメールで書留または代金引換としないもの5)ゆうパケット 大切なものを郵送するときは必ず書留郵便にしましょう。書留郵便にした場合、差し出す時に申し出た金額が最高額となります。例えば、10万円を現金書留にした場合、それが紛失すれば10万円を限度に賠償されます。金額を申し出ないと、10万円が限度額となります。このように郵便事業者の責任が制限されているのは、低廉な価格で郵便事業が出来るようにするための政策です。高額な賠償責任を負わせると、今のような低価格で全国一律に配達できる郵便事業は成り立ちません。 *著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)【画像】イメージです*Nature / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月25日12月11日の深夜にお笑いコンビ「NON STYLE」の井上裕介さんが当て逃げ事故を起こしたことは、皆さんの記憶にも新しいかと思います。被害にあったタクシーの運転手が車のナンバーを覚えており、警察署が井上さんを特定したということです。今回の事故では、タクシーの運転手がぶつかった車のナンバーを覚えていて特定につながりましたが、他にはどういった場合に当て逃げした車は特定されるのでしょうか、解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■そもそも当て逃げは犯罪当て逃げにも、人に当てる場合と、物に当てる場合がありますね。いずれも事故ですので、逃げた場合には報告義務違反の罪に当たります。人に当てた場合には、故意であれば殺人罪、傷害罪になりますし、過失であれば、自動車運転過失致死傷罪になります。他方、物に当てた場合には、故意であれば器物損壊罪になります。 ■当て逃げはバレるのか?事故現場には、意外と目撃者がいるものです。逃げても目撃者からの通報により警察が動く場合がよくあります。また、駐車場などでの当て逃げの場合は、防犯カメラがついている場合がありますので、そこから割れてしまうことがありますね。さらに、逃げたとしても、自分の車を修理にだし、当て逃げを疑った修理工が警察に通報することもあります。「当て逃げは逃げるに限る!」なんていう風潮がありますが、意外と足が付くことが多く、また、仮に足がつかなかったとしても罪悪感に苛まれ、気持ち悪い思いが続きます。きちんと報告すれば、保険会社が入って示談で済むことがほとんどですので、もし当ててしまった場合には、速やかに警察に事故の報告をするのがよろしいかと思います。 *この記事は2015年9月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【画像】イメージです*Dmitry Kalinovsky / Shutterstock
2016年12月17日通勤や通学など日常で使う機会が多い電車。国土交通省の『交通関係統計資料』によれば、平成27年度では、JR・私鉄各社問わず、延べ242.9億人が利用しているとのこと。これだけ多くの人が利用するとなると、迷惑なお客さんも少なくないようです。利用している方の多くは他人に迷惑をかけないように配慮していると思いますが、公共性が高い場所ということもあり、ちょっとしたマナー違反でも目立ってしまうようです。今回は、「撮り鉄」と呼ばれる、車両や駅などの鉄道施設を写真やビデオに収めるために、駅構内や沿線でカメラを待ち構えている鉄道ファンのマナー違反行為に関して、違法かどうか解説していきます。*画像はイメージです:■(思い通りの写真を撮りたいがために)電車の運転士に向かって「もっと前にすすめ!」と怒鳴る威力業務妨害罪(刑法233条)に当たると考えます。威力業務妨害罪は、人のお仕事を保護するために犯罪とされていますが、威力を用いて人の業務(お仕事)を妨害した場合に成立します。ここで「威力」というのは、人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることとされていますが、要はお仕事を躊躇させるような行為をあからさまに行うことをいいます。電車の運転士に向かって「もっと前にすすめ!」と怒鳴ることも「威力」に当たると考えられるわけです。威力業務妨害罪に当たる場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」で処罰される可能性があります。 ■(他の乗客に迷惑がかからないよう)撮影行為を制止した駅員に対し、名指しでクレームこうした行為も、クレームの方法や程度によっては「威力」に当たる場合もあると思います。その場合、威力業務妨害罪が成立すると考えます。 ■ロープを切断して線路内に立ち入るロープを切断する行為については、器物損壊罪(刑法261条「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」)が成立しますし、線路内に立ち入る行為については鉄道営業法37条違反・建造物侵入(刑法130条前段「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」)・威力業務妨害罪が成立し得ると考えます。 ■踏切に三脚を設置するこうした行為についても、三脚を設置した位置によっては鉄道営業法37条違反・建造物侵入罪が成立するでしょうし、設置の仕方によっては鉄道のお仕事を妨害しかねませんから威力業務妨害罪が成立する場合もあるかと考えます。 鉄道ファンによって地域が取り上げられて活性化する等は望ましいことですが、運転士さんや他の乗客の迷惑にならないように各自あるいはファン同士で心がけていただきたいと思います。 *著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)【画像】イメージです*midori_chan / PIXTA(ピクスタ)【参考】国土交通省:『交通関係統計資料』(平成27年度版)教えて!goo:“罵声大会”に怒り心頭?名指しで苦情も……駅員泣かせの鉄道ファン
2016年12月12日11月24日に電車内で女性会社員に体液をかけたとして34歳の男性が器物損壊の疑いで逮捕されたという報道があったように、たまに、公共の場所で女性に体液をかけた男性が逮捕されたというニュースを目にします。体液といってもだいたいは精液なのですが、精液をかけた男性の容疑(被疑事実)は多くの場合「器物損壊」であり、「(準)強制わいせつ」ではありません。なぜわいせつの罪ではなくて器物損壊で逮捕・処分されるのかについて疑問を持つ方もいるかもしれませんので、今回はこの点について解説したいと思います。*画像はイメージです:■女性に精液をかける行為は両罪成立し得るまず、女性の衣服や持ち物に精液をかけた場合、器物損壊罪が成立します。器物損壊罪の「損壊」とは物の効用を害する一切の行為をいい、“感情的・心理的”に物の利用を不可能にする行為も含まれますので、器物損壊罪が成立するというわけです。法学部出身の方は、古い判例で食器に放尿した行為が「損壊」に当たるとされたものがあることをご存じかと思います。一方、精液をかける行為が強制わいせつ罪に当たるかという点については、同罪の成立要件である「暴行」と「わいせつ傾向(性的意図)」が問題になります。強制わいせつ罪の「暴行」とは、人の反抗を著しく困難にする程度の物理力の行使をいうとされていますが、裁判例では、「正当の理由なく他人の意思に反してその身体髪膚(はっぷ)に力を加うるの謂(いい)にして、固よりその力の大小を問うことを要するものに非ず」としたものや、「被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制するもので足りる」と判示したものがあり、物理力の強度よりも意思に反する程度に着目しているといえましょう。また、強制わいせつ罪の成立には行為者の性欲を満足させるという「わいせつ傾向(性的意図)」が必要とされていますが、精液をかける行為がもっぱら女性に対して報復または侮辱する目的で行われたといえないのであれば、「わいせつ傾向(性的意図)」もあるといえます。したがって、公共の場所で女性に体液をかける行為は、その態様や目的によりますが、器物損壊罪と強制わいせつ罪の両方が成立し得ます。 ■なぜ器物損壊罪のみで逮捕されることが多いのかこれには、「暴行」と「わいせつ傾向(性的意図)」の有無、立証難易、本人の前歴・余罪など様々な要因がありますので一概には言えませんが、まずは固い器物損壊罪の容疑(被疑事実)で逮捕するという理由があるでしょう。捜査の結果、強制わいせつ罪に切り替えることもありますし、強制わいせつ罪は成立するけれど今回は器物損壊罪のみで処分・処罰をするという判断がなされることもあります。 ■その他想定される疑問への回答(1)公然わいせつ罪にはならないの?成立し得ますが、公然わいせつ罪の規定はわいせつなものを見せられる人や健全な性秩序・精神的社会環境を保護していると解釈されているので、被害女性の観点からすると公然わいせつ罪で処罰することはなじまないといえるかもしれませんね。なお、公共の場で性器を露出した上で行う犯行態様であれば当然に公然わいせつ罪が成立します。(2)本人が「わいせつ傾向(性的意図)」を否定していたらわいせつ罪にはならないの?わいせつ傾向などの人の内心は、本人の外部的行動や客観的証拠から推測・認定できますので、本人の自白がなければ各種わいせつ罪で有罪にできないわけではありません。(3)器物損壊罪と強制わいせつ罪が成立した場合、それぞれの刑で処罰されるの?精液をかけるというひとつの行為が両方の罪に当たるときは、法定刑が重いほうの強制わいせつ罪の範囲で刑が言い渡されます(観念的競合といいます)。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】*梅さん / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月05日終電間際、慌てて満員電車に乗ったら空いている場所が!そこに行ってみたら床には嘔吐物が…なんてことはありませんか?12月の忘年会シーズンには特にありがちで身近な問題ですが、電車内で嘔吐して汚す等することは犯罪かどうかについて、検証します。*画像はイメージです:まず、刑事上の犯罪になるかどうかですが、故意に嘔吐物を相手に引っかけた場合には、「暴行罪」、働いている人に同じようなことをすれば「威力業務妨害罪」になる可能性はありますが、そうでない限りは大丈夫です。誰かの大事な物を嘔吐物によって使い物にならなくしてしまった場合は、「器物損壊罪?」と思うかも知れませんが、この罪は故意犯しか罰しませんので、やはり罪にはなりません。また、嘔吐物が相当悪臭を放ちますので、迷惑防止条例の「悪臭行為」に当たるのか?と考えられる方もいるかと思いますが、基本的には当たりません。ですので、電車内での嘔吐で、警察の世話になることはまずないと思っていただいて結構です。では、民事上は何らかの法的責任が発生するでしょうか?3つのケースに分けて、個別に見ていきましょう。 ①吐いた上に処理をしない場合は?吐いたものをそのまま放っておくと、当然の如く鉄道会社の方が清掃などの処理をすることになります。嘔吐行為は、通常はお酒の飲み過ぎによっておきるもので、いわゆる不注意によって清掃などをさせる手間を発生させることになりますので、本来は損害賠償請求の対象になります。ただ、通常、吐くような人は、既に自分の嘔吐物を処理することなどできないでしょうし、鉄道会社もそのことを見越して清掃の大勢を整えているようですので、特に損害賠償請求をしないそうです。 ②誰か(人・物)を汚した場合は?理屈は同じで、不注意によって嘔吐し、それによって誰かを汚してしまうわけですから、それによってクリーニング代が発生したり、その物が使い物にならなくなったりするわけです。従って、それに掛かった費用は、損害賠償請求されることになります。 ③車内清掃で遅延などした場合は?車内清掃で遅延した時間にもよるでしょうけど、通常の嘔吐物程度であれば、最短での時間によって清掃が可能でしょうし、損害を発生させるほどの遅れがでるとも思えませんので、特に遅延させたことそのものについて損害賠償請求されることはないものと思います。 *この記事は2014年6月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【画像】イメージです*TungCheung / Shutterstock.com
2016年12月03日今月中旬から今月25日の間に覚せい剤を使用した容疑で11月28日に逮捕されたASKA容疑者ですが、報道陣に対して「不法侵入ですよ!」と声をだしていたようです。マスコミは警察の制止を無視してガレージ内に侵入したほか、ベンツのエンブレムを折るなどしたようです。今回のマスコミの取材に対して、インターネット上では「不法侵入では?」「器物損壊でしょ」といった声が上がっているようです。そこで、このような行為が実際に上記の罪に該当するのか、解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■住居侵入罪、器物損壊罪が成立する可能性は高いまず、冒頭で書いたことが真実だと仮定してお話しを進めたいと思います。先に挙げたような、ガレージ内に侵入したり、ベンツのエンブレムを折ったりといった行為をしていた場合は違法なことと言えます。ガレージへの侵入については、インターネットでも声が上がっている通り、不法侵入(正確には住居侵入罪:刑法第130条前段)が成立します。住居侵入罪は、その住居の管理者の意思に反する侵入を罰する罪ですので、本件の場合、マスコミのガレージ内への立ち入りがASKAさんの意思に反するのであれば、同罪が成立するといえます。 次に、器物損壊罪(刑法261条)についてですが、この罪は他人の物を壊した場合に成立する罪ですので、ベンツのエンブレムを折った場合には成立する余地は十分にあります。罪自体が成立しないという可能性があるとすれば、エンブレムを折ったことが故意ではないという場合でしょうか。原則として、犯罪は故意犯のみを罰し、過失は罰しないということになっています。要するに、故意とは「わざとやった」ということです。当時のマスコミの状況は具体的にわかりませんが、人が大挙押し寄せ、揉みくちゃになりながら、圧力に耐えられず不可抗力で体の一部がエンブレムに当たって折れてしまったというような場合、故意の認定が少し難しくなる余地はあろうかと思われます。当然、住居侵入罪の成立にも故意の要件は必須ですが、「ガレージに入るつもりはなかったけど間違えて入ってしまった」という弁解は通る可能性が低いと思います。なお、器物損壊罪は親告罪といって、被害者つまりベンツの所有者(具体的には車検証の名義人)の告訴が無ければ罰せられることはありません。 ■マスコミの行動について思うことこういった注目事件の際のマスコミの他者の迷惑を顧みない行動は目に余ると個人的には考えております。僕のよく知っている弁護士も、とある有名事件を担当された際、裁判所から車で帰るに際し記者に追いかけられ、車(BMW)に無数の傷が付いていたことがありました。身近な人がそういう被害に遭ったということを聞き、非常に驚きました。また、自分としても、ある事件を担当した際に、事務所にアポも無しに次々と記者が来て、一方的に「話を聞かせてくれ」と言われ、断ってもなかなか帰ってもらえず困惑したことがあります。向こうも仕事だということは分からなくはないのですが、僕の業務や事務所のほかの人たちへの迷惑を顧みない態度は異様に見えました。価値観が違うと言ってしまえばそれまでですが、大袈裟に言えばちょっと洗脳されているような、そういう怖さを感じる一面を垣間見ました。もし、「犯罪者(容疑者)なのだからこれくらいされても仕方ない」というような意識があるのであれば、それは絶対に間違っていると思います。どういう価値観を持つかは勝手かもしれませんが、社会生活を営む上で必要な最低限のマナーやルールは守っていただきたいと思います。 *著者:弁護士 河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活6年目を迎える。敷居が低く気軽に相談できる弁護士を目指している。)【画像】イメージです*Brian A Jackson / Shutterstock
2016年11月30日