意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「失われた30年」です。日本は次第に貧しくなった。その自覚を持って。日本経済は、バブルが崩壊した1990年代の初めから低迷が続いており、「失われた30年」と呼ばれています。1990年と2020年のGDPを比べると、アメリカは3.5倍、中国は37倍になったのに、日本はわずか1.5倍にとどまります。平均賃金もアメリカは47.7%、イギリス44.2%、ドイツ33.7%増なのに、日本は4.4%増と、ほとんど上がっていません。日本は新自由主義のスタンスをとり、平成時代は積極的に規制緩和を行い、経済成長を企業の自由競争に任せていました。そうすることにより企業活動は活発になり、欧米諸国同様、個人の所得も次第に上がるはずでしたが、そうはなりませんでした。理由の一つは、日本が産業構造の転換に乗り遅れたことが挙げられます。この30年の間に、世界のメインプレイヤーは様変わりしました。トップはIT関連が占め、かつて勢いのあった日本の家電メーカーは軒並み力を弱めました。また、若い世代や新しい科学技術への投資が行われず、日本独自の新産業の育成がうまくいきませんでした。政治の責任と言われますが、僕は、企業が投資先を見誤った結果ではないかと思います。海外からは情報や通信産業の市場を解放してほしいという強い要望があり、規制緩和の末に、気づけば通信業界はGoogleやAppleの主戦場となり、テレビ業界はNetflixやAmazonに市場を奪われてきています。「ビッグマック指数」という、ビッグマックの価格を比較し、その国の物価や貨幣価値を測る指標があるのですが、アメリカでは日本の1.5倍以上の値段でビッグマックが売られています。アメリカは企業が成長し、国のGDPも個人の所得も上がっているので、値段を上げても売れるのです。日本は逆にデフレが続き、値段を下げないと売れず、企業の収益も上がっていません。日本が貧しい国になってきているという事実を、私たちは自覚しなくてはなりません。今年は参議院選挙があります。税金をどう使うのか、私たちの所得を上げるための政策を打ち出しているのはどの政党か。危機感を持って選挙に臨んでほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月26日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月21日松本潤が遊川和彦とタッグを組む「となりのチカラ」が1月20日スタート。松本さん演じるチカラに「見たことない松潤」「めっちゃ新鮮」などの声が殺到、ずっとセーターを裏返しのまま着ている姿にも「可愛い」の声が多数寄せられている。「人を救いたい」「周囲を平和にしたい」という思いから、いつも中途半端に他人の問題に関わり、簡単に解決できない問題だとわかるとオロオロと中腰になりながら悩んでしまう中越チカラを主人公に、そんなチカラが同じマンションに住む住人たちの悩みを解決し、やがてそのマンションはひとつのコミュニティーとなって強い繋がりを持っていくという、現代人の心に癒しと少しの勇気を与えてくれる、社会派ホームコメディーとなる本作。中越チカラを松本さんが演じるほか、チカラの妻で12歳の娘・愛理と10歳の息子・高太郎の母親、アパレルショップで店長を務めている中越灯に上戸彩。小学6年生のチカラの娘・中越愛理に鎌田英怜奈、高太郎に大平洋介。中越一家のお隣に住むエリート会社員で、妻と娘と仲良く暮らす理想的な3人家族に見えるが、なぜか妻と娘は何かに怯えている木次学に小澤征悦。学の妻の達代に映美くらら。小学3年生の娘・好美に古川凛。中越一家の真下に住み、数人でルームシェアをしているマリアにソニン。凶悪少年犯罪事件の真犯人“少年A”という噂がある上条知樹に清水尋也。震災で両親を失い祖母の清江と暮らす高校3年生の柏木託也に長尾謙杜(なにわ男子)。託也の祖母・清江に風吹ジュン。チカラの担当編集者・本間奏人に勝地涼(友情出演)。チカラが仕事場に使うカフェの店主に夙川アトム。マンションの管理人・星譲に浅野和之。中越一家の隣人で占いにハマっている道尾頼子に松嶋菜々子といったキャストが出演。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。東京の郊外にあるマンションにチカラたち一家が引っ越してくる。個性豊かな住人たちに思いを巡らせるチカラに対し、灯は「ご近所のことに首を突っ込まないように」と諭す。しかし隣の部屋から叫び声が聞こえ、心配でいてもたってもいられなくなったチカラは隣の木次家を訪ね、学に怯えたような表情をみせる達代と好美が気になる。実は好美は虐待を受けているらしく…というのが1話のストーリー。チカラ役の松本さんに「面白かった! 見たことない松潤だった!」「こういう役の松潤新鮮だなー。凄い好き」「今までの松潤と違うキャラでめっちゃ新鮮」などの反応が上がるとともに、「歩き方も話し方も違って松本潤くんなのに松本潤くんじゃ無かった」など、これまでにない役柄を演じる松本さんの演技力を高く評価したコメントも。一方、放送が開始してしばらくたつとSNS上には「セーター裏返しじゃんチカラくんw」「セーター表裏逆じゃございませんか?」など、チカラがセーターを裏返しに着ているという指摘が相次ぐように。その後、裏返しに着ていることを灯に指摘されたチカラはあわてて脱ごうとするのだが、視聴者からはその姿にも「セーター表裏逆可愛い」「チカラくん可愛すぎ セーター裏返し」など、多数の“カワイイ”という反応が寄せられている。(笠緒)
2022年01月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「オミクロン株」です。ワクチンが世界に回らないと根本的解決にはならない。昨年11月、新型コロナウイルス感染症のデルタ株を凌駕する変異株が南アフリカで発見され、オミクロン株と名付けられました。新型コロナウイルスにはスパイク(突起)が多数ついていますが、オミクロン株はスパイクに30か所の変異があることがわかりました。重症化しやすいかどうかは未だ不明。しかし、世界的に急速な勢いで感染が拡大。12月21日時点でオミクロン株の感染は106か国に拡大しました。ヨーロッパでは、オミクロン株が注目される前から感染が広がっており、ドイツやフランスで過去最高の感染者数を出しています。深刻なのはイギリスで、12月22日には新規感染者が過去最多の10万6122人に。ロンドンでは、検出される新型コロナの9割がオミクロン株とみられます。岸田政権は、オミクロン株が発見された直後から、強固な水際対策をとりました。すべての国と地域からの外国人の新規入国を原則停止。また、濃厚接触が疑われる人たちに対しては、隔離の時間をきっちりとってもらい、アプリで管理。従わない場合には名前を公表すると強い姿勢を示しました。オミクロン株感染者のなかには、ワクチン接種済みの人もいますが、ワクチンには重症化を防ぐ効果があるとみなされ、欧米ではブースター(追加)接種を国民に訴え、日本も3回目の接種の開始時期を予定よりも早めました。このように、オミクロン株が急速に世界に広まったのは、ワクチンがアフリカに十分に回ってきていないというのが理由の一つです。先進国では3回目の接種が始まるなか、南アフリカのワクチン接種率は1回目がまだ約30%です。アメリカや中国は世界各国にワクチンの無償提供を行っていますが、それでも追いついていません(日本もアジア地域には無償提供済み)。先進国が経済活動を再開しようとしても、後進国で新たな変異株が広がれば、国際的な経済活動はストップしてしまいます。オミクロン株のあとにも変異株は出現し続けますから、自国だけではなく、世界的に感染を抑えるように、ワクチン格差をなくすなどの国際協調策をとらないと、根本的解決にはならないのです。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月19日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月15日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新自由主義」です。国の成長には大事な過程。競争が進みすぎたことが問題。「新自由主義」とは、国がさまざまな規制を取り払い、市場に委ねて、自由に競争を促す社会のあり方、経済の思想です。ほかに「市場原理主義」「小さな政府」「民営化」「規制緩和」という言葉でも言い表されます。対になる「大きな政府」は、国が規制をかけて、国民生活を守りながら経済活動をコントロールします。究極の大きな政府は中国。高い税金を取るかわりに、国が社会保障政策をしっかり行う北欧も大きな政府です。日本もかつては大きな政府でした。鉄道や電力、石炭、通信などは国家が担ってきましたが、新しいビジネスやサービスを生み出す民間にまかせたほうがいいと、国鉄はJR、電電公社はNTTというふうに民営化が進みました。とくに小泉政権以降は規制緩和を大胆に進め、郵政民営化も実行されました。安倍政権でも新自由主義的な政策がとられました。規制緩和をし、国家戦略特区を作り、成長戦略を投入。しかし、それが一部の、政府に近い企業だけ優遇されているのではないかという批判も出ました。新自由主義では、企業は競争に勝ち抜くために徹底した合理化を求めます。やがて、人をコストとみなし、人件費は引き下げられ、稼げる人はいいけれど、稼げない人は徹底的に安く使われるようになってしまいました。企業は人を育てる余力を失い、正規雇用と非正規雇用の格差は広がる一方です。国が成長していく過程ではある時期、新自由主義は必要なのだと思います。ただ、競争が行きすぎた結果、一億総中流社会と言われた日本でも、中間層が分かれていなくなり、国の活力も奪われました。グローバル企業はますます成長し、国のコントロールとは程遠い場所に行ってしまいました。こうした問題は民主主義国家のどこでも起きており、2020年代は世界的に、行きすぎた格差をなくし中間層を取り戻そうと再分配政策に力を入れています。SDGsでは「働きがいも経済成長も」と、新自由主義的な経済の修正も目標に掲げています。実現には、私たち働き手も、問題ある労働環境には声を上げたり、同じ思いの人と連携することが大事になると思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月07日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「生活保護」です。自分の命守るため、困ったら、臆することなく利用を。生活保護は、受給条件を満たす誰もが受け取る権利を持っています。憲法によって、国は「国民の健康で文化的な最低限度の暮らしを保障しなければならない」と定められているからです。まず条件は、収入が厚生労働省の定める最低生活費よりも低いこと。金額は地域や同居家族の人数によって変わりますが、東京都内で一人暮らしなら、世帯全体の収入が月13万円、年156万円以下の場合には受給が可能になります。一般に家や車、預貯金や土地などの資産を持っている人は受けられませんし(例外あり)、世に言う「生活保護があれば働かなくても暮らせる」というのは歪んだ意見です。潤沢なお金を手当てしているわけではありませんし、贅沢は認められません。食費、光熱費、服、家具家電の購入費などの生活扶助、家賃を払うための住宅扶助ほか、医療扶助、介護扶助など、使用目的が制限されています。受給条件には、親や親族などから支援を受けられない人というのがあります。たとえば、子供の貧困対策で、子供がNPOから何かサポートを受けた場合、最低生活費が満たされ受給条件から外れたとみなされ、学費が払えず子供が大学を辞めざるを得なくなるというケースも出てきています。ですから、生活保護と子供の教育は切り離して考えるなど、課題はあるんですね。病気や怪我をして働けなくなった場合でも受給は可能です。ワーキングプアで、働いていても収入が最低生活費に満たない人は、全額ではなく足りない差額分を支給してもらえます。不正受給のニュースが広がり、生活保護には悪いイメージがついてしまいました。でも、不正受給は全体の0.4%程度。悪意なく、条件から外れていたのに気づかなかったケースも含まれます。誰しもが、いつ何が起きるかわかりません。突然、鬱になり働けなくなり、頼る先もなく暮らせなくなることもあるでしょう。「自分の頑張りが足りないんじゃないか」「自尊心が傷付けられる」などと思わずに、一時的にでも助けてもらい、生活を立て直せばいいのです。本当に追い詰められる前に、ぜひ住んでいる自治体の福祉事務所に相談してほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月29日引き続きコロナ禍にあった2021年。2022年はいったいどうなるの?読者を代表してイラストレーター・五月女ケイ子さんが堀潤さんに“世界の課題”について聞きました!テーマは「バランスが変化する世界情勢。いまこそ国際協調を!」です。コロナ禍で加速した飢餓問題。SNSを使い私たちにもできる支援を!堀潤(以下、堀):世界情勢は、2022年も深刻になるでしょう。世界的に飢餓が進んで歯止めがかからなくなっています。国連WFPによると2019年には約2700万人だった餓死寸前の飢饉に陥っている人が、直近で4500万人まで跳ね上がってしまいました。五月女ケイ子(以下、五月女):そんなに急激に!?新型コロナの影響ですか?堀:コロナと紛争ですね。コロナ禍によって生産活動が続けられなくなったり、紛争やテロにより、その土地に安心して暮らせないことも重なって、すごい勢いで増えています。飢餓が増えれば、不満はあふれます。スーダンでは再び軍事クーデターが起こり、アフガニスタンではタリバンが息を吹き返し、エチオピア、ナイジェリア、イエメン、イスラエル、パレスチナ、ミャンマーなどで混乱が起きています。さらに多くの国々で拡大すれば世界が分断しかねない状態です。五月女:どうしたらいいんでしょう?堀:先進国が経済的支援や、国と利害が対立してしまった勢力との橋渡しをするなど積極的に関わることだと思います。いまこそ国際協調。余力のある国々が世界の飢饉に目を向けて、手当てすることをやっていかないといけないと思います。五月女:2021年はアメリカがアフガニスタンから撤退して、また混乱しちゃいましたよね?堀:支援の仕方を考えなければいけないんですよね。いままでの資本主義の支援は、開発した国や企業から利益を吸い上げて、その土地には申し訳程度に分配していました。持続可能な経済にするために、その土地で業を起こして、地域の人たちにちゃんと利益が分配できるようにしないといけないんです。アフガニスタンでは医師の故・中村哲さんがそういう活動をされていました。タリバン政権も、NGOなどソーシャルセクターの活動は大事だと認識し始めています。五月女:でも、日本で生活をしていると、NGOの方々の活躍ってあまり耳に入ってきません。私たちにできることはありますか?その土地のものを買うとか?堀:それもいいですが、やはりSNSで発信することだと思います。タリバンが好き放題できないのはSNSの時代だから。タリバンに女性教育を止めさせないよう、アフガニスタンの女性たちが抗議する姿をSNSで世界中に拡散することで、権力を監視し、抑制することができます。NGOの活動を知り、それを広く知らしめることも支援の一つ。私たちはその一役を担うことができるんですね。ほり・じゅんジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングFLAG』(TOKYO MX)、「ABEMA Prime」(ABEMA)ほか、レギュラー多数。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年の商品も取り揃えている。LINEスタンプも展開。『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)が発売中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月28日『anan』で連載中の「社会のじかん」がスペシャルバージョンに!読者を代表してイラストレーターの五月女ケイ子さんが堀潤さんに質問しました。テーマは「新政権になり、日本の政治や経済はどうなる?」です。“新しい資本主義”を掲げる岸田政権。再分配をテーマに、暮らしは良くなる?堀潤(以下、堀):この2年、コロナ禍で国民は弱りきってしまいました。そこで岸田政権は「新しい資本主義」を掲げました。五月女ケイ子(以下、五月女):それはどういうものですか?堀:いままでの資本主義は、市場の自由競争に委ねて、勝ち上がる人は勝つ仕組みだったんですね。ところが競争が進みすぎて、お金持ちや大企業は成長するけれど、そうじゃない人は吸い上げられてしまう、格差が広がってしまいました。世界的にそういう事態は起きており、岸田政権は、市民が安心して物が買えて、暮らせるように再分配をする「成長と分配の好循環」というのを目指すと謳ったんです。これが実現できるかどうかが今後の大きなポイントになります。五月女:ぜひ、分配してほしいです!これから景気は良くなりますか?堀:暮らしのレベルでは良くなる可能性はあると思います。コロナ禍が落ち着いて人の流れが戻ってくるでしょうし、再分配策をしっかりやりましょうと言っているので、2022年の参議院選挙の前には、与党も選挙に勝つために、大盤振る舞いするんじゃないかと思います。五月女:給付金みたいなことですか?堀:給付金だけでなく、住居費の負担軽減、学費の補助や省エネ家電のサブスク化、企業にとっても活動しやすい税の仕組みの導入など、国民の納得することをして、はずみの年にすることは間違いないでしょう。五月女:最近、お金の価値が変わってきているのを感じるんです。前は買えていたものが買えなくなってしまった。子供の遠足のおやつの300円で買える範囲がかなり限られてきたなあと(笑)。堀:政府のインフレ誘導が効いているんでしょうね。日本は、価格が安いほうへと競争が進んで、利益を得られないからお給料も減る、さらに物が売れなくなってまた値段を下げる…というデフレの悪循環が続いて抜けられなかったんです。国はもっとお金を刷ってたくさん市場に供給してお金の価値を下げ、インフレに持っていこうとしています。そうすると所得も上げられるようになるだろうと。五月女:でも、所得はそんなに増えてないですよね?なぜなんでしょう?堀:企業の賃上げが足りていないのも要因の一つです。こういう状況を「スタグフレーション」といいます。企業としてはリーマンショックのようなことがいつ起きるかわからないので、従業員に還元せず、お金を貯めておきたいんですよね。五月女:もっとみんなのお給料に回してほしいです。あ、もしかして、私のイラストの稿料も上げてくださいって言ってもいいのかしら?実は仕事を始めたころから、イラストレーターのギャラってたぶんほとんど変わってないんです。お菓子の値段は上がっているのに(笑)。堀:そういうことは日本の各地で起きているようですね。経営者にとってもSDGs、持続可能な発展は大事なキーワードなんです。従業員のみなさんや取引先のみなさんから搾取するような現状はいけませんよ、という旗振りですね。大企業には課税を強化する形で、大きな利益を上げた企業から税金を集め、それを従業員の暮らしを支えることに回す、社員の雇用を守った会社には税金で優遇するというようなことで進みそうです。五月女:税金を払ってよかったなと思えるような分配策をやってほしいですよね。ほり・じゅんジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングFLAG』(TOKYO MX)、「ABEMA Prime」(ABEMA)ほか、レギュラー多数。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年の商品も取り揃えている。LINEスタンプも展開。『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)が発売中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月26日展覧会「RED 堀 清英 写真展」が、シャネル 銀座内のシャネル・ネクサス・ホールにて2022年1月19日(水)から2月20日(日)まで開催される。写真家・堀清英の創作活動を辿る展覧会「RED 堀 清英 写真展」は、写真家の堀清英に焦点を当てる展覧会。雑誌や広告等、幅広い分野で活躍し、特にアーティストのポートレイト作品で知られている堀は、詩人のアレン・ギンズバーグから多大な影響を受けている。たとえば、堀が東日本大震災後にまとめたシリーズ 「re;HOWL」は、ギンズバーグの代表作「Howl(邦題:吠える)」の冒頭の一節から触発され、現代社会にアイロニカルな視線を向けつつ作られた作品だ。一方、今回初公開となる表題作「RED」で堀が視線を向けたのは“自己の内側”。“自分とは何者か?”という問いの答えを追求する過程で、「自分自身を投影した、セルフポートレート」として、公園やごみ処理場、科学館といった様々な場所に佇む赤いワンピースの女性を写し出している。また、「RED」シリーズの他、シュルレアリスムからの影響が色濃く見て取れる1990年代以降の作品群や、創作活動の原点ともいえる手製のフォトブックなども会場に登場。三部構成での作品展示を通して、堀の創作活動、そして自己探求の過程を辿っていく。【詳細】RED 堀 清英 写真展会期:2022年1月19日(水)~2月20日(日)営業時間:11:00~19:00(最終入場18:30) ※会期中無休会場:シャネル・ネクサス・ホール住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F※入場無料※予約不要
2021年12月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ギグ・エコノミー」です。進む競争社会。権利や保障、教育機会なども必要に。「ギグ・エコノミー」とは、アメリカ発祥の言葉で、インターネットやスマホのアプリを通じて、単発で請け負う働き方を指します。ミュージシャンの単発ライブの“ギグ”という言葉がもとになっています。このスタイルで働く人は「ギグ・ワーカー」と呼ばれ、いわゆる「派遣社員」や「日雇い派遣」とほぼ同義です。ネットのマッチングサービスが発達するなかで、さまざまな職種でギグ・エコノミーは増えました。最もイメージしやすいのは、オンラインで注文を受け、飲食店の出前を行うウーバーイーツの配達員でしょう。日本では、得意なことを売り買いするマーケット「ココナラ」も有名です。Webデザインやイラスト、翻訳など、自分のスキルを生かし、仕事を請け負います。コロナ禍では、在宅・遠隔でもできる、空いている時間に働けるというので、こういう働き方が増えていきました。働く側は働く機会を得やすくなり、企業にとっては人を雇い続けるリスクを減らし、柔軟に働き手を調達できるようになりました。ただ、正社員との格差があったり、労働組合もなく、何かあったときに誰も守ってくれない弱い立場にあるという問題があります。たとえばウーバーイーツでは、配達途中の事故や料理が崩れたなどのトラブルは、配達員が責任を負っていました。ウーバーはあくまでプラットフォーマーですが、そうだとしても働き手の権利を保障することは重要と、国は3月に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました。ギグ・ワーカーが増えれば競争は激しくなり、単価は下がっていくでしょう。付加価値を付けられる人はのし上がれますが、そうでなければあっという間に転落する恐れがあります。副業としては有効ですが、生業となるとローンが組めない、家を借りられないなどの課題も出てきます。今後、フリーランスやギグ・ワーカーが広まるのであれば、職業訓練の制度を充実させ、スキルを磨く仕組みを作ったり、大学の教育も技能に特化したプログラムに変えていくことなどが必要になるのではないかと思います。ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「2021年のノーベル賞」です。受賞を通して世界の社会問題にぜひ目を向けて。12月10日にノーベル賞の授賞式が開催されます。今年のノーベル物理学賞は、アメリカ・プリンストン大学の真鍋淑郎さんら3名が受賞しました。真鍋さんは気候変動の研究をしており、二酸化炭素による地球温暖化の現象を50年以上前に予測していました。今回、真鍋さんのお名前を初めて知った人は多かったと思います。なぜなら、日本出身ですが、アメリカ国籍の方だからです。1967年に、世界で初めて大型のコンピューターを使い、二酸化炭素の濃度が2倍になると、地球の平均気温が2.36°C上がるという計算をしました。東京大学に在籍していましたが、日本では気象の研究をしていても働く場所がなく、「あなたの研究は未来につながる」とアメリカに招かれて渡米しました。会見では国籍をアメリカに変えた理由について、日本の同調を求める風潮が苦手だったと語っておられました。周囲から特異に思われようと、淡々と独自の研究を積み重ねることが結果につながります。今回の受賞は、日本国内の研究現場の課題を浮き彫りにしたと思います。平和賞は、フィリピンのマリア・レッサさんとロシアのドミトリー・ムラトフさんが受賞。ジャーナリストにノーベル平和賞が贈られるのは、86年前のドイツのカール・フォン・オシエツキーさん以来でした。フィリピンのドゥテルテ政権、ロシアのプーチン政権下で表現の自由のために闘うジャーナリストに賞を授与したということは、現役の国家首脳に対して圧力をかけたということですから、ノーベル委員会は思い切った判断をしたと思います。この数年間にも、たくさんのジャーナリストが殺害、勾留されました。パナマ文書報道に参加していた女性記者のダフネ・カルアナガリチアさんはマルタで爆死。サウジアラビアの反体制記者ジャマル・カショギさんはトルコのサウジアラビア総領事館で殺されました。6月には香港の『蘋果日報』が休刊に追い込まれ、事業者は国家安全維持法違反で逮捕されました。いま世界で再び、言論の弾圧が広がっているということを実感させられます。今年は、これまで以上に社会課題に目が向けられたノーベル賞だったと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「親ガチャ」です。階層の固定化をどのように崩していくのか。「親ガチャ」とは、カプセル玩具やソーシャルゲームの“ガチャ”になぞらえて、親や生まれる境遇を選べない状況を表す言葉で、国会でも取り上げられました。かつては「一億総中流」といわれ、どの家庭に生まれても平準化された暮らしがありましたが、いまは大きく変わってしまいました。一般的に親の年収ごとに400万円以上ならN(ノーマル)。1000万円以上ならR(レア)。3000万円以上ならSR(スーパーレア)、400万円以下はB、C、D…と、ゲームのランキングのように、年収と職業を符号させることがネット上で流布されています。階層化をまざまざと認識させるような手法は、社会の分断を加速させてしまいます。一番の問題は、階層移動が不可能な格差が固定化されていることでしょう。これまでは、個人の努力によって、いかなる家庭に生まれようとも望む暮らしが手に入れられるチャンスがありました。ところが、いまは頑張ったところでどうにもならない状況に追い込まれています。この問題の解決には政治の力が求められます。少なくとも、「機会の均等」について対策をとるべきでしょう。日本は教育への投資がGDP比率で圧倒的に低い状況にあります。大学までは国が無償で面倒をみる、給食費は国や自治体が税金でまかなう、タブレットやパソコンなどのデジタル機器・通信環境は家庭によって差が出ないように補助していくなど、方法はいくつもあると思います。アメリカのシリコンバレーでは、難民や移民、貧困層の子供たちに民間の企業が寄付を呼びかけるなど、教育機会を与えて人材育成に力を注いでいます。日本では孫正義さんが率いる財団で、進学や留学、研究などを志す若者たちのサポートをしていますが、民間企業全体ではそういうサポートがまだ足りていません。自分たちの国を支える技能者を育てるという観点からも、必要なことなのではないかと思います。子供たちを国や社会で育成するという視点が重要なのではないでしょうか。読者のみなさんも、自分が親になったときに、子供の人生が自分の年収で決まってしまう社会でいいのか?考えていただけたらと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月04日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「中国TPP加盟申請」です。中国も台湾も加盟を申し出た。行く末に注目。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の始まりは、ASEAN(東南アジア諸国連合)や南米地域の経済連携でした。ところが、オバマ政権時にアメリカが加わることになり一気に色合いが変わりました。中国の台頭が目覚ましくなり、中国を牽制する連携が必要と、自由主義諸国の中国経済圏への対抗措置として交渉が進められるようになったのです。日本は最初は関心を示していませんでしたが、この巨大な貿易圏に入っておかなければ、将来孤立しかねませんし、最初からルール作りに参加しておいたほうがよいだろうと判断。反対意見もあるなか、民主党政権下で参加を決め、交渉を開始しました。ところが2017年、ようやく貿易交渉も合意したところに、トランプ政権が誕生し、アメリカはTPPを離脱。一気に、規模が縮小してしまいました。そこからは日本主導となり、2018年に11か国がTPPに署名しました。今年、バイデン政権になり、日本はアメリカのTPP復帰を求めていますが、バイデン大統領は静観しています。そんな折、中国がTPP加盟を申し出ました。習近平国家主席は当初からTPPに関心を持っていたらしく、米国が抜けたいまがチャンスだったんですね。中国は戦争という武力で圧力をかけることよりも、交渉のなかで自国に有利なルールを作り、中国の貿易圏に取り込むことで他国を経済的支配下におくことに注力してきました。TPPはその大きな入り口になるところでした。そこへTPP加盟を申し出て牽制に入ったのが台湾です。これには「中国は一つではなく、台湾は台湾」というメッセージが込められています。TPPの加盟には参加国全員の合意が必要です。中国を先に入れれば台湾やアメリカの加盟は不可能になるでしょう。また、台湾を先に入れれば中国を敵に回すことになり、アジア太平洋地域の緊張につながります。日本にとって頭の痛い問題なのです。TPPの先には、さらに国や地域を拡大した連携などの構想があります。政治と経済を切り離し、東アジア全体の安定につながるような交渉ができるといいのですが、そう簡単にはいかないでしょう。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年11月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新しい資本主義」です。広がった格差を是正するために新たに目指すこと。“新しい資本主義”は、岸田総理が総裁選のころから掲げてきたテーマ。実はこれはグローバルスタンダードなんです。昨年の世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、経済格差が広がりすぎたいまの資本主義を是正しないといけないと、厳しく語られました。これまでは、経済が発展し、それによって得た利益を皆で分ける「成長して分配」でした。大企業が儲かれば、その儲けは従業員の賃金として分配され、賃金が上がることで消費経済が活発になり、デフレから脱却できるはずでした。ところがこの「トリクルダウン」は起こらず、実質賃金は下がってしまいました。その一方で資本家たちは投資によって大きな利益を得て、世界の富の半分を30人未満の超富裕層が持つという極端な状況に陥っています。そのため、世界的に法人税率を揃えて国際標準を作ったり、タックスヘイブンに逃れて税金を納めないのは許さない、という取り組みが始まりました。日本でも安倍政権下では、株価が上がっているため、経済発展していると言われてきました。けれども、株価の上昇は資本家たちが資本を膨らますことを示しており、市民の暮らしが良くなることとは接合していなかった。その現実に、ようやく政策の現場が目を向け始めたんですね。先日、「新しい資本主義実現会議」が開かれました。そこで岸田総理は「成長と分配の好循環」の実現が重要と述べています。デジタルやクリーンエネルギー技術の促進、地方活性化、「稼ぐ力」の強化、「人」重視の経営…。経済成長政策を推し進めながらも、格差の固定化を避けるために、教育や子育て支援を積極的に行うなど、次の成長につなげられる分配を目指すことが、官民が集い議論されました。好循環が実現するのか、今後も注視が必要です。民間企業も変わり始めています。明電舎という老舗のインフラ企業は、再生可能エネルギーの投資や開発を進めることを発表。社員の働き方を改革し、人と環境に優しい企業体になり、グローバルに戦うことを打ち出しました。SDGsにのっとり、行き詰まった資本主義を打開し、持続可能な経済成長モデルを考えようとしています。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年11月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年11月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「菅内閣ふり返り」です。10月4日に菅内閣が総辞職しました。昨年9月に発足し、約1年という短い任期でした。菅内閣の一番の功績はデジタル庁を立ち上げたことでしょう。日本のデジタル化の遅れは、コロナやオリパラ対応でも明らかでした。各省庁によってITの仕組みもバラバラだったものが、一元化し管理できるようになったのは大きな前進でした。ほかには、少子化対策として不妊治療の保険適用範囲を拡大し、孤独・孤立対策にも力を入れました。環境問題では、2030年までに温室効果ガスを2013年に比べて46%削減することを目標に掲げました。地球全体の気温上昇を1.5°C以内に抑えるには60%台の削減が望ましいという声も上がりましたが、経済界の不安を払拭し、46%という高い望みを掲げたのは功績と言っていいのではないでしょうか。そのほか、携帯電話料金の値下げを実現させたことに喜ぶ声は多くありました。コロナ対策には不満がある一方、この難局は誰が総理でも同じような結果になったのではないかと思います。安全保障でいえば、安倍政権下では歴史認識や領土問題において、中国や韓国との軋轢が負のテーマとして根深くありました。その点、菅内閣はイデオロギー色の薄い政権だったため、対外的に大きな摩擦がなかったというのは大きな成果だったのかもしれません。トランプ政権からバイデン政権に代わっても、アメリカから不利益なことを要求されることはありませんでした。ただ、総理自身の言葉で語られることがほとんどなく、何を考えているのかわからない政権ということになってしまったことは非常に残念でした。それにより、国民の政府不信も募っていきました。安倍政権は新自由主義で、アメリカ寄りの外交を進めて、歴史認識は戦前回帰な傾向にありました。もしも今後、中国やロシア、北朝鮮、アメリカなどとの外交において、国際協調の橋渡し的な役割を日本がうまく担えるようになったなら、安倍政権からゆるやかにシフトチェンジした政権として、菅内閣はのちに大きく評価されるようになるのかもしれません。新内閣の今後の展開を注視しましょう。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年11月3日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年10月29日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「東京オリパラ」です。パラの成長を見た東京大会。認知に広がりも。東京オリンピック・パラリンピックは大会としては結果的に成功だったように思います。無観客でさまざまな制約があったにせよ、特にパラリンピックは過去の大会に比べると注目度もたいへん高く、史上最多の4403人の選手が参加しました。アフガニスタンでは開催直前に政変が起き、選手が大会に参加できず他国に逃れるという事態に。開会式では国連難民高等弁務官事務所の方が代わりに国旗を持って入場行進をし、最終的にはサポートを得て2人の出場が叶いました。女性選手も、LGBTQをカミングアウトする選手も、これまでの大会以上に参加が増えました。僕はパラリンピックの取材に関わっていましたが、会場内の感染対策は徹底していました。関係者はPCR検査を毎日無料で受けられ、毎朝専用アプリに体温を入力。それが自分のIDナンバーに紐づけられていました。誰か記入漏れがあると同じ取材グループ全員にメッセージが届き、入力を促すシステムで、すごく安心感がありました。こういうデジタル化された管理システムが街中でもできればと思います。日本のボランティアは、海外から高い評価を得ました。しかしそのバックヤードでは、1年延期により指揮命令系統や担当者の引き継ぎに不具合があり、ボランティアのみなさんに大きな負荷をかけてしまっていたようです。東京五輪は、政治的な抗議パフォーマンスが認められた初めての大会でもありました。女子サッカーなどでは試合開始前に選手が片膝をつき、女子砲丸投げの銀メダリストは表彰台で両腕をクロスして人種差別等に抗議を示しました(表彰台上でのパフォーマンスは本来は禁止)。Black Lives Matterなどの流れを受けたことが背景にあります。ミャンマーの選手の日本への難民申請が異例の早さで認定されたのも、オリパラという世界が注目する場だからできた判断だったと思います。今回、オリンピックよりもパラリンピックのほうが、理念をより体現した大会だった印象です。世界中の人々が集まり、出身国の政治状況を身近に知る機会になったのは、大きな財産になったのではないでしょうか。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年10月27日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年10月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「フードテック」です。世界で進む食の技術革新。日本は後れをとらないで。フードテックとは、フード(Food)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。たとえば急速冷凍。食品にマイナス30℃以下の冷気を吹きかけて、30分以内にマイナス18℃以下まで冷却します。この技術により、あらゆる食材を鮮度を保ったまま冷凍保存できるようになり、お寿司の冷凍も可能になりました。大手食品メーカーしか扱っていなかった急速冷凍が、一般商店向けに普及。コロナ禍で営業時間を短縮しなければいけなくなった飲食店が、急速冷凍の技術により、余った食材を長期保存したり、デリバリーや通販に回すなど、有効活用できるようになったのです。フードテックで目覚ましい進歩を遂げているのは、代替食品です。最近ではビーガンやアレルギーへの対応、健康志向により、大豆チーズや大豆ヨーグルトなど、大豆による乳製品の代用が進んでいます。肉の代わりに、大豆ミートや大豆ナゲットなどもよく目にするようになりました。サンフランシスコの企業「イート・ジャスト」は、緑豆をベースにした植物性の卵を開発しました。卵液の状態でボトルに入れて、アメリカの主要マーケットで販売しています。またイギリスのクォーン社は、糸状の菌を発酵させて、短時間でタンパク質を生成し食品にする技術を使い、高タンパクの肉の代替食品を生産。動物を殺す必要がない、代替肉のスタートアップ企業が年々増加しています。世界の人口は2050年には97億人に達するといわれており、深刻な食糧不足が心配されています。また、牛を1頭育てるために必要な飼料の確保に大量の温室効果ガスを排出するなど、環境負荷が問題になっています。食糧不足、地球温暖化、食品ロスなど、SDGsの観点からもフードテックは欠かせないものになっています。フードテック分野への投資額は世界的に2014年ごろから急増し、わずか7年で市場は10倍に伸びました。ところが、日本の投資額は海外に比べるとかなり少なく97 億円。アメリカのわずか1%程度です。世界のフードテック革命に日本不在という現実に、農林水産省は危機意識を高めています。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年10月20日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年10月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「児童労働」です。自分の生活に実は関わっているかも、という意識を持つ。今年は児童労働撤廃国際年。就労最低年齢は国際基準で15歳とされており、原則15歳未満、または18歳未満で危険で有害な仕事に就くことは国際条約や法律で禁止されています。精神や身体にかかる影響が大きく、教育の機会を阻害するというのが大きな理由です。6月にILO(国際労働機関)とユニセフが児童労働の推計を発表しました。それによると、5~17歳の児童労働者の数は1億6000万人、うち7900万人は危険有害労働に就いていました。これは世界の5~17歳の10人に1人が働いている計算になります。その多くはコーヒーやゴム、カカオなどの農園、コットン栽培などの農林水産業です。農薬を使ったり、遺伝子組み換え作業を手で行ったりすると皮膚がただれ、成長が止まるなどの薬害が出てしまいます。また、アパレル分野は繊維の生産から縫製までの工程で児童労働が介在しているケースが多く、鉱山での鉱物資源の採取にも児童が関わっていることは少なくありません。地域別にみれば、サハラ砂漠より南のアフリカ地域が8660万人。次に多いのはアジア・太平洋地域。バングラデシュの縫製工場やインドのマッチ製造工場、タイやミャンマーのえび加工工場などが挙げられます。インドやパキスタンでは、皮肉にも子供が遊ぶサッカーボールの縫製が児童労働で賄われていたことが明らかになりました。児童労働を生み出すことは、本をただせば先進国に行き着きます。先進国の企業が労働力を安く買い叩くため、開発途上国の子供たちを使わざるを得ない状況に追い込んでいるのです。日本で児童労働と指摘されるのはポルノの分野。小学生の水着グラビアや、アイドル活動が、大人たちの搾取ではないかと国際機関から非難の声が挙がっています。警察庁のデータによると、児童買春や淫行などの有害労働で、児童買春・児童ポルノ禁止法、児童福祉法の違反容疑で検挙された数が2020年に803件ありました。児童労働なんて他人事と聞き流さず、国内の状況にも目を向け、衣服やジュエリーなど、あなたの生活にも児童労働が関わっているのかもしれないという想像力を持っていただきたいです。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年10月13日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年10月08日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「世界の気温1.5℃上昇」です。加速する温暖化。脱炭素に向けた新技術に注目。8月、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は、今後20年以内に、世界の平均気温上昇が産業革命前と比べて1.5度に達するという予測を発表しました。これは3年前の報告よりも10年早まっています。温暖化は人間の影響により起きており、そのせいで熱波や豪雨、干ばつなどの異常気象が増加。気温の上昇は2050年頃にCO2の排出をゼロにしても1.5度、ゼロにならなければさらに上がり、脱炭素対策が急務であると警告しました。日本政府は4月、2030年度には‘13年度比でCO2を46%削減すると発表しています。しかし、産業界からは、それさえ難しいという声が上がっており、再生可能エネルギーの普及促進を政府に求めています。家庭でのCO2排出量削減は66%減が必要と国は試算していますが、個人でできる範囲は限られます。電力の使用量を可視化できる「スマートメーター」も個人で新たに設置するには高額です。国は街づくりと一体化して、効率的に電力を運用していく必要があるのではないでしょうか。環境省は、‘19年より省エネ製品買換ナビゲーション「しんきゅうさん」をウェブで公開。また、ステイホームで長時間使用するようになったエアコンのサブスク化の検討も進めています。新しい省エネ機種を購入するのではなく、月額使用料を支払い、導入しやすくする狙いがあります。また、大学や公的機関のインフラを再生エネルギー100%に変えていく試みも始めようとしています。企業に対しては、太陽光パネルの設置の義務化も提案されましたが、それには森林を切り開かなければいけなかったり、台風や土砂災害により太陽光パネルが産業廃棄物になってしまうという環境負荷の問題もあり、異論が出ています。そんななか、非常に薄いフィルム状の「ペロブスカイト太陽電池」が開発されました。世界で注目の次世代型太陽電池で日本でも研究が進んでいます。将来は自分の使用するエネルギーを、身につけているものでまかなう時代になるかもしれません。新しいテクノロジーに社会的関心が高まり、研究促進の後押しになるといいなと思います。ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年10月6日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年10月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アフガニスタンとタリバン」です。タリバンの圧政を恐れ、逃げる国民。世界の監視が必要。8月16日、武装勢力タリバンがアフガニスタンのほぼ全域を制圧しました。タリバンは1996年に政権を樹立。しかし2001年、アメリカ同時多発テロの首謀者・ビンラディンを匿っているとして米軍などがアフガンを空爆、政権を崩壊させました。その後、約20年間、タリバンは駐留米軍や政府軍と戦闘状態にありましたが、前トランプ政権時に米軍が撤退することで合意。引き継いだバイデン大統領が5月から撤退を本格化させるとタリバンは次々に全土を掌握、首都を包囲されたガニ大統領は国外に逃れ、8月末の米軍の完全撤退前に政権が崩壊しました。元タリバンの兵士で、現在は現地で平和構築活動をしている方を3年前に取材したことがあります。そのときに、「シリア内戦やISの台頭など、世界の注目がアフガニスタンから外れていった。その空白(時期)が生まれると暴力が起きる」とおっしゃっていました。今回の制圧も急に進んだのではなく、ガニ政権は腐敗しており、タリバンの活動は近年活発化していたのです。旧タリバン政権は女性の教育や就労を認めず、男性家族が同伴しない外出を禁止。人権侵害だけでなく、反政府勢力となってからは無差別テロをたびたび起こすなど残虐性が増していると指摘する海外メディアもあります。復権による圧政を恐れた国民は、国外に逃れようと空港に押し寄せ、離陸する飛行機にしがみつき振り落とされて亡くなる悲劇も起こりました。そんななか、中国やロシアはいち早くタリバン新政権を支持すると表明しました。中国にとっては一帯一路構想の重要な地域なので、タリバンと良好な関係を築いておきたいのです。一昨年、アフガニスタンの緑化運動を進めていた中村哲医師が、武装勢力に殺害されました。現地には日本の人道支援に対して、強いリスペクトを持つ人が大勢います。こういうときこそ、アメリカかタリバンかではなく、市民の側に立ち、生活が安定するように関わり続けることが重要なのではないかと思います。いま現地では、激しい攻撃を受けながらも、女性たちが権利を求めて抗議活動を行っています。動向を注視しなければなりません。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年9月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年09月24日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新型コロナの治験」です。多くの治験が新薬の完成を早めます。新型コロナウイルス感染症の感染拡大がなかなか収まらないなか、急がれるのは治療薬の開発です。そのために行われるのが「治験」です。治験とは、新しい治療薬の候補が開発される過程で、健康な人や患者さんに使ってもらい、効果や安全性、副作用の有無などを確かめる臨床試験のこと。体を使って調べるため、もちろんリスクを伴いますが、検査費用の負担はなく日本では何かあればすぐさま医療機関による手厚いフォローが受けられます。現在、国立国際医療研究センターの治験管理室や「生活向上WEB」で、新型コロナの治験参加者を募集しています。「生活向上WEB」の募集案内によれば、自宅で服薬しながら病院に定期的に通い、7か月にわたり経過を調べる。通院は、自宅から病院まで専用タクシーが送迎。参加することにより、薬の開発は進み、社会貢献になると記されています。ただし、治験にはデータを採るのに適した検体でなければいけません。新型コロナの治療薬候補の場合、陽性患者で症状があり、ワクチンをまだ一度も接種していない成人男女が対象になります。あらゆる治療薬の開発に治験は欠かせません。日本での治験の数は近年増えていますが、先進国のなかでは下位に位置します。アメリカなどは医療費が高額なため、無料で治療を受けられる治験を希望する人は大勢いますが、日本では一定水準の医療が保険適用で受けられるので、無理して受けようという人は限られているのです。治験の数が足りない分は、アジアの他の国のデータを活用しますが、日本人の治療には、やはり日本人による治験の結果が必要です。たとえば、海外の製薬会社で新薬が開発されても、日本人の治験結果がなかなか採れないためその薬が日本に投入されない、もしくは日本向けには開発されないという問題が起きてしまいます。このことに厚労省は危機感を抱いています。治験については、まだ一般にはよく知られていません。政府はもっと広くアナウンスするべきではないでしょうか。新型コロナの治療薬も、多くの治験データ収集が、完成に少しでも近づけることになります。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年9月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年09月18日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「モバイルマネー革命」です。デジタル払いが経済の活性化を加速させる?海外に比べて、日本のキャッシュレス化は遅れており、未だ現金決済が主流です。そんななか、厚生労働省の労働政策審議会では、給与の支払いを銀行口座を介さずに支払えるようにする議論が始まりました。労働基準法では、賃金は通貨(現金)で、直接労働者に全額を毎月1回以上、一定の期日を決めて支払わなければならないことが定められています。ただし、労働者との合意があれば賃金を銀行口座や証券総合口座に振り込むことが、例外的に認められているのです。それが今後、PayPayやLINE Payなどの「ペイ」で支払える、給与のデジタル払い解禁に向けた検討が進められているんですね。企業が個人口座に電子マネーでの給与支払いが可能になれば、振込手数料がなくなりますし、コスト削減や時間の短縮に繋がります。また、アルバイトや日雇いなど、有期雇用労働者への支払いも早くなるでしょう。銀行口座を容易に開けない、海外から来られた労働者の方も「ペイ」での支払いに代わっていくかもしれません。ただし、金融機関のような預金の保険制度がないため、それらの資金決済事業者が破綻した場合、どれだけ元本が保証されるのかという問題はあります。現在、給与所得者は2019年年末時点で5990万人います。また、全国銀行協会が主要銀行を対象に調べた、2020年通期の「キャッシュレスによる払出し比率」調査によると、個人の給与受取口座からの出金は109兆円。そのうち現金が47.4%、キャッシュレスは52.6%で現金を上回っていました。内訳で一番多いのはクレジットカード払い。今後、振込手数料を取れなくなると、銀行はビジネスモデルを根幹から変えなければならなくなると思います。現在、銀行以外で送金サービスを担う登録事業者の数は国内で80にのぼります。Googleが日本の個人送金サービスアプリを買収するという報道もありましたし、この分野の急成長は間違いないでしょう。これにより経済は一層速く回るようになりますが、それが持続可能な範囲なのかどうか。振り回されない注意も必要だと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年9月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年09月10日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ワクチンパスポート」です。海外渡航で必須になるアイテム。デジタル化を求む。7月より、新型コロナウイルス感染症のワクチンパスポート(接種証明書)の申請受付がスタートしました。これは海外渡航を予定している人のみに申請資格があり、各市町村が受付窓口になります。カンヌ国際映画祭では、参加者にはワクチンパスポートか2日以内の陰性証明書が義務づけられていました。このように諸外国に旅するときにこれからは必須になってきます。ワクチンの接種証明書自体は目新しいものではありません。たとえば、アフリカに行くには黄熱病の予防接種証明書が必要です。新型コロナウイルスのワクチンパスポートに関しては、ヨーロッパではブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、ドイツなどの7か国が「EU Gateway」という仕組みのなかでワクチン接種情報を共有しており、「EU Digital COVID Certificate」というスマホアプリから、QRコードを表示して確認する証明書を活用しています。日本ではデジタルなのか紙で発行するのかが争点になっていましたが、当面は紙の書面で運用することになりました。経団連は6月末に、ワクチンパスポートの早期活用を求める提言を政府に提出しました。ワクチンパスポートを提示することで、イベント会場の優先的な入場や、飲食店の割引、特典が付与できる仕組みを作り、経済活性につなげたいという狙いでした。これに対し、「現時点では運用は考えていない」と河野ワクチン担当大臣は回答。ワクチンを打つ、打たないは個人の選択に委ねられており、それにより不公平が生じることは避けたいという理由です。企業内でも、ワクチンを打たない選択をした人が差別される問題が起きており、慎重な議論が必要です。また、ワクチンパスポートに関しては、証明書発行のための世界的なルールがまだ存在していません。偽造防止対策も行わねばならず、なかなか進んでいないのです。デジタルの活用は、日本は世界のなかでも大変後れをとっています。新しい技術を持ったベンチャー企業とともに、透明性の高いプラットフォームで、新しい技術が国の仕組みに活用されていくことを強く期待したいと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年9月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年09月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アップルデイリー」廃刊です。中国の脅威拡大。一国二制度が終わりを告げた。香港に唯一残っていた民主派の日刊紙「アップルデイリー(蘋果日報/ひんかにっぽう)」が6月に廃刊しました。創業者のジミー・ライさんをはじめ、新聞の編集に関わっていた幹部6名が香港国家安全維持法違反の罪に問われ逮捕されました。言論の自由が封鎖され、香港の一国二制度が終わったことを印象づけるニュースでした。「アップルデイリー」はもともとは大衆ゴシップ紙だったのですが、やがて民主化運動のための機関紙になっていきました。最終号は100万部刷られ、すべて売り切れたそうです。中国は習近平国家主席体制になってから、今後100年の国家運営のあり方を示しており、その上位に「香港と台湾を一つの中国にする」という言葉が挙げられていました。そのため、次のターゲットはおそらく台湾でしょう。中国が実力行使に出るのか、経済力をもって取り込んでいこうとするのか、その瀬戸際にいま立たされています。2014年、香港の「雨傘運動」に先立って台湾では「ひまわり学生運動」が広がりました。当時の馬英九総統は、中国と親密な関係を築こうと、貿易交渉を進めていました。本土から台湾への移住者が増え、商売の結びつきを強めて台湾―中国間に自由貿易協定が締結されれば、中国経済依存になってしまう。そうなれば政治的にも呑み込まれ、自由と民主が奪われることを危惧し、学生たちは台湾の国会議事堂である立法院を占拠し抗議の声をあげました。その結果、現在の蔡英文政権が発足。蔡さんは中国に対峙する構えを世界に表明しています。国が変わる瞬間というのは、革命が起きてひっくり返るのではなく、経済的侵食によってじわじわと塗り替えられていくんですね。香港の人たちは、台湾の次は日本だと話しています。中国の新疆ウイグル自治区や香港に対する非人道的な行いに対し、日本は明確な抗議を示せていません。経済の結びつきがあるため中国を敵に回したくないのです。「アップルデイリー」の廃刊は民主国家にとって無視できない動きですが、同時に、世界ではこれがマジョリティではないという認識にも立っておかなければいけないと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年9月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年08月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「熱海土砂災害」です。突発的な災害に備えるため、住む地域を見直そう。7月、熱海市伊豆山地区にて大規模な土石流が発生し、約130棟の建物が被害に遭い、多くの死者と行方不明者を出しました。現地に行ってみると、典型的な土石流とは明らかに様子が違いました。これまでの現場では大岩や根から折れた木などが流れてきて、土は粘り気のある泥状でした。ところが今回は、土を踏むと膝まで埋まってしまうサラサラのシャーベット状で、足が掬われそうになりました。専門家の調査では、「盛り土」により造成された山が崩壊し、そのまま土砂となって流れていたことが判明。この場所の、度を越した盛り土問題は県も把握しており、業者に対して指導をしていたにもかかわらず、対策が取られていなかったことが問題になっています。土石流を引き起こしたのは短時間の集中豪雨。熱海市の72時間降水量は、過去最大量の1.3倍にあたる500mm以上だったことが分かりました。明らかに気象が変わってきているため、防災基準の見直しは必須でしょう。国土交通省は大規模盛土造成地の徹底調査を行っており、全国で5万1306か所存在していると昨年3月に発表していました。しかし、自治体に対し国が安全対策の必要性を伝えても、自治体には、民間業者に販売権利を撤回する権限はありません。また、この背景には、都市近郊に人口が集中し、土地のないところに土地を造成して住宅を増やさねばならないという近年の宅地開発の流れも深く関係しています。やはり自分の身は自分で守るしかないと思います。山や川が近い、液状化が起きるかもしれないなど、自分の住む地域に災害の可能性を少しでも感じているのならば、何らかの対策を検討する必要があります。熱海の土砂崩れの第一報は、公的機関の発表より前に住民のグループラインによって、「あそこが危ないらしい」と連絡が回ったそうです。集中豪雨はすさまじい雨音のため、広報車の避難アナウンスもほとんど聞こえなくなります。予期せぬ大規模災害を即座に察知するには、地域住民の連携による防災発信が大切になります。これからは、“地方創生と防災”が、住みやすさの大きなキーワードになると思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年8月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年08月24日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「推し活」です。主観的価値に支えられ、経済効果も期待。アイドルや俳優などを積極的に応援する活動のことが「推し活」と呼ばれるようになりました。知人のプログラマーさんは「推し活」を認めてくれることを条件に就職先を選んでいました。彼を見て、それが働きやすさにつながっているのを実感しました。さらに、ゲームの企画・開発・運営を手がけるジークレストという会社では、「推しメン休暇」という型破りな福利厚生制度を設けています。自分のイチ推しメンバーの記念日には休暇を取得できるというもので、お祝いを支援するための活動費も会社が負担。推しメンの誕生日やライブ開催日への参加も会社がサポートします。「推しメン休暇」を使うことで、様々なアイデアに触れ、ゲーム開発に役立ててほしいという意図なのだそうです。つまりリフレッシュ休暇制度と同じ福利厚生策ですね。かつて「オタク」という言葉は暗いイメージだったのが、やがて得意な分野にすごく精通した、職人的な専門家という概念に変わりました。さらにAKB48などの登場により、「この人を応援する」という個人の行動が、そのアイドルをスターダムに押し上げていきました。「推し」という概念が商業的にもメディア的にも認知されるようになった。その延長線上に、クラウドファンディングのような仕組みや、YouTubeライブの投げ銭機能「スーパーチャット」も生まれました。まさに「応援消費」をうまく取り込んだシステムだと思います。推し活は経済効果も期待されています。いまは消費が落ち込んでいますから、内需を刺激しなければなりません。モノはある程度行き渡っているので、なにかのサービスに投じなければならない。それが、「自分が良いと思ったものにお金を投じる」という、主観的価値に支えられた信用経済として回り始めたのです。ファンでもないAさんにとってはまるで価値のないことでも、ディープなファンのBさんにとってはものすごい価値になる。百人百通りの好きがあっていいという、多様性につながります。「推し」のバリエーションが増えれば、お金を回す先も増えるということですから、歓迎すべき流れなのではないかと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年8月11日‐18日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年08月07日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「育休法改正」です。現場の声を反映。男性が取得しやすい制度に。改正育児・介護休業法が成立し、2022年より施行されることになりました。この改正の大きなポイントは、「男性が育児休業を取りやすくするように定めた」ということです。これまでの男性の育休取得率は7.48%、1割にも達していませんでした。さらに、取得した人のうち、7割が取った期間が1週間以内。もっと長期に、必要なときに分割して何度でも取れるようにと、現場のお父さんお母さんの声が改正案には反映されました。これは大きな前進だと思います。現在、孤立してしまうお母さんの産後うつの問題が深刻です。また、僕も経験がありますが、働く男性にしてみたら、いったん長期間休んで前線を離脱してしまったら、元のポストに戻れないのではないかという怖さもあります。さらに、休めば残業代が減ってしまいます。そういう経済的理由からも育休は取りにくいものでした。改正後は新たに出産日から8週間の間に4週間の育休を取れ、子供が1歳になるまでに女性は2回、男性は最大4回に分けて取得することが可能になります。さらに、育休取得日の半分を上限に仕事をすることも認められます。給付金は育休開始時賃金の67%が支給され、厚生年金など社会保険料が免除されるため、実質、収入の8割程度が保障されることになります。これまでは正社員だけの制度でしたが、改正法では、働いて1年未満の非正規雇用でも育休を取れるように変更されました。ある調査で男性の5人に1人が、育休を取らなかった理由を「職場が育休制度を取りづらい雰囲気だったから」と答えています。「取っていいと思っているのか?」と上司に言われ、申請できなかったという例も聞きました。そんな職場の空気を是正するため、育休取得対象の男性に、会社は制度の説明をし、取得の意向を確認をすることが義務化されることになりました。日本は有給休暇も取得率が極端に低い。けれども休みを取りやすい会社のほうが生産性が高いという数字も出ています。休むことで仕事のパフォーマンスも向上します。子供の有無にかかわらず、休みが取りやすい職場に変わっていくことを期待したいですね。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年8月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年08月03日新しい価値観を持つと期待されるZ世代。社会問題にためらわず「NO」を言い、解決できる方法を模索する頼もしいアクティビストが増えています。なぜ彼らは社会のために行動を起こせるのか?その輪郭を探ります。より良い社会を目指して互いを理解することから。今、違和感に率直に声を上げるZ世代と呼ばれる若年層が注目を集めています。生まれた時からすでに国内の経済成長は止まり始め、社会に出る頃にはメンタルヘルスが社会問題となって働き方改革が提唱され、異常気象などの気候変動はもはや身近な問題となり、SDGsが叫ばれる――そんな時代を生きているZ世代。社会の仕組みに限界も感じ、SNSなどを通して発言するアクティビストも増えているようです。Z世代とは…1996~2015年頃に生まれた世代を指す、アメリカで生まれた区分。’65~’80年頃生まれのX世代、’81~’95年頃生まれのY世代(ミレニアル世代)に次ぐ世代。SNSやデジタルツールを使いこなし、ソーシャルネイティブ、テックネイティブなどとも呼ばれる。ジャーナリスト・堀潤さんと一緒に考えるZ世代のリアル。社会問題に関心が高く、積極的にアクションを起こし、存在感を増しているZ世代。そんな彼らが生まれるのには歴史的・社会的背景があった!堀潤さんが解説してくれました。社会のニーズとマッチ。技術と実行力がある世代。メディアに携わる立場から、Z世代が注目される理由を考えると、経済の価値観が大きく変わったという社会背景がまずあると思います。SDGsが叫ばれ、ESG投資が始まり、環境や人権に感度の高い企業でなければ投資家は相手にしませんし、そういう企業を持つ国でなければ、グローバルな経済活動がままならなくなりました。そこで求められるのがZ世代。新しい価値観を持っており、デジタルネイティブでもある。気候変動や紛争など、長年解決できなかった問題にようやく世界が本腰を入れて取り組もうとしている中で、それを仕事にできる世代です。具体的なニーズに対して新しいサービスやアプローチを提示できる、実行力もテクノロジーもモチベーションも併せ持っています。これまでの社会運動は理念先行でした。しかし、今は実利を伴うため、賛同を得られやすい。だからこそ、社会はZ世代に期待をし、Z世代のアクティビストも安心して行動を起こせるのだと思います。Z世代のアクションを後押しする世界の現象。1、経済界の変化経済界でもSDGsがスタンダードに。環境や人権問題に敏感な企業でなければ投資をしないというESG投資が始まり、これまでは理念にとどまっていたことが、実行に繋げなければ経済が回らなくなってしまった。結果、SDGsへの社会的理解を後押しする形に。深掘POINT:『ヴィクトリアズ・シークレット』がリブランドを発表。ブロンドの白人モデルを使い、ブランドイメージを作ってきたアメリカの老舗下着メーカーが6月に劇的なリブランドを発表。トランスジェンダーや有色人種のモデルを起用し、多様性を謳う企業であることをアピールした。2、社会的価値観の転換待ったなしの気候変動や経済格差。地球温暖化により各所で大きな自然災害が起こり、甚大な被害をもたらしている。またグローバル化で、富む者はさらに富み、貧困層は貧困から抜けられないという連鎖が加速。既存の価値観による不都合が露わになり、世界的危機に。深掘POINT:トランプ氏の経済政策よりも支持されたバイデン氏の「Green New Deal」気候変動対策や再生可能エネルギーに国が財政支援を行うことで、新たな雇用を生み、格差問題も解決しようという「Green New Deal」が強く市民に支持された。環境に配慮しない経済優先の価値観にストップがかかった。3、リベラルな価値観の醸成SNSで日常的に世界の情勢に触れている。ネットの登場で、どこにいても世界の出来事を時差なく知ることができる時代。マララ・ユスフザイさんの人権運動や、グレタ・トゥーンベリさんの地球温暖化の弊害の訴えが世界に広がったのもSNSなくしては語れない。深掘POINT:SNSを中心に盛り上がった#BlackLivesMatterや#MeToo。人種問題や男女差別などの長年の問題も、SNSのハッシュタグを掲げることで、賛同者の横の連携がなされ、世界的なムーブメントに。日常の中で世界が直面する問題に触れることで、リベラルな意識を高めるZ世代が増えた。4、ツールの多様化インターネットが浸透し、テクノロジーも進化。電子決済やドローン、自動運転等々、AIやテクノロジーの進化により、これまで難題と思われていた社会問題も解決策が見えてきた。アイデアとツールを使いこなす技術があれば、インパクトのあるイノベーションが起こせる時代に。深掘POINT:資金集めのハードルにはクラウドファンディングが登場。これまでは個人の活動には経済的にも限界があった。しかし、賛同者を得れば目的達成のための資金を広く集められるクラウドファンディングのシステムが生まれ、若くても無名でも活動実現が可能になっていった。堀 潤さんジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)に出演中。著書に『わたしは分断を許さない』(実業之日本社)など。Z世代を中心としたU‐29のコメンテーターを迎え、堀さんと語るニュースショー。硬軟おりまぜた人選が見どころ。『堀潤モーニングFLAG』TOKYO MX平日朝7:00~放送。※『anan』2021年8月4日号より。写真・土佐麻理子イラスト・くどうすみか(by anan編集部)
2021年08月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「パレスチナ自治区(中東和平)」です。長い歴史のなかで残る禍根。日本は中道を保って。5月にイスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム原理主義組織「ハマス」による軍事衝突が起こりました。ハマスはイスラエルのテルアビブに約300発のロケット弾を撃ち込み、イスラエル国軍はAIを使った装備で、ロケット弾を追撃。街なかに車ぐらいの巨大な弾の破片が降ってくるような状態で、多くの市民が巻き込まれました。11日間の戦闘の末、エジプトの仲介により停戦となりました。そんななか、中山泰秀防衛副大臣のツイッターが注目されました。「最初にロケット弾を一般市民に撃ったのは誰だったのか?私達の心はイスラエルと共にあります」。この文言だけを読むと日本がイスラエル支持のようにもとれ、世界で問題になったのです。しかし、僕はガザ地区を以前取材しましたが、パレスチナ自治区の住民全員が必ずしもハマス支持とは限りません。ハマスがガザに居続け声を上げるのは、イスラエルが繰り返し、不法にパレスチナ人の土地に入植しているからです。我慢の限界がきてしまったんですね。イスラエルはアメリカと緊密な関係にあります。日本はアメリカと親和性が高いですが、アラブ諸国ともいい関係を築いています。石油はアラブ諸国から輸入しており、イスラエルと対立するイランからも供給を受けています。なので日本はこれまで、中立の立場で、人道支援という形で関わってきたんですね。中東は、私たちの生活を支える、エネルギー資源を供給してくれている地域です。それにもかかわらず、日本人が中東状況をよく知らないというのは問題なんじゃないかと思います。イスラエルでは汚職にまみれたネタニヤフ政権が倒れ、大連立政権が立ち上がりました。しかし、新たに首相になったベネット氏はネタニヤフ前首相よりもさらに極右といわれているので、対パレスチナ、中東政策はこれまで以上に厳しくなるかもしれません。イランやシリアは中国やロシアが支援をしているので、イスラエルやアメリカとの対立が鮮明になる可能性があります。中東和平が世界の平和の大きな鍵を握ります。また、エネルギー供給を介し、私たちの暮らしを下支えしていることもどうか忘れないでいてください。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年7月28日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年07月24日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「LGBT法案」です。LGBTと一括りではなく個別の課題解決を。与野党合意で進められていた、性的少数派をめぐる「理解増進法案」は自民党内の強い反対を受け、今国会での提出を断念しました。オリンピック憲章では、いかなる差別も認めず、ジェンダー平等を謳っています。オリンピック開催国でありながら、この法案が成案できないというのは恥ずかしい状況だと思います。2014年のソチオリンピックでは、ロシア政府が同性愛を認めないとLGBT運動を弾圧したため、各国の首脳は抗議の意を示し、開会式の参加をボイコットしました(日本は参加していました)。自民党内でも、稲田朋美議員をはじめ、LGBT当事者と対話を重ねてきた議員はなんとか成案させようと与党幹部に詰め寄りましたが、「家族観が壊れる」など、ベテラン議員からのクレームがついて進みませんでした。もともと野党は、ヘイトスピーチや、同性愛者という理由で入居を拒否されたり、社内で差別を受けたりすることを禁止する「差別解消法案」を提出していました。それに対して自民党はLGBTの人々の実情をまず知ってもらおうと「理解増進法案」を進めていました。結局、自民党案を修正する形で与野党合意したのですが、「差別は許されない」という文言に対して、与党内の保守派が「権利を与えることで、権利を極度に主張されると訴訟が起こり、かえって分断を生む。何をもって差別とするかを定義づけないかぎり法案は認められない」と強硬姿勢を崩さず、国会提出も叶わなかったのです。たとえ法律ができたとしても、差別感情を持つ人の意識が一変するわけではありません。理解を深めるためには、対話や交流の場を増やすことが肝要なのだと思います。残念なのは、この制度を決める国会議員の中に、公表しているLGBT当事者がほとんどいないということです。議員の多様性のなさにも問題があると言わざるを得ません。最初からLGBT法案に賛成か反対か、という二択から始めるのではなく、もっと小さな主語で、性別の問題で困っているさんの課題に対処するには、どんな方法があるのか。具体策を一つずつ見出すことが、状況改善の糸口になるのかもしれません。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年7月21日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年07月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「グローバルミニマム税」です。世界に広がる格差緩和を期待して、7月合意を目指す。グローバルミニマム税は、タックスヘイブン(租税回避地)問題の対処法として掲げられました。グーグルやアマゾンなど、グローバルに展開している巨大企業は、聞いたこともないような小さい島国に法人登記をしています。法人税の安い国や地域に籍を置き、多額の税の支払いを逃れているのです。小国は小国で、税収を得るために税率を極力低くし、積極的に企業誘致をしてきました。これがタックスヘイブンです。主権国家は多額の税収を失い、世界中で長年の問題になっていました。そんななか、アメリカが中心となり、OECD加盟国を中心に140の国と地域に、グローバルミニマム税の実現を呼びかけたのです。世界的に最低税率を15%以上に決めて、法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけようという提案です。7月にイタリアで開催されるG20財務大臣・中央銀行総裁会議にて、その合意を目指そうとしています。主に対象となるGAFAやマイクロソフト社などはアメリカで生まれた企業ですから、これはバイデン大統領流の理にかなったアメリカ・ファーストと言えます。トランプ前政権は、アメリカ国内に本籍を置く企業の税を優遇し、関税を高くすることで対処しようとしていましたが、カリフォルニア系の企業の多くが反トランプ派だったため、次々に国外に出ていってしまいました。バイデン政権はそれに歯止めをかけようとしています。巨大グローバル企業に課税できるようになれば、多額の税収を再分配できます。世界の格差是正の一環として打ち出されているというのが、グローバルミニマム税の大きなポイントです。ちなみに日本の法人税は20%台。OECD諸国の中では高いほうです。経団連はもっと下げてほしいと国に要請しています。日本のタックスヘイブン対策は令和元年に変わり、事業実態が他国にあっても、日本の親会社による管理が確認されれば、タックスヘイブン税制の適用除外と判定されます。残念なのは、グローバルミニマム税の対象となる世界を席巻する多国籍企業の中に、日本の新しい企業を送り込めていないことです。足元の産業をどう育てるかが課題となっています。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年7月14日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年07月10日