サラ・ベルナール、ヘレン・ミレンといった世界の名女優が演じてきた古典劇『フェードル』に、大竹しのぶが挑む。演じるのは、義理の息子への破滅的な想いに身を焦がす女性だ。その激情をいかに表現し、今に何を伝えるのか。大竹の言葉に、古典だから味わえる面白さがあることが、早くも見えてきた。舞台『フェードル』チケット情報これまでにギリシャ悲劇やシェイクスピア劇を経験してきた大竹にとっても、古典は久しぶりとなる。持ちかけたのは、数々の賞を獲得した『ピアフ』などでタッグを組んでいる演出の栗山民也。「普通に劇場で準備してるときに、いきなり、『古典やろうよ』と言われて(笑)。私もずっとまたやりたいなと思っていたので、ぜひという感じでした」。古典劇に惹かれるのは、そこに「演劇の原点がある」と感じるからだ。今回の『フェードル』も同様である。「書かれている台詞の言葉に力があって、愛はとことん愛、憎しみはとことん憎しみ、というふうに中途半端なことがないんです。それだけのエネルギーを持った言葉を発するにはやはりこちらも強くないと。だから演劇の原点だなと想いますし、『フェードル』はとくに、登場人物それぞれが自分の発した言葉に翻弄されていくところが、すごく面白いなと思うんです」。『フェードル』は、17世紀のフランスの劇作家ジャン・ラシーヌが、ギリシャ悲劇『ヒッポリュトス』から題材をとって創り上げた作品。国を出たまま行方不明となっている王(今井清隆)を夫に持ちながら、義理の息子(平岳大)への思慕に狂わんばかりのフェードル。ついにその恋心を告白するも、王が突然帰還し、さらに息子には別に思う娘(門脇麦)がいることがわかり、運命は悲劇へと向かっていく。「改めて、人間って昔も今も何ひとつ変わっていないんだなと思います。たとえば不倫の恋をしてしまうこともそう。それを、“私はもう死んだほうがいい。死ぬの、死ぬの、死ぬの!”というふうに激しく描かれているので、きっと笑えると思うんですね。古典といっても難しい話ではなく、まさに今の私たちと同じ人間の話であって。人間って本当に愚かだなって笑ってもらえればいいなと思います」。演じる側としても古典は「アドレナリンがどんどん出てきて楽しい」ときっぱり。「だから、そのエネルギーを、たとえば闘牛を観て興奮するのと同じような感覚で観てもらえればいいなと(笑)。それぐらいエネルギーが放出されている舞台にしたいと思います」。人間が本来持つ激烈を見せつけられることで、生き方をも揺さぶられるかもしれない。公演は4月8日(土)から30日(日)まで東京・シアターコクーンにて。その後、新潟、愛知、兵庫を巡演。取材・文:大内弓子
2017年02月27日1966年の初演以来再演を重ねてきた舞台『細雪』。3月からの明治座公演の初日には、通算上演回数1500回を迎える。そんな節目にあたる今回の公演は、キャストも新しくなった。2008年6月から次女幸子を演じてきた賀来千香子が長女鶴子役に、2011年10月から三女雪子を演じてきた水野真紀が次女幸子役に。そして、新たに参加することになったのが、三女雪子役の紫吹淳、四女妙子役の壮一帆という、元宝塚トップスターである。さて、この名作に飛び込むふたりの思いは──。舞台『細雪』チケット情報取材を行ったのは節分の日。紫吹と壮は艶やかな舞台衣装の着物をまとい、長女の賀来、次女の水野とともに、水天宮の豆まきに参加した。「明治座にたくさん足をお運びいただけますようにという思いも込めながら、みなさんの福を願いました」と紫吹。そんな貴重な体験ができたのも、『細雪』のキャストに抜擢されたからこそだが、初参加にあたってふたりは、「光栄な気持ちでいっぱい」と声を揃える。ことに、宝塚を卒業してから今年2年目を迎えたばかりの壮は、「女優としてご自身の道を極めてらっしゃる先輩方と共演させていただくのは不安でもありますが、貪欲に課題を見つけて、女優として磨きをかけていきたいと思っています」と感激もひとしおだ。紫吹が演じる三女雪子は、内気で繊細、縁談を断り続けているという役どころ。「私のイメージとは違うかもしれないんですけど(笑)、歴代の雪子さんのイメージを壊さず、私なりの色をつけられたらと思います。どうしても何かやりたくなってしまうので、そこを我慢するのが私の今回の勝負どころかな」と冗談を交えながらも意欲を燃やす。四女妙子は、四姉妹の中で最も現代的で活発な女性。「いちばんいろいろやらかす人物に描かれているので、上演時間の中でそれが説得力を持ってお客様に伝わるように、自分の中できちんと心理的な積み重ねをして演じたいと思います」と、壮も早くも臨戦態勢だ。こんなにも長く上演されてきたこの作品の魅力に、紫吹は「日本の良さが凝縮されていることと、深い絆で結ばれている姉妹愛」を挙げる。家が傾き戦争が始まりと、苦難が続く中でも、優雅に美しく生きようとする四姉妹の姿は、確かに今だからこそ訴えかけるものも大きそうだ。「いろんな演劇が生まれる中で変わらずに残っている『細雪』は、ひとつの財産」と壮も言う。顔ぶれが変わることでその伝統に新鮮さも加わるだろう。期待したい。公演は3月4日(土)から4月2日(日)まで東京・明治座にて。その後、4月12日(水)から福岡・博多座で上演。取材・文:大内弓子
2017年02月20日若手俳優とタッグを組み、ザ・スズナリという濃密な空間で人間ドラマを紡ぐ。岩松了のその試みに堀井新太と黒島結菜が参加する。これまでも若手の群像劇には定評があった岩松。今回の『少女ミウ』では、一家心中の生き残りの少女をめぐる物語を描くのだという。その中で追求したいのは「男と女の生態」という岩松ならではの思索に、堀井と黒島も興味津々。初顔合わせの3人に期待が募る。舞台『少女ミウ』チケット情報岩松作品には初参加となる堀井と黒島。「いろんな人から岩松さんの情報を仕入れてたんですけど(笑)、必ず得られるものがあるので本当にいい経験ができるとみんなが言っていたので、今はそれが楽しみ」(堀井)、「岩松さんの作品を演じるのには、まだまだ力が追いついてないと思うんですけど、一生懸命くらいついていきたい」(黒島)とそれぞれに、岩松の作品世界と演出が自分に大きなものをもたらすはずと、確信している様子だ。そんなふたりをはじめとする若手俳優10名と岩松が作り上げるのは、黒島演じる一家心中の生き残りのミウという少女と、彼女を通り過ぎていく人間たちの群像劇。その中でも大きな存在となる男を堀井が演じ、「お互いがどんなふうに相手を利用したり拠りどころにしたりするのか、いろいろ考えながら書いていきたい」と岩松は言う。そのもとには、岩松のこんな思いがある。「人間って社会性を持って生きているけれども、動物のレベルに戻すとどう動くのかっていうことを見せることで、規律とかモラルって何だろうと知らしめることができるんじゃないかなと思ったんです。舞台上で行われることは不条理に見えるかもしれないけど、実は非常にまっとうなことをやっているのだと。“人もまた動物である”っていう副題をつけられるぐらい、動物的な話をやりたいと思います。男と女についても、結局は、女が男を利用して、男は消費されていくんだっていうような(笑)」。岩松の話に「女性にはかなわないという境地に達するのはもう少し先かも(笑)」という感想をもらした堀井。「岩松さんに言われることを柔軟に素直に受け止めてやりたい」と意気込む。黒島も「今までに演じたことのない役どころになると思うので、知らない自分をいっぱい引出してもらいたいと思いますし、自分も新しいものを引出していきたいと思います」と胸を高鳴らせる。人間の本質を問いかけるからこそ作り出される岩松の不可思議な世界。若手俳優のまっすぐさが、その面白さを忌憚なく伝えてくれるだろう。公演は5月21日(日)から6月4日(日)まで東京・下北沢のザ・スズナリにて。チケットぴあではインターネット先行抽選を実施中、2月20日(月)午前11時まで受付。取材・文:大内弓子
2017年02月15日毎年上演される美輪明宏演出・主演による舞台が、今年は、三島由紀夫作、近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』に決まった。美輪×三島の幽玄的な世界が7年ぶりに立ち上がるとあって早くも期待が膨らむ。しかも、この演目の上演はこれが最後になるかもしれないと美輪は言う。その覚悟と作品への思いを聞いた。【チケット情報はこちら】美輪による『葵上・卒塔婆小町』を、三島は切望していたのだという。実現したのは、三島が亡くなった後の1996年。今度で5度目、7年ぶりの上演となる。不思議なことに、上演を決めた途端、未発表だった三島の肉声テープが見つかるというどこか因縁めいた出来事もあった。「それが亡くなられる9か月前のインタビューを録音したもので、演技論や小説のことなど、私によくおっしゃっていた話がそのまま入っていたんです。この舞台の宣伝のために出てきたとしか思えません(笑)」。そもそも三島が自身の作品を美輪に託したのは、その行間までをも表現し得る稀有な存在として認めたからだ。当初、なかなか当たらなかった三島の芝居は、美輪が『黒蜥蜴』に主演して、大評判を取るようになった。そこで次に三島が美輪に望んだのが、「近代能楽集」である。その短編戯曲集の中から、嫉妬心にかられて生霊となって不倫相手のもとに現れる女を描いた、小野小町と深草少将の伝説をもとに100歳の老婆の哀しい運命を描いた、この2作ならと美輪は答えた。「近代能楽集の中でも、このふたつはいちばん普遍性があると思ったからです。の描く不倫なんて、ギリシャ悲劇の時代から変わりません。美しく生まれついたがゆえに自分を美しいと言った男は死に、100年ごとに生まれ変わるという運命を背負うことになるはまさに“正負の法則”です。両方とも、愛、美、死、無常といったこの世の法則に則ったことが描かれているんです」。では、100歳の老婆から美しい小町へと早替りする美輪の演技術にも驚かされるはずだ。が、「腰を曲げて、歯の抜けたしゃべり方をする老婆からスッと美女になるのは、体力的にも大変なんです。これが最後になるかもしれないと思っています」と美輪。だからこそ、「三島という天才から託されたものを伝えていきたいと思います」と気持ちも募る。恐ろしくも切なく美しくドラマティックに。天才に信頼された美輪だから描けるエンターテインメントである。近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』は、3月26日(日)東京・新国立劇場中劇場より上演。その後各地を周る。取材・文:大内弓子
2017年02月02日2013年に上演された公演の反響の大きさから、3部作となったワハハ本舗全体公演『ラスト』。その完結編となる『ラスト3 ~最終伝説~』が2017年5月からついに幕を開ける。スタッフを含めて総勢70名にもなるワハハのメンバーが勢揃いする全体公演は、本当にこれで見納めになるのか!?そしてどんな伝説を作るのか。ワハハ本舗主宰・演出の喰始を筆頭に、久本雅美、梅垣義明、大久保ノブオが、『ラスト3』への思いを語った。WAHAHA本舗全体公演 ラスト3 チケット情報個々に活躍の場を持つメンバーも多いワハハ本舗だが、全員が集まる全体公演は、演者にとってもかけがえのないものであるようだ。まず久本が言う。「やっぱり、全体公演でしかできないことってあって。男性がふんどし一丁で踊るとか、女性が裸スーツで桜吹雪の中で踊るとか、大人数でやるからこそバカバカしい。そういう大きな遊び方ができる場所なんです」。梅垣が「大人がくだらないことを一生懸命やる。それも大掛かりに。まさにいい遊び場です」とそれに応えれば、「大人数でバカなことをやったほうがインパクトもあるし、面白いと思うんです」と大久保。喰も「こんなくだらないことにこれだけのお金と労力をかけてやっているのはワハハくらい(笑)。笑いをメインにしたこんなショーって、日本ではほかにないと思うんです」と自負する。では、そんな魅力的な全体公演をなぜラストにするのか。「これは完全に僕のわがままです」と喰。「僕も69歳になってあとどれくらいできるのかと考えたときに、劇団の枠を超えた活動や、後進を育てることをしなければと思った」のだと。ただし、「大掛かりな全国ツアーをやる全体公演はこれが最後というだけで、東京ではまたやる可能性もあります。ですから、地方公演はとくに、今回ぜひ足を運んでいただきたいですね」と補足する。いずれにしろ、これで一区切りとなる全体公演。「ワハハは自分が自由に表現できる場。やり残したことはないか考えて、むちゃくちゃバカをしたいですね」(久本)、「デジタル技術を駆使した舞台が増えている昨今、どアナログなのがワハハの魅力。その面白さを思い切りお見せしたい」(梅垣)、「『ラスト2』は脱ぎ足りなかったので、最後は気持ちよく脱ぎたい(笑)。とにかく唯一無二のパフォーマンスなので、まだ観たことのない人は絶対に観てほしいです」(大久保)と、それぞれに熱がこもる。ワハハ本舗にしか表現できない世界。これを逃したら、おそらく当分は体験できないだろう。公演は5月24日(水)から28日(日)まで東京国際フォーラム ホールCにて。その後、全国を巡演。東京公演のインターネット先行抽選を実施中、2月6日(月)午前11時まで受付。取材・文:大内弓子
2017年01月27日赤堀雅秋作・演出の舞台『世界』が1月11日(水)、東京・シアターコクーンで幕を開ける。同劇場では第3弾となる今作で、赤堀が目指すのは、市井の人々の暮らしから、この“世界”のあり様を見せることだ。自身の劇団や映画で追求してきた繊細で生々しい空気感が、シアターコクーンという空間にどう立ち上がるのか。稽古も仕上げに入っている赤堀に聞いた。舞台『世界』チケット情報物語は、とある地方都市で町工場を営む家族の父親がその妻から突然離婚届を突きつけられたところから始まる。大きな事件が起こるわけではないが、夫婦の離婚問題を軸に家族とその町の人々の事情がじわじわと見えてくる。「シアターコクーンにおいて、これほどどうでもいい台詞が羅列していることは、史上初めてじゃないかと思うんですけど(笑)。それぐらい今回の作品は、市井の人々の卑近な描写の連続になっていて。そこから何か、今の世界の空気とか、漂う雰囲気みたいなものが透けて見える作品になればいいなと目論んでいるんです。もちろん、劇作家や演出家は、現在の空気をどう掴み取ってどう表出するかということが仕事だと思うので、何も特別なことではないんですが。ただ、些細なドラマを丁寧に紡いでいくことが自分の作家性だと思うので、今回はそこに地に足を着けて取り組んでいきたいと思っているんです」。登場するのもまさに卑近な人物たちだ。風間杜夫が演じる父親は「終始最低な男」。大倉孝二が演じる息子は、「ずるくてだらしないしおれた中年」。早乙女太一が演じる従業員は「ゲスな若者」で、これが初舞台の広瀬アリスが演じるのは「無自覚な悪意を持つ風俗嬢」である。「舞台でも映像でも、僕が役者さんに求めるのは、本当にその人物として佇んでもらいたいということだけ」という赤堀の演出のもと、いずれの役者も、赤堀の世界でしか出せない感情を見せることになるだろう。タイトルの『世界』は、「大仰でバカバカしい感じが面白いと思ってつけた」のだと赤堀は言う。「自分の根っこが高尚ではないので高尚なものは描けない。コアな演劇ファンというよりは、地元の友人とか、演劇的素養のない人に向けて、どういう想像力が喚起できるかっていうことが、自分のやるべきことじゃないかと思っているんです。むしろ、そういう人に届かなかったら作ってる意味がないんじゃないかなと」。高みからは見えない世界を描く。赤堀のそんな強みが全開する舞台になるはずだ。公演は1月11日(水)から28日(土)まで東京・Bunkamuraシアターコクーンにて上演後、2月4日(土)・5日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホールでも上演する。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2017年01月06日今年は、NHK連続テレビ小説『あさが来た』など話題のドラマに多数出演し、さらに注目が高まった瀬戸康史。舞台でも、『遠野物語・奇ッ怪其ノ参』で東北の青年を演じ、流暢な方言で観客を驚かせたばかりだ。その計り知れない力を、来年早々、また舞台で観ることができる。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)作・演出の『陥没』がそれだ。KERAが手がける「昭和三部作」の完結編で、演劇界の才能たちと相まみえることになった瀬戸。その胸の内は、意欲であふれているようだ。舞台『陥没』チケット情報2009年の『東京月光魔曲』で昭和初期を、2010年の『黴菌』で昭和中期を描いたこのシリーズ。完結編は、昭和の東京オリンピックを控えた1962年頃が舞台となる。前2作を観ている瀬戸は、「僕もギリギリ昭和生まれの人間なんですけど(笑)」と前置きしながら、「KERAさんの描く昭和は面白かったです。最初はちょっと難しいのかなと思ったんですけど、複雑なドラマが描かれながら、でも、作品が投げかけているのはシンプルなメッセージなのかもしれないなってすごく感じるものがあって。だから今回も、昭和のオリンピックを描きながら今の時代と重なることも出てくるだろうし。オリンピックだって浮かれてはいられない人たちを描くらしいんですけど、長い目で見たら、むしろそちら側のほうにこそ幸せがあるんじゃないかなと僕は思ったりするので。そのなかでどんな役柄を演じることができるのか、楽しみしかないですね」KERAとの初タッグについては「KERAさんは芝居だけでなく音楽もやられていたり、表現者として尊敬できる人。刺激をもらいつつ、自分も表現者のひとりとして何ができるか、考えさせられる現場になりそう」と語る瀬戸。『遠野物語──』では実際に遠野まで足を運んで下準備をしたり、表現に取り組む姿勢は真摯だ。自身でも「真面目だとよく言われる」と苦笑しながら、「そこに面白さとか何かエッセンスが加えられればなと思うんです。とくに今回の出演者は、僕よりも舞台を踏んでる数が圧倒的に多い方ばかりですから。KERAさんやこの役者陣と一緒にやれることを自分自身が楽しみたい」と意気込む。確かに共演には、井上芳雄、小池栄子、生瀬勝久など手練れが揃う。「だからこそ、小細工はしないでいようと思います。変に芝居しようとすると僕は形だけになっちゃいそうな気がするので、毎回毎回その場でリアルに会話するしかない」ときっぱり。KERAにしか描けない昭和の世界でいかに生きるのか。役者・瀬戸康史の本領を期待したい。2017年2月4日(土)から26日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーンでの公演の後、3月3日(金)から6日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホールでも上演。チケットぴあでは大阪公演のチケット先行抽選を実施中、12月12日(月)午前11時まで受付。東京公演はチケット一般発売中。取材・文:大内弓子
2016年12月08日映画『ライチ☆光クラブ』など、映像でも活躍している池田純矢が、自ら企画・構成・脚本・演出する舞台公演エン*ゲキの第2弾がいよいよ始動。『スター☆ピープルズ!!』と題して、宇宙を舞台に笑い満載で描かれる群像劇に、池田を含む8名のキャストが揃った。期待高まる顔合わせ&本読みに潜入した。エン*ゲキ#02『スター☆ピープルズ!!』チケット情報この日の顔合わせ&本読みは、本稽古に先んじて行われたものだ。そこには「さらにブラッシュアップしてから稽古に入りたい」という池田の思いがある。音楽や照明、美術セットなどもすでに準備万全。あとは役者たち次第というわけである。物語は、ある危機に直面している惑星から地球を目指して7人の男が旅立つところから始まる。その道中、地球から来た小型宇宙船に遭遇。それぞれあまり役に立たない特殊能力を持った7人と、実は彼らに関する重大な秘密を握っている地球の女性科学者が出会ったことから、次々と奇跡が起こるという、何重にも仕掛けられた設定が数々の笑いと驚きをもたらす完成度の高いエンターテインメントだ。だからこそ、「その場のノリの笑いではなく、お芝居で見せていきたい」と池田は言う。それに応えるかのように、池田が信頼を持ってキャスティングした役者たちは、本読みから本気を見せた。スターという名前を持つごく普通の男を演じ、生真面目さを全面に出した鈴木勝吾に対しては、「枠の中でいかに爆発するかが楽しみ」と池田。科学者のユキを演じる透水さらさはこれが宝塚退団後初の舞台出演。池田が期待する「宝塚で輝いていた女優感」がすでに炸裂する。ちょっとくせ者なライトを演じるのは赤澤燈。「ライトのあざとさを彼ならナチュラルに見せられるのではないか」と池田が言う通り、無邪気に抜群の嫌味を発していた。骨太さが印象的だったビームを演じる井澤勇貴には「器用な役者が不器用にやるところが見たい」と池田。フラッシュという男役を演じる女優の吉田仁美はとにかくチャーミングで、キャラクターが広がりそうだ。ホープを演じるオラキオは、やはりいちばんの笑い担当。本番では日替わりで披露することになりそうなアドリブコーナーも、本読みから見事である。そして、監督的存在のグリッターを演じる酒井敏也。池田は「ベテランの方とご一緒するだけで刺激になるはず」と期待する。「ひとつずつのピースをしっかりはめていくように丁寧に作っていきたい」と稽古の展望を語る池田。そうして目指すのは、ただただ「面白かった」と言ってもらえる極上のエンタメだ。公演は1月5日(木)から11日(水)まで東京・紀伊國屋ホールにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2016年12月05日ミュージカル界のプリンス・井上芳雄と、第23回読売演劇大賞最優秀女優賞を獲得したばかりの小池栄子が、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)作・演出『陥没』で初めて顔を合わせる。『東京月光魔曲』(2009年)、『黴菌』(2010年)に続くこの昭和三部作の完結編を、ふたりはどう捉え、どう見せるのか。舞台『陥没』チケット情報完結編の舞台となるのは、東京オリンピックを控えた1962年。高度経済成長期で日本中浮かれる中、時代の溝にはまってしまった婚約中のカップルと、ふたりを取り巻く人々が描かれる。井上と小池が演じるのは、そのカップルだが、小池曰く、「何となく最初から不穏な空気が流れていて、あまりハッピーっぽくない感じのふたりなんです(笑)。そこがKERAさんらしくていいなと思いますね」。井上も、「昭和の東京オリンピックの話っていうと、“高速道路ができた!わーい!”みたいな印象を持たれると思うんですけど、むしろ、そうじゃないところにいる人々を描くみたいで。それが面白いなと思いました」と、KERAが描く昭和のユニークさを語る。初共演で微妙な距離のカップルを演じることになるが、お互い心配はないようだ。「とにかく怪物的なくらい演技力のある女優さんっていう印象があります。あと、すごく聡明。自分で言うのは何ですが、僕もよく頭がいいって言われますけど(笑)、本当に頭がいいっていうのはこういう人のことを言うんだなと思ったので、一緒に芝居が作っていけるのが楽しみですね」と井上が言えば、小池も「役に距離があるからって、現場でも距離を置いてしゃべらないなんていうことは、する必要がない人だなと思いました。年齢も井上さんがひとつ上の同世代ですしね。歩んできた道は全然違いますけど、どういう考えを持って、どうやって芝居を作っていくのか、近くで見ることで絶対に刺激になると思います」と期待を募らせる。KERA作品に出演するのは初めてだが、観客としてはこれまで何作も観てきた井上。「KERAさんはいろんなジャンルの作品を作られるので、今回は、シアターコクーンでやるKERAさんの作品という楽しみ方もできると思います。たとえば僕も含めた出演者の多彩さとか。そのせめぎ合いは僕も楽しみです」。シアターコクーン初登場となる小池は、「コクーンに立っても演劇ファンの方達が許してくれるような姿、芝居をお見せしたい」と意気込む。いくつもの初めてがある。だが、実力派のふたりはきっと、それを武器にしていくことだろう。公演は2017年2月4日(土)より東京・Bunkamuraシアターコクーンにて開幕。チケットぴあでは11月19日(土)午前10時より先着先行プリセールの受付を開始する。取材・文:大内弓子
2016年11月18日自身の劇団「月刊、根本宗子」が注目を集めている劇作家・演出家の根本宗子が、本格的なプロデュース公演に進出する。『皆、シンデレラがやりたい。』と題して描くのは、アイドルの追っかけで結びついた3人の40代の女たちの生態と、そこに若い女が出現することによって起きる修羅。根本作品には初参加で、40代の女性のひとりを演じる劇団☆新感線の高田聖子は、この根本ならではの悲喜劇をどう演じるのか。高田と根本が語り合った。舞台『皆、シンデレラがやりたい。』チケット情報ずっと噂に聞いていながらなかなか足を運べず、去年初めて『超、今、出来る、精一杯』で根本作品に触れたという高田。「噂通り面白かったです。福原充則さんがプロレスを観てる感覚に近いとおっしゃってたんですけど、妙に納得するものがあって。終わって暗転した途端、みんなわーって高く手を挙げて拍手してるとか、演劇ではあまり見ない光景が広がってました」とその面白さを表現する。確かに、日常の切実さを笑いとエンターテインメントに昇華する作風が根本の真骨頂。今回のプロデュース公演でも、高田のほか猫背椿、新谷真弓が揃い、キャリアも実力もある女優陣によって、その昇華の見事さをたっぷり楽しめそうである。根本も言う。「今回の企画は、劇団ではあまり書くことのない年上の女性の話を書いてみないかという提案をいただいたのが始まりでした。何を振っても大丈夫という方々と一緒に、もっと緻密に、大人の芝居が作れるんじゃないかと、私自身も楽しみにしているんです」。大人の女性を描くにあたりアイドルの追っかけを題材にしたのは、「等身大の年上の女性は私以上に書ける人がいるので、私から見て危ないなって思うくらい(笑)、面白い人を書きたかったから」という根本。「自分たちがアイドルを支えているんだと結束している3人の女性の思いも、その結束が崩れたときの関係もすごく面白そうだなと。あと、この豪華な、それも普段は口数が少なそうな女優さん3人が、ずっとしゃべってるのが見てみたくて(笑)。女性特有の、人の話には一切興味なく自分の話しかしないっていう状況を作りたいなと思っているんです」。それに応えて高田も、「決して人の話を聞かないタイプではない3人が、人の話にかぶせるように話すっていうのが楽しそうですし。かわいかったり怖かったり、女の面白さを演じられれば」と期待を高める。もしかしたら、自分の痛いところをも突かれるかもしれない。が、だからこそ、この演劇は、現実のキツさを笑い飛ばす力になるはずだ。公演は2月16日(木)から26日(日)まで東京・本多劇場にて。チケットの一般発売は12月10日(土)午前10時より。チケットぴあでは現在、11月17日(木)午前11時までぴあ特別席(5列目まで)も対象の有料会員向けインターネット抽選先行「いち早プレリザーブ」を、11月21日(月)午前11時まで無料会員向けインターネット抽選先行「プレリザーブ」をそれぞれ受付中。取材・文:大内弓子
2016年11月16日SF映画の原点にして頂点と言われる作品を原作として作られる舞台『メトロポリス』。佳境に入った稽古場を訪ね、キャストの松たか子、森山未來、演出・美術を手がける串田和美に話を聞いた。90年前の映画が描いた100年後は、今どう表現されるのか。稽古場からは、想像し創造する演劇の豊かさが感じられた。舞台『メトロポリス』チケット情報描かれるのは未来都市メトロポリス。支配者階級と労働者階級に二極化した世界で、支配者の息子フレーダー(森山)と労働者階級の娘マリア(松)が出会い惹かれ合う。やがて、ふたりの交流に危機感を抱いた支配者が、マリアに似せたアンドロイドを作り、労働者たちのもとへ送り込むのだが──というのがとりあえずのあらすじである。が、この舞台で見せようとしているのは話ではないようだ。何しろ冒頭のシーンから、キャスト全員でダンスとは言い切れない不思議なパフォーマンスを見せていく。山田うんの振付で、それぞれが、歩いたり、転がったり、つながったり、人に登ったり。全員で作り出す複雑で意味ありげな動きにただただ見入るばかりである。その舞台ならではの表現について森山は言う。「映画の摩天楼の壮観さとか労働者の数とかをそのまま舞台で見せるのは不可能。じゃあ、ひとりでも群衆を感じさせるとか、舞台上と客席がお互いに想像力を広げられる描写はどうしたらできるのか。それを模索をしている状態なんです」。松もその模索を楽しんでいる。「(森山)未來をはじめ、身体能力という具体的に優れたものを見せてくれる人たちもいれば、どんなことでも何とかするぞっていう頼もしい先輩たちもいて、それぞれがとことん掘っていくのを見ているだけでも面白いんです。そしていつか“これだ”っていう瞬間がくるのを楽しみにしています」。演出の串田自身、どこに辿り着くかまだ見えていない。いや、あえて決めていないのだ。「自分も含めてですけど、演劇ってもっと可能性があるのにここまでしかやれていないっていつも思うんです。だから今回も、限りない表現を探してます。たとえば、言葉と歌の間にあるものとか、もっと突き抜けた先にあるものを。そうして、“これって何だろう”と楽しんでもらえるものを表現できたらというのが、僕の望みなんです」。まさに見たことのないものが、舞台の上で繰り広げられることだろう。最後に「そこで人が何かやってるのを目撃するっていう面白さが舞台にはあると思うので、別にお芝居が大好きじゃなくても、観に来てもらえたらなと思います」と松。本来の観る楽しさが堪能できるに違いない。公演は11月7日(月)より東京・シアターコクーンにて開幕。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2016年10月27日俳優の大倉孝二と劇作家・演出家のブルー&スカイによる演劇コンビネーション「ジョンソン&ジャクソン」の第2回公演『夜にて』が、10月20日(木)からスタートする。ふたりで脚本を書いて演出し、ナンセンスに徹しているこの企画。稽古場を覗くと、今回も、さびれた温泉街を舞台に犯人探しのサスペンスが繰り広げられているにもかかわらず、前回以上のくだらなさが爆発していた。ジョンソン&ジャクソン『夜にて』チケット情報稽古場に組まれていたのは、とある温泉街にあるスナックのセットだ。そこに、週刊誌のライターをしているという男(大倉孝二)が、ある殺人事件の取材のために現れるところから物語は始まる。町に着いた途端、黒い影が現れてカバンも財布も奪われたと訴える男。それは、いにしえからの伝説の巨大コウモリの仕業だという町の人々。と、怪しげに話が進んでいくなかでのワンシーンが始まった。このスナックに夜ごと集うのは、ママ(佐藤真弓)とホステス(菊池明明)をはじめ、どうもおかしな人間ばかりのようである。刑事(大堀こういち)に、医者(ブルー&スカイ)に、この町を牛耳る一族の跡継ぎにして町長の息子(鎌田順也)、そして、旅館の若女将(佐津川愛美)。このシーンでも、彼らは次々と変なことをしでかしていく。つまみを周りに吹きかけ出て行く鎌田。大倉の飲み物に得体の知れない何かを入れる佐藤。通常なら緊迫感あふれるシーンだが、その緊迫感を訳のわからないものに例えて飛び出していくブルー&スカイと、大倉と佐藤の妙な間が、何とも言えないおかしみを醸し出す。その後、大堀の登場で新たな殺人事件が発覚してそれぞれが焦るなか、佐津川が、“それ、絶対アリバイ証明にならないから!”とツッコミたくなるようなアリバイを披露する場面も。それをまた、全員が大真面目に演じるから、面白さが倍増する。どう考えてもあり得ないだろうと思うことに真剣に反応したり、そこにドラマチックな音楽が流れたり。演出も、よりリアリティのあるリアクションを求めていたのが印象的だったが、本気でバカバカしさを追求しているのである。ヒロインに迎えた佐津川と小劇場の手練たちとのほかでは見られない化学反応や、普段は表に出ることが少ないブルー&スカイとナカゴー主宰の鎌田順也の味わい深い演技も必見。ただただ笑って観ているうちに、このバカな人たちがきっと愛おしく思えてくるだろう。公演は10月20日(木)から30日(日)まで、東京・CBGKシブゲキ!!にて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2016年10月14日ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』の横浜公演が、まもなく幕を開ける。すでに京都公演を皮切りに全国を回り始めたこの作品。大阪の新世界に生きるおっさんたちとドローンを始めとするテクノロジー、という対極にある組み合わせが、何とも言えないおかしみを生み出している。ここ数年、“迷路コメディ”“文房具コメディ”など、企画性コメディを追求してきたヨーロッパ企画だからこそ表現できるとも言える物語。作・演出の上田誠と、劇団俳優の石田剛太、本多力が、その面白さの裏側を語ってくれた。ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』チケット情報物語の舞台は串カツ屋などが並ぶ新世界の外れ。ラーメン屋もドローンで出前するようになった時代からスタートして、本物のドローンが舞台上を飛び、さらには、ロボットが登場したり、人工知能と将棋や漫才をしたり、バーチャルリアリティの世界に没入したりと、全5話の“おっさんとテクノロジー”の話が展開する。上田曰く「テクノロジーの今後の進化に欠かせない5つを取り上げてみた」とかで、次々に現れる未来の“新世界”に思わずワクワクしてしまう。しかも、それとやりとりするのは大阪のおっさんたち。京都の劇団ながら関西弁を使う芝居を作るのは初めてとあって、石田は「関西弁のリズム感とかテンポが面白いと言ってもらえた」そうだ。本多も、「新喜劇みたいだって言ってくれる人もいて、今回は本当にみんなで群像劇をやってる感じがする」と楽しそうに話す。確かに、テクノロジーにどう反応し、どう生活していくのかを見せるのがこの芝居の肝。劇団員たちはもちろんのこと、福田転球、金丸慎太郎、福田理子といった客演陣も含め、個性もワチャワチャ感も出るそれぞれのリアクションが笑いを誘う。そんな観客の反応から、「これまで企画性の部分をストイックにやってきたんですけど、今回からはその骨の部分にいよいよ物語という肉をつけていくというか。新しいステップにいけている気がするんです」と上田は自負。石田が「再来年の20周年に向けてここからどんどん盛り上がりたい」と言えば、「劇団を続けていけばいくほどできることが増えていくので楽しみ」と本多も言う。実はロボットのデザインは角田貴志、メカ部分は酒井善史と、劇団員が担当。劇団の総合力を見せつける作品にもなっている。劇団だから作れる芝居が、そして、ヨーロッパ企画だから見せられる世界がそこにある。「大阪観光をした気分にもなれる」(上田)のみならず、未来観光も楽しめる。横浜公演は10月27日(木)から30日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2016年09月30日劇団☆新感線の高田聖子が劇団公演とは違うことを試みようとユニットを立ち上げてから12年。「月影十番勝負」としての10公演を終了したあともその情熱は止まず、「月影番外地」として復活したそのユニットは、今年、「その5」の上演を迎える。脚本は「その3」「その4」に引き続き福原充則が書き、「月影十番勝負」からの付き合いで、「月影番外地」では全作を手がけている木野花が演出。2年ぶりとなる『どどめ雪』と題した作品で「月影番外地」は何を仕掛けるのか。3人に話を聞いた。月影番外地 その5『どどめ雪』チケット情報『どどめ雪』とは、谷崎潤一郎の『細雪』をもじったタイトルだ。「今度は女性のお芝居をしたいねっていう話になって」(高田)、「じゃあ、『細雪』の四人姉妹っていう関係が面白いんじゃないかと」(木野)、脚本の福原に提案。戦中の大阪船場の商家を舞台にした物語は、現代の北関東の地方都市のどどめ色をした雪に降られる四姉妹の話へと移り変わった。長女に峯村リエ、三女に内田慈、四女に藤田記子という顔ぶれも揃い、次女を演じる高田曰く、「いいキャスティングをしすぎてハードルが上がったなと思っていますが(笑)、個性がありつつ、でもみんな突出しすぎない感じもあって不思議な味わいの四姉妹の話になりそう」とか。木野も言う。「アクの強いメンバーだけど暴れないというか(笑)。現段階の台本では、静かな、というより、どこか怪しい気配さえ漂う会話劇なんです」。どうやら、ファンタジー色も入って突拍子もない展開を見せたこれまでの2作とは違うものになるようである。脚本の福原が狙っているのは、「うっすらと『細雪』を残しつつ(笑)、現代の我々の話を書くこと」。現代社会の縮図のような疲弊した北関東の町で暮らす四姉妹の姿に、今の問題を忍ばせようというわけだ。「そんなテーマ的なことを表立って書くのは野暮だったりするとは思います。だけど、書かなければならないことっていうのはやっぱりあって。『月影番外地』はそれを書かせてもらえる現場だと勝手に信頼しているんです」と福原は打ち明ける。それに対し、「書きたくなければ書かなくていいし、書きたいなら好きに書けばいいし、福原さんには自由に書いてもらいたいと思うけど、真面目にそこに触れようとしてくれるのはありがたい」と木野。「純度高く、照れずに真面目にやる事は勇気がいる」という高田も、この「月影番外地」はやはり違う自分になれるのだそうだ。「今回も真面目に面白く頑張ります」と宣言する高田。今という時代と演劇に真摯に向き合って、ほかにない作品を作ってくれることだろう。公演は12月3日(土)から12日(月)まで東京・ザ・スズナリにて。チケット一般発売は10月1日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2016年09月26日竹中直人と作・演出家の倉持裕による演劇ユニット「直人と倉持の会」が、3年ぶりに第2弾を上演する。第1弾では女優たちに囲まれて悩める男を演じた竹中だが、今回は、実力も個性も兼ね備えた男優たちと対峙。そこに紅一点で元宝塚トップスターの大空祐飛が登場する。タイトルは『磁場』。このユニークな顔合わせでふたりはどんな芝居を企むのか。【チケット情報はこちら】そもそもこのユニットは、竹中が倉持作品に惚れ込んだことから始まった。「倉持さんの作る世界には独特なムードがあって、観客としても演じる側としても、そのなかにいてとても興奮するんです」と竹中。竹中からアプローチを受けた倉持も、「竹中さん発信で始まったものなのでインディペンデントな感じがあって、ご一緒できるのは本当に楽しい」と率直に話す。普段から、一緒に映画を観に行ったり食事をしたりしながら、さまざまな話をしているそうだ。そして、そのなかからふたりでやりたいことを見つけていく。第2弾もそんなふうにスタートした。今回の発想の元となったのは、竹中が好きな映画『フォックスキャッチャー』。竹中に勧められて映画を観た倉持は、「そこに描かれている男の関係が面白くて、自分でも書いてみたいと思った」のだそうだ。そうして出来上がったのが、竹中演じる映画の出資者と若手脚本家を軸にした物語。過大な“期待”を寄せる男と、過剰な“期待”に押しつぶされそうになっていく男が、缶詰になっているホテルの一室で繰り広げる心理サスペンスである。「これまで竹中さんには書いたことのない、悪意を持った役を書きました。相手のために期待するのではなく、期待している自分が大事な男。片や作家も、作品ではなく相手を喜ばせることに夢中になっていく。そこには狂気が感じられると思うんですよね」と倉持。キャストは、若手脚本家に渡部豪太が扮するほか、映画関係者などに長谷川朝晴、菅原永二、田口トモロヲらが顔を揃え、女優役に大空祐飛が抜擢された。「これだけの個性的な人たちがどんなふうに稽古を重ね、変化していくのか。僕はそれがいちばん楽しみなんです」と竹中が言えば、倉持も、「なかなか珍しい組み合わせのキャスティングだと思うので、ほかでは観られない空気が出るんじゃないかと楽しみにしています」と期待する。「稽古を重ねていくなかで何かを感じていく。僕はそういう重なっていく時間が好きなんです」と竹中は言う。ましてや今回は緻密な心理劇である。まさしく重ねた時間だけ、それは面白くなっていくことだろう。公演は12月11日(日)から12月25日(日)まで本多劇場にて。その後大阪、島根、愛知、神奈川を巡演。なお、チケットぴあではインターネット抽選先行プレリザーブを東京公演は9月19日(月・祝)午後11時59分まで、愛知公演は9月28日(水)午前11時まで受付中。取材・文:大内弓子
2016年09月14日宮藤官九郎作・演出のオリジナルロックオペラシリーズ“大パルコ人”。2009年のメカロックオペラ『R2C2 (アールツーシーツー)~サイボーグなのでバンド辞めます!~』、2013年のバカロックオペラバカ『高校中パニック!小激突!!』に続いてついに第3弾が上演される。大パルコ人③ステキロックオペラ『サンバイザー兄弟』と題して贈るのは、瑛太と、ロックバンド「怒髪天」の増子直純がヤクザの兄弟となって描かれる物語。歌に乗せて、今度はどんなバカバカしさが繰り広げられるのか!?【チケット情報はこちら】瑛太と増子のキャスティングの理由を宮藤は、「前回の『高校中パニック!小激突!!』を観に来てくれたなかで、感じのいい、接しやすいふたりを選びました(笑)」と冗談めかして打ち明ける。だが、何が飛び出すかわからないこのシリーズ。確かに、どんなことにも応えてくれるという信頼が必要そうだ。実際、応える側になるふたりも、柔軟な構えを見せる。まず、舞台で歌を披露するのはこれが初めてという瑛太は、「今年の2月に、原田芳雄さんの追悼ライブで歌わせてもらったんですけど、手が震えて仕方ありませんでした。だから、不安はありますけど。楽器も弾くのかなと思うと大変ですけど。でも、練習をいっぱいしたいと思います」と前向きだ。片や、芝居の経験が少なくこれが初舞台となる増子。「今年50歳になったんだけど、50にして新しいことをやれるのが楽しみだよね。音楽は自分がやることが全部正解だけど、芝居は自分の解釈が正しいわけじゃないというのも面白い。『それ違うよ』って叱られたい(笑)」このふたりを真ん中に据えることで宮藤のなかに浮かんだのは、『ブルース・ブラザース』の世界。「めちゃくちゃなことをやるんですけど、ふたりはそれが正解だと信じて突き進み、周りが巻き込まれていく。そんなバカ兄弟にしたいなと思ったんです」。そこで生まれたのが、かつて“池袋のサンバイザー兄弟”と恐れられた伝説のヤクザの兄弟が、衰退した組を立て直すためにバンドを始めるという突拍子もない筋立てだ。「思い切りバカになりたいですね。普段できないことができるから僕はお芝居が好きなんです。だから思い切りはじけたいと思います」と瑛太が言えば、「バカバカしいことにお金と労力をかけられるのはそれこそステキなこと。無駄なものこそ芸術だからね」と、増子もバカに徹する覚悟はできている。そして、「音楽とお芝居が合わさってバカみたいでっていうものが、とにかく大好きなんです!」と宮藤。作り手自身が楽しいと思うものを自由に純粋に追求していく。そうして生まれるものが楽しくないわけがない。東京公演は11月13日(日)から12月4日(日)サンシャイン劇場にて。その後大阪、仙台を巡演。なお、チケットぴあでは、東京・大阪公演は9月15日(木)午前11時まで、仙台公演は9月21日(水)午前11時までそれぞれ先行抽選プレリザーブを受付中。取材・文:大内弓子
2016年09月14日初めての日本上演に注目が集まっている『sutraスートラ』。仏教用語で「経典」を意味するタイトルを掲げて見せるのは、本家嵩山少林寺の武僧による大迫力のダンス・アクロバットだ。演出は、世界で最も多忙な舞踏家と言われ、日本でも森山未來主演の『テヅカ』『プルートゥ』を手がけたシディ・ラルビ・シェルカウイ。世界60都市で絶賛されたパフォーマンスはいかに生まれ、どんな魅力を持つのか。世界公演で主演を務めてきたアリ・タベ、嵩山少林寺僧侶のファン・ジャハオとグァン・ティンドンが来日し、語ってくれた。『sutraスートラ』チケット情報作品づくりにあたって演出のラルビが行ったのは、アリとともに2か月間、少林寺に滞在するということだ。そこで「“身体と動き”という共通言語を得て、アイデアを交換し合うことができた」とアリは言う。「ラルビがひとつの形を提案し、それで遊んでみてと僧のみなさんに言うこともあれば、僧のみなさんに動いてもらって、それをどう使いましょうかと一緒に考えていくこともある。だから、大変ではありましたけど、ゲームのような楽しさも感じていました」。武僧のリーダーを務めるファンも、「ダンスと武術は少し似ているところがあって、お互い楽しく交流できたと思います」と振り返る。その結果、現代アート界の巨匠、アントニー・ゴームリーのアイデアも加えられ、大きな箱を使いながらの驚愕のパフォーマンスが誕生。初演では少年僧として、現在は大人の僧として出演しているグァンは、「箱はパートナーのようなもの。箱とのコラボレーションはとても難しく、大人を手伝うぐらいでよかった少年僧のときはラクでした」と笑うが、その通り、武僧たちは箱を移動させてさまざまな形を作りながら、圧巻の身体表現で静と動の世界を作り出す。「箱を使って私たちが表現しようとしたのは、少林寺の生活や文化のなかにあるものであり、西洋文明に存在しているもの。この箱を通して、次は何が起こるんだろうとびっくりしてもらえるような場面をたくさん作りましたし、ただのカンフーのデモンストレーションではなく文化を伝えていく、そんな次元を持った作品にしていくことを大事に作ってきました」とアリ。「このパフォーマンスには、伝統的な少林寺の文化も含まれていれば、舞台美術や音楽や照明と、新しい文化も入っています。そのすべてを楽しんでもらえたらうれしい」とファンも言う。まさしく異なる文化が交流し、融合してできた舞台。ジャンルや国の違いを超越したところにある力強いパフォーマンスを楽しみにしたい。公演は10月1日(土)・2日(日)東京・オーチャードホール、5日(水)愛知県芸術劇場大ホール、8日(土)福岡・北九州芸術劇場大ホールにて。取材・文:大内弓子
2016年09月13日明治座にて、山本周五郎の『おたふく物語』が石井ふく子演出で舞台化される。江戸の下町に暮らす庶民の姿をやさしく描いたこの傑作で、主演するのは藤山直美。舞台に立てば観客の心を掴んで離さない当代きっての喜劇女優は、どんな人情物語を見せてくれるのか。芝居への思いを聞いた。舞台『おたふく物語』チケット情報藤山が演じるのは、少しおっちょこちょいなところがあるものの心の温かいおしず。妹を思い、妹の幸せのためにと、牢屋に入っていて金をせびりに来る弟のことも、心で泣きながら拒絶する。「姉は妹に幸せになってもらいたいと願い、妹は姉にこそ幸せになってほしいと懇願してと、そんな思って思われてという姉妹の愛情や、弟に対する複雑な思いが描かれているんです。その人間の細やかな機微というものをどうお見せしていくか。石井ふく子先生の舵取りのもと、先生の演出に必死についていっているところです」。なかでも、ずっと秘かな恋心を抱いていてやがて夫婦となる貞二郎には、“おたふく(不美人)な自分にはもったいない”と、何ともかわいらしい感情を見せることに。「おしずは人間的にチャーミングなんですよね。家族の悩みを抱えながらも一途に生きていて。そこに共感してもらえるんやないかなと思いますし、今はもう死語になってしまった、“もどかしさ”とか“奥ゆかしさ”という言葉が、思い出される作品になるんじゃないかなと思っています」。共演者には、妹に田中美佐子、貞二郎に錦織一清らが揃う。「みなさん真面目で芝居に対して真摯で、学ぶべきところの多い方たちばかりです。まだまだ産みの苦しみの最中ですが、何とかみんなで頑張って作っていきたいですね」。ただし、「舞台のうえでは苦しんで稽古したことは絶対にお見せしません。私らがどんなに大変やったかは、お客さんには関係ない。お客さんにはとにかく気楽に観に来ていただいて、楽しんでいただけたらそれでいいんです」ときっぱり。その言葉には、藤山直美という役者が見せるものに人が惹かれずにはいられない理由が表れている。「私、自分が称賛されたり褒められたりすることは、別にいらないんです。それより、“ああ、この話面白かったな”と喜んでいただけるのがいちばん。ただ、そう思ってもらうのは簡単なことじゃないですから。だから、役者をやってる限りは苦しみ続けるんやと思います」。本当に観客のためだけに作られるまさしく庶民の芝居。初秋の明治座で堪能してほしい。明治座公演は9月1日(木)から25日(日)まで。10月には博多座でも公演。取材・文:大内弓子
2016年08月31日小日向文世、秋山菜津子、安田顕、小島聖、平埜生成と実力派俳優が揃った舞台『DISGRACED/ディスグレイスト─恥辱』がまもなく幕を開ける。それぞれ出自の異なる2組の夫婦4人の姿から今の世界の問題を浮き彫りにして、2013年のピュリッツアー賞を受賞し、2015年トニー賞ベストプレイ部門にもノミネートされた作品だ。ニューヨーク、ロンドンで話題を集めたこの傑作をどう届けるのか。日本初演に向けた稽古場を覗いた。舞台『DISGRACED/ディスグレイスト─恥辱』チケット情報稽古場に入るとリビングのセットがこしらえられていた。ここは小日向文世演じるパキスタン系アメリカ人のアミールと、秋山菜津子扮する白人のエミリー夫婦が暮らすニューヨークのアパートメントの一室であり、物語は全編ここで展開していくことになる。見学した二場は、夫婦の間に緊張感が漂い始める場面からスタートした。その発端は、イスラム教の指導者が逮捕されたことにある。弁護士のアミールは甥のエイブから自分たちの指導者を助けて欲しいと頼まれる。自身のキャリアに影響が出るのを恐れて弁護人になることを拒否するものの、妻のエミリーに助けるべきだと主張され審問に立ち会うことに。正しいことをしたと夫を誇りに思う妻のエミリーに対し、不安を隠しきれずイライラするアミール。演出の栗山民也が大事にしなければならない言葉や瞬間を指示するたびに、その対比が明確になっていき、イスラム系民族の生きにくさが立ち上がってくる。小日向の持ち味の軽妙さがそこにユーモラスさを添えるのも面白い。秋山の知的な美しさはエミリーの偏見のない人間性を際立たせている。そこに、画家であるエミリーの絵を見に現れるのがユダヤ人の美術館キュレーター、アイザックだ。演じるのは安田顕。イスラムの影響を色濃く映したエミリーの絵に大いに惹かれつつもどこか懐疑的な様子のアイザックを、冷ややかな佇まいで見せていく。栗山はここでも、3人が居合わせる瞬間の立ち位置や目線、ふたりきりになったエミリーとアイザックにふと交錯する感情などを細かく丁寧に演出。台詞の裏にある物語が膨らんでいく。このあと三場では、アイザックの妻であるアフリカ系アメリカ人のジョリーも登場して四つ巴の会話劇が展開し、それぞれが抱える宗教や民族問題、夫婦間の問題などがいよいよあからさまになることに。そのやりとりの豊穣さは、二場の稽古を見ただけで予感できる。ジョリーを演じるのは小島聖。エイブは平埜生成。舞台で繰り広げられるそれぞれの主張と関係を自分ならどう考えるか。対話の面白さを受け止めながら、思考するという演劇の能動的な醍醐味も味わえるのではないだろうか。公演は9月10日(土)から25日(日)まで東京・世田谷パブリックシアター、9月27日(火)に名古屋・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール、9月30日(金)から10月2日(日)まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて上演する。取材・文:大内弓子
2016年08月30日2014年の初演時には、こんな真田幸村と十勇士の物語があったのかと驚かせた『真田十勇士』。今年は、その再演と映画が同時期に披露される。主人公の猿飛佐助を演じるのは、初演に引き続き、中村勘九郎。このビッグプロジェクトを前にした思いを語ってくれた。舞台『真田十勇士』チケット情報今回の企画を聞いて、「まずは驚きでいっぱいになりました」という勘九郎。しかし、映画版の撮影もすでに終了し、「その勢いのまま舞台にも飛び込んでいけると思います。初演を超えたところからスタートを切るので、絶対に面白くなるはずですよ」と早くも熱く意気込んでいる。この『真田十勇士』の佐助は、実はとんでもないパワーが必要な役である。幸村が腰抜けで、佐助が自分の嘘で彼を本物の天下一の武将に仕立て上げようと導いていくという設定だからだ。それを、ハイテンションの台詞と、ギャグあり、ワイヤーアクションあり、もちろん大立ち回りありで見せていくことになる。「初演はもう毎日クタクタでした(笑)。でも、僕自身は楽しいお芝居が大好きなので、そういう役をもらったら、とことんやりたくなっちゃうんです。それに、思い切り体使って、大きな声を出してっていう単純なことが、いちばん面白くて大事だと思うので。僕が率先してやって、これは楽しいお芝居なんですよということをお客さんに提示して、そこにみんなが乗っかっていけたらいいなと思うんですね。ただ、できれば再演は、水をひと口飲める間を作ってほしいなと思いますけど(笑)」。再演では、新キャストが加わるうえに、初演と映画版で由利鎌之助を演じた加藤和樹が、今度は相棒の霧隠才蔵に扮するという変化もある。「和樹にはミュージカル俳優として何曲か歌ってもらわないと。それが今回の僕のいちばんの責任ですし(笑)、僕自身も新しいギャグのネタに挑戦して、さらに笑えるものにしたいですね。くだらないところは徹底的にくだらなく、でも、本気出したら俺たちカッコいいんだぞ、っていうふうになればいいなと思うんです」。“真田イヤー”といわれる今年。架空の物語である『真田十勇士』だからこそ描けることもある。「大河ドラマ『真田丸』をお好きな方にこそ観に来ていただきたいですね。あの史実をもとに、こんな個性的なキャラクターを登場させて、こんなエンターテインメントができるんだと、驚いてもらえると思います」。さらなるパワーで客席を巻き込んでくれることを、期待したい。公演は9月11日(日)~10月3日(月)の東京・新国立劇場 中劇場での公演を皮切りに、10月8日(土)~10月10日(月・祝)のKAAT 神奈川芸術劇場 ホール、10月14日(金)~10月23日(日)の兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホールと各地をめぐる。チケットは各地とも発売中。取材・文:大内弓子
2016年08月08日東京では2年ぶりとなる美輪明宏の「音楽会」が9月から始まる。その間、全国で歌いながら、あるいは、子ども番組などのテレビに出演しながら感じ取ってきたことが、今度のプログラムには盛り込まれる予定だ。それぞれの選曲への思いを語る美輪の根底には、人をやさしく見つめる眼差しがあった。【チケット情報はこちら】「今、各地で歌っていて感じるのは、みなさん、心の安寧を求めていらっしゃるということです。目先の欲にかられていると言われようとも、生きるために必要なことを選び取るしかない生きづらい世の中で、みんな生きることに精いっぱいなんだなと感じます。ですから、少しでもみなさんのお役に立てる、心の栄養補給になるような歌をお届けできたらと思っているんです」。2016年の音楽会について、まずそんなふうに語った美輪。ここのところずっと、“生きる”というテーマが自身のなかにあるそうで、今回は、生きる力になる歌を選んでいくつもりだ。たとえばそのひとつは、美しいメロディを持つ曲。「日本にはかつてきれいな曲がたくさんありました。そういった聴くだけで心が穏やかになるような曲を求めていらっしゃるのがわかるので、古臭いと言われても、歌っていこうと思っているんです」。今年の春から、監修を務める齋藤孝氏に請われて『にほんごであそぼ』(Eテレ)に出演していることも、その志を後押しした。「むずかしい和歌や俳句を理解する子どもたちに感心するとともに、ユーモアたっぷりの演出もすばらしいと思ったんです。そこで、昔よく歌われた明治時代の歌で、ほんわかした気持ちになっていただければなと思っています」。ほかにも、第一部には、今のお父さん・お母さんの悲哀を歌ったオリジナル曲も登場。そして、『ヨイトマケの唄』でそれでも力強く生きていこうと励ましてくれる。ラテンやシャンソンの大人の歌で愛の深淵を見せる第二部は、「悲劇の歌もたくさん出てきます。それを聴けば、つらいのは自分だけじゃないとわかるはずです。劣等感や悩み、苦しみ、痛みを持っていない人間はこの世にひとりもいません」と、こちらにも力づける歌を揃える。第二部の舞台美術には星空を用意した。「宇宙に同じ星がないように、人間もさまざまでいいんです。その自然の法則も感じていただければと思っています」。誰にも生きる価値がある。美輪明宏の歌にはそんな懐深い愛が込められている。美輪明宏/ロマンティック音楽会2016は9月10日(土)から25日(日)まで、東京・東京芸術劇場プレイハウスで上演。その後、全国を周る。取材・文:大内弓子
2016年08月02日1988年の第三舞台第20回公演として誕生した鴻上尚史作・演出の『天使は瞳を閉じて』。以来、さまざまなバージョンで披露されてきたこの作品が、鴻上率いる「虚構の劇団」で5年ぶりに上演される。放射能に汚染されて誰もいなくなった地球に天使だけが残された──。そんな物語の設定が、リアルに感じられた5年前。あれから5年で何が変わったのか。ユタカ役で客演する上遠野太洸と鴻上が、上演に向けての意気込みを語った。【チケット情報はこちら】鴻上は今回の上演を決めた思いをこう語る。「この作品は、もともと、チェルノブイリ原子力発電所事故が起こったあとに、地球上から人類がいなくなったらどうなるんだろうと着想したものでした。それが、5年前の上演では、上演を決めたあとに東日本大震災が起こって、思いがけず日本の状況にシンクロしてしまった。それから5年、この間に忘れられてしまったこともあるのではないか。本当に意味のある5年だったのか。今上演したらどう感じてもらえるのか。そんな興味があって、もう一度やろうと思ったんです」。そこに客演として呼ばれた上遠野は、誰もいなくなったと思われた地球上で、透明な壁に守られて生きている人間のひとりを演じる。この作品では彼らの格闘を細かい心理描写で描いていくとあって、今、人間の内面を表現することへの苦悩と喜びを感じているようだ。「たとえば怒る場面があったとして、その怒りは悲しみから生まれているものなのかとか、そこに付随するものまで考えさせられる。だから、感情というものを今までよりも深く見つめられるようになってるんです。それをどう表現して伝えていけるのか、これからの稽古でもっと高めていきたいですね」。鴻上から見ても、上遠野の成長ぶりは著しい。「太洸が演じるユタカは、意識的にも無意識的にも自分を持て余し、自分と周りを傷つけながら引っ掻き回すという役なので、演技力のあるイケメンでないと(笑)、説得力がない。それに、太洸はとても熱心で努力家だから。演出家としてはやっぱり、必死になってやってくれる人だと、一緒に手を取っていける。彼の参加によって劇団員にもいい化学変化が起こってくれるといいなと思っています」。新しいユタカの存在が、きっと新しい『天使は瞳に閉じて』につながるだろう。歴代の作品を観てきた人も初見の人も、ぜひ目撃してほしい。これが今の“テントジ”だ。『天使は瞳を閉じて』は8月5日(金)から14日(日)まで東京・座・高円寺1で上演。その後、愛媛、大阪、東京を周る。取材・文:大内弓子
2016年07月25日京都を拠点に活動するヨーロッパ企画が、近くて遠い大阪の、それもディープなイメージのある「新世界」の街を舞台にした新作を上演する。新世界のおっさんがドローンと闘ったりする、来るべき未来を描くSFだ。それを大阪弁にした『来てけつかるべき新世界』をタイトルに、作・演出の上田誠と劇団員たちが、ヨーロッパ企画の新世界を目指す。【チケット情報はこちら】昨年の文房具を使った『遊星ブンボーグの接近』など、実験的なコメディを創作してきたヨーロッパ企画。今回はその題材が、新世界のおっさんになった。上田はそのアイデアの発端をこう話す。「僕のなかのおっさんのイメージは、平日の昼間に喫茶店や銭湯にいる人たち。新世界はそういう人たちの天国だと思うんです。そして、これからドローンとかロボットアームとかのテクノロジーが人間の仕事を奪うようになっていったら、そういうおっさんが増えるんじゃないかと。未来を先取りする意味でも、おっさん×テクノロジーを描きたいと思ったんです。あと、京都に生まれ育った自分として大阪の南のほうの下町には憧れがあって、大阪のお笑いも好きなので。満を持して、大阪弁の大阪の劇を作ってみようという思いもありました」おっさんを描くとなれば、上田ならではの緻密な劇構造の面白さはそのままに、おそらく、役者にかかる比重が大きくなるだろう。劇団員はおっさんへの意気込みをそれぞれにこう語る。「年齢的には僕らもおっさんにさしかかってるので、機械と格闘するおっさんというのを大人数でやったら、ちょっと変わったことができるんじゃないかと」(石田剛太)「おっさんの極意は“どこにでもおれる”こと。僕も最近そういう経験をしたので、おっさんになれるなと思いました」(角田貴志)「僕は運が悪いので、ドローンが自分に飛んで来るところしか想像できないんですけど(笑)、格闘してみます」(中川晴樹)「宮崎出身なので大阪のおっさんにはなじみがないんですけど、自分の知らないものを演じるのは逆に楽しそう」(永野宗典)「人と適当に大雑把に会話できるようになったのは、自分がおっさんになってきたからかなと。そこを拡大して演じたいです」(本多力)。今回は、彼らとほかの劇団メンバーに、福田転球という破壊力を持つおっさんと、金丸慎太郎、藤谷理子という個性派が参戦。「せっかく転球さんもいて下町を描くので、人情ドラマにまで踏み込みたい。ヨーロッパ企画の新章に突入できたらと思っているんです」と上田。ヨーロッパ企画がまた面白くなりそうだ。ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』は9月3日(土)滋賀・栗東芸術文化会館さきら 中ホールでのプレビュー公演を皮切りに、京都、東京、広島、福岡、大阪、三重、高知、神奈川、愛知を周る。チケットの一般発売は7月23日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2016年07月22日大倉孝二とブルー&スカイが、2014年からスタートさせた演劇コンビネーション「ジョンソン&ジャクソン」の第2回公演が、実力派若手女優・佐津川愛美を迎えて、10月20日(木)より東京・CBGKシブゲキ!!で上演されることになった。タイトルは『夜にて』。あくまでも役に立たないくだらない演劇を標榜するこのチームは、可憐なヒロインと謎めいたタイトルを携えて、どこに向かうのか。【チケット情報はこちら】2012年に「ナイロン100℃Side SESSION」として上演された『持ち主、登場』から数えると、2014年の『窓に映るエレジー』に続き、今度で3度目となる大倉孝二とブルー&スカイの企画。まずふたりで描いたのは、大倉曰く、「これまでよりはダークで濃密なものにしたいなと思ったんです。で、緊張感のあるものなのに、なんだかくだらないっていう(笑)、そういうミスマッチができればなと」という展望である。ブルー&スカイも「この『夜にて』っていうタイトルは大倉さんの案なんですけど、クールな感じでいいなと思って。たぶん、あれやこれやがクールに描かれると思います(笑)」と夢想する。サスペンス要素も盛り込んだこれまでとはちょっと違う作品に向かうために、ヒロインにもこだわりたかったそうだ。前2作の小劇場仲間の手練れたちももちろん面白かったが、カラーの異なる人材をと探していたところに大倉が出会ったのが、同じドラマに出演していた佐津川だ。「共演シーンはなかったんですけど、わざわざご挨拶をしに来てくださって、顔を見た瞬間にピンときたんです」とは大倉。それを聞いた佐津川は「あの一瞬がご縁でお話をいただいたなんてびっくり」と驚きながらも、「舞台は怖いなって思ってるんですけど、しかもコメディと聞いてできるのかなと思うんですけど、何でもやります!」と心強い。ブルー&スカイも佐津川の出演作は観ていて、「声がいいなと思ってました」と期待する。コメディといっても、やりたいのは笑わせるための笑いではない。「本気でやればやるほどおかしく見えるっていうものをやっているので、佐津川さんも笑わせようとしなくていいですし、そもそもこの人(ブルー&スカイ)がそういうことを書く天才ですから」と大倉が言うように、ただただバカバカしいことを全力でやりたいだけなのだ。「だから、演劇は敷居が高い……と思ってる人も絶対に楽しんでもらえると思いますし。演劇好きの人も、いい作品はほかで観て(笑)、ぜひくだらないのも選択してもらえたら」と大倉はアピール。愛おしいバカたちの奮闘を今回も期待したい。ジョンソン&ジャクソン「夜にて」は10月20日(木)から30日(日)まで、東京・CBGKシブゲキ!!で上演。現在ぴあでは、ぴあ特別席(8列目まで)も対象の有料会員向けインターネット抽選先行「いち早プレリザーブ」を実施中。受付は7月18日(月・祝)午前11時まで。取材・文:大内弓子
2016年07月14日画家であるゴッホと彼を支え続けた弟テオの半生を描く『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』の上演にあたり、韓国発のこのミュージカルを日本版として創作していく3人が顔を揃えた。上演台本・演出の河原雅彦、ヴィンセント役の橋本さとし、弟テオ役の岸祐二である。韓国では、キャストふたりだけで濃密な物語を紡いでいくこと、さらに、プロジェクション・マッピングを駆使し、ゴッホの絵画がそのまま美術の一部になったりする舞台美術が話題を集めたこの舞台。さて、日本版が目指すものは。ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』チケット情報韓国での公演を目にしてきた河原は、やはりプロジェクション・マッピングの使い方が印象に残ったそうだ。「今はマッピングと芝居が連動する舞台も珍しくないんですけども、より細かく複雑な使い方をしていて、面白いアイデアがいっぱい詰まっていた。ここでの映像は、すでに作品の一部として内包されていて、細部まで仕上がっているので、それは構造上外せない。その分じゃあ、演出として何ができるのかと思いヴィンセントとテオの関係を調べていくうちに気が付いたのは、ふたりはただ狂った兄とやさしい弟ではなく、もっと人間っぽかったということ。いびつで生々しいふたりを提示することで、韓国版とはまた違うエンターテインメントを作れるんじゃないかと思ってるんです」。橋本も言う。「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホといえば狂人的なイメージがあるけど、おそらく彼としてはただ普通に生きてるだけだったと思うんです。それが周りの常識からはみ出していただけで。だから、僕としてはどこかのほほーんと存在していたいなと思うんですね」。そのヴィンセント本人が無意識に放つものを信じ続けたテオを岸は、「兄を助けることが自分の救いになるという共依存の関係だったんじゃないか」と分析し、「そういう根底にあるいびつな感情とか、感情のぶつかり合いを、この作品では音楽に乗せることで見やすく変換しているんです」と付け加える。「あの爽やかな曲のなかにいびつさをどう出していくか。陽のメロディのなかに陰な部分を組み入れることで、ヴィンセントとテオのエキセントリックで複雑なものが出たらいいなと思いますね」と橋本も意欲的だ。「韓国版のように『こんな兄弟愛、素敵でしょ?』というシンプルな手触りにはならないと思います(笑)。でも、ふたりのこの過剰さは、ピュアだから生まれたものだし、過剰さは時にファンタジーにも似た感動を覚える。ゴッホって色々な切り口で語れる面白い題材だなと改めて思います」と河原が最後に語る。どこまでも突き抜けて生きた人間を観ることは、それが叶わない現状を少しでも打破する力になるかもしれない。公演は9月2日(金)東京・かめありリリオホール、9月7日(水)から24日(土)まで東京・紀伊國屋サザンシアターにて。チケットの一般発売は7月23日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2016年07月04日2004年に東京セレソンデラックスで初演され、テレビドラマにもなった『歌姫』が、その作者・宅間孝行自身によって蘇る。宅間が仕掛けるエンターテインメントプロジェクト“タクフェス”の第4回作品として上演される今回は、ヒロインにAKB48の入山杏奈が決定。これが初舞台となる入山を迎え、脚本・演出・主演を担う宅間は何を狙うのか。タクフェス第4弾『歌姫』チケット情報宅間が9年ぶりに『歌姫』の上演を決めたのは、昨年の劇団EXILE版を観たのがきっかけだ。「観客として客観的に観て、今でも充分に通用するなと思ったんです。むしろ、自分の作品のなかでは反戦のメッセージもあるものなので、今の時代にこそ合っているんじゃないかと。といっても、決して堅苦しい作品ではないので、テーマは根底にありながら、最高のエンターテインメントを作ることができるんじゃないかと思ってるんですね」。そして、戦後のドサクサで記憶喪失になった男と、彼を愛する女性の純愛物語を描くにあたって、明るく元気はつらつなヒロインに抜擢したのが入山だ。「これを決定版にしたいなと思ったときに、あまり色がついていない新鮮な人とやったほうがいいと思った」と宅間はいう。また何より、普段の入山に、役とは正反対の静かで大人っぽいイメージがあることも大きかった。「これまでにない彼女を見せられたら、ファンの方も含め、みんながびっくりして面白がってくれるんじゃないかなと思うんです」。入山自身も宅間の思いは心得ている。「自分とは違う役だからこそ、やってみたいと思いました。初めての舞台は怖いですけど、20歳になったので、これまで経験したことのないものにチャレンジしていきたいと思っているんです」。演技はドラマや映画で経験済み。「“もっとこうすればよかった”と思って毎日つらかったです(笑)。でも、だからこそ生きてるっていう感じがしたので。もっともっと突き詰めていきたいと思います」と意欲的だ。その熱意には宅間も「最終的には、お客さんのためにどれだけ妥協せずに向き合うかということが大事になってくるので、その気持ちがあれば大丈夫」と太鼓判を押す。その観客のためには、宅間は「お客さんが芝居の当事者になれるような仕掛けを考えている」そうだ。そもそも宅間曰く、アホなキャラクターが満載の「動物園のような」芝居である。入山も「身を預けて今まで開けたことのない扉を開ければ」とコミカルな芝居を予感させる。楽しませることが第一目的の“タクフェス”ならではの傑作になるはずだ。公演は10月5日(水)からの東京公演のほか、今年9月~11月に全国6都市をめぐる。東京公演のチケットは明日6月21日(火)午前11時まで抽選先行プレリザーブを受付中。取材・文:大内弓子
2016年06月20日都市計画に伴う一時閉館に向け、現在、“クライマックス・ステージ”を展開しているパルコ劇場。6月はその勢いにふさわしいエンターテインメント作品が登場する。パルコ劇場でおなじみとなった『志の輔らくご』の新作落語を舞台化した『メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~』だ。志の輔の落語が本格的に舞台化されるのはこれが初めて。主演の中井貴一を中心とした熱い稽古場は、その初の試みの成功を予感させた。舞台『メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~』チケット情報その日、お稽古場では本番さながらの通し稽古が行われた。舞台は国際空港に近いとある地方都市の商店街。中井貴一演じる商店街会長の源造のもとへ、外務省の役人から電話がかかってきたことから、物語は始まる。いわく、フランス特使の奥様とお嬢様が、帰国前に、商店街にあるひな人形の工房と、日本の生活感あふれる商店街を見学したいとおっしゃっている、というわけである。これは、ある事件をきっかけに盛り下がっている商店街に活気を取り戻すチャンスと張り切る源造。まずは、中井演じる源造のそのテンションの高さに巻き込まれ、冒頭からスッとこの商店街の話に導かれていく。また、この世界の住人たちの個性の強いこと!源造は喜怒哀楽が激しすぎるし、YOUが演じるその妻は妄想がすぎるし、ふたりが合わされば、抜群のコンビネーションで見せる夫婦漫才が始まる。これに魚屋に扮する勝村政信が加わると、トリオ漫才かコントである。手にしたお盆を放って中井に抱きついたり、何ごとにも大げさな男を勝村は全身で表現する。明星真由美が演じる魚屋の妻とはマイムを使い、ふたりならではの演劇的なシーンになっていく。体面を繕おうとするあまりにおかしくなっていく前・商店街会長と、あまりにも渋すぎるひな人形の職人を演じるのは阿南健治だ。2役ともまったく別の方向からおかしみを醸し出す。そして、音尾琢真演じる神経質そうな役人、サヘル・ローズ扮する通訳、ほかの商店街の人々が、トラブルがありながらも、フランス特使の奥様とお嬢様に喜んでもらいたいと必死になっていく。全員が全員おバカだけれども気持ちのいい人たち。まさしくそれは、“志の輔らくご”の世界である。原作は『踊るファックス』『ディアファミリー』『ガラガラ』『メルシーひな祭り』の4本の落語。脚本・演出のG2がそれらをひとつにし、役者陣とともに上質なノンストップコメディに仕上げている。演劇ファンにも落語ファンにもうれしい作品となるだろう。公演は6月4日(土)から26日(日)まで。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2016年06月02日退屈な大学生活を送っていた青年が「娼夫」となり、さまざまな女性の欲望を受け止め、彼女たちの心を解放し、自身も成長していく──。そんな衝撃的な石田衣良の小説『娼年』と『逝年』が、舞台化される。脚本・演出を手がけるのは、三浦大輔。主人公を松坂桃李が、ボーイズクラブのオーナーを高岡早紀が演じる。この顔ぶれで、何を生み出そうとしているのだろう。舞台『娼年』チケット情報これまでも性的なテーマを追求し、人間の欲情をリアルに描いてきた三浦。『娼年』の舞台化は、「それを限界まで突き詰めるという挑戦になりそう」だと語る。「セックスで何が浮かび上がってくるかというところが原作のテーマで、本当にセックスだけに焦点を当てているので、それを生身で見せる舞台でどう表現するのか。この作品でやり切ることで、締めくくりにできるんじゃないかと思ってるんです。またそこまでたどり着かないとこの原作をやる意味はないと思うんですね」。三浦のそんな覚悟を知って、「今、思わずうれしくなっちゃいました(笑)」と喜びの声をあげる松坂。三浦の「セクシュアルなイメージがない松坂くんだからこそ、普通の青年が様々な欲望に触れ、変わっていく姿が表現できる」という期待に応えて、大胆なセックス描写にも果敢に挑もうとしている。「今まで触れたことのない色の作品ですから、このチャンスを逃したくないと思いましたし。R―15指定がついたと聞いたときも、それぐらいじゃないと表現として攻められないだろうなと覚悟しました」。そして、松坂演じる主人公を、娼夫の世界へ導く役どころを演じる高岡。三浦曰く「男性にとっての理想の女性像」でもあるが、「男性を売ることを仕事にするなんて、これほど理解不能な役をいただいたことはなかったかもしれません(笑)。でも、誰かを演じるというのは、共感できるから面白いということでもないですし、怖いけど、楽しみです。性の表現もそうですけど、それぞれの人間が隠し持っている何かが、きっと見えてくるんでしょうから」と穏やかに燃えている。おそらく、舞台で生々しい描写をする初めての作品になる。しかし、「触れ合うことによってにじみ出てくるやさしさみたいなものが見えれば」と松坂が言うように、そこに浮かぶのはやはり人間の思いになるだろう。「肌と肌の接触を目の当たりして、その温かさやあふれる欲望を、理屈じゃなく体感してほしい。それは演劇のひとつの可能性だと思っています」と三浦も力強く語る。まさに体と心に残る体験ができるかもしれない。東京公演は8月26日(金)から9月4日(日)まで東京芸術劇場 プレイハウスにて。チケットの一般発売は6月11日(土)午前10時より。チケットぴあではインターネット先行抽選を実施中、5月29日(日)午後11時59分まで受付。」取材・文:大内弓子
2016年05月27日1980年に発表された村上龍の小説『コインロッカー・ベイビーズ』が音楽劇になる。コインロッカーに捨てられ、親からも社会からも見放されたふたりの若者を描いて、今なお衝撃を与え続けているこの傑作は、舞台化によって何を伝えてくれるのか。音楽劇だからこそ届くものを、白熱の稽古場に探った。舞台『コインロッカー・ベイビーズ』チケット情報稽古場に入ると、いくつかの四角い穴が二段に積み上げられたセットがあった。のちにそれが、車になったりビルになったりするのがわかるのだが、一見すると、まさにコインロッカーであり、オープニングの場面では、まさしくそこから、この物語の主人公であるふたりの少年、ハシとキクが生まれ出る。演じるのは、A.B.C-Zの橋本良亮と河合郁人だ。ハードなロック音楽に乗せて、シルビア・グラブ、ROLLY、そして梅棒の梅澤祐介などを揃えたアンサンブルが、捨てられた赤ん坊の歌を激しく歌い踊るなか、登場するふたり。世の中のすべてを憎むかのような鋭い目が、いきなり突き刺さる。ふたりを囲むダンスも、上げる手の角度や目線など、細かく動きを調整していくことで、その意味するところが鮮明になっていく。おそらく鼓動を表していると思われる振りや、退廃的かつ挑戦的なギター音が、冒頭から痺れさせてくれる。2場からは一気に物語が進んでいく。奇跡的に生き残ったものの暴力性を制御できなかったハシとキクが特別な音治療を受けたこと、ハシがその音と母親を探し始めること、キクが不思議な少女、アネモネと出会うこと……。それらを断片的に歌と芝居で綴っていく様は幻想的で、どこかアンダーグラウンドな芝居を観ているかのような心持ちにさえなる。そのシュールさに拍車をかけるのが、アネモネを演じる昆夏美、何役か演じる真田佑馬や芋洗坂係長の、少し狂気を帯びた芝居だ。橋本と河合がほとんど目を合わさず芝居することも興味深い。同時に舞台に立ちながら、別の時空にいる場面もある。なのに、ふたりの芝居は呼応していく。そんな演劇ならではの面白さに加えて、アンサンブルがその周囲で歌い動いて、観る者の感情を揺さぶり続ける。演出の木村信司は、原作の『コインロッカー・ベイビーズ』から「僕を殺すな。殺そうとしても生き残る。そして必ず、あなたたちの前に再び現れる」という子どもの叫び声が聞こえる、と語っている。何としても生きようとするふたりの少年の叫びが、芝居になり、歌とダンスになる。これほど演劇的な作品はないと言えるのではないだろうか。舞台『コインロッカー・ベイビーズ』は6月4日(土)から19日(日)まで、東京・赤坂ACTシアターで上演。その後、福岡、広島、大阪を巡演。取材・文:大内弓子
2016年05月26日ここのところドラマや映画で目覚ましい活躍を見せる安田顕が、舞台でもこれまでにない世界に飛び込もうとしている。2013年ピューリッツァー賞受賞作『Disgraced/ディスグレイスト-恥辱』で、本格的な翻訳劇に初挑戦するのである。今の世界が抱えるテーマを描いたアメリカ現代劇にどう挑むのか。その心境を聞いた。舞台『Disgraced/ディスグレイスト-恥辱』チケット情報この舞台に登場するのは異なるルーツを持つ人間だ。イスラム系アメリカ人の男と白人の妻、その妻の知人であるユダヤ人の男とアフリカ系アメリカ人の妻。それぞれが絶妙なバランス感覚で関係性を築きながら、アメリカという国で必死に生きていこうとしているが、ちょっとした綻びから互いへの差別や偏見が顕になり、破綻していく。そんな鋭い視点で人間を描く作品のなかで、安田が演じるのはユダヤ人のアイザック。「今はどう演じるのかまったくわからない、というのが正直なところです。ただ、こういう外国ものは、やったらハマっていくんだろうなっていう予感はあるんです。だって、全員が日本人で、まず見た目からして嘘ですからね。だからこそ、内面で勝負できるというか、心を見てもらえるっていう面白さがある。たぶん、これ、内臓を出すぐらいの感じになるんでしょう。とくに僕は、未だにさじ加減がわからなくて、常に本気でやっちゃうので。本当に内蔵を出しちゃうかもしれません(笑)」質問には必ずオチをつけて返さずにはいられないタチだという。しかし、笑いをまぶしながらも、そこには確かに本気が見える。「40歳を過ぎると細胞が全部入れ替わると聞いたことがあります。そういう時期に新しい何かを吸収できるご縁をいただいたことは感謝しかなくて。だから、こんな文芸の香りのする作品からは遠い僕ですが(笑)、何とか頑張ってついていきたいと思っています」。なかでもイスラム系の男を演じる小日向文世は「ずっと尊敬している先輩」とあって、「その方と一緒にやらせていただけるなんて、こんなにうれしくて怖いことはない」と文字通り震える。「いいカッコせず、芝居にだけ集中していきたいですね。自分が見られたくないものも見せなきゃ成立しない芝居でしょうから、逃げ場なし、出口なしっていう感じで自分を追いつめて、観てる方を前のめりにさせることができたらうれしい。あ、でも、劇場には非常口があるのでお客さまは大丈夫ですよ(笑)」。笑いを付け加えたくなるその繊細さで、この戯曲をどう表現してくれるだろうか。公演は9月10日(土)から25日(日)まで東京・世田谷パブリックシアター、9月27日(火)に名古屋・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール、9月30日(金)から10月2日(日)まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて上演する。各地ともチケットの一般発売は6月26日。東京公演と兵庫公演については現在、チケットぴあにて抽選先行プレリザーブを受付中。取材・文:大内弓子
2016年05月24日