方南ぐみ企画公演『ボンバーマン初夏の浅草の秘密』に、劇団EXILEの小野塚勇人と八木将康が出演する。ふたりが演じるのは、タイムスリップによって昭和25年という時代にやってきた男たち。小劇場の手練れに混じって、この作品にどう取り組んでいるのか。初日を控えた小野塚と八木が気合いを見せた。方南ぐみ企画公演『ボンバーマン初夏の浅草の秘密』チケット情報自分の人生がうまくいかないのを世の中や人のせいにしていた若者が、ひょんなことから昭和25年の浅草に迷い込んだ。そこで出会うのは、戦争を生き抜き、貧しくとも懸命に生きている人たち。小野塚と八木は、台本を読んですぐ、この物語に惹かれたという。「現代にいると、ちょっとイヤなことがあっただけで面倒くさいってなるけど、この時代はイヤだからって頑張らなければ本当に死んでしまう。生きていくためには何だってやるぞっていう強さを感じるんです」(小野塚)。「知らない時代のことだから、自分にとって新しい知識としてすごく勉強になりますし、また「知らない」ということが逆に役を演じる時にリアルな反応をすることができる強みでもある。観てくださる方も、僕たちと同じ目線で物語に入っていけると思います」(八木)。まさに、ふたりを通して観客にも何かが届くという仕掛けだ。「現代っ子の僕たちだからこそ伝えられるメッセージというものも台本には詰まっているので、しっかり伝えていきたいと思っています」(小野塚)。今作の作・演出を手がけ、方南ぐみを主宰する樫田正剛は、実はふたりの恩人である。2012年の樫田の作品『あたっくNo.1』への出演をきっかけに、劇団EXILEに加入することになったからだ。だからこそ、期待に応えたいという気持ちは強い。「まったく未経験の僕らに、技術じゃなくて気持ちで芝居をするっていう役者としての基礎を教えてくれた人なので、今回もちゃんと精神を入れて、本気で役と向かい合いながら芝居をしたいと思います」(小野塚)。「常にチャレンジしろ、やりすぎるぐらいがいいっていうこともいつも言われるんです。だから、ベテランの方々にもまれながら、食らいついていこうと思ってます」(八木)。また、今回は小劇場で上演されるとあって、このふたりならではの息の合ったところも間近で観ることができそうで、「視線を合わせるところや細かい表情も観ていただきたいポイントです」と八木もアピールする。「戦後の話ですけど、エンターテインメントにあふれる物語で、笑える部分もたくさんあります。それに、知らないことが描かれているからこそ面白いということもあると思うんです」と最後に語った小野塚。その言葉が演劇の真髄を表していた。公演は7月15日(水)から20日(月・祝)まで東京・キンケロ・シアターにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年07月08日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)によるプロデュース企画「KERA・MAP」が7年ぶりに始動、太宰治の未完小説『グッド・バイ』を舞台化する。入水自殺によって絶筆となってしまった太宰の作品のその先を、KERAはいかに綴っていくのか。また、主人公の田島を演じる仲村トオルと、彼の妻を偽るキヌ子役の小池栄子は、KERAにどう応えていくのか。ビジュアル撮影の現場に潜入して、舞台『グッドバイ』の構想を探った。KERA・MAP『グッドバイ』チケット情報物語の舞台は戦後の昭和。雑誌編集の傍ら闇商売で儲け、10人もの愛人を抱える田島が、田舎に暮らす妻子を呼び寄せるため、キヌ子を偽の妻に仕立てて、愛人たちと別れようとするところから話は始まる。ビジュアル撮影では和服姿で登場した仲村。どこか色っぽさが漂うその姿に、小池は「愛人がいるのも納得(笑)」と絶賛する。一方、小池が演じるキヌ子は、絶世の美女でありながら怪力で強欲で大食漢という役どころ。底力を感じさせるモンペ姿の小池に、仲村もまた、「キヌ子のイメージ通り」と太鼓判を押す。KERAがイメージしたビジュアルは、昭和を静かにリアルに切り取った植田正治のモノクロ写真。仲村と小池はその世界に違和感なく溶け込んでいた。KERAが『グッド・バイ』の舞台化を思いついたのは、「小説で描かれているのは、これから愛人一人ひとりと別れていくという冒頭の部分のみ。これはまさに秀逸なシチュエーション・コメディの設定だと思った」からだという。実際この小説には、退廃的な匂いのするそれまでの作品とは異なり、ユーモラスな描写も多い。「『人間失格』のあとでこんな軽やかな作品を書き、途中でやめて死んだという不可解さも、書いていくうちに深く追求したくなるかもしれませんけど、とにかく今回は、このお膳立ての上で、スピード感ある軽いコメディをやりたいと思っているんです」。そのコメディの真ん中に立つ仲村は、女たちに振り回されることになる。「KERAさんが僕のなかに、愚かで、振り回されるという部分を見ているんだと思いますが(笑)。今回も、僕という素材の新しい使い方を発見してもらえたらいいなと思っています」。そして、振り回す女を演じる小池。「キヌ子っていう名前がまずいいし(笑)、本音をズバッと言える面白い女なんです。きっとみんな舞台上でのたうち回ることになると思うので、面白おかしく見ていただければ」。太宰が、KERAが、味わい深い役者たちが見せる喜劇。軽やかさのなかにこそ真実が見えるかもしれない。公演は9月12日(土)から27日(日)まで東京・世田谷パブリックシアター、10月10日(土)・11日(日)大阪・シアターBRAVA!、10月17日(土)・18日(日)KAAT 神奈川芸術劇場 ホールにて。チケットの一般発売は東京・大阪公演が7月5日(日)午前10時より。なお、チケットぴあでは大阪公演のインターネット先行を実施中、神奈川公演のインターネット先行は7月4日(土)午前11時より。取材・文:大内弓子
2015年07月03日岸恵子が、朗読劇に挑戦している。朗読するのは、2年前、自身が上梓した小説『わりなき恋』。人生の終盤に差し掛かった女と男がどうしようもなく落ちてしまった恋の物語は、自身の姿と声で、どのように立ち上がるのか。脚色と衣装も務めて臨んだその舞台の初日、明治座での公演に足を運んだ。岸惠子朗読劇『わりなき恋』 チケット情報駅の雑踏音のなか、小説冒頭のシーンを読む声に合わせて岸恵子が登場し、舞台の真ん中に立った。そのまま朗読の世界に入るのかと思いきや、「みなさまようこそ」と客席に声をかける。ファンにとって嬉しく心憎い演出である。と同時に、「心を開いてお聞きくださいませ」という言葉に、上品な恥じらいも感じさせる。何しろ、朗読とはいえ、自分が生み出した人物たちを演じるのである。面映ゆさがあるのは当然だろう。しかしながら、一度作品世界に入ると、岸の女優魂は一気にスパークした。主人公は、国際的に活躍するドキュメンタリー作家の伊奈笙子、69歳。パリ行きのファーストクラスで隣り合った58歳の男・九鬼の間に生まれた道ならぬ恋に、心が揺らぎはじめる。原作では、世界を駆けめぐる笙子の目線で世界情勢が語られたりもするが、劇化するにあたって岸は大幅にカット。笙子と九鬼の心情に焦点を絞った脚色が功を奏し、いくつになろうが恋とは苦しく切ないものなのだと訴えかけてくる。それでも恋に溺れることが見苦しくないのは、笙子が凛と自立しているからだ。そして、その生き方に説得力があるのは、笙子そのものにしか見えない岸が、その台詞を声にしてくれているからにほかならない。老いの性愛にまで踏み込んで今の高齢者の扱いに一石を投じた原作同様、舞台でも岸は、笙子に託した自らの思いをそのまま自由に、全身から放出する。ピアノ・バーのシーンに、音楽家の細井豊が奏でる生演奏が響くなど、音楽が印象的。そのときどきで笙子のいる場所をイメージした映像が映し出されるのも効果的だった。なかでも、人生の悲哀と愛しさにあふれたラストシーンは、舞台でしか味わえない余韻に浸れるだろう。また、上演後に行われる「岸恵子トークショー」もぜひ聞いてほしい。これまでの女優人生を振り返りながら語られる、この小説と朗読劇への思いを知ることで、今観た世界がより深く豊かになるのは間違いない。公演は7月に大阪、北海道、福岡の各地で上演。9月に上演する東京、神奈川、埼玉の各公演は6月20日(土)午前10時よりチケット一般発売開始。取材・文:大内弓子
2015年06月19日20世紀のアメリカ現代演劇を代表する作家、ユージン・オニールが自身の家族を描いた『夜への長い旅路』が上演される。ユージンを重ねた次男のエドマンドを演じるのは満島真之介。今年はじめの『ハムレット』など、舞台での活躍も目覚しい注目の役者に、ピュリッツァー賞を受賞し、演劇史上最高の自伝劇といわれる作品に臨む思いを聞いた。『夜への長い旅路』のチケット情報この自伝劇で描かれるのは、実にすさまじい家族の関係である。かつては有名なシェイクスピア俳優だった父。過去のつらい出来事から抜け出せずモルヒネ中毒に冒された母。酒に溺れて自堕落な生活をしている兄。そして、肺病を患い引きこもっているエドマンド。この行き場のない4人が、ある日、夜までの長い時間を不協と対立のなかで過ごすことになる。「台本を読んだだけでもキツかったです。これを演じたら現実世界に戻れないんじゃないかと思うぐらい。でも、たぶんこの家族は、愛ゆえにこうなってしまったところがあると思うんです。僕自身も結婚して新しい家族ができたので、家族の愛とは何なのかということを、演じながら考えさせられるんじゃないかなと思っています」。ユージン・オニールは、この戯曲があまりにも赤裸々な内容のため、死後25年間は発表することを禁じていた。それほど強い思いを持って書いた作品に、作者自身の役として登場するとなればプレッシャーも半端ないだろう。しかし、「プレッシャーよりも、素晴らしい場を与えられたという喜びのほうが大きい」と、満島はきっぱり言う。今回の出演は、彼のデビュー作である『おそるべき親たち』の演出を手がけた熊林弘高から、「当然やるよねという感じで声をかけられて(笑)」決まったものでもある。「デビューから5年。心も体もいろんなものを乗り越えてきた自分として、新たなステージに立てるのが楽しみ」と頼もしい。母親役にそのデビュー作で親子役を演じた麻実れい、父親役に益岡徹、兄役に田中圭が扮する。この4人で何が生まれてくるのか。「痛いけど、やさしく、きれいな、愛に包まれた空気になるんじゃないかなと思うんです。根本には絶対的な愛情があるから。それに熊林さんが、“こんなことできないって思うようなことも気づいたらやっちゃってる”という演出をなさるので(笑)。きっと本当に家族として生きている感覚になると思います」。その生々しさは、きっと客席をも侵食するに違いない。舞台だからこそ得られる快感である。東京公演は9月7日(月) ~ 23日(水・祝)までシアタートラム。また大阪公演は9月26日(土) ~ 29日(火)まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。ともにチケットは発売中。取材・文:大内弓子撮影:福井麻衣子スタイリスト/伊藤省吾ヘアメイク/戸田和樹
2015年06月16日世界的ポップグループABBAが音楽を手がけ、『ライオンキング』などのティム・ライスが原案・作詞。1986年にロンドンで開幕して以来、世界中で上演されてきた伝説のミュージカル『CHESS THE MUSICAL』がついに日本初演される。ヒロインのフローレンスを演じる安蘭けいが作品の魅力と意気込みを語った。「CHESS THE MUSICAL」チケット情報『CHESS THE MUSICAL』は、その楽曲のすばらしさから、コンサートとしても世界で何度も上演されてきた作品だ。日本でも2012年にコンサート版を上演。リピーターが続出し、再演が熱望され、翌年にセカンドバージョンが開催された。その熱狂の渦の真ん中にいたのが、この人、安蘭けいである。「海外でもミュージカル版よりコンサート版の上演のほうが多いと聞いていたのですが、日本でもすごく好評をいただきました。楽曲は本当に魅力的で、すべてシングルカットしてもいいぐらい。しかも、人物の個性とかストーリーを見事に曲で表現しているんです」。だからこそ、ついに上演が決まったミュージカル版にも思いは募る。舞台となっているのは、1980年代、米ソ冷戦の時代。チェスの世界チャンピオンである米国のフレディ(中川晃教)のセコンドでありながら、対戦相手のソ連のアナトリー(石井一孝)と恋に落ちるヒロインを安蘭が演じ、国家の思惑と3人の人生が交錯しながら、緊迫の物語が展開していく。「当時の国際情勢など、一見難しい内容だと思われるかもしれないですが、そこは、演出の荻田浩一さんが日本人にもわかりやすく作ってくださるはずですし。時代に翻弄されて生きなければならないからこそのしなやかな強さが、フローレンスにはあると思うので、観てくださる方にも、何かエネルギーみたいなものをお届けできるのではないかと思っています」。フローレンスに扮する安蘭の心を揺さぶることになる石井一孝と中川晃教は、コンサート版でも共演したふたりだ。「かずさん(石井)と一緒に歌うときは、安心して合わせられるんですね。そしてアッキー(中川)は、一緒に歌っててワクワクしてくる。そんなおふたりの個性が、役にすごく合っているので。違う魅力を持つふたりに惹かれていくフローレンスも演じやすいと思います。音楽で悲しみとか喜びを表現できるのがミュージカルの素敵なところ。その魅力を存分に感じていただける作品になると思います」。音楽の力で描かれる人間ドラマ。その迫力に身を委ねたい。公演は9月27日(日)から10月12日(月・祝)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウス、10月19日(月)から10月25日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。6月27日(土)のチケット一般発売に先駆け、5月24日(日)11:00まで最速抽選「いち早プレリザーブ」受付中。5月23日(土)11:00からは先行抽選「プレリザーブ」の受付が開始。取材・文:大内弓子
2015年05月22日劇団イキウメが『聖地X』を上演する。本作は実は、2010年に初演した『プランクトンの踊り場』を、タイトルも新たに改訂したもの。第14回鶴屋南北戯曲賞を受賞した作品ながら、守りに入ることなく、さらなる高みを目指す。作・演出を務める前川知大に、稽古場にて、その思いを聞いた。舞台写真は5月10日に行われたプレビュー公演の模様。劇団イキウメ『聖地X』チケット情報ここ数年イキウメは、春と秋に行う劇団公演のうち春公演で再演を試みている。その理由を前川は、台本をブラッシュアップしたいからだと語る。「いい戯曲というのは、様々な演出家のもとでいろいろな解釈が可能になるもの。その意味では、そのときの劇団の状況に合わせて書いた台本も多いので、改めて台本としてのシンプルな面白さを掘り起こすことで、より完成に近づけることができるんじゃないかと。そして、『プランクトンの踊り場』は、まさに、そういう作品なんです」。『聖地X』とタイトルを変えたのも、より内容にふさわしいものをとブラッシュアップした結果だ。X=未知数。そう。これは、“未知なる聖地”の物語なのである。その場所では不思議なことが起こる。夫に嫌気がさして実家に戻ってきた妻は、そこで夫と遭遇する。その夫は同時に東京にも存在していたにもかかわらず。「ドッペルゲンガーの話です。それは決して特別なものではなく、日常的にも起こっていることであって。僕もたとえば、自分の本棚に置いていたものを、2か月前に妻が捨てていたのに気づかず、昨日も見たはずだと思った経験がありました。脳がそういう錯覚を起こさせる。自分が見ている世界は本当なのか。自分が見たいものだけを見て、あるはずないと思っているものは見えていないということがあるのではないか。そういう面白さと怖さを描きたいです」初演でも、ドッペルゲンガー現象を舞台上で見事に表現し、驚きをもたらした。再演ではさらに、「より信じられるような形で、リアルにお見せしたいと思っています。俳優たちも確実に上手くなっていますから、もっと高いところへいけるはず」と意気込む。普段は意識することのないこの世界の見え方を、舞台でしかできない方法で提示しようとしている。やはり、演劇の力が実感できる劇団だ。舞台は東京・シアタートラムで上演中。公演は5月31日(日)まで。その後、6月5日(金)から7日(日)大阪・ABCホールでも公演。取材・文:大内弓子
2015年05月13日佐野洋子原作の名作絵本をミュージカル化した『100万回生きたねこ』が再演される。2013年の初演で、イスラエルの演出家ユニット、インバル・ピントとアブシャロム・ポラックが作り出したかつてない世界観が評判を呼んだ本作。さらに精度を高めた作品にするべく挑む再演では、新キャストとして深田恭子が登場する。深田にとってはこれが初舞台。新たな一歩を踏み出す心境を聞いた。ミュージカル『100万回生きたねこ』チケット情報これまで舞台を観る機会はあったが、「自分が踏み込んでいい場所なのかどうかわからなくて、なかなか挑戦できずにいた」という深田。その気持ちを一変させたのが、このミュージカル『100万回生きたねこ』だった。「前回の公演を映像で観させていただいて、一瞬で魅了されたんです。セリフに心揺さぶられたり、思わぬ動きに驚かされたり、繰り返される音楽に100万回生きてきたねこの人生が感じられたり。舞台の上で人生のすべてが表現されているような気がして涙が止まらなくて。この世界に自分も参加したいと思いました」。舞台に立つからにはきちんと向き合いたいと、すでにボイストレーニングやワークショップにも取り組んでいる。「声の出し方も体の動かし方も映像とはまったく違うので、『私、こんなに動いてる!』って驚いたりするんですけど(笑)。今はとにかく、やったことのないことも、何も考えずに言われた通りにやってみようと思っています。そこからいろんなものが生まれてくるんじゃないかなと思いますし。自分でも、今までのことを全部取っ払って解き放つことが心地いいんです」。自分が舞台の上で歌い踊る姿はまだ想像がつかないという。しかし、未知だからこそ、楽しみは大きい。「自分がどんなふうに表現するのか。生の舞台の上で何が起こるのか。予想できないすべてのことを良きものとして捉えて、1公演1公演大切に作っていきたいなと思います」。生と死を100万回繰り返してきたねこを描く物語のなかで深田が演じるのは、彼が初めて恋する白いねこ。愛というものを象徴するような役を演じることになる。が、「今回は、こういう役だからこう演じようと考えることをまずやめよう」と思っているそうだ。「動いてみて作っていくというか。演出のインバルさんとアブシャロムさん、それから共演のみなさんと一緒に役も作っていきたいなと思っているんです」。不安やプレッシャーも前向きに捉え舞台に臨もうとしている深田。その勇気が、凛とした白いねこの姿に重なった。公演は8月15日(土)から30日(日)まで東京芸術劇場 プレイハウス、10月2日(金)から4日(日)まで大阪・シアターBRAVA!にて。取材・文:大内弓子
2015年05月11日宝塚の舞台からスタートした芸能活動が30周年を迎えた真琴つばさ。昨年から記念のトーク&ライブツアー『X-TALK クロストーク』を開催している。現在は第3弾のツアーの真っ只中。刺激的なゲストとともに、どんなトークとライブを繰り広げるのか。真琴ならではの、楽しい大人のエンターテインメントが待っているようだ。真琴つばさ『X-TALK』チケット情報そもそも、30周年記念にゲストを迎えたトーク&ライブを企画したのは、「一度きりの人生、もっと人との交流を深めたい」と思ったからだという真琴。「これまでは駆け足だったけれど、もうすこしゆったり、先を見据えて歩いていきたい」と、「一期一会だった人とは改めて絆を作り、何度かお会いしてる人とは絆を深め、宝塚の仲間とは絆を確かめ合う。そんな、自分にとっても贅沢な企画を考えたんです(笑)」。第3弾となる今回は、なかでも、広島公演に彩輝なお、大阪公演に紫苑ゆう、姿月あさとと、宝塚のOGの顔ぶれが揃う。「昨年の第1弾、第2弾は、宝塚100周年と重なってあえて宝塚の方々をお迎えしなかった分、今年、しっかりお話できたらなと」思ったのだそう。宝塚時代から同じ組で一緒にいたことの多かった姿月とは、「思い出話や暴露話を(笑)」し、先輩にあたる紫苑には、「今も一流の宝塚の愛し方をされているなと感じるので、そこに辿り着くまでの葛藤や思いを」聞いてみたいと思っているという。「さらに、初めて一緒に歌わせていただこうと思っています。紫苑さんの回は、すでに“神回”と言われてるようですよ(笑)」。そして、彩輝が出演する広島公演には、広島出身のアンガールズも登場。「もしかしたら4人で即興ミュージカルをやるかもしれませんし、アンガールズさんだけの回では、即興コントにも挑戦してみたいなと思っています」。この異色の顔合わせが起こす化学反応が楽しみだ。ファイナルツアーが7月に行われることも決定した。そこで、のべ30人のゲストを迎えることとなる。「私とゲストがクロスして、トークと音楽がクロスして、そして私たちとお客さんがクロスする。そんな楽しいエンターテインメントライブをお届けしたいと思っています」。30人と本気で向き合い、本気で楽しめるものを作ろうとする真琴の姿は、そのまま、彼女の30年の道のりに重なるはずだ。真琴つばさ『X-TALK』は5月30日(土)広島・ゲバントホール、31日(日)大阪・大丸心斎橋劇場にて開催。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年04月23日舞台『おもろい女』が復活する。昭和初期に活躍した実在の天才漫才師ミス・ワカナの生涯を描いたこの作品は、1965年にテレビドラマとして誕生。ワカナを森光子が、相方の玉松一郎を藤山寛美が演じ、その後78年から、森と芦屋雁之助のコンビで舞台化された。そしてこの度、藤山直美がミス・ワカナ役に挑戦。玉松一郎を演じるのは渡辺いっけいだ。この名舞台を新たにどう作っていくのか。渡辺に聞いた。舞台『おもろい女』チケット情報この舞台のオファーがあったとき、「正直、最初は尻込みをした」という渡辺。「いちばんには、やはり、藤山直美さんという存在の大きさがありますよね。いつか、何らかの形で共演してみたいと思っていた女優さんではありましたが、いきなり舞台で、それもコンビ役でガッツリと、というのはびっくりでした」。藤山という女優に感じるのは、「本物である」ということ。「舞台で生きるということをちゃんと覚悟し、背負っている人だなと感じます。だから、こちらも気が引き締まる」。森光子の代表作を演じるにあたって藤山は、「プレッシャーです。森光子さんと同じことをしよう、なんてド厚かましいことは捨て去って、新しい作品を作るつもりで取り組みたいと思います。とにかく面白い芝居になって、来てくれはったお客さんが喜んで帰ってくれたら」と語っている。ただ喜んでもらいたいという藤山のその姿勢はまさに本物。渡辺も、「自分がこうやってやろうではなく、この舞台の一郎としての役割を考えたい。直美さんのワカナを見て、一郎がどうあるべきかを見つけたいと思います」と、作品を第一に思う。この舞台で描かれるのは、天才と賞された芸人の裏側。渡辺はそこにこそ、この作品の魅力を感じている。「ただの面白楽しいアチャラカものではなく、バックステージの人間ドラマが描かれている。一郎も自分に才能がないのをわかりながらも、愛ゆえに、天才のワカナに必死でついていった。その哀しさ、演じがいがあるなと思います」。そして、ワカナの人生にも惹かれずにはいられない。「誰を蹴落としてでもテッペンを取りたいというバイタリティーには憧れます。その代償として若くして亡くなることにはなるんですけど。でも、何があっても上を向いて生きていく、誰にもおもねらず自分の道をいく、そんなワカナの力強い姿は観ていただく価値があると思いますね」。観れば生きる力が湧いてくる。そんな舞台になりそうだ。公演は5月29日(金)から6月2日(火)まで東京・THEATRE1010、6月5日(金)から30日(火)まで東京・シアタークリエにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年04月20日東出昌大が、『夜想曲集』で舞台に初挑戦する。原作は、英国の作家、カズオ・イシグロの短篇集。演出を、気鋭の小川恵理子が担う。俳優の仕事を始めてから、いつかは立ちたいと思っていたというその場所で、東出はどんな姿を見せるのだろうか。「夜想曲集」チケット情報舞台には興味があった。出演作が相次ぐなか、「数えてみたらこの3年で30本位観ていた」のだという。やってみたかったのは、「映像と違う何かが求められる場所」だと思ったからだ。「舞台を経験したことのある方からよく聞いていたんです。舞台をやると自由に動けるようになるよと。それはたぶん、何回も同じ芝居を繰り返すことで、想像力とか演技の説得力というようなものがつくからだろうと思ったので。自分がどれくらい柔軟に自由に動けるようになるのか、怖くもあり、楽しみでもあるというところなんです」。実際、初舞台として挑むのは、想像力も説得力も大いに求められる作品となった。原作は、人生の晩年を迎えて心を揺らす人々の音楽をめぐる5篇の物語。そこから、「老歌手」「夜想曲」「チェリスト」の3篇がひとつの戯曲に再構築され、そのうち2篇に登場する若者を、東出はひとりの人物として演じることになる。すでにチェロの練習も開始。「弦に対して垂直に弓を引くだけで5年かかると言われたんですけど(笑)、だからといってあきらめるのではなく、ちゃんとお見せできるものにしたい」と意気込む。また、演じる人物には“旧共産圏の生まれのヤン”といった限られた情報しかないが、「ちゃんと生きている人間として演じられるようにその人物の背景を勉強したい」と下調べも始めている。「さらに難題だなと思うのが、どの人物もみんなストレートな感情表現をしないこと。言葉の裏にあるものをしっかり読み取って表現しないと伝わらないと思うので、課題は多いです」。舞台に立つまでに越えなければならない壁はいくつもある。それでも怯まないのは、「いい役者になりたい」という思いがあるからだ。「ありがたいことに、役者を始めてからいろんな新人賞もいただきました。でも、それで喜んでいられないというか。やり続けること、観てよかったと思っていただける役者になっていくことが大事だと思うんです。とくに舞台は、チケット代を払っていただいて足を運んでいただくんですから、緊張感を持って臨みたいと思います」。覚悟した役者は強い。東出昌大の初舞台、期待していい。公演は5月11日(月)から24日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、5月30日(土)・31日(日)大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。その後広島・富山でも上演。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2015年04月17日6月に上演される市川海老蔵第三回自主公演『ABKAI 2015』の製作発表会見が行われた。第一回公演で「花咲か爺さん」を題材とした歌舞伎を披露したのに続き、今回は、「浦島太郎」と「桃太郎」をモチーフにした新作歌舞伎『竜宮物語』『桃太郎鬼ヶ島外伝』を上演する。製作発表では、前回もタッグを組んだ脚本の宮沢章夫、演出の宮本亜門とともに登壇した海老蔵。ふたりに敬意を払いながら、自身の思いの丈を語ってくれた。『ABKAI 2015』チケット情報日本の昔話を歌舞伎にするというのは、以前から海老蔵のなかにあったアイデアだった。「自分の勝手な妄想を(笑)、宮沢先生と亜門さんに語ったことがこの自主公演の始まりでした。小さい子どもにも観てわかってもらえるものを作ることがテーマですが、一つひとつの作品を丁寧に作って、それを数珠つなぎにするとさらに面白くなり、昔話ってこう楽しめるんだと思っていただければ」と昔話に挑戦する意義を語る。すると宮本も、「前回も登場した“鬼石”が各話をつなぐ要素になっていきます」と構想を明かした。宮沢もまた、「昔話というひとつの空間・次元に、『花咲か爺さん』も『桃太郎』も『浦島太郎』もあって、それぞれに別の話の登場人物が現れてもおかしくないという考え方をすると、書くのが面白くなってきたんです」と、この企画に手応えを感じているようだ。「花咲か爺さん」では犬を演じた海老蔵だが、今回もやはり、「浦島太郎」では乙姫、「桃太郎」では鬼という、主役ではない役を演じることになる。なかでも悪役の鬼を演じることについては、「歌舞伎では、勧善懲悪の物語のなかで勝つ側を演じているので、負ける側を演じて、普段は見せない表情をお見せしたいですし。悪いことが正義であるという純粋な悪、悪の美学を追求できるのが面白そう」と意欲を見せる。そして、久々の女方となる乙姫は、「泉鏡花のような世界」と、すでに明確なイメージがある。「歌舞伎で言えば変化ものですよね。美しい魔性の女が、浦島太郎という誠実な男と出会ったらどうなるか。子どもが観ても楽しめるけど、大人も楽しめる深い話になっていくと思います。ただ、あとはもう先生方にお任せしてますから。僕を好きに使ってくださいという感じです(笑)」。発案者でありながら最後は身を任せる潔さ。海老蔵という稀代の役者を使って、海老蔵はどんな新たな歌舞伎を生み出すのだろう。公演は6月4日(木)より東京・Bunkamuraシアターコクーンにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年04月13日ネルケプランニングが企画する「昭和文学演劇集」の第4弾として、江戸川乱歩の長編小説『孤島の鬼』が舞台化される。乱歩の最高傑作とも言われる作品にいかに挑戦していくのか。若手俳優たちが集う熱のこもった稽古場で、藤森陽太、鯨井康介、崎山つばさの3人のメインキャストに、意気込みを聞いた。舞台『孤島の島』チケット情報この日の稽古は、冒頭のシーンから始まった。木遣り歌が流れるなか、全員がスローモーションで歩き、崎山がモノローグを語り始める。30歳にも満たない「私」こと「蓑浦」が一夜にして白髪になってしまった恐怖体験を、これから話すというのだ。そして現れるのは、回想場面の蓑浦を演じる藤森。ふたりでひとりを表現するという演劇ならではの試みである。「今の蓑浦と過去の蓑浦が、一緒に過去を体験していくんです。ふたりが会話をすることもあるので、ふたりの関係をどう見せていくかが、面白くもあり難しくもある」というのは藤森。今の蓑浦を演じる崎山も、「役者の力が問われる脚本。自分を騙すみたいに、自分をこの物語の世界の人間にしていかないと」と、その責任の大きさを感じている。一方、蓑浦を愛する同性愛者の「諸戸」を演じる鯨井。「キャラクター性よりも、原作に描かれている人間の業とか心情を表現することが、小説を演劇にするというこの舞台では大事なことかなと思うので、諸戸が蓑浦を愛する気持ちを真摯に表現したい」と語り、「江戸川乱歩が書いた美しい言葉も、その人間の気持ちを伝えるためのもの。“~したまえ”というような現代にはない言い回しもきちんと表現して、乱歩の魅力や作品の深さを感じていただけたら」と付け加えた。蓑浦の恋人・初代が殺されたことに始まる物語は、事件の解明を委ねた友人・深山木の怪死を経て、やがて、予想もつかない事実を明らかにしていく。「人を愛するがゆえに壊れる、狂うというのは、誰にでもあり得ること。人間の強い思いに共感してもらえたら嬉しい」(藤森)、「普段の生活では蓋をしている部分が表出するような物語。怖いからこそ興味を持たずにはいられないと思います」(鯨井)と、藤森と鯨井がこの物語の魅力を語れば、「舞台を観ながらも本を読んでるような感覚になる。そんな世界を丁寧に作っていきたい」と崎山が決意を見せた。自らの心の奥底にあるものも放出しながら演じようとしている役者たち。江戸川乱歩が描いた無垢で哀しい愛の世界は、真に迫るものとなるだろう。公演は4月22日(水)から5月4日(月・祝)まで東京・赤坂RED/THEATERにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年04月10日作・演出家、鴻上尚史の書き下ろし作『ベター・ハーフ』に真野恵里菜が挑戦している。それぞれのベター・ハーフを探し求めて、4人の登場人物が密接に絡み合いながら進むこの物語に、「芝居がしたくて2年前にハロー!プロジェクトを卒業した」という真野の“女優魂”が燃えているようだ。演出家と女優がその濃密な芝居を語った。舞台『ベター・ハーフ』チケット情報ずっと前から芝居が、それも舞台が好きだったという真野。なかでも、2013年の『キフシャム国の冒険』を観て以来、鴻上作品への出演は夢のひとつになったそうだ。「テンポのいい会話のやりとりがあって、ダンスもあって、まさに演劇という世界。そこに私も入ってみたいと思ったんです」(真野)。その思いは、実は鴻上も直に受け取っていた。「真野ちゃんは『朝日のような夕日をつれて2014』も観に来てくれたんですけど、劇場を出るときに、“私をキャスティングしろ”っていう目で僕を睨んで帰って行ったんですね(笑)。そして僕は、そういう野心のある人が好きなんです。それぐらいエネルギーのある人でなければ、芝居を作るというとても大変なことを、最後までくじけずにやれませんから」(鴻上)。稽古に入って1か月。実際、真野のほか、風間俊介、中村 中、片桐 仁による4人だけの芝居は想像以上にエネルギーが必要で、「家に帰って気づいたら寝落ちしている」(真野)ほど疲れるのだという。鴻上曰く、「世の中がギスギスしてきた今、人間と人間がコミュニケートし、つながるとはどういうことなのかを描きたかった」という作品である。それぞれがいっぱいしゃべって、喧嘩もする。「人と話すことって大事なんだなと感じます。それに、役として本心を相手にしっかり伝えられたときは、本当に嬉しくなるんです。だから、どういう芝居をすればちゃんと伝わるのかって一生懸命考えていて。こんなに芝居に打ち込めるなんて、ハロプロを卒業した意味がここにあったなっていう気がしています」(真野)。本心をさらけ出すような芝居に、「アイドル真野ちゃんに抱いている幻想を壊すかもしれない」と鴻上。しかし、「みなさんの心を引っ掻き回したい(笑)」と真野はたくましい。さらには、その会話劇のなかにダンスや中村 中の歌も加わる。「4人がぐじゅぐじゅしているのを(笑)、どうせなら楽しくお見せしたい。最終的には、明日も生きていこうと思ってもらえたらいいなと思うんです」と鴻上は締めくくる。演劇の醍醐味はもちろんのこと、生きていく力も、この舞台は与えてくれそうだ。舞台『ベター・ハーフ』は4月3日(金)から20日(月)まで東京・本多劇場、25日(土)・26日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼ、5月3日(日・祝)から5日(火・祝)まで東京・よみうり大手町ホールにて上演。各会場ともチケット好評発売中。取材・文:大内弓子
2015年03月27日劇団「東京マハロ」第14回公演『たぶん世界を救えない』が、まもなく幕を開ける。脚本・演出を手がける主宰の矢島弘一が描くのは、東日本大震災後の原子力発電所近くに暮らす人々の物語。そのなかで、ある家族の高校生の息子を演じるのが百瀬朔だ。ドラマ『仮面ライダー鎧武』などで注目を集めている若手俳優に、意気込みを聞いた。東京マハロ『たぶん世界を救えない』チケット情報これまで舞台では、『タンブリングFINAL』や『曇天に笑う』など、同世代俳優と一緒に作り上げる作品が多かった百瀬。大人キャストに囲まれることも、シリアスなストレートプレイに挑むのも、初めてのことだ。「最初はどうしていいか全然わかりませんでした(苦笑)。でも、矢島さんが、そのままでいいよと僕自身を尊重した演出してくださったり、永井大さんをはじめとする周りのキャストの方々も、僕の芝居をそのまま受け止めてくださるので。僕はもうみなさんに委ねて、勝手に芝居をするぐらいの勢いでやらせていただいています」。しかしそれでも、演じる高校生の春一は手ごわい役である。祖父は原発誘致を進めたひとり。ゆえに、原発事故も一族はこの切実な現実を受け入れながら生きていくしかない。そんな流されていく大人たちを、春一はひとりクールに見つめ、やがてそれでは何も解決しないと声を上げることになる。「前半はほとんどしゃべらないんです。だから、しゃべらないでそこにいるのってしんどいなと思いながら(笑)、大人たちを見ているんですけど。でも、そこでちゃんと見ておくからこそ、自分が話すときにもしっかり熱が入るというか。普通、大人に対して正面切ってものを言うことなんてないから、ものすごくパワーがいるんですけど、すごくやりがいのある役をやらせていただいているなと感じています」さらに、春一は若年性アルツハイマー病を発症した父がいるという役で、演じるにあたっては、被災地の現状についてはもちろん、アルツハイマーのことも調べた。が、「調べたということに酔うことなく、フラットに演じたい」ときっぱり。「僕自身が感じたことを出すのではなく、大切なのは春一の意見や思いを出すことで…。僕たちがフラットに演じることによって、観てくださる方にも、こんな現状があるんだと、ただまっすぐ伝わるんじゃないかと思うんです」。伝えることの責任を背負いながら舞台に立とうとしている。この誠実な役者が見せてくれる、とある家族の現実。しっかりと受け止めたい。公演は3月25日(水)から4月5日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERにて。当日引換券も発売中。取材・文:大内弓子
2015年03月24日手塚治虫の『アドルフに告ぐ』が舞台化される。描かれるのは、「アドルフ」というファーストネームを持つ3人の男たちが、第二次世界大戦を背景に、イスラエル建国などの歴史的な事件にも関わりながら数奇な運命を辿る物語。日本に住むふたりのアドルフ少年には、成河、松下洸平、そして、アドルフ・ヒットラーに高橋洋が抜擢された。演出の栗山民也とともに、この手塚の代表作にどう向き合うのか。3人のアドルフに話を聞いた。舞台『アドルフに告ぐ』チケット情報ナチス党党員のドイツ人外交官の父と日本人の母を持つ少年、アドルフ・カウフマンを演じる成河。松下扮するユダヤ人のアドルフ・カミルと、親友の絆を結びながらやがて憎み合うことになる。「チラシにこんな手塚さんの言葉がありました。“この話は本当は、恋愛ものじゃないかと思うんです”と。愛が憎しみに変わるという意味では、カウフマンとカミルも恋愛のように感じますし、ナチス党員にとってはヒットラーはまさに恋愛対象。その根っこにある人間的な感情をしっかり表現すれば、カウフマンのことも理解していただけるのではないかと思っています」。一方、ナチスに迫害される側を演じる松下。「苦しみながらもまっすぐ誠実に生きるカミルには、教わることがたくさんあるなと感じています。家族や愛する人など、命をかけて守るものがある人間の強さには、単純に憧れますね」。また、ヒットラー役を務める高橋も、「負の部分を含め、自分をはるかに越える大きさを持つ人間を演じるのはハードルが高い」と言いながらも、「愛するとか怒るとか、直接的な人と人との関わりがきちんと描かれている作品。バックグラウンドがわからなくても、感じるものはあると思います」と意気込む。物語の背景には、戦争、民族、宗教といったものが入り組んでいる。が、「こういう作品に携わって、過去を学び伝えていけるのが、役者をやっててよかったと思える瞬間。お客様にとってもいろんなことを考えるきっかけになれば嬉しい」と松下が言えば、高橋も、「自分でどうすることもできない大きな何かによって時代が動いているのは今も同じ」と、今に通じるものがあると訴える。さらには、「決して人ごとにはできない作品だなと感じます。栗山さんの緻密な演出は、気づいたら物語に入り込ませてくれると思いますし。何か考えるきっかけになる作品になれば、と思っています」と成河。見せたいのは歴史ではなく人間。3人のその思いは、力強い舞台を誕生させるだろう。舞台は6月3日(水)から14日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場 ホールで上演後、京都、愛知で公演。神奈川公演のチケット一般発売は3月28日(土)午前10時より。チケットぴあではインターネット先行も実施中。3月23日(月)午後11時59分まで受付。取材・文:大内弓子
2015年03月20日カタルシツ『地下室の手記』が、2月25日、東京・赤坂RED/THEATERで初日の幕を開けた。劇団イキウメの別館として生まれ、劇団からはみだしたものを上演する「カタルシツ」。その第一弾となった今作は、一昨年の初演時に、作・演出の前川知大が第21回読売演劇大賞優秀演出賞を、主演の安井順平が、同優秀男優賞を受賞した。その好評を受けて再び舞台に上がった作品は、全編を安井ひとりで演じる新演出になり、さらなる悶絶と抱腹の世界に変貌している。カタルシツ『地下室の手記』チケット情報原作はドフトエフスキーの同名小説。世間から軽蔑された男が、自分を笑った世界を笑い返し、攻撃し、絶望のなかでもがいていく手記である。前川はその小説世界を大胆に脚色。帝政ロシアを現代日本に、手記をニコニコ動画の生放送に変えて、地下室に引きこもる40男に自意識問答を繰り広げさせる。他人と関わろうとして失敗した話、ある女との後悔の念にさいなまれる出来事など、物語で起こるイベントは原作通りのようだが、まさに今が描かれていると感じられる構成が、見事である。まずユニークなのは幕開けだ。安井は安井本人として登場。いわば“前説”のように観客に誰もが経験するエピソードを語りかけ、自意識というものは誰でも持っているやっかいなものであるということを自然に植え付けていく。これから語られるのは“私”のことでもあるのだと。そうして、孤独な主人公が、警備員のアルバイトをしていた30歳の頃の話が始まるのだが、ニコ生の仕掛けがまた、思わぬ効果をもたらす。男が暮らす地下室のセットには、世間に毒づく彼に対して、つっこみを入れるニコ生のコメントが壁面に次々と現れ、その悲壮感を突き放していく。自意識過剰でプライドが高くて、それゆえ、現実の自分が受け入れられなくて苦しみ、卑屈になっていく舞台上の男を、そして、それをとても他人事とは思えぬ私たち自身を、同時に思い切り笑うことができるというわけだ。前回、小野ゆり子が演じた「理沙」とのエピソードを今回は安井ひとりで見せることによって、彼女に向ける言葉のイタさも際立った。観客それぞれの「理沙」像を通じて、男の後悔の大きさもより胸に迫ってくる。人前で語ることが演劇の原点であるならば、安井のこのひとり語りは、まさしくその原点を堪能できるものであろう。しかも、彼が口にし、表現した途端、どんなクズ発言もチャーミングに聞こえてくるのだから不思議だ。どうしようもない男の話ではある。だが、必ず胸のすく思いになるはずだ。東京公演は3月9日(月)まで。その後、3月13日(金)から15日(日)まで大阪・HEP HALLでも公演。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年03月02日16回目を迎えたDステが、謝珠栄手がけるTSミュージカルファンデーションの作品に挑戦する。演出家・振付家として、創造性の高い本格ミュージカルを生み出してきた謝は、今回の『GARANTIDO』で、俳優集団に何を課そうとしているのか。D‐BOYSの気鋭、荒井敦史と大久保祥太郎が、謝の思いを受けながら、意気込みを見せた。ミュージカル『GARANTIDO』チケット情報今回の企画は実は、「ミュージカルをもっと広めたい」という謝の意思から出発している。「初めてDステを観たとき、みんなのひたむきさがすごく感じられて。こういう頑張っている若い人たちにミュージカルを身近に感じてもらって、幅広い表現者に育ってもらいたいと思ったんです」と謝。実際、これがミュージカル初挑戦となる荒井は、「ミュージカルは敷居の高いもの」と感じていたそうだが、「歌のうまい人しかミュージカルはできないというのが間違い。芝居をやっている人は言葉の伝え方が上手だし、声がひっくり返ってもいいんです」という謝の言葉に、「自信を持ってやってみようと思えます」と笑顔を見せる。一方、子役から活躍していた大久保は、『レ・ミゼラブル』や『マリー・アントワネット』など、ミュージカル経験も豊富。「自分の思い入れのあるミュージカルを、気心が知れたD‐BOYSでやれるのが嬉しい。歌も芝居なので、音に気持ちを乗せていけば絶対に伝わると思っています」と頼もしい。『GARANTIDO』に登場するのは主宰者亡きあと空中分解寸前となった劇団。追悼公演に向けてブラジルに移民した日本人の物語を稽古するなかで、移民たちの懸命な姿から劇団の絆を取り戻していくことになる。「移民のことや太平洋戦争の時代のことはほとんど知らなかったんですけど、その時代があってこその今だから、しっかり勉強して伝えなければなと思っています」と荒井が言えば、「劇中の劇団と、D‐BOYSが重なる部分はきっとあるので、僕たちの色を出しながら、みんなで同じ方向を向いて頑張りたいです」と大久保も決意を固める。「劇団も家庭も社会も同じ。演出家がやってくれるだろうとか人任せにするのではなく、一人ひとりが自立しないといい関係はできない。この作品を通して、みんなにも自分の足でしっかり立って自分の人生を歩いていく人になってほしいし。私もみんなから新しい発見をしたいと思っています」と最後に締めくくった謝。表現者としてのみならず、人間として大事なものを、D‐BOYSは舞台から届けてくれるだろう。公演は5月21日(木)から26日(火)まで東京芸術劇場 プレイハウス、5月30日(土)・31日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて。チケットの一般発売は2月21日(土)午前10時より。チケットぴあでは一般発売に先がけてインターネット先行を受付中。取材・文:大内弓子
2015年02月13日紀伊國屋ホールでのつかこうへい作品の公演が今年も始まる。今回は「つかこうへい Triple Impact」と銘打ち、3作品が登場。『初級革命講座飛龍伝』と『いつも心に太陽を』を岡村俊一が演出し、『ロマンス2015』を中屋敷法仁が任された。いずれも上演回数が少なく、それゆえに手強く、つかの原点のような伝説的な作品ばかり。柳下大や鈴木勝大といった若手俳優たちとともにその困難に挑む、ふたりの演出家に本番を控えた思いを聞いた。つかこうへい Triple Impact チケット情報今年の紀伊國屋ホールに、中屋敷の演出を迎えることを企画したのは、長くつか作品に関わってきた岡村だ。「2013年に中屋敷くんが演出した『飛龍伝』を観て感じたんです。こうして若い世代が自由に解釈して上演することで、つかこうへいの演劇が未来に生き残っていくだろうと」。そこで用意したのが、『いつも心に太陽を』と、それを元に生まれた『ロマンス』の2015年バージョンだ。「わかりやすくもないし、ラクにはできない作品です。でも、『飛龍伝』や『幕末純情伝』のようなエンターテインメント色の強いものだけじゃないというところを、ここで提示しておくべきだと思った」と岡村。中屋敷も、「自分なりのスパイスを加えたり、意味づけをしないと、そのまま見せるだけでは太刀打ちできないなと思っています」と岡村の挑戦に応える。『いつも心に太陽を』も『ロマンス2015』も、描かれているのは、水泳の世界を舞台にしたホモ・セクシュアルな関係だ。岡村曰く、「同じ物語を違う視点で書いた」というわけである。だからこそ、「あとから書かれた『ロマンス』に付け加えられもの、削られたものの意味を考える楽しさがある」と中屋敷。さらに岡村はこうも付け加える。「もっと言えば、なぜスポーツなのか、なぜホモ・セクシュアルなのか、その世界に置き換えてつかさんが言いたかったことは何なのかっていうことを考えていくと面白い。何重にも言い換えて、重層的な世界に引き込み、観客の脳の中を爆発させるのが、演劇だと思うんです」。中屋敷も演劇の面白さを「悩んだり考えたりしながら観たもののほうが残るということもありますよね」と話し、「とくに今回は、3つの作品でつかさんのいろんな系譜が観られるので、観る体力をつけてもらえると楽しめるんじゃないかなと思いますし。考えさせるものを作れるように頑張りたい」と締めくくった。幕開けは、35年ぶりに上演される『初級革命講座飛龍伝』から。つか作品の、そして演劇の、過去から未来を体感したい。「つかこうへい Triple Impact」は2月12日に開幕、上演は3月2日(月)まで。取材・文:大内弓子
2015年02月13日韓国で大ヒットを記録したミュージカル『シャーロック ホームズ』。2014年に上演された日本版も、ホームズを橋本さとしが、女性版ワトソンを一路真輝が演じて大きな反響を呼び、早くもシーズン2となる『シャーロック ホームズ2~ブラッディ・ゲーム~』が登場する。今回の敵は、世紀の殺人鬼・切り裂きジャック。抜群のコンビネーションを見せたふたりは、どんなドラマを見せてくれるだろう。ミュージカル『シャーロック ホームズ2~ブラッディ・ゲーム~』チケット情報これまでにもさまざまな作品でさまざまな役者によって演じられてきたシャーロック・ホームズ。演じるにあたって橋本は、「シャーロキアンと呼ばれるファンの方がたくさんいて、それぞれにシャーロック・ホームズ像を持っておられる。そのすべてを僕が満たすことは到底できないので、自分から出てくるものを正直に演じようと思った」のだという。その結果生まれたのが、橋本いわく、「謎解きには異常なほどの能力を発揮するけれど、人間的には未完成」なホームズ。ワトソンに突っ込まれる様もキュートだった。そのワトソンを演じる一路。「前回は男と女の関係性をちらっと匂わせたいということだったんですが、ホームズは事件のことしか頭にないので、完全にワトソンの片思い(笑)。しかも今回は、さらに事件のシリアス度が高まっているので、どんな関係になっていくのかまだ想像がつかなくて……。でも、ホームズへの思いは大事に見せていけたらと思っています」と、コンビ再結成に期待を膨らませる。今回は切り裂きジャックを描くとあって、ストーリーは確かにシリアスになりそう。が、橋本が「それでも、あくまでも娯楽としての楽しさを追求したい」と語れば、一路もうなずき、「やっぱり音楽の力は大きいですよね。前回とは全く違う曲調のものもあって、歌うのは本当に大変だと思うんですけど。でも、韓国ミュージカルは作る人も若く勢いがあって、私たちの想像を超える面白さがあります。その作品の力を伝えることが出来るよう、日本版の良さも出しながら演じていきたいです」と話す。それに応えて「日本と韓国、お互いが刺激し合い、切磋琢磨していけたらいいですよね」と橋本。「それに、このミュージカルは3部作らしいので。この作品世界をもっと高めて、シーズン3につなげていけたらなと思っているんです」と嬉しい情報も付け加えてくれた。華も実もある橋本&一路ならではの日本版『シャーロック ホームズ』。ハラハラドキドキだけでなく、きっと心に沁み入るものになるだろう。公演は4月26日(日)から5月10日(日)まで東京芸術劇場 プレイハウス、5月16日(土)・17日(日)福岡・キャナルシティ劇場、5月21日(木)から24日(日)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて。チケットの一般発売は東京・福岡公演が2月21(土)午前10時より、兵庫公演が3月21日(土・祝)午前10時より。チケットぴあでは東京公演のインターネット最速抽選「いち早プレリザーブ」を本日午前11時から2月11日(水・祝)午後11時30分まで受付。取材・文:大内弓子
2015年02月04日劇団「東京マハロ」第14回公演『たぶん世界を救えない』に出演が決まった永井大。ドラマや映画など映像での活躍が印象深いが、実は舞台にも大いに興味があるのだという。今度の矢島弘一が主宰する劇団との出会いも、永井に刺激的なものをもたらしそうだ。東京マハロ『たぶん世界を救えない』チケット情報舞台に立つのは2年ぶり。これまでに経験した本数も決して多くはないが、永井にとってそこは、特別な場所であるらしい。「映像には映像の良さがもちろんあるんですけど、舞台はやっぱり、舞台を踏んでる人たちからあふれてくるパワーがすさまじいんですよね。その見えない力にいつも感動するんですけど、それって舞台経験を積まないと出てこないものだと思うんです。カットごとに芝居をする映像と違って、舞台の上で全身をさらしながら一連で芝居をすることで、内側から出てくる何かが鍛えられる。だから、僕ももっと舞台に立ちたいと思っています」。劇団「東京マハロ」に参加するにあたっても、期するものがある。「まだ1作しか拝見していないので断言することはできないんですが、新しい発想から作品を生み出しているような印象を受けました。だから、今度もどんな脚本が上がってくるのかすごく楽しみなんですね」。しかも、劇団の主宰者で脚本・演出を手がける矢島とは、共通の知人がいることも発覚。「うちの父親がやっていた空手道場に通っていたひとつ上の先輩と矢島さんが、同じスポーツジムでインストラクターとして働いていたそうなんです。だから、初めてお会いしたのにすごく近く感じていますし。スポーツジムから演劇っていう異色の経歴を持っている方だからこそ(笑)、新しいものが作り出せるんだろうなと思っています」。永井自身も長く空手にいそしんできた。稽古を重ねて作り上げる舞台は、スポーツに重なるという。「練習をしないで試合に出ることなんてあり得ないし、練習を重ねてきたことが自信につながる。舞台も同じだと思います」。まだ脚本は完成していないが、「タイトルが『たぶん世界を救えない』ですから、“たぶん”面白いと思いますよ(笑)」とユーモアも見せる。そこに、どんなものが上がってこようと受けて立ってみせるという覚悟を感じさせた。3月25日(水)から4月5日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERにて。チケットの一般発売は2月6日(金)午前10時より。チケットぴあではインターネット先行抽選「プレリザーブ」を実施中、2月1日(日)午前11時まで受付。取材・文:大内弓子
2015年01月23日江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲化し、その三島自身が熱望したことから実現した美輪明宏主演の『黒蜥蜴』。三島由紀夫生誕90年、没後45年にあたる今年、再演を重ねてきたこの代表作に、美輪はどんな思いを込めるのか。三島との思い出話など、美輪からこぼれる言葉は尽きなかった。舞台『黒蜥蜴』チケット情報舞台での初演は1969年。その前年に公開された映画は世界でも評判を獲得した。以来、『黒蜥蜴』といえば美輪のほかになくなった。「三島さんからは、黒蜥蜴を演ってほしいと3度も頼まれたんです。私が出演した寺山修司の『毛皮のマリー』をご覧になって、“あの難解なセリフを、まるで歯ブラシでも使うように日常の言葉として成立させていた。僕の芝居といえばみんな気取って難し気に演じるけれど、君なら内容を解り易く演れるはずだ”と。確かに、三島さんのセリフもレトリックがすばらしく、美しい言葉がいっぱい出てきますから、それをきちんと表現し、伝えるのは、なかなかむずかしいことだと思います」。美しいのはセリフだけではない。演出・美術・音楽・衣裳も手がける美輪は、この耽美的な世界観をすべてにおいて追求してきた。「三島さんのセリフに合うのは、ドビュッシーなどフランスの印象派の音楽か、東欧のもの。衣裳も裾の長い本格的イブニングドレスを身につけなければ、本物を知る女賊の黒蜥蜴にはなれません。セットや照明も同じです。その世界を成立させるために綿密に作り上げていきますし、そのための知識や技術がなければ舞台は作れないんです。ですから、今一度、こういった正統派の舞台を見直してみるのも必要だと思います。そこでなければ得られない感動や癒し、安らぎというものがあるはずです」。美輪が演じる黒蜥蜴は、明智小五郎と対峙し、やがて愛していくことになる。明智を演じるのは2度目となる木村彰吾。そして、黒蜥蜴の愛人・雨宮には、木村と同じく『花子とアン』で注目を集めた中島歩が再び挑む。「『花子とアン』では、『ごきげんよう』という美しい言葉が話題となりました。この『黒蜥蜴』の美しい世界も、ぜひ若い方にご覧になっていただいて新鮮な感動を味わっていただければと思うんです。早替わりも多く、体力的にはとても厳しい作品なんですが、80歳の黒蜥蜴も面白いんじゃないかと思っています(笑)」。その笑みに、まだまだ作品を向上させようとする覚悟が見える。美輪にしか成し得ない『黒蜥蜴』を、心待ちにしたい。舞台は4月4日(土)から19日(日)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。その後、愛知、大宮、神奈川、静岡でも公演。取材・文:大内弓子
2015年01月22日2013年に新たな真田幸村と十勇士を作り上げて評判となり、2015年の年明けまもなく、再演の幕が上がる『真田十勇士』。稽古場では、幸村を演じる上川隆也をはじめとするキャストたちが、すでに本番さながらの熱を放出していた。その姿は、立ち回りはもちろんのこと、人間ドラマもさらに細やかに骨太になることを予感させるものだった。舞台『真田十勇士』チケット情報この舞台が新しい真田十勇士と言われたゆえん。それは、劇団☆新感線の座付き作家・中島かずきがユニークなアイデアのもと書き上げた壮大なストーリーを、宮田慶子が丁寧に演出し、俳優たちがそれを見事に体現したことにあった。真田幸村という男がなぜ徳川家康という強敵に立ち向かったのか。十勇士たちがその幸村になぜ付き従ったのか。大坂夏の陣で勇猛果敢に散ったと伝えられる真田十勇士一人ひとりの心のドラマが、本当にこうだったのかもしれないと思えるほど、きめ細やかに描かれていたのである。再演の稽古場で印象的だったのも、その繊細さだった。たとえば、幸村が豊臣秀頼とその母・淀の方と対面する大坂城のシーン。まだ実績のない幸村に対する彼らの態度は冷ややかなものなのだが、淀の方や家臣の目線や動きがほんの少し修正されるだけで、幸村にかかる圧迫感が増大し、それを受けて上川幸村の内側に悔しさがたぎっていくのが手に取るようにわかるのだ。迫力ある殺陣のシーンも同様に、動きを一つひとつしっかり確認していく。なぜそう動くのか、役の気持ちで動きを組み立てることもあれば、相手の動きやすさを考えて動くこともある。面白かったのは、猿飛佐助を演じる柳下大だ。抜群の身体能力が裏目に出て、動きが速すぎて客席から見えない恐れがあるため、もう少しゆっくりはっきり動くという注文を受けていた。また、上川自ら十勇士のなかに入って、スムーズな動き方をアドバイスする場面も。殿と十勇士たちのチームワークの良さがうかがえる。『真田十勇士』が大舞台で繰り広げられるエンターテインメントであることは間違いない。しかし、そのダイナミックな物語は、一人ひとりの細やかな思いと動きの積み重ねでしか、作り上げることができないものでもある。この真田十勇士が今を生きる私たちの胸に響く理由は、そこにあるのかもしれない。公演は1月8日(木)に東京・赤坂ACTシアターで開幕後、1月31日(土)・2月1日(日)愛知・中日劇場、2月5日(木)から2月8日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、2月13日(金)から2月15日(日)まで福岡・キャナルシティ劇場にて上演。取材・文:大内弓子
2014年12月27日銀河劇場が企画したニュージェネレーションシリーズ第一弾、次世代クリエイター×若手舞台俳優による朗読劇。1週目の『春のめざめ』が好評のうちに幕を閉じ、2週目の『僕とあいつの関ヶ原』の稽古が佳境に入った。そこには、朗読劇の可能性が渦巻いていた。朗読劇『僕とあいつの関ヶ原』チケット情報吉田恵里香の自身の小説に基づいたオリジナル脚本を、劇団「柿喰う客」の中屋敷法仁が演出。若き世代ふたりの手による『僕とあいつの関ヶ原』は、ストーリーも斬新だ。テーマは、エンターテインメント作品に取り上げられることが少なかった関ヶ原の戦い。合戦そのものよりもそこに至るまでの心理劇のほうが実は面白いと、脚本には、武将たちのあまりにも人間くさすぎる姿が暴き出されている。稽古で繰り広げられていたのも、まさしくその感情のせめぎ合いだった。中屋敷の演出でいちばんにこだわっているように見えたのは、人物の関係性である。台詞のどの部分で立つか、座るか、舞台上をどう移動するか、細やかに指示を出していく。すると、誰が優位に立ち、誰が追い詰められているのかが一目瞭然となる。たとえば、そこには登場していない人物であっても、ひとりすっくと椅子の上に立ち上がることで、周囲を圧倒する人間であるということがはっきりとわかるのだ。それはまた、出番のあるなしにかかわらず全員が舞台に上がっている朗読劇だからこそできることでもある。ナレーターと会話する場面も即興で加えられた。普通の芝居ではできないことに果敢に挑み、楽しさが膨らんでいく。関ヶ原は、いわば、徳川家康と石田三成との戦いだ。その敵対するふたりを、三上真史がひとりで演じるのもユニークだ。中屋敷は、家康なのか三成なのかわからなくなる瞬間を、あえて作ろうとしている。染音という女性と島左近を演じる武田航平、井伊直政と大谷吉継を演じる玉城裕規、小早川秀秋と福島正則を演じる宮下雄也もしかり。敵味方の攻防がさらに面白くなる仕組みだ。そして、家康の四男・松平忠吉を演じる木戸邑弥が、戦いの要となっていく。俳優たちが使う舞台セットは3脚の長椅子だけだ。周囲には無造作に積まれた椅子がある。合戦の陣地を表すかのようなそれは、よく見ると、『春のめざめ』で舞台に並べられていた椅子たちだった。俳優も、木戸と武田は『春のめざめ』に続いての出演。シリーズとしてのつながりを感じさせる工夫もなされている。公演は12月14日(日)・15日(月)、東京・天王洲 銀河劇場にて。取材・文:大内弓子
2014年12月10日仕事にも恋愛にも疲れたひとりの女性のもとに、ある日突然、白鳥が飛び込んできて若い男性に変身したら……。思いがけない出来事から始まる人生の再生を描く『スワン』が日本初上演される。この大人のファンタジーにどう取り組んでいるのか。主演の一路真輝、演出の深作健太に聞いた。舞台『スワン』チケット情報エリザベス・エグロフによる『スワン』は、ニューヨークでも好評を博した珠玉の小品。主人公の女性・ドラとその愛人・ケビン(大澄賢也)、人間になった白鳥(細貝圭)の3人だけで、ドラマが進んでいく。稽古場には今、その3人の熱気が渦巻いているらしい。「台本を一読したイメージでは、暗く静かな空気のなかで展開するかと思っていたんですけど、意外にも、とても躍動的なお芝居になっているんです」(一路)。「3人の身体性を活かしていくと、動きの多い芝居になってきて(笑)。その結果、言葉のやりとりもどんどん面白くなって、世界がすごく広がっているんですよ」(深作)。だから、単なる男女の三角関係というところを飛び越え、精神宇宙を旅するような物語にもなっている。「ドラは年齢を重ねた女性なら誰もが持っている悩みに直面しているんですけど、ひとつの台詞や何気ないやりとりの裏にもいっぱい意味があるんですね。だから、いろんな解釈をしながら、私もどこまで自分を解放できるか、挑戦していきたいと思っています」(一路)。そんな等身大の女性を演じる一路は、深作から見てもキュートだそう。「僕がタカラヅカを初めて拝見したときに、『ベルサイユのばら』のオスカル役を演じられていたのが一路さん。僕にとっては憧れの人なんですけど、本当にかわいらしく思えてきて(笑)。ときに母親のような包容力もあり、ドラが非常に多面的で魅力ある女性になっているんですよ」(深作)。3人だけのこの濃密な芝居は、各地公演いずれも小、中規模の劇場で上演される。「舞台と客席が近い空間で、俳優さんの持ってらっしゃるいいところをそのままお届けできたら」と語る深作。そして一路も、「目線ひとつ、ため息ひとつで、何かが伝わるような空間にずっと憧れてきました。そこに自分が立っていることを想像すると、ちょっと興奮します」と意欲的だ。深作によると、白鳥は“天使”なのかもしれないらしい。上演されるのは12月。目の前で繰り広げられるめくるめく物語は、まさにクリスマスの贈り物になるかもしれない。公演は12月6日(土)・7日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、12月17日(水)から23日(火・祝)まで東京・紀伊國屋ホールにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2014年11月28日男同士の夫婦とひとり息子をめぐる愛の物語を描いたミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』。日本初演から30周年を迎える2015年、3年ぶりに上演される。この作品がこんなにも長く愛されるのはなぜなのか。“夫”のジョルジュを演じる鹿賀丈史が、作品の魅力と、舞台にかける思いを語った。ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』チケット情報鹿賀が初めて『ラ・カージュ──』に挑戦したのは2008年。以来、今度で3度目の出演となるが、この作品でジョルジュというゲイ役を演じることには、大きな魅力を感じているのだという。「これは人としての思いやりや愛がいっぱい詰まっている話なんですけども、ゲイであるからこそ、そういったものがより深く繊細に色濃く表現できるところがある。そこが演じていて非常に気持ちいいんですね」。たとえば、ひとり息子の結婚に際し、普通の男女の夫婦になりすましてひと騒動起こしてしまうのも、息子のためなら何でもするという濃い愛情の表れ。面白おかしい場面のなかにも、人にとって大切な精神がくっきりと浮かんでくる。「世間から冷たい目で見られることもあるけれども、ゲイであるジョルジュたちのほうが人間愛をより深く理解しているんじゃないかと思えてくるんですよね。ですから、人間の尊厳も表現できるのではないかと思いますし。何より、笑っているうちに泣けてくるというお芝居はすばらしいので。いい作品に巡り合えたなと思っているんです」。ジョルジュの“妻”を演じる市村正親とは、劇団四季時代からの盟友だ。舞台上では、夫婦として愛を交わしたりケンカをしたり、息の合ったところを見せてくれる。「付き合いが長いだけに、とくに打合せをしなくてもスッとできてしまうところがやはりありますね。見つめ合うと、“お互い年を取ったね。頑張ってるね”っていう気持ちになりますけども(笑)」。舞台に立って40年あまりが過ぎた。「正直なところ、若いときには簡単にできたことが、何回も練習しないとできなくなったりしています。でも、繰り返すことで味のある芝居や歌になったりもしますし、年齢を重ねることで役の捉え方も違ったりしますから。今度の『ラ・カージュ──』も、また新しく感じることがあると思います」。最後に、常に新鮮な気持ちで演じる秘訣を、「その作品に真剣に向き合い、よけいなものを落として、台本に書かれてることを忠実にやること」と即答した鹿賀。感動的な舞台に必要なのは、そんな真摯な思いだけなのかもしれない。公演は2月6日(金)から28日(土)まで東京・日生劇場、3月6日(金)から8日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて。両公演ともにチケット発売中。なお、12月28日(水)までにチケットぴあ 有楽町国際フォーラム店、渋谷ヒカリエ店で東京の平日公演S席のチケットを購入すると劇場で非売品A5クリアファイルと引換えできる特典券がついてくる。取材・文:大内弓子
2014年11月17日今年はじめに出演したスーパー歌舞伎を筆頭に、ここのところ舞台でのチャレンジングな活動が目立つ。2015年2月に上演される『狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~』も、福士誠治にとって、かけがえのない挑戦になりそうだ。本作は、1960~70年代の優れた戯曲を、若手演出家の新たな解釈と演出で復刻させる、東京芸術劇場「Roots」シリーズの第2弾。1969年に劇団俳優座で初演された清水邦夫の戯曲を、『おそるべき親たち』などで注目されている熊林弘高が演出する。狂気と言葉が錯乱する手ごわい世界に、どう立ち向かうのか。熊林を交えながら、福士がその思いを語った。舞台『狂人なおもて往生をとぐ』チケット情報戯曲を読んで福士がいちばんに感じたのは、「答えのないものを手探りで作っていくような作品」ではないかということだった。筋立てはこうだ。彼が演じる出(いずる)は、娼婦の館で娼婦や客たちに怒りや苛立ちをぶつけている若者。だが次第に、彼らがみんな家族であり、精神を病んだ出の妄想の世界を演じていることが明らかになっていく。「だから一応は、出が狂人で家族がまともな人たちっていうことになるんですよね。でも、もしかしたら、本当は家族じゃないのかもしれないし、全員が狂人なのかもしれないし。台詞も言ってることが本当か嘘かわからない。そのうえ、表現の仕方がすごく遠まわしなので、会話がつながっていなかったりするんです。そこで心のやりとりをしていくのは、本当に修行になる。右往左往してみたいですね」。一方、娼婦館ごっこをする家族という設定に、演劇のひとつの原型を見るという熊林。「ジャン・ジュネ作の『女中たち』のように、ごっこ遊びのなかに真実と嘘が見えてくることがある。この家族もそう。しかも、「国家」という言い方をするように、「家」というのはその最小単位。家で行われていることから、社会や国家がやっていることも見えてくる。そういう巧みな戯曲でもあるんです。また、きな臭い方向に向かっている今の時勢と重なり合うところもある。僕自身は基本ノンポリですが(笑)、覚悟して、客席に問いかけていかなきゃなと思っています」。役者としては、「自分が答えを持つことなく、そのメッセージを提示できるようにならないといけない」と福士。それは困難な挑戦になるだろうが、「観ている方が前のめりになって考えてもらえるようなエネルギーを出したい」という彼なら、ただまっすぐに狂ってくれるはずだ。公演は2015年2月10日(火)から26日(木)まで東京芸術劇場 シアターウエストにて。その後、愛知、長野、兵庫でも公演。東京公演のチケット一般発売は11月15日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2014年11月14日インドの音楽家が作り上げたミュージカルが、2015年1月から、東京国際フォーラムと梅田芸術劇場で日本初お目見えする。これまでにないマサラ・ミュージカル『ボンベイドリームス』に主演として挑むのは、ミュージカルはもちろん、ストレートプレイや映像でも活躍が目覚ましい浦井健治。巨匠・ロイド=ウェバーが惚れ込んでプロデュースしたという作品の日本版に、浦井自身も期待が膨らんでいるようだ。ミュージカル『ボンベイドリームス』チケット情報本作の音楽を手がけているのは、『ムトゥ・踊るマハラジャ』や『ボンベイ』、そして2008年にアカデミー賞作品賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』などの大ヒット映画で知られるA.R.ラフマーン。その手腕はミュージカル音楽でさらに開花し、浦井も一瞬で虜になったという。「とにかく、メロディーが多彩で豊かなんです。ノリノリになれるようなビートを刻んでいる楽曲があったり、ポップスに負けないキャッチーなものがあったり、ダイナミックなナンバーがあったり。そこに伝統的なインドの曲調が混じって、どれも魅力的で耳に残るんですよね」。ウエストエンド版、ブロードウェイ版では、その音楽に合わせた刺激的なダンスも話題になった。日本版の振付はこれからだが、「衣装を含め、華やかできらびやかなイメージになりそう」と想像を広げる。「それだけ画期的な舞台であるだけに、技術的には、歌もダンスもトライアル(試練)はたくさん出てくると思います。でも、だからこそ、ワクワクするんです」。浦井が演じるのは、スラム街に育った青年。憧れていたボリウッド(インド映画)の世界に偶然入った彼が、そこでさまざまな経験をしていくことになる。「貧しくとも純粋に育ってきた青年が、夢の世界の裏側にある闇を目の当たりにして、葛藤して、成長していく。その人間ドラマも魅力的なんです。人にはやっぱりどんな環境で生きていようが変えられない大切なものがあるということ。夢を持つエネルギーのすばらしさ。ストーリーからも伝わってくるものがたくさんあると思います」。浦井自身にも変わらず大切にしたいことがある。「自分ひとりの力じゃ何もできない。だから、関わる人すべてに感謝したいし、自分自身も、より貪欲に、より鮮度を高めて、進化していかなきゃいけないなと思います」。マサラ・ミュージカルという新たなジャンルに挑むのは、まさに、その思いの表れである。公演は2015年1月31日(土)から2月8日(日)にかけて東京国際フォーラム ホールCにて、その後2月14日(土)・15日(日)に大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて上演される。チケットぴあではインターネット先行先着「プリセール」を受付中。取材・文:大内弓子
2014年11月10日作・演出家の福原充則と俳優の富岡晃一郎から成る劇団「ベッド&メイキングス」の公演が11月6日に開幕。第4回公演に選んだのは、他劇団の作品だった。それは、1994年の初演以来繰り返し上演されてきた劇団「双数姉妹」の『サナギネ』。まっぷたつに仕切られた円形の舞台上でふたつの物語が同時進行し、やがて交わっていくという、まさに演劇でしか作り得ず、円形劇場でしかできない構図を持つ作品を、今年閉館となる青山円形劇場のフィナーレに送り出す。ベッド&メイキングス『サナギネ』チケット情報今回の企画は、いつか『サナギネ』を上演したいという福原の思いから始まっていた。「面白いと思う舞台はたくさんあるけど、時間が経つと忘れていく。でも『サナギネ』は、ふたつの話を同時に演じるという構成の面白さ以上に、忘れられないセリフや場面があった。忘れられない芝居ってどういうものなんだろうという興味から、まずは始まっているんです」(福原)。同じく『サナギネ』を2度観たという富岡も、福原の思いを聞き、すぐにやりたいと手を挙げた。「芝居をふたつ作らなきゃいけないこととか、そのふたつがひとつになるときのタイミングを合わせなきゃいけないこととか、稽古は本当に大変なんですけど(笑)。でも、もともと双数姉妹の小池竹見さんが作った仕組みも、福ちゃん(福原)が手を加えたところの面白さも、両方が体験できるから。贅沢だなって思ってます」(富岡)と、新『サナギネ』への手応えを感じている。舞台上では、片側で田舎町に暮らす14歳の少女・ヨシノの物語が、もう一方で都会に出た24歳のヨシノの物語が演じられる。ベッド&メイキングス版には、そこに福原なりの“時間”を捉える目が加わった。「これは両方でひとりの女の子の成長を描く物語ですけど、そこから、人にとっての過去・現在・未来というものが見えてくる気がするんです。科学的解釈では“時間は過去から未来へ流れているのではなくて、未来から過去に流れている”とか。確かに、現在の積み重ねで過去はできるわけで、そう考えると、未来がなければ現在も過去もないっていうことになりますよね」(福原)。その話に、「本当だ。そういう芝居になってる!」と応える富岡。きっとそれは、両方を観ることでより納得できるのだろう。が、「片方だけでも、こっち側を楽しもうと集中していただけると(笑)、絶対に面白くなるはず」(富岡)と付け加える。「面白い芝居は演劇界共通の財産として、いろんな人が再演したほうがいいと思う」と福原は言う。名作がまた新たな面白さを放つ瞬間を、目撃してほしい。公演は11月10日(月)まで。取材・文:大内弓子
2014年11月07日渡辺えり率いる「オフィス3○○(さんじゅうまる)」が、2012年に初演した『天使猫-宮澤賢治の生き方-』。東北出身の渡辺が東日本大震災後初めて書き下ろしたこの作品を、大沢健、大和田美帆という新キャストを迎えて再演する。描かれるのは、同じ東北に生きた宮沢賢治の生涯と彼の作品の世界。賢治が残した命への思いは、時空を自在に行き来する渡辺独自の演劇空間にどう放たれるのだろうか。渡辺が『天使猫』の再演を決めたのには理由がある。「震災から3年以上が過ぎても状況は変わらないのに、東北の苦しみを感じなくなっている。風化させてはいけないと思いました。被災地に行くたび『芝居が観たい』とも言われるんです。物資は被災者が多すぎて分けられないけど、芝居なら分けずに観て感じればいいからと」(渡辺)。そこで東北を含む全国公演を決行。そこに参加する大沢と大和田も、「震災があった年に東北で芝居をして、『3月11日以来初めて笑った』という声を聞きました。また自分にできることをやれたらなと思っています」(大沢)、「その場所に行って、自分の生身の体で表現する。それも、東北出身のえりさんが書いた東北で育った賢治の話を、というのは、これ以上ない機会だと思っています」(大和田)と意欲的だ。宮沢賢治の生涯を描くといっても、賢治が書いた童話の登場人物が現れるなど、そこには渡辺ならではのめくるめく世界が待っている。たとえば、渡辺作品には2度目の出演となる大沢は、現実と賢治の作品世界とを行き来する“天使猫”をはじめ、様々な役に扮するのだが、「何役も演じるのは点と点を飛ぶようなものなんですけど、そこを結ぶものが見つかったときにパーッと拓ける感動がある」(大沢)という。また念願の渡辺作品で、おもに賢治の妹のとしを演じる大和田。「こういう人物だという思い込みがあっては演じられない戯曲。多面的に捉えていかないと。大変なことに挑みたいと思っている今、えりさんの作品に出会えてよかったです」(大和田)と燃えている。想像広がる芝居の根底には、「宮沢賢治は、飢饉や自然災害に苦しみながら耐えている東北人を見て、農民のために死のうと決めた人。その生き方を通じて、東北のことを考えてほしい」(渡辺)という思いが流れている。しかし、「主義主張を言葉でストレートに伝えるのは演劇人じゃない」(渡辺)という矜持がこの作品を誕生させた。演劇だからこそ感じられるものを、思う存分受け止めたい。『天使猫-宮澤賢治の生き方-』は10月23日(木)東京・シアタートラムより開幕。その後、兵庫、石川、愛知、福島、宮城を周る。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2014年10月10日ファンクバンド「Only Love Hurts(面影ラッキーホール)」の紡ぎ出す曲が音楽劇になる。『好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた』『あんなに反対していたお義父さんにビールつがれて』といった曲のタイトルからもわかるように、その世界はあまりにも独特。だが、だからこそ面白いと乗ったのが、古田新太だ。果たしてどんな舞台になるのか。音楽劇『いやおうなしに』について語ってくれた。今回の企画は、演出を手がける河原雅彦の、「Only Love Hurts(面影ラッキーホール)」の曲を使った音楽劇を古田新太でやりたいという思いから始まった。打診された古田は即決。「アルバムとシングルCDをすべて持っているぐらい、おいらも『面影』が大好きなんです。いいなと思うのは、歌詞がひどいところ(笑)。だから今回の舞台も、ひどい話になるんだろうなと期待しているんです」。河原にしろ、脚本を担う福原充則にしろ、ひねりの効いた喜劇はお手のもの。現段階では、古田演じる下町の食堂の店主と、そこに集まる人々が描かれる予定だが、「たぶんみんなだらしない人たちなんでしょうね(笑)。ただ、『面影』の歌詞が不幸で重い分、バカらしい軽い話になればいいなとは思ってます」。共演には、妻役の小泉今日子、娘役の高畑充希などが揃った。男性ボーカルの「Only Love Hurts(面影ラッキーホール)」の歌を女性が歌うことによる化学反応も、古田は楽しみにしているらしい。「あの不幸な女の歌をキョン吉(小泉)とか充希ちゃん(高畑)が歌う。それだけでも面白いですよね。キョン吉とは舞台では初共演なんですけど、『できない』ということを一切言わないプロフェッショナルですから。どんなひどいことでも抗わずにやってくれるはすだと(笑)、頼りにしています」。そう話す古田自身も、もちろんNOを言わない役者だ。「おいら、アドリブをやる人だと思われがちですけど、細かく演出してもらうほうが好きなんです。言われたことは何でもやります。ましてや、舞台はタブーの少ない場所ですからね。やりたい放題やっていいと思ってるんです」。その意味では、「Only Love Hurts(面影ラッキーホール)」の身もふたもないような世界を描く今作は、まさに、舞台でしか味わえないものが体感できるはず。「だから、この機会に、『面影』ファンや音楽好きの人も、ぜひ舞台を経験してほしいなと思いますね。今のところ、面白くなる要素しかないですから。安心して劇場に来てください(笑)」。音楽劇『いやおうなしに』は1月9日(金)神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場ホールより開幕。その後、埼玉、愛知、東京を周る。なお現在、神奈川、埼玉、愛知公演の先行抽選プレリザーブを実施中。受付は神奈川、埼玉公演が10月13日(月・祝)午前11時まで。愛知公演が10月16日(木)午前11時まで。取材・文大内弓子
2014年10月10日