ひとりユニット「バンダ・ラ・コンチャン」でさまざまな演劇をプロデュースしてきた近藤芳正が、若手4劇団とコラボするオムニバス公演『コンビアルバム公演御ゑん祭~近藤さん出ずっぱりだって!?~』にチャレンジする。「ナカゴー」「ぬいぐるみハンター」「青☆組」「Mrs.fictions」に、ベテラン役者を揃えたスペシャルユニット「オールド」をプラスした5作すべてに出演にするという無謀な(?)近藤の試みを、若手はどう受け取めて参加するのか。「Mrs.fictions」のメンバーで、今回は役者として登場する今村圭祐と岡野康弘、そして、同劇団の中嶋康太の作・演出作品に出演する女優・相楽樹が近藤を囲んで、この企画への期待を語った。バンダ・ラ・コンチャン チケット情報若い劇団のオリジナリティに刺激され、「このなかに自分も混ざりたい!」と、今回の企画を立ち上げた近藤。「年齢を重ねていくと勝手に自分のやり方ができてしまうけど、そういう枠をぶっ壊していかないと成長がない。既成概念にとらわれていない若い人たちからその面白さを受け取りたかったんです」。しかし、近藤とともに稽古をしている役者陣は、むしろ近藤から刺激を受けていると声を揃える。「僕らと同じ目線でものを作ろうとされてる姿に驚きました」と言うのは今村。19歳の相楽も、「1作品にしか出ない私たちの5倍稽古してらっしゃるのに、集中力がすごい」と驚く。「本番では5作品通すうちにどんどん青白くなっていくかもしれないけどね(笑)。でも、そういう体力の部分とか、経験だけじゃ太刀打ちできないものに挑戦してる感じも、ショーとしてのひとつの面白さになると思う」と、近藤は前向きだ。今公演が上演される青山円形劇場は閉館が決まっているとあって、近藤には特別な思いもある。「もう二度と立てないかもしれない場所の空気を若手に味わってもらう。それもオールドチームと一緒に。それが、僕らの世代から若い世代への何かの受け渡しになればいいなと思うんです」。その思いを聞いて岡野も、「ここに立ったということは、きっと今後の自分と劇団に生きてくると思います」と奮い立つ。また、世代のみならず、合間にミュージシャンを登場させたり、美術を担当するアーティストの作品を展示したりと、この公演であらゆるものをつなごうとしている近藤。「“御ゑん祭”ですから、ご縁があるようにということで(笑)。だから、これをきっかけに4劇団を観に行くようになったり、お客さんにも何かご縁ができればうれしいですね」。10月9日(木)から13日(月・祝)まで東京・青山円形劇場にて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2014年10月03日若い俳優たちが自身の持てる力を存分に花開かせた。手塚治虫作品をミュージカル化した『虹のプレリュード』のことである。10月2日、東京・天王洲 銀河劇場で開幕したその舞台は日本のミュージカルの可能性も感じさせるものとなった。ミュージカル『虹のプレリュード』チケット情報物語の舞台は19世紀のロシア圧政下にあるポーランドの首都ワルシャワ。急死した兄になり代わってワルシャワ中央音楽学院に編入し、ピアニストを目指すルイズ(生田絵梨花/乃木坂46)は、革命運動に身を投じるヨーゼフ(中河内雅貴)、音楽院の優等生フレデリック・フランソワ・ショパン(中村誠治郎)というふたりの青年と出会い、惹かれる。しかし、ロシア兵の侵略が進むなか、若者たちは時代に翻弄されていくことに……。幕が上がってまず印象に残るのは、やはり音楽だ。ヒロインのルイズを演じる生田は、冒頭からピアノの生演奏を披露。その堂々たる姿と腕前は、客席を物語の世界に引き込んでいくのに充分である。兄として男装をした凛々しさも、ルイズに戻って心情を吐露する愛らしい歌声も、どちらも実に魅力的だ。また、ヨーゼフ役の中河内、フレデリック役の中村、そして、ロシア軍大尉イワノフを演じる石井一彰、音楽院に通うソプラノ歌手コンスタンツィアに扮するフランク莉奈らの歌声も、説得力を持って響いてくる。ルイズはやがて、祖国のために戦うヨーゼフと、音楽の魂を守り抜こうとするフレデリックの間で揺れ始める。周囲にいる者も同様だ。自分にとって最も大切なものは何なのか。自分は何のために生きるのか。どの道を選べばいいのか……。現代にも通じるテーマを、それぞれがたたみかけるように歌い上げるシーンは、ミュージカルというものの力強さを感じずにはいられない。手塚治虫はクラシック音楽を愛好していたそうだが、芸術の力を信じた原作者の思いが、この舞台の上で見事に結実している。圧巻は、最後に生田が奏でるショパンの名曲『革命』である。フレデリックことショパンが、友と祖国を思って一気に書き上げたとされている曲だ。そこに込められたものを思うとき、自分の胸に去来するのはどんな感情だろう。しっかりと見つめてほしい。舞台は10月5日(日)まで。取材・文:大内弓子※手塚治虫の「塚」は旧字体
2014年10月03日作家・演出家・翻訳家の谷賢一が立ち上げたユニット「テアトル・ド・アナール」は、これまで、第1回公演で“脳科学”を、第2回公演で“哲学”を素材にしてきた。第3回公演の『トーキョー・スラム・エンジェルス』で、谷が俎上にするのは、“資本主義経済”。南果歩を主演に迎え、そのテーマはどんな演劇に立ち上がっていくのだろうか。テアトル・ド・アナール チケット情報第3回公演で“資本主義経済”を選び、南果歩を迎えることになった経緯を、谷賢一はまずこう語る。「世界のほとんどの国が資本主義をベストな形態だと思って動いてきたけれども、ここ5年ぐらい、そのひずみが見えてきた。日本でもたとえば格差が広がってますよね。じゃあ、自分は何のために働き、その経済活動はどういう意味を持っているんだろうと、経済に興味が湧いてきて。そのときに、“女の金儲け”という言葉が浮かんできたんですが(笑)、女性から見たお金という価値観が入ると、お話が膨らむなと思ったんです」。それに対し、証券会社で成功を手に入れた女性を演じることになる南もこう応える。「女性には男性よりも、家庭のこととか、仕事以外に自分を引っ張るものがある。だから、証券会社で“女の金儲け”をしてたとしても(笑)、男性とは違うお金との関係が描かれるんじゃないかなと、楽しみにしているんです」。物語の舞台となるのは、2020年の東京オリンピック景気も過ぎ去った、少し未来の日本。スラム化が始まりつつある東京の一角に住む低所得者層と、南演じる高所得者層の異なる世界が描かれる。「オリンピックが決まってから、みんな2020年を目標に生きているところがあるなか、その先を見ようとしている谷さんはやっぱりおかしい(笑)」と笑う南だが、その谷の視点と、「演者に1対1で対峙して情熱を注ぐ濃い稽古」に信頼を置いているそうだ。谷にとっても南は、「自分から何でもやろうとし、役作りも自分で研究して、きちんと演劇をやろうとしている頼りになる人」である。この取材でも、谷の話をしきりにメモしていた南の姿があった。その誠実さは、経済というテーマを実像に落とし込む困難な作業にあたっても、力となるだろう。「経済というと堅苦しく思えますが、青山円形劇場という客席とステージが近い場所で演じることで、それが人間の営みであり、人の喜怒哀楽や愛情や失望に結びついているということが、息遣いで伝わるんじゃないかなと思ってるんです」と谷。その目論みの成就が早くも浮かぶ。公演は11月14日(金)から24日(月・祝)まで東京・青山円形劇場にて。チケットの一般発売は10月4日(土)午前10時より。なおチケットぴあではインターネット先行抽選を実施中、10月2日(木)午前11時まで受付。取材・文:大内弓子
2014年09月29日毎回、自身による選曲・構成・演出でおくられる『美輪明宏/ロマンティック音楽会』。そこには、美輪明宏の美学や思いがすべて込められている。今回はどんな歌を選び、どう届けるのか。美輪が今、伝えたいことを聞いた。『ロマンティック音楽会』と名付けているように、美輪が歌を届ける場所と時間は、いつも、ロマンにあふれている。「ロマンティシズムというのは、人間にとっての“心のビタミン”ともいうべきものです。現代は、肉体の栄養は過剰なぐらいに充足していますが、心のほうは、栄養失調がどんどんエスカレートしているように思えてなりません。『衣食足りて礼節を知る』という言葉があります。今こそその礼節の部分、つまり心のビタミンが、最も必要だと思っているんです」。美輪がそう感じるのには理由がある。「機能性や利便性、経済性ばかりを追求した結果、建物も家具も生活用品も無機質なものが増えてきました。それだけならまだしも、音楽まで無機質になっています。単調なメロディに、叫ぶような歌声……。そんな無機質なものに囲まれていたら、心がささくれ立つのも当たり前です。ですから、せめて私の音楽会では、美しく叙情的な歌詞が綴られたメロディアスな音楽を、お届けしたいんです」。なかでも今回、中心に歌いたいと考えているのは、明治・大正・昭和の時代に愛されてきた日本の歌。「まさしく、私が語りを務めさせていただいている朝ドラ『花子とアン』の時代の歌です(笑)。『ごきげんよう』という挨拶に表れているように、あの頃は、言葉遣いも美しく丁寧だった時代。夫婦や親子の間にもちゃんと礼節がありました。その古き良き時代の雰囲気を醸し出す歌をご用意するつもりです。たとえば、松島詩子さんが歌った『喫茶店の片隅で』とか、淡谷のり子さんの『別れのブルース』か『雨のブルース』。それから、シャンソンのほうでは『枯葉』。今の時代にはどこからも聴こえてこない、美しくエレガントで安らぎがある音楽ばかりです」。リクエストの多い『愛の讃歌』や『ヨイトマケの唄』も、もちろん期待できる。また、美輪のアイデアによる舞台美術の美しさも、心のビタミンになるはずだ。「ロマンに包まれ、心が安らげば、人にやさしくなれますし、ひいては戦争だって起こらないんです」。美輪が歌に込めるメッセージは、果てしなく大きい。『美輪明宏/ロマンティック音楽会』、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティの公演は、7月22日(火)まで2次プレリザーブ先行(抽選)を受付中。東京・神奈川・埼玉・北海道公演は発売中。取材・文:大内弓子
2014年07月18日少女漫画界の巨匠・大島弓子の自伝的コミックエッセイ『グーグーだって猫である』が宮沢りえ主演で連続ドラマ化され、WOWOWで今秋に放送されることが14日、明らかになった。『グーグーだって猫である』は、1人の女性が飼い猫と過ごす愛おしい日々を綴ったもので、コミックは累計80万部発行、2008年には小泉今日子主演で映画されヒットした。主人公の小島麻子役に宮沢、監督は映画版と同じく犬童一心。脚本は『婚前特急』などの高田亮によるオリジナルストーリーで、愛猫を失い失意の日々を送っていた少女漫画家・麻子(宮沢)が、井の頭公園で病気の子猫を連れたホームレスと出会うところから始まる。主演の宮沢りえは「普段あまり漫画は読まないのですが、大島先生の作品を読ませて頂いて、小説を読むように物語が進んでいく漫画というのは初めてだったので、とても新鮮でした。大島先生のファンの方々が面白いと思ってくださるような作品にしたいですね。キラキラとした日常が流れていく一方で、モノをつくるアーティストとしての葛藤や苦悩をリアルに出せたらいいなと、思っています」とコメント。映画版に続いて監督を務める犬童監督も「毎日宮沢さんの演技を見て、驚き楽しみ感動しています。彼女の演技にはいつもしっかりアイデアがあり、誠実で、でもそれでいながらあけっぴろげで大胆です。見ていると心がいっぱい揺れてしまいますね。そして、美しい。生涯そう出会うことのない息をのむ美しさです」と、宮沢の演技を絶賛している。
2014年04月14日3年ぶりに上演される美輪明宏版『愛の讃歌』~エディット・ピアフ物語~。3月、都内某所で行われている稽古場に潜入し、作・演出・美術・衣装を手がける美輪明宏、そして、キャストの木村彰吾とYOUに、この作品にかける思いを聞いた。美輪明宏版『愛の讃歌』チケット情報『愛の讃歌』はフランスを代表するシャンソン歌手、エディット・ピアフの人生を描いた物語。毎年舞台公演を行っている美輪が、今年この作品を選んだのは、たくさんの熱いリクエストがあったからだ。それらの声には、美輪が描く真実のエディット・ピアフと、美輪が歌う真実の『愛の讃歌』に触れたいという思いが含まれている。「これまでに映画や舞台で描かれたピアフは、無知でわがままで淫乱で、といった姿ばかりです。でも、私が調べたピアフはまったく違います。レイモン・アッソーという詩人に知識・教養を叩き込まれ、『愛の讃歌』の作詞もした芸術家なんです。その詞も、みなさんがよく耳にされる訳詞ではなく、“空が落ちてきたって、地球が割れたって、あなたのためならどんなことだってする”というような、スケールが大きく哲学的な内容です。その本当のピアフを私は描きたいと思っているのです」と美輪は語る。真実のピアフを描くための稽古は厳しい。台詞のなかのひとつの言葉の抑揚にも、繰り返し美輪の注意が入る。3年前の公演で、美輪が演じるエディット・ピアフの妹、シモーヌ・ベルトーを演じたYOUも「稽古が終わると、もう脳みそが大変なことになってます」と苦笑。2006年に続いてピアフの最後の恋人、テオ・サラポを演じる木村彰吾も「美輪さんに褒められることはまずありません。この間も、神の領域の芝居ができたって言ったら、『カミはカミでも紙くずね』って言われました」とユーモアを織り交ぜて話す。しかし、ずっと以前から美輪の舞台を観ていたYOUにとって『愛の讃歌』は、「出演せずに観ていたいぐらい大好き」な作品。木村も、「登場人物が全員やさしくて、こんなに愛のある舞台はない。出演できることが誇りです」という。木村が演じるテオが登場するのも、美輪明宏版『愛の讃歌』ならではだ。その思いを美輪が最後にやさしく語ってくれた。「ピアフに『愛の讃歌』を書かせた最愛の人、マルセル・セルダンを飛行機事故で亡くしてどん底に陥るまでしかほかの作品では描かれませんが、茫然自失のピアフをテオが救うところまで私は描いています。その無償の愛をこの作品で提示することで、不毛な愛がはびこる今の世の中に、本当の愛情とはそういうぬくもりのあるものなんだということを伝えたいんです」。公演は4月12日(土)から5月5日(月・祝)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。その後、岡山、福岡、大阪、静岡、長崎、愛知、青森、宮城、新潟、神奈川でも公演。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2014年04月04日