鄭義信が結成し、大鶴佐助が座長を務める劇団ヒトハダの旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』が、4月21日に開幕。前日に行われたゲネプロの様子をレポートする。戦後の米軍御用達キャバレーに集う人々の切なくもおかしい人間模様が、1940年代のアメリカンポップスに乗せて綴られる本作。いつか日劇アーニーパイルの舞台に立つことを夢見るロッキー、ファッティー、ハッピーによる3人組のコーラスグループに、キャバレーのママが連れてきたゴールドが加わる。順調に活動するも、ハワイの日系二世であるハッピーの朝鮮戦争出兵によって、ルーツの異なる4人の絆は大きく揺らいでいく──。作・演出を鄭が手がけ、キャストは大鶴のほか、団員の浅野雅博、尾上寛之、櫻井章喜、梅沢昌代が名を連ねている。事前のインタビューで、鄭が「キャスト一人ずつソロ歌唱シーンを設けた」と話していた通り、群像劇の見せ場をヒット曲が彩る。中でもハッピー役の大鶴は、言葉と音の数が膨大な「Boogie Woogie Bugle Boy」(The Andrews Sisters:1941年)を英語詞で披露し、序盤から客席を湧かせた。朝鮮戦争から戻ったあと、心身ともに満身創痍の状態でこの陽気なナンバーをどうリプライズするか、鮮やかに揺れ動く感情の行方をぜひ見届けて欲しい。浅野は、太平洋戦争の特攻帰りである罪悪感を拭えずにいるロッキー役。これに加え、さらなる十字架を背負っている。その重さを仲間に打ち明け、懺悔する場面で見せる表情に注目だ。そんなロッキーを優しく見守るキャバレーのママ・ジーナには梅沢。コーラスグループの新人・ゴールドは朝鮮人。戦地へ向かうハッピーは敵国のアメリカ人にあたるが、これまでに育んだ友情が脳裏をよぎる。「それでも生きていて欲しい」というジレンマを、演じる尾上はハッピーに直情的にぶつけ、確かな存在感を残した。豊かな体躯で喧嘩シーンを圧倒するファッティーには櫻井。シリアスな展開の中に笑いをもたらすコメディリリーフ的な役割をまっとうしていた。上演時間は約120分(休憩なし)。公演は5月1日(日)まで、東京・浅草九劇にて。感染症対策を講じて上演される劇場公演のほか、PIA LIVE STREAMでは4月23日(土)17:00開演回の「オンライン生配信」を実施。48時間後の25日(月)16:59までアーカイブ視聴できる。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2022年04月22日鄭義信が結成し、大鶴佐助が座長を務める劇団ヒトハダの旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』の初日が迫る。戦後の米軍御用達キャバレーに集う人々の切なくもおかしい人間模様が、1930〜50年代のアメリカンポップスに乗せて綴られる群像劇だ。開幕を約20日後に控えた稽古場で、作・演出を務める鄭、そしてハワイの日系二世ハッピー役の大鶴がインタビューに応じた。劇団は「自分たち主体で何かを発信したい」という初期衝動の形(鄭)――鄭さんは劇団結成の経緯を「もう無縁だと思っていた劇団を、皆さんの熱意にほだされ結成することになりました」とコメントされました。作品をつくって上演するなら別の形もあるかと思いますが、あえて“劇団”にした意図を教えてください。鄭プロデュース公演が主流の中で「劇団をつくろう」という気は最初まったくなかったんですよね。飲み屋で話しているうちに、そういう流れになって。オファーを受け取って作品に参加するだけでなく、「自分たち主体で何かを発信したい」という強い初期衝動みたいなものが根底にありました。自分たちがやってみたいことに小回りの利く形でトライできる場、という文脈です。大鶴僕は櫻井(章喜)さんにお誘いいただき、結成のモチベーションをお聞きして共感しました。鄭さんと初めてご一緒した三人芝居の『エダニク』(2019年)に櫻井さんが観客としていらしていて。そのあと食事をご一緒した時にヒトハダの話をされていたので、「それ何のお話ですか?」と首を突っ込んだら……櫻井さんが「入る?」って。鄭もともと劇団は、僕が作・演出した『赤道の下のマクベス』(2018年)のキャストだった浅野(雅博)くんとヒロ(尾上寛之)が意気投合して生まれた話だったんです。「二人芝居を書いてもらえませんか?」と酒場に呼ばれて、ベロベロに酔っ払ううちに……いつの間にか劇団ができていた(笑)大鶴その御三方にどうして櫻井さんが加わることになったのか、いま劇団メンバー全員で話しても誰もわからないんです! でも櫻井さんがいなかったら僕は参加していないし、梅沢(昌代)さんだって……そうですよね?鄭みんなの間でよく話題に挙がるよね、「サク(櫻井)さんはいつからいるの?」って。僕とサクさんは『焼肉ドラゴン』(2016年)で一緒になったけど、ヒトハダ参加の経緯は誰も知らないんです。早くも劇団七不思議のひとつですね(笑)劇団の座長として、僕は何をすればいいですか?(大鶴)――劇団旗揚げのお知らせは最初、鄭さんお一人で行われました。そのまま主宰の座に就かず、大鶴さんを座長に据えたのはどういった経緯だったのでしょうか?鄭多数決です。普通は作・演出が座長になるのかもしれないけど……逃げました(苦笑)。言い出しっぺの浅野くんやヒロもやらないと言うし。「じゃあ誰がやる?」となった時に「いちばん若い佐助が適任では?」って。多数決したら全員一致で佐助に決定!大鶴僕、その場にいなかったんですよ? それで次の日に「佐助、座長になったからよろしく」って事後報告を受けました。最初はジョークだと思ったけど、どうやら本気らしく。――欠席裁判みたいですね(笑)。座長って何をされているんですか?大鶴僕もそれを知りたいくらいです。いろんな方に「座長って何をすればいいですか?」と聞いて回っているんですが……明確なことを誰も教えてくれません(笑)鄭あはは(爆笑)! まぁ、追い追いだよね。いろいろ責任をかぶることになるんじゃないかな。大鶴脅かすのやめてくださいよ!――たとえばオファーを受けて参加することになった現場と比べて、座長だと作品に取り組むスタンスが何か異なるのでしょうか?大鶴(しばらく思い浮かべて)……特に違わないですね。――じゃあ、なおさら「座長とは?」と迷宮入りしますね(笑)大鶴ホントですよ! 誰か教えてください(苦笑)――お父さまの唐十郎さんは状況劇場や唐組と大所帯を率いていましたが、大鶴さんにとって初めて携わる“劇団”はいまのところ、どんな場所でしょうか?大鶴父の劇団を指しているわけじゃなく、僕の勝手なイメージですが……劇団ってトラブルが多発するイメージがあるんですよね(苦笑)。いい意味でも悪い意味でも喧嘩があったり。でもヒトハダは劇団員がみんな優しく、人肌のように温かい。「こんなに平和で居心地のよい劇団あっていいんだ」と感じるほどです。芸達者な先輩たちから、いろんな刺激をたくさん頂戴したいと思っています。一人一曲、見せ場にソロ歌唱があります(鄭)――鄭さんは、大鶴さんの俳優としての魅力をどんなところに感じていらっしゃいますか?鄭まだ若いので飲み込みが早く、柔軟ですね。頭がやわらかすぎるのか、演出の要求に対して「それでいいんか?」って変化球を投げてきます。たとえば僕が「現状こうなのを、こういう風に変えてみて」と要求したことに対して、こちらの想像より一歩二歩違ったところに着地するというか。演劇DNAというか、思考回路が本当におもしろい。思わず「どんどんやれ」って助長してました(笑)――大鶴さんは『エダニク』でご一緒された時に感じた鄭演出の魅力をどのように感じましたか?大鶴静かな会話劇だと思って、本読みの時にストレートにやっていたら……鄭さんから「もっと声を出してみて」とか「今度は東北のおばあちゃんが孫に語りかけるように」といろんなパターンでセリフを言うことを求められました。実際にやってみたら、最初に一人で台本を黙読していただけでは想像もつかなかった人物像が立ち上がっていて。そこからすごく楽しくなりましたね!――鄭さんの戯曲に挑戦するのは本作が初めてですよね? 大鶴さんが『僕は歌う、青空とコーラと君のために』をお読みになって感じたことを教えてください。大鶴戦後の進駐軍クラブに出入りしている、ハワイの日系二世や在日朝鮮人が組んだコーラスグループの物語です。登場人物すべて、戦争に対して抱えているわだかまりや屈託のグラデーションが異なっていて。各自のルーツが異なることに起因するんですが、それでも同じ歌を口ずさみ、歌声で共鳴し合っている。それが素敵だなって思いました。シリアス一辺倒かと思えば、笑えるシーンもあって。緊張と緩和が効果的に活用されていて、ご覧になっている方は感情を揺さぶられるんじゃないかと思います。鄭前々から進駐軍のキャンプまわりにいたコーラスグループの存在に興味があったので、彼らを題材にした物語をつくりたいと構想していました。そこに普段からよくテーマにしている在日外国人やマイノリティを登場させることで、僕らしさを発揮できるのではないか、と思って。それと劇団の“旗揚げ公演”だから、キャストの歌声やピアノの生演奏で華々しく盛り上げたいという気持ちもあって、メンバーには台本よりも先に「あなたの役が歌うソロパートの楽曲はこれです」ってタイトルを渡しました。一人一曲、見せ場にソロ歌唱があるんです。大鶴鄭さん、執筆前に「みんな歌えるよね?」って確認してましたよね。僕、本格的なミュージカルではないけれど「音楽劇なら」とお答えしたら、おそらく登場するナンバーの中でダントツに難しい「Boogie Woogie Bugle Boy」(The Andrews Sisters:1941年)を充てがわれて(笑)。歌詞は英語で言葉数も多いわ、テンポも速いわで……大変です。はじめは「あれヤバい、歌いこなせるか?」って不安でしたけど、練習を重ねるうちに楽しめるようになりました。鄭そうだね、少しずつサマになってきたんじゃない?役人物として揺れ動くのが楽しみ(大鶴)――配役はどのように考えられたのでしょうか?鄭メンバーの顔を見渡して、少しだけハードルの高い役割をそれぞれに与えました。各自苦労するポイントもあると思いますが、これから稽古で詰めていきます。佐助が演じるハワイの日系二世ハッピーには、彼のちょっとトボけたところを乗せてみました(笑)――大鶴さんのハッピーにはどんなハードルを課したのでしょうか?鄭ハッピーは途中でコーラスグループを抜け、朝鮮戦争へ行くんですね。そこから帰って来て、どういう人間に変化しているか。これが佐助にとって、ハードルになるでしょうね。きちんとハッピーを掴んで演じ切ることができたら、いつもよりオトナな佐助を見ていただけるんじゃないでしょうか。大鶴そうですよね。彼を掴むために、ここ2週間くらい鄭さんからお借りした『ハワイ日系二世の太平洋戦争』という資料を読んでいました。敵として日本と向き合うことになった彼らは戦争をどのように受け止め、生きてきたのか書かれた本です。彼らはローマの百四十高地で同僚の兵士がバンバン死んでいく悲惨な状況を体験したうえで、また朝鮮戦争に駆り出される。そりゃハッピーの心はボロボロになりますよね。――しかもアメリカ人のハッピーに対して、コーラスグループのメンバーはアメリカの敵国である朝鮮人なわけで。大鶴そうなんです。この歴然とした事実を受け止めて、自分の中にものすごく大きな根を張らないと……虚構に見えてしまうんじゃないか、と思いました。でないと、単なるハッピー野郎になってしまう(笑)鄭ハッピー野郎!(爆笑)――深い根を張るために、鄭さんからお借りした資料をお読みになったのですね。大鶴はい。知識を得たので、これから稽古でどんどんアウトプットしていきたいです。資料を読んでおもしろいと思ったのが、ハワイの日系二世ってそんな凄惨な戦争体験をしたと感じさせないくらい、普段はあっけらかんとしていること。これ、わりと誰にも当てはまる普遍性なんじゃないかと思いました。人間ってずっと過去にとらわれて生きているわけじゃない。ツラいことを忘れるために、矛盾を抱えることだってありますよね。――ハッピーの人物造形にも当てはまりそうなお考えですね。大鶴そういう人間くさいところを、鄭さんは日常と地続きに描いていらっしゃいます。コーラスグループの愉快な掛け合いをしたかと思えば、急にシリアスになって場をまとう空気の色が変わる。すごくリアルな台本だと思いました。そんな劇世界の中で、いまからハッピーとして揺れ動くのが楽しみでなりません。取材・文:岡山朋代撮影:川野結李歌ヒトハダ旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』(劇場公演/配信公演)チケット情報はこちら
2022年04月15日企画&原作・秋元康、斎藤工主演「漂着者」の4話が8月20日放送。斎藤さん演じる“ヘミングウェイ”と白石麻衣演じる詠美との“長電話”に「恋人同士か」「なんか相思相愛」などの声が集まるとともに、白石さんの“おでこ出しスタイル”も話題となっている。海岸に謎の男性が漂着。記憶を失ったその男性は、つぶやいた言葉からヘミングウェイと呼ばれるようになる。さらに彼には“予知能力”ともいえるような力があり、彼の絵が行方不明になった女児を見つけ出すきっかけとなったことで一躍有名になる。そんなヘミングウェイをNPO法人「しあわせの鐘の家」が引き受けるのだが、彼のことを探っていた新聞記者の新谷詠美は、彼を取材する過程で、人類が失った“第6感”の遺伝子と旧ソ連がその遺伝子を研究していたことを知る。そんななかヘミングウェイの“婚約者”を名乗る人物が現れる…という展開の本作。予知能力のような力を持つヘミングウェイに斎藤さん。彼を取材する新聞記者の新谷詠美に白石さん。詠美とも親しい刑事の柴田俊哉を生瀬勝久が、柴田とバディを組む若手刑事の野間健太に戸塚純貴。詠美の上司、橋太に橋本じゅん。ヘミングウェイの婚約者を名乗る古市琴音にシシド・カフカといったキャストが出演。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。4話では帰宅した詠美が、殺された大学の准教授・古郡(森準人)から託されたUSBの中身を確認しようとしていると、そこにヘミングウェイから電話が。「詠美、今すぐ家を出るんだ。君の身に危険が迫ってる」というヘミングウェイの言葉通り、時を同じくして黒ずくめの男が詠美の部屋に侵入、USBを奪おうとする。その背後から男にワインのボトルを振り下ろす詠美だが、逆にスタンガンで気絶させられ、連れ去られそうに。そこにヘミングウェイから連絡をもらった柴田が現れ、危うく難を逃れる…という展開に。一連の事件の間中、詠美のスマホはヘミングウェイの電話とつながったままになっており、男が去った後も電話で語り合い、同じ月を見つめる…そんな2人に「恋人同士かってくらい長電話して一緒に月を見るヘミ様と新谷さん」「こっから更に詠美さんがヘミングウェイにハマっていくのかな…」「なんか相思相愛になってねぇかこれ!」などの声が視聴者から上がる。また白石さんの自宅での“おでこ出しスタイル”にも「すげーシリアスな場面なのに新谷ちゃんの髪飾りがかわゆくて…」「純粋に髪止めデコだしまいやん先生の可愛さがやばい」等の反応も。翌日、野間から詠美の部屋で起きた出来事について聞かれた柴田は、自分が若い頃“こめかみ血管刑事”と呼ばれていたと語るのだが、こちらのシーンにも「こめかみ血管刑事って連呼するのやめてwwww無理www」「こめかみ血管刑事ってドラマ作って(^▽^;)テレ朝で」などといった感想が。柴田と野間にも「柴田野間のやりとりかわいすぎる」「あの2人はホントいいコンビだわねwwwwww 癒される」といった声が寄せられている。(笠緒)
2021年08月21日秋元康と斎藤工がタッグを組んだドラマ「漂着者」。本作に新聞記者・新谷詠美役で出演する白石麻衣のサプライズバースデーが現場で行われた。撮影現場では、「8月20日は白石麻衣さんのお誕生日です!」というスタッフの呼び掛けに、驚きつつも「やったー!」と笑顔を見せた白石さん。白石さんの似顔絵があしらわれたアイシングクッキーが渡された際には、「すごい! かわいいですね」とじっくり観察する様子も。さらに、斎藤さんからは「おめでとうございます」とプレゼントを差し出され、「うれしい!ありがとうございます」と大喜び。最後には、「今年29歳になります。このドラマの撮影中に誕生日を迎えられてすごくうれしいです」と思いを語り、「最後まで無事に撮影が終えられることを願っています。よろしくお願いします!」とコメントした。そして今夜の放送では、詠美に危険が迫るという。前回突然現れた、ヘミングウェイの婚約者を名乗る・古市琴音(シシド・カフカ)にインタビューを行うことになった詠美だが、彼女はヘミングウェイの本名すら知らないといい、「婚約していたのは1400年前」と言ってのける。その後の深夜、自宅で仕事をしていた詠美は、危険を察知したヘミングウェイから「早く家を出た方がいい」と電話で告げられ、息を潜めて身構えるが…というあらすじ。さらに、また新たな事件が発生と、第4話も見逃せない展開が待っている。なお、8月22日(日)11時15分(※一部地域を除く)から、いまからでも間に合う、本作のこれまでのふり返りと徹底考察を行う番組「あなたはこの謎がすべて解けるか?話題沸騰ドラマ『漂着者』徹底考察ナビ」の放送が緊急決定した。「漂着者」第4話は8月20日(金)23時45分~テレビ朝日系にて放送。※「熱闘甲子園」休止の場合は23時15分スタートに変更。(cinemacafe.net)
2021年08月20日宮沢氷魚と大鶴佐助による二人芝居『ボクの穴、彼の穴。』が東京芸術劇場プレイハウスで上演中だ。劇場公演のほか、本日9月21日(月・祝)18時開演の公演は、有料動画配信サービス「PIA LIVE STREAM」でも配信される。本作は、戦場の塹壕に取り残され、お互いを「モンスター」だと思い込み、見えない敵への恐怖と疑心暗鬼にさいなまれる孤独な兵士の物語。デビッド・カリ(原作)、セルジュ・ブロック(イラスト)、松尾スズキ(翻訳)による同題絵本をノゾエ征爾が翻案・脚本・演出を手掛けて舞台化した作品で、2016年に旧PARCO劇場のファイナルを飾った「クライマックス・ステージ」の一作として初演された。『ボクの穴、彼の穴。The Enemy 』 舞台稽古より撮影:阿部章仁4年ぶりの再演となる今回もノゾエが演出を担当。初演は塚田僚一(A.B.C-Z)と渡部秀が出演したが、今回は宮沢氷魚と大鶴佐助という若手俳優として活躍めざましい2人が登場。『豊饒の海』、『ピサロ』に続いて3作目の共演となる。ノゾエは「4年前にもやった演目だけど、今こそでしょって。読み返すと、今の状況だからこそ考えさせられるところ山ほどアリ。涙拭いながら頑張った初演のキャストさんが作り上げてくれた部分も山ほどアリ。それがあっての今、この生活下だからこそにじみ出るものを全て作品に乗せて、真正面から戦いましょうぞ、この素晴らしきお二人と」とコメント。『ボクの穴、彼の穴。The Enemy 』 舞台稽古より撮影:阿部章仁宮沢は「今回の作品は、見えない敵との戦争。お互いを『モンスター』だと思い込み、相手を憎み、疑い、軽蔑する。自分を正当化し、相手に全ての不幸をなすりつける。まさに今の世の中と重なります。僕は今だからこそこの作品をやる意味があると思います」と語った上で、「初めての二人芝居を親友の大鶴佐助と演じられる幸せ、そして、初舞台の劇場であるプレイハウスで再び芝居ができることを本当に嬉しく思っています」。『ボクの穴、彼の穴。The Enemy 』 舞台稽古より撮影:阿部章仁一方の大鶴も「今この状況下で『ボクの穴、彼の穴』を上演することに、僕はとても意味があると思いました。物語の登場人物が目に見えない不確かなモノに怯え、疑心暗鬼になってく様が今の日常ととても通じており、虚構と現実が地続きになっている印象を受けました」。そして、「相手の宮沢氷魚くんとは気心の知れた仲なので、稽古場でノゾエさんの演出を一緒に浴び、もがきながら作品の旅をしていきたいです」と話していた。『ボクの穴、彼の穴。The Enemy 』 舞台稽古より撮影:阿部章仁上演時間は約1時間20分予定。公演は9月23日(水)まで。有料動画配信サービス「PIA LIVE STREAM」による配信は、24日(木)23:59まで見逃し配信あり。チケット発売中。【キャスト・演出家コメント】●宮沢氷魚コメント今年の春に、『ピサロ』という作品に出演していたのですが、残念ながら10公演で中止となってしまい、それ以来の作品ということですごく楽しみにしていました。このようなご時勢なので、本当に幕が開くのか不安もありましたが、今日こうして無事に初日を迎えられることを嬉しく思っています。最近は一人になることが簡単になってしまって、一人でいても生活はできるし、人とコミュニケーションをとることや、他人の人生に関わるということがおろそかになる可能性が高い状況だと思うんです。個と個で、相手の存在というか、相手が生きていることを確かめて安心する。当たり前だからこそ忘れてしまうことに面と向かったこの作品に出演できて、光栄です。舞台は5作目ですが、こんなに肉体的にも精神的にも追い込まれたのは初めてです。二人芝居で、セリフの量も想像以上でしたが、稽古はしんどいけど楽しく、稽古や演劇が好きなんだなと再確認しました。僕、佐助、そしてノゾエさんで作品を作り、人前で披露する。その当たり前のことがやっと始動できるようになり、嬉しいです。でもまだ、観客の皆さんも感染予防に気を付けて来てくださると思いますし、僕たちも体調管理に努めて万全の状態で、毎回新しく楽しい公演をお送りしたいと思います。●大鶴佐助コメント今、やっと長い稽古の末にゲネプロが終わって、どれだけ稽古場で稽古をしていても、観てくれる人がいるって全然違うなって、感慨深いものがあります。今日の夜が初日ですので、実際にはここから(スタート)ですが、「ゲネプロ終わったな!」とほっとしています。戦争を体験していない僕たちが演じて、観に来てくださるお客さんも戦争を体験していない方が多いと思います。目に見えないモンスターは、そんな僕たちがこの作品の中で共有できるもののひとつだと思っていて。共有できるからこそ、目には見えないものを僕たちが実体をもって演じていないと、お客さんは納得してくれないんだろうなと、ノゾエさんと氷魚くんとディスカッションして稽古してきました。普段は舞台を観て、お芝居を観に行ったという感覚になるかもしれませんが、この作品はかなり現実と地続きになっていると思うので、お客さんに「そんなもん?」と思われたら僕たちの負けだなと思いますね。舞台は毎回同じものがないというか、毎公演ふたりで役を生きて、その日のお客さんとその日の僕たちで作り上げる作品だと思うので、その1回限りの作品を毎回大事にしたいと思います。●ノゾエ征爾(演出)コメントずっと公演が中止となっており、この公演が今年初めての本番ということでとても感慨深いです。劇場は、こうやって人が集まることで息遣いが生まれてくるのだなと改めて感じました。いったい何が起きていて、何を信じればいいのか、そして人と関われないという生活にみんなが追い込まれて行く時に、今作の穴の中にひとりでいる状況がリンクして、4年前の初演時は普遍的なテーマでみなさんに共感していただけるかなと思っていたのですが、この時期になった時に多くの方がどこかで似たような感覚を持ち、登場人物を見られるんじゃないかなと思いました。このような状況下で、ひとつの公演を立ち上げていくといった時に、演劇はこれだけ多くの大人たちが、色々なことに気を使いながら、本気になって、模索して作り上げているのだと改めて肌で感じた稽古でしたし、キャストのおふたりがその大人たちの期待を一身に背負って、舞台上で生きる生き様を毎回稽古の時から楽しみにしていました。(規制緩和を受けて)これから段々と客席が埋まっていくことで、彼らがどう息衝いていくのか千秋楽まで見届けたいと思います。(以上、9月17日(木)取材会より)『ボクの穴、彼の穴。The Enemy 』 舞台稽古より撮影:阿部章仁文:五月女菜穂
2020年09月21日木ノ下歌舞伎の『三人吉三』が5~6月に上演される。出演者の大鶴佐助に話を聞いた。【チケット情報はこちら】今回の出演を「ワクワクします」と喜ぶ大鶴。歌舞伎や文楽など日本の古典演目を現代演劇として上演し、役者にもファンの多い木ノ下歌舞伎。その中でも『三人吉三』は代表作で、演目自体の初演(江戸時代)から約150年ぶりという「地獄の場」を含む三幕・5時間に及ぶ完全通し上演も話題を呼んだ作品だ。演じる側になると大変なことも多そうだが、「上演時間が5時間以上になる作品は初めてです。でもそんな作品ってやりたくてもやれないことのほうが多い。それを自分がやってどういう心境になるのかも楽しみですし、歌舞伎もやってみたかったので」と語る。歌舞伎をやりたかったのは、唐十郎の息子である大鶴のルーツと重なる理由。「僕はテント(芝居)をやっているのですが、テントって現代歌舞伎みたいな感じだと思っているんです。今は伝統芸能になってますけど、きっと江戸時代とかはこういう感じだったんじゃないかなって。だからやりたかった。あとは純粋に、どうなるかがわからないからやってみたかったというのもありますけどね」今回「まず楽しみ」と言うのが、木ノ下歌舞伎の特徴“完コピ稽古”。演目をより深く理解・研究するために、まずは実際に上演された歌舞伎の所作や台詞回しを出演者が“完コピ”し、そこからどう現代的に解釈し演じるかクリエイションしていくという稽古スタイルだ。「役をやるうえで“真似る”って普段は遠ざける気持ちがありますが、逆に完コピして、その型を破っていく。そこでどんなものが芽吹くのか…面白そうです」作品については「今まで三人の吉三郎の話だと思っていたのですが、木ノ下歌舞伎では群集劇だと感じました。すべての因果が絡み合い、因果応報ってこういうことか、というラストに繋がっていく…残酷だけど面白い」。その中で大鶴が演じるのは三人の一人・お坊吉三。「彼は身を持ち崩しているけど、ところどころで自分に甘いところがある(笑)。坊ちゃんだからなって、かわいらしく思います。ただ僕も少し坊ちゃんなところがあるので(笑)、そこがどうリンクしてくるかは稽古場で、ですね」。これまで蜷川幸雄や福原充則、木野花ら幅広い演出家の作品に出演し、3~4月には新生PARCO劇場オープニング作品第一弾 舞台『ピサロ』への出演も控えるなど、変幻自在の魅力を持つ大鶴。今作でどんな姿を見せるのか楽しみにしたい。今回、木ノ下裕一が再補綴に取り組み、演出は初演から引き続き杉原邦生が手掛ける『三人吉三』は、5月30日(土)から6月7日(日)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウス、6月に長野・まつもと市民芸術館にて上演。取材・文:中川實穂
2020年02月18日稲葉友、大鶴佐助、中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース)による3人芝居『エダニク』が6月22日(土)に東京・浅草九劇で開幕する。その稽古場に潜入した。【チケット情報はこちら】『エダニク』は横山拓也(iaku)が2009年に書き下ろし、さまざまな演出家、出演者によって再演を重ねられている作品。今作では、鄭義信が演出を手掛ける。とある食肉加工センターを舞台に、そこで働く若者・沢村(稲葉)と同僚のベテラン・玄田(中山)、そして取引先の新入社員・伊舞(大鶴)が休憩室で一緒になり、屠畜という作業への言及や、企業間の駆け引き、立場の保守など、各々のアイデンティティに関わる問題をぶつけ合い議論を白熱させる――。と、あらすじを書くとやや硬質なイメージになってしまうが、稽古場ではとにかく笑わされた。稲葉が演じる沢村は、ラジオから流れる音楽に合わせて激しくカップ焼きそばを作るシーンからおもしろく、けれど戯曲を読んでみると、そんなスタイルで作ることは書かれていなかった。つまりこれが鄭バージョンということだろう。中山演じる玄田のキャラも新鮮。マイペースさと図太さとミステリアスさがごっちゃになったような男を、中山にとって初めてという関西弁で演じている。大鶴が演じる伊舞は、そんなふたりとは一線を画すキャラクター。軽く、ゆるく、おっとりしていて、けれどやや癇に障る話し方が強烈だ。彼が会話に参加すると、ことごとく稲葉と中山の会話のテンポが崩れていくのがおかしい。それぞれの芝居は濃厚で、どこか楽しそう。例えば伊舞が「30歳までニートで、つい最近就職した」と聞いて思いっきり先輩風を吹かせるも、伊舞の秘密を知った沢村は、気が動転して能のような口調で謝り始める。その姿はおもしろいのだが、“急に態度を変える調子がいい若者”というより“家族のために仕事をクビになりたくない父親”に見えるのがさすがだった。また、秘密を知っても特に態度が変わらない玄田にも「こういうふうに生きてきた人なんだろうな」と思わせる説得力があるし、それぞれの反応に対する伊舞の案外わかりやすい表情も見どころ。そういったひとつひとつの積み重ねで、この芝居がどんどん深みを増していくのを感じた。ドタバタでありながらも、そこが屠場、つまり豚などの家畜を殺し、解体し、食肉として整えていく場であることで、話題は「命」「生き物」「食べ物」「仕事」も絡む議論に発展していく。生々しい題材だが、この3人だからこそ何を語るのか聞きたい、と思わされる稽古場だった。『エダニク』は6月22日(土)から7月15日(月・祝)まで東京・浅草九劇にて上演。チケットは発売中。取材・文:中川實穗
2019年06月20日