日本が誇るポップカルチャー、マンガ。今や海外でもマンガブームだと言いますが、マンガを海外で出版するには、日本語のセリフを英語などに翻訳する必要があります。マンガの翻訳とは、一体どんな仕事なのでしょう。翻訳スクール「フェロー・アカデミー」にて、プロのマンガ翻訳家による公開講座を体験してきました。■アメリカのマンガ市場は少年マンガが中心講師は、米国留学、ソフトウェアエンジニアを経てマンガ翻訳家になり、今年で7年目という木村智子先生。「Tomo Kimura」という名前で翻訳されており、これまでに『スキップ・ビート!』、『NANA』、『黒執事』など、119冊のマンガの翻訳を手がけてきたそうです。まずは、アメリカのマンガ市場について解説がありました。へぇと思ったのは、日本では、少年マンガ、少女マンガのほか、青年マンガ、女性マンガなど幅広いジャンルのマンガが読まれていますが、アメリカでは、最初に出版されたのが少年マンガだったこともあり、現在でもマーケットの中心は『NARUTO』や『ONE PIECE』といった少年マンガだそうです。青年マンガ、女性マンガの市場はまだ広がっていないようで、例えば日本で大ヒットした『のだめカンタービレ』の英語版はヒットには至らず、巻の途中で出版が止まることもあるみたいです。■マンガ翻訳の演習。ガチャ、パシッなどの擬音は、どうやって訳す!?次は、いよいよマンガ翻訳の演習。マンガ翻訳の基本を説明した上で、事前に配布されていた課題(マンガ『黒執事』の中の数ページ)を、先生が一コマずつ英語に訳していってくれます。マンガを英語に翻訳する上での大きなポイントの一つが“擬音”の訳。マンガで多用される“ガチャ”、“バシッ”、“クル”といった擬音は、日本語に特有のもので、擬音の翻訳の仕方は出版社によって違うのですが、主に次の2つがあるそうです。・日本語の擬音をすべて英語に翻訳する場合。大抵の擬音は、英語では動詞になります。例)クル(振り向く音)→Fwipガチャ(ドアを開ける音)→Kachak・日本語の擬音はそのままにし、その擬音の近くの空白に、擬音の読み方と説明を挿入する場合例)クル→KURU(Fwip)ガチャ(ドアを開ける音)→GACHA(Kachak)■日本特有の敬語や文化をどう訳すかもポイントそのほか、日本語に特有の「さま」や「さん」といった敬称や「おそれながら……」といった敬語も特徴的で、状況やキャラクターに合わせて、例えば友達同士なら「さん」はとる、登場人物の関係性上どうしても必要なら「○○-sama」として最後に注釈を入れるなど、できる限り自然でリアルなセリフになるよう一つ一つ判断を下し、適切な英語に翻訳します。さらに、『黒執事』のような、19世紀のイギリスを舞台にした歴史物の場合、地名や歴史的な出来事を一つ一つ調べて確認しながら翻訳する必要があったり、神社でのお参りなど日本特有の文化・風習がマンガに登場する場合、翻訳家が英語で注釈を入れたりすることもあるそうです。マンガ好きにとっては夢のような仕事ですが、実際の作業内容を目の当たりにすると、細かい注意点がたくさんあってなかなか大変そう。英語力だけでなく、日本文化とアメリカ文化、両方に対する知識が必要とされる仕事です。■マンガ翻訳家の条件は「マンガが好きなこと」講座終了後、先生に、いくつか気になることを質問してみました。――アメリカにも、マンガ・アニメオタクの人たちが大勢いると聞きますが、日本のオタクとアメリカのオタクには何か違いが見られますか?「日本でマンガオタクと言うとちょっと恥ずかしいイメージがありますが、アメリカのオタクはもう少し明るくポジティブな気がします。例えば、アメリカで、いわゆるオタクの人が集まるイベントに行ったとき、みんながコスプレのまま堂々と会場の外に出て街を歩いたり、食事をしたりしていて驚きました」――マンガ翻訳の仕事は大変そうですが、先生のように続けていく秘訣(ひけつ)は?「この仕事をする人の第一の条件は、マンガが好きなことですね。作品に興味が持てないまま翻訳をしていても、編集者に見抜かれてしまいますし、最終的には読者にも伝わってしまいます。翻訳家自身が楽しみながら翻訳することが何より大切ですね」――マンガ翻訳家をしていて、得をしたことはありますか?「仕事上は、直接マンガ家の方に会う機会はないのですが、Twitterでコンタクトをとるうちにつながりができたり、イベントでお会いしたときに作品のマンガ翻訳をしていることを伝えると、サインをいただけたりすることも。一ファンとしても翻訳家としてもうれしい瞬間です」――ありがとうございました。アメリカを始めとした海外でのマンガ市場は、まだまだこれからも拡大しそうで、マンガ翻訳家の需要も高まりそうです。「マンガの知識、マンガへの愛には自信がある!」という人は、フェロー・アカデミーなどの翻訳学校で翻訳スキルを身に付けて、マンガ翻訳家を目指してみてもいいのではないでしょうか。(COBS ONLINE編集部)【関連リンク】翻訳学校「フェロー・アカデミー」で翻訳スキルを身につけてみる【コラム】ミステリー小説翻訳家に聞く、人を惹き付ける文章の秘訣とは?【コラム】きっと誰かに話したくなる、映画字幕の知られざる秘密とは?
2011年09月23日