俳優でクリエイターとしても活動している元乃木坂46の伊藤万理華さんが、3度目の個展を開催。2022年12月2日から、渋谷のGALLERY X BY PARCOで、『MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA』がはじまります。今回、プレス向けに行われた取材会に伊藤さんが登場!個展への思いや今までの活動について、語ってくれました。かわいい!伊藤万理華さん登場!【女子的アートナビ】vol. 271取材会に登場した伊藤さん。グレーのジャケットとミニを組み合わせたスタイルがとってもクールです!乃木坂46を5年前に卒業した伊藤さんは、2017年に初個展『伊藤万理華の脳内博覧会』を開催。2020年には『伊藤万理華 EXHIBITION “HOMESICK”』、そして今回3度目の個展、『MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA』で展覧会三部作の最終章を飾ります。今回の個展は、伊藤さんと10組のクリエイターが創作した書籍『LIKEA』をベースに展開。ananにもコラムを連載されている劇作家・根本宗子さんの脚本をもとにしたラジオドラマのインスタレーションや、アーティストNAZEさんと生花アーティストのアレキサンダージュリアンさんとのコラボなどで同書籍の世界観を立体的に表現。空間設計は、CEKAIの福田哲丸さんが担当されています。また、会場では書籍『LIKEA』も先行販売もされるほか、オリジナルグッズやアパレルブランド「BODYSONG.」とのコラボアイテムなど、展覧会の開催を記念したグッズも多数販売される予定です。不親切な本にしたかった(笑)では、ここから個展準備中の伊藤さんが取材会で語ってくれたコメントをご紹介します。――まずは、書籍『LIKEA』をつくろうと思われたきっかけについて、教えてください。伊藤さん本を本格的につくろうと思い始めたのは、一年前くらいです。きっかけは、その時期に、同世代の活躍するクリエイターさんや、会いたいと思っている方に会う機会が多く、周りの人たちと衝動的に何か雑誌みたいなものをつくりたいなという思いが大きくなりました。制作していく過程で、自分の集大成になりそうなくらい大きな本になりました。――書籍『LIKEA』の見どころは?伊藤さん表紙だけ見ると「何の本やねん」という感じなのですが(笑)、写真集やフォトブックではないものにしたいと思って、カテゴライズするときに、どこに置けばいいのかわからないという「不親切な本」にしたかったのです(笑)。それで、こんなにサイズが大きくなりました。過去の展示でやってきたものづくりのやり方が書籍になるといいな、と思ったので、個展が本になったような感じかもしれません。――書籍タイトルの『LIKEA』とは、どんな意味ですか?伊藤さん LIKEAは、英語like aからつくった造語です。基本的に、何かをモノをつくるときは、自分の好きなものとか、憧れている人と一緒にするのがメインなのですが、ただそれは「好き」という距離感ではなく、もっとあいまいな「like a」という「~のような」という感じなのです。「~が好き」とはっきりしづらい言葉の表現が良かったのと、造語がいいなと思ったので『LIKEA』となりました。自分が救われたのは…――展覧会についての思いを聞かせてください。伊藤さん最初は本だけをつくろうと思っていたのですが、その過程で、パルコさんでやるなら、ちゃんと個展をしたいと思いました。自分がいつもモノづくりをする過程で、どんなふうに構想して表現しているのかを見せたいなと。根本宗子さんに書いていただいたストーリーをラジオドラマにしたりして、体験型の展覧会にしたいと思いました。――創作のインスピレーションは、どうやって得られたのですか?伊藤さんある一つのきっかけでした。本にも載せましたが、たまたま友だちが小さいギャラリーでポップアップをやっていたのを見に行ったとき、そこで人と出会い、ある本に出合い、とてつもない感銘を受けました。ファッションやモノづくりの興味の幅が広がり、私はこういう空間が好きなんだなーと気づき、自分もつくる側になりたいと思いました。何か完璧なモノを発表するのもすごくステキだと思いますが、その生まれる過程みたいなことが過去に活動してきて一番救われた部分なので、モノをつくる過程が好きです。以前は忙しすぎて、そういう部分を大切にできなくて、おろそかにしていました。なぜこういうモノが生まれたのか、という過程を知りたかったので、それを本で表現できたらいいなと思いました。――展覧会は最終章とされていますが、その理由を教えてください。伊藤さん最終章と言ってはいるのですけど…(笑)。たぶんデビュー10年で区切りがいいから。それに、自分がここまで過去を振り返る機会は、今後あったとしても、ここまでモノにすることはないと思います。本をつくるのは大変だったから、もうつくりたくない(笑)、それぐらいやりきったので、最終章と言っています。ライブで恩返し…――2022年はデビューされて10年で、乃木坂のライブにもサプライズ出演されて話題になりました。10年を振り返り、いかがでしたか。伊藤さん今年は振り返る機会が多くありました。なかでも大きかったのが、乃木坂10周年のライブに出させていただいたこと。それ以外でも、映画やドラマですごく自分の肌に合う作品に出合い、表現方法が今までと全然変わりました。個展だけでなく、ドラマや映画、演劇でも自分を消化できるようになったのが、この10年で一番大きなことだったと思います。――5月のライブは盛り上がっていましたね。伊藤さん自分があの場に立てるとは想像していなかったので、活動していた人間として、あの場で一曲でも自分を見せることができてうれしかったです。ずっと見てくださった方や、今でもお世話になっているスタッフさんへの恩返し、親孝行みたいな気持ちでした。――最後に、ファンのみなさまにメッセージをお願いします。伊藤さん今まで、自分がやりたいことをやってきて、ファンのみなさんは私のその意思をくみ取って、静かに見守ってくださいました。そんなふうに応援してくださる方が私の周りにいると思えるから、私もあきらめずに何か伝えたいことを発信していこうと思えました。今回、一冊、形になっています。みなさんにとっての大切な一冊になるとうれしいです。個展は12月2日からスタート!――まっすぐな眼差しでクリエイターとしての思いを話してくれた伊藤さん。つくる過程が好き、という彼女のこだわりと魅力が詰まった書籍は、本というよりもまさにアートワークそのもの。『LIKEA』というタイトルもクールで、ファンの方はもちろん、ファッション好き、アート好きな方も刺激を受ける内容だと思います。展覧会とあわせて、ぜひ書籍もチェックしてみてください!Information『 MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA 』概要会期:2022年12月2日(金)~12月19日(月)会場:渋谷PARCO B1F 「GALLERY X BY PARCO」営業時間:11:00~21:00 ※入場は閉場時間の30分前まで入場:¥700 ※小学生以下無料12月2日(金)から展覧会会場で書籍を先行発売撮影 : 岩澤高雄
2022年12月01日350年以上も前から、華やかなバレエやオペラが上演されてきたパリのオペラ座。舞台、音楽、美術などが一体となった「総合芸術」の殿堂には、どんな魅力があるのでしょう?アーティゾン美術館で開催中の展覧会、『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』の内覧会を取材してきましたので、レポートします!パリ・オペラ座の魅力を体感!【女子的アートナビ】vol. 270『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』では、17世紀から現代まで続いているパリ・オペラ座の魅力を、絵画や彫刻、自筆譜などの資料により「総合芸術」的な観点で紹介。フランス国立図書館やオルセー美術館など国内外から多彩な作品約250点が集められ、マネやドガ、ルノワール、シャガールなど巨匠たちの見ごたえある絵画も展示されています。本展を担当されたアーティゾン美術館学芸員の賀川恭子さんは、「オペラ座とは、絵画・音楽・彫刻・バレエなどさまざまな芸術が一堂に会した場所。それを総合的にお見せするのが今回の展覧会」と解説。パリ・オペラ座と諸芸術とのつながりをテーマに極上のアートを楽しめる、大変贅沢な展覧会です。バレエは国王が踊っていた…!『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景では、展示の様子を見ていきます。序盤から、華やかな絵画や彫刻が並び、とてもゴージャスな雰囲気。さすが、パリ・オペラ座の展覧会。心が躍ります!展示構成も、オペラのように序曲からはじまり、第Ⅰ幕、第Ⅱ幕から第Ⅳ幕へと続き、最後はエピローグで終了。いつもの展覧会とは違う趣向が凝らされています。パリ・オペラ座は、1669年に太陽王ルイ14世が創立したアカデミーが起源。もともとオペラ自体はイタリアで誕生したもので、ルイ14世の宰相がローマで見たオペラに感銘を受け、フランスに持ち込みました。第Ⅰ幕の展示室では、ルイ14世が踊っている場面を描いた作品などを展示。バレエは女性が踊るイメージですが、もともとは宮廷で男性が踊っていたもの。宮廷バレエでは国王自身も舞台に出演していました。公式図録に記載されている舞踊史研究家・芳賀直子さんの解説によると、当時は、「踊りがうまいことがそのまま権力につながった」とのこと。ルイ14世の「太陽王」という呼称も、バレエの役名にちなんだものだそうです。この展示室では、ほかに、ブーシェやヴァトーなどロココ芸術の作家による作品も展示。オペラ座の舞台から影響を受けた華やかな絵画を楽しめます。マネ・ドガ・ルノワールに興奮!『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景絵画好きの人におすすめしたいのは、第III幕の展示室。ハムレットを演じている歌手を描いたマネの大きな作品2点をはじめ、バレエダンサーを描いたドガ作品やルノワールの絵画など、見ごたえある作品を堪能できます。『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景特におもしろいのは、ヴァーグナーのコーナー。印象派の巨匠ルノワールが描いたヴァーグナーの肖像画や、オペラ『タンホイザー』の場面を描いた絵画などを見ることができます。前出の賀川さんによると、ルノワールは大のヴァーグナーファンだったとのこと。イタリア滞在中のヴァーグナーに会い、緊張しながら彼の肖像画を描いたものの、大作曲家の反応はイマイチだったようです。実際、ルノワールが描いたヴァーグナーの顔は、ふつうの気難しそうなおじさんの雰囲気。音楽室に飾ってあった威厳のある堂々とした姿とはだいぶ違います。意外と、素顔に近かったのかもしれません。マーク・ジェイコブスの衣裳デザインも!『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景第IV幕では、20世紀と21世紀の芸術家たちによる舞台デザインや衣装デザインなどを展示。マーク・ジェイコブスやカール・ラガーフェルトなど現代の有名デザイナーによる衣裳デザイン画も見ることができます。また、現在のパリ・オペラ座ガルニエ宮に飾られているシャガールの天井画の最終習作も展示。実際にオペラ座で実物をご覧になった人もいると思いますが、現地では高い場所に飾られているので、細かいところなどはよく見えません。『白鳥の湖』や『カルメン』、『魔笛』など有名な舞台作品が随所に散りばめられたこの絵画、近くでじっくりと見られるのはうれしいですね。本展は、オペラやバレエファンはもちろん、音楽好き、ファッション好き、パリが好きな人など幅広い人が楽しめる展覧会です。ぜひ、華やかな世界を体感してみてください。Information会期:~2023年2月5日(日)休館日:月曜日(1月9日は開館)、12月28日ー1月3日、1月10日会場:アーティゾン美術館開館時間:10:00 ー 18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:ウェブ予約チケット(税込)¥1,800円、当日チケット(窓口販売)¥2,000円、学生無料(要ウェブ予約)※当日チケット(窓口販売)はウェブ予約枠に空きがある場合に販売※中学生以下の方はウェブ予約不要※この料金で同時開催の展覧会をすべてご覧頂けます。※開催情報は予告なく変更となることがあります。同時開催:石橋財団コレクション選特集コーナー展示Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後
2022年11月27日現代日本を代表するアーティストとして国内外で活躍している大竹伸朗さん。彼の作品およそ500点を集めた大規模な回顧展が、現在、東京国立近代美術館で開かれています。プレス内覧会に登壇した大竹さんのコメントとともに、展覧会の様子をレポートします!美術館が宇和島駅に…?!【女子的アートナビ】vol. 269『大竹伸朗展』では、1980年代初めにデビューして以来、絵画や彫刻、映像、インスタレーション、巨大な建造物など幅広いジャンルで多くの作品を手がけてきたアーティスト、大竹伸朗さんの作品約500点を展示。16年ぶりの大回顧展となります。大竹さんは、1955年東京生まれ。武蔵野美術大学を卒業後、1982年に初個展を開催。その後、ドイツ・カッセルで開かれている世界最大級の国際美術展・ドクメンタ(2012年)や、120年以上の歴史を持つヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)など、さまざまな国際展に参加。アートの島として有名な直島に多くの作品が展示されているほか、「東京2020 公式アートポスター展」にも参加するなど、半世紀近くもの長い間、多方面で活躍されています。プレス内覧会に登壇した大竹さんは、次のように述べました。大竹さん本展は挑戦要素が多い展覧会で、今までにないものになっていると思います。世界は破壊が続いていますけど、モノをつくる力、つくりだすパワーを少しでも感じていただければとてもうれしく思います。5回ぐらい来て、見てください(笑)。大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より《宇和島駅》(1997年)また、大竹さんは、美術館のテラスに設置された作品《宇和島駅》についてもコメントしました。大竹さん宇和島は、僕が制作拠点にしている場所です。宇和島駅が新しくなるとき、駅名の文字を廃棄するというので、納得がいかなくて入手しました。駅舎に乗って、ひとつずつ焼き切ったのです。東京国立近代美術館と宇和島駅が交差するのは、ある種のコラージュ。赤い色は僕が創造したもので、夜はライトアップされて見え方が変わります。圧が強すぎ…!7つのテーマで体感大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より手前:《男》(1974-75年)富山県美術館では、展示の様子をご紹介。会場では、テーマに合わせて7つのセクションに分けられています。ただ、テーマに沿って作品をつくっているのではなく、また、制作時代順にも並んでいないので、自分の好きなところから自由に見ていけばいいようです。最初の展示室から、けっこう圧が強め。ちょっと怖い感じの人形のような作品が立っていたり、天井からぶら下がっていたりして、もし照明が暗いとお化け屋敷と思ってしまいそうな雰囲気です。大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より手前:《スクラップブック #71/宇和島》(2018-2021年)本展を担当された東京国立近代美術館の主任研究員、成相肇さんによると、大竹作品の特徴は「貼り付けること。貼ってからはがして、重ねて量を増やして密度を増していき、ほとんどの作品がコラージュ作品になっている」とのこと。その密度の濃さを体験してほしいそうです。もっとも密度を感じられるのは、スクラップブックと題された作品たち。もはやスクラップブックの面影もないような、大きな塊です。展示室に巨大な小屋が…!大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(2012年)本展でもっとも目を引く作品は、ドイツの国際展にも展示された《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》。ネオンサインやトレーラー、ギター、巨大なスクラップブックなどが凝縮されたパワフルなインスタレーションです。展示室の空間に巨大な小屋が置かれ、かなり迫力があります。小屋の中をのぞくと、いろいろなものが詰まっていて、こちらも圧が強め。音も鳴る作品で、大竹さんの集大成のひとつといわれています。人気のニューシャネルも…!また、本展はグッズも充実。大竹さんは、文字の作品も多く手がけていて、本展の「大竹伸朗展」という文字も今回の新作です。そんな「大竹文字」のひとつが《ニューシャネル》(1998年)。スナックの看板をモチーフにしてつくられたもので、Tシャツなどのグッズが大人気です。今回のためにつくられた新作グッズもあるので、ぜひ特設ショップものぞいてみてください。本展は2023年2月5日(日)まで開催。その後、愛媛県美術館と富山県美術館に巡回予定です。Information会期:~2023年2月5日(日)休館日:月曜日(ただし1月2日、9日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)会場:東京国立近代美術館開館時間:10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)(入館は各閉館時間の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,500、大学生¥1,000、高校生以下および18歳未満は無料お問合せ: 050-5541-8600(ハローダイヤル 9:00~20:00)
2022年11月19日上野の国立科学博物館で、「毒」をテーマにした特別展が開かれています。オフィシャルサポーターは、クイズ王の伊沢拓司さん。内覧会に登壇した伊沢さんのトークとあわせて、展示の様子をレポートします!伊沢拓司さんがオフィシャルサポーター!伊沢拓司さん【女子的アートナビ】vol. 268特別展『毒』では、自然界に存在するあらゆる毒について、国立科学博物館(通称:科博)のスペシャリストたちが徹底的に掘り下げ、わかりやすく解説。動物、植物、菌類、鉱物、人工毒などあらゆる毒について、標本や模型、資料など約250点の展示物を見ながら、毒の奥深い世界を楽しめます。本展のオフィシャルサポーターは、東大クイズ王としておなじみの伊沢拓司さん。子どものころから科博に通っていたという伊沢さんは、「大好きな科博のサポーターになれて子ども時代の自分に自慢したい」とうれしそうな様子。さらに、展覧会の魅力を次のように語りました。伊沢さん毒のイメージは、子どものころから図鑑で見て、怖いし危ないと思いながらも、知りたくなる要素もある。刺激的で、興味をそそられ魅かれてしまう存在です。会場の展示は非常に重厚で、幅広いジャンルの先生方が集まり、毒についてありとあらゆるものが語られています。たくさんの標本やモデルもあって、子どもから大人まで楽しめるギミック(仕掛け)がある。僕は展示を見るのに3~4時間はかかると思う(笑)。毒クイズも楽しめる!また、会場では、伊沢さんが率いる東大発の知識集団QuizKnock【クイズノック】が作成した毒クイズも楽しめます。クイズについて、伊沢さんは次のようにコメントしました。伊沢さん毒クイズは、展示を見ながら解けるので、答えを探してみようという目線で見ていくと興味がわくと思います。毒展は、もしかしたら、子どもに見せたくないと思う方がいるかもしれませんが、大事なのは正しく知って正しく恐れること。展示の中では、毒も薬になるという要素だとか、毒の利用、人間と生物の毒の付き合い方の話もあります。ただ何となく知らずに恐れるのではなく、毒について魅力的な要素から入り、正しく知る。毒から逃れられないからこそ、うまく付き合う知識を入れていただきたいです。かなり役立つ!毒知識特別展『毒』展示風景では、展示のなかから、いくつかピックアップして見てみます。前半の第2章「毒の博物館」で個人的に一番興味を引いたのは、身近な植物の毒。ふつうに食べるインゲンマメやビワなどが並び、それらの持つ毒について説明が書いてあります。例えば、インゲンマメの果実については、「熟した豆は十分に火を通さないと中毒する」と記載。また、ウメやビワなどの果実は未熟だと毒性があり、いっぽうモロヘイヤの種子は熟すと有毒になるそうです。毒知識、役に立ちます。特別展『毒』展示風景菌類のコーナーでは、もちろん毒キノコも登場。「派手な色のキノコは毒キノコ」、「虫食いのあるキノコは食べられる」などの迷信はすべてウソ、とのこと。地球上には推定10万種以上のキノコが存在し、そのうち大半は食毒不明で、食毒があるか見分ける方法もないそうです。気をつけましょう。人間が作った「毒」…特別展『毒』展示風景さらにショッキングだったのが、人間が作った毒のコーナー。海洋中に漂う殺虫剤やダイオキシンなどの汚染物質が、自然界で分解されないプラスチックの小さな粒「マイクロプラスチック」に吸着し、それらを海洋生物が誤食。食物連鎖の過程で毒が濃くなり、最終的に化学物質が体内に蓄積された魚を人間が食べるという結果になっています。レジ袋などのプラスチックゴミも、殺虫剤もすべて人間が作ったもの。レジ袋は環境によくない、とわかっていたつもりでも、科学の視点できっちり解説されると改めて恐ろしいことだと実感します。正しく知ってうまく付き合う、という伊沢さんのコメントが身に沁みました。役に立つ毒も!特別展『毒』展示風景最終章では、役に立つ毒も紹介されています。例えば、アオカビの一種から発見されたペニシリンは、バクテリアの生育を抑える物質。人間にとっては薬でも、バクテリアにとっては「毒」になります。本展の監修者で国立科学博物館の植物研究部長、細矢剛さんは「毒と向き合う姿勢は科学そのもの。毒とうまく付き合うのが我々に求められるもの」と語っていました。迷信やウソにだまされず、科学的な視点できちんと理解することの大切さを本展で体感できました。特別展『毒』は2023年2月19日まで開催。Information会期:~2023年2月19日(日)休館日:月曜日、12/28~1/1、1/10(ただし、1/2、1/9、2/13は開館)会場:国立科学博物館開館時間:9:00-17:00(入館は16:30まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般・大学生 ¥2,000、小・中・高校生¥600※日時指定予約制
2022年11月13日10月1日、東京の丸の内に静嘉堂文庫美術館が移転・開館しました。現在、開館記念展Ⅰ『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』が開催中です。この新しい美術館は、なんと建物も重要文化財!内装も展示物もステキで、見どころがいっぱいの展覧会をレポートします。名建築の中にオープン!【女子的アートナビ】vol. 267これまで東京都世田谷区にあった静嘉堂文庫美術館が、東京・丸の内にある重要文化財「明治生命館」の1階にギャラリーを移転。そのオープニングを飾る展覧会では、国宝《曜変天目(稲葉天目)》をはじめ、所蔵するすべての国宝7件を前・後期に分けて公開しています。美術館が入る明治生命館は、1934年に竣工した古典主義様式の最高傑作。日本を代表する近代洋風建築といわれています。戦時中、東京大空襲による被害は免れましたが、戦後はGHQが接収。1945年から1956年までは、アメリカ極東空軍司令部として使用されていました。1枚目の画像は、静嘉堂文庫美術館の中央部にある吹き抜けの広い空間「ホワイエ」です。大理石が多く使われた大変美しい場所で、そこを取り囲むように4つの展示室が配置されています。日本の宝を守った…!静嘉堂の感動ストーリー『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』展示風景まずは、静嘉堂の歴史をざっくりご紹介。130年もの歴史をもつ静嘉堂は、岩﨑彌之助 (三菱第二代社長)が創設。その息子、岩﨑小彌太 (三菱第四代社長)がコレクションを拡充し、現在では国宝7件、重要文化財84件を含む多くの古典籍と美術品を所蔵しています。岩﨑父子は、廃仏毀釈により文化財が海外に流出していくなかで、日本の宝を守るために美術品や古典籍の収集を開始。さらに彌之助は、静嘉堂の創設当初からビジネス街に美術館を建て、作品を多くの国民に見てもらいたいと考えていました。130年ぶりに創設者の夢が実現した新しい美術館は、まさにビジネス街の中心部にあり、東京駅からも徒歩5分で行くことが可能。丸の内にお勤めの人なら、ランチタイムに立ち寄ることもできそうです。前期の必見作は、国宝の屛風!国宝 俵屋宗達 《源氏物語関屋澪標図屛風》澪標図江戸時代・寛永8年(1631)(展示期間10月1日~11月6日)本展は4章で構成。静嘉堂が誇る名品を見ながら、コレクションの歴史やストーリーも楽しめるようになっています。前期展示の必見作は、俵屋宗達の国宝《源氏物語関屋澪標図屛風》。光源氏と女性たちが偶然出会う場面を描いたきらびやかな作品です。デフォルメされた橋などの各モチーフもユニーク。近くでじっくりと鑑賞したい名宝です。ちなみに、ギャラリーに入ったら内装もぜひチェックしてみてください。例えば、ギャラリー2の入口にはレトロなエレベーターがあります。米国オーチス社製のもので、扉には銅板に木目模様が手描きされ、シックな雰囲気。現在は動いていませんが、当時は1階と地下階の連絡用として使われていました。国宝が意外なグッズに…!国宝 《曜変天目 (稲葉天目)》南宋時代(12〜13世紀)最後の展示室では、静嘉堂の至宝、国宝《曜変天目 (稲葉天目)》が登場。現存するのは世界で3つしかないといわれている曜変天目は、深い瑠璃色が大変美しいお茶碗です。まるで満天の星のようで、永遠に見ていたくなります。曜変天目は偶然に焼きあがったもので、再現も不可能といわれる名宝ですが、ミュージアムショップで見事に再現(?)したグッズを発見。まさかの「ぬいぐるみ」です!すでにSNSでも話題沸騰の人気商品。国宝のぬいぐるみをモフモフすると癒されそうですね。(※11月3日現在、生産が追いつかないため、予約販売受付を中止しています。詳細はミュージアムショップへお問い合わせください)開館記念展Ⅰ『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』は12月18日まで開催。(※国宝7件が揃うのは前期展示11月6日まで。後期は国宝4件を展示)Information会期:~12/18(日)途中展示替えがあります休館日:月曜日、11/8(火)、11/9(水)会場:静嘉堂文庫美術館開館時間:10:00 – 17:00 (入館は16:30まで)金曜日は18:00 (入館は17:30)まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,500、大学生、高校生¥1,000※日時指定予約制(空き枠がある場合のみ当日券も販売)
2022年11月03日東京・上野の国立西洋美術館で『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』が開催中です。ベルリン出身のコレクターが選び抜いた究極の20世紀美術コレクションがドイツから来日。そのうち、半数以上が日本初公開作品という今秋必見の展覧会をご紹介します!超豪華!世界遺産でピカソを満喫!【女子的アートナビ】vol. 266『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』では、ピカソやクレー、マティス、ジャコメッティという4巨匠の作品を中心に、ベルクグリューン美術館が所蔵する20世紀美術の作品群を展示。同館コレクション97点に、日本の国立美術館が所蔵する作品を加えた合計108点が紹介されます。特にピカソは、有名な「青の時代」をはじめ、各時代を代表する名作が集結。なんと40点以上ものピカソ作品をひとつの展覧会で見ることができます。この展覧会は、ベルクグリューン美術館が大規模改修を行うなかで企画された世界巡回展。その最初の地として、日本が選ばれました。プレス内覧会に登壇した本展キュレーターのヨアヒム・イェーガー博士は、「ヨーロッパの近代芸術は、日本から大きな影響を受けている」とコメント。さらに、「世界遺産にも認定されている国立西洋美術館で、最初の世界巡回展をスタートできることをうれしく思う」と語っていました。ベルクグリューンって?『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景作品を見る前に、コレクターのベルクグリューンをご紹介。ベルリンのユダヤ人家庭に生まれたハインツ・ベルクグリューン(1914-2007)は、ナチス政権時代に政治的事情でドイツを追われてアメリカへ移住。そこで美術館勤務などをしていましたが、戦後はパリに渡り画廊を経営。ピカソやマティスなどの芸術家や作家、詩人と交流を深め、自らのコレクションを築き上げました。ベルクグリューンが集めた作品は、1996年に故郷ベルリンのシャルロッテンブルク宮殿に面した由緒ある建物「シュテーラー館」で公開され、その後ドイツが彼の所蔵品をまとめて購入。2004年、コレクターの90歳の誕生日を記念して、彼のコレクションを展示していたシュテーラー館が「ベルクグリューン美術館」と改名されました。見たことないピカソがいっぱい!『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景本展の見どころは、何といってもピカソ。コレクターのベルクグリューンがピカソに心酔し、また画家本人と親交も深かったので、かなり質の高い作品が揃っています。しかも、展示されているピカソ作品のうち35点が日本初公開です。特に圧巻なのは、女性をモデルにした作品が集まる展示室。展覧会のメインヴィジュアルに使われている《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》をはじめ、ベルクグリューン美術館の顔ともいえる作品《黄色のセーター》、2メートル近くある大作《大きな横たわる裸婦》など、素晴らしい作品が並んでいます。著作権の関係でアップの写真は載せられませんが、名コレクターが厳選して購入したピカソの絵はどれも見ごたえ抜群。しかも、ベルクグリューンは絵を入れる「額」にもこだわり、自分で絵に合った額を選んでいました。あえて、アンティークの額をピカソの斬新な絵に合わせており、例えば《黄色のセーター》には、17世紀前半につくられた金塗りのスペイン製額が使われています。会場では、作品と一緒にぜひ額もご覧になってみてください。クレーやマティスも充実!『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景ベルクグリューンは、画商としてさまざまな画家の作品を扱っていましたが、コレクターとして自分のために購入したのは敬愛する少数のアーティストたちの作品でした。ピカソのほか、クレー、マティス、ジャコメッティの作品を多く収集。本展でも、彼らの作品が多数展示されています。『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景ピカソやマティスらは、伝統的な表現形式を壊してから作品を創造する革新的なアーティストでした。そのため、古典的な美術様式を好むヒトラーから嫌われ、ナチス政権時代、彼らの作品は「退廃芸術」として迫害されていました。特に、占領下のパリにいたピカソは要注意人物としてゲシュタポ(ナチスドイツの秘密国家警察)から監視を受け、当時は作品発表も禁じられていました。そんな芸術家たちの作品が、過酷な時代を乗り越えたユダヤ人の名コレクターによって集められ、今ではドイツを代表する20世紀美術コレクションのひとつになっています。ベルクグリューンや芸術家たちの軌跡に思いをはせながら作品を見ると、また違う味わいを感じられるかもしれません。本展は、2023年1月22日まで開催。その後、大阪に巡回します。Information会期:~2023年1月22日(日)休館日:月曜日、12月30日(金)~2023年1月1日(日)、1月10日(火)※ただし、2023年1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)は開館会場:国立西洋美術館開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金・土曜日は午後8時まで)※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,500、高校生¥1,100※日時指定予約制
2022年10月26日東京国立博物館で、特別展『国宝東京国立博物館のすべて』が開催中です。本展は、日本で一番多く国宝を所蔵する東京国立博物館(通称:トーハク)が2022年に「創立150年」を迎えたことを記念して開催。全89件の国宝を公開する“トーハク史上初”の展覧会です。プレス内覧会で取材した見どころや会場風景をご紹介します!トーハクのすべてが見られる!国宝《松林図屏風》長谷川等伯筆安土桃山時代16世紀(展示期間:10月18日~10月30日)【女子的アートナビ】vol. 265特別展『国宝東京国立博物館のすべて』では、約12万件もの文化財を所蔵するトーハクのコレクションから、全国宝89件と重要文化財27件、さらに関連資料をあわせた150件を展示。日本で一番歴史の長い博物館として、これまで多くの文化財を保存・公開してきた東京国立博物館の「すべて」を見ることができます。今回のように全国宝89件をひとつの展覧会で見せるのは、トーハク史上初。でも、なぜ今まで実現できなかったのでしょう?本展を担当した東京国立博物館研究員の佐藤寛介さんは、次のように述べました。佐藤さん文化財は、保存と公開を両立させるため、展示期間に制限を設けて数年間のサイクルで少しずつ公開しています。一度にまとめて出すには、数年前から数年先まで調整する必要があるのですが、今回は150年という節目だから実現できました。ただ、絵画と書跡分野を中心に展示替えがあり、作品によっては展示期間が2週間のものもあります。国宝は、常時60件程度は一定して出しており、「いつ来たら損」というのはないのでご安心ください。奇跡の空間!オール国宝の展示室特別展『国宝東京国立博物館のすべて』展示風景では、展示室の様子をご紹介。第1部の空間にあるのは、すべて国宝です!一般的な展覧会では、多くの作品が並ぶなかで1点でも国宝が見られればラッキーという感じなのですが、本展第1部に展示されているのは全部国宝。絵画や書跡、漆工、考古など8つのジャンルから国宝に指定された作品が並び、展示室によっては360度国宝に囲まれる部屋も。まさに奇跡の空間を体験できます。この展覧会の最初の展示室でトップを飾るのが、長谷川等伯の《松林図屏風》。毎年お正月の時期に短期間公開されている国宝で、トーハク所蔵品のなかで一番人気ともいわれる作品です。湿った空気の中に浮かび上がる松林が美しく描かれた本作品は、日本における水墨画の最高傑作のひとつ。10月30日までの限定公開なので、お好きな方はお急ぎください。絵画のジャンルでは、今後も展示替えで狩野永徳や岩佐又兵衛の有名な屛風が登場します。奇跡の書跡と刀剣も…!国宝《古今和歌集(元永本)上帖》平安時代12世紀また、書跡のコーナーも見逃せません。平安時代の優れた能書家の小野道風や藤原行成の美しい書が展示されています。現存最古の《古今和歌集(元永本)上帖》も必見作。当時の装幀のまま完本として残っているのは本作品のみで、これまで尾張徳川家や加賀前田家などの錚々たる方々が所有し、最後は三井家からトーハクに寄贈されました。本作品は、文字だけでなく紙もすごいです。料紙の表には、雲母摺り(きらずり)と呼ばれる技法で美しい文様が施され、裏面には金や銀の箔が散り、とにかく豪華。平安時代から令和の現代まで、これだけの美しい状態で残っていることも奇跡だと思います。特別展『国宝東京国立博物館のすべて』展示風景さらに、「国宝刀剣の間」も見どころのひとつ。トーハクが所蔵する19件の刀剣が集結するというのも史上初の試み。しかも通期展示なので、本展開催中にいつ訪れても貴重な刀剣を見ることができます。「より美しく見せるために展示ケースや照明にもこだわりました。日本刀の美しさをじっくりと見てください」と佐藤研究員も力説していた刀剣ルーム。こちらも、ぜひ現地で実物をご覧ください。なぜかキリンが…!《キリン剝製標本》明治41年(1908)国宝を楽しんだあとは、第2部でトーハクの歴史を体感できます。こちらの展示室に国宝はありませんが、明治から令和までの150年を3期にわけ、各時代に収蔵された重要文化財指定の作品などが展示されています。皇室にゆかりのある品や写楽の浮世絵版画などいろいろありますが、異色なのがキリンの剥製標本。トーハクは、誕生した当時、博物館だけでなく植物園、動物園、図書館の機能も備えた総合博物館を目指し、美術工芸品だけでなく、動植物の標本や剥製も集めて公開していました。展示されているキリンは、1907年、日本にはじめて生きたままやってきて、上野動物園で飼育されていたオスの「ファンジ」。死後、剥製標本にされてトーハクの自然史資料として展示されていました。このキリンなどの自然史資料は、関東大震災後、今の国立科学博物館に譲渡され、やがてトーハクは歴史と美術工芸品をメインとした博物館となりました。国宝をコンプリート!貴重な美術工芸品と、日本初の博物館150年の歴史を体感できる展覧会は12月11日まで開催しています。ぜひ何度か足を運んで、89件の国宝すべてをコンプリートしてみてください!Information会期:~12月11日(日)休館日:月曜日会場:東京国立博物館平成館開館時間:9時30分~17時00分※金曜・土曜日は20時00分まで開館(総合文化展は17時00分閉館)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,000、大学生 ¥1,200、高校生¥900※日時指定予約制
2022年10月23日11月から上野の森美術館で『日中国交正常化50周年記念兵馬俑と古代中国 ~秦漢文明の遺産~』がはじまります。この展覧会のナビゲーターに、俳優の谷原章介さんが就任。音声ガイドのナレーションも担当された谷原さんに、展示の見どころやお好きなアートについてうかがいました。谷原章介さんがナビゲーター!谷原章介さん【女子的アートナビ】vol. 264『兵馬俑と古代中国 ~秦漢文明の遺産~』では、秦漢両王朝の中心地域であった陝西省の出土品を中心に、中国における国宝レベルの貴重な文物など約200点が集結。日本初公開となる文物も多数含まれています。特に注目したいのが、兵馬俑の展示。兵馬俑とは、陵墓(皇帝の墓所)に収められていた兵士や馬をかたどった像のこと。始皇帝陵には、およそ8000体もの兵馬俑があったと推定され、その像は一つひとつ顔や服装が異なるといわれています。本展では、戦国、漢時代を含めた総計36体もの兵馬俑が来日。日本初公開の希少な将軍俑も展示され、過去最大級のスケールでの展示を楽しめます。そんな注目の本展・東京版でナビゲーターを務めるのは、谷原章介さん。俳優だけでなく司会者としても活躍され、声も“イケボ”な谷原さんに展覧会の見どころなどを語っていただきました!憧れの世界…――本展のオファーを受けて、どのように思われましたか。谷原さん古代の中国は、幼いころから三国志のマンガやゲームで親しんできたので憧れの世界です。しかも兵馬俑はまだ見たことがないので、とても楽しみです。――古代中国、どんな点に憧れていたのですか。谷原さん秦の始皇帝は、はじめて中国を統一しました。やはり、その権力を勝ち取っていくところに僕は惹かれるのだと思います。兵馬俑も、何千体もつくり、一緒に葬られていますよね。それをつくることができるのが権力の証。莫大な財があり、自分の偉大さを後世に喧伝したかったのだと思います。こんなすごい人がこの世にいたのだと思うのと同時に、畏怖の念も抱きます。――兵馬俑もたくさん展示されるそうですね。谷原さん発掘された兵馬俑の写真を見て、この国の人たちは、なんてすごいことをやっているのだろうと思いました。展覧会で、中国の大きなスケールを感じていただきたいですね。当時、彼らは馬車で戦争をして、函谷関のような大きな城壁もあり、世界において間違いなく国力は強かった。その一端を見ていただければうれしいです。ボソボソっと収録…――私は歴史や古代中国にあまり詳しくないのですが、そんな人間でも展覧会を楽しめますか。イケメン兵馬俑とか、いるといいのですが…。谷原さん切り口は、なんでもいいと思いますよ。例えば、その時代の歴史ドラマでイケメン俳優が出ているものとかを見たりすると興味が持てるようになるかもしれないですし、あるいは、まず展覧会に来てみて、それで後からアニメやドラマを見てもいいですよね。――さらに谷原さんの音声ガイドを聞くと、初心者でも理解が深まりそうですね。谷原さん僕は、今回のガイドでは作品を見ている方の耳元で「ボソボソっ」と話すイメージで、あまり声を張らずに収録をさせていただきました。声を張らないと、のどを使うので疲れるのですけど、がんばってやりましたので、ぜひガイドを聞いてください。――なぜボソボソっと話されたのですか?谷原さん展示されているのは昔の文物で、一級の美術品でもあります。長い時を経て、ここまで生き残ってきたものですし、作品自体が強い存在ですから、声を張るよりは、僕は抑えていきたいな、と。ご覧になる方自身も、スポーツ観戦みたいに高揚するのではなく、静ひつな気持ちになると思うので、僕も静かに落ち着いたトーンにしました。――ちなみに、古代中国に限らず、何か歴史ドラマでご自身が演じてみたい時代とかありますか?谷原さん僕が興味を持っているのは、坂上田村麻呂が征夷大将軍になるときの蝦夷(えみし)。族長のアテルイとか。奥州藤原氏にしても、東北の人たちが、中央から離れていたときの時代をやってみたいですね。ロマンを感じます。思い出に残るアート体験は…――谷原さんは、以前デザインの番組で司会をされていたこともあり、アートやデザインなどのジャンルにもお詳しいと思います。ご自身で何か思い出に残るアート体験はありますか?谷原さんもう30年近く前になりますが、世田谷美術館でアウトサイダーの方々の作品を集めた展覧会がありました。そこではじめて、ヘンリー・ダーガーの作品を見ました。彼は精神疾患があり、自分の妹とは生き別れている方で、その妹をモチーフにしたと思われるような少女たちが悪と戦う物語を創造し、絵にした作品です。すごく長い壮大な物語で、大きな紙に描いてあるのですが、多くの子どもたちが殺されてしまうのです。ヘンリー・ダーガーは、病院の掃除夫として働き、稼ぎをすべて作品制作に使っていたらしいのです。その展覧会で僕が見た西洋の方々の作品には、やはり宗教的なキリストの救いのようなものが埋め込まれていたように思えました。作らずにはいられない衝動や、救われたいという思いもあるのかなと感じて、見ていて切なくなりました。生のスゴさを感じて!――最後に、読者の方にメッセージをいただけますか。谷原さん兵馬俑は、何度か日本に来ていて、毎回ご好評をいただいているとうかがっています。そのなかでも、今回は日本初公開の将軍俑が来日するので、それは過去にはなかったものです。ぜひスマホの画面ではなく、生のスゴさを展覧会で感じていただけたらうれしいです。インタビューを終えて…歴史からアートのジャンルまで、本当に博識な谷原さん。特に、30年前の展覧会を鮮明に覚えていらっしゃったのが印象的でした。谷原さんの話されていたヘンリー・ダーガーの作品を見てみたくなり、世田谷美術館で開催された『パラレル・ヴィジョン―20世紀美術とアウトサイダー・アート』展の図録を入手。ダーガー作品はかなり衝撃的で、当時の若き谷原さんが受けた驚きや感動が伝わってくるようでした。そんな博学な谷原さんが、わかりやすく語りかけてくれる音声ガイドを聞きながら、ぜひ展覧会で古代中国の世界を楽しんでみてください。Information「日中国交正常化50周年記念兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~」会期: 2022年11月22日(火)~2023年2月5日(日)会場: 上野の森美術館開館時間:9:30~18:00※入館は閉館の30分前まで休館日:2022年12月31日(土)、2023年1月1日(日)観覧料(税込):一般¥2,100、高校・専門・大学生¥1300、小・中学生¥900※2022年11月2日(水)10時よりチケット発売開始予定※本展は日時指定予約制です。※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください問合せ:ハローダイヤル 050-5541-8600
2022年10月20日東京・日本橋にある三井記念美術館で、特別展『大蒔絵展―漆と金の千年物語』が開催中です。平安時代に完成した純日本的なデザインの蒔絵。日本人が生み出した優雅で美しい工芸には、どのような歴史があるのでしょう。学芸員さんの話もまじえて、見どころなどをレポートします!どんな展覧会?国宝《桐蒔絵手箱》南北朝時代(14世紀)和歌山・熊野速玉大社所蔵展示期間10月1日~10月30日【女子的アートナビ】vol. 263特別展『大蒔絵展―漆と金の千年物語』では、平安時代から現代の人間国宝にいたるまでの蒔絵作品を中心に、物語絵巻や屛風、書跡資料などもあわせて展示。蒔絵が日本文化に広がり、楽しまれてきた時代背景も知ることができます。本展は、MOA美術館と三井記念美術館、徳川美術館の3館による合同企画。東京会場となっている三井記念美術館では、国宝7件、重要文化財32件を含む計127件が紹介されています。そもそも蒔絵って?展示作品を見る前に、蒔絵についておさらいします。そもそも蒔絵とは、漆工芸のなかの技法のひとつ。漆で絵や文様などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を蒔(ま)きつけて固めていく手法です。三井記念美術館の学芸員で本展を担当した小林祐子さんは、蒔絵の歴史について、次のように教えてくれました。小林さん漆の木からとれる樹液を利用する工芸品は、漆が自生する日本や中国、朝鮮半島、東南アジアなどでつくられていますが、蒔絵は日本だけで発展した技術。日本に現存する最古の蒔絵は、正倉院宝物「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんかざりのからたち)」の鞘(さや)にある動物の模様です。もともと蒔絵の技術は、奈良時代に中国大陸から伝わったと考えられていますが、中国で蒔絵の伝世品は見つかっていません。中国では失われた技術ですが、日本では発達していきました。少なくとも、日本で1200年以上も受け継がれている技術です。国宝・重要文化財がいっぱい!《石山切》藤原定信筆平安時代(12世紀)静岡・MOA美術館所蔵本展は8章で構成。そのなかから、特に国宝や重要文化財が多く集まる1~3章を中心にピックアップしていきます。まず注目したいのが、大変美しい書の作品《石山切》(藤原定信筆)。平安時代につくられたものです。平安時代には宮廷を中心とした貴族文化が発達し、日本ならではの美の規範が生まれました。また、かな文字が生まれたのもこの時代。書をしたためる和紙である「料紙(りょうし)」にも、金銀を用いた華麗な装飾が施されていきます。でも、巻物や冊子は読むものなのに、なぜこれほど豪華な装飾がつけられたのでしょう。小林さんは次のように解説しています。小林さんこれらの書は「調度手本」と呼ばれています。貴族の邸宅の棚などに飾られるもので、生活を彩るための調度品なのです。《石山切》では、銀泥で松や鳥などの下絵が施されています。このような料紙装飾は、蒔絵の模様にも通じるものです。素材を超えた和様の美をご覧になってみてください。6日間だけ見られます!国宝《源氏物語絵巻宿木一》平安時代(12世紀)愛知・徳川美術館所蔵展示期間10月1日~10月9日また、本展では貴重な国宝《源氏物語絵巻》も展示されています。平安時代に成立した『源氏物語』や『伊勢物語』は、のちに長く蒔絵のデザインとして使われていきます。例えば、本展の後半で見ることができる尾形光琳の国宝《八橋蒔絵螺鈿硯箱》に描かれているデザインも『伊勢物語』由来。物語絵巻は、江戸時代まで受け継がれている日本文化のベースになっています。今回展示されている《源氏物語絵巻》は現存最古の物語絵巻で、所蔵館以外で展示されるのは極めて珍しいそうです。前期の展示期間はすでに終了し、後期は10月25日から30日までの限定展示となっています。必見! 国宝の蒔絵たち国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》平安時代(12世紀)東京国立博物館所蔵展示期間10月1日~10月23日ここからは、本展メインの蒔絵作品をご紹介。まずは、国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》(かたわぐるままきえらでんてばこ)。東京国立博物館が所蔵する名品です。牛車(ぎっしゃ)の車輪が描かれている手箱で、波の部分には「研出(とぎだし)蒔絵」という技法が使われています。この技法は、漆で模様を描いて金粉を蒔きつけたあと、さらに全面を漆で塗りこめてから木炭で研ぎ、模様をもう一度出すという手順。正倉院宝物にも使われた最初期の技法です。ちなみに、手箱というのは、本来化粧道具などを入れておくための箱を指しますが、本作品は仏教の経典を収めるための箱と考えられています。国宝《澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃》平安時代(12世紀)和歌山・金剛峯寺所蔵また、高野山に伝わる名宝で国宝の《澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃》(さわちどりらでんまきえこからびつ)も見どころのひとつ。こちらも、もとは経典や仏具を収めるための箱としてつくられたもので、水辺の情景が描かれています。カキツバタやオモダカなどが咲く水辺で、たくさんの千鳥が自由に舞っている様子が表され、とても幻想的な雰囲気です。さらに、和歌山の熊野速玉大社に伝わる国宝《桐蒔絵手箱》(きりまきえてばこ)も必見作。本記事一枚目の画像です。こちらは南北朝時代の作品で、金粉が一面に蒔きつけられています。鎌倉時代になると、蒔絵の粉をつくる技術が向上し、小さな粉も使われるようになりました。本作品には金が浴びせかけられ、かなりゴージャスな雰囲気。この手箱の中に収められていたおしろいやお歯黒などの化粧道具も展示されています。なお、展示作品の説明部分に、QRコードがついているものもあります。スマホで読み取ると、蒔絵作品の箱の中や蓋の裏など、展示では見えない部分の画像が見られるので、ぜひ利用してみてください。本展は、展示替えを行う作品も多く、また展覧会の会期もあまり長くありません。ぜひお早めに、お出かけください。Information会期: ~11/13(日)※会期中、展示替えを行います。会場: 三井記念美術館開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)休館日:10月24日(月)観覧料:一般¥1,300、高校・大学生¥800、中学生以下無料※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください
2022年10月16日京都市京セラ美術館で開催中の『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』。本記事では、ウォーホルの全盛期から最晩年までの展示作品にフォーカスします。生け花文化からの影響…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景【女子的アートナビ】vol. 262本展覧会の1章では商業デザイナーとして活躍したウォーホルの初期作品、2章では京都旅行についての資料やスケッチなどが展示されています。この2章の最後に登場するのが「花」のシリーズ。本展前半のハイライトといわれている作品群です。アンディ・ウォーホル美術館の主任学芸員で、本展キュレーターをつとめるホセ・カルロス・ディアズ氏は、「花」シリーズについて次のように解説しています。ディアズ氏ウォーホルは1956年に初めて日本を訪れたとき、生け花の文化から大きく影響を受けました。帰国してからも生け花に関する本を買い集め、学んでいたのです。本作品も、生け花の本にあった図版が元ネタになっています。1974年の作品ですが、当時使っていたシルクスクリーン手法ではなく、手彩色で描かれている点も特徴です。会場では、ウォーホルが制作の参考にした生け花の本も展示してあります。有名作が続々登場!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景続く3章「『ポップ・アーティスト』ウォーホルの誕生」では、彼の超有名な代表作、キャンベル・スープ缶や花の作品などが登場します!展示会場の雰囲気もがらりと変わり、明るくポップな雰囲気。気分もワクワクしてきます。1960年代以降、ウォーホルは商業デザインから芸術的なファインアートの世界へと入っていきます。彼は「日常にありふれたものを芸術にする」とマスメディアに発表。シルクスクリーンの手法を使い、新聞記事や広告のイメージを取り入れた作品を次々と生み出していきます。『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景また、彼は自分の制作スタジオを「ファクトリー」と命名。スタジオで華やかなパーティやイベントを開き、俳優や作家、ミュージシャンやパトロンと交流を重ね、アート界のスターになっていきます。さらにアートだけでなく映画や音楽、ファッションの分野でも活躍。セルフプロデュースにもたけており、ウィッグをつけてジーンズをはくウォーホルの独特なスタイルは人気となり、ファッションアイコンにもなりました。会場では、愛用のウィッグやジーンズ、ブーツなども見ることができます。珍しいマリリンが…!《三つのマリリン》について語るディアズ氏子どものころからハリウッドスターやセレブに憧れていたウォーホルは、華やかなスターの肖像画を描きはじめます。4章「儚さと永遠」では、当時話題になっていた有名人の肖像画が展示されています。なかでも注目したいのは、本展のメインビジュアルにもなっている《三つのマリリン》。ウォーホルはマリリン・モンローの絵を50点ほど制作していますが、ポップな雰囲気のものがほとんどです。でも、本展の作品は顔がピンク色で、黒い影のようなものも描かれ、ややグロテスク。なぜ、こんな色彩にしたのでしょう?ディアズ氏は次のように述べています。ディアズ氏本作品は、ウォーホルが最も脂の乗っていた時期に描いたもので、ほかのマリリン作品にはない過激な色の組み合わせになっています。また、この絵はマリリン・モンローが自ら命を絶ったすぐ後に描かれた作品です。彼女の存在をただ懐かしむだけでなく、ウォーホルが感じたものが作品に投影されているのだと思います。《三つのマリリン》は展覧会で展示される機会が少ない珍しい作品です。ぜひじっくりとご覧ください。ウォーホルの光と影…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景作品が売れて有名になり、自分自身もセレブになったウォーホルですが、プライベートな部分は謎に包まれていました。最終章「光と影」では、今まであまり知られていなかったウォーホルの素顔に迫る作品が展示されています。彼が亡くなる前年、1986年に描かれた《最後の晩餐》は、横幅が10メートル近くもある大きな作品です。キリストの顔やバイク、数字、アルファベットなどが白い画面に散りばめられ、一見しただけではどんな意味があるのか、まったくわかりません。この絵について、ディアズ氏は次のように述べています。ディアズ氏画商から依頼を受けて制作した《最後の晩餐》では、ウォーホル自身が敬虔なクリスチャンであったという生い立ちを示しています。また、アルファベットで書かれている『THE BIG C』のCはキリスト(Christ)のCであるとともに、当時流行していたエイズが、当時の新聞などで「ゲイの癌 Gay Cancer」と表現されていたことからくるCancer(癌)のCであるとも考えられています。彼が敬虔なカトリック教徒でゲイだったことについては、あまり知られていませんでした。本作品は、ウォーホルのプライベートな部分を示した濃厚な作品です。死の作品…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景最後の部屋では、先述の《最後の晩餐》と向かい合わせて、「電気椅子」や「病院」をテーマにした作品を展示。ポップな絵のイメージが強いウォーホルですが、1960年代から「死」をテーマにした作品も制作していました。「死と惨事」シリーズや「頭蓋骨」の絵など、闇を感じる作品も多く手がけています。特に、ニューヨーク郊外のシンシン刑務所にある電気椅子の写真をもとに描いた作品《小さな電気椅子》は、彼の代表作のひとつになっています。1987年2月、ウォーホルはニューヨークで胆嚢炎の手術をした後、合併症で他界。58歳でした。京都×ウォーホル最後に、ミュージアムショップから京都老舗店とのコラボ商品をご紹介!祇園の和菓子屋「鍵善良房」は、ウォーホルの花作品をモチーフにした干菓子を販売。ケースのデザインもおしゃれです。ほかにも、お酒や手提げ袋、さらに漆器などの高価なものもあり、見ているだけでも楽しいです。また、京都を訪れた彼の足跡を辿る企画「ウォーホル・ウォーキング」も開催中。例えば、京都駅前烏丸口に設置されている「ウォーホル・ウォーキング」BOXのQRコードにアクセスすると、「ウォーホルと京都」のストーリーを楽しむことができます。京都だけでしか開かれない見どころ満載の展覧会『アンディ・ウォーホル・キョウト』。関西エリアの人はもちろん、それ以外の地域にお住いの方も、ぜひぜひ足を運んでみてくださいね!Information会期:~2023年2月12日(日)休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください観覧料:土日祝一般¥2,200、平日一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,400、中学・小学生¥800
2022年10月09日京都市京セラ美術館で、ポップ・アート界の巨匠、アンディ・ウォーホルの大回顧展が開催中です。京都だけでしか開かれない今回の展覧会では、200点以上の作品を展示するだけでなく、日本とウォーホルの深い関係も紹介。現地の内覧会やトークイベントを取材してきました。どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 261『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』では、ポップ・アートの巨匠として人気を博したアメリカの芸術家、アンディ・ウォーホル(1928-1987)の初期から晩年までの絵画や立体作品など約200点と映像作品15作を展示。そのうち100点以上が日本初公開となっています。今回展示されているものは、すべてアンディ・ウォーホル美術館の所蔵作品。同美術館は、ウォーホルの故郷であるアメリカ・ピッツバーグにあり、世界で最も多くのウォーホル作品と関連資料を所蔵しています。『アンディ・ウォーホル・キョウト』トークイベントの様子本展の開幕に合わせて、同館の館長パトリック・ムーア氏と本展のキュレーターで主任学芸員のホセ・カルロス・ディアズ氏がアメリカから来日。お二人がトークイベントなどで語った解説もご紹介しながら、展覧会の様子をレポートします。大きな自画像からスタート!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景会場に入ると、まずは大きな自画像がお出迎え。メガネをかけた無表情なウォーホルの顔が大きく描かれています。逆立った髪の毛の部分は光っていますが、顔半分が暗くなり、やや陰うつな雰囲気です。本作品は、ウォーホルが早すぎる死を迎える9か月前に制作されたもの。彼の人生は、これから詳しく紹介していきますが、名声と悪評、光と影に包まれていました。展覧会のイントロダクションで、まず彼の人生を象徴するような自画像と向き合ってから、本格的に作品世界へと入っていきます。ウォーホラからウォーホルに…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景1章「ピッツバーグからポップ前夜へのニューヨークへ」では、1950年代から60年代にかけて、商業イラストレーターとして活躍した時期の作品を展示。アメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグで生まれ育ったウォーホルは、1949年にカーネギー工科大学(現カーネギーメロン大学)の絵画デザイン学科を卒業。その後ニューヨークに移住し、商業デザインの世界でキャリアをスタートさせます。彼の両親は、東欧の現スロバキア出身。敬虔な東方カトリック教徒の移民家庭で育ったウォーホルは、名前も「アンドリュー・ウォーホラ」でした。館長のムーア氏は、「貧しい家庭で育ったウォーホルには野心があり、何が何でも成功して貧困から抜け出し、金持ちになって有名になりたいと思っていた」と解説。家族の中で唯一大学に行かせてもらえた彼は、母親からも期待をかけられていたそうです。『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景展示されている初期作品のうち、赤い靴が描かれたドローイング作品《ハイヒール》には、ウォーホルのサインが英語名で記入されています。ウォーホラからウォーホルへと名前を変えた彼は、その後商業イラストから本格的なアートの世界へと入っていきます。初の世界旅行へ!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景続く2章「ウォーホルと日本そして京都」では、初の世界一周旅行で立ち寄った日本で描いたスケッチや、写真、資料などを展示。ウォーホルにインスピレーションを与えた日本の文化や日本との関わりについて、詳しく紹介されています。1956年、ウォーホルは友人のチャールズ・リザンビーと一緒に初めての海外旅行に出かけます。京都、東京、香港などアジアから、ニューデリー、カイロ、ルクソール、ローマなど世界各地を訪問。日本には6月21日から7月3日までの約2週間滞在しました。展示作品のなかには、京都の都ホテルから母親に宛てて出したハガキや旅程表、地図などもあり、ウォーホルの京都旅を追体験できます。本展キュレーターのディアズ氏は、ウォーホルの世界旅行について次のように述べています。ディアズ氏旅でウォーホルが最も印象に残った国は、日本だったとされています。当時アメリカでは日本旅行が人気で、万博や展覧会などで日本文化がたびたび紹介されていました。彼は日本を旅しながら清水寺や舞妓の姿などをスケッチに残し、また旅先で入手した地図やチラシなどの資料もすべて残しています。さらに着物や骨とう品、食器、川端康成の小説など、日本のお土産もたくさん買いました。日本的なものは何でも好き!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景会場には、ウォーホルが残した言葉も掲示されています。特に日本への愛を感じられる一文をご紹介。「いま私は日本の花を描き、日本食を食べ、ケンゾーの服を着ている。そして日本製の写真やビデオやハイファイ、その他の電子機器も使っている。日本的なものはなんでも好きだ」また、葛飾北斎の作品からインスピレーションを受けて描いた作品なども見ることができ、ウォーホルの日本愛をたっぷり感じられます。ちなみに、初の海外旅行以降、74年に自身の個展開催のため日本を訪れたウォーホルは、日本のテレビコマーシャルやテレビ番組『徹子の部屋』にも出演。当時の写真も展示されています。Information会期:~2023年2月12日(日)休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください観覧料:土日祝一般¥2,200、平日一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,400、中学・小学生¥800
2022年10月09日上野の森美術館で、『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』が開催中です。廃棄物を使ってアートをつくる美術家、長坂真護(ながさかまご)さん。アートの力で世界を変えていこうとしている彼の力強い作品と、本人のコメントをご紹介!長坂真護さん、登場!長坂真護さん【女子的アートナビ】vol. 260『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』の開幕前日、プレス内覧会が実施され、作家本人が出席。作品解説やフォトセッションが行われました。1984年福井県生まれの長坂さんは、2007年にアパレル会社を起業しますが1年で倒産。その後、路上アーティストとなり、世界を回りながら作品を描いていきます。2017年、ガーナの首都近くにあるスラム街・アグボグブロシーを初訪問。“世界最大級の電子機器の墓場”といわれるその場所で、彼は先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てている人たちと出会います。電子ゴミを燃やすとき大量に発生する有毒ガスにより、30代の若さで亡くなっていく現地の人々の惨状を知り衝撃を受けた長坂さんは、アートの力で現実を変えていこうと決意。スラム街の子どもを描いたり、投棄された廃棄物を使ったりしてアートをつくりはじめます。作品が売れるとガスマスクを現地に届け、さらにその後も作品の売上をもとに完全無料の私立学校や文化施設をスラム街に設立。長坂さんの活動は、エミー賞受賞歴のある監督率いるクルーが撮影し、ドキュメンタリー作品『Still A “BLACK” STAR』も製作されました。自身の活動について、長坂さんは次のように述べています。長坂さん僕らだけで文化芸術を楽しんでいてはダメなんです。先進国の僕らだけが幸福でいいわけがない。2018年にはじめて展覧会をしたとき、僕は「スラムを変える」と言いました。そのときのメンバーは、僕だけでした。声を上げたとき、正直、自信はなかったです。でも声を上げてチャレンジすることと、声を上げずに後悔する生き方、後者だけはしたくないと思い、毎日一生懸命描いてきました。僕は100億円集めて、ガーナに最先端のリサイクル工場をプレゼントします。ここで得たものをガーナに返しに行きます。僕は絶対にやります。僕らは先進国の人間なので、みんなで集めれば100億だって集まると思うのです。経済大国の人間である僕らが、世界のスラムをはじめて撲滅したメンバーになる。それを僕が必ずやるので、どうか応援してください。美しい湿地帯に廃棄物が…《真実の湖Ⅱ》について解説する長坂さんまずは、本展のメインビジュアルにもなっている《真実の湖Ⅱ》について、長坂さんの解説をご紹介。長坂さんスラムを知るきっかけとなったアグボグブロシーの大地、そこをはじめて訪れたときの思いを表現した作品です。真ん中にいるのはアビドゥーという男の子。実際、このスラム街はもともと美しい湿地帯で、湖があり野鳥がいるような場所でした。そこに16年間、毎年のように60万トンの違法廃棄物が置かれるようになった。ゲーム機のコントローラーやテープ、パソコンなど、もしかしたら僕やみなさんが使ったものがスラムにあるかもしれない。先進国のゴミが堆積しているのに、それでもなお、この純真無垢な男の子はスラムの中で笑顔を咲かせている。この笑顔を表現したかった。ここから僕の画家としての人生が大きく変わったのです。コロナ前につくられた“ワクチン”作品《世界平和のワクチン》について解説する長坂さん続いてご紹介するのは、《世界平和のワクチン》。2018年に生み出された作品です。本作について、長坂さんは次のように述べています。長坂さん国の首相や大統領がテーブルに集まっていますが、よく見るとテーブルは3脚。脚が1本ないのです。テーブルの上に描かれているのは、もともと湖だったアグボグブロシー。この首脳たちが手を離すと、テーブルが傾きすべてが流れ落ちる。無理矢理、今の社会を保っている様子を表しています。地球を脅かす何者かが現れると、僕らは一致団結するんじゃないかなと考えてタイトルを「世界平和のワクチン」にしたら、コロナがきた。僕らは今、一致団結して社会を変えようとしている。まさに過渡期に僕らは立たされているのです。小豆島にもゴミが…長坂真護《向日葵》2022年2021年、長坂さんはスラム街の人たちに仕事を提供する必要性を感じ、農業事業を展開するため瀬戸内海の小豆島でオリーブ栽培の勉強をはじめます。そこで彼が遭遇したのは、島に流れ着いたマイクロプラスチックやシーグラスのゴミでした。長坂さん現地でビーチクリーニングを行い、そのときの廃材やシーグラスを使って、ひまわりをモチーフにした作品をつくりました。今回の新作です。ほぼゴミだったものが芸術品になりました。持続可能でパワフルなアート『長坂真護展』展示風景ちなみに、今回ご紹介した長坂さんの《向日葵》や《世界平和のワクチン》など、さまざまな作品原画(1点もの)は、展覧会のオンラインショップで購入可能です。作品の売上や入場料の収益の一部が、ガーナのリサイクル工場建設や、開拓農地の取得などの支援につながるシステムになっています。先進国が出した電子ゴミがもたらす惨状に衝撃を受けたことからスタートした長坂さんのアート活動は、わずか数年で億単位の売上を記録。デジタルなNFTアートの分野でも、300点出品したものが即日完売するという人気ぶりで、彼の創作活動は世界が注目しています。展示室で作品解説する長坂さん産業廃棄物や環境問題などの社会課題をアートの力で解決するという彼の活動もすばらしいですが、作品が発するエネルギーも半端ではありません。絵画だけでなく、立体作品や貯金箱のようにお金を投入できる作品もあり、単純に見ていて楽しいですし、パワーや元気をもらえます。「アートの力で世界を変える」なんて、文字だけで見たら胡散臭く、キレイごとのように思えるかもしれません。でも、本当に実行した人の軌跡を本展で体感できます。ぜひ一度、足を運んでみてください。Information会期:~11月6日(日)※会期中無休会場:上野の森美術館開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,400、大学・高校生・専門学校生 ¥1,000、中学・小学生¥600
2022年10月01日俳優の小関裕太さんが、『イッタラ展フィンランドガラスのきらめき』の展覧会ナビゲーター&音声ガイドに就任。フィンランドの旅をきっかけに、イッタラと出会ったという小関さん。今回、音声ガイドの収録を終えた小関さんに、イッタラやアートの魅力などについて語っていただきました!小関裕太さんがナビゲーター!小関裕太さん【女子的アートナビ】vol. 257渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで9月17日からはじまる『イッタラ展フィンランドガラスのきらめき』では、フィンランドを代表するブランド「イッタラ」のガラス作品を中心に、陶器、磁器、映像やインスタレーション作品など約450点を展示。140年の歴史をもつイッタラの美しい作品を通して、フィンランドのデザインや文化、ライフスタイルに触れることができる展覧会です。本展のナビゲーターと音声ガイドを務めるのは、俳優の小関裕太さん。イッタラにお詳しい小関さんに、作品やアートの魅力について語っていただきました。小関さんにインタビュー!――音声ガイドの収録、いかがでしたか。収録で意識されたことがあれば教えてください。小関さん僕自身がイッタラのガラス製品やデザインに元気をもらったり、日常的にすぐそばで使っていたりするものなので、イッタラ好きの方や、今回はじめてイッタラをご覧になる方にも、より好きになってもらえるようにと意識して収録しました。――特に聴いてほしいポイントありますか。小関さんボーナストラックのような形で、本筋とは別に僕自身が体験したフィンランドのエピソードや好きな部分を語っているところがあります。音声ガイドの専用番号もイッタラにちなんだものになり、遊び心も含まれていますので、楽しみながら聴いていただきたいです。《カンタレリ(アンズタケ)》タピオ・ヴィルカラ、1947年©Design Museum Finland, Photo: Ounamo――実際に見てみたい作品があれば教えてください。小関さん僕は現地に行ったときにけっこう見ているのですけど、今回の展覧会に出される《カンタレリ(アンズタケ)》はまだ見たことがないので、楽しみにしています。このアンズタケというのは、フィンランドで秋の味覚として食されているキノコで、それをガラスで表現しているそうです。イッタラとの出会いは…《アアルト ベース》アルヴァ・アアルト、1936-1937年©Design Museum Finland, Photo: Johnny Korkman――小関さんは、2019年にフィンランドを訪れたときにイッタラと出会い、作品に魅了されたそうですね。具体的に、どんな場面でご覧になったのですか。小関さん現地を訪れたときです。デザイナーさんたちがいて、制作しているアトリエがあったのですが、そこでイッタラのガラスを見ました。カラーガラスがたくさんショーケースに詰まっていたのが印象的で、そのきれいさに目を奪われました。――イッタラに出会われたときの感動をひと言でいうと、どんな感じですか。小関さん豊かだな、という感じです。いろいろな色があるなかで、寒色でも温かみを感じたり、インテリアとして生活に溶け込みながらもフォトジェニックな一面があったり。そのときは、まだ実際にイッタラを使ったことがないタイミングでしたので、果たして今買ったところで家に合うのかな、僕に合うのかな、と思いました。その後、日本に帰ってきて、イッタラのグラスを現地でお世話になったコーディネーターの方からいただき、そこからイッタラ製品との関わりが増えていきました。手元にイッタラがあるからには、これに見合った部屋づくりをしたいなと思って、そこからどんどん心が豊かになり、生活が変わっていきました。例えば、クランクアップなど区切りのタイミングでお花をいただく機会が多く、それを飾る花瓶がなかったので安いのを買って使っていたのですけど、花瓶もイッタラを使うようになりました。すると、お花をいただかないときでも自分でお花を買って飾ってみたくなったのです。生活の彩りが増え、同時に心の余裕も増えていくのが実感できました。いい空気を吸いに表参道へ…オイバ・トイッカによる《バード バイ トイッカ》コレクション©Iittala――ご自身でイッタラ製品を少しずつ買い足されているのですか。小関さんはい。少しずつ増えていきました。仕事のなかでいただくものもありますが、息抜きに、いい空気を吸いにイッタラの表参道店に行き、カフェに行ったりグラスを買ったりもします。気づいたら、イッタラが周りにたくさんありました(笑)。――小関さんが持っているなかで、一番のお気に入りの製品は?小関さん先ほどお話した、フィンランドでお世話になった方からいただいた「カルティオ」のグラスです。一色として同じ色がないというコンセプトで、僕のマネージャーさんなど含めて何人かに買ってくださったものです。僕は青と緑が混ざった色のグラスをいただき、色合いがしっくりときました。その方が僕をイメージして買ってくださったのもうれしいですし、感覚的に自分もその色が好きで、これがナンバーワンです。呼吸する間もなく集中したことは…――小関さんは何度かイッタラとコラボして、ご自身が撮影したグラスなどの写真作品を公式インスタ(@Kotobanoamarinaitokoro)にアップされています。物語風の作品もあり、特に鳥の絵が描かれたマグカップが他のカップに恋する場面は本当にステキで、写真なのに短編映画を見ているような気分になりました。小関さんわーうれしいな。ありがとうございます!――あの写真を撮影されているとき、どんなお気持ちだったのですか。小関さん呼吸する間もなく、ずっと集中して撮っていました。スタジオで撮っていたので、そのスタジオの終了時間も迫ってくるような時間との闘いのなか、アイデアもどんどん浮かんでくるので、汗かきながら呼吸止めながらの撮影でした。ほかの写真を撮影するときもそうなのですが、頭をフル回転させているので、めちゃくちゃお腹がすくんです(笑)。体の中が空っぽになり、エネルギーがすっからかんになる。集中しようと思わなくても、勝手に集中してしまうくらい大変だったのですけど、すごく楽しかったですね。――あの写真はやばいです。絶対、イッタラ製品を買いたくなります。小関さんあはは。ありがとうございます。マグカップを手に取ってみたいと思ってもらえたら、うれしいですね。カップを使ったとき、僕のつくったエピソードや物語を思い出すタイミングがあるような写真作品をつくりたいと考えていました。イッタラのお店に行ったとき、「あ、あれだ」と思ってもらえたらうれしいです。アートとは…《ルーツ》コレクション、ロナン&エルワン・ブルレック、2015年©Ronan and Erwan Bouroullec――小関さんは、最近アートの番組にも何度か出られています。昔からアートがお好きとのことですが、小関さんにとってアートとはどんな存在ですか。小関さん豊かにしてくれるものです。最終的には「人によって違う捉え方でいい」というのがアートでステキだなと思うポイントです。自分で思っていたことが合っているのかな、とネガティブになる必要はないと思います。また、年齢によってアートの捉え方は違うし、これから出会うものでまた捉え方も変わっていき、進化があるものだと思います。例えば、ゴッホのひまわりの絵でも、小さいころは自宅に飾ってあったプリントの絵を見ても「母親が好きなんだな」と思った程度でした。でも今、実際に美術館で本物を見ると「パワーあるな」とか「この凹凸感がすごいな」とか発見がどんどんあります。この先も新しい発見があると思いますし、そんなところがアートの魅力です。ぜひ、きらめきの世界へ!――最後に、展覧会を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。小関さんイッタラを今回はじめて知った方には、こんな豊かなバリエーションの作品があるんだと知っていただきたいです。触れ合うと欲しくなりますし、自分の家にあったらどんな生活になるのだろうとイメージしていただけると思います。また、すでに知っていた方も、イッタラの140年の軌跡に触れることで、一歩踏み込んだところに行ける展覧会だと思います。ガラスの不思議さや、さまざまな色合いを出すのも実はすごく大変なんだということが音声ガイドを聴いていただけるとわかります。その世界に触れたあと、家に戻ってイッタラ製品を使うと、また味わいがひとつ変わると思います。作品を見る味わいもそうですし、イッタラで飲む水の味わいもちょっと変わるのではないかなと思うので、ぜひガラスのきらめきの世界に踏み込んでいただけたらと思います。――ありがとうございました!インタビューを終えて…イッタラ愛にあふれていた小関さん。写真やアートにもお詳しく、ステキなお話を聞かせてくれました。インタビューの最後に「好きな絵」をお聞きしてみたところ、マグリットの絵が好きで、すでに小学生のときに彼の作品を部屋に飾っていたとのこと。奇妙で不思議でちょっとグロテスクな世界に魅かれる子どもだったそうで、そんな一面もまた魅力的でした。小関さんの愛が詰まった音声ガイドを聴きながら、ぜひイッタラの世界を楽しんでみてください。Information会期:2022年9月17日(土)~11月10日(木)※9月27日(火)休館会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)※状況により、会期・開館時間等が変更となる場合がございます。※本展は会期中すべての日程で【オンラインによる事前予約】が可能です。※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください。入館料:当日券一般 ¥1,700、大学・高校生 ¥1,000、中学生・小学生¥700【衣装協力】ATTACHMENT(Sakas PR)/ ZUCCa(A-net Inc.)撮影 : 山本倫子(小関裕太)
2022年09月14日上野の東京藝術大学大学美術館で、特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』が開催中です。皇室に伝わる美術品類と東京藝術大学のコレクションが展示されている本展では、貴重な文化財の魅力がわかりやすく紹介されています。おもな見どころなどをレポートします!どんな展覧会?特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景【女子的アートナビ】vol. 258特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』では、宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する皇室の名品に、東京藝術大学のコレクションを加えた82件の日本美術を展示。代々日本の文化を育て、保護してきた皇室に伝わるお宝をまとめて見ることができる大変貴重な機会です。三の丸尚蔵館とは、宮内庁が管理する博物館。もともとは皇室に受け継がれてきた美術品を天皇家が国にご寄贈されたことがきっかけとなって設立された博物館で、現在約9,800点の作品を収蔵しています。また、会場となっている東京藝術大学大学美術館も、美術教育に関する「参考品」として集めたコレクションを収蔵。現在約3万件のコレクションを持つ美術館です。日本美術の世界へ…特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景では、実際に展示の様子をご紹介していきます。「序章美の玉手箱を開けましょう」では、まず明治時代に皇居内でつくられた《菊蒔絵螺鈿棚》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示)がお出迎え。当時の宮内省と東京美術学校(現・東京藝術大学)が共同で制作した作品から、本展の展示がはじまります。また、東京美術学校の創立にもかかわった岡倉天心が教えた日本美術史の講義ノート(東京藝術大学蔵、通期展示)も展示。東京藝術大学で日本美術史の講義を受けるような気持ちで鑑賞をはじめられます。ミニ解説がありがたい…!「1章文字からはじまる日本の美」では、国宝の《絵因果経(えいんがきょう)》(東京藝術大学蔵、通期展示〈場面替えあり〉)をはじめ、数々の貴重な文書が登場。《絵因果経》とは、上半分に絵、下半分にお経が書かれている絵巻で、内容はお釈迦様の伝記のようなものです。展示されているのは奈良時代のものですが、絵の色彩が鮮やかで、楷書の文字も大変美しいです。また、平安時代の優れた書家である藤原佐理や小野道風、藤原行成の「三跡」による書も見ることができます。ちなみに、「三跡」ってなんだっけ?と思った人でも大丈夫です。本展では、ところどころに「ミニ解説」が提示されているので、歴史や日本美術が苦手な方でも安心して楽しめます。有名な《鮭》もあります!特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景「2章人と物語の共演」では、源氏物語や伊勢物語が描かれた屏風や、国宝の《蒙古襲来絵詞》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示〈巻替えあり〉)など見ごたえある作品が登場。日本の四季や貴族たちの華やかな装い、武士たちの甲冑など、当時の人々の様子が絵師たちによって見事に描き出されています。右:高橋由一《鮭》(重要文化財)明治10年頃東京藝術大学蔵通期展示、左:葛飾北斎《西瓜図》江戸時代天保10年宮内庁三の丸尚蔵館蔵(※《西瓜図》は8月28日まで展示。現在は展示されていません)続く「3章生き物わくわく」も見どころ満載。8月30日からはじまっている後期展示では、江戸時代の絵師・伊藤若冲の代表作で国宝の《動植綵絵》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)が10幅同時に展示されています。また、教科書で一度は見たことのある重要文化財《鮭》もこの章にあります。画家の高橋由一は、日本における油絵の基礎をつくった人。それまでの日本画にはなかったリアルで生々しい鮭の描写は、当時の人々を大変驚かせたそうです。高橋由一は、日常にありふれている身近なものを描き、洋画の普及を目指しました。特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景最後の「4章風景に心を寄せる」では、明治期の洋画や工芸品などを展示。1900年のパリ万博に出品するために制作された並河靖之の《七宝四季花鳥図花瓶》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示)など、豊かな自然や風景をテーマにした作品を堪能できます。奈良から昭和時代までの「日本の美」を一気に見られる眼福の展覧会は、9月25日まで開催されています。皇室に受け継がれてきた名品や優品を、ぜひ味わってみてください。Information会期:~9月25日(日)休館日:月曜日(ただし、9月19 日は開館)※会期中、作品の展示替えおよび巻替えがあります会場:東京藝術大学大学美術館開館時間:午前10時~午後5時、9月の金・土曜日は午後7時30分まで開館※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,200、中学生以下無料
2022年09月04日上野の東京都美術館で、企画展『フィン・ユールとデンマークの椅子』が開催中です。本展では、デザイン大国として知られる北欧デンマークのデザイナー、フィン・ユール(1912-89)の作品を中心に、モダンでおしゃれなデンマーク家具を展示。見どころや展示風景とあわせて、アートな椅子に座れる体験コーナーもご紹介します!どんな展覧会?『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景【女子的アートナビ】vol. 256『フィン・ユールとデンマークの椅子』では、「彫刻のような椅子」とも評されるアートな椅子をデザインしたフィン・ユールの作品を中心に、デンマーク家具デザインの歴史やデザインが生み出された背景などを紹介。展示されている作品の多くは、椅子研究者の織田憲嗣氏が研究資料として集めてきた20世紀家具コレクションです。会場の東京都美術館は、数年前にできた休憩スペースにフィン・ユールなどがデザインした家具をとり入れ、「北欧家具に触れられる美術館」としても注目されている場所。本展のように見るだけでなく、最後に座れる体験ができるのも、この美術館ならではの企画です。おしゃれな椅子がずらり…!『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景本展の内容は、3章で構成されています。第1章は、「デンマークの椅子――そのデザインがはぐくまれた背景」。世界幸福度ランキングで毎回上位に入っているデンマークの人々は、「心地よさ」を大切にしたライフスタイルを実践。居心地のよい空間や楽しい時間を意味するデンマーク語の「ヒュッゲ」という言葉も、日本で知られるようになってきています。生活の質を大事にしているデンマークでは、日常で使う家具にも心地よさを求め、人々が使って幸せになれるようなデザインを追求。会場には、見るからに座り心地のよさそうな椅子が展示されています。『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景第1章で特に圧巻なのは、独創的な椅子がずらりと並んだコーナー。デンマークでは、1940年から60年代にかけて優れたデザイナーたちが活躍し、「モダン家具の黄金期」と呼ばれています。「椅子」という同じジャンルなのに、形や材質、色もさまざま。見ているだけでも楽しいです。「彫刻のような椅子」が登場!『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景――第2章「フィン・ユールの世界」では、彼がデザインした椅子とさまざまな仕事が紹介されています。本展の主人公でもあるフィン・ユールとは、どんな人なのでしょう。展覧会監修者の多田羅景太さんは、次のように語っています。多田羅さんフィン・ユールは、建築やインテリアデザインに軸を置いた教育を受けた人です。自分が家で使うための椅子をデザインしたことがきっかけとなり、椅子のデザインを手がけるようになりました。ただ、家具デザインについての専門教育は受けていないため、自身で家具はつくれませんでした。ニールス・ヴォッダーという家具職人と二人三脚で、見て美しいと人間が感じられるような「彫刻的な椅子」を生み出していったのです。――また、第2章の見どころについて、本展を担当された東京都美術館学芸員の小林明子さんは次のように教えてくれました。小林さんフィン・ユールのデザインは、繊細な構造と曲線、有機的フォルムが特徴です。その着想点になったハンス・アルプの彫刻作品も会場に展示しています。椅子と一緒に見て、その響き合いを感じてみてください。アートな椅子に座ろう!『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景最後の第3章「デンマーク・デザインを体験する」では、デザイナーたちが手がけたアートな椅子が30脚以上も展示されています。こちら、実際に座れる椅子ばかりです!1940年代にフィン・ユールが手がけた代表作や「モダン家具の黄金期」の作品などさまざまなタイプの椅子があり、全部座ってみたくなります。『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景小林さんは「椅子は座ってはじめて、デザインや特徴を理解できます。ご自身のカラダを通して実感してください」と仰っていました。実際に、第1章からデンマークのデザインを見てくると、何度も「座ってみたいな…」という衝動に駆られます。その望みが最後でかなうのですから、かなりうれしいです。ぜひ会場で、座り心地の良さも体験してみてください。展覧会は10月9日まで。Information会期:~10月9日(日)※休室日:月曜日、9月20日(火)※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室会場:東京都美術館ギャラリーA・B・C開館時間:9:30~17:30※入室は閉室の30分前まで※夜間開室金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください入館料:一般 ¥1,100、大学・専門学校生 ¥700、65歳以上 ¥800
2022年08月26日町田市立国際版画美術館で、展覧会『長谷川潔 1891-1980展 ― 日常にひそむ神秘 ―』が開催中です。本展では、フランスで創作活動を続けて高い評価を得た銅版画家、長谷川潔(1891-1980)の作品を展示。今回、展覧会を担当された学芸員さんにお話を聞いてきましたので、展示の様子とあわせてご紹介します!フランスで高評価!長谷川潔のスゴすぎる経歴『長谷川潔 1891-1980展』展示風景【女子的アートナビ】vol. 255『長谷川潔 1891-1980展 ― 日常にひそむ神秘 ―』では、パリを拠点に活躍した銅版画家、長谷川潔の最初期の作品から1970年代の銅版画までを年代順に展示。さらに、彼が影響を受けたルドンをはじめ、関連画家の作品もあわせた約165点を見ることができます。長谷川潔画伯、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、実はかなりスゴい方なのです。まずは、輝かしい受賞歴からご紹介します。1918年に日本を離れ、パリを拠点に活動を続けていた長谷川は、1935年、44歳でフランスのレジオン・ドヌール勲章を受章。さらに1966年にはフランスの文化勲章、1967年にはパリ市金賞牌を受賞し、日本からも勲章をもらっています。極めつきは、1972年にフランス国立貨幣賞牌鋳造局が長谷川潔の肖像メダルを発行したこと。日本人画家としては、葛飾北斎と藤田嗣治に続いて3人目という快挙です。そんな長谷川の創作活動や展覧会の見どころについて、本展を企画担当された町田市立国際版画美術館 学芸員の滝沢恭司さんにお話をうかがってきました。学芸員さんにインタビュー!『長谷川潔 1891-1980展』展示風景より『竹取物語』の挿絵本など――まずは、なぜこの展覧会を開催されることになったのか、教えていただけますか。滝沢さん版画美術館には、まとまった長谷川潔のコレクションがあり、120点以上所蔵しています。2019年に開催した長谷川の展覧会でも多くの方にご来場いただき、彼の作品に関心のある方が多くいらっしゃることがわかりました。前回は会期が短めでしたが、今回は9月まで開催しています。長い会期のなかで、長谷川作品にある深遠な世界観をじっくり自分の目で見ていただきたいと思っています。――本展の見どころについて、教えてください。滝沢さん長谷川が手がけた挿絵本『竹取物語』は見どころのひとつです。この美術館では挿絵本を2冊収蔵し、1冊は普通版、もう1冊は特別版になっています。その2冊を使ったボリューム感のある展示になっているので、刷りを比較しながら文字と挿絵の関係などご覧になっていただける機会になっています。『長谷川潔 1891-1980展』展示風景滝沢さんさらに、長谷川が影響を受けた画家や、パリで交友していた画家たちの作品も展示しています。関連作家の版画を並べることにより、長谷川の仕事の周辺から制作の背景を理解しながら鑑賞できます。また、代表的な版画制作の技法である「メゾチント」と「エングレーヴィング」について理解していただけるようコラムで解説し、道具もあわせて展示しました。なぜフランスで高評価?長谷川潔《コップに挿した枯れた野花》1950年、エングレーヴィング、282×228㎜ 町田市立国際版画美術館――長谷川はフランスで勲章をもらうなど、高く評価されています。どんな点が評価されたのですか?滝沢さんとにかく良い作品をつくっていましたし、技法的な観点からも評価されていました。パリで活動するなかで、長谷川は日本人として東洋と西洋を融合させた独自の作品をつくりました。まずは、その点が評価されたのだと思います。もうひとつは、メゾチントやエングレーヴィングという西洋の古典技法を現代の版画表現として復活させたことです。特に、メゾチントは古典的な作品を研究し、道具を手に入れて試行錯誤しながら長谷川独自の作風にすることができました。彼のメゾチントは、現代版画の新しい表現として評価されたのです。長谷川潔《アレキサンドル三世橋とフランスの飛行船》1930年、メゾチント、137×307㎜ 町田市立国際版画美術館――長谷川独自の画風というのは、例えばどんな特徴があるのですか。滝沢さんメゾチントの作品をつくるとき、長谷川は斜めの線できずを入れて下地をつくり、それらの線のマチエール(絵肌の質感)をあえて見せているのです。その点が、西洋の古典的な作品とは違います。そこから、だんだん漆黒の世界に近づき、1960年代の「マニエール・ノワール(黒の技法)」と呼べる表現にたどりつきます。マニエール・ノワールはメゾチントのフランス語の呼び名ですが、長谷川はその呼び名にこだわり、細かな点で下地をつくり、漆黒のなかからモチーフを浮かび上がらせることに成功しました。長谷川潔《時 静物画》1969年、メゾチント、269×360㎜ 町田市立国際版画美術館――マニエール・ノワール作品、すごく深い黒色に魅了されます。滝沢さん長谷川は、深い精神性をもった自分独自の表現を目指していました。自分の欲する表現ができるよう多様な技法を駆使し、彼独自のメゾチントを確立していったのです。黒を際立たせるには、白との関係も大事で、白い部分をどうやって浮き上がらせるかもポイントになります。描画はもちろん、表現も技術も含めてすべての能力が高い方でした。――シンプルな風景画もありますが、神秘的な雰囲気の静物画もあります。作品のテーマも深いのですか。滝沢さんかなり深いです。長谷川は、自然の成り立ちの法則を考え、物理や数学にも興味をもち、さまざまな文献を読み、哲学的な思想のなかで作品を制作していました。黒を使っていますが夜の絵ではなく、白昼のなかにモチーフを置き、その日常のなかに神秘を感じて独特な作風をつくり出していました。また、構図も数学的・物理的な視点で考え、安定感のあるものになっています。長谷川は、まじめで几帳面で、完全主義的なところもあります。すべての作品は、考え抜かれた構図で仕上げられているのです。戦争中は収容所に…長谷川潔《アカリョムの前の草花》1969年、メゾチント 269×360mm 町田市立国際版画美術館――長谷川は、戦前からフランスで評価されていましたが、戦争中は敵国となりました。なぜ、フランスに残り続けたのでしょうか。滝沢さん彼はもともと裕福な家に生まれ、パリ滞在中も仕送りがあったので、戦前までは自分で稼ぐ必要はありませんでした。でも、戦争で仕送りが途絶えたこともあり、帰国したかったようです。ただ、日本に家族を連れて帰るとフランス人の奥さまが敵国人になってしまいます。また、信頼できる専属の刷り師がパリにはいました。そういった事情があってフランスに残り、結局長谷川は在留邦人としてフランスの収容所に収監されました。精神的につらい毎日を送るなかで実感したのが、万物はみな同じだということです。そうした考え方が深まって、60年代のマニエール・ノワール作品にたどりついたのです。それらの作品は、彼自身の人生、生き方、モノの見方を描いている感じがします。――フランスで高く評価されていますが、日本ではまだあまり知られていないような気がします。滝沢さん特に戦後の日本には、ポップアートやコンセプチュアル・アートなど、アメリカを中心とした斬新な美術がどんどん入り、それらが注目されていました。そんな時代のなかで、残念ながら長谷川の版画作品は大きく取り上げられる機会が少なかったのです。また、美術ジャンルのヒエラルキーにおいて、版画は低く見られる傾向にあります。絵画や彫刻、建築が上で、版画は複製もできるし間接的なものなので、評価がされにくいところがあります。でも、ジャンルを超えて良い作品は讃えられ、記憶に残り、作家の没後でも今回のように展覧会が開かれていきます。今のような不安定な時代、深い精神性が感じられる長谷川の作品を見ると、自分や社会を見直す気づきのようなものが得られるのではないかと思います。ぜひ、じっくりご覧いただきたいです。――詳しく教えていただき、ありがとうございました。ゾクゾクします!滝沢さんのお話、いかがでしたか。これまで長谷川画伯について詳しく知らなかった方も、彼の作品について興味が持てるようになったのではないかと思います。筆者は、20年以上前に京都の美術館ではじめて長谷川のマニエール・ノワール作品を見て、深い宇宙のような黒の世界に吸い込まれそうになり、ゾクゾクしました。あのときの衝撃が、今でもずっと残り続けています。今回の展覧会では、かなり多くの長谷川作品を見ることができます。黒と白の版画世界は、地味に見えるかもしれませんが、一つひとつの作品は本当に美しく見ごたえがあります。ぜひ一度、リアルな作品をご覧になってみてください。Information会期:~9月25日(日)※休館日は月曜日*9月19日(月)の祝日は開館、9月20日(火)は休館会場:町田市立国際版画美術館開館時間:10:00~17:30※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください入館料:一般 ¥800、大学・高校生 ¥400、中学生以下無料
2022年08月20日六本木のサントリー美術館で、『歌枕あなたの知らない心の風景』が開催中です。本展では、日本人が繰り返し詠んできた和歌の「歌枕」にフォーカス。和歌が記された美術作品をはじめ、名所絵や器など日本人が伝えてきた美しい文化に出会える展覧会です。どんな展覧会?「歌枕あなたの知らない心の風景」展示風景 ©田山達之【女子的アートナビ】vol. 254『歌枕あなたの知らない心の風景』では、日本美術のさまざまな作品をとおして歌枕の世界を紹介。平安時代の貴重な古筆や江戸時代の屏風絵、陶磁器や茶道具、工芸品など多彩な美術品を見ることができます。そもそも「歌枕」とは、なんでしょう。あまりなじみのない言葉ですよね。辞書を見ると「和歌に詠み込まれる名所や旧跡」と載っています。古くから、日本人は自然の美しさやさまざまな物事について感動したとき、自らの思いを和歌に詠んで表してきました。とりわけ美しい風景に出会うと和歌に詠まずにはいられなかったようで、繰り返し詠まれた土地には特定のイメージが定着。しだいにその土地は日本の名所として知られるようになり、実際にはその場所に行ったことがなくてもイメージを共有できるようになりました。歌枕には千年以上の歴史があり、おもに平安時代に成立したといわれています。歌枕で共有された土地のイメージは、和歌に詠まれるだけでなく絵画や工芸デザインにもなり、時代を超えて伝わっていきました。歌枕の例として、一番わかりやすいのは「吉野」。今も桜の名所である吉野は、桜のイメージと結びつく歌枕です。では、実際に作品を見ながら歌枕が描かれた世界に入ってみます。美しすぎる…!歌枕の絵画たち《吉野龍田図》(右隻)六曲一双江戸時代17世紀根津美術館展示期間:8/3~8/28第一章「歌枕の世界」では、見ごたえのある大きな屛風絵で歌枕のイメージを体感できます。《吉野龍田図》の右隻には画面いっぱいに桜が描かれ、吉野の春を表現。作品のところどころに短冊の絵が見えますが、そこには吉野を詠んだ和歌が書かれています。《吉野龍田図》(左隻)六曲一双江戸時代17世紀根津美術館展示期間:8/3~8/28いっぽう左隻では、秋の龍田川(=紅葉)を表現。この「龍田川」も歌枕のひとつで、和歌でたびたび詠まれている場所です。有名なのは、百人一首の「ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれないに水くぐるとは」(在原業平)。この作品を見るだけで、昔の人は紅葉の名所・龍田川に行った気分になれたようです。ほかにも、歌枕をモチーフにした美術作品が日本にはたくさんあります。例えば、「武蔵野」という歌枕を題材にした作品にはススキが茂る原野に月が沈む様子が描かれ、「宇治」では川にかかる橋や柳・水車など、「住吉」や「因幡山」では松の名所などが描かれます。和歌や歌枕を知っていれば、日本美術をさらに深く楽しむことができそうです。歌枕でバーチャル旅行!?《西行物語絵巻著色本》(部分)三巻のうち中巻室町時代15世紀サントリー美術館全期間展示(ただし場面替えあり)和歌が生活のなかに根づいていた昔の人たちは、実際に旅ができなくても、歌枕によって日本各地の美しい風景を思い浮かべることができました。例えば第四章「旅と歌枕」の展示室にある《西行物語絵巻》では、日本の名所や風景が描かれ、絵巻を見るだけで西行法師の旅を追体験できます。昔の人たちは、歌枕を題材にした名所絵や絵巻で想像をふくらませ、バーチャル旅行を楽しんでいたのかもしれません。おしゃれ!歌枕ファッション「歌枕あなたの知らない心の風景」展示風景©田山達之最後の第五章「暮らしに息づく歌枕」では、歌枕がデザインされた工芸品が勢揃い。家具や調度品、硯箱などの工芸品や、着物、女性の髪を飾る櫛など身につけるものにまで歌枕のモチーフがデザインされています。身の回りに歌枕デザインがある生活、ステキですよね。桜の着物を着て「吉野」を思い浮かべたり、紅葉デザインの皿を使いながら「龍田川」をイメージしたり。昔の人たちは想像力が豊かで、洗練された生活をしていたことがわかります。すごいよ昔の日本人…!《色絵龍田川文向付》尾形乾山六口江戸時代18世紀公益財団法人阪急文化財団逸翁美術館全期間展示「歌枕」のような短い単語だけで美しい景色をイメージできるなんて、考えてみたらすごいこと。「宇治」という言葉だけで「柳や水車」を思い浮かべることができるのですから、歌枕そのものがアートのようです。しかも、平安時代に生まれた歌枕が時代を超えて伝わり、江戸時代の人たちでも歌枕デザインの工芸品を使い、歌枕をモチーフにした浮世絵などを楽しんでいたのです。現代では、和歌や歌枕を身近に感じている人は少なくなり、恥ずかしながら私は「宇治」という文字を見てもカキ氷の宇治金時しかイメージできませんでした……。昔の人たちが残してくれた美しい日本の文化に気づくことができる展覧会、ぜひ夏休みに訪れてみてください。8月28日まで開催しています。Information会期:~8月28日(日)※休館日は火曜日(8月23日は開館)会場:サントリー美術館開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※8月10日(水)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで※開館時間は変更の場合があります※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください入館料:一般 ¥1,500、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
2022年08月09日2023年夏、現代アートをテーマにした国際アートフェア「Tokyo Gendai」が日本ではじめて開かれます。世界各地から一流のアートが集まる注目のイベントですが、そもそもアートフェアとは何でしょうか。誰でも入れるのでしょうか。「Tokyo Gendai」でフェアディレクターを務めるEri Takaneさんに、お話を聞いてきました!アートのプロ、Eri Takaneさんにインタビュー!Eri Takaneさん @ Yusuke Abe【女子的アートナビ】vol. 253Eri Takaneさんは、「Tokyo Gendai」のフェアディレクター。アメリカに約13年間滞在し、世界的なアーティストやコレクターのアートコンサルタントとして活動しながら、Google Arts & Cultureの日本部門を4年間担当。また、Tokyo FMのラジオ番組で司会をされていたこともあり、幅広い分野で活躍されています。――まず、アートフェアとはどういうものか、教えていただけますか?Takaneさん各ギャラリーが小さい展覧会をブース内で行う、という感じで、展示会のアートバージョンです。ギャラリーが個々にテーマを決め、作品を展示して販売します。いわゆる見本市とは違い、個人のお客さまが作品を買える場所です。――これまでもアートフェアは国内で開かれてきたと思いますが、「Tokyo Gendai」の特徴は何ですか?Takaneさんここ数十年間は、国内的なアートフェアを多く開催してきたと思います。今回は日本で初めて世界規模で行われる世界基準のアートフェアとなります。参加するギャラリーのうち、約80パーセントが海外のギャラリーというのは珍しいと思います。「Tokyo Gendai」の開催期間は4日間で、1日目はVIPのご招待日、2日目から4日目まで一般のお客さまをお迎えします。作品を販売するだけでなく、作品と連動してアーティストやキュレーターの方のトークプログラムがあったり、文化施設を回るツアーがあったりして、大きなアートの祭典となります。――Takaneさんは、ディレクターとして具体的にどんなお仕事をされているのですか。Takaneさんインフラを整えています。アートフェアは、販売なども含め、国として大きなイベントをやるということ。もちろん、海外のギャラリーさんを誘致する仕事は優先すべきことですが、それ以外にもトークプログラムでは誰をお招きするか、VIPツアーはどのようにするか、政府や省庁との関係はどうするか、なども大切なことで、そのようなインフラを整えています。――すごく大変そうなお仕事ですね。Takaneさんもともと、前職ではGoogle Arts & Cultureを担当していましたが、それもインフラの整備でした。こうしたほうがいい、とか、これとこれを合わせるとおもしろい、ということを自分で作り出していく感じです。ある意味、自由度があるのでおもしろいですね。アートフェアって楽しいの…?Taipei Dangdai 2019 Courtsey of The Art Assembly――アートフェアは、富裕層がアートを買う場所というイメージがあるのですが、anan読者のような若い女性が行っても楽しめる場所なのですか?Takaneさん楽しいですよ!行かれたことがないと想像できないと思うのですが、世界のトップレベルのギャラリーが一堂に集まり作品が展示されているので、それを見るだけでも本当に圧倒されます。通路にインスタレーションが配置され、ギャラリーさんがつくる各展示ブースもすばらしく、すごく刺激を受けると思います。きっと、会場に入った瞬間に「オーッ」という感じになると思います(笑)。――見るだけの目的で行っても大丈夫でしょうか。Takaneさん見るだけでも大丈夫です。十年後、二十年後に作品を買いたいと思ってくれればうれしいですね。私自身、20代のときは作品を全然買えませんでしたが、ギャラリーやアートフェアに行くのが大好きで、見るだけでワクワクしました。――では、アートフェアに行って、もしも欲しい作品に出会った場合、初心者はどうすればよいですか?Takaneさん一番いいのはギャラリーの方に話を聞いてみることです。プロなので、アーティストのこともよく知っていますし、説明もしてもらえます。ギャラリーの方は、みなさん気さくに話してくれますので、勇気をもって聞いてみてください。それで、本当に納得されたら、それから買うかどうか決められたらいいと思います。――アートの相場はわかりづらく、失敗するのではないかと心配になります。失敗しない買い方はありますか?Takaneさん例えば今回の「Tokyo Gendai」は、申し込んできたギャラリーすべてが出展できるわけではありません。選考委員会があり、基準を超えた国際レベルのギャラリーしか参加できませんので、安心してご購入いただけます。あとは、自分次第。自分が作品をすごく好きになって買ったのであれば、失敗したと思わなければ失敗しません。値段だけを考えてしまうと、もしかしたら後々下がるということがあるかもしれませんが、自分にとって本当に意味のあるものであれば、その人にとってはずっと価値がありますよね。そこがアートのおもしろいところ。一点しかないものですから。――購入したい作品が自分の予算を超えていた場合、値切ることもできるのでしょうか。Takaneさん値段交渉もできますよ。ギャラリーさんも各国の方々の買い方などに慣れていますから、値切るなど値段についてお話しすることも可能です。衝撃を受けたアートは…Taipei Dangdai 2019 Courtsey of The Art Assembly――なぜTakaneさんはアートのお仕事をされるようになったのですか?Takaneさん私は18歳のときニューヨークに渡ったのですが、そのときは英語を話したいなという気持ちぐらいで、大学でも心理学を学んでいました。それまで、自分で絵を描くのは好きでしたが、ギャラリーや美術館の仕事については全然知らない状態でした。アメリカ、特にニューヨークではギャラリーがあちこちにあり、生活のなかにアートが溶け込んでいる感じなのです。それで、単純にギャラリーやアートフェアに行くのが大好きになりました。アートの仕事をするきっかけとしては、ダイチプロジェクトというギャラリーがあり、そこに見に行ったときに衝撃を受けたのです。ギャラリーは作品を売る場所というイメージでしたが、そこにはトラックがひっくり返った作品があり、これは売り物?とすごく驚きました。エンタメの要素がとても強いのです。そんな世界を知り、大学院でアートビジネスも学び、15年ほどアートの仕事をしています。――ジャンルとしては、現代アートがお好きなのですか?Takaneさん昔の作品もリスペクトしています。でも、私は今一緒に生きている作家さんの作品が好きです。アートを見ると、そのときの社会状況、政情がわかります。特に現代アートは、作品に時代が反映されているので、いろいろ考えさせられます。アートはクエスチョンを投げかけるものですが、その答えはありません。自分のなかでストンと納得できればそれでいいし、わからないと思ったままでもいい。そこがおもしろいところですし、それだから夢中になれるのだと思います。アート中毒!?――Takaneさんにとって、アートとはどんな存在ですか?Takaneさん中毒になるもの(笑)。犬はボールを投げたらボールに向かって走り出しますが、それと同じでアートがあるところに向かってしまうし、行かずにはいられないのです(笑)。中毒性がありますね。――なぜ、そこまで夢中になれるのですか?Takaneさんアートは、わからないから駆り立てられるのです。ゴールがないのです。次から次へと新しいアーティストが出てくるし、次々とおもしろいギャラリーが出てきて、アートを通して出会う人たちもさまざまな方がいらっしゃいます。コレクターさん、アーティストさん、政府や美術館の方々などともお会いでき、とてもおもしろい世界です。――今回お話をうかがい、私もアートフェアに行ってみたくなりました。Takaneさんアートフェアは本当に楽しい場所ですし、「Tokyo Gendai」は世界規模のギャラリーの展示を日本でまとめて見られるまたとない機会です。私が20代のときにアートを見て感じたワクワクを、若い方々にも体験していただきたいですね。――興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました!インタビューを終えて…10代で単身アメリカに渡り、Googleや国際交流基金でもお仕事をされていたというTakaneさん。すごいご経歴の方ですが、笑顔がとてもステキなフレンドリーな女性で、大好きなアートのお話をされるときは目がキラキラと輝いていました。「Tokyo Gendai」の開催は、約一年後。これから情報がどんどんアップされていくと思いますので、ぜひ公式サイトをチェックしてみてくださいね。Information日時:2023年7月7日(金)~7月9日(日)*7月6日(木)はVIPプレビュー会場:横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)〒220-0012神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1主催:The Art Assembly(ジ・アート・アセンブリー)
2022年08月04日東京・竹橋にある東京国立近代美術館で『ゲルハルト・リヒター展』が開かれています。ゲルハルト・リヒター(1932~)はドイツ出身のアーティスト。世界で高く評価され、オークションでも作品が高額で取り引きされている現代アートの巨匠です。リヒター作品はなぜ人気があり、何がスゴいのでしょう?プレス内見会で取材してきました。どんな展覧会?© Gerhard Richter 2022 (07062022)【女子的アートナビ】vol. 252『ゲルハルト・リヒター展』では、2022年に90歳を迎えたアーティスト、ゲルハルト・リヒターの初期作から最新のドローイングまでの作品122点を展示。60年にわたる画業のなかで手がけた油彩画や写真、ドローイング、ガラスや鏡などを用いた作品などが一堂に集まっています。本展の注目ポイントは、作家本人にとって大切な作品が揃っている点です。リヒター自身が手放さず、手元に残してきた本人所蔵の作品と、ゲルハルト・リヒター財団コレクションを中心に、かなり見ごたえある作品が展示されています。また、会場構成についても作家本人の希望を反映。リヒターにとって大事な作品を、本人の希望するスタイルで展示した、なんとも贅沢な展覧会です。スゴい経歴リヒターは、ドイツ東部のドレスデン生まれ。芸術系の大学を出たあと壁画制作などを手がけていましたが、1961年、ベルリンの壁ができる直前に西ドイツへ移住。東独でのキャリアを捨て、デュッセルドルフ芸術アカデミーで再び学びはじめます。1964年には初個展を開催。さらに、1971年にはデュッセルドルフ芸術アカデミーの教授に就任し、その後はパリやアメリカなどの名だたる美術館で個展を開催していきます。1997年にはヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞。その後も数々の賞をとり、紹介しきれないほどの実績があります。スゴい値段経歴もスゴいですが、作品のお値段も飛びぬけています。2012年に開かれたオークションでは、存命作家の最高落札額(当時/2132万ポンド=約27億円)を更新。近年でも、さまざまなオークションで30億、40億など高額の落札額が報道され、世界のアート界で常に注目を集めています。スゴい作品――経歴も作品価値もスゴいことがわかりました。でも、リヒターの作品は、抽象的な絵もあれば具象的な絵もあって、作品としてどこがスゴいのか、素人にはわかりづらい作家です。東京国立近代美術館・主任研究員の桝田倫広さんは、リヒター作品について次のように説明しています。桝田さんリヒターはどうスゴいのか、わかりやすく言ってください、という質問を何度かいただきます。いつも、このような問いにどうしようかと困るのです。一言では言い表せない多様な問題を含んでいることこそ、彼の作品の特徴と言えるからです。――実際、リヒターについての本や論文なども数多くあり、本展の図録にもさまざまな解説が載っています。リヒター作品は、“一言で説明できないほどスゴい”ことがわかります。必見!“最後の絵画”では、ここからは作品について見てみます。リヒター作品には、いくつかジャンルがあります。例えば、「フォト・ペインティング」は、新聞や雑誌に載った写真などを正確にうつしとるように描いたシリーズ。「グレイ・ペインティング」は、灰色の絵具でキャンバスを塗り込めるシリーズ。このグレイのシリーズからつながってできたのが「アブストラクト・ペインティング」(抽象絵画)シリーズです。リヒターは、自作の大きなヘラをつかってキャンバス上で絵具を引きずるようにのばしたり削ったりしながら、独自の「アブストラクト・ペインティング」を生み出しました。この抽象絵画シリーズで、今回もっとも注目されているのが、2017年に制作された作品《アブストラクト・ペインティング》。本記事一枚目の画像です。本作は、作家本人が「これを最後にもう絵画は描かない」と宣言したメモリアル的な作品。ぜひ、じっくりご覧になってみてください。ガラス作品はどう見る?――リヒター作品のなかで、「ガラスと鏡」をつかったシリーズがあります。このような作品は、単にガラスを見ればいいのか、ガラスに映っている自分の姿を見るものなのか、ちょっと迷うかもしれません。桝田研究員は、次のように解説しています。桝田さんリヒター作品の根本的な原理は、「見るとはどういうことか。イメージが表れるとはどういうことか。それらの条件自体を問うもの」と言えます。そのことが端的に表れているのが、ガラスや鏡の作品です。この作品の前に立つと、ガラス越しに壁が見え、自分たちの姿も、ガラスそのものも見えます。ガラスに映し出されたものに何を見いだすかは、私たちが“見る”ということの複雑な営み次第。その営みは、私たちの経験や慣習、何を見たいと欲しているか、によって大きく左右されます。――ガラス作品の鑑賞方法、かなり奥が深いですね。ぼんやり見ているとただのガラスですが、「何を見たいと欲しているか」と考えると、とたんにハードルが上がります。ぜひ、ガラスや鏡の作品の前で、いろいろ感じてみてください。アウシュヴィッツの写真をもとに制作…本展で最大の見どころは、2014年に制作された《ビルケナウ》という4点組の絵画です。一見すると、シンプルな抽象絵画ですが、この絵の下層にはアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で隠し撮りされた4枚の残酷な記録写真(死体などが写っています)のイメージが描かれています。しかも、その写真は絵画のすぐ隣に展示されているのです。鑑賞者は、絵画の下に隠された残酷なイメージを想像しながら、リヒターの作品と向き合うことになります。この作品の前に立つと、桝田研究員が教えてくれた「見るとはどういうことか。自分は何を見たいと欲しているのか」という問いを突き付けられる気がします。二度とないかも!何が描いてあるのかわからない抽象絵画や、ただガラスだけが並んでいるようなリヒターの作品は、ぼんやり見ていると「わからない・つまらない・難しい」と感じてしまうかもしれません。ただ、リヒター本人も、「優れた絵画は理解できない」と述べているので、理解できなくてもいいようです。「見るとはどういうことか」と思いながら作品と向き合ってみる。それだけで、自分のなかに何かが残るような気がします。これほど充実したリヒターの大規模展覧会を日本で見られる機会は、もう二度とないかもしれません。かけがえのない鑑賞体験を、ぜひ美術館で味わってみてください。Information会期:~10月2日(日)※休館日は月曜日(ただし9月19日は開館)、9月20日(火)会場:東京国立近代美術館1F企画展ギャラリー開館時間:10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)*入館は閉館30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会特設サイトをご覧ください。お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
2022年07月31日上野の国立西洋美術館で、リニューアルオープン記念となる展覧会『自然と人のダイアローグフリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』が開催中です。本展では、自然と向き合った芸術家たちのさまざまな作品を展示。プレス内覧会で取材したおもな見どころや展示風景をご紹介します!どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 251『自然と人のダイアローグ』では、ドイツ・ルール地方の都市エッセンにあるフォルクヴァング美術館と国立西洋美術館のコレクションから、印象派とポスト印象派を軸にした作品100点超を展示。ドイツロマン主義の画家フリードリヒをはじめ、モネ、セザンヌ、ゴッホや20世紀絵画、そして現代ドイツを代表する画家リヒターの作品まで見ることができます。二人のコレクターが受けた苦難…フォルクヴァング美術館と国立西洋美術館は、いくつか共通点があります。まずは、設立者の熱い思い。両美術館とも、同時代を生きたコレクターのカール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)と松方幸次郎(1866-1950)の個人コレクションをもとに設立されました。オストハウスは、地元の人々に美を提供するため美術館を建設したいと願い、松方も日本の画学生たちに本物の西洋画を見せてあげたいという熱い思いから作品を収集していました。また、第二次世界大戦により苦難を受けた点も似ています。フォルクヴァング美術館は、ナチス政権時代、「退廃芸術キャンペーン」により1,400点以上の近代美術作品が押収されました。いっぽう、松方のコレクションも戦争末期、フランス政府に多くの作品を接収され、1951年にそれらはフランスの国有財産となってしまいました。しかしその後、フランス政府は多くの作品を日本に返還することを決定。寄贈返還された松方コレクションを基礎に誕生したのが、国立西洋美術館です。1959年に完成した国立西洋美術館・本館の建物はル・コルビュジエの設計によるもので、2016年には国立西洋美術館を含む「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献 ―」が世界文化遺産に登録されました。リヒターとモネ、夢のコラボでは、本展の見どころ作品をいくつかご紹介します。まずは、現代ドイツを代表するアーティスト、ゲルハルト・リヒターの《雲》と、印象派の巨匠クロード・モネ《舟遊び》のコラボ。リヒターの作品は写真をもとに描いたもので、一見するとリアルなのですが、じっと見つめていると写真とは違う独特の空気が漂っているように感じられます。一緒に展示されているモネの絵にも空が描かれていますが、こちらは水面に反射した空と雲です。同じ空でも、画家によって表現の仕方はさまざま。この二人の作品を隣り合わせで見られる機会はほとんどないと思いますので、かなり貴重な鑑賞体験ができます。ゴッホ初来日の代表作も!本展では、ゴッホが最晩年に取り組んだ風景画の代表作、《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》が初来日。こちらは、展覧会のメインビジュアルにもなっている注目作品です。ゴッホは、麦を刈る人物に「死」を、刈り取られる麦のなかに「人間」のイメージを見たといわれています。本作品が描かれたのは、1889年。当時サン=レミの精神療養院に入院していたゴッホは、その翌年の1890年に麦畑で自分の腹をピストルで撃ち、亡くなりました。リニューアルした美術館にも注目!本展で美術館を訪れたら、ぜひリニューアルした国立西洋美術館もご覧ください。同館は1年半の休館中に、創建した当時の姿に近づける工事を行っていました。前庭にある目地や西門の位置、囲障など、デザイン上も大きな意味をもつ部分が変化しています。世界遺産の美術館に足を運んで、ぜひ巨匠たちの名画を楽しんでみてください。Information会期:~9月11日(日)※休館日は毎週月曜日 (ただし、8月15日(月)は開館)会場:国立西洋美術館開館時間:9:30〜17:30毎週金・土曜日:9:30〜20:00※入館は閉館の30分前まで※日時指定制※最新情報などの詳細は展覧会特設サイトをご覧ください。お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
2022年07月24日『不思議の国のアリス』にまつわるアートや映画、ファッションなど多彩なカルチャーを紹介する展覧会『特別展アリスーへんてこりん、へんてこりんな世界ー』のサポーターに、女優の上戸彩さんが就任。今回、音声ガイドに初挑戦した上戸さんに、展覧会やアリスの魅力について、お話を聞いてきました!上戸さんが音声ガイドに初挑戦!【女子的アートナビ】vol. 2497月16日から六本木ヒルズで開催される『特別展アリス』では、アートや音楽、映画、ファッションなどのさまざまなジャンルで表現されてきた児童文学『不思議の国のアリス』の魅力を紹介。英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)と海外所蔵作品を中心に構成され、ジョン・テニエルの挿絵や、アリスに影響を受けた草間彌生など芸術家たちの作品、映画作品、舞台衣装など、約300点の作品と資料が展示されます。本展は、英国を皮切りに世界を巡回している展覧会。日本オリジナルの展示も加わり、アリスの世界観に没入できる楽しい演出がほどこされています。今回、展覧会の音声ガイドを担当した上戸彩さんにインタビューを実施。展覧会の魅力やアリスについて、語っていただきました。上戸さんにインタビュー!――まず、展覧会の音声ガイドを担当されてみていかがでしたか。上戸さん音声ガイドは、前からやってみたいと思っていたお仕事のひとつでしたので、今回お話をいただいたときに「やるやる!」という感じでした。収録してみて、アリスの役になれるところがあったり、クイズ形式になっているところもあったりして、音声ガイドはこういう感じなんだ、という新たな発見もありました。自分でもいろいろな展覧会をまわって、音声ガイドを聴いてみたいなと思いました。――楽しみにしている作品などありましたら、教えてください。上戸さん一番見てみたいと思った作品は、「ドードーの複合骨格」です。あとファッション関連では、ヴィヴィアン・ウエストウッドの衣裳も見てみたいですし、英国ロイヤル・バレエ団の公演に関する作品も見てみたいと思いました。――どんな展覧会になると思いますか。上戸さん絶対に飽きさせない展覧会になると思います。絵画や音楽など専門の展覧会もありますが、この展覧会に関しては、アリスの原作にインスパイアされた人たちがつくったさまざまなものが展示されています。本の原画ももちろんありますし、いろいろなものを一気に楽しめます。物語に出てくる「お茶会」シーンもプロジェクションマッピングで表現されるみたいなので、それもそそられますね。アリスは、いつの間にか周りにある――絵本や映画などさまざまな「アリス」がありますが、上戸さんはいつごろアリスに出会ったか覚えていますか?上戸さんいつの間にか出会っていました(笑)。小学校のときに見て、すごく衝撃的で……というのではなく、いつの間にか自分も見ていて、いつの間にか周りの友だちもみんなが好きで、いつの間にか誰かがアリスのブーツをはいたりコスプレをしたりしていました。今回、このお仕事をいただいて気づいたのですが、私もアリスがデザインされている服を持っていましたし、娘もアリスの衣裳を持っていました。また、家にはアリスの本が何冊もあって、日本語や英語版の仕掛け絵本も置いてあったり、子どもが遊ぶおもちゃにハンプティダンプティの音楽が入っていたり、いつの間にか自然に周りにある感じなのです。いろいろなところにアリスが影響を与えている、というのが自分の家でもわかりました。娘さんからの評価が…――ご家庭では、お子さんも一緒にアリスの物語を楽しまれているのですね。上戸さん今回改めて、娘と一緒にアリスの作品をいろいろ見てみました。アニメーションになっている物語と、映画の『アリス・イン・ワンダーランド』を見比べて、さまざまなシーンや違いにも気づきました。娘は私以上にキャラクターや役名のことなども気づくので、逆にいろいろと教えてもらいました。――絵本の読み聞かせなどもされるのですか?上戸さん娘は本が好きなので、今では勝手に自分で本を読んでいます。毎日、教科書の音読もしてくれるので、この前は逆に「ママが読むから、〇(マル)をつけてね」と娘に言って、けっこう本気で読んでみました。でも、娘からは「表現力は、表情も」との評価をいただきまして、「私の本職が……」と思いました(笑)。「スラスラ読めている」という部分はマルをいただきましたけど、まだまだだな、と(笑)。ウサギ穴に落ちてみたい…――アリスの物語で好きな場面はありますか?上戸さんアリスがジュースを飲んだら小さくなり、ケーキを食べたら大きくなる、という場面は好きですし、やってみたいですね。あとは、ウサギを追いかけていく場面に出てくる「ウサギ穴」にも落ちてみたいです(笑)。――アリスの中で、お嬢さんや上戸さんはどんなキャラクターがお気に入りですか?上戸さん娘はイモムシが好きです。もともと虫も好きなので、チョウになっていくその変化とかも好きみたいです。私のときは、チェシャ猫が人気でしたね。私たちの世代は、みんなグッズを持っていました。あとは、映画の『アリス・イン・ワンダーランド』では、やはりマッドハッターが好きですね。没入できます!――最後に、展覧会を楽しみにしているみなさんに、メッセージをお願いいたします。上戸さん私は、美術展や展覧会にあまり足を運ぶタイプではなかったのですが、今回音声ガイドのお仕事をいただいて、新たな展覧会の見方を知ることができ、身近なものに感じました。アリスは、子どもから大人まで、いろいろな方に影響を与えて、しかも著名な方の心や才能を動かしている作品だと思うので、展覧会もいろいろな方に見ていただきたいです。音声ガイドも、展覧会に没入できるような内容になっているので、私も音声を入れていて楽しかったです。堅苦しくなくカジュアルな感じで、アリスの世界に入りやすいと思いますので、ぜひ音声ガイドも購入してください!――ありがとうございました!インタビューを終えて…ユーモアを交えながら楽しいお話をしてくださった上戸さん。インタビュー中も撮影中も、キュートな笑顔などさまざまな表情を見せてくれましたが、お子さんの話をされているときの優しいママのお顔が印象的でした。上戸さんのガイドを聴きながら、ぜひアリスの世界に没入してみてくださいね。Information特別展アリス― へんてこりん、へんてこりんな世界会期:7月16日(土)~10月10日(月・祝)※会期中無休会場:森アーツセンターギャラリー[六本木ヒルズ森タワー52F]開館時間:10:00~20:00(月・火・水曜は18:00まで)※7/18、9/19、10/10は20:00まで※最終入館は閉館30分前まで※会期・開館時間は変更の可能性があります。※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください。お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)撮影 : 北尾渉
2022年07月13日写真家、映画監督として活躍されている蜷川実花さんの個展が東京都庭園美術館で開かれています。開幕に先立ち開かれたプレス内覧会には、蜷川さんも出席。作家のコメントとあわせて、展覧会の様子をご紹介します。企画展『蜷川実花瞬く光の庭』【女子的アートナビ】vol. 250この展覧会では、幅広い分野で世界的に活躍しているアーティスト、蜷川実花さんの写真と映像を展示。コロナ禍の日本各地で、2021年から1年半かけて撮影された植物の写真と映像約80点が紹介されています。蜷川さんは、これまで木村伊兵衛写真賞をはじめ数々の賞を受賞。日本や台湾、上海など各地で展覧会を開催し、高い評価を得ています。また、映画監督としても多くの作品を手がけ、最新監督作『ホリックxxxHOLiC』も今年4月に公開されました。4万回も心が動いた…蜷川実花さんプレス内覧会に出席された蜷川さんは、「大好きな美術館で個展ができてうれしい」と笑顔でコメント。さらに、次のように述べました。蜷川さんこの1年半で4万枚の写真を撮りました。特に桜の時期は、何かに取りつかれたかのように撮り続けていました。やはりコロナ禍で社会が揺れて、自分自身も不安定だったのかと思うのですが、自分を保つために写真を撮影した1年半でした。花の写真に限らずですが、どれも必ず心が動いた瞬間にシャッターを押そうと決めています。そう考えると、4万回も心が動いたのかな(笑)。撮る、という行為を通して自分自身の感覚がすごく研ぎ澄まされた状態になっていきました。深く思考するというより、感覚だけが伸びて“感覚オバケ”みたいになっていた感じです。いろいろなきらめきや、こうであってほしいと願う未来。でも、それがあまりにはかなくて、あっという間に消えてしまいそうで、それをどうつなぎとめたらいいのかという想いや、いろいろな希望、願いをこめながら撮った4万枚のなかの80枚が今回展示されています。光あふれる希望の写真ーー本展を担当した東京都庭園美術館・学芸員の田村麗恵さんによると、アール・デコ様式で装飾された同館の特徴や持ち味に新しい可能性を開いてくださることを期待して、蜷川さんにこの企画展をオファーされたそうです。では、ここからは本展の特徴や見どころについて、田村さんの解説をご紹介します。田村さん今回の展示では、蜷川さんが当館の建築と室内装飾を活かす形にしてくださりました。特に、南側の多くの部屋では、窓と窓からの庭園の眺めが借景となっています。窓というフレームの中に植物の写真を置き、光の中で光にあふれた写真を見ていただくという重層的な試みが、本展の見どころです。田村さんまた、本展のために、当館で蜷川さんに撮影していただいた写真は、本館2階の「妃殿下居間」に展示されています。今年1月の大雪の日に撮影されたマツの写真で、窓の外には被写体となったマツもあり、一緒にご覧いただけます。田村さん今回展示されている最新作は光に満ちあふれ、極彩色で知られている今までの蜷川さんの作品と異なる新たな世界観が展開されています。光は希望の象徴でもあります。「光彩色」でいろどられ希望にあふれた作品世界と、繊細かつダイナミックで没入感の高い映像インスタレーションは、蜷川さんの今とこれからを示す新機軸です。この展覧会は、新しい蜷川さんの作品世界を存分に楽しめます。ぜひ来て体感して!蜷川さんと田村さんの解説、いかがでしたか。また、蜷川さんは最後に「今はいろいろな情報がネットで見られますけど、この展覧会に関しては実際にこのお屋敷の中で写真を見て、映像を体感していただきたいです」と仰っていました。本当に、美しい装飾のある美術館の空間で、窓からの光を感じながら作品を見るという体験は格別なものです。ぜひ実際に足を運んで、光あふれる作品を体感してみてくださいね。Information会期:6月25日(土)~9月4日(日)※休館日は毎週月曜日、ただし7月18日(月・祝)は開館、7月19日(火)は休館会場:東京都庭園美術館(本館+新館)開館時間:10:00~18:00※最終入館は閉館30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会特設サイトをご覧ください。お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
2022年07月10日ドイツのルートヴィヒ美術館が所蔵するコレクションを紹介する展覧会『ルートヴィヒ美術館展』の音声ガイドに、モデルやコメンテーターとしても活躍されているトラウデン直美さんが初挑戦。今回、収録を終えたトラウデンさんに展覧会やアートについて、お話を聞いてきました!トラウデンさんが音声ガイドに初挑戦!【女子的アートナビ】vol. 248『ルートヴィヒ美術館展20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション』では、ドイツのケルン市が運営するルートヴィヒ美術館が所蔵する優れた作品を展示。20世紀初頭から現代までの油彩画や彫刻、立体作品、映像、写真など全152点が出品されます。ルートヴィヒ美術館が開館したのは1986年。同館は、ドイツの市民コレクターたちによる寄贈を軸にしながら、コレクションを増やしていきました。本展では、カンディンスキーやウォーホル、ピカソ、リキテンスタインなど、美術館が所蔵する代表的な作品を楽しめるだけでなく、市民コレクターたちの活動も紹介。ドイツにおける美術と社会の強いつながりも知ることができます。今回、展覧会の音声ガイドを担当したトラウデン直美さんにインタビューを実施。楽しみにしている作品やアートの魅力などについて、語っていただきました。トラウデン直美さんにインタビュー!――まず、今回の音声ガイドを担当されて、いかがでしたか。トラウデンさんこういった音声ガイドのお仕事は初めてでしたので、そもそもどういう風に読んだらいいのかな、と家でもイメージをふくらませていました。絵を見ている方の邪魔にならないように、変に意識をとられすぎないようにと心がけました。――どんな展覧会になりそうですか。楽しみにしている作品などありましたら、教えてください。トラウデンさん有名なピカソとか、みんなが知っているアーティストによる目玉作品も楽しみですけど、近現代の作品もけっこうあります。それらは見てわかる、というものではなくて、「これはなんだ?」という不思議な感覚になる作品が多くありそうで、そちらも楽しみです。特に、音声ガイドのなかでご紹介した《天使の5つの翼》(ハインツ・マック作)という作品は、直接見ないとわからないだろうなと思いました。写真で見るのではなく、本物のほうが感じるものがありそうです。この作品だけでなく、すべて本物を見られるのを楽しみにしています。絶対「なんか好きかも」作品があります!――特に現代アートは、わかりづらい作品もあり、難しそうなイメージをもつ人もいるかもしれません。ananの読者はトラウデンさんと同世代の方々が多いのですが、今回の展覧会、若い人たちにも刺さる内容だと思いますか?トラウデンさん思います!私も、まったくアートは詳しくはないのですが、ただ、「なんか好きかも」みたいな感覚って、ありますよね。特に、今の若い人たちは、その感覚を大事にされている方が多いと感じているので、絶対にこの展覧会のなかにひとつは「なんか好きかも」作品があると思います。あと、抽象的な作品であればあるほど、説明のつかない「なんか好きかも」があると思います。私みたいな素人でも、感覚で楽しめる作品がすごく多そうだな、というのを展覧会の資料を見せていただいて感じました。まだ、実物は見ていないのですけど、私が「なんか好きかも」と感じたのは、緑の正方形を描いたアルバースの作品《正方形へのオマージュ:緑の香》。緑色が好きなんです。今日のスカートも緑(笑)。未来の人に見てほしい…――ルートヴィヒ美術館には、文化・芸術を次世代に継承したいと願うドイツの市民コレクターが寄贈した作品が多いと聞きました。トラウデンさんも、「日本の伝統工芸シリーズ」という番組をYouTubeで発信されていますが、やはり、文化を未来に残したいというお考えもあるのでしょうか。トラウデンさん私は、自分で何か(芸術)作品をつくっているわけではないので、そんな高尚な番組ではないのですが、私自身、日本の伝統工芸を「すごくステキだな、美しいな、きれいだな」といつも思って見ています。それをぜひ、未来の人にも見てほしいな、という気持ちはあります。自分が好きだからこそ、未来の人にも「美しいな、いいな」と思ってほしい。たぶん、(市民コレクターのような)みなさんも、好きだったものを残したいという気持ちがあり、アートには価値があるということを未来の人に伝えたかったのだと思います。それで作品が残されてきて、今、私たちの目の前に届いている。このことは、うまく言葉には表せないですが、すごく感慨深いです。――ちなみに、トラウデンさんがコレクションしているもの、したいものはありますか?トラウデンさんコレクションしたいのは、お皿です。ご飯がとにかく好きで、食べるのもつくるのも好き(笑)。お皿は重要だと思うので、いいお皿があれば集めています。最近、祖母が家のリフォームをするため整理をしていて、そのときにステキなお皿や小鉢が出てきたので、もらったりしています。お皿も受け継いでいけるものですし、長く使えたりしますよね。そんな魅力があるので、お皿を集めたいです。壁や境界がないのがアートの魅力――トラウデンさんが思う芸術・アートの魅力を教えていただけますか?トラウデンさん素人目線で私なりの考えですが、「自由さと思い」なのかな、と。アートは、「禁止」がない。自分が感じていることを、アーティストの方がつくっていきます。それがいろいろな時代を経ていくので、第一次世界大戦や第二次世界大戦を経験しているアーティストの作品があり、ピカソも戦争に対する疑問を描いていたりします。そういうことができる場所がアートなんだなと思います。思想警察がいて、捕まってしまうような時代背景のなかでも、伝えていける手段がアート。それに心を動かされる人たちがいるし、守りたいと思う人たちがいる。その部分では、アートは自由であるべき場所。それと同時に「思い」について。アートは、言葉にしてはいけない空気のなかでも「思い」を伝えられるもの。逆に、言葉にできないものを「思い」として表現して伝えていけるし、言語も越える。その意味では、生きている人たちに共通の言語がアートなのかなと思います。全然違う文化で育っている人たちがアートを見ると、つくっている人たちの「思い」とは違う見方をするかもしれません。でも、それも肯定してくれる寛容さがあり、壁や境界がないのがアートの魅力、と素人ながら感じています。――最後に、展覧会を楽しみにしている読者の方にメッセージをお願いします。トラウデンさん目にうれしい、いろいろな作品があります。カラフルだったり、写真があったり、飽きない展覧会になりそうです。もちろん玄人の方は、玄人目線で楽しめると思いますし、私のような素人でも楽しく見られるだろうなと感じました。ぜひ音声ガイドを聴いて、市民コレクターの方の思いも感じていただけたら、よりいっそう楽しく見られると思います。ご自身の「なんか好き」を見つけて帰ってください。――ありがとうございました!インタビューを終えて…インタビュー中も撮影中も、にこやかでかわいらしい雰囲気だったトラウデンさん。アートについては素人と仰っていましたが、その魅力について語る言葉は奥が深く、いろいろ考えさせられました。トラウデンさんが思いをこめて語られた音声ガイドを聴きながら、ぜひ展覧会でご自身の好きな作品を見つけてみてください。『ルートヴィヒ美術館展』は6月29日より東京・六本木の国立新美術館でスタート。その後、京都に巡回します。Information会期:6月29日(水)~9月26日(月)※毎週火曜日休館会場:国立新美術館 企画展示室2E開館時間:10:00~18:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで観覧料:一般¥2,000、大学生¥1,200、高校生¥800お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください。撮影 : 安田光優
2022年06月26日東京・文京区にある永青文庫で『仙厓ワールド』が開催中です。本展では、ユーモアあふれる書画を多く手がけた禅僧、仙厓義梵(せんがいぎぼん:1750~1837)の作品などを展示。ゆるくてカワイイ禅画の世界をご紹介します!笑ってOKな展覧会!【女子的アートナビ】vol. 247『仙厓ワールド ―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―』では、江戸時代後期に活躍した禅僧、仙厓義梵が手がけた初期から晩年までの選りすぐりの作品を中心に、仙厓の兄弟子などの禅画もあわせて展示。禅画はちょっと難しそうに思えますが、ゆるくてカワイイ仙厓さんの作品を見れば、そのイメージが変わるはず。禅画に親しみがもてるよう、会場内に禅画解説コーナーもあるので、はじめての人でも楽しく見られます。タイトルにもあるとおり、作品を見て笑ってもOKな展覧会です。なお、本展は2016年に開かれた『仙厓ワールド』展の第2弾。大好評だった仙厓コレクションが6年ぶりに再び公開されます。仙厓さんって?仙厓は美濃国(現在の岐阜県)生まれ。11歳のころ得度し、修業を積んでから諸国を行脚。40歳のときに福岡・聖福寺の住職となりました。62歳で住職を引退してから本格的に書画をはじめ、作品の依頼が絶えないほど人気となりました。88歳で亡くなるまで、多くの作品を制作しています。お殿さまのコレクション!仙厓作品を収集したのは、細川家16代当主の細川護立(ほそかもりたつ:1883~1970)。永青文庫の設立者です。護立は、さまざまな禅宗美術を集め、仙厓コレクションは100点以上も収集。ほかにも、江戸時代中期の禅僧・白隠慧鶴(はくいんえかく:1685~1768)や、仙厓の兄弟子にあたる誠拙周樗(せいせつしゅうちょ:1745~1820)などの禅画も集めました。ちなみに、同文庫の所在地は文京区目白の高台にある細川家の屋敷跡。緑に囲まれたステキな空間で、お殿さまのコレクションを楽しめます。カワイイ猫…?では、作品をいくつかピックアップしてご紹介します。まずは、大人気の《虎図》。仙厓は、この絵を前にした人に「猫か虎か当ててごらん」と問いかけています。日本では古くから虎の絵が多く描かれてきましたが、実際に本物の虎を見た絵師は少なく、猫などを参考にしていました。仙厓もまた同じだったそうで、作者の遊び心が感じられる作品です。《龍虎図》も人気作のひとつ。一般的な龍虎図は、虎が龍を迎え撃つ様子を迫力あるタッチで描かれることが多いのですが、この作品の虎はユルさが漂っています。虎も龍も表情がかわいくて、見ていて心和む作品です。人物を描いたものもユニークです。《臨済図》では、こぶしを突き上げて怒った男性が登場。この方は、臨済宗の祖、臨済義玄。有名な故事を題材にした作品ですが、コミカルな雰囲気で親しみがもてます。多少難しいテーマもありますが、どの作品にもわかりやすい解説がついています。禅画初心者の方におすすめしたい、楽しい展覧会です。人気投票もやっています!会場では、作品に登場するキャラクターたちの人気投票も開催中。自分が気に入った推しキャラの投票パネルに、赤いシールを貼ることができます。「禅画キャラBest10」のなかに、つぶらな瞳がかわいいワンちゃんを発見!この作品は、後期展示で見られます。前期だけで消えてしまうキャラもいるので、できれば前期と後期の2回は訪れたいですね。会期は7月18日まで。Information会期:~7月18日(月・祝)※月曜休館(ただし7/18 は開館) 、6/21(火)前期:5月21日(土)~6月19日(日)後期:6月22日(水)~7月18日(月・祝)※前・後期で大幅な展示替があります会場:永青文庫開室時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)観覧料:一般¥1,000、大学生・高校生¥500、シニア70歳以上¥800※中学生以下、障害者手帳をご提示の方及びその介助者(1名)は無料※最新情報は展覧会公式サイトでご確認ください
2022年06月17日国内外で注目を集めるアーティスト、長場雄さんの個展『Pink Nude』が6月10日から東京・代官山ではじまります。新たな作品集の刊行に合わせて開催される本個展では、新作も登場!展示作品や人気のグッズもご紹介します!注目の個展『Pink Nude』開催!【女子的アートナビ】vol. 246今回の個展『Pink Nude』は、6月10日に刊行される長場さんの最新作品集『Express More with Less』に合わせて開催。会場では、作品集に載っているキャンバス作品を中心に展示されます。また、長場さんが初めて手がけたオイルペインティングによる新作も登場。アーティストの新たな世界観にも触れられます。個展の会場は、代官山駅徒歩3分の場所にあるLurf MUSEUM(ルーフ ミュージアム)。今回新しくオープンするアートスペースで、デンマークのヴィンテージ家具を揃えたカフェスペースも併設。ハンドドリップのコーヒーが提供され、長場さんのアートを見ながらゆったりとした時間を過ごせます。作品集にも注目!新刊の作品集に掲載されているのは、過去に開かれた2つの個展で展示された作品です。ひとつは、2019年に開かれた「Express More with Less」。作品の支持体を紙からキャンバスに変更するきっかけとなった注目の個展で、作品集のタイトルにもなっています。もうひとつは、2020年の個展「The Last Supper」。長場さんが影響を受けたミュージシャンや映画のシーンを描いた作品のほか、4メートルの巨大作品なども展示されました。長場さんの代表作や、人気のポートレートシリーズなど、多彩な作品が掲載された作品集『Express More with Less』。本書に載っている貴重な原画を、今回の個展でたっぷり楽しめます。アパレルコラボやメディアでも活躍!長場雄さんは1976年生まれ。東京の美術大学を卒業後、アーティストとして活動。国内外の名だたるブランドとのコラボレーションや、雑誌『POPEYE』、『anan』などにも作品を提供しており、『anan』では鈴木亮平さんの連載でお馴染み。さらには駅に作品を設置するなど、多方面で活躍されています。ミニマルでシンプルな線で描かれた長場さんの作品は、日本だけでなく世界でも人気。香港や台湾でも個展が開かれたほか、中国のアートフェアにも参加され、国内外で注目を集めています。売り切れる前に!長場さんの個展で毎回楽しみなのが、グッズの数々。男女問わず人気なTシャツやトートバッグをはじめ、マグカップやグラス、帽子なども販売されます。限定グッズもあるため、早めに行かないと売り切れてしまうかも。会期は7月24日(日)まで。ぜひ足を運んでみてくださいね!InformationYu Nagaba SOLO EXHIBITION 『Pink Nude』会期:2022年6月10日(金)~ 7月24日(日)時間:11:00-19:00 (会期中無休)会場:Lurf MUSEUM(東京都渋谷区猿楽町28-13 Roob1 1F・2F)
2022年06月09日俳優の要潤さんがオフィシャルサポーターを務める展覧会、『ボストン美術館展芸術×力』が、7月23日(土)から東京都美術館ではじまります。本展では、古今東西の多彩な作品が集まるほか、「日本にあれば国宝」ともいわれる作品も来日。今回、アートにお詳しい要潤さんに、展覧会の楽しみ方を聞いてきました!要潤さんがオフィシャルサポーター!【女子的アートナビ】vol. 245『ボストン美術館展芸術×力』では、アメリカのボストン美術館が所蔵する古今東西の多彩な美術作品から、エジプトやヨーロッパ、アジアなどで生み出された選りすぐりの作品約60点を紹介。その半数以上が日本初公開となります。本展で特に注目されているのは、日本の作品です。遣唐使・吉備真備の活躍を描いた《吉備大臣入唐絵巻大臣》や《平治物語絵巻三条殿夜討巻》など、日本にあれば国宝レベルの作品も展示されます。展示は5章で構成。「芸術と力」をテーマに、力を見せつけ、維持するために芸術を利用してきた権力者たちと、芸術のもつ役割にも迫ります。なお、本展は一度、2020年に新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となっていました。2年の期間を経て、いよいよ待望の開催となります。今回、展覧会のオフィシャルサポーターを務める要潤さんにインタビューを実施。楽しみにしている作品や好きなアートなどについて、語っていただきました。要潤さんにインタビュー!増山雪斎 《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801)Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection Photograph © Museum of Fine Arts, Boston――まず、今回の展覧会について、どんな印象をおもちですか。要さんボストン美術館は、市民のみなさんの有志で維持されてきた美術館です。日本の作品も多いので、一度は行ってみたいと思っていた美術館のひとつでした。今回、オフィシャルサポーターを務めるという機会をいただき、不思議な縁を感じています。僕自身、いろいろな芸術に触れたり(美術の)番組をさせてもらったりしていますが、ボストン美術館は本当に日本の作品を大切にしているのです。外国の美術館に行くと、外国の作品が主流だと思うのですが、ここまでアジアや日本の作品を大切にしている美術館の姿勢に感銘を受けました。「日本の美をすごく感じる…」《平治物語絵巻三条殿夜討巻》(部分)鎌倉時代、13世紀後半Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld CollectionPhotograph © Museum of Fine Arts, Boston――今回の展覧会で、特に楽しみにしている作品を教えてください。要さんメインのひとつである絵巻です。《平治物語絵巻三条殿夜討巻》が一番見たい作品です。――日本の作品ですね。絵巻とか日本画は、少し難しそうなイメージをもつ人もいるかと思うのですが、要さんはどんな点がお好きなのでしょうか。要さんこのような作品は、社会の授業で習ったりして、断片的に知っているかもしれませんが、身近にはなかなかないと思います。僕たちも、(時代劇などで)役を演じたりすることもありますが、写真があるわけではないですし、当時の人たちに話を聞くこともできない。リアルに感じることができないのです。今回の展覧会のような機会を利用して本物の作品に触れることで、日本の歴史や日本画に対して、日本人としてすごくインスピレーションを感じる部分があるのではないかな、と思っています。伝 狩野永徳 《韃靼人朝貢図屏風》桃山時代、16世紀後半Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld CollectionPhotograph © Museum of Fine Arts, Boston要さんモネやピカソとか見ると、確かに「わっ、上手」とは思うのですが、異国の文化が全部自分の身に染みて感じられるわけではありません。でも日本画は、日本人の根底にある何かがしっかりと表現されているのを感じられる気がします。色づかいひとつにしても構図にしても、日本の美をすごく感じるので、僕自身は日本画が好きですし、きっとみなさんも理解していただけるのではないかな、と思うのです。「気持ちをぐっとかき回される感じ」――要さんは美術の番組にも出られ、いろいろな美術館を訪れていらっしゃると思いますが、はじめて行かれた美術館やアートに触れた経験を教えていただけますか?要さんはじめて訪れたのは、地元の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館です。小学生くらいのときに、家族と行きました。――猪熊さんの作品は現代アートで難解なイメージがありますが、お子さんのときに見られてどうでしたか。要さん当時は「なんだこれ」みたいな感じでしたけれど(笑)、周りの大人たちがすごく楽しそうに見ていたので、「きっとこれはすごいものなのだろうな」という感覚でした。作品を見たときの感想は、気持ちをかきたてられ、ぐっとかき回される感じです。はじめてそういうものに触れる経験をして、衝撃的だったという記憶があります。不思議な感覚でした。――今、お好きなアートや美術館はありますか。要さん現代アートの作家さんで、大巻伸嗣さんの作品は好きで、何点かもっています。好きな美術館は、箱根の彫刻の森美術館です。自然が好きで、自然と彫刻が一体化されているところがいいです。地元である香川県の直島とか瀬戸内海の島々でも、自然の中にぽつんとアートがあります。箱根は、そこの雰囲気とも似ているので、好きですね。――ご自身でも絵を描かれるのですよね。油絵もはじめられたそうですが、どんな絵を描かれているのですか。要さん描くのは風景が多いです。自然が好きなので、どうしても描きたくなります。季節の移ろいとか、今このときにしか見られない風景を自分のなかで探して描いています。――いずれ発表されてはいかがでしょうか。要さんいやいや、お恥ずかしいので(笑)。「僕も楽しみにしています」――最後に、この展覧会を楽しみにしているファンのみなさまにメッセージをお願いします。要さんボストン美術館展が、今年ようやく開催されます。この美術館には、日本の作品がたくさんあり、日本にくると国宝級といわれている作品も数点あります。ぜひ、この機会を見逃さないようにしていただきたいです。僕も楽しみにしていますし、一緒に体感できたらいいなと思います。――いろいろお話いただき、ありがとうございました。インタビューを終えて…要さんのお姿は、まさにアートのように端正で美しく、お話されているときの表情も穏やかで、本当にステキな方でした。質問にも丁寧に、やさしいお声でお話くださるのですが、その内容が深く、特に日本画の楽しみ方については目から鱗で、すごく勉強になりました。本物の「日本の美」をはじめ、多彩な作品に出会える『ボストン美術館展』、どうぞお見逃しなく!展覧会は7月23日開幕。チケットは7月1日発売開始予定で、日時指定予約制です。Information会期:2022年7月23日(土)~10月2日(日)※休室日は月曜日、9月20日(火)※ただし8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室会場:東京都美術館企画展示室開室時間:9:30~17:30※金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)観覧料:※本展は日時指定予約制一般¥2,000、大学生・専門学校生¥1,300、65歳以上¥1,400高校生以下無料(日時指定予約必要)※最新情報は展覧会公式サイトでご確認ください問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)All photographs © Museum of Fine Arts, Boston衣装ブランド名/カナーリメーカー名/コロネット問い合わせ先/03-5216-6521値段/¥316,800(税込)スタイリスト/今井聖子(Canna)
2022年05月20日ダンス&ボーカルグループ「BE:FIRST」のメンバー7人全員が『ボテロ展 ふくよかな魔法』のオープニングイベントに登場!東京・渋谷にあるBunkamura ザ・ミュージアム内で、トークとフォトセッションが行われました。メンバーのコメントと、彼らが好きな作品をご紹介!BE:FIRSTのみなさん、登場!BE:FIRST(左から)LEOさん、SHUNTOさん、JUNONさん、MANATOさん、SOTAさん、RYOKIさん、RYUHEIさん【女子的アートナビ】vol. 243『ボテロ展 ふくよかな魔法』のオフィシャルサポーターをつとめるBE:FIRSTのメンバーが、展示室に登場!LEOさん、SHUNTOさん、JUNONさん、MANATOさん、SOTAさん、RYOKIさん、RYUHEIさんが、作品《コロンビアの聖母》の前に並び、フォトセッションが行われました。この展覧会では、南米コロンビア出身の美術家、フェルナンド・ボテロ(1932~)さんの作品を展示。初期から近年までの油彩や水彩、素描作品など全70点を楽しめます。ボテロさんは、現代を代表する美術家のひとり。1950年代後半から欧米で高く評価され、世界各地で展覧会が開かれています。彼の作品の特徴は、あらゆるかたちがふくらんでいる、という点。人だけでなく、植物や果物、楽器や日用品でさえもふくらんでいます。2022年は、ボテロさんが生誕90年を迎えた節目の年。本人が監修したこの展覧会は、彼の作品をまとめて見られる貴重なチャンスです。ボテロ愛あふれるトーク!ボテロ展の開幕に合わせて開かれた取材会では、BE:FIRSTのみなさんがオフィシャルサポーターとしての意気込みや、展覧会の楽しみ方を語ってくれました。まずは、メンバー全員のコメントを一挙にご紹介!LEOさんこんなステキな絵のオフィシャルサポーターを、デビューして間もない僕たちができるのはすごくうれしく思います。たくさんの人の愛を受けて、この場所に立てることを感謝していますし、誇りに思っています。SHUNTOさんこの機会をいただき、ありがたいと思っています。老若男女問わず、いろいろな目線やその人なりの解釈で絵をご覧になれると思います。すごい魅力がつまった絵画ばかりです!JUNONさん今日、はじめてボテロ展を見て、オフィシャルサポーターになれたことを誇りに思いますし、改めて自信をもって僕たちもみなさんにおすすめしたいと思いました。MANATOさん僕は、もともと美術館に来たことがほかのメンバーよりも少ないと思うのですけど、今回、いろいろな絵に興味をもちました。絵は、音楽とけっこう近い。表現するのが、絵と音楽という違いだけだったので、僕たちが刺激をもらえることが多かったし、勉強になりました。SOTAさん今日までオフィシャルサポーターとして意気込んで、がんばってきました。音声ガイドや映像撮影、僕たちだからこそ感じるボテロ展の魅力を精一杯伝えてきました。それがみなさんに届いて、少しでもここに来たいとか、興味をもつ人が増えたらうれしいなと思いました。RYOKIさん個人的に美術館や展覧会はすごく好きなのですが、ここ数年は忙しくてあまり行く機会がありませんでした。今回、久々に来させていただき、この独特の空間、すごく好きだなと感じました。絵と見つめ合い、ボテロさんはどういう思いでこの絵を描いたのかとか、説明文を読んで妄想し、自分の時間をつくれる場所だなと思いました。忙しければ忙しいほどリフレッシュできるし、自分を見つめ直せる時間になる。ぜひ、お越しいただきたいです。RYUHEIさんボテロさんが長年描いてきた歴史、すべてがこの展覧会につまっています。音声ガイドでは、絵の魅力を正確に説明するためにすごく丁寧にゆっくり話すよう意識しました。今回、美術館に来て、絵の魅力を感じたので、みなさんにもぜひ来てほしいです。「みんなで決めた絵がある」――続いて、展覧会で印象に残った作品について、LEOさんとRYUHEIさんがコメントしました。LEOさんみんなで、「これがいい」と決めた絵があるんです。RYUHEIさん《楽器》というタイトルの作品で、楽器がたくさん机の上に置いてある静物画です。それが、メンバーのなかで「いいんじゃないかな」となって、決めました。楽器は音楽とも関係があり、僕たち全員が音楽をするグループとして関係性がすごく深いと思い、この作品を選ばせていただきました。「自分たちができる芸術は音楽」――さらに、『ボテロ展』で影響を受けた点について、JUNONさんとRYOKIさん、SOTAさんのコメントをご紹介。JUNONさん芸術を見ると、自分たちができる最大限の芸術は音楽なので、改めて音楽でやっていきたいと思いました。RYOKIさんボテロさんの作品は、もともとの絵があり、それをオマージュしてボテロさん風にアレンジしている作品がけっこうあります。元の絵も、ものすごく芸術性の高い絵です。僕たちも、本物の良いエンターテインメントを見て、それで刺激を受け、良いところを吸収して、自分たちなりにBE:FIRST色にして、みなさんに届ける。これも、やはりアートのひとつで、昔から続いているものだと感じました。そこからニュージェネレーションとか、新しいエンターテインメントが派生していく。僕たちも、その影響のひとつになれればいいと思っています。SOTAさん僕は昔、授業でボテロさんの絵に触れたことがありました。ボテロさんの絵は、人だけでなく、楽器や果物を描いても唯一無二の作品に仕上がります。僕たちも、アーティストとして、自分たちにしか出せない声やダンスを追求していますし、そうすることのすばらしさを改めて感じました。収録時のほっこりエピソード――最後に、音声ガイド収録時のエピソードについて、LEOさんとRYOKIさんのトークをご紹介。LEOさん俳優業もやっているRYOKIのナレーションが、すごく上手で勉強になった。噛まないし、声を聴いているだけでちゃんと心に入ってくるんです。メンバー同士で刺激をもらいながら、新たな発見もしながら楽しくできました。RYOKIさん(LEOさんのコメントに対して)素直に、すごくうれしいですね。ブースに入るときにプレッシャーがありました。噛んだらみんなに昼ご飯おごる、と自分で言ったので(笑)。でも、ほかのみんなも声のトーンがよくて。みんなすごく上手。みんな良かった。LEOさんでも、みんなは噛みました(笑)。RYOKIはすごくて、和やかなムードをRYOKIがつくってくれました。音声ガイドを聴いてみた!BE:FIRSTのみなさんのコメント、いかがでしたか?本当にみなさんの仲が良くて、和気あいあいと話をしていました。今回の取材会でも話題になっていた音声ガイド、どんな内容か気になりますよね。実際に、展覧会の会場で聴いてみました!BE:FIRSTのみなさんはプロローグから登場し、スペシャルトラックでは、好きな作品や絵の感想を楽しそうに語っていました。このガイドでしか聴けない貴重なネタもあります。ぜひ音声ガイドを片手に、展覧会を楽しんでみてください!Information会期:~7月3日(日)※5月17日(火)休館会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開室時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)※金・土の夜間開館については、状況により変更の可能性があります。※会期中すべての土日祝は【オンラインによる入場日時予約】が必要となります。観覧料:一般¥1,800、大学・高校生¥1,100、中学生・小学生¥800※最新情報は公式サイトでご確認ください
2022年05月17日東京都美術館で『スコットランド国立美術館THE GREATS美の巨匠たち』が開催中です。本展では、世界最高峰の美術館のひとつ、スコットランド国立美術館から上質な西洋絵画が集結。展示の様子や学芸員さんの解説、おすすめ作品をご紹介します!巨匠たちの作品に会える!【女子的アートナビ】vol. 244『スコットランド国立美術館THE GREATS美の巨匠たち』では、スコットランドが誇る美術品のなかから、ラファエロやレンブラント、ルノワールなど、巨匠たちの作品や、ターナーやミレイなどイングランド出身の画家たちの作品なども含め、約90点が集結。西洋美術の流れを名画とともに楽しめます。スコットランド国立美術館が開館したのは、1859年。ヨーロッパの他国のように、王室コレクションからスタートした美術館ではなく、購入や地元の名士たちによる寄贈や寄託などによってコレクションを増やしていき、世界有数の美術館となりました。本展では、コレクションのエピソードを楽しめる作品も見ることができます。あだ名が有名!では、おすすめ作品を数点ピックアップしていきます。まずは、第1章「ルネサンス」から、巨匠エル・グレコの《祝福するキリスト(「世界の救い主)」》にフォーカス。イタリアやスペインで活躍したエル・グレコは、ギリシャ出身の画家。本名は、ドメニコス・テオトコプーロスですが、あだ名のエル・グレコ(ギリシャ人)として知られています。故郷のクレタ島で美術の修業をし、その後ヴェネツィアに移住、さらにローマでも働き、最後はスペインに永住しました。本作は、表現力豊かな筆遣いと、赤と青のコントラストが目を引く美しい作品です。学芸員さんのおすすめは…?続いて、第2章「バロック」では、スペインの画家、ディエゴ・ベラスケスの描いた《卵を料理する老婆》をご紹介。ベラスケスは、国王フェリペ4世付きの画家に任命され、「画家の中の画家」と呼ばれた巨匠。国王に信頼され、王室の肖像画を数多く描いたほか、王宮配室長も任されるほど出世した人です。本展担当の東京都美術館学芸員・髙城靖之さんによると、この作品は、ベラスケスがまだ若いころに、自分の力量を知らしめるために描いた野心作。本作の注目ポイントについて、次のように語っています。髙城さん作品の手前には静物を描いている部分があり、金属などの質感をたくみに描き分けています。なかでも一番の注目ポイントは、調理中の卵。素揚げにしているところですが、白身が固まっている最中のものと、すでに固まっている状態のものとがきちんと描き分けられています。卵が固まっていく様子を絵画で見事に表現しているので、ぜひご覧になってみてください。7度も夫を殺された…!?もう一点、バロック絵画で筆者のおすすめ作品をご紹介。オランダ絵画の黄金期に活躍した巨匠、レンブラント・ファン・レインの《ベッドの中の女性》です。一見すると、ふつうに美しい絵画ですが、解説を読んで作品の背景を知ると、あまりに残酷なストーリーに驚愕します。本作品の女性は、聖書の登場人物であるサラと考えられています。彼女は、過去7度も結婚初夜に夫を悪魔に殺されており、この絵は、8人目の夫が悪魔を追い払うところをサラが見守っている場面。この絵を見て、聖書の物語を読み解ける教養や見識が鑑賞者に求められているそうです。絵の背景にあるストーリーを知ると、作品の見え方ががらりと変わります。絵は表面的な美しさだけを見ても十分満足できますが、解説を読むとさらに別の楽しみ方もできます。スコットランド人の故郷愛が伝わる…!最後は、スコットランド国立美術館のステキなエピソードがある絵画をご紹介。本作品は、アメリカの風景画家フレデリック・エドウィン・チャーチの作品です。なぜ、アメリカ絵画が最後に展示されているのでしょう?髙城さんによると、この絵は、スコットランドの貧しい家庭に生まれた人がアメリカに移住し、実業家として成功したあと故郷に寄贈した作品。スコットランド国立美術館は、市民らの寄付などによりコレクションを増やしていった美術館なので、その象徴として最後にこの作品を展示したそうです。巨匠たちの競演を楽しんで!巨匠たちの名画、いかがでしたか?本展は7月3日まで開催。幅広い西洋美術の名品を、まとめて見られる貴重なチャンスです。ぜひ美術館で楽しんでみてくださいね!Information会期:~7月3日(日)※休室日は月曜日会場:東京都美術館企画展示室開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)※夜間開室については、展覧会公式サイトでご確認ください。観覧料:※本展は日時指定予約制一般¥1,900、大学生・専門学校生¥1,300、65歳以上¥1,400高校生以下無料(日時指定予約必要)※最新情報は展覧会公式サイトでご確認ください問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
2022年05月14日東京国立博物館で特別展『琉球』が開催中です。この展覧会では、金銀や水晶などで飾られた色鮮やかな国宝の冠をはじめ、キラキラ美しいガラス玉の瓶や、神々しい「神猫図」など、貴重なアートや資料が一堂に集結。琉球の歴史と文化を体感できる展示の様子や、おもな見どころをご紹介します!琉球の歴史と文化を体感!【女子的アートナビ】vol. 242沖縄復帰50年記念特別展『琉球』では、琉球王国として独自の歴史と文化をもつ沖縄ゆかりの文化財を過去最大規模で展示。琉球国王尚家400年の貴重な宝物をはじめ、工芸作品や考古遺物、歴史資料など、さまざまな品を見ることができます。さらに、琉球の美と技を今に伝える模造復元作品も展示されています。明治以降、多くの困難を乗り越えてきた琉球・沖縄。その歴史や文化をさまざまな作品で知ることができる展覧会です。研究員さんのおすすめ作品!では、いくつか見どころをピックアップしていきます。まずは、東京国立博物館の研究員さんによるおすすめ作品をご紹介。東洋工芸がご専門の三笠景子さんのおすすめ作品は、重要文化財にもなっている《首里城京の内跡出土陶磁器》です。「京の内」とは、首里城内でもっとも大きな祭祀儀礼の場所。そこから出土した陶磁器は、中国の有名な景徳鎮窯でつくられたもので、ほかの日本の地域では見られないものばかり。かなり貴重な優品とのことです。東洋絵画がご専門の植松瑞希さんのおすすめは、《虎図》。まんまるまなこにふさふさ眉、やわらかそうな足など、愛嬌のある姿が琉球の虎の特徴だそうです。注目ポイントは、寅の額に描かれた「つむじ」。写真ではわからないと思いますので、ぜひ現地で見つけてみてください。ちなみに、筆者が個人的におすすめしたいのは、《虎図》の近くにある《神猫図》。ふさふさした黒い尾をもつ白猫の絵です。神々しいネコさまのお姿に魅入られます!キラキラ&ゴージャス!次にピックアップするのは、キラキラしたまばゆい作品2点。まずは、国宝の《玉冠》(展示は5月15日まで)。国王の正装として用いられたもので、金、銀、珊瑚、水晶、碧玉など計7種類の玉が合計288個もついています。まさにキラキラ&ゴージャス。本作品が飾られている展示室には、ほかにも琉球国王の尚家に伝来した多くの宝物がずらりと並び、すべて国宝に指定されています。これらは、戦前に東京へ移されていたため戦禍を免れたそうです。もうひとつ、美しくまばゆい作品《御玉貫》をご紹介。錫の瓶に、ガラス小玉を麻糸でつづった覆いをかぶせた琉球独特の酒器で、首里城内で行われる祭儀や贈答品として用いられたものです。色彩が本当に鮮やかで、うっとりします。未来への希望を感じるアート最後は、歴史と希望を感じる作品にフォーカス。展示室のなかでもひときわ目立つ彫刻《大龍柱(旧首里城正殿前)》は、戦前、首里城正殿前に設置されていた柱です。本来は、下の部分にとぐろを巻いた姿があったそうですが、沖縄戦で胴体のなかほどから下は失われました。この柱が製作されたのは、1711年と推測されています。「未来へ」と題した最終章では、1992年の首里城再建や、琉球文化の復興と継承のための人々の地道な研究や取り組みを紹介。仁王像や工芸品、衣裳などの模造復元を見ることができます。コラボ企画も!今回ご紹介した作品のほかにも、貴重な衣裳や歴史資料、先史文化を知ることができる土器など多彩な展示品があります。また、沖縄ゆかりの国宝の刀剣と『刀剣乱舞-ONLINE-』とのコラボ企画があったり、サンリオキャラクターズとのコラボグッズがあったりと、さまざまな角度から楽しめます。ぜひ一度、足を運んでみてくださいね。Information会期:~6月26日(日)※休館日は月曜日会場:東京国立博物館平成館開室時間:9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)観覧料:一般¥2,100、大学生¥1,300、高校生¥900※最新情報は公式サイトでご確認ください
2022年05月13日東京・六本木のサントリー美術館で『大英博物館北斎』がはじまりました。本展では、大英博物館が所蔵するクオリティの高い北斎作品が集結。さらに、北斎を愛したイギリスのコレクターたち6名にもフォーカス。アートの目利きである彼らが絶賛&狂喜した、日本人が気づいていない“北斎のスゴさ”もご紹介!イギリスでも大人気…スゴい北斎!【女子的アートナビ】vol. 240『大英博物館北斎―国内の肉筆画の名品とともに―』では、大英博物館が所蔵する北斎作品を中心に、国内にある肉筆画も展示。イギリス人コレクターたちの“北斎愛”にも触れながら、彼の画業、特に数多くの代表作が生み出された後半生の作品群を一覧できます。葛飾北斎(1760-1849)は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師。彼の作品は、日本だけでなく世界でも有名で、例えばモネやドガなどフランス印象派の画家たちや、ゴッホにも影響を与えています。フランスで人気があったというイメージが強い北斎ですが、実はイギリスでも大人気。すでに1870年代から北斎コレクターや研究者がいて、特に大英博物館には多くの作品が所蔵されています。本展のプレス説明会では、アルフレッド・ハフト氏(大英博物館アジア部日本セクション学芸員)のビデオメッセージが流れ、100年以上前に大英博物館の学芸員だったローレンス・ビニョン(1869-1943)の言葉が紹介されました。とても印象的でしたので、以下に抜粋します。「1908年、ローレンス・ビニョンは、北斎の風景画を見たときの体験を『美と驚きがひとつになった衝撃』と表現し、『世界は我々の想像を上回る驚きに満ち、我々を狂喜させる力の源であることを北斎は明らかにした。それは、これから我々自身で発見していくことができるものでもあるのだ』と語っています」これほどの衝撃をイギリス人に与えていた北斎、すごいです!「芸術家として北斎こそ正真正銘の日本人」では、展覧会のおもな見どころをご紹介していきます。第1章「画壇の登場から還暦」では、貴重な初期作から還暦近くの年齢で描いた作品が登場。ここでの見どころは、北斎が直接筆をとった「肉筆画」の名品《為朝図》。曲亭馬琴の読本『椿説弓張月(ちんせつ ゆみはりづき)』の主人公・源為朝を描いたもので、絵のなかには作者馬琴の祝詞も書かれています。本作品を購入したのは、イギリスの医師、ウィリアム・アンダーソン(1842-1900)。彼は解剖学と外科の教授として明治期に来日し、東京の海軍軍医学校の校長を務めました。さまざまな美術品も入手し、そのうち約2100点が大英博物館の所蔵品になっています。また、アンダーソンは、日本美術についての本も執筆。著書の中で、「芸術家として北斎こそが正真正銘の日本人」と絶賛しています。代表作が次々と…!第2章「富士と大波」では、《富嶽百景》や《冨嶽三十六景》シリーズの作品群などを紹介。大波が印象的な北斎の代表作《冨嶽三十六景神奈川沖浪裏》や、「赤富士」として親しまれている《冨嶽三十六景凱風快晴》もここで見ることができます。また、第4章「想像の世界」では、偉大な歌人や詩に読まれた景色、さらに目に見えない妖怪を描いた作品などが登場。不気味な見た目でも、どこかユーモラスさが感じられる人気作品《百物語こはだ小平二》も展示されています。「これが一人の画家の作品だとは信じがたい」最後の第6章「神の領域―肉筆画の名品―」では、晩年に描かれた肉筆画が登場。特に、88歳のときの作品《流水に鴨図》は必見です。2羽の鴨と水面に落ちた紅葉が描かれた作品で、鴨の描写が本当に細かいのです!近くで見ると、その精緻な美しさに圧倒されます。あの時代の88歳、大家の北斎先生でも老眼になっていると思いますし、集中力や持続力も若いころに比べれば低下しているはず。でも、線のブレもムラもなく、まさに“神の領域”に達した作品です。本作品を所蔵していたのは、イギリスの小説家アーサー・モリソン(1863-1945)。彼は2000以上の浮世絵版画を入手したほか、日本絵画も約600点購入。また、日本美術の研究書も出版し、その中で北斎について「複数の優れた絵師による作品でなく、すべて北斎一人によるものだということが、実に信じがたい」と語っています。究極の“推し活”展覧会本展では、北斎の名品を堪能できるだけでなく、日本美術好き・北斎大好きイギリス人コレクターたちによる究極の“推し活”も楽しめます。彼らが書いた北斎の推しポイントを読むと、今まで気づかなかった作品の魅力も発見でき、改めて北斎の偉大さを実感しました。100年以上前に北斎担当のファンたちが熱心に集めたコレクションを、現代の日本人が見るなんて、考えてみたらステキなこと。推し活をしていたコレクターたちも、きっと喜んでいると思います。究極の“推し活”展覧会、ぜひ足を運んでみてください!Information会期:~6月12日(日)※会期中展示替を行います。※会期は変更の場合があります。休館日:火曜日(5月3日、6月7日は開館)会場:サントリー美術館開室時間:10時~18時※金・土および4月28日(木)、5月2日(月)~4日(水・祝)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥1,700、大学・高校生¥1,200、中学生以下無料※最新情報は公式サイトでご確認ください
2022年04月30日