カタルシツの新作「語る室」が先日、東京芸術劇場シアターイーストにて開幕した。イキウメの主宰・前川知大による別ユニットである。前回のカタルシツ公演(2015年2月)は、一人称で語られるドストエフスキー小説「地下室の手記」の舞台化。主人公の膨大な語りを演劇的な傍白(内心を表す脇セリフ)に変換していく前川の作劇と、それを実践してしまう俳優・安井順平のタッグによる、興奮に満ちた一人芝居だった。カタルシツ『語る室』チケット情報今回は前川の新作SFミステリー。舞台は空き地なのか、公園なのか、交番前の広場で、バーベキューが行われているところから始まる。集まっているのは、とある事件に巻き込まれた人たちだ。5年前のある日、幼稚園バスの運転手と一人の園児が突如姿を消してしまい、いまだに行方がわからない。消えた園児の母(中嶋朋子)、その弟の警官(安井順平)、バス運転手の兄(盛隆二)がそれぞれの思いを胸に、バーベキューを囲んでいる。そこに登場する霊媒師(板垣雄亮)、未来から来たと話す男(大窪人衛)、父を亡くした兄と妹(浜田信也・木下あかり)たち。彼らを廻る人間関係や、非日常的な出来事が語られていくことで、事件の全貌が現れる。全編を通じ、登場人物たちは傍白を多用し、その分、物語の時間は圧縮され、膨大な情報量が表現されていく。観ているこちらの想像力で参加していく分、点でしかなかったものが徐々につながり、線となる。観客の想像力で事件の全貌が紡ぎ出されていく。物語の世界に参加していくと、日常の隣には異界が口を開けて待っており、静かな恐怖がそこにある、ということがわかる。と同時に、そこには「ただ生きていくこと」への喜びと愛しさを見つけることが出来る。「語り物」に着目した作劇と、それを縦横無尽に体現していく俳優たち。熟練と瑞々しさが同居し、過不足のない絶妙なバランスでつくられた、果実のような本作。演劇の醍醐味にあふれた「秋の舞台」である。東京公演10月4日(日)まで。大阪公演は10月9日(金)よりABCホールにて。チケットは発売中。
2015年09月29日カタルシツ『地下室の手記』が、2月25日、東京・赤坂RED/THEATERで初日の幕を開けた。劇団イキウメの別館として生まれ、劇団からはみだしたものを上演する「カタルシツ」。その第一弾となった今作は、一昨年の初演時に、作・演出の前川知大が第21回読売演劇大賞優秀演出賞を、主演の安井順平が、同優秀男優賞を受賞した。その好評を受けて再び舞台に上がった作品は、全編を安井ひとりで演じる新演出になり、さらなる悶絶と抱腹の世界に変貌している。カタルシツ『地下室の手記』チケット情報原作はドフトエフスキーの同名小説。世間から軽蔑された男が、自分を笑った世界を笑い返し、攻撃し、絶望のなかでもがいていく手記である。前川はその小説世界を大胆に脚色。帝政ロシアを現代日本に、手記をニコニコ動画の生放送に変えて、地下室に引きこもる40男に自意識問答を繰り広げさせる。他人と関わろうとして失敗した話、ある女との後悔の念にさいなまれる出来事など、物語で起こるイベントは原作通りのようだが、まさに今が描かれていると感じられる構成が、見事である。まずユニークなのは幕開けだ。安井は安井本人として登場。いわば“前説”のように観客に誰もが経験するエピソードを語りかけ、自意識というものは誰でも持っているやっかいなものであるということを自然に植え付けていく。これから語られるのは“私”のことでもあるのだと。そうして、孤独な主人公が、警備員のアルバイトをしていた30歳の頃の話が始まるのだが、ニコ生の仕掛けがまた、思わぬ効果をもたらす。男が暮らす地下室のセットには、世間に毒づく彼に対して、つっこみを入れるニコ生のコメントが壁面に次々と現れ、その悲壮感を突き放していく。自意識過剰でプライドが高くて、それゆえ、現実の自分が受け入れられなくて苦しみ、卑屈になっていく舞台上の男を、そして、それをとても他人事とは思えぬ私たち自身を、同時に思い切り笑うことができるというわけだ。前回、小野ゆり子が演じた「理沙」とのエピソードを今回は安井ひとりで見せることによって、彼女に向ける言葉のイタさも際立った。観客それぞれの「理沙」像を通じて、男の後悔の大きさもより胸に迫ってくる。人前で語ることが演劇の原点であるならば、安井のこのひとり語りは、まさしくその原点を堪能できるものであろう。しかも、彼が口にし、表現した途端、どんなクズ発言もチャーミングに聞こえてくるのだから不思議だ。どうしようもない男の話ではある。だが、必ず胸のすく思いになるはずだ。東京公演は3月9日(月)まで。その後、3月13日(金)から15日(日)まで大阪・HEP HALLでも公演。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年03月02日11月28日(金)より、劇団イキウメの新作『新しい祝日』が開幕。同作の作・演出を務める前川知大に話を聞いた。イキウメ『新しい祝日』チケット情報1年ぶりの劇団新作となる同作。ある会社、働き盛りの男がひとりで残業している。男はふと不安に駆られる。自分はなぜここにいるのだろうと。見慣れた社内を見渡していると、いつの間にか道化のような奇妙な男がいることに気がついた。道化のような男は、会社員の男に現実の見直しを迫る…。今見えてる現実は本物なのかと、その「現実」を壊し始めた。男は道化に誘われるまま、立場も名前もない「世界」へ入っていく……。前川は、「今回は登場人物の個人情報を排し、周囲の人間との関係性だけでひとりの人間の人生を抽象化して語る。そういうものができたら、これまでとは違う『世界』の捉え方ができるのではないかと思ったのが、今回のはじまりでした。また、イキウメではこれまで、日常の中に異世界がスーッと侵入して、いつの間にか非日常へと入れ替わってしまう、という構造の作品をつくってきました。今回の異世界は登場人物にとっての現実や社会です。人生が“人が異世界に馴染んでいく過程”に見えた瞬間、作品がスタートしました」と制作のきっかけについて説明。また「今作の登場人物は、異世界に迷い込む人と異世界の住人にスッパリ分けられるんです。迷い込むのは浜田信也、安井順平のふたり。このふたりには自分たちのいるところが舞台上で、両脇に舞台袖があるとか、舞台ツラはここまででその先は客席だとか、“世界”の境界線が見えている。いわば観客と同じ状況です。でもそれ以外の登場人物たちは、基本的に演劇で言う“見立て”をしていて、目の前の空間が部屋だと言われれば玄関から出入りし、壁を突き抜けないように歩く。浜田と安井は次第にそれらルールに気づき、理解し、周囲(異世界)に溶け込むため、ルールに沿った行動をするようになる。舞台上で浜田たちが『観客と同じように“見えていないものを見る”ようになる』ということが描ければ、演劇を観ている人たちが自然にやっている“見立て”について、『普段僕たちは、日常を浜田たちと同じように見ていますよね』と提示できると思ったんです」と同作の狙いについて話した。これまでイキウメが発表してきた作品とはひと味違った世界を作り上げるために、現在稽古を重ねている。「ただ、このメタ構造をどう見せていくかが予想以上に難しくて。どこまでを物語の内側に入れ、どこまで客席にはみ出していくか、非常に繊細なさじ加減で計らなければいけない。そこはとにかく、役者たちと実際にやってみながら探していくほかないと思っています」と意気込みを語った。舞台『新しい祝日』は11月28日(金)から12月14日(日) まで、東京芸術劇場シアターイースト、12月19日(金) から21日(日)まで、大阪・ABCホールで上演。チケット発売中。取材・構成:尾上そら
2014年11月20日テレビ東京の人気バラエティ企画の劇場版第2弾となる『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』の公開を記念し、ファン感謝祭舞台挨拶が10月18日(土)に開催。劇団ひとり、おぎやはぎ、バナナマンにヒロインの上原亜衣らキャスト陣が一堂に会した。タイトル通り、様々な誘惑をはねのけ美女とのキスを我慢する様子をシナリオに沿いつつも、ドキュメンタリー的に映し出していくという人気企画の劇場版第2弾。本作では高校を舞台に、超能力を介在させつつ川島省吾(劇団ひとり)がキスの誘惑と戦う…。この日はひとりさん、ヒロインの上原さん、“ウォッチングルーム”で解説を加える「神様」役のおぎやはぎ(小木博明&矢作兼)、バナナマン(設楽統’日村勇紀)に加え、小島みなみ、白石茉莉奈、中尾明慶、安井順平、福士誠治に佐久間宣行監督も出席した。神がかったアドリブによるリアクションを連発し“ミスターキス我慢”と称されるひとりさんは、劇場版第2弾が前作から1年を経ずに公開されることに「感無量でございます!」。佐久間監督や共演陣を称えつつ「その期待に応える劇団ひとり!脱帽ですね!」と文字通りの自画自賛で周囲から「自分で言わない!」とツッコまれるが、「もっと褒めてください」とアピールし会場を笑いに包む。ひとりさん以外の出演者は、あくまでもシナリオに沿った形で物語を進行させるため、入念なリハーサルを行ない、予想される川島のリアクションを何パターンもシミュレーションし本番に臨んでいるが、その予想を超えるアドリブに苦しめられることもしばしば。特に、川島が急に歌い出したシーンは「歌い出すって発想がなんで出てくるのか分からない(苦笑)」(安井さん)と周囲はかなり戸惑ったそう。ひとりさんは「オレとしては『レミゼ(=映画『レミゼラブル』)」っぽかったんだけど、観たらそうはなってなかった」と苦笑する。一方、ひとりさんが驚いて思わず素のリアクションをしてしまう部分もあったそう。特に、伊藤英明の参戦については「画面上で見てもビックリしてる。相当な方ですからね」とふり返る。ちなみに伊藤さんの出演は、設楽さん経由で伊藤さんが「ゴッドタン」が好きということを聞きつけ、オファーを出して実現したとのこと。佐久間監督は「(伊藤さんは)スケジュールの調整をして出てくださったんです。ちなみに錦織圭くんも(『ゴッドタン』を)見てて、ツアーの時もDVDを持っていってるそうです」と芸能界やスポーツ界にも本シリーズのファンが多いことを明かした。キャストを代表して締めの挨拶を任されたひとりさんは、神妙な表情で「上原さんを初めて目にしたのは1年以上前でした…」と上原さんが出演しているアダルトビデオのタイトルを口にし「何ていいコなんだ!ホントに女神だと思った」と告白。「そのコと、同じスクリーンでお芝居して、いまここに立ってる…。『夢は叶うんだ!』ということをみなさんに伝えていけたら!」と本作に込めたメッセージ(?)を語る。そして再び上原さん出演のAV作品のタイトルを連呼し「ぜひ見てください!ヒマがあれば『キス我慢選手権2』も観ていただければ」と語り、爆笑に包まれたまま舞台挨拶は幕を下ろした。『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE 2 サイキック・ラブ』は公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ 2014年10月17日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国にて公開(C) 2014「キス我慢選手権 THE MOVIE2」製作委員会
2014年10月18日