第16回「小田島雄志・翻訳戯曲賞」の受賞者・団体が発表された。今回の受賞者・団体は、『火の顔』『アンティゴネ』『未婚の女』の翻訳・ドラマトゥルクを務めた大川珠季、『アナトミー・オブ・ア・スーサイド―死と生をめぐる重奏曲―』の翻訳を担当した關智子、『黄色い封筒』を上演した劇団青年座、パレスチナ演劇上演シリーズ『占領の囚人たち』、現代カナダ演劇上演 ニコラス・ビヨン2作品上演『慈善家-フィランスロピスト』『屠殺人 ブッチャー』を上演した名取事務所。贈呈式は2024年1月15日(月) 13時より東京・あうるすぽっとで行われる。本賞は、2017年までの10年間、小田島個人が主催し、海外戯曲の優れた翻訳者に贈呈されてきた。第11回からは名称と趣旨を引き継ぎ、実行委員会が主催して運営。翻訳者に加え、海外戯曲の優れた上演成果も対象に、実行委員の合議で選考している。第16回「小田島雄志・翻訳戯曲賞」受賞者・団体大川珠季■『火の顔』『アンティゴネ』作:『火の顔』マリウス・フォン・マイエンブルク『アンティゴネ』ベルトルト・ブレヒト(原作:ソフォクレス)演出:深作健太翻訳・ドラマトゥルク:大川珠季上演期間:2023年4月8日(土)~4月16日(日)会場:吉祥寺シアター■『未婚の女』作:エーヴァルト・パルメツホーファー演出:深作健太翻訳・ドラマトゥルク:大川珠季上演期間:2023年10月18日(水) ~10月22日(日)会場:銕仙会能楽研修所關智子■『アナトミー・オブ・ア・スーサイド―死と生をめぐる重奏曲―』作:アリス・バーチ演出:生田みゆき翻訳:關智子上演期間:2023年9月21日(木)~9月29日(金)会場:文学座アトリエ劇団青年座■『黄色い封筒』作:イ・ヤング(李羊九)翻訳・ドラマトゥルク:石川樹里演出:須藤黄英上演期間:2023年7月5日(水) ~7月10日(月)会場:吉祥寺シアター名取事務所■パレスチナ演劇上演シリーズ『占領の囚人たち』「Prisoners of the Occupation」東京版作:パレスチナ人政治囚、エイナット・ヴァイツマン「I, Dareen T. in Tokyo」作:ダーリーン・タートゥール、エイナット・ヴァイツマン翻訳・ドラマトゥルク:渡辺真帆演出:生田みゆき上演期間:2023年2月17日(金)~2月26日(日)会場:下北沢「劇」小劇場■現代カナダ演劇上演 ニコラス・ビヨン2作品上演『慈善家-フィランスロピスト』『屠殺人 ブッチャー』作:ニコラス・ビヨン翻訳:吉原豊司演出:「慈善家-フィランスロピスト」小笠原響「屠殺人 ブッチャー」生田みゆき上演期間:2023年11月17日(金)~12月3日(日)会場:下北沢「劇」小劇場
2023年12月12日第15回「小田島雄志・翻訳戯曲賞」の受賞者・団体が決定した。発表された受賞者・受賞団体は、『MUDLARKS』『THE PRICE』の翻訳を手掛けた髙田曜子、『The View Upstairs―君が見た、あの日―』の演出・翻訳・訳詞・振付を担当した市川洋二郎、『5月35日』を手掛けたPカンパニー、『月は夜をゆく子のために』を手掛けたトランスレーション・マターズ。『5月35日』写真:Pカンパニー提供本賞は、2017年までの10年間、小田島雄志個人が主催し、海外戯曲の優れた翻訳者に贈呈されてきた。第11回からは、名称と趣旨を引き継ぎ、実行委員会が主催して運営。翻訳者に加え、海外戯曲の優れた上演成果も対象に実行委員の合議で選考している。贈呈式は、2023年1月10日(火) 13時より東京都豊島区の「あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)」にて行われる。<第15回「小田島雄志・翻訳戯曲賞」受賞者・団体>■髙田曜子『MUDLARKS』作:ヴィッキー・ドノヒュー演出:川名幸宏翻訳:髙田曜子上演期間:2022年9月29日(木)~10月9日(日)会場:下北沢 ザ・スズナリ『THE PRICE』作:アーサー・ミラー演出:桐山知也翻訳:髙田曜子上演期間:2022年1月16日(日)~1月23日(日)会場:吉祥寺シアター■市川洋二郎『The View Upstairs―君が見た、あの日―』作・作詞・作曲:Max Vernon演出・翻訳・訳詞・振付:市川洋二郎上演期間:2022年2月1日(火)~2月13日(日)会場:日本青年館ホール■Pカンパニー『5月35日』作:莊梅岩翻訳:マギー・チャン/石原燃演出:松本祐子上演期間:2022年4月20日(水)~4月24日(日)会場:東京芸術劇場シアターウエスト■トランスレーション・マターズ『月は夜をゆく子のために』作:ユージーン・オニール翻訳・演出:木内宏昌上演期間:2022年10月8日(土)~10月19日(水)会場:すみだパークシアター倉
2022年12月13日「このオペラハウスはスター歌手たちにとってとても居心地のいい場所なんだ。合唱もオケもスタッフもとても温かく彼らを迎え入れるからね。お互いに、家族と再会したような気分になるんだ」…前回の来日時にこう語っていた音楽監督のアントニオ・パッパーノ。9月に行われる英国ロイヤル・オペラ4年ぶりの引っ越し公演『ファウスト』に主演するヴィットリオ・グリゴーロにとっても、この劇場に帰ってくることは嬉しいことであるはず。2010年に『マノン』のデ・グリューでロイヤル・オペラに初登場して以来、『愛の妙薬』のネモリーノや『椿姫』のアルフレート、『ラ・ボエーム』のロドルフォなど多くの主役を演じてきた。今やMETを始め世界中のオペラハウスから引っ張りだこだが、グリゴーロの明るくピュアで努力家な性格は、英国ロイヤル・オペラととても相性がいい。【チケット情報はこちら】グリゴーロはイタリア人テノールだが、フランスもののレパートリーが充実しており、マスネの『ウェルテル』『マノン』グノーの『ロメオとジュリエット』などで主役を歌ってきた。発音も美しく、瀟洒なフレージングはイタリアもの以上に彼の魅力を引き立てる。中でもオッフェンバックの『ホフマン物語』のホフマンは当たり役で、次々と登場する悪役に苦しめられる演技は、表現力豊かなグリゴーロにはまっていた。『ファウスト』は『ホフマン…』に少し似たところがある。老いたファウストに死後の魂と引き換えに若さを売るメフィストフェレスは、ホフマンに登場する悪役4役とどこか重なる。メフィストフェレスを歌うのはオペラ・ファンにはお馴染みのバリトン、イルデブランド・ブルカンジェロ。前回の引っ越し公演では『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールを歌った。グリゴーロとダルカンジェロの葛藤に満ちた掛け合いは、今回の来日公演でも大きな見どころだ。ふたりともグッド・ルッキングで芝居が達者、美声な上に美形なのである。マルグリートにはパッパーノも「驚異的に成長している」と太鼓判を押すレイチェル・ウィリス=ソレンセン。彼女もとても美しい歌手だ。デイヴィッド・マクヴィカー演出はドラマティックで驚きに満ち、引き込まれる仕掛けがたくさん潜んでいる。ファウスト、メフィストフェレス、マルグリートの有名なアリア、デラックスな合唱、洗練の極みのオーケストラ…魅力満載のオペラだが、なぜか日本での上演は極めて少ない。『ファウスト』を生で観るという貴重な経験を味わうためにも、劇場に足を運ぶ価値がある。旬の歌手の「今」を間近で聴ける喜びは、何物にも代えがたい。文:小田島久恵
2019年07月17日9月に4年ぶりの引っ越し公演を行う英国ロイヤル・オペラ。ヴェルディの最高傑作『オテロ』は、2017年6月に本拠地コヴェント・ガーデンで新演出上演が行われ、ヨナス・カウフマンのロール・デビューとなったこともあり大きな話題を呼んだ。日本では2018年にローマ歌劇場来日公演『マノン・レスコー』で卓越したデ・グリューを演じたグレゴリー・クンデがこの「嫉妬に狂わされた悲劇の王」を演じる。2013年のフェニーチェ歌劇場来日公演でもこの役で喝采を浴び、今年もパリのバスチーユ、モナコのモンテカルロ、スペインのコルドバとパンプローナでも同役を演じる世界屈指の「オテロ歌い」に期待が高まる。【チケット情報はこちら】アントニオ・パッパーノが英国ロイヤル・オペラの音楽監督に迎えられたのは2002年。以後17年に渡る歌劇場との蜜月時代は異例の長さであり、他のオペラ・カンパニーでも(今世紀においては)あまり類を見ない。その秘密は、パッパーノの進化し続ける創造性と天才的な演劇センス、オーケストラに炎をともすリーダーシップにある。2015年の来日時にパッパーノに取材したとき、朝10時スタートというスケジュールだったにもかかわらず、マエストロは元気溌剌。それ以上に驚かされたのは、9時半くらいからオーケストラのメンバーが上野の東京文化会館に集まり、リハーサルの準備をしていたことだった。ロンドンの人々の朝はかくも早いのか。そのパワーの源泉となっているのはつねに勤勉で健康体なパッパーノであることは明らかだった。イタリア人の両親のもと英国に生まれたパッパーノはコレペティ出身で、声楽教師であった父親のアシスタントとして10代から歌手たちのレッスンの伴奏をしていた。1987年のノルウェー歌劇場での『ラ・ボエーム』で指揮者デビューを飾る。パッパーノが音楽監督を務めるサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の来日公演では、壮麗な『アルプス交響曲』(R・シュトラウス)が印象的だったが、パッパーノはオペラ以外のシンフォニーでもスケールの大きな演奏を聴かせる。歌、演技、音楽と総合的なアプローチが可能なのは、彼自身がストイックな努力家であり、音楽に関して幾重もの洞察を重ねてきたからだろう。英国ロイヤル・オペラがいつもフレッシュで革新的である理由はそこにあるのかも知れない。キース・ウォーナーの演出はオテロを陥れる家臣ヤーゴの闇の精神に迫り、潜在的な「悪」がじわじわと現実を動かしていく様子を描き出す。ヴェルディにとっても新しい書法(番号つきではない)を試みた最初の作品であり、台本作家とは5年の熟成期間を要した。細部まで演劇の力が漲る合唱も大きな聴きどころだ。文:小田島久恵
2019年07月05日バレエイベント「上野の森バレエホリデイ2019」の一環として、クイーンのフレディ・マーキュリーに捧げられたバレエ作品「バレエ・フォー・ライフ」の特別野外上映を、東京国立博物館にて、2019年4月26日(金)・27日(土)の2日間で行う。同演目は、クイーンを代表する17の名曲に20世紀最大の振付家モーリス・ベジャールが振付けたダンス・パフォーマンスで、ダンサーたちがお馴染みのヒット曲に合わせてエネルギーに満ち溢れた踊りを披露する。1997年に名門モーリス・ベジャール・バレエ団によって初演された際には、カーテンコールにブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、エルトン・ジョンが登場。「ショウ・マスト・ゴー・オン」をライヴ演奏したという、クイーンお墨付きの作品だ。実はクイーンのフレディ・マーキュリーは、当時バレエタイツを衣裳として着用していたり、英国のバレエ団の舞台に立ったこともあるというエピソードが残っている。作品中にはレザージャケットやバレエタイツを身に着けた“フレディ”も登場するほか、「クイーン・ライヴ!! ウェンブリー1986」や「ライヴ・キラーズ」といった伝説のライヴの音源も交えるなど、さながらコンサート会場と劇場を行き来するような感覚が楽しめる。この作品は90年代に一度映像化されたものの、その後絶版となった「バレエ・フォー・ライフ」は、現在モーリス・ベジャール・バレエ団の公演でしか接する機会のない幻の作品。この機会に、重要文化財である表慶館の前に設置された特別スクリーンで、『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットで沸くクイーンとバレエの魅力に触れてみてはいかがだろう。【開催概要】上野の森バレエホリデイ2019 野外シネマ「バレエ・フォー・ライフ」開催日:2019年4月26日(金)・4月27日(土)時間:19:00〜上映開始(20:45 終了見込み)※雨天中止。※18:50〜19:00まで、小田島久恵(音楽ライター)によるプレトークあり。会場:東京国立博物館 表慶館前(東京都台東区上野公園)料金:無料※東京国立博物館の入館料が別途必要※高校生以下、および満18歳未満、満70歳以上は無料。座席:250名※座席が満席となった場合は、芝生や周辺に座る事が可能。【問い合わせ先】NBSチケットセンターTEL:03-3791-8888(平日10:00-18:00/土曜10:00-13:00/日祝休)
2019年04月19日この12月に再び都響に帰ってくる首席客演指揮者アラン・ギルバート。定期Bシリーズと都響スペシャルでのシューマン、ストラヴィンスキーの「春」プロに続いて、定期CシリーズとAシリーズでは、カラフルで情熱的なスペイン・プログラムを楽しませてくれる。【チケット情報はこちら】近年、オペラ指揮者としても世界中で活躍し、今年の5月にスウェーデン王立歌劇場でR.シュトラウスの『ばらの騎士』を、2019年5月から6月にかけて、ミラノ・スカラ座でコルンゴルトの『死の都』を振るなど、歌劇のレパートリーを広げているギルバート。都響と新たな境地を創り上げる意欲が感じられるドラマティックな曲をセレクトした。R.シュトラウス:交響詩『ドン・キホーテ』とリムスキー=コルサコフの『スペイン奇想曲』では、都響のメンバーがソリストとしてフィーチャーされるのも聴きどころ。『ドン・キホーテ』ではソロ首席ヴィオラ奏者 鈴木学が、ゲストのチェリスト ターニャ・テツラフとソロ・パートを演奏し、『スペイン奇想曲』ではヴァイオリン、クラリネット等で都響の首席奏者たちのソロを聴くことができる。『ドン・キホーテ』も『スペイン奇想曲』も指揮者とオケの呼吸感がものをいうエネルギッシュな楽曲。その瞬間に降りてくるひらめきをキャッチした、エキサイティングな掛け合いを聴かせてくれるはず。ビゼーの『カルメン組曲』はアラン・ギルバート・セレクションで、「音楽で物語を語りたい」という彼のこだわりが強く表れている。オペラの王道の中の王道ともいえる『カルメン』を歌なしでオケに歌わせる自信があるのだろう。都響も、頻繁ではないが東京二期会のピットや東京・春・音楽祭でオペラの成功を支えてきた功績がある。ギルバートが求めるオペラ的な次元に、冴えたレスポンスをしてくれるのが楽しみでならない。同じスペインを主題にしていながら、異なる国の作曲家を三人並べる自由さも「無限」が似合うギルバートらしい。ボーダーレスで冒険的なプログラムには、ユーモアも感じられる。若くしてニューヨーク・フィルの音楽監督に抜擢され、50代を迎えて指揮者としての本格的な円熟期に入ったアラン・ギルバート。つねに新しい何かを待っている都響とギルバートの出会いは必然だった。両者にとっての未知の次元を切り拓く、華やかなスパニッシュ・プログラムに期待。文:小田島久恵(音楽ライター)
2018年12月07日7月の首席客演指揮者就任披露コンサートでは、未知数で柔軟性に富んだシューベルトとマーラーを振り、あらためて都響との相性の良さを聴かせてくれたアラン・ギルバート。10月にはNDRエルプ・フィルを率いて来日したばかりだが、12月に再び都響に戻ってくる。オーケストラとのさらなる可能性を追究した最新のプログラムは指揮者の音楽に対する貪欲な姿勢と、都響との爆発的な化学変化(ケミストリー)が期待される内容だ。チケット情報はこちら定期Bシリーズと都響スペシャルでは、メンデルスゾーン:序曲『フィンガルの洞窟』とシューマン『交響曲第1番《春》』、そしてストラヴィンスキー『春の祭典』という「春」をフィーチャーした曲が並ぶ。シューマンはギルバートのベスト5に入るお気に入りの作曲家で、『春』はその中でも親しみを感じる曲だという。スコアは複雑でハードルは高いが、指揮者がオケとの関係を深めるために選んだ攻めの一曲。2019年にはブルックナーの『交響曲第4番《ロマンティック》』も都響と共演する予定だが、その布石となる世界観が形作られていく予感がする。ストラヴィンスキーの『春の祭典』にも期待。20世紀を代表する名曲にして、初演のパリで大きな物議を醸した問題作を、ギルバート×都響はどのように聴かせるか。「私は音楽で物語を語りたい」というギルバート、音響的な衝撃性にもまして、音楽のテーマとなった古代ロシアの生贄の儀式を浮き彫りにする全体像をイメージしているはず。不協和音と変拍子に彩られたバレエ・リュスの異形の舞台を、デラックスな都響サウンドで再現してくれそうだ。ギルバートの指揮の魅力は、伝統の重さとモダンでエレガントな軽さが表裏一体になっているところ。変幻自在で予定調和に陥るということがなく、予想外の瞬間に音楽が突然巨大化することがある。指揮者がやりたいことをイメージ通りに演奏する、クオリティの高いオーケストラのレスポンスが求められるのだ。精緻なアンサンブルと演奏技術によって、ハイレベルなスーパー・オーケストラとしての地位を不動にしている都響にとって、いくつもの「想定外」を投げかけてくるギルバートはまさに待ち望んでいた未来の指揮者だといえる。12月には2種類のプログラムが組まれており、どちらも聞き逃せない刺激的な選曲。コンサートでは魔法の瞬間が何度も訪れそうだ。文/小田島久恵(音楽ライター)
2018年11月21日日本フィルハーモニー交響楽団の11月23日(金・祝)の東京・オーチャードホールでの特別演奏会《ロシアン・セレブレーション》と、11月24日(土)の神奈川・横浜みなとみらいホール大ホールで行われる横浜定期演奏会にソリストとして参加し、チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調』を演奏する小林美樹。既に日本フィルとは2017年の九州ツアー(指揮・広上淳一氏)で共演済みだが、桂冠指揮者アレクサンドル・ラザレフ氏との顔合わせは今回が初となる。若手演奏家の中でも躍進めざましい彼女に、2日連続演奏会の抱負をたずねた。【チケット情報はこちら】「今年になってからチャイコフスキーを演奏する機会が続いたので、9月にサンクトペテルブルクとモスクワを旅行したんです。日本ではまだ残暑の季節だったのに、ロシアは4度しかなくて…サンクトペテルブルクではチャイコフスキーのお墓参りもしました。初めて訪れる国で、行く先々で“日本とは全然違う!”と驚きを経験しました」チャイコフスキーのコンチェルトは過去にも4回演奏しているが、毎回違ったアプローチになると語る。「本番では興奮してしまうのか、リハでやらなかったことも色々加えてしまうのですが、日本フィルさんは必ず合わせてくださるから安心なんですよ。チャイコフスキーのコンチェルトは、色々ヴァイオリン協奏曲の名作がある中で、華やかさとスケール感で抜きんでていると思います。テクニック的な難易度よりも、息の長さに圧倒される曲ですね。ロシアの第一印象は、冬が長い国だということ。冬の寒さに耐え忍んで春を待つ感じと、息が長くて息継ぎが出来ない苦しさをオーバーラップさせながら、曲のイメージを膨らませているんです」ソロリサイタルや室内楽、コンチェルトの他、オーケストラの中で弾く経験も大切にしているという彼女。「宮崎国際音楽祭では、チャイコフスキーの交響曲の4番と5番と6番に乗りました。オケの中で弾いていると、あれだけヴァイオリン奏者がいる中で、ソリストには全く別の役割があるのだなと実感します。重要なのは音量より音の質感ですね。丸みのある音だとソロとして響かないことがあり、主役として際立たせる音が必要なのですね」2日間の演奏会は、すべてノーカット版で演奏する。ラザレフとのリハーサルは「怖そうだけど楽しみ」と無邪気な表情。ロシアを祝福するこのプログラムの後半では、プロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』(ラザレフ版)がプログラミングされているが、これは7年前の震災の当日と翌日に、ラブレフと日本フィルが非常事態の中、コンサートで演奏した特別な曲。感動もひとしおになるはずだ。両公演のチケットは発売中。取材・文:小田島久恵
2018年11月08日バレエ芸術というジャンルは、この世に存在する男性の中でも最も美しい男性たちが1点集中しているという点で、特異なアートなのかも知れない。ヴァイオリンのストラディバリウスに匹敵するのが生まれながらの容姿なのだから、その芸術的価値は億単位である。世界バレエフェスティバル(WBF)で目撃できる男性美を換算したら、どれくらいになるだろうか…美、美、美の瞬間の連続に、何度も通いたくなってしまう。美はカウントレスなのだ。【チケット情報はコチラ】ロベルト・ボッレの美は奇跡である。現在43歳の彼だが20代の頃と比べて容姿も表現も衰えるところがなく、むしろ妖艶さや華麗さを加えていて、見るたびに「今こそが全盛期」と思う。非常に若い頃から成功していたボッレは、WBFに登場するベテラン・プリマともほとんど共演を果たしている。フェリやオレリーとのバックステージでの再会には、リユニオン的な雰囲気が漂うのではないかと思う。クラシックもコンテンポラリーも優美に踊るボッレの芸術性は多くの振付家を触発したが、内面的な魅力も大きく、稽古やリハーサルを見ていてもすべてがアーティスティックなのだ。ステージの上でもステージを降りても人々を魅了する特別なオーラは、やはり大スターのものだ。どのアングルから見ても完璧に美しい…何をやっても美しい…という共通点をもつのがパリ・オペラ座バレエ団の天然王子マチュー・ガニオ。デニス・ガニオとドミニク・カルフーニを両親に持つバレエ界のサラブレッドである彼は、19歳でエトワールに昇格したときから「立っているだけでも絵になる」と完璧な美を賞賛されてきた。華やかな経歴の裏ではケガも多く、葛藤の多い時代も経験してきたが、30代を超えてからのガニオには何か吹っ切れたような清々しさがある。技術はますます磨きこまれ、表現に深みが加わり、ノーブルで優しいオーラに包み込まれている34歳の彼は、間違いなく「今が旬」の踊り手であると思う。WBFではベストなパートナーシップを築いているドロテ・ジルベールとマクミランの『マノン』とヌレエフの『シンデレラ』を披露する。美しい男性しか舞台にいないこの世界でも、さらに眩しい美に恵まれた貴公子たちを見ていると「神に愛されし者」とはこういう人なのだなと思う。ボッレと同様、ガニオもとても性格がよく、彼を知る人々は人間としてのガニオを信頼し愛している。神は美男に二物も三物も与えているのだ。ロベルト・ボッレ、マチュー・ガニオが出演する第15回世界バレエフェスティバル(Aプロ、Bプロ)は8月1日(水)から12日(日)まで、東京・上野の東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。文:小田島久恵
2018年07月27日オレリー・デュポンとタマラ・ロホ。世界バレエフェスティバルの常連スターであるこのふたりの女性には多くの共通点がある。それぞれパリ・オペラ座バレエ団のエトワールと英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとして10数年に渡る黄金期を築いたのち、オレリーはパリ・オペラ座バレエ団、タマラはイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の芸術監督のポストにつき、カンパニーを意欲的に先導している。世代的にも同年代であり(1973年と1974年生まれ)、完璧なテクニックとチャーミングなルックスで世界中のファンを虜にした。20代の愛らしい姿に見惚れていた頃は、ふたりがこんなにもパワフルな未来を手に入れるとは思ってもみなかった。【チケット情報はこちら】2017年はこのふたりの「凄さ」を実感する年だった。2月にパリ・オペラ座バレエ団を率いて来日したオレリーはミルピエ振付の『ダフニスとクロエ』でクロエ役を踊り(日本公演のみの特別出演)、7月にイングリッシュ・ナショナル・バレエとともに来日したタマラは『コッペリア』のスワニルダと『海賊』のメドゥーラを踊った。衰えることを知らぬ舞台での華に加え、推進力のあるリーダーシップも発揮し、ふたつの来日公演ではふたりのプリンシパルも誕生した。オレリーによってエトワールに指名されたユーゴ・マルシャンと、タマラによってプリンシパルに昇格したセザール・コラレスの輝かしい表情は、日本の観客にとって忘れえぬものになったのだ。ふたりの芸術監督が日本の舞台と観客を大切に思っている証のような出来事だった。ダンサーとしてはますます自由な境地を切り開いているオレリーが世界バレエフェスティバルで踊るのは、ノルウェーを拠点に活躍する振付家アラン・ルシアン・オイエンによるデュエット作品『・・・アンド・キャロライン』。映画『アメリカン・ビューティ』に想を得て振り付けられたという、現代社会の闇を描いた作品だ。タマラは自らのカンパニーのプリンシパルであるイサック・フェルナンデスとアロンソ振付の『カルメン』とハンス・ファン・マーネン振付の『HETのための2つの小品』を踊る。タマラとイサックはバレエフェス創始者の佐々木忠次氏の追悼公演〈Sasaki Gala〉では『ドン・キホーテ』(プティパ振付)も披露する。パリ・オペラ座と英国ロイヤル・バレエ団のふたつの名花を、長年にわたって見ることが出来る日本の観客は幸運としか言いようがない。変わらぬ美しさ華やかさ、そしてスター・バレリーナならではの大きなオーラで客席を魅了してくれそうだ。オレリー・デュポン、タマラ・ロホが出演する第15回世界バレエフェスティバル(Aプロ、Bプロ)は8月1日(水)から8月12日(日)まで、東京・上野の東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。文:小田島久恵
2018年07月19日伝説のバレリーナが世界バレエフェスティバルに12年ぶりに登場する。1963年生まれの大スター、アレッサンドラ・フェリ。【チケット情報はこちら】彼女が2013年に復帰したとき、「えっ」と驚いたバレエ・ファンは多かったはず。1980年代から第一線で活躍するイタリア人ダンサーで、振付家ケネス・マクミランのミューズだった。マノンやジュリエットもフェリが踊ると別の物語のように情熱的になり、音楽も深い陰影を帯びた。2000年のWBFでマラーホフと『椿姫』を踊ったときは妊娠中だったが、大胆なリフトにも怖気づかず、逆にマラーホフが彼女を気遣って神経質になっていたのを思い出す。英国ロイヤル・バレエ団の名花として活躍したのちアメリカン・バレエ・シアタ―に移籍し、ジゼルやジュリエットなど多くのドラマティックなヒロインを演じた。2007年に日本でも引退公演を行ったが、復帰後はノイマイヤー振付『ドゥーゼ』、ウェイン・マクレガー振付『ウルフ・ワークス』に出演。エルマン・コルネホとのパートナーシップで新たな黄金期を築き上げている。技術的な衰えが全く感じられないのが信じられないが、今の彼女でしか見られない深い表現力にも注目だ。フェリと同じく小柄な体格で、客席の視線を独り占めしてしまうダイヤモンドのようなダンサーが、大人気スターのアリーナ・コジョカル。今年5月に来日した英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団での『眠れる森の美女』のオーロラも記憶に新しいが、去年の秋に出産をして短期間で復帰を果たした奇跡のバレリーナでもある。古典からノイマイヤーの『リリオム~回転木馬』のような人間の心の痛みを描き切ったドラマティックなバレエまで完璧主義のテクニックで踊り、音楽性も演劇性も世界最高峰のレベル。愛らしいルックスと優雅なオーラは生まれつきのプリンセスのようだが、プリンシパルをつとめたキエフ・バレエを1年で退団したあと、英国ロイヤル・バレエ団に移籍してコールド・バレエから登り詰めたという叩き上げの経歴ももつ。現在はハンブルク・バレエとイングリッシュ・ナショナル・バレエに定期的に出演。舞台に現れただけで空間全体が明るく輝きだす存在感は、やはり神に選ばれたダンサーならではのもの。バレエ・ファンを魅了してやまない愛くるしさと、どこまでも求道的でストイックな生き方が魅力的だ。彼女が踊り続ける限り、1回でも多くその姿を目に焼き付けたいと思っているファンは多いはず。絶頂期のプリマの輝きを見逃すべからず。アレッサンドラ・フェリ、アリーナ・コジョカルが出演する第15回世界バレエフェスティバル(Aプロ、Bプロ)は8月1日(水)から12日(日)まで、東京・上野の東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。文:小田島久恵
2018年07月09日今年4月より東京都交響楽団の首席客演指揮者となったアラン・ギルバートの就任披露公演が7月15日(日)・16日(月・祝)に東京・サントリーホール大ホールで開催される。過去の客演で都響との奇跡的なコラボレーションを実現し、再会のたびに聴衆を熱狂させたギルバート。2009年から2017年まで音楽監督を務めたニューヨーク・フィルの2回の来日公演でも世界レベルの名演で聴衆を湧かせ、アップデイトされたクラシック音楽の「現在」を示してくれた。ヨーロッパで研鑽を積み、正統派のドイツ音楽の真髄を知り尽くしたギルバートは、同時に現代的なニューヨーカーでもあり、ジャズとドラム演奏を愛するフレンドリーな人物でもある。【チケット情報はこちら】都響との初共演は2011年7月。東日本大震災と福島原発事故で来日キャンセルが続く中、日本にルーツをもつギルバートは迷いなく来日し、ブラームスの『交響曲第1番』を指揮した。求心力のある精緻でダイナミックな演奏は、格式高く荘重で、同時にオーケストラの無限の自由を引き出す内容だった。2016年1月にはベートーヴェン『交響曲第7番』を、同年7月にはマーラー『交響曲第5番』を共演。都響とギルバートとのケミカルは疑いようもなく、聴衆もさらなるパートナーシップを期待したのだ。首席客演指揮者就任披露公演ではマーラー『交響曲第1番《巨人》』(2014年クービク新校訂全集版・ハンブルク稿にもとづく『花の章』つき)とシューベルト『交響曲第2番』を演奏する。都響とマーラーの強い結びつきは桂冠指揮者エリアフ・インバルとの2回にわたるツィクルスでファンの記憶に刻印されているが、ギルバートがいたニューヨーク・フィルとも縁が深く、マーラーは常任指揮者として死の直前までこのポストにあった。すでに2年前の5番で都響のマーラーの卓越したレスポンスを経験済みのギルバート。「巨人」の謎めいた部分や、妖精や異形のキャラクターが飛びかう幻想性を描き出してくれそうだ。7月21日(土)には東京・東京芸術劇場でドヴォルザーク『交響曲第9番《新世界より》』バーンスタイン『ウエスト・サイド・ストーリー』より『シンフォニック・ダンス』、ガーシュウィン『パリのアメリカ人』というプログラムも組まれ、すべてニューヨーク・フィルで初演された作品を都響と演奏する。こちらはニューヨークからの風を感じる活気ある演奏会になりそうだ。都響とギルバートの新しい船出となるセレモニーを聞き逃すべからず。文:小田島久恵(音楽ライター)
2018年07月03日2018年10月、北海道から九州まで日本を縦断する壮大なオペラ・プロジェクトが始動する。札幌文化芸術劇場hitaru、神奈川県民ホール、兵庫県立芸術文化センター、iichiko総合文化センター(大分)と、東京二期会、東京フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団の7団体が提携して、ヴェルディのグランド・オペラ『アイーダ』の上演が決まった。指揮はイタリアの若手マエストロ、アンドレア・バッティストーニ。アイーダには国際的プリマの木下美穂子、ラダメスには日本を代表するテノールの福井敬、アムネリスには活躍目覚ましいメゾ・ソプラノの清水華澄らがキャスティングされ、オリジナル演出(ジュリオ・チャバッティ)でのツアーが行われる。「この『アイーダ』は札幌文化芸術劇場hitaruのこけら落し公演となります。新しい劇場が世界から愛されるようにつとめたい」(札幌文化芸術劇場hitaru 専務理事畠山茂房氏)バッティストーニは2016年から東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務めているが、昨年の9月には札幌交響楽団との共演も果たしている。「新しい劇場のこけら落し公演に出演することは大きな名誉です。劇場とは、単なるエンターテイメントの場ではなく、人々の内面を教育し、感情を分かち合い、お互いをリスペクトしあう場で、札幌市民のみなさんにとって新しい劇場は大きな贈り物です。私自身にとっては、日本で友情を育んできた二期会、東京フィルというプロフェッショナルとの大きな達成を聴いていただく機会になると思います。『アイーダ』は規模の大きな歴史劇であると同時に、人間の内面を深く描いた名作で、私自身も故郷のヴェローナで初めてこのオペラを見たとき、大きな感動に包まれました」(アンドレア・バッティストーニ)「ヴェルディは『イル・トロヴァトーレ』もそうですが、中期のオペラで戦闘シーンをほとんど描いていないのです。『アイーダ』は、これぞイタリア・オペラ、というグランド・オペラですが、本質にあるのは「人間は究極的には愛に生きる」という深い真理なのではないかと思います」(テノール福井敬)「2011年に震災が起こった時、私は自宅でアムネリスの稽古をしていました。テレビで津波の映像を見て、何もできない自分の無力さに打ちひしがれ、その日から公演を行えること自体が奇跡なのだと思うようになりました。オーケストラの響きを愛しているので、札幌交響楽団さんとの初共演が楽しみでなりません。全身全霊で演じて、お客様に喜びを与えられればと思います」(メゾソプラノ清水華澄)日本中にアイーダの嵐が吹き荒れる10月になりそうだ。取材・文:小田島久恵
2018年03月23日ソロ・リサイタルや室内楽で頻繁に来日公演を行っているピアニストのニコライ・ホジャイノフ。2018年1月のワルシャワ・フィルとの共演で再び日本の地を踏む。チケット情報「ワルシャワ・フィルとは何度も共演していますが、何と言っても一番強烈だったのはショパン国際ピアノコンクール(2010年)のファイナルです。演奏の途中に電気が消えてしまって…あのような経験は初めてでした(笑)。しかし、指揮者とオーケストラと非常にいい関係が築けていましたから、あのアクシデントは何の妨げにもなりませんでした。1月に共演する指揮者のヤツェク・カスプシック氏とは初共演になりますが、サンクトペテルブルクでの白夜祭でマリインスキー歌劇場管弦楽団の指揮をされている映像を見て非常に感銘を受けました。ルトスワフスキの協奏曲でしたが、音楽をとても生き生きと活気づかせていたのです」忘れ難いコンクールのファイナルでワルシャワ・フィルと弾いたショパンの『ピアノ協奏曲第1番』を再び演奏する。「ショパンのコンチェルトは今でも1番、2番とも頻繁に演奏しますし、そのたびに新しい発見があります。偉大な音楽ですから、イントネーションにしてもフレーズにしても、つねに新鮮なものが見つかるのです」語学も達者で、YouTubeでの日本語でのトークが毎回話題になっているホジャイノフ。その国の文化と言語は、音楽とも密接に関係していると語る。「ある作曲家の作品を演奏するときは、必ずその時代や文化について学びます。どのような背景があってその作品が生まれたのか…その国の文化を知る必要があります。そして文化が一番反映されているのが言語です。日本の作曲家を演奏するときは、もっと日本語を学ぶことになるでしょうね。なぜ日本でこれだけショパンが人気なのかは…『平家物語』に端を発しているのではないかと思います。武士は切腹をする前に「辞世の句」を読みますが、あれほど激しい行為の前に詩を読むというのは、日本人の両極端の性格を感じます。ショパンにもそうした極端な要素がありますし、日本人が非常に高い美意識を持っているように、ショパンも高い美意識を持っている。ショパンのセンシティヴなまでに心に染み入る美が、日本人の感性に合うのでしょう」絵画にも詳しいホジャイノフは、彼の教師であるアリエ・バルディに招かれて、テルアビブのテレビでムソルグスキーの肖像と彼の音楽について語ることもあるという。「作家と音楽家、詩人と画家と作曲家はかつて、みんな同じ場所に集まって芸術について語っていました。音楽を掘り下げていこうとすると自然と他の芸術に関心を持つようになるのではないかと思います」言語と詩と絵画と音楽…ホジャイノフの頭の中には膨大な美のイディオムが蓄えられている。1月のコンチェルトでも聴衆を啓発してくれそうだ。公演は東京・サントリーホール 大ホールにて、1月15日(月) 19:00開演。チケット発売中。取材・文小田島久恵
2017年12月20日YOUTUBE再生回数は一億回を超え、ヨーロッパ、北米・南米でスタジアム級の会場を満員にしている超ホットなイタリア男子3人組のヴォーカル・ユニット「イル・ヴォーロ」。11月27日、イタリア大使館で行われた記者会見には元気いっぱいな姿で登場し、イタリア人らしい陽気なジョークで会場に集まった記者たちを湧かせた。「日本に来られて大変ハッピーです。日本の女性はみんな美しくて、それだけではなくとても洗練されていますね」と語ったのはイケメン担当(?)のジャンルカ。女性向けのファッション媒体も多く集まった会場を一気に活気づけ、アモーレの国の男子のパワーを見せた。「日本に来て食べたいものは?」という質問には、間髪入れずメンバーの中でも一番ひょうきんなイニャツィオが答える。「寿司が最高です。寿司の繊細さは素晴らしいですよ。僕たちが知っている寿司はアメリカを経由してイタリアに伝わってきた寿司で、本物の寿司ではなかったのです。寿司は毎日でも食べたいですね」。実力派のヴォーカリストとして14、5歳の頃から頭角を表していたという3人。「祖父の世代から音楽好きの一家で、両親は三大テノール(パヴァロッティ、ドミンゴ、カレーラス)をよく聞いていました。イル・ヴォーロが目標とするのもそうした偉大なテノールですが、最終的には自分たちならではのオリジナリティを磨いて、イタリアを代表するグループになれたらいいと思っています」こう語るのは、眼鏡がトレードマークのピエロだ。「僕たちは3人ともテノール。声の特徴も違うし、ダイナミック・レンジも少しずつ違います。そうしたことを配慮しながら、曲の配分を行っているんですよ」とイニャツィオが付け加える。磨き抜かれた美声とドラマティックな曲調がフィギュアスケート界でも話題となり、羽生結弦やエフゲニー・プルシェンコも彼らの曲をエキシビジョンに使用したほど。全員が20代前半という若さだが、ドラマティックな表現力はベテランの域に達している。チャームポイントの髭について質問されると「イタリアの床屋が全員倒れてしまったから、伸ばしっぱなしなのです」とまたジョーク。「僕たちはイタリア人なので、今日一日を精いっぱい生きることがポリシーなのです」と語る3人は、コンサートでもとびきりの元気をファン与えてくれそうだ。12月1日(金)のカルッツかわさきの公演では、当日券販売予定。気になる方はお見逃しなく!取材・文:小田島久恵
2017年11月30日気鋭の指揮者フィリップ・ジョルダン率いる名門オーケストラ、ウィーン交響楽団が来日中。11月24日に都内で記者懇親会が催された。首席指揮者のジョルダンと同楽団インテンダントのヨハネス・ノイベルトを囲み、ツアーへの意気込みやオーケストラのレーベル運営・プログラミングについての詳細が語られ、活発な質疑応答が繰り広げられた。ウィーン交響楽団 チケット情報「ウィーン交響楽団の来日公演は今回が17回目となります。ヴォルフガング・サヴァリッシュ氏との初来日は1967年でしたが、当時のことを遡って調べたところ、同じベートーヴェンの『交響曲第5番』が演奏されていました。我々のオーケストラで最も頻繁に演奏されてきた曲で、これまで554回を数えています」(ヨハネス・ノイベルト)「前回日本に来たのは2007年で、PMFのオーケストラと室内楽を指揮しました。ウィーン響とは就任以来、戦略的なプログラミングを組んできて、初年ではシューベルトのツィクルス、2年目はバルトークとベートーヴェンのピアノ協奏曲のカップリング、3年目には楽団としては20年ぶりとなるベートーヴェン交響曲全曲演奏を果たし、4年目となる2017年1月には中国でベートーヴェン・ツィクルスを演奏しました。3~4月には全曲のレコーディングも行っています。2017年になぜベートーヴェンなのかという必然性も考えています。2020年にベートーヴェン・イヤーを迎えるにあたり、ベートーヴェンをモニュメントとしてではなく、ひとりの人間として捉え直す機会だと思ったのです」(フィリップ・ジョルダン)メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』ではソリストに樫本大進が参加。「これは大変画期的なことで、彼は素晴らしいソリストであるだけでなく、ベルリン・フィルのコンサートマスターであり、オーケストのことを知り尽くしている演奏家です。互いにプラスになる共演で、素晴らしい相乗効果を期待しています」(ジョルダン)マーラー『交響曲第一番・巨人』とブラームス『交響曲第一番』については「ウィーンと強い絆があり、ドイツ系のオーケストラとは異なるオーストリアのサウンドを届けたい」と抱負を語る。オーボエ、ホルン、ティンパニも楽団の伝統を引き継いだ楽器で演奏され、「ウィーンの真髄」を発揮するサウンドになるという。伝統と若いエネルギーが組み合った、特別な演奏会となりそうだ。東京公演は12月1日(金)・3日(日)にサントリーホールにて開催。チケット発売中。文:小田島久恵
2017年11月27日日本人の若手テノール歌手の中でも際立ったスター性に恵まれ、実力・人気ともに鰻登りの西村悟。得意とする『椿姫』や『ラ・ボエーム』などのイタリアオペラのみならず、日本語オペラ『夜叉ケ池』や、先日大成功を収めた日本フィルの演奏会形式『ラインの黄金』のローゲ役など、レパートリーの拡大もめざましい。その西村が、自らのプロデュース公演としてオーケストラとのリサイタルを行う。歌手自身が指揮者とオーケストラに出資して行う大規模な公演で、日本ではこうしたソリスト発信の試みはまだ珍しい。【チケット情報はこちら】「今までイタリアのボローニャとヴェローナで勉強をしてきたのですが、その成果を聴いて頂くという目的もあるリサイタルです。忙しい山田和樹さんが共演してくださることになって、オーケストラも山田さんが正指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団に決まり、この素晴らしいチャンスに感謝しています。山田さんや日フィルと築いてきた信頼関係がようやく実になった。一世一代の試みではありますが、満員のお客さんの前で歌えることを願っています」身長183センチの長身とステージ映えするルックスは、デビュー当時から注目の的だったが、元々はバスケットボールに打ち込んでいて、声楽を始めたのは高3のときだった。「音楽教師になるつもりで音大に進んだのですが、先生のアドバイスもあって芸大の大学院の試験に挑戦し、芸大在学時代にイタリア留学のチャンスもいただきました。歌はスポーツにとても似ているんです。バスケットでダンクしたり、柔道で一本背負いをする感覚と、テノールで高音を出す感覚というのは共通したものがある。歌手も筋肉を使い、使った後はケアしますしね」声量の豊かさとピッチの良さ、そして真に迫った演技力は、アスリート的な鍛錬とも関係があるようだ。リサイタルではこれまで歌いこんできたヴェルディやプッチーニ、ドニゼッティのイタリア・オペラのハイライトをメインに歌う。「悲劇的なオペラからのアリアが多いですが、僕自身悲劇が大好きだし、最も自分の音楽性が表現できると思っています。字幕なしでも歌詞の内容が分かる歌を歌うのが目標ですね。表情や音色、音量、手の仕草や目線などで文字なしでも伝えられるものがあると思います」何よりお客さんの前で歌うことが喜びだと語る。謙虚で誠実でユーモアセンスもある、未来の国際派テノールだ。公演は10月11日(水)午後7時より、東京オペラシティコンサートホールで開催。チケットは発売中。取材・文:小田島久恵
2017年07月19日ヴェルディ、プッチーニなどのイタリアオペラを始め、三島由紀夫の小説をオペラ化した『金閣寺』や、軽妙洒脱なオペレッタ『チャールダーシュの女王』、ミュージカル『三銃士』でも、シャープで洞察的な演出が大きな話題を呼んだ演出家・田尾下哲。数多ある演出の可能性から「原典」と「スコア」の分析を重要視し、入念なプランによって全体を構成していく手法は、多くのプロダクションで優れた演劇効果を上げている。モーツァルトの『後宮からの逃走』はテーマ的にもとても難しい、という田尾下さんのコメントからインタビューははじまった。オペラ『後宮からの逃走』全3幕 チケット情報「ドイツ語の翻訳をドラマトゥルクの庭山由佳さんと見ていって、原語をそのまま日本語のセリフに移し換えて上演するのは大変難しいことに気づきました。テーマが、宗教差別や人種差別を扱っているので、いわゆる今日的な状況では『不適切な表現』が数多く出てくるのです。ですから、ドイツ語で理解した上で原作にある偏見を洗い流した台本を編み直しました。演出プラス、上演台本を担当するという形になっています」通のオペラファン以外は、ストーリーを知らない観客も少なくない『後宮からの逃走』。物語の神髄を伝えるために重要な役として浮上してきたのが、黙役であるトルコ太守セリムだという。俳優の宍戸開さんが演じる。「オペラの序曲で、セリムが南アフリカ時代にどういう目にあい、どういう人間関係を経験して今に至るかを、パントマイムや合唱の方の芝居で表現する予定です。モーツァルトのオペラで、これほど黙役が大きい意味をもつものは存在しないんですよ。歌わない役の「赦し」がこのオペラの大きなテーマになっている…だからこそ婚約者への貞節を誓うコンスタンツェの信念の強さが意味をもつんです。セリムが許すことで、心の中で犠牲にしなければならなかったもの…たとえば復讐心といったものを表していかなければと思います。「赦す」って、生ぬるいことではないんですよ」指揮者の川瀬賢太郎さんは、長い間年上の指揮者としか仕事をしてこなかった田尾下さんにとって、一回りも年下世代のマエストロ。川瀬さんからの質問には、こんな答えが。「どこで演出のアイデアを考えるか? というと、場所は関係なく楽譜を見ているときに色々思いつきます。特にオーケストラのフルスコアを見ていると色々なイメージが湧くんですよ。モーツァルトで一番好きなオペラは、『フィガロの結婚』で、次に川瀬さんとやりたいのも『フィガロ』がいいですね。(田尾下さんは天然ですか?の質問には)どちらかというと計算ずくです。アシスタント時代が長かったので、人を言葉で傷つけないように意識的に振る舞うことを心がけています。いつも冷えピタシートを貼っているのは…片頭痛のせいです。脳がオーバーヒートすると頭痛が起こるので…でも、友人のすすめで先日MRIを撮影して、異常がないとわかってから、片頭痛も起こらなくなりました(笑)」11月11日(金) から11月13日(日)まで東京・日生劇場にて。取材・文:小田島久恵
2016年10月12日11月に日生劇場で上演されるモーツァルト作曲『後宮からの逃走』(ドイツ語歌唱・日本語台詞)を振る川瀬賢太郎。1984年生まれの若い世代に属する指揮者である川瀬は、早い時期から実力派のスター指揮者として人気を集めてきた。能舞台を使った日本のオペラを指揮した経験はあるが、ピットに入る本格的なオペラは本作が初挑戦となる。「まだ歌手たちとの関係が初々しい(本人談)」稽古の2日目に、インタビューを行った。オペラ『後宮からの逃走』全3幕 チケット情報「『後宮からの逃走』はモーツァルトが26歳のときに作曲したオペラで、歌手のパートにはすごく難解なものが求められます。器楽的で繰り返しも多く、ひとつのアリアがとても長い。そこにどういう価値を見出していくかがこれからの作業です。音楽家としてモーツァルトというのは避けて通れない作曲家ですし、このオペラを経てシンフォニーやコンチェルトの理解も深まっていくと思いますね。経験があって豊富なアイデアを出してくる歌手たちと、作品に対してほぼ白紙の歌手がいて、後者に関しては僕がしっかりリードしていくつもりです」10年以上前に、日生オペラで『後宮…』が上演されたときも、この作品を見ていたという。指揮は広上淳一氏だった。「広上先生にはリハーサルも何度か見せていただいて、桜新町の稽古場に通ったことを覚えています。当時は大学二年生で、そのときはまさか自分が振るとは思っていなかった。読響さんとは約1年ぶりの共演になりますが、色々ディスカッションしながら、いい緊張感で作っていきたいですね。編成を刈り込んでいって、ティンパニも小さめのものを使う予定なんですよ」ここ何年も多忙なスケジュールが続いていたが、このオペラの稽古に集中するため、一か月間全くオーケストラの本番を入れていないという。「僕が働いている名古屋フィルも神奈川フィルもシンフォニーがメインだから、オペラ指揮者として僕は全くの新参者です。最終的には家族となる歌手やスタッフも含め、皆さんと時間を重ねてひとつのものを作っていきたい。そういう作業が嫌いだったら、オペラの仕事は断わっていますよ。僕は10年単位で自分の将来を考えるので、40歳に向けてオペラを中心的にやっていきたいというプランがあるんです」鞄にはモーツァルト関連の書籍と、アーノンクールのテンポに関する本が入っている。高価なベーレンライター版の布カバーの楽譜も「高価だけど、一生ものだから」と迷わず手に入れた。日々楽譜と睨み合いながら、歌手たちとのクリエイティヴな稽古を続けている。若きマエストロに、期待は募るばかりだ。公演は11月11日(金) から11月13日(日)まで東京・日生劇場にて。なお、チケットぴあでは10月8日(土)午前10時より帝国ホテルラウンジでのドリンク付チケットを販売。また、10月12日(水)には演出の田尾下哲のインタビューを配信予定。取材・文:小田島久恵
2016年10月07日今年1月に5年ぶりの客演を果たし、エネルギッシュなサウンドで聴衆に鮮烈な印象を与えたアラン・ギルバートが、早くもこの7月都響に再登場。1月のオール・ベートーヴェン・プロと、ギルバート自身の編曲のワーグナーを含む近現代プロは、サウンドのすみずみまで熟考された創意が組み込まれ、都響の生き生きとしたリアクションは、オーケストラと指揮者の格別の相性のよさを感じさせた。今回はモーツァルト『交響曲第25番 ト短調K.183』とマーラー『交響曲第5番嬰ハ短調』を演奏する。3回目の顔合わせで、都響がレパートリーとして誇るマーラーを取り上げたことには、大きな期待を抱かずにはいられない。ここで「何かが起こる」のは確実だ。「アラン・ギルバート指揮 東京都交響楽団」の公演情報はこちらギルバートと都響との初共演は2011年に遡る。そのときに演奏されたブラームスの『交響曲第1番』は今でも伝説だ。崇高でドラマ性に溢れ、あの有名な最初の一音からオーディエンスを痺れさせた。09年からニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督を務めるギルバートが都響から引き出した音は、アメリカ的なビッグ・オーケストラのイメージとは趣を異にする、重厚で繊細なハーモニーで、そこにはこの指揮者とオーケストラでしか生起しないユニークな「世界」が存在していた。あれから5年。都響とギルバートの関係はいよいよ本格的な成熟へと向かっている。都響とマーラーの関係はオーケストラの歴史を紐解いても非常に深く、鉄壁のレパートリーであるだけに、「新しい指揮者」がこれに挑むことには大きな注目が集まる。桂冠指揮者エリアフ・インバル氏が「マーラーの交響曲全曲は、長編小説のような世界です」と語り、2年の年月をかけて2度目のツィクルスを完遂させてからまだ間もない。「都響のマーラー」に大きな愛着を感じているオーディエンスもいるかも知れない。一方、アラン・ギルバートにとっても、マーラーは特別なレパートリーだ。マーラーはニューヨーク・フィルハーモニックの常任指揮者であり、オーケストラの質を向上させ礎を築き、その関係は死の年まで続いた。時折バーンスタインを思わせるギルバートの「熱い」マーラーは、彼が「御本家」のマーラー指揮者であることを実感させる。指揮者とオーケストラ、どちらにとっても王道の作曲家であるがゆえに、月並みならぬ化学反応が期待できるのだ。公演は、7月24日(日)・25日(月)、東京・サントリーホール 大ホールにて。文:小田島久恵(音楽ライター)
2016年07月15日ベルリン・フィルのコンサート・マスターとして、今期で任期終了となるサイモン・ラトルとともにベートーヴェン・ツィクルスを完走した樫本大進。2016年は「大進イヤー」と呼びたいほど、多忙を極める彼にとって更に活動的な1年となる。自らが音楽監督として2007年にスタートさせた赤穂・姫路での「ル・ポン音楽祭」は今年で10年目を迎え、これを記念して赤穂での公演を終えたのちにサントリー・ホールでも音楽祭とほぼ同じ内容のコンサートが行われる。樫本大進 コンサート情報「15年前にエリック・ル・サージュの故郷で行われているプロヴァンス音楽祭に招かれたのが、この音楽祭を立ち上げようと思ったきっかけです。ル・サージュとポール・メイエとエマニュエル・パユが音楽監督を務めていて、トップのアーティストたちがノーギャラで集まっているフェスティバルなんですが、温かくてフレッシュで…こういうのを日本でもできたらなぁと思って、故郷の赤穂市の市長さんに話を持って行きました。ル・ポンは「架け橋」という意味なんですが、最初はドイツ語で考えたんです。でも語感が今ひとつで…フランス語にしたらピッタリとはまった。赤穂は人口5万人の小さな町ですが、その名前をヨーロッパにもアメリカにも繋げられるというのは嬉しいことです。お客さんも、最初は地元の方たちがメインでしたが、今では日本全国からも海外からも来てくださるようになりました」11~12月にはパーヴォ・ヤルヴィ率いるドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の来日公演にゲストとして参加し、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏する。「今年は運命的な年で、ベートーヴェンのソナタ全集をリリースして、ベルリン・フィルでもベートーヴェン・ツィクルスをやり、ドイツ・カンマーでもベートーヴェンをやります。きっかけは、パリ管弦楽団で来日していたパーヴォさんに、バーで飲もうと誘われたことで、そこで共演が決まってしまった。パーヴォはとても優しくて、面倒見がよくて、みんな巻き込まれてしまうんです。ドイツ・カンマー・フィルは彼が大切にしているオケで、彼らもベートーヴェンの交響曲全集をリリースしている。僕が理想と思っている音楽との向き合い方をしている指揮者ですから、共演できるのはとても嬉しいです」年末まで大進イヤーの勢いは止まらない。ル・ポン音楽祭10周年記念東京特別公演は10月17日(月)東京・サントリーホールにて。チケットは6月11日(土)より発売。ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団は11月27日(日)横浜みなとみらいホール、12月5日(月)東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルにて開催。取材・文:小田島久恵
2016年06月08日2015-2016年シーズンより108年の歴史をもつウィーンの名門、トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任した佐渡裕。昨年秋には就任コンサートを成功させ、現地の聴衆を涌かせた。トーンキュンストラーとの縁は、いわば向こうからの「ひと目惚れ」。2013年に客演指揮者として招かれ、団員のアンケートで大部分のメンバーから「また来てほしい」というリクエストがあり、たった一度の共演で次期音楽監督の白羽の矢が当たった。トーンキュンストラー管弦楽団 来日ツアー情報「客演のときは3日間練習があって、2曲とも複雑な曲だったんですが、オーケストラの反応がすごく早いなというのが第一印象でした。こちらが注文するとすぐに音が変わる。そして練習の雰囲気がとても健康的なんです。ですから、また客演に呼ばれたら来ようと正直なところ思っていました(笑)」この楽団が拠点とするウィーン楽友協会の大ホール(黄金のホール)で指揮することは、若き佐渡裕の夢でもあった。「1988年にウィーンに渡り、生まれて初めて海外生活をしたわけですが、当時は指揮をする場もなく、バーンスタインのアシスタントとして毎日リハーサルを見学していました。いい思い出もありますが、辛い悶々とした思いもあった。当時はウィーンという街を斜めから見ていたところもあったと思います」「因縁の街」ウィーンに戻ってくるまでに多くの時間を要したが、佐渡の直球勝負の音楽家人生がたどり着いた約束の地がここだった。「108年の歴史があるオーケストラが日本人の指揮者を選んだことにどう応えるのか、というのが最初の最大のミッションですよね。就任に決まってから2年間あったので、任期の3年間の筋の通ったストーリーを考えなくてはと思い、ウィーンで活躍した作曲家のレパートリーを大事にしていくことを僕の方針として決めました」5月の凱旋公演はハイドン、ベートーヴェン、ブラームス、R・シュトラウスというウィーンゆかりの大作曲家の曲が並ぶ。ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」ではアリス=紗良・オットが、「ヴァイオリン協奏曲作品61」では、中国系オーストラリア人のレイ・チェンがゲストで参加。ふたりのソリストの起用には、佐渡の大きな想いが託されているという。「このツアーには僕が伝えたいキーワードがあって、「クロスオーバー」というか、音楽を通して108年の歴史をもった古いオーケストラが文化を越えていく面白さを経験してほしいんです。日本人の血を半分持つアリスと中国系のチェンという現代の若者は、時間を越えてベートーヴェンに真正面から向き合っている。オケがどんどん枠を超えていく面白さを知り、客席の感動と共振していく面白さを楽しんでほしい…それが今回の僕のツアーの一番の目的なんです」情熱的な言葉の奥に、これまでの経験から得た大きな自信を感じさせる。5月の来日ツアーでは、全国で14回の演奏会が行われる予定。取材・文:小田島久恵
2016年03月04日2015-2016年シーズンより108年の歴史をもつウィーンの名門、トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任した佐渡裕。昨年秋には就任コンサートを成功させ、現地の聴衆を涌かせた。トーンキュンストラーとの縁は、いわば向こうからの「ひと目惚れ」。2013年に客演指揮者として招かれ、団員のアンケートで大部分のメンバーから「また来てほしい」というリクエストがあり、たった一度の共演で次期音楽監督の白羽の矢が当たった。トーンキュンストラー管弦楽団 来日ツアー情報「客演のときは3日間練習があって、2曲とも複雑な曲だったんですが、オーケストラの反応がすごく早いなというのが第一印象でした。こちらが注文するとすぐに音が変わる。そして練習の雰囲気がとても健康的なんです。ですから、また客演に呼ばれたら来ようと正直なところ思っていました(笑)」この楽団が拠点とするウィーン楽友協会の大ホール(黄金のホール)で指揮することは、若き佐渡裕の夢でもあった。「1988年にウィーンに渡り、生まれて初めて海外生活をしたわけですが、当時は指揮をする場もなく、バーンスタインのアシスタントとして毎日リハーサルを見学していました。いい思い出もありますが、辛い悶々とした思いもあった。当時はウィーンという街を斜めから見ていたところもあったと思います」「因縁の街」ウィーンに戻ってくるまでに多くの時間を要したが、佐渡の直球勝負の音楽家人生がたどり着いた約束の地がここだった。「108年の歴史があるオーケストラが日本人の指揮者を選んだことにどう応えるのか、というのが最初の最大のミッションですよね。就任に決まってから2年間あったので、任期の3年間の筋の通ったストーリーを考えなくてはと思い、ウィーンで活躍した作曲家のレパートリーを大事にしていくことを僕の方針として決めました」5月の凱旋公演はハイドン、ベートーヴェン、ブラームス、R・シュトラウスというウィーンゆかりの大作曲家の曲が並ぶ。ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」ではアリス=紗良・オットが、「ヴァイオリン協奏曲作品61」では、中国系オーストラリア人のレイ・チェンがゲストで参加。ふたりのソリストの起用には、佐渡の大きな想いが託されているという。「このツアーには僕が伝えたいキーワードがあって、「クロスオーバー」というか、音楽を通して108年の歴史をもった古いオーケストラが文化を越えていく面白さを経験してほしいんです。日本人の血を半分持つアリスと中国系のチェンという現代の若者は、時間を越えてベートーヴェンに真正面から向き合っている。オケがどんどん枠を超えていく面白さを知り、客席の感動と共振していく面白さを楽しんでほしい…それが今回の僕のツアーの一番の目的なんです」情熱的な言葉の奥に、これまでの経験から得た大きな自信を感じさせる。5月の来日ツアーでは、全国で14回の演奏会が行われる予定。取材・文:小田島久恵
2016年03月04日モーリス・ベジャールが50年前に振付け、当時の20世紀バレエ団によってブリュッセルの王立サーカスで初演が行われたベートーヴェン作曲『第九交響曲』。以来、パリのパレ・デ・スポール、モスクワのクレムリン宮殿、ヴェローナ闘技場、メキシコ・オリンピック・スタジアムなど大規模な会場で上演された歴史的傑作だが、長らく再演が行われることのなかった「幻のバレエ」であった。モーリス・ベジャール振付 ベートーヴェン『第九交響曲』チケット情報ベジャールの死から7年が経った2014年、今年創立50周年を迎えた東京バレエ団とベジャール・バレエ団によってこれを日本で観ることができるのは、ひとつの奇跡といっていい。かつて『第九』にダンサーとして参加したピョートル・ナルデリを指導者に迎え、東京バレエ団の稽古が始まったのが3月。10月下旬にはベジャール・バレエ団も合流し、ベジャールの「友愛」の精神を象徴する黒人ダンサーのエキストラも加わった。80人のダンサーが揃ってスタジオに集まった10月30日の稽古は、白熱したムードに包まれていた。この日は合唱が入るフィナーレの4楽章のリハーサルで、ソリストとして重要なパートを担当するベジャール・バレエ団(以下BBL)のアランナ・アーチバルドが裸足でモニュメンタルな振付を踊った。エキゾチックな雰囲気をもつ均整のとれた美しい肢体の女性ダンサーで、ベジャール振付の「バクティ」のシータ神を彷彿させる。強靭でしなやかな動き、難しいポーズでのバランスなど、見せどころの多い役だ。「歓喜の歌」では、BBLの那須野圭右とオスカー・シャコンが登場。彼らは生前のベジャールを知る最後の世代のダンサーだが、エネルギッシュで英雄的なダンスにはベジャールのDNAがしっかりと刻み込まれており、カリスマ的な引力がある。BBLと東京バレエ団とエキストラの80人のダンサーが渦のように連なって大蛇のようになり、宇宙的なエネルギーを放出するラスト近くは、稽古場にも素晴らしい熱気が溢れ出す。音楽が高らかに歌い上げる兄弟愛の凱歌に相応しい昂揚感が、様々な国籍を持つダンサーたちの肉体から放たれていた。共演は来日ツアーを成功させたばかりのイスラエル・フィルと、巨匠ズービン・メータ。メータは2011年の震災時に日本に滞在し、オペラ公演が中止になった翌月に再び日本を訪れて、在京オケの「第九」を振った指揮者である。声楽ソリストとして参加するメゾ・ソプラノの藤村実穂子は、紫綬褒章受賞の朗報が舞い込んだばかり。総勢350名が参加し、ベジャール哲学の最高峰である『第九』を上演するこの祝典は、観た者にとって一生忘れられない「事件」になるはずだ。公演は11月8日(土)・9日(日)東京・NHKホールにて。チケット発売中。取材・文:小田島久恵
2014年11月05日2015年2月1日(日)に東京・オーチャードホールにてデビュー45周年記念コンサートを行う野口五郎が、ぴあのインタビューに答えた。まずは、45周年という歴史を感じさせない、永遠の青年のような風貌を維持し続ける秘訣について「後輩に、『どうしてそんなふうに歌っていられるんですか?』って聞かれることがありますが、答えようがないんです。気づいたらこうなっていただけで。スタッフにも『あまり45周年と言わないでね。内緒にしておいてね』と言ってるんだけど(笑)。限界を作らないほうがいいんですよ。人間って、結構どこまでもいくものですよ。キープしようと思わないで、進化を望めばいい。経験は残っていくけれど、物質的にためこんでいくものではなくて、理由があって空洞のように形が変わっていくのが人生。余計なものを捨てて、あるべき方向に導かれていくのが進化だと思います」と語った。また、これまでの歌手生活で開催したコンサートの数を聞くと、「デビュー当時は、1日3回やってましたから、それをカウントすると3000回はゆうに超えていると思います。当時、歌手は今以上にシリアスで、『歌』を大切にしていました。その時代に、照明と音響のスタッフをパッケージにして、スタジオ・ミュージャンを使い始めたのは、おそらく僕が初めてだったではないかと思います」とのこと。10代の頃から世界中の実力派プレイヤーとレコーディングを行う卓越したミュージシャンであった野口。子供の頃に始めたギターは、13歳で地元の大学生バンドに加入するほどの腕前。11月19日(水)には、ギター、ベース、ドラムスをすべてひとりで演奏・アレンジしたアルバム『Playin’ ItAll』をリリース。同作収録曲は2月のコンサートでも演奏される予定。同作に話が及ぶと「エンジニアもひとりでやっているので、すべて録り終えるのに5か月かかり、その間全くひとりきりの作業でした。女性の曲ばかりを集めたアルバムで、最初は簡単に進むと思っていたのですが…。総合的なアレンジから徹底的に始めてみると、こだわりの強さゆえに終わりが見えなくなってしまって、そのうち『自分は鬼だ』と思うようになりましたね。どうしてこんなに自分自身を苦しめられるのかと。しかし、全部自分でやると、それがどう評価されようと『やることはやった』という気持ちになるものです。すべてのレコーディングが終わって数日たちますが、心にぽっかり穴があいたような気分です」と、現在の心境を明かした。「すべての要素を確実にして、自分のオンリー・ワンと呼べるコンサートにしたいと思っています。自分自身にプレッシャーをかけるのがクセになっているのかも。オーチャードホールのコンサートに向けて、また、鬼になって頑張ります(笑)」と力強く語った。妥協を許さないミュージシャンシップは、今回のコンサートでも十二分に発揮されそうだ。2015年2月1日(日)の公演、チケットの一般発売は11月8日(土)より。(取材・文:小田島久恵)
2014年10月29日2015年2月11日(水)に東京・サントリーホールにて『Ryoko Classics2』を開催する森山良子が、ぴあのインタビューに答えた。『Ryoko Classics』は2013年に第1回が開催。アンコールを望む声が多く寄せられ、その期待に応えて、再びオーケストラとの共演が行なわれる運びとなった。公演ではオリジナル曲に加え、映画音楽やミュージカルのレパートリーも披露される予定。幅広いファンが楽しめる夢のコンサートになりそうだ。まずは、昨年2月にリリースしたアルバム『Ryoko Classics』について話を聞くと、「実は、声楽のトレーニングはつねにずっと続けているんですよ。私が子供の頃に出会った先生がいて、70歳半ばを越えられていますが、今でもレッスンを見ていただいてます。フォルテを出すときにも、正しいイメージの作り方を教えてくださって、声の小さな歪みも正していただける。先生自身も勉強をして、つねに前進されているんです。『Ryoko Classics』にはスペシャルサンクスを捧げたい人がふたりいて、それは音楽に厳しかった母と先生なんです」と語った。さらに、「歌う」ということに話が及ぶと「ピッチ(音程)って、最近ではあまりうるさく言われないものなのかも知れませんが、私は子供の頃から鼻歌を歌っていても、父と母から『低い低い、フラットしてる』といつも注意されていたんです(笑)。音楽はまずピッチありきなんですね。今ちょうどレコーディングの最中なのですが、スタッフはそれほど細かく気にしないんです。私はどうしても正しいピッチで歌いたいので、(コンピューターで)波形を見て、少しでも下がっているとやり直します」とこだわりを見せた。また、今回の公演のように80名のオーケストラと歌う時も発声は変わってくるそうで、「こんなふうに歌っていたのが(ラララ…とリラックスした声)、こんなふうに(オペラ歌手のようにボリュームのある輝かしい声)に変わります(笑)。オーケストラと共演するのは楽しいですよ。オーケストラ・アンサンブル金沢やNHK交響楽団とも共演してきましたが、毎回大きな刺激を受けます。アレンジもオリジナルですから新しい楽譜を作ることも大事な目標になります。クラシックの既成の譜面をそのまま使うのではなく、自分なりのニュアンスが出るスコアを、アレンジャーの方に作って頂いています」と明かした。最後に、来年2月の公演における選曲に関して「クラシカルな楽曲と、私がずっと歌ってきた『さとうきび畑』『涙そうそう』『この広い野原いっぱい』といった“森山良子はこういう曲”というものを盛り込みながら、映画音楽の名曲やミュージカルも歌う予定です。映画から生まれた曲には素晴らしいメロディがたくさんあります。そういった音楽をオリジナルとともに楽しんで頂きたいです」と語った。チケットは発売中。(取材・文:小田島久恵)
2014年10月29日奇跡の復活。昨年肩の不調から復帰を果たし、ますます冴え渡る王者のヴァイオリンで日本の聴衆を魅了したマキシム・ヴェンゲーロフが、今年再び来日公演を行なう。待ちに待った「世界一」黄金の弦を、また聴くことのできる喜びに胸をときめかせている音楽ファンは多いはずだ。6/10からスタートする『ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013』で、三回に渡るコンサートとリサイタルを予定している彼が、一足早く紀尾井ホールに登場した(6/6)。「ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013」の公演情報リサイタルとマスタークラスのプログラム『ヴェンゲーロフと過ごす一日』で、前半のリサイタルではヴァイオリニストの田中晶子と共演。ヴィエニャフスキ『2つのヴァイオリンのための奇想曲 イ短調 Op.18-4』、ショスタコーヴィチ『2つのヴァイオリンとチェロのための5つの小品』から3曲、サラサーテ『2つのヴァイオリンとピアノのためのスペイン舞曲 Op.33』を演奏した。息の合ったコンビネーションで、ヴェンゲーロフの溌剌としたボウイングに耳も目も奪われてしまう。ステージでの立ち姿も堂々として華があり、今再び絶好調の季節にある彼の現在が確認できた。とにかくすごいオーラなのだ。ヴィエニャフスキの奇想曲は無伴奏で、静謐で優美な「歌」が次々と溢れ出す名曲。ヴェンゲーロフと田中晶子のヴァイオリンが描き出す、張り詰めた美しさにしばし言葉を失った。ショスタコーヴィチの小品は、作曲家の作品の中でも明るく快活な映画音楽とバレエ音楽(「馬あぶ」「司祭と下男バルドの物語」「明るい小川」)をL・アトフミヤンが編曲したもので、このレパートリーはヴェンゲーロフも大変気に入っているのだろうか。とても楽しそうな表情でクロイツェル(彼が使用する1727年製のストラディバリウス)を操っていたのが印象的だった。超絶技巧のシークエンスが次から次へとやってくるラストのサラサーテ「スペイン舞曲」は奇跡か魔法のようだ。フラメンコを思い出す情熱的な曲で、体格の良いヴェンゲーロフが全身でリズムを感じながら、サラサーテの極彩色の魔術世界を脳裏に思い描いているのが伝わってきた。ピアノ伴奏との呼吸感も素晴らしい。ヴァイオリン学習者であろう若いオーディエンスは、驚きの目でステージの巨匠を見つめていた。このあとに行われたマスタークラス(日本では初の試み)では、その秘密の片鱗が伝授された。「“弾く”のではなく“歌う”」、彼は目を輝かせながら若者たちに伝えた。来週からの公演は、ベートーヴェン&ブラームスのプログラム、作曲の師でもあるピアニストのヴァグ・パピアンとのリサイタル、そしてまだ10代の新鋭、山根一仁をゲストに迎えての弾き振りと、ヴェンゲーロフの多面的な魅力を聴くことのできるプログラムになっている。無限に成長し続ける天才の果てしなき世界を耳に刻みつけたい。文:小田島久恵
2013年06月07日