中学生の頃から小説を書き始め10代でデビュー、現代女性の恋や生きづらさをさまざまな作品で表してきた作家、島本理生さん。昨年はエンタメに振り切った『ファーストラヴ』で見事直木賞を受賞した。新たな年を迎え、感じていることは。――2018年は直木賞受賞という大きな出来事がありましたが、受賞後、何か変化はありましたか。受賞した後はしばらくラジオやテレビといった人前に出る仕事が多くて、執筆がストップしていました。でも久々に新しい小説を書き始めたら、主人公の女性像が前とちょっと違うなと感じて。今までは「不安定で繊細なところが特徴の女性を書く」と言われていたし、自分でも読み返した時にそう感じていましたが、今書いている女性は一回り強くなっているというか、大人の女性としての輪郭が濃くなったと感じたんです。――ご自身がそうなったから?そうだと思います。自分の人生全体を考えた時はあまり賞って意識していなかったのですが、受賞してみて、これは自分の人生の方向性を左右することなんだなと思いました。もしもっと若い時に大きな賞をいただいていたら書くものも変わっていたかもしれません。作家であることは自分の軸なので、私生活も違ったと思います。もし、あのタイミングで受賞していたら、その後あの人と恋愛していなかっただろうな…とか(笑)。――あはは。島本さんは作家の佐藤友哉さんと結婚して離婚して、再婚されていますよね。そうした出来事も作家という軸があっての判断だったのでしょうか。最初に結婚した時は、『ナラタージュ』が話題になったことで急に仕事が忙しくなって、いろんなことが自分一人では背負いきれなくなっていたんです。その救いを私生活に求めたんですね。それで結婚すればすべて解決するかと思ったら、まったくそんなことはありませんでした(笑)。結局、自分で背負わなくてはいけないものは、他の人だって背負えないんですよね。それに、最初に結婚した20代前半の頃は、愛情とはまた別に、性別が違うと理解しあえない部分だってあるということも分かってなかった。それで、理解されないのは相手の愛情が足りないと思ってしまっていたんです。――逆に、自分は相手を理解していると思っていました?若さゆえの万能感で、そう思い込んでいましたね(笑)。それだけ純粋だったのかもしれないけれど、一方で自分に余裕がなくて、相手に求めるものが多かった。結婚って、基本的には1回きりで、しかも、何も予習できないですよね。みんな、なんてスリリングなことをしているんだろうって思います。離婚して数年経って、自分が作家であることをあそこまで理解してくれる人は他にいないと実感して、同じ相手と再婚しました。2回目は1回目の反省を振り返りながらしたような気がします。――人生の軸が作家であることが再婚の決断にも繋がったんですね。人生の軸がまったくブレない。私は本を読むことで救われてきましたし、デビュー後は書くことに助けられてきたなと思います。何かに傷ついたりショックを受けた時も、書くことで気持ちが整理されたし、そこに共感してくれる読者がいることにも、ものすごく助けられています。――理解ある夫もいてお子さんもいて、直木賞も受賞して。今、とても充実しているように思えます。受賞直後は嬉しくて、目の前の忙しさに追われていましたが、受賞してからちょっと時間が経つと、今度は「新しいものを生み出してない」という空虚感や焦りが出てきました。何も書いていない時はいつも「このまま何も浮かばず何も書けなかったらどうしよう」と思います。受賞後一段落してからは、「次の話はどうしよう」ということばかり考えていました。どんなに依頼やテーマの提案があっても、自分の中で書きたいという衝動がないと何も浮かばないんです。だから、書きたいという衝動がある時が幸せですね。――中学生の時から小説を発表し始めた島本さんですが、スランプや、「書きたくない」と感じたことはなかったのですか。20代の頃、自分の技術が足りなかったり、仕事の多さをコントロールできないストレスがあって、書いても書いてもしっくりこない時がありました。小説の最後の一行が全然決まらない、とか。あの時は一番きつかったですね。――それをどうやって乗り切ったのでしょうか。サイン会で、読者の方々にはっきりと「次はこういう小説が読みたい」と言われたんですよね。それは暗に「最近書いているものはちょっと違う」という意味だなと思って。その時は、「もっと人と人が響きあう小説が読みたい」と言われて、「ああ、そういうものが求められているのか、それを書こう」と思いました。自発的な衝動がないと書けないと言いつつ、そんなふうに自分の小説に今何が欠けているか、何を書いていないかに人に気づかせてもらって、新しい衝動が生まれたりしますね。しまもと・りお1983年生まれ、東京都出身。’98年に『鳩よ!』掌編小説コンクール第2期当選、年間MVP獲得。2001年に「シルエット」で群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。’03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、『Red』で’14年度島清恋愛文学賞受賞。’05年発表の『ナラタージュ』は映画化され、累計70万部超のヒット。最新作『あなたの愛人の名前は』(集英社)は連作短編集。一人の女性が密やかな欲望を満たすためにある治療院を訪れる「足跡」、飼い猫の視点で語られる「蛇猫奇譚」、同棲相手とは別の男性と逢瀬を重ねる女性の視点で綴る「あなたは知らない」と、相手の男性の視点から描く「俺だけが知らない」など、大人の密かな思いを描く6編を収録。※『anan』2019年1月16日号より。写真・女鹿成二インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年01月12日双子の彼らは毎年、誕生日に不思議な能力を発揮する――伊坂幸太郎さんの新作『フーガはユーガ』は、久々のノンシリーズ、独立した話の単行本だ。「『砂漠』という本を出した時、担当編集の方に双子が生まれたんですよ。それで“次は双子の話を書きましょう”という話になって。だいぶ月日が経ってそろそろ書こうと思い、どう面白くするか考えました。それで、誕生日だけ2時間おきに双子の意識が入れ替わる話を思いついたんですが、その後で映画の『君の名は。』が公開され、これは絶対ヤバイ、真似したと思われる、と(笑)。あの映画自体好きですし、悩んだ末、苦肉の策で意識だけでなく体ごと入れ替わるという設定にしました」風我と優我は仙台に暮らす双子の少年。誕生日だけ2時間おきに体が入れ替わる不思議な能力を持つ彼らはその日は注意深く過ごしているが、時にはその能力を利用して、いじめられっ子を助けることも。テレポーテーションが起きる瞬間、周囲はどうなるのか、手にしているものも一緒に移動するのかなど、細かな設定も作り込んだ本作。「フィクション作品では、大きな嘘は1個だけならアリかなと思っていて。それを成立させるために細かな制約を設定していくのが僕の作風でもある。ここで瞬間移動だけでなく透明人間にもなれる、なんて嘘を重ねると著者に都合がいいだけの設定になるので、嘘はひとつだけです」双子の成長と遭遇する奇妙な出来事が語られるわけだが、謎めいているのは、これが大人になった優我がファミレスでテレビ番組のディレクターに語っている、という形であることだ。しかも優我はしばしば「わざと嘘をついている部分もある」と断りながら話を進めるのだ。「ずっと一人称だけで書いてもいいんですけれど、急に“それはどういうことなんだ”などと割り込んでくる人がいたほうがワクワクしながら書けるんです。それに、後からこいつは信頼できない語り手だったと分かるより、最初から堂々と“嘘も入ってるよ!”と言っておいたほうが読者に対して親切な気がして(笑)」つまり読み手は最初から「何かが怪しい」と思うわけだが、次第にそれを忘れて物語に引き込まれるはず。ただ、辛い場面もある。双子の母親は家を出、彼らは父親から虐待を受けている。近所では幼い女の子が轢き殺される事件も発生し、さらに…。「僕は家族がチームとなって敵に立ち向かう話が好きですが、世の中そんな家族ばかりじゃない。過酷な状況を生き抜く子たちだからこそ、突飛な能力があっていいんじゃないかと思い、はじめて辛い家族環境の主人公にしました。そのほうが2人で乗り越えていく感じが強まりますし。ただ、この能力でできることって、そんなになくて、かなり地味(笑)。そこがいいなと思っています」不思議で切なくて寂しくて、でも優しいラストが待っている本作。「一人称で語り続ける話にしようと思いついたから書けました。映画ではできないことをやりましたし、小説だから味わえる読後感になったのでは。切なさは『アヒルと鴨のコインロッカー』と似ているかもしれません。そういう意味では、原点回帰的な小説になりました」『フーガはユーガ』仙台市内のファミレスで、常盤優我は語りだす。双子の弟・風我のこと、自分たちが持つ不思議な能力のこと、そして彼らが遭遇した、ある事件のこと…。実業之日本社1400円いさか・こうたろう1971年生まれ。2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。’04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞ほか、受賞多数。※『anan』2018年12月26日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年12月25日今年、直木賞受賞作『ファーストラヴ』が話題となった作家・島本理生さんに、運命が動いた瞬間、自身のターニングポイントについてお聞きしました。17歳で作家デビュー、若い女性を中心に幅広い支持を得、今年は『ファーストラヴ』で見事直木賞を受賞した島本理生さん。――人生の分岐点で、自分で選択をしてきた、という自覚はありますか?はい。子どもの頃から集団行動が苦手で、小説を書く時間だけが楽しくて。作家になると決めてから、そのための努力は常に必死でやってきたと思います。――作家になりたいと思ったのはいつ?小学校高学年の文集には将来の夢に「作家」と書いていました。中学生で投稿を始めて、15歳の時に短編の賞をもらい、「書く力があるかもしれない」と思えました。今思えば、それが一つ目の転機でした。――目標は立てるタイプ?その都度、先のことを考えますね。たとえば20歳で野間文芸新人賞を受賞した『リトル・バイ・リトル』は「もっと広く読まれる」ことを目標に、意図的に幅広い年齢層の人物が登場する家族の話にしました。『アンダスタンド・メイビー』を発表した時は、もう自分一人の人生で書けるものは全部書き終えたと感じたので、「次は子どもだ!」と(笑)。そして育児休暇後に、「次は大人の女性に読んでもらえるものを書こう」と決めて書いたのが『Red』でした。これで島清恋愛文学賞を受賞した時は本当に嬉しかったですね。――でも、そこで満足はしなかった、と。前は賞をもらうとそこで一旦安心してしまっていたので、新たに目標を持たないと駄目だ、と思って。変わらないといけないと思うことを手帳に何十項目も書き出して、実行したんです。たとえば「人前でうまく喋れるようになろう」と話し方教室や表情教室に通ったり、「外見も作風に近づけよう」とヘアメイクを習ったり。他ジャンルの人とも積極的な交流を心がけました。映像化も目標のひとつでした。『ナラタージュ』の映像化が決まった時は「ここから波に乗るぞ!」と思って。20代の頃、自分の経験値が足りなくて波をつかみきれなかった。それで、次こそは、と取材や直しを何度も重ねて仕上げたのが、直木賞を受賞した『ファーストラヴ』でした。――現在、目標としていることは?これまでは気後れして海外の仕事を断っていましたが、今年から受けよう、と英会話教室に通い、初めて韓国のシンポジウムに参加しました。叶わないこともあるけれど、願うことで始まることもたくさんある。そう思って先を考えています。島本理生さんの運命が動いた瞬間年表15歳:「ヨル」が『鳩よ!』掌編小説コンクールで受賞。プロの編集者に認められ、作家になろうという夢は単なる思い込みでないと実感できた。17歳:「シルエット」が第44回群像新人文学賞の優秀作に選ばれる。本を刊行するもあまり話題にならなかったため、「売れるものを書こう」と決意。21歳:短期間で一気に書き上げた『生まれる森』が第130回芥川龍之介賞候補になる。結果は選外で、「もっと大きな話を書かなくては」と思い『ナラタージュ』に着手。22歳:『ナラタージュ』が発売後すぐに重版する大ヒットとなる。一気に忙しくなったがそれに自分が追いつけず、ここから苦しい時期が続くことに。27歳:『アンダスタンド・メイビー』で第145回直木三十五賞候補に。力を入れた作品だったが選外で、落胆。ただ、今の自分が書けることは書き切ったと感じた。27歳~28歳:産休を取り、一時世間から離れる。次第に「子どもも産んだし、大人の女性に読んでもらえるものを書こう」と思うように。31歳:『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。←ターニングポイント「若手作家」を卒業し、新たな代表作を出すつもりで書いたので、受賞は嬉しかった!32歳:『夏の裁断』が第153回芥川龍之介賞候補に。結果は選外。だがこれで、純文学は卒業し、エンタメ小説を書いていこうと決心がついた。35歳:『ファーストラヴ』で第159回直木三十五賞受賞。波に乗っかる気持ちで、照準を合わせて書いた作品だったので、受賞にほっと一安心。しまもと・りお1983年生まれ、東京都出身。作家。’01年「シルエット」でデビュー。’17年『ナラタージュ』が映像化。今年、『ファーストラヴ』で初の直木賞受賞。※『anan』2018年12月12日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)ヘア&メイク・イワタユイナインタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年12月08日少しでも男女間格差に悩むすべての人に贈りたい一冊がある。白岩玄さんの新作長編『たてがみを捨てたライオンたち』だ。「20代の頃は、僕も恋愛関係の中で相手の女性よりも立場が上でいたいと思ったり、年収を気にしていたりしていました。ずっと“男らしさ”の問題に縛られていたんです。あの頃は男の弱さを語る言葉が見つからなかった。これは30代の今、出すべくして出した本だといえます」世の中に浸透する“男らしさ”の呪縛を、3人の男性の立場から浮き彫りにする本書。勤務先で評価が得られず、妊娠中の妻から「専業主夫になれば」と提案される直樹、離婚して気ままに生きるが孤独を感じる慎一、アイドルオタクであることを職場に隠す幸太郎。それぞれ、著者自身が投影されているという。「直樹はもともと家庭的な人間。でも“男の価値は仕事で決まる”という古い価値観に縛られている。慎一は他人の痛みに鈍感で傲慢。幸太郎は学生時代にモテなかったことがコンプレックス。彼らや僕の世代は、旧来的な男性観、女性観の中で育ってそれをひきずっている。と同時に、男にとっては、そうした価値観をひきずっていたほうが楽、というところもあると思います」ご本人は現在、家庭で育児もしているそうだが、「こうして小説に書くまでは、自分が男性的な生き方を貫くことが奥さんの時間を奪ったり、軽く見ることになるんだとは、頭で分かっていても実感はなかった気がします」本作は女性が読んでも決して押し付けがましく感じないのも美点。「男の生きづらさだけ書いたら、女性から“私たちのほうが生きづらい”と言われるだけだと思って。男性が女性に何を押し付けているかを考えて書いているうちに、3人とも、女性と向き合う話になりました」どのエピソードも、互いを理解する努力が大切なのだと思わせる。「“男らしさ”“女らしさ”を相手に強いるのでなく、“らしさ”を抜いたところで、お互いに納得のいく生き方を探せたら。ただ、自分たちが納得しても、一歩外に出ればまだ“らしさ”を押し付けてくる社会がある。そこについて、もっと世の中で広く議論できて、生き方が選べる段階までもっていきたいですね」『たてがみを捨てたライオンたち』仕事で認められること、弱音を吐かないこと、モテること…“男らしさ”のイメージに縛られる3人は、自分や女性たちの本音に気づけるか。集英社1600円しらいわ・げん作家。1983年生まれ。2004年『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞を受賞しデビュー。同作は、その後ドラマ化。著作に『空に唄う』『未婚30』『ヒーロー!』など。※『anan』2018年11月21日号より。写真・土佐麻理子(白岩さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年11月16日女性作家・辻村深月さんに聞く、胸をキュンとさせる男性像とは?私が愛しいと思う男性像は、ナイト、騎士です。プリンスだったら、白馬に乗っているし家(お城)持ちだし、ヒロインの元へやって来てくれた瞬間に自己肯定感が満たされて「めでたしめでたし」と思えるかもしれない。でも、ナイトの場合は、持って生まれた持ち物に頼ることなく自分を磨くし、ヒロインを守る。だから、ヒロインにも、ナイトと一緒にこれからの人生の戦略を練っていくような、共に戦う人であってほしい。一方的にパートナーに寄り掛からず、お互いがお互いの人生を歩みながら、時に守ったり守られたりするべたつかない関係性が作品の中では私の理想です。ヒロインのために存在するような男の人にはしない、と常に意識しています。だからなのか、私が書いている男性キャラクターは、「守りたい」という気持ちが女の子ではなく、自分にとって一番大切な別のモノに向かっている場合が多い気がします。行動原理がしっかりしているというか、彼らは「本当に守らなければいけないものはこれだ」という絶対的な価値観だったり仕事だったりを自分の中に持っている。その思いが、いろんな巡り合わせを経て、「ここぞ」という瞬間に女の子のほうに向かった時、普通の男子が初めてナイトになる。その一瞬の驚きと喜びを読者に届けたいんです。でも、そういう人を書くと、なぜか不思議とダメ男になるんです(笑)。先日、たまたま『スロウハイツの神様』を読み返していたら、「一芸に秀でた駄目人間なんて素敵じゃないですか」という台詞が出てきて、私はデビューして間もない時からこの理論で書いてきているんだなと気が付きました。その台詞は、私にとっては「天才」の定義と一緒なんですよね。「秀才」には、事務処理能力がある。「天才」は、ものすごく特化している能力があるけれども、他のところがぜんぜん足りていない。「この人、ひとつの才能以外は全部ダメだ!」ってわかった時に、キュンとくる。「守ってあげたい」と思うかもしれないですね。情熱は強いけど、生活力や、あるいは他者への共感力さえも標準以下という男性たちは、人としてはダメかもしれないけれど、途方もなく魅力的。例えば、『ハケンアニメ!』で登場させたアニメ監督の〈王子〉や、『スロウハイツの神様』の小説家〈チヨダコーキ〉がそう。彼らは周りにものすごく迷惑をかけるけれども、「彼にしかできないことがある」とわかっているから、周りは彼らを全力でフォローする。他の人にはなつかない獣が自分にだけはなつく、というような関係性は書いていて楽しい。読者にも、「自分も彼を支える側になりたい」という目線で読んでほしいなと思っています。恋は、成立した瞬間に崩壊が始まるものではないでしょうか。でも、ずっとくっつかずにいると、夢とときめきは続きます。だから私の作品の中では、男の子が想いを打ち明けないことが多い。ただ、そういう気持ちって、周囲には意外とだだ漏れだったりします。「この人は気付かれてないと思ってるぞ」と気付いた時に、読者目線だとキュンとなる。ナイトというと、心にも鎧をつけて感情を出さないようにしているイメージがありますが、だからこそ、たまに見せる綻びというかちょっとした表情にぐらっときます。そういったベタさも小説を書く上ではとても大事。ベタに現代ならではの新しい意匠をまとわせ、自分なりの表現を心がけています。最初の頃は「辻村は男をいいふうに書きすぎ」と言われることも実はあったのですが、だんだん「ダメ男を書く人」と言われる人となり(笑)、最近では自分でも、「弱さも含めて魅力」だと感じられる男性が書けるようになってきたかな、と感じます。ナイトの気概を持った男子の新しい魅力を、これからも発見していきたいです。つじむら・みづき1980年、山梨県生まれ。’12年に『鍵のない夢を見る』で直木賞を、今年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。※『anan』2018年11月14日号より。イラスト・長谷川ひとみ(vision track)取材、文・吉田大助(by anan編集部)
2018年11月07日元SKE48で女優の松井玲奈が、集英社の文芸誌『小説すばる』の2018年11月号(10月17日発売)で、自身初の短編小説を発表することが12日、わかった。幼少期から読書好きで普段から多くの本を読んでいることから、小説誌への書評の投稿や有名作家の文庫解説の執筆など、これまでもさまざまな文筆活動を積み重ねてきた松井。このたび初めての短編小説を執筆し、小説家としての活動をスタートさせることとなった。『小説すばる』に掲載されるデビュー作のタイトルは『拭っても、拭っても』。過去の恋愛によってトラウマを抱えたアラサー女性の主人公が、小さな、しかし確かな希望を持って前を向くまでの物語で、過去にとらわれた主人公の姿をユーモラスかつ切実に描いている。なお、今後も『小説すばる』での執筆を予定しているという。松井は「頭の中にある映像を言葉で人に伝えるのは、とてもエネルギーのいる作業でしたが、どこかで物語の続きを考えて遊んでいた子供の頃を思い出して楽しんでいる自分がいました。書き続けることで、自分の新しい感性に出会える予感がしています」とコメントしている。また、集英社の月間読書情報誌『青春と読書』11月号(10月20日発売)に、初めての小説執筆に関する松井のエッセイが掲載される。
2018年10月12日女優の松井玲奈が、集英社の文芸誌「小説すばる」11月号で小説家デビューを果たすことが分かった。現在放送中のNHK連続テレビ小説「まんぷく」にレギュラー出演するなど、女優として活躍中の松井さん。幼少期からの読書好きが高じて、近年は書評の寄稿や文庫解説の執筆なども行ってきた彼女が、今回満を持して小説家デビューを飾る。掲載されるのは、短編小説「拭っても、拭っても」。過去の恋愛によって心に傷を負ったアラサー女性の主人公が、小さな、しかし確かな希望を持って前を向くまでを綴った、失恋と再生の物語だという。10月17日10時より、同誌公式サイトにて試し読みができる。また、本作執筆に関する松井さんのエッセイが集英社の月刊読書情報誌「青春と読書」11月号に掲載される予定となっており、松井さんは執筆をふり返り「頭の中にある映像を言葉で人に伝えるのは、とてもエネルギーのいる作業でしたが、どこかで物語の続きを考えて遊んでいた子供の頃を思い出して楽しんでいる自分がいました。書き続けることで、自分の新しい感性に出会える予感がしています」とコメントを寄せている。「小説すばる」といえば、村山由佳、萩原浩、堂場瞬一、朝井リョウといったそうそうたる作家たちを輩出したことでも知られ、現在、北方謙三、夢枕獏、冲方丁らの連載が掲載されている。今後も同誌での執筆が予定されており、小説家としてもどんな活躍を見せるのか期待したい。「小説すばる」11月号は10月17日(水)発売。「青春と読書」11月号は10月20日(土)発売。(text:cinemacafe.net)
2018年10月12日現在、話題沸騰中の長編小説『青少年のための小説入門』。著者の久保寺健彦さんの7年ぶりの新刊だ。奇妙なコンビが作家を目指す!小説愛に溢れた熱い成長物語。「書いては捨て、書いては捨てを繰り返して、ずっと小説を完成させられない時期があったんです。あとから考えると、小説がなぜ世の中に必要なのかが自分の中にひっかかっていたからかもしれません。自分で自分を納得させるために、この本を書いたのかもしれないです」文字の読み書きが苦手なディスレクシアという学習障害を持つヤンキー青年・登さんが、中学生の一真に小説の朗読を頼む。「以前から人に本を読んでもらって作品世界に浸るという行為自体がすごくいいなと思っていて。それに、人と一緒に読むと感想を語り合えますよね。僕も仲がいい人と本について話し合う楽しみを知っているので、それが反映されていますね」実は登さん、無謀にも作家になろうと決意している。朗読は作品研究の一環であり、一真は登さんに代わって文章を書くため、表現力の訓練をする。具体的なトレーニング方法も出てくるのだが、「これらは実際に小説を書く上で役立つかもしれませんが、彼らがやっているのはまっとうな努力なので、決して近道ではないですよね(苦笑)。作中で二人が創作において悪戦苦闘するところは、僕自身が経験したことなので、リアリティが出ているのではないかと思います」実在の名作タイトルも多数登場して読書欲がそそられるうえ、彼らが創作する物語の冒頭やあらすじが紹介され、これがまた非常に面白そうで読みたくなる。小説の魅力が溢れた本作は、「小説がなぜ世の中に必要なのか」の答えそのものだ。「この小説を書いてみて、自分はまだまだ小説をなめていたなと思って。こっちが思っているよりもっと手ごわいし、自由でなんでもありなんだなと実感しました」では、ご自身にとって面白い作品とはどんなものになるのだろう。「こんなもの読んだことがないという新鮮味のあるものですね。物語のパターンは出尽くしているともいわれるけれど、僕はそれは怪しいと思う。同じ話でも角度を変えれば違うものになるし、新しい物語が生まれると読み手側の感性も変容していく。小説って、本当に面白いんですよ」『青少年のための小説入門』いじめられっ子の一真は、ある日助けてくれた青年・登さんから小説の朗読を頼まれる。実は彼は読み書きが困難だが、作家を目指していて…。集英社1650円くぼでら・たけひこ1969年生まれ。2007年に『みなさん、さようなら』でパピルス新人賞、『ブラック・ジャック・キッド』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞などを受賞し作家デビュー。※『anan』2018年10月10日号より。写真・土佐麻理子(久保寺さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(byanan編集部)
2018年10月03日手にするだけで熱が伝わってきそうなパワーを秘めた本。沖縄を舞台にした真藤順丈さんの『宝島』は、そんな圧倒的大作だ。あの時代の沖縄で夢を追いかけた若者たちの運命を描く熱い一冊。「7年前、戦後の琉球警察の話を書こうと取材に行ったんです。当時は戦果アギヤーという、米軍施設から物資を強奪していた人たちがいて、その事件を調べるうちに、警察より彼らに興味が移って。自分の書きたいものが表現できる気がしました」(真藤順丈さん)書きたいもの、とは?「路上のサバイバルだったり、市井の言葉や風景だったり、挫折も失敗もするけど生きていくバイタリティだったり……恰好よく言うと、我々が忘れている魂というところでしょうか」1952年。盗んだ物資を市民に配る戦果アギヤーの義賊だったオンちゃんが、キャンプ・カデナで米兵に見つかり失踪。英雄を失った混乱の島で、オンちゃんと繋がりのあった3人の少年少女は生き抜く。「3人それぞれに自分を投影していますね。お調子者で怠け者だけどやるときはやるというグスクはその後警官になり、血の気の多いレイは危険人物になっていく。教師になるヤマコはこの頃の沖縄を受け止める象徴的な女性。僕が書く女性キャラは、ファム・ファタルな謎の美女か、男どもを率いるジャンヌ・ダルク的な存在になりがちなので、もっと等身大の人物を描くためにNHKの朝ドラをたくさん見ました」オンちゃんが消えた謎を遠景に、殺人事件やコザ暴動など実際の出来事や実在の人物を登場させつつ、彼らの波瀾万丈な20年が語られていく。「虚実の“虚”の部分をどう盛り上げるか、史実に配慮しつつ面白い物語をつむぐのにはすごく苦労しましたが、あの時代を生き抜いた人たちの力強さやしなやかさに筆を動かされ、僕にできるかぎりの努力と工夫を重ねました」工夫のひとつが文体。誰かが彼らのことを語り聞かせてくれているような、時にユーモラスに、時にひょうひょうとした口調で物語は進む。「タイトルは担当編集者の提案で、最初はストレートすぎないかとも思ったけど、沖縄の宝とは何か、あの島の恵み深さにもふれている題名なので、今は気に入っています」最後にぐっと心をつかまれる事実も明かされる。壮大で強靭な世界だ。『宝島』1952年、戦果アギヤーの英雄・オンちゃんが嘉手納基地で米兵に見つかり、逃亡中に失踪。残された3人の幼馴染みが、やがて知る事実とは。講談社1850円しんどう・じゅんじょう1977年、東京都生まれ。2008年『地図男』でダ・ヴィンチ文学賞大賞、『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞、ほか2賞を受賞し、作家デビューして話題に。※『anan』2018年8月8日号より。写真・土佐麻理子(真藤さん)大嶋千尋(本) インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年08月05日男性に「最大二十四ヶ月間女性になる義務を課す」世界を描く、田中兆子さん著書『徴産制』について、田中さんにお話を伺いました。男性も女性も、異性の立場を想像しうる、試金石のような物語。<日本国籍を有する満十八歳から満三十歳の男子すべてに、最大二十四ヶ月間女性になる義務を課す>田中兆子さんの『徴産制』の舞台は、男性に兵役ならぬ産役が課せられた社会。悩み多き条件の中で生き方を模索し、右往左往する男女を描いた連作短編集だ。出産を義務化するディストピアを背景としながらも、失われないユーモアや希望が浮かび上がってくるのがすばらしい。「完成までに3年かかりました。設定を未来にしたために、どんな社会になっているのかを構築するのは本当に難しかったです。けれど、男が産役後に男に戻ることも女のままでいることも可能という大変化に比べ、社会や人間の芯においては変わらない部分も多いのではないかなと感じました」各章の主人公は、徴産制を経済的な理由で志願する農家のひとり息子、義務を果たしたらさっさと男に戻りたいエリート官僚、夫が女になろうとすることを嫌悪する妻を持つ主夫など、考え方も境遇も違う5人。「そうした社会や制度への向き合い方も反応も千差万別だろうと思ったので、誰かひとりの人生を追うより、いろいろなケースで書くスタイルを選びました」多様化していく性や、恋愛、結婚、家族、介護など、彼らが抱える苦悩や葛藤は、現代日本や日本人の問題を映す鏡だ。その中には、「第三章タケルの場合」のように、見つめるのさえ苦しいテーマもある。下敷きになっているのは、レイプや慰安婦制度など性的虐待の問題。「普段すごくフェミニスト的な視点を持っているような男性でも、こうした性暴力に対しては他人事で、驚かされます。なので、女性に課せられている社会規範や慣習、モラルなどを、男性に体験してもらって見つめる、逆視点の世界で描きました」男が産む性を担うという、先行の作品とも違う設定。現実を反転させたことで、生殖や性意識をめぐっての社会の矛盾や不自由さ、残酷さなどが誇張され、深い思索へと誘う。「第五章のイズミのように、セックスも含めて他者を必要としない人も出てくるでしょうね。結婚する必要がない社会だからこそ、残るのは“愛”だけで、そうした人との交わりをどう求めていくかは生き方そのものになっていく。イマドキの婚活も裏テーマにあります。大きな社会制度の変化の中で、誰もが自分なりの幸福を見出せるように書きました」たなか・ちょうこ2011年、短編「べしみ」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。’15年、同作を含む作品集『甘いお菓子は食べません』が話題となる。近著に『劇団42歳♂』(双葉社)が。戦時中の「赤紙」を連想させるカバーデザイン。血の赤であり、日の丸の赤でもある“赤”が目を引く。境遇の違う5人の産役男は何を思う?新潮社1500円※『anan』2018年5月2・9日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年05月01日芥川賞作家の小山田浩子さんが、待望の新作を上梓。「自分の好きなものが詰まった一冊になったので、嬉しいです」と語るのは、2014年に「穴」で芥川賞を受賞した小山田浩子さん。待望の新作『庭』は、ユーモラスで奇妙、鮮やかでちょっぴり不穏な15篇が詰まった短篇集。「どれも結婚や子ども、出産といったテーマを意識していたのは間違いないです。それ以外に、読み返すと自分の実家や田舎に行く、という話が多くて。それはもうフェティッシュ的に好きなのかも(笑)」たとえば巻頭の「うらぎゅう」は、実家に戻り、祖父に不思議な儀式に連れていかれる女性の話。「これは砂灸という、砂に足形をつけてそこにお灸をするという風習を聞いて“何それ”と思ったことがきっかけでした。ここに出てくる話はどれも、そんなふうに見聞きしたり経験したりしたことが元になっていることが多いですね」祖母が彼岸花を薬草として育てていた記憶、住んでいるアパートに出るヤモリ、山の旅館に行ったら愛想のいい猟犬がいた思い出、女子校時代に校舎によく出現した小さな蟹、ショッピングモールのフードコーナーにいるさまざまな家族……。そんな現実の光景から、とんでもない非日常的展開を導き出すのが小山田作品の魅力だが、「普通のことを書いていたらこうなった、という感覚です。自分に何かを空想して物語を広げる能力があるとは思わないんです。ただ、見聞きしたことの前後を、見たことがあるかもしれない気持ちで、思い出すように書いています」動物や植物が多数出てくるのは、「じっと考えているより、虫や植物をずっと見ていた時のほうが、面白いことがたくさん出てくるんですよね。それも、実際に眺めるのでなく、どんな感じだったか思い出しながら書いている感じです」ちょっぴり不条理な世界で生きる人々が描かれる本作。夫婦や親子の気持ちの齟齬も淡々と描かれるが、「家族でも分かり合えないことや、しっくりこないことはありますよね。でもそれは悪いことじゃない。それでやってきたし、やっていくんだ、というのが気持ちとしてあります」暮らしと不可思議な世界のあわいに潜む、人生の真実を垣間見せてくれる。そんな作品集なのである。『庭』庭の彼岸花、窓のヤモリ、井戸にいるどじょう……。草花や生き物に囲まれた、ちょっぴり不条理な世界の人々の日常をとらえた短篇集。新潮社1700円おやまだ・ひろこ作家。1983年、広島県生まれ。2010年、中篇「工場」で新潮新人賞を受賞して作家デビュー。’13年、作品集『工場』で織田作之助賞、’14年「穴」で芥川賞を受賞した。※『anan』2018年4月25日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・瀧井朝世
2018年04月24日ふと手にした本。そこに書かれた一節を読んで、価値観や生き方を考えさせられることがある。そんな深さをもった特別な一冊をアンアンでもお馴染みの3人がセレクト。エッセイスト犬山紙子さん『草の花』福永武彦/新潮文庫/550円昭和20年代の、あるサナトリウム。成功する見込みのない手術を自ら受けてこの世を去った汐見茂思が遺した、2冊のノートに記されていたのは―。「17歳で初めて読んだときは正直理解ができず、ただ美しい描写と登場人物の魅力に浸っていました。けれど、彼氏もなくこのまま独りかも…と不安に感じていた30代の初めに再読したとき、物語のテーマがはっきりと胸に迫ってきたのです」。主人公は自分が愛した2人の兄妹を神聖化し、愛されているにもかかわらず自分の理想を押しつけようとする。「相手はそれによって苦しむ。人が避けて通れない“愛と孤独”が見事に描かれています。愛する人がいれば孤独ではない、というそれまでの考えが、大きく覆されました」いぬやま・かみこ本誌や『SPA!』で連載中。NHKラジオ第1『ごごラジ!』で月曜パーソナリティも。心理カウンセラー塚越友子さん『ライフ・レッスン』エリザベス・キューブラー・ロス、デーヴィッド・ケスラー 著/上野圭一 訳/角川文庫/720円著者は、人が死を受け入れる際の5つの段階モデルを提唱したことで知られる精神科医。医学界でもまだ死について語ることがタブー視されていた1960年代から「死」に向き合い、精神病院やホスピスなどで多くの患者を看取った。死に直面した人々の声を丁寧に集めたこの本は、「自己や人間関係、愛、恐れなど生きる上で避けられないテーマについて、静かに示唆を与えてくれる本です。私自身、病気で死に直面し、『死ぬこととは生きることだ』と漫然と考えていたときに手にし、この中にある多くの人々の言葉に勇気づけられました」。病後も、ことあるごとに目を通すという。「読むと自分自身の軸がすっと定まります。多くの人に読んでほしい、骨太な本です」つかこし・ともこ東京中央カウンセリング代表。的確な助言で、TVなどメディア出演も多数。モデル、女優池田エライザさん『さよなら、ムッシュ』片岡 翔/小学館/1300円小さな出版社で校正者として働く星太朗の親友は、幼い頃他界した母が遺してくれた、話す(!)コアラのぬいぐるみ・ムッシュ。ある日しゃっくりが止まらなくなった星太朗に、大きな転機が訪れる。星太朗とムッシュのやり取りにくすりと笑いながら、切なさにページをめくる手がふと止まる。何でもない一日が愛おしいものに思えてくる、温かな物語だ。「読むにつれ胸が熱くなり、涙がこぼれそうになります。誰にでも考えたくない、忘れてしまいたいことはあるものですが、そんな“目を向けないようにしてきたこと”に立ち向かう勇気を、ムッシュは与えてくれます。自分はひとりぼっち、とどこかで思っている人に読んでほしい。心にそっと寄り添ってくれるはずです」いけだ・えらいざ映画、ドラマでも活躍中。4月27日公開の映画『となりの怪物くん』に出演。※『anan』2018年3月7日号より。写真・小笠原真紀文・新田草子(by anan編集部)
2018年03月03日中学時代の秘密を抱く4人の男女。愛と狂気が迸る村山由佳版ノワール。最新刊『嘘Love Lies』について話を伺いました。「週刊誌で連載するにあたって、これまでとは違うことをやってみたいなと思って。それで、『スタンド・バイ・ミー』のような少年時代の切なさを基調にしつつ、サスペンスタッチのものを書くということに挑戦してみました」と語るのは村山由佳さん。最新刊『嘘Love Lies』で描かれるのは思春期のきらめきと罪、大人の愛情と罰。中心人物の秀俊は中学生の頃、母の愛人から虐待されていた。彼の日常に光を与えたのは、美月、亮介、陽菜乃という仲間だ。「秀俊のような環境に育つ子も、きっとたくさんいる。本人はそれが当たり前と思って育つから、あまり声が届いてこない。それを小説に書くことで、読者に自分の体験かのように感じてもらえたら。それが報告書とは違う、フィクションの力だと思っています」友情を育む4人だが、ある悲劇をきっかけに彼らの人生は一変する。「それをきっかけに彼らは心ならずも闇の方へと突き進むことになるんですよね。あの場面を書くのは、書いていいのかという逡巡も含め、しんどかった。でも、それも世の中のどこかで実際に起きていることだからと、覚悟を持って書きました」一方、秀俊には親以外に面倒を見てくれた九十九(つくも)という男がいる。実は彼は極道。九十九に助けを求めたことから、秀俊はこの男の呪縛から逃れられなくなる。そして20年後。傷を抱えながらもそれぞれの人生を歩む彼らに、再び悲劇が。彼らはそれと、どう向き合っていくのか。「ご都合主義の救いも書きたくないし、大山鳴動して鼠一匹、ともしたくなくて。彼らのその後に寄り添って、きっちり最後まで書かなければ、という思いで書き進めました」意外な事実も判明、スリリングな展開の後半では、九十九の運転手だった近藤という男もキーパーソンに。「女性はだいたい秀俊派か近藤派に分かれますね(笑)。タイプは違うけれどそれぞれ男気があるんですよね。それは女性側からすると要らない強がりだったりする。それもむしろ愛しいなと思いながら書きました」村山さん自身は「実は私は山田・佐々木派(笑)」。この二人の人物が何者なのかは、読んでご確認くださいませ(きっと驚くはず!)。むらやま・ゆか作家。‘93年『天使の卵-エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。‘03年『星々の舟』で直木賞、‘09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞ほか受賞。村山由佳『嘘Love Lies』秀俊、亮介、美月、陽菜乃は仲の良い同級生。しかしある悲劇が彼らの運命を狂わせる。20年後、傷を抱えたまま懸命に生きる彼らを襲う、再びの悲劇とは…。新潮社1800円※『anan』2018年2月21日号より。写真・土佐麻理子(村山さん)水野昭子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年02月20日遺影専門の写真館がある町で起きた、悲喜こもごもの心震えるミステリー、道尾秀介さんが書いた小説『風神の手』。舞台は、西取川(にしとりがわ)をはさむ2つの町、上上町(かみあげちょう)と下上町(しもあげちょう)。その地にある遺影専門の写真館「鏡影館(きょうえいかん)」に飾られている写真が呼び水となり、数十年にわたる“縁”の物語が語られていく。道尾秀介さんは、朝日新聞で連載していた「口笛鳥」を『風神の手』の第二章に据え、その前後に加筆して、連作長編として完成させた。第一章の「心中花」は、若き漁師と女子高生という立場の違う男女の切ない恋物語が、続く第二章は、まめとでっかちという小学5年生の2人が決意を秘めて立ち向かう事件が描かれる。第三章の「無常風」で、死期間近の老婦人の告白によって、仰天の過去が掘り起こされ、エピローグの「待宵月」へなだれ込む。「真相へと迫っていく中で、犯罪が悪意で行われるとは限らないし、善行が善意で行われるとは限らないという、人間の複雑さ、面白さを書けたらいいなと思っていました」悪意のない嘘。言えなかった真実。過去の出来事の意味が裏返り、欠けていたピースが鮮やかにはまる快感。さらに、物語の鍵として、自然の神秘を感じるモチーフがちりばめられているのも、道尾ワールド。標題紙をめくると現れる、コナン・ドイルの小説から引用したエピグラフ(序文)が意味深だ。「5~6年前に読んだ小説のこの部分に強く惹きつけられたのは、めぐり合わせの不思議さを、僕もよく思うからです。いろんな偶然が影響し合って、日々、思いがけないことが起きる。たった一粒の砂がめぐりめぐって人を殺してしまうというような因果律の世界を、前々から書きたいと思っていました。人間は文明や街を作り、自然を支配してるかのようですが、どこかで風が吹くだけでいろんなことがこんなにも変わってしまう。僕自身も予想していなかったくらい、エピソードやモチーフ、人物同士が有機的につながったので、書いていて本当に楽しかった」本書に関しても奇縁があったそう。「砂がひとつの鍵になっている小説なので、カバーに使う装画を、僕が好きでライブパフォーマンスに通っていた、サンドアーティストの伊藤花りんさんにお願いしたんですね。うれしいことに、彼女は学生時代から僕の本を読んでくれていたそうなんです。世界は、人生は、不思議なもんだなぁといつも思っています」みちお・しゅうすけ作家。2004年に『背の眼』でデビュー。’10年に『光媒の花』で山本周五郎賞、’11年に『月と蟹』で直木賞など受賞歴多数。道尾さんは、作中に出てくるウミホタルを取材がてら実際に捕獲に行ったそう。「思っていたよりずっと蒼くて明るい。神秘的でした」朝日新聞出版1700円※『anan』2018年2月14日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年02月12日マウンティングされたわけでも、悪意をぶつけられたわけでもない、なのにあの時、なぜか不快に感じたのは、こういうことか――そんな発見をもたらしてくれそうな小説がある。飛鳥井千砂さんの『そのバケツでは水がくめない』だ。「関係性の話を書きたいと思ったんです。こういうことはたくさんの人が経験している気がしたので」アパレルに勤める理世は、デザイナーの美名と友人同士のような関係を築くが、いつしか彼女の言動に心がざわつくように。仕事仲間なだけに、なんとか関係を良好に維持しようとするのだが…。「才能のある人とそのマネージャーみたいな間柄。相手に強く出られないから、どんどん歪みが深くなりそうですよね。理世は善良な小市民タイプ(笑)。真面目で一生懸命な人だと思います。最近は、自分の悩みを他人に相談するなんて悪いと思っている人って結構いる気がします。理世もそのタイプで、一人で抱え込んでいってしまうんです」それとなく傷つくことを言い、指摘すると無邪気に「悪気はなかった、傷つくと思わなかった」と言う美名。「相手を傷つけたうえ、“そんなことを気にするなんてお前が小さい人間だからだ”と暗に言って罪悪感を持たせる。手が込んでいますよね」関係がこじれた理由のひとつは、一度理世が美名のデザインに駄目出しをしたからとも読める。「否定されて平気な人はいませんよね。でも大人になると、駄目出しされても全人格を否定されたわけじゃないと理解して乗り越えていくようになる。美名はそのあたりの感覚が故障しているのかも」そんな彼女、どうやら毒親に苦しめられてきたようなのだが、「そういう背景を知ると、救ってあげたくなるかもしれない。でも専門家でもない素人が簡単にできることではないし、まず本人が自分のことは自分しか救えないんだと気づかないと、人は変われないと思います」そんな相手に尽くすのは、穴のあいたバケツに水をくむようなもの。「なのに人は水が溜まらないと、自分のくみ方が悪いのかも、と思ってしまう。そうではなく、相手に穴があいているんだと気づけば、楽になれる。今そういう悩みを持っている人に届くといいなと思っています」アパレルに勤める理世は、新ブランドのデザイナーに美名をスカウト。親しくなる二人だが、次第に美名の態度が変化し、理世を追い詰める。祥伝社1700円あすかい・ちさ作家。1979年生まれ。’05年、「はるがいったら」で第18回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。著作に『タイニー・タイニー・ハッピー』『女の子は、明日も。』『砂に泳ぐ』など。※『anan』2018年2月7日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年02月04日あなたは10代の頃、どんな雑誌を読んでいました?奥田亜希子さんの『リバース&リバース』は、ティーン誌に勤める禄(ろく)という青年と、愛読者の郁美の物語が並行して進み、やがて交錯する長編。「前に『五つ星をつけてよ』という短編集で、中学2年生の女の子の話を書いた時、参考に『nicola』を買ったんです。読者の悩み相談のページを読み、内容の重さにびっくりして。思春期の子にとって自分の好きなものに関わっている大人の意見が響くのかな、と思いました」お悩み相談のページを担当する禄と、中学生の郁美の学校生活が活き活きと描かれる本作。「郁美に関しては、これまで中学生を書く時は、スクールカーストの一番下の子の話にすることが多かったので、普通に明るい子をはじめて書いたので楽しかったです」一方、禄は、かつて相談を投稿してきた読者に親身になったあまり、その子に依存されてしまい悩む。「責任取れないからと放り出すのも相手を傷つける。悩みを持つ思春期の子を相手にするのは大変」禄自身、中学生の頃に親友の女の子と仲違いし傷つけた過去がある。「自分を振り返ると、傷つけられたことより人を傷つけたことのほうが残っている気がします。よく、他人とは離れられるけれど、自分とは離れられないと言いますよね。傷つけた相手とは距離を置くことができるけれど、傷つけた自分はずっと自分の中にいるんですよね」傷つけたり傷つけられたり、助けたり助けられたり、人の立場は時と場合で変わるもの。タイトルには、そんな意味も含まれている。「この連載のお話をいただいた時、芸能人の不倫バッシングがすごかったんです。なぜ自分は何も悪くないという立場から人を叩く人が多いのかと思って。正論以外のものがはじかれてしまう窮屈さも感じました。人と人との繋がりには、もっと揺らぎがあるはず」そして後半は、意外な事実が明らかになり驚かされる。「構成については一番考えました。ページをめくる手が止まらないものにしたくて。伏線もいっぱい張ってあるので、一度読んだ後、もう一回読んでもらっても楽しんでもらえるかなと思います」おくだ・あきこ1983年生まれ。‘13年、すばる文学賞受賞作を改題した『左目に映る星』でデビュー。著作に『透明人間は204号室の夢を見る』『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』。『リバース&リバース』ティーン誌でお悩み相談のページを担当する禄と、その雑誌の愛読者で田舎暮らしの中学生・郁美。両者の人生が交錯する時、見える事実とは。新潮社1500円※『anan』2018年1月24日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・瀧井朝世
2018年01月19日中高生の頃、古文の授業は好きだったという角田光代さん。 「『枕草子』や『方丈記』などのエッセイ系が好きで、『源氏物語』には特に思い入れはなかったんですが、今回訳して面白さに気づきました」現代語訳に取り組んだ日本文学全集『源氏物語』の上巻は、「古文が苦手だった人でもすらすら読める」と評判だ。「目指したのは読みやすさ、格式のなさ(笑)。複雑な敬語、建物のつくりの説明などは省き、人の感情の動きを際立たせるようにしました」全体を俯瞰して、何が起きているのかもよく分かるようにしたかった、と角田さん。ひとつのエピソードを読むだけでは分からない、全体の流れが見えてくるのが本書の特徴。「たとえば上巻の後半で光君が都を離れて明石の君に出会いますが、それよりずっと前に、家来たちが明石の君の噂をする場面があります。その時からもう、明石の君との一連の出来事は始まっているんですよね」読み進めれば、エンタメ性の高さに改めてびっくり。「男の人たちが恋愛談議をするボーイズトークがあったり、光君と頭中将のやけに親しい感じがBL的だったり。みんなすぐ和歌を詠みますが、それは現代のインスタグラムのようなもの。日本人は今も昔も、瞬間を切り取ることが好きなんですね」さまざまなタイプの女性たちが登場するのも読みどころだが、「“気が強い”“おしとやか”といった性格ではなく、その場の感情によって個性が表現されているのも面白いです。その気持ちは理解できるぞ、というのが多いですね。光君があまりに美しくて引け目を感じる様子は、私も若い頃きれいな男性がいると“きれいだと思っていると思われないようにしなきゃ”と意識しすぎて言動がおかしくなったりしたので、よく分かります(笑)」また、翻訳を通して光君の印象もずいぶん変わったという。「スーパーヒーローだと思っていましたが、実はクヨクヨしたりすねたりと人間らしい。感情のある男の人だなと思って。それが魅力だし、だから女性たちはみんなこの人が忘れられないんでしょうね」現在、中下巻の翻訳作業中だが、さらに感情描写が深みを増しているとか。上巻を読んでしばし待たれよ。かくた・みつよ作家。1967年生まれ。’90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。’96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、’05年『対岸の彼女』で直木賞など多数受賞。『源氏物語』の現代語訳に角田光代さんが挑戦。上巻は二十一帖の「少女」までを収録。中巻は来年5月刊行、下巻は来年末の刊行予定。河出書房新社3500円※『anan』2017年10月4日号より。写真・土佐麻理子(角田さん)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2017年09月29日「グリコ・森永事件」をモデルにした小説「罪の声」で数々賞を受賞し、いま最も注目される小説家・塩田武士の待望の新刊「騙し絵の牙」が8月31日(木)より発売されることが決定。本作は、俳優・大泉洋を綿密に分析し尽くした作家が描く、完全「あてがき」 による新感覚小説で、カバーも大泉さんが務めている。大手出版社で雑誌編集長を務める速水輝也。誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。ある夜、上司から休刊を匂わされたことをきっかけに、速水は組織に翻弄されていく。すると次第に彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!出版社は数少ない文芸のヒット作に対して、映画会社などから映像化の声がかかるのを待ち、芸能事務所は俳優に適した映像化作品が生まれるのを待つ。そんな一般的な流れに抗い、塩田作品10作目にあたる本作は出版社と作家に加え、芸能事務所そして俳優までが一体となって、発案当初から映像化をも見据え企画された異色の文芸作品だ。社会派作家・塩田氏の4年間にわたる丁寧な取材と、大泉さんに関する綿密な分析、さらには大泉さん本人からの細部にわたるアドバイスが加わったことで、読者は大泉さん個人を自然に主人公に重ねて読み進めることができる作品に仕上がっている本書。また、話し方や会話の間の取り方など、塩田氏の緻密な分析により初めて実現できた完全「あてがき」を通し、読み手は主人公に扮する大泉さんが、脳内で自ずと動き出すというかつてない感覚を体験できるという。また単行本のカバーも、主人公に扮した大泉さんが飾っており、単行本のカバーを飾るのは実はこれが初。グレーのスーツに身を包み、原稿や書類を脇に抱え編集長・速水に扮した大泉さんの影が、“騙し絵”を写し出している。装丁を担当したのは、星野源らトップアーティストのCDジャケットなどを手掛けるアートディレクター・吉田ユニ。裏表紙の別カットにも注目だ。「騙し絵の牙」の発案出発点は、雑誌「ダ・ヴィンチ」の表紙に出る際、おすすめ本を一冊選ばなければならなかったことからだと明かす大泉さん。「私は表紙撮影がある度に、『大泉エッセイ』を担当してくれていた同編集者に、いつも『お薦め本、ない?』と、聞いていたんです。映像化されて、私が主演をできるような小説をと。それを、毎回訊かれるのが、彼女はめんどくさくなったんでしょうね。『じゃあ、もう大泉さんを主人公としてイメージした本をつくります!』と言ったが始まりなんです」と話す。また中にも自身の写真が入っているそうで、「私の写真集と言っても過言ではございません!」と言い、「でもいま、何より怖れているのが、この小説が映画化されたとき、速水役が私でない、ということです」と不安も明かし、「本書帯キャッチに<最後は“大泉洋”に騙される>ってあるんだけれど、<最後は“大泉洋”が騙される>って。実それが“騙し絵の牙”だったんだと。それだけ避けたいですね」とコメントしている。著者の塩田氏は、「私のイメージを遥かに超えた『小説の核』が出来上がった」と自信を見せ、「速水輝也と大泉洋さんの『完全同期化』を目指し、私は大泉さんの映画やバラエティー番組、舞台を観て、語尾や会話の間、どのような方法で笑いを取っているのかを分析しました。作品中に速水が接待でモノマネをするシーンがありますが、それはほぼ全てが大泉さんのレパートリーです。改めて実感しました。こんな振り幅の大きい俳優はいない、と」と分析していて確信したそう。また、いまはもうできることはない、という清々しさが胸内にあると言う塩田氏は、「『物語の内容が現実とリンクしていく可能性がある』――そう気づいたとき、読者の皆さまはどんな未来予想図を描かれるでしょうか?本を愛する全ての人たちへ。さぁ、新しい扉を開いてください」とこれから本書を手に取る読者へメッセージを残している。「騙し絵の牙」は8月31日(木)より発売。(cinemacafe.net)
2017年08月22日仕事、結婚、育児。思い描いていた理想像とかけはなれ、うまくいかない。夫や子ども、上司や同僚、周りの人にモヤモヤ、イライラして不満をぶつけたくなる。“あるもの”よりも“ないもの”を数えてしまうのはなぜ。今回紹介する小説には、あれこれ思い悩み、現状に嫌気がさしている人が数多く登場します。でも、なぜか読むうちに心温まってきます。■ある共通点を持つ男女7人の物語1冊目は、角田光代の『ひそやかな花園』(毎日新聞出版、講談社文庫)。子どものころ、家族ぐるみのサマーキャンプに参加して知り合った7人の男女。数年続いたキャンプがなくなってからは会うこともなく、それぞれ成長して大人になります。あるとき、いくつかのきっかけが重なり、再会します。ミュージシャン、フリーター、専業主婦、イラストレーター、御曹司など彼らの職業はさまざま。既婚者もいれば、未婚で恋人のいる人もいない人もいます。親との関係がうまくいっている人もいない人も。7人の共通点である、子ども時代楽しかったキャンプの意味とは。彼らの人生に影響している驚きの宿命とは…。この小説の魅力は、いかにして試練を乗り越えるかではなく、もう一歩先に踏み込もうとしているところにあります。望んだものが手に入ったとしても、入らなかったとしても、その先にあるものを問いかけられます。■悲しみをつつみこむのは、日常生活の明るさとやさしさ2冊目は、よしもとばななの『もしもし下北沢』(毎日新聞出版、幻冬舎文庫)。主人公よしえの大好きな父親が、愛人との無理心中で亡くなってしまう。ショッキングなできごとから1年後、よしえは下北沢で新しい生活をスタートさせます。よしえ以上にショックから立ち直れていない母親。二人はほっとしたり楽しい気分になるできごとを通して、悲しみを引きずりながらも少しずつ元気を取り戻していきます。よしえはとても素直で健気で真面目。みんなに愛されます。よしえの目線で進む物語は嫌みがなく、押しつけがましさもないので、気もちよく読むことができます。■バツイチの男二人が営む便利屋に続々珍客が3冊目は、三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋)。映画化、ドラマ化もされました。便利屋を営む多田とそこに転がりこんだ行天。高校の元同級生で、特に仲が良かったわけでもない二人。家庭の匂いがまったく感じられない男たちの共通点はバツイチであること。便利屋として珍客の相手をしていくなかで、徐々に自分の過去と向きあっていきます。続編の『まほろ駅前番外地』『まほろ駅前狂騒曲』もおすすめ。この3作品は、現代を生きる若者の心情がとてもていねいに描かれています。主人公以外でも誰かしら共感できる登場人物がいるかもしれません。彼ら彼女らの抱える悩みや置かれている状況は、必ず解決するわけではありませんが、それでもなんとかして、あるいはなんとなく生きていこうとする姿は実に愛おしいもの。読み進めていくうちに、自分の人生も愛おしくなってくるような気持ちになります。ラフな部屋着に着替え、ラクな姿勢で読んでみてください。(あこ<フォークラス>)
2016年07月09日冬はあったかい気持ちになりたいそんな気分。心がほっとするような泣ける本を、こたつに入ってみかん食べながら、ぐすんぐすんとすれば、心に溜まった毒素も吹き飛んでしまうでしょう。今回は、私がおすすめしたい、泣ける小説とマンガをご紹介しましょう。恋愛でほろりほろりいい恋愛で泣く。これはとっても気持ちのいいものです。悲恋もなけるし、気持ちが通じ合う恋愛も、いいですね。今、恋愛中の人も、ちょっと恋にご無沙汰な人も、心を動かすのは最高の女性ホルモン活性剤なはず?! うるっときてくださいね。「世界で一番美しい音楽」 小沢真理 (講談社)シングルマザーの女性の恋愛のお話。娘の“のんのん”ちゃんが可愛いのだ。世界でいちばん優しい音楽とはなんなのか? 読むとすぐにわかります。全8巻。なんとも優しい気持ちになる恋愛漫画の王道です。「陽だまりの彼女」 越谷 オサム (新潮社)松本潤と上野樹里で映画化もされましたね。非常に可愛らしい泣けるラブストーリーです。なんとなく途中からオチがわかるのですが、そういうのは抜きにして、とにかく上野樹里ちゃんが演じる「彼女」が可愛くてしょうがないんです。大河小説にどっぷり浸かる長い小説をじっくり読むことありますか? 最近は私もスマホ一辺倒でなかなか長い小説を読むことが少なくなってしまいました。でもたまにはちょっと大作に挑戦してみてください。「大奥」 よしながふみ (白泉社)男女逆転の奇想天外な歴史漫画。嵐の二宮くんと柴崎コウで吉宗編が。菅野美穂と堺雅人で綱吉篇が映画化され、それがきっかけで結ばれましたね。本当に緻密に練られたすばらしい大河ドラマ漫画です。歴女である私には堪えられない作品。毎巻でるのが待ちきれません。どんどん時代が進んで幕末にどのように収束させるのか非常に楽しみですが、どの時代の男女も政治と恋愛にどうにか折り合いをつけて時代にバトンをつないでいるのが、泣けます。「ベルサイユのばら」 池田 理代子 (集英社)もうベルサイユのばらなんて知らない方も多いのでは? 私が小学生中学生の頃はバイブルでした。今は愛蔵版でコンパクトになって売られています。久々に読みましたが、名作は古くならない!史実であるマリー・アントワネットとフェルゼンの恋愛も泣けますが、作者の創作であるオスカルとアンドレという二人の人物の恋愛にはなんとも言えない妙味があります。わたしにとってこのアンドレが究極の理想の男性です。「坂の上の雲」 司馬 遼太郎 (文春文庫)以前NHKでドラマ化されて、本木雅弘と阿部寛が主役の兄弟にキャスティングされていました。とにかく名作です。日清戦争から日露戦争までが描かれますが、まあすごい。とにかくすごい、面白い。司馬遼太郎の作品はちょっと読み慣れるまで癖がありますが、読み始めると止まりません。ドラマほど女性陣は出てきませんが、読み終わってつくづく感動が体を染み渡ります。歴史を作った人たちの賢さと愚かさの織りなすドラマ。ぜひ一度読んでいただきたい名作です。私は明石という人物が好き。かなりページを割いて司馬遼太郎も記述しています。「この世界の片隅に」 こうの史代 (双葉社)第二次大戦時、広島に原爆が落とされる前から後を、静かに優しく描いた作品です。反戦を力強く叫ぶわけでもなく、ただただ読み終わって、今の平和の有り難みを思います。非常に魅力的な作品です。短くて軽く読めるけど、じんわり来ます「博士の愛した数式」 小川 洋子 (新潮文庫)寺尾聡と深津絵里で映画化もされました。映画は未見ですが、小川洋子さんの小説は非常に読みやすくそして余韻が残ります。80分しか記憶が持たない数学者と、お手伝いさんの女性の、心の触れ合いを描いています。「機械仕掛けの愛」 業田 良家 (小学館)さまざまなロボットと人間との心の触れ合いや哀しみを描いています。一つ一つのお話は非常に短いのですぐに読めます。今は3巻まで出ています。寂しさを埋めるためのロボットたち、その寂しさが他のもので埋められた時の、居場所のないロボットたち。エピソードごとに胸に迫りますが、人によって一番泣くエピソードが違うみたいです。冬の夜、心から感動する本や漫画に身を委ねて、心の底からあったまってくださいな。春がくる頃には、より深く人を好きになれるはず。
2016年01月23日日本最大級の小説投稿サイト「小説家になろう」とマイナビBOOKSがコラボした、小説コンテスト「お仕事小説コン」の応募が6月4日にスタートした。テーマは、就職や転職をサポートしているマイナビならではの「お仕事小説」。「お仕事小説」とは、ストーリーの中に何らかの「お仕事」ネタが出てくる、もしくは主人公が何らかの「職業」に就いている小説のことだ。主人公が仕事を通して成長する姿に元気づけられたり、あまり知られていない業界の知識を得ることができたりと人気が高く、近年では「お仕事小説」をもとにしたテレビドラマや映画も多数制作され、話題沸騰中のジャンルである。この「お仕事小説コン」では、書店員や銀行員などの一般的な職業はもちろん、勇者や魔王といった架空の職業も含み、ジャンルを問わず面白い作品を幅広く募集している。2015年8月27日まで応募を受け付け、グランプリ1作品、優秀賞5作品を選出。グランプリ作品には賞金10万円、優秀賞には賞金3万円を贈呈し、両賞ともにマイナビより電子書籍として発売されるので、ぜひチャレンジしてみてはどうだろうか。『小説家になろう×マイナビBOOKSお仕事小説コン』概要●主催株式会社マイナビ、株式会社ヒナプロジェクト●募集作品・ストーリーの中に何らかの「お仕事」が出てくる作品・主人公が何らかの「職業」についている作品※ジャンル、文字数は自由(書籍化を想定し、70,000文字以上推奨)●賞金・グランプリ(1作品) 賞金10万円+マイナビにて電子書籍化・優秀賞(5作品) 賞金3万円+マイナビにて電子書籍化●応募資格不問(プロ、アマ、年齢等一切不問)●応募方法「小説家になろう」に作品を投稿して、「お仕事小説コン」とキーワード設定●応募締切2015年8月27日●結果発表2015年11月予定●審査員株式会社マイナビ出版事業本部マイナビeBooks編集部
2015年06月08日パピレスが運営する電子書籍投稿&編集プラットフォーム「upppi」で開催していたマリクロとの共同企画「恋愛小説&イラストコンテスト」の小説選考結果が28日、発表された。同コンテストは2段階の企画となっており、第1段階として昨年11月から、恋愛小説を想定したヒロインのキャラクターイラストの募集・選出を実施。1月28日の発表で、イラストレーター・弓槻みあさんの作品が選ばれた。そして第2段階として、このヒロインをイメージキャラクターとした恋愛小説の募集を行い、このたび結果が発表された。大賞に選出されたのは、下り絵さんの『あおい空のハート』。審査員は講評で「イラストのイメージにぴったりの、ラブストーリーと呼べる、投票1位にふさわしい作品」と絶賛し、「主人公たちの学校での日々が自然に描かれていくなかで、それぞれの性格、なかなか積極的になれない初々しい恋愛、主人公が『彼』にひかれていく過程、恋する心模様などがきちんと伝わる」「イラストの女の子がこの作中で話す姿がありありと想像できる文章」と評価した。なお、佳作には水鬼さんの『夢の中で桜は語る』が選ばれた。採用作品については、規定の賞金が支払われると共に、後日イラスト選出作家の書き下ろしイラスト付きで絵ノベル化、および『電子書店パピレス』『Renta!』での配信が予定されている。
2015年05月29日肩ヒジ張らずに読めて、爽快な読後感を味わえる秀逸なエッセイに出会った時の歓びは、ささくれた心を、洒脱なユーモアで包み込んでくれる親友を得たようなもの。そのおもしろさに快哉を叫びながら、大きく深呼吸できるような気分になれるから不思議です。著者がアラフォー、あるいは、アラフォーの頃に書かれたエッセイ集で、クスリと笑えるのにジンとくる、味わい深い珠玉の3冊をご紹介しましょう。類まれなるセンス。片桐はいりさんの文才にハマる!▼『わたしのマトカ』片桐はいり(幻冬舎文庫)片桐はいりさんという俳優をもともと好きだったのですが、2006年に出版された彼女の初エッセイ集「わたしのマトカ」を読んだとき、あまりのおもしろさと類まれな文章センスにぶっ飛びました。2005年、映画「かもめ食堂」の撮影のため、フィンランドに1カ月間滞在したことをきっかけに、書き下ろされたエッセイが本書。マトカは、フィンランド語で「旅」という意味だそうです。撮影の待ち時間、フィンランド人の若手俳優と「ヤッチマイナ!」と「キル・ビル」ごっこをしたり、フィンランドの鬼才、アキ・カウリスマキ監督映画の常連俳優との共演に胸ときめかせたり、サルミアッキという甘塩っぱいゴムみたいなお菓子に驚いたり、「大根おろしが食べたい」と発作のように思ったり、フィンランドの魅力のみならず、片桐さんの役者人生と世界各地への旅がレイヤーで描かれ、息もつかせぬおもしろさ。映画好き、芝居好きという芳醇な愛情が根底にピシッと1本通っており、生き方にも感銘を受けずにおれません。この後に出た『グアテマラの弟』(幻冬舎)、『もぎりよ今夜も有難う』(キネマ旬報社)も間違いなくおもしろいので、心から一読をお勧めします。電車で読んだら危険!? 報復絶倒のエッセイ『ワタシは最高にツイている』小林聡美(幻冬舎文庫)女優の小林聡美さんが、30代から40代にかけての3年間に書いたエッセイがまとめられ、2007年に出版されたもの。「かもめ食堂」つながりというわけではないのですが、主演された映画の撮影期間はこの3年間に含まれるので、ヘルシンキ滞在中のエッセイも2編。もちろん映画を観ていない人にも楽しめる内容で、笑いなしには読めません。長期滞在者向けのアパート型ホテルで、鉢植えの花を窓辺に飾って愛で、ささやかな幸せを満喫しながらも、控えめそうな国民性なのになぜか目立つ若者の尻出し率(パンツの位置が下過ぎ)を憂う。また、フィンランドと日本のスタッフが双方の言葉を覚えて、互いに「ホンバンイキマ~ス」「ウスコマトンタ(信じられない)!」などとやりとりする現場の雰囲気を活写。それ以外にも、3年分のリアルアラフォー感が味わえます。かつて夫であった三谷幸喜さんが、原稿が書けなくて七転八倒し、リビングルームで気分転換に彼女の本を手に取ったら、おもしろ過ぎてかえって自信をなくした…というエピソードが残っているくらいの名文家。同じく幻冬舎から出ている『マダム小林の優雅な生活』『マダムだもの』なども、報復絶倒なので電車の中では読まないほうがいいかもしれません。一切ハンパなし! 妄想炸裂の爆笑エッセイ『お友だちからお願いします』三浦しをん(大和書房)作家の三浦しをんさんは、もちろん小説も素晴らしいですが、エッセイの絶品さは他の追随を許さないものが。脳内で妄想が炸裂し、血中濃度の臨界点を振り切った描写は、一切ハンパなし。とはいえ、これは、様々な新聞や雑誌に書かれたものが1冊にまとめられ、2012年に刊行されたエッセイ集。帯に「よそゆき仕様・自社比」とある通り、初心者の方にも非常に入りやすく、食わず嫌いの方にも読みやすい内容となっています。「私はふだん、『アホ』としか言いようのないエッセイを書いているのだが、本書においてはちがう!(自社比) よそゆき仕様である!(あくまで自社比)」という前書きから始まり、個々のタイトルからして、「オヤジギャグのマナー」「加齢の初心者」「ヴィゴ・モーテンセンと妄想旅行」「町田も東京だったんだ」など、妙にそそられるものばかり。また、後書きで「いかがでしたでしょうか。お友だち以上になっていただけそうですか? 『なれるわけないだろ、ごるぁ!』という怒声が聞こえてくるようだ。精一杯よそゆきの姿勢を装ってみたつもりなのだが、ほうぼうで本性が表れてしまってるもんなあ……。今回読み返して、自分のあまりのダメぶりに、『お友だちですらご免です』と思った」としをんさん。いえいえ、もうお友だちですってば。よそゆきじゃないほうをお望みなら、新潮文庫の『しをんのしおり』『人生激場』『乙女なげやり』をぜひ!この3冊は、すべて“旅”が通底しています。それも魅力のひとつかもしれません。笑ったりジワッとしたりスカッとしたり…脳内の果てしない旅をどうぞお楽しみください。・ 『わたしのマトカ』(幻冬舎文庫) 片桐はいり ・ 『ワタシは最高にツイている』(幻冬舎文庫) 小林聡美 ・ 『お友だちからお願いします』(大和書房) 三浦しをん
2015年05月18日1986年にフランスで発表され話題を呼び、40以上の言語に翻訳されるに至った小説『悪童日記』。日本でもベストセラーとなった同小説は、トマス・ヴィンターベアら名だたる監督による映画化の話が幾度も浮上しながら消えるなど、様々な要因が重なり、いつからかこういわれていた。“映像化不可能”と。その難題といえる映画化をハンガリーのヤーノシュ・サース監督がやり遂げた。その他の写真映画化が頓挫してきた原作への挑戦。まず、この試みに臨んだ理由を監督はこう明かす。「とにかく僕はリスキーなテーマや題材に挑むことが好きなんだ。また、両親がユダヤ人強制収容所からの生還者で。一度、戦争にきちんと向き合いたかった。『悪童日記』はそのふたつのテーマにトライできる。だから、いつか自分にチャンスが巡って来ると信じていたんだ」ハンガリー出身の亡命作家、アゴタ・クリストフの原作は舞台となる町の名も主人公の出身地も特定されていない。その中で、監督はハンガリーが舞台のハンガリー人の物語として描いた。「アゴタが自身の体験が基になっていることは明確。だから、アゴタ本人に会ったとき、僕はこう切り出した。『これはあなたの記憶と体験を綴った物語。ですから、ハンガリー語でハンガリーを舞台に描きます』と。そのとき、彼女は『そのとおりよ』といってね、すごく喜んでくれたよ」物語の主人公は第二次大戦末期、首都ブタペストから田舎町の祖母宅に疎開した双子の兄弟。ナチスの侵攻、ユダヤ人差別、貧困など、国が混迷を極める中、彼らが身を持って体験する過酷な現実が描かれる。中で鮮烈な印象を残すのが双子を演じた子役の二人。実は演技経験のない素人を起用した。「死と隣り合わせの戦時下を生き抜く兄弟を体現できる子役を現代から探し出すのは至難の業で。ハンガリーのすべての学校に電話して、奇跡的に出会ったのがアンドラーシュとラースローのジェーマント兄弟だった。実際に彼らは貧しい村の出身で。劇中の兄弟同様に肉体労働の経験もあった。ありのままでいてほしかったからあえて演技指導はしなかったよ」作品はチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを獲得など世界各国で高い評価を得ている。「各国ともに若い人たちがこの映画を支持してくれね。“この兄弟の境遇は他人事ではない”と現代の社会に重ねて語る若者がすごく多い。僕は受賞よりもそのことがうれしい。日本の若者にもぜひ観てもらいたいね」『悪童日記』10月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほかにて公開取材・文・写真:水上賢治
2014年10月02日ライフィートはこのほど、小説付きレトルトカレー「華麗なる小説」を発売した。○東京の文化流行を取り入れた"小説付き"ご当地カレー同商品は、有数の古書店街・神田神保町の「カレーと本」の文化流行をパッケージした商品。味へのこだわりはもちろん、付属小説やパッケージにも気を配り、東京の新しいご当地カレーとして、お土産や贈答品として活用できるよう、また幅広い年齢層が楽しめるように開発したという。カレーは、180g。日本人になじみのあるルウカレーと、幅広い世代に人気のあるキーマカレーの良さをバランスよく配合、鶏ひき肉を多く使って旨みを引き出し、あらゆる年齢層が楽しめるように適度にスパイスを効かせた中辛味とした。また、本を読みながら食べることをイメージし、冷めてもおいしく食べられるように風味にもこだわったという。付属の小説は、夏目漱石(夢十夜)、宮沢賢治(注文の多い料理店、他1編)、芥川龍之介(羅生門、他2編)、太宰治(走れメロス、他1編)など、日本を代表する文豪の短編小説を中心に収録。いつでもどこでもすぐに読めるよう、持ち運びにも便利な、市販の文庫と同サイズとした。小説は現在4種類あり、作家/作品は今後も追加予定となっている。販売価格は、648円。現在、Webサイトほかにて購入することが可能となっている。
2014年04月09日突然ですが、官能小説を書いてみたことがありますか?おそらくですが、ありませんよね。「どんなセリフや服装、仕草よりも、女性の書く官能小説ほど男性をムラムラさせるものはありません」こう語るのは、元人気グラビアアイドルでありながら、今月『キレイになりたくて』(双葉文庫)を発売し、官能小説家デビューを果たした小阪由佳さん(写真)。今回は小阪さんに、初心者でも簡単に実践できる、官能小説の書き方を伺います。みなさんも実際に官能小説を書いて、彼氏や気になる男性に見せてみてください。突然現れたあなたの壇密顔負けの色気に、きっとカレはボルテージが一気にMAXになってしまいますよ。■1.まずはお勉強「まずは官能小説なるものが一体どういうものなのかを知らなくてはいけません。そのために、本屋さんで、官能小説を一冊選び、恥ずかしがらずに購入しましょう。一通り読めば、“官能小説ってこういうものなんだ!”という雰囲気が掴めます。どうしても手にとって購入するのが恥ずかしい場合、アマゾンなどのネットショッピングを使うのもよいかもしれませんね」これは実に大切なステップ。官能小説を書く前に、まずは読んで、カラダの奥底から溢れる性欲を感じましょう。これが官能小説を書く際のエネルギーになりますから。■2.経験を元にし過ぎない「エッチな場面を書くとなると、初心者がついやってしまいがちなのが、自分の経験を元にノンフィクション風に書いてしまうことだと思いますこれではリアリティがある反面、ファンタジーに欠け、イマイチ読んでムラムラきません」それに、変にリアリティがあると、カレに見せた場合“お前ってこんな体験したことあるんだな・・・・・・”とドン引きされてしまい兼ねませんしね。■3.想像力をフル活用する「自分の経験を頼りにしないとなると、当てにできるのは想像力のみです。是非、頭の中のムラムラ・スイッチをONにして、想像力を働かせましょう。自分がやってみたいプレイを自由に書けることが官能小説の醍醐味です」これは非常に大切なステップ。カレに読ませれば、“こいつはこんなプレイに興味があるんだな。フムフム・・・・・・ムフフ・・・・・・”と、こっそりカレに、挑戦してみたいプレイを伝えることができますよ。■4.読み返して恥ずかしいくらい大胆に書く「官能小説を書くのは、人前で水着姿になっていたグラビアアイドルの私でも、恥ずかしいものがあります。外見より内面を出す方が恥ずかしいですからね。だからといって、中途半端な表現では読んでもムラムラこないのが官能小説。喘ぎ声や体位もはっきりと大げさなくらいに描写しましょう!」これも官能小説を書くときには重要なことです。あとから読み返して恥ずかしいくらいの表現が、官能小説には丁度いいのです。■おわりにいかがでしたか?カレのために書く官能小説は、いわば少しピンクなラブレター。恥ずかしいのは百も承知で、それでも勇気を出して素直に書いてみてくださいね。きっとベッドの中でのカレに大きな変化があるはずですよ。(小川沙耶/ハウコレ)※取材協力小阪由佳85年生まれ。元グラビアアイドル。2009年にグラビア界を引退後、美容専門家に。現在は、『(株)リバイバルミーティング』の代表を務めている。オフィシャルブログ「recovery」。2013年8月『キレイになりたくて』(双葉社)で官能小説家デビュー。二十歳のグラビアアイドルの女の子が、とにかく売れたい、と無我夢中になって業界に染められ、色々な男性と交わる話が話題を呼んでいる。
2013年08月27日ケータイ、スマホ、電子書籍端末などでも小説が読める時代になりました。文字だけで私たちを楽しませてくれる「小説」は最もお手軽で、しかし深みもあるエンターテインメントではないでしょうか。今までにあなたを感動させた小説はありますか?その小説は何でしょうか? マイナビニュース会員に聞いてみました。調査期間:2012/10/25~2012/10/28アンケート対象:マイナビニュース会員有効回答数 916件(ウェブログイン式)■あなたは今までに読んで感動した小説はありますか?はい232人25.3%いいえ684人74.7%まず「感動した小説があるか」を聞いてみました。約25%、1/4が小説で感動した経験があるとのこと。一番感動させてくれた小説は何か、またどんな点に感動したかを聞きました。結果、票が大変に割れました。一番票数を集めた小説でも6票でした。小説に関しては好みが非常に分かれるようです。代表的な意見と共にご紹介します。●『ノルウェイの森』著者:村上春樹別れようと思っていた恋人となぜかやり直してもいいかなと思ったきっかけになった。(京都府/女性/29歳)同回答が合計6人。今やノーベル文学賞の本命となっている村上春樹さんの代表作。ファンが多い作品として知られています。●『西の魔女が死んだ』著者:梨木香歩子供向けの小説ながら奥が深く、主人公とおばあちゃんの言葉が心に響くから。(栃木県/女性/28歳)同回答が合計6人。日本児童文学者協会新人賞を受賞しています。児童文学の新しい傑作です。●『塩狩峠』著者:三浦綾子利己的に生きるのではなく、利他的に生きるところ。(東京都/男性/29歳)同回答は合計5人。実際に起こった鉄道事故を元に、クリスチャンである三浦綾子さんが「自己犠牲」をテーマに描いた古典的な名作です。●『いま、会いにゆきます』著者:市川拓司純粋で温かい物語だったところ。(兵庫県/女性/27歳)同回答は合計5人。メディアミックス展開で大成功を収めた小説。映画は2004年に公開されています。●『手紙』著者:東野圭吾人間同士の温かいきずなに触れた。(東京都/男性/42歳)同回答は合計4人。毎日新聞に連載され、単行本になるや第129回直木賞候補になったベストセラー。●『容疑者Xの献身』著者:東野圭吾見返りを求めない、こんなに深い愛があるものかと感動しました。(広島県/女性/29歳)同回答は合計4人。ミステリー小説です。映画化もされて大々的に宣伝されたので、読んでなくても知っている人が多いのでは。それにしても東野圭吾さんの小説は人気がありますね。●『白夜行』著者:東野圭吾読んだ後の余韻を残すうまさ。(大阪府/女性/30歳)同回答は合計4人。これまたベストセラーになった東野圭吾さんのミステリー。2006年にはテレビドラマ化。2011年には映画化されました。●『恋空』著者:美嘉まだ若い自分が好きな人をおいて死んでしまう。(富山県/男性/31歳)同回答は合計3人。元はケータイ小説で、美嘉さんのデビュー作でもあります。2006年に書籍化されてベストセラーになりました。●『星の王子様』著者:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ読んでいて純粋な気持ちになった。(大阪府/女性/23歳)同回答は合計3人。児童文学史に残る永遠の名作。大人になってから読むと、また別の感動が心に広がります。●『アルジャーノンに花束を』著者:ダニエル・キイス人間にとっての幸せってなんだろうと考えさせられるところ。(栃木県/男性/39歳)同回答は合計3人。SF小説の傑作です。映画化された際の邦題『まごころを君に』は、あの『エヴァンゲリオン』に引用されています。●『罪と罰』著者:フョードル・ドストエフスキー主人公が殺人を犯してもその男を愛した女が彼の送られるシベリアまでついて行って彼をずっと見守っていたところ。(熊本県/男性/29歳)同回答は合計3人。長いことでも有名なロシア文学の古典です。ロシア文学は登場人物の名前を覚えるのも大変なんです。長いので。●『おおつごもり』著者:樋口一葉人間の業を見事に描いているから。それも24歳の女性の作品であるから。(東京都/男性/45歳)樋口一葉と言えば今や5千円札の人。彼女は夭折しましたが偉大な文学者でした。今読んでみるとみずみずしい筆致に驚かされます。●宮部みゆきさんの小説全般人物描写の匠(たくみ)さと、目に浮かぶような情景描写のテクニックには嫉妬(しっと)心さえ浮かびます。(東京都/男性/37歳)宮部みゆき作品で「これ」という票をたくさん集めたものは残念ながらありませんでした。しかし、「全部好き」という回答がこの人以外にも。さすがベストセラー作家ですね。熱い支持者がいます。この記事を読んでいるあなたが感動した小説は何でしょうか?(高橋モータース@dcp)
2013年01月13日推理小説を執筆する際に、守らないといけないルールというのが実は存在します。「推理小説が大好き!」という人なら知っていると思いますが、、たまに読む人やあまり読まないという人はもしかするとそんなのがあることさえ知らないかもしれません。今回は、そんな推理小説のルールを紹介します。とはいえ、そのルールを絶対に守らないといけない!という訳ではありませんし、推理小説を書く際の入門的なものだと考えてもらえると幸いです。まずは『ノックスの十戒』から紹介しましょう。ノックスの十戒とは、1928年に推理小説家のロナルド・ノックスが発表した推理小説を書く際の入門的なルールです。1.犯人は物語の最初の部分から登場している人物でなくてはならない。いきなり最終局面で「実は私が真犯人なのだフハハハハ!」などといきなり知らない人物が登場したらダメですもんね(笑)。2.探偵方法に超自然的な能力を用いてはいけない。時間を巻き戻せたりしちゃうと簡単に犯人が分かってしまいますし……。3.犯行現場に秘密の抜け穴や秘密の通路が2つ以上あってはならない。1つだけあるのはOKだそうです。4.未発見の毒薬や難解な科学的説明が必要になるような器具を用いてはならない。読者が推理できないような空想上の薬物や、ドラえもんの秘密道具などのトンでもアイテムが登場してはいけない、ということですね。5.中国人を登場させてはならないこのルールが発表された当時は、中国人は神秘的、または超常現象的な力が使えると考えられていたそうです。6.偶然や第六感によって事件を解決してはならない。適当に犯人の名前を挙げたら正解でした、めでたしめでたし。という展開は確かに寒いですよね(笑)。7.探偵自身が犯人であってはならない。そりゃそうだ(笑)。ただし、探偵が事件を解決に導くために犯人を装うというのはアリだとか。8.事件を読者がわからないような手がかりによって解決してはならない。読者に推理できる証拠はすべて明らかにしないといけない、ということでしょうね。9.ワトソン役(物語の語り部)は自分の判断や見解をすべて読者に伝えないといけない。これも9番目と同じく、推理の判断材料をちゃんと提示せよ、ということのようです。10.双子の登場人物、または一人二役の変装などは予め読者に知らされなければならない。出すならちゃんと読者にも知らせろ、とそういうことですね。ノックスの十戒は以上です。次に、ノックスの十戒と並んで有名な推理小説を書く際のルールが、『ヴァン・ダインの二十則』です。これは推理作家のS・S・ヴァン=ダインがノックスの十戒と同じ1928年に発表したもの。少し長いですが、おつき合いください。1.事件の謎を解く手がかりは明白に記述されていなくてはならない。読者に謎の手がかりなどはあってはいけないということで。これはノックスの十戒と同じですね。2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者を騙すような記述をしてはいけない。読者のミスリードを誘ういわゆる「叙述トリック」というものですが、ヴァン・ダインはこの叙述トリックがあまり好ましくなかったそうで、こういったルールを入れたそうです。3.余計なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、犯人を正義の庭に引き出すことであり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。確かに推理小説を読んでいるつもりがいつの間にか恋愛小説になってたら驚きますよね(笑)。4.探偵自身や捜査員の1人を突然犯人にしてはいけない。これは恥知らずのペテンである。これはノックスの十戒にもありましたよね。5.犯人は論理的な推理によってしなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって解決してはいけない。これもノックスの十戒にありました。テキトーな推理で偶然犯人が分かる、などは持っての他ということですね。6.探偵小説には必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。誰も推理しなかったら物語は進みません。非常に基本的なことですね。7.長編推理小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。殺人と窃盗で比べると、解決することの重要性などが違ってきますね。8.占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。ちゃんと自分の頭で推理しろってことでしょうか。9.探偵役は1人が望ましい。1つの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。読んでいる人も1人の探偵の目線の方が読みやすいかもしれませんね。10.犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。仰るとおりで(笑)。11.端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。要するに犯人役にはちゃんとした重要性を持たせろということですね。12.作中にいくつもの殺人事件があっても、真の犯人は1人でなければならない。ただし端役の共犯者がいてもよい。真犯人が何人もいるのは推理する読者も困惑してしまうかもしれませんね。でもグループ犯などもありますし、今はこの限りではないのでしょうね。13.冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。あまりにも強大な力がバックにあると、探偵側が手も足も出なくなっちゃうからでしょうか。14.殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的かつ科学的であること。空想科学的であってはいけない。毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。これもノックスの十戒にありましたね。15.事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。ノックスの十戒にあるように、推理の手がかりはちゃんと読者に明かしなさい、ということです。16.よけいな情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。物語の筋と関係ない余計なパートは入れるな、ということのようです。17.プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日頃取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。13番目と同じように、探偵役が手も足も出ないような人物を犯人にしてはいけない、ということですね。18.事件の結末を事故死とか自殺で片付けてはいけない。こんな結末は読者をペテンにかけるようなものだ。そんなオチだったら読者は「今までの推理はなんだったんだ!?」と唖然となりますね。19.犯罪の動機は個人的なものがよい。国際的な陰謀とか政治的な動機はスパイ小説に属する。要するに、探偵役の手に負える範囲で……ということですね。20.自尊心のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古されたものである。・犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法・インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる・指紋の偽造トリック・替え玉によるアリバイ工作・番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる・双子の替え玉トリック・皮下注射や即死する毒薬の使用・警官が踏み込んだ後での密室殺人・言葉の連想テストで犯人を指摘すること・土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法簡単に言うと、ありきたりなものは使うな、ということのようで(笑)。以上が、推理小説を書く際のルールと呼ばれているものです。1928年に発表されたものですので、今では「ちょっと意味がわからないです」と思ってしまうものもありますね。ただ、本当に基本的なルールも含まれているので、「推理小説を書いてみたい!」という人は、まずこれらを参考にしてみるのもいいかもしれませんね。(貫井康徳@dcp)
2012年11月17日