「ちっちゃな家」シリーズで有名な、建築家・杉浦伝宗さんの名言、狭小住宅の空間三原則「透ける」「抜ける」「兼ねる」前々回は「透ける」について、前回は「抜ける」についてご紹介しました。最後にご紹介するのは「兼ねる」です。■ 「空間の共有・共存」という昔からの知恵おそらく「兼ねる」については、皆さんも聞いただけで、なんとなく想像がつくかもしれません。限られた平米数の狭小住宅に、部屋を幾つも作るのは物理的に難しい……。そこで、部屋や空間に複数の用途・機能を持たせ省スペース化していこうというのが、この「兼ねる」です。思えば昔の日本で庶民の暮らしといえば、ちゃぶ台を置いた畳の部屋で食事をし、時にお客様を迎え、夜は布団を敷いて寝ていたことからも、「兼ねる」は日本人には腑に落ちやすいのではないでしょうか。polkadots / PIXTA(ピクスタ)■ 事例でより具体的に「兼ねる」をご紹介1.玄関を省略してLDKと兼ねる先日お亡くなりになった樹木希林さんのナレーションも印象的だった、昨年大ヒットしたドキュメンタリー映画『人生フルーツ』では、故・津端修一さんが自ら設計された玄関を省略してLDKと兼ねるご自宅を見ることができます。写真はイメージです家が1つの大きなワンルーム形式になっているだけでなく、玄関らしい玄関もなく、庭に面した掃出し窓からの出入りになっているのが印象的でした。2.廊下を省略して「洗面所」と「脱衣所」と兼ねる長い廊下は、狭小住宅にとって極力避けたいプランです。古い木造一戸建てをリノベーションした筆者の元・自宅ですが、奥に位置する洗濯機や浴室までの廊下の途中に、トイレや洗面脱衣を配置しました。洗濯機側からの見返し、左手のピンク色のタイルは浴室部分ただし、玄関からも丸見えなので、いざという時の目隠しドアに、隣接する納戸のドアを90度ふって兼用です!しかし、こういった「玄関がない」「廊下が脱衣になる」等のプランは、住むにあたり、それなりの覚悟が要求されます。ライフスタイルや家族の希望などを充分に検討シミュレーションして、決定してください。■ もっと身近で取り入れやすい事例も!洗面所やキッチンの一角に家事コーナーを作ったり、ワンルームでベッドをソファ代わりにする、というのも「兼ねる」ですよね。LDに大きめのダイニングテーブルを置き、子どもの勉強や家事、事務作業をするのだって立派な「兼ねる」です。プラナ / PIXTA(ピクスタ)さらに外へも目を向けて、庭やテラス、バルコニーや屋上との繋がりを感じさせるプランも、広い意味での「兼ねる」となります。■ 総論:3原則のもたらす大きなメリットいかがでしたか?「透ける」「抜ける」「兼ねる」は、改めて名言だと思いました。柔軟な発想と工夫・大胆な割り切りで、小さな家でも窮屈にならずに、楽しく住まうことができる……。また、資材や内装材が節約できるので、工事費の削減も狙えるかもしれません。杉浦さんも、小さな家でコンパクトに住まうことは、結果として冷暖房効率もよく、掃除にかける労働力が減る、つまり家事効率も上がると嬉しいメリットを挙げられていました。ぜひ今日からでも、この「透ける」「抜ける「兼ねる」の中から、皆さんの住まいに取り入れられる技を探してみてください!
2018年10月19日建築家と最初にした打ち合わせのとき、「寝室は一人一部屋欲しい」と夫への事前の相談なく唐突に伝え、実際、寝室は一人一部屋で設計を進めてもらいました。今回は、夫婦の寝室を別にした理由をお話しします。■ 夫婦のライフスタイルの違いが最大の理由karandaev / PIXTA(ピクスタ)仕事の都合で、ときどきですが、午前3時、4時に起き出して仕事に出かけることがある夫と、気分が乗ると深夜まで仕事に取り組むことがある私。もともと暮らしていた借家では、息子を真ん中に、まさに川の字で眠っていました。日付が変わる頃、息子を起こさぬようにそっと布団に入り、ようやく深い眠りに落ちるのが午前1〜2時。やっと眠れた……、そんなタイミングで夫のスマホのアラームが鳴り出して、そのまま眠れなくなる、ということも。Mills / PIXTA(ピクスタ)翌朝、寝不足でふらふらになりながら息子を送り出す、という日も少なくありませんでした。私は寝つきが悪い性質で、横になってから寝付くまでに時間がかかるタイプ。午前0時に布団に潜り込んでも、午前2〜3時まで眠れない、なんてこともよくあります。目を閉じると、頭の中に次から次へとさまざまなタスクが湧いてきて、眠れなくなってしまうのです。■ 40歳を過ぎて、質の高い睡眠をとることの大切さに気付いたVerasimon / PIXTA(ピクスタ)家を建てるきっかけの1つは、思春期を迎える息子の自室を作ること。ならば私にも、ゆったりと休息を取れる部屋があってもいいのではないかと思いついたわけです。建築家の前で「寝室は各自ひと部屋」と告げたら、夫は「それ、オレ知らないよ?」という顔。そりゃそうです。事前になんの相談もしなかったのですから。でも、夫自身、ヘルニアの手術の経験者で腰痛持ちで眠りが浅いこと、春先になると気持ちが塞ぎ込みがちで寝つきが悪くなるなど、加齢による不調が出始めていました。不惑を過ぎた私たちにとって「昨日のいびきがうるさかった」「寝言が面白かった」と笑うことよりも、質の高い睡眠をとることの方がずっと大切。だから別がいいのでは?と今ある現実をそのまま説明したら、納得できたようです。40代半ばに差し掛かって知った疲労や睡眠の悩みは、30代の頃には想像もできませんでした。■ 寝室を別にして1年半経ちましたさて。引き渡しからおよそ1年半が過ぎ、実際に一人で眠るようになってどうかといえば……、シングルベッドとはいえ、自分以外の人の寝返りによる振動や物音を感じずに眠り続けることができるのは、本当に幸せなことだと喜んでいます。目覚めたときのすっきり感に、大きな変化が生まれました。また、夜型で朝がてきめんに弱い私が、朝、気持ちよく起きられるようになったのは大きな収穫。禁煙したとき以上に、時間を有効に使えるようになりました。職業柄、自宅で仕事をする私にとって、仕事部屋としての書斎は必須でした。ですが、もしそういう環境が必要ではないご家庭で、書斎やママスペースのようなゆとりの空間としての個室を考えているのなら、それらを兼ねて、寝室を別々にするのもひとつの手ではないか……とも思います。■ 将来、介護が必要になったときのことも考えたまた、新築の注文住宅の取材をしていて、2階に主寝室を設けるお宅が非常に多いことに気づきました。40歳を過ぎて家を建てることになり、35年後の年齢を考えると、どうしても介護を意識せずにはいられません。どちらかが要介護になったときに、階段の上り下りが毎日、毎回、必要になることに不安があります。でも、我が家のように1階と2階に夫婦それぞれの寝室があれば、先に介護が必要になったほうが1階の部屋を使えばいいのです。1階にあるバスルームやキッチンまで、階段を使わずにアクセスできるのは、非常に大きなメリットだと感じました。あとは、2人同時に要介護にならないことを祈るばかりです(笑)。結局、夫婦の寝室を別にしたのは、大正解だと感じています。
2018年10月16日「ちっちゃな家」シリーズで有名な、建築家・杉浦伝宗さんの名言、狭小住宅の空間3原則「透ける・抜ける・兼ねる」前回は「透ける」についてお話しましたが、今回は「抜ける」ついてお話いたします。■ 狭小住宅テクニックの「抜ける」とは?杉浦さんが提唱した住宅の「抜ける」は、ファッションで言うところの「抜け感」とは異なります。ガチガチに決めず、カジュアルアイテム等で「すき」を作るのがファッションの抜け感狭小なのに広く見える住宅には、以下のこんな共通点がありませんか?それは、「取り払われた壁」「高い天井」「吹き抜け」「オープンなロフトや階段」などで、開放感のある空間になっている点です。つまり床壁天井等を上手に抜くと、風が抜ける・光が抜ける・そして視線が抜けるので、広く快適に住めるという事なんですね。■ 「抜ける」は3原則の中でもハードルが高い?しかし、この「抜ける」の場合は、「設計段階でないとダメでしょ」とか、「既にでき上がっている家や賃貸住宅では無理!」と思われるかもしれません。確かに床壁天井を抜いたり、階段に手を加えるのは、基本大規模な工事になってしまいます。ですが、うまく使って空間に「抜け」を作ることが可能、しかも知らない人はいないポピュラーなアイテムがあります。そう、それは鏡・ミラーを使うことです!■ その先も空間が続いて見える!「鏡」の有効活用法鏡は、左手の壁に大きく貼られていますこの場合、できればなるべく大きくシンプルな鏡を選び、床も映り込む位置に設置すると効果は抜群です。壁一面に大きな鏡を貼ったヨガやダンススタジオが、驚くほど広く見えることを思い出してください。つむぎ / PIXTA(ピクスタ)ただし、場所の検討は充分に行いましょう。鏡に映ったテレビとローテーブル落ち着かないと感じる人もいますし、もし多くの物が映り込んで、ごちゃつき感が倍になってしまっては本末転倒です。これは筆者の狭小平屋での導入例です。長方形の鏡を前の家では、姿見として縦長に使っていましたが、ふと思いついて窓の上に横長で当ててみたら、なんだかとても新鮮に見えたんです。しかも照明が映り込んで、光熱費ゼロで明るくなる(笑)というオマケが付いてきました。ペンダント照明、実際は2つなのに3つ分の明るさ(右が鏡に映ったもの)このように部屋とバランスが取れていて、インテリアにマッチすれば、サイズやフレームデザインは好みのものでも、充分その効果を狙えるでしょう。もう一つ「抜ける」のお手軽な取り入れ方を。大きめのテーブルの天板がガラスだと、視線が床壁に抜けて、圧迫感がありません。これは置くだけでできる、「抜ける」と「透ける」の合わせ技ですね。いかがでしたか?気になる技がありましたら、ぜひチャレンジしてみてくださいね。次回は3つ目の「兼ねる」です。
2018年10月12日今回は建築業で働いているカルロスさんの家を訪問しました。カルロスさんは建築で使われる素材に対して深い愛情を持っている人です。建築素材だけではなく、家具や家にある小物類にいたるまで大切にしています。古くなって捨てられているとどうにかして使えないかをいつも考えています。そんなカルロスさんの家をご紹介いたします。■ スペインの典型的な家をリノベーションスペインの細い道。ここにある家はどれも少なくとも築150年です。カルロスさんの家は左側の列の2番目。家の下にあるトンネル状のアーチをくぐり抜けて行きます。ここではよく観光客が写真を撮影してるんですよ。くぐり抜けると、玄関が見えてきました。■ 玄関は2階に!下にある入り口ではなく、階段を登ると玄関です。階段にもタイルが貼り付けてあります。■ 好きなものを好きなように飾る!こちらが玄関です。玄関には額装された古い家の窓。存在感があり、どっしりして、そしてこの窓を何百年もの間に開け閉めしていた人たちの息遣いが感じられます。玄関を上にしたのは、日の当たる部屋を居間と台所にしたかったから。いつもいる場所や人を招待する場所は明るい方がいいですよね。■ 窓のある明るいキッチンキッチンは自然光の中でお料理したい。お風呂やトイレ、キッチンには窓がない場合がありますが、湿気のこもりやすいところこそ窓が必要です。キッチンの家具の台の部分はスペインでは石を使うのが普通です。大理石やブラジル産のグラーノと呼ばれる石などですが、カルロスの家の台所はイケアの板を使っています。木のぬくもりがあっていいですね。窓のあるキッチンはやはり和みますね。おまけにここは2階。そして興味深いことに坂の多い街は裏と表とでは高さが違うため、実は表通りからすると4階に当たるのです。そのためこの窓から誰かが覗き込むということもなく、時には鳥のさえずりを聞きながらお料理ができます。キッチンはオープンタイプでダイニングとリビング、応接室、すべてを兼ねた部屋が隣に繋がります。キッチンがオープンだと臭いや煙などがソファーを汚してしまうのではないかと心配する人もいるかもしれません。だからキッチンには窓が必要なのです。そして、ちょっとしたおつまみを作りながらゲストとおしゃべりができるキッチン。理想的です!あちらこちらに並べられたアート作品。■ 1階に降りると「プライベートスペース」こちらは階下にある寝室。寝室はふたつあります。書斎。日本的に言えば多分4畳半くらいの小さなスペース。でも、その方が集中できます。シャワーのスペースにも窓があります。窓にもお気に入りのものがたくさん。バスマットは丸めてカゴにのせています。バスマットのカゴの右側は古いお香を炊くもの。骨董品です。多分イスラム教の寺院で使っていたものでしょう。左側にある蓋つきのツボ。日本なら梅干しが入っているようなツボですが、これはトイレのゴミ箱です。床は磨いていない大理石。自然の石の温かさを重視しています。■ 好きなものが周りにある幸せキッチンのある階の上は屋根の一部を取り払ってルーフバルコニーにしています。お気に入りの骨董品や素材についての詳細は、またの機会に紹介します。
2018年10月06日フランス・パリを拠点に活動する気鋭の建築家・田根剛の展覧会「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Digging & Building」が、東京オペラシティアートギャラリーで10月19日から12月24日まで開催。連携企画として「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research」を、乃木坂のTOTO ギャラリー・間で、10月18日から12月23日まで開催する。〈新国立競技場案 古墳スタジアム〉東京 2012image: courtesy of DGT.フランスを拠点に世界各地でプロジェクトを進め、現在幅広い注目を集める気鋭の建築家・田根 剛。20代の若さでドレル・ゴットメ・田根(DGT.)として「エストニア国立博物館」の国際設計競技に勝利し、選出から約10年の歳月を経た2016年秋に同プロジェクトが竣工を迎えるなど、国内外の注目がさらに高まっている。また、2012年に行われた新国立競技場基本構想国際デザイン競技(ザハ・ハディド案選出時)に参加し、11人のファイナリストに選ばれた「古墳スタジアム」は幅広い層に知られるきっかけとなった。2017年のDGT.解散後はAtelier Tsuyoshi Tane Architectsをパリに設立し、活動の場をさらに広げている。本展は、「Archaeology of the Future— 未来の記憶」を共通のテーマにしながら、田根の密度の高いこれまでの活動と、建築は記憶を通じていかに未来をつくりうるかという挑戦を、ふたつの会場で紹介。東京オペラシティアートギャラリーでは「Digging & Building」と題して、場所をめぐる記憶を発掘し、掘り下げ、飛躍させる手法と、そこから生み出された「エストニア国立博物館」や「古墳スタジアム」といった代表作や、最新プロジェクトを大型の模型や映像などによって体感的に展示する。〈エストニア国立博物館〉タルトゥ 2006-16photo: Eesti Rahva Muuseum / image courtesy of DGT.本展の冒頭、“gallery 1”では田根がどのプロジェクトにおいても実施するイメージとテキストを使ったリサーチの手法を、天井高6mの空間を使って展示。場所から連想される膨大なイメージを壁面に貼り、分類/調査を繰り返すことで思考を整理していくこの方法を田根は「Archaeological Reseach(考古学的リサーチ)」と呼んでいる。本展では、「記憶」という概念そのものを、リサーチする実験空間として体験できる。“gallery 2”では、「エストニア国立博物館」や「新国立競技場案 古墳スタジアム」をはじめ、現在進行中のプロジェクトなどを含む7つの作品を、展示室全体を使って空間的に展示。各プロジェクトは1/10から1/100のスケールの大型模型で紹介され、全長10mにおよぶ「エストニア国立博物館」は、身体的な空間体験を可能にする。いずれのプロジェクトにも「Archaeological Research」の過程で集められたさまざまな資料やオブジェクトが伴い、ひとつの建築ができあがるまでの思考をたどる手掛かりとなる。また「エストニア国立博物館」については、設計競技に提出された模型の実物が展示される他、短いながらも密度の高い2004年以降100作品以上の田根の全活動を、30mのコリドールを使ったタイムラインとして総鑑できる展示も登場する。そして「建築は未来の記憶をつくること」という田根の思想に共鳴したアーティストの藤井光が、各プロジェクトの映像制作で参加。歴史や記憶の生成に着眼し、現代社会の諸事項を再検証する作品で知られる藤井が、竣工プロジェクトおよびパリの田根のアトリエを訪問し、撮影を行った。「エストニア国立博物館」は、2画面の大型プロジェクションで展示。場所の記憶を継ぐ建築とそこに住まう人が、あらたな記憶を重ねながら未来をつくっていく姿を見ることができる。〈Archaeological Research〉 2018TOTO ギャラリー・間においては「Search & Research」に基づき、建築における思考と考察のプロセスが展開され、「Archaeological Research」の方法論を展観。ふたつの展覧会は、場所の記憶をさまざまな角度から分析することで新たな系をつくり、未来につながる建築へと展開させていく、田根の探求と実践のプロセスを総合的に提示しようとするものとなる。「記憶は現在を動かし、未来をつくる ——」 この信念にもとづいた田根の創造は、都市の担い手である私たち一人ひとりにとって建築の持つ力や使命、未来への可能性を考えるきっかけとなるだろう。【展覧会情報】田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Digging & Building会期:10月19日〜12月24日会場:東京オペラシティ アートギャラリー住所:東京都新宿区西新宿3-20-2時間:11:00〜19:00、金・土11:00〜20:00(最終入場は閉館の30分前まで)休館日:月曜日(12月24日は開館)料金:一般1,200円(1,000円)、大・高生800円(600円)、中学生以下無料 ※()内は15名以上の団体料金、障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料、割引の併用および入場料の払い戻し不可 ※同時開催「収蔵品展064 異国で描く」、「project N 73 中村太一」の入場料を含む ※収蔵品展入場券200円(各種割引は無し)あり田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research会期:10月18日〜12月23日会場:TOTO ギャラリー ・ 間住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO 乃木坂ビル3F時間:11:00〜18:00休館日:月曜・祝日(11月3日、12月23日は開館)料金:入場無料
2018年09月28日建築家の仲條雪さんの実家について、子ども時代の思い出から、今だから話せるエピソード、実家を巣立つときの心境などをざっくばらんにお話を伺いました。仲條雪さんにとって実家とは?A. 街や暮らす人も含めて、帰る場所 「兄が2人いるのですが、父が私たちの部屋の壁をぶち抜いちゃったので、子ども部屋は広かった(笑)。ただ、築35年と老朽化していたし、梁も落ちて強度的にも怪しくなってきて……。そんな折、父から“おまえ、建ててみるか?”と言われたんです」私が子どもの頃、父・仲條正義がデザインした家具(写真上)に合わせて、スパンを決めました」という父親のアトリエは、前の家の居間の雰囲気を引き継ぐ設計。愛猫も居心地がよさそうだ建築ユニットJAMMSの建築家・仲條雪さんの作品「仲條パパの家」は、彼女の実家。「あまりこじゃれるな。とはいえ、少しはこじゃれろ。建築家が建てたような家はイヤだからな」——。これが父親からのオーダー。さながら禅問答のようなオーダーだったが、それもそのはず。お父上は日本を代表するグラフィックデザイナー・仲條正義さん。自分の父親とはいえ、一流クリエイターの希望に沿うのは大変そうですが……。「前の家では、父は居間でよく仕事をしていたので、新しい家でも父のアトリエはその居間と同じようなつくりにしました。ただ、母にやさしい家にしようと考えていたので、私や父が“こっちのほうがカッコイイ!”と突っ走らないように気をつけてましたね(苦笑)」しかし、雪さんは実家が完成したら、ひとり暮らしを始める。せっかく、思い入れのある家ができあがったのに、なぜ?「亡くなった母とは距離が近すぎて、私も大好きだったけど、母も私を頼りにしていて、このままじゃマズいって思って……。この家を建て替えるとき、いい機会だからと35歳でひとり暮らしを始めました。今は横浜に住んでいますが、実家には私の事務所を構えているし、父の顔を見に週1回は顔を出しています」仲條さんにとって、実家とはどんな存在なの?階段を挟み、雪さんの事務所の隣に父親のアトリエがある。部屋にいながらにして互いの存在を確認できる。「吊り戸棚がガラスで、父がよくのぞくので、クッションでふさいでいます(笑)」仲條さんにとって、実家とはどのような場所なのでしょうか?「前の家では、新盆になると庭先に出て、家族みんなで迎え火をするのが恒例。父が“ご先祖さまに飲ませてあげよう”と言って、それを口実に縁台でお酒を飲んだり(笑)。夏の夕方になると打ち水をして、庭に集まったり……っていうのが実家の原風景ですね」まさに古き良き昭和の趣のある雰囲気。今の実家でもその雰囲気を残している空間になっているとか。「でも、新盆には家族が集まって迎え火をしています。私にとっての実家は、街やそこに暮らす人たちも含めて、帰る場所。誰かに聞かなくてもどこに何の店があるか分かっていたり、話し込むわけじゃないけど“薄〜い”知り合いがいたり、ホッとしますね(笑)」pfofile1970年、東京都生まれ。’94年、日本大学理工学部建築学科卒業後、ワークショップに入社。木下道郎/ワークショップを経て、’02年、建築家・横関和也が主宰する建築ユニット JAMMSに参画photo seiji ito
2018年09月21日建築家・石井秀樹さんの自邸は、2年半かけて探し求めたという鎌倉の丘陵地の一角に建っています。建物は正方形の総2階。古都の落ち着いた雰囲気と緑を丸ごと味わえるようにと、LDKを配した2階は4面すべてガラス張りに。一方でバスルームや寝室などプライベート空間を集めた1階は外部に対して閉じていて、その対比が豊かな空間を生んでいます。■ 緑の眺望をぐるりと楽しむ4mのキッチンカウンター視線を遮る柱も壁もない、大空間の2階LDK。開口高は1.6mと低く抑え、建物を覆うように屋根がかかっているので、開放的でありながら屋根に包まれているような安心感も味わえます。最も美しい景色が広がる東側に向けて配置された家具のようなキッチン。その主役は、冷蔵庫やレンジフードなどをすべて下部に収容した長さ4mのカウンターです。食器をはじめ炊飯器や電子レンジなどの家電製品は背部の収納に収め、スッキリとした空間を保っています。キッチンとオープンにつながるリビングダイニングは、くつろげる畳敷きにローテーブルや低座椅子を組み合わせて。蓄熱床暖房のおかげで畳に座るとほんのり温かく、発熱ガラスを使った窓は結露に悩まされる心配もないそう。コンクリートのようなカウンタートップは、ベルギーの左官材「モールテックス」で継ぎ目のない仕上げに。オープンなキッチンで極力隠したいレンジフードは、イタリア製の昇降タイプを採用。カウンター内部に格納でき、使用時はスイッチを押すとせり上がってくるスグレモノです。■ 壁も扉もない!露天風呂のような十和田石のバスルーム緑が迫り来るような開放感あふれるガラス張りの2階から一転、寝室などプライベートな空間を配した1階は、外部に対しては閉じた箱。窓も極力小さくし、ほの暗い中で落ち着いた雰囲気を楽しめるようにしています。そんな1階で印象的なのが、テラスに面した壁も扉もない十和田石のバススペース。窓をフルオープンにすれば、まるで露天風呂のように気持ちのいい空間が生まれます。テラスからバススペースを見た様子。洗面カウンター左側の両開き戸で隠れた部分に、洗濯機を収納しています。玄関から通路を進んでいくと、左奥の白いカーテンの向こうに十和田石の浴槽が現れるドラマチックな間取りです。「バスルームは1日の中で使う時間は短いのに決まったスペースを取られてしまい、そのぶんほかの部屋が狭くなります。オープンな空間にすれば視線が抜けて空間全体に広がりが与えられるので、限られたスペースも有効に生かせると考えました」と石井さん。視線が気になる場合は、入浴時のみシャワーカーテンを閉めればOK。湿気もこもらず、掃除も簡単です。■ 黒いボックスを中心に回遊する機能的な動線1階の中心には、外壁の黒い焼杉板と呼応するように黒い壁で囲われた大きなボックスが配置されています。ボックスの周りに玄関や寝室、テラスに面したオープンなバスなどが配され、シームレスにつながる設計。床の高さや仕上げを替えることで、つながりつつ緩やかに空間に変化をつけています。中央の黒いボックスを囲んで右側に玄関、奥に寝室があり、左手に行くとバスルーム。さらにボックス内部にはトイレや洗面、靴収納なども備えられていて、ぐるぐる回りながら身支度ができます。床にはしっとりとした質感の敷瓦を採用。「住宅を設計する際は、いつも回遊性を念頭に置いています。外階段も設けてどこも行き止まりなく、ぐるりと動けるので、機能的で快適性も高まります」と石井さん。中央のボックス内部はウォークスルークロゼットで、ここも行き止まりなし。ボックスの玄関側には大容量の靴収納も設けています。ほの暗い1階と、開放的な2階。豊かな表情を楽しみながら、快適に暮らせる住まいです。もっと詳しく見たい方は、ぜひ『住まいの設計2017年05.06月号』も参考にしてみてくださいね。設計/石井秀樹建築設計事務所撮影/飯貝拓司【巻頭特集】自分らしいキッチン&くつろぎのバスルーム北欧スタイル、アジアンリゾート、モダンテイスト…理想のキッチンやバスルームスタイルは、十人十色。今号は、住まい手の希望に設計者を叶えた、4つのキッチンと4つのバスルームをご紹介します。「使い勝手にこだわったプロ仕様の土間キッチン」や「開放感と非日常感を味わう至高のリラックス空間のバスルーム」など、きっとあなたの好きなスタイルが見つかるはずです。
2018年08月13日自然豊かな雑木林を見下ろす約106坪の傾斜地に建てられた、建築家・平真知子さんとドッグトレーナーの夫の家。玄関・室内間は床がフラットにつながり、イヌも夫妻も移動しやすい仕様です。夫妻とワンコ、さらに2羽のインコが仲良く暮らす憩いの空間をご紹介します。■ 時間帯に合わせ、1日中快適でいられる六角形の住まいそれまで集合住宅住まいだった夫妻が見つけた物件は、雑木林が眼下に広がる傾斜地。ドッグランもOKの余裕ある敷地に、地上2階&地下1階の家を建築しました。設計はもちろん建築家である妻。「採光と眺めを最大限得られるよう、六角形の家をプラン。1階は吹き抜けのダイニングを中心に配置し、その周りを生活空間やイヌのスペースが取り囲むデザインです」と妻。平さん夫婦の愛犬は、ピークという名のゴールデンレトリーバー(オス・2歳)。新居完成のタイミングで迎えた、念願の大型犬です。ピークの基本的な居場所は日当たりのいい南側。掃除のしやすいタイル敷きで、扉は必要に応じて開閉します。開口部は引き違い窓で、直接外に出られて便利!ダイニングと周囲の部屋との間には扉がなく、ピークは移動が自在。「イヌができるだけ広い空間で過ごせるよう配慮しました」(妻)。ピークの居場所からダイニングを横切ると玄関です。東側の玄関にはお散歩グッズを置き、こちらからも出入りOK。置き家具は最小限とし、ピークが動き回ってもぶつからないようにしています。タイル敷きの床はひんやりとして、暑い季節は「避暑地」として活躍!ピークの居場所の隣の窪みを利用したのがキッチン。壁に沿った扇型で、手が届きやすく使いやすそう。「ピークのご飯をつくり始めると、ピークが一歩ずつにじり寄ってきて、よだれをポトッと垂らします(笑)」(妻)。■ リビングにはインコが!空間に放つ「放鳥」が日課!南西側の部屋はリビング。キッチン、ダイニングとひとつながりで動線が快適そう。そのリビングの主が、セキセイインコのプルプル(5歳)とポン(3歳)。インコたちは夫妻が以前から飼っていた、いわばピークの先輩です。「インコも家族の近くが好きなので、鳥カゴをリビングに置くようにしました」(妻)。インコは1羽1つずつのカゴですが、カゴの手前部分で連結させ、自由に行き来できる工夫をしています。「DIYでつなぎました。運動量も増えていいようです」(夫)。地震対策のロープも止まり木として活躍!インコの適度な運動のため、1日1~2時間「放鳥」を行っています。「ピークの部屋や眺めの部屋などのスクリーンを下げ、目の届く範囲で放ちます。スクリーンはピークのちょっかい防止の目的も」と妻は話します。一方、北側は階段室で、壁面に沿って大容量の書棚を設置。踏み板に腰かけながら読書でき、書斎としても機能します。「ピークは大型犬なので隙間から落下しませんが、転げ落ちないよう踊り場を広く取り、さらに安全策として途中で折れ曲がる設計にしました」(妻)。■ 2階はドーナツ状のワンルーム。愛犬と楽しくかくれんぼも!2階は、中央の吹き抜け部分を囲むドーナツ状のワンルーム空間。寝室、水回り、室内物干し、休憩室兼ゲストルームで成り立っています。「ワンルームでぐるりと1周できる間取り。吹き抜けとの間は3面が壁なので、ピークが退屈気味のときはかくれんぼのように遊び、いい刺激になっているようです」(妻)。外観はこのとおり。地上1~2階は木造、地下1階はRC造の混構造で、地下部分は夫の仕事場になっています。大開口の前の広いデッキスペースは、ピークと体を使って遊ぶのにぴったりな場所。ここから雑木林を下り、1日2回、それぞれ1時間程度の散歩をするのが日課です。大型犬の足腰を鍛えるには坂道が最適で、勾配のきつい斜面のロケーションが大いに役立っています。散歩は、体力のある夫が担当しています。「ピークには恵まれた住まいなどの環境のもと、気持ちよく過ごしてほしいですね」(夫)。自然に囲まれたロケーションに多角形を配置し、間仕切りを最小限とすることで、ハッピーで健康的な暮らしを獲得した平さん夫妻とペットたちです。もっと詳しく見たい方は、ぜひ「住まいの設計2017年5.6月号」を参考にしてみてくださいね。設計/平真知子一級建築事務所撮影/飯貝拓司【巻頭特集】「美キッチン and 極楽バスルーム」/「“ネコと暮らす”ということ、“イヌと暮らす”ということ」豊富な実例ときめ細やかな情報で快適・便利な住スタイルを提案。家作りの夢が広がる!住まいのお役立ちマガジン
2018年07月16日7月21日発売の『住まいの設計9月号』より、家好き芸人、アンガールズ・田中さんが建築家の自邸を突撃取材する新連載がスタートします。アンガールズ・田中さんは広島大学工学部第四類建築学部卒業。大学では建築の構造を研究し、得意分野は日本建築だそうです。今回は東京・渋谷区で築40年、158.8㎡(48.12坪)、鉄骨造3階建ての建物をリノベーションしたPuddleの加藤匡毅さん宅を取材しました。■ 音楽を奏でるキッチン?渋谷の奥= “奥渋” と呼ばれるおしゃれエリアに、建築家・加藤匡毅さんの事務所兼自宅があります。「築40年ほどの鉄骨3階建ての空き家をリノベーションしました。改修前は壁がピンク色だったんですよ」と聞いて、「ピンク!?それはローセンスだわ~」と驚く田中さん。グレーに塗り替えられた外壁に緑が映える、モダンな外観に生まれ変わっています。1階が事務所で2・3階が住居になっており、2階LDKの中心には存在感のあるアイランドキッチンが配されています。キッチンの天板には、妻・奈香さんの要望により銅板を採用。「銅板は病院などでも使われていて、衛生的で用途にも合っています。味噌やレモンなどをこぼすと、すぐシミになりますけど(笑)」と奈香さん。下部は収納で、なんとスピーカーまで内蔵されています。■ 光と風がめぐるオープンなテラス2階への外階段を上がるとテラスがあります。緑いっぱいのテラスは「本当にカフェのテラスみたい。気持ちいいわ~」と田中さん。友人の引っ越しの際にもらってきたというテーブル& ベンチも絶妙にマッチしています。上の写真はキッチンからの眺め。「テラスにいると外を感じられるけど、一歩中に入ると、外からの視線はまったく気にせずにくつろげるところもいいですね」と田中さん。■ まるでリゾート?のようなサニタリー階段で緩やかに仕切られたリビング北側は、長男ソラくんの遊び場。「ここは、以前はキッチンでした。日本の家は北側に水回りを配置して南側で過ごすというのが一般的だったので。トップライトを設けて光を取り込んでいます」と加藤さん。その奥には、トイレ、洗面、バスルームが一体化した水回りを配置。トイレにもトップライトが設けられ、ブルーの壁が爽やかです。■ ガレージだった1階は街に開かれたオープンな設計事務所に「街に開いた設計事務所をつくり。同時にお店の奥で家族がちゃぶ台を囲む昔の商店のような暮らしを実験的にやってみたかった」と加藤さん。オフィスのキッチンスペースにはシアトルのメーカーにセミオーダーしたいとうエスプレッソマシンも。もっと詳しく見たい方は、「住まいの設計2018年9月号」をご覧ください!【取材協力】Puddle代表の加藤匡毅さんが、隈研吾建築都市設計事務所、IDÉE などを経て2012年に設立。「%Arabicaコーヒー」や「DANDELION CHOCOLATE」など、世界各地で話題のショップの設計を手掛ける。巻頭特集は「木の家、自然素材の家は居心地がいいんです。」。第二特集「わんこと暮らすなら、こんな家!」では犬も人も暮らしやすい家をたっぷりとご紹介します。また、家好き芸人、アンガールズ・田中さんが建築家の自邸を突撃取材する新連載「アンガールズ・田中が行く!建築家の自邸探訪」がスタートします。
2018年07月13日岡山県倉敷市。約270坪の広大な敷地に建つO邸。建築家でありペット共生住宅の専門家として海外でも知られている、廣瀬慶二さんに設計を依頼しました。内部は贅沢なワンルームのようで、ネコが駆け回る場所と進入禁止空間とのメリハリもつけられています。大きな開口部の先にはネコが過ごせるパティオ、すなわちキャティオが。室内に張り巡らされたキャットウォークや棚に隠された迷路を、アビシニアンのココとマーシャンが優雅に歩き、瀕死状態で保護したルルも今では元気に走り回っています。■ ネコの家に人間が住まわせてもらっている家夏は日の出とともに起こしにくる彼女たちのトイレを片付け、朝食を食べさせたら出勤前にひと遊び。帰宅すると車の音に反応し、ドア前に整列してお出迎え。寝るときはもちろん一緒。足元、腕枕、お腹や背中に3匹が文字どおりOさんに寄り添って眠るのが至福の時なのです。20代の頃からいずれは猫と暮らしたいと考え、ペット共生住宅にも住んだものの、中途半端さは否めなかったといいます。以前から設計を担当した廣瀬慶二さんの著書を読んでいて、その中の「若い猫と暮らす際、年を取った猫がプライドを持って暮らせる家をつくりたい」という一文に惹かれたそう。廣瀬さんに伝えたのも「ネコ中心の家にしてほしい」とだけでした。棚からキャットウォーク、猫寝天井と縦横無尽に遊べる構成に昨年6月に入居し、キャティオでは短い秋を過ごしました。まもなく訪れる春のうららかな日のもと、彼女たちはここを駆け巡ったり、のんびりとひなたぼっこしたり、季節を告げる鳥や芽吹き始めた自然に包まれ、思い思いの時間を過ごします。それを眺めるOさんの幸せな笑顔まで目に浮かぶようです。■ 潜在能力を存分に発揮できるような猫のための設備キャティオをはじめ、爪研ぎ柱、キャットウォーク、猫寝天井、猫地窓。この家のネコのための設備は、数えあげたらキリがありません。なのに、わざとらしくないのです。廣瀬さんの言葉を借りるなら「家が猫々しくない」。でも機能はぎっしり。最近よくある既製品の家に付け足すようなやり方ではなく、そぎ落とすという方法論で構成されたO邸。自然素材が多用され、住宅の性能もよく考えらています。例えば棚の最下部に設けられたケージの窓を開け放つと、植栽のある庭から冷えた風が部屋を通り、東側の窓に抜けていきます。そして、キャティオに面した東向きの開口部は、切妻屋根が直射日光を遮りながら、心地よい光だけを運んでいます。さらに「動物行動学」の観点から、ペットとの共生のあり方を考え続けてきた建築家の廣瀬さんが目指したのは、ネコの潜在能力を引き出す家。「ネコには飼い主の知らない能力がまだまだ隠されている。それを発揮できる家をつくるのが、飼い主の義務です」。それはネコが全力で遊べる家。全力でジャンプして、全力で直線距離を走ることができて、全力で爪研ぎに立ち向かえる。それは土地面積に関係なく、縦方向に伸ばせば狭小住宅であっても可能だといいます。また室内飼いだとネコに悪いという気持ちが働いてしまいますが、それも間違いです。交通事故や病気の感染を避けるためにも、ネコは「完全室内飼育」にするべきだと廣瀬さんは語ります。「室内で引き起こす爪研ぎやマーキングといった問題行動も、こうした退屈させない空間を与えることで解消するのです」。■ 設計者が考える猫と楽しく暮らす工夫Point1. キャットウォークと爪研ぎ柱飛びつき背を伸ばして爪を研げる、サイザル麻を巻いた爪研ぎ柱。若いルルは勢いよくいちばん上まで登り、ガガガと爪を研ぎながら下りてきます。キャットウォークでは、歩いたり昼寝をしたり、隙間から下をのぞいたり。下からは人間が見上げてネコの姿を楽しみます。「キャットウォークは若いネコにとっては駆け巡る道、成猫の場合は居場所をつくるという考え方。それによって、成猫でも自然と動くようになります」(廣瀬さん)Point2. ネコ階段~吹き抜けの動線内部に猫用階段が仕込まれた棚。最下部の格子框開き戸は2か所だけガラス框の開き戸になっています。ここから風を取り入れられるようになっており、それが室内を通りロフトに設置された窓から抜ける風の流れを設計しています。こちらは、猫寝天井から3Dソフトを使って設計した棚内部。難解なルートも、スマートに移動できるのです。Point3. ロフトからの眺めとネコ穴キャットツリーやキャットウォークともつながるロフト。ルートの途中に何か所か穴を開けており、ショートカットも可能です。ネコは高いところに登って、外を眺めるのが好きなので、ロフト本棚上部の窓からも外の景色眺められるようにしています。こちらは物音がしたらのぞける、ロフトの玄関側に設置した猫地窓です。Point4. トレイの処理猫トイレと猫ダイニングを上下に重ねてコンパクトにしました。トイレのそばにはゴミシューターを設置、においがついたものを流すように捨てられ、上がってくるにおいはそばに設置された換気扇でかき消すことができます。■ いつだって好きな場所に行ける幸せバスルームはバリのリゾートホテルバスルームは、憧れだったバリのリゾートホテルのイメージで。シャワーブースとバスタブをセパレートして、タイルの一部に自然石を混ぜたり、仕上げまでリッチ。晴れた休日の昼下がりには、お湯につかりながらキャティオでまどろむネコたちと、坪庭から豊かな緑が同時に眺められ、贅沢なバスタイムに身も心も癒やされます。プライベートスペースはネコたちでも侵入禁止ウォークインクロゼット兼ワークスペースはキッチン、ホールとともにネコたちは進入禁止の場所。また、寝室とリビングもシフォンのカーテンで緩やかに仕切っています。「バリは好きだけどコテコテのリゾートというより、アンティークが似合うような洗練された感じに」というイメージ設計したそう。大きな敷地だからかなえられた平屋造り約45平米の広々キャティオ、大きな屋根部分はくり抜かれ、日光と雨が存分に入るように。細かい縦格子が目隠しの役目を果たし、風は通しても外からは見えず、ネコもキャティオからは出られない構造になっています。これだけ大きな敷地だからかなえられた平屋の造りになっています。いかがでしたか?気がすむまで散歩したり、高いところへ登ったり。室内で暮らすネコには楽しく過ごしてもらいたい。そんな姿を眺めることで、飼い主も幸せになれるO邸なのです。もっと詳しく見たい方は、ぜひ『住まいの設計2017年5-6月』も参考にしてみてくださいね。設計/ファウナプラス・デザイン撮影西岡潔住まいの設計2017年5-6月号美キッチンand 極楽バスルーム【巻頭大特集】は、美キッチンand 極楽バスルーム。家づくりでもっともこだわりたいキッチン&バス。理想とする暮らしの美しいキッチンとうっとりするようなバスルームを紹介。【第2特集】は、ネコと暮らす”ということ、イヌと暮らす”ということ。ペットも人もしあわせに暮らしている家を紹介。その他にもリノベーション連載や地元で評判の工務店など、気になる情報がま満載です!
2018年06月25日建築家の長坂常と江戸小紋職人の廣瀬雄一のコラボレーションによる展覧会「亜空間として形成する伊勢型紙 江戸小紋の世界」が、表参道のEYE OF GYREで7月17日から8月26日まで開催。19世紀後半、欧米社会に押し寄せたジャポニスムの波から1世紀半を超えて、今また日本の文化に熱い視線が寄せられている。その潮流の中、アール・ヌーボーにも、そしてリバティ・プリントにも影響を与えた伊勢型紙の世界を、100周年を迎える廣瀬染工場の伝統的技術によって染め上げられた反物や着物を展示することによって、現代に甦らせようとする試みが今回の企画だ。さらに、江戸小紋の世界観にインスパイアされた建築家長坂常が、廣瀬染工場の4代目、廣瀬雄一とコラボレーションすることによって、実験的な反物や着物の製作に関わり、江戸小紋のあり方を今一度捉え直す機会ともなっている。デザインには伝統的幾何学的なものから、花鳥風月を象徴化したもの、江戸の人々の現実感覚や遊び心を映し出したものまで無数のバリエーションがある。幕末にシーボルトが浮世絵とともに膨大な型紙を持ち帰ったとの逸話もあり、そして、グラフィカルなこともあって、19世紀のヨーロッパの工芸、デザインに少なからず影響を与えたといわれている。実際の型紙は単なるデザインとは異なり、デザインが染めに生かされるためには、紙、道具、工程のひとつひとつにわたって職人の長い経験の上に培われた、知識を超えた身体的な感覚としての「技」が刷り込まれている。江戸小紋の二次元空間に包摂されているミクロの多元的な世界観を、ブルーボトルコーヒーの店舗などを手がける長坂常とのチャレンジングなコラボレーションによって、通常の物理法則が通じない時空連続体ともいわれている「亜空間」を創出することを試みる。7月19日には長坂常と廣瀬雄一の2人によるトークセッションを開催する予定。時間は19時から20時まで。【イベント情報】亜空間として形成する伊勢型紙 江戸小紋の世界会期:7月17日~8月26日会場:EYE OF GYRE住所:渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F
2018年06月22日不動産検索サイトや不動産販売の広告などでよく目にする「建築条件付き土地」。その意味についてなんとなく知っている人は多いと思いますが、その中身をしっかりと理解している人は少ないのでは?建築条件付き土地の中身を理解するために、少し変わった角度から建築条件付き売地を考えてみます。実は「売主のタイプ」の違いによって、その建築条件付き土地の性質や「メリット・デメリット」に違いが出る場合があるのです。以下ではその「売主のタイプ」を大きく2種類に分け、その違いを解説します。■ 売主タイプ1.昔ながらの不動産業者HAKU / PIXTA(ピクスタ)このタイプの売主はその多くが、建築条件付き土地の販売を建売住宅販売の一形態と考えている傾向があります。宅地建物取引業法では、建築確認(許可)等を取得していなければ土地建物一体での売買契約は禁止されています。しかし、土地の販売期間短縮や販売経費削減をしたい、さらに土地売却益だけでなく建設工事でも利益を得たい売主が、建築確認等を取得したり現実に建設工事に着手しなくても土地建物をセットで販売(請負)したいと考えた場合に、土地の売買契約に建物請負契約締結の条件を付した「建築条件付き土地」という方法を選択するのです。つまり、本来は土地建物一体での販売をしたいのに法の制限によりそれができないため、やむを得ず建築条件付き土地売買という形態をとっている場合が多いのです(もちろん違うケースもあります)。■ 売主タイプ2.ハウスメーカーなどの建設業者HAKU / PIXTA(ピクスタ)このタイプの売主はその多くが、土地売買契約より建設工事請負契約にその比重を置いています。つまり土地を販売する目的自体が「建物を売るため」なのです。そのため、このタイプの売主は土地販売時にかなり踏み込んだ建物の打ち合わせを行います。土地の販売自体が主たる目的ではないため、購入希望者の建物ニーズが自社商品と合わない場合はその時点で土地購入を積極的に勧めません。建設工事請負契約が円滑に進まない可能性がある顧客と土地売買契約を結ぶメリットがないのです。■ 売主タイプ1のメリット・デメリット売主タイプ1の建築条件付き土地の場合、先述のようにその売主は土地売却益だけではなく建設工事請負による利益を期待している場合がほとんどです。そのため、見込んでいた利益が土地売却だけで得られるなら、この建築条件を外せるケースも多く見受けられます。「土地は気に入ったけど、建物ニーズが合わない」「この土地にどうしても別のハウスメーカーで建てたい」などの場合、その交渉を受け付けてくれやすいのはこのタイプの売主なのです。また、不動産業者が売主のため、上下水道などの供給施設がすでに整備されている土地も多く、権利関係(差し押さえ等)や隣地境界トラブルも整理されている土地が多いのもメリットといえるでしょう。Graphs / PIXTA(ピクスタ)ただ、もちろんデメリットもあります。上記のように建築条件を外す交渉がうまくいっても、その売買条件変更にともなう価格のアップを要求される場合が多いのです。それで結局予算オーバーとなるケースも見られます。だからといってその価格が割高であるという意味ではありません。建築条件付き土地の場合、その価格設定は条件なしの土地と比べ若干低めに設定している場合も多いのです。■ 売主タイプ2のメリット・デメリット売主タイプ2の建築条件付き土地のメリットですが、この売主はそもそも建物を売るのが主たる目的なので、土地の検討当初からその土地に最適な参考プランや推奨仕様など、かなり充実したものを用意している場合が多くみられます。そのため、自分で建設業者を見つけて別々に発注するよりも割安で良質な住宅が手に入る場合があります。タカス / PIXTA(ピクスタ)デメリットは、このタイプの建築条件を外すことはほぼできないということです。建物を売るのが目的なので条件外しの交渉さえ受け付けてもらえないでしょう。どうしてもその土地を購入したい場合はその指定された建物を購入(請負契約)するしか選択肢は無いのです。ただし、土地売買契約後の打ち合わせによって請負契約が不調に終わる場合は土地売買契約も解除されます。いかがでしたか?ここで取り上げた以外にも様々な売主さんはいますが、建築条件付き土地を検討される場合は「売主のタイプ」を知り、そのメリット・デメリットを知ったうえで購入を判断する材料のひとつにしてください!【参考】※東京都都市整備局不動産取引の手引き
2018年06月15日建築家との家づくりが始まりました。しかし、8か月間も家賃と住宅ローンの二重払いが発生し、なぜこのようなことになったのか。契約から引き渡しまでの具体的なスケジュールなどを確認したところ、その理由が見えてきました。■ 契約から引き渡しまでの具体的なスケジュール実は、住宅ローンと家賃の両方を払わなくてはならない期間が丸々8か月ありました。一体どうしてこんなことになったのか、当時の手帳や契約書などを元に、実際のスケジュールを振り返ってみました。2016年2月土地の契約2016年6月建築家と建築士業務委託契約2016年7月下旬確認申請を提出2016年10月確認申請の審査がおりる2016年11月下旬基礎工事開始2016年12月上旬上棟2017年4月下旬引き渡し改めて建築家との契約書を確認してみたところ、設計業務は2016年2月〜7月、工事管理業務は2016年8〜12月に行う、とあります。契約書にはガントチャートに落とし込んだスケジュールが添付されています。そこには、2016年2月…基本設計2016年3月…本見積もり・実施図面作成2016年7月末…確認申請提出7月末2016年8月上旬…着工2016年12月末…竣工とありました。これが建築家が立てていた当初の予定です。建築家、工務店それぞれと契約を交わした時点で、少なくとも3か月は家賃と住宅ローンの二重払いが発生することがわかっていました。また、工期が冬にかかるため積雪などで1か月程度遅れる可能性があることも覚悟していました。「二重払い、4か月くらいなら我慢できるしなんとかなる」と考えていました。ところが、その予想の倍の8か月もの間、家賃と住宅ローンの両方を払い続けることになるとは。思いもよらない大誤算でした。■ 落とし穴のその原因は確認申請と道路にあったそもそも確認申請とは?建物の建築には、さまざまな法律による規定があり、それらに適合していないと新たな建物を建てることはできません。これから建てようとしている建物=私たちの家が法律を遵守し、条件に適っているかどうかを確認するのが「建築確認申請」。構造耐力、最高や通風、防火や耐火、安全性、建物内の環境など建物本体に関わる規定のほか、用途、斜線制限といった高さ、容積率や建ぺい率といった大きさの制限、敷地と道路の関係といった建物と地域、周囲に関わる規定について審査されます。我が家の前には、未舗装の道路が通っています。時期はまだ未定ですが少し道幅を広げて舗装する計画があると、土地の購入時に不動産会社の担当者から聞いていましたし、それを見越して売り主さんが隣家との境界を仕切ってくれていました。未来の道幅は当初から図面に反映されていて、私たちも納得した上で土地を購入しています。それを踏まえて作成した確認申請の書類を提出したところ、役所から、図面に反映されている道路の件でもう一度土地の測量をしたいという申し出が。その測量を終えないと、確認申請の審査をすることができないという状況になってしまったのです。確認申請の書類は、建築家が8月の第1週目に提出してくれました。その後、役所の測量が終えるまでに約1か月。改めて確認申請の審査が行われ、さらに1か月。確認済証に記載の日付は10月31日。通常約1か月で審査を終えるところ、我が家の場合、3か月もかかってしまったのです。■ ローンの支払い開始日の確認を!私たちが利用した住宅ローンは、引き渡しの時に住宅ローンの支払いが発生するごく一般的な住宅ローンですが、6か月以内の引き渡しが必須。つまり、土地の契約から6か月を経過するとローンの返済がスタートするというものでした。確認申請で足止めされた上、さらに、予定していたクロスを発注したらメーカー在庫切れだったり、現場での打ち合わせで変更になったことなどが重なって、工期自体も1か月近く長くかかったため、2016年9月から竣工した2017年4月までの8か月間、住宅ローンと家賃の両方を支払うことになってしまいました。貯金を切り崩し、家計を切り詰めてやりくりしましたが、正直しんどかったです。土地と住宅を同時に取得するのはさまざまな面でメリットがありますが、ローンの内容によって、土地の売買契約から竣工までに時間がかかるようならそれなりのお金の準備が必要だということを痛感しました。我が家の場合、覚悟していた以上に大きな金額になり、「大変だ」「なんでこんな目に遭うんだろう」「お金がなくてしんどい」を順繰りに何度も何度も思い続けていましたが、喉元過ぎれば熱さを忘れるという単純さ(笑)。完成した完成度の高い素敵な家を見たら嬉しくて、すっかりゴキゲンに。私たち好みの家を見て、いろいろあったけれどやっぱり建築家に依頼してよかったと、大きな満足感を得ることができました。■ 審査が終わるまでの間にできることを確認申請の審査は概ね1か月で終わると言われていますが、そうは問屋が卸さないこともあるんですね。そして、審査が終わらなければ、具体的に家づくりは進めることは許されません。遅々として進まぬ家づくり。審査の間にできたことは地盤調査と地鎮祭だけと意気消沈していましたが、下を向いていても前へ進むことはできません。この間に、私たちが選ばねばならないシステムキッチンとユニットバスを見極めるため、ショールームへ出かけることにしたのです。次回は、選んで良かった設備、失敗したと感じている設備について、書いていきたいと思います。※【住宅ライターの家づくり】過去の記事を読む
2018年05月26日/ランニングコストって?ランニングコストとは、経営学用語の1つで一般的に企業などにおいて設備や建物、機会を維持するために必要となるコストのことをいいます。「建物」にかかるランニングコストには、保全費、管理費、修繕費、水道光熱費、冷暖房にかかる費用などがあります。また上記でいうところの「建物」のほかに、イニシャルコストというものがあります。イニシャルコストは建築時費用のことを指し、ランニングコストは建築後費用を指します。2種類のランニングコスト建物を建てるときをイニシャルコストといい、建てた後をランニングコストといいました。ランニングコストはつまるところ維持費や管理費ともいえます。不動産を得る不動産投資の世界では、このランニングコストを2つに分けることができます。固定資産税・都市計画税建物は建てた後の方がコスト面に負担が掛かります。この2つは不動産を所有しているだけでも掛かる税金で、毎年発生します。管理修繕費不動産投資物件(主にアパートやマンション)の運用を行うには、当然に「管理」が必要です。空室率の低い投資物件は、この管理面がしっかりと行き届いています。管理費用には以下の2種類(その他を除く)があります。これらを行う業者が「不動産管理会社」です。PM(プロパティマネジメント)費PM費とは、入居者管理費のことをいいます。主な仕事内容に、賃料の集金、滞納の催促、入退去手続、募集、苦情の受付・対処、リフォームの手配などがあります。BM(ビルマネジメント・ビルメンテナンス)費BM費とは、建物管理費のことをいいます。主な仕事内容に、共用部の清掃(エントランス・ゴミ置き場・廊下など)、エレベーターの維持管理、法定消防点検、受水槽の点検などがあります。その他また上記2つ以外にも、以下のような管理費用があります。入居者募集費用入居者を募集するのに掛かる費用としては、仲介手数料や宣伝広告費などが考えられます。共用部の水道光熱費共用廊下やエントランスホールの電気などの費用もかかります。リフォーム費建物は人間と同じく歳を取ります。老築化が進めば室内をリフォームし、空室率を上げる必要があります。税金(不動産所得)不動産によって得た所得を「不動産所得」といい、これにも税金が課せられます。不動産所得は【総収入-諸経費】なので、最後に掛かるコストと考えてよいでしょう。まとめ不動産投資で掛かるランニングコストは、まとめると以下3つです。固定資産税・都市計画税管理費用等(PMフィー、BMフィー)不動産所得税など建築時にも膨大な費用は要しますが、実はそれよりもランニングコストの費用の方が掛かります。しっかりと計画を立てる必要がありそうです。
2018年03月11日建築模型に特化した国内唯一のミュージアム、天王洲アイルの建築倉庫ミュージアムにて、リニューアル後初の企画展「ル・コルビュジエ / チャンディガール展 -創造とコンテクスト-」が、5月26日から7月16日まで開催。ル・コルビュジエ、キャピタル全体図のスケッチ、平面図と遠近法図、説明文つき、チャンディガール1950~1965年 1951年7月24日 所蔵 ル・コルビュジエ財団近代を代表する巨匠建築家として知られる、ル・コルビュジエ。そしてその活動は、彼が提唱した「近代建築5原則」が示す通り、合理主義的な考えと技術革新を伴って発展していく世界のイメージに根ざし、一つの普遍的論理が広く世界で通用するという信念に基づくと考えられてきた。しかし、彼が場所の環境や風景、また風土や文化など、計画にかかわるコンテクストに多くの注意や関心を払っていたことはあまり知られていない。特に、インドのチャンディガールをはじめとする晩年の作品群では、こうした関心が、彼の建築・都市デザインの直接的なインスピレーションの源となって、より複雑な全体の生成に寄与している。本展は、ル・コルビュジエの手によるチャンディガールでの作品群を例にとり、ヨーロッパから遠く離れたインドという異質の環境下における、彼のクリエイションとその土地ならではのエレメントとの関係を考察する。展示では、貴重な建築資料や模型、建築家自身の手によるオリジナルスケッチや油彩画、リトグラフなどの美術作品に加えて、写真家ホンマタカシがチャンディガールで撮影した写真や映像作品を紹介する。ル・コルビュジエ「牡牛 XVIII」1959年、所蔵 大成建設株式会社チャンディガールで、民主主義とインドの気候とを総合的にモニュメント化する言語を模索していったコルビュジエ。その結果、とりわけキャピトル・コンプレックスは、初期のデザインを支配していた一元的に普遍を志向する堅苦しい幾何学から解放され、幾何学的要素とピクチャレスクな要素が混在することより複雑な総体として結実した。今回は、その主要な構成要素の一部をなす議事堂内部を巨大模型で再現する。また、絵画を中心とした芸術作品を多く残した芸術家としても知られるコルビュジエの油彩画「牡牛 XVIII」(1959年)を展示。最晩年に制作され、彼の創作活動を対立概念間の運動として総括するリトグラフの詩画集「二つの間に」(1964年)も展示し、併せて本展のために新たに翻訳されたル・コルビュジエの詩文(田中未来訳)を紹介する。Takashi Homma「High Court 1」2013 Lambda print © Takashi Homma Courtesy of TARO NASUチャンディガールでの計画最初期から、キャピトル・コンプレックスの建物群の配置と全体のスケール感は、後背に広がるヒマラヤ山脈との関係性と共にコルビュジエが特に注意を払って検討したとされる。今回100分の1のスケールで新たに製作されたキャピトル・コンプレックスの三つの建物である「高等裁判所」、「議事堂」、「合同庁舎」が、実際の位置間隔と同様に展示室床に配置される。来館者はその中を自由に歩き回り、コルビュジエが意図したキャピトル・コンプレックスの密度感や建築物同士の距離感を体感することができる。また、写真家ホンマタカシがインドに足を運び撮影した「チャンディガール」シリーズより、初公開作品を含む写真と映像作品を展示。本作はチャンディガールを通り抜ける風や匂い、空間へ差し込む光を念頭において構成される。チャンディガールという計画都市全体がある意味一つの構造物であり、それぞれの建築が都市に包み込まれているスケール感がさりげなく示され、そこに暮らす人々の生活やそこに流れる時間が切り取られており、チャンディガールが現在も生き続ける都市であることを実感することができる。それはまさしくコルビュジエが注目した、建築とそれを取り囲む気候との関係を写しとろうとするものであり、本作によって、模型だけでは伝えきれないチャンディガールという都市のリアリティを補う。建築模型を広く一般に公開する“ミュージアム”であるだけでなく、模型専門の“保存”機能をもつ、新しいかたちの本ミュージアムならではの7部構成の本展。多種にわたる展示によって、コルビュジエがそこで見聞きし、感じ、考え、そして表現しようとしたものを感じ取ることができると同時に、それらを通して、コルビュジエ作品に宿る、近代思想をも超えようとする精神を垣間見る機会を提供する。【展覧会概要】ル・コルビュジエ / チャンディガール展 –創造とコンテクスト-(Le Corbusier / Chandigarh -Creation and Context-)会期:2018年5月26日(土)〜7月16日(月・祝)会場:建築倉庫ミュージアム住所:東京都品川区東品川2-6-10時間:11:00~19:00(最終入館18時)休館日:月曜日(祝日の場合、翌火曜休館)入場料:一般 3,000円、大学生/専門学校生 2,000円、高校生以下 1,000円
2018年03月08日華やかな一方で多忙なイメージがある建築の世界。その第一線で働くママ・パパたちは、子育てと仕事をどうやって両立しているのか。そのリアルな実態がわかるエッセイ集『子育てしながら建築を仕事にする(学芸出版社)』が刊行されました。そこで、編著者で「キュープラザ二子玉川」の商環境デザインを手がけた3歳児ママ・成瀬友梨さんをはじめ、建築家パパの三井祐介さんと豊田啓介さんも参加したトークイベントに潜入! さらに後日、成瀬さんにインタビューし、両立するための工夫や職場の環境づくり、働くママにとって過ごしやすい家づくりなどのアドバイスをいただきました。 ■「あきらめること」から始まる仕事と育児本でもトークイベントでも、多くのママ・パパが語っているのが「あきらめる」ことの大切さ。建築家は自分ですべての事柄を決定し、ディテールにとことんこだわる仕事ですが、育児が始まるとそうはいきません。「仕事をしていると子どもが気になるし、子どもといると仕事が気になる。葛藤もありますが、最近は鈍感力が身についてきました。例えば、忙しくても早く帰って家族と夕飯を食べたり、ビールを飲んですぐに寝ちゃったり。やってみると、結果はそう変わらなかったりするんですよね。すべてを自分がコントロールすることをあきらめることで、人が育つという面もあります(豊田さん)」。「私は、建築家の仕事と並行して7年間続けてきた大学助教の仕事を、辞める決断をしました。学生に対応する時間が足りなくなり、子どもと過ごす時間もボーッとすることが多く、体力気力の限界になってしまったんです。今やっている仕事も、細かいところには目をつぶってスタッフに任せている部分が多い。歯がゆい気持ちもありますが、今は我慢の時だと思っています(成瀬さん)」。育児も同様で、すべてを夫婦だけでやろうとするのではなく、あきらめが肝心。ベビーシッターや病児保育を利用したり、近所の知り合いやママ友に保育園の送迎を頼んだりと、周囲に頼ることが大切だと話してくれました。■「スケジュール管理」と「得意分野」で分担 本に登場する夫婦は、育児・家事の協力体制が完璧! それぞれの仕事や家族の行事など、あらゆる予定をスケジュール管理アプリで共有し、互いに助け合っています。「妻も仕事がかなり忙しいうえ、高齢の両親のサポートもある。だから、掃除や料理は僕がやることが多いんですが、家事は得意なので全然苦ではありません。妻は、買うと高いからと夜中に教材を自作したり、科学の実験装置を作ったりと、子どもの自発的な学習を促すための時間を惜しまない。お互いが得意なことを、自然と分担している感じです(三井さん)」「私は保育園への送り迎えや食事の用意、夫は掃除・洗濯・ゴミ出しなどを担当しています。私が出張の場合、夫は子どもにごはんを作って食べさせ、寝かしつけまでこなしてくれるので、本当にありがたい。2歳くらいまでまでは熱を出すことも多かったので、区の病児保育にはずいぶんお世話になりました(成瀬さん)」ほかにも、ルンバや食洗機・食材宅配サービスを活用したり、ファミリーサポートやベビーシッターを頼んだりと、両立するための方法は家族によってさまざま。試行錯誤しながら、自分たちに合ったスタイルを模索しているようです。■「クリエイティブな時間=1人時間」を確保する方法子どもが生まれるまでは1日中建築のことを考えていた建築家たちにとって、クリエイティブな時間をどう確保するかも重要な課題。仕事と子育てに追われる日々の中で、それぞれ工夫をしているようです。「子どもを寝かしつけた後で夜中まで本を読んだり考えごとをしたり、もう一度事務所に戻って作業をすることもあります。また、他業種の人に会ったり、面白そうなイベントに参加したりと、自分の世界を広げることも大事。どうしても夜の外出が多くなってしまうんですが、夫は快く送り出してくれます(成瀬さん)」「夕食はできるだけ家族そろって食べたいので、子どもを寝かしつけた後に1人で外出して、時間を確保することが多いですね、近所に3、4軒ある行きつけのバーで、ビールを飲みながら思考をめぐらせたり図面をチェックしたり。深夜1時ごろに帰宅して就寝、翌朝7時に起きるというサイクルです(豊田さん)」何かと忙しい子育て期に「自分だけの時間」を確保するのは難しいもの。お互いの仕事を尊重し合うこと、そして夫婦が同等に子育てスキルを身につけることが大切だと感じました。 ■ママ建築家・成瀬友梨さんにインタビュー! 働くママが子育てしやすい家とは?――まず、この本を出版しようと思ったきっかけを教えてください。成瀬さん:私は東京大学工学部建築学科の助教として学生の指導をしていたんですが、女子学生から「子育てと建築の仕事を両立する将来が想像できない。大変そうで、とても真似できない」と言われることが多かったんです。才能ある若者たちが「仕事か、子育てか、どちらかを選ばないといけない」と考えているとしたら、本当にもったいない。そこで、実際に両立している人々を紹介することで「自分にもできる!」ということを伝え、背中を押したいと考えたのがきっかけです。実際に、本が出来上がってみると、建築家に限らず、これから子どもを持とうとしている方や子育て中の方、会社のマネジメント層にも役立つ本になったと実感しています。――確かに建築家に限らず、子育てしながら働くことは「大変」というイメージが強いですよね。成瀬さん:実際に経験してみると、自分の時間が減ってしまうのは大変なのですが、豊かになったことの方がずっと多いんですよ。以前は、仕事に夢中で休日も常にインプットの時間でしたが、子どもがいると強制的にペースダウンするので、季節による太陽の光や緑の変化に敏感になりました。週末には公園で思いっきり遊んだり、保育園の友達家族と昼間からお酒を飲んだりと、世界が広がっていくのも楽しい。子どもができてからバリアフリーの大切さに気づくことができ、世の中には本当に多様な人がいることも知りました。――この本に出てくる建築家の皆さんは、会社の理解のもとで周囲と協力しながら仕事をしている印象を受けました。働くママが職場で協力を得るためのコツを、ぜひ教えてください。成瀬さん:子育てだけが大変なのではなく、それぞれにさまざまな事情があると認識することが、大前提だと思います。そのうえで、ほかの人が困っていたらいつでも相談にのる、協力する、というスタンスでいることが一番大事なのではないでしょうか。――子どもがいると、家に対する考え方も変わってきます。建築家の目線から見て、子育てしやすい家とはどんな家だと思われますか?成瀬さん:子どもが元気に動き回れるように、広くてのびのびした家がいいでしょうね。実利的には、玄関が広いのが一番。子どもが小さいうちは、ベビーカーや三輪車などいろいろと置くものがありますし、宅配便の荷物をちょっと置いておくのにも便利です。玄関で子どもの支度をすることも多いので、狭いと苦労するかもしれませんね。また、玄関が広いと全体の印象として余裕があるように見える、という効果もあります。――最後に、働くママ・パパへのメッセージをお願いします。成瀬さん:子育てを終えた方からは「子育ては大変だけど、さみしいくらいあっという間に過ぎてしまうもの」とよく言われます。その言葉を信じて、楽しんでいけたら素敵ですよね。私も怪獣のような子どもを抱えていますが、仕事も家庭も欲張りに生きていきたい。完璧じゃなくていいから毎日を大切にしていきたいと思っています。参考図書: 「子育てしながら建築を仕事にする」 (学芸出版社)著・編集 成瀬友梨ゼネコン、アトリエ、組織事務所、ハウスメーカー、個人事務所等、異なる立場で子育て中の現役男女各8名の体験談を集めたエッセイ集。仕事と子育ての両立に奮闘しながら、欲張りに楽しむリアルな姿が見えてくる。成瀬友梨 プロフィール1979年愛知県生まれ。2007年東京大学大学院博士課程単位取得退学。同年に成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。と2010年〜2017年東京大学助教。地域・ライフスタイル・コミュニケーションという観点から建築を考え、シェアをキーワードに設計を行う。主な編著書に『シェアをデザインする』『シェア空間の設計手法』等。
2018年02月27日家づくりのプロである建築家さんが、テーマに沿って、過去に手掛けた住まいの事例とノウハウを解説するシリーズです。今回のテーマは、「働くママのこだわりキッチン」です。今回は、株式会社井川建築設計事務所(茨城県稲敷市)の井川一幸さんに、事例をご紹介いただきます。\t株式会社井川建築設計事務所 \t建築家・井川一幸\t◆作品名:見晴台の家◆依頼者について:5人家族旦那様(30代後半)/奥様(30代後半)/お子様(9歳、7歳、4歳)※すべて建物完成時の情報◆所在地:茨城県高台からの眺望にこだわった省エネ住宅依頼者の方からは、どのような要望がありましたか?依頼主自ら数年がかりで探した高台の土地に、眺望を楽しむため、2階にリビングを配置することが1番の要望でした。また、家族スペースと個々のスペースが程よい距離感を保てるようなプランニングが求められました。そして、高断熱や高性能など品質に対するご希望もありました。この作品のポイントはどのような点ですか?眺望を活かすため、階段を上がると、景色が抜ける右側にリビングとプレイデッキを配置し、左側にはダイニング、キッチン、その他の水まわりを配置しました。2階に床段差を付けることで、それぞれ違った景色が楽しめる家族スペースになるように設計しました。リビングとプレイデッキは床がフラットにつながり、内外の一体感を感じられるようにしました。また、景観を楽しむために北向きの配置としたため、南側からの採光を確保するなど環境面にも配慮しました。また、遮熱性や耐候性に優れた屋根材や外壁材を採用し、高断熱化・高気密化することにより、建物としての省エネ効果を高める工夫をしました。さらに、長期的なランニングコストを抑える効果もあるため、省エネでエコな住宅になっています。働くママに嬉しいキッチンは「家事動線」がポイントキッチンに対しては、具体的にどのような要望がありましたか?「買ってきた食材・ストック品などは、キッチンではなくパントリーに直接置け、十分な収納量と取り出しも容易にできる配置に」「冷蔵庫などは見えなくしたいが、遠すぎないように」「清掃のしやすさを考慮したキッチンに」という要望がありました。また、設備的には炊飯機能があるガスコンロ、大容量の食洗機、手元が隠せるカウンター収納などを希望されていました。要望やこだわりをどのように実現されたのですか?全体的なプランニングから、家事動線を考慮しました。共働きのご夫婦にとって、朝の準備時間はとても忙しいので、キッチンまわりで家事を完結できるようにしました。そして、パントリーはキッチンの動線上に配置し、冷蔵庫もパントリー内に置けるようにしました。また、バックヤードデッキを設けることで、生ごみなどのストックを外部に置けるような工夫もしました。ガスコンロは多機能機種を選択し、ガスの使い道としては、LDKに設置した温水式床暖房、さらに各所の給湯などを考慮し、エコワン(電気ガス併用のハイブリッド給湯機)を採用するなど、省エネにも考慮しました。このキッチンで取り入れた、働くママならではの観点・ポイントを教えてください。上記にもある通り、家事動線がポイントです。料理をしていてもリビング、ダイニングを見渡せる配置、水まわりやパントリーを動線上に配置することにより、家事の時短が可能となります。働くママは「家事もしたいし、子供の勉強も見てあげたい」。両方の希望を叶えるプランが働くママのキッチンでは大切です。特に、きょうだいの性別や年齢差に合わせ、子供のよりどころとなるスペースが家事をしながらでもママの目の届くところに、自然に配置することが重要となってくるのだと思います。働くママにおすすめするキッチンとは?これから家づくりを考えている働くママに、キッチンづくりのポイントを教えてください。働くママにとって、家事の時短や負担軽減を可能とするためには、キッチンの形状を含め、家全体の配置、プランニングが大変重要です。理想の形状、収納などは家族それぞれ違いますので、自分に合った形状でないと、使い勝手が悪く時短ができない“効率が悪いキッチン”になってしまいます。想定できる理想のキッチンを事前に把握してから設計することで、全体のバランスが取れたプランニングが可能になるでしょう。建築家情報事務所名:株式会社井川建築設計事務所建築家名:井川一幸HP:事務所所在地:茨城県稲敷市対応エリア:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、栃木県、茨城県、群馬県
2018年02月15日京都府乙訓郡大山崎町に、ひっそりと佇む「聴竹居(ちょうちくきょ)」。これは、1928(昭和3)年に、建築家・藤井厚二の自邸として建てられた名作住宅だ。和洋の生活様式の統合とともに、日本の気候風土との調和を目指した昭和初期の「日本の住宅」として、先駆性、歴史的・文化的価値が高く評価され、昨年、国の重要文化財に指定されている。『木造モダニズム建築の傑作聴竹居発見と再生の22年』発売情報“実験住宅”と称した家を何棟も建て、住み心地を検証し続けた藤井厚二の最後の作品でもある「聴竹居」は、細部にわたって凝らされた意匠のみならず、さまざまな住居としての創意工夫が施されている。現在は一般公開もされ、地元住民を中心とした維持・保存活動が行われている「聴竹居」は、「環境共生住宅の原点」といわれ、日本の住宅の理想形を実現した建築と認められながらも、長らく知る人ぞ知る存在であった。そんな「聴竹居」は、どのようにして発見され、再生されたのか。その歩みを綴った1冊『木造モダニズム建築の傑作聴竹居発見と再生の22年』が3月17日(土)に発売される。本書から「聴竹居」の魅力を通して、地域に根ざした建築物の価値とその歴史や文化を見直し、古い建物を未来へ引きついでいくことの大切さを感じることができるだろう。■『木造モダニズム建築の傑作聴竹居発見と再生の22年』松隈章2018年3月17日(土)発売1300円+税ISBN978-4-8356-3848-5ぴあ株式会社四六変型版並製本256ページ
2018年02月13日家づくりのプロである建築家さんが、テーマに沿って、過去に手掛けた住まいの事例とノウハウを解説するシリーズです。今回のテーマは、「子育て世代の働くママに嬉しい、スマートキッチンのある家」です。今回は、フォレスト建築研究所 一級建築士事務所(東京都福生市)の小椋祥司さんに、事例をご紹介いただきます。フォレスト建築研究所 一級建築士事務所 建築家・小椋祥司◆作品名:子育て世代に嬉しい、スマートハウスの「スマートキッチン」◆依頼者について:3人家族旦那様(30代後半)/奥様(30代前半)/お子様(8歳)※すべて建物完成時の情報◆所在地:埼玉県家族の繋がりを大切にしたシンプルモダンなスマートハウス依頼者の方からは、どのような要望がありましたか?「北側を除く三方を建物で取り囲まれ、日当たりや風通しが悪い敷地なので少しでも生活環境を改善したい」というご要望がありました。そして、これからの住宅に必要な、日常生活のコストを抑えながら、エネルギーを無駄遣いしない、省エネ・エコ住宅を希望されました。デザイン面については、「生活感を表に出さない、シンプルですっきりした外観とインテリアを希望しています」とのことでした。特にキッチンへのこだわりは、夫婦共働きでもあり、子育て期でもあるため、家事の軽減や時短が図れる、機能的で使い勝手の良いキッチンを希望されました。また、家族の会話が自然に生まれ、コミュニケーションが深まってゆく、キッチンとダイニングやリビングが繋がりあっているような部屋配置を希望されていました。この作品のポイントはどのような点ですか?省エネ・エコ住宅を希望されていましたので、太陽光発電パネルを設置したオール電化住宅としました。価格の安い深夜電力を使ってお湯を沸かし、昼間の高い電気料金を抑え、「エネルギーを見える化」して節電できる「スマートハウス」にしています。また、断熱性や気密性など、建物の基本性能を高め、長期にわたりランニングコストや維持管理コストが抑えられる設計としています。節電、節水できる設備機器を設置するなど、無理なく節エネ、省エネ、創エネが可能な設計となっています。また、北側には緑豊かな公園があり、立地性を生かして大きなピクチャーウィンドーが設けられています。移りゆく四季の風景を切り取った「一幅の生きた絵画」は、ダイニングやキッチンからも楽しめます。自然光が入り込むキッチンもインテリアの一部として、トータルにコーディネートされています。動線を意識した働くママに嬉しい対面キッチンキッチンに対しては、具体的にどのような要望がありましたか?家族との会話がはずむ対面式で、家事負担の軽減や家族が一緒に作業できる使い勝手の良いキッチンと、十分な収納力のあるパントリーを希望されていました。また、コンロは、ガスではなく清掃性の良いIHコンロをご希望でした。要望やこだわりをどのように実現されたのですか?ワイドなキッチンカウンターを設置し、周囲にゆとりを持たせ、家族の参加やママ友の食事会など、L形シンクを使って多人数でも調理できるようになっています。料理を通じて、「つくる楽しみ、食す楽しみ、交流する楽しみ」がキッチンから生まれてきます。流し回りには、食器収納、家電収納、パントリーをまとめて設け、「取り出す・調理する・片付ける・収納する」といった一連の作業がスムースに行える機能配置・機器配置のキッチンづくりを行いました。これにより、短い家事動線で家事の軽減が図れ、作業性も向上しました。また、食器棚とパントリーをまとめて設け、天井までの大型引き戸により、収納物のストック一括管理がしやすい設計になっています。各種ごみが分別しやすいゴミ収納スペースも設けています。その他に、継ぎ目のない、カウンターと一体形の人工大理石シンクや、凸凹のないガラストップのIHコンロ、ほとんどメンテナンスのいらないレンジフードを使用し、キッチンの壁全体には、汚れの付きにくいキッチンパネルを使用するなど、清掃性を高めています。働くママにおすすめするキッチンとは?これから家づくりを考えている働くママに、キッチンづくりのポイントを教えてください。働くママには、家事の軽減と家事時間の短縮につながるキッチンのプランニングが大切です。機能的で使い勝手の良いキッチンはもちろんのことですが、収納計画をしっかり行い、まとめ買いなどにも対応できる収納量と収納物のストック管理が十分行えるキッチンにすると良いと思います。キッチンは主婦専用の場所ではなく、家族みんなで協力しあって一緒に食事を作る場所です。家族の中にも生活時差があるため、必要に応じ、個人で調理する事も多くなっています。そのため、複数の人が同時に使え、リビングやダイニングと一体になった、オープンで居心地の良い場所として計画する必要があります。家族それぞれがサポートしあい、“つくる事・味わう事の楽しみ”を共有しあえるキッチンづくりをおすすめします。建築家情報事務所名:フォレスト建築研究所 一級建築士事務所建築家名:小椋祥司HP:事務所所在地:東京都福生市対応エリア:全国
2018年01月19日JR東京駅丸の内 北口ドーム内にある東京ステーションギャラリーでは、世界的建築家である隈研吾の展覧会「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」を3月3日から5月6日まで開催。古今東西の思想に精通し、「負ける建築」「自然な建築」などの理念を実践してきた、約30年に及ぶプロジェクトの集大成として展観する。Great (Bamboo) Wall 2002 Photo: Satoshi Asakawa隈研吾が仕事を通じて対話を重ねてきた素材に着目し、建築設計やプロダクトデザインなどの蓄積を時系列ではなく、主要なマテリアル(竹、木、紙、石、土など)ごとに分類・整理することで、“もの”という観点から概観を試みる。“もの”の開放によって、人の感覚や意識、環境を媒介する建築の可能性に迫る。浮庵(フアン) 2007 Photo: Kengo Kuma & Associates模型、モックアップ(実物素材による原寸大の部分模型)、映像や素材サンプルなどの展示を通じて、多角的に隈研吾の仕事を紹介するとともに、隈研吾が考えるこれからの物質と人間の関わり方の未来像を提示。竹の特性を生かした新作のパビリオンや、バルーンと極度に薄い布による茶室「浮庵(フアン)」他、過去に制作された空間体験を楽しめるパビリオンも複数登場する。なお、展示室は一部を除きほぼすべてを撮影可能。ここだけの空間をシェアすることができ、触れることのできる素材も一部展示される。東京ステーションギャラリーにおいて、建築関連の展覧会は「東京駅 100年の記憶」展以来およそ3年ぶり、建築家の個展としては「前川國男建築展」以来じつに12年ぶりとなる。貴重なこの機会に訪れてみては。【展覧会情報】くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質会期:3月3日~5月6日会場:東京ステーションギャラリー住所:東京都千代田区丸の内1-9-1休館日:4月30日をのぞく月曜日開館時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)料金:一般1,100円 高校・大学生900円 中学生以下無料
2018年01月16日家づくりのプロである建築家さんが、テーマに沿って、過去に手掛けた住まいの事例とノウハウを解説するシリーズです。今回のテーマは「共働き家族のキッチン」!今回は、ティー設計室一級建築士事務所(神奈川県茅ヶ崎市)の田代智子さんに、事例をご紹介いただきます。ティー設計室一級建築士事務所建築家・田代智子◆作品名:薪ストーブのある家◆依頼者について:3人家族旦那様(30代前半)/奥様(30代前半)/お子様(10歳)/ペット(犬)※すべて建物完成時の情報◆所在地:神奈川県自然とつながる、ゆとりあるリビング依頼者の方からは、どのような要望がありましたか?庭に続く1階にLDKを設け、自然とのつながりや空間のゆとりを重視していました。子どもが2階の個室へまっすぐ向かってしまうことのないよう、階段をLDKに据えて、家族が一緒になる機会を大切にしたいとのことでした。また、奥様のご実家と同じように、「薪ストーブのある暮らし」をここでも再現したいとの強い希望がありました。この作品のポイントはどのような点ですか?クラシックな形の薪ストーブを中心に置き、ゆったりとした黒い鉄の存在感に合わせ、全体的にモノトーンに。海が近く南からの光が豊かな地域性を生かした、南の庭に向かう広がりのある窓もポイントです。吹き抜けからの明るい光をLDKに取り入れています。庭が一望できる、心地よいキッチンキッチンに対しては、どのような要望がありましたか?まずは、「作業しやすい広めキッチンカウンター」が挙げられました。また、物をあまり見せたくなく、室内はスッキリさせたいというご要望もあり、パントリーを充実させました。キッチンからは庭が一望でき、1日の多くを占める「家事」の最中も、より気持ちよく過ごせるようにしました。さらに、「白いレンガの素材感が好きで、カウンターの腰壁などに使いたい」とのことだったので、白レンガよりやや軽いイメージのタイルと、対比的にモノトーンな壁タイルを使って、全体にやわらかい素材感でありながらモダンな雰囲気を演出しました。リビングの中心にある薪ストーブの背面にも同じタイルを使い、空間全体の統一感を出しています。「共働き家庭のキッチンづくり」のポイントはありますか?キッチンと一口に言っても、「収納」「調理」「サービス」といった、いくつかの場面があります。そこで、動きやすく片付けもしやすい位置関係をよく考えてみてください。収納スペースは、だれでも分かりやすくすることで、家族みんなが手伝いやすくなると思いますよ。さらに機能面だけでなく「家にいても、どこかへ食事に行ったときのような雰囲気」を演出できたら、と思っています。平日は手早に料理することも多いと思いますが、休日や時間に余裕がある時には友人を招いての食事も楽しいものです。家庭的なだけでなく、少しパブリックにもなるよう、家具の配置や空間のしつらえなども工夫したいところです。照明やディスプレイ棚には、少し遊びのあるものもうまく取り入れてみるとより素敵な空間になると思いますよ。建築家情報事務所名:ティー設計室一級建築士事務所建築家名:田代智子HP:事務所所在地:神奈川県茅ヶ崎市対応エリア:東京都 神奈川県 千葉県 埼玉県 栃木県 茨城県 群馬県 静岡県
2018年01月09日ピロティとはピロティとは、2階建以上の建物で1階部分が柱のみの外構空間となっている建築物のことをいいます。この建築様式は、フランスで活躍した建築家ル・コルビュジエによって広められたとされています。その代表的な作品が「サヴォア邸」です。実はこの建築物、一度大学の授業で模擬演習として設計したことがあります(筆者は建築家専攻出身)。当時の設計技術では到底なしえない神業であったと、教授から学びました。余談が過ぎましたが、そんな神業は長い時を経て、近代住宅のひとつの様式として日本でも認知されるようになりました。その有効な活用方法についてみてみましょう。ピロティの有効活用(メリット)ピロティはかなり優れた建築様式で、そのメリットには以下のようなものが挙げられます。駐車場や遊戯スペースとしての利用津波災害から家を守る!(耐津波災害性能)ピロティは容積率に影響しない!一般的に多くみられるのが駐車場としての利用ですね。複数台駐車することができ、家自体が軒となるので、雨風を心配する必要がないですね。また遊戯スペースとして利用している住宅も見受けられます。のびのびと遊ぶことができるので、子どもの発育を手助けしてくれる様式です。物件を探していらっしゃる方は、参考にしてみるのも良いかもしれませんね!(ご近所の友人を招いてBBQもできちゃいますね!)そして、なんといっても津波災害から家を守ってくれるのが最大の特徴といえます。東日本大震災時でさえもピロティ建築が残ったことから、水害に強いといった認識が高まりました。また風通しも良いので、台風にも強いといえるでしょう。災害から家族を守ってくれる家は、教育環境としても安全といえますね!最後になりますが、実はピロティは容積率算定に関係しません。室内型のガレージなんかだと、延べ床面積の1/5までは容積率算定には入れなくて良いのですが、広いガレージを作る場合だと1/5を超えてしまい、容積率算定の基準となってしまいます。しかし先述したように、ピロティは面積に関わらず建築できるので、住居部分(部屋)の容積率を目一杯使うことができます(つまり部屋を広く設けられる)。この点もメリットといえます。まとめピロティは災害にも強く、子どもの発育にも適した建築様式であることが分かりました。物件探しをお考えのお母さんは、ぜひピロティ建築を提案してみてください!
2018年01月06日家づくりのプロである建築家さんが、テーマに沿って、過去に手掛けた住まいの事例とノウハウを解説するシリーズです。今回のテーマは「家族がくつろげるリビング」!今回は、荒木毅建築事務所(東京都杉並区)の荒木毅さんに、事例をご紹介いただきます。荒木毅建築事務所建築家・荒木毅◆作品名:CH13◆依頼者について:4人家族旦那様(40代後半)/奥様(40代後半)/お子様(13歳/10歳)※すべて建物完成時の情報◆所在地:東京都中庭で、家族のため空間をひとつながりに「家族で暮らすリビングは、広く明るくのびやかな空間でありたい……」依頼者のご要望のひとつに「中庭」がありました。以前住んでいた家に中庭があり、親しみを感じていたそうです。そこで中庭を中心に、リビング・ダイニングや書斎コーナーなど、家族のための空間が一体となり広く確保されるよう考えました。家族のための空間は、それぞれ使いやすい位置にありながらもひとつながりとなり、家族の気配を感じながらものびのびとした生活ができる空間構成となっています。家族一緒に暮らす生活が、より楽しくなるキッチンキッチンは家族の暮らす空間のなかに配置。奥様の使い方をそのまま形にした、機能的で丈夫なスチール製のキッチンは、家族と目の合う位置に設け、親子や夫婦のつながりを生んでいます。すぐ近くに杉板で作られた小上がりのダイニングでは、ちゃぶ台でお食事を。中庭に面したこんもりと盛り上がった、黒い人研ぎの土間にはダイニングテーブルも似合います。生活スタイルに合わせ、変化を楽しめると思います。外部との一体感も大切にした、土間や2階ホール1階の床のほとんどを、コンクリートの土間に。とはいえ、家族が長い時間くつろぐスペースなので、熱容量が大きいコンクリートを活用して蓄熱式床暖房を入れました。土間は泥のついた植木や自転車を入れても、食事を作る際に水などを飛ばしても大丈夫。気を使うことのない、丈夫な床です。2階にも家族のためのホールを作り、広い外部デッキとつながる空間としました。吹抜けで中庭ともつながっています。室内だけの「ひとつながり」でなく、外部空間とも一体感の味わえ、生活の仕方に極端に気を使わなくても良い包容力のある空間が広がります。合理的な採光がそのまま形になった外観建物南側の平屋部分は日差しをハイサイドライトより採り入れ、建物北側の2階建て部分は、中庭を介して日差しを取り入れています。中庭は木製縦格子で外部と、2階デッキは南棟のナナメの屋根で隣家と隔てられているので、中庭や2階デッキがワンクッションとなり、家族のプライバシーを守っています。中庭を介して1年中日差しが1階北側奥まで届くよう工夫しました。そんな合理的な採光がそのまま形になった外観も特徴です。建築家情報事務所名:荒木毅建築事務所建築家名:荒木毅HP:事務所所在地:東京都杉並区対応エリア:全国
2017年12月25日竣工とは竣工とは、建築工事が完了したことを意味します。また同じような意味に「竣成(しゅんせい)」といったものがあります。工事が完了した次には、確認の検査が行われます(竣工検査)。竣工検査からその後の流れについて、確認してみましょう。竣工検査後の流れ竣工検査工事施行者と工事の監理者である建築士による、最終チェックが入ります。完了検査の立ち会い竣工検査と同様、工事施行者・建築士と立ち会います。完了検査の立ち会いが無事に終えたら(工事完了後)、4日以内に地方公共団体などに「完了検査申請書」を提出する必要があります。しかしこの手続きについては、建築士が代行してくれます。完了検査にも立ち会います。建主検査工事施行者・建築士立ち会いのもと、建主(依頼者)による目視確認を行います。理想通りの設計となっているかを、今一度確認するわけですね。もし、計画的に言っていない点があった場合には、その箇所を指摘してするようにしましょう。引き渡し不具合がないかを確認する工事に不具合がないか、実際に立ち会って確認を行います。工事担当者や営業責任者とともに、不備がないかをチェックします。たとえば、床や壁などに傷や汚れはないか、建具の開け閉めはスムーズか、設備は正常に動くかといったことを、担当者に説明してもらいながら確認していきます。もし、この竣工検査後の立ち会いで不具合が見つかった場合には、引き渡しまでに修理してもらうか、入居後に修理するかを取り決めます。この場合の注意点としては、業者とその旨を約束する書類を控えることを忘れないようにしましょう。後々のトラブルを防止します。保証書をもらう立ち会いによる工事の修正などが済んだら、次は施行会社から以下のものを受け取りましょう。施行会社の押印のある「工事完了書」「鍵」と「保証書」「検査済証」(確認検査機関が発行)保証書には定期点検とアフターメンテナンスの内容や時期、設備などが故障した場合の連絡先などが書かれているので、大切に保管しておきましょう。竣工図が提出される追加工事なども含めた引き渡し時の図面を、建築士より渡される。瑕疵検査の立ち会い建主と工事施行者との間で、1年後に改めて竣工における瑕疵がないかを確認する約束をします。工事施行は、施工主と建築士とのこまめな連携が重要です。納得のいくよう、建築士を中心に相談を重ねていくのが良いでしょう。
2017年12月04日建築基準法とは建物を建てる際の敷地や構造、設備及び用途に関する守るべき最低基準を定めている法律のことをいいます。1950年に制定された建築基準法は、国民の生命、健康および財産を保護すべく、都市計画法、宅地造成等規正法、消防法などさまざまな法律の規制を受けます。このことから、建築基準法は建物を建築するうえで最も基本となる法律とされています。そのため、着工前の「建築確認」や工事中の「中間検査」、工事完成後の「完了検査」、違法建築物の「是正勧告」などについての規定も定められています。また建築基準法は以下の2種類に大別することができます。建物自体の安全性や構造・防災・衛生などについて定めた「単体規定」都市の防災や環境向上などの観点から定めた「集団規定」1の単体規定では、具体的には居室の採光(床面積の7分の1以上)や換気(20分の1以上の開口部を設ける)、トイレ、電気設備など、個々の建物を建築する際の基準がまとめられており、全国一律に規定されます。一方、2の集団規定では、敷地と道路に関する基準(接道義務など)、建物の用途や形態に関する基準(建ぺい率や容積率、高さ制限、各種斜線制限など)、都市再生特別地区等、防火地域、景観地区などが集団規定に当たります。また集団規定は、都市計画区域及び準都市計画区域に限ってその規定が適用されます。建築前に確認したい代表的な法令とは建物の建築には、実に多くの法令が絡んでいます。その代表例が、上記で述べた「建築基準法」といえます。建物建築時の基準となるこの法律ですが、そもそもほかの法令も理解していないと、これを理解することは難しいといえるでしょう。数ある法令の中でも、建築基準法と密接に絡んでいる都市計画法について確認してみましょう。都市計画法都市計画法とは、都市の将来あるべき姿(人口、土地の利用方法、主要施設等)を想定する都市計画に基づき、必要な事項を定めている法律のことをいいます。都市計画法では、計画的に街づくりを行う「都市計画区域」と、都市計画区域外の区域で放置すれば、将来、都市としての整備や開発、保全に支障が生じるおそれのある区域であるとして指定される「準都市計画区域」があります。また都市計画区域内では、積極的に市街化する「市街化区域」と、市街化を抑制する「市街化調整区域」とに線引きします。この市街化区域内では、異なる地域が混在しないよう、その地域ごとの用途や使用目的に合った建築物が建つよう、地域ごとに細かく分けられます(例:住宅地と工業地を分ける、など)。これを「用途規制」といいます。建物を建てるには、建築基準法に適しているかどうかを確認する前に、まず都市計画法に適しているかどうかを確認しなければならないといえるでしょう。
2017年11月30日東京・六本木の森美術館で、「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」が2018年4月25日(〜9月17日まで)にスタートした。前日に行われた内覧会より本展の見どころをレポートしよう。建築家・建築史家の藤本照信が監修する本展では、日本の建築を読み解く鍵と考えられる「可能性としての木造」「超越する美学」「安らかなる屋根」「建築としての工芸」「連なる空間」「開かれた折衷」「集まって生きる形」「発見された日本」「共生する自然」と9つの特質で章を編成し、機能主義の近代建築では見過ごされながらも、古代から現代までその底流に脈々と潜む日本建築の遺伝子を考察する。レポートする上で特筆すべきはなんといっても圧倒的な展示ボリューム。100のプロジェクトに400を超える点数で、古くは縄文時代の住居から、現在進行中の建築物や未来の計画案など現代建築までを一挙に紐解いている。紹介されている建築家の名を挙げれば、フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)や丹下健三、黒川紀章、安藤忠雄、磯崎新、隈研吾、杉本博司、SANAA......建築プロジェクトには、平等院鳳凰堂(1053年)、厳島神社(1241年)といった世界文化遺産から古代出雲大社本殿や伊勢神宮正殿、東京オリンピック国立屋内総合競技場(1964年)、日本武道館(1964年)から、現代に建てられた豊島美術館(2010年)や、東京スカイスリー(2012年)、ラ コリーナ近江八幡 草屋根(2014年)、台中国家歌劇院(2016年)などの建築まで......といった網羅具合だ。中でも、「建築としての工芸」のセクションで紹介されている、千利休作と伝えられる現存する茶室建築として日本最古の国宝・待庵は必見だ。京都で実物の待庵を見たことがある人も多くいらっしゃるだろうが、ここでは、ものつくり大学が原寸スケールで再現した模型を、間近で見るだけでなく中に入ることができる。本展の監修者である藤本氏の「千利休は、炉の位置、床の間、腰壁に貼られた紙、障子とそこから入る光、たった2畳のスペースにどこをとっても直しどころのない、完璧かつ芸術的な場を作り出した」という語りにもあるように、用の美を秘めた日本建築の遺伝子を実感すれば、普段は無意識的な日本人としての遺伝子が目覚めてくるだろう。「連なる空間」セクションで紹介されている丹下健三自邸(1953年)は、1/3スケールの巨大模型で再現されている。丹下健三は、広島平和記念公園(1954年)、大阪万博記念公園(1970年)など、戦後の国家的プロジェクトを牽引した建築家。1/3とはいえど、宮大工の技術により実物と変わらない高精度で作り上げられた模型はさらに、タブレットPCを通じて当時の様子が伺える写真とともに鑑賞することもできる。デジタル技術とのコラボレーションといえば欠くことのできない、ライゾマティクス・アーキテクチャーが作り上げた日本建築の原寸スケールを3Dで体験できる空間だ。「Power of Scale」と名付けられたこのインスタレーションでは、レーザーファイバーと映像により、桂離宮や中銀カプセルタワーなど日本建築の空間概念が大小様々なスケールで原寸再現され、鑑賞者はその空間の中に入り込んでダイナミズムを体感することができる。あまりにも見応えがあるので、小休憩を兼ねて展示の中間に設けられたブックラウンジにもぜひ注目していただきたい。ここは、戦後のモダニズム建築時代を牽引してきたデザイナーたちの名作家具で構成されており、丹下健三研究室が設計したマガジンラック付ベンチを囲むように、剣持勇や長大作、大江宏のデザインした椅子が並び、それらに腰掛け書籍を閲覧したりして過ごすことができる。現在では美術館に所蔵されているものも多く、普段手に触れることさえできない名作たちだが、今なお現役で使用されている希少な家具を集め、本来の機能のまま使用ができる大変貴重な機会である。過去に類を見ないこの大掛かりな建築をテーマとした展示により、日本の過去と現在だけでなく、未来像が今ここで照らし出される。【展覧会情報】建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの会期:2018年4月25日〜9月17日会場:森美術館住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階時間:10:00〜22:00(火曜10:00〜17:00、いずれも入館は閉館時間の30分前まで)入館料:一般1,800円 学生(高校・大学生)1,200円 子供(4歳〜中学生)600円 シニア(65歳以上)1,500円最終更新: 5月2日
2017年11月25日森美術館にて「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」が2018年4月25日(水)から9月17日(月・祝)まで開催される。「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」では、貴重な建築資料や模型から体験型インスタレーションなど多彩な展示によって、日本建築の本質に迫る。読み解く鍵として、全体で9つの章を編成。丹下健三、谷口吉生、安藤忠雄、妹島和世など、世界が注目する日本建築の独創的な発想や表現の遺伝子を考察している。千利休作の茶室《国宝・待庵》を原寸再現京都・妙喜庵に現存する日本最古の茶室建築である国宝《待庵》は千利休の作と伝えられている建築。「わび」の思想を空間化したもので、日本文化を語る上で欠くことのできないものだ。本展では、《待庵》を原寸スケールで再現。二畳の茶席やにじり口と呼ばれる出入口で良く知られる、極小空間を体感できる。ライゾマティクスの新作映像インスタレーション世界で初めて実用化されたカプセル型の集合住宅「中銀カプセルタワービル」など名建築の数々を、クリエイティブ集団ライゾマティクスがレーザーファイバーで再現する。新作として発表される3次元の建築空間と映像が織り成す体験型インスタレーションは必見だ。丹下健三《自邸》1/3スケールの巨大模型広島平和記念公園や東京オリンピック、大阪万博など、戦後の国家的プロジェクトを牽引した建築家・丹下健三。丹下が、桂離宮など日本の古建築を再解釈し、建築の新たな可能性を拓いた《自邸》を巨大模型で再現する。今は現存しない建築を今一度見る機会、逃さないで。名作家具を展示・体験できるラウンジ他にも、日本建築史における貴重な資料を一挙公開したり、建築を彩る名作家具を展示・体験できるラウンジを設置。日本建築の過去現在未来を見て、体験できる「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」に是非足を運んでみてはいかがだろうか。開催概要建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの会期:2018年4月25日(水)〜9月17日(月・祝)会場:森美術館住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F開館時間:10:00〜22:00、火曜日 10:00〜17:00※いずれも入館閉館時間の30分前まで。※会期中無休。入館料:一般 1,800円、学生(高校・大学生) 1,200円、子供(4歳~中学生) 600円、シニア(65歳以上) 1,500円※表示料金は消費税込。※本展のチケットで展望台東京シティビューにも入館可(スカイデッキを除く)。屋上スカイデッキへの入場は、別途料金(500円)が必要。【問い合わせ先】TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
2017年11月16日著名なアーティストのアトリエ撮影を手掛け、世界で最も評価の高い建築写真家の一人と言われるフランス人フォトグラファー、フランソワ・アラール(François Halard)。彼がニューヨークの画家であり写真家、ソール・ライター(Saul Leiter)のアトリエを撮影した写真集『Saul Leiter』の刊行を記念して、原宿のVACANTではドキュメンタリー映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』が特別上映される。1940年代から絵画の様に豊かな表現でニューヨークを撮影したカラー写真の先駆者であり、『ハーパーズ バザー』や『ヴォーグ』など有名ファッション誌の表紙も飾った写真家ソール・ライター。彼の写真が私たちの心に強く響くのはなぜなのか、「人生で大切なことは、何を手に入れるかじゃない。何を捨てるかということだ」と語り、あえて名声から距離を置いて生きたソール・ライターの人生が語りかけるものとは何か、彼の半生を追ったドキュメンタリー作品となっている。特別上映では、昼の部は上映のみ、夜の部は上映とトークイベントの2回制となっており、トークイベントには映画の日本語字幕を担当された米文学者で翻訳家の柴田元幸が登壇する。なお、映画本編は75分、トークは約60分の予定。また、写真集『Saul Leiter』刊行に伴い「Saul Leiter by François Halard」展が恵比寿のPOSTにて10月12日から29日まで、あわせて開催されている。【イベント情報】「SAUL LEITER by François Halard」刊行記念イベント ソール・ライターの部屋会期:10月28日会場:VACANT住所:東京都渋谷区神宮前3-20-13 2F時間:昼の部<映画上映>開場13:00~、上映13:30〜/夜の部<映画上映+トークイベント>開場17:30〜、上映18:00~料金:昼の部<通常チケット>1,500円(1ドリンク付)、<写真集付割引チケット>8,300円(写真集+1ドリンク付)夜の部<通常チケット>2,500円(1ドリンク付)、<写真集付割引チケット>9,300円(写真集+1ドリンク付)【展示会情報】Saul Leiter by François Halard会期:10月12日~10月29日会場:POST住所:東京都渋谷区恵比寿南2-10-3時間:12:00~20:00休館日:月曜日(祝日の場合は通常営業)
2017年10月25日建築家、安藤忠雄の半世紀に及ぶ活動に迫る「安藤忠雄展ー挑戦ー」が、東京・六本木の国立新美術館にて9月27日から12月18日まで開催している。26日、プレス向けの内覧会と安藤によるギャラリートークが行われた。元ボクサーという異例の経歴を持つ安藤は、独学で建築を学び28歳で建築事務所を設立する。これまで、常に既成概念を打ち破るような斬新な建築作品を世に送り出してきた安藤。過去最大規模となる同展では、その半世紀に及ぶ約270点もの模型やドローイング、設計資料から89のプロジェクトを展示。「原点/住まい」「光」「余白の空間」「場所を読む」「あるものを生かしてないものをつくる」「育てる」の6つのセクションに分けて紹介をしている。プロローグでは、安藤が建築家になる前に世界を旅したスケッチや、活動歴、また現在のアトリエの一部が再現されており、安藤のパーソナルな部分を垣間見ることが出来る。Section.1 「原点/住まい」“人間が住まう”という建築の原点に迫る安藤建築を象徴する、打ち放しのコンクリートや幾何学的造形、自然との共生といったキーワードからなる100を超える住宅作品を紹介。初期の代表作である「住吉の長屋」は、3軒並ぶ長屋の1軒をコンクリートハウスに建て替えた極小の建築。さまざまな賞を受賞した作品だが、この住居について安藤は「建物の真ん中に中庭があるので、雨が降ったら2階の部屋から一度外に出て傘を差してトイレに行かないといけないんですよ」とエピソードを話し周囲の笑いを誘った。Section.2 「光」光、風、自然が息づく空間大阪府・茨木市の郊外につくられた礼拝堂「光の教会」が、原寸大で国立新美術館に再現された。ただのインスタレーションではなく、東京都に建設申請を出して増築したというから驚きだ。この展覧会では“建築を体験してほしい”という安藤の言葉の通り、実際に教会の礼拝堂に入ることが出来る。コンクリートの十字架から射す柔らかい“光”、そして黒に塗られた床に映る“光”の十字架は見ものである。Section.3 「余白の空間」余白の空間をつくりだし、人が集まる場所を生み出す初期の小規模な商業建築から、私たちの暮らしに馴染みの深い「東急東横線 渋谷駅」、「表参道ヒルズ」などを模型で紹介。建物に広場をもたせることで、人が集まるきっかけをつくりだした。Section.4 「場所を読む」その場所にしかできない建築大自然に息づくそこにしかない芸術を求めて、住民約2,500人の島に毎年45万人もの観光客が訪れる直島。同セクションでは、「直島プロジェクト」の空間インスタレーションを中心に紹介している。木片が積まれた島に、ベネッセハウスや地中美術館を俯瞰で表現。映像とともに島の空気を体感してほしい。Section.5 「あるものを生かしてないものをつくる」歴史的建造物の再生新旧の建物が入れ子状態になる空間。国内での現実作品や、歴史的ヴェニスでの「プンタ・デラ・ドガーナ」を中心とする作品を紹介。さらに、現在パリで進行中のプロジェクトに至るまで、一挙に公開している。ギャラリートークにて「海外と比べて日本(東京)は古いものを壊してしまうことが多い。建物も人間の体と一緒でメンテナンスをすれば元の通りになる。古いものは残さないといけない。」と訴えた安藤が印象的であった。Section.6 「育てる」社会活動、建築づくり、環境再生建築づくり=環境づくりと考える安藤の思いをドキュメンタリー映像で紹介している。【展覧会情報】「安藤忠雄展―挑戦―」場所:国立新美術館 企画展示室 1E+野外展示場住所:東京都港区六本木7-22-2会期:9月27日~12月18日時間:10:00~18:00(金曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)料金:一般1,500円、大学生1,200円、高校生800円休館日:火曜日
2017年10月03日今回は以前、ある番組で一緒に仕事をしたことがある、建築家・谷尻誠さんと沢村さんの対談をお届け。前編では、お二人の出会いのきっかけをはじめ、お互いの仕事観や住まいにまつわる素朴な疑問について、沢村さんが鋭く切り込みます!建築家・谷尻誠との出会いと、わが家のこだわり沢村一樹さん(以下、沢村さん):お久しぶりです。実は、「初めまして」ではないんですよね。ある番組で3人の建築家に僕の家を建ててもらう企画をやらせていただいたんですが、その建築家のお一人が谷尻さんでした。あのときは、何か少年のような人だなぁ~と思っていましたが、今日はちゃんとして見えます(笑)。谷尻誠さん(以下、谷尻さん):だいぶ、まともになりましたかね?年齢とともに(笑)。沢村さん:まともになったかどうかはわかりませんが(笑)。あのときは、いい加減な人だなぁ……と。谷尻さん:いい加減ではなく、“良い”加減ってことで(笑)。沢村さん:うまい!座布団一枚!(一同爆笑)沢村さん:その番組では、予算と土地の広さが決まっていて、家を設計してもらうという内容でした。谷尻さん:場所も決まっていたので、現地調査にも行きましたね。沢村さん:あの家、本当いい家だったなぁ……。谷尻さん:今は、どのように暮らしているのですか?沢村さん:今はマンションですね。谷尻さん:何だかんだ、マンションが楽ですよね。僕は広島と東京に家があって、広島は買っていて、東京は借りています。沢村さん:雑誌で(ご自宅を)拝見しましたが、東京の方は内装をかなりいじっていましたよね?谷尻さん:実は、東京の物件は内装を自由にしていい賃貸にしたんですよ。普通だと、古い建物は魅力がないからみんな借りたがらないので、ずっと空き部屋になっているんですが、逆にそういった物件を探して、内装をいじりました。これは、不動産屋さんに大家さんと交渉してもらいましたね。僕たちが改修すれば、僕たちのあとにも間違いなく借りたい人が来るので。沢村さん:ちなみに、東京の家は改修するにあたって、どれぐらいのコストがかかりましたか?谷尻さん:600万円くらいかな。沢村さん:それくらいお金をかけても、気に入った場所にいたいですよね。谷尻さん:やっぱりそうですね。変な所にいると、毎日がつまらなくなってしまいます。沢村さん:洗面所やお風呂といった水回りはきれいにしたいんですよ。谷尻さん:僕もそれは一緒ですね。他はラフでもいいですけど、水回りはきれいであってほしいですね。“建築家”という職業のイメージ。そして、その仕事について沢村さん:建築の仕事はゼロからしなくちゃいけないので、大変ですよね。僕ら役者は監督がいて台本があって、その通りに演じればできるわけで……。谷尻さん:そうですね。いわば、“台本を作る側”の仕事ですからね。沢村さん:実際、どういった仕事内容なんですか?そして、何でそんなに売れっ子なんですか(笑)?谷尻さんって、他の建築家とどこが違うんでしょう?谷尻さん:普通、建築家って“いざというとき”にお願いしますよね。一生に一度とか。そして、頼む側も慎重になりますけど、いざ頼むってなっても、誰に頼んだらいいかわからないし、ちょっと敷居も高そうじゃないですか。沢村さん:確かに。谷尻さん:何か、先生って感じもしますよね?先生にお願いする、という感じじゃないですか。他の建築家の方は、先生は先生でも“ドクター”という感じだけど、僕の場合は“町医者”に近い感じ。さっきも言いましたが、建築家は敷居が高くて、堅苦しいイメージが世の中に定着していますよね。だとしたら、もう少し社会性を持つべき職業であって、いざというときではなく、普段からちゃんと関わりが持てるような位置にいたいと思っているんです。だから、僕は町医者のような、普段から気軽に相談できるようなポジションが自分に合っていると思ってますね。沢村さん:家を建ててもらった人も、谷尻さんがどんどん有名になっていくのはうれしいと思います。こんなにメディアに登場して、有名になるなんて。谷尻さん:昔頼んだ人からすれば、“先物買い”みたいな感覚かもしれないですね。ちゃんと頼んだ人が活躍するのは、自分でいうのもなんですが、うれしいことだと思いますよ。沢村さん:ご自身が「他の人と違うな」というところはありますか?谷尻さん:仕切らないということですかね?このカフェ(※)は、オフィスとカフェに仕切りがないんです。僕は、現代は“同居の時代”だと盛んに言っています。例えば、ピアノを習う。英会話を習う。この2つを実現しようと思うと、2つの時間がいるわけですよね。でも、今は英語でピアノを教えてくれる時代だと思うんです。沢村さん:例え話が上手ですね~(笑)。※今回の撮影・対談場所でもある、谷尻さんが代表のSUPPOSEDESIGNOFFICECo.,Ltdの新東京事務所と飲食店が一緒のスペースになった「社食堂」。谷尻さん:昔は家の土間で商いをやっていて、子育てをしながらお店をやっているという風景が日常でしたけど、いつの間にか子育てと商いが独立してしまったんです。でも、一周回って働くことと生活することがすごく近くなっていますよね。沢村さん:ちなみに、谷尻さんに設計を依頼される方は、どういった人たちが多いんですか?谷尻さん:僕がつくったものを見て来られる方もいますし、雑誌のインタビューなどを読んで来られる方もいますね。沢村さん:谷尻さんの考え方に共感した方が来るわけですね。谷尻さん:そうですね。そういう方が多いですね。沢村さん:じゃあ、今までの暮らしと全然別の暮らしをイメージできる人じゃないとつらいですよね。谷尻さん:やっぱり住宅メーカーに頼む人は、今までの暮らしの延長上だと思うんですよ。例えば、3LDKがいいとか。そのセオリーを自分に合わせると、僕らに頼む場合はセオリー自体を一緒につくるやり方なので、ある意味、0(ゼロ)から1なのか、1から10なのかという違いでもあると思います。沢村さん:今までつくってきた家で、「失敗だったなぁ」という家はありますか?谷尻さん:大きな失敗はないんですけど、小さな失敗はたくさんありますね。でも、その失敗は正直にお施主さんに言いますよ。今は、今できる最大の仕事をするけれど、それは成長の過程でもあるので、あとからできものがいいに決まっていますよね。負荷がかかれば、人はそれを乗り越えるために成長する沢村さん:話が変わりますが、やっぱり照明は大事ですか?僕は、インテリアは照明が肝だと思っていますけど。谷尻さん:大事ですね。やっぱり照明は、その場所の雰囲気をつくります。明るいダイニングレストランって、何か雰囲気良くないですよね。人は暗いと声が小さくなりますし、その分、親密な会話ができるんです。明るい場所で親密な会話って、できないですよね。沢村さん:へぇ~、やっぱりそういったことも考えているんですね。よく人のことを観察しているんだなと思います。谷尻さん:すごく、“人”好きですね。沢村さん:そういった思いやりが作品に出ていると思いますね。谷尻さん:ありがとうございます。いくら他の人の家を設計するといっても、自分が住みたくなるような家じゃないとダメなんですよ。変な話、お施主さんのオーダーをかなえることが仕事ですけど、我慢して自分が住みたくない家を設計するのと、自分が住みたいと思う家を設計するのでは、後者の方が誠実な気がして。だから、自分のわがままさとお施主さんの要望が入り混じっていないと、自分の作品じゃない感じがするんです。沢村さん:そこが、谷尻さんの個性にもなっているんでしょうね。谷尻さん:ある種、そうかもしれませんね。言われたことだけをかなえるのであれば、僕に頼まなくてもいいわけじゃないですか。沢村さん:それは、役者も一緒ですね。監督に言われたことを聞いてセリフを言うだけなら、僕じゃなくてもいい。だから、「俺の言う通りに、この台本通りにやってくれ」という監督とは仕事はしない(笑)。谷尻さん:機械的なのは難しいですよね。もどかしい中、何とか出来上がることに意味があるわけで。沢村さん:確かに、“共作”にならないと意味がないですね。谷尻さん:お施主さんとの会話の何気ない一言がアイデアの種になって、「おかげでこれができました」ってなることも多々ありますよ。沢村さん:そういうときに完成したものって、何か楽しいですよね。谷尻さん:全部思い通りになると、つまらないですもんね。沢村さん:何か、妥協して受け入れている自分が好きなときもあるし。谷尻さん:結局、人は負荷がないと成長しないんですよね。お施主さんから「全部好きにやっていいよ」って言われたら、逆に困ります。負荷がないと、限界の力が出せない。わがままとか無理難題を言ってくれるから、負荷がかかって、それを超えるアイデアが生まれると思うんですよ。沢村さん:もし、お施主さんがわがままを言ってくれなかったら、どうするんですか?谷尻さん:負荷がないときは、絶対にないですね。みんな、500円を持ってチャーシュー麺を食べに来るんですよ。本人は500円で食べられると思っているけど、実際は800円なんです。でも、「500円で800円のチャーシュー麺を食べさせてくれ」という人と、「500円しかないけど、一緒に新しいチャーシュー麺を作りましょう」という人だと、前者は“ただのわがまま”なので、そういった人の仕事はなかなかできません。ただ、後者の場合は、もしかすると“チャーシュー”を“鶏”に変えれば、もっとおいしいものができるかもしれないですよね。そういった可能性を一緒に探っていくことが大事なんだと思います。(後編につづく)【沢村一樹(さわむらいっき)】1967年7月10日生まれ、鹿児島県出身。今年4月からスタートした連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)では、谷田部実役で出演中。10月スタートの連続ドラマ『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます!~』(テレビ東京系)では、主演の杉山利史役が決定。また、2018年1月からは大河ドラマ『西郷どん』(NHK総合)に赤山靭負役での出演が決定している。【谷尻誠(たにじりまこと)】1974年、広島県生まれ。2000年、SUPPOSEDESIGNOFFICECo.,Ltdを設立。2014年より、吉田愛と共同主宰。JCDデザインアワード、グッドデザイン賞、INAXデザインコンテストなど多数の賞を受賞。現在、広島と東京を拠点とし、世界で活躍中。●Photographer:KenjiFujimaki●Stylist:MiyokoOnizuka(Ange)●HairandMake-up:INOMATA(&’smanagement)●Director:ShunsukeNakagawa(CROSSRING)●Casting:HiroSuzuki(Hybiscus)●Writer:YasuyukiUshijima(NOTECH)●Editor:AyaKanaizumi,TakashiOtsubo(LIMIA)【衣装「CalvinKleinPLATINUM」】トップス:¥29,000(CalvinKleinPLATINUM/税抜き)●Tel:03-5476-5811(株式会社オンワード樫山・お客様相談室)【特集・沢村一樹さん】私のインテリアとDIY——2匹の愛猫との暮らし【特集・沢村一樹さん】高級家具メーカーMinotti・金子直人さんに聞くインテリアの秘訣(前編)【特集・沢村一樹さん】高級家具メーカーMinotti・金子直人さんに聞くインテリアの秘訣(後編)【特集・沢村一樹さん】建築家・谷尻誠さんと語る、住まいと暮らしと仕事のこと(後編)
2017年09月07日