*画像はイメージです:明治時代に成立してから110年ぶりに改正案が閣議決定された強姦罪。強姦罪という名称が廃止され、強制性交等罪という新たな罪名になろうとしています。いくつかの大きな変更点がありますが、そのひとつがこれまで女性に限定されていた被害対象に男性も入るようになったことです。望まない性行為を強いられる苦痛は男女ともに同じですから、これは現実に即した大きな変更といえるでしょう。ところでこのように望まない性行為の強要が夫婦間で行われた場合は、犯罪になるのでしょうか?和田金法律事務所の渡邊寛弁護士にお聞きしました。 ■夫婦間でも強姦罪・強制わいせつ罪が成立夫婦間で相手から望まない性行為を強いられた場合、これを強姦罪や強制わいせつ罪などに問えますか?「夫婦間でも強姦罪・強制わいせつ罪が成立します。かつては夫婦間に強姦罪を認めないのが通説とされていました。なぜかというと、現行刑法の条文上、強姦は、暴行又は脅迫を用いて女子を『姦淫』することとされます。『姦淫』とは不正・不道徳な性交を意味するため、夫婦間に『姦淫』はあり得ないからです。また、夫婦は相手に性交渉を要求する権利があることがその理由とされていました(強姦罪を否定する立場も、暴行罪、脅迫罪等の成立は認めます)。しかしながら、夫婦間に性交渉を要求する権利があるとしても、暴行・脅迫を伴うような時はもはや適法な権利行使とは言えません。現在では夫婦間でも強姦罪・強制わいせつ罪を認める立場が有力です。平成19年9月26日の東京高裁判決も、夫婦間での強姦罪の成立を認めています。なお、万が一結婚相手や同棲相手から暴力を受けているようなことがあればDV法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)による保護を求めることもできます」(渡邊弁護士)前述の通り刑法上の強姦罪の規定は110年変わっていませんが、その解釈は時代に合わせて変わってきており、現在は場合によっては夫婦間でも強姦罪や強制わいせつ罪が成立するそうです。 ■法的には夫婦の性交渉をどう解釈しているのか先程の渡邊弁護士のお答えに「夫婦間に性交渉を要求する権利がある」とありますが、これはどのようなものなのでしょう?「夫婦間には性交渉を求める権利・応じる義務があります。とは言っても、民法上、性交渉を求める権利が明示的に定められているわけではありません。夫婦間だからといっていつでも相手に性交渉を求めることができるものではありませんし、性交渉を命ずる判決を求めて裁判が起こせるわけでもありません。夫婦の性交渉については、性交の拒否または不能が離婚事由になるかという形で、法的な判断がなされることがあります。例えば、結婚後約1年半の同居期間中夫が性交できなかった事案では、裁判所は、夫婦の性生活は婚姻の基本となるべき重要事項であると指摘し、婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)があるとして、妻からの離婚請求を認めています(最高裁昭和37年2月6日判決)。また、夫が自分が性的不能であることを告げずに結婚し、約3年半の同居期間中に性交渉がなかった事案で、妻からの離婚や慰謝料の請求を認めた裁判例もあります(京都地裁昭和62年5月12日判決)」(渡邊弁護士)夫婦間での性交渉が法律で定められているわけではなくとも、性交渉が婚姻の継続に関わる重要なものとして扱われている以上、性交渉を求める権利と応じる義務があると解釈できるのです。これを知らずに結婚する方は結構多いのではないでしょうか?「ただし、結婚後に肉体的・精神的理由で性交不能になったとか、単に年を取って性交不能になったような場合には、離婚事由として認められないでしょう。夫婦間で性交渉を求める権利・応じる義務というより、円満な性生活を求める権利と言った方が適切かもしれません」(渡邊弁護士)円満な性生活がどのようなものなのかは、個人によって、夫婦によって、違うものでしょう。お互いが納得し、満足する形で、強姦や強制わいせつに問われることのない夫婦生活が送れるようにしたいものです。 *取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。【画像】イメージです*EKAKI / PIXTA(ピクスタ)
2017年05月07日*画像はイメージです:暴力や脅迫を用い女性に対し無理やり性行為を行う「強姦罪」の廃止が閣議決定されました。といってももちろん強姦が犯罪行為でなくなるわけではありません。新たに「強制性交等罪」が新設されるのです。この強制性交等罪成立の背景や、これまでの強姦罪との違いなどを、桜丘法律事務所の大窪和久弁護士にお聞きしました。 ■より現実に即した内容にまず、強姦罪と強制性交等罪で大きく変更された点を比較してみましょう。強姦罪は被害者を女性に限定していましたが、強制性交等罪では男性も被害者として認められるようになりました。また、性交そのものだけでなく、性交に類する行為も対象となります。適用範囲が広がり、法定刑も重くなっており、厳罰化しているといえるでしょう。このような改正にはどのような背景があるのでしょう?「強姦罪については、同じく暴行または脅迫を手段とする強盗罪と比べても、法定刑が低い(強盗罪は5年以上の有期懲役)のはおかしいのではないかという批判が以前よりありました。刑事裁判の場においても、性犯罪に対する社会の見方を反映して従前より性犯罪に対する量刑が上がっており、法定刑についてもより重くすべきという議論がありました」(大窪弁護士) また、現行の強姦罪が現実に即していないなどの声も多かったようです。具体的な例があればお教えください。「現行の強姦罪については、犯行主体が男性のみであり、犯行客体も女性のみに限定されていました。そのため男性が性交類似行為により被害を受けても、強制わいせつ罪でしか処罰できません。強制わいせつ罪の法定刑は6カ月以上10年以下の有期懲役であり、強姦罪の法定刑と比べて著しく軽いです。しかし、男性が性交類似行為により被害を受ける場合も身体に対する侵襲を伴う点では強姦と同様であるので、これまでの扱いが現実には即していなかったと言わざるを得ません」(大窪弁護士)強姦罪の法定刑の下限は懲役3年です。しかし、男性が被害を受けても強姦罪ではなく法定刑下限が懲役6カ月の強制わいせつ罪を適用するしかありませんでした。男性の被害が軽く見積もられている状態だったといえるでしょう。 ■改正の一番大きなポイント上記の表の通り、適用範囲や法定刑、非親告罪化など様々な変更点がありますが、強制性交等罪の一番大きなポイントはどこでしょうか?「やはり強姦罪の名前を変えた上で性器の挿入がない性交類似行為についても従前の強姦行為と同様に厳しく処罰するようにするという点が一番大きいのではないでしょうか。前述の通り現行の強姦罪は現実に即したものとはいえないものであるため、改正の方向性としては妥当なものと考えます」(大窪弁護士)強姦罪では男性による強制的な性交(性器挿入)だけが罪となる行為とされていましたが、改正法では肛門性交・口淫の性交類似行為も同じ罪となります。ただし、性器ではない体の部位や異物挿入などはこれに含まれないことや、法定刑が本当に妥当なのか、構成要件の「暴行又は脅迫」がどの程度のものなのかなど、問題点を指摘する声も少なからずあります。1907年の制定から実に110年ぶりとなる抜本的な改正は歓迎できることですが、今後の運用や見直しなども含め注視していきたいものです。 *取材対応弁護士:大窪和久(桜丘法律事務所所属。2003年に弁護士登録を行い、桜丘法律事務所で研鑽をした後、11年間、いわゆる弁護士過疎地域とよばれる場所で仕事を継続。地方では特に離婚、婚約破棄、不倫等の案件を多く取り扱ってきた。これまでの経験を活かし、スムーズで有利な解決を目指す。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)【画像】イメージです*SOMKKU / Shutterstock
2017年03月28日