時間とともに植物と建物が一体となる世田谷区内の緑道と車道が交わる角地に建つ、構造設計士の多田脩二さん、由喜さんの住まい。建物から溢れるような植栽が緑道の緑と一体になり、この一角が大きく豊かな緑の空間になっている。建物の各層から緑がこぼれる立体庭園というコンセプトの住まいは、外から中の様子は伺えないが、一歩建物の中に入ると、外とつながる広々とした空間が広がる。設計は建築家の新関謙一郎さん。実は多田邸は、脩二さんよりも由喜さんが積極的に住まい造りにかかわったのだそう。「夫の仕事が忙しく、週末の家族サービスといえば夫が構造設計に関わった物件のオープンハウスに行くことでした。中でも、新関さんの設計した建物は、中に入ると外観からは予想できない広がりがあって、その空気感やデザイン性が素晴らしく、いつかは新関さんの設計した建物に住みたいと思うようになりました」美しい緑は、作庭家の長濱香代子さんが手がけた。竣工から5年目の今年、土を替えるなどの植栽の手入れを行ったそう。「長濱さんは、埼玉の農家の方と一緒に土作りからしっかり行っているので、手をかけなくても植物が生き生きと育ちます」緑のプランターが建物の各所に設けられていて、上下の位置を少しづつズラすことで、それぞれの場所で雨と光が当たるようになっている。「植栽のプランターは鉄筋コンクリートの構成の一部になっていて、梁の役目も果たしています」竣工5年目の多田邸。年月とともに緑のボリュームが変化していく。緑道の樹々と一体となった建物。緑に歓迎されながら洗い出しの階段を昇り、2階の居住スペースのあるテラスへ。新関さんの設計らしい物語性のある階段。窓を開け放てば、内と外がゆるやかにつながる。開放感が感じられる住まい。最上階は、低い窓の外に屋上の緑が広がる。茶室にいるかのような落ち着く空間。最上階の屋上の緑。ベンチの後ろのコンクリートのスラブの中にも深型のプランターがセットされている。最上階のプランターにはアガパンサスが植えてある。水やりはタイマーがセットされた潅水ホースで行うので手間がかからない。こだわり抜いたキッチンの設計由喜さんはご自宅で料理教室「こゆきの食卓」を開催していることもあり、キッチンの設計には細かな部分までこだわった。「調理器具や食器の数が多いので、効率よく収納できるよう引き出しの大きさを考えました。調理器具には電気を使うものが意外と多いです。後で困らないようにあらかじめコンセントの位置や数にもこだわりました」キッチンのカウンターの高さは92cm。「背の高い方や男性でも使いやすい高さです。たくさんの方が楽しく集まれる空間を創っていきたいと思っています」奥のI型キッチンの天板とカウンターテーブルは共にコンクリート打ち放し。ガスコンロはカウンター側に作った。長女の大学2年生の美久璃さん。そして弟が2人の5人家族。収納力抜群のキッチン。引き出しの高さは、あらかじめ収納したいものの大きさを測って決めたのだそう。モルタルのカウンターテーブルの裏側にもコンセントを設置。テーブル越しにも緑が見える。スタッキングできるグリーンの椅子はアンティーク。「テーブルは友だちからのお下がりのロイズ・アンティークスです」コンクリートの打設に立ち会い、頑丈な家に3階のバスルームは、まるでリゾートホテルにいるかのような非日常空間。煤を混ぜた黒いモルタルで壁や浴槽が作られている。「新関さんと沖縄のリゾートの仕事をご一緒させていただいた時、バスルームが素晴らしかったので、我が家にも作っていただきました」半地下には脩二さんの事務所がある。「以前は住まいと事務所が別々だったので、経費の面では一体になって良かったかもしれません」そして2階から4階が住居スペースの、計4層の建物になっている。「当初は木造で作ることも考えたのですが、4層はやはり難しく、RCで造ることにしました。しっかりした躯体を作りたかったので、コンクリートを打設する際は現場に来て、自分も手伝いながらコンクリートが密になるようにしっかり打ちました。コンクリート内の気泡は少ないほうが頑丈な建物にになるんです」頑丈な躯体と、年月とともに変化を見せる植物。これから先、さらに素敵な家になっていくに違いない。2階の浴室。床は玄昌岩、壁や洗面カウンター、浴槽は、煤を混ぜたモルタルに防水加工を施してある。幅広の水が滝のように流れる水栓。緑道に面した事務所のエントランス。「この入口はほとんど使っていないので、どんどん葉が茂ります(笑)」脩二さんの事務所。天井高3mのたっぷりとした空間。天窓からコンクリートの壁に落ちる光が美しい。約1m下げて半地下の事務所空間を作った。
2019年05月29日ナラ材を使った端正なオーダー家具に定評のあるSTANDARD TRADE.。代表の渡邊謙一郎さんが本当につくりたかった「家具らしい家具」とは……?木工ならではの技術が詰まったシンプルな額最近、絵やポスターよりも写真を飾るお宅が増えているように感じます。そのせいか、フレームを購入するお客さんはコンスタントにいらっしゃいます。今回は定番商品とはちょっと違う、シンプルでしゃきっとしたフレームに挑戦してみました。写真の商品はすべてナラ材でつくっていますが、少しずつディテールを変えています。でも、同じ材でつくっているので、こうして並べても不思議と統一感があります。僕自身が使うとしたら、階段の壁などにパラパラと飾るのもいいかなと思っています。階段は日が当たらないので作品も焼けにくいですし。角は「かんざし」と呼ばれる薄い木の板を差し込んで強度を上げる方法で処理しています。■ 壁に帰属するような、“頭のいい掛け方”掛け方にもひと工夫を凝らしました。壁に帰属するような、“頭のいい掛け方”をしたくて、ヒモやクギを使わずに掛けられるように設計しています。裏板に、一辺が傾斜した木材を取り付けて固定するというシンプルな仕組み。こうした吊り方は「ドッコ式」と呼ばれるようです小さいながらも、木工ならではの技術が詰まったフレームに仕上がったと思っています。渡邊謙一郎さん。1972年生まれ、横浜育ち。1998 年にSTANDARD TRADE. を設立。横浜の本社工場でナラ材を使ったオリジナル家具を製作し、世田谷区内にある玉川SHOPで販売をしている。デザインから製作・販売・メンテナンス・買い取りまで一貫して行う姿勢は評価され、住宅の設計やオフィス・ショップの内装まで幅広く手掛けている。※掲載した家具は試作品です。ご質問等ありましたら店舗までお問い合わせください【STANDARD TRADE.】玉川SHOP*東京都世田谷区玉堤2-9-7telephone*03・5758・6821[文]渡邊謙一郎( STANDARD TRADE. CO., LTD.)[写真]飯貝拓司
2018年09月06日