東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』について、川平慈英さんに話を聞きました。僕自身も知らない僕を作り上げてくれるありがたい日々です。「60歳になったし、ここからはスローペースでやっていこうと思っていた矢先に、心身ともに大変な舞台が次々ときて。キツいと思いながらも、今、チャレンジしている自分が楽しいんですよね」そのチャレンジのひとつが、古典歌舞伎の本質はそのままに現代劇として描き出す木ノ下歌舞伎の『三人吉三廓初買』への参加。オファーを受け「自分は“洋”の人間だと思っていたので驚きました」と話す。「やろうと思ったのは、以前に『薮原検校(けんぎょう)』という舞台を一緒にやった杉原邦生さんが演出だったことが大きいです。当時、無謀とも思えるほどの膨大なセリフに苦しむ僕を杉原さんが勇気づけてくれて、結果的にとても評価をいただけたことが大きな自信になったんです。僕の少し“やりすぎ”な癖って、木ノ下歌舞伎ワールドでは必要ないものだと思うんですよね。杉原さんは、そこも把握して全部削ぎ落としてくれて、僕自身も知らない僕を作り上げてくれる。まだまだこれから本番まで苦労する部分も多いと思いますが、それもありがたい日々です」現代劇化とはいえ、木ノ下歌舞伎では歌舞伎独特のセリフの抑揚や言い回し、所作など踏襲されている部分も多い。そのため、本稽古の前に歌舞伎の舞台の映像を見て完全再現する完コピ稽古が行われる。「僕の場合、ミュージカルで培われた、テンポで感情を繋げていく芝居が染み込んでいるから、間(ま)が怖いんです。動いてナンボ歌ってナンボだったから、歌舞伎のたっぷり間を取ってセリフを言う静の芝居に最初は戸惑ってしまって。でも、完コピを経験したら、目を動かすだけの芝居や、にらみ合いの間を取った芝居が気持ちよくなってしまって…歌舞伎ハイですよね(笑)。何気ない動きで役の凄みや重厚さを出す見せ方も学んだら、役のフィット感が全然違いました」演じるのは、土左衛門伝吉。人情味ある男ではあるが、過去に盗賊だった脛にキズ持つ身だ。「悪行を尽くしてきた過去があり、改心して仏に仕える身になったけれど、結局因果に勝てない。主宰の木ノ下(裕一)さんと話したときに『川平さんを見ているとポジティブな中にどこか悲哀みたいなものを感じるので、そこが伝吉に乗り移ったら』と言われたんですよね。悲哀をただ悲哀として見せると、ちょっと薄っぺらくなっちゃうので、悲哀を暗く見せるんじゃなく、陽な中に人生の悲哀、非業な性みたいなものを出していけたらと思います」東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三という「吉三郎」を名乗る3人の盗賊がひょんなことから出会い、義兄弟の契りを結ぶ。しかし因果は巡り、3人の運命は思わぬ方向へ進んでゆく。9月15日(日)~29日(日)池袋・東京芸術劇場 プレイハウス作/河竹黙阿弥監修・補綴/木ノ下裕一演出/杉原邦生[KUNIO]出演/田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎、藤野涼子、小日向星一、深沢萌華、川平慈英、緒川たまき、眞島秀和ほかS席9500円A席8000円サイドシート5500円ほか東京芸術劇場ボックスオフィス TEL:0570・010・296(休館日を除く10:00~19:00)長野(松本)、三重、兵庫公演あり。かびら・じえい1962年9月23日生まれ、沖縄県出身。ミュージカル『MONKEY』でデビュー。2020年にミュージカル『ビッグ・フィッシュ』で菊田一夫演劇賞を受賞。近作にミュージカル『ナビレラ』。※『anan』2024年9月18日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年09月18日9月15日、木ノ下歌舞伎による『三人吉三廓初買』が、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて開幕した。数々の古典作品の補綴を手掛ける主宰の木ノ下裕一と、彼ととともにいくつもの演目を鮮やかに蘇らせてきた演出家・杉浦邦生による、一連の仕事の集大成。5時間超えの大作、その初日前日のゲネプロを取材した。大胆な舞台装置とスタイリッシュな衣裳でみせる、現代につながる江戸の物語木ノ下歌舞伎が河竹黙阿弥の原作による『三人吉三』を上演したのは、2014年。その後2015年に再演、今回は9年ぶりの再演となるが、木ノ下と杉原はあらためて本作に向き合い直し、タイトルも新たに『三人吉三廓初買』とし、上演にのぞんだ。一幕十四場、二幕六場、三幕七場からなる5時間強の通し上演を、あっという間に感じさせるという前評判。田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎による和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三をはじめ、藤野涼子(丁⼦屋花魁・⼀重役)、川平慈英(⼟左衛⾨伝吉役)、緒川たまき(文⾥女房・おしづ役)、眞島秀和(⽊屋文里[文蔵]役)ら多彩なキャストの活躍に熱い視線が注がれる。客席に入りまず目に飛び込んだのは、赤い鳥居と二層構造の大掛かりな装置。そのソリッドでいかつい質感は、現代の東京のガード下や工事現場を思わせる。なるほど、立て看板には「TOKYO」の文字。が、人々の喧騒の中、表裏ひっくり返された看板には「EDO」の文字!耳をつんざく騒音とともに引き込まれていったのは、東京なのか、江戸なのか、どちらでもあるような『三人吉三廓初買』の世界だ。まずは「湯島天神境内の場」。人々の真ん中で熱弁を振るうのは、修験者の奇妙院。度重なる大地震、コロリ(コレラ)の流行による厄難辛苦を、不思議の法力で祓うという。『三人吉三廓初買』初演の1860年(安政7年)は、まさに、いまの私たちの状況に重なる不安でいっぱいの社会だったそう。が、人々の心につけ込みお札を売りつけた修験者は、実は浪人鷲の森の熊蔵(武谷公雄)。その“狂言作者”は、人々の中でサクラを演じたお坊吉三だ。名刀・庚申丸を紛失したことで家が取り潰しとなった武家の息子で、いまは盗賊。演じる須賀はキャップを被り、黒紋付の下からフードをのぞかせるコーディネートがスタイリッシュ、分け前を寄越せと迫る熊蔵たちを突っぱねる悪党ぶりに、ふと、育ちの良さを垣間見せる瞬間も。五場と八場では、お互いに生き別れた双子と知らず愛し合うおとせと十三郎の出会い、なれそめを丁寧に、瑞々しく描き出す。夜鷹として街中で客を取るおとせを演じるのは深沢萌華。奥ゆかしく、可憐な姿が余計に切ない。主の木屋文里の百両をなくし、おとせの父に助けられる十三郎は、小日向星一。オフィスカジュアルのジャケット姿は、いまの東京のどこかで働く、誠実で勤勉な部下そのものだ。ふたりが七五調の台詞をもって徐々に気持ちを高まらせる様子に、ついうっとり。和尚吉三とおとせの父、土左衛門伝吉を演じる川平慈英の芸達者ぶりも注目だ。黙阿弥の言葉の美しさ、古典の力を再認識振袖姿の盗賊、お嬢吉三を演じるのは坂口涼太郎。カーボンのように黒光りした振袖を纏い、楚々とした歩き方、女形独特の台詞回しで登場する。が、度々ぶっきらぼうな言葉を吐いて、不良少年らしさも大いに発揮。歌舞伎の名台詞、「月も朧(おぼろ)に白魚の──」は、お嬢吉三の一番の見せ場だが、杉原ならではの斬新で大胆、かつグッと胸に迫る演出に息を呑む。坂口は廓の場面に登場する新造花巻役でも、コミカルな演技で笑いをもたらした。お嬢吉三とお坊吉の百両を巡る争いをおさめたのは、元坊主の和尚吉三だ。一幕では長髪姿。脛に大柄のタトゥー、肩をいからせてぐいぐい歩く様子は無敵感にあふれ、とてもクール。ふたりと義兄弟の契りを結ぶ場面、その迫力に圧倒されるも、頼り甲斐のある兄貴分らしさの中に、いつもどこか暗い影が見え隠れするのもぐっとくる。三人の盗賊の話と同時に進行するのは、現行の大歌舞伎では上演されることのない廓の物語だ。藤野涼子演じる新吉原の花魁一重は、プライドの高さと美しさを強烈に放ち魅力的。彼女にぞっこんで、廓に通い続ける文里を真摯に演じる眞島秀和の佇まいも目が離せない。夫の文里を支え続ける妻、おしづを演じる緒川たまきは、健気かつ強い意志を感じさせる振る舞いで胸を打つ。そんな新吉原での物語と、庚申丸と百両を巡る三人の盗賊のストーリーは、木ノ下歌舞伎が初演以来約160年ぶりに復活させたという「地獄の場」(田中、須賀も小林の朝比奈、閻魔大王の役で登場)を挟み、三幕七場「本郷火の見櫓の場」に向けてぐいぐいと突き進む。現代語と古語の台詞が違和感なく連なる中、黙阿弥の言葉の美しさ、心地よいリズムにハッとさせられる瞬間が、そこここに散りばめられる5時間強。衣裳や音楽の力も相まって、「あれ?これっていまの東京の話?」と思わせる木ノ下歌舞伎らしいマジックと古典の力を、あらためて認識させられる圧巻の舞台だ。★ぴあでは、木ノ下歌舞伎の魅力や本作の見どころを紹介する特集を掲載中!新しい“歌舞伎”体験を! 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』特集()取材・文:加藤智子撮影:細野晋司「さあ、義を結ぼうか!」田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎ら初日開幕コメント(全文)●木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰/監修・補綴)18年前に木ノ下歌舞伎を旗揚げしました。「現代の演出家や俳優と一緒に日本の古典について考えるプラットフォームを作りたい」と(旗揚げ当時はそこまで明確に言語化できてはいなかったとはいえ)そう願ってのことでしたが、この度、素晴らしい俳優、デザイナー、スタッフに恵まれて、全力で作った5時間超えの『三人吉三廓初買』は、その願いが大きく実を結んだ作品だと実感しております。18年間一貫して持ち続けた「歌舞伎の面白さ、現代演劇の楽しさを多くの人とシェアしたい」という想いは、作品のみならず、全20頁の無料パンフレットや、視聴覚障害のある方を対象にした鑑賞サポート、そして杉原さんの舞台芸術の未来を見据えた眼差しによって実現したスウィング公演、幕間の軽食販売に至るまで、この公演のすみずみにまで込められています。一緒に最も多くの作品を作り、最も多くの時間を過ごしてきた、私にとっては唯一無二の演出家・杉原邦生さんをはじめ、演劇をこよなく愛する俳優陣、多彩なスタッフ陣と劇場でお待ちしております。●杉原邦生 [KUNIO](演出)今作の見どころは、エネルギッシュで魅力溢れまくりの素晴らしいキャスト陣だけではありません。強力なスタッフ陣にもぜひご注目ください!作品に寄り添いポップかつドラマティックな音で観る者の感情を大きく揺さぶる☆Taku Takahashi(m-flo)さんの音楽、ファッション性とドラマ性とを行き来しながら驚きの発想で世界を提示してくれるAntos Rafal(ANTOS.)さんによる衣裳、古典歌舞伎のロジックを要所に垣間見せながら現在進行形の空間を出現させる金井勇一郎さんの美術、歌舞伎の真似事ではない木ノ下歌舞伎の目指すカタチを同じ目線で探求してくださる歌舞伎俳優・中村橋吾さんによる立廻り。その他、これまで何度も創作を共にし、絶大な信頼を寄せる皆さんの演劇愛に満ちたスタッフワークも存分に楽しんでいただけるはずです。2006年に旗揚げし、2017年までメンバーとして共に歩み、いまや唯一無二の演劇団体となった“木ノ下歌舞伎”。『三人吉三廓初買』は、そんな木ノ下歌舞伎が辿り着いたひとつの〈到達点〉と言える作品になっていると思います。実は、稽古の時からひっそりと、僕はそう感じていました。この作品をお客さまにお届けできることがとても嬉しく、とても楽しみです。座組一同、劇場にて皆さまのご来場をお待ちしております!●田中俊介(和尚吉三役)自由な発想、時には奇想天外な芝居が飛び交う稽古場。そこには常に挑戦する勇気がありました。臆することなく立ち向かう心強いカンパニーの皆さんとの出会いは僕にとって特別なものになりました。江戸と東京が混在する新鮮な刺激をどうぞご堪能ください。木ノ下歌舞伎に出会えてよかった。そう皆様にも思ってもらえるはずです。さあ、義を結ぼうか!●須賀健太(お坊吉三役)木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』 ついに開幕致します!キノカブ名物完コピ稽古から始まり、座組全員でこの作品を作り上げてきました。 5時間20分という上演時間ですが、5時間20分あるからこその没入感と刺激をぜひ体感してください。 「古典だから」と躊躇されているそこのあなた…これはもう"現代劇"です。 (言い過ぎ?笑)●坂口涼太郎(お嬢吉三役)人と人がバトンをつないでいけば5時間だって何時間だって、160年前の江戸時代からだって、物語を受け継ぎ、語っていけるのだというものすごさを身体ごと感受していただけると思います。この物語をこの仲間たちとここで紡ぐ機会は今しかありません。どうか可能であれば、同じ今を私たちと一緒に過ごしていただければ幸いです。●藤野涼子(丁⼦屋花魁・⼀重役)完コピ稽古を経て、約1ヶ月間一重と向き合ってきた日々はあっという間に過ぎ去ってしまいました。暗中模索の日々ではありましたが、カンパニーの皆さまと共に初日を迎えられた事を嬉しく思います。劇場でお客様とどんな対話ができるのか楽しみです!“歌舞伎”と“現代”、 “廓の世界”と“三人吉三の世界”それぞれどう絡み合っていくのかが見どころとなっております。人生初のおばあさん・鬼役にも挑戦しておりますので是非、ご観劇ください!●川平慈英(⼟左衛⾨伝吉役)来ましたぁ!初日!歌舞伎の所作や発声などを学ぶ完コピ稽古から始まり、本稽古を入れて2ヶ月弱に及ぶ稽古を終え、いよいよ本番!自分としても初チャレンジとなる木ノ下歌舞伎の世界で、川平慈英の“伝吉”がどうお客様の眼に映るのか楽しみです!少しでもお客様の琴線に触れられたら、こんな嬉しいことはありません。帰り道、「あっという間の5時間だったね!」と言っていただけたら最高です!●緒川たまき(文⾥女房・おしづ役)この物語の中で右往左往している盗賊も、遊女も、商人も、私たちと同じように泣いたり笑ったりしながら悩み多い人生を生きています。稽古しながら、それらの登場人物の誰に対しても愛着を覚えました。そして、彼らは次の一手を考える時に私たちよりもずっとずっと大胆に突き進み、自らの人生を歌舞くので、この様(さま)にドキドキして、私の心は鷲掴みにされてしまいました。御来場くださる皆様にも是非そのドキドキを体感していただけますよう願っております。●眞島秀和(⽊屋文里[文蔵]役)いつも通りあっという間の稽古期間を経て、初日を迎える事になりました。私が演じる文里が、これからどのように変化していくのか楽しみです。そして、来場される皆様に心地良いエンターテインメントを届けられるよう努めてまいります。★ぴあでは、木ノ下歌舞伎の魅力や本作の見どころを紹介する特集を掲載中!新しい“歌舞伎”体験を! 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』特集()<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:坂口涼太郎丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文里[文蔵]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】2024年9月15日(日)~9月29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウスチケット情報()【長野(松本)公演】2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホールチケット情報()【三重公演】2024年10月13日(日)会場:三重県文化会館 中ホールチケット情報()【兵庫公演】2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールチケット情報()◎関連コンテンツ【動画配信】歌舞伎ひらき街めぐり両国と『三人吉三』~魂をしずめる場所~東京芸術劇場と木ノ下歌舞伎がタッグを組み、2021年度に実施した配信レクチャー企画「歌舞伎ひらき街めぐり」を再配信中!チケット情報()公式サイト
2024年09月16日河竹黙阿弥の傑作を、現代に鮮やかに蘇らせる──。木ノ下裕一監修・補綴、杉原邦生演出による木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)。9月15日(日)、いよいよ東京で幕を開ける本公演より、和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三を演じる田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎にインタビュー。“キノカブ”ならではの「完コピ稽古」の感想やそれぞれの役柄についてどんなふうに“現代化”されるのかなど、たっぷり語っていただいた。役作りのベースとなった完コピ稽古──田中さんと須賀さんはキノカブ初参加、初めての完コピ稽古の感触はいかがでしたか。田中本当に自分にとって有意義な時間だったと感じています。完コピ稽古の段階で、自分が取り組む役はどういったキャラクターなのか、どんな気持ちの流れなのかを深く掘り下げることができましたから。当初、完コピ稽古と上演台本の芝居は全くの別物と思っていたので、「ふたつもなんて時間がたりない!」と焦っていましたが、むしろ完コピをしたことで、よりスムーズに上演台本の稽古に入っていくことができました。須賀当初は、古語の台詞がなかなか頭に入ってきませんでした。通常の会話の台詞であれば、そこで何を言いたいのかということを覚えれば割とすんなり入ってくるものですが、それができなかった。文字面が、まるで記号のように見えてしまうんです。が、完コピ稽古を重ねることで少しずつ脳が慣れて、覚えやすくなっていったんです。また歌舞伎俳優さんの映像をよく見ると、実は人によって演じ方がだいぶ違うということもわかってきました。僕がコピーした役は、たっぷり時間をかけて、かなりゆっくりと喋るんです。まだ「俺のターンだ!」と(笑)。最初は困惑しましたが、次第に度胸がついてきました。上演台本でもそこは引き継いで、役作りのベースにしています。とても有益で、収穫のある稽古でした。──坂口さんは『勧進帳』(2014年初演)で完コピ稽古を経験されていますが、その意義をどのように捉えていいますか。坂口まず枠を作り、それから中身を埋めていく、という作業だと感じています。歌舞伎には、代々受け継がれてきた、研ぎ澄まされた型がある。まずはそれを身体に入れる。それはもう、マシンのように。それが身体に馴染んでくると、どんどん中身が埋まってきて、今度はその型が花火みたいにパーンとぶち壊れて、心が動いて、自分の感情とかオリジナリティのようなものがあふれ出てくる!「私はこうやりたい!!」と。田中それはものすごく感じました。同時に、あれだけの時間をかけた完コピ稽古で得た基礎は、これからも守っていかなければいけない、と考えています。加えて、自分が演じる和尚──このふたりが惚れてくれる、ついていきたいと思えるような、兄貴分的なカッコよさを作らないといけない。さらに、今回は5時間の舞台になりますから、固い芝居をやり続けたのではどうしても疲れてしまう。崩せるところは崩しながら、芯のある、逞しくて頼りになる、それでいてコミカルでちょっと可愛げがある、そんな魅力的な一面も出していけたらなと思って、いま、取り組んでいます。──髪型も“和尚スタイル”にされて!田中稽古初日から、です。須賀今日も剃りたてですか?田中もちろん。風呂場で台詞を言いながら──。修行僧みたいですね(笑)。身体ごとごっそりもっていかれる、“江戸のテーマパーク”──須賀さんは元武家の盗人、お坊吉三を演じられます。どのような人物と捉えていますか。須賀稽古が始まる前、(演出の)邦生さんといろいろ相談していく中で、どちらかというと元々家柄がいい、お坊ちゃんタイプだと言われたんです。最初は結構強そうなダークヒーローと考えていたので、180度くらい変わって、少年性のようなものを一番に置くようになりました。このおふたりとの三人吉三、バランスはすごくいいなと思います。あとはその少年性のレベルの調整。どんどんしっくりしてきた感があります。それから台詞──古語から現代語になって、そこからまた歌舞伎の見得が出てきて、というのは木ノ下歌舞伎ならではですが、3人の中では僕のお坊が最も“現代化”の度合いが大きい。とっつきやすい役柄ではあるかなと思います。──坂口さんが演じられるお嬢吉三は、「月も朧に白魚の──」という名台詞が有名です。この場面、どのような演出になるのでしょう。坂口それは──、ご期待ください(笑)!あの場面の美しさは私もしっかり表現しようとしています。お嬢吉三については、「あの池袋の劇場を出たら、そこにいるんだよ」という感じでやりたいんですね。この物語は江戸のストリートの話だと思いますが、ストリートにいる、盗みを働かないと生きていけない人たちはいまも世界中にたくさんいます。劇場を出たそのすぐ近くにいる、十代でサバイブしている人。そういう人を演じたい。女装した少年で盗人で、というのはカッコいいし面白いけれど、お嬢吉三は恥じらい、後ろめたさを感じている。生き別れた親父さまが、倅のいまの姿を知ったら悲しむだろうと──何かそこに真実味のようなものを感じていただけたら。でも振袖姿で盗みを働くなんて、賢いですよね(笑)。その声色、身体、振る舞いがコロコロ変わっていくのも面白い。現代劇での女形を、しっかり模索していきたいです。──黙阿弥といえば七五調の美しい台詞が魅力ですが、木ノ下歌舞伎版の台詞についてはいかがですか。田中普通に喋っていたのが、急に古語の喋り方になり、と思ったらまた現代語に戻って──そのリズムは、これまで感じたことのない心地良さですね。キノカブ初体験の方はかなり驚かれると思いますが、それを面白がっていただけたら!体験したことのない感覚ですから、多分、5時間があっという間に過ぎていくと思います。坂口黙阿弥のあの七五調のリズムが、現代語の気持ちのいいリズムに移されたという感覚です。歌舞伎でわかりにくいところがあったという人も、木ノ下歌舞伎を観たら、「あんなことを言っていたんだ」とわかってくると思います。──上演時間は5時間。木ノ下さんは「体感で1時間半くらいのつもりで作ります」とおっしゃっていましたが……。坂口2015年に木ノ下歌舞伎の『三人吉三』を観ているのですが、あっという間なんです!“江戸のテーマパーク”に1日いて、身体ごともっていかれたような感覚。5時間、ごっそりもっていかれて、劇場を出て現代の風景を目にすると、「あれ?タイムスリップしたかも?」といった感じになるのがとても面白い。須賀稽古を重ねていく中で、群像劇としての部分がどんどん立ってきたのですが、主軸となる3人のほかにもいろんな人の物語が動いていて、百両と失われた名刀・庚申丸の行方もからんでくる。そんな5時間──いまの僕はヒヤヒヤなのですが(笑)、「あっという間」を目指したいです。この世界の生きづらさ、苦しさを抱えた3人──稽古場での木ノ下さん、杉原さんについても教えてください。田中邦生さんは役者ファーストで考えてくださる方。こんなことは経験したことがないのですが、我々のこの稽古場では、一段落つくと絶対に拍手が起こるんです。木ノ下さんも邦生さんも、他の演者の方々も、「よくやった!」と、まずは一旦、褒めてくださる。そこから「こうやってみよう」と提示してくださるので、必要以上のストレスを感じることがありません。須賀古典が好きで、歌舞伎が好きで、それにもかかわらず、僕らがそれを現代化していくのを楽しんで見てくださるなんて、本当にすごいこと。それだけ愛が深いんだなと感じます。居てくださるだけで安心します。坂口邦生さんは、とても理路整然に演出されるので、大好きなんです。そのサポートをされるのが木ノ下先生。『勧進帳』では、終盤に弁慶がたらいでお酒を飲むシーンがありましたが、ヒューってこちらにやってきて、「もしかしたら、これは首を切ったときに入れる桶なのかもしれないねー。そういう意味もあるかもしれないですねー」と言って、ふわーっと帰っていく。「そうだったんだ!」と思ってお芝居をすると、すごく泣けてくる。自分がやろうとしていたことからあふれ出て、自分でやろうとしていなかったことが起こる。木ノ下先生は、そうした嬉しいハプニングを起こしてくださるんです。田中歌舞伎の入り口として最適。この作品を観たあとに歌舞伎に行くという流れは、とてもいいルートだと感じます。現代の我々が生きているこの世界の生きづらさ、苦しさを、三人の吉三も抱えている。絶対、誰かに感情移入して、その気持ちを追うことができると思うんです。5時間の中には、ユーモアたっぷりのシーンや音楽、ラップや音響など、いまの我々が楽しめる要素がたくさん入っているので、飽きずに観ていただけるはずですし、それを目指していますので、ぜひ、観にいらしてください。須賀5時間て、──また言っちゃいましたね(笑)。そうですね、人間って、悩んでいることは昔から変わっていないんだなと感じます。思った以上に理解できる感情がたくさんありますし、あの時代を生きていた人たちを見ることで、逆によく伝わってくる感情がある。人間のピュアな部分が感じられる瞬間、それが詰まった作品だなと思います。ぜひ、楽しんでいただきたいですね。坂口コロナ禍で一度中止になった公演ですし、物語に出てくる人たちも、「いましかないんだ!」と生きている。160年前もいまも、変わらず生きている人たちの作品なので、ぜひ、劇場で浸っていただきたいです!★ぴあでは、木ノ下歌舞伎の魅力や本作の見どころを紹介する特集を掲載中!新しい“歌舞伎”体験を! 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』特集()取材・文:加藤智子撮影:興梠真帆ぴあアプリ限定!アプリで応募プレゼント★田中俊介さん、須賀健太さん、坂口涼太郎さんのサイン色紙を3名様にプレゼント!【応募方法】1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。こちら() からもダウンロードできます2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:坂口涼太郎丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文里[文蔵]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】2024年9月15日(日)~9月29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウスチケット情報()【長野(松本)公演】2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホールチケット情報()【三重公演】2024年10月13日(日)会場:三重県文化会館 中ホールチケット情報()【兵庫公演】2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールチケット情報()◎関連コンテンツ【動画配信】歌舞伎ひらき街めぐり両国と『三人吉三』~魂をしずめる場所~東京芸術劇場と木ノ下歌舞伎がタッグを組み、2021年度に実施した配信レクチャー企画「歌舞伎ひらき街めぐり」を再配信中!チケット情報()公式サイト
2024年09月14日漫画家でタレントの浜田ブリトニーが6日に自身のアメブロを更新。7月28日に亡くなった「バビィ」の愛称で知られる、麻雀ライターでプロ雀士の馬場裕一さんについてコメントした。2016年に日本プロ麻雀協会の試験を受験し「女流プロ研修生」として合格したことを報告していた浜田は、この日「バビィこと馬場裕一さんが亡くなられてからもう10日もたったんですね」と述べ、馬場さんとの2ショットなどを公開した。続けて「過去に最高位戦の研修生やってた時に悩みを聞いてもらったり大変お世話になりました」と明かし「もう一回一緒に飲みたかったな」と残念そうにコメント。最後に「ご冥福をお祈りします」と追悼し、ブログを締めくくった。
2024年08月07日歌舞伎に現代の視点を取り入れつつ、その新たな可能性を発信してきた木ノ下歌舞伎(通称・キノカブ)の『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』が9年ぶりに再演されることになり7月16日(火)、東京池袋の東京芸術劇場にて制作発表会見を開催。監修・補綴の木ノ下裕一、演出の杉原邦生、出演者の田中俊介、須賀健太、藤野涼子、川平慈英、緒川たまき、眞島秀和が出席した。(「お嬢吉三」を演じる矢部昌暉は体調不良のため欠席)。歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作に大胆な新解釈を加え、2014年の初演に続き、翌15年には東京芸術劇場でも上演され、読売演劇大賞2015年の上半期作品賞部門のベスト5に選出された本作。数奇な運命に翻弄される3人の“吉三”の運命を描き出す。キノカブ版では、現行の歌舞伎ではカットされている商人と花魁の恋のパート、さらに初演以来約160年ぶりに「地獄の場」を復活させており、上演時間は5時間におよぶが、演出の杉原は「絶対にお客様を飽きさせることなく興奮の渦に巻き込みます!」と力強く宣言。木ノ下は河竹黙阿弥について「既存の認識では、メッセージ性が希薄な作家と思われていますが、そんなことは全然ないんです。初演は安政7年ですが、5年前には安政の大地震が江戸に壊滅的な被害を与え、2年前にはコレラによる多くの犠牲者が生まれていて、随所に昨日まで元気だった人が今日、急に死ぬという、死の近さや疫病の存在が散りばめられています。震災や大きな疫病を体験し、まだその真っただ中にいる現代の私たちにとって、この『三人吉三』は、また違った輝きを見せると思います」と現代に上演することの意義を強調する。この日、登壇したキャスト陣は全員、キノカブは初挑戦。木ノ下歌舞伎では、歌舞伎俳優によって演じられている歌舞伎の映像のセリフや動きを俳優陣が徹底的に模倣する“完コピ稽古”を稽古前半に行なうことになっており、これまでと異なる初めての稽古を前に一同、戦々恐々……?坊主上がりの盗賊である和尚吉三を演じる田中は「(普段は役を)自分で生み出すことが多いんですが、今回はモノマネをするところから始まるという初めての経験です。家で繰り返し、(資料の)映像を見て、モノマネをしています」と語る。武家上がりのお坊吉三を演じる須賀は「上演前の台本を読みながら、2~3回閉じました(苦笑)。本当にこれをやるのか…? と」と明かす。この日、共演陣とも初めて顔を合わせたが「どことなく、学校のテスト前の探り合いのようなピリピリ感を感じています(笑)」と語る。藤野は、武家出身の花魁を演じるにあたり、実際に現在の吉原に足を運んでみたそうで「あまり(昔のものは)残ってないんですが、見返り柳や門が残っていました」とふり返る。眞島は歌舞伎初挑戦を前に「右も左もわからない状態」と不安を口にしつつも「初日には堂々と舞台に立てるように稽古に励んでいきたいです」と意気込みを語る。川平も歌舞伎初挑戦となるが「これまでの生業のほとんどがミュージカルと楽天カードマンだったので……」と笑いを誘いつつ「人間のドロドロした負の部分が入り混じる物語ですが、軽やかでスタイリッシュに、観終わって『よかったな』と生への賛美の気持ちを抱いたり、前向きなエネルギーを届けられたらと思います」と語った。緒川は、本作が初演時にお正月公演として上演されたということに言及。「台本を読むと様々な運命を背負った、こんなにも人の生き方って多様なのかという人たちが右往左往していて、これを黙阿弥は(正月公演で)人を楽しませるために描いたというふうに読むと、江戸の庶民のひとたちは、なんて粋で心が広い人たちだったのかと感じます。現代版の作品として、いまを生きる私たちに楽しんでもらえる作品になるといいなと思います。不幸が渦巻いていて、どうしてこんなにかわいそうなのか? どうしてこんな酷いことができるのか? という人たちが出てきますが、江戸の人たちに倣って、楽しめる方向に引っ張っていきたいです」と思いを語っていた。木ノ下は緒川の言葉を受け「こんな暗い芝居を正月に当て込んだ木阿弥やっぱりヤバいなと思いました(笑)。でもその背後には『みなさん、よくぞ生き延びました。こういう世界だけど頑張っていきましょう。死んだ人がかわいそうだと思うかもしれませんが、私たちも頑張ってますよね』というエール、メッセージが強くあると思います。そのあたりを引き出せる『三人吉三』にしていきたいです」と“生”への希求を力強く描き出す作品にしたいと語った。『三人吉三廓初買』は東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクションとして東京芸術劇場プレイハウスにて9月15日(日)より上演。7月19日(金)まで、『三人吉三廓初買』東京公演のチケット先行発売中!この機会にぜひ!▼詳細は下記よりご確認ください。<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:矢部昌暉丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文蔵[文里]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】日程:2024年9月15日(日)~29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウス【長野(松本)公演】日程:2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホール【三重公演】日程:2024年10月13日(日)会場:三重・三重県文化会館 中ホール【兵庫公演】日程:2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2024年07月16日東京芸術祭2024 芸劇オータムセレクション 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』のメインビジュアルが公開された。2006年に京都で活動を開始し、数々の古典作品を現代劇化してきた木ノ下歌舞伎(通称:キノカブ)。このたび、監修・補綴の木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)、演出・美術の杉原邦生がタッグを組み、歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥の最高傑作に挑んだ本作を引っ提げ、満を持して東京・東京芸術劇場 プレイハウスに初進出を果たす。キノカブ版『三人吉三』は、数奇な運命に翻弄されながら疾走する和尚、お坊、お嬢という“三人の吉三郎”の物語と、現行歌舞伎ではカットされている、商人と花魁の恋をめぐる廓の物語がダイナミックに交錯する群像劇。初演以来約160年ぶりの上演となった「地獄の場」を完全復活するなど、今や幻となった黙阿弥オリジナル版の全貌を見ることができるのはこのキノカブ版のみ。9年ぶりの再演となる今回は、作品タイトルを演目の本外題である『三人吉三廓初買』に改めて上演する。公開されたメインビジュアルには、物語の中心となる同じ「吉三郎」の名をもつ3人の若者を演じる田中俊介、須賀健太、矢部昌暉に加え、川平慈英、藤野涼子、眞島秀和、緒川たまきが同じ鬘、衣裳を身に着け様々な表情で収められている。『三人吉三廓初買』は、2024年9月15日(日) から29日(日) に東京・東京芸術劇場 プレイハウスで上演。その後ツアー公演として10月5日(土)・6日(日) に長野・まつもと市民芸術館 主ホール、10月13日(日) に三重・三重県文化会館 中ホール、10月19日(土)・20日(日) に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される。ぴあアプリでは、7月14日(日) より東京公演のチケット先行発売を予定。詳細は後日当アプリにて。【あらすじ】江戸時代。刀鑑定家・安森源次兵衛の家は、何者かにお上の宝刀・庚申丸を盗まれて断絶となっていた。ある時、立身出世を目論む釜屋武兵衛は、巡り巡って木屋(刀剣商)文里のもとにあった庚申丸を金百両で手に入れる。しかし文里の使用人・十三郎は、その取引の帰り道、夜鷹(街娼)・おとせと出会い、受け取った百両を紛失。思いがけず百両を手にしたおとせだったが、十三郎を探す道すがら、女装の盗賊・お嬢吉三に百両を奪われてしまう。様子を見ていた安森家浪人・お坊吉三は、お嬢吉三と百両を巡って争うが、そこに元坊主・和尚吉三が現れる。彼がその場で争いを収めたことで、3人は義兄弟の契りを結ぶ。また、失意の十三郎は、川に身投げしようとしたところを、和尚吉三の父・伝吉に拾われていた。訪れた伝吉の家で、彼はおとせと再会し……。一方、吉原の座敷では、文里がお坊吉三の妹で花魁・一重に想いを寄せていた。人柄で評判の文里だったが、彼には妻子があった。文里の求愛を一重が拒みつづけていたある日、文里は、ある決意を座敷で語りはじめる。<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:矢部昌暉丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文蔵[文里]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】日程:2024年9月15日(日)~29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウス【長野(松本)公演】日程:2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホール【三重公演】日程:2024年10月13日(日)会場:三重・三重県文化会館 中ホール【兵庫公演】日程:2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールチケット情報:()
2024年07月12日2024年9月15日(日) から29日(日) にかけて東京芸術祭2024参加作品として、木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)が上演される。2006年に京都で活動を開始し、数々の古典作品を現代劇化してきた木ノ下歌舞伎(通称:キノカブ)。監修・補綴の木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)、演出・美術の杉原邦生により東京芸術劇場シアターイーストにて長期公演を行った東京芸術祭2023参加作品、木ノ下歌舞伎『勧進帳』は東京ほか全国6都市で好評を博した。今秋、このタッグの代表作のひとつで、歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作に挑んだ『三人吉三廓初買』を引っさげ、満を持してプレイハウスに初進出を果たす。木ノ下裕一撮影:東直子杉原邦生撮影:細野晋司キノカブ版『三人吉三』は2014年に初演。翌年、東京芸術劇場が若手演劇団体と提携して公演をおこなう“芸劇 eyes 公演”として東京芸術劇場シアターウエストに初登場し、読売演劇大賞2015年上半期作品賞部門のベスト5に選出された。数奇な運命に翻弄されながら疾走する、和尚、お坊、お嬢という“三人の吉三郎”の物語と、現行歌舞伎ではカットされている商人と花魁の恋をめぐる廓の物語がダイナミックに交錯する群像劇。黙阿弥の描いた複雑かつ多面的な登場人物たちは、過去の人びとやコミュニティだけでなく、今を生きるわたしたちの姿をも浮かび上がらせる。9年ぶりの再演となる今回は、作品タイトルを演目の本外題である『三人吉三廓初買』に改めた。初演以来約160年ぶりの上演となった「地獄の場」を完全復活するなど、今や幻となった黙阿弥オリジナル版の全貌を見られるのは本公演のみとなっている。物語の中心となるのは同じ「吉三郎」の名をもつ3人の若者。兄貴分の和尚吉三を演じるのは、今年2月にプレイハウスで上演した『インヘリタンス』での圧倒的なエネルギーによる熱演が記憶に新しい田中俊介。血気盛んなお坊吉三は、幼少期から活躍を続け、昨年は演出家デビューを飾るなど舞台での活動が注目される須賀健太。女装の盗賊・お嬢吉三は、音楽、俳優活動ともに精力的におこなう矢部昌暉が演じる。また、和尚吉三の父親・伝吉として川平慈英が登場する。田中俊介須賀健太矢部昌暉もうひとつのストーリーラインを動かすお坊吉三の妹・花魁一重に藤野涼子。一重に恋する商人・文里に、舞台に映像に存在感を示す眞島秀和。文里の女房・おしづに、舞台で目覚ましい活躍を続ける緒川たまきという顔ぶれが揃った。「吉三郎」の物語と「廓話」の物語の両方をつなぐキーマン・十三郎は小日向星一が演じ、十三郎とめぐりあうおとせをオーディションで抜擢された深沢萌華が演じる。また、木ノ下歌舞伎や杉原邦生演出作品を支えるおなじみの個性派、武谷公雄、高山のえみ、山口航太、武居卓、田中佑弥、緑川史絵が、豊富な舞台経験で物語の世界観を作り上げる。藤野涼子眞島秀和緒川たまきさらに、昨年『勧進帳』公演では、スウィング俳優が本役として出演する「スウィング公演」が高い評価を獲得。好評につき今回も実施される予定となっている。■木ノ下裕一 コメント日本文化の上澄みだけを掬い出して“美しい国”をアピールする昨今の風潮においては、歌舞伎もまたはその道具のひとつにすぎないのかもしれません。しかし、江戸情緒を謳い上げた歌舞伎作者と目されている河竹黙阿弥の会心の作『三人吉三』は、幕末という時代の転換期の光と闇を包み隠さず描き切ったショッキングな作品でした。震災(安政の大地震)や疫病(コレラ)の大流行という受け止め難い現実に対して、死んだ者と生きる者へ万感の愛惜を込めて筆を握り、立ち向かった黙阿弥のパッションを現代に蘇らせたいと思っています。【あらすじ】江戸時代。刀鑑定家・安森源次兵衛の家は、何者かにお上の宝刀・庚申丸を盗まれて断絶となっていた。ある時、立身出世を目論む釜屋武兵衛は、巡り巡って木屋(刀剣商)文里のもとにあった庚申丸を金百両で手に入れる。しかし文里の使用人・十三郎は、その取引の帰り道、夜鷹(街娼)・おとせと出会い、受け取った百両を紛失。思いがけず百両を手にしたおとせだったが、十三郎を探す道すがら、女装の盗賊・お嬢吉三に百両を奪われてしまう。様子を見ていた安森家浪人・お坊吉三は、お嬢吉三と百両を巡って争うが、そこに元坊主・和尚吉三が現れる。彼がその場で争いを収めたことで、3人は義兄弟の契りを結ぶ。また、失意の十三郎は、川に身投げしようとしたところを、和尚吉三の父・伝吉に拾われていた。訪れた伝吉の家で、彼はおとせと再会し……。一方、吉原の座敷では、文里がお坊吉三の妹で花魁・一重に想いを寄せていた。人柄で評判の文里だったが、彼には妻子があった。文里の求愛を一重が拒みつづけていたある日、文里は、ある決意を座敷で語りはじめる。<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』2024年9月15日(日)~29日(日)会場:東京・東京芸術劇場 プレイハウス上演時間:約5時間予定(休憩2回あり)作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【出演】田中俊介須賀健太矢部昌暉/藤野涼子小日向星一深沢萌華武谷公雄高山のえみ山口航太武居卓田中佑弥緑川史絵川平慈英/緒川たまき眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【チケット】(全席指定・税込)■一般S席:9,500円A席:8,000円サイドシート:5,500円吉三割:25,500円■早割 ※9月15日(日)・16日(月・祝) 公演限定S席:8,500円A席:7,000円■スウィング俳優出演回 ※9月26日(木) 公演限定S席:8,500円A席:7,000円65歳以上(S席):9,000円29歳以下(A席):7,500円高校生以下:1,000円幕見席:2,500 円一般発売:2024年7月20日(土) 10:00【ツアー公演(10月)】長野(松本)公演:まつもと市民芸術館 主ホール三重公演:三重県文化会館 中ホール兵庫公演:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2024年06月08日木ノ下歌舞伎による『勧進帳』が2023年9月1日から東京芸術劇場シアターイーストにて開幕する。2010年初演、16年に再創作され、フランス・パリ公演でも好評を博した本作。義経一行の関所越えを描いた忠義の物語を大胆に再構築し、既成概念を打ち破った快作がいよいよ東京で初上演される。「僕としては一生かけて、ずっとやり続けていきたい作品。このメンバーで命尽きるまで、このキノカブ版『勧進帳』が古典になるまでやり続けたい」と出演する坂口涼太郎は熱い思いを話す。2016年のまつもと大歌舞伎で上演したときからすでに「これはずっと残っていく作品になると感じました。絶対ここだけで終われないし、終わらせてはダメだと思ったんです」と坂口は手応えを感じていたというが、「(前回の)2018年から5年が経って、みんなちょっとずつ変化していると思うんです。そのときベストだと思っていたことがベストでなくなっているかもしれない。大幅に何かを変えるわけではないと思いますが、新鮮な気持ちでまた作品と向き合いたいです」。古典を現代の視点でリフレーミングする木ノ下歌舞伎。16年に再創作した際は、歌舞伎の『勧進帳』を“完コピ”する稽古から始まったそうで、「2週間ぐらいかけてすべてをコピーして、発表して。(演出の杉原)邦生さんの現代語訳台本を読みながら、みんなで意見を出し合って作って、トライアンドエラーを重ねてつくっていきました」(坂口)。今回も“完コピ”稽古が予定されているようだが、「歌舞伎の『勧進帳』は長年研ぎ澄まされて残された、ベストのもの。あの間合いや台詞回し、動きに一度立ち返らないと、目指すものが分からなくなる。完成されている古典の『勧進帳』を体に思い出させてこそ、現代版の僕たちの『勧進帳』が仕上がっていく」と坂口は言う。タイトルなどから「難しい」と感じる観客もいるかもしれないが、坂口は「安心してください。マジで娯楽の作品ですから」と話す。「古典の『勧進帳』を知らなくても全然大丈夫です。もちろんご存知の方はフィードバックしてから観に来てくださってもいいのですが、そういう“頑張り”がストレスと思う方は全然しなくて大丈夫。桟敷席でお煎餅を食べながら観るぐらいの気持ちで(笑)、楽しんで」。東京公演は9月24日まで。そのほか沖縄、上田、岡山、山口、水戸、京都公演が予定されている。取材・文・撮影:五月女菜穂スタイリスト :東 正晃
2023年08月30日現代の視点を取り入れ、歌舞伎上演の新たな可能性を発信してきた「木ノ下歌舞伎」の代表作のひとつ『勧進帳』が東京芸術劇場にて上演される。歌舞伎の名作を大胆に再構築した本作について、監修・補綴を務める木ノ下裕一に話を聞いた。木ノ下は自らの創作を「古典をかきわけ、その先で見つけたものに“現代”を感じる瞬間があるんです。かきわけた地面の底に鏡が貼ってあって、そこに自分の顔が映し出されるような感覚です」と説明する。「勧進帳」で言えば、義経に対する弁慶の“忠義”、そして彼らの正体を見破りながら、騙されたふりをして見逃す関守・富樫の“情”を描いた物語として語られがちだが、木ノ下が着目したのはそこではない。原作を掘り起こす中で見出したのは、様々な形で現れる“境界(ボーダー)”の存在だった。「原作の長唄に『今またここに越えかぬる人目の関』という詞章があるんです。かつて、人目を忍んで恋をした弁慶が、いま再び世間の目を避けながら関所を越えようとしているという意味ですけど、確かにこの作品、いろんな“関”が出てくるんですね。義経らが越えようとする“国境”という意味での関所はもちろん、義経と弁慶の主従の間にも絶対に越えられない一線があるし、富樫と義経らの間にも敵味方という境界線がある。これをテーマに“境界(ボーダー)の物語”として新たな『勧進帳』が描けるんじゃないかと思ったんです」この“境界線”の存在もまた現代社会の中で時間と共に変容する。2010年の初演、2016年の再創造を経て、2018年にも再演された『勧進帳』だが、社会の変化と共に常にアップデートされていく。「2016年、18年の頃はまだ“分断”という言葉が新しかったですよね。『分断を生む』という言葉によって分断が顕在化し、認識されるような感じでした。でも2023年のいま、分断が存在することは当たり前で、それをどうすべきか? ということを考えなくてはいけない中で解釈や演出も確実に変わります。例えば入管や移民の問題は、いま『勧進帳』を上演するならば、しっかりと勉強した上で押さえていかなくてはいけない問題だと思っています」演出を務めるのは杉原邦生。「僕が思う杉原さんのうまさは、エンタメ性と批評性のバランスの良さだと思います。相反するものとされがちだけど、本当に素晴らしいエンタテインメントは批評性も高いし、批評性が高い作品はエンタメをまぶしてないと面白くない。せめぎあいの中でその両立ができるのが杉原さんの特徴」と全幅の信頼を寄せる。2023年を生きる我々の心をどのように揺さぶってくれるのか? 完成を楽しみに待ちたい。取材・文:黒豆直樹
2023年08月21日9月1日(金) から24日(日) に東京芸術劇場 シアターイースト(ほか、ツアー公演あり)で上演される木ノ下歌舞伎『勧進帳』のメインビジュアルが公開された。木ノ下歌舞伎の代表作である『勧進帳』は、主宰・木ノ下裕一が監修・補綴、そして創作当時は企画員として木ノ下歌舞伎に在籍していた、KUNIO主宰の杉原邦生が演出・美術を担い、2010年に初演。その後、2016年にリクリエーション版を上演、ジャポニスム2018の一環として招聘されたパリ公演も好評を博した。5年ぶりの再演となる今回は「東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクションプログラム」として初の東京公演として上演。リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉といったキャストに加え、スウィングとしてオーディションで選ばれた佐藤俊彦、大知が出演する。また、公演期間中の9月23日(土・祝) に行われる有料特別トーク企画の詳細が発表された。トーク企画は木ノ下がゲストにロバート キャンベルを迎え、『勧進帳』作品のより深い理解につなげることはもちろんのこと、木ノ下歌舞伎が掲げる歴史的な文脈を踏まえつつ、現代における歌舞伎演目上演の可能性を発信していくことについてなど、専門的な知見も踏まえた充実の内容となっている。そのほかにも、東京芸術劇場が2009年から取り組む鑑賞サポートの特別版の実施や、公演前の特別対談映像配信など、より深く作品を楽しむことができる様々な関連プログラムが展開される。<公演情報>東京芸術祭2023 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』9月1日(金) ~24日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト監修・補綴:木ノ下裕一演出・美術:杉原邦生[KUNIO]出演:リー5世 坂口涼太郎 高山のえみ岡野康弘 亀島一徳 重岡漠 大柿友哉スウィング:佐藤俊彦 大知【配役表】武蔵坊弁慶:リー5世源九郎判官義経:高山のえみ富樫左衛門:坂口涼太郎常陸坊海尊/番卒オカノ:岡野康弘亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳片岡八郎/番卒シゲオカ:重岡漠駿河次郎/太刀持ちの大柿さん:大柿友哉【ツアー日程】沖縄公演:9月29日(金) ~10月1日(日) 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場(特設客席)上田公演:10月7日(土)・8日(日) サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール(特設客席)岡山公演:10月14日(土)・15日(日) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 小劇場山口公演:10月21日(土)・22日(日) 山口情報芸術センター スタジオA水戸公演:10月27日(金)・28日(土) 水戸芸術館 ACM劇場京都公演:11月4日(土)・5日(日) 京都芸術劇場 春秋座(特設客席)■木ノ下裕一×<ゲスト> ロバート キャンベル 特別トーク企画9月23日(土・祝) 東京芸術劇場 シアターイースト開場16:30 / 開演17:00【チケット料金】(入場整理番号付・税込)一般1,000円 / 『勧進帳』購入者限定割引500円※未就学児はご入場いただけません。※収録のため、客席にカメラが設置されます。※500円のチケットをご購入の方は、ご来場時に受付で、『勧進帳』公演チケット、もしくは半券をご提示ください。チケット情報はこちら:詳細はこちら:
2023年06月29日9月1日(金) から24日(日) に東京芸術劇場 シアターイーストで上演される木ノ下歌舞伎『勧進帳』の公演詳細と第1弾ビジュアルが公開された。木ノ下歌舞伎の代表作である『勧進帳』は、主宰・木ノ下裕一が監修・補綴、そして創作当時は企画員として木ノ下歌舞伎に在籍していた、KUNIO主宰の杉原邦生が演出・美術を担い、2010年に初演。その後、2016年にリクリエーション版を上演、ジャポニスム2018の一環として招聘されたパリ公演も好評を博した。5年ぶりの再演となる今回は「東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクションプログラム」として初の東京公演として上演。リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉といったキャストに加え、スウィングとしてオーディションで選ばれた佐藤俊彦、大知が出演する。また、東京芸術劇場が2009年から取り組む鑑賞サポートの特別版の実施や、公演前の特別対談映像配信、公演期間中の有料トークイベントなども予定されており、詳細は後日アナウンスされる。さらに、9月から11月にかけて沖縄・上田・岡山・山口・水戸・京都公演が行われる予定だ。■監修・補綴:木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)コメント撮影:東直子今までに増して、一枚のチケットが重くなっているようです。疫禍にも収束の光が見えつつあると言っても、依然として突然の中止があり得る世界において、作り手と観客が同じ時と場を共有する舞台芸術はまさに一期一会。お客さまもまた、時間的な余裕と、経済的な余裕を見極めながら、今見るべき一本の舞台を、慎重に選んでいるように見受けられます。一方、ますます格差が広がっていく社会の中で、誰もが気軽に娯楽や文化芸術を享受できなくなりつつあるのだとしたら、〝公共劇場〟の意義と責任はより重大です。そんな中、東京芸術劇場さんと一緒に『勧進帳』を上演いたします。公共劇場とカンパニーが協同することで、何ができるのか。少しでもクオリティの高い作品をお客様のお目にかける以外にも、まだまだやれることがあるのではないか。より作品をお楽しみいただくための講座、知的好奇心を刺激するための関連イベント、中高生へ向けた鑑賞会、障がい者への観劇サポートなど、ありったけの知恵を絞って、少しでも皆様の傍に〝寄り添える〟公演を目指します。思えば、『勧進帳』は、登場人物全員が、寄り添えないはず(立場上寄り添ってはいけないはずの)の他者に、それでも少しずつ寄り添おうとする物語でもありました。「この公演は自分のためにあった」と、お客様お一人ひとりに思っていただけるように、心を込めて臨みます。チケット一枚の重さを受け止めながら。■演出・美術:杉原邦生 コメント撮影:細野晋司2016年にリクリエーションした木ノ下歌舞伎版『勧進帳』を5年ぶりに上演できること、とても嬉しく思っています。と同時に、初演時よりさらに目まぐるしく移り変わるこの時代に、7年前の作品が未だ〈チカラ〉を持ち得ているのだろうかと、少しだけ不安を感じたりもしています。ですが、そもそも歌舞伎の『勧進帳』も、“能の『安宅(あたか)』を歌舞伎化する”というアイデアから創作され、初演から今日に至るまで形を変えながら練り上げられ、幾たびも上演されてきました。その事実こそが、古典芸能の〈チカラ〉を証明していると言えるかもしれません。ということは、“歌舞伎の『勧進帳』を現代劇化する”という野心的な試みによって生まれた僕たちの『勧進帳』も、こうして時代の変化とともに上演を重ねていくことで、日本の古典芸能、さらには、日本の舞台芸術の〈チカラ〉を証明することに繋がっていくはず―――そんな野望を胸に、ただただ良き上演を届けられるよう、粛々と準備を重ねています。皆さまのご来場お待ちしております。<公演情報>東京芸術祭2023 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』9月1日(金) ~24日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト監修・補綴:木ノ下裕一演出・美術:杉原邦生[KUNIO]出演:リー5世 坂口涼太郎 高山のえみ岡野康弘 亀島一徳 重岡漠 大柿友哉スウィング:佐藤俊彦 大知【配役表】武蔵坊弁慶:リー5世源九郎判官義経:高山のえみ富樫左衛門:坂口涼太郎常陸坊海尊/番卒オカノ:岡野康弘亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳片岡八郎/番卒シゲオカ:重岡漠駿河次郎/太刀持ちの大柿さん:大柿友哉【ツアー日程】沖縄公演:9月29日(金) ~10月1日(日) 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場(特設客席)上田公演:10月7日(土)・8日(日) サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール(特設客席)岡山公演:10月14日(土)・15日(日) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 小劇場山口公演:10月21日(土)・22日(日) 山口情報芸術センター スタジオA水戸公演:10月27日(金)・28日(土) 水戸芸術館 ACM劇場京都公演:11月4日(土)・5日(日) 京都芸術劇場 春秋座(特設客席)チケット情報はこちら:詳細はこちら:
2023年05月31日歌舞伎の演目を、主宰の木ノ下裕一さんの古典芸能や歴史に関する豊富な知識をもとに現代的に読み解いたうえで、現代演劇の演出家を迎えて上演している木ノ下歌舞伎。従来とは違うアプローチから古典を眺めることで、作品そのものの面白さや奥深さに気づくなど新しい発見が多く、近年注目を浴びている。歌舞伎でも屈指のアナーキーな物語が、現代の才能によって新たな進化を遂げる。今回手がける『桜姫東文章』は、暗闇で自分を襲った男に焦がれる桜姫の、運命に翻弄され転落していく人生を軸に展開する男女の愛憎渦巻くドラマ。成河さん、石橋静河さんを迎え、国内外で注目される岡田利規さんの脚本・演出によって上演される。石橋静河(以下、石橋):初めて木ノ下歌舞伎を観たのは’15年の『三人吉三』だったんですが、これまで観たことのないような舞台に「なんだこれは?」ってなって、すごく衝撃的でした。成河:僕は’13年の『黒塚』。当時から「ヤバい劇団がある」って話題だったんだけど、観に行ったら本当にヤバくて面白かった(笑)。いつか出させていただければと思っていたけど、まさかこんなことになるなんて思ってもなかったなと…。石橋:私たち、完コピ(木ノ下歌舞伎では通常の稽古前に、出演者が上演作品の歌舞伎の舞台を振りやセリフまで完全にコピーして演じる、完コピ稽古が行われる)の洗礼を受けましたからね…。成河:まさに洗礼だったよ。顔合わせで台本と歌舞伎の映像を渡されて、「2週間後に全編完コピの発表会をやります」…ですからね。木ノ下さんがニコニコおっしゃるから、最初は冗談かと思って信じてなかったよ。石橋:しかも、このセリフのときにこの手がちょっと動く、みたいな細かさでコピーするんですから。成河:発表会目前の石橋さんの追い込みは、すごいものがあった(笑)。石橋:やってわかったのは、歌舞伎役者さんたちのすごさ。レベルが違う。でも…めちゃくちゃ面白かったです。歌舞伎って大胆で大袈裟な芝居という印象だったけれど、木ノ下さんの解説をもとに細かく観ると、すべての動きが緻密に計算されているんだってことがわかって。成河:あと、音や音程ひとつにもちゃんと意味があることを教わって、あれは贅沢な時間だった。石橋:あれがないまま岡田さんの稽古が始まっていたら、歌舞伎作品だという実感が結局ないままだったと思うんです。歌舞伎が自分にインストールされて、全員で共有するものがあったうえでどう作っていくかを考えられるってすごく助かると思う。成河:要するに、アップデートするにはインストールが必要だって話。すごい原理主義なんだよね。ただ、普通はそこまでやれないよねって諦めるのに、木ノ下歌舞伎は本当にやっちゃうところが尊敬できる。それは石橋さんも同じで、こんな売れっ子さんで、ここまでやってくれる方、他にいないと思うし。岡田さんは岡田さんで、完コピ稽古を楽しそうにご覧になって、これを見たらあれをやりたくなった、これをやりたくなったと、毎日毎日新しい台本が出てくる。その純粋な好奇心と知性が、本当に素晴らしいなと。石橋:岡田さんって、事前に最低限のものだけ用意して、じゃあどうしようかって俳優に問いかけながら作っていく方で、去年ご一緒したときにすごく勉強になったんです。成河:俳優をすごく信頼してくださっているなと感じる。あと、歌舞伎の骨格は一切いじらないとおっしゃっていて、その徹底ぶりがちょっと常軌を逸してる(笑)。そのうえで、骨格にかぶせる素材はすべて変えるという…岡田さんもやっぱり原理主義なんだよね。でもそれは言い換えれば、ものづくりにとても誠実な二人ということでもあって、そういう方々と一緒にやれるのは幸せだよね。石橋:お二人とも作品を絶対に私物化しない方たちですしね。成河:すごいことだと思うよ。その二人が『桜姫東文章』をやるっていうのも…。鶴屋南北のわりと初期の作品で、設定とか筆が荒いぶんエネルギーがあって、情念みたいなものをひしひしと感じるホンだから。石橋:いろんな話が入り組んだカオスな物語だし、桜姫は演じたことのない役柄だし。最初は少年で、生まれ変わって姫になって、そこから遊女になって、最後に夫と子供を殺すって、女性の業が詰め込まれている気がして。でもめちゃくちゃ面白い。成河:しかも今回、歌舞伎では200年以上上演されなかった幕を復活するんですよね。非常に批評性の高いシーンだし、そこもぜひ楽しみに来ていただきたいなと思います。石橋:私、コロナ禍になってから、現実がフィクションすぎて物語が見られなくなっていたんですよ。そういう状況の中でホッとするのは、歌とか踊りとか、人間の生き物としてあるべき姿を原始的な形で見せてくれるものなんですけど、今回の作品は、そういう人間の原始的な部分に繋がっている気がしていて。物語を“観る”というより“体験する”気持ちで楽しめる気がします。成河:そうね。演劇だと構えずに、体験しに来たら絶対面白いから。木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』ひょんなことから僧侶の清玄(成河)は、かつての恋人・白菊丸(石橋)の生まれ変わりが桜姫(石橋2役)だと知り、彼女への想いを募らせる。一方、桜姫は、暗闇の中で自分を襲った盗賊・権助(成河2役)を忘れられず…。2月2日(木)~12日(日)池袋・あうるすぽっと作/鶴屋南北監修・補綴/木ノ下裕一脚本・演出/岡田利規出演/成河、石橋静河、武谷公雄、足立智充、谷山知宏、森田真和、板橋優里、安部萌、石倉来輝一般7000円ほか木ノ下歌舞伎 TEL:050・6873・6681豊橋、京都、新潟、久留米公演あり。ソンハ1981年生まれ、東京都出身。野田秀樹、サイモン・マクバーニー、小川絵梨子などさまざまな演出家の舞台で活躍。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には義円役で出演した。シャツ¥33,000パンツ 参考商品(共にPHABLIC×KAZUIinfo@phablickazui.jp)その他はスタイリスト私物いしばし・しずか1994年生まれ、東京都出身。2015年に俳優デビュー。近作では大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などで注目を集める。現在、出演ドラマ『探偵ロマンス』放送中。ニット¥28,600シャツ¥37,400パンツ¥39,600(以上ニアー ニッポン/ニアー TEL:0422・72・2279)ピアス¥57,500ネックレス 価格未定(共にカレワラ)スニーカー¥25,300(スプリングコート TEL:03・6868・5224)※『anan』2023年2月1日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・藤谷香子(成河さん) ヤマモトヒロコ(石橋さん)ヘア&メイク・山口恵理子取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年01月29日今年1月に開館5周年を迎えたロームシアター京都(京都市左京区)が2021年度の自主事業ラインアップを発表した。2021年度のテーマは「声」。《自分たちの「声」(=活動)を取りもどすこと》と《声なき声に耳を傾けること》というふたつの意味を持たせているという。同劇場のプログラムディレクター小倉由佳子氏は「新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によって、舞台芸術は活動停止・縮小を余儀なくされた。舞台芸術の醍醐味と言える、集うこと、殊に声を出すことが制限された」とコロナ禍における現状の厳しさを述べた上で、「ロームシアター京都では、状況に応じた上演・創作環境のなかでも、自分たちの表現を追い求め、場をつくり出し、観客との関係をあきらめないアーティストたちとの協働によって、プログラムを展開していく」などと語った。自主事業ラインナップは、「作品創造」「京響プログラム」「伝統芸能の継承」など、6つのカテゴリーに分けて紹介された。ラインナップは以下の通り。1.作品創造・Sound Around 001。7月17、18日。ジャンルや固定観念にとらわれない「音楽」を軸とした表現活動を行うアーティストによるパフォーマンスを紹介する新シリーズ。出演は「いまいけぷろじぇくと」ほか。市原佐都子「妖精の問題」Photo:Kai Maetani・レパートリーの創造 市原佐都子/Q「妖精の問題」リクリエーション。2022年1月下旬。作・演出は市原佐都子。・レパートリーの創造 関連プログラム「シーサイドタウン」を振り返る。6月上旬。登壇者は松田正隆、村川拓也ほか。・レパートリーの創造 ダムタイプ創設メンバー・髙谷史郎の新作準備のためのトークシリーズ。4月9日ほか全4回。トーク出演は高谷史郎、東岳志ほか。・小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅧ ROHM CLASSIC SPECIAL。3月18日、20日。音楽監督は小澤征爾、管弦楽は小澤征爾音楽塾オーケストラほか。ダミアン・ジャレ×名和晃平クリエーション(c)Yoshikazu Inoue・ダミアン・ジャレ×名和晃平 「PLANET[wanderer]」クリエーション。京都発の彫刻家と、世界で脚光を浴びる振付家によるコラボレーション第2弾。7月上旬〜中旬、本番2022年4月下旬。振付はダミアン・ジャレ、舞台美術は名和晃平。・ロームシアター京都レパートリー作品ジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ「ショールームダミーズ #4」パリ公演。11月10日〜13日。演出・振付・舞台美術はジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ。・アンディ・マンリークリエーション。イギリス国内外で公演を行うアンディ・マンリーによる子ども向け新作。11月中旬〜12月初旬。アンディ・マンリー2.京響プログラム・京都市交響楽団×藤野可織 オーケストラストーリーコンサート「ねむらないひめたち」6月20日。・広上淳一×京響コーラス「フォーレ:レクイエム」。8月9日。・京都市交響楽団コンサート 京都市交響楽団×石丸幹二音楽と詩(ことば) メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」。9月5日。・京都市交響楽団コンサート 京響クロスオーバー オーケストラ・プレミアム 作曲家・編曲家プロジェクト「大島こうすけ×西川貴教×京都市交響楽団」。10月10日。3.伝統芸能の継承・市民寄席。5月25日ほか。・能の世界へおこしやす〜京都薪能鑑賞のための公開講座〜。6月1、2日。・第71回京都薪能ー地・水・火・風・空ー。6月1、2日。・能楽チャリティ公演〜祈りよとどけ、京都より〜。8月25日。・《継承と創造》1 「宮古・八重山・琉球の芸能」(仮)。2022年2月11、12日。・伝統芸能入門講座。2021年秋開講予定。案内人:木ノ下裕一。京都薪能4.ロームシアター京都セレクション・ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”。参加アーティスト:(1)福井裕孝 (2)敷地理。(1)7月2〜4日(予定)(2)2022年2月(調整中)。・[フェスティバル]KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2021 AUTUMN。10月1〜24日。・ぐうたららばい vol.2「海底歩行者」。10月30、31日。作・演出・音楽は糸井幸之介。・太陽劇団「金夢島 L’ÎLE D’OR」(仮題)。11月6、7日。演出はアリアーヌ・ムヌーシュキン。・ピチェ・クランチェン・ダンスカンパニー「No.60」。12月3、4日。5.ラーニング・劇場の学校プロジェクト。7〜8月、12月。・新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室2021「ドン・パスクワーレ」。10月26、27日。・小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅧ 子どものためのオペラ ローム クラシック スペシャル。2022年3月。・リサーチプログラム。通年(2022年3月に最終報告会を予定)。・ロームシアター京都×京都市ユースサービス協会連携事業 未来のわたし - 劇場の仕事 - 。通年。6.コミュニティ・プレイ!シアターin Summer 2021 ステージプログラム『快傑ゾロ』アルファ人形劇場 from チェコ共和国。8月8日。・プレイ!シアターin Summer 2021 ロームシアター京都×京都市文化会館5館連携事業「シアターデビュー!」促進プログラム。日程未定。・プレイ!シアターin Summer 2021 オープンデイ。8月14、15日。・プレイ!シアターin Summer 2021 京都市交響楽団0歳からの夏休みコンサート 京都市動物園コラボレーションスペシャル。8月14 日。・ホリデー・パフォーマンス。6月27日、12月(予定)。・OKAZAKI PARK STAGE 2021。10月1日。・地域の課題を考えるプラットフォーム「仕事と働くことを考える」。7月〜2022年1月(計4回開催)。・機関誌「ASSEMBLY(アセンブリー)」。発行メディア・発行時期検討中。・「いま」を考えるトークシリーズ。年4回開催。・アセンブリープログラム。ロームシアター京都 プログラムディレクター 小倉由佳子取材・文:五月女菜穂
2021年03月19日さまざまな視点から歌舞伎の演目を捉え直し、新たな演出でいまを生きる人々に届ける木ノ下歌舞伎。そのレパートリーのひとつ、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』がこのたび上演される。2012年に初演、2016年に再演され高い評判を得た演目が5年の歳月を経て蘇る。「義経千本桜」といえば、18世紀に人形浄瑠璃をもとに誕生して以来、人気の歌舞伎の演目。源氏と平氏の戦いが終わり、兄・頼朝に追われて都落ちした義経と、実は生き延びていた平家の残党を描いている。全五段あるなかの二段目にあたる「渡海屋・大物浦」は、源平合戦で海に身を投げて自害したはずの平知盛が船宿の主人に姿を変えて源氏への復讐を狙う物語。一度は敗け、全てを失った者の悲哀と、その復讐劇がダイナミックに描かれる話だ。今作の演出を担当するのは、東京デスロックの多田淳之介。古今東西のさまざまな名作を手がけてきた彼は、常に現代を感じさせる要素を巧みに取り入れ、一見遠いものに思ってしまいがちな古典を、今の私たちが触れられる場所に差し出す。義経も知盛も、時にジャージやスニーカーなどの現代の服装で登場し、若者言葉でしゃべったりもする。観る者は今を生きる人々と同じ感覚で登場人物のやりとりを受け取る。その中にさし挟まれる古典らしい着物姿、歌舞伎ならではの節回しが際立ち、描かれたテーマの大きさをいつの間にか肌で感じることとなる。歌舞伎を新しい形で伝えるという難しい演技に挑むのは、2016年の上演時と同じメンバーの佐藤誠、大川潤子、立蔵葉子、夏目慎也、武谷公雄、佐山和泉、山本雅幸、大石将弘、さらに今回初参加となる三島景太(SPAC)という、いずれ劣らぬいずれ劣らぬ小劇場界の手練れたちが揃っている。主宰の木ノ下は、再演にあたっても毎回新たに作品にあたり、補綴を繰り返す。そもそも、「渡海屋・大物浦」はシンプルな1対1の復讐ではなく、源氏が勝って平氏が敗けるという大きな歴史をやり直そうという企みであり、知盛は平家全体を背負って義経へと襲いかかる。 コロナという未曾有の敵に遭遇し、2020年という年を喪ったままのような私たちは、いま知盛の「やり直し」を観てどう感じるだろうか。文:釣木文恵木ノ下歌舞伎『義経千本桜-渡海屋・大物浦-』作:竹田出雲 / 三好松洛 / 並木千柳監修・補綴:木ノ下裕一演出:多田淳之介出演:佐藤誠 / 大川潤子 / 立蔵葉子夏目慎也 / 武谷公雄 / 佐山和泉 / 山本雅幸三島景太 / 大石将弘【東京公演】2021年2月26日(金)~2021年3月8日(月)会場:シアタートラム【愛知公演】2021年3月13日(土)・14日(日)
2021年02月25日ロームシアター京都「レパートリーの創造」シリーズ第二弾作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が10月に東京・あうるすぽっと、11月に京都・ロームシアター京都にて上演される。250年前から文楽や歌舞伎として愛されてきた今作は、大名家のお家騒動に翻弄される継母・玉手御前と義理の息子・俊徳丸の関係性を描く物語だ。昨年の初演に引き続き玉手御前を演じる内田慈、今回俊徳丸役に初挑戦となる土屋神葉に話を聞いた。木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一が監修・補綴・上演台本を、FUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介が上演台本・演出・音楽を務める今作。内田、土屋とも、糸井の演出作品には度々参加している。土屋糸井作品の魅力はなんといっても歌。歌詞も素敵ですし、ふつうの曲には出てこないような音の運びや不思議なハモりがある。それがクセになるんですよね。内田私も糸井さんの魅力といえば最初に出てくるのは音楽で。作品が終わってもふと口ずさみたくなるような曲なんです。それから、糸井さんってジェントルマンなのにロッカーのようで、丁寧なのにバン! と振り切れられる人。その真逆の要素が作品に入っているんですよ。初演では、激しい情念を抱え、シーンごとに思いがけない振る舞いをする玉手御前という役の「パーツがつながらず困った」と語る内田。内田一度演じた今では、全てが必然に感じます。全て先を読んでいたわけではなくて、不器用だったかもしれない点も含めて。正しいかわからなくても、やるしかないと必死に行動していた人。木ノ下先生の「玉手御前の行動は彼女なりの世界平和のためだと思ってみたら?」とのアドバイスから、彼女が“自分の周りの世界を平和にしたい”と思っての行動だったと捉えることができ、スッと自分の中に入ってきました。一方の土屋は、俊徳丸という役について、「白紙です」と笑う。土屋歌舞伎でこの作品を観た印象だと、線が細くて中性的なイメージです。でも今回はどんな雰囲気にするかも含め、(稽古場で)共演者の皆さんとお会いして、まわりのお芝居を観て、その上で自分の役割を探していけたら……。すべては稽古で決まると思います。木ノ下歌舞伎では、作品の稽古に入る前にまずその演目の歌舞伎を「完コピ」することが知られている。内田お父さん役の武谷(公雄)さん、お母さん役の西田(夏奈子)さんは稽古開始1カ月前に「完コピ稽古始めた?」と連絡を取り合ったらしいですよ。(完コピ稽古初挑戦となる土屋へのアドバイスを尋ねると)土屋さんはお若いし、記憶力もいいでしょうから大丈夫!昨年の初演時とは社会状況が大きく変わった。最後にふたりに、2020年のいま「摂州合邦辻」という作品を上演することについて語ってもらった。内田コロナによって死生観が変わり、死が以前よりも身近になる中で、「摂州合邦辻」はまさにどう生きてどう死ぬかがテーマの作品です。現代を生きる人間が、数百年前の死生観を背負って演技をする。それを生で観るという形でしか伝わらないものがあると考えています。私にとってもこの機会は必要で、この作品に携われることがどんなに嬉しいか、と今感じています。土屋戯曲って普遍的な側面があって、特に今回は数百年前に作られたものを今上演するわけですが、いつ上演されてもその時々に人は意味を見出すんじゃないか、と思います。今はコロナという特殊な状況ですけど、だからこそ共感を得やすいかもしれない。ある意味でこの作品を理解するとっかかり、共通項を皆さんが持っている状態なんじゃないかって。だからこそ、いろんな方に観ていただきたいと思います。ロームシアター京都 「レパートリーの創造」シリーズ第二弾作品木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』10月22日(木)~26日(月)東京・あうるすぽっとにて11月2日(月)・3日(火)京都・ロームシアター京都 サウスホールにて東京・京都公演ともに本日9月20日(日)10:00よりチケット発売取材・文:釣木文恵撮影:佐藤友理
2020年09月20日主宰の木ノ下が作品の補綴・監修を行い、毎回さまざまな演出家を迎えて現代における古典演目の上演を行っている木ノ下歌舞伎。FUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介を演出に迎えたロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が、2019年の初演に引き続いて早くも再演を果たす。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より「この作品をやるというと周りから『大変ですねえ』とねぎらわれる。それくらい難しいこの演目から、糸井さんは家族の物語を取り出してくださった。それが初演の最大の収穫でした」と振り返った木ノ下。「再演では今作の神話性を顕在化させ、人間の範疇を超えた”おおきなもの"を出現させられたら」と上演への思いを語った。その方向性のもと再補綴では細かな変更も含めて、全シーンに手を入れ直したという。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より初演では古典と現代を橋渡しするようなオリジナル曲を何曲も生み出した演出の糸井。「初演では原作への遠慮があった。まだちょっとカッコつけていたところがあったので、今回はもっとケンカしたり、だらしないところを見せ合ったりして(作品そのものと)打ち解けられたら。たくましい大人の第一歩という感じで作品づくりができればと思います」と語った。再演では新曲が1曲加わるという。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より玉手御前を演じるのは内田慈。初演では圧巻の演技で物語を引っ張った彼女だが、「玉手御前という人はいろんな面を持っていて難しい。自分の中でどこに柱を持てばいいか不安でした。木ノ下先生に『大仰かもしれないけれど、すべて玉手御前なりに世界平和を願った末の行動なのじゃないか』と言っていただいてスッと(肚に)落ちました」と話す。「今初めて『今回は神話性を強くする』と聞いて、『ん?』と。新作に挑むように取り組もうと思います」と笑った。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より今回初めて俊徳丸を演じることになる土屋神葉は、糸井作品に複数出演している。なかでもシェイクスピアの『Love’s Labour’s Lost』(恋の骨折り損)で舞台の面白さを知ったといい、「運命を感じています」と語った。しかし脚本を読んで「衝撃を受けました。思考が停止して、僕の解釈であってるのかな? ってネットで調べたりしました。作品自体が攻めてる。すごいな、古典! と思いました」と素直な感想をもらした。「この作品はきっと自分の血肉になると思う。稽古を通して自分の軸を探していけたら」と強い意気込みをみせる。「コロナの期間を経て、我々の死生観が変化したと思います」と木ノ下。「人の生き死にを扱った今作を現代人の胸を打つ作品にできれば、いま上演すべき『合邦辻』になるのでは」と結んだ。木ノ下歌舞伎の『糸井版 摂州合邦辻』は10月に東京・あうるすぽっと、11月に京都・ロームシアター京都にて上演される。取材・文:釣木文恵
2020年09月14日木ノ下歌舞伎の『三人吉三』が5~6月に上演される。出演者の大鶴佐助に話を聞いた。【チケット情報はこちら】今回の出演を「ワクワクします」と喜ぶ大鶴。歌舞伎や文楽など日本の古典演目を現代演劇として上演し、役者にもファンの多い木ノ下歌舞伎。その中でも『三人吉三』は代表作で、演目自体の初演(江戸時代)から約150年ぶりという「地獄の場」を含む三幕・5時間に及ぶ完全通し上演も話題を呼んだ作品だ。演じる側になると大変なことも多そうだが、「上演時間が5時間以上になる作品は初めてです。でもそんな作品ってやりたくてもやれないことのほうが多い。それを自分がやってどういう心境になるのかも楽しみですし、歌舞伎もやってみたかったので」と語る。歌舞伎をやりたかったのは、唐十郎の息子である大鶴のルーツと重なる理由。「僕はテント(芝居)をやっているのですが、テントって現代歌舞伎みたいな感じだと思っているんです。今は伝統芸能になってますけど、きっと江戸時代とかはこういう感じだったんじゃないかなって。だからやりたかった。あとは純粋に、どうなるかがわからないからやってみたかったというのもありますけどね」今回「まず楽しみ」と言うのが、木ノ下歌舞伎の特徴“完コピ稽古”。演目をより深く理解・研究するために、まずは実際に上演された歌舞伎の所作や台詞回しを出演者が“完コピ”し、そこからどう現代的に解釈し演じるかクリエイションしていくという稽古スタイルだ。「役をやるうえで“真似る”って普段は遠ざける気持ちがありますが、逆に完コピして、その型を破っていく。そこでどんなものが芽吹くのか…面白そうです」作品については「今まで三人の吉三郎の話だと思っていたのですが、木ノ下歌舞伎では群集劇だと感じました。すべての因果が絡み合い、因果応報ってこういうことか、というラストに繋がっていく…残酷だけど面白い」。その中で大鶴が演じるのは三人の一人・お坊吉三。「彼は身を持ち崩しているけど、ところどころで自分に甘いところがある(笑)。坊ちゃんだからなって、かわいらしく思います。ただ僕も少し坊ちゃんなところがあるので(笑)、そこがどうリンクしてくるかは稽古場で、ですね」。これまで蜷川幸雄や福原充則、木野花ら幅広い演出家の作品に出演し、3~4月には新生PARCO劇場オープニング作品第一弾 舞台『ピサロ』への出演も控えるなど、変幻自在の魅力を持つ大鶴。今作でどんな姿を見せるのか楽しみにしたい。今回、木ノ下裕一が再補綴に取り組み、演出は初演から引き続き杉原邦生が手掛ける『三人吉三』は、5月30日(土)から6月7日(日)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウス、6月に長野・まつもと市民芸術館にて上演。取材・文:中川實穂
2020年02月18日ダンサー、振付家として幅広く活躍する北尾亘。ソロワークはもちろん、近年では小劇場の注目カンパニーの振付を手掛けることも多い彼が主宰するダンスカンパニー、Baobabの最新公演『ジャングル・コンクリート・ジャングル』が12月5日(木)よりKAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオでスタートする。北尾に話を聞いた。実は今作の構想は、KAAT公演が決まった頃……2年近く前から温めていたものだという。「劇場によって、その時に作るもののイメージが変わっていくスタイルなんです。ダンスというもの自体が抽象的ですし、僕らの公演はステージ上に建て込みをするタイプでもない。劇場の中に流れる空気や、特性を想像しながら作品コンセプトを考えていくんですよ。KAATでの公演は初めてですが、僕自身が神奈川県出身ということもあり、馴染みを感じている場所で。海も近いし、少し自然に近づいていくような感覚がある場所なんですよね。ここだったらBaobabの真骨頂的なものと言いますか、大地のイメージ、あるいは土着的な身体……そういったものを遺憾なくやらせてもらえる空気があるのでは、と」近年のBaobabの作品は、社会的なテーマをはっきりと表したものが多かった。今作は旗揚げ当初の作品への“原点回帰”的なところも意識しつつ、タイトルが象徴するように自然と文明や環境問題、生命と自然の関わりなど、彼が今感じている社会問題は表現として盛り込まれていくという。劇場という空間でどうやってそれらを表現するか?彼が今考えているアプローチは、なんともユニーク。「今回は対面の客席に加え“方角”を大切にしてます。例えば、風水に則って動線を決めてみたり、東西南北で振りを分けてみたり。ずっとバレエで言う“8つの方向”(注・バレエにおける基本的な身体の向きのこと)ではない、別のものがないかと探してたんですよね。これ、ちょっと発見なのでは!?と思ってます(笑)」公演チラシには「いのちが、おどりたがっている。」という言葉が大きく打ち出されているが、今作の内容に関しては、近年彼が関わってきた演劇界の才能たちが大きく影響しているという。「“生命讃歌”と大きく言ってみたんですけれども、自分の作品性がそういう方向に向かっていくとはあまりイメージしていなかったんですよ。おそらくこれは、木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんや杉原邦生さん、ロロの三浦直之さんや範宙遊泳の山本卓卓さん……彼らからの影響がかなりあると思います。特に昨年、まつもと市民芸術館で上演した木ノ下歌舞伎の『三番叟』、あれは大きかったですね。舞踊は祝祭であり、そして祈りでもある。もしかしたら、生贄的なものもあるのかもしれない。そういうことにもっとピュアに向かって行ってもいいのでは、そう思える勇気をもらえたんです」それぞれの現場で得た刺激を自分の中に蓄積し、変換して、ホームグラウンドであるBaobabで表現する。北尾が今考えていることを具現化するため、出演するダンサーはカンパニー史上最多の21人。北尾いわく「それぞれの身体の特性やシルエットにもこだわった」というダンサーは、体格はもちろん、プロフィールもバラバラ。特に年齢は上は40代、下はなんと小学校5年生(!)と、バラエティーに富んだメンバーが揃った。ここにもまた、北尾が抱える“ダンス”というものへの思いが込められている。「舞台作品としてのダンスというものが、お客さんとどう関わりを持てるのか。これが僕の中ではずっとテーマだったんです。これは多分演劇を経験しているのも強いんですけれども、どうしても非日常である“踊る”という行為は、舞台上と客席に境界線が生まれる感覚……美術作品をガラス越しに眺めるような、そういう関係性に近くなってしまう。でも僕はそれを、もう少しつなげて行きたいんですよ。旗揚げ当初からセリフを使ったりしていたのは、それもあると思います。コンテンポラリーダンスにも色々なスタイルがありますけど、僕たちの踊ってる肉体はもしかしたら観客の人に“自分と少し近いのでは?”と感じてもらえる可能性があるんじゃないか、と。そう感じてほしいからこその今回のキャストですし、ダンスをもっとポピュラーにしていく、そのための大事な一歩かなと思うんですよね」出演者たちとは、今年の6月頃からワークショップを重ねてきたという。「劇場から遠く離れた地で起きているかもしれない、人間でもない生き物の営み。そういうことまで僕たちは手を伸ばしたい」と語る北尾。舞台上に立ち上るのはきっと、そういったものまで濃密に感じられるような“いのち”の躍動だ。さまざまな刺激を得て、進化し続ける北尾亘の、Baobabの現在を目撃しようではないか。Baobab『ジャングル・コンクリート・ジャングル』は12月8日(日)まで。取材・文:川口有紀
2019年12月03日1994年に、十八世中村勘三郎と串田和美のタッグで開始した渋谷・コクーン歌舞伎。その第十六弾『切られの与三』が5月に上演される。公演に先立って製作発表記者会見が行われ、演出の串田、補綴の木ノ下裕一、出演の中村七之助、中村梅枝が登壇した。【チケット情報はこちら】この『切られの与三』は、三代目瀬川如皐が書いた歌舞伎『与話情浮名横櫛』を再構成するもの。主人公は、小間物問屋の若旦那・与三郎と芸者・お富。木更津の浜で恋に落ちたふたりだが、お富が土地の親分・赤間源左衛門の囲われ者であったことから、与三郎は源左衛門とその手下に身体中を切りつけられてしまう。変わり果てた姿の与三郎がお富と再会する「源氏店」の場面は、「しがねえ恋の情けが仇」の名台詞と共に有名で、今もしばしば上演されている。中学生か高校生の頃、十一世市川團十郎が演じる与三郎を観たという串田は「与三郎が傷を受けながら生き抜いていくさまに、ずっと興味を持っていました。(コクーン歌舞伎で上演した)『三人吉三』にしろ『東海道四谷怪談』にしろ『夏祭浪花鑑』にしろ、原作を読むと、朝から晩まで芝居を上演していた江戸時代から現代に至るまでに落としてしまった面白いものもある。遠い昔の関係ない話ではなく私達の話として上演したい」と語る。また、現在、補綴の作業中である木ノ下は「“傷”がひとつのテーマになるのではないかと思います。傷は何かの痕跡であり、そこには記憶も眠っている。原作は10年ほどの歳月を描くお芝居で、与三郎の周りの環境も彼の立場も社会も変わっていきます。社会全体の傷を与三郎が負っているような読み方のホンにできれば。その上で、串田監督のイメージが様々に重なって今に繋がっていくと思います」と言う。そして今回、与三郎を演じるのが七之助だ。「父が残してくれた宝物のひとつであるコクーン歌舞伎をやらえてもらって嬉しく思います。コクーン歌舞伎立ち上げ当初の、父や串田監督や(中村)芝翫の叔父が稽古場で作り上げた熱量は今も変わりません。それはどんな人にも平等で誰の意見も聞く串田監督が作り上げてくれた空気です。今回は不慣れな立役ですので手探りで、私なりに良いものにしたい」と意気込んだ。与三郎の相手役・お富を演じるのは、梅枝。「お富は、古典では1度させていただいていますが、古典は形から入る部分がありますので、この機会にお富の精神・内面を、イチから作り上げていければと思います。七之助の兄さんは年が近い女方の先輩。尊敬し、嫉妬しています。相手役を勤めることで、教えをいただき、それから兄さんにない良い所も多分あると思うので、そこが上手くはまっていけば」と抱負を述べた。「渋谷・コクーン歌舞伎 第十六弾 切られの与三」は、5月9日(水)から31日(木)まで、東京・シアターコクーンにて。チケットは発売中。取材・文:高橋彩子
2018年05月02日KAAT神奈川芸術劇場の2018年度のラインアップ発表会が行われた。ラインアップには20作以上の作品が並ぶ。チケット情報最初にKAAT芸術監督の白井晃は「“普通“を見直すのが舞台の先鋭性。アーティストが社会をどう見ているのか、話し合いながらラインアップを決めました」。その白井が演出するエンダ・ウォルシュの『バリーターク』については「何もわからないまま日常が繰り返されるうち、彼らがいる場所がわかってくる。『ゴドーを待ちながら』の現代版のような内容」と言う。KAATと松井周の個人ユニットであるサンプルとの共同制作『グッド・デス・バイブレーション考』は、深沢七郎の小説「楢山節考」にインスパイアされた作品。松井は「近未来で姥捨山と言えば安楽死ではないか。琵琶法師のような感覚で、語りが歌になったり物語の中に歌が出るような話にできれば」と語る。KAAT×地点『山山』は、『忘れる日本人』に続いて松原俊太郎が書き下ろす作品。松原は「山をふたつにすると可愛いし、『~~したいのはやまやまですが』などの表現は“使える”。ふたつの山をモニュメントとして提示したい」。白井いわく「福島を連想させる世界」で、提携公演『忘れる日本人』との連続公演だ。森山開次『不思議の国のアリス』は、昨年の舞台の再演で、今回は全国ツアーに赴く。森山は「出演者6名は第一線の強者ばかり。その全力で真剣勝負のパフォーマンスを、全国の子供たち、そして大人たちに発表できることを嬉しく思う」とした。長塚圭史の上演台本で白井が演出するのが『華氏451度』。白井は「映像文化が中心になっていくことを予見し、本が焼かれるさまを書いたこの作品を今回、さらに拡大解釈していきます」と述べた。一方、長塚が演出するのは『セールスマンの死』だ。「大変優れた戯曲で、時間の流れも特殊。家族の話であり老いの話であり夢の話です。この戯曲がこの時代にどう響くか、向き合いたい」と意欲を見せる。ソフォクレス『オイディプス王』の演出に挑むのは杉原邦生。「青年の王が堕ちるさまを描きたい。オイディプスは最後に目を潰すが、お客さんも観終わったあとに目を潰したくなるような、そしてその先に希望や光が見える作品にしたい」と意気込んだ。糸井幸之介の上演台本・演出・音楽で上演されるのは、木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻(仮)』。主宰で補綴・監修の木ノ下裕一は「糸井さんが作る“妙~ジカル”は日本の歌物語や義太夫に近い。『合邦』は、日本が古くから歌い継いできた、日本芸能の中でも重要な演目。その現代性を糸井さんとのタッグで新たに創作したい」と語った。全演目は以下の通り。取材・文:高橋彩子
2018年02月16日大阪生まれで同志社大学文学部に在学中、9月に20歳になったばかりの観世流能楽師・大槻裕一。文字を書くより先に謡(うたい)を謡っていて、初舞台は2歳。中学3年生の時にシテ方観世流能楽師で人間国宝の大槻文蔵の芸養子となり、グングン成長して、今や若手の注目株だ。師父・文蔵と「大槻文蔵裕一の会」を主催し、2014年には移動式能舞台を大阪城の本丸に設置、天守閣をバックに薪能も企画した。15年に続き、今年も10月7日(土)~9日(月・祝)に二十六世観世宗家の当代・観世清和や狂言師・野村萬斎らを迎えて開催。能の未来を切り拓き、広く一般に親しんでもらえるよう果敢に挑戦する若き能楽師が、大槻能楽堂でまた新たなイベントをスタートさせる。それが『能×アート奇跡のセッションシリーズVOL.1BORDERLESS』。第1回目のゲストには、元宝塚歌劇団宙組初代トップスター・姿月あさとを迎える。ふたりの思いを聞いた。「BORDERLESS」チケット情報「2歳からずっと能だけをやってきて、ほかの分野の方や自分とは違う一芸を極めている方とセッションしてみたいと思っていたんです。能楽堂のステキな空間を生かしながら、芸の世界で生きる辛いことや楽しいことのお話ができればと。お客様にも知っていただき、またこの企画によって、自分が新たに能を再確認することの意味も大きいと思っています」と裕一。彼は、母親がファンだった姿月の宝塚現役時代のDVD『ミーアンドマイガール』を見て「その時のかっこ良かった姿月さんの姿が忘れられなくて。ダメもとでオファーしました。1回目から大きな挑戦です」。その姿月は今年、宝塚で初舞台を踏んでから30周年。様々なコンサートやイベントを自らプロデュースし、開催している。「その一環としても、こういう形のイベントが出来るのはうれしいですね。これまで、お三味線の方とのコラボはありますけれど、お能や狂言、歌舞伎の方たちといった古典芸能の方とは初めて。退団してから17年。誰と出会うか、どんな仕事と出会うかは運だと思うので、すごく楽しみです」。今回、姿月はソロで歌も歌い、裕一は能のダイジェスト版ともいえる舞囃子を舞う予定。さらにふたりのセッションやトークショーも企画されている。「日本人として、知らないことがいっぱいある」という姿月は、お能はまったくの初心者だ。「自分も含めて、これまでお能を知らなかった方に知っていただくきっかけになれば」。裕一は「“極める”という思いを持って進んでいる人は、全然違う分野でも一緒、きっと繋がる部分があると思います。今後も続けていきたいですね」。能楽堂から発信する、若き能楽師の挑戦を応援したい。公演は、11月26日(日)大阪・大槻能楽堂にて開催。チケットは発売中。取材・文:高橋晴代
2017年11月08日特別展「世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画」が広島市現代美術館で開催される。会期は、2016年10月28日(金)から2017年1月22日(日)まで。立石大河亞のコマ割り絵画を含む油彩、60年代から80年代に制作した漫画原画、そして、横山裕一が初期に手がけた絵画、新作漫画『アイスランド』、本展のために描き下ろした漫画原画を紹介する「世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画」。我々の世界を参照しながらも、現実を引きずることなく、もうひとつの世界を大胆に提示する。不条理に満ちた、妙な世界の住人が繰り広げる意味不明な会話、 ナンセンスな行為など、一見“なんでもあり”の状況がもたらすユーモア。現実と距離のある世界観に触れることで、自分たちが今いる世界を見つめ直す良い機会をあたえてくれる。立石大河亞立石大河亞(タイガー立石/立石紘一)は、1963年、第15回読売アンデパンダン展に出品し、美術家としてのキャリアをスタートさせた。65年からは漫画を描き始め、ほどなく新聞や雑誌に連載をもつまでになり、漫画家としての地位を確立する。ミラノへと拠点を移した69年には、漫画の手法である「コマ割り」を絵画にもちこみ、ストーリー性や時間的要素を取り入れた絵画を手がけた。横山裕一横山裕一は、漫画家、イラストレーターとして活躍。ベニヤ板にペンキで風景や人物を描きながら、自身の絵画のスタイルを模索する日々の中、イラストの仕事を通じて、2004年に『ニュー土木』で単行本デビューを果たす。「ネオ漫画」 と称される横山の漫画に明確なストーリー展開はなく、複数の登場人物による非友好的かつ目的不明な行為、謎の物体が移動、変形する様子を描写することにより、純粋な時間の流れが表される。【概要】世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画会期:2016年10月28日(金)〜2017年1月22日(日)会場:広島市現代美術館住所:広島県広島市南区比治山公園1-1開館時間:10:00〜17:00 ※入場は閉館30分前まで。休館日:月曜日(ただし1月2日、1月9日は開館)、年末年始(12月27日〜1月1日)、1月4日(水)、1月10日(火)観覧料:一般 1,030(820)円、大学生 720(620)円、高校生・65 歳以上 510(410)円※中学生以下無料※11月3日全館無料※ ( )内は前売り及び30人以上の団体料金
2016年10月03日東京都・恵比寿のNADiff Galleryと清澄白河のARATANIURANOにて、漫画家/アーティストとして国内外から高い評価を集める横山裕一の個展「ファッションと密室」が開催されている。開催期間はNADiff Galleryが7月3日まで(12:00~20:00、月休)、ARATANIURANOは7月4日まで(11:00~19:00、日祝月休)。いずれも入場は無料。同展は、横山裕一の最新作品集「ファッションと密室」の出版を記念して開催されている個展。国内外での大規模な個展や展覧会への参加が続いた2014年に制作された作品を中心に、ミニマムな存在描写の強靭さ、大胆に配される迫力のオノマトペ、そしてコマごとに綿密に描き出される時の流れなど、独自の表現手法で知られる横山裕一の"ネオ漫画"の世界が2つの会場で展開されている。また、渋谷のNADiff modern(Bunkamura内)では、横山の推薦本を集めたブックフェア「横山の本棚」を開催しており(7月3日まで)、小説や詩集、写真集など、作家のアイデアの源泉や思考に触れることができる。なお、ふたつの展覧会場と選書フェア会場でスタンプラリーを実施しており、3つすべて集めた人には、プレゼントが用意されている。
2015年06月30日伊勢丹新宿店のエルメス(HERMES)ブティックリニューアルに際し、作品を提供したことが記憶に新しい、現代美術家で漫画家の横山裕一作品展「横山裕一<これをネオ壁面と呼ぶ>集合する名士とけもの」が、3月6日より京都国際マンガミュージアムで開催される。世界的なアーティストが集まるアートの祭典「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015」の後援事業として開催される同イベント。期間中は横山が今回のために書き下ろした漫画を、建物の壁にプロジェクションマッピングで投影。更に、作品世界を再現した会場に原画も展示され、本で読むのとは一味違った横山ワールドを体験出来る。また、3月8日には横山の作業風景が見られるライブドローイングイベント「これがネオ漫画である」を開催。展覧会場に設置されたアトリエで、独特の技法を用いて漫画に取り組む横山の姿が見られる。横山は“ネオ漫画”と称される独創的な作風で有名。奇妙な格好をした人物たちが、目的不明の土木工事を黙々と遂行したり、意味不明の会話を交わしたりするなど、異色の漫画で国内外の漫画界やアート界から注目されている。これまでに、漫画作品集として『ニュー土木』『トラベル』『世界地図の間』、画集では、『横山裕一カラー画集』などを発売してきた。【イベント情報】横山裕一<これをネオ壁面と呼ぶ>集合する名士とけもの会場:京都国際マンガミュージアム2階ギャラリー6住所:京都府京都市中京区烏丸通御池上ル会期:3月7日から5月31日まで(プロジェクションマッピングは3月6日から)時間:10:00から18:00まで(入場は閉館の30分前まで、プロジェクションマッピングは18:00から21:00まで)休館日:水曜日(4月1日、29日、5月6日は閉館)、4月30日、5月7日(プロジェクションマッピングは無休)
2015年02月16日