長野・まつもと市民芸術館は「令和6年度まつもと市民芸術館芸術監督団ラインアップ発表会」を実施。次期芸術監督団団長・芸術監督(演劇部門)の木ノ下裕一、次期芸術監督(舞踊部門)の倉田翠、次期ゼネラルアートアドバイザーの石丸幹二が出席し、事業コンセプトである“開く、拓く、易く、啓く、披く”という5つの“ひらく”に基づいた令和6年度(2024年度)のプログラムの紹介、各企画に対する意気込みを語った。団長を務める木ノ下氏は「今年は芸術監督団始動の年。私たちはこういう作品を作っている人間です、という顔見世興行のようなものを考えています」と表明。木ノ下企画として、木ノ下歌舞伎渾身の5時間を超える一大エンターテインメント作品が、新たに大劇場作品として生まれ変わる『三人吉三』(杉原邦生演出)、様々なジャンルの古典を紹介するシリーズ企画『バラエティ寄席(仮)』『耳で愉しむ古典文学(仮)』を開催すると発表した。倉田は主宰する「akakilike」待望の新作公演『信仰する、または愛することについて』(仮題)を、松本にてレジデントを経て世界初演する。信仰をテーマにし、赤の他人と家族になる結婚を題材に、俳優、ダンサー、現代アートのアーティストら出演者5名が、持ち味を発揮しながら、ダンスとして立ち上げていく。「いろいろな地域に住む、バックボーンや年齢も違う、いろいろな文脈の人が集結します。そういった関係性の中で、互いに影響を与えたり、与えられたりすることで、作品が変容していくことは面白い」(倉田氏)。本作に加えて、倉田企画として、松本少年刑務所ワークショップ/『身体と音楽』(仮題)、小菅紘史✕中川裕貴『山月記』、ダンサー小暮香帆と大友良英による即興セッションが予定されている。そして、石丸が手掛けるのは、木ノ下、倉田らも出演する『~0歳からお年寄りまで、みんなのコンサート~「はじめまして!」』だ。「赤ちゃんや障がいのある方、入院中の方など、劇場に来られない方や、劇場に来ることを躊躇している方にとって、来場しやすい劇場を作りたい」と思いを語った。もうひとつの企画は、大人の音楽を堪能する贅沢なコンサート『石丸幹二、デュオコンサート with クリヤ・マコト』で、こちらは「劇場空間の中で、たっぷりとジャズに触れていただきたい。小さな空間だからこそ、肌で味わえるようなライブにできれば」とアピールした。令和6年度まつもと市民芸術館芸術監督団ラインアップ【木ノ下裕一企画】■木ノ下歌舞伎『三人吉三』原作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生木ノ下歌舞伎渾身の5時間を超える一大エンターテインメント作品が新たに大劇場作品として生まれ変わる!2024年10月上旬<主ホール>■古典企画木ノ下裕一が様々なジャンルの古典を紹介するシリーズ企画『バラエティ寄席』(仮)2024年12月上旬<小ホール>『耳で愉しむ古典文学』(仮)上演時期調整中【倉田翠企画】■akakilike『信仰する、または愛することについて』(仮)倉田翠主宰 akakilike の待望の新作公演を、松本にてレジデントを経て世界初演。演出:倉田翠出演:倉田翠、桑折現、白神ももこ、前田耕平、吉田凪詐2024年6月上旬<実験劇場>■松本少年刑務所ワークショップ日本で唯一、世界的にも例のない公立中学校の分校のある刑務所として も知られている松本少年刑務所と連携したワークショップ通年■『身体と音楽』(仮)俳優・ダンサーとミュージシャンなど極小のユニットで行う公演。劇場という場所に囚われない垣根のないパフォーマンスが夏の松本の夜を彩る・小菅紘史×中川裕貴『山月記』・小暮香帆×大友良英セッション2024年8月下旬屋外【石丸幹二企画】■~0歳からお年寄りまで、みんなのコンサート~『はじめまして!』初めてのピアノ、初めてのマリンバ、初めてのヴァイオリン、初めまして赤ちゃん、初めまして音楽、初めまして松 本、初めまして芸術館…みんなの《はじめて》で溢れたコンサート出演:石丸幹二、木ノ下裕一、倉田翠塚越慎子(マリンバ)、クリヤ・マコト(ピアノ)、林周雅(ヴァイオリン) ほか2024年4月21日(日)<主ホール>■『石丸幹二、デュオコンサート with クリヤ・マコト』石丸幹二とクリヤ・マコト、大人の音楽を堪能する贅沢なコンサート出演:石丸幹二、クリヤ・マコト2024年11月下旬<小ホール>「まつもと市民芸術館」公式サイト
2024年02月23日木ノ下歌舞伎による『勧進帳』が2023年9月1日から東京芸術劇場シアターイーストにて開幕する。2010年初演、16年に再創作され、フランス・パリ公演でも好評を博した本作。義経一行の関所越えを描いた忠義の物語を大胆に再構築し、既成概念を打ち破った快作がいよいよ東京で初上演される。「僕としては一生かけて、ずっとやり続けていきたい作品。このメンバーで命尽きるまで、このキノカブ版『勧進帳』が古典になるまでやり続けたい」と出演する坂口涼太郎は熱い思いを話す。2016年のまつもと大歌舞伎で上演したときからすでに「これはずっと残っていく作品になると感じました。絶対ここだけで終われないし、終わらせてはダメだと思ったんです」と坂口は手応えを感じていたというが、「(前回の)2018年から5年が経って、みんなちょっとずつ変化していると思うんです。そのときベストだと思っていたことがベストでなくなっているかもしれない。大幅に何かを変えるわけではないと思いますが、新鮮な気持ちでまた作品と向き合いたいです」。古典を現代の視点でリフレーミングする木ノ下歌舞伎。16年に再創作した際は、歌舞伎の『勧進帳』を“完コピ”する稽古から始まったそうで、「2週間ぐらいかけてすべてをコピーして、発表して。(演出の杉原)邦生さんの現代語訳台本を読みながら、みんなで意見を出し合って作って、トライアンドエラーを重ねてつくっていきました」(坂口)。今回も“完コピ”稽古が予定されているようだが、「歌舞伎の『勧進帳』は長年研ぎ澄まされて残された、ベストのもの。あの間合いや台詞回し、動きに一度立ち返らないと、目指すものが分からなくなる。完成されている古典の『勧進帳』を体に思い出させてこそ、現代版の僕たちの『勧進帳』が仕上がっていく」と坂口は言う。タイトルなどから「難しい」と感じる観客もいるかもしれないが、坂口は「安心してください。マジで娯楽の作品ですから」と話す。「古典の『勧進帳』を知らなくても全然大丈夫です。もちろんご存知の方はフィードバックしてから観に来てくださってもいいのですが、そういう“頑張り”がストレスと思う方は全然しなくて大丈夫。桟敷席でお煎餅を食べながら観るぐらいの気持ちで(笑)、楽しんで」。東京公演は9月24日まで。そのほか沖縄、上田、岡山、山口、水戸、京都公演が予定されている。取材・文・撮影:五月女菜穂スタイリスト :東 正晃
2023年08月30日現代の視点を取り入れ、歌舞伎上演の新たな可能性を発信してきた「木ノ下歌舞伎」の代表作のひとつ『勧進帳』が東京芸術劇場にて上演される。歌舞伎の名作を大胆に再構築した本作について、監修・補綴を務める木ノ下裕一に話を聞いた。木ノ下は自らの創作を「古典をかきわけ、その先で見つけたものに“現代”を感じる瞬間があるんです。かきわけた地面の底に鏡が貼ってあって、そこに自分の顔が映し出されるような感覚です」と説明する。「勧進帳」で言えば、義経に対する弁慶の“忠義”、そして彼らの正体を見破りながら、騙されたふりをして見逃す関守・富樫の“情”を描いた物語として語られがちだが、木ノ下が着目したのはそこではない。原作を掘り起こす中で見出したのは、様々な形で現れる“境界(ボーダー)”の存在だった。「原作の長唄に『今またここに越えかぬる人目の関』という詞章があるんです。かつて、人目を忍んで恋をした弁慶が、いま再び世間の目を避けながら関所を越えようとしているという意味ですけど、確かにこの作品、いろんな“関”が出てくるんですね。義経らが越えようとする“国境”という意味での関所はもちろん、義経と弁慶の主従の間にも絶対に越えられない一線があるし、富樫と義経らの間にも敵味方という境界線がある。これをテーマに“境界(ボーダー)の物語”として新たな『勧進帳』が描けるんじゃないかと思ったんです」この“境界線”の存在もまた現代社会の中で時間と共に変容する。2010年の初演、2016年の再創造を経て、2018年にも再演された『勧進帳』だが、社会の変化と共に常にアップデートされていく。「2016年、18年の頃はまだ“分断”という言葉が新しかったですよね。『分断を生む』という言葉によって分断が顕在化し、認識されるような感じでした。でも2023年のいま、分断が存在することは当たり前で、それをどうすべきか? ということを考えなくてはいけない中で解釈や演出も確実に変わります。例えば入管や移民の問題は、いま『勧進帳』を上演するならば、しっかりと勉強した上で押さえていかなくてはいけない問題だと思っています」演出を務めるのは杉原邦生。「僕が思う杉原さんのうまさは、エンタメ性と批評性のバランスの良さだと思います。相反するものとされがちだけど、本当に素晴らしいエンタテインメントは批評性も高いし、批評性が高い作品はエンタメをまぶしてないと面白くない。せめぎあいの中でその両立ができるのが杉原さんの特徴」と全幅の信頼を寄せる。2023年を生きる我々の心をどのように揺さぶってくれるのか? 完成を楽しみに待ちたい。取材・文:黒豆直樹
2023年08月21日9月1日(金) から24日(日) に東京芸術劇場 シアターイースト(ほか、ツアー公演あり)で上演される木ノ下歌舞伎『勧進帳』のメインビジュアルが公開された。木ノ下歌舞伎の代表作である『勧進帳』は、主宰・木ノ下裕一が監修・補綴、そして創作当時は企画員として木ノ下歌舞伎に在籍していた、KUNIO主宰の杉原邦生が演出・美術を担い、2010年に初演。その後、2016年にリクリエーション版を上演、ジャポニスム2018の一環として招聘されたパリ公演も好評を博した。5年ぶりの再演となる今回は「東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクションプログラム」として初の東京公演として上演。リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉といったキャストに加え、スウィングとしてオーディションで選ばれた佐藤俊彦、大知が出演する。また、公演期間中の9月23日(土・祝) に行われる有料特別トーク企画の詳細が発表された。トーク企画は木ノ下がゲストにロバート キャンベルを迎え、『勧進帳』作品のより深い理解につなげることはもちろんのこと、木ノ下歌舞伎が掲げる歴史的な文脈を踏まえつつ、現代における歌舞伎演目上演の可能性を発信していくことについてなど、専門的な知見も踏まえた充実の内容となっている。そのほかにも、東京芸術劇場が2009年から取り組む鑑賞サポートの特別版の実施や、公演前の特別対談映像配信など、より深く作品を楽しむことができる様々な関連プログラムが展開される。<公演情報>東京芸術祭2023 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』9月1日(金) ~24日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト監修・補綴:木ノ下裕一演出・美術:杉原邦生[KUNIO]出演:リー5世 坂口涼太郎 高山のえみ岡野康弘 亀島一徳 重岡漠 大柿友哉スウィング:佐藤俊彦 大知【配役表】武蔵坊弁慶:リー5世源九郎判官義経:高山のえみ富樫左衛門:坂口涼太郎常陸坊海尊/番卒オカノ:岡野康弘亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳片岡八郎/番卒シゲオカ:重岡漠駿河次郎/太刀持ちの大柿さん:大柿友哉【ツアー日程】沖縄公演:9月29日(金) ~10月1日(日) 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場(特設客席)上田公演:10月7日(土)・8日(日) サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール(特設客席)岡山公演:10月14日(土)・15日(日) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 小劇場山口公演:10月21日(土)・22日(日) 山口情報芸術センター スタジオA水戸公演:10月27日(金)・28日(土) 水戸芸術館 ACM劇場京都公演:11月4日(土)・5日(日) 京都芸術劇場 春秋座(特設客席)■木ノ下裕一×<ゲスト> ロバート キャンベル 特別トーク企画9月23日(土・祝) 東京芸術劇場 シアターイースト開場16:30 / 開演17:00【チケット料金】(入場整理番号付・税込)一般1,000円 / 『勧進帳』購入者限定割引500円※未就学児はご入場いただけません。※収録のため、客席にカメラが設置されます。※500円のチケットをご購入の方は、ご来場時に受付で、『勧進帳』公演チケット、もしくは半券をご提示ください。チケット情報はこちら:詳細はこちら:
2023年06月29日9月1日(金) から24日(日) に東京芸術劇場 シアターイーストで上演される木ノ下歌舞伎『勧進帳』の公演詳細と第1弾ビジュアルが公開された。木ノ下歌舞伎の代表作である『勧進帳』は、主宰・木ノ下裕一が監修・補綴、そして創作当時は企画員として木ノ下歌舞伎に在籍していた、KUNIO主宰の杉原邦生が演出・美術を担い、2010年に初演。その後、2016年にリクリエーション版を上演、ジャポニスム2018の一環として招聘されたパリ公演も好評を博した。5年ぶりの再演となる今回は「東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクションプログラム」として初の東京公演として上演。リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉といったキャストに加え、スウィングとしてオーディションで選ばれた佐藤俊彦、大知が出演する。また、東京芸術劇場が2009年から取り組む鑑賞サポートの特別版の実施や、公演前の特別対談映像配信、公演期間中の有料トークイベントなども予定されており、詳細は後日アナウンスされる。さらに、9月から11月にかけて沖縄・上田・岡山・山口・水戸・京都公演が行われる予定だ。■監修・補綴:木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)コメント撮影:東直子今までに増して、一枚のチケットが重くなっているようです。疫禍にも収束の光が見えつつあると言っても、依然として突然の中止があり得る世界において、作り手と観客が同じ時と場を共有する舞台芸術はまさに一期一会。お客さまもまた、時間的な余裕と、経済的な余裕を見極めながら、今見るべき一本の舞台を、慎重に選んでいるように見受けられます。一方、ますます格差が広がっていく社会の中で、誰もが気軽に娯楽や文化芸術を享受できなくなりつつあるのだとしたら、〝公共劇場〟の意義と責任はより重大です。そんな中、東京芸術劇場さんと一緒に『勧進帳』を上演いたします。公共劇場とカンパニーが協同することで、何ができるのか。少しでもクオリティの高い作品をお客様のお目にかける以外にも、まだまだやれることがあるのではないか。より作品をお楽しみいただくための講座、知的好奇心を刺激するための関連イベント、中高生へ向けた鑑賞会、障がい者への観劇サポートなど、ありったけの知恵を絞って、少しでも皆様の傍に〝寄り添える〟公演を目指します。思えば、『勧進帳』は、登場人物全員が、寄り添えないはず(立場上寄り添ってはいけないはずの)の他者に、それでも少しずつ寄り添おうとする物語でもありました。「この公演は自分のためにあった」と、お客様お一人ひとりに思っていただけるように、心を込めて臨みます。チケット一枚の重さを受け止めながら。■演出・美術:杉原邦生 コメント撮影:細野晋司2016年にリクリエーションした木ノ下歌舞伎版『勧進帳』を5年ぶりに上演できること、とても嬉しく思っています。と同時に、初演時よりさらに目まぐるしく移り変わるこの時代に、7年前の作品が未だ〈チカラ〉を持ち得ているのだろうかと、少しだけ不安を感じたりもしています。ですが、そもそも歌舞伎の『勧進帳』も、“能の『安宅(あたか)』を歌舞伎化する”というアイデアから創作され、初演から今日に至るまで形を変えながら練り上げられ、幾たびも上演されてきました。その事実こそが、古典芸能の〈チカラ〉を証明していると言えるかもしれません。ということは、“歌舞伎の『勧進帳』を現代劇化する”という野心的な試みによって生まれた僕たちの『勧進帳』も、こうして時代の変化とともに上演を重ねていくことで、日本の古典芸能、さらには、日本の舞台芸術の〈チカラ〉を証明することに繋がっていくはず―――そんな野望を胸に、ただただ良き上演を届けられるよう、粛々と準備を重ねています。皆さまのご来場お待ちしております。<公演情報>東京芸術祭2023 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』9月1日(金) ~24日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト監修・補綴:木ノ下裕一演出・美術:杉原邦生[KUNIO]出演:リー5世 坂口涼太郎 高山のえみ岡野康弘 亀島一徳 重岡漠 大柿友哉スウィング:佐藤俊彦 大知【配役表】武蔵坊弁慶:リー5世源九郎判官義経:高山のえみ富樫左衛門:坂口涼太郎常陸坊海尊/番卒オカノ:岡野康弘亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳片岡八郎/番卒シゲオカ:重岡漠駿河次郎/太刀持ちの大柿さん:大柿友哉【ツアー日程】沖縄公演:9月29日(金) ~10月1日(日) 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場(特設客席)上田公演:10月7日(土)・8日(日) サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール(特設客席)岡山公演:10月14日(土)・15日(日) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 小劇場山口公演:10月21日(土)・22日(日) 山口情報芸術センター スタジオA水戸公演:10月27日(金)・28日(土) 水戸芸術館 ACM劇場京都公演:11月4日(土)・5日(日) 京都芸術劇場 春秋座(特設客席)チケット情報はこちら:詳細はこちら:
2023年05月31日歌舞伎の演目を、主宰の木ノ下裕一さんの古典芸能や歴史に関する豊富な知識をもとに現代的に読み解いたうえで、現代演劇の演出家を迎えて上演している木ノ下歌舞伎。従来とは違うアプローチから古典を眺めることで、作品そのものの面白さや奥深さに気づくなど新しい発見が多く、近年注目を浴びている。歌舞伎でも屈指のアナーキーな物語が、現代の才能によって新たな進化を遂げる。今回手がける『桜姫東文章』は、暗闇で自分を襲った男に焦がれる桜姫の、運命に翻弄され転落していく人生を軸に展開する男女の愛憎渦巻くドラマ。成河さん、石橋静河さんを迎え、国内外で注目される岡田利規さんの脚本・演出によって上演される。石橋静河(以下、石橋):初めて木ノ下歌舞伎を観たのは’15年の『三人吉三』だったんですが、これまで観たことのないような舞台に「なんだこれは?」ってなって、すごく衝撃的でした。成河:僕は’13年の『黒塚』。当時から「ヤバい劇団がある」って話題だったんだけど、観に行ったら本当にヤバくて面白かった(笑)。いつか出させていただければと思っていたけど、まさかこんなことになるなんて思ってもなかったなと…。石橋:私たち、完コピ(木ノ下歌舞伎では通常の稽古前に、出演者が上演作品の歌舞伎の舞台を振りやセリフまで完全にコピーして演じる、完コピ稽古が行われる)の洗礼を受けましたからね…。成河:まさに洗礼だったよ。顔合わせで台本と歌舞伎の映像を渡されて、「2週間後に全編完コピの発表会をやります」…ですからね。木ノ下さんがニコニコおっしゃるから、最初は冗談かと思って信じてなかったよ。石橋:しかも、このセリフのときにこの手がちょっと動く、みたいな細かさでコピーするんですから。成河:発表会目前の石橋さんの追い込みは、すごいものがあった(笑)。石橋:やってわかったのは、歌舞伎役者さんたちのすごさ。レベルが違う。でも…めちゃくちゃ面白かったです。歌舞伎って大胆で大袈裟な芝居という印象だったけれど、木ノ下さんの解説をもとに細かく観ると、すべての動きが緻密に計算されているんだってことがわかって。成河:あと、音や音程ひとつにもちゃんと意味があることを教わって、あれは贅沢な時間だった。石橋:あれがないまま岡田さんの稽古が始まっていたら、歌舞伎作品だという実感が結局ないままだったと思うんです。歌舞伎が自分にインストールされて、全員で共有するものがあったうえでどう作っていくかを考えられるってすごく助かると思う。成河:要するに、アップデートするにはインストールが必要だって話。すごい原理主義なんだよね。ただ、普通はそこまでやれないよねって諦めるのに、木ノ下歌舞伎は本当にやっちゃうところが尊敬できる。それは石橋さんも同じで、こんな売れっ子さんで、ここまでやってくれる方、他にいないと思うし。岡田さんは岡田さんで、完コピ稽古を楽しそうにご覧になって、これを見たらあれをやりたくなった、これをやりたくなったと、毎日毎日新しい台本が出てくる。その純粋な好奇心と知性が、本当に素晴らしいなと。石橋:岡田さんって、事前に最低限のものだけ用意して、じゃあどうしようかって俳優に問いかけながら作っていく方で、去年ご一緒したときにすごく勉強になったんです。成河:俳優をすごく信頼してくださっているなと感じる。あと、歌舞伎の骨格は一切いじらないとおっしゃっていて、その徹底ぶりがちょっと常軌を逸してる(笑)。そのうえで、骨格にかぶせる素材はすべて変えるという…岡田さんもやっぱり原理主義なんだよね。でもそれは言い換えれば、ものづくりにとても誠実な二人ということでもあって、そういう方々と一緒にやれるのは幸せだよね。石橋:お二人とも作品を絶対に私物化しない方たちですしね。成河:すごいことだと思うよ。その二人が『桜姫東文章』をやるっていうのも…。鶴屋南北のわりと初期の作品で、設定とか筆が荒いぶんエネルギーがあって、情念みたいなものをひしひしと感じるホンだから。石橋:いろんな話が入り組んだカオスな物語だし、桜姫は演じたことのない役柄だし。最初は少年で、生まれ変わって姫になって、そこから遊女になって、最後に夫と子供を殺すって、女性の業が詰め込まれている気がして。でもめちゃくちゃ面白い。成河:しかも今回、歌舞伎では200年以上上演されなかった幕を復活するんですよね。非常に批評性の高いシーンだし、そこもぜひ楽しみに来ていただきたいなと思います。石橋:私、コロナ禍になってから、現実がフィクションすぎて物語が見られなくなっていたんですよ。そういう状況の中でホッとするのは、歌とか踊りとか、人間の生き物としてあるべき姿を原始的な形で見せてくれるものなんですけど、今回の作品は、そういう人間の原始的な部分に繋がっている気がしていて。物語を“観る”というより“体験する”気持ちで楽しめる気がします。成河:そうね。演劇だと構えずに、体験しに来たら絶対面白いから。木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』ひょんなことから僧侶の清玄(成河)は、かつての恋人・白菊丸(石橋)の生まれ変わりが桜姫(石橋2役)だと知り、彼女への想いを募らせる。一方、桜姫は、暗闇の中で自分を襲った盗賊・権助(成河2役)を忘れられず…。2月2日(木)~12日(日)池袋・あうるすぽっと作/鶴屋南北監修・補綴/木ノ下裕一脚本・演出/岡田利規出演/成河、石橋静河、武谷公雄、足立智充、谷山知宏、森田真和、板橋優里、安部萌、石倉来輝一般7000円ほか木ノ下歌舞伎 TEL:050・6873・6681豊橋、京都、新潟、久留米公演あり。ソンハ1981年生まれ、東京都出身。野田秀樹、サイモン・マクバーニー、小川絵梨子などさまざまな演出家の舞台で活躍。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には義円役で出演した。シャツ¥33,000パンツ 参考商品(共にPHABLIC×KAZUIinfo@phablickazui.jp)その他はスタイリスト私物いしばし・しずか1994年生まれ、東京都出身。2015年に俳優デビュー。近作では大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などで注目を集める。現在、出演ドラマ『探偵ロマンス』放送中。ニット¥28,600シャツ¥37,400パンツ¥39,600(以上ニアー ニッポン/ニアー TEL:0422・72・2279)ピアス¥57,500ネックレス 価格未定(共にカレワラ)スニーカー¥25,300(スプリングコート TEL:03・6868・5224)※『anan』2023年2月1日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・藤谷香子(成河さん) ヤマモトヒロコ(石橋さん)ヘア&メイク・山口恵理子取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年01月29日今年1月に開館5周年を迎えたロームシアター京都(京都市左京区)が2021年度の自主事業ラインアップを発表した。2021年度のテーマは「声」。《自分たちの「声」(=活動)を取りもどすこと》と《声なき声に耳を傾けること》というふたつの意味を持たせているという。同劇場のプログラムディレクター小倉由佳子氏は「新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によって、舞台芸術は活動停止・縮小を余儀なくされた。舞台芸術の醍醐味と言える、集うこと、殊に声を出すことが制限された」とコロナ禍における現状の厳しさを述べた上で、「ロームシアター京都では、状況に応じた上演・創作環境のなかでも、自分たちの表現を追い求め、場をつくり出し、観客との関係をあきらめないアーティストたちとの協働によって、プログラムを展開していく」などと語った。自主事業ラインナップは、「作品創造」「京響プログラム」「伝統芸能の継承」など、6つのカテゴリーに分けて紹介された。ラインナップは以下の通り。1.作品創造・Sound Around 001。7月17、18日。ジャンルや固定観念にとらわれない「音楽」を軸とした表現活動を行うアーティストによるパフォーマンスを紹介する新シリーズ。出演は「いまいけぷろじぇくと」ほか。市原佐都子「妖精の問題」Photo:Kai Maetani・レパートリーの創造 市原佐都子/Q「妖精の問題」リクリエーション。2022年1月下旬。作・演出は市原佐都子。・レパートリーの創造 関連プログラム「シーサイドタウン」を振り返る。6月上旬。登壇者は松田正隆、村川拓也ほか。・レパートリーの創造 ダムタイプ創設メンバー・髙谷史郎の新作準備のためのトークシリーズ。4月9日ほか全4回。トーク出演は高谷史郎、東岳志ほか。・小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅧ ROHM CLASSIC SPECIAL。3月18日、20日。音楽監督は小澤征爾、管弦楽は小澤征爾音楽塾オーケストラほか。ダミアン・ジャレ×名和晃平クリエーション(c)Yoshikazu Inoue・ダミアン・ジャレ×名和晃平 「PLANET[wanderer]」クリエーション。京都発の彫刻家と、世界で脚光を浴びる振付家によるコラボレーション第2弾。7月上旬〜中旬、本番2022年4月下旬。振付はダミアン・ジャレ、舞台美術は名和晃平。・ロームシアター京都レパートリー作品ジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ「ショールームダミーズ #4」パリ公演。11月10日〜13日。演出・振付・舞台美術はジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ。・アンディ・マンリークリエーション。イギリス国内外で公演を行うアンディ・マンリーによる子ども向け新作。11月中旬〜12月初旬。アンディ・マンリー2.京響プログラム・京都市交響楽団×藤野可織 オーケストラストーリーコンサート「ねむらないひめたち」6月20日。・広上淳一×京響コーラス「フォーレ:レクイエム」。8月9日。・京都市交響楽団コンサート 京都市交響楽団×石丸幹二音楽と詩(ことば) メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」。9月5日。・京都市交響楽団コンサート 京響クロスオーバー オーケストラ・プレミアム 作曲家・編曲家プロジェクト「大島こうすけ×西川貴教×京都市交響楽団」。10月10日。3.伝統芸能の継承・市民寄席。5月25日ほか。・能の世界へおこしやす〜京都薪能鑑賞のための公開講座〜。6月1、2日。・第71回京都薪能ー地・水・火・風・空ー。6月1、2日。・能楽チャリティ公演〜祈りよとどけ、京都より〜。8月25日。・《継承と創造》1 「宮古・八重山・琉球の芸能」(仮)。2022年2月11、12日。・伝統芸能入門講座。2021年秋開講予定。案内人:木ノ下裕一。京都薪能4.ロームシアター京都セレクション・ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”。参加アーティスト:(1)福井裕孝 (2)敷地理。(1)7月2〜4日(予定)(2)2022年2月(調整中)。・[フェスティバル]KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2021 AUTUMN。10月1〜24日。・ぐうたららばい vol.2「海底歩行者」。10月30、31日。作・演出・音楽は糸井幸之介。・太陽劇団「金夢島 L’ÎLE D’OR」(仮題)。11月6、7日。演出はアリアーヌ・ムヌーシュキン。・ピチェ・クランチェン・ダンスカンパニー「No.60」。12月3、4日。5.ラーニング・劇場の学校プロジェクト。7〜8月、12月。・新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室2021「ドン・パスクワーレ」。10月26、27日。・小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅧ 子どものためのオペラ ローム クラシック スペシャル。2022年3月。・リサーチプログラム。通年(2022年3月に最終報告会を予定)。・ロームシアター京都×京都市ユースサービス協会連携事業 未来のわたし - 劇場の仕事 - 。通年。6.コミュニティ・プレイ!シアターin Summer 2021 ステージプログラム『快傑ゾロ』アルファ人形劇場 from チェコ共和国。8月8日。・プレイ!シアターin Summer 2021 ロームシアター京都×京都市文化会館5館連携事業「シアターデビュー!」促進プログラム。日程未定。・プレイ!シアターin Summer 2021 オープンデイ。8月14、15日。・プレイ!シアターin Summer 2021 京都市交響楽団0歳からの夏休みコンサート 京都市動物園コラボレーションスペシャル。8月14 日。・ホリデー・パフォーマンス。6月27日、12月(予定)。・OKAZAKI PARK STAGE 2021。10月1日。・地域の課題を考えるプラットフォーム「仕事と働くことを考える」。7月〜2022年1月(計4回開催)。・機関誌「ASSEMBLY(アセンブリー)」。発行メディア・発行時期検討中。・「いま」を考えるトークシリーズ。年4回開催。・アセンブリープログラム。ロームシアター京都 プログラムディレクター 小倉由佳子取材・文:五月女菜穂
2021年03月19日さまざまな視点から歌舞伎の演目を捉え直し、新たな演出でいまを生きる人々に届ける木ノ下歌舞伎。そのレパートリーのひとつ、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』がこのたび上演される。2012年に初演、2016年に再演され高い評判を得た演目が5年の歳月を経て蘇る。「義経千本桜」といえば、18世紀に人形浄瑠璃をもとに誕生して以来、人気の歌舞伎の演目。源氏と平氏の戦いが終わり、兄・頼朝に追われて都落ちした義経と、実は生き延びていた平家の残党を描いている。全五段あるなかの二段目にあたる「渡海屋・大物浦」は、源平合戦で海に身を投げて自害したはずの平知盛が船宿の主人に姿を変えて源氏への復讐を狙う物語。一度は敗け、全てを失った者の悲哀と、その復讐劇がダイナミックに描かれる話だ。今作の演出を担当するのは、東京デスロックの多田淳之介。古今東西のさまざまな名作を手がけてきた彼は、常に現代を感じさせる要素を巧みに取り入れ、一見遠いものに思ってしまいがちな古典を、今の私たちが触れられる場所に差し出す。義経も知盛も、時にジャージやスニーカーなどの現代の服装で登場し、若者言葉でしゃべったりもする。観る者は今を生きる人々と同じ感覚で登場人物のやりとりを受け取る。その中にさし挟まれる古典らしい着物姿、歌舞伎ならではの節回しが際立ち、描かれたテーマの大きさをいつの間にか肌で感じることとなる。歌舞伎を新しい形で伝えるという難しい演技に挑むのは、2016年の上演時と同じメンバーの佐藤誠、大川潤子、立蔵葉子、夏目慎也、武谷公雄、佐山和泉、山本雅幸、大石将弘、さらに今回初参加となる三島景太(SPAC)という、いずれ劣らぬいずれ劣らぬ小劇場界の手練れたちが揃っている。主宰の木ノ下は、再演にあたっても毎回新たに作品にあたり、補綴を繰り返す。そもそも、「渡海屋・大物浦」はシンプルな1対1の復讐ではなく、源氏が勝って平氏が敗けるという大きな歴史をやり直そうという企みであり、知盛は平家全体を背負って義経へと襲いかかる。 コロナという未曾有の敵に遭遇し、2020年という年を喪ったままのような私たちは、いま知盛の「やり直し」を観てどう感じるだろうか。文:釣木文恵木ノ下歌舞伎『義経千本桜-渡海屋・大物浦-』作:竹田出雲 / 三好松洛 / 並木千柳監修・補綴:木ノ下裕一演出:多田淳之介出演:佐藤誠 / 大川潤子 / 立蔵葉子夏目慎也 / 武谷公雄 / 佐山和泉 / 山本雅幸三島景太 / 大石将弘【東京公演】2021年2月26日(金)~2021年3月8日(月)会場:シアタートラム【愛知公演】2021年3月13日(土)・14日(日)
2021年02月25日ロームシアター京都「レパートリーの創造」シリーズ第二弾作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が10月に東京・あうるすぽっと、11月に京都・ロームシアター京都にて上演される。250年前から文楽や歌舞伎として愛されてきた今作は、大名家のお家騒動に翻弄される継母・玉手御前と義理の息子・俊徳丸の関係性を描く物語だ。昨年の初演に引き続き玉手御前を演じる内田慈、今回俊徳丸役に初挑戦となる土屋神葉に話を聞いた。木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一が監修・補綴・上演台本を、FUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介が上演台本・演出・音楽を務める今作。内田、土屋とも、糸井の演出作品には度々参加している。土屋糸井作品の魅力はなんといっても歌。歌詞も素敵ですし、ふつうの曲には出てこないような音の運びや不思議なハモりがある。それがクセになるんですよね。内田私も糸井さんの魅力といえば最初に出てくるのは音楽で。作品が終わってもふと口ずさみたくなるような曲なんです。それから、糸井さんってジェントルマンなのにロッカーのようで、丁寧なのにバン! と振り切れられる人。その真逆の要素が作品に入っているんですよ。初演では、激しい情念を抱え、シーンごとに思いがけない振る舞いをする玉手御前という役の「パーツがつながらず困った」と語る内田。内田一度演じた今では、全てが必然に感じます。全て先を読んでいたわけではなくて、不器用だったかもしれない点も含めて。正しいかわからなくても、やるしかないと必死に行動していた人。木ノ下先生の「玉手御前の行動は彼女なりの世界平和のためだと思ってみたら?」とのアドバイスから、彼女が“自分の周りの世界を平和にしたい”と思っての行動だったと捉えることができ、スッと自分の中に入ってきました。一方の土屋は、俊徳丸という役について、「白紙です」と笑う。土屋歌舞伎でこの作品を観た印象だと、線が細くて中性的なイメージです。でも今回はどんな雰囲気にするかも含め、(稽古場で)共演者の皆さんとお会いして、まわりのお芝居を観て、その上で自分の役割を探していけたら……。すべては稽古で決まると思います。木ノ下歌舞伎では、作品の稽古に入る前にまずその演目の歌舞伎を「完コピ」することが知られている。内田お父さん役の武谷(公雄)さん、お母さん役の西田(夏奈子)さんは稽古開始1カ月前に「完コピ稽古始めた?」と連絡を取り合ったらしいですよ。(完コピ稽古初挑戦となる土屋へのアドバイスを尋ねると)土屋さんはお若いし、記憶力もいいでしょうから大丈夫!昨年の初演時とは社会状況が大きく変わった。最後にふたりに、2020年のいま「摂州合邦辻」という作品を上演することについて語ってもらった。内田コロナによって死生観が変わり、死が以前よりも身近になる中で、「摂州合邦辻」はまさにどう生きてどう死ぬかがテーマの作品です。現代を生きる人間が、数百年前の死生観を背負って演技をする。それを生で観るという形でしか伝わらないものがあると考えています。私にとってもこの機会は必要で、この作品に携われることがどんなに嬉しいか、と今感じています。土屋戯曲って普遍的な側面があって、特に今回は数百年前に作られたものを今上演するわけですが、いつ上演されてもその時々に人は意味を見出すんじゃないか、と思います。今はコロナという特殊な状況ですけど、だからこそ共感を得やすいかもしれない。ある意味でこの作品を理解するとっかかり、共通項を皆さんが持っている状態なんじゃないかって。だからこそ、いろんな方に観ていただきたいと思います。ロームシアター京都 「レパートリーの創造」シリーズ第二弾作品木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』10月22日(木)~26日(月)東京・あうるすぽっとにて11月2日(月)・3日(火)京都・ロームシアター京都 サウスホールにて東京・京都公演ともに本日9月20日(日)10:00よりチケット発売取材・文:釣木文恵撮影:佐藤友理
2020年09月20日主宰の木ノ下が作品の補綴・監修を行い、毎回さまざまな演出家を迎えて現代における古典演目の上演を行っている木ノ下歌舞伎。FUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介を演出に迎えたロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が、2019年の初演に引き続いて早くも再演を果たす。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より「この作品をやるというと周りから『大変ですねえ』とねぎらわれる。それくらい難しいこの演目から、糸井さんは家族の物語を取り出してくださった。それが初演の最大の収穫でした」と振り返った木ノ下。「再演では今作の神話性を顕在化させ、人間の範疇を超えた”おおきなもの"を出現させられたら」と上演への思いを語った。その方向性のもと再補綴では細かな変更も含めて、全シーンに手を入れ直したという。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より初演では古典と現代を橋渡しするようなオリジナル曲を何曲も生み出した演出の糸井。「初演では原作への遠慮があった。まだちょっとカッコつけていたところがあったので、今回はもっとケンカしたり、だらしないところを見せ合ったりして(作品そのものと)打ち解けられたら。たくましい大人の第一歩という感じで作品づくりができればと思います」と語った。再演では新曲が1曲加わるという。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より玉手御前を演じるのは内田慈。初演では圧巻の演技で物語を引っ張った彼女だが、「玉手御前という人はいろんな面を持っていて難しい。自分の中でどこに柱を持てばいいか不安でした。木ノ下先生に『大仰かもしれないけれど、すべて玉手御前なりに世界平和を願った末の行動なのじゃないか』と言っていただいてスッと(肚に)落ちました」と話す。「今初めて『今回は神話性を強くする』と聞いて、『ん?』と。新作に挑むように取り組もうと思います」と笑った。ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』合同記者会見より今回初めて俊徳丸を演じることになる土屋神葉は、糸井作品に複数出演している。なかでもシェイクスピアの『Love’s Labour’s Lost』(恋の骨折り損)で舞台の面白さを知ったといい、「運命を感じています」と語った。しかし脚本を読んで「衝撃を受けました。思考が停止して、僕の解釈であってるのかな? ってネットで調べたりしました。作品自体が攻めてる。すごいな、古典! と思いました」と素直な感想をもらした。「この作品はきっと自分の血肉になると思う。稽古を通して自分の軸を探していけたら」と強い意気込みをみせる。「コロナの期間を経て、我々の死生観が変化したと思います」と木ノ下。「人の生き死にを扱った今作を現代人の胸を打つ作品にできれば、いま上演すべき『合邦辻』になるのでは」と結んだ。木ノ下歌舞伎の『糸井版 摂州合邦辻』は10月に東京・あうるすぽっと、11月に京都・ロームシアター京都にて上演される。取材・文:釣木文恵
2020年09月14日木ノ下歌舞伎の『三人吉三』が5~6月に上演される。出演者の大鶴佐助に話を聞いた。【チケット情報はこちら】今回の出演を「ワクワクします」と喜ぶ大鶴。歌舞伎や文楽など日本の古典演目を現代演劇として上演し、役者にもファンの多い木ノ下歌舞伎。その中でも『三人吉三』は代表作で、演目自体の初演(江戸時代)から約150年ぶりという「地獄の場」を含む三幕・5時間に及ぶ完全通し上演も話題を呼んだ作品だ。演じる側になると大変なことも多そうだが、「上演時間が5時間以上になる作品は初めてです。でもそんな作品ってやりたくてもやれないことのほうが多い。それを自分がやってどういう心境になるのかも楽しみですし、歌舞伎もやってみたかったので」と語る。歌舞伎をやりたかったのは、唐十郎の息子である大鶴のルーツと重なる理由。「僕はテント(芝居)をやっているのですが、テントって現代歌舞伎みたいな感じだと思っているんです。今は伝統芸能になってますけど、きっと江戸時代とかはこういう感じだったんじゃないかなって。だからやりたかった。あとは純粋に、どうなるかがわからないからやってみたかったというのもありますけどね」今回「まず楽しみ」と言うのが、木ノ下歌舞伎の特徴“完コピ稽古”。演目をより深く理解・研究するために、まずは実際に上演された歌舞伎の所作や台詞回しを出演者が“完コピ”し、そこからどう現代的に解釈し演じるかクリエイションしていくという稽古スタイルだ。「役をやるうえで“真似る”って普段は遠ざける気持ちがありますが、逆に完コピして、その型を破っていく。そこでどんなものが芽吹くのか…面白そうです」作品については「今まで三人の吉三郎の話だと思っていたのですが、木ノ下歌舞伎では群集劇だと感じました。すべての因果が絡み合い、因果応報ってこういうことか、というラストに繋がっていく…残酷だけど面白い」。その中で大鶴が演じるのは三人の一人・お坊吉三。「彼は身を持ち崩しているけど、ところどころで自分に甘いところがある(笑)。坊ちゃんだからなって、かわいらしく思います。ただ僕も少し坊ちゃんなところがあるので(笑)、そこがどうリンクしてくるかは稽古場で、ですね」。これまで蜷川幸雄や福原充則、木野花ら幅広い演出家の作品に出演し、3~4月には新生PARCO劇場オープニング作品第一弾 舞台『ピサロ』への出演も控えるなど、変幻自在の魅力を持つ大鶴。今作でどんな姿を見せるのか楽しみにしたい。今回、木ノ下裕一が再補綴に取り組み、演出は初演から引き続き杉原邦生が手掛ける『三人吉三』は、5月30日(土)から6月7日(日)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウス、6月に長野・まつもと市民芸術館にて上演。取材・文:中川實穂
2020年02月18日ダンサー、振付家として幅広く活躍する北尾亘。ソロワークはもちろん、近年では小劇場の注目カンパニーの振付を手掛けることも多い彼が主宰するダンスカンパニー、Baobabの最新公演『ジャングル・コンクリート・ジャングル』が12月5日(木)よりKAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオでスタートする。北尾に話を聞いた。実は今作の構想は、KAAT公演が決まった頃……2年近く前から温めていたものだという。「劇場によって、その時に作るもののイメージが変わっていくスタイルなんです。ダンスというもの自体が抽象的ですし、僕らの公演はステージ上に建て込みをするタイプでもない。劇場の中に流れる空気や、特性を想像しながら作品コンセプトを考えていくんですよ。KAATでの公演は初めてですが、僕自身が神奈川県出身ということもあり、馴染みを感じている場所で。海も近いし、少し自然に近づいていくような感覚がある場所なんですよね。ここだったらBaobabの真骨頂的なものと言いますか、大地のイメージ、あるいは土着的な身体……そういったものを遺憾なくやらせてもらえる空気があるのでは、と」近年のBaobabの作品は、社会的なテーマをはっきりと表したものが多かった。今作は旗揚げ当初の作品への“原点回帰”的なところも意識しつつ、タイトルが象徴するように自然と文明や環境問題、生命と自然の関わりなど、彼が今感じている社会問題は表現として盛り込まれていくという。劇場という空間でどうやってそれらを表現するか?彼が今考えているアプローチは、なんともユニーク。「今回は対面の客席に加え“方角”を大切にしてます。例えば、風水に則って動線を決めてみたり、東西南北で振りを分けてみたり。ずっとバレエで言う“8つの方向”(注・バレエにおける基本的な身体の向きのこと)ではない、別のものがないかと探してたんですよね。これ、ちょっと発見なのでは!?と思ってます(笑)」公演チラシには「いのちが、おどりたがっている。」という言葉が大きく打ち出されているが、今作の内容に関しては、近年彼が関わってきた演劇界の才能たちが大きく影響しているという。「“生命讃歌”と大きく言ってみたんですけれども、自分の作品性がそういう方向に向かっていくとはあまりイメージしていなかったんですよ。おそらくこれは、木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんや杉原邦生さん、ロロの三浦直之さんや範宙遊泳の山本卓卓さん……彼らからの影響がかなりあると思います。特に昨年、まつもと市民芸術館で上演した木ノ下歌舞伎の『三番叟』、あれは大きかったですね。舞踊は祝祭であり、そして祈りでもある。もしかしたら、生贄的なものもあるのかもしれない。そういうことにもっとピュアに向かって行ってもいいのでは、そう思える勇気をもらえたんです」それぞれの現場で得た刺激を自分の中に蓄積し、変換して、ホームグラウンドであるBaobabで表現する。北尾が今考えていることを具現化するため、出演するダンサーはカンパニー史上最多の21人。北尾いわく「それぞれの身体の特性やシルエットにもこだわった」というダンサーは、体格はもちろん、プロフィールもバラバラ。特に年齢は上は40代、下はなんと小学校5年生(!)と、バラエティーに富んだメンバーが揃った。ここにもまた、北尾が抱える“ダンス”というものへの思いが込められている。「舞台作品としてのダンスというものが、お客さんとどう関わりを持てるのか。これが僕の中ではずっとテーマだったんです。これは多分演劇を経験しているのも強いんですけれども、どうしても非日常である“踊る”という行為は、舞台上と客席に境界線が生まれる感覚……美術作品をガラス越しに眺めるような、そういう関係性に近くなってしまう。でも僕はそれを、もう少しつなげて行きたいんですよ。旗揚げ当初からセリフを使ったりしていたのは、それもあると思います。コンテンポラリーダンスにも色々なスタイルがありますけど、僕たちの踊ってる肉体はもしかしたら観客の人に“自分と少し近いのでは?”と感じてもらえる可能性があるんじゃないか、と。そう感じてほしいからこその今回のキャストですし、ダンスをもっとポピュラーにしていく、そのための大事な一歩かなと思うんですよね」出演者たちとは、今年の6月頃からワークショップを重ねてきたという。「劇場から遠く離れた地で起きているかもしれない、人間でもない生き物の営み。そういうことまで僕たちは手を伸ばしたい」と語る北尾。舞台上に立ち上るのはきっと、そういったものまで濃密に感じられるような“いのち”の躍動だ。さまざまな刺激を得て、進化し続ける北尾亘の、Baobabの現在を目撃しようではないか。Baobab『ジャングル・コンクリート・ジャングル』は12月8日(日)まで。取材・文:川口有紀
2019年12月03日1994年に、十八世中村勘三郎と串田和美のタッグで開始した渋谷・コクーン歌舞伎。その第十六弾『切られの与三』が5月に上演される。公演に先立って製作発表記者会見が行われ、演出の串田、補綴の木ノ下裕一、出演の中村七之助、中村梅枝が登壇した。【チケット情報はこちら】この『切られの与三』は、三代目瀬川如皐が書いた歌舞伎『与話情浮名横櫛』を再構成するもの。主人公は、小間物問屋の若旦那・与三郎と芸者・お富。木更津の浜で恋に落ちたふたりだが、お富が土地の親分・赤間源左衛門の囲われ者であったことから、与三郎は源左衛門とその手下に身体中を切りつけられてしまう。変わり果てた姿の与三郎がお富と再会する「源氏店」の場面は、「しがねえ恋の情けが仇」の名台詞と共に有名で、今もしばしば上演されている。中学生か高校生の頃、十一世市川團十郎が演じる与三郎を観たという串田は「与三郎が傷を受けながら生き抜いていくさまに、ずっと興味を持っていました。(コクーン歌舞伎で上演した)『三人吉三』にしろ『東海道四谷怪談』にしろ『夏祭浪花鑑』にしろ、原作を読むと、朝から晩まで芝居を上演していた江戸時代から現代に至るまでに落としてしまった面白いものもある。遠い昔の関係ない話ではなく私達の話として上演したい」と語る。また、現在、補綴の作業中である木ノ下は「“傷”がひとつのテーマになるのではないかと思います。傷は何かの痕跡であり、そこには記憶も眠っている。原作は10年ほどの歳月を描くお芝居で、与三郎の周りの環境も彼の立場も社会も変わっていきます。社会全体の傷を与三郎が負っているような読み方のホンにできれば。その上で、串田監督のイメージが様々に重なって今に繋がっていくと思います」と言う。そして今回、与三郎を演じるのが七之助だ。「父が残してくれた宝物のひとつであるコクーン歌舞伎をやらえてもらって嬉しく思います。コクーン歌舞伎立ち上げ当初の、父や串田監督や(中村)芝翫の叔父が稽古場で作り上げた熱量は今も変わりません。それはどんな人にも平等で誰の意見も聞く串田監督が作り上げてくれた空気です。今回は不慣れな立役ですので手探りで、私なりに良いものにしたい」と意気込んだ。与三郎の相手役・お富を演じるのは、梅枝。「お富は、古典では1度させていただいていますが、古典は形から入る部分がありますので、この機会にお富の精神・内面を、イチから作り上げていければと思います。七之助の兄さんは年が近い女方の先輩。尊敬し、嫉妬しています。相手役を勤めることで、教えをいただき、それから兄さんにない良い所も多分あると思うので、そこが上手くはまっていけば」と抱負を述べた。「渋谷・コクーン歌舞伎 第十六弾 切られの与三」は、5月9日(水)から31日(木)まで、東京・シアターコクーンにて。チケットは発売中。取材・文:高橋彩子
2018年05月02日KAAT神奈川芸術劇場の2018年度のラインアップ発表会が行われた。ラインアップには20作以上の作品が並ぶ。チケット情報最初にKAAT芸術監督の白井晃は「“普通“を見直すのが舞台の先鋭性。アーティストが社会をどう見ているのか、話し合いながらラインアップを決めました」。その白井が演出するエンダ・ウォルシュの『バリーターク』については「何もわからないまま日常が繰り返されるうち、彼らがいる場所がわかってくる。『ゴドーを待ちながら』の現代版のような内容」と言う。KAATと松井周の個人ユニットであるサンプルとの共同制作『グッド・デス・バイブレーション考』は、深沢七郎の小説「楢山節考」にインスパイアされた作品。松井は「近未来で姥捨山と言えば安楽死ではないか。琵琶法師のような感覚で、語りが歌になったり物語の中に歌が出るような話にできれば」と語る。KAAT×地点『山山』は、『忘れる日本人』に続いて松原俊太郎が書き下ろす作品。松原は「山をふたつにすると可愛いし、『~~したいのはやまやまですが』などの表現は“使える”。ふたつの山をモニュメントとして提示したい」。白井いわく「福島を連想させる世界」で、提携公演『忘れる日本人』との連続公演だ。森山開次『不思議の国のアリス』は、昨年の舞台の再演で、今回は全国ツアーに赴く。森山は「出演者6名は第一線の強者ばかり。その全力で真剣勝負のパフォーマンスを、全国の子供たち、そして大人たちに発表できることを嬉しく思う」とした。長塚圭史の上演台本で白井が演出するのが『華氏451度』。白井は「映像文化が中心になっていくことを予見し、本が焼かれるさまを書いたこの作品を今回、さらに拡大解釈していきます」と述べた。一方、長塚が演出するのは『セールスマンの死』だ。「大変優れた戯曲で、時間の流れも特殊。家族の話であり老いの話であり夢の話です。この戯曲がこの時代にどう響くか、向き合いたい」と意欲を見せる。ソフォクレス『オイディプス王』の演出に挑むのは杉原邦生。「青年の王が堕ちるさまを描きたい。オイディプスは最後に目を潰すが、お客さんも観終わったあとに目を潰したくなるような、そしてその先に希望や光が見える作品にしたい」と意気込んだ。糸井幸之介の上演台本・演出・音楽で上演されるのは、木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻(仮)』。主宰で補綴・監修の木ノ下裕一は「糸井さんが作る“妙~ジカル”は日本の歌物語や義太夫に近い。『合邦』は、日本が古くから歌い継いできた、日本芸能の中でも重要な演目。その現代性を糸井さんとのタッグで新たに創作したい」と語った。全演目は以下の通り。取材・文:高橋彩子
2018年02月16日大阪生まれで同志社大学文学部に在学中、9月に20歳になったばかりの観世流能楽師・大槻裕一。文字を書くより先に謡(うたい)を謡っていて、初舞台は2歳。中学3年生の時にシテ方観世流能楽師で人間国宝の大槻文蔵の芸養子となり、グングン成長して、今や若手の注目株だ。師父・文蔵と「大槻文蔵裕一の会」を主催し、2014年には移動式能舞台を大阪城の本丸に設置、天守閣をバックに薪能も企画した。15年に続き、今年も10月7日(土)~9日(月・祝)に二十六世観世宗家の当代・観世清和や狂言師・野村萬斎らを迎えて開催。能の未来を切り拓き、広く一般に親しんでもらえるよう果敢に挑戦する若き能楽師が、大槻能楽堂でまた新たなイベントをスタートさせる。それが『能×アート奇跡のセッションシリーズVOL.1BORDERLESS』。第1回目のゲストには、元宝塚歌劇団宙組初代トップスター・姿月あさとを迎える。ふたりの思いを聞いた。「BORDERLESS」チケット情報「2歳からずっと能だけをやってきて、ほかの分野の方や自分とは違う一芸を極めている方とセッションしてみたいと思っていたんです。能楽堂のステキな空間を生かしながら、芸の世界で生きる辛いことや楽しいことのお話ができればと。お客様にも知っていただき、またこの企画によって、自分が新たに能を再確認することの意味も大きいと思っています」と裕一。彼は、母親がファンだった姿月の宝塚現役時代のDVD『ミーアンドマイガール』を見て「その時のかっこ良かった姿月さんの姿が忘れられなくて。ダメもとでオファーしました。1回目から大きな挑戦です」。その姿月は今年、宝塚で初舞台を踏んでから30周年。様々なコンサートやイベントを自らプロデュースし、開催している。「その一環としても、こういう形のイベントが出来るのはうれしいですね。これまで、お三味線の方とのコラボはありますけれど、お能や狂言、歌舞伎の方たちといった古典芸能の方とは初めて。退団してから17年。誰と出会うか、どんな仕事と出会うかは運だと思うので、すごく楽しみです」。今回、姿月はソロで歌も歌い、裕一は能のダイジェスト版ともいえる舞囃子を舞う予定。さらにふたりのセッションやトークショーも企画されている。「日本人として、知らないことがいっぱいある」という姿月は、お能はまったくの初心者だ。「自分も含めて、これまでお能を知らなかった方に知っていただくきっかけになれば」。裕一は「“極める”という思いを持って進んでいる人は、全然違う分野でも一緒、きっと繋がる部分があると思います。今後も続けていきたいですね」。能楽堂から発信する、若き能楽師の挑戦を応援したい。公演は、11月26日(日)大阪・大槻能楽堂にて開催。チケットは発売中。取材・文:高橋晴代
2017年11月08日特別展「世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画」が広島市現代美術館で開催される。会期は、2016年10月28日(金)から2017年1月22日(日)まで。立石大河亞のコマ割り絵画を含む油彩、60年代から80年代に制作した漫画原画、そして、横山裕一が初期に手がけた絵画、新作漫画『アイスランド』、本展のために描き下ろした漫画原画を紹介する「世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画」。我々の世界を参照しながらも、現実を引きずることなく、もうひとつの世界を大胆に提示する。不条理に満ちた、妙な世界の住人が繰り広げる意味不明な会話、 ナンセンスな行為など、一見“なんでもあり”の状況がもたらすユーモア。現実と距離のある世界観に触れることで、自分たちが今いる世界を見つめ直す良い機会をあたえてくれる。立石大河亞立石大河亞(タイガー立石/立石紘一)は、1963年、第15回読売アンデパンダン展に出品し、美術家としてのキャリアをスタートさせた。65年からは漫画を描き始め、ほどなく新聞や雑誌に連載をもつまでになり、漫画家としての地位を確立する。ミラノへと拠点を移した69年には、漫画の手法である「コマ割り」を絵画にもちこみ、ストーリー性や時間的要素を取り入れた絵画を手がけた。横山裕一横山裕一は、漫画家、イラストレーターとして活躍。ベニヤ板にペンキで風景や人物を描きながら、自身の絵画のスタイルを模索する日々の中、イラストの仕事を通じて、2004年に『ニュー土木』で単行本デビューを果たす。「ネオ漫画」 と称される横山の漫画に明確なストーリー展開はなく、複数の登場人物による非友好的かつ目的不明な行為、謎の物体が移動、変形する様子を描写することにより、純粋な時間の流れが表される。【概要】世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画会期:2016年10月28日(金)〜2017年1月22日(日)会場:広島市現代美術館住所:広島県広島市南区比治山公園1-1開館時間:10:00〜17:00 ※入場は閉館30分前まで。休館日:月曜日(ただし1月2日、1月9日は開館)、年末年始(12月27日〜1月1日)、1月4日(水)、1月10日(火)観覧料:一般 1,030(820)円、大学生 720(620)円、高校生・65 歳以上 510(410)円※中学生以下無料※11月3日全館無料※ ( )内は前売り及び30人以上の団体料金
2016年10月03日東京都・恵比寿のNADiff Galleryと清澄白河のARATANIURANOにて、漫画家/アーティストとして国内外から高い評価を集める横山裕一の個展「ファッションと密室」が開催されている。開催期間はNADiff Galleryが7月3日まで(12:00~20:00、月休)、ARATANIURANOは7月4日まで(11:00~19:00、日祝月休)。いずれも入場は無料。同展は、横山裕一の最新作品集「ファッションと密室」の出版を記念して開催されている個展。国内外での大規模な個展や展覧会への参加が続いた2014年に制作された作品を中心に、ミニマムな存在描写の強靭さ、大胆に配される迫力のオノマトペ、そしてコマごとに綿密に描き出される時の流れなど、独自の表現手法で知られる横山裕一の"ネオ漫画"の世界が2つの会場で展開されている。また、渋谷のNADiff modern(Bunkamura内)では、横山の推薦本を集めたブックフェア「横山の本棚」を開催しており(7月3日まで)、小説や詩集、写真集など、作家のアイデアの源泉や思考に触れることができる。なお、ふたつの展覧会場と選書フェア会場でスタンプラリーを実施しており、3つすべて集めた人には、プレゼントが用意されている。
2015年06月30日伊勢丹新宿店のエルメス(HERMES)ブティックリニューアルに際し、作品を提供したことが記憶に新しい、現代美術家で漫画家の横山裕一作品展「横山裕一<これをネオ壁面と呼ぶ>集合する名士とけもの」が、3月6日より京都国際マンガミュージアムで開催される。世界的なアーティストが集まるアートの祭典「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015」の後援事業として開催される同イベント。期間中は横山が今回のために書き下ろした漫画を、建物の壁にプロジェクションマッピングで投影。更に、作品世界を再現した会場に原画も展示され、本で読むのとは一味違った横山ワールドを体験出来る。また、3月8日には横山の作業風景が見られるライブドローイングイベント「これがネオ漫画である」を開催。展覧会場に設置されたアトリエで、独特の技法を用いて漫画に取り組む横山の姿が見られる。横山は“ネオ漫画”と称される独創的な作風で有名。奇妙な格好をした人物たちが、目的不明の土木工事を黙々と遂行したり、意味不明の会話を交わしたりするなど、異色の漫画で国内外の漫画界やアート界から注目されている。これまでに、漫画作品集として『ニュー土木』『トラベル』『世界地図の間』、画集では、『横山裕一カラー画集』などを発売してきた。【イベント情報】横山裕一<これをネオ壁面と呼ぶ>集合する名士とけもの会場:京都国際マンガミュージアム2階ギャラリー6住所:京都府京都市中京区烏丸通御池上ル会期:3月7日から5月31日まで(プロジェクションマッピングは3月6日から)時間:10:00から18:00まで(入場は閉館の30分前まで、プロジェクションマッピングは18:00から21:00まで)休館日:水曜日(4月1日、29日、5月6日は閉館)、4月30日、5月7日(プロジェクションマッピングは無休)
2015年02月16日