今年の12月15日、Amazonがイギリスでドローンを使った配達を実施し、無事に成功させたそうです。日本でも昨年からドローンを使った医薬品の僻地への配送プランをはじめとした実験が繰り返されており、先日も、佐川急便が北九州で1.4キロ離れた場所への「ドローン宅配」を成功させています。安倍首相も2018年にはドローンを使った荷物配送を実現させると宣言しているようですが、はたして日本でもドローン配送が可能となるのか、現状の問題点等について解説したいと思います。*画像はイメージです:■現在のドローン法規制現在、ドローンに関しては、航空法と電波法による法規制がなされています。航空法による規制により、 1)人口集中地区の上空の飛行2)地上から150m以上の場所の飛行3)空港や重要施設の周辺の飛行4)人や物件から30m未満の場所の飛行5)日没後飛行6)操縦者からの目視外飛行 等の場合は許可が必要となり、無許可飛行の場合には50万円以下の罰金が科されます。逆に言えば、上記の規制外の飛行や、上記規制範囲内であっても事前許可の上での飛行は自由に行うことができるということです。なお、2016年12月21日の航空法施行規則の改正により、新たに三沢飛行場と木更津飛行場の周辺空域が飛行禁止区域となりましたので、最新の法改正には十分注意して下さい。また、電波法による規制により、技術基準適合証明・技術基準適合認定のいずれかの認証を受けていることを示すマーク(「技適マーク」)のないドローンを屋外で飛ばすと、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。通常、国内で販売されているドローン(並行輸入品を除く)であれば技適マークが付いていますが、ドローン購入の際には今一度確認をするとよいでしょう。 ■ドローン配送の問題点インターネット上でも言われているように、都市部では上記の航空法規制に引っかかるため、ドローン配送が可能になるのは山間部や僻地などの一部の地域に限られるのではないかという問題があります。事業者としても、都市部でわざわざ許可を取るコストを負担するとは考えられません。他方、航空法規制を緩和して都市部のドローン飛行可能区域を広げれば、落下物やドローン本体が人や物件に当たる可能性は高まります。かりに規制緩和がされたとしても、事業者が損害賠償請求を受けるリスクが高まりますから、やはり無理してドローン配送を実現することは考えづらいですね。政府としても、人口集中地区での実用化というよりは、人が行うよりもドローン配送や撮影のほうが安全な場合や過疎地での医薬品等の輸送を念頭に置いているようです。ドローンの活用可能性はまだまだ広がっているので、今後の法改正や事業者の参入状況が気になるといえましょう。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】イメージです*chesky / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月27日2016年11月30日から「Amazonプライムビデオ」で配信が始まったお笑い芸人・松本人志が手がける『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』の番組内容について、一部では違法ギャンブルではないのか?という声が上がっているようです。同番組の企画説明文では、「参加費1人100万円。笑ってしまった者は退場し、残った1人が1,000万円を総取りする」と、参加費×人数の金額がそのまま優勝者に与えられるかのような表現(筆者注:2016年12月11日現在、Amazonプライム作品ページ中に「」内の表現は確認できない。)となっていたことから、刑法の賭博罪に当たるのではないかという点が問題になっていました。Amazon側は賭博罪には当たらない旨の公式見解を出しているようですし、「バラエティだから違法行為に見えても演出であり、つべこべ言うな」等のインターネット上のコメントもあるようですが、今回は、どのようなスキームであれば賭博に当たらないか、合法なギャンブルと違法な賭博の線引きはあるのか等について解説したいと思います。*画像はイメージです:■「参加費×人数の金額を優勝者が総取り」するのであれば賭博罪となるこの点については既に専門研究者の方が解説されているように、「参加費1人100万円。笑ってしまった者は退場し、残った1人が1,000万円を総取りする」ルールであれば、参加者には単純賭博罪(刑法185条)が成立します。なぜなら、単純賭博罪における「賭博」とは、偶然の勝敗によって、財物や財産上の利益の得喪を争う行為と定義されているところ、本番組の参加者は、偶然の勝敗(本番組でいう「他の参加者の行為等により笑ってしまった場合」)によって参加費100万円を失い、勝ち残った1人が退場した9人分の参加費という財物を得ることになってしまうからです。 ■本番組が「賭博罪に当たらない」といえるためには単純賭博罪は国外犯を処罰しない(刑法1条1項、2条、3条)ので、撮影がすべて海外で行われているのであれば、上記のルールであったとしても参加者が罰せられることはありません。もっとも、参加者やスタッフが全員海外に行って撮影することは現実的ではありませんので、このような方法で適法性を確保したとは考えづらいです。したがって、現実的なスキームとしては、下記の3つのようなものが考えられます。①参加費100万円は本番組の出演権及び出演報酬権の対価である②本番組の出演報酬は100万円程度である③賞金1000万円の原資は参加費以外であるこうした方法により、本番組は適法性を確保しているのではないかと推測されます。なお、可能性としては、参加費100万円そのものを参加者が用意したわけではなく、そのように演出しているだけということも考えられますが、番組中に「(用意した100万円は)本当にみなさんがかき集めたものですね。」旨の問いに対して参加者から「はい。」とえるシーンがありますので、その可能性はないでしょう(そうだとすれば行き過ぎた過剰演出という別の問題が出てきます)。 ■合法なギャンブルと違法な賭博の違いとは日本には公営(合法)ギャンブル(賭博)として、競馬・競艇・競輪・オートレース、宝くじ・スポーツ振興くじ(toto)があることはご存知かと思います。これは特別法がありますので、もちろん合法です。また、多くの議論はありますが、パチンコ・パチスロ店も違法ではありません。それ以外の「偶然の勝敗によって、財物や財産上の利益の得喪を争う」賭け事で、その場で費消する飲食物などを賭けるにとどまらないものはすべて賭博罪に当たってしまいます(刑法185条)。合法賭博と違法賭博の両者の線引きはこのようになっていますので、雀荘での賭け麻雀(場代程度を除く)をはじめ、トランプ、じゃんけん等、内容を問わず、種々のゲームが賭博罪に当たり得ます。 いわゆるカジノ法案(IR推進法案)が衆院本会議で可決し、日本でもカジノが解禁されることに対して様々な議論がなされています。今回のテーマとの関係上、詳細は省略しますが、刑法制定時と現在とで、賭博罪の保護法益である健全な経済的風俗が変化しているか否かや、刑法のあり方についても再考すべき時期が来ているといえるかもしれませんね。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【参考】BLOGOS:【悲報】松本人志さん、違法ギャンブル大会を主催か?【画像】*Tsuguliev / Shutterstock
2016年12月13日11月24日に電車内で女性会社員に体液をかけたとして34歳の男性が器物損壊の疑いで逮捕されたという報道があったように、たまに、公共の場所で女性に体液をかけた男性が逮捕されたというニュースを目にします。体液といってもだいたいは精液なのですが、精液をかけた男性の容疑(被疑事実)は多くの場合「器物損壊」であり、「(準)強制わいせつ」ではありません。なぜわいせつの罪ではなくて器物損壊で逮捕・処分されるのかについて疑問を持つ方もいるかもしれませんので、今回はこの点について解説したいと思います。*画像はイメージです:■女性に精液をかける行為は両罪成立し得るまず、女性の衣服や持ち物に精液をかけた場合、器物損壊罪が成立します。器物損壊罪の「損壊」とは物の効用を害する一切の行為をいい、“感情的・心理的”に物の利用を不可能にする行為も含まれますので、器物損壊罪が成立するというわけです。法学部出身の方は、古い判例で食器に放尿した行為が「損壊」に当たるとされたものがあることをご存じかと思います。一方、精液をかける行為が強制わいせつ罪に当たるかという点については、同罪の成立要件である「暴行」と「わいせつ傾向(性的意図)」が問題になります。強制わいせつ罪の「暴行」とは、人の反抗を著しく困難にする程度の物理力の行使をいうとされていますが、裁判例では、「正当の理由なく他人の意思に反してその身体髪膚(はっぷ)に力を加うるの謂(いい)にして、固よりその力の大小を問うことを要するものに非ず」としたものや、「被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制するもので足りる」と判示したものがあり、物理力の強度よりも意思に反する程度に着目しているといえましょう。また、強制わいせつ罪の成立には行為者の性欲を満足させるという「わいせつ傾向(性的意図)」が必要とされていますが、精液をかける行為がもっぱら女性に対して報復または侮辱する目的で行われたといえないのであれば、「わいせつ傾向(性的意図)」もあるといえます。したがって、公共の場所で女性に体液をかける行為は、その態様や目的によりますが、器物損壊罪と強制わいせつ罪の両方が成立し得ます。 ■なぜ器物損壊罪のみで逮捕されることが多いのかこれには、「暴行」と「わいせつ傾向(性的意図)」の有無、立証難易、本人の前歴・余罪など様々な要因がありますので一概には言えませんが、まずは固い器物損壊罪の容疑(被疑事実)で逮捕するという理由があるでしょう。捜査の結果、強制わいせつ罪に切り替えることもありますし、強制わいせつ罪は成立するけれど今回は器物損壊罪のみで処分・処罰をするという判断がなされることもあります。 ■その他想定される疑問への回答(1)公然わいせつ罪にはならないの?成立し得ますが、公然わいせつ罪の規定はわいせつなものを見せられる人や健全な性秩序・精神的社会環境を保護していると解釈されているので、被害女性の観点からすると公然わいせつ罪で処罰することはなじまないといえるかもしれませんね。なお、公共の場で性器を露出した上で行う犯行態様であれば当然に公然わいせつ罪が成立します。(2)本人が「わいせつ傾向(性的意図)」を否定していたらわいせつ罪にはならないの?わいせつ傾向などの人の内心は、本人の外部的行動や客観的証拠から推測・認定できますので、本人の自白がなければ各種わいせつ罪で有罪にできないわけではありません。(3)器物損壊罪と強制わいせつ罪が成立した場合、それぞれの刑で処罰されるの?精液をかけるというひとつの行為が両方の罪に当たるときは、法定刑が重いほうの強制わいせつ罪の範囲で刑が言い渡されます(観念的競合といいます)。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】*梅さん / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月05日11月30日、モデルの押切もえさんの電子メールのサーバーに不正接続したなどとして、日本経済新聞社デジタル編成局の男性社員が、不正アクセス禁止法違反と私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで逮捕されました。このようなサイバー犯罪も近年では目立つようになってきましたが、一方で飲食店などの従業員が有名人の来店情報やその有名人の住所を入手したことをSNSなどで拡散してしまい、その従業員の勤め先が対応に追われるといった事件も後を絶ちません。とはいえ、家族に対してはつい気が緩んで、業務上知った秘密を話してしまう人は実際には多いのではないでしょうか。そこで、今回は、業務上知った秘密や個人情報を家族に話すのはNGなのか等について解説したいと思います。 *画像はイメージです:■そもそも個人情報の社外持出しは絶対ダメ金融機関はもちろん、一般的な会社では、個人情報を社外へ持ち出すことを禁止し、守秘義務に関する誓約書を従業員に提出させることが一般的ですから、母親の行為は守秘義務(契約)違反に当たります。そして、守秘義務違反を行った従業員は懲戒や損害賠償請求の対象になりますので、安易な気持ちで個人情報を社外に持ち出すことは絶対にやめましょう。 ■家族に有名人の来店情報を知らせるのもダメなの?業務中に有名人が来店したことを不特定多数の第三者に知らせるのは何となくアウトな気がする人も、家族に対しては気が緩んでしまうと思います。公開ロケ等で有名人が来店していた場合であれば、帰宅後に家族に対してこれを話しても違法となることはならないでしょう。しかし、有名人がプライベートで来店していた場合、その情報は業務上知り得た秘密に当たり得るため、厳密には家族に対して話すことも禁止されます。また、そもそも業務中に来店情報を電話やLINE、SNSで家族に知らせることは、労働者の職務専念義務違反に当たることが多いです。したがって、家族に有名人の来店情報を知らせることは、場合によっては懲戒や損害賠償請求の対象になり得ますので、原則として行わないほうがよいです。 ■家族から聞いた来店情報や個人情報をSNSに流すことはどうか?「今日の10時くらいにお母さんが働いている○○銀行△△支店に、●●●●が美人と一緒に来てたんだって!うちも見たかった(ToT)」というようなことをSNSに投稿した場合は、理屈としてはプライバシー侵害に当たり、損害賠償請求の対象になります。ここで、プライバシー侵害に当たるか否かのポイントは、(1)プライベートでの来店か、(2)その情報は一般的に人に知られたくない類のものか、(3)一般的に知られている情報かという点にあります。上記の例でいうと、イケメン俳優の●●●●であれば美人と一緒に行動することは珍しくないかもしれません。しかし、場所が銀行なだけにプライベートの来店である可能性が高く、また、●●●●は結婚しておらず彼女もいないことになっているので一般的には知られたくない情報といえましょう。なお、ここで挙げた例はフィクションであり、実在する人物とは一切関係がありません。プライバシー侵害になるかどうかは判断が難しいですので、自慢したくなる気持ちを抑え、家族から聞いた来店情報や個人情報についてはSNSに投稿しないほうがいいでしょう。以上のように、たとえ家族であっても業務上知った秘密や個人情報を話したり、家族から聞いた情報を不特定多数に拡散したりすると思わぬ不利益を受けることがありますので、秘密や個人情報は誰にも漏らさないほうが安全です。 *この記事は2015年6月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】イメージです*チータン / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月04日ここ数年、健康志向や維持費が安いこともありブームとなっている自転車。最近ではロードバイクやクロスバイクと呼ばれる、走ることに向いている自転車の人気で、趣味だけではなく、通勤などの中長距離の移動も自転車で行うという人も増えてきました。一方で自動車と同様に、「ながらスマホ」のような危険な運転による事故も増加傾向にある用です。もしも自転車で歩行者に衝突してけがをさせてしまった場合、思った以上に大変なことが待ち受けているかもしれません。今回は自転車で事故を起こすことの怖さについて説明してみましょう。*画像はイメージです:■自転車保険に入っていますか?自動車やバイクと違って、強制加入保険(自賠責保険)のない自転車。つまり、任意保険に入っていない場合に自転車事故を起こしてしまったら、被害者の治療費、休業損害、慰謝料、事故がなかったら被害者が今後得られただろうお金などを全額自己負担で賠償しなければならなくなります(もちろん自分の治療費や壊れた自転車代なども)。 ■「過失相殺」がない場合も事故になったとしても、歩行者のほうもスマホを見ながら歩いていたり急に方向転換したりなどの落ち度があったらその分賠償額が減る(過失相殺される)のではないかと思われるでしょう。自動車事故の場合はよくある話ですね。自転車対歩行者の場合も基本的には過失相殺されますが、歩道上の事故の場合は注意が必要です。最近の裁判例は、自転車は道交法上「車両」扱いのため、自転車が歩道を走れるのは標識があるときや交通状況から見てやむを得ないときなどの例外的な場合であることや、自転車事故の増加を受けて、歩道上で自転車が歩行者に衝突した場合、過失相殺を認めず自転車の過失割合を100%とする傾向にあります。自転車事故においては、後遺障害の中では1番軽い等級14級で600万円程度の損害賠償を認めたケースや、打撲とむち打ち程度のけがでも200万円以上の損害賠償が認められることがありますので、過失相殺がされず、損害賠償を全額自己負担することは加害者となってしまった人にかなり厳しいものになります。自動車保険とセットの「個人賠償責任特約」や年額数千円のプチプラ自転車保険がありますので、自転車によく乗るという方は任意保険の加入を検討してみてはいかがでしょうか。 ■刑事責任はどうなる?なお、いままでは民事責任の話ですが、自転車事故を起こして被害者にけがを負わせてしまった場合には刑事責任を負うこともあります。けがの程度や事故の態様によって異なりますが、過失傷害罪・重過失傷害罪として最大5年以下の懲役または100万円以下の罰金刑が科される可能性があるでしょう。このように、自転車で歩行者に衝突してしまった場合には自動車事故よりも大変な結果をもたらすことがありますので、これを機に、自転車に乗る場合は、スピードを出しすぎず、基本的に車道を走って歩行者には十分注意することを心がけてください。 *この記事は2015年1月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】イメージです*torwaiphoto / PIXTA(ピクスタ)
2016年11月27日ソフトバンク株式会社が提供する『かざして募金』というサービスに関し、インターネット上では、同社ユーザーから「寄付した覚えがないのに知らない間に寄付していた。」などとの不満の声が上がっていたようです。ユーザーからは、『かざして募金』のスクリーンショット画像とともに、 ①指紋や暗証番号による認証なく募金できてしまうこと②誤タップを招くUIの上、2~3タップで募金できてしまい、しかもキャンセルができないこと③デフォルトで「毎月寄付する」のチェックボックスにチェックが入っており、気づかなければ毎月継続して募金(課金)されてしまうこと の3点が問題として提起されていました。さて、上記①から③は法的に問題がないか、関連する法律とともに以下解説したいと思います。 ■特定商取引法による規制対象となるか特定商取引法の適用対象となる契約は売買契約(権利販売契約)及び役務提供契約です。法律上、募金は、贈与契約、委任契約、信託契約のいずれかに該当し、特定商取引法による規制対象となる契約ではないため、上記①から③は特定商取引法上の規制対象ではありません。 ■電子消費者契約法による規制対象となるか電子消費者契約法にいう「電子消費者契約」とは、「消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うもの」です。…つまり、ユーザーとソフトバンク株式会社または募金先とのインターネット上の契約は「電子消費者契約」に当たります。 そして、募金するつもりがないのに誤タップにより募金をしてしまった場合は、ユーザーがちょっと注意すれば当該キーをタップすることにより募金の申込みをしてしまうことに気づけたときであっても、原則として、誤タップによる募金は無効になります(電子消費者契約法3条本文、同条1号、民法95条ただし書)。ここで「原則として」と言ったのは、電子消費者契約法3条ただし書において、画面上に消費者からの申込み若しくは承諾の意思確認を求める措置を講じた場合には、事業者のほうで、消費者がちょっと注意すれば当該キーをタップすることにより募金の申込みをすることに気づけたはずだと立証することにより、募金は有効として扱われるからです。 今回問題になっているアップロードされたスクリーンショットの画像を見ると、画面上には、「規約に同意して毎月継続して○○円寄付します。」との表示があり、当該画面で「はい」のキーをタップすると募金が完了するようになっています。そうすると、電子消費者契約法3条ただし書が適用され、ソフトバンク株式会社が任意に返金等の措置を講じない場合には、ユーザーにおいて誤タップによる募金の無効を主張して返金等を求めることはできない可能性が高いでしょう。 したがって、上記①から③のUIや仕様には問題があるとしても、実際に電子消費者契約法に基づいて返金を求めることはかなり難しいという結論になります。(通常であれば、返金を求めることは難しいですが、今回の件は「返金は出来ないが、翌月の電話料金から割引する」という形で落ち着いたようです。) ■現行法上は問題がないとしてもヨーロッパでは、ユーザーに誤操作をさせ、ユーザーを騙すことを目的とするUIである「ダークパターン」の一部が違法とされています。日本の現行法では「ダークパターン」を直接規制する法律はありませんが、少なくとも上記の③はヨーロッパでは違法な「ダークパターン」の1つである「Forced Continuity(強制的な継続)」に当たります。今後の法改正によって消費者と事業者間の契約に関して事業者側に消費者の誤解を招かないようなUIとすることが義務付けられるかもしれませんが、それまでの間は、面倒でもスマートフォンを利用する際には画面が遷移するごとに画面上の表示を確かめる必要があるでしょうね。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】* freeangle / PIXTA(ピクスタ)
2016年11月26日2015年6月に施行された自転車に関する道路交通法の改正以降、自転車の運転に関する取り締まりが強化されている中、先日とあるインターネット上で、「原付バイク(原動機付自転車)の運転者が、並走する自転車の後部を足で押して走らせる行為は違法になるのでしょうか」といった質問がされていました。自転車が原付バイクと同じ速度で走ることになりますし、原付バイクと自転車とが並走することになりますので、直感的に危険な行為だと思うでしょう。それでは、実際に何らかの法に触れる行為なのでしょうか?今回は、この行為の法的問題について解説します。*画像はイメージです:■原付バイクと自転車の双方の運転者が「安全運転義務違反」になる道路交通法70条では、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」と定めています。上記の「車両等」には自転車も含まれているため、原付バイクの運転者が並走する自転車の後部を足で押して走らせた場合、自転車は原付バイクと同じ速度で走ることになります。そうすると、自転車は適切にハンドルやブレーキを操作することができずに他人に危害を加えるおそれが高いですから、安全運転義務(安全操作義務や安全速度運転義務)違反になるでしょう。原付バイクが法定速度である30キロメートルで走行していたとしても、自転車は原付バイクと並走する形で後ろから足や手で押されているわけですから、自転車の運転者に操作・制動を適切に行うことを期待できず、同じく安全運転義務違反になると考えられます。同じく、原付バイクの運転者も、片足や片手を自転車の後部に乗せて自転車と並走することによって、とっさに適切な操作・制動を行うことができないといえますので、安全運転義務違反となるでしょう。つまり、「車両等の運転者は…道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」と定められているように、速度の問題だけでなくこのような行為自体が取締りの対象になるということです。 ■運転者にはどんな罰則になる?安全運転義務違反の場合、原付バイクの運転者は運転免許の点数が2点引かれた上、6,000円の反則金が科されることになり得るほか、道交法違反として刑罰が科されることもあります。また、自転車の運転者についても、安全運転義務違反で事故を起こせば安全講習の対象や道交法違反による刑罰の対象にもなりますので注意が必要です。過去には原付バイクの運転者が足や手で自転車を押していたために自転車が踏切で止まれず、自転車の運転者が列車と衝突して死亡してしまったという事故もありました。原付バイクで自転車を押す行為は、安全運転義務違反にとどまらず、人を死傷させる危険性が高いので、遊び感覚で行うことは避けるようにしましょう。 *この記事は2015年12月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】イメージです* amz camera / PIXTA(ピクスタ)【関連記事】*多発する高齢者の自動車事故…弁護士が語る「道交法」の高齢者対策に潜む矛盾点*87歳が運転する軽トラが児童を死傷…増加する認知症高齢者の事故が抱える法的問題とは*「ポケGO運転」死亡事故に全国初の実刑判決…「ながらスマホ」の今後を弁護士が解説*自転車をターゲットにした当たり屋が存在!?彼らから身を守るための法的対策法を伝授*もしも交通違反をしたのに反則金も呼出状も無視し続けたら、どんな罪が待っている?
2016年11月23日JR博多駅前の大規模な陥没事故は、事故から1週間で通行止めの解除がなされ、復旧の速さにみなさん驚かれているのではないでしょうか。さて、この事故に関連し、入出庫口の道路が陥没しているため立体駐車場から車を出せない人の駐車料金はどうなるのかというトピックスが、インターネット上の掲示板で話題になっていました。今回は、掲示板で話題になっているような、出庫口に面した道路が陥没して出庫不可能になってしまった場合等、災害などの不可抗力で出庫できないとき、現実に出庫するまでの駐車料金を払わなければいけないのかについて解説したいと思います。Q.災害などで出庫不能となった場合、駐車料金を全額支払う必要はあるの?*画像はイメージです:大手の駐車場運営・管理会社の場合、駐車場利用規約において、不可抗力等の駐車場の管理者の帰責事由(過失)によらない出庫不能の場合には損害賠償責任を負わない旨の免責条項が定められていることが多いです。もっとも、このような免責条項で想定されている損害は、主に休車損害などの車を利用できなかったことに基づく損害ですから、災害復旧時(出庫可能時)までの駐車料金全額を払わなければならないかどうかは、免責条項によっては一義的に定まらないといえます。 今回のように、第三者の引き起こした事故により出庫口に面した道路が陥没し、駐車場管理会社と駐車場利用者のいずれにも帰責事由がなく出庫不能となった場合には、双方の立場からの立論が可能です。駐車場スペースを現に占有している以上は駐車料金を払うのは当然という管理会社の立論も成り立ち得ます。一方、駐車場利用者側としては、契約の解釈として、出庫して駐車場利用を終了すること、すなわち駐車場利用契約を終了させることが不可能である以上は、現に車を止めていた時間分の駐車料金を支払う必要はないという立論も成り立ち得ます。 A.全額は支払わないで済む可能性が高い駐車場利用規約上、利用時間や駐車料金の上限(「48時間分の利用金額」、「3万円」などが多いのではないでしょうか。)が定められていることが多いですので、落としどころとしては、駐車場利用規約で定められている上限金額の支払いで決着といったところでしょう。なお、今後、同様の事故が起こった場合には、安全に駐車場内へ立ち入ることができることを前提に、駐車場利用者は本来出庫したかった時間に料金を支払って、車を空きスペースに駐車させておくのも一つの方法だと思います。ちなみに、法律上・契約上、駐車場管理会社は駐車料金の支払いがない場合は車を留置できますので、料金の問題が解決しないまま車の返還請求を求めることはできません(今回のようなケースで実際にそこまで強固な対応を取る駐車場管理・運営会社はないと思いますが…)。*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】イメージです*kokano / PIXTA(ピクスタ)
2016年11月15日