●都市型コンパクトライフって何だ?少子高齢化が加速する日本で、新たなライフスタイルを模索する動きが始まっている。そのひとつ、「都市型コンパクトライフ」を提案する企画展「都市型コンパクトライフのススメ展」が、リビングデザインセンターOZONE 3階のOZONEプラザにて11/11(火)まで開催中だ。「都市型コンパクトライフ」とはいったいどんなライフスタイルなのだろうか。同企画展を取材した。「都市型コンパクトライフのススメ展」で展示されているのは、建築家・末光弘和氏と末光陽子氏、そしてインテリアコーディネーター・荒井詩万氏が手がけた住宅実寸モデル。広さは約50m2とコンパクトで、二人暮らしにちょうどよいサイズ感である。想定する住人像は「OVER 50’s」、すなわち50歳以上の夫婦だ。子どもたちが独立し、二人暮らしになった夫婦にとって、それまで家族で住んでいた広い住居は持て余しがち。そんな夫婦が二人で住むのにちょうどよいサイズが50m2というわけだ。もっとも、ただの50m2ではない。この建物は、本来であればひとつの住居につき60m2を確保できるだけの広さがある。しかし、そこをあえて50m2とし、残りの10m2をマンションのほかの住人とシェアするため共有空間に差し出しているのである。シェア部分には、家庭菜園を作ったりベンチを置いたりして、マンション住人が誰でも使える共同の空間となる。たとえばマンションに30戸の部屋があると仮定すると、それぞれが10m2を共有することでシェアスペースは300m2にもなる。一見すると10m2を差し出すのはもったいないようにも思えるが、皆が10m2ずつをシェアすることで、結果的に全員がより広々とした空間を手に入れることができるわけだ。また、隣人との関わりが増えるという効果も期待できるという。「定年退職した後はどうしても社会との接点が失われがち。コンパクトライフではシェア部分を皆で共有することで、積極的に社会と接する機会を作っていくのです」(末光氏)末光氏が設計した住居の工夫はそれだけにとどまらない。実際に実寸モデルの中に入ってみた。かなり広めの玄関を開けて足を踏み入れると、そこはダイニングキッチンになっていた。中央には木製の大きなテーブルがあり、調理スペースも広々としている。大人二人暮らしにしてはかなり余裕を持った設計にも思えるが、実はこのキッチン、カフェとして開放することを考えて作られているのだという。「今回はカフェをイメージした内装になっていますが、住む人によって使い道はさまざま。たとえば書籍をたくさん所有している人は、ここを書斎にして図書室的に開放するのもいいでしょうし、何か技術を持っている方ならワークスペースにすることも考えられます。そうやって、気軽にほかの人と付き合うためのスペースとして考えています」(末光氏)。このキッチンの床は土足を想定したものになった土間仕上げとしており、ほかの人が入りやすいようにしたという。キッチンの奥へと進んでいくと、三段ほどのちょっとした階段があり、その奥がプライベート空間になっている。靴はこの階段の下で脱ぐ設計だ。なぜ段差をつけたのかというと、半共有スペースであるキッチンと、プライベート空間を意識的に分けるためだという。「階段から先は床にもウッド素材を使っており、雰囲気を切り替えています。また、実寸モデルではつけていませんが、実際にはこの土間部分に仕切りがつけられますので、しっかりとキッチンとプライベート空間を分けることができます」(末光氏)ほんの少し階段を上がることで、部屋同士に段差が生じる。これにより、奥の部屋の窓からはキッチンを見わたせるが、逆からは見えにくいという効果も生まれる。プライバシーとセキュリティを両立させるアイデアである。プライベート空間はリビングと寝室に分かれている。荒井詩万氏がコーディネートしたモダンかつ落ち着いた雰囲気のインテリアは、50歳以上の大人の生活にマッチしている。●レトロな雰囲気と最新の設備が違和感なく共存注目すべきは、洗面所とトイレ、シャワールームがひとつになっているところ。本来ならすべて別の部屋に分けるところをひとつにしたのには、「二人暮らしを想定しているので、どちらかが入っていればわかる」という理由からだ。これにより、スペースをさらに有効活用することができるという。ちなみにこの部屋、シャワールームはあるが、浴槽はない。浴槽に浸かりたいときは、1階の共有空間にあるスパなどを利用することを想定しているという。収納もベッドルームのみと少ないが、地下にエレベーターと直結した共有のストレージスペースを設けることを想定しており、そちらを収納として利用するイメージだという。すべてを自宅で完結するのではなく、共有のファシリティも積極的に利用していく。それが"コンパクトライフ"の根底にある考え方なのだ。レトロな雰囲気と最新の設備が違和感なく共存しているのも特徴的だ。一見、寝室とリビングの仕切りにも思える金属の壁、実はパネルラジエーターといって海外のホテルなどでよく見られる暖房器具。冷房としても使えるのだという。同じものが洗面所にも付いており、いずれも部屋のデザインに違和感なく溶け込んでいる。また、洗面所の鏡がデジタルモニターになっており、様々な情報を表示できる。たとえば今日の天気や風向きなどはもちろん、住人の健康状態などを管理してくれる機能も搭載されている。老後と健康は切っても切り離せない問題なので、これは役立ってくれそうだ。「都市型コンパクトライフのススメ展」の初日となる10/16(木)には、関係者が集まりオープニングセレモニーが開催された。まずインテリア産業協会 常務理事の辻 猛氏が登壇し、挨拶を行った。「欧米では、子育ては広いところ、リタイア後は狭いところと、年代で住み替えていくそうです。なぜそれができるかというと、住宅の買い替えに対して日本ほど色々な税がかからないのです。その代わり、固定資産税が高いので、リタイア後に大きな住宅に住んでいると大変です。年金生活に見合った快適なところに移り住むことを税制が援助しているのです。(日本でも)そういう条件が整えば、コンパクトな生活がしたくなるのではないでしょうか」続いて、建築家の末光氏が登壇。今回のテーマについて「戸建住宅ではなく、50歳以上の人が住み替えるための50m2の集合住宅というのが今回のお題でした」と述べ、「コンパクトだけと豊かになるってなんだろうと考えた結果、地域に開かれた集合住宅だと。事業者のシミュレーションもしていて、経済合理性に優れたタワーマンションほどではないけれど、+1~2%程度で地域に喜ばれるような建ち方ができるというオールタナティブな提案です」とコンセプトを説明した。内装を手がけたインテリアコーディネーターの荒井氏は「上質感と自分らしさをキーワードに、カフェキッチンはカジュアルモダン、ベッドルームとリビングはプレミアムミックスな家具類を選びました」とコメント。今回の展覧会は、OZONEらしくこれからの住まい方のヒントが見られる内容となっている。最後にリビングデザインセンターOZONE常務取締役の野口恭夫氏が登壇し、「ぜひご覧ください」と挨拶した。「都市型コンパクトライフのススメ展」は、リビングデザインセンターOZONE 3階のOZONEプラザにて11/11(火)まで開催中となっている。
2014年10月28日リビング・デザインセンターは、11月3日、新宿パークタワーにおいて大人世代向けの暮らしを考えるシンポジウム「大人世代のコンパクトライフを考える GOOD OVER 50’s の住まいと暮らし」を開催する。暮らし研究家の土谷貞雄氏、デザイナーの小泉誠氏、インテリアデザイナーの小野由記子氏、ソーシャルクリエーターの嵯峨生馬氏、建築家の末光弘和氏、リフォームプランナーの西田恭子氏を迎え、「コンパクトライフ」をキーワードに住宅、デザイン、エネルギー、都市生活、コンパクトライフへのアプローチ方法などを探っていく。第二部のパネルディスカッションでファシリテーターを担当する土谷貞雄氏は、「無印良品の家」を企画・販売する住宅事業を立ち上げ、現在は独立し株式会社貞雄の代表を務めている。土谷氏は「コンパクトという言葉には「小さくする」「重ねる」「組み合わせる」などのいくつかの意味がある。そこには小さくすることでだけでなく、もとの状態よりもっと大きな価値を生みだす期待も含まれている」などコンパクトライフの未来像を提示する。参加費用は2,000円(税込み・交流会費込)で事前申込制の先着順となるため、興味のある方は早めに申し込んでみてはいかがだろうか。尚、パネリストの末光弘和氏らが設計提案した50平米リアルサイズの住宅実寸モデルが展示されている別イベント「Good Over 50’s都市型コンパクトライフのススメ展」も同新宿パークタワーで開催中。こちらは11月11日まで。
2014年10月17日