初めて一人暮らしをするとき、部屋探しに慣れていない場合、不安と期待が入り交じる中で何をどう具体的に準備すればいいのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーで宅地建物取引主任者 である穂積啓子氏に、そのポイントを伺いました。■部屋探しの目的を明確にし、条件をリストにする穂積さんはまず、次のように想定することを勧めます。「部屋を探すときは、『何のためにその部屋を使うのか』を整理しましょう。例えば、通勤の利便性のため、前の部屋が狭くなったので少し広くしたい、○駅から徒歩10分以内でペット飼育希望、など、具体的に想定すると考えがまとまっていきます」次に、「もっと絞り込んだ細かい希望条件を書き出すようにします」と穂積さんは、下記のことをリストにするようにアドバイスします。1)何のために引っ越しするのか……目的。2)住みたいエリア……最寄り駅の候補。3)駅から徒歩○分まで。4)共益費を含む賃料の予算。敷金・礼金の条件。5)マンション、コーポ、UR賃貸など、住宅の形態。6)築年数……築5年までなど。7)部屋の広さ……約20㎡、50㎡~60㎡など。8)部屋の間取り……ワンルーム、2LDKなど。9)部屋の設備……オートロック、バストイレ別など。10)部屋の方角……南向きなど。11)環境……静かな住宅街、繁華街近くなど。12)そのほかの条件……ペット可、楽器可など。「リスト化することで不動産屋へ条件を分かりやすく提示することができますし、気持ちの整理もできます。この項目はどうしよう……と迷うことがあれば、『考え中』とか、『アドバイスが欲しい』などと記しておくとよいでしょう。このリストを持って不動産屋を訪れてください」(穂積さん)不動産屋に行く際の心構えはありますか。「自分の希望を明確に伝えることです。そして、不明点は必ず、その時々で質問をしましょう。緊張しやすい人は、リストを渡すとよいでしょう。また、1件の不動産屋だけ、部屋を1件内見しただけで決めてしまわないことです。ビギナーは過去の失敗がないだけに情報を持っていないもの。1件目で良いと思ったとしても急いで決めずに、最初はできるだけ複数の物件を見て、選択肢(し)を広げ、自分の『部屋を見る目』を養っていきましょう」(穂積さん)■希望条件を自己コントロールできるかどうかが肝目移りして選べなかったり、予算と希望が合わないこともあるでしょう。そんなときはどう考えればいいでしょうか。穂積さんはこう続けます。「家賃が3万円、新築、渋谷駅から徒歩5分以内、高層階、バスとトイレは別、浴室乾燥機が付いている、おしゃれで……」と、引っ越しに慣れた人ならあり得ないと分かる条件でも、ビギナーさんは、「あるかも」と思うことが多いようです。予算がふんだんにあるなら希望の条件通りの部屋を見つけることができるかもしれませんが、たいてい、そうは行きません。やはり決断は予算との勝負になり、「譲れない条件は何か」かつ「どこを妥協するか」が、部屋探しの最大にして最後のポイントです。『間取りにはこだわるが、バストイレ別はあきらめよう』、『30㎡は確保したい。駅から遠くてもいいことにしよう』など、いい部屋に出会うためには、希望条件を自己コントロールできるかどうかが肝心です」来るべき新生活のイメージをできるだけ具体的にふくらませ、その状態に近付くように行動を起こす。物件を複数見ながら現実としてのイメージをかためていき、あきらめないでねばることが賢い部屋探しのポイントです。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)
2012年10月06日「電気ストーブで洗濯ものを乾かしていたら火が出た、たばこの火でカーペットが燃えた……など、ニュースになる以前のぼや騒ぎは日常茶飯事です」と話すのは、「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーの穂積啓子氏。お隣から火が出て被害を受けてしまったら、あるいは自分が火事を起こしてしまったら、その始末はいったいどうなるのでしょうか。詳しいお話を伺いました。■火元の住人の責任にはならない!?総務省発表の「出火件数の構成比率」(平成23年度消防白書)を見ると、平成22年度では、建物火災が全火災の58.2%で最も高い比率を占め、その56.9%が「住宅火災」となっています。原因の1位が放火、2位がこんろ、3位がたばこと続きます。失火の責任について穂積さんは、事例を挙げて次のように説明します。「『隣人がぼやを出して自分の部屋も類焼した』というAさんの例では、Aさんは当然、隣人に弁償してもらえるものと思っていましたが、そうではありませんでした。なぜかというと、『失火の責任に関する法律(略して失火法)』によると、火事に関しては、民法の『故意や過失で他人に迷惑をかけた場合は損害を賠償する義務がある』という条項が適用されないからです。え? と驚かれる人も多いのですが、Aさんの場合も、隣人の火事の原因は不明でした。隣人はエアコンから火花が飛んだと主張するものの、現場検証ではテレビの後ろのコンセントが原因かも、と指摘されたそうです。このように火災の原因とは、『これ一つだけだ!』と特定することが難しいのです。日本の建築物や住宅、生活のあり方として、木造家屋が密集している、路地が狭い、マンションやアパートなど建物そのものに何らかの問題があるかもしれない、電気製品、ガスコンロは本当に安全なのかなど、失火や類焼の原因が住人だけにあるとは限らない、という考えに基づいています。ただし、放火や、住人に重大な過失がある場合は責任を問われ、損害賠償をする義務があります(後述)」■隣の家から火が出ても自分で弁償する!?では、Aさんの被害の弁償はどうなったのでしょうか。「隣人は重過失ではないと認定され、失火法によってAさんに対しての賠償責任は発生しませんでしたが、Aさんは、家主に対しては『原状回復の義務』と言って、退去するときに元の状態に戻すという義務があります。よって、Aさんは自分で家主に対して弁償をしないとならないわけです。その結果、Aさんの部屋の修繕と家財道具の損傷の補償は、Aさんが賃貸の契約をしたときに同時に加入していた火災保険でまかなわれました。火災保険による『失火見舞い費用』も支払われましたが、結局は自分が加入している保険で全部対処した、ということになります。このように、一見、火元と思われる人もまた、被害者であったというケースや、被害者なのに自分で部屋の修繕をしないとならないというケースがあるのです」(穂積さん)「Aさんの事例は非常によくあること」と穂積さんは、賃貸契約の際に、必ず火災保険=『借家人賠償責任保険(特約)』に入るよう、勧めます。「賃貸住宅の契約のときに、『引っ越し費用でお金がないし、火事など出さないから火災保険は入りません』という人もいます。ですが、Aさんは、『もし火災保険に入っていなければ自分はどうなっていたのだろう……』と真っ青な表情で語っていました。また、火災保険は火事ばかりではなく、特約で、水漏れを起こしてしまった場合などの補償があることや、例え隣人が保険に加入していなかった場合でも、自分が加入していれば補償されることも知っておきましょう。掛け金は部屋の広さなどによりますが、2年契約で15,000円~25,000円です」(穂積さん)自分が火元で、「重過失」と認定される例を教えてください。「裁判の判例では、たばこによる失火、天ぷら油を火にかけたまま忘れたことによる失火、電気ストーブや灯油ストーブの火が寝ている間に布団や衣類に燃え移っての失火などがあります。これらでは全面的に自分が責任、弁償の義務を負うことになります。いずれも、大きな火災に結びやすく、また事例も多くあります」(穂積さん)Aさんの件は、「まさに明日はわが身の事例」です。話を聞くにつれ、火事を想像してはぞっとしました。部屋を借りるときには、火災保険料を出し惜しみせずに必ず加入するようにしましょう。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年10月01日「電気ストーブで洗濯ものを乾かしていたら火が出た、たばこの火でカーペットが燃えた……など、ニュースになる以前のぼや騒ぎは日常茶飯事です」と話すのは、「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーの穂積啓子氏。お隣から火が出て被害を受けてしまったら、あるいは自分が火事を起こしてしまったら、その始末はいったいどうなるのでしょうか。詳しいお話を伺いました。■火元の住人の責任にはならない!?総務省発表の「出火件数の構成比率」(平成23年度消防白書)を見ると、平成22年度では、建物火災が全火災の58.2%で最も高い比率を占め、その56.9%が「住宅火災」となっています。原因の1位が放火、2位がこんろ、3位がたばこと続きます。失火の責任について穂積さんは、事例を挙げて次のように説明します。「『隣人がぼやを出して自分の部屋も類焼した』というAさんの例では、Aさんは当然、隣人に弁償してもらえるものと思っていましたが、そうではありませんでした。なぜかというと、『失火の責任に関する法律(略して失火法)』によると、火事に関しては、民法の『故意や過失で他人に迷惑をかけた場合は損害を賠償する義務がある』という条項が適用されないからです。え? と驚かれる人も多いのですが、Aさんの場合も、隣人の火事の原因は不明でした。隣人はエアコンから火花が飛んだと主張するものの、現場検証ではテレビの後ろのコンセントが原因かも、と指摘されたそうです。このように火災の原因とは、『これ一つだけだ!』と特定することが難しいのです。日本の建築物や住宅、生活のあり方として、木造家屋が密集している、路地が狭い、マンションやアパートなど建物そのものに何らかの問題があるかもしれない、電気製品、ガスコンロは本当に安全なのかなど、失火や類焼の原因が住人だけにあるとは限らない、という考えに基づいています。ただし、放火や、住人に重大な過失がある場合は責任を問われ、損害賠償をする義務があります(後述)」■隣の家から火が出ても自分で弁償する!?では、Aさんの被害の弁償はどうなったのでしょうか。「隣人は重過失ではないと認定され、失火法によってAさんに対しての賠償責任は発生しませんでしたが、Aさんは、家主に対しては『原状回復の義務』と言って、退去するときに元の状態に戻すという義務があります。よって、Aさんは自分で家主に対して弁償をしないとならないわけです。その結果、Aさんの部屋の修繕と家財道具の損傷の補償は、Aさんが賃貸の契約をしたときに同時に加入していた火災保険でまかなわれました。火災保険による『失火見舞い費用』も支払われましたが、結局は自分が加入している保険で全部対処した、ということになります。このように、一見、火元と思われる人もまた、被害者であったというケースや、被害者なのに自分で部屋の修繕をしないとならないというケースがあるのです」(穂積さん)「Aさんの事例は非常によくあること」と穂積さんは、賃貸契約の際に、必ず火災保険=『借家人賠償責任保険(特約)』に入るよう、勧めます。「賃貸住宅の契約のときに、『引っ越し費用でお金がないし、火事など出さないから火災保険は入りません』という人もいます。ですが、Aさんは、『もし火災保険に入っていなければ自分はどうなっていたのだろう……』と真っ青な表情で語っていました。また、火災保険は火事ばかりではなく、特約で、水漏れを起こしてしまった場合などの補償があることや、例え隣人が保険に加入していなかった場合でも、自分が加入していれば補償されることも知っておきましょう。掛け金は部屋の広さなどによりますが、2年契約で15,000円~25,000円です」(穂積さん)自分が火元で、「重過失」と認定される例を教えてください。「裁判の判例では、たばこによる失火、天ぷら油を火にかけたまま忘れたことによる失火、電気ストーブや灯油ストーブの火が寝ている間に布団や衣類に燃え移っての失火などがあります。これらでは全面的に自分が責任、弁償の義務を負うことになります。いずれも、大きな火災に結びやすく、また事例も多くあります」(穂積さん)Aさんの件は、「まさに明日はわが身の事例」です。話を聞くにつれ、火事を想像してはぞっとしました。部屋を借りるときには、火災保険料を出し惜しみせずに必ず加入するようにしましょう。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)
2012年10月01日新しい住まいに入居するとき、借り主は貸し主に対し、家賃のほかに「敷金(しききん)・礼金(れいきん)」を支払います。なぜ、それを支払う必要があるのでしょうか。これは法律で決まっている義務なのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーで宅地建物取引主任者である穂積啓子氏にお話をうかがいました。■敷金返還ではトラブルが多発――「敷金」とは何か、について教えてください。穂積さん:敷金とは、賃貸住宅の契約時に、借り主が貸し主(家主)に対して次の2つの事態に備えて支払う金銭のことです。1.借り主による家賃の支払が滞ったとき2.借り主が退去するとき、修繕費用が高額になって支払えなくなったとき貸し主は、借り主が家賃を滞納したとき、この敷金を持って不払い分をまかないます。2の修繕についても同様です。関西など、地域によっては「保証金」とも呼ばれますが、同じことです。金額は、地方、地域などによって違いますが、家賃の1~3カ月分が一般的です。――敷金は、退去時に戻って来るのですか。穂積さん:借り主が家賃をきちんと支払っている、故意や過失による修繕が発生しない場合は、敷金は原則的に全額返金されます。ただし、関西など一部の地域では、「敷引き」と呼んで保証金から一部を差し引いて借り主に返金する習慣があります。この場合は、地域によっては契約更新時に発生する「更新料」はありません。――その敷金返還についてはトラブルが多いと聞きます。穂積さん:「本来は貸し主が負担すべき修繕費を、貸し主が敷金から差し引いて返金する」というトラブルが頻発しています。契約時、「借り主は退去時に原状回復の義務がある」と説明され、契約書に印鑑を押すことになります。ただし、「原状回復」とは、「借りたとき、そのままの状態に戻す」ということではありません。次の2点に該当する場合は、修繕費は貸し主が支払うことになっています。1.経年劣化・自然損耗(そんもう)……時間の経過とともに自然に発生した汚れや傷み、古びれること2.通常損耗……通常、普通に使用することで発生する汚れ、傷み多発するトラブルを懸念して、国土交通省は平成16年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定し、ウェブサイトにアップしています。トラブルになる可能性があるときは、参考にしてください。――「礼金」とはどういう種類の金銭でしょうか。穂積さん:賃貸住宅の契約をするときに、借り主が貸し主に対して「お礼」として家賃の1、2カ月分を支払う金銭のことで、主に、関東方面での慣例です。お礼ですから、敷金のように退去時に返金があるものではありません。その昔、地方から東京へ進学や就職で移転して来た若い人の身内が、家主に「お世話になります」という意味合いで渡した習慣が続いているという説があります。――敷金・礼金・保証金は法律で定められたシステムですか。穂積さん:いいえ、慣習です。ですから、地域によって呼称や内容が違ってきます。特に礼金については、お礼という性質上、あらかじめ金額が指定されているのはおかしいという見解があり、最近は礼金なしの物件も多くあります。UR賃貸住宅、公営住宅では、もともと礼金はありません。――敷金と礼金について気を付けるべきことはありますか。穂積さん:特に、敷金の返戻金はトラブル、訴訟が多いため、契約をする前の「重要事項説明」のときに、疑問や腑(ふ)に落ちないことがあれば重々、確認してください。家賃の何倍が必要か、退去時の返戻金はいくらか、原状回復についての貸し主の考え方など、意識的にチェックをしておきましましょう。――ありがとうございました。敷金と礼金の意味を理解し、借り物である部屋を大切に使用しながら、退去時に契約事項が適切に守られているかどうかに注意したいものです。みなさんは、振り返ってみていかがですか?監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年09月29日新しい住まいに入居するとき、借り主は貸し主に対し、家賃のほかに「敷金(しききん)・礼金(れいきん)」を支払います。なぜ、それを支払う必要があるのでしょうか。これは法律で決まっている義務なのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーで宅地建物取引主任者である穂積啓子氏にお話をうかがいました。■敷金返還ではトラブルが多発――「敷金」とは何か、について教えてください。穂積さん:敷金とは、賃貸住宅の契約時に、借り主が貸し主(家主)に対して次の2つの事態に備えて支払う金銭のことです。1.借り主による家賃の支払が滞ったとき2.借り主が退去するとき、修繕費用が高額になって支払えなくなったとき貸し主は、借り主が家賃を滞納したとき、この敷金を持って不払い分をまかないます。2の修繕についても同様です。関西など、地域によっては「保証金」とも呼ばれますが、同じことです。金額は、地方、地域などによって違いますが、家賃の1~3カ月分が一般的です。――敷金は、退去時に戻って来るのですか。穂積さん:借り主が家賃をきちんと支払っている、故意や過失による修繕が発生しない場合は、敷金は原則的に全額返金されます。ただし、関西など一部の地域では、「敷引き」と呼んで保証金から一部を差し引いて借り主に返金する習慣があります。この場合は、地域によっては契約更新時に発生する「更新料」はありません。――その敷金返還についてはトラブルが多いと聞きます。穂積さん:「本来は貸し主が負担すべき修繕費を、貸し主が敷金から差し引いて返金する」というトラブルが頻発しています。契約時、「借り主は退去時に原状回復の義務がある」と説明され、契約書に印鑑を押すことになります。ただし、「原状回復」とは、「借りたとき、そのままの状態に戻す」ということではありません。次の2点に該当する場合は、修繕費は貸し主が支払うことになっています。1.経年劣化・自然損耗(そんもう)……時間の経過とともに自然に発生した汚れや傷み、古びれること2.通常損耗……通常、普通に使用することで発生する汚れ、傷み多発するトラブルを懸念して、国土交通省は平成16年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定し、ウェブサイトにアップしています。トラブルになる可能性があるときは、参考にしてください。――「礼金」とはどういう種類の金銭でしょうか。穂積さん:賃貸住宅の契約をするときに、借り主が貸し主に対して「お礼」として家賃の1、2カ月分を支払う金銭のことで、主に、関東方面での慣例です。お礼ですから、敷金のように退去時に返金があるものではありません。その昔、地方から東京へ進学や就職で移転して来た若い人の身内が、家主に「お世話になります」という意味合いで渡した習慣が続いているという説があります。――敷金・礼金・保証金は法律で定められたシステムですか。穂積さん:いいえ、慣習です。ですから、地域によって呼称や内容が違ってきます。特に礼金については、お礼という性質上、あらかじめ金額が指定されているのはおかしいという見解があり、最近は礼金なしの物件も多くあります。UR賃貸住宅、公営住宅では、もともと礼金はありません。――敷金と礼金について気を付けるべきことはありますか。穂積さん:特に、敷金の返戻金はトラブル、訴訟が多いため、契約をする前の「重要事項説明」のときに、疑問や腑(ふ)に落ちないことがあれば重々、確認してください。家賃の何倍が必要か、退去時の返戻金はいくらか、原状回復についての貸し主の考え方など、意識的にチェックをしておきましましょう。――ありがとうございました。敷金と礼金の意味を理解し、借り物である部屋を大切に使用しながら、退去時に契約事項が適切に守られているかどうかに注意したいものです。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)
2012年09月28日安くていい物件を探したい……。賃貸の部屋を探す人なら、誰しもそう願うのではないでしょうか。そんな方法はあるのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏にお話を伺いました。■エレベーターがない+和室+古い=カスタマイズ賃貸の登場「安くていい物件?条件を変えてみればいいのです」と話す穂積さんはまず、共益費が安くなるパターンとその理由について紹介します。「賃料が安くなるパターンに、『エレベーターがない物件』があります。賃料には家賃に加えて共益費が別途必要です。共益費とは、ゴミの処理、廊下や玄関回り、照明など共有部分の使用に関する付加利用料のことですが、エレベーターの維持管理費もこれに含まれています。エレベーターがないということは、共益費にその維持管理費が必要ないわけですから、当然、エレベーターがある物件よりも安くなります。おおむね、類似条件のマンションより、3,000円~5,000円は安くなるでしょう。現在の法令では、エレベーターは6階以上の建物には必須ですから、エレベーターがないということは、5階建て以下の建物になります。近年は3~5階建ての物件にも設置されていることが多いので、エレベーターがない=築年数が経っていると想定できます。古いということはベランダがない、浴室では旧式(バランス釜)のガス設備を使っているなどということもありますが、壁紙や廊下、フロアなどの内装がリフォームされている物件も増えています。これらの情報をあらかじめ知っておくと探しやすいでしょう」(穂積さん)また、共益費の金額について穂積さんは、こう説明を加えます。「共益費は、建物1棟にかかる諸経費を居住戸数で割り、1戸あたりの金額を算出します。よって、1フロアーに1戸など戸数が少ない物件より、大型で入居者が多いマンションのほうが安くなる傾向にあります」次に、「和室タイプも安くなる」と穂積さん。「和室だけの物件はこのごろあまり人気がないので、相場より賃料が10~30%ほど低く設定されていることがあります。こちらも築年数が経っているというパターンですが、都会では駅近くや中心地に建つ物件も多く、うまく出合えたら、近隣の相場より20%ほど安く街中に住めるということもあります」(穂積さん)さらに、古い物件を利用した「カスタマイズ賃貸」というスタイルが今、話題を呼んでいます。「平成23年からUR都市機構が募集を始めてその呼称が広がったようです。賃貸住宅でも、入居者が自分の好みでDIYやリフォームをしてもよいという新しい賃貸のスタイルが登場しています。賃料は近隣の相場より安めで、そのうえ、退去時の原状回復の義務がありません。カスタマイズ賃貸は今、20代を中心に人気で、古さを生かしたカフェ風の空間を自分で作る、アートが似合う部屋にするなど、自分好みの空間で暮らせることが魅力につながっていると言います。築年数が古いがために空室が目立つ賃貸住宅で、本来、家主がリフォームするべきところを入居者にゆだね、賃料を下げて自由なライフスタイルを付加するという方法です。UR賃貸では『DIY賃貸』と呼んで募集をかけていますが、2012年9月現在、『DIYのためのプランニング&DIY施行期間』として、家賃3カ月が無料というサービスを展開しています。また、ウェブサイトで『カスタマイズ賃貸』と検索すると、多種多様な情報が出てきます。ただし、この潮流を受けて、新しい部屋でも、『壁紙をあなた好みにカスタマイズできますよ』というサービスを開始した物件もありますので、カスタマイズ賃貸=安いだけ、とは限らないということもあります」穂積さんは、次のアドバイスも加えます。「ほかに、『定期借家(ていきしゃっか)』と言って、期間限定の分譲賃貸住宅なら、同様の住宅にくらべて20%~30%ほど家賃が割安になることがあります」「安い物件を探していたら、たまたまカスタマイズ賃貸というスタイルに出会った」という人が増えてきました。余剰空室に安い予算でうまく楽しく暮らす方法。その動向に注目したいものです。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年09月28日安くていい物件を探したい……。賃貸の部屋を探す人なら、誰しもそう願うのではないでしょうか。そんな方法はあるのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏にお話を伺いました。■エレベーターがない+和室+古い=カスタマイズ賃貸の登場「安くていい物件?条件を変えてみればいいのです」と話す穂積さんはまず、共益費が安くなるパターンとその理由について紹介します。「賃料が安くなるパターンに、『エレベーターがない物件』があります。賃料には家賃に加えて共益費が別途必要です。共益費とは、ゴミの処理、廊下や玄関回り、照明など共有部分の使用に関する付加利用料のことですが、エレベーターの維持管理費もこれに含まれています。エレベーターがないということは、共益費にその維持管理費が必要ないわけですから、当然、エレベーターがある物件よりも安くなります。おおむね、類似条件のマンションより、3,000円~5,000円は安くなるでしょう。現在の法令では、エレベーターは6階以上の建物には必須ですから、エレベーターがないということは、5階建て以下の建物になります。近年は3~5階建ての物件にも設置されていることが多いので、エレベーターがない=築年数が経っていると想定できます。古いということはベランダがない、浴室では旧式(バランス釜)のガス設備を使っているなどということもありますが、壁紙や廊下、フロアなどの内装がリフォームされている物件も増えています。これらの情報をあらかじめ知っておくと探しやすいでしょう」(穂積さん)また、共益費の金額について穂積さんは、こう説明を加えます。「共益費は、建物1棟にかかる諸経費を居住戸数で割り、1戸あたりの金額を算出します。よって、1フロアーに1戸など戸数が少ない物件より、大型で入居者が多いマンションのほうが安くなる傾向にあります」次に、「和室タイプも安くなる」と穂積さん。「和室だけの物件はこのごろあまり人気がないので、相場より賃料が10~30%ほど低く設定されていることがあります。こちらも築年数が経っているというパターンですが、都会では駅近くや中心地に建つ物件も多く、うまく出合えたら、近隣の相場より20%ほど安く街中に住めるということもあります」(穂積さん)さらに、古い物件を利用した「カスタマイズ賃貸」というスタイルが今、話題を呼んでいます。「平成23年からUR都市機構が募集を始めてその呼称が広がったようです。賃貸住宅でも、入居者が自分の好みでDIYやリフォームをしてもよいという新しい賃貸のスタイルが登場しています。賃料は近隣の相場より安めで、そのうえ、退去時の原状回復の義務がありません。カスタマイズ賃貸は今、20代を中心に人気で、古さを生かしたカフェ風の空間を自分で作る、アートが似合う部屋にするなど、自分好みの空間で暮らせることが魅力につながっていると言います。築年数が古いがために空室が目立つ賃貸住宅で、本来、家主がリフォームするべきところを入居者にゆだね、賃料を下げて自由なライフスタイルを付加するという方法です。UR賃貸では『DIY賃貸』と呼んで募集をかけていますが、2012年9月現在、『DIYのためのプランニング&DIY施行期間』として、家賃3カ月が無料というサービスを展開しています。また、ウェブサイトで『カスタマイズ賃貸』と検索すると、多種多様な情報が出てきます。ただし、この潮流を受けて、新しい部屋でも、『壁紙をあなた好みにカスタマイズできますよ』というサービスを開始した物件もありますので、カスタマイズ賃貸=安いだけ、とは限らないということもあります」穂積さんは、次のアドバイスも加えます。「ほかに、『定期借家(ていきしゃっか)』と言って、期間限定の分譲賃貸住宅なら、同様の住宅にくらべて20%~30%ほど家賃が割安になることがあります」「安い物件を探していたら、たまたまカスタマイズ賃貸というスタイルに出会った」という人が増えてきました。余剰空室に安い予算でうまく楽しく暮らす方法。その動向に注目したいものです。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)
2012年09月27日「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーで宅地建物取引主任者である穂積啓子氏に、賃貸住宅の壁のひび割れを発見した、もしくは地震などの自然災害によりできてしまった場合について、どのように対処すればよいのか事例を挙げて説明してもらいました。■<事例1>普通に暮らしていただけで壁にひびが……入居後、3ヵ月ほどして、普通に住んでいるだけなのに、壁にひび割れを発見!すぐに家主に伝えるつもりが、「日ごろから家主の管理の仕方に疑問を持っていた」、「仕事が忙しくて平日の昼間に家主に連絡できない」などの理由で、退去時の2年後に伝えたところ、家主から「壁のひび割れの修理代」を請求されました。穂積さん:壁のひび割れは、借り主が「普通に住んでいるだけ」では、起こりえない現象ですので、通常は、建物自体に原因があるか、近隣で解体工事やビルの新築工事など建築現場がある、地震や台風など天災があった、老朽化が進んでいるということが考えられます。家主が請求したということは、「借り主が故意に損傷を与えた」とみなしたことになるわけですが、上記の理由によって通常はありえないことで、家主の請求は認められず、ひび割れの原因を追及されるまでもなく、この家主の請求は無効であり、悪質な請求であるとみなされます。それ以前に、ひび割れの発生となると家主にとっては大変なことであり、すぐに建物を施工した業者や専門家を呼んで対処法を判断するものです。このケースの場合、借り主は弁護士に相談し、弁護士から家主への申し出によって請求は引き下げられたのですが、借り主の心理的負担に対する慰謝料請求について、借り主は「壁の損傷を見つけた時点ですぐに家主に届けをするべきだった」という点は反省されており、弁護士費用の請求にとどめられました■<事例2>賃料の減額は求められるのか?地震発生と同時に、部屋の一室に壁の端から斜めにひび割れができてしまい、精神的にもうその部屋を使用するのが難しい状態なのですが、すぐに家主に掛け合い、賃料の減額を求めたところ、「自然災害でできた損傷は負担できない」と言われました。穂積さん:「建物の一部の機能、効用が失われた状態」(建物の一部減失)であれば、通常の生活で使用できないため、賃料の減額を請求することができます。減額の金額は、減失した割合によって算出しますが、それには、借り主と家主のお互いの合意が必要となりますし、どれほどの減失かどうかは、専門家の意見を聞き、ひび割れの状況を確認してもらう必要があります。管理会社の担当者か家主と話し合うことになりますが、事前に、市区町村にある相談コーナーや消費生活センターに連絡をして「このような場合、一般的にどう対処しているか」という情報を集めておくと話が進めやすいのですが、合意に至らない場合は、「弁護士に依頼する」あるいは「自分自身で民事調停を起こす」、そこでも合意できなければ「訴訟または弁護士会の調停を利用する」などの方法があります。これらの話し合いが面倒という理由で、借り主は泣き寝入り、移転せざるをえないということが多いのですが、家主が敷金から修理代を差し引いて来たり、修理代を借り主に請求して来た場合は支払う必要はありません。平成16年に国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にはいろいろな事例が明記されています(これはウェブサイトで誰もが閲覧できますので、参考にしてください)。壁のひび割れだけではなく、ドアの傷から水回りの劣化など、住まいに異変があった場合はすぐに管理会社か家主に報告をし、さらに日付入りの写真を撮って渡しておくとよいでしょう。数ヶ月や数年経ってからであったり退去時の報告になると、「借り主が故意に起こした損傷」と受け取られ、敷金返金の際のトラブルに発展することもあります。管理会社や家主に報告することは、けっこう面倒ですよね……。「おたくが壊したのでは?」と疑われそうで、億劫になりますが、「建物を借りている以上、報告をして修繕に協力するのも借り主の一つの義務ですよ」と穂積さん。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年09月19日知らないうちに壁がひび割れている、台風でガラスが破損した……など、賃貸している部屋の欠陥に気付いた場合、どのように対処すればいいのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーで宅地建物取引主任者である穂積啓子氏にお話を伺いました。壁のひび割れについて、穂積さんは事例を挙げて対処法を説明します。■<事例1>普通に暮らしていただけで壁にひびが……入居後、3ヵ月ほどして、普通に住んでいるだけなのに、壁にひび割れを発見!すぐに家主に伝えるつもりが、「日ごろから家主の管理の仕方に疑問を持っていた」、「仕事が忙しくて平日の昼間に家主に連絡できない」などの理由で、退去時の2年後に伝えたところ、家主から「壁のひび割れの修理代」を請求されました。穂積さん:壁のひび割れは、借り主が「普通に住んでいるだけ」では、起こりえない現象ですので、通常は、建物自体に原因があるか、近隣で解体工事やビルの新築工事など建築現場がある、地震や台風など天災があった、老朽化が進んでいるということが考えられます。家主が請求したということは、「借り主が故意に損傷を与えた」とみなしたことになるわけですが、上記の理由によって通常はありえないことで、家主の請求は認められず、ひび割れの原因を追及されるまでもなく、この家主の請求は無効であり、悪質な請求であるとみなされます。それ以前に、ひび割れの発生となると家主にとっては大変なことであり、すぐに建物を施工した業者や専門家を呼んで対処法を判断するものです。このケースの場合、借り主は弁護士に相談し、弁護士から家主への申し出によって請求は引き下げられました。借り主の心理的負担に対する慰謝料請求について、借り主は「壁の損傷を見つけた時点ですぐに家主に届けをするべきだった」という点は反省されており、弁護士費用の請求にとどめられました。■<事例2>賃料の減額は求められるのか?地震発生と同時に、部屋の一室に壁の端から斜めにひび割れができてしまい、精神的にもうその部屋を使用するのが難しい状態なのですが、すぐに家主に掛け合い、賃料の減額を求めたところ、「自然災害でできた損傷は負担できない」と言われました。穂積さん:「建物の一部の機能、効用が失われた状態」(建物の一部減失)であれば、通常の生活で使用できないため、賃料の減額を請求することができます。減額の金額は、減失した割合によって算出しますが、それには、借り主と家主のお互いの合意が必要です。どれほどの減失かどうかは、専門家の意見を聞き、ひび割れの状況を確認してもらう必要があります。管理会社の担当者か家主と話し合うことになりますが、事前に、市区町村にある相談コーナーや消費生活センターに連絡をして「このような場合、一般的にどう対処しているか」という情報を集めておくと話が進めやすいでしょう。合意に至らない場合は、「弁護士に依頼する」あるいは「自分自身で民事調停を起こす」、そこでも合意できなければ「訴訟または弁護士会の調停を利用する」などの方法があります。これらの話し合いが面倒という理由で、借り主は泣き寝入り、移転せざるをえないということが多いのですが、家主が敷金から修理代を差し引いて来たり、修理代を借り主に請求して来た場合は支払う必要はありません。平成16年に国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にはいろいろな事例が明記されています(これはウェブサイトで誰もが閲覧できますので、参考にしてください)」。壁のひび割れだけではなく、ドアの傷から水回りの劣化など、住まいに異変があった場合はすぐに管理会社か家主に報告をし、さらに日付入りの写真を撮って渡しておくとよいでしょう。数ヶ月や数年経ってからであったり退去時の報告になると、「借り主が故意に起こした損傷」と受け取られ、敷金返金の際のトラブルに発展することもあります。管理会社や家主に報告することは、けっこう面倒ですよね……。「おたくが壊したのでは?」と疑われそうで、億劫になりますが、「建物を借りている以上、報告をして修繕に協力するのも借り主の一つの義務ですよ」(穂積さん)であるようです。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)
2012年09月19日国土交通省がまとめた、『平成20年度マンション総合調査』(によると、過去1年間のトラブルの発生状況は、「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」が63.4%と最も多く、そのなかでも「生活音」(37.1%)が1位ということが判明しています。トラブルナンバー1は、つまり「騒音」だったのです。そこで、「快適で安全な女性の一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、詳しいお話を伺いました。■子どもの生活音が裁判で敗訴――統計では「騒音」トラブルが1位とのことですが、管理の現場ではどうなのでしょうか。穂積さん:「騒音」に関する相談は日々、寄せられます。最近の裁判の例として、2012年3月15日に東京地裁で、「上の部屋に住む男児が跳びはねてうるさい」として、階下の夫婦が騒音の差し止めなどを求めた訴訟がありました。裁判では、「我慢の限度を超えている」として、男児の父親に一定以上の騒音を出さないよう、また、夫婦が求めた慰謝料計60万円のほか、妻が頭痛で通院した治療費や騒音測定の費用も請求通り支払うように命じる判決を言い渡しています。このケースでは、業者に依頼して騒音を測定した結果に基づいて、「男児が跳びはねたり走り回ったりする音は生活実感としてかなり大きく聞こえ、相当の頻度であった」と指摘、配慮すべき義務を父親が怠った、と判断されました。これはほんの一例ですが、騒音問題は訴訟に発展するケースも少なくありません。――入居前に騒音トラブルを避けるポイントはありますか。穂積さん:騒音の起こりようには、建物の構造が大きく影響します。木造や鉄骨造(S造)の建物よりも、8階くらいまでの中低層のマンションに多い鉄筋コンクリート造(RC造)や、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の方が頑丈で遮音性が高くなります。室内の音だけでなく、廊下を歩く音、階段の昇り降りの音、話し声が響くかどうかも大きく違ってきます。引っ越しビギナーによくある失敗は、「内見のときは静かだった。こんなに隣の音が響くとは……」と、入居後に気付くというパターンです。騒音が気になる方は、 部屋を探す段階で、「閑静な部屋」という条件を掲げて意識してください。鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建物を選び、より静かな環境を望む場合は、上の階の音が気にならない最上階の角部屋がいいでしょう。――騒音で悩んだとき、どうすればいいでしょうか。穂積さん:隣や階上の住人だと原因が分かっていても、自分で苦情を言いに行くとトラブルになる可能性があるので、まずは管理人、管理会社、家主らに相談してください。おさまらない場合は、騒音を感じた日時、どのような音なのか、何分間続いたのか、ボイスレコーダーで録音するなどして、記録をとってください。相手は「生活の音だ」と主張することがあるので、それに備えて証拠を集め、家主らに伝えましょう。――小さい子どもがいて、こちらが隣近所への騒音になるのでは……と気になります。何かよい方法はありますか。穂積さん:階下が店舗など、入居者がない1・2階の角部屋を選びましょう。また、隣の部屋との壁側にたんすを置くなどのバリアをつくることで、音は緩和されます。階下に住民がいる場合、床素材は、フローリングは高音が響きやすく、カーペットや畳の方が響きにくいということも知っておいてください。子どもは歩幅が小さいので、親にとってはただ歩いているつもりでも、階下の人にはドタンバタンと走り回っているように聞こえるものです。音を吸収しやすい、できるだけ厚手、毛足の長いタイプのカーペットを敷く、床とカーペットの間に防音用のマットを敷くなどの対策を採ることもお勧めします。防音の方法はさまざまありますが、最も大切なことは、「引っ越し時のあいさつ」です。特に子どもやペットがいる場合はいっしょに、少なくとも上下階と両隣の人にあいさつをしておきましょう。騒音トラブルとは、「見知らぬ誰かが出す、得体のしれない音に対し、違和感や脅威、平穏な日常を妨げられることへ怒りや不安がわく」ことから発生します。日ごろからあいさつを交わす関係であれば、「どんな人たちがどのような暮らしをしているのか」が垣間見え、同じ音でもなぜか気にならない、多少は許してあげよう、という気持ちにもなるでしょう。――ありがとうございました。まずは騒音を感じにくい物件を探し、次に、隣近所との良好な関係づくりを心がける。騒音トラブルとは、これだけで相当に避けられるのではないでしょうか。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年09月14日「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、「異臭のトラブル」の事例と対策法についてお話を伺いました。■異臭ベスト3は「腐敗臭」、「ペット臭」、「ゴミ臭」穂積さんはまず、こう説明します。「異臭騒ぎのベスト3は、腐敗臭、ペット臭、ゴミ臭です。臭いを感じたときは、家主か管理会社にすぐに連絡しましょう。家主は、臭いの元と考えられる住人と連絡が取れない場合は、緊急連絡先や連帯保証人に連絡を取って、立ち会いのもとで室内点検をします。お隣からペット臭がする、ゴミ屋敷状態では? など原因が分かる場合は、家主か管理会社に相談することで解決の糸口が見つかることがあります。ですが、家主に言いさえすれば臭いがなくなるというものではありません。ここがつらいところです」■臭いがした日時、様子を記録する「異臭で困るのは、原因が分からない場合です。対処のしようがないわけです」と穂積さん。事例を交えて解説してもらいました。【事例1】原因不明の薬品臭東京都心のマンション11階に住むAさんの話です。「週に2~3回、ベランダの配管付近から薬品の臭いがして、ベランダに出ると気分が悪くなります。洗濯物にその臭いがうつる、ドアを開けることもできないという状態だとか。管理人と営繕係の人が確認に来て、『ベランダの端にある排水管から異臭がするのでは。明らかに○○○(薬品名)の臭いですね。人体に影響はないはず』と、薬品の臭いを指摘したと言います。しかしその後、家主も管理人も、『どこかで誰かが薬品を流しているのでは』とおたおたするだけでほかの住人に確認もせず、なんら解決策をとらないまま『様子を見てほしい』の一点張り。どうしようもなく、窓を閉め切った生活を続けながら移転を考えていたある日、いつもは不在の隣人とばったり会ったので聞いてみると、『きゃーっ、それ私では!?鳩がベランダに集まって来るので、鳩よけの薬をまいているんです!』とのこと。配管は、その隣人側にあったので、臭いがうつっていただけでした。Aさんは隣人と日ごろから会話をする仲だったので、原因が分かってほっとし、隣人はすぐにその薬の使用を中止して大ごとにはならなかったとのこと。近ごろ、この鳩対策については、都会の中心でも大変な問題になっています。薬品臭に心当たりがある人はその可能性も模索してみてください」(穂積さん)。【事例2】床下収納の隙間から不明臭郊外のアパートに住むBさん。「数週間前から室内で腐敗臭がするけれど、大掃除を繰り返してもおさまりません。部屋中をくまなく調べた結果、床下収納の隙間から臭うと判明しました。ある日、隣の部屋の前で何やら同じ臭いがすることに気付きます。家主に相談したところ、『臭いの発生源からして、お隣が原因の可能性が高いですが、お隣と連絡が取れません。しばらくは芳香剤でしのいでください』と言われたとのこと。数日後、家主がお隣の連帯保証人の許可を得て室内に入ったところ、子猫の死骸があったと言います」これらの事例について、穂積さんはこう解説を加えます。「Aさんは、『管理会社を頼っていてもなんら解決できない。根本を解決するには自分で動くしかない』と自ら解決した例です。この姿勢は重要だと思います。Bさんの場合は臭いの発生源は分かっても、すぐの対処が不可能な例です。お隣がゴミ部屋にしたまま夜逃げした、などの例もあります。賃貸契約書には、『火災による延焼を防止する必要がある場合、その他緊急の必要がある場合においては、借主の承諾なく、物件内に立ち入ることができる』という旨の条項があります。家主がそれを実行した事例です。臭いの弊害を被ったまま解決できないのは堪え難いことでしょう。家主に相談すると同時に、自分で情報を集めて解決法を探ってみることも重要です。また、『臭いがした日時とその様子を記録』してください。客観的な事象が見えて来ることがあります。万が一、事件や事故が原因であったり、訴訟問題に発展した際の記録にもなります」(穂積さん)。すぐに解決できる原因から、事件事故までさまざまな原因が想定される異臭問題の場合、まずは家主か管理会社に相談し、なおかつ次の一手を自ら考える必要がありそうです。一方で、自分が臭いのもとにならないように暮らすことも重要だと言えるでしょう。監修:穂積啓子氏。「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年09月14日家賃の未払い、水漏れ、ペット、事件事故……マンションでの生活では、さまざまなトラブルがあると耳にします。では、最も多いトラブルとは何なのでしょうか。国土交通省がまとめた、『平成20年度マンション総合調査』(によると、過去1年間のトラブルの発生状況は、「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」が63.4%と最も多く、そのなかでも「生活音」(37.1%)が1位ということが判明しています。トラブルナンバー1は、つまり「騒音」だったのです。そこで、「快適で安全な女性の一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、詳しいお話を伺いました。■子どもの生活音が裁判で敗訴――統計では「騒音」トラブルが1位とのことですが、管理の現場ではどうなのでしょうか。穂積さん:「騒音」に関する相談は日々、寄せられます。最近の裁判の例として、2012年3月15日に東京地裁で、「上の部屋に住む男児が跳びはねてうるさい」として、階下の夫婦が騒音の差し止めなどを求めた訴訟がありました。裁判では、「我慢の限度を超えている」として、男児の父親に一定以上の騒音を出さないよう、また、夫婦が求めた慰謝料計60万円のほか、妻が頭痛で通院した治療費や騒音測定の費用も請求通り支払うように命じる判決を言い渡しています。このケースでは、業者に依頼して騒音を測定した結果に基づいて、「男児が跳びはねたり走り回ったりする音は生活実感としてかなり大きく聞こえ、相当の頻度であった」と指摘、配慮すべき義務を父親が怠った、と判断されました。これはほんの一例ですが、騒音問題は訴訟に発展するケースも少なくありません。――入居前に騒音トラブルを避けるポイントはありますか。穂積さん:騒音の起こりようには、建物の構造が大きく影響します。木造や鉄骨造(S造)の建物よりも、8階くらいまでの中低層のマンションに多い鉄筋コンクリート造(RC造)や、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の方が頑丈で遮音性が高くなります。室内の音だけでなく、廊下を歩く音、階段の昇り降りの音、話し声が響くかどうかも大きく違ってきます。引っ越しビギナーによくある失敗は、「内見のときは静かだった。こんなに隣の音が響くとは……」と、入居後に気付くというパターンです。騒音が気になる方は、 部屋を探す段階で、「閑静な部屋」という条件を掲げて意識してください。鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建物を選び、より静かな環境を望む場合は、上の階の音が気にならない最上階の角部屋がいいでしょう。――騒音で悩んだとき、どうすればいいでしょうか。穂積さん:隣や階上の住人だと原因が分かっていても、自分で苦情を言いに行くとトラブルになる可能性があるので、まずは管理人、管理会社、家主らに相談してください。おさまらない場合は、騒音を感じた日時、どのような音なのか、何分間続いたのか、ボイスレコーダーで録音するなどして、記録をとってください。相手は「生活の音だ」と主張することがあるので、それに備えて証拠を集め、家主らに伝えましょう。――小さい子どもがいて、こちらが隣近所への騒音になるのでは……と気になります。何かよい方法はありますか。穂積さん:階下が店舗など、入居者がない1・2階の角部屋を選びましょう。また、隣の部屋との壁側にたんすを置くなどのバリアをつくることで、音は緩和されます。階下に住民がいる場合、床素材は、フローリングは高音が響きやすく、カーペットや畳の方が響きにくいということも知っておいてください。子どもは歩幅が小さいので、親にとってはただ歩いているつもりでも、階下の人にはドタンバタンと走り回っているように聞こえるものです。音を吸収しやすい、できるだけ厚手、毛足の長いタイプのカーペットを敷く、床とカーペットの間に防音用のマットを敷くなどの対策を採ることもお勧めします。防音の方法はさまざまありますが、最も大切なことは、「引っ越し時のあいさつ」です。特に子どもやペットがいる場合はいっしょに、少なくとも上下階と両隣の人にあいさつをしておきましょう。騒音トラブルとは、「見知らぬ誰かが出す、得体のしれない音に対し、違和感や脅威、平穏な日常を妨げられることへ怒りや不安がわく」ことから発生します。日ごろからあいさつを交わす関係であれば、「どんな人たちがどのような暮らしをしているのか」が垣間見え、同じ音でもなぜか気にならない、多少は許してあげよう、という気持ちにもなるでしょう。――ありがとうございました。まずは騒音を感じにくい物件を探し、次に、隣近所との良好な関係づくりを心がける。騒音トラブルとは、これだけで相当に避けられるのではないでしょうか。監修:穂積啓子氏「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)
2012年09月14日生ゴミの臭い、何かが腐ったような臭い、トイレの臭い、何か分からないけれど不快な臭いといった「異臭」の数々。自分が発生源ではない、どこか別の部屋から臭ってくる場合、どう対処すればいいのでしょうか。「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、「異臭のトラブル」の事例と対策法についてお話を伺いました。■異臭ベスト3は「腐敗臭」、「ペット臭」、「ゴミ臭」穂積さんはまず、こう説明します。「異臭騒ぎのベスト3は、腐敗臭、ペット臭、ゴミ臭です。臭いを感じたときは、家主か管理会社にすぐに連絡しましょう。家主は、臭いの元と考えられる住人と連絡が取れない場合は、緊急連絡先や連帯保証人に連絡を取って、立ち会いのもとで室内点検をします。お隣からペット臭がする、ゴミ屋敷状態では? など原因が分かる場合は、家主か管理会社に相談することで解決の糸口が見つかることがあります。ですが、家主に言いさえすれば臭いがなくなるというものではありません。ここがつらいところです」■臭いがした日時、様子を記録する「異臭で困るのは、原因が分からない場合です。対処のしようがないわけです」と穂積さん。事例を交えて解説してもらいました。【事例1】原因不明の薬品臭東京都心のマンション11階に住むAさんの話です。「週に2~3回、ベランダの配管付近から薬品の臭いがして、ベランダに出ると気分が悪くなります。洗濯物にその臭いがうつる、ドアを開けることもできないという状態だとか。管理人と営繕係の人が確認に来て、『ベランダの端にある排水管から異臭がするのでは。明らかに○○(薬品名)の臭いですね。人体に影響はないはず』と、薬品の臭いを指摘したと言います。しかしその後、家主も管理人も、『どこかで誰かが薬品を流しているのでは』とおたおたするだけでほかの住人に確認もせず、なんら解決策をとらないまま『様子を見てほしい』の一点張り。どうしようもなく、窓を閉め切った生活を続けながら移転を考えていたある日、いつもは不在の隣人とばったり会ったので聞いてみると、『きゃーっ、それ私では!?鳩がベランダに集まって来るので、鳩よけの薬をまいているんです!』とのこと。配管は、その隣人側にあったので、臭いがうつっていただけでした。Aさんは隣人と日ごろから会話をする仲だったので、原因が分かってほっとし、隣人はすぐにその薬の使用を中止して大ごとにはならなかったとのこと。近ごろ、この鳩対策については、都会の中心でも大変な問題になっています。薬品臭に心当たりがある人はその可能性も模索してみてください」(穂積さん)。【事例2】床下収納の隙間から不明臭郊外のアパートに住むBさん。「数週間前から室内で腐敗臭がするけれど、大掃除を繰り返してもおさまりません。部屋中をくまなく調べた結果、床下収納の隙間から臭うと判明しました。ある日、隣の部屋の前で何やら同じ臭いがすることに気付きます。家主に相談したところ、『臭いの発生源からして、お隣が原因の可能性が高いですが、お隣と連絡が取れません。しばらくは芳香剤でしのいでください』と言われたとのこと。数日後、家主がお隣の連帯保証人の許可を得て室内に入ったところ、子猫の死骸があったと言います」これらの事例について、穂積さんはこう解説を加えます。「Aさんは、『管理会社を頼っていてもなんら解決できない。根本を解決するには自分で動くしかない』と自ら解決した例です。この姿勢は重要だと思います。Bさんの場合は臭いの発生源は分かっても、すぐの対処が不可能な例です。お隣がゴミ部屋にしたまま夜逃げした、などの例もあります。賃貸契約書には、『火災による延焼を防止する必要がある場合、その他緊急の必要がある場合においては、借主の承諾なく、物件内に立ち入ることができる』という旨の条項があります。家主がそれを実行した事例です。臭いの弊害を被ったまま解決できないのは堪え難いことでしょう。家主に相談すると同時に、自分で情報を集めて解決法を探ってみることも重要です。また、『臭いがした日時とその様子を記録』してください。客観的な事象が見えて来ることがあります。万が一、事件や事故が原因であったり、訴訟問題に発展した際の記録にもなります」(穂積さん)。すぐに解決できる原因から、事件事故までさまざまな原因が想定される異臭問題の場合、まずは家主か管理会社に相談し、なおかつ次の一手を自ら考える必要がありそうです。一方で、自分が臭いのもとにならないように暮らすことも重要だと言えるでしょう。監修:穂積啓子氏。「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)
2012年09月14日マンションやアパートを探すときに、「ブラック物件」という言葉を聞いたことはありませんか。いったい、どのような部屋をそう呼ぶのでしょうか。『不動産屋は見た!』(東京書籍)というコミックエッセイで、ブラック物件について説明する主人公のモデルとなった不動産アドバイザー・穂積啓子氏に詳しいお話を聞いてみました。■事件、事故が起こった部屋のこと穂積さんは、ブラック物件についてこう説明します。「ブラック物件とは、事件、事故(自殺、殺人事件、無理心中、放火、孤立死、暴力団事務所、カルト教団などがあって、入居しようとする人が、心理的に嫌悪する可能性がある物件のことを指します。法律用語では『心理的瑕疵(かし)物件』と言います。心理的瑕疵(かし)とは、建物の構造や見た目には問題はなく、環境も良好だとしても、住み心地の良さを欠くという点で不動産に心理的な欠陥があると考えるわけです。このようなブラック物件になった場合、貸主(家主側)は、新しくその部屋を借りようとする人(借り主)に、事前に『それを告知する義務がある』と宅地建物取引業法と民法で定められています。告知義務がある期間は、自殺や殺傷事件の場合は10年間と言われています」言われています、という表現について、穂積さんは、「法律では、告知の期間については決められておらず、これまでの裁判で『10年』という判例があるため、通例的にそうなっています。実際のところ、事件の内容や個人の感覚、事故に関する周辺住民の記憶、当時の報道内容、事故後の物件の使用状況、物件の種類・タイプなど、事例ごとにさまざまのようです」と話します。■誰かが一度住めば、告知義務はなくなるこの告知については、大家にとって「抜け道がある」と穂積さんは言います。「誰かが一度住んで出て行った場合、その後の入居者には、10年未満であっても告知しないでよい、という事例があります。この解釈を悪用する貸主は多く、実際には貸していないのに書面上で身内の名前を使って一度は貸したことにする、という手口です。露呈した場合は違法にあたります」現在、これらの物件が急増しているとして、社会問題にもなっています」では、どのようにしてブラック物件を見抜くことができるのでしょうか。「近隣の相場より格安な部屋を見つけた場合、その理由を必ず業者に聞いてください。また、ブラック物件と知らずに入居した場合、発覚するのは、『近所のうわさで事実を知った』というパターンが多いのです。ですから、近隣のレストランなどお店に入って話を聞いてみるなど、下調べをしておきましょう。また、それらしき情報を耳にしたら、すぐに仲介した不動産業者に真実を確かめて、対応が悪ければ地域の消費者センターに連絡してください」(穂積さん)穂積さんは、次のようなアドバイスも加えます。「一方で、ブラック物件になると、家主は事件や事故に巻き込まれることになり、家賃収入も途絶えて大変困るわけです。ブラック物件は日本中で増えており、いまや、社会問題にもなっています。そこで、あらかじめ告知した上で、おはらいなどを施してから家賃や保証金など条件を改定して借り主を募る家主もいます。また、UR賃貸住宅や公営住宅では、心理的瑕疵(かし)物件であることを公表して家賃を安くしている場合があります」入居してから気付いたのでは遅い、これらの事実。家賃が安めの部屋に遭遇したら、すぐにラッキーだと舞い上がったり即答をせずに、いったん情報を集めるように心がけたいものです。監修:穂積啓子氏。「女性の安全な暮らし」をテーマとして、大阪市中央区を拠点に活動する不動産アドバイザー。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)
2012年06月26日マンションやアパートなどに入居すると、水道代は家主や管理会社、管理組合から請求されることがあります。「それゆえに、水道代から部屋での悪事が露見することがあるんですよ」と話すのは、「女性の安全な暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーの穂積啓子さん。詳しいお話を聞いてみました。■水漏れでない場合は、悪事かも?穂積さんは、水道代で悪事が露見した例をこう話します。「ある高級賃貸マンションのオーナーから、『2カ月前に入居した一人暮らしの会社員さん、水道代が月に5万円を超えているのだけど……』と連絡がありました。『単身者の一般住居』として契約、入居された方です。水漏れにしても使用量が多すぎます。何かあるのでは、と心配しつつ、その方の部屋をお訪ねして、『水漏れでは?部屋の点検をさせてください』とドア越しにお聞きしました。が、ご本人からは、『自分で点検します』、『業者に見てもらったけど大丈夫だった』という返事ばかりで、われわれの点検依頼には応じていただけませんでした。それとは別に、隣近所から、『深夜に騒ぎ声がする』などの苦情もありました。すると3カ月後、その部屋に警察が踏み込んだのです。部屋で、違法の風俗店を営業していたというわけです。トラブルがあったお客が通報したそうです。入居時の『会社員』としての申告は正しかったのですが、夜と週末に、その部屋で副業をしていたとのことでした。ほかに、『不法入国の外国人を複数、住まわせていた』、『レンタルルームや、ホテルのデイサービスのような営業をしていた』、『また貸しをしていた』という事例もあります」一般住居の場合、水道代の半分以上は、トイレと風呂での使用によるというデータがあります。「そうです。ですから、半端ではない水道使用量となったときは、トイレと風呂をそれだけ使用していると考えられます。共同住宅において、水道代を管理会社や家主が入居者に請求する場合、当然、家主側は各入居者の水道使用量と水道代を把握しています。ある入居者が、今月だけその量が跳ね上がっていたり、また、ほかの居住者の平均的使用量に比べて格段に多かったりする場合は、たいてい、『なぜこんなに使っているのかな』という疑問がわきます」(穂積さん)■同せいを始めたら、家主は水道代で気付く水道代が急に上がっている入居者に対しては、「まずは、『トイレの水漏れ』を疑います。入居者が知らないうちに水が漏れているということが時々あるからです。ですから、家主側は入居者に対してその都度、水漏れ点検の依頼など、確認をするようにします。水漏れでない場合は、複数か長期の来客があった、または入居者が増えたのだなと予想します。入居者が1人、2週間だけ増えたとしても、水道代は跳ね上がりますから」と穂積さんは説明を加えます。「何かあるな」と危ぶむのはどういうときですか。「点検の依頼をしたとき、居住者が挙動不審だったり、かたくなに部屋に入ることを拒むなどの反応がある場合は、契約違反になることをされている場合が多いです。例えば、賃貸マンションで単身者入居の契約をしていたけれど、『同せいを始めた』というケースは多いですね。この場合、入居時の契約内容に違反することになりますから、家主か管理会社に通知してください」(穂積さん)同居者ができた場合、家主に伝える必要性について、穂積さんはこう説明します。「例えば、火災が起こったときの事後処理にかかわる、指名手配犯や不法滞留外国人を隠ぺいしているなどということも考えられるわけです。よって、入居者が増える場合は、入居時に誰もが審査を受けるのと同様に、住民票、身分証明書の写し、緊急連絡先などを家主に提示する必要があります。単身者専用住宅でない限り、移転を促されたり家賃がアップすることはありませんので、安全に快適に暮らすためにも、ぜひ通知をしてください」では、身に覚えがない高い水道代を請求された場合はどうすればいいのでしょうか。「すぐに管理会社や家主に連絡してください。業者や水道局が点検に来て、水漏れだと判明した場合は、修理代と、漏れた分の水道代が免除になる場合もあります」(穂積さん)水道代ひとつで、生活の様子や状態が判明するのです、恐るべし、水道代。監修:穂積啓子氏。「女性の安全な暮らし」をテーマとして、大阪市中央区を拠点に活動する不動産アドバイザー。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)
2012年03月18日手ごろな家賃で、広々としたキッチン、ダイニング、お風呂も夢じゃない!?東京や大阪など都会の不動産業界で今、若い世代を中心に話題になっているのがルームシェアやシェアハウスだと言います。シェアする人たちの部屋を紹介する本や、ルームシェア専門の不動産屋も注目を集めています。そこで、ルームシェアに関するアンケート調査を実施し、さらに、「女性の安全な暮らし」をモットーに大阪市中央区を拠点に活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、暮らしの注意点についてうかがいました。調査期間:2011/12/09~2011/12/14アンケート対象:マイナビニュース会員有効回答数 1,000件(ウェブログイン式)■「家賃を折半できる」、「看病し合える」一方で、「けんかが絶えない」、「プライベートがない」「ルームシェアをしたいと思いますか?」という問いに対し、「はい」という回答は193票(19.3%)、それに対し、「ルームシェアをしたことはありますか?」という問いに、「ある」と回答した人は58票(5.8%)でした。では、現実のシェア生活とはどのようなものなのかを聞いてみましょう。「毎日のたわいないおしゃべりは楽しく、またお互いに料理をしたり、体調の悪いときには看病をしあった。なにより、心強かった」(24歳/女性)、「協力して家事などができる。家賃の折半ができるので安い」(31歳/男性)というプラス評価と、「仲が良かった友人とのルームシェアだったのに、何度もけんかして、腹が立つこともあった。また、お風呂に入りたいときに入れなかったりと生活の時間がずれる」(27歳/女性)、「プライベートがあまりない。自分のいびきが気になる」(22歳/女性)とマイナス評価の意見に分かれました。広い部屋に安く住めたり、寂しくなかったりなどのメリットがある一方、自由な時間が減った、プライバシーがなくなったというデメリットを挙げる人が多くいます。■振り分け間取りを選んで、ルールを決めること前述の不動産アドバイザーの穂積さんは、ルームシェアの実際についてこう話します。「基本的には部屋は個人別々で、台所、トイレ、お風呂などは共有、家賃、光熱費などは折半というのが一般的なスタイルです。家賃の節約、安心感など、さまざまな目的でシェアを希望される方が増えていますが、食べ物の恨み、キッチンやベランダなど共有場所の取り合い、掃除好きか苦手かなど、小さなもめごとが原因で大きなトラブルに発展するケースも多々あります」なんでも、トラブルの元は、「排水溝にたまった髪の毛の掃除をどちらがするか、エアコンをどっちが多く使っているか、ゴミ出しをどちらが多く担っているか、お金にきちんとしているか細かいか、アバウトかなど、日常生活のあらゆる場面にあります」と穂積さん。では、トラブルを避けるためにはどうすればいいのでしょうか。「まず、部屋を選ぶときに、『振り分け間取りを選ぶ』ことが重要です。お互いの部屋を通ることなく、キッチンやトイレに行ける間取りのことです。一定のプライバシーを保つために重要でしょう。また、暮らし始める前に二人で『シェアのルール』を決めて、紙に書き出してお互いに持っておいたり、目立つ場所に張り出しておくことが大切です。管理会社や大家さん、つまり第三者にも渡しておくとよい緊張感が生まれ、安心できるでしょう。守らなければ1,000円を共同貯金箱に入れるなど、ペナルティールールを加えると、より効果的です。さらに、どちらかが相手に無断で出て行ってしまい、後の家賃や水道光熱費の支払いに困ったというケースも多々あります。それらのトラブルに備え、あらかじめ、10万円ほどをお互いの親や家族に渡しておくなどの方法をお勧めしています。ルームシェアでは、価値観やこれまでの生活環境が違う人と暮らすのだからもめることもある、ということをしっかりと認識しておきましょう」(穂積さん)また、ルームシェアの増加の一因について、穂積さんは、「不動産不況下、空き部屋ばかりの古いマンションや大型の家を誰にどのように貸そうか、と考えたところ、外国のシェアハウスのまねをして首都圏郊外で試してみるとウケた、という実情があります。そういう社会的背景があることを知った上で、賢く、自分にとって有益な借り方を考えましょう」と説明します。楽しく有益なルームシェアライフを送るためにも、事前にトラブルの元を想定しておくという心構えが必要といえそうです。監修:穂積啓子氏。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)
2012年02月01日新しい部屋に移転が決まった。さあ、引っ越し!でもその前に、これまでの部屋を家主に明け渡すという一大作業が……。退去時、敷金の返金や部屋の修理代、鍵の取り換え代、ハウスクリーニング代などについてのトラブルは日常茶飯事だといいます。そこで、「女性の安全な暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、「退去時に多いトラブル・ベスト3」をお聞きし、その現状と対策についてうかがいました。■トラブル1・退去する日の予告日に注意主に20~35歳の世代に一番多い退去時のトラブルナンバー1について、穂積さんは次のように説明します。「何と言っても、『家主への退去日の通知』に関することです。借主は、退去する日について事前に、契約書に記されている『退去の予告期限』までに、家主か管理会社(貸主)に通知しなければなりません。住居の場合は、『退去通告は1カ月前までに』というのが一般的ですが、注意しなくてはならないのが、契約書によって、『月の途中での解約は認めない』などと記載されている場合です。例えば、5月2日に退去する場合でも、5月31日まで家賃が発生してしまうということです。たまに、今日連絡して明日解約できると思っている人もいます。そうなると1カ月以上分の家賃が発生してしまいます。また、家主側から、『6カ月以上前に通知をすること』というような契約書が渡されていたら、その申し出は消費者契約法に違反することもありますので、地域の消費生活センターに問い合わせるなど、対処をしてください。引っ越しを決めたら、まずは契約書を見て、『退去や解約予告の通知日』について正しく把握してから移転プランを立てるのが得策です」■トラブル2・原状回復について2番目に多いトラブルとは、「借主が、退去をするときに、『入居時の状態に戻す=原状回復を行う義務がある』という取り決めの解釈についてです」と言う穂積さん。続けて、こう説明します。「借主は原状回復をどこまでするか、という点が疑問に感じるかと思います。普通に暮らしていて、年月とともに当然生じる自然損耗や汚損は、借主が負担する必要はありません。国土交通省(旧建設省)や地方自治体などでガイドラインが定められています。例えば、次の事項などは、家主側が負担するべきものです。・日照による自然損耗(そんもう)、経年や通常使用による汚損(おそん)や破損、劣化したクロスや壁紙、畳、フローリング、ふすまなどの張り替え・同様の理由で劣化、毀損(きそん)した風呂釜、給湯器、キッチン設備などの交換・画びょうなどで空いた軽微な穴の補修・鍵の取り換えただし、これらの汚損が、『借主の不注意で著しく汚損した場合』は、借主が原状回復させる義務があります。料金明細を出された上で、敷金から差し引かれることになります。退去時に家主や管理会社が立ち会って室内を点検しますが、そのときに『どう考えても自然損耗であるのに、一方的に借主側の責任と言われ、高圧的な態度で確認書類に署名をさせられた』などと、泣き寝入りしてしまうケースもあると聞きます。そんな事態を避けるためには、次のような入居時の心構えこそがトラブル予防につながります。・入居時から1週間以内に、部屋全体、それに壁紙、インドア、バスルーム、トイレ、フローリングやカーペットなどの細部の写真を撮っておきましょう。特に、経年劣化している柱や窓のサン、通常の掃除ではとれない水まわりの汚れ、カビ、フローリングの小さな穴などには要注意です。汚れなどがあれば、家主と管理会社に写真を送っておきましょう。・キッチンやバスルーム、トイレなど水まわりは要チェック。水の出方が悪い、おかしいなど違和感がある場合は、「こんなものか」と見過ごさないで、すぐに家主側に連絡をします。合わせて、何年何月何日にそのことを告げたこと、家主の返答内容などの記録をしておきましょう。・入居中でも、部屋に異変があれば、同様にすぐに家主側に知らせて記録をしておきましょう。・何らかの違和感を覚えることがあれば、家族や上司に伝えておきましょう。その上で、退去時の室内点検には、家族や上司に頼んでいっしょに立ち会ってもらいましょう。第三者による冷静な判断があると、比較的トラブルは避けることができます。・必ず自分で立ち会い、汚れなどについては自ら理由を説明しましょう。家主と時間的都合が合わず、家主から『こちらで見て後で連絡する』と言われることがありますが、これはトラブルのもとです。経年劣化であれば、その旨を主張するようにしてください。いずれにしても、納得がいかない高額の請求をされた場合は、泣き寝入りをせずに、弁護士や司法書士、消費生活センターなどに相談をしてください」■トラブル3・敷金返納について入居時に預けた敷金はいつ、いくら戻ってくるのか、これが一番不安な点です。穂積さんは次のように話します。「トラブルになりやすいのは、『鍵の交換代』と『ハウスクリーニング代』を請求された、ということです。この2つは、家主側が負担すべきものです。国土交通省のガイドラインでは、借主に負担を負わせる特約については、借主側が負担すべき理由があってそれを認識していること、借主が義務負担の意志表示をしていることの要件を満たしていなければならないことになっています。契約書に明記されていたとしても、2001年4月以降の契約であれば、消費者契約法により、ハウスクリーニングの特約(特別な条件の約束事項)が認められる可能性はほとんどないでしょう。請求された場合はそれらを説明し、『支払う義務はない』と伝えるとよいでしょう。ただし、これらは、普通に掃除をしていた場合に主張できることです。汚部屋にしていた、結露もカビも何年も放ったままだったなど、借主の過度の怠慢や過失、または故意による汚損については、ハウスクリーニング代ほか、弁償の義務は発生します。例えば、タバコのヤニ汚れは、通常はクリーニングで除去できるものですので、家主側の負担です。ですが、畳やカーペット、クロスに焦げ跡をつけたとなると借主の不注意とみなされ、借主の負担とするのが通常です。敷金が戻ってくる時期は、通常、『退去日から2~3週間以内に明細書が届き、双方が合意に達すれば、1カ月で送金』となります。退去時にその日にちの確認をする、3週間たっても明細が届かない、1カ月たっても支払いがないなどの場合は、必ず、電話で問い合わせをしましょう。『催促されないと払わない』という家主はとても多いのです。放っておくと払われないことになりかねません」最後に穂積さんは、こうアドバイスします。「契約前に仲介業者から受ける『重要事項説明』の内容をきちんと聞き、さらに契約書をよく読み、特約に何が書いてあるのか確認してください。退去予告、原状回復、敷金の返還などの記述について重々確認し、内容が納得できなければ、そのような物件とは契約しないようにするのが一番のトラブル回避となるでしょう。また、『契約書をなくした』という人も多いのですが、これは論外。確認はおろか、家主にはずさんだと判断されます。大切に保管しておきましょう」何を隠そう、筆者もつい先日の退去時に、ハウスクリーニング代を52,500円も敷金から引かれてしまったばかり。これらの知識、情報を持ち得なかったので、泣く泣く払ってしまいました。悔しい!こういうことにならないように、最後までしっかり考えて、大切な契約に臨みたいものです。参考行政法人国民生活センター賃貸住宅の退去時に伴う原状回復に関するトラブル東京都賃貸住宅トラブル防止ガイドライン大阪府賃貸退去時のトラブル―原状回復問題―監修:穂積啓子氏。「女性の安全な暮らし」をテーマとして、大阪市中央区を拠点に活動する不動産アドバイザー。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(藤井空/ユンブル)【関連リンク】【コラム】検証!部屋探し術。ゼロゼロ物件のここに注意【コラム】家賃1万円で意外と快適!?社員寮の実態を調べてみた【コラム】一人暮らしの部屋探し!何を一番重視する?
2011年12月13日ひとり暮らしを始めたい、通勤に便利な沿線に引っ越しをしたいと思っても、敷金礼金の初期費用を考えるとそう簡単には実行できません。そこで、敷金ゼロ円、礼金ゼロ円のいわゆる「ゼロゼロ物件」をチェックすることも多いのではないでしょうか。でも、敷金礼金が数十万円になる物件が多い中、なぜゼロゼロが成立するのでしょうか。もしやトラブルでも……と身構えてしまうこともあります。ここで、「女性の安全な暮らし」をモットーに大阪市中央区を拠点に活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、ゼロゼロ物件選びの注意点についてうかがいました。■敷金礼金以外の加算費用に注意――なぜ敷金や礼金がゼロの物件があるのでしょうか。穂積さん「これが今、流行している背景のひとつには、借り手市場ということがあげられます。バブル期にどんどんアパートやマンションが建設されたのは周知の事実ですが、不況になった今でも不労収入(家賃収入)で安定した生活を送りたいとあこがれる人が多く、マンションの建設数は増えています。そのため、特に設備などが古いマンションは空き室率が高い状態です。そこで、敷金礼金をゼロにしてでも早く誰かに部屋を貸して、空き室を減らしたいと考える大家さんが増えたのです」――ではゼロゼロ物件は借り手にとって、お得な物件ということですか。穂積さん「いいえ、必ずしもそうとは言えません。ゼロゼロ物件には気を付けないといけないこともあります。例えば、敷金礼金がゼロでも、敷金礼金以外の費用が請求されるところにゼロゼロ物件のカラクリがあります。敷金、礼金はゼロでも、契約時には仲介手数料、前家賃、日割り家賃、火災保険料、共益費も必要です。本来は大家さんが負担すべき鍵の交換費用数万円を借り主が負担したり、短期で退去した場合、家賃の1~2カ月分を違約金として請求される場合などがあります。礼金は本来、部屋を退去するときに、経年による破損や汚損(おそん)部分の原状回復費用にあてられるものですが、ゼロゼロ物件の場合、退去するときは部屋の原状回復費用を実費で請求されることも多いので、想定外の出費がかかることがあるんです。さらに、ゼロゼロ物件では保証人のほかに、保証会社に入ることを条件にしている場合もあります。その保証料は会社によって異なりますが、初回に家賃と共益費の50%、1年ごとの契約更新料が10,000円~20,000円というシステムが一般的です」■契約前に「重要事項説明」をチェック――ゼロゼロ物件を借りるときの注意点を教えてください。穂積さん「不動産仲介業者は、借り主に対して賃貸借契約締結前に『重要事項説明』を行うことが法律で義務付けられています。この内容は書面によるもので、契約条件のほかに、原状回復費用の負担区分、登記簿事項、違約金条項、部屋の用途、居住人数、ペットは可かどうかまで、こと細かに書かれています。特に敷金礼金がゼロの物件では、『退去するときの原状回復を誰がするか』を必ずチェックし、それについて納得してから契約をするようにしてください。もし、それらの取り決めについて触れていなかったり、表現があいまいだったりした場合、また、これ以外でも納得がいかないときには契約を考え直すことが大切だと思います」(穂積さん)。――ゼロゼロ物件の大家さんは、入居者をどう見ているのでしょう。穂積さん「ゼロゼロ物件は初期費用が通常よりも少なくて済むので、『家賃は絶対に滞納しない』、『部屋を壊さずキレイに使う自信がある』という入居者には魅力的なシステムです。ただし大家さんからすると、敷金は家賃を滞納されたときに補てんする役割でもあります。ゼロゼロで部屋を貸す場合はその預かり金となる敷金を受け取れないため、『この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるだろうか』と滞納されることを常に心配しなくてはなりません。ネットなどでよくうわさになるゼロゼロ物件のトラブルとして、『家賃を3日滞納したら、勝手に鍵を替えられて部屋を追い出された』という話がありますが、これは人道的には許されることではないでしょう。しかし、貸し主側の立場からすれば、家賃滞納は迷惑行為です。『家賃を滞納する入居者』に対しては、即刻督促をすることになります。ゼロゼロ物件を借りるにしても、財布が苦しいときなど、いざというときのために1~2カ月分の家賃代金くらいは貯蓄しておいたほうが安心でしょう」と穂積さんは続けます。ゼロゼロだからといって、貯金もゼロゼロではいざというときに困るというわけです。預金通帳のけた数のゼロを増やすことも大切かもしれません。監修:穂積啓子氏。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(下関崇子/ユンブル)【関連リンク】【コラム】検証!部屋探し術。管理がよい物件を選ぶポイントとは【コラム】全然気にしないならアリ!?「事故物件」の探し方【コラム】フリーターですが、家買えますか?
2011年10月28日物騒な事件が多いこのごろ、ひとり暮らしを始めるのでできるだけ管理のよい物件を見つけたい……。引っ越しビギナーにとって、部屋探しに不安はつきものです。そこで、大阪市中央区で「女性の安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏にアドバイスをお願いしました。■共用部分を見れば管理状態が分かる「管理が行き届いた物件を見抜くポイント」について、穂積さんは、「建物の内側と外側の両面をチェックする視点を持つようにしてください。すると、家主や管理会社の姿勢が透けて見えることがあります」と話します。仲介をする不動産屋さんに新しい部屋を案内してもらうときには、営業の人と部屋に直行することになりますが、その際に、「部屋ばかりに気を取られる人が多いようですが、実は外観やその周囲をぬかりなくチェックすると、その物件の管理状態を感じ取ることができます」と穂積さん。なぜなら、「部屋に到達するまでには、玄関や集合ポスト、エレベーター、廊下などの共用部分を通りますから、意識を高く持ってそのあたりからチェックをしていきます」と穂積さん。また、「共用部分のありかたは共益費に反映されるということを知っておいてください」とも。一般的に、賃貸マンションやアパートでの毎月の住居費は、「家賃+共益費」を支払うことになります。共益費は、ごみ処理、清掃、エレベーターの保守点検、照明のつけかえなど、共用部分の管理代に適用されます。「不動産屋さんに仲介してもらうにあたっては、家賃、共益費、所在地、広さ、階数、間取りなど、部屋の概要について明記された書類が手渡されます。そこに家賃だけの表示がある場合は、共益費は家賃に含まれているということです。不明な場合は、『共益費はどうなっていますか?』と不動産屋さんに確認しておくとよいでしょう」と穂積さん。■最大ポイントは、きちんと清掃されているかどうかマンションやアパートなどの共同住宅にとって、「共用部分」とは、次の場所を指します。・建物の玄関とその周囲・集合ポスト・エレベーターホール・エレベーター・廊下・階段・壁や天井・ごみ置き場・自転車置き場・植え込みや庭などさらに、・部屋の玄関扉・ベランダも共用部分になります。「共用部分をチェックする最大のポイントは、『きちんと清掃されているかどうか』です。築年数が新しい古いにかかわらず、管理状態というのは、共用部分の清潔感に反映されることが多々あります。例えば、集合ポストが壊れている、チラシが散乱している、落書きがある、タバコの吸い殻のポイ捨てがある、掲示板に期間切れ告知の張り紙がある、廊下がほこりだらけ、天井や壁に雨漏りのしみ、自転車置き場やごみ置き場が乱雑、電球が切れている、エレベーターの押しボタンが破損しているなど、清潔感に乏しいと感じる場合は、きちんと管理されていない、入居者もルーズな人が多いと想定することができます」(穂積さん)また、「管理がずさんそうである場合は、入居後に、家主や管理会社、近隣とのトラブルが発生する確率が高いと判断したほうが無難でしょう」とアドバイスをします。■共用部分からは、家主の防犯意識も見てとれるもう一つの視点として、「共用部分には、家主や管理会社の防犯意識が反映される」とか。「外から人が立ち入りやすい、階段の踊り場や廊下に人が隠れやすい、自分の部屋の玄関が外から見て死角になっている、ベランダから侵入されやすい、道路に面していて外からのぞかれやすい、そんなことはないか、建物のつくりをチェックしてください。仲介のためにお客さまを現地へ案内するとき、特に部屋探しのビギナーさんの場合は、これら防犯への意識が低いことが多いんです」と穂積さんは注意を促します。■道路や線路に面していないかさらに、騒音についてもチェックが必要だと言います。「ベランダが大きな道路や線路に面している場合は、必ず、車や電車の騒音が響くと考えてください。同時に、部屋を内見するときにはベランダを開け放って、どの程度の音がするのかを十分に確認してください。入居後に、『あんなに車の音が響くとは知らなかった!』という不快な思いをする場合がありますから。もっと言うと、大型車や電車が通るたびに振動で部屋が揺れたり、自動車や電車が放つ電波でパソコンや携帯電話に弊害をもたらすことがあります。必ずその部屋から、携帯電話や無線LANが正しく使えるかどうかを確認してください。そういう立地で優良な物件の場合は、二重窓になっています。窓を開けると音は響きますが、閉めるとほぼ音がしないというパターンも多くあります。それで許容範囲かどうか、自分で確かめるようにしましょう」と穂積さんは念を押します。■1階がコンビニ、飲食店などの場合は防犯に注意1階が飲食店、コンビニ、何かのショップ、という物件には、「どのような業種で、営業時間は何時(いつ)までで、お客さんはどういう人たちなのかをチェックしてください。コンビニは便利だと考えがちですが、24時間、電気が明々とついていて窓越しの光で不眠に陥る、深夜に人の出入りが多くてかえって物騒だということがあります。店の前や駐車場に車やバイクが集まるので頻繁にエンジン音がしたり、大声で話をされて騒々しいことも。特に深夜の物音、話し声は階上によく響くんです。それらが自分の生活にどう影響しそうなのかを想像してみることが大切です」(穂積さん)飲食店が入居する物件は、ゴキブリなどの害虫が排水管を通って階上の部屋に侵入することがあります。また、店に出入りするお客さんの様子などを知るために、あらかじめ店を利用してみるなど、「なにごとも入念な下見が重要」だと言います。また、不動産屋さんに案内される際には、店から物件まで車で移動することが多いものですが、「街の様子は、昼と夜ではまったく違い、昼には気付かなかった風俗店が夜から明け方まで開店しているということもあります。入居を決める前には物件から駅まで歩き、周囲を散策してください。昼だけでなく、自分の通勤時間帯、特に遅く帰るときなどを想定し、必ず夜も歩いてください。時間によって変化する街の様子が分かります。自転車での移動が多い人は、後日に自転車で走ってみてください。また、できるだけ、引っ越し後の生活をシミュレーションしておくと意外なメリット、デメリットを発見できる」と穂積さんは強調します。お話を聞くうちに、共用部分には、家主や管理会社がその建物を大事にしているかどうかが反映され、そのことは自分の生活に直接的な影響を受けるのだと気付きました。次の部屋探しのときには、間取りや設備など見た目だけではなく、心豊かな生活が送れるかどうかを想像しながらチェックしようと思います。監修:穂積啓子氏。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(海野愛子/ユンブル)【関連リンク】【コラム】女子の一人暮らしは危険だらけ!マンションでチカンが潜む場所は【コラム】マンションライフのトラブルナンバーワンとは?【コラム】部屋から下着がなくなる……犯人はあのヒトだった!
2011年09月29日平穏無事な日々の暮らし……、でも、生活のトラブルとはある日突然にやってくるもの。いつ巻き込まれるかは分かりません。国土交通省がまとめた、『平成20年度マンション総合調査』(によると、過去1年間のトラブルの発生状況は、「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」が63.4%と最も多く、次いで「建物の不具合に係るもの」が36.8%、「費用負担に係るもの」が32.0%とあります。「特にトラブルは発生していない」は22.3%に過ぎず、実に8割近くの人に1年の間で何らかのトラブルが起こっているという結果です。そして、一番多く発生した「居住者間の行為、マナー」の具体的なトラブルの内容は、「生活音」。これがなんと37.1%も占めています。マンションのトラブルナンバーワンは、「騒音」だったのです。ここで、「快適で安全な女性の一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、「マンションの騒音トラブル」についてお話をうかがいました。■苦情は管理会社や管理人さんに相談を――そもそも、生活に音はつきもので、どこまでが生活音でどこからが騒音なのかは人それぞれの感覚によることが多いように思いますが……。穂積さん「そうですね。生活音は人によって感じ方もいろいろですし、近隣の住人との人間関係の悪化が原因で、その住人が出す音に対しては特に神経質に反応してしまう場合もあります」――騒音に対する苦情を伝えたいけれど、相手ともめ事にならないようにするには、どうすればいいでしょうか。穂積さん「苦情を相手に直接伝えるとトラブルとなりやすいので、まずは建物の管理会社や管理人さんに相談してください。彼らのほうで掲示板に張り紙をするとか、誰からの苦情だとは告げないでさりげなく注意をするなど、対処をしてくれるはずです。まずは騒音の元となっている人に対して、間接的に『騒音が発生している』ということを伝えることですね」■騒音が発生したら、詳細を記録して録音する――それでも改善されないと感じる場合、どうすればいいでしょうか。穂積さん「3日~1週間ほど様子を見て、まだ騒音がおさまらないようなら、騒音の詳細を記録してください。『日時』、『音の内容』、『継続時間』、『音量の程度』などを具体的にメモします。ボイスレコーダーなどで録音するのが一番いいですね。管理会社への報告や、警察へ通報するようなことに発展した場合の証拠になります。また、騒音を起こしている人にすれば、近所の住人が記録をしていると知った場合、騒音発生の抑制になるかもしれません」――実際に訴訟になることもあるのですか。穂積さん「もちろん、ありますよ。平穏な生活や安眠を妨害する騒音トラブルがこじれることはよくあります。ですが、お互いさまの音や一過性の音である場合がほとんどなので、われわれのもとに寄せられる苦情の数の割には裁判に発展することはそう多くはないようです。過去に、上の階の住人の生活音に耐えられず、上の階の住人に対して、フローリングの床をじゅうたんに変更することを求めた裁判では、『受忍限度内である』として請求を退けた判例が多数あります。もちろん、慰謝料が認定されたケースもあります」――受忍限度とはどういう意味ですか。穂積さん「受忍限度とは、社会生活をする上で、一般的に我慢することを求められる限界点です。家庭で起こる騒音に関する法律上の規制基準はありませんが、条例で規制基準を定めている自治体もあります。規制の基準がない場合では、被害の内容や程度を中心に、トラブルのケースごとに受忍限度を判断せざるを得ないのです。受忍限度内かどうかを判断する要素では、被害の内容が最も重視されます。生命や健康といった体に被害を及ぼす場合は、原則として受忍限度を超えて違法であると判断されます」■トラブルを防ぐカギは「ご近所コミュニケーション」――こうしたトラブルを予防する方法はありますか。穂積さん「例えば、家族や友人、好きな人、ペットが何かをしている音は特に気にならないものですよね。ここに解決の糸口があります。引っ越しの際に、両隣と上下階、管理人さんたちにあいさつをするだけでその後のトラブルを避けることができます。日ごろから、廊下などですれ違ったら声を掛け合うなど、コミュニケーションをとっておくことがなにより大事なのです。お隣さんは五人家族だな、幼い子どもがいるな、早寝早起きなんだな、など、どんな人たちがどのような暮らしをしているのかが見えると、なぜか気にならない。度が過ぎても謝罪があれば許す、という考え方に向くようになるでしょう。特に、マンションやアパートの場合は、『共同住宅』です。共同で一つの建物に暮らしていると認識して、近隣の人たちとできるだけ仲良くしておくことがトラブル回避の最大ポイントです」生活音と騒音の差は紙一重。人によってとらえ方が違うからこそ、トラブルのもとになるようです。くつろぐための場所である家や部屋が、トラブル続きで心休まらないのは本末転倒。日々の暮らしを快適に過ごすためにも、トラブルは避けたいものです。監修:穂積啓子氏。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)【関連リンク】【コラム】部屋から下着がなくなる……犯人はあのヒトだった!【コラム】女子の一人暮らしは危険だらけ!マンションでチカンが潜む場所は【コラム】知られざるタワーマンション生活!高層階住民の声を集めてみた
2011年06月21日26歳のある女性が証言します。「最近、部屋に誰かが入ってきているような気配があるのよ。冷蔵庫からビールが無くなっている感じがして」ええっーそれはタイヘン!「同じような経験があるけど、気のせい?」と思っているあなた、すぐに対処しないとなりません。留守の間に見知らぬ誰かが侵入して少しずつ下着やモノを盗んでいるなんて事件は日常的に起こっているのですから……。写真:(C)朝日奈ゆか、東條さち子『不動産屋は見た!』(東京書籍)より■頻繁に起こっている女性の部屋への侵入事件昨年末、新聞やウェブサイトに、「下着ドロの正体は大手住宅メーカー社員合鍵を悪用」というニュースが流れました。さらに、産経新聞によると「衝撃事件の核心」というテーマで特集記事を組んでおり、それには、「犯人の不動産会社社員はアパートの全部屋を開けることができるマスターキーを持ち、女性の部屋を狙って7年も前から同じ手口で犯行を繰り返していた」とあります。では、「部屋に不審者が!?」と感じたときにはどうすればいいのでしょうか。防犯は可能なのでしょうか。「女性の安全な暮らし」をテーマに大阪市中央区を中心に活躍する不動産アドバイザーの穂積啓子さんにお話を聞きました。「実は、この手の犯罪は意外に多いのですよ。女性が新しく入居するということが決まると、盗撮カメラを取り付けた、盗聴器を忍ばせていたというパターンもよくあります」と、事件が頻繁に起こるわりには最近は注目もされなくなっている、ということを懸念します。実際、先のニュースでは、「この事件は氷山の一角。不動産会社の社員による合鍵を使った犯罪は全国的に後を絶たない」と書かれていました。■犯人は大家だった!大家の息子だった!「衝撃的な犯人像は、ほかにこんな例があります」と穂積氏は続けます。「下着がなくなるのを不審に思った入居者が、自分で部屋に隠しカメラを取り付けて撮影したところ、写っていた犯人はなんと、大家だった、という事件もありました。大家さんはマンションの最上階に住んでいることが多く、その気になれば、入居者の出入りや行動パターンを把握しやすいのです。会社員の場合、平日は朝から晩まで留守にするでしょう。そう、見られているのですよ」ううっ、大家が留守中に合鍵を使って侵入するなんて。「大家の息子が犯人だった、という例も多々あります。この場合、親である大家さんはうすうす気づいていたそうです。息子が合鍵を使って何かよからぬことをしているのじゃないか、と。それでも注意も告発もできず、事件にいたったというパターンですよ」(穂積さん)そんなことがあっていいのでしょうか……。当然、どこの大家さんも合鍵を持っています。その家族が手にすることもあるでしょう。防ぎようがないではないですか。■犯人は前の住人だった……犯人のパターンはほかにもあります。「入居者が変わるときに、鍵を取り換えるのが当然のルールですが、それをしない家主もいます。ということは、前の住人がその鍵でいつでも入れる、ということでしょう。自分の次の入居者が若い女性の一人暮らしだと知って侵入した、という事件もあります。それに、引っ越し前にその情報が入れば、部屋に盗撮カメラを仕込んでおくことは簡単でしょう」と穂積さん。「前の住人の彼氏が犯人だった、ということもありましたよ。前の住人さんが彼氏に合鍵を渡していたのですよね。別れたあとも」(穂積さん)別れた相手が合鍵を処分したかどうか。なかなか確認できせんね。後々トラブルの元になることがあるそうです。■あなたの部屋の合鍵は、誰かが必ず持っている不動産屋、管理会社、大家、前の住人。これらの人たちはみな、合鍵を持っています。それに、穂積さんは「マンションやアパートなど集合住宅というのは、すべての住戸の鍵を開けることができるマスターキーというものが存在するのです。今やこういう犯罪が起こるたびに報道されていますが、まだそのことを知らない人は多いようですね」と説明します。「つまり、集合住宅に住んでいる限り、ほかの誰かもあなたの部屋の鍵を持っているということです。まずは、それを知っておいてください」(穂積さん)はい、今後はキモに銘じます。でも、防犯の手だてはあるのでしょうか。「入居のときに必ず、『鍵は取り換えたかどうか』を確認してください。これで前の住人とその関係者の侵入は防げます。また、『ほか合鍵はどなたが何本持っていらっしゃるのでしょうか』という確認も必要です。これまで、暗黙の了解でお客さんには合鍵の存在を告げない管理会社がほとんどでした。が、今やもう、こんなに危ない事件が頻発する時代です。鍵の所在確認はあたりまえですよ」合鍵がどこに所在するのかという確認は、大家や管理会社に「防犯意識の高い人だな」という印象を与えるでしょう。けん制の効果があるかもしれません。過去には、管理会社の幹部が合鍵を使って女子大生の部屋に侵入し、性的暴行を加えた上に殺してしまったという事件もあり、大ニュースになりました。「仕事上の立場を利用した卑劣極まりない行為です。許せません。不動産屋、管理会社、大家も信用できないということです」とわれわれ一般入居者の意見を代弁する穂積氏。「少しでも『誰かに侵入されているのでは』と感じたら、家族や友人、上司ら信用できる人か、警察に相談してください。放置しておくと下着ドロではすまない事態に発展しますよ!」と続けます。何より、自分から家族以外の人に合鍵を渡したりしないこと。彼氏はもとより、友達や職場の人でも同様です。いつ自分の身に起こりえるか分からない悪質な事件。もし遭遇してしまっても、びびっている場合ではありません。自分の身は自分で守ろうという防犯意識を今一度、高めようではありませんか。(品川緑/ユンブル)【関連リンク】【コラム】男性の皆さん、女性の「チラ見え下着」ってどう?【コラム】「自分に気があるのかも」と勘違いしてしまった異性の行動【コラム】これってうちだけ!?わが家のちょっとおかしな習慣
2011年06月02日「チカンは犯罪!」、「チカンはアカン!」などの看板を見ると、電車や路上でのことと思いがち。でも、警察庁発表の『平成18年度犯罪統計書』によると、「チカン事件の約2割は住居と駐車場、駐輪場で発生。また約4割が20時から翌2時の間に起こっている」そうです。こ、こわい……。そこで、大阪市中央区で「女性の安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザー・穂積啓子氏に、「マンション内に出没するチカン」についてお話をうかがいました。■ポイント1駐輪場と駐車場「先ほどの犯罪統計書でもそうですが、なんといっても気をつけないといけないのが駐輪場と駐車場!特に駐輪場では、自転車にカギをかけようとしゃがんでいるときに、背後から襲われます。駐輪場や駐車場は、壁や塀に囲まれていて見通しが悪いでしょ。チカンが潜むにはもってこいの場所なのよ」と穂積氏。なるほど、簡単に隠れることができる場所はアブナイ。それに、しゃがむというのは、逃げられない、かつヒトの気配を感じにくい姿勢です。自転車を置くときには周囲をよく見回しましょう!「駐車場では、いきなり車のドアが開いて引っ張り込まれ、襲われるというケースが多々あります」とも。人が乗っている車には近づかない方が賢明ですね。■ポイント2オートロックの入り口「玄関のオートロックを開けるとき、背後から着いてきて一緒に入ろうとする人がいますよね。あれ、襲われやすいです。ほかの住人の顔を知らないことも多いし、警戒しすぎるくらいがちょうどいい。勇気を出して『住人の方ですか』と声をかけてください。『はい』と言われたら、『こんにちは~、このごろ物騒で、すみませーん』と笑顔でコミュニケーションをとればいいのです」(同)また、「オートロックだからと過信して、ゴミ出しやメールボックスへ行くなど、ちょっとした外出には部屋のカギをかけない人が多いでしょう。最低、カギはかけてくださいよっ」と語気を強める穂積氏。隣の人は何をするヒトかわからない時代、同フロアの住人が犯人だったという大事件もありました……。■ポイント3階段の踊り場「階段の踊り場は、犯罪の舞台です。階段を上るときにあとをつけられたり、待ち伏せされたり、連れ込まれたりして、踊り場で襲われるケースも」という穂積さんの指摘どおり、警察のWebサイトなどでも「気をつけるべき場所」として指摘されていることが多いのです。■ポイント4エレベーター「密室はもっともキケンな場所で、マンションやビルではエレベーターがそれにあたります。後ろから押し込まれて、襲われるという事例が多数発生していますから。防犯カメラが付いていても、常に監視しているとは限りません。油断は大敵です」(同)特にエレベーターの扉に窓ガラスといった透明な部分がない古いタイプはキケンです。見知らぬ人とふたりで乗らない、あとから不審そうな人が乗ってきたら次の階でサッと降りるなどして、素早く対応しましょう。■ポイント5廊下「廊下でメールを打ちながらの移動もNGです。背後から抱き着かれたり、部屋や踊り場に引っ張っていかれたりして襲われることも。大げさなようですが、周囲ににらみを利かせながら歩くくらいがちょうどいいのです」と穂積氏。携帯電話の画面を見ているときは、「集中しているのと視線が下がることで不審者に気づきにくいものですよ」と注意を呼びかけます。■ポイント6家の玄関「自分の部屋に入るとき、ここは特にアブナイ。カギを開けているときに背後から押し込まれて、襲われます」と声を大にする同氏。みなさんもご存じのとおり、女子に限らず、幼児や小学生が被害に遭う悪質な事件が多く発生しています。見知らぬ人が近くにいるときは、絶対にカギを開けないようにしましょう!■ポイント7メールボックス「郵便物や新聞があふれたメールボックス、自室の郵便受けをチェックしてください。留守や一人暮らしが知れて『狙いやすい部屋だ』と目をつけられます。これは、襲われる機会をつくってしまうようなものです」ここは、泥棒が侵入するときにもチェックするとか。忘れていた! ではすまされない、気を抜けないポイントです。2010年1月29日付けの「京都新聞」で、こんな記事を見つけました。「京都市左京区のマンションのエレベーター内で、住人の大学4年の女子学生(21)の左肩に手をかけ、キスをしようとした28歳男性を強制わいせつ未遂と建造物侵入の疑いで逮捕した」。結局、マンションでは、部屋に入ってカギを閉めるまで、「襲われる危険性がある」場所ばかり。「安心できる場所などどこにもないと考えてください。マンションでは、すべての場所にチカンが潜むことができるのだと想定しておくぐらいが、防犯意識を高めることになるのです!」と同氏。防犯の第一歩は、「私は大丈夫」と過信しないこと。逆に、「私も狙われるかも」という意識を高めることがなにより大事です。襲われてから「あのときああしていれば……」と後悔しても遅い!毅然(きぜん)とした態度で自分の身を守りましょう!監修:穂積啓子氏。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た!~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子東京書籍1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。(岩田なつき/ユンブル)【関連リンク】【コラム】一人暮らしはココが大変!生活全般編【コラム】一人暮らしでのトホホエピソードお金問題編【コラム】一人暮らしでのビビリエピソード防犯編
2011年03月01日