この秋スタートの吉高由里子主演新金曜ドラマ「最愛」にて、主人公に深く関わるキャストとして、松下洸平と井浦新が参加することが分かった。本作は、吉高さん演じる殺人事件の重要参考人となった女性実業家・真田梨央と、彼女を追う刑事、彼女を支える弁護士の3人を中心に、15年前のとある失踪事件から現在の連続殺人事件へと繋がる謎に迫る、完全オリジナルサスペンスラブストーリー。連続テレビ小説「スカーレット」で主人公の相手役を好演し注目を浴びた松下さんが演じるのは、事件の真相を追う捜査一課の刑事で、梨央の初恋の相手でもある宮崎大輝。大学時代は陸上部のエースで、梨央の父が寮夫をする陸上部の寮に住んでいた大輝。寮内で起きた事件と梨央の大学進学を機に離れ離れになるが、15年ぶりに再会し、再び惹かれていく。しかし同時に、彼女が連続殺人事件の重要参考人で、自分がその担当刑事という葛藤を抱える役どころでもある。松下さんは「『最愛』はすごく攻めた作品だと思います。完全オリジナルストーリーではあるのですが、どこかリアルな部分もたくさんある。だからこそ芝居をしっかりやらないといけないですし、生半可な気持ちでは太刀打ちできない作品だと感じました。でも時にはキュンキュンする会話のやり取りがあったりと、いろいろな方面で楽しめる台本になっています」とアピール。そして「今回僕は陸上をやっている役なので、ちゃんとリアルに感じていただけるよう、今から頑張って走り込みます(笑)」と意気込んでいる。また、梨央の会社の法務部に所属する弁護士で、あらゆる手段を使って彼女を守る加瀬賢一郎を井浦さんが演じる。頭の回転が速く、論理的な人物だが、どこか不器用で人間味ある表情や気遣いを見せる賢一郎。やがて梨央に心を寄せるようになり、警察や世間から疑惑の目を向けられる彼女を、自身の全てを懸けて守り抜こうとするキャラクターだ。「独特なリズムのサスペンス」と台本を読んだ印象を明かした井浦さんは、「ただ事件が起きていくだけではない、いわゆるサスペンスの方程式がめちゃくちゃ。でもそれが物語の大きな個性となっています。『ここまで人物を掘り下げているのか』『このあとどうなっていくんだろう』と、独特なストーリーの組み立てになっていて、1話もここで終わるの!? と必然的に2話を早く観たくなるようになっています」とコメントしている。正義感が強くひたむきな刑事と、清濁併せ呑む弁護士、正反対の2人の男性が、1人の女性を巡ってどう対峙していくのか、本作の大きな見どころとなっている。金曜ドラマ「最愛」は10月、毎週金曜日22時~TBSにて放送予定。(cinemacafe.net)
2021年08月26日2021年7月29日、俳優の大島優子さんと、同じく俳優の林遣都さんが結婚を発表しました。元AKB48・大島優子と『おっさんずラブ』林遣都が結婚を発表ネット上では、「おめでたい!」「大好きな2人で嬉しい」などの声が。祝福の声は芸能界からも多く寄せられています。吉高由里子「1人でタラレバいってるからね」結婚発表の同日、テレビドラマ『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)で大島さんと共演をした、俳優の吉高由里子さんがTwitterを更新。同作品は、大島さんや吉高さんらが演じる独身女性3人が、結婚していない事実に悩みながらも、それぞれの幸せを模索する物語です。そんなドラマの設定も交えて、吉高さんはこんなメッセージをおくりました。ねぇーおめでたいよぉー大事なお2人大好きなお2人優子遣都末長くお幸せにねあ、うんっ2人ともだから1人でタラレバ言ってるからね☺️うん、大丈夫全然大丈夫だからねっ☺️笑どんどんおめでたいニュースが続きますように❤︎— 吉高由里子 (@ystk_yrk) July 29, 2021 プライベートでも親交がある吉高さんと大島さん。メッセージには絵文字がふんだんに使われ、友人を祝福する想いが伝わってきますね!また、同作で共演した榮倉奈々さんは既婚で、大島さんも結婚したため、冗談交じりに「1人でタラレバいってるからね」とコメント。投稿にはファンからこのような声が寄せられています。・吉高さんらしいコメントで最高です!きっと大島さんたちも喜んでいると思うな。・おめでたいですね!吉高さんもそろそろ、タラレバ娘卒業ですかね…!・ドラマファンとしてはタラレバ娘を卒業するのは少しさびしい…!でも結婚した3人がまた共演する姿が見たいです!まるで自分のことのように、2人の結婚を喜ぶ吉高さん。素直で裏表のない吉高さんの人柄が、ファンに愛される理由でしょう。[文・構成/grape編集部]
2021年07月29日初秋の松本平を満喫できる松本マラソン2021は、2021年10月3日(日)に長野県松本市でマラソンの部(42.195km)、ファミリーランの部(2km)が開催されます。開催概要についてマラソンの部は、参加費:12,000円、参加定員:8,000人、ファミリーの部は、参加費:ファミリー3,300円(子が2人の場合は4,400円)、参加定員:250組です。申し込みは、2021年4月29日10時~6月27日、 先着順なので定員になり次第、受付終了となります。国宝松本城の景観をより楽しめるコースに変更今回のコースは、松本をより一層松本の持つ魅力を堪能できる新たなコースとして大幅に変更されています。松本市総合体育館前をスタートとし、国宝松本城を1周し、中心市街へと向かいます。中盤からは、アップダウンのあるハードで走りごたえのあるコースを走行し、信州スカイパーク陸上競技場をフィニッシュします。制限時間は6時間、日本陸連公認コースです。(画像は公式サイトより)【参考】※松本マラソン2021の公式サイト
2021年04月29日子供に何を与え、何を我慢させるかはそれぞれの家庭によって異なるもの。しかし「友達はこれを持っているのに、なぜ買ってくれないの」と子供からいわれてしまうこともありますよね。松本人志「その不満や悲しみを…」2021年1月14日、お笑いコンビ『ダウンタウン』の松本人志さんがTwitterを更新。娘さんとのエピソードを投稿し、「分かる」「考えさせられた」と話題になっています。ある日、娘さんは松本さんへ「友達の中で、ペットを飼っていないのは私だけだよ」と不満を口にします。きっと、ペットと楽しそうに遊ぶ友達と飼わせてもらえない自分を比べてしまったのでしょう。不満をもらす娘さんに対し、松本さんはこう感じたといいます。友達の中でペットを飼っていないの私だけ!ってうちの娘。その不満や悲しみを笑いに変えてみな— 松本人志 (@matsu_bouzu) January 14, 2021 不満をもらす娘さんに対して「その気持ちを、笑いに変えてみな」とメッセージをおくった松本さん。内容からは、思い通りにならない悔しさをバネにしてほしいという、娘さんへの気持ちが伝わってきます。怒りや悲しみなどの負の感情こそ、笑いに変えることで、周囲の人だけでなく自分の心も癒すことができるのかもしれませんね。ネット上では、松本さんの言葉にこのようなコメントが寄せられています。・素敵な考え方ですね。私も「うちはうち、人は人」といわれましたが、それ以上の意味を子供に伝えてあげるといいのかもしれません。・松本さんの言葉に、元気がでてきました。苦しい気持ちは笑いに変えて、乗り越えたいと思います!・欲しい物を買ってもらえず最初は不満でしたが、そのおかげで「今できる中で、どんな楽しみ方があるか」を考えられるようになりました。子供へ何を与えるかはそれぞれの家庭で異なり、そこに正解や不正解はないでしょう。欲しい物が手に入らない状況の中で、『自分らしい楽しみ方』を見出すことも大切なのかもしれませんね。[文・構成/grape編集部]
2021年01月15日Yellow/新感線『月影花之丞大逆転』の取材会が21日に都内で行われ、いのうえひでのり(演出)、古田新太が登場した。同作は劇団☆新感線の41周年春公演。2003年に上演された『花の紅天狗』(初演・1996年)のスピンオフ作品として、爆発的なテンションの月影花之丞(木野花)が再び登場し笑たっぷりの作品を届ける。コロナ禍で座組みもタイトに、古田新太、阿部サダヲ、浜中文一、西野七瀬、河野まさと、村木よし子、山本カナコ、中谷さとみ、保坂エマ、村木仁、木野花といった役者陣が揃った。もともと予定していた本公演は100人規模のキャスト・スタッフが動くことになるため、企画を練り直すことに。「できるだけタイトに、少人数のカンパニーで、なおかつ笑える面白いものができないかと、急遽立ち上げた」という。木野が演じる月影花之丞が活躍することになるが、古田は「マヤ的な人と亜弓さん的な人は出てきません。月影先生は『ガラかめ』でいうところの最大のスパイス、カレーにおけるクミン。ただ、今回クミンしか出てこない!」と訴える。木野については、2人とも「段取り芝居がとりあえず苦手」(いのうえ)、「袖にはけるとホッとするタイプの人なんですよ」(古田)と苦笑し、古田は「『は〜』って言ってるけど、袖から出なきゃいけない。それで俺が肩持って連れて行くと『どこへ連れて行くの~!』『今から出番だ馬鹿野郎!』って」と振り返る。一方で、いのうえは「異常なテンションはもう演劇界随一だと思うんで、木野さんの輝きを最大限に出せるように」と信頼も寄せた。久しぶりに阿部と共演することになる古田は「サダヲがもう全然売れてない頃からの付き合いで、その頃から下北界隈じゃ『ショーストッパー』と言われてた。全然売れてない時から、何にもしないでも客の目を引く。一緒にやっててすごく楽しいです。もっとも信頼する後輩の一人なので」と評価する。また、パロディネタについては、いのうえが「劇団がお芝居の稽古をしていきながら物語が進行して行くので、パロディを入れやすい。どういうパロディが入るかはお楽しみ」と期待を煽るが、古田は「中島(かずき)さん、いのうえさんを筆頭として、うちの劇団みんな60代50代なんですよ。パロディが古い! 20代にはわからないパロディの目白押しです」とツッコミ。いのうえは「公演が始まる前には、うっすらと『こういうのをやりますよ』と匂わせる」と笑わせた。古田は「劇団員は、歌のあるおポンチしかやりたくないんですよ。"いのうえ歌舞伎"に出たいと思ってる劇団員は1人もいないので、面白に対しては全力でぶつかって行くと思う」と予想。「演劇界で"面白"が得意な大気団、ナイロン100℃だったり大人計画だったり新感線だったりが、公演中止になった。そこから少しでも明るい気持ちになっていただきたいなという気持ちで演劇界全体がやっている」と真摯に語りつつ、「ただナイロンとか大人みたいなちょっといい話で面白い、じゃなくて、全然よくない話なので、『ああ、楽しかった。で、なんだっけ?』と言えるようなお話を作れたらいいなと思っています」と希望した。
2020年12月21日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『しゃべくりの仕事』をご紹介します。結婚式や法事、親戚が集まるたびに近況を尋ね合うのは礼儀というものなのだろうか。駆け出しライターの私は、同じ質問をされるたびにうんざりしていた。「東京でフリーライターをしている」と答えると、返ってくる反応は大抵2つ。「びっくり!」か「やっぱりね〜」のどちらかだ。「びっくり」は都会のカタカナ職業というだけで、勝手に華やかなイメージを膨らませてしまっている場合。内心、「あの地味で暗かった子がね」となる。一方、「やっぱり」はご近所では聞いたこともない、よくわからない職業と決めてかかっている場合。「あのいかにも風変わりな子らしいよ」となる。どちらにしても、人並みはずれて不器用で人と目も合わせられない、いじめられっ子だった私を思い返してのことに違いない。ところが、その伯父さんの反応はまるきり異なっていた。「ライターというのは何をどうする仕事や?」「今は取材モノが中心で、話を聞いて、その内容をまとめて…」「人と話をする仕事か?」と、いきなり前のめりになる。「まあ、そういえばそうだけれど、聞いた話を文章にするまでが仕事だから…」と、なぜか私はしどろもどろ。「そやけど、うまいこと言うて、相手に話してもらわなあかんのやろ。ほな、おっちゃんと同じや」伯父さんは細い目を一層細くしてにっこり。「しゃべくりの仕事やな」と断定した。私が子どもの頃、伯父はタクシーの運転手だったのを覚えている。その後、自動車教習所の教官を経て、今は所長なのだとか。たしかに、大勢の人を指導する「しゃべくりの仕事」と言えるだろう。教習所の校長先生のような務めとライターが同じのはずがない。そう思いながらも、私はうやむやに頷いてみせた。ただ、「しゃべくりの仕事」という言葉だけがいつまでも耳に残った。自分の中で何がどう変わったのかはわからない。それ以来、「しゃべくり」を意識することが増えていった。インタビューの際、私の発する言葉が目の前の相手にちゃんと届いているかを確かめるようになった。そう心がけるだけで会話はスムーズになり、思いがけず盛り上がったり、話の核心に触れられたりすることもあった。原稿を書くための材料集めにしか考えていなかった取材の大切さを、改めて思い知らされた。あれから十数年、数えられないほどの人に出会い、問いかけ、語らってきた。あるときは取材慣れしていない若手タレントに「なんでこんなに話しやすいかな」と目を見張られ、あるときは大物経営者に「余計なことまで話しちゃったよ」と照れ笑いされた。いつしか、人とのコミュニケーションは私の仕事の真ん中に位置していた。昨秋、伯父が急逝した。慌ただしく葬儀を終え、親族が寄り集まると、思い出話は尽きない。つられるように私も、「しゃべくり」のエピソードを持ち出した。すると、同年代のいとこの間から「俺も!」「私も!」という声が続いた。伯父から「しゃべくりの仕事」と決めつけられたのは、私だけではなかったのだ。しかも、それぞれの職種はバラバラ。営業マンや接客業はともかく、経理など事務職の人まで揃って同じように断定された。そして、誰もが抵抗を感じながらも言いくるめられ、心に刻まれた言葉に従うように自分の仕事を振り返るきっかけにしていた。「おっちゃんらしいな…」皆、泣き笑いしたような顔を見合わせた。あらゆる仕事の根底には人とのコミュニケーションがある-私たちに伝えてくれたのはこういうことだったのか。ともあれ、伯父はささやかな成長の種を一人ひとりに植え付け、旅立っていった。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『しゃべくりの仕事』作者名:西田 知子エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年10月01日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『心にしまう』をご紹介します。コロナで思いがけない不況となった。外車ディーラーで派遣社員として働いていた私は、朝が来れば自然と目がさめるように、抵抗する間もなく職を失うことになった。20代前半で結婚し、離婚し、就職することなく、あてもなくふらふらとしていた私は、「そろそろ自分のやってみたかった道に踏み出そう」そう思って、本が好きだという単純だけれど素直な気持ちで、どうにか出版社で働くことができないか探し、ほんの小さな一歩として(週2日のアルバイトだけれど)出版社で働けることになっていたので、不幸中の幸いだった。そして、ディーラーで働くのも、残り1ヶ月となった。じとじとと雨が降り続く、長い長い梅雨だった。私がいなくなることを、社員のみんなは口を揃えて「寂しい」ということ、そして、売り上げを伸ばして「また戻す」ということを言ってくれた。それはとても嬉しいことで、こんなに優しい人たちに囲まれていたんだと嬉しい気持ちになった。そんな中、ひとりだけ違う反応を見せた。その人は、社員の中でも特に仲の良い人だった。私が派遣社員として配属されたばかりの頃、よく話しかけてくれ、なぜか私のことを「感性が独特で面白いねえ」と言ってくれた。その人がかけてくれた言葉は、「また戻ってきてほしい」という類のものではなかった。「君はここでやっているように一生懸命働けば、出版社でももっと働ける日数を増やしてくれるはずだよ。そうしたら、こんなところに戻ってこないで、そっちに行くんだよ。」息が止まる思いだった。私は、「本当はそうしたほうがいい」ということを本当は分かっていたからだ。アルバイトでもなんでも、一生懸命仕事をして、契約社員の試験を受けて、社員の試験を受けられるように頑張りたいと思っていた。だけど寂しさのあまり、また戻ってきたいなあ、出版社と掛け持ちをすればいいよね。と、みんなの優しさにおんぶに抱っこだったのだ。だから、目を見られなかった。胸の奥がグっと熱くなり、こらえていないと涙が溢れてしまいそうだった。進む道を後押ししてくれる優しさは、どんな言葉よりも強く、心から私のことを思って応援してくれている人がいるという真実は、きっとこれからも、私を支えてくれるだろうと思った。記憶というのは不思議なもので、ずっと覚えているような言葉や誰かとのシーンがある。覚えている日々と、覚えていない日々は何が違うのだろう。自分にとって大切な思い出や、誰かからの言葉を、人は多かれ少なかれ、心の中の宝箱とでもいうような場所に、そっと大事にしまっているのだろう。そしてその宝箱から時折取り出して、ありがとうとつぶやくのだ。そう言った作業が、私はとても好きだし、出会いを豊かにしてくれる。そしてそんな宝物が増えたというだけで私はここに勤められて本当に良かった。出勤最終日を迎えた。「絵が上手だ」と褒めてくれたその人に絵を書いた手紙を渡した。今度は思わず涙が溢れた。「大人になると人はなかなか泣けなくなる。でも、泣けるほどの人と出会えたというのは本当に素晴らしいことだよ。ありがとね」そう言ってくれた。何のために生きているのかわからない20代前半だった。誰がほんとうなのかも、何が正しいのかもわからなかった。だけど今は、思う。人は人によって磨かれていく。それが痛くて泣けるような想いでも、暖かくて柔らかい想いでも。どんな経験でもそれは私を(私を通してこの世界を見る眼を)輝かせてくれるのだ。8月になって、まぶしいほどの青空が広がり、やっと夏がやってきた。今、私は出版社で働いている。その人にもらった言葉を心に、私の大好きな赤色のボールペンを片手に。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『心にしまう』作者名:みずきエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月29日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『パイロットになりそこなった父の名言』をご紹介します。私の中で長らくモヤモヤしてきたことがあります。“平凡”って何?ということです。それって価値観?辞書を引くと“これといったすぐれた特色もなくごくあたりまえなこと”とあります。ごていねいにも“平々凡々”なんて強調する言葉まである。その物差しっていったいどこにあるんだろう。そんな曖昧な疑問を誰にもぶつけたことはなかったけれど、山あり谷ありの人生を歩む中で最近ようやく私なりの答えを見つけた気がします。「平凡という名の非凡」。世の中は個性の集合体なんだ、平凡ということ自体が稀なんだと考え至りストンと腑に落ちたのです。自分に都合の良い極論かもしれませんけれど。前置きが長くなりました。私は幼いころから人と同じというのを好みませんでした。幼稚園の写真を見ると一人だけスモック(制服のうわっぱり)を着ていません。どうやら皆と同じなのが我慢ならんとばかりに登園するなり脱ぎ捨てていたらしいのです。はい、すでに非凡(笑)。今となってはそんな自分勝手を許してくれた先生方にも感謝せねば。ちなみにカトリック系の幼稚園でした。アーメン。そんな私ですから、好きなこと、やりたいことだけを選んで好き勝手に生きてきました。結婚しました。離婚しました。職業もいろいろ。平凡なんて言葉とは無縁のジェットコースター人生です。人からは個性的とか変わってるねとか思われている節あり。だからいろいろなことで何度もつまずきを経験し、当然、両親にもたくさん心配をかけました。20代前半、一番か二番かという大きな挫折を経験した時、生まれて初めて父(故人)に悩みを打ち明けたんです。私は一人っ子のひとり娘で、海外出張が多かった父とは正直いわゆる腹を割った話というのをしたことがありませんでした。なぜ自分があの時父を頼ったのかいまとなっては思い出せません。それは具体的な相談という形ではなかったと思います。行き先を見失っている、そんな気持ちをただ聞いてほしかったのかも。とにかく苦しくて苦しくて、どういう生き方をしたらいいのかわからない、迷子になっちゃった…そんな曖昧で的を射ない話だったような。その時の父の助言が私の一生の道しるべになるなんて、あの時は思ってもみませんでした。でもそのあと何度もつまずいて、その度に父の言葉が私を救ってくれたのですから、これはもう私だけの宝ものです。頭のすみに心の中に常にこびりついています。ありきたりに言えば座右の銘です。いわく「低空飛行というのはかなりの技術を要するんだ。墜落しないギリギリを飛ぶんだからな。墜落しない自分に自信を持っていいんだよ」。父は第二次世界大戦時、少年航空兵としていざ飛ばんというタイミングで終戦を迎えた人。死んでも飛びたかったとのたまうような人でした。だから妙に説得力あり。それにしても、こんなに優しく勇気を与えてくれる言葉があるでしょうか。不器用な父の愛情を受け止める感受性を幸いにも持ち合わせていた私です。以来、壁にぶつかった時にその言葉を思い出しては明るく強く乗り越えてきました。父には心から感謝しています。存命のうちにそれをちゃんと伝えられなかったのですが。平均寿命から逆算すると私の人生もあと二十年というところ。人生のラストステージにもう戦うべき相手もいません。今は機首を上げて安定した高度を保って飛行中。もちろん平凡を良しとしない日々を楽しんでいます。あ、“新しい生活様式”にはまだ馴染みませんが。最近では若い人の相談に乗る時、さも自分の言葉のようにあの名言を使わせてもらっています。父がそれをどんな顔で天国から眺めていることやら。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『パイロットになりそこなった父の名言』作者名:みまさかまどかエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月28日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『私は、皆さんを愛します。』をご紹介します。中学2年の4月、担任発表をするために学年集会が開かれ、武道館に集められた。クラス替えをしたばかりで、周りはいつも以上に賑やかだ。学年主任の先生が私のクラスの担任を発表する。呼ばれて前に出てきたのは、母と同じぐらいの年齢にみえる、ちょっと太った女の先生だった。初対面の先生が話す挨拶は、だいたい同じに聞こえる。今までの学生生活の中で記憶に残っている先生の挨拶なんて無い。そんなことを思っていると、先生は自分の名前を言った後で、私のクラスが座っている方に体を向き直し、話を続けた。「私は、皆さんを愛します。」私の頭が一瞬フリーズした。今まで愛しますなんて言われたことがない。況して、見ず知らずの人に愛しますと言われても、反抗期真っ盛りの私には重すぎる。もうクラス替えはなく、基本的に担任は同じ人になるはずだ。つまり、この人と2年間過ごすことになる。正直気が重い。私たちの出会いは良いとは言えないものだった。新しいクラスにも慣れた6月頃、クラス全員が、別の先生の授業中に理不尽な理由で怒られてしまった。はっきり言ってその先生の逆ギレだ。モヤモヤした気持ちを抱えたまま授業を終えた。休み時間になったはずなのに、クラスはどこか静かなように感じる。すると、先生が急ぎ足で教室にやって来た。どうやら授業での話を聞いたらしく、私たちの話を聞きたいと言ってくれた。しかし、その時の私は、先生に話したところで意味がないと思っていた。多くの場合、「先生」は生徒が何を言っても「でもね」と言って先生側の肩を持つ。話を聞いた先生は、「分かった」とだけ言って教室を飛び出して行った。そして戻ってくると、「話、つけといたから」と私たちに微笑んだ。先生は、話を聞いた上で、味方になってくれたのだ。反抗期だった私でも「この人は違う」と心の底から思えた。それから先生と仲良くなるのに、多くの時間は必要なかった。仲がいいとは言っても、甘えるだけの関係ではない。休み時間は気にしない言葉遣いも、授業中は切り替えて話す。お互いにリスペクトがあってこそのいい関係だ。私たちは本当に家族のようだった。先生にだけは、今誰のことが好きだとか、親と喧嘩して家に帰りたくないだとか、あの先生は苦手だとか、とにかく何でも話した。2年間で「自分の時間を割いて、友だちに協力すること」、「友だちの悩みや痛みを受け止めること」の大切さを教わった。普段の授業中だけでなく、受験期の面接練習なども得意な人を中心にクラス全員で乗り切った。仲間の相談を聞き、一緒に考え、何も出来ない無力さに涙したこともある。今思い出してみても本当に濃い2年間だった。卒業する時、私たちのことを「すばらしい人間」だと言ってくれた。先生はいつも味方でいてくれて、話を聞いてくれて、たくさんの愛をくれた。あの時、重いと感じていた愛をいつしか受け入れ、私は先生の想いに包まれて、幸せな時間を過ごせていた。中学を卒業して5年が経つ。今でもクラスメイトと先生に会いに行って、お菓子を食べながら恋愛相談や将来の話をする。私は、離れていてもこの言葉を思い出す。そして、いつか誰かに言えるようになりたい。「私は、皆さんを愛します。」grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『私は、皆さんを愛します。』作者名:佐藤 理子エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月26日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『私にぴったりのカメラに出会うまで』をご紹介します。これは、とある小さな中古カメラ屋さんの話である。私は、その前日に、銀座のカメラ屋さんで、中古のフィルムカメラを購入した。私はずっと、フィルムカメラが欲しくて、何ヶ月も色々と調べ、詳しい知人に相談もしていたが、なかなか踏ん切りがつかないまま、東京中のカメラ屋さんを巡っていた。しかしある日、銀座のショーウィンドウに並んでいたカメラが目に止まった。値段は一万円。かわいらしいデザインと、あまりない機種という物珍しさで、思わず衝動買いしてしまった。翌日、私は通りがけの写真屋さんで、ネガフィルムを購入した。カメラ初心者の私は、写真屋のおばさんに、フィルムの入れ方を教えてください、とお願いした。おばさんは、「珍しい機種ね」と言いながら、喜んでフィルムを入れてくれた。私も、念願のフィルムカメラで写真を撮れると思うと、ワクワクした。「記念の一枚目は、おばさんにしますね」私はシャッターを切った。カメラは微動だにしなかった。「あれ、おかしいな」私は、もう一度シャッターを切った。しかし、カメラは、静かなまま動かなかった。動かないカメラを眺めていると、思わず涙がこぼれ落ちた。やっとの思いで出会えたカメラが、壊れていたことが、ただただ悲しかった。私は、おばさんが教えてくれた、近くの中古カメラ屋さんへ足を運んだ。店内では、おじさんが一人、机に向かってカメラの修理をしていた。壁の棚には、たくさんのカメラが窮屈そうに並んでいた。私は、壊れたカメラをおじさんに手渡し、事情を説明した。おじさんは、カメラを手に取ると、残念そうに話した。「モーターが壊れているね。こういうカメラは、電化製品だから、同じ部品を購入しないと直せないんだ。これは珍しいから、部品はもう見つからないな。何もできなくて、ごめんね」おじさんは、カメラを机に置いた。「でも、昨日買ったんでしょう?どのお店?」私は、銀座のカメラ屋さんの名前を伝えた。するとおじさんは、電話をかけ始めた。そして電話を切ると、「レシートを持っていけば、返品できるよ」と静かに言った。その瞬間、このおじさんに私のカメラを見つけてもらおう、と思った。「あの、私にぴったりの、軽くて、小さくて、壊れないフィルムカメラを、代わりに選んでください」おじさんは、恥ずかしそうにアハハと笑った。「そんなもの、ないよ」困惑したように笑いながら、おじさんは、店内を歩き始めた。棚からカメラを手にとっては、考え込み、棚に戻す、をずっと繰り返していた。「あっ!」おじさんは、店の奥の部屋に駆け込んだ。出てくると、手には小さな赤いカメラを持っていた。「これはね、ハーフカメラ。普通の二倍の写真が撮れて、その分小さいんだよ。機械式だから、壊れても直せる。全部修理したばかりで、新品同様だよ。ただ外見が、元々はグレーの皮なんだけど、全部貼り直して、思い切って赤にしちゃった。でもあなたなら似合うよ。一万円。どうかな」軽くて、小さくて、壊れなくて、たくさん撮れて、大好きな赤色のカメラ。おじさんは、壊れたカメラからフィルムを取り出すと、フィルムの入れ方と出し方を、一から教えてくれた。おまけとして、ストラップとレンズのフィルターをつけてくれた。「これからたくさん、いい写真を撮ってね」私にぴったりのカメラが、やっと見つかった。「記念の一枚目は、おじさんにしますね」私はシャッターを切った。カメラは、カシャ、と機械音を鳴らした。「ハーフだから、二枚分撮れるんですよね。じゃあ、もう一枚」私はもう一度、シャッターを切った。私の新しいカメラは、しっかりと、おじさんのはにかんだ笑顔をフィルムに焼き付けた。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『私にぴったりのカメラに出会うまで』作者名:花田 玲奈エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月25日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『泣き虫弟とショーケースの向こう側』をご紹介します。私には5歳年下の弟がいる。小さい頃は泣き虫で、朝起きては「眠い」と泣き、嫌いな野菜が「食べられない」と泣き、大嫌いなスイミングスクールに「行きたくない」と泣いた。泣いている傍から「男のくせに、すぐ泣く!」と、父親に叱られてはまた泣き、そんなこんなで1日中泣いていたから「こんな状態で大丈夫なのかしら?」と母の頭を悩ませていた。その日は私が地元の公立高校に合格した日だった。夕方、弟はいつものように半べそをかきながら大嫌いなスイミングスクールに出かけて行った。夕食前に濡れた髪にプールバックを抱えて帰ってきた弟は「はい、おねえちゃん。高校合格おめでとう」と、小さな紙袋を私に差し出した。スイミングスクールの横にあるドーナツ屋さんの紙袋だ。「わあ!ありがとう!」と、お礼を言って受け取ると、中にはチョコレートのかかったドーナツがひとつ。「これ、ひとりでお店に行って買ったの?」「そうだよ」「すごいじゃん」「へへへ」「どれどれ?」と母も私達の会話に興味津々で加わる。デパ地下の総菜売り場のようにドーナツが並んだショーケースの前にはたくさんのお客さんがいたようだ。もじもじしていた弟に、「どれにしますか?」と、声をかけてくれた若い女性の店員さんに「これひとつください」と、弟がドーナツを指さしながら告げると、お姉さんはショーケースの向こう側から、食べやすいようにふたつ折りにした油紙に挟んだドーナツを「はい、どうぞ」と、体を乗り出し、弟に持たせてくれようとしたそうだ。濡れた髪にプールバックを持った男の子がたったひとつドーナツを注文すれば、お腹が減って、その場で食べるのだろうと思うのも当然だ。手を汚さずに上手に食べられるように持たせてくれようとしたのだろう。でも、ドーナツは私へのお祝い。このまま持ち帰る訳にはいかない。弟が慌てて手をひっこめ、「袋に入れてください」とお願いすると、お姉さんは笑いながら「あらあら、ごめんなさいね」と言って紙袋にいれて持たせてくれたというわけだ。優しい店員さんに見送られながら、ドーナツは無事私の元へ届いた。泣き虫弟のはじめてのおつかい話がうれしくて、私と母は何度も何度も同じ話を弟から聞きたがった。母は仕事から帰宅した父にもうれしそうにこの話をした。父も「そうかそうか」と母の話を聞き、「袋に入れてください」と弟がお願いしたくだりでは、手を叩いて喜んだ。弟の泣き虫はその後も暫く続いたけれど、母がその事で頭を悩ませることはなくなった。弟の成長を優しく見守ってくれた店員さんの話は30年以上たった今でもまだ我が家の話題に上る。そして、弟は同じように泣き虫な男の子の父親である。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『泣き虫弟とショーケースの向こう側』作者名:森平 久美子エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月24日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『シャボン玉、はじける』をご紹介します。学校にいけない。そのことは予想をはるかに超えて僕の上に重くのしかかった。今までは憂鬱にすら感じられた授業が恋しくてたまらなかった。僕は3月に中学校を卒業し、4月に高校へ入学した。が、思い描いていた高校生活はなかなか始まらなかった。知り合いがほとんどいない高校に進学した僕はこの期間、段々と中学校の頃の知り合いとも距離が空いていき、それでいて高校での新しい出会いもなかった。すると、今までよりも自分と会話することが多くなった。例えば、「別れが人を強くするって言うけどホントかなぁ」「どうだろ、今の僕は別れを経験したけど全然強くも前向きにも慣れてない気がする」「だよね、ってことは、別れが人を強くするんじゃなくて本当は、その先にある新しい出会いへの期待が人を強くするんじゃない」「確かに」というような具合である。今まで気づかなかったが自分との会話は、心の中に渦巻く様々な感情を整理し、すっきりとさせてくれる。おかげで僕の体にのしかかっているものが少し軽くなった(気がした)。そうこうしているうちに学校ではオンライン授業が開始された。授業では先生と生徒の顔が画面に映し出され、全員がお互いを見ることはできた。しかし、先生が一方的に話す、もしくは先生が投げかけた質問に代表の生徒1人が答えるだけであった。僕はこの状況にもどかしさを感じてならなかった。そのもどかしさはシャボン玉の中に閉じ込められたような感覚だった。互いの姿は見ることができるのに、手を伸ばせば届きそうなのに、手を取り合うことも、肉声を交わすことも叶わない。ヘッドホンから聞こえてくる一人の生徒の声からは不安の色が滲み出ていた。自宅でのオンライン授業が開始されてから約2か月、ついに登校の再開が決まった。パソコンの前に独り座り続ける毎日に限界を感じていた僕は救われたような気持ちになった。そして登校日、僕は電車に乗り学校へ向かった。そして最寄り駅に着くと電車を降り改札を出た。改札から出ると、こちらに向かって歩いてくる、見覚えはあるがイメージしていた背格好とは少し違う、自分と同じ制服を着た人が目に入った。相手もこちらに気づき、目が合った。二人の間に少しの間があった後、どちらともなく笑みがこぼれた。相手が「やっとだね」と一言、僕も「やっとだね」と一言。僕たちが学校につくまでに交わした会話らしい会話はそれだけだったが、それで十分だった。集合場所である講堂につくと一定の間隔をとって並べられた椅子に先に来た人たちが座っていた。僕も自分の番号が書かれた席に座り、しばらくして全員がそろうと担任の先生が前に出て挨拶や連絡を一通りした。そして最後に、「初めてこうして同じ場所に集まれたのに前だけを向いているのはもったいないから新しく出会った仲間たちで顔を合わせてみてください。」と言った。僕たちは横を見たり、後ろを向いたりしてお互いを見た。僕は画面の向こう側に見ていた皆が目の前にいるということに不思議な感覚を覚え、またそれと同時に嬉しさが胸の底からこみあげてきて自然と笑顔になった。周りも同じ想いだったのか皆の顔に笑顔が広がっていた。この瞬間、僕たちを隔てていたシャボン玉は笑顔とともに完全にはじけた。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『シャボン玉、はじける』作者名:正路 和也エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月22日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『毎朝のルーティン』をご紹介します。私は職場に行く前に立ち寄る場所がある。それはコンビニ。もうルーティンみたいな感じになっている。朝8時、駅近くにあるコンビニに入る――。仕事のお昼ごはんの調達である。朝、早起きしてお弁当を作っていこうといつも思うけれど、疲れて帰った私は出勤ぎりぎりまで寝ていたいという欲に負けて、きょうも作るのを諦める。またいつか作るからの繰り返し。これでもかっていうくらい人がいっぱいの電車に乗り、憂鬱な気持ちで職場の最寄り駅で降りる。扉が開き、人がどっとあふれ出る。――ああ、仕事、行きたくないな。電車に乗れば嫌でも体は職場に向けて勝手に運ばれていく。でも当たり前だが、電車から降りてからは自分の足で歩かなければいけない。こんなに会社まで遠かったっけ……。足取りが重くなる。亀のようにスローペースだ。あっ、お昼ご飯を買わないと。職場では休憩時間を取りにくく、外へ食べに行くなんて、なかなかできない。人手不足でごはんを食べながら電話対応なんてザラだ。ブラックだなと思う。私はいつものように駅から少し歩いたコンビニに入った――。コンビニのレジは自分と同じように昼食を求めた会社勤めの人たちで長蛇の列だ。就業前の朝は混雑のピークなのであろう。人気のお弁当は、もう早速売り切れたりしている。オフィス街ということもあり、すごい人である。――お店の人たちも大変だよな。そんな怒涛の中、テキパキと店員さんたちは精算作業をこなしていた。そして、どんなに忙しくても明るい声で、笑顔で接客をしている。私の番がやってきた。ピッピッと無駄ない動きで商品のバーコードをリズムよく読み取り、レジ袋の持ち手をきれいにそろえて、そして、「お仕事、お気をつけていってらしゃいませ!!」ととびっきりの笑顔を最後につけて袋を手渡してくれた。はい!と思わず返事をしたくなるような、気持ちのこもったことばだった。今までコンビニで「ありがとうございました」は言われたことがあるが、「お仕事、お気をつけていってらしゃいませ!!」と言われたのは、初めてだった。あんなに仕事のことを考えたら嫌な気分だったのに、店を出た私は少し気持ちが楽になった気がする。たったことば1つが変わっただけなのに。もう少し、頑張ってみようかな、と思って今日も私はおにぎりにかぶりつく。お弁当は無理せず作らなくてもいっか。またコンビニに行こう。そして、また元気をもらおうかな。――仕事、頑張って行ってきます!grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『毎朝のルーティン』作者名:今井 聡美エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月21日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『特別授業』をご紹介します。学習塾でアルバイトをしていた僕は、宿題の指導に関して多少なりとも自信を持っていた。ところが、3月11日、人が大勢避難している新宿駅構内の階段に座って計算式を解き進めるのは初めてだったし、何より、目の前にいるたったひとりの生徒の前では、この非常時にあっても平静を装わなければならないとなると、思うように頭が働かず、その自信も揺らいでいる。遡ること二時間、停車する中央線の車内で大きな揺れを感じ、避難のため電車を降りようとしたとき、車内に小さな女の子がひとり残っているのを見かけた。真っすぐ一点を見つめる彼女の眼には明らかに恐怖の色が浮かび、身体は固くこわばり座席から一歩も動こうとしない。「ひとり?もう電車は動かないみたいだから、一緒に避難しようか?」挙句知らない男の人に話しかけられたことが却って別の恐怖を煽ったらしい、彼女はか細い声で「大丈夫です…。」とつぶやいたが、乗り合わせた小山さんという別の女性も声をかけてくれたおかげで、何とか警戒を解くことができた。女の子はハナちゃんと言い、小学二年生、電車で帰宅途中に地震に見舞われてしまった。小山さんは僕と同い年の大学生で、ともにこうした災害にあうのは初めてだったが、「ハナちゃんを守らなければ」という共通の目的ができたことで、その後の避難行動はスムーズだった。公衆電話でハナちゃんのご両親に連絡をとったところ、父親が自宅から自転車で迎えに来られることがわかった。大まかな待ち合わせ場所と時間を確認すると、三人は頑丈そうな商業ビルの地下に落ち着いた。不安や疲れを感じる僕と小山さんとは対照的に、すっかり明るい様子のハナちゃんは、おもむろにランドセルを開くと計算ドリルを取り出し、「宿題を教えてほしい」という。一瞬、呆気にとられこそすれ、これでハナちゃんの恐怖を紛らわせることができると、アイコンタクトで確認し合った僕と小山さんは、駅ビルの階段を教室に、とびきり明るい先生を演じることにした。たったひとりの生徒は優秀で、このような状況にあっても集中力を発揮し、順調に問題を解き進めていく。様々な心配事が頭をよぎる中、カラ元気でどうにか先生を演じていた僕たちだったが、不思議なもので、一問、また一問と、一緒に問題を解いては喜ぶハナちゃんを見ていると、なんだかこちらの気持ちが晴れていく。ハナちゃんを守らなくては、と気丈に振舞っていたつもりだったが、実は僕らこそ、彼女の明るさや無邪気さに勇気づけられていたらしい。すっかり日も暮れたころ、僕たちはハナちゃんのお父さんと落ち合うことができた。無事に家族に会うことができたのは何よりもうれしいし、おまけに現役大学生ふたりが徹底的に指導した宿題の出来は我ながら完璧だった。「宿題を教えてくれてありがとう」そう言うハナちゃんに、僕たちこそありがとうと伝えた。はなちゃんはなぜ自分がお礼を言われているかわからないようで、照れ笑いを浮かべている。つぎに学校に行ける日は少し先になるかもしれないけれど、ハナちゃんはきっと本当の先生に褒められるに違いない。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『特別授業』作者名:奥村 敏生エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月20日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『晴れの日もビニール傘』をご紹介します。2020年3月、曇り空が広がるある日のことです。折しも新型コロナウイルスが私たちの生活に大きな影響力を及ぼし始めていましたが、いつもように朝8時ごろ、私と息子は保育園に向けて自宅を出ました。すると保育園との中間地点、というところでポツポツ…雨が降り出しました。これから勢いを増してやるぞ、というような意地の悪い雰囲気の雨でした。参ったなぁ。傘を取りに戻るにしても濡れることには変わりない微妙な距離です。「よーし、このまま進むぞ!スピードアップ!」と息子を急かし、小走りに進んでいました。すると突然後ろから声を掛けられました。「これ、よかったらどうぞ!」20代半ばくらいの青年が私たちにビニール傘を手渡して走り去って行ってしまいました。「保育園まで近いので、大丈夫です!」の私の声を背に、どんどんその姿は遠ざかっていきました。私たちの保育園までの距離よりも、お兄さんが歩く駅までの距離のほうが長いのに。それにどうやって傘を返そう。連絡先も聞けなかった…、という現実的な心配と同時に、お兄さんの優しい心遣いに胸が締め付けられて涙があふれてきてしまいました。本当にありがたくて、嬉しくて仕方がなかったのです。「ありがたいねぇ。これで濡れずに保育園に行けるね。優しいお兄さんがいてくれてよかったね。」その日から息子にとって“ビニール傘のお兄さん”はヒーローになりました。お借りした傘を返却したい。次の日も、その次の日も私と息子の登園にはお天気に関係なく、いつも借りたビニール傘が一緒でした。もちろんすがすがしい晴天の日も。時には登園を渋ってなかなか家を出ようとしない息子を「早くお兄さん探しに行こう!この傘、返せなくなっちゃうよ!」と急かすのにも役立ってくれたこのビニール傘には感謝の気持ちでいっぱいです。毎日キョロキョロと怪しげに首を振っては“ビニール傘のお兄さん”を息子と探しました。でもどうしても再び会えない。そうこうしているうちに、ついに緊急事態宣言が発令され、4月から息子が通い始めるはずの幼稚園が休園となってしまいました。4月からの二か月間、私と息子は自粛生活を余儀なくされ、いつもの時間に外に出てお兄さんを探せなくなってしまいました。食事の準備に加えて、やんちゃ盛りの息子の遊び相手を毎日こなすのはアラフォーになった私にとってかなりタフな毎日でしたが、息子の成長にどっぷりと向き合うことができ、とても濃密で愛しい日々でもありました。振り返ってみると、息子を授かってから、誰かの親切が身に染み、心の底からの「ありがとう」が沸き上がる経験を何度もしてきました。妊娠中の通勤電車でいつもの時間にいつもの車両で出くわすたびに席を譲ってくれた初老のおじさん。エレベーターのない地下鉄でベビーカーを一緒に運んでくれた外国人の女性。感謝があふれる瞬間に遭遇するたびに何もお返しできることがなく、もどかしさの中で祈ることしかできませんでした。この人に今後の人生で良いことが雪崩のように起きますように。嫌なことや悲しいことは絶対に起きませんように、と。今日も通園路でキョロキョロ探索を継続です。私たちは意外にしぶとく、まだ返却を諦めていないのです。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『晴れの日もビニール傘』作者名:葵らいでんエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月19日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『観光バスでの一期一会』をご紹介します。私は観光バスのバスガイドをしている。バス車内でのご案内はもちろん、観光地での下車説明やお食事会場へのご誘導もお仕事の一つ。とにかく観光の仕事に就きたいとバスガイドになったはいいが、その後は苦労の連続。とにかく暗記がつらく、観光地の原稿が出てこなくてもバスは進んでしまう。苦労を共にした同期もやめてしまい一人寂しく研修はとても大変だった。ゴールデンウイークになり忙しくなるとついに独り立ちの時。今まではお客様がいない研修ばかりだったため始めはすごく緊張していた。あたりまえだが、いつも同じペースで進んでいるわけではないため止まってほしくない信号に引っかかったり、観光地に近づくにつれて渋滞でバスが進まなかったり、覚えたての原稿で間をつなげるのはすごく大変だった。夜景が人気の観光地なのでもちろん夜まで勤務。朝から夜まで、家に帰ってからは暗記の確認、予備原稿の勉強をしたりと体力的にも厳しくなっていた。「ちょっといいかな。話があるんだ。」お昼のコースが終わり車庫に戻ると上司からの呼び出し。心当たりはないがもしかしてクレームが来たのかと背中を丸めながらついていくと上司は「これを読んでください。」と一枚の便せんを渡してきた。もしかして本当にクレームが来たのかと恐る恐る読んでみた。「先日はお世話になりました。最後にお礼が言えなかったのでせめてもの気持ちです。いつまでも笑顔を忘れず頑張ってください。」私の顔は上司の顔と手元の紙を行ったり来たり。まさかの応援の手紙だったのだ。手紙のほかには仲睦まじい夫婦の写真が入っていて、見た瞬間に思い出した。あのよく晴れた日に私が「ここがフォトスポットだから」とシャッターを押して一日観光のお供をしたご夫婦だ。さらに便せんを見るとお守りが入っていた。お客様からのお手紙をもらったのは初めてだったため、つらくても頑張ってよかったと涙がぽろぽろ出てきた。私は嬉しくてすぐにお返事を書いて送り、今でもお守りは肌身離さずカバンに入れて持ち歩いている。しばらくしてまた上司から呼び出しがあった。渡されたのは一枚の便せん。なんとまたお返事を送ってくださったのだ。「健康と、仕事中の事故等もないように」ともう一つお守りを同封してくださっていた。今は新型コロナウイルスの影響で観光業は大打撃。私の会社も今はほとんどお休みの状況。また日常がもどって観光を楽しむことができるようになったら遊びに来てくださいね。そんな気持ちを込めて今は自宅でたくさん勉強して次にお会いした時にはもっと楽しんでもらえるように日々精進。私の右手に見えるのも左手に見えるのもお客様の笑顔、いつか来る満員御礼バスの旅を夢見て今日も元気に出発進行。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『観光バスでの一期一会』作者名:北野 由美子エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月18日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『生まれてはじめて』をご紹介します。生まれて初めての経験は、必ずしも意図して起こるものではないということ。彼は突然やってきた。私が小学6年の冬、下校して家に辿り着くと、近所では見かけることのなかった一匹の猫が、玄関の前にお行儀よく座っていた。まるで「中にいれて!」と言っているかのように。その日から、彼は毎日やってきては家の中に入れてもらうのを待っているようだった。とても愛くるしい顔で。すぐに彼は我が家の食卓の話題となった。「不思議な子だね、これも何かの縁だと思うし飼ってあげようか」母のその一言によって、大の猫嫌いである父の反対を押し切り、その日から家族が1人増えた。「彼」は「みーしゃ」になった。みーしゃは本当に人懐っこくて、誰にでもすりすりした。一緒に眠りにつくのもしょっちゅうだった。中学校、高校に入っても彼との会話を欠かす日はなかった。部活動のこと。初めてのデートのこと。辛かったこと。楽しかったこと。家族には恥ずかしくて話せないことも全部、話せる唯一の存在だった。そんなみーしゃが、私が大学4年の3月、ある朝突然天国へ行ってしまった。その日は、リビングで朝食をとっていた私と母のもとに眠そうに寝床からやってきて、いつものようにお気に入りである母の膝のもとへ飛び乗った。ものの五分、いつもなら絶対に落ちることのないみーしゃはいきなり母の膝の上から崩れ落ちた。いくら呼んでもゆすっても、もう一度として動くことはなかった。急いで彼を抱え上げ動物病院へと向かった。まだ温かさの残るみーしゃの温度を私の体いっぱいに感じながら、大丈夫と言い聞かせて。しかしお医者さんの診断は、もう変えることのできない事実そのものだった。受け入れることのできない事実を、何度も咀嚼しようとしながら涙が止まらなかった。我が家に突然やってきた彼は、去る時も突然だった。待合室で涙を流しながら「みーしゃらしいね」と呟いた母の言葉にどこか納得もした。もしかしたら、彼は自分が旅立つことをわかっていて、どうしても最後に大好きな母のもとに、お気に入りの膝の上にいこうと、最後の力を振り絞って飛び乗ったのではないかと思う。一緒に過ごした人生の半分である、10年間という長いようで、あっという間の時間。猫が大の苦手だった父が、誰に言われわけでもなくみーしゃの朝ごはん当番を喜んで担っていたこと。自分の部屋にこもりがちだった兄がリビングに来るようになったこと。内気な妹が以前よりも表情豊かになったこと。家族の歯車が狂わないようにいつも中心にいてくれた偉大な存在。私たち家族は、今まで本音で語り合う事を、恥ずかしがっていたことにも気づいた。そして当たり前となっていた、私とみーしゃが交わした「秘密の会話」は、お金では買うことのできない、そして消えることのない大切な「思い出」を、たしかに私の中に残してくれた。毎日を懸命に生きているとあっという間に過ぎてしまう時間。振り返って見ると、全てを「あっという間」には振り返ることのできないたくさんの過去が、今の自分を支えている。そして私にとって生まれて初めての経験は、「ありがとう」と心の底から感謝できる時間の素晴しさを教えてくれた。私たち家族は今、中心の見えない歯車を、崩れないように円陣を組み、支え合って毎日を生きている。あの日からしばらくして、母が家のそばで何日も鳴き続けていた弱った小さな子猫を見つけ、保護してきた。みーしゃと全く同じ模様の小さな君。そうか、命は繋がっていくんだな。そう思わずにはいられない出来事に、巡る「生」の不思議な何かにそっと触れたような気がした。そして私は今、家族の絆をより一層深く感じている。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『『生まれてはじめて』』作者名:小さなごほうびエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月17日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『思いやりの連鎖』をご紹介します。私にはどうしても、釈然としない思い出がある。四年前の春、休日に趣味のスポーツをしている最中の事故で左手首を骨折した。仕事への影響は当然のこと、洗顔、着替え、食事、入浴…身の回りのことがすべて不便になり、憂鬱な日々を送っていた。特に大変だったのは買い出しだ。行きつけのスーパーは商品の位置を熟知しているとはいえ、買い物かごを持つにも、野菜を一つ入れるにも一苦労である。レジに並んでいる時間は周りの買い物客の哀れむような視線が刺さるようで、一刻も早くその場から立ち去りたかった。その視線にばかり意識が向き、いつもよりレジの進みが遅いことにしばらく気付かなかった。レジを担当していたのは、見慣れない女性の店員。胸の名札には「研修中」と書いてあり、すぐ後ろには中年の男性店員が立ち、指導をしているようだった。時間帯は夕方、混雑する店内はピリピリとした空気が張りつめる。会計の順番が来た。「〇〇円、頂戴致します。」ここでも時間を要する。財布を開き、小銭を出すのも一苦労だ。男性店員や背後に並ぶ買い物客の苛立ちを感じ取った私の手は、焦りで汗ばむ。無事に支払いを済ませ、一刻も早く退店しようと思っていたその時、女性店員の行動に私は胸を打たれることになる。彼女はレジの対応が忙しいにもかかわらず、手の不自由な私を見かねて、買い物かごを袋詰め台まで運んでくれたのだ。「ありがとうございます!」彼女は何も言わず、かすかにはにかむと混雑したレジへと足早に戻っていった。温かい気持ちのまま店を出ようとした時、さらに驚く出来事が起きる。近くにいた女性客が、袋詰めが終わって空になったかごをスッと戻してくれた。また、少し前を歩いていた別の男性客は、重い買い物袋を持って歩く私のために出口のドアを支えて待っていてくれたのだ。それまで味方など誰一人いないように思えた店内は、私を気遣う人たちで溢れていた。一人の女性店員の勇気ある行動を皮切りに、多くの人が心に仕舞いこんでいた「思いやり」を表現し、店内は優しい世界と化したのだった。「次のお客様が待っているだろう!早く戻れ!」男性店員の叱咤が耳に届く。たしかに、他の十数名の客にとっては迷惑な行為だったかもしれないし、店側のマニュアルとしては「間違い」とも言える行為だったのかもしれない。しかし、たった一人、救われた人間がここにいるのだから釈然としない。怒られる覚悟で勇気を振り絞った行動だったのか、何も考えず当たり前のように身体が動いたのか。彼女の当時の胸中を代弁するのは難しい。ただ一つ確実に言えるのは、困った人を救済したいという純粋な「思いやり」がない人間には出来ない行動であったこと。あの日受けた思いやり。それは釈然としなくて、四年経った今でも、温かく、胸に残る大事な思い出。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『思いやりの連鎖』作者名:鈴木 円香エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月16日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『わたしの町のクリーニング屋さん』をご紹介します。心温まる接客と聞いて、まっさきに思い浮かんだのは、わたしの住む町にあるクリーニング店だった。大学進学を機に実家のある田舎を出てから、東京や名古屋にひとり暮らしをしてきたが、引っ越しの度にまず探す場所の一つは、近所にあるいい感じのクリーニング店である。ここでは、これまでお世話になったクリーニング店の中でも一番思い出深い、実家の町のあるお店のことを話そう。そのお店の名前は、まるクリーニング(仮)と言う。小さな田舎町なので、周辺に住む人々のほとんどがまるさんにクリーニングをお願いしていたと思う。私の家族も常連で、週末になると父のスーツや兄と私の学生服を出しに行っていた。まるさんの大きな特長は、きかせすぎくらいにきいたパリっとした、というよりバリバリの糊である。セーラー服のスカートを一度クリーニングしてもらうと、自転車通学でどんなに雨風にさらされても、またどんなに長時間座っていても、そのプリーツはしばらくの間型崩れしなかった。ということは、それだけ何か溶剤が染みついていて、美容院でパーマをかけてもらった後のような香りを周囲にまき散らしていたかもしれない。しかし、学校の先生からは、「あなたはいつもスカートがきれいね。しっかりしている証拠だわ」などと褒めてもらえたことを、今も鮮明に覚えている。父もその糊の効果には太鼓判で、仕上がった仕事服を身にまとう前には、必ず「今日も糊がきいとるなあ」と満足げに笑っていたものだった。まるクリーニングのもう一つの大事な特長は、クリーニング店を超えて地域の名物、番台さんのような存在だったことである。チェーン店でないからこそ、常連さんが依頼にやって来るリズムを把握して、少々無理な納期をお願いしても「はいはい、やっておくよ」と快く対応してくれて、大変助けられた。私の祖父母もまるさんによく出していたが、お店から少し離れて住む高齢の祖父母に配慮して、まるさんのお母さんがいつもバイクで配達をしてくれていた。配達に来ると、天気や農作物の出来、近々ある行事の話などをひと通りして、あのコミュニケーションの時間も、祖父母にとっては楽しみの一つになっていた。また、まるさんのお母さんは会計も担当しているのだが、服の種類によっていくらと単価が決まっていないようで、明細は一度ももらったことが無い。服をたくさん持って行くと高くて、少ないと安くて、たまにたくさん持って行っても「おまけしとくね」と言って少ない時よりもかなり安かったりする。まさに信用商売。もやもやしつつも、バリバリに糊のきいた服にしてもらいたくて、今日はいくらになるかな、なんて考えながら持って行き(実際にはよきタイミングで気を利かせた母が出しに行ってくれたりして)、家に帰って金額を報告し、家族で毎回ひと笑いするのが楽しかった。そんなまるさんも、クリーニング作業を担当していたお父さんが高齢になったこともあり、ついに近くお店を閉める予定と聞いた。真夏になるとランニングの肌着一枚になって、一生懸命アイロンをかけてくれていた姿が見られなくなるのだなあ。そして、あのお母さんの運任せなお会計ネタもなくなってしまうのか。さいごに会った時に、きちんとありがとうを言ったかな。人生初のクリーニング店がこの名物まるさんだったから、わたしは単身引っ越しを繰り返してからも、クリーニング店にどこかおもしろい所がないかと探してしまう。クリーニング店を超えた思い出になった、まるさんをふと思い出して微笑みながら。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『わたしの町のクリーニング屋さん』作者名:喫茶去エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月15日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『配達の仕事は、人助けと思ってます』をご紹介します。8月の猛暑、歩いているだけで溶けてしまいそうな中、私は団地を歩いていた。この団地は新しくデザインされたところで、1階にお店や歯医者、クリニックもある。すぐ横には大きなイオンモールがあり、子育て世帯も多く暮らす。私がイオンへ歩いていると、足を引きずったおじさんが、通りがかる人に声をかけていた。でも、みんな通り過ぎてしまう。おじさんは汗を拭きながら困った表情。あまり見ない顔だし、暑い炎天下だから、みんな自分のことに必死、誰も足を止めない。そこに、いつも団地を回ってくれている宅配の配達員さんが通りかかった。彼はおじさんのほうに寄って行って何か話をし、小走りでその場をあとにした。そしてすぐに台車をガタガタと押しながら走ってもどってきて、なんとその台車におじさんがちょこんと腰かけた。どういうことだろう?配達員さんはゆっくりと台車を押し始めた。私は驚き、向かう方向が一緒だったこともあって、様子を見ることにした。配達員さんは、あの緑の帽子と制服を着ているし、通常荷物を運ぶ台車におじさんが座っているという不思議な光景で、周囲の人もちらちらと見ていた。二人はそんな視線を気にする素振りもなく、そのままイオンに入り、エレベーターで2階へ、何かを探しているようだ。そして、イオンの中にある小さな整形外科の前で台車を止めた。おじさんはゆっくりと立ち上がり、病院の前の椅子へ座り直し、泣きそうな顔をして言った。「こんなに親切にしてもらったのは、生まれて初めてだ。本当に助かった。痛くてとても歩けなくて、どうしようかと思ってたんだ」配達員さんは笑顔でこう返した。「よかったです。とても痛そうだったから、何かできればと思ったんです。配達の仕事は人助けと思ってるんで、これも同じです」「きみ、どこの支店に勤めているの?会社に感謝を伝える電話をしたい。ぼくにとって忘れられない出来事になった」とおじさんが言うと、「〇〇店ですが、私は社員ではなくてアルバイトですし、きっと名前言われても会社の人わからないと思います。いいんです、気にしないで下さい!」「そうなのか…なにもお礼ができなくて申し訳ない、せめてこれで飲み物でも買って。暑いからね。本当に有難う」汗をかいた配達員さんは頭を下げて笑顔で挨拶し、また台車を押して去っていった。私はおじさんに聞いてみた。「どうされたんですか?」「ここに来る前に自転車で転倒してしまって、どうも骨をやってしまったようで痛みがひどくて整形外科を探してたんだ。ぼくはネットで検索した△△という整形外科に向かって歩こうとしてたけれど、それがどこにあるかあの配達員さんに聞いたら、そこは遠いって言うんだ。足を引きずりながらこの炎天下でそこまで歩くのは大変だ、すぐ近くのイオンの中にも整形外科がある、って教えてくれてね。僕を心配して、台車まで持ってきてくれたんだよ。ちょうど手が空いたところだから、これでよければ押していけます、って。彼は、子育て中で出掛けるのが難しいお母さんに生活品を届けたり、重いものを持つのが難しい高齢の人へ届け物をして「ありがとう」って言われたりして、この仕事は人助け、親切そのものと感じ始めたらしい。だから、困っているぼくを見過ごさすに声をかけて助けてくれたんだ」おじさんは安心した顔で私に話してくれた。そうか。彼らの仕事には、人助け、親切という誇りが刻まれているんだ。配達員の仕事を美しいと思った。いつも気持ちの良い挨拶と笑顔で届け物をしてくれる緑の帽子の配達員さんが大好きだ。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『配達の仕事は、人助けと思ってます』作者名:綾乃エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月14日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『母からのメール』をご紹介します。みなさまは、自分の20歳の誕生日のことを覚えていますか。当時、私は大学2年生でした。実家を離れ、大学の近くで一人暮らしをしており、それはもう自由気ままな日々を送っていました。誕生日当日、私は朝目を覚ますと共に、得体の知れない期待をまとい、強く高揚しておりました。20歳という人生の節目を迎え、「大人になった」ということが、嬉しくてたまらなかったのです。授業の合間や、昼食中など、友人に20歳になったことを自ら伝えてまわりました。実際の生活で、変わったことなどひとつもありません。急に社会の知識がついたり、精神的に落ち着いたりすることももちろんなく、ただ今までと同じように時が流れているだけです。大人になった実感もありません。ですが、20歳を迎えたということはとても特別なことのように思えたのです。授業を終え、部活までの間1人になった私は、狭い部室で椅子に腰掛け、今までの自分の人生を振り返っていました。携帯電話の着信音に気付き、画面を確認すると、すぐに母親からのメールだと気がつきました。高揚感や大人になった達成感が自分の心のほとんどを占めており、親の存在を忘れていました。「そういえば親がいたな」くらいにしか思っていなかったのです。過保護な親から、またお節介なメールが来たのかな、と思いメールを開きました。短く、シンプルな文章でした。「お誕生日おめでとう」母親から誕生日を祝うメールが来たことにまず驚きました。今まで母親に誕生日を祝われたことがなかったのです。私は気持ちがたかぶっていたこともあり、普段なら絶対言わないような言葉で返信しました。「産んでくれて、ありがとう」送った後、なんだか恥ずかしくなってきましたが、もう送ったメールは取り消せません。今まで、母親にしてもらったことを、思い返してみました。物心ついた頃から、母親は毎日ご飯を作り、私が高校生の時はお弁当も作り、買い物をし、洗濯をし、家の掃除をしてくれていました。母親からすぐ返信がありました。「産まれてきてくれてありがとう。母親らしいことなにもしてあげられなくてごめん」その文章を見た途端、まぶたが奥から熱くなり、視界がぼやけ出しました。さらに細かく、母親との記憶が蘇ってきます。私が悪さをし、母親が学校に呼び出されても、私の話を最後まで聞いてくれたこと。わたしがテストで恥ずかしい点をとっても、部活で失敗しても、「元気で生きてくれていればそれでいいんだよ」と言ってくれたこと。いくつもの記憶が、断片的に頭の中に次から次へと湧いてきます。そして、驚くべきことに、それらはすべて愛で溢れており、私の心を温かく包んでいくのです。うつむくと、大粒の涙がぼたぼたと地面を濡らします。私が産まれて20年経ったと言うことは、母親は私を産んで20年経ったということです。今日は私の誕生日ですが、同時に母親の母親としての誕生日でもあるのです。母親は私の世話をする対価として、誰かに大金を積まれたのでしょうか。それともなにか大きな見返りがあるのでしょうか。いいえ、そんなものはなにひとつありません。私は、自分が自分1人で大きくなったと思っていたことが急に恥ずかしくなりました。部員が一人、部室に入ってきました。私が涙を流していることにとても驚いていました。事情を話すと、「良いお母さんじゃないか」と私の胸をグーでとんと押しました。「ああ、良いお母さんなんだ」そう言って私は、メールの保存ボタンを、ゆっくり押しました。しかし、そのメールは保存なんて意味がないくらい、私の記憶に強く残り、時に温かい気持ちにしてくれるのでした。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『母からのメール』作者名:沢村 進也エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月14日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『男子高校生の勇気ある小さな親切と大きな感謝』をご紹介します。私の娘がまだ1歳くらいの時のことです。娘をベビーカーに乗せて、2人で電車で買い物に出かけた帰りのことでした。JRの電車の中で、娘はベビーカーですやすや眠っていました。駅に到着し、乗り換えのため私はベビーカーを担いで電車を降りました。とても混雑していて、駅の階段にはたくさんの人がいてなかなか前に進まない状態でした。ベビーカーの娘はまだぐっすり眠っており、ベビーカーの両サイドにはたくさん荷物をかけていました。その頃は駅にはまだエレベーターが設置されておらず、改札まで行くにはベビーカーと荷物を持って階段を上がるしかありません。力には自信がある方でしたが、さすがに子どもを乗せたベビーカーとたくさんの荷物を、この人混みの中同時には持って上がれないと思いました。とりあえず、人混みが空いてからどうにかして階段を上がろうと少し待つことにしました。しかし、一度に持ってあがるのはやはり難しく、ベビーカーと子どもを置いて、まずは荷物だけ階段の上まで運ぶか、もしくは先にベビーカーと子どもを階段の上まで運ぶか悩みました。いずれにしても子どもを一時的に放置することになるのは心配で、どうしたらいいかと考えあぐねていた時です。同じ電車から降りた4人の制服を着た男子高校生が階段下で何やら話していました。何故階段を上がらないのかな、と思っていると、人混みがおさまった頃、そのうちの1人の男子高校生が突然私のところに来て「上までベビーカーもちましょうか」と声を掛けてくれたのです。彼らは私が困っているのを見て、ベビーカーを運んでくれようと一緒に人混みがおさまるのを待ってくれていたのです。4人の男子高校生達は、それぞれベビーカーの4隅を持ち、階段を上がってくれました。声を掛けてくれた彼は、運びながらおそらく照れ隠しでしょう、「俺ってめっちゃいい奴やん」と笑って言いました。周りの3人の男子高校生も恥ずかしそうに笑っていました。若い彼らにとっては、知らない人に声をかけること自体かなり勇気がいることだと思います。他人が困っているのをいち早く察知し、勇気を出して行動に移してくれたことが本当に嬉しく、涙が出そうになりました。何度も4人の高校生達にお礼を言い、彼らとわかれました。彼らの制服からどこの高校かはすぐにわかりましたが、お世辞にもあまり評判のいい高校ではなかったので、思いもよらない行動にはじめは驚きを隠せませんでした。その時私は、評判の良くない学校という偏見を持っていた自分がとても恥ずかしくなりました。大人の私が彼ら高校生に教えられた気がします。大人はすぐに「最近の若い奴は」といいますが、全てがそうではなく、素晴らしい若者もたくさんいるのです。私達大人が彼らのような立派な若者から教えられることもたくさんあるのだと思いました。彼らの勇気ある小さな親切に大きな感謝です。あの時の男子高校生も今ではきっと立派な大人になっていることでしょう。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『男子高校生の勇気ある小さな親切と大きな感謝』作者名:マーチエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月13日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『吹き抜ける優しさ~バス物語~』をご紹介します。新しい文化、新しい土地、新しい学校。引っ越してきて2週間、知り合いのいないこの街で覚えたのは近所のスーパーと学校までの道程のみ。右も左もわからない状況下で、小学4年生と1年生の息子の手を繋いで丘の頂上にある小学校への道程が時に遠くに感じます。そして明日は引っ越してから初めての雨予報。「ママ、明日は雨?学校に歩いていくの?」私の不安を察したのか子供達が私の顔を覗き込んで言います。「こんな雨じゃ、学校に着いたらびしゃ濡れだよね。明日はバスに乗って行ってみよう。」その言葉に嬉しそうな子供達の顔。子供を寝かした後、バスの経路を調べてみると、我が家の裏通りから学校の前まで行くバスを発見!良かった!翌日、叩きつける激しい雨の中、遅れまいと早く家を出てバス停に向かいます。子供達の靴は既に雨に濡れてびしゃびしゃ。「ママ、待って。そんなに早く歩けないよ。」「頑張れ、頑張れ!早くしないとバス行っちゃうよ!次のバスだと学校に遅れちゃうよ。」その瞬間遠くに見えたのです。私達が乗るべきバスが丁度バス停を出発しようと動き始めたのを。「ああ、待って!」手を精一杯両手を振りながらバスに向かって全力疾走すると、その姿に気が付いてバスはその場で止まってくれました。「サンキュー ベリー マッチ!」息を切らせながら3人で転がるようにバスに乗り込むと、バスの運転手さんがにっこり笑ってこっちを見ていいました。「いい走りでしたよ!あなたのこと置いていきませんよ。大丈夫ですよ。」っと。運転手の笑顔が心の奥に染み入って、温かいモノが流れていくのがわかりました。そしてその日の午後、学校終了時間に合わせて私はまた学校に向かい、今度は子供達と一緒に帰りのバスを待ちます。(子供だけでは帰れない規則です。)「あ、来たよ!」バスに乗りこむと運転席に座っていたのは朝の運転手さん!「学校はどうだった?楽しかった?」子供達は嬉しそうに、そして、恥ずかしそうに運転手さんに向かって大きく頷きました。「朝の運転手さんだ、優しいね。」耳元で囁く息子。そして続けます。今日は宿題で本を探すために図書館に行きたいのだと。そこで、バスの揺れに身を委ねながら、私は席を立ち運転手さんのところに行きました。私達は最近越してきたばかりだということ、今から図書館に行きたいのだけれど、最寄りのバス停はどこなのかわからないので助けて欲しいこと。すると、その運転手さん、何と他のお客さんもいたのにもかかわらず、バス停のないところでバスを停車させてくれたのです。そしてこう言いました。「ここが一番近いですよ。降りたら左に向かって歩いて行ってください!頑張って!」と。「え!」私の目が点。バス停もないところで降ろしてくれただなんて。そして他の2,3人のお客さんも何も言わずにそうすることを許可してくれただなんて。またまた心の芯が熱くなりました。「いい一日をね!またね!勉強頑張ってね!」そういって運転手さんは子供達の頭を撫でてくれました。子供達は覚えたてのサンキューと満面の笑顔で駆け足でバスを降りました。私は他の乗客の方々に向かって大きく一礼し、再度運転手さんに心からの有難うを伝え子供に続いてバスを降りました。バスを降りると運転席から、運転手さんが図書館のある方を指さして信号をわたるようにジェスチャーをしてくれているのが見えます。私達は両手の親指を立てて、大きく頭を下げてバスが小さくなるまで見送りました。初めての街で吹き抜けたあの優しい風が今でも時々心の中でピカッと光ります。あれから6年。私が受けた優しさを今度は私がこの街に新しく来る方々に紡いでいきたいと思います。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『吹き抜ける優しさ~バス物語~』作者名:ひでよエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月12日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『心を拾ってくれたタクシー』をご紹介します。タクシー運転手という職業をとても尊敬している。見ず知らずの人を車に乗せて、時には横柄な態度を取られ、理不尽な怒りをぶつけられることもあるだろうに、24時間いつでもしっかりと目的地へと連れて行ってくれる。東京で働いていた時は、激務ということもありほぼ毎日タクシーに乗っていた。私が新人の頃は、深夜に半泣きで帰路につく私を、運転手さんがよく励ましてくれていた。その時間が私はとても好きだった。中でも、忘れられない運転手さんがいる。数年前の年末のこと。仕事でひとつの大きな案件を終えた夜だった。私は、ほぼ2徹状態での肉体労働を終え、身も心も満身創痍、一刻も早く家に帰って暖かい布団に滑り込みたい、その一心だった。日付が変わった頃に会社を出て、今にも崩れ落ちそうな肢体を家まで運んでくれるタクシーを探した。しかし、走るタクシーは数多居れど、ことどことく「賃走」。通り過ぎる全てのタクシーが乗車済みだった。よく見ると、路傍に私と同じようにタクシーを探す「タクシー難民」たちで溢れている。世は師走。忘年会シーズン真っ盛りの金曜日だった。居酒屋も立ち並ぶビジネス街に会社があったため、忘年会を終えた人たちがタクシーで帰ろうと溢れかえっていた。その時の私は、まだ余裕があった。これだけタクシーが走っているんだから、少し歩いて繁華街を離れれば1台くらい「空車」のタクシーがあるだろうと思っていた。しかし、1時間さまよい歩いても、1台も「空車」がない。空車を見つけても、すぐさま別のタクシー難民に乗られてしまう。疲れた。寒い。疲れた。寒い。体も、気持ちも、限界だった。私はこんな時間まで働いて、疲れきって、こんなにもタクシーを必要としているのに、楽しそうな酔っ払いたちがタクシーに乗っている。道端でタクシーがいないと騒いでいる人も、ほろ酔いだから、その状況さえも楽しんでいるかのように声を弾ませている。感じたことのないくらい、殺伐とした気持ちだった。すれ違う酔っ払いたちが憎くて憎くて仕方がなかった。もう一歩も歩けなくなってしまった。私はガードレールにもたれかかって、ただ、立ち尽くしてしまった。ついに涙も決壊した。その時、1台のタクシーが私の目の前に停車した。表示は「回送」。ドアが開き、優しそうなおじさんの声が中から聞こえる。「タクシー、ないんでしょ。回送だけど、いいよ。乗りな。」車内はとても暖かかった。冷えた体も、気持ちも、じんわりと溶けていくようだった。安堵からはらはらと涙を流す私に、運転手さんはただただ優しい言葉をかけてくれる。「僕もね、今日は酔ったお客さんばかりで疲れてたけど、最後に君みたいな頑張ってる子を乗せられて、嬉しいよ。」涙が余計に溢れ出て止まらなかった。家に到着して、厚くお礼を言って降りようとした時。運転手さんが私を引き止めた。「これ、よかったらもらって。買ったけど、結局食べなかったから。お疲れ様。」渡されたのは、1箱のチョコレートだった。口の中に入れたチョコレートはとても甘く、疲れた体に染み渡っていった。運転手さんにとっては、どれも些細なサービスだったのかもしれない。それでもこんなにも救われる気持ちがある。世界は小さな優しさたちでできているんだと、実感した夜だった。いつか私の行為も誰かの心を拾うときがあるかもしれない。あの運転手さんのように、柔らかい気持ちを持っていたいと、今も思っている。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『心を拾ってくれたタクシー』作者名:NMエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月12日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『壊れた洗濯機の次のおうち』をご紹介します。その日、私は、朝から新しい洗濯機が届くのを、ずっと待っていました。我が家は5人暮らし、3人娘はまだ幼くて、遊び盛りなのに、3日前、我が家で一番の働き者の洗濯機が突然壊れてしまったのです。困った私は、子どもたちがそれぞれ幼稚園と小学校に行っている間に、3歳の三女と大きな量販店で、あれこれ悩んでなんとか希望の洗濯機を注文。でも届くのは3日後…。それから、洗濯物はコインランドリーでなんとかしのぎ、この日を待ちわびていました。すぐに洗濯機を置いてもらおうと、壊れた洗濯機を玄関脇に移動して、洗濯機置場後ろなどの掃除をしていると、社宅の外でいつものように遊んでいると思っていた次女が傍に…「どうしたの?けんかでもしたの?」と掃除しながら聞くと「お母さん…この洗濯機ってこのあとどうなるの?」とぼそっと一言。「え?洗濯機?」「うん、これどこに行くの?」と洗濯機をツンツン触る次女。「さーー?どこにいくのかな?母さんもよく知らんのよね」と答えると「ふ〜〜ん」と次女。なにをいってるんだろうと、不思議に思ったものの、そのままにしていると、玄関のチャイムが。「洗濯機持ってきました、こちらでよろしいですか?」配送員のおじさんとお兄さんがやってきました。外で遊んでいた長女と三女が「わーーー!新しい洗濯機きたっ!」と大喜びで帰ってきて、新しい洗濯機に夢中なのに、次女は、先に玄関先から下に降ろされた壊れた洗濯機の傍を離れません。新しい洗濯機の代わりに荷台に積まれた古い洗濯機を、次女はトラックの傍でずっと見ていました。配送員のお兄さんが不思議そうに次女を見ていたので、「この子、この洗濯機がどうなるか気になるみたいでね〜」と苦笑いすると「えーー、そうなんですね」とニッコリ。そして、駐車場からトラックが出発すると、次女は「ばいばーい!!ばいばーい!洗濯機!ばいばーい!」と手を振りながらトラックを追いかけたのです。お兄さんもバックミラーを見ながら微笑んでいるのが見えましたが、私はその姿を少し困って見ていました。ところが、その夜のことです。仕事で遅い主人を待たずに、晩ごはんの用意を娘たちとしていたとき、電話が鳴りました。「ごめん、誰か出てー!」と頼むと、次女が電話に出てくれました。そして、電話に出た次女は、電話口で何度かうなずいて、電話を切ってしまったのです。「どうしたの?だれだったん?」と聞くと「ん?洗濯機のお兄ちゃん!洗濯機は無事、次にいくところについたって!」とニコニコで夕食を食べ始めました。「え??洗濯機が?」配送員のかたは、娘が洗濯機を気にしていたことを心に留めていてくれたのでしょう。配送が全部終わった後、わざわざ電話をして、娘が安心できるようにして下さったのです。もしかしたら、ご自身もこれくらいの子供さんの親だったのかもしれません。子供の個性に、一人の大人として向かい合ってくれた配送員のかたの規約外の優しいサービス。今でも、大阪で過ごした家族の大事な思い出の一つです。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『壊れた洗濯機の次のおうち』作者名:すずらんエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月11日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『私が仕事を続けられる理由』をご紹介します。私は小さな駅前のコンビニで働いています。夏の暑い日は汗をかき冷房で冷やされ風邪をひき、冬の寒い日は延々とおでんと中華まんの補充をし、かれこれ6年目になります。コンビニは便利が良いことを求めて新しいサービスを展開しています。お客さんは便利になったと喜んでいますが、店員にしてみればたまったもんじゃないと思う日もあります。この6年だけでも様々な業務が増えました。新人研修も年々教える事が増え負担に思う時もありますし、実際、する事が覚えられないと研修期間中に辞めてしまう人もいました。時間帯によってよくやる業務と経験の少ない業務があるので、不意に経験のない業務が来ると冷や汗が止まらなくなりますが、お客さんにしてみればコンビニに行けば出来るものと思われているのでやはり全て把握しておかなければなりません。お客さんも、良い人ばかりではありません。お金を投げてこちらに渡す人、イヤホンをしたままでこちらの問いに何も答えてくれない人、割り込みを注意すると持っていた物をそのまま置いて出て行ってしまう人。虫の居所が悪かったのか理不尽に怒鳴られる日もあります。カスハラなんて言葉も最近聞く様になりましたが、よく来る人ならともかく、見覚えも無く、警察沙汰にするほどのことにもならなければそれをどこに訴えかければいいのでしょう。我慢しなければいけない理由はないはずですが、直接言える勇気が有るのならとっくに言っているのです。怒鳴られた後は恐怖でレジを打つ手や声が震えます。セクハラを受けた後は悔しくて泣きそうになります。泣いてしまった日もありました。その上基本給は県の最低賃金とあまり変わりません。辞めてしまいたいと何度も思いました。それでも私がこの仕事を続けられているのは、自分の仕事ぶりを見てくれている、認めてくれているお客様が居るからです。いつもの煙草を用意してレジに向かえば「流石っすね!」と笑ってくれた時。ミスをして落ち込んで居た時、「元気ないけどどうしたの?」とわざわざお声がけ下さって「そういう日も有るよ」と励ましてくれた後豆大福を買ってくれた時。足の悪いご高齢のお客様に、いつもの様に購入された物をタクシーまで運んで行ったあと「コンビニは沢山有るけど、あなたが居るからここに来るのよ」と言われた時。たった一言だけでも私達店員の心は救われます。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『私が仕事を続けられる理由』作者名:吉原 なおエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月10日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『金髪兄さんありがとう』をご紹介します。受験に落ちてしまった私は暗い闇の中を歩いていた。途中、人気のないコンビニエンスストアを見つけ中に入り、ひとつ深いため息をつく。奥の方から、金髪で20歳くらいのお兄さんがだるそうにいらっしゃいませ、と小さな声でお出迎えしてくれた。暗い顔をし下を向いている私が言えることではないが、彼は仕事をしっかりできている人だとは思えない。そんな印象だった。落ち込んでいた気持ちが更に落ち込んだわたしは、少し猫背で黙々とお菓子の棚を見つめていた。ここに何分いただろうか。ザザザザ、と急に大きな音がしたのでガラス越しに外を見てみると突然の大雨。あんなに頑張ったのに、どうして。なぜ落ちてしまったんだろうか、胸が締め付けられ目から涙が溢れた。これからどうしたらいいんだろうか、雨が苦しそうに泣いていたのでつられてわたしも泣いてしまった。悔しくて、不安で、どうしようもなく苦しくて。孤独感に襲われた。何も考えたくない、そう思ったわたしは何も買わずに外に出た。もういいや、濡れて帰ろう。そう決意して屋根から一歩出たときだった。「これもらってください、お疲れ様でした!来てくれてありがとう」金髪のお兄さんがそこには立っていて一本の傘を私に差し出した。さっきのだるそうな感じとは全く違い、前を向きハキハキと。初対面なのにどうしてだろうか。わたしは目から自然と涙がこぼれ落ちた。受験に落ちた気まずさからか、親や仲の良い友人は何も言ってくれず、わたし自身も自分を責め続けていた。そんな時心に響いたその言葉。忘れられないその言葉。誰も言ってくれなかった、とっても温かくて優しい言葉。「明日はきっと晴れるよ、大丈夫」お兄さんはそう言って店内へと戻っていった。これからもう一度チャレンジすれば大丈夫、私ならできるよ、そう言われているような気がした。何気ない言葉だが、わたしにとっては最高の言葉だった。金髪が怖いとか真面目じゃなさそうとかそんな偏見を持っていた私だが、人は見た目ではない。今のわたしがいるのはこのお兄さんのおかげ。お兄さんにかけてもらった言葉があったからもう一度チャレンジしようと思えた。ありがとう。本当にありがとう。周りを見て変化に気がつける人って素晴らしい。自分が何もできないと思わないで、人の気持ちに敏感になろう。わたしは今アルバイトで接客を積極的にしている、あのお兄さんに憧れて。人生に何があるか分からない私たちは、周りの人を大切に。小さな気遣いでも相手にとっては宝物。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『金髪兄さんありがとう』作者名:鹿乃エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月09日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『小学生達の席譲り』をご紹介します。朝の通勤電車で混雑している時は皆座りたがる。私も電車で通勤しているが、荷物の多い時は正直座りたい。しかし座れても、高齢者とか妊婦さん等がいれば席を譲っている。優先座席もあるが、残念ながら優先座席にも誰でも座っているので、優先座席としての機能は果たしていない。先日は、おそらく二日酔いであろうが、横になって席を大幅に占め寝ている若者もいた。残念な事である。席を譲るというマナーはなかなか見られない。ある日、満員でつり革を持って乗車していると、座席の端の方に小学生の女の子が座っていた。高齢者男性が乗車してきた。するとその女の子は、「ここの席、どうぞ。」と声をかけて、立ち上がった。高齢者の男性の方は、小学生に声をかけられて驚いたようだが、まだ元気で足腰もしっかりしているので、丁重に断った。小学生に席を譲られるとは思ってもいなかったかもしれない。断られても、その女の子は笑顔でうなずいた。その方はやがて降りていった。しばらくすると、荷物を持った50代くらいの女性が乗ってきた。すると、その小学生の女の子は、また「ここの席、どうぞ。」と席を譲ろうとして声をかけた。その女性も席を譲ろうとする小学生の女の子に驚いていたが、まだまだ若く元気そうで、遠慮してか断った。それからもその小学生の女の子は、次々と席を譲ろうとした。しかし声をかけた方々には皆、丁重に断わられた。何故、その女の子は熱心に席を譲ろうとするのであろうか。不思議であったが、心に残った。やがて私の降りる駅が来て私は降りた。何か、素晴らしいものに出会って心に響いた。それからしばらくして、またその小学生の女の子を電車で見た。電車は満員である。今回は、同じ制服を着ている女の子達が並んで座席に座っている。その女の子は真ん中あたりに座っていた。男の子達もいたが、おそらく同じ小学校であろう。ある駅で杖をついた高齢者の男性が乗ってきた。するとドアに一番近い女の子がさっと立ち上がって、「ここの席、どうぞ。」と言ってその方の手を引いて座らせた。その方は丁寧にお礼を言って座った。座れて本当にうれしかったという感じである。次の駅では、別のドアから荷物をいっぱい抱えた60代くらいの女性が乗ってきた。するとそのドアに一番近い所に座っていた男の子がさっと立ち上がり、その方の手を引いて、「ここの席、どうぞ。」と席を譲った。その女性も丁重にお礼を言って座った。私は納得がいった。席を譲るというマナーを小学校で教えているのであろう。マナーの教え方がよいのであろうが、それを素直に聞く小学生も立派である。どの小学校校かはわからないが、大変立派な教育をしている小学校と思った。私はかなり早い電車で通勤している。その小学生達はいつも坐ってくるので、おそらく始発の駅かその近くの駅から乗るのであろう。するとかなり早い時間に起きて登校していることになる。本人たちはもちろん、親達も大変であろう。しかし寝ている子は一人もいないし、座り方のマナーもいいし、電車の中で騒がない。読書をしている子もいる。それでも席を譲る人が乗ってきたら、すばやく席を譲るマナーが身についている。一方で若者や大人がだらしなく寝ていて隣の方に寄りかかったり、ゲームに夢中になって雑音を立てていることもある。小学生がマナー良く座り読書をしているのに、大人は座るマナーも悪く、ゲームで遊んでいる。その意味で、この子達の乗車態度はお手本にしたい、大人も見習わないといけないマナーと思った。素晴らしいものを見せてもらって、こういう小学校もあるのだと、心が癒された。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『小学生達の席譲り』作者名:笑う希望エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月08日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『優しき山バア』をご紹介します。今から三十年以上前のこと。私が通っていた小学校から、少し坂を下った途中に一軒の駄菓子店があった。無口なお婆さんが一人で切り盛りしている店だった。「オバちゃん、コレちょうだい」「…二十円」小学生相手に、至って愛想は悪く、いつも店の奥に鎮座して、駄菓子の値段だけを呟き続けていた。動かざること山の如し。当時、そんな言葉はもちろん知らなかったが、私たちは密かに「山バア」と呼んでいた。ある日のこと。私は友達四人と、いつものように駄菓子を物色していた。すると、一人の子が、「このガム、お揃いで買おう」と言い出した。価格、五十円也。他の子が同調する中、私は手の平にある全財産を見つめ、勇気を出して言った。「三十円しかないねん」とワタシ。「ほな、家戻って取ってくる?」とトモダチ。女手一つで働く母に、二十円の「追加融資」を言い出す気にはなれず、私は、その場で立ちすくんでいた。気まずく思ったのか、友達も次々と店の外に出て、おしゃべりを始めた。私はただ一人、店の天井に飾られた風船を無意味に眺めていた。すると、山が動いた。いや、正確には、山バアの口が動いた。「裏にあるラムネ瓶の箱、持ってきて」どう見ても、店には私しかいない。山バアが、駄菓子の値段以外の日本語を発していることに驚きつつ、私は頷いて、店の裏へ行った。訝しげな友達を横目に、十数本の空のラムネ瓶が入った箱を、やっとの思いで店の中へ運び込んだ。「ココ、置いときます」こわごわ報告した私に、手招きをする山バア。「これで手ぇ拭き」そう言って、山バアから渡されたタオルの上には、十円玉が二枚、のっていた。戸惑う私の顔を見ながら、「手伝い賃や」と短く呟く山バア。「でも…」と言いかけると、彼女は、そっと私のポケットに、その二十円を入れた。結局、戻ってきた友達の話題は、「お揃いのガムを買う話」から、「明日の給食」へと変わっていた。帰りがけ、ふと店のほうを振り返った私は、思わず、「あっ」と声を上げた。さっき私が店に運んだラムネ瓶の箱を、腰を屈めた山バアが、店の裏へ戻していたのだ。申し訳なさと有難さが心の中でぐるぐると交差する中、私は帰り道の坂を下りて行った。最近、こんなことを教わった。「優しいという字はニンベンに『憂う』と書く。人の憂いに気付く人を優しい人と言うのではないか」と。三十数年前のあの日、小学生の小さな憂いに気付いてくれた山バアは、本当の優しさを教えてくれた、最初の大人かもしれない。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『優しき山バア』作者名:安部 飯駄(アベ パンダ)エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月07日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『神様なんて、いないのに』をご紹介します。「ああ、早く外に出たいわあ」表紙に『京都の神社・仏閣巡り』と書かれた本を片手に母がため息交じりに言う。テレビではどのチャンネルに変えても「マスク売り切れ」「自粛要請」「一人一人の行動にかかっている」等、同じ言葉の繰り返しばかりで息が詰まりそうになる。この息苦しい感じ…あのときもそうだったな。今から4年前、私は大学受験を控えた受験生だった。第一志望だった某国立大学は推薦入試、前期入試ともに不合格。周りは次々に進路が決まっていく。先生からもつい数か月前まで「あなたの成績なら大丈夫」と太鼓判を押されていた私は、いつの間にか取り残された。ある日、学校から帰宅すると、リビングの上に白い小さな袋が置かれていた。私の存在に気づいた母が「あ、おかえり!」とキラキラした表情で私に言った。「その袋開けてみてよ!」中に入っていたのは、白いフェルト生地の真ん中に紫色で大きく「守り」と刺繍された手作りのお守りだった。文字の周りにも刺繍やビーズで装飾されていて、なかなかの大作だ。明らかに手の込んだお守りに思わず見入っていた私に、母はすっぱりと言った。「みーちゃんの進路、神様は見てくれてるから大丈夫!」ああ、まただ、と私は思った。何の根拠もない「大丈夫」。どこに行っても突き放されるかのような「大丈夫」…。重い。苦しい。これまでの失敗が蘇る。でも、母の屈託のない表情を見ると弱音なんて吐けなかった。不安な気持ちを飲み込み、お守りを握って自分に言い聞かせた。神様が見てくれているのなら今回は違うはず…。そして挑んだ最後のチャンス、後期入試。結果は-【不合格】私は確信した。「神様なんていないんだ」と。その後、私は結局すべり止めで受験していた私立の大学に入学した。大学では友達や先生にも恵まれ、忙しいながらも充実した日々を送っていた。あっという間に時は過ぎ、この日は成人式。雲一つない穏やかな晴天だった。成人式から帰っても何となく振袖を脱ぐのが惜しかった私は、母の提案で近所の神社に参拝しに行くことに。着くなり懐かしそうに母は言った。「ここはよく来たなあ。神様に20年分の感謝を伝えないと!受験の時もお世…」「受験」という言葉を聞いて、当時無理やり押し込めていた感情が急に膨れ上がってきた。脳裏に浮かぶのは、不安に押しつぶされそうな自分、どんどん届かないところまで進んでいく同級生たち、そしてすがるような思いで手にしたあのお守り…それなのに…。「神様なんて、いないのに!」もう限界だった。あの日から何も信じられなくなっていた。母の影が静かに私のほうを向く。「神様はちゃんと見ててくれたよ」顔も上げられない私に、母の声が優しく響く。「母さんは合格祈願なんてしたこと無い。願ってたのはみーちゃんが幸せやって思える道に進めますようにっていうことだけ。だから毎日遅くに帰ってきて、友達にも先生にも良くしてもらって、課題に追われながらも楽しそうに大学に行ってる姿を見る度に、受験で明けても暮れても机にかじりついてたあなたのことやっぱり神様は見ててくれたんやなあって…」当時、周りの目ばかり気にして、失敗するたびにかっこ悪くなっていくような自分が情けなくて、一人ぼっちになるのが怖くて、誰かに認められたいがために頑張っていた自分。その時は自分のことで必死になって気づいていなかったけれど、そんな私のことをずっと母は見守ってくれていた。こんなにも近くで…。そして現在。本から顔を上げて『疫病退散』と書かれたページをこちらに向けて満面の笑みで母が言う。「自粛期間が明けたらここに行こっか!」母のキラキラした表情には、つい頷いてしまう。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『神様なんて、いないのに』作者名:山下みのりエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月06日