井上ひさし作、蜷川幸雄演出による舞台『しみじみ日本・乃木大将』の開幕が、7月12日(木)に迫った。『井上ひさし生誕77フェスティバル2012』と銘打って今年8本上演される井上戯曲のうち、本作はその第5弾にあたる。稽古の様子を取材した。「うるさいチームだよ、まったく」と笑い混じりに蜷川がこぼすのは、キャスト陣のことだ。風間杜夫、根岸季衣、六平直政、山崎一、大石継太、朝海ひかる、香寿たつき、吉田鋼太郎。いずれも舞台が原点といっていい生粋の演劇人が揃う。特に目立ったのは、六平。演技を始める直前までギャグを飛ばし、出演者同士で段取りを確認した後には「みんな、わかったよな?」と仕切ってみせる。さらに、それに応える面々の切り返しもまた笑いを生み、稽古場の一体感が高まっていく。芝居が始まり、各人が役に扮しても、この空気は変わらない。むしろ、歌がふんだんに使われている分だけ、にぎやかさは増している。時は明治天皇大葬の日、殉死することを決意した陸軍大将・乃木希典の物語。設定だけ聞けば、重くシリアスな作風を想像しそうだが、実際には、驚くほどばかばかしい。“何を描くか”と“いかに描くか”。テーマとテイストの間に飛躍があるからこそ、ドラマがいっそう輝きを放つ。まさに井上作品の真骨頂がそこにはあった。日露戦争の英雄と称えられる一方で、愚将の烙印を押されることも少なくない乃木。彼は明治天皇にどんな思いを抱いて命を絶ったのか。周辺の人物によるコメントを通して主人公の人物像を浮き彫りにする物語は少なくないが、本作が珍しいのは、5頭の馬がその役割を務めるところ。しかもそれぞれ、前足と後足が別の意志を持つ。知的に考える前足たちと、生理にまかせて行動する後足たちと。10の人格ならぬ“馬格”による乃木の立場をめぐっての議論が、天皇制に対する賛否両論と重なって興味深い。また、「もしも○○が乃木大将の立場だったら、こんな態度に出るかも」と馬たちが何パターンも演じ分ける場面は、バラエティ番組さながらのおかしさだった。1979年に芸能座が初演した作品で、今回は、1991年のこまつ座公演以来21年ぶりの上演となる。蜷川は「俳優が演技を競い合うような戯曲。ト書きに細かく書かれているので、演出家はほとんどすることがない」と言いながら、「軽演劇風にみせたい」と明快に方向を示す。7月12日(木)から29日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールで上演。その後、大阪、新潟で公演を行う。
2012年07月06日2008年、日韓合同公演『焼肉ドラゴン』の作・演出を手がけ、その年の名だたる演劇賞を総なめにした鄭義信。新国立劇場の財産演目として昨年も再演された『焼肉ドラゴン』に続き、鄭義信が再び演出も兼ね、同劇場に新作を書き下ろす。新作のタイトルは『パーマ屋スミレ』。3月5日(月)の初日に向けて奮闘する稽古場を、2月某日、訪ねた。作品は1965年、九州の炭鉱町で暮らす在日コリアンの炭鉱労働者とその家族の物語。ある日、炭鉱事故に巻き込まれ、訴訟を抱え必死に戦いながらも、石油へのエネルギー転換でやがて彼らが置き去りにされる日本の陰の歴史を描く。有明海を望む“アリラン峠”の集落のはずれにある「高山厚生理容所」には、元美容師の高山須美(南果歩)と再婚した張本成勲(松重豊)とその家族が住んでいる。貧しいながらも、須美は明るく騒がしく姉・初美(根岸季衣)や妹・春美(星野園美)らと力を合わせて暮らしていたが、炭鉱の爆発事故で成勲や春美の夫・大杉昌平(森下能幸)が一酸化炭素中毒患者になってしまう。彼女たちは生活を守るため、そして生き抜くために壮絶な戦いを始めて……。この日の稽古は第6場、物語がシリアスな方向に大きく展開する場面だ。餅をつき、須美と初美がリズミカルに丸めて振る舞うというシーンから始まり、本物のつきたての餅もスタッフから用意された。南と根岸が丁々発止のセリフのやりとりをしながらも、口の中にちぎった餅をポンポンと入れていく胸がすくような食べっぷりにそこかしこで笑いが起きる。台本自体が面白いため、演出をつけずに通しただけでも楽しく観られるのだが、ここからが“世界では2番目、アジアでは1番しつこい演出家”を自称する鄭義信の本領発揮。前述のシーンだけでも、餅をつく速度、炭鉱労働者・木下役の朴勝哲が餅をつく長さ、南が話す説明ゼリフの視線の置きどころや、根岸らしいアドリブのセリフの効果的な入れどころ、人の突き飛ばし方や突き飛ばす長さ、足の悪い成勲役の松重への歩き方指導と、細かい指摘は枚挙にいとまがない。自然な芝居の流れと間、そしてリアルな描写に徹底的にこだわり、俳優の無意識の動作をすべて生活に結びついた動作に変え、セリフと動作をしっかりと意味づける。そうした小さな指摘をひとつひとつ直すごとに、“アリラン峠”に暮らす人々の生活がビックリするほどの鮮やかさでより具体的に立ち上ってくるから不思議だ。大変なのはキャスト陣。つきたての餅という消えモノや多くの小道具を操るだけでもてんてこまいなのに、そこに鄭義信の微に入り細を穿つ演出が加わり、さらに芝居が変わる。第6場ほぼ出ずっぱりの南と根岸は、多くなるきっかけに少々頭を混乱させながらも必死に演出に食らいつく。そんな南にスタッフが、もう一度本物の餅を用意したほうがいいかと尋ねると「食べられるものは全部食べます!」とニッコリ。キャストのガッツと、スタッフ、鄭義信への全幅の信頼感がうかがえる瞬間だった。同作品は新国立劇場 小劇場にて、3月5日(月)から25日(日)まで上演。チケットは発売中。
2012年02月23日「考える人」など数々の作品を遺したフランス現代彫刻の巨匠、オーギュスト・ロダンと、その弟子であり愛人であったカミーユ・クローデル。このふたりの芸術家の関係を描いたミュージカル『GOLD~カミーユとロダン~』が、12月8日、東京・シアタークリエで開幕する。開幕に先立ち7日、出演する新妻聖子、石丸幹二、伊礼彼方、根岸季衣、西岡徳馬の5人が取材に応じた。ミュージカル『GOLD~カミーユとロダン~』チケット情報はこちら作品は、『ジキル&ハイド』『ルドルフ ザ・ラスト・キス』などを手がけ、日本でも高い人気を誇るフランク・ワイルドホーンが音楽を担当し、2003年にアメリカで初演されたもの。白井晃が演出を手がけ、今回が日本初演となる。女性彫刻家が存在しなかった時代に、溢れる才能と情熱を持って世間の荒波に立ち向かったカミーユ。ロダンとの不倫関係の末、最期は30年ものあいだ精神病院で過ごすという波乱の人生を辿ったこの女性を演じる新妻は「本当に大きな挑戦。でも私もわりとテンションが高めで感情表現が豊かな方なので(笑)、彼女を理解できます。また同じ表現者として、彼女がぶちあたった壁、置かれていた状況を思うとすごく心が連動する部分があるので、どっぷりカミーユになりきりたい」と意気込みを語った。カミーユを愛し、彼女の才能を誰よりも認め、しかし時に彼女の前に壁として立ちはだかるロダンに扮するのは石丸。「カミーユのことを心から愛している男としてのロダン、そして芸術にまっしぐらだったロダンを自分なりに表現していけたら。後世に残る作品をどんどん作っていた男としてのカリスマも出していきたいですね」と話す。またカミーユの父は当初、古谷一行がキャスティングされていたが病気治療のため降板、代役を西岡徳馬が務める。西岡は「一行さんとは古くからの友人ですから。彼の分も一生懸命頑張ってやりたい。早く良くなって一線に復帰していただきたいと祈念しています」と語った。公演は12月28日(水)まで同所にて。チケットは発売中。
2011年12月08日事の発端は、某ライターが放ったこの一言。「根岸さん、いつも眠そうですよね」“根岸さん”とは、当「コブス横丁」で執筆中のライター・根岸達朗のこと。過去に、コカ・コーラさんに唐突な告白を試みたり、1日中「コブス」としか言わない日を作って、同居人に眉をひそめられたり、独自のアイデアで「コブス横丁」をスパイシーに演出している根岸さん。彼のいつ見ても寝起きよろしくボンヤリとした風ぼうは、眠い、眠くないに限らず、常に“眠そう”なのは確か。実際は、「コブス横丁」のスタッフ陣を引っ張っている“デキる”ライターだというのに、これでは印象点で大損です。今回、どんな方でも瞬く間に“デキそうな”ビジネスマンに変身させるという、パーソナルスタイリストの森井良行さんに、“デキる”コーディネイトとは何か、をご指南いただきました。これで“眠そうなライター”改め、“デキそうなビジネスマン”になれますね、根岸さん!根岸「じゃあ、せっかくプロのスタイリストさんにスタイリングしてもらうので、当日は頑張って汚い格好にしてきますね」……頑張りどころが違うような気がするのですが。そして、当日。根岸さんは、髪は4ヶ月伸ばしっぱなし、ヒゲは2週間放置し、期待を裏切らないモサモサの格好で現れました。早速、森井さんに髪の毛を整えてもらいます。「あーー。眠い……」と言わんばかりの表情でされるがまま。普段は、お医者さん、社長さん、作家さんなどのスタイリングのほか、ビジネスマンの買い物に同行してアドバイスをするサービスを行っているという森井さん。センスがいい、と思われるコーディネイトのコツはどういったものなのでしょう?森井良行さん(以下、森井)「まず、オシャレを狙いすぎないことですね。オシャレにしよう、と意気込むと、たいていやりすぎてしまい、女性からのウケは悪くなるんです」――なるほど。それでは、どういうのが女性からのウケがよいのですか?森井「女性が食いつく仕掛けを随所にちりばめるといいですよ。例えば、靴下の柄をアーガイル(注:菱形の格子型のチェックのこと)にする、ボタンをひとつだけ個性的なものをつけてみる、靴のデザインがチェック柄、などなど。少しかわいい、というのをさりげなく取り入れるのがミソです。そうすると、『あ、このデザインかわいいね!』と女性が気付いてくれて、盛り上がることもあります」根岸「そうだったんですね。僕なんか今日の靴、かわいい柄どころか、やぶけてます」やぶけたデザインでなく、履きすぎて穴があいたのだそう。森井「いえ、そこまで履き込むのは、物を大事にする・愛着を持って使える、というすてきな精神をお持ちということですから、素晴らしいですよ!それに、ヒゲのたくわえ方も、意識していたわけではないでしょうけど、すごく雰囲気があっていい感じです」根岸「ははあ、そうですかねぇ……」あの手この手で褒めちぎりながらスタイリングしていく森井さん。うまいこと人を褒めまくるのもモテる男のワザということなのでしょうか。そして完成したコーディネイトがこちら。森井「イメージは、イギリスによく出張に行く、一部上場している携帯電話会社の社員です。根岸さんの場合、優しさあふれる目ヂカラが印象的。そこを生かして、包容力があって部下に慕われているビジネスマン風にしてみました」――いつも眠そうな根岸さんが全然違って見えます!こういうすてきなコーディネイトを、自分でしたい場合、どうすればいいのでしょうか?森井「“こうなりたい”というハッキリとしたイメージを持つことですね。服屋に行って『こういう服がほしい』と思う人は多くても、“こうなりたい”という全体像をイメージしている人は少ないんです。服を買うとき、ついつい似たような服ばかり購入してしまうのはこれが原因。トータルでなりたいイメージを持つと、普段買わないような服も買ってみよう、という気になれるはずです」――でも、普段着慣れてない系統の服を買うのには勇気がいりますよね?似合わないかも……なんて思ってしまって。森井「1アイテムからでもいいので、ぜひ取り入れてみてください。今日の根岸さんのコーディネイトは、(1)シャツの柄に入っている紫色と、胸に添えたポケットチーフの紫色を合わせ、(2)シャツ・ジャケット・パンツのすべてに若干系統の違うチェック柄、という2つのポイントがあります。このように、重ねて着るものの色をどこかでリンクさせたり、柄を似た系統で合わせたり(まったく同じだとやぼったくなります)などは、こなれた雰囲気を演出できます」ちなみに、Before→Afterはこちら。まるで別人です。根岸「新たな自分を発見しました。今日の仕事はいつもより絶対はかどります」これでもう、“いつも眠そう”だなんて言われないですね。めでたしめでたし。(朝井麻由美/プレスラボ)【関連リンク】森井良行オフィシャルブログ今回スタイリングしてくださった森井さんのブログ。ファッション情報がいっぱい。達人に聞く!デキる男の『義理チョコ返し』女性は、本当は人にチョコをあげるくらいなら自分で食べたいってくらい、甘いものが好きですから。ビジネスマン必読!!ネクタイ選びの落とし穴初めてネクタイをした日本人は、ジョン万次郎なんですって!へぇ~。
2009年11月24日女優の田中麗奈が10日、都内で行われた舞台『思い出トランプ』の公開稽古に参加した。同作は、直木賞作家・向田邦子の小説『思い出トランプ』を舞台化したもの。離婚を前提とした別居に踏み切った英子(田中麗奈)を中心として、ありふれた日常生活の断片を切り取り、親子の愛情や夫婦の愛情を描き出す。田中曰く「女性の逞しさを感じさせてくれる物語」だという。今回、デビュー10周年にして初舞台となる田中は「稽古をしっかりしたので、あまり自分を緊張させないように楽しみたいです。みんなで魂を込めて自信をもって初日を迎えます」と余裕の表情。稽古のときは、テレビとの違いから戸惑いもあったようだが、「稽古中に得たものが全部力になっているので、のびのび演じたいです」と笑顔でコメントし、初舞台という重圧を感じさせなかった。また、姑役を演じる根岸季衣との"嫁姑仲"を問われた田中が「(根岸さんが)お弁当をつくってくださって……」という仲良し嫁姑エピソードを披露すると、根岸は「家庭の味に飢えているようだったから(笑)」と返し、笑わせていた。
2008年10月11日