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食欲の秋! スウェーデンには豊かで美しい森があります。私が住んでいる首都ストックホルムも、セントラルから電車で15〜20分ほど離れれば、所々に豊かで美しい森があります。今回は、そんな北欧の森でとれる食べ物をご紹介します。 甘酸っぱくて爽やかなベリーたち。 まずは初夏から盛夏にかけて実をつける、甘酸っぱいラズベリー。夏に森を散歩していると、時たま見かけます。虫が内側に隠れていることも多いのですが、注意しつつ、摘んでその場でパクパク食べています。お次は、リンゴンベリー(和名コケモモ)。そのままではとても食べられない味ですが、ジャムやシロップにすると美味しく食べられます。スウェーデンの定番料理、ミートボールに添えて食べられることが多いです。お肉とベリーの組み合わせは意外ですが、実際食べてみると、相性ぴったり! この他、夏はさくらんぼも実をつけます。 ブルーベリーは私のお気に入りです。夏の終わり頃に実をつけます。今年は異例の猛暑だった為、残念ながら不作でしたが...。低い茂みに実をつけるのですが、専用のカゴのようなスコップで、すくうように収穫します。 食べ方はさまざま。そのまま摘みたてを食べても良いし、ジャムにしたり、タルトにしたり、チーズケーキに入れたり、ヨーグルトに混ぜたり...。意外な食べ方かもしれませんが、牛乳と砂糖をかけて食べるのも一般的のようです。昨年は大量に収穫し、冷凍保存し、少しずつ少しずつ大切に頂きました。 秋になれば、キノコ狩り。 秋になると、そこら中にポコポコとキノコが生えだします。 その中で特に美味しいと言われるのが、Kantarell。和名はアンズタケ。きれいな黄色の高級キノコで、お店で買うと、結構良いお値段するんです。森でとればタダ!キノコ狩りに使う風通しの良いカゴも、シンプルだけどこれまた可愛い。 今年はブルーベリーが不作になってしまいましたが、代わりにりんごが豊作のよう。郊外には、なんと収穫したりんごをジュースにしてくれる施設もあるそうです。 東京で育った私にとって、森でとった食べ物を頂くというのはとても新鮮な体験でした。森を歩いていると、リスやウサギに出会うことも…!今も昔も、スウェーデンの人達にとって身近な、森からの食べ物。世界各国の食べ物をいつでも楽しめるという東京のような贅沢さはありませんが、素朴な豊かさが、森にはありました。 YukaBlog ... ...
2018年10月09日森新太郎演出×中山優馬主演の舞台『The Silver Tassie 銀杯』の制作発表会見が9月26日に開催。森、中山をはじめ、矢田悠祐、横田栄司、浦浜アリサ、安田聖愛、三田和代が出席した。【チケット情報はこちら】アイルランドの劇作家ショーン・オケイシーによる“反戦悲喜劇”と言われる本作。中山演じる有望なフットボール選手だったハリー・ヒーガンの人生が、戦地へ赴いたことで一変していくさまを描く。1928年の執筆当時、市民を批判的に描いた内容から上演を拒否されたという本作。森は戯曲を読んで「パワーに圧倒された」と明かす。特にハリーが戦地から戻って感じる疎外感や孤独に言及し「人を叩きのめし排除、支配していくという野蛮な状況は、実は戦場と地続きにある」と戦争と日常が別次元の存在ではないと説き「“戦争反対”と誇らしげに言ったところで、“自分を見てみろよ”と言われているような挑発的な作品」といま、本作を上演する意義を訴えた。中山の起用について森は、中山が殺人犯を演じたドラマ『北斗 -ある殺人者の回心-』を見て「ピュアさとすさんだ心があって、ハリーと同じだと思った」と説明。中山は「戦争にぶつかって心がネガティブな方に行くけど、そこでもシャレの利いた皮肉を言ったり、ネガティブな時もポジティブな時も口が達者なのが魅力」と語る。精神的な強さが求められ、さらにウクレレの名手という設定で、こちらも練習中だが「(心が)折れても立ち上がっていこうと思います! (新しいことに)挑戦できることがありがたい」と意気込みを語った。矢田はハリーの戦友で、やがて恋敵にもなるバーニーを演じるが、歌唱シーンについて森から「きれいな歌声じゃなく、喉から血が出るような芝居を味わわせたい」と宣言されると「身を委ねます。メチャクチャにしていただきたい」と覚悟を口にした。一方、横田に関して森は「横田さんは蜷川(幸雄)さんと文学座のものだと思いこんでた(笑)」と冗談めかしつつ今回、意を決してのオファーだったと告白。特に「演出家の腕が問われる」(森)という戦地のシーンで「横田さんを頼りにしたい」とも。横田は、ここまでの5日間の稽古で感じた森の脚本への深い洞察と解釈への驚嘆を口にし「言葉ひとつひとつに重みと説得力がある」と称賛。「森さんも想定していないビックリするようなことを発見したい」とうなずく。女優陣が演じる女性キャラクターたちも三者三様。三田は自らが演じるハリーの母親役を「普通の人」と称し、だからこそ「本当に難しい!」と楽しそうに語る。モデル出身の浦浜は「セリフで感情を表す難しさに直面してます」と苦笑し、自身の起用について「森さんのギャンブラー精神にビックリしてます」と笑う。安田はハリーの恋人のジェシーを演じるが「ひと言で表すとひどい女(苦笑)。気持ちいいくらいひどい女を演じたい」と言葉に力を込めた。『The Silver Tassie 銀杯』は11月9日より世田谷パブリックシアターにて開幕。取材・文・撮影:黒豆直樹
2018年09月28日任天堂「どうぶつの森」の最新作『あつまれ どうぶつの森』が、ニンテンドースイッチ(Nintendo Switch)より登場。2020年3月20日(金)より発売される。「どうぶつの森」待望の新作発売だなも!『どうぶつの森』は、2001年より「NINTENDO64」のソフトとして発売をスタートし、その後シリーズ化され、ニンテンドーDS用ソフト、Wii用ソフトを続いて発売されている人気ゲームだ。プレーヤーがどうぶつ達の暮らす住人となり、村の中でどうぶつ達との会話を楽しんだり、自由に村を歩いたりすることができる。一般的なゲームのようにクリアしたり、ゴールがあったりということはなく、ほのぼの楽しめるゲームとして老若男女問わず人気を博している。その最新作となるニンテンドースイッチ版『あつまれ どうぶつの森』。2018年の「Nintendo Direct 2018.9.14」にて発表された情報では、何やら準備を始めているたぬきちの様子が公開された。「たぬきち開発 無人島移住プラン」に参加してゲームスタートその準備が整った2019年6月12日(水)、アメリカで開催されたゲームイベント『E3』にてゲームの詳細が公開となった。物語のスタートは、「たぬき開発 無人島移住プラン」に参加したプレーヤーが、自分のテントを張るところからスタートする模様。また新作の特徴として“DIY”の要素が追加されるようだ。たぬきちから支給されるスマートフォンで楽しみ方無限大!『あつまれ どうぶつの森』では、たぬきちから支給されるスマートフォンが重要な役割を担うようで、そこには“DIY"のレシピが隠されており、自分であらゆるものを製作して無人島生活を充実させていく。公開された映像では、たぬきちに作業台を借りて“DIY”する様子も映し出された。作ったアイテムは、まめきちに売ることもできるようだ。また、同じ島に住んでいる住人を、スマートフォン内のアプリから呼び出すことも可能となる。“たぬきマイレージ”でもっと楽しく新しい要素として、“たぬきマイレージ”も追加。貯めたマイルで、アイテムをもらえたり、ショッピングを楽しめたりと様々なことが可能となる。『どうぶつの森』関連情報『どうぶつの森』の人気キャラ“しずえさん”が「スマブラSP」参戦2018年に公開された『どうぶつの森』新作の発売予告動画の中では、たぬきちが「ついに、しずえさんも参戦かぁ~。みんな村をとびだして活躍してて、仲間として鼻が高いだなも!」と話していた。その後、どうぶつの森の名物キャラクター“しずえさん”が、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』へ新ファイターとして参戦した。そもそも“しずえ”さんは、村長となるプレイヤーの秘書の役割を担うキャラクター。プレイヤーが村を出て戦いに出たら、そこにもついていく“しずえさん”。ゲーム内では、むらびと同様、様々な“村のくらし”のための道具を使って攻撃する。【詳細】Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』発売日:2020年3月20日(金)※価格未定。
2018年09月17日演出家・森新太郎と中山優馬の初顔合わせにより、東京・世田谷パブリックシアターで上演される『The Silver Tassie銀杯』のメインビジュアルが公開された。【チケット情報はこちら】本作は、アイルランドの劇作家ショーン・オケイシーが第一次世界大戦から第二次世界大戦へと変遷する激動の時代のなか、1928年に発表した戯曲で、1929年にロンドンで初演。ダブリンを舞台に、第一次世界大戦中、輝かしい将来を嘱望されたひとりのフットボール選手・ハリーが戦争の犠牲となっていく様を描いた反戦ドラマ。公開されたメインビジュアルのデザインコンセプトについて、制作側より次のようなコメントが寄せられた。「モチーフとして大きいものは、上部の当時の戦争を彷彿とさせる写真、中央の主人公・ハリー(中山優馬)の横顔、下部のフットボール場と思われる芝生。人生を大きく一変させていく過酷な戦地と、平和で希望に満ちていた頃に駆け抜けた芝生との間に挟まれた、青年ハリーが見つめる視線の先にあるものとは?絵の具を飛ばしたように散らばる模様は、過去、現在、未来に及ぶ様々なハリーの思いや、不安定な時代の中に生きる人々の無数の思いを表し、そんな数多の感情が交差していく中に深く静かに侵食されていくハリーの横顔をとらえています。ですが、この横顔の青年はハリーに限定されない、当時の市井に生きる人々の象徴的な横顔、つまり登場人物全員の横顔としてもとらえて頂ければと思います。制作時の意図は上記のイメージになりますが、こちらはあくまで解釈の一例に過ぎません。ご覧になるお客様にご自由に発想して頂き、ハリーの視線の先にあるものを無限にご想像頂ければ幸いです」共演は矢田悠祐、横田栄司、三田和代のほか、20曲以上の歌唱シーンがあることから演技力、歌唱力が評価されたキャスト22名が集結。歌あり、笑いあり、涙ありの賑やかな“反戦悲喜劇”を立ち上げる。公演は11月9日(金)から11月25日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターで上演。チケットは9月9日(日)より一般発売開始。
2018年09月06日音声メディア「Voicy(ボイシー)」の人気番組『森拓郎の聴くだけでヤセるラジオ』。フィットネストレーナーの森拓郎さんが配信し、視聴者から寄せられたダイエットにまつわる質問に回答してくれます。今回のタイトルは「1日に摂取する栄養素必要量は数値で目安はありますか?」。タイトルにある質問以外にも、興味深かったものをピックアップしてみました。■気になる熱中症対策……スポーツドリンクは?ひとつめの質問は、「熱中症対策にスポーツドリンクを飲むとしたらどれくらいが正解ですか」。熱中症対策として水だけではなく、スポーツドリンクが良いと言われているし、普段は飲まないという人でもこの暑さの中では念のため……と買っているのではないだろうか。でも、ダイエットをしている人からすると、スポーツドリンクの糖分はちょっと……と感じてしまう。そこで糖分を摂るなら食事で摂りたい、と質問者さん。森拓郎さんの回答は、「スポーツドリンクで(糖分を)摂るといいのは体を動かしている人。汗に対して水の補給だと体液が薄まっちゃう。だから汗をかかない人は水で大丈夫」とのこと。糖質の量が気になるという場合は経口補水液でも良いそうだ。あまり運動をしないということなら、水やお茶で問題なし。とはいえ、汗っかきの人はスポーツドリンクのほうが合っている場合もあるだろう。こうしたほうがいいというのは一概には言えないそうだ。熱中症はもはや他人事ではないので、自分の体と向き合って、都度判断したいところ。■ダイエットはシンプルに取り組むのがいいふたつめの質問は、タイトルにもなっている「1日に摂取する栄養素必要量は数値で目安はありますか」。ビタミンやミネラルもきちんと摂らないと!と思うが、日常生活ではなかなか難しいもの。でも「気にする必要はない」と森さん。「まごわやさしい+玄米を食べていれば栄養は摂れちゃうんですね。気になるんだったらサプリをとればいい」※まごわやさしい……ま(豆)ご(ごま)わ(わかめ)や(野菜)さ(魚)し(しいたけ)い(いも)ダイエットをしようとすると、あれもこれも、といろいろ気になるし気をつけようと思うものだが、「こだわりすぎるのはよくない」のだそう。「難しいことを考えてダイエットが進まないのは、ダイエットをする意味がない」とのことで、シンプルにするのが一番いいようだ。そもそも、面倒なことは続かない、というのは多くの人が体感していることではないだろうか。今回はそのほかにも、「夫がアトピーで、触るなと強く言われ、愛情が持てなくなりました」「専業主婦で、使えるお金に限りがあるけど、夫に喜んでもらいたい」などと言った質問が寄せられていた。毎回、森さんのVoicyは話題が幅広く、聴きながら頷くこともたくさんある。自分と重なるような質問がテーマになっていることも。聴くだけで、心までもスッキリさせることができそうだ。
2018年07月30日森がほしいとずっと思っていた。けれど世間では、かなり少数派らしく、「家がほしい」「家探しています」と話題にする人は珍しくないが、「なかなかいい森がなくて」と話す人に今まで一度も会ったことはない。会ったことはないが、僕自身は3年をほど「いい森」を探していた。そこに小屋を建て、週末、時々そこで過ごすための小さな気持ちのいい森をずっとほしいと思っていた。■ 「森」はどこにも売っていない3年かけて見つけた小さな森(山梨県清里)。周囲より少し小高く、風通しがいい。けれど、森はどこにも売っていない。ネットで検索しても、さすがのアマゾンにも森は売っていなかった。地方の森林組合みたいなサイトで時々、販売情報などがあったが、面積が東京ドーム100個分ぐらいの広さ(しかもアプローチの道がない)。とても個人が買えるものではないし、その情報はなぜか西日本に多く、横浜に暮らす僕には現実的ではなかった。結局、出た結論はどこかの別荘地の一角を買う、という至極単純な手法。当たり前だが、アプローチの道(しかもアスファルト)もある。きっと森を買う方法はほかにもあると思うが(例えば個人的なコネがあるなど)、不動産屋が仲介するし、素人にはこれが一番現実的だと思った。■ で、別荘地っていくらするの?PhotoREX 21 / PIXTA(ピクスタ)別荘地であれば、確かにたくさん売っている。ネットでも多くの情報があふれている。あとはエリアを選べばいいだけだ。横浜から車で2~3時間で行けるエリアに絞ると、自然な流れで富士山麓周辺になった。河口湖や山中湖のエリアを探し、実際に何度か現地に足も運んだ。けれど、もともと土地勘もなく、なんだか自分にはしっくりこなかった。そして、次に八ヶ岳南麓周辺のエリアを考えた。NISH / PIXTA(ピクスタ)実は僕は長野県茅野市生まれで、八ヶ岳は超地元。現在も実家があり、年末年始や夏休みなど今も時々帰省するエリア。土地勘もあるし、地図なしでもたいがいどこにでも行ける。将来的に小屋を建てるとしても、実家の軽トラや大工道具なども借りやすく、なにかと便利だと思った。富士山麓と比べれば、若干遠いが、帰省と絡めることもできるし、八ヶ岳エリアに絞ることにした。でも、別荘地っていくらするの?と最初は見当もつかなかったが、決して多くはないが100万円前後の土地もあるということが分かった(ただし多くが傾斜地)。予算はとりあえず100万円と自分で決めて、ネットを中心に探し始め、気なる物件があると現地に何度か見にいった。なるべく平坦地を探した。さらにエリアも絞った。Hiroko / PIXTA(ピクスタ)中央道のICでいうと「小淵沢」「長坂」の2ポイント周辺。ちなみに僕の実家の最寄りのICは小淵沢ICの一つ先の諏訪南IC。ここが重要なのだけど両ICの間には山梨、長野の県境がある。探したエリアは山梨県、でも八ヶ岳山麓であれば土地勘はある、というのが僕には重要だった。なぜなら、実家近く(長野県)は避けたいと思った。もちろん、周辺には蓼科などたくさんの別荘地があるが……(理由については次回以降に)。■ 求む!「森」感のある土地。予算は100万円Moco Lock / PIXTA(ピクスタ)何度か現地に行くうちに、エリアをさらに絞り、清里を中心に探すことにした。子どものころから、一番近い夏のリゾート地として家族で何度か遊びに来た思い出もあったし、学生時代は山登りサークルに所属していたので、周辺はよく歩いた土地。久しぶりに訪ねた清里はバブル期の駅前の原宿を思わせる喧騒はすっかりなくなっていて、品よく落ち着いた雰囲気になっていた。「清里いいなぁ」と実感。条件は、予算100万円で、平坦地。周辺にほかに建物があまりなく、「森」感のある土地。僕自身の中で探す熱意の波があったこともあり、その土地に巡り合うまでに結局3年もかかってしまった。
2018年07月24日ドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハが初戯曲として2015年に発表した『TERROR テロ』が、森新太郎演出の舞台として日本初演される。参審員に見立てられた観客の投票によって判決が変わるという異色の法廷劇だ。初日に先駆けて1月15日、ゲネプロが行われた。舞台『TERROR テロ』チケット情報物語の発端は、164名の乗客を乗せたままテロリストにハイジャックされ、7万人の観客がいるサッカースタジアムに向けて墜落しようとしていた民間旅客機を、空軍少佐ラース・コッホ(松下洸平)が独断で撃墜したこと。『TERROR テロ』で描かれるのは、そのコッホを裁く法廷だ。舞台上には椅子が4つ並べられ、裁判長(今井朋彦)、弁護士ビーグラー(橋爪功)、検察官ネルゾン(神野三鈴)、被告人のコッホ、被害者参加人マイザー(前田亜季)が座って、参審員である観客と向かい合う。客電がついたままの場内で、観客はかなりの緊張を強いられ、裁判の参加者であることを意識させられながら観劇に臨む。法廷劇の名作は数多あるが、本作の特徴のひとつは、事件の概要がほぼ明らかになっており、被告も自らの行為を認めていること。従って争点となるのは、彼の行為の是非をどう判断するかという一点のみ。コッホ本人および彼の上官にあたるラウターバッハ中佐(堀部圭亮)の理路整然とした供述からは、7万人を救うために164名を犠牲にしたコッホの判断が、軍人として理にかなった冷静な判断であるという見解がうかがえる。一方、被害者の妻であるマイザーの涙ながらの証言からは、命の尊さに加え、飛行機がスタジアムに落ちる前に乗客がテロリストを取り押さえることに成功した可能性も示される。果たして、コッホの行動はどう裁かれるべきなのか……?飄々とした話しぶりに情熱を滲ませて熱弁をふるい、被告を弁護する橋爪。知略に富んだ鮮やかな弁舌で、被告の罪を問いただしていく神野。名優ふたりの長台詞は実に聴き応えがある。共にカントを引用するところにドイツのお国柄もうかがえるが、同時に、世界中がテロの脅威にさらされている今、ここで議論される事柄は私達にとってもまったくもって他人事ではない。リアルなテーマを前に、観客はそれぞれの価値観や問題意識を問われ、有罪・無罪のどちらかの箱にカードを入れるというかたちで答えを出す。その得票数によって、劇の最後に裁判官が読み上げる判決は変わる。この日のゲネプロでの結果は、有罪26票、無罪39票で、「無罪」。約3時間の上演で交わされた議論の余韻とその日だけの結果を胸に劇場を後にする感覚は、何ものにも代え難い。公演は1月28日 (日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて。その後、その後、兵庫、名古屋、広島、福岡を巡演。取材・文:高橋彩子
2018年01月17日ノーベル文学賞受賞作家である劇作家、ハロルド・ピンター。彼の代表作に気鋭の演出家・森新太郎が挑む公演『管理人』が11月26日、東京・シアタートラムにて開幕した。舞台『管理人』チケット情報ピンターといえば、「不条理演劇の大家」という言葉が浮かぶ人も多いだろう。今回の『管理人』は1959年に執筆された初期作品であり、ピンター自身に名声をもたらしたいわば“出世作”ながら、日本での上演は稀という作品。森とともにこのプロジェクトに挑んだのは、溝端淳平、忍成修吾、温水洋一という3人の俳優だ。舞台上には、ガラクタだらけの古びた部屋。ロンドン西部にあるその小さな部屋に、青年・アストン(忍成)は老人・デーヴィス(温水)を連れてくる。住み込みで働いていたレストランをクビになったというデーヴィスに優しい言葉をかけ、部屋に泊めてやるアストン。しかし翌朝、アストンの弟ミック(溝端)が部屋に訪れ、デーヴィスのことを不審者扱いし責め立てる。家の“リフォーマー”であると称するアストンと、“家の所有者”であり兄や将来について苛立ちを抱えているミック。ふたりはそれぞれデーヴィスに「この家の管理人にならないか」と持ちかけるが、彼らの関係性は少しずつ変化していく。アストンの口調は穏やかで、振る舞いも紳士的そのもの。しかし、彼の真意がどこにあるのかはわからない。アストンの存在と部屋の様子のちぐはぐさ、下品さが隠しきれないデーヴィスの振る舞い。不穏な空気が高まりつつあるところに登場するミックは、張り詰めた空気を一気に破る。そして生まれる、新たな緊張。演出の森が今回目指したのは「“笑える”ピンター」だという。緊張と緩和の中に生まれるおかしみ、テンポの良いセリフの応酬と緩急ある演技は、この作品が「不条理劇」であることを時に忘れさせてしまう。演出はもちろん、この戯曲に真正面から立ち向かった俳優陣たちの力も大きいだろう。戯曲が執筆された当時のイギリスは、国際競争力を失い経済は低迷、流入してきた移民たちとの衝突が絶えない時代。セリフの端々にも部屋の外の情勢がにおわされ、降り続く雨の音が“どこにも行きようがない”という状況を訴える。劇世界の持つ閉塞感は、どこか現代日本を生きる私たちが感じるそれと似ている。3人ともが変化を求めながらも、進めないでいる。そう、停滞と安全は紙一重だ。そしてその均衡が壊れるのは大抵些細な、愚かなことがきっかけ。ガラクタだらけの小さな部屋は、まさに“世界そのもの”。名戯曲だからこそ感じられるこの妙と俳優たちの熱演を、ぜひ劇場で確かめてほしい。公演は12月17日(日)まで東京・シアタートラムにて上演後、兵庫を巡演。取材・文:川口有紀
2017年11月27日観客が“裁判員”となって判決を下す。裁くのはテロをめぐる事件。観客の評決によって、有罪と無罪、ふた通りの結末が用意されている。そんな観る者に積極的な思考と参加を促す舞台『テロ』。弁護士を演じる橋爪功、被告の空軍少佐役の松下洸平、そして演出を手がける森新太郎に聞いた。この衝撃的な法廷劇をどう届けるのか。【チケット情報はコチラ】事件の概略はこうだ。164人が乗った民間旅客機がテロリストにハイジャックされた。狙いは、サッカースタジアムに墜落させて7万人の観客の命を奪うこと。緊急発進した空軍少佐が独断で旅客機を撃墜した。164名の命と引き換えに7万人の命を救った彼は、英雄か犯罪者か。舞台上の法廷で交わされるその議論に私たちが答えを出すというわけである。演出の森は言う。「上演したときの世界情勢や社会状況によって判決は変わってくるはずです。そのときテロの脅威をどこまで身近に想像するのか。さらには、人間を、社会の仕組みをどう考えているのか、自分と向き合わざるを得ない。傍観者でいることを許さない、唯一無二の法的劇だと思います」(森)。作者はドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハ。刑事事件弁護士でもある経験を盛り込んだ小説で世界的ベストセラー作家となった彼の初戯曲が今回の作品だ。実は橋爪は2016年に朗読劇ですでにこの戯曲と向き合っている。「このときは毎回有罪になりました。なんとか無罪にならないかと読み方を変えたりしたんですけど、結果は同じだった。今回は自分では全体を加減できないので、よりどういう反応があるのか楽しみです。役者は忘れがちになるんですけど、芝居はお客さんのもの。この芝居はとくに、お客さんにいろんなものを持って返ってもらうことになると思いますよ」(橋爪)。橋爪から「被告人が爽やかな青年だと結果も変わるかもしれない(笑)」とプレッシャーを与えられた(!)のは、松下洸平だ。森も「空軍少佐の国のためにやったという純粋な思いがまず繊細に伝わらなければならない」と語る芝居の核となる役を前に、何を思うのか。「僕は役者としても人間としてもまだまだ勉強中で、お芝居から社会を学ぶことも多いんですが、この作品もまさにそう。僕たちは法のなかでどう生きてるのかとか、演じるドイツ軍人にとっての国とは何なのかとか、しっかり勉強して、みなさんの背中を追いかけながら臨みたいと思っています」(松下)。その松下に私たちはどんな目を向けることになるのか。ほかのメディアにはできない形で問いを突きつける演劇。その醍醐味を体感したい。公演は2018年1月16日(火)より東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて。その後、兵庫、愛知を周る。取材・文:大内弓子
2017年11月06日橋爪功×井上芳雄の二人芝居「謎の変奏曲」が9月14日に開幕、それに先駆けて公開ゲネプロが行われた。【チケット情報はこちら】本作は、1996年にフランスで初演されて以降、世界中で上演されているエリック=エマニュエル・シュミットの戯曲。サー・エドワード・エルガー作曲の「エニグマ(=謎)変奏曲」が持つ“謎”をモチーフにした、ふたりの男の会話劇だ。日本でも上演を重ねられてきた作品だが、今回、演出に森新太郎、翻訳に岩切正一郎とスタッフを一新。新たな「謎の変奏曲」が誕生した。物語は、ノルウェー沖の孤島で一人暮らしをしているノーベル賞作家アベル・ズノルコ(橋爪)のもとへ、地方新聞の記者と名乗る男エリック・ラルセン(井上)が訪れることから始まる。ラルセンは、ズノルコが初めて“愛”について書いたという最新作『心に秘めた愛』を取材するためにきたという。のらりくらりと質問をかわすズノルコと、「ほしいのは真実です」と食い下がるラルセン。しかしふたりが互いの嘘に気付き始める頃、いくつかの真実が明らかになっていく――。橋爪と井上による、約2時間半(途中休憩あり)の二人芝居。セットチェンジも一切なく、ただただふたりの会話だけで物語が進んでいく。観客はじっとふたりの会話に耳を傾け、一挙手一投足を見つめ、彼らと共に隠された真実を知っていく濃密な時間だ。橋爪の演じるズノルコは、ラルセンを迎えたときにみせた“孤島暮らしの偏屈な大作家”という姿が、ラルセンの指摘、自身の独白、そして知ることになる真実の一つひとつから、変貌していくさまが巧み。ふと気づくと滲み出るものも外見も全く違う人間のようになっており、俳優の恐ろしさを感じさせられた。井上の演じるラルセンは、最初から何かを隠し持った雰囲気はあるのだが、それがどこに向かっているのかを誰にも捉えさせない。それにより、ズノルコの言葉に対してラルセンが何を言うかが読めず、物語を煙に巻き、作品全体の緊張感を生み出すのだ。息を呑む一言、その言葉が変える空気、そして長い長い会話の末にふたりがたどり着くひとつの真実。それを見届けた私たち観客はどんな表情で劇場をあとにするのか。芝居の醍醐味をじっくりと味わい尽くせる、森新太郎演出作品ならではの本作。劇場にしかない時間をぜひ楽しんで!東京公演は、9月24日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演。その後、大阪、新潟、福岡を巡演する。チケット発売中。取材・文:中川實穂
2017年09月15日20世紀後半のイギリスを代表する劇作家、ハロルド・ピンター。彼の代表作『管理人』を溝端淳平、忍成修吾、温水洋一の3人が演じる。職をなくしたばかりの老人と、たまたま老人と知り合いになったある兄弟。3人の関係が緊張感をもって描かれる今作。演出の森新太郎とキャストの初顔合わせの場で、話を聞いた。舞台『管理人』チケット情報「不条理演劇の旗手」とも呼ばれ、難解な印象もあるピンターの作品だが、演出の森は「笑えなくては意味がない」と意外な言葉を口にする。「初めてピンターを読んだときは、正直何が面白いんだかわからなかった。でも、たまたま気分が塞がっているときにこの『管理人』を読んだら、3人の無力な登場人物が身近に思えた。物語がとても自分に寄り添ってくれる感覚があったんです」。ピンターで“笑える”作品を目指す森だが、キャスティングに希望したのが今回の3人。「ピンターを演じるなんて、ふつうの俳優さんなら断りそうなもの。お三方が受けてくれただけでありがたい。しかも今3人が並んでいるところを見たら本当にイメージ通りで、テンションが上がっています」と嬉しそうに話す森。1959年に発表された戯曲は、今回の上演のために翻訳も新しくした。「現代の人の会話調になっていて実にスピーディです」と徐賀世子の新訳にも手ごたえを感じているようだ。人間同士のかけひきや争いをユーモアを交えて描く本作だが、演じる側はどう感じているのか?溝端は「演じるときにはどうしても過去の経験から役を考えて、形作ろうとしてしまう。でも今回はそれがまったく通じない作品という予感がして、大きな挑戦になると思います」と語ると、3人の中で唯一森演出を経験したことのある忍成が「森さんの演出は、大変だけれどくせになる。今回も稽古場で苦労するんだろうけれど、楽しみです」と話す。最年長の温水は「あまり哲学的に考えず、かといって無理に笑わせようとせずに、ふわふわとその場にいられたら。そこで笑いが生まれたらいちばんいいと思います」と自然体だ。森の話した“笑える”というキーワードに反応した溝端が「最初に読んだ時は難しいと思っていたけど、そういえばこの気まずい空気、アンガールズさんの『ジャンガジャンガ』がずっと続いているようなもんですね」と言うと全員から納得の笑いがもれた。「こんな優れた作品があまり日本で上演されていなくてラッキーだった」という森。「そもそも『管理人』という全く劇的な匂いのしないこのタイトルからして大好き(笑)。この地味なタイトルに少しでも惹かれる人は見にきてほしい。そして笑っていただいて、その奥にある切なさを感じてもらえたらいちばんいいなと思います」と締めくくった。ピンターを敬遠しがちな人も知らない人も、純粋に3人の関係を面白く見られる作品になりそうだ。公演は11月26日(日)から12月17日(日)まで東京・シアタートラムにて、その後兵庫で上演。取材・文:釣木文恵
2017年08月29日1999年にトニー賞最優秀作詞作曲賞、最優秀脚本賞を受賞した秀作ミュージカル『パレード』が5月18日(木)、遂に日本初演を迎えた。主演は石丸幹二と堀内敬子、演出は森新太郎。石丸と堀内は「劇団四季」時代以来17年ぶりのミュージカル共演、森はミュージカル作品を手掛けるのは初となる。ミュージカル『パレード』チケット情報本作は、20世紀初頭に起きた冤罪「レオ・フランク事件」を題材にした作品。南北戦争終結から半世紀が過ぎてもいまだその空気を引きずるアメリカ南部を舞台に、人種差別や権力争い、そしてマスコミ、世間によって無実の人間が犯人に仕立て上げられていくさまと、夫の潔白を証明しようとする妻の奮闘を描く。大掛かりなセットがほとんどない舞台。大きなセット転換もなく、照明の当て方でシーンが変わるシンプルさだ。ただし前方に向かって傾斜のついた八百屋舞台になっているため、舞台上の様子が奥までよく見え、登場人物一人ひとり、本作の重要な存在である“民衆”の表情までわかる。本作の伝えたいものがそこからも感じられる。物語の発端は13歳の少女の殺人事件。しかし本作が主に描いているのはその“真相”ではない。それを取り巻く怒り、妬み、憎しみ、狡さ、正義感、プライド、愛……。それらが絡み合い、膨らんで、ある夫婦の運命を変えていく様子だ。それを伝えるキャスト達の豊かで繊細な芝居、歌唱は本作のなによりの魅力。シンプルな舞台を熱で満たす。終演後、石丸が「今のこの時代だからこそ観ていただき、考えていただきたい。そんな作品だと思います」と話したが、劇中、今この人たちは何を思うか、と考える瞬間が何度もあった。登場人物の一人ひとりを見ると悪い人間はほとんどいない。けれどその人たちが“正義”と名付けられたものに目がくらみ、嘘に加担し、“民衆”として大きなうねりを生みだし、冤罪を生んだ。ここに自分も参加しているのではないかということは、考えずにはいられない。石丸が「かなりヘヴィーな内容に、皆様も今どのような気持ちで手を叩けばいいのか、いろいろ交錯しているかもしれません」と客席に語り掛けたカーテンコール。この日は日本初演・初日を記念して、演出の森と、脚本のアルフレッド・ウーリーも登場した。森が「おかげさまでいい緊張感に包まれた初日を迎えられました」と挨拶すると劇場は熱い拍手に。アルフレッドは「この作品で描かれている出来事は、地球の裏側の私の生まれ故郷で起こったことです。それをこの遠く離れた日本で具現化できたことは、私に感動をもたらしてくれました」とキャストに拍手を送り、キャスト達も笑顔で応えた。公演は6月4日(日)まで東京・東京芸術劇場プレイハウスにて。取材・文:中川實穗
2017年05月22日5月18日(木)に日本初演を迎えるミュージカル『パレード』。20世紀初頭のアメリカで起きたレオ・フランク事件(冤罪)を題材にした作品で、主演の石丸幹二と堀内敬子の17年ぶりのミュージカル共演や、森新太郎が初めて手掛けるミュージカル作品としても注目を浴びている。その稽古場に潜入した。ミュージカル『パレード』チケット情報本作は、人種差別の意識やさまざまな思惑、権力、そして世間により、無実の人間(レオ・フランク/石丸)が犯人に仕立て上げられていくさま、夫の無実を信じ疑いを晴らすために動く妻(ルシール・フランク/堀内)の姿を描いた作品。この日、稽古が行われていたのはレオの裁判シーン。レオの職場のスタッフやフランク家に勤めるメイドらが、レオの身に覚えのない証言を次々と述べ、有罪の判決が下されるというシーンだ。裁判では、州検事ヒュー・ドーシー(石川禅)は、被害者が最後に着ていた服を持ち出したり、被害者の人生を大げさに語りあげたりと派手なスタンドプレーで陪審員を煽る。冤罪と知っていると余計に白々しく感じるが、その嘘を真実にするのが「民衆」という存在だった。製作発表で森が「主人公は言う間でもなくフランク夫妻ですが、もうひとり主役がいるとしたら、彼らを追い詰める民衆ではないか」と話したその存在。観客はもしかしたらこの「民衆」に自分を重ねる人も多いかもしれない。反ユダヤ主義を扇動する男(新納慎也)にアッサリ煽られる民衆、真犯人の調子のいい証言に踊らされる民衆、ザワザワした声がいつしか強い「殺せ!」という叫びになる。火の粉が風に煽られ大きく燃え広がり、真実を焼き尽くすさまを見たようだった。セットは奥に並んだ民衆の姿もよく見える八百屋舞台。中央が回転すると並んだ民衆が壁のように視界を遮る瞬間があり、その向こう側を見せなくしていたのも印象的だった。ちなみに石丸と堀内以外の全員がこの名もなき民衆を演じるという。森は、例えば“お辞儀がちょっと深い”など妥協なき姿勢が印象的。特に裁判の最後、レオの陳述の歌唱シーンでは、声のトーンや一歩踏み出すタイミング、レオの思いが溢れ出す瞬間など、石丸と話し合いながら繊細に作り上げていて、そうやって生まれたシーンは、それまでの民衆の高揚を断ち切るほどに胸に強く響く印象的なものになっていた。重く深く繊細なテーマの作品だが、どの場面も驚くほど理解しやすいのは森の演出、そして実力派揃いのキャストによる芝居、歌唱の賜物。ぜひ劇場に足を運んでこの熱を体感してほしい。公演は5月18日(木)から6月4日(日)まで、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて。取材・文、撮影:中川實穗
2017年05月09日アメリカで実際にあった冤罪を題材にしたミュージカル『パレード』が、5月18日(木)に日本初演を迎える。それに先駆け製作発表会見が開かれ、石丸幹二、堀内敬子、岡本健一、武田真治、石川禅、新納慎也、演出の森新太郎が登壇した。ミュージカル『パレード』チケット情報本作は、ある事件の裁判の中で、人種や職業から生まれる立場や思惑が無実の人間を犯人に仕立て上げていく様、それに抗う姿を描いたミュージカル。ピューリッツァー賞受賞作家のアルフレッド・ウーリーが脚本、『マディソン郡の橋』のジェイソン・ロバート・ブラウンが作詞・作曲を手がけ、1999年トニー賞最優勝脚本賞・最優秀作詞作曲賞を獲得した。そんな本作を日本で初めて演出するのは、森新太郎。森は『エドワード二世』『汚れた手』で第21回読売演劇大賞大賞、最優秀演出家賞をW受賞するなど気鋭の演出家で、今回初めてミュージカルを手掛ける。また、犯人に仕立て上げられるユダヤ人レオ・フランク役の石丸幹二、夫の無実を晴らそうと動く妻ルシール役の堀内敬子をはじめ、実力派&個性派キャストがズラリ。石丸と堀内は劇団四季時代を共に過ごし、舞台で共演するのは17年ぶり。森は「“初”という響きに酔いしれながら、楽しく、思う存分、やりたい放題、演出させていただいています」とニコリ。「タイトルが『パレード』ということで、民衆のお祭りの日の熱狂はゾクゾクするほどの迫力でお届けしたい。物語の主人公は言うまでもなくフランク夫妻ですが、もうひとり主役がいるとしたら、それは彼らを追い詰める民衆じゃないかと私は思っております。なので今回は、石丸さんと堀内さん以外の全キャストの皆さんに名もなき民衆を演じてもらっています。その恐ろしくも晴れやかな民衆のエネルギーを生み出すべく、今、一丸となって歌い、踊り、ときには暴れ狂ったりもしながら、ダイナミックな舞台をつくり上げている最中です」と熱く語った。石丸は「今、この作品でこの役を演じる意味がすごくある、と実感しながら日々稽古場で追い詰められております。弱者はいつも肩身の狭い思いをしなくてはいけない。では弱者はどうやって生きていったらいいのかということを、作品を通して皆さんも考えてください」と真摯に語る。堀内は「お稽古のレベルが高い。森さんの熱い演出にみんなが食らいついていくような濃いお稽古場です。早く皆さんにお見せしたいなという気持ちでいっぱいです」と笑顔を見せた。さらに、招待されたオーディエンスを前に劇中歌も披露。石丸と堀内の『無駄にした時間』など3曲が披露され、会場を熱く盛り上げた。公演は5月18日(木)から6月4日(日)まで、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて。撮影・取材・文:中川實穗
2017年04月26日『パレード』は1913年、アメリカ南部で実際に起きた冤罪事件を描くミュージカル。主人公レオ・フランクを演じる石丸幹二に話を聞いた。ミュージカル『パレード』チケット情報レオはニューヨーク・ブルックリン出身のユダヤ人ですが、どんな性格ですか。「プールの中のひとつの赤い水滴みたいな、孤立した男。妻の故郷・ジョージア州アトランタに住む北部出身のユダヤ人。保守的な南部の町で、いかに自分のアイデンティティを守り、自分らしく生きるか、ストレスを抱えています。一方、自分本位で頑固、妻のことを「お嬢様だから」と見下しがちでもある。日本で言う、昭和一桁生まれの古風なところがある男のようなタイプかと」そんなレオが勤務する工場でひとりの少女が殺され、よそ者であるレオは権力や人々の思惑により、無実の罪をきせられてしまいます。「人は窮地に陥った時、自分の本当の味方は誰なのかを知るものです。レオもそこで、妻ルシールの強さと賢さに気づく。自分だけが正しいと思っていた人間が、実はいろんな人々に助けられて生きていたと悟るんです。妻も、その過程で夫との絆を見出していく。お互いが相手との真の関係性に気づく……それがひとつのテーマです」「実は、こういった史実に基づいたミュージカルは『異国の丘』以来。私が演じた九重秀隆も自分の意志を曲げずに死んでいく役でしたから、レオと通じるかも」「今回は、アメリカの北部と南部の対立、社会や思想の違いが描かれたドラマですから、それを日本人である僕たちがいかに伝えられるか。挑戦です」妻ルシール役の堀内敬子さんとは劇団四季時代の同期で、退団後は初共演とか。「ドラマでは一回共演しましたが、舞台は久しぶり。会うと変わらなくて、嬉しいですね。きっとルシールの意志の強さやチャーミングなところは、堀内さんご自身の資質が生かされるんじゃないでしょうか。森新太郎さんの演出は初めてで、非常に楽しみです。役者陣はそろって個性的、みんなが輝く舞台になりそうです」演劇的な作品なので、ストレートプレイのファンにもぜひ見ていただきたいですね。「そう思います。ミュージカルは様々な題材を扱いますが、この年齢になって感じるのは、社会派ミュージカルは実に面白い、ということ。どんなにシリアスで残酷なことが起きても、音楽がそれを緩和させ、違う色付けをしてくれる。この作品の音楽も、からっと明るい曲も多いですしね。脚本は『ドライビング・ミス・デイジー』を書いた、演劇界の重鎮アルフレッド・ウーリー。この『パレード』でトニー賞を受賞しています。間違いない名作!ぜひ劇場でご堪能ください」ミュージカル『パレード』は5月18日(木)から6月4日(日)まで、東京芸術劇場 プレイハウスにて。その後、大阪、愛知を巡演。取材・文:三浦真紀
2017年02月17日1630年頃のロンドン、グローブ座を舞台に、かつての名優と少年俳優たちによる演劇界の裏側を描いた『クレシダ』が、9月4日(日)に開幕する。今回、その稽古場にお邪魔した。舞台『CRESSIDA クレシダ』チケット情報主演は平幹二朗。グローブ座の演技指導者となった元名優を演じる。他にも浅利陽介、花王おさむ、高橋洋ら実力派が顔を揃える。演出は、今最も勢いのある演出家との呼び声が高く、2016年は『BENT』や『イニシュマン島のビリー』を手掛ける森新太郎。タイトルの『クレシダ』は、シェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』に登場する女性の名前。女性役は少年俳優が女装して演じていた時代の物語で、クレシダ役に抜擢された少年俳優・スティーブン(浅利)と、ある思惑があり彼に演技指導を始めるシャンク(平)を中心に展開する。その日、まず稽古していたのはラストシーンだった。平ひとりでの語りと、浅利と橋本淳の会話で構成された、シンプルなシーンだ。その10分ほどの場面を、丁寧に1時間ほどかけて作っていく。森は「今はこう見えているが、こう見せたい。そのためにこうしたい」と演出意図を伝え、ひとつの台詞、ひとつの動きに対し、納得できるまで粘る。82歳の大ベテラン・平にも臆する様子はなく、もちろん平も真摯に応える。森の作品への愛情、そして役者への信頼を感じる稽古場だと感じた。そうやって大切に作られたラストシーンは、ぜひ劇場で確認してほしい。ちなみに、スティーブン(浅利)からハニー(橋本)への恋心に対するひとつの答えが見えるシーンはとてもかわいかった。スティーブンの素直な台詞も、大人になりかけのハニーの表情も魅力的。続いて一幕に戻り、グローブ座の楽屋シーンへ。少年俳優たち(橋本、碓井将大、藤木修)が当時のドレスを纏って登場。彼らのクラシカルなドレス姿は麗しいが、そのドレスを雑にポイポイ脱ぎ捨てたり、取っ組み合いの喧嘩をしたりと、少年らしい騒がしさが舞台を楽しく盛り上げる。そこにやってくる「幼すぎる喋り方をする14歳の少年」を違和感なく演じてみせた29歳・浅利もさすが。そんな中でもやはり平の存在感は圧倒的。空間が一瞬で平のものになる瞬間は、観ていて気持ちがいい。長年役者を続けてきた平が演じるかつての名優の台詞は、一言一言が強く響く。舞台『クレシダ』は、9月4日(日)から25日(日)まで東京・シアタートラムにて。その後、水戸、大阪を巡演。取材・文:中川實穗
2016年08月30日舞台『BENT』が、7月9日(土)から東京・世田谷パブリックシアターで上演される。本作は、第二次世界大戦中のドイツ・ナチスの強制収容所で密かに気持ちを通わせる男性同士の愛を描いた作品。極限状態で愛を貫くふたりを佐々木蔵之介と北村有起哉が演じ、2013年に『読売演劇大賞』最優秀演出家賞と最優秀作品賞をW受賞した森新太郎が演出を務める。その稽古場に潜入した。舞台『BENT』チケット情報この日、稽古場で演じられたのは冒頭からの3つのシーン。舞台は、二日酔いのマックス(佐々木)が、同棲中の恋人・ルディ(中島歩)に、昨夜の自分の様子を尋ねるところから始まる。酔うと記憶をなくしてしまうマックス。そこに昨夜彼が“お持ち帰り”したウルフ(小柳友)が素っ裸で登場する。マックスは、自分の痴態を知って落ち込んだり、困るとすぐに「ルディ!」と頼ったり、反省したそばからウルフの誘いを拒みきれなかったり。だらしないがどこか愛らしさを感じる。そんな恋人に呆れながらもなんだかんだ世話を焼いてしまうやさしいルディ。ふたりの性格や関係性、そして魅力が伝わってくるシーンだ。シーンを終えると、台詞の抑揚やソファに座るタイミングなど、森からの丁寧なダメ出しが入る。その場で何度も同じセリフを繰り返しながら、細かな修正を加え、少しずつ芝居を作り上げていく。すぐわかるほどの大きな変化でなくても、伝わり方が全く違うことに驚いた。ひとつの台詞、ひとつの動きがより生き生きと場景を伝え、物語に引き込んでいく。その後も、ルディが働くクラブのママ・グレダ(新納慎也)のもとにふたりが逃げ込む場面や、マックスが叔父のフレディ(藤木孝)と生き延びるための交渉をする場面が演じられた。グレダからは一晩を境に同性愛者が迫害対象になったことを教えられ、叔父からは同性愛を禁じる法案が通過したことを伝えられる。ゴージャスな楽屋で、のどかな公園で、グレダやフレディの言葉が空気を不穏に変えていく。そんな中でもなんとか“ふたりで”助かろうとするマックス。誰もが知る史実の上でその姿は痛々しい。稽古場は和やかな雰囲気の中、台詞を繰り返す声が絶えず聞こえる。北村は役作りで食事制限をしているようで、佐々木が「かなり痩せたよな」と声をかけていた。その側では役者がよりスムーズに動けるよう、小道具の調整が行われている。演出家、演者、スタッフ、誰もが作品に真摯に取り組んでいた。幾度も上演されてきた作品だが、今作は真っ直ぐ、そして深く描かれる“愛の物語”が観られるはずだ。PARCO Produce『BENT』は、7月9日(土)から24日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて。文:中川實穗
2016年07月04日佐々木蔵之介と北村有起哉が、ナチスの強制収容所という極限状態で貫いた愛を描く舞台『BENT』。7月の上演に先がけ稽古場でトークセッションが行われ、ミッツ・マングローブの進行のもと、主演の佐々木、北村、演出の森新太郎が本作について語り合った。舞台『BENT ベント』チケット情報本作は、第二次世界大戦下のドイツを舞台に、セクシャルマイノリティの人々が受けた弾圧と、その中で育まれる究極の愛を描いた物語。ゲイをストレートに表現した世界で初めての演劇作品と言われており、佐々木演じる主人公・マックスを、海外ではリチャード・ギア、日本では役所広司や椎名桔平といった名だたる名優たちが演じてきた。演出の森は「戯曲を読んだのは10年位前になると思うのですが、そのときとにかく泣けちゃったんですね。涙腺が崩壊して、こんな泣けてしまったものは自分で演出できないんじゃないかと思うような作品でした。今回、パルコに提案する前にもう一回読んだらやっぱり泣けてしまって。演出プランを作るときに読んだらまた泣けてしまって。こんなに泣ける戯曲は僕の演劇人生ではない」。佐々木は「戯曲を読んでいくと、僕と北村さんの間で互いの顔を見合わせることもなく、触れることもなく、ふたりで愛を確かめ合うシーンがあって。これはまさに演劇の醍醐味だなと。できるかどうかわからんけど、森さんとやってみようと決めました」北村は「僕もほんとに読む度に泣いちゃって。演じてるときも本当にクッとこらえてがんばんないとってくらい、作品としてすごく力がある。ちょっとでも客観的になると泣きそうになるので、しっかり手綱を握っとかないと」と、それぞれ本作について熱く語る。ミッツからの「同性愛者を演じるというのはいかがですか?」という質問には、佐々木が「北村さんが稽古場で、裸足に雪駄をはいて、足を触りながら本を読んでるんですけど、それすら愛おしく見えてきた」と告白。北村は「エアセックスのシーンがあるんですけど、お客さんもドキドキすると思います」と見どころを紹介した。森は「ナチスの抑圧というのが前面に出ていますが、差別や偏見の壁というのはいつの時代、どの社会でもなくなったことはない。数日前には銃乱射事件も起きて。日本ではあそこまでのことはないですけれども、ああいう社会の不寛容さがある以上、この作品はやられ続ける価値があるんじゃないかと思います」と語った。「国境も人種も性別も超えたストレートな愛の話です。ぜひ劇場で観て頂ければ」(佐々木)PARCO Produce『BENT』は、7月9日(土)から24日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて。撮影・取材・文:中川實穗
2016年06月15日俳優の佐々木蔵之介が14日、都内で行われた主演舞台『BENT』記者発表会に、共演の北村有起哉、演出の森新太郎とともに登場した。また、タレントのミッツ・マングローブがゲストMCを務めた。同作は1930年代中頃のドイツを舞台に、ナチスによって迫害されていたセクシャルマイノリティの受難と愛を描く物語。1978年に上演され、同性愛者を表現した世界で初めての演劇作品と言われており、日本でもこれまで役所広司、椎名桔平など様々な俳優によって演じられている。佐々木はあまりの内容の深さに、一度は「ダメ、できない」と、断ることを考えたという。また北村も「台本を読むたびに泣いちゃって、最初の本読みでも泣いちゃって」と語り、「演じてる時は泣いちゃダメです。泣かないように頑張らないと」と意気込んだ。2人は役の上で恋人同士となるが、佐々木は「本読みの段階ですら有起哉が愛おしく見えてきた」と明かす。今までも北村と共演してきたが「以前は愛おしさは全くなかった」と言い、今は稽古着を散らかしているだらしない感じも「いいかなと思えてきた」と、すでに役に入っている様子。MCを務めたミッツは「実地体験が必要でしたら言ってください」と佐々木にメッセージを送った。また演出の森は、12日にアメリカ・フロリダで起きた銃乱射事件にも触れ「社会の不寛容さがある以上、演じ続けられる意義はある作品だと思う」と作品についての思いを表す。さらに森は「外国の作品は、『差別もあるけど、跳ね返す』ということを見せるけど、日本はそもそも"ないもの"のように見せるのが息苦しさだなと感じていて。演劇はTVで公になるわけではないし、砦になりたいです。お客さんもそんなヤワではないし、観たら観たで考えてくれると思う」と、観客へ信頼を寄せた。
2016年06月14日佐々木蔵之介の主演舞台『BENT』が7月、世田谷パブリックシアターにて開幕する。【チケット情報はこちら】イギリス演劇の傑作と呼ばれる本作、その舞台となるのは1930年代のベルリンだ。ナチス強制収容所の過酷で絶望的な状況下においても、真実の愛を求め、人間としての誇りを失わずに生きた男たちの物語が展開する。これまでに刑務所(『ショーシャンクの空に』)や精神病棟(『マクベス』)といったタフなシチュエーションの舞台に挑んできた佐々木は、「またこういう芝居か…と」と苦笑を見せるが、すぐさま背筋を正して静かに意気を込めた。「でもやっぱり、自らこういった芝居を選んでいるのかな、ってことに最近気づきました。新しい世界への、演劇を信じる挑戦ですね」ナチスの迫害を受けた同性愛者の悲劇として知られる本作だが、「性別は関係なく、究極の中だからこそ見えてくる愛の物語」ととらえている。厳しい監視のもと、彼らは命をかけて、イマジネーションで愛を通じ合う。「台本を読んで、コレ、本当にお客さんにわかってもらえるのか!?自分がやることで伝わるのか!?と正直、思いました。でも前作の一人芝居『マクベス』で、多役を担う中でマクベス夫人も演じたんですが“色っぽかった”と言ってもらえたんですよ。僕がやっているのにそんなわけがない(笑)。でもそれはお客さんの想像力で、そんなふうに見てもらえたんだなと。ならば、『BENT』の男二人の関係も、極限状態の中でこの二人がどうやってお互いを抱きしめ、愛を感じているのか、きっと理解してもらえるんじゃないかと思うんです」佐々木が扮するマックスと愛し合うホルスト役は、「大好きな舞台俳優のひとり。板(舞台)の上で自分自身を解放できて、その役を生きることができる役者」と信頼を寄せる北村有起哉だ。さらにもう一人、芝居作りの強力な相棒となるのが、演出家の森新太郎である。「森さんと同じ劇団(演劇集団円)の橋爪功さんとご一緒した時に、『今度、森さんと舞台をやるんです』と話したら、『アイツ、しつこいぞ!』って何度も言うんですよ(笑)。だから稽古場では相当しつこいんだろうなと思って。でも僕はしつこい稽古は嫌いじゃない。勉強家で、演劇が本当に好きな人だと思いますね。演劇は時間をかけて作っていくのが一番大切だと思うので、森さんと組めることは幸せです」自らを追い込んでこそ、舞台に立つことができる。その覚悟をつねに感じさせてくれる役者、佐々木蔵之介の“演劇を信じる力”に共鳴したい。「人を愛し、愛される感覚が、極限状態だからこそ強烈に、衝撃的に突き刺さってくる。それを劇場で感じてほしいですね。“目の前で今、何かすごいことが起こっている!”と体感できるのが演劇の醍醐味。その、愛の核となるものが見られたらなと。皆さんと一緒に、僕もそれが見たいです」取材・文上野紀子衣裳協力Vlas Blommeスタイリスト勝見宜人(Koa Hole inc.)
2016年04月25日3月25日の開幕を前に、舞台『イニシュマン島のビリー』のゲネプロ(最終リハーサル)が東京・世田谷パブリックシアターにて行われた。イギリス演劇界の鬼才マーティン・マクドナーが、自らのルーツであるアイルランドを舞台にして描いたブラック・コメディの傑作である。翻訳戯曲の演出で多くの秀作を生み出してきた森新太郎が、自身3度目となるマクドナー作品を手掛けることも注目された話題の舞台だ。舞台『イニシュマン島のビリー』チケット情報黒を基調としたステージ上に現れるのは、アイルランドの小島・イニシュマン島の田舎にある殺風景な店や、うら寂しい夜の海岸など。殺伐とした空気感が、波の音や照明効果から伝わってくる。そこで暮らす生まれつき左手・左足が不自由な少年ビリー(古川雄輝)、美少女だが言動があまりに暴力的なヘレン(鈴木杏)、キャンディに執着しているヘレンの弟バートリー(柄本時生)。彼ら若者たちは、島の外に飛び出すことを願っている。方や、店を営みながら孤児のビリーを育ててきた老姉妹(平田敦子、峯村リエ)、ゴシップ集めを生きる糧としている老人(山西惇)と彼の90歳の母親(江波杏子)、男やもめ(小林正寛)、医師(藤木孝)ら大人たちは、島という小さな世界で思うままに感情をまき散らし、時にアイルランドに対するささやかな誇りに満たされて生きている。停滞していた彼らの日常は、「ハリウッドから撮影隊がやってきた」というゴシップ屋老人のトップニュースにより揺らぎ始める。ひとりとしてアクの弱い人間はいないマクドナーの登場人物たち、それぞれにピタリとハマった理想のキャスティングにまずは興奮させられる。荒びれた店にたたずむ平田、峯岸の老姉妹は、まったく似ていない風貌での滑稽なやりとりで失笑を誘いながら、ビリーに注ぐ愛情で強固なつながりを見せる。傑出していたのが山西の怪演だ。諍いを掘り起こし、人々を困惑させるのが大好物の“困った老人”を喜々と表出する様が、憎らしくも愛おしく、笑いを抑えられない。鈴木の思い切りのいい表現もいい。哀しみと鬱憤を詰め込んだ暴力、暴言の数々がなぜか見るものの頬を緩ませ、彼女のいらだちに共鳴させる。柄本は独自の個性を存分に発揮した役どころだが、とぼけ顔のバートリーの胸の内に起こった静かな反乱を丁寧に見せていた。ビリー役の古川はハンディキャップを表現しながら、序盤は傍若無人な周囲の人々を穏やかにみつめ、つましくたたずむ。その謎めいた存在が周りの騒音にあおられて徐々に血や肉をつけ、感情を吐露していく様が面白い。ビリーの野心、歓喜、葛藤、失望を繊細につむぎ出す好演を見せた。人々の心に巣くう寂寥感、そこから沸き起こる暴力をユーモアで描き切るマクドナーの世界観。その衝撃に魅せられた森が、生にもがく人間たちを深く温かい眼差しでみつめ、鮮やかに息づかせている。ラストに渡された余韻の意味をじっくりと考えたい、そんな舞台がまたひとつ誕生した。公演は4月10日(日)まで世田谷パブリックシアター、4月23日(土)・24日(日)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。取材・文:上野紀子
2016年03月28日衝撃的で意表を突く物語が魅力のアイルランドの劇作家・マーティン・マクドナーの舞台『イニシュマン島のビリー』が上演される。主役を務めるのは、映像や舞台での活躍が目覚ましい、若手俳優の古川雄輝。幼少のころから海外で暮らしたバイリンガルで、日本語と英語で今作の台本を読んだという古川に話を聞いた。『イニシュマン島のビリー』チケット情報「ブラックコメディなので、笑いどころがたくさん。でも英語と日本語では、ニュアンスがかなり違う。『英語ではこういう表現なので、日本語のセリフも変えてみませんか』と演出家の森新太郎さんに提案させて頂くこともあります」と頼もしい。1930年代のアイルランドのイニシュマン島を舞台に、生まれつき右腕と両足が不自由な17歳の青年ビリーが役どころだ。「基本は皆に愛されていますが、それをビリーが感じ取れているかは微妙なんです。台本を読むかぎり、彼は内気でやさしい性格。でも稽古に入ると、森さんから『ここはビリーのやさしさだけではなく、いじわるな部分も見せて』と指示があり、両極するさまざまな感情があるのだと、ビリーに対する印象も変わってきましたね」。何もない退屈な島で、身体に障がいがあることで周りの人々にからかわれ、バカにされてきたビリー。彼の幼なじみで、怒ると生卵を投げつけるクセのある暴力的な美少女・ヘレンをはじめ、島の人々のビリーへの対応が、ブラックな表現に満ちて過激でいかにもマクドナーらしい。「英語だと放送禁止用語を使ったもっと荒い言葉で、日本語版はあれでもかなりやわらいでいます(笑)。ビリーは、学校で話しかけただけで女性に泣かれたことがあり、全く女性から相手にされない。でもヘレンだけは暴力的でありながらもビリーに接してくれる。そこに彼は惚れたのではないかと。ヘレンは田舎のヤンキーのような存在で、森さんいわくモデルはジャイアンだそうです(笑)」。実力派女優・鈴木杏演じるヘレンとの掛け合いや恋の行方も見逃せない。物語は、隣の島でハリウッド映画の撮影が行われ、ビリーがハリウッドを目指すことで大きく動いていく。「中国などの海外作品はいくつか出ましたが、僕もハリウッドはビリーと同じで目標のひとつです」。果たしてビリーは夢をつかむことができるのか。一方、古川の現実としてハリウッドは「日本である程度の役者の地位を確立しないとキャスティングにはまらない。いい作品に巡り会うチャンスがないそうです。まずは日本でのベースを固めたい」と話す。ウエストエンドとブロードウェイの同作舞台では、ダニエル・ラドクリフがビリーを演じた。「ラドクリフさんに負けないように、新たなビリーを作りたい」。今作で大きなチャンスをつかんでほしい。公演は、3月25日(金)から4月10日(日)まで東京・世田谷パブリックシアター、4月23日(土)・24日(日)は大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。チケットは発売中。取材・文:米満ゆうこ
2016年03月22日アイルランドの劇作家マーティン・マクドナーのブラックコメディの秀作「イニシュマン島のビリー」が3月25日(金)より上演される。日本では過去に『夢の島イニシュマン』『ビリーとヘレン』などの邦題で上演。映画『ハリー・ポッター』シリーズでお馴染みのダニエル・ラドクリフがブロードウェイで主演したことでも話題になった作品だ。今回は若手実力派演出家の森新太郎による新演出で、注目の若手俳優・古川雄輝を始め、鈴木杏、柄本時生、山西惇、江波杏子ら実力派キャストにより新たな息吹をもたらす。都内某スタジオで行われた、本作の通し稽古に潜入した。舞台『イニシュマン島のビリー』チケット情報開幕まで半月に迫ったこの日は、初めての通し稽古が行われていた。緊張感が漂う中、本番の流れ通りに進行し、出演者たちは個性的なキャラクターを活き活きと演じていた。アイルランドの孤島が舞台のこの作品は、ハンディキャップを負った孤児ビリーと彼を取り巻く人々の物語。ひどい言葉で罵られながら生きてきたビリーのもとに、ゴシップ屋のジョニーパティーンマイクが隣の島でハリウッド映画の撮影が行われることをもたらす。島を出るチャンスとみたビリーは、幼馴染の少女ヘレンとその弟バートリーとともに映画に出演するためにボートで海を渡ろうとする。左手と左足が不自由で、誰からも人として認められないビリーを、古川はリアルに演じる。いまにも消えてしまいそうな気弱なビリーは儚げで、少しずつ変わろうとする姿は生命力を感じられた。作品全体に漂うどこかどんよりとした重い空気を、一変させるのは個性的なキャラクターたち。荒々しく暴力的な少女ヘレンを演じる鈴木がシーンに緊張感を与え、おバカな弟を演じる柄本が絶妙な間合いで、せりふの度に場をなごませていた。山西が演じるジョニーパティーンマイクの存在感にも目が離せなかった。台詞の中には人を傷つけるような過激な言葉も多く、ドキリとするような暴力的なシーンもある。安心と不安定、優しさと暴力など、相反するものが次々と展開し、希望の光が見えたと思えば、絶望がその光を覆い隠す。しかし、観終ったあとには、そんな表裏一体の物語をもう一度始めから観たくなる。通し稽古のあとにはスタッフとともに細かな調整も行われていて、本番に向けてさらに磨きが掛かっていくのだろう。舞台セットもまだ装飾される前で、どんな世界に仕上がるのか楽しみだ。「イニシュマン島のビリー」は3月25日(金)から4月10日(日)まで世田谷パブリックシアター、4月23日(土)・24日(日)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演。チケット発売中。文:門 宏
2016年03月17日3月25日(金)から東京・世田谷パブリックシアターで上演される森新太郎演出の舞台『イニシュマン島のビリー』。その製作発表会が都内で行われ、演出の森、主演の古川雄輝、鈴木杏、柄本時生、山西惇、江波杏子が出席した。舞台『イニシュマン島のビリー』チケット情報原作は、アイルランドの鬼才と言われるマーティン・マクドナー作のブラック・コメディ『THE CRIPPLE OF INISHMAAN』。2013年にはダニエル・ラドクリフ主演でロンドンにて上演、翌年ブロードウェイに進出し、絶賛を浴びた作品だ。演出の森は「今回の芝居はダークコメディ。単純なハッピーエンドで終わるのではなく、観に来てくださった皆さんにほろ苦い、ビターなものを残すであろう作品です。マクドナーの作品ですので全編暴力に満ち溢れていますが、同時にマクドナーらしいとんでもなくピュアな愛の物語も描かれています。登場人物は感情むき出しのとんでもない連中ばかりですが、今作ではとてもアニマルなキャスティングが実現しました」と紹介。赤ん坊の頃に両親を亡くしたビリー(古川)はふたりの中年女性を親代わりに暮らす17歳の青年。ハンディキャップのせいでバカにされながら毎日を送るビリー。そこに、隣の島でハリウッド映画の撮影が行われるというニュースが届く。船で隣の島まで行こうとするヘレン(鈴木)とその弟(柄本)に、ビリーは一緒に連れて行ってくれと言うが――。主演の古川は「舞台が2年ぶりで、かつ主演ということで非常にプレッシャーを感じているんですけど、本当に素晴らしいキャスト、スタッフの皆さんと舞台ができるということでうれしく思っています」、ビリーの幼馴染で恋の相手でもあるヘレン役の鈴木は「もともと好きで憧れだったマーティン・マクドナー作品に森新太郎さん演出で挑戦できるのはなんて幸運なことなんだろうと思っています。俳優のみなさんが特別な才能の塊みたいな人たちが集まっていて、埋もれないようにひるまずぶつかっていきたい」と語った。個性派俳優が揃った会見はMCからの質問にも独特の回答が続出。さらに、古川、鈴木、柄本が作品の1シーンを朗読劇で披露する時間も。森から「敢えて言うならジャイアン」と言われたという乱暴な役を演じる鈴木は、朗読マイクから離れ柄本を殴る仕草をするなど臨場感たっぷりに演じ、約100名の観客を圧倒した。舞台『イニシュマン島のビリー』は、3月25日(金)から4月10日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて。取材・文:中川實穗
2016年02月23日アイルランドの鬼才と呼ばれる劇作家、マーティン・マクドナーの『イニシュマン島のビリー』。2013年には『ハリーポッター』シリーズでおなじみのダニエル・ラドクリフ主演でロンドン公演が、そして2014年にはブロードウェイで上演が行われた今作が日本に上陸する。舞台『イニシュマン島のビリー』チケット情報時は1930年代。アイルランド・イニシュマン島に暮らすビリーは生まれつき左手、左足が不自由。理性的な青年にもかかわらず、島の人々に変人扱いされている。ある日、隣のイニシュモア島でハリウッド映画が撮影されると聞きつけ、出かけようとする面々にビリーは自分もつれて行ってほしいと頼む。全員が拒否するが、ビリーは切り札となる一通の手紙を見せる……。ビリーを演じるのは現在、ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~』に出演している古川雄輝。「ビリーはハンディキャップを持っているせいで周りのみんなから軽んじられます。でも、ハンディキャップに限らずちょっとした違いのせいで周りに受け入れられないことはよくあること。僕自身はビリーに共感する部分も多いにありますし、見てくださる方のなかにもビリーの気持ちがわかる人がたくさんいらっしゃるんじゃないかと思います」と語る。ビリーと幼馴染のヘレンには鈴木杏が扮する。ヘレンは美人だが暴力的で口の悪い少女。「ヘレンは、気持ちと態度を上手につなげることができない少女。感じていることを素直に表そうとしてもうまくいかなくて、結果的に粗暴になってしまう」と役について分析する鈴木。「マーティン・マクドナー作品にはそういった未熟な大人がたくさん登場する印象があります。でもそれぞれの人物に『しょうがないよね、人間ってそういうところがあるよね』と思えてしまうチャーミングさがあると感じています」と戯曲の魅力についても教えてくれた。演出は、昨年の読売演劇大賞で大賞と最優秀演出家賞を獲得した森新太郎。鈴木は「森さんの演出にはいつも驚かされます。私たちには見えない明暗や色彩の繊細さが見えているんじゃないかと思う」と語り、彼の演出を受けることを熱望していたという。「願いが叶っていまは喜びもありますが、同時にとてもドキドキしています」と笑う。古川は「もちろん自分なりのビリーを演じるつもりですが、舞台は演出家のOKがすべて。ベテランの皆さんの胸を借りながら、森さんが何をよしとするのかを稽古を通じて見極め、そこに食らいついていければ」と決意を新たにしていた。公演は3月25日(金)から4月10日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて。チケットの一般発売は12月5日(土)午前10時より。取材・文/釣木文恵
2015年11月10日内野聖陽が伊右衛門、秋山菜津子がお岩を演じる魅惑の『東海道四谷怪談』が6月10日(水)に新国立劇場で幕を開ける。演出は同劇場で上演された『エドワード二世』などで昨年、読売演劇大賞に輝いた森新太郎。稽古が佳境を迎える中、森に話を聞くとともに、稽古場をのぞかせてもらった。舞台『東海道四谷怪談』チケット情報元来、多くの登場人物たちの因果や運命が交錯する群像劇の側面が強いが今回、大胆にいくつかのエピソードをカットし、あくまで伊右衛門とお岩のふたりの関係性に絞りこんだ。森は「人々の人生を削って短く薄く詰め込むのではなく、ふたりの男女を軸に濃密なドラマにしたかったし、そこで人間の抱える荒んだ心の闇を見せたい。やればやるほど『あぁ、男ってこうだよな』と思うし(笑)、現実に対する南北の冷徹なまなざしを感じます」と語る。広さも奥行きも高さもある中劇場での上演だが「広漠と横たわる暗闇を活かしたい。なるべく具体的なものを排して、ごくシンプルにしている。必要最低限の小道具と俳優の肉体、テキストがあればやれる」とも。足し算ではなく引き算で、人々の心情を文字通り「浮かび上がらせていく」意図が感じられるが、その最たる部分が、秋山が唯一の女性キャストであり、男性がお岩以外の女性の人物を演じるという点。「リアルな女性の繊細さ――こんな状況に置かれた女性がどういう声を上げ、どんな目をして死に、どんな心理で復讐しようとするのか?僕も男なので、そこは謎を解き明かすような気持ち。“お岩対社会”という構図が見えてくる」と説明する。脚本を読むとネズミや鬼火を使った表現などどう見せるのかと気になるシーンも多いが「それが何かと言えばお岩の激しい情念の表れなので“温度”をそこに残したい」。有名な戸板返しや仏壇返し、面体の崩れたお岩の化粧のシーンなども「いろいろ考えてます」と不敵に笑う。お岩の存在を色濃く浮かび上がらせる最重要人物は言うまでもなく伊右衛門である。森は内野を「伊右衛門をやるために生まれてきたような男!」とまで言うが、稽古場をのぞいてみてその言葉に納得させられた。序幕の伊右衛門がお岩の父・左門にお岩との復縁を求めるごく短いやり取りの中で、内野は伊右衛門の卑屈さ、尊大さ、瞬時にわき上がる怒りなどいくつもの感情を巧みに表現。幕が上がって数分で、伊右衛門という人間の性根、小悪党ぶりがまざまざと理解できる。伊右衛門をはじめとする小さな悪の積み重ねを一身に背負い、ひとりの女性がどのような変容を遂げていくのか、仕上がりが楽しみだ。6月10日(水)から28日(日)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。取材・文:黒豆直樹
2015年06月08日木南晴夏が家庭教師のアニー・サリヴァン、高畑充希が三重苦の少女ヘレン・ケラーに挑む舞台『奇跡の人』が、10月9日に開幕。上演前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、意気込みを語った。同作は、見えない、聞こえない、話せないの三重苦を抱えるがゆえに甘やかされて育ったヘレン・ケラーに、新米家庭教師のアニー・サリヴァンが指文字を教えることでヘレンに人生を取り戻してもらおうとする物語。ヘレンの両親や兄のジェイムズら家族の葛藤も描く。演出は、2014年読売演劇大賞で大賞と最優秀演出家賞を受賞した新鋭の森新太郎が務める。5年ぶりに同役を演じる高畑は、「5年前のことをもう1回やろうとしてもできないし、全部を取り壊して新しく立て直しました」と新たな気持ちで取り組んだことを明かした。そして、「かなりハードな舞台ですので、次の公演のことは考えずに全力で楽しんでやりたいと思います」と充実した表情を見せた。その言葉通り、ふたりの取っ組み合いのシーンは壮絶そのもの。森から「本当に戦っているように見せること」と「スピードアップ」を心がけた演出をつけられたというふたり。声を荒げながらヘレンに厳しく指文字を教えるサリヴァンと、感情を露わにしてそれを拒もうとするヘレンのぶつかり合いに観る者はハラハラさせられる。「慣れてくるとアザは少なくなってきたんですけど、スピードが上がってきているので息が上がるようになりました。200メートル走を全力疾走したみたい」(木南)。加えて木南は「アニー・サリヴァン役は本当に光栄なことですので、しっかりと受け止めて皆さんにお見せできたらいいなと思います」と意気込みを語った。初共演となるふたりは、お互いの印象を、「お家みたいな感じがします。(木南の)テリトリーにパッと入れました」(高畑)、「本当にヘレンのようにみんなに愛されていて、私も気遣いをまったくせずにすんなり入っていけました。印象はいいです!」(木南)と話し、舞台上の緊張感とは打って変わって、楽しそうに笑い合った。公演は、天王洲 銀河劇場(東京都)で10月19日(日)まで。大阪公演は10月21日(火)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪府)で上演。チケット発売中。
2014年10月10日三重苦のヘレン・ケラーと家庭教師アニー・サリバンの出会いと成長を描く『奇跡の人』。幾度となく上演されてきた名作がこの秋、気鋭の森新太郎による新演出でよみがえる。このたび行われた公開稽古後に、サリバン役の木南晴夏とヘレンを演じる高畑充希に話を聞いた。舞台『奇跡の人』チケット情報公開稽古では、サリバンがヘレンの元にやってきて指文字を教えようとするが、ヘレンが思いのままにならないサリバンを閉じ込めてしまうシーンが行われた。たった5分ほどの間に、持っていた人形で力いっぱいサリバンを殴打するヘレン、暴れまわるヘレンを力づくで抑えようとするサリバンと、全力の取っ組み合いが展開される。迫力あるふたりの格闘ぶりに、取材陣も息を呑んだ。しかし木南、高畑のふたりによれば、このシーンはまだまだ序の口。もっと激しくぶつかり合うシーンがたくさんあるのだという。「ヘレンは全然かわいそうじゃないところが好き」と笑う高畑。「ピュアだけれど、性格の悪い怪獣。私も演じる前は『目が見えず耳が聞こえなくてかわいそうな女の子』という印象を持っていたけれど、実際にやってみるとこんなにもやりたい放題の子はいない」とヘレンの印象を語る。一方の木南が話すサリバンも「教師ということもあり、達観している大人だと思っていた。けれどすぐむきになる、人間としてまだまだできていない少女です」。一般的な「かわいそうなヘレンと、彼女を導くサリバン」というイメージから遠く離れた、人間らしいふたりが観られそうだ。森新太郎の演出について、「昨日、急に指示されて関西弁でサリバンをやってみたのが楽しかった」という木南。関西出身の彼女にとって、地元の言葉でサリバンを演じてみるという稽古は肩の力を抜くのにぴったりだったのかもしれない。「まだまだ余裕がないけれど、もっと弱くもっと強く、調子に乗りすぎちゃうくらいのサリバンになれたら」。一方の高畑は5年前に引き続きヘレン役を続投。「前作はコミカルな動きをするところがあったりして、メリハリのあるフィクションぽいつくりの芝居だった。森さんはよく『リアルに』とおっしゃるんです。今回はその言葉に忠実に、ヘレンの気持ちを繊細に表現したい。セリフがない役ですから、気持ちを入れず身体だけ動かすとすごく疲れる。『こうしたいからこう動く』という思いで、毎日新鮮に演じたい」。若手実力派のふたりが全力で挑む舞台。その激闘をしっかりと見届けたい。公演は10月9日(木)から19日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、10月21日(火)大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。チケット発売中。取材・文/釣木文恵
2014年10月02日安蘭けいが、ジャズ史に残る歌姫ビリー・ホリデイを描いたレニー・ロバートソン作のソロミュージカル『レディ・デイ』に出演する。1986年にオフ・ブロードウェイで初演された作品で、レディ・デイと呼ばれたビリーが死亡する4か月前に行ったライブを再現したもの。観客はライブのオーディエンスに見立てられ、安蘭演じるビリーが歌い、MCとして自らの体験も語る。ソロミュージカル『レディ・デイ』チケット情報情感豊かな歌声と共に、奔放な男性遍歴、麻薬やアルコール依存など壮絶な人生で知られるビリー・ホリデイ。その代表曲のひとつ『奇妙な果実』は、彼女も経験した黒人差別の歌で、安蘭は初めて聞いた時、「こんなダークなジャズもあるのだな」と驚いたという。「私が自分自身の歌として歌うとしたら、理由というか、乗り越えなくてはならないものが多い。でも今回はビリーとして歌えるのでやりやすいです」。実在の人物を演じるにあたっては「かつては真似から入ることが多かったのですが、私の体を通してお客様はビリーをご覧になるわけだから、私らしさがないと意味がない。どれだけ、ビリーに共感できるところをみつけてお客様と共有できるか。その辺りを突き詰めていきたいです」と語る。「以前私が演じたエディット・ピアフもそうですが、ビリーはどんな境遇にあっても這い上がる強さやエネルギーをもった女性。それでいて脆さもあり、全てが歌に表れている。すごく素直なんですよね」。こう語る安蘭もまた、舞台では嘘がつけないタイプだ。「なんとなく歌ってしまうと歌詞が出てこないし、気持ちが伴わないまま台詞を言うと絶対に間違えたり噛んだりするんです。プロなのにと思われるかもしれないけれど、そこは自分の好きなところ。この作品でも、私がビリーになるという嘘はあるけれど、自分に嘘はない状態で演じたいと考えています」。宝塚歌劇団退団後5年目。波乱に富んだ役柄を多く演じてきた。「癖のある役柄は演じ甲斐があります。巡り合わせもあるでしょうが、もしかしたら私が呼んでいるのかもしれません」とほほ笑む。今年は3月に森新太郎演出によるヘンリック・イプセン作『幽霊』、そしてこの栗山民也演出『レディ・デイ』と、初タッグの演出家の舞台が続く。「いつも新しいことに挑戦したいと考えています。イプセンも初めてだし、『レディ・デイ』は初のひとり舞台。今年は越える山が多いですね。登る前の今は怯んでいますが、結局、こういうチャレンジが私にはすごく楽しいんです」。ソロミュージカル『レディ・デイ』は6月12日(木)から29日(日)まで東京・DDD AOYAMA CROSS THEATER、7月5日(土)・6日(日)に兵庫・宝塚バウホールにて。東京公演のチケット一般発売は3月1日(土)午前10時より。取材・文:高橋彩子
2014年02月27日久しぶりに登場した“Work Play(労働の演劇)”の書き手として、世界中から注目を集めている英国人劇作家のリチャード・ビーン。彼がビーン家の歴史から想を得、二度の世界大戦を挟んで、ある男の19歳から109歳までに及ぶ100年間を描いたのが、この『ハーベスト』だ。日本初演にしてビーン作品の初上演でもある本作において、主人公のウィリアムを演じるのは渡辺徹。渡辺は5月に虚血性心疾患で手術を受けてから、これが復帰第1作となる。12月11日、その初日を世田谷パブリックシアターで観た。『ハーベスト』公演情報イギリス、ヨークシャー州。ハリソン家は細々と馬や穀物を育てていたが、第一次大戦が始まり、大事に育てた馬が軍に連れていかれるのを、長男のウィリアム(渡辺)と次男のアルバート(平岳大)は黙って見つめるしかない。時は飛んで戦後。徴兵されて両足を失い帰国したウィリアムは、第二次大戦後に念願だった養豚業を始める。働き手はアルバートとその妻モーディー(七瀬なつみ)、姪のローラ(小島聖)と元ドイツ人捕虜の夫ステファン(佐藤アツヒロ)だけだが、ウィリアムの緻密なケアによって仕事は軌道に乗る。お調子者だが憎めないティッチ(有薗芳記)も加わり、前途洋々に見えたのだが…。渡辺は無力な若者に過ぎなかった第1場(1914年 種馬の男)から、知恵を使って生き抜くすべを覚えた第2場(1934年 アダムとイブ)、地主との関係が変化を見せ始める第4場(1958年 肥やしの日)と、時代を追うごとに緩急自在な演技力を発揮。風変わりな地主エイガー(吉見一豊)との階級を越えたやりとりでも客席を湧かせる。演出の森新太郎は、演劇集団円の演出部所属。まだ30代半ばだが、戯曲に真っ向から取り組み、作品の魅力を丁寧に浮き彫りにする手腕に定評がある。本作でもひとりの農夫が生き抜くさまを、時にふてぶてしいほどの生命力を感じさせつつ、時に英国人作家による戯曲らしいブラックユーモアも散りばめながら、テンポよく綴ってゆく。セットの石造りの田舎家が盆回しで回転するごとに時代が変わり、各場はウィリアムの心情を必要以上に語らないまま、シーンのハイライトで暗転する。その突き放したような客観性によって、観客はウィリアムの人生をたどると同時に、自らの父祖を遡るような錯覚を覚えることになる。20世紀という稀有な100年とはなんだったのか。その問いは、21世紀を生きる私たちへの問いかけでもあるのだ。公演は12月24日(月・祝)まで。取材・文:佐藤さくら
2012年12月12日