夏の風物詩といえば怪談。そこで今回は夏にぴったりな“幽霊画”の展覧会をご紹介。そもそも幽霊とは、化け猫や塗り壁などの妖怪とは違う、現世に怨念が残って成仏しきれなかった“人間”の姿。そのうらみつらみといった人の情を、おどろおどろしく、巧みに表現するのが幽霊画で、だからこそ「その気持ちはわかる、可哀想…でもやっぱり、こわい」というリアルな恐ろしさが伝わってくる。本展で並ぶのは、谷中の全生庵(ぜんしょうあん)が所蔵する明治時代の噺家・三遊亭圓朝(さんゆうていえんちょう)ゆかりの幽霊画コレクション50点が中心。圓朝は怪談を得意とした噺家で、幽霊画のコレクターとしても有名だった人物。希代の“幽霊マニア”と呼べる彼が収集した作品だからこそ、間違いなく“怖い”ラインナップだ。会場では「怪談牡丹燈籠」や「四谷怪談」「番町皿屋敷」など、有名な怪談のストーリーも解説。美術に興味のない人でも、名画とともに恐ろしいストーリーを追えば、背筋がゾクッ!お化け屋敷とはまた違う、不気味な肝試し気分が味わえる。◇information「うらめしや~、冥途のみやげ」展―全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に―東京藝術大学美術館地下2階展示室東京都台東区上野公園12‐8開催中~9月13日(日)10:00~17:00(8月11日・21日は~19:00、入館は閉館の30分前まで)月曜休TEL:03・5777・8600(ハローダイヤル)一般1100円◇毒殺されたお岩の悲劇『東海道四谷怪談』。病気がちのお岩を厭う夫・民谷伊右衛門は、出世のため隣家の伊藤喜兵衛の孫娘・お梅と結婚すべく、お岩に毒を盛る。容姿が崩れたお岩は苦しみながら死ぬが、その後、民谷家には不幸が続き…。醜い顔のお岩の亡霊が夫の前に現れた恐怖の瞬間が、この場面。歌川国芳≪民谷伊右衛門市川海老蔵・お岩亡霊 尾上菊五郎≫天保7 年(1836)大判錦絵8/18‐9/13(後期)展示◇愛しい男の心変わりで女が鬼に変わる『葵上』。元皇太子妃で光源氏の愛人・六条御息所は気高く教養深い高貴な女性。けれど源氏の足が遠のいたことで、彼の正妻である葵上に嫉妬の炎を燃やし、呪術で葵上の魂を抜き取ろうとする…。この絵は御息所の心に巣くっている嫉妬心が生霊となって表れたシーン!上村松園≪焔≫大正7年(1918)絹本着色東京国立博物館9/1‐9/13展示◇父子で間男を討つ復讐劇『怪談乳房榎』。絵師の菱川重信の妻・お関に惚れた磯貝浪江は、重信に弟子入りして、お関に関係を強要したうえ重信を惨殺。さらに子供まで殺そうとする浪江の前に、重信の亡霊が登場し、我が子を救出する絵がこちら。その後、成長した子が、父の仇討ちを果たす。伊藤晴雨≪怪談乳房榎図≫明治~昭和時代(20世紀)絹本着色全生庵8/18‐9/13(後期)展示※『anan』2015年8月12日・19日号より。文・山田貴美子
2015年08月18日それぞれ全く画風の異なる、4作品。実はこれらは、どれも同じ人物が描いたものなんです!作者は、幕末明治に活躍し、「画鬼」と称された絵師・河鍋暁斎(かわなべきょうさい)。今、『画鬼・暁斎‐KYOSAI幕末明治のスター絵師と弟子コンドル』が東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中です。暁斎は、6歳で浮世絵師・歌川国芳(うたがわくによし)に入門し、9歳で狩野派に転じるなど正統派のキャリアを重ねながら、他の流派や画法も貪欲にとり入れて、ユーモラスで型破りな絵を描きました。そして展覧会名に名を連ねているジョサイア・コンドルとは、そんな暁斎の弟子である英国人建築家。元々日本美術愛好家だった彼は、明治10年にお雇い外国人として来日すると、暁斎に心酔。日常生活ではもちろん、旅先にまで付いて回り、また暁斎のいまわの際にもその手を握っていたなど、その師匠愛はただならぬもの。絵を学ぶとともに、師の作品を海外に広めることにも深く貢献しました。本展では、暁斎の作品約120点や、コンドルによる写生中の暁斎を描いたスケッチなどを、コンドルが復元を手がけた三菱一号館美術館で展示。暁斎のぶっとんだ作品はもちろん、師弟の共演にも注目あれ!◇コンドルの画技の上達を喜び、暁斎が1年ほどかけて制作し、進呈。弟子にこそ伝統的絵画を贈ろうという、師匠の心境が垣間見える。≪大和美人図屏風≫明治17-18(1884-85)年京都国立博物館寄託8月2日まで展示。◇書画会とは、今で言う展覧会。美術愛好家が料亭などで作品を見せあった。作品を見る人々をさらに見下ろすようなテーマも秀逸!≪書画展覧余興之図≫明治14(1881)年頃河鍋暁斎記念美術館蔵。◇新富座で上演された歌舞伎『漂流奇譚西洋劇』の前宣伝として掲げられた行灯絵(あんどんえ)。男女が洋服をまとう西洋画風の一枚。≪河竹黙阿弥『漂流奇譚西洋劇』パリス劇場表掛りの場≫明治12(1879)年GAS MUSEUM がす資料館蔵。◇猫又、狸、イタチ、モグラが集まり、何を祝ってか1本足で踊り狂う。言わずと知れた鳥獣戯画も、暁斎の手にかかればこの通り!≪鳥獣戯画猫又と狸≫画稿 明治期河鍋暁斎記念美術館蔵。◇information東京都千代田区丸の内2-6-2開催中~9月6日(日)10:00~18:00(金曜、8月31日~9月4日は~20:00、入館は閉館の30分前まで)月曜休(7月20日、8月31日は開館)TEL:03・5777・8600(ハローダイヤル)一般¥1,500一部展示替えあり。※『anan』2015年7月8日号より。文・山田貴美子
2015年07月06日東京都・丸の内の三菱一号館美術館にて、"画鬼"と称された絵師・河鍋暁斎の型破りな画業と、その弟子で英国人建築家のジョサイア・コンドルの功績を紹介する「画鬼・暁斎-KYOSAI幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」が開催される。開催期間は6月27日~9月6日(7月20日、8月31日を除く月曜は休館、一部展示替えあり)、開場時間は10:00~18:00(祝日・振替休日を除く金曜、8月31日~9月4日は20:00まで)。入場料は一般1,500円、高校・大学生1,000円、小・中学生500円。同展は、幕末明治の絵師・河鍋暁斎のユニークで型にはまらない幅広い画業を、滑稽な戯画や風刺画、挿絵、錦絵など多様なジャンルの作品約130点によって紹介するもの。暁斎は、6歳で浮世絵師・歌川国芳に入門、9歳になると狩野派に転じて、18歳という早さで修行を終える。熱心に絵に向かう姿勢や描くことに夢中になってしまう彼のエピソードは有名で、卓越した画力と合わせて「画鬼」と呼ばれた由縁だ。また、暁斎に弟子入りして絵を学んだ英国人建築家のジョサイア・コンドルは、師の没後に「Paintings & Studies by Kawanabe Kyosai」を出版し、暁斎作品を広く海外に紹介したことで知られているが、同展では、三菱一号館の設計など日本の近代建築にもたらした建築家としてのコンドルの功績についても紹介されている。なお7月5日には、同展の関連企画として現代美術家の天明屋尚とコントユニット「ラーメンズ」の片桐仁によるトークイベントが開催される(会場は青山ブックセンター本店、開催時間は14:00~16:00、要事前予約)。
2015年07月03日東京都・原宿の太田記念美術館は、浮世絵の中で今まで注目を浴びることのなかった、戦争画を紹介する展覧会「浮世絵の戦争画 -国芳・芳年・清親」を開催する。開館時間は10:30~17:30。入館料は一般700円、大高生500円、中学生以下無料。同展は、太平洋戦争が終結してから70年の節目に、これまで注目を浴びることのなかった浮世絵の戦争画について紹介するもの。泰平の世を描いた享楽的な絵という印象を持たれることも多い浮世絵だが、江戸から明治にかけて、「戦争」を題材とした浮世絵が連綿と描かれ続けていたという。源平時代や戦国時代といった歴史上の合戦を題材としたものから、幕末の戊辰戦争、明治時代の西南、日清、日露戦争など、同時代に勃発した戦争を題材としたものまであり、同展ではこれらの戦争がどのような目的で描かれ、また、どのような形で表現されているかについて検証される。また、歌川国芳、月岡芳年、小林清親といった浮世絵師たちは、戦争を題材とした作品をいくつか描いているものの、これまで戦争画そのものに注目が集まることがなかったためほとんど紹介される機会が無かったが、戦争画を通して、有名浮世絵師たちの知られざる一面も紹介されるということだ。また、関連企画として、学芸員が同展の見どころを解説するスライド・トークが開催される。開催日時は7月3日、7月9日、7月18日の各回14:00から40分程度。参加費無料(要入場券)。
2015年06月26日サッポロホールディングスのグループ企業であるサッポロビールは6月15日頃より順次、三越限定お中元ギフト商品「<サッポロ>歌川広重画 ヱビスビール」を発売する。○昨年のお歳暮に続き、浮世絵のデザイン缶第2弾を発売同商品は、100年以上の歴史を持ち、プレミアムビールの先駆けとして知られるヱビスビールとのコラボで生まれた三越限定デザインのお中元ギフト商品。デザインは、歌川広重画「冨士三十六景 東都駿河町」の浮世絵をあしらった。その絵の中に描かれた越後屋(現三越)の店先を賑やかに歩く門付芸人たちと、その遠景に富士山を描いた粋な浮世絵を愛でながらリッチな一杯を楽しめるという。中味は、通常のヱビスビールと同様となる。セット内容は、350ml缶×12本と350ml缶×20本で、価格はそれぞれ3,240円(税込)と5,400円(税込)。配送は、6月15日頃より順次行う。
2015年05月31日島根県立美術館は7月6日まで、企画展「招き猫亭コレクション 猫まみれ」を開催している。○"アートになった猫たち"が勢揃い同展では、猫を愛する美術コレクター「招き猫亭」のコレクションを展示。スタンラン、ビアズリーら西洋の画家たちが描いた猫、歌川国芳ら浮世絵の中の猫、明治~昭和を生きた版画家・高橋弘明の猫、竹久夢二、レオナール・フジタ(藤田嗣治)ら近現代美術の巨匠たちが描いた猫など、多彩な猫作品約330点が披露される。5月30日、6月7日、14日の14時からは、担当学芸員による作品解説のギャラリートークが行われる。6月13日の14時からは美術館ロビーにて「能の手法で語る 吾輩は猫である」を開催。出演は、下掛宝生流ワキ方・安田 登氏、能楽森田流笛方・槻宅 聡氏。6月28日の14時からは美術館講義室にて、同館主任学芸員の大森拓土氏による美術講座「江戸の猫アート」を行う。会場は、同館1階の企画展示室。開館時間:10時から日没後30分までで、展示室への入場は日没時刻まで。休館日は火曜日となる。観覧料(税込)は、企画・コレクション展をセットにした一般が1,150円。企画展のみは1,000円。なお、手持ちの「猫の写真」(プリント、デジタルデータも可)を受付で提示すると、4名までの観覧料が割引される。企画・コレクション展をセットにした一般が1,020円。企画展のみは900円となる。
2015年05月28日現在、愛知県名古屋市の名古屋市博物館は6月7日まで、江戸時代にたびたび出現した「猫ブーム」の様子を浮世絵や土人形で展観する「いつだって猫展」を開催しています。江戸時代後期にはたびたび「猫ブーム」が訪れ、とくに天保12年~13年(1841年~42年)には、愛猫家である歌川国芳が猫を題材とした浮世絵を多数発表していました。擬人化された猫や歌舞伎役者の似顔絵が顔になった猫が見られるなど、猫ブームが爛熟したとのこと!同展では、歌川国芳の作品など、当時の浮世絵に加え、招き猫のご先祖様である「丸〆猫」の資料や全国各地の招き猫土人形、江戸時代から明治時代にかけて流行した簡易な浮世絵「おもちゃ絵」など、猫にまつわる作品を多数展示しているそうです。ということで今回、行ってみました!○「猫鼠合戦」では、ネズミは非常に賢い生き物として描かれている博物館内に入ると、早速暖簾に描かれた猫がお出迎えしてくれました。第1章のテーマは、江戸の暮らしと猫。庶民の生活の中に溶け込んだ猫は、鼠を捕まえる益獣として重宝されたそうです。猫ブームが誕生した土壌ともいうべき江戸時代の猫達を見ることができます。こちらは「猫鼠合戦犬張子・鼠おとし」という作品。猫とネズミの戦いがコミカルに描かれていますね。犬張子を使って猫を驚かすネズミも登場しています。ネズミといえば、猫が食べるご飯というイメージでしたが……こちらの作品ではかなり賢い生き物として描かれていました。○鳥山石燕の画図百鬼夜行!!そして、あると信じていました!! 鳥山石燕の画図百鬼夜行!! 現物を生で見たのは初めての経験です。左側に、二股の尾を持つ猫が手ぬぐいを被り、踊っているのがおわかりでしょうか。猫の妖怪が大好きすぎてかなりの数の文献を所持しては日々悶えている筆者。本物をみることができて感動です!○二股の尾を持つ猫また二股の尾を持つ猫はよく「猫また」なんて言われたりします。表記は、猫股、あるいは猫又、猫麻多と様々ですね(実は猫またの由来は、よくわかっていないのが実情です。「徒然草」では「猫また」、「四季物語」では「猫ま」、「明月記」の表記は「猫胯」という表記となっており、様々な研究者がこの語源について解釈しています)。猫またとは、年をとった猫(この年月も、文献によって7年やら12年やらとまちまちです)が特殊な能力を獲得し、しっぽが二股(またはそれ以上)に分かれた妖怪のことです。猫または、人語を話したり、人間に変化したりする能力を持つそうです。人の言葉を話せるようになるのに10年、神通力を使いこなすまでに14から15年必要とされ、狐と猫が交わってできた子はさらに短い年月で化けるようになるのだとか。○「徒然草」によると、飼い猫も猫またになる猫またが文献上最初に登場するのは、皆さんご存知、吉田兼好の「徒然草」なんですね。「つれづれなるままに日くらし硯にむかひて心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくればあやしうこそものぐるほしけれ」の、あの「徒然草」です。「奥山に、猫またといふものありて、人を食ふなる」と、山に棲む猫またについて記述があります。また、「山ならねども、これらにも、猫の経上りて(へあがりて)、猫またに成りて」と、山奥に生きている猫ではなくとも、飼い猫も長生きすれば猫またになることを物語っているんですね。ということは……筆者の家の猫(名前はリク)ももしかしたら猫またになる可能性も……。猫または人を食らう恐ろしい妖怪ではありますが、もしうちの子が猫またになったら容貌がよけいに愛らしくなってしまうのでは、と考えてしまう筆者です。ただ、全ての猫が猫またになるとは考えられていませんでした。当時、「猫またになる猫は尾が長く、毛色は単色の赤や黄色、黒、あるいは三毛猫が多い」という俗信があったんです。そのため、昔は短い尾の猫が好まれたと言います。○根岸守信の随筆「耳嚢」を発見!!そして同じく感激したのがこちら! 根岸守信の随筆「耳嚢」(みみぶくろ)です。猫に関する様々な民話が書かれておりまして、筆者が大好きな随筆の一つです。「猫は14年生きるとモノを言えるようになる」とか、「14年生きなくても狐と交わって生まれた猫はモノを言うことができる」など、猫またクラスタにはたまらない話が載っています。人間に化けた猫を退治する話は全国各地にありますが、この「耳嚢」にも似たような話が載っています。老母に化けた猫を息子が殺すのですが、殺した母の姿が猫に戻りません。「親殺しの大罪を犯したか」と彼は切腹を決意するのですが、夜になると母の骸が古猫の死体になっていた、という話です。○誰もが一度は見たことがあるこちらの絵も!!会場内を色々見渡してみると、初めて見るものもあったり、「いつかは見たい!」と思っていたものがあったり、非常に目に楽しかったです。こちらは、誰もが一度は見たことがあるであろう絵ですね。歌川広重の、「名所江戸百景浅草田甫酉の町詣」です。格子の外を眺める猫が中央に描かれています。飼い主の遊女は屏風の裏で接客中で、遊郭吉原の近くにある神社で開催された「酉の市」にて戦利品を手にする人々がシルエットで描かれています。猫の機嫌は背中を見ればわかるとよく言います。柔らかくなっていたら機嫌が良く、固くなっていたら機嫌が悪いです。この猫の背中はとてもしなやかに柔らかく描かれているので、リラックスしているところなのかもしれませんね。○化け猫に対する当時の人々のイメージが集約された一枚こちらも、皆さんご覧になったことがあるかもしれません。歌川貞秀の作品です。天保6年(1835年)に二月市村座で上演された「梅初春五十三駅」を取材した役者絵だそうで、老婆が油をなめ、行灯に正体のシルエットが描かれていますね。江戸時代の行灯の火種には、イワシなどから採取した魚の油が使われていたので、猫がなめるのも当然といったら当然なのですが、こちらの絵を見ると、当時の人々がその猫の姿を不気味に感じていたことがありありとわかりますね。○有名な化け猫騒動と言えば!!そしてついにお目にかかることができました。「花埜嵯峨猫魔稿」という演目を取材した役者絵。歌川国貞の作品です。「花埜嵯峨猫魔稿」とは、鍋島の化け猫騒動を元にした芝居のこと。有名な三大化け猫騒動をご存知でしょうか。鍋島の猫騒動、有馬の猫騒動、そして岡崎の猫騒動の3つと言われています。中でも鍋島の猫騒動は最も有名な猫怪談の一つとして知られています。簡単に概要をご説明したいと思います。○鍋島の猫騒動の概要17世紀の佐賀藩の2代藩主、鍋島光茂の時代のことです。龍造寺家に生まれた盲目の子、又一郎が殺害されてしまうことが事の発端となります。この又一郎は、母親の政と、黒猫の「こま」と一緒に暮らしていました。又一郎は非常に碁が強かったため、藩主である鍋島光茂に碁の相手として呼び出されます。ところが、それきり、又一郎は帰ってきませんでした。心配した母親の政は、息子の行方を調べますが、ようとして知れません。日々息子が帰ってこないこと、愛猫のこまに愚痴をこぼします。そんなある晩のこと。雨が降るなか、こまが又一郎の生首をくわえて帰ってきます。藩主である鍋島光茂に呼び出されたあの日、碁のことで口論となり、又一郎は殺されていたのでした。大切な息子を殺され、御家再興の望みも絶たれ、絶望した政は、敵を討つようこまに言い残し、こまに自らの血を舐めさせ、自害します。それから少し月日が流れたころ、夜桜見物の宴で侍女がのどを引き裂かれて殺されます。これを皮切りに、惨殺事件が佐賀城で繰り返されるようになりました。そしてついに、藩主光茂までもが原因不明の病に倒れます。そこで、槍の使い手である千布本右衛門がこれら一連の事件の解決に任命されます。本右衛門は、藩主光茂の寝床で見張りにつきます。すると、不思議なことに気がつきます。光茂の愛妾であるお豊という女性が、寝所に入ると光茂が苦しみ始めるのです。そこで本右衛門は切腹覚悟で槍をふるい、お豊を突き殺します。城中が大騒ぎになりますが、お豊は1.5メートルもある化け猫の姿に変わりました。化け猫となった、あの黒猫「こま」が、実はお豊を食い殺し彼女に成り代わっていたのでした。以上が鍋島の化け猫騒動の概要です。いくつかバリエーションがあり、殺害された又一郎の名前が又七郎、あるいは又八郎だったり、自害した母親である政が又一郎の母ではなく妻だったりします。○猫の当て字そしてこちらはあの歌川国芳の作品! 「猫の当字」ですね。猫の体を組み合わせ、「た」「こ」と書かれています(「こ」は「古」のくずし字)。国芳は様々な猫の作品を残していますが、こちらの当字の絵は筆者も大好きな作品です。ちなみに、現在ねこフォントなんていうウェブサービスも人気です。ためしに「化け猫」とサイトに文字を打ってみると、「bakeneko」と、猫の体を使ったアルファベットが生成されます。なんとなく国芳の当字に通じるところがあって素敵なサービスだなと思います。○猫が合体して巨大猫に!天保末期に始まった猫ブームですが、その後も猫の戯画は描き継がれたそうです。国芳の弟子である芳藤の作品がこちら。師匠の戯画精神をしっかりと継承していますね。何となくですが、こうしたおどろおどろしい猫の顔は、実際の猫がアクビした瞬間にも似ているなと筆者は思いました。アクビをする猫は可愛いですが、大きく裂けた口、鋭い牙、そうした猫の野生味が出る瞬間でもあります。○写真コーナーも!そして最後には、来場者参加型のコーナーも! 愛猫の写真を貼るコーナーや、「どの猫が好き? 」と題して展示されていた猫の人気をランキングにするコーナーがありました。なお、愛猫の写真をプリントして会場に持参すると、観覧料が100円割引されるそうです(返却不可)。愛猫家の皆さん、是非持ち寄ってみてはいかがでしょうか。○会場詳細会場は愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂通1-27-1名古屋市博物館。会期は6月7日まで。開館時間は9時30分~17時(入場は16時30分まで)。休館日は5月25日、26日、6月1日。入館料は一般1,300円(税込)、高大生900円(税込)、小中生400円(税込)です。○名古屋市博物館学芸課の津田卓子さんにインタビュー今回、「いつだって猫展」を担当されている、名古屋市博物館学芸課の津田卓子さんにインタビューすることができました!――今回の展覧会、イチオシの目玉はどの作品でしょうか?たくさんありますが、一番はやはり、天保12年に描かれた歌川国芳の「流行猫の曲鞠」ではないでしょうか。こちらの作品では猫はみな人のように描かれていますが、実はこちら、元ネタになった見世物があるんですね。それが、同じく天保12年に開催された菊川国丸の「風流曲手まり」です。また、やはり名古屋の博物館なので、地元の作品もオススメです。「尾張霊異記」といった作品も扱っています。――今回の展覧会、訪れるお客さんはどんな方が多いですか?比較的若い方が多いかもしれませんが、どの年代の方たちにも楽しんでいただいています。皆さん、作品をご覧になられる時、とても素敵な笑顔なのが非常に嬉しいですね(笑)。――津田さんが個人的に好きな作品はどちらでしょうか?歌川国芳の「二代目市川九蔵のあわしま庄太夫天保12年」の作品です。国芳といえば猫のイメージが強いかもしれませんが、実は彼は自身の画歴の中で、特段猫ばかり書いているわけではなかったんですね。天保から嘉永年間にかけてまとめて書いているのです。その時に書かれた絵がこちらです。このときの猫ブームの大きさを教えてくれる大切な資料です。当時、猫の絵が舞台の演出に使われる程人気だったのです。――たくさんの猫グッズが販売されていましたが、イチオシはどれでしょうか?これは私が制作に携わったこちらの図録をオススメしたいですが……(笑)。グッズとなると、やはりトートバックやクリアファイルなどもオススメですね。――今回の猫展、非常に盛況ですが、展示の一番の目的を教えてくださいやはり、「猫を通して」、特に江戸時代についての学びを提供したいというのが目的です。あの時代、なぜ猫ブームが起こりえたのかと言うと、やはり私は「ネズミ」の存在が大きかったと思っています。ネズミを退治するため、人々はその手段として猫を飼っていました。国芳の絵画は大変素晴らしいものですが、それだけでは売れません。やはり、生活の中に猫が溶け込み、人々が猫の魅力を知っていたからこそ、猫ブームが起きたんだと考えています。猫ブームの背景にはネズミがいる。だからこそ、今回の展示は猫展と銘打ってはいるんですが、展示がネズミで始まりネズミで終わっています。――津田さんご自身は、猫を飼っていらっしゃるのでしょうか?いや、私はこの展覧会を担当していますが、実は猫を飼ったことがないんですよ(笑)。ただ、今回の展覧会で設けている「うちの猫自慢コーナー」のたくさんの猫写真を見ていると「あ、私、顔が化け猫っぽい猫が好きなんだな」と自分の好みがわかるようになってきました(笑)。――最後に、これから展覧会へ足を運ぼうとしている方々へ一言お願いいたします歴史が苦手な方でも、「おっ」と驚く猫に出会えると思います。展示の中にはさまざまな仕掛けがしてあります。是非とも足をお運びください。――ありがとうございました!<作者プロフィール<うだま猫好きの人妻アラサー。猫の漫画や日常の漫画をよく書く。猫ブログ「ツンギレ猫の日常-Number40」は毎朝7時30分に更新している。ツイッターでは常に猫への愛を叫び続けている。下ネタツイートは最近控えるようにしている。
2015年05月25日東京都・府中市美術館では、江戸時代の動物絵画を紹介する「動物絵画の250年」展を開催している。開催期間は5月6日まで(5月4日を除く月曜は休館)、開場時間は10:00~17:00(入場は16:30まで)。入場料は一般700円、高校生・大学生350円、小学生・中学生150円。同展では、歌川国芳や円山応挙、伊藤若冲ら、江戸時代の画家たちが動物たちを描いた多彩な「動物絵画」を紹介。現在は会期後半となり、中世からの伝統を受け継ぐ作品や、個性的な画家による想像の世界を描いた作品など、83点が展示されている。また、5月2日は「江戸の動物絵画その多彩さを生んだもの」、5月4日は「動物絵画外国と日本」というテーマで、それぞれ同美術館の学芸員による講座も開催される。なお、本展は2007年に同美術館にて開催した「動物絵画の100年 1751-1850」の続編となっている。
2015年04月30日電子書店パピレスが運営し、コミックから小説、実用書、雑誌、グラビアと幅広いジャンルの電子書籍を取りそろえている電子貸本サービス「Renta!」。特にコミックは、少年漫画、少女漫画、ティーンズラブ、レディース、青年漫画、4コマ、萌え、サブカル、ボーイズラブなど最も豊富なラインナップを誇っているが、今回は少年漫画の1月の月間ランキングの中から、注目作品をピックアップして紹介していこう。○進撃の巨人 attack on titan巨人がすべてを支配する世界。巨人の餌と化した人類は巨大な壁を築き、壁外への自由と引き換えに侵略を防いでいた……壮大なスケールで始まるのは、コミックだけでなく、アニメ、映画などで昨年大ブレイクをした諫山創の「進撃の巨人」。100年もの間、「ウォール・マリア」、「ウォール・ローゼ」、「ウォール・シーナ」という巨大な三重の城壁の内側に生活圏を確保し、平穏な日常を送っていた人類。突如として、その壁を軽々と乗り越える“超大型巨人”の襲来により、平穏は崩される。“壁外の世界”を強く夢見る主人公の少年・エレン・イェーガーは母親を捕食され、幼馴染のミカサ・アッカーマンらとともに巨人と戦うべく、調査兵団への入団を目指す。主人公エレンの謎(幼い頃にあった何かも伏線)と隠された能力、巨人を倒す方法、そして訪れる王政との対決……さまざまな複合要因が重なり、グイグイと読み進めさせられる展開は圧巻。迫力ある筆致が描く独自の世界観も必見だ。○猫絵十兵衛~御伽草紙~人の言葉を話し、酒を呑み、タバコを喰らう怪猫・ニタと、ネズミよけの猫絵を描き、猫語を解する絵師・十兵衛が主人公の、永尾まるの「猫絵十兵衛~御伽草紙~」。その1人+1猫と、たくさんの猫が住み着く江戸時代の“猫丁長屋”を舞台に、さまざまな人情物語が展開していく。著者によると古今東西の猫の民話を元にして描かれており、サラリと出てくる長唄や回向院をもじった“ねこう院”、また猫好きだったという歌川国芳をモデルにした師匠など、江戸風俗の描写が随所に盛り込まれているのが魅力のひとつだ。そして何より著者が猫好きなのだろう、猫の描写がとても秀逸で、猫好きならずとも猫のイロハを知ることができるに違いない作品。ニタをはじめとする猫股という猫の妖怪の存在も特徴的で、化け猫などおどろおどろしい設定もあるものの、物語の大半は笑いのたえない摩訶不思議な人情話ばかり。たくさんの人に心地よい読後感を与える秀作だ。○高杉さん家のおべんとう博士号は取ったものの、研究職や就職にあぶれ、“フリーター”生活の高杉温巳31歳は、不慮の事故で亡くなった両親が残したマンションに一人暮らしをしている。そんな温巳が突然、歳が離れた叔母・美哉が亡くなり、その娘・久留里を引き取ることになった。何をするにも要領の悪い温巳、そして何をするにも遠慮がちで自分を他人に開かない12歳の美少女・久留里……。相容れない二人が、日々のお弁当を介して心を通わせていくハートフルコメディが柳原望の「高杉さん家のおべんとう」だ。ハンバーグやきんぴらごぼう、チャーハンなど何気ない“おべんとう”のおかずの数々だが、それにまつわる“過程”が巧みに綴られる。たびたび登場する温巳の同期である小坂りいな、香山玲子(2人はとっくにS女学園大学の准教授・特別研究員として働いている)による“助け舟”も物語の展開に一役買っている。一見とっちらかっているようにも思える“おべんとう”以外の要素……恋の予感や温巳の就職、久留里の学校生活などもほのぼのと読める内容だ。1位はヨシノサツキの『はんだくん』、4位もヨシノサツキの『ばらかもん』、9位はとうじたつや/ハジメの『少年Y』などがランクインしている。なお1月の少年漫画ランキングは以下の通り。
2015年02月02日太田記念美術館は30日~12月20日、「幕末の見立絵ー三代豊国・広重・国芳」を開催する。○"見立絵"に隠された意味や関係性を読み解く展覧会浮世絵によく見られる「美人画」や「役者絵」、そして「風景画」。何気なく目にしているこれらのモチーフにも、実はちょっとした「謎掛け」が仕掛けられ、背後に別の意味や関係性が隠されていることが少なくないという。なかでも、三代歌川豊国や歌川国芳、歌川広重らによって幕末に多く描かれ、大流行した"見立絵"は、連想ゲームのように、画中の題材から別のイメージを連想して楽しむ、知的な趣向の絵となっている。同展は、"見立絵"に隠された意味や関係性を読み解くことによって、江戸の人たちが楽しんだ、豊かな教養をかいま見る展覧会となる。会期は、11月30日~12月20日 10時30分~17時30分(入館は17時まで)。12月2日、9日、16日は休館となる。会場は、太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1-10-10)。入館料は、一般700円 、大高生500円、中学生以下は無料。その他、詳細は同館Webサイトを参照のこと。
2013年11月14日大阪歴史博物館は6月9日まで、同館6階特別展示室において、特別展「幽霊・妖怪画大全集」を開催している。幽霊や妖怪は古来より想像され、江戸時代以降は特に文学や芸術において盛んに取り上げられ、多様な作品が作り出された。それらを精力的にコレクションしたのが、日本画家の吉川観方(よしかわかんぽう)(1894~1979)だった。観方は服飾の歴史や時代風俗の研究家としても知られ、研究の途上において日本の幽霊や妖怪にも関心を持ち、資料の収集に没頭したという。同展は、現在は福岡市博物館に所蔵される観方の収集品から、江戸時代に活躍した伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)や円山応挙(まるやまおうきょ)らの著名な絵師をはじめ、個性的な浮世絵師として人気のある歌川国芳(うたがわくによし)とその一門が描いた幽霊や妖怪画の優品を多数紹介。また、大阪ゆかりの幽霊や妖怪にまつわる歴史的な資料も展示し、人々が未知の世界に対してどのような観念を持ち、表現したのかを観覧することができる。開催日時は、4月20日~6月9日 9時30分~17時(金曜日は20時まで)。入館は閉館の30分前まで。毎週火曜日休館(ただし、4月30日は臨時開館)。会場は、大阪歴史博物館6階 特別展示室(大阪府大阪市中央区大手前4-1-32)。観覧料は、特別展のみ大人1,200円、高大生800円。常設展との共通券は、大人1,680円、高大生1,120円など。その他、詳細は同館Webページにて確認できる。【拡大画像を含む完全版はこちら】
2013年04月26日三越伊勢丹は、銀座三越8階ギャラリー(東京都中央区銀座4-6-16)で、江戸時代後期から幕末にかけて活躍した浮世絵師・歌川広重の傑作復刻版画、ならびに現代美術家・山口晃氏の新・浮世絵版画を展示する「浮世絵に見る江戸東京今昔 広重 名所江戸百景 傑作復刻版画展」を開催している。同展では、歌川広重の代表作「名所江戸百景」の復刻版画と、山口晃氏の日本橋をテーマにした伝統的木版作品を展示。歌川広重が描いた、江戸時代の日本橋ならびに江戸の風景と、山口晃氏が描いた、現代の日本橋や移り行く東京の風景を紹介することで、その対比を楽しめる内容となっている。展示作品は、歌川広重「日本橋雪晴」、山口晃「新東都名所 東海道中 日本橋 改(にほんばし あらため)」など。開場時間は10時から20時(最終日のみ16時まで)、展示期間は12月31日までとなっている。詳細は、同店ホームページを参照のこと。写真:歌川広重「日本橋雪晴」(アダチ版木版画 約340mm×215mm)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年12月27日10月30日、東京・新国立劇場オペラパレスにて、新国立劇場2011-2012シーズンの開幕作品として『パゴダの王子』が世界初演の幕を開けた。この作品は世界屈指の振付家デヴィッド・ビントレーが、新国立劇場バレエ団のために作り上げた舞台。ビントレーが30年来企画していた作品とあって、関係者やファンの期待も高く、ロビーは華々しい熱気にみちていた。『パゴダの王子』チケット情報物語は息子の早すぎる死を嘆いた皇帝と、幼い妹さくら姫の悲しみからはじまる。時は流れ、さくら姫に4人の王が求婚する。続いて5番目に現れた求婚者。実は継母エピーヌの呪いでサラマンダー(とかげ)に姿を変えられてしまった兄であった。さくら姫は様々な試練を受けながらも、サラマンダーとともに彼の王国パゴダにたどり着き、ここで初めてサラマンダーが兄だと気づく。その後、兄妹は力を合わせて王国を元の平和な地に戻そうと旅立つのである。本作は、英国の作曲家ベンジャミン・ブリテンの音楽を元に、ビントレーが構想・振付した。また、トニー賞、オリビエ賞を受賞したレイ・スミスが舞台美術・衣裳を手掛け、照明は日本を代表する沢田祐二が担当するなど、まさに日本から世界に発信する新プロダクションに相応しい布陣がクリエイティブを担当した。ビントレーの振付は、同劇場で上演された『アラジン』『ペンギン・カフェ』でも見られたように、エンターテインメント性が強く、2幕では海や炎、星にタツノオトシゴなどを表現。観客をワクワクさせていた。さらに3幕では、王子とさくら姫が皇后エピーヌ派と対決する場面の迫力や、ラストに向かうパ・ド・ドゥと群舞では和のテイストを取り入れた振付が光った。製作発表でビントレーが語ったように「英国と日本のコラボレーション」が象徴されていた。またレイ・スミスの美術も、歌川国芳の浮世絵をモチーフにしたキャラクターや、伝統的な日本の美をうつした月や山、波が、優しく繊細でありながらも、大胆に彩られていた。バレエでは難しい着物を衣裳に取り入れるなど、様式は残しながらもダンサーに負担のかけない彼女の美が表われていた。そして沢田の照明がファンタスティックに絡まり新しい世界感を紡ぎだしていた。主演はトリプルキャストとなるが、初日は小野絢子と福岡雄大のコンビが務め、小野は兄を慕うさくら姫を儚くも試練に立ち向かう姿をも美しく繊細に表現。福岡もキレのある動きと足のしなやかさ十分発揮した踊りを見せた。また影の主役というべき皇后エピーヌを演じた湯川麻美子は演劇的にも妖艶に存在感をしめし会場を楽しませた。公演は11月6日(日)まで同劇場にて上演。
2011年11月01日